(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ホウ素除去装置及びホウ素除去方法、並びに、純水製造装置及び純水の製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20231017BHJP
C02F 1/44 20230101ALI20231017BHJP
B01D 61/48 20060101ALI20231017BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20231017BHJP
B01D 61/02 20060101ALI20231017BHJP
C02F 1/42 20230101ALI20231017BHJP
C02F 1/32 20230101ALI20231017BHJP
C02F 9/00 20230101ALI20231017BHJP
【FI】
C02F1/469
C02F1/44 D
C02F1/44 A
C02F1/44 H
B01D61/48
B01D61/58
B01D61/02 500
C02F1/42 A
C02F1/32
C02F9/00
(21)【出願番号】P 2020087982
(22)【出願日】2020-05-20
【審査請求日】2023-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】高橋 一重
(72)【発明者】
【氏名】須藤 史生
(72)【発明者】
【氏名】中村 勇規
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 賢治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慶介
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/068635(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/198723(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/130454(WO,A1)
【文献】特開2010-042324(JP,A)
【文献】国際公開第2003/031034(WO,A1)
【文献】特開2012-196591(JP,A)
【文献】特開2015-136685(JP,A)
【文献】国際公開第2020/184045(WO,A1)
【文献】特開2020-116507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00-71/82
C02F 1/32
C02F 1/42
C02F 1/44
C02F 1/469
C02F 9/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被処理水が供給される第1の電気再生式脱イオン装置と、
前記第1の電気再生式脱イオン装置で処理された水が供給される紫外線酸化装置と、
前記紫外線酸化装置で処理された水が供給される酸化物除去装置と、
前記酸化物除去装置で処理された水が供給される第2の電気再生式脱イオン装置と、
を有するホウ素除去装置。
【請求項2】
前記酸化物除去装置が白金族金属触媒を備える、請求項1に記載のホウ素除去装置。
【請求項3】
前記酸化物除去装置で処理された水の過酸化水素濃度が1ppb未満である、請求項1または2に記載のホウ素除去装置。
【請求項4】
被処理水が供給される低圧型逆浸透膜装置と、
前記低圧型逆浸透膜装置からの透過水のpHを調整するpH調整装置と、
前記pH調整装置によってpH調整された調整水が供給される高圧型逆浸透膜装置と、
前記高圧型逆浸透膜装置からの透過水が供給される第1の電気再生式脱イオン装置と、
前記第1の電気再生式脱イオン装置で処理された水が供給される紫外線酸化装置と、
前記紫外線酸化装置で処理された水が供給される酸化物除去装置と、
前記酸化物除去装置で処理された水が供給される第2の電気再生式脱イオン装置と、
前記第2の電気再生式脱イオン装置で処理された水が供給されるカートリッジポリッシャーと、
を有する純水製造装置。
【請求項5】
前記pH調整装置によって前記透過水のpHが5.0~9.0に調整される、請求項4に記載の純水製造装置。
【請求項6】
前記酸化物除去装置が白金族金属触媒を備える、請求項4または5に記載の純水製造装置。
【請求項7】
(a)被処理水を第1の電気再生式脱イオン装置に供給して処理するステップと、
(b)前記第1の電気再生式脱イオン装置からの処理水を紫外線酸化装置に供給して処理するステップと、
(c)前記紫外線酸化装置からの処理水を酸化物除去装置に供給して酸化物を除去するステップと、
(d)前記酸化物除去装置からの処理水を第2の電気再生式脱イオン装置に供給して処理するステップと、
を有するホウ素の除去方法。
【請求項8】
前記ステップ(c)における酸化物の除去が、白金族金属触媒によって行われる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ステップ(c)において、過酸化水素濃度が1ppb未満となるように酸化物を除去する、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
(a)被処理水を低圧型逆浸透膜装置に供給して処理するステップと、
(b)前記低圧型逆浸透膜装置からの透過水をpH調整装置に供給してpHを調整するステップと、
(c)前記pH調整装置によってpH調整された調整水を高圧型逆浸透膜装置に供給して処理するステップと、
(d)前記高圧型逆浸透膜装置からの透過水を第1の電気再生式脱イオン装置に供給して処理するステップと、
(e)前記第1の電気再生式脱イオン装置からの処理水を紫外線酸化装置に供給して処理するステップと、
(f)前記紫外線酸化装置からの処理水を酸化物除去装置に供給して酸化物を除去するステップと、
(g)前記酸化物除去装置からの処理水を第2の電気再生式脱イオン装置に供給して処理するステップと、
(h)前記第2の電気再生式脱イオン装置からの処理水をカートリッジポリッシャーに供給して処理するステップと、
を有する純水の製造方法。
【請求項11】
前記ステップ(b)において、pHが5.0~9.0に調整される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ステップ(f)において、酸化物の除去に用いられる触媒が白金族金属触媒である、請求項10または11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホウ素除去装置及びホウ素除去方法、並びに、純水製造装置及び純水の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体装置の製造工程や液晶装置の製造工程における洗浄水等の用途として、有機物、イオン成分、微粒子、細菌等が高度に除去された超純水等の純水が使用されている。特に、半導体装置を含む電子部品を製造する際には、その洗浄工程において多量の純水が使用されており、その水質に対する要求も年々高まっている。
例えば、微量の不純物として全有機炭素(TOC:Total Organic Carbon)やホウ素の低減が求められている。一般的に、TOC成分は紫外線酸化処理により、ホウ素は逆浸透膜装置やホウ素選択性イオン交換樹脂、電気再生式脱イオン装置で除去されることが知られている。特許文献1には、前処理した水を逆浸透膜装置、電気再生式脱イオン装置、紫外線酸化装置、ホウ素樹脂混合イオン交換装置の順で処理してTOCやホウ素が除去された一次純水を製造することが記載されている。また、特許文献2には、一次純水システムが、高圧型逆浸透膜分離装置と脱気装置と紫外線酸化装置とイオン交換装置とをこの順で備えること、高圧型逆浸透膜は低圧型又は超低圧型逆浸透膜に比べてホウ素、シリカ及び非荷電性有機物などの弱電解質成分や非荷電性成分の除去率が高いこと、イオン交換装置は電気再生式脱イオン装置を1段又は複数段直列に接続した再生型イオン交換装置でもよいことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-47496号公報
【文献】特開2017-127875号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1、2の方法では、紫外線酸化装置で発生したオゾンや過酸化水素などの酸化剤により、後段のホウ素樹脂や電気再生式脱イオン装置内のイオン交換樹脂が酸化され、劣化してしまうおそれがある。その結果、ホウ素樹脂混合イオン交換装置や電気再生式脱イオン装置のホウ素除去率の低下を招き、ホウ素を極低濃度まで低減することができないという問題もあった。
そこで、本発明の目的は、被処理水中のホウ素濃度を低減する装置及び方法を提供すること、並びにホウ素濃度が低減された純水の製造装置及び製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、複数の電気再生式脱イオン装置と、紫外線酸化装置、酸化物除去装置を適切に組み合わせることにより、ホウ濃度を大きく低減できることを見出した。
すなわち、本発明は、被処理水が供給される第1の電気再生式脱イオン装置と、前記第1の電気再生式脱イオン装置で処理された水が供給される紫外線酸化装置と、前記紫外線酸化装置で処理された水が供給される酸化物除去装置と、前記酸化物除去装置で処理された水が供給される第2の電気再生式脱イオン装置と、を有するホウ素除去装置及び前記装置を用いたホウ素除去方法に関する。
【0006】
また、本発明は、被処理水が供給される低圧型逆浸透膜装置と、前記低圧型逆浸透膜装置からの透過水のpHを調整するpH調整装置と、前記pH調整装置によってpH調整された調整水が供給される高圧型逆浸透膜装置と、前記高圧型逆浸透膜装置からの透過水が供給される第1の電気再生式脱イオン装置と、前記第1の電気再生式脱イオン装置で処理された水が供給される紫外線酸化装置と、前記紫外線酸化装置で処理された水が供給される酸化物除去装置と、前記酸化物除去装置で処理された水が供給される第2の電気再生式脱イオン装置と、前記第2の電気再生式脱イオン装置で処理された水が供給されるカートリッジポリッシャーと、を有する純水製造装置及び前記装置を用いた純水の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ホウ素含有量を大幅に低減できるホウ素除去装置及びホウ素除去方法が提供される。また、高純度の純水を製造することができる純水製造装置及び純水の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施態様に係るホウ素除去装置の構成を示す概念図である。
【
図2】本発明の一実施態様に係る純水製造装置の構成を示す概念図である。
【
図4】比較例1における通水時間と触媒塔出口の過酸化水素濃度の関係を示すグラフである。
【
図5】比較例1における通水時間と第1の電気再生式脱イオン装置(EDI-1)の脱塩室の差圧の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照して本発明を説明するが、本発明は図面に記された構成に限定されるものではない。
【0010】
図1において、本発明に係るホウ素除去装置100は、被処理水10が供給される第1の電気再生式脱イオン装置(EDI-1)30と、前記電気再生式脱イオン装置30で処理された水が供給される紫外線酸化装置40と、前記紫外線酸化装置40で処理された水が供給される酸化物除去装置(触媒塔)50と、前記酸化物除去装置(触媒塔)50で処理された水が供給される第2の電気再生式脱イオン装置(EDI-2)60と、を備える。
そして、被処理水10は、前記第1の電気再生式脱イオン装置30によって被処理水中のイオン成分およびホウ素が除去され、次いで、その処理水が前記紫外線酸化装置40に供給され、有機物(TOC成分等)が分解される。前記紫外線酸化装置40では、有機物を分解して過酸化水素やオゾン等の酸化性物質を発生させる。この酸化性物質は、後述する第2の電気再生式脱イオン装置60内のイオン交換樹脂の劣化を引き起こすため、前記紫外線酸化装置40で処理された水は、酸化物除去装置(触媒塔)50で酸化性物質を除去した後に、第2の電気再生式脱イオン装置60に供給される。
【0011】
本発明に用いられる紫外線酸化装置40は、有機物を除去する目的で設置される。そのため、185nm以下の波長を含む紫外線を照射して、紫外線酸化処理を行う紫外線酸化装置を用いることが好ましい。なお、サブシステムにおいても紫外線酸化装置を備える場合があるが、例えば超純水のTOC濃度として1μg/L以下が求められるような設備においては、溶存酸素(DO)濃度の比較的高い1次純水システムに紫外線酸化装置を設置することにより、全体としてのエネルギーコストを抑えることが可能となる。溶存酸素が存在することにより、紫外線照射により溶存酸素からヒドロキシラジカルや過酸化水素が生成し、TOC分解効率が向上することが期待できる。
紫外線酸化装置を第1の電気再生式脱イオン装置の前段に設置した場合は、紫外線酸化装置で発生したラジカルの重合により生成した酸化性物質である過酸化水素が第1の電気再生式脱イオン装置のイオン交換樹脂を劣化させ性能低下を引き起こす可能性があるため、第1の電気再生式脱イオン装置の後段に設置する。また第2の電気再生式脱イオン装置(EDI-2)の前段に設置することで、サブシステム内のカートリッジポリッシャー(CP)の負荷を低減し、高純度な純水を得ることができる。
【0012】
酸化物除去装置(触媒塔)50は、酸化性物質分解能を有する触媒が充填されている。これにより、紫外線酸化装置で発生した酸化性物質が触媒により分解されて、後述する第2の電気再生式脱イオン装置内のイオン交換樹脂の劣化を防止する。触媒は、溶出物の少ない白金族金属触媒を用いることが好ましい。ここでいう白金族金属とは、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)のことであり、これらの一種類を単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて使用してもよい。これら白金族金属のうち、PtやPdなどを好ましく使用することができ、コスト等の観点からはPdが好ましい。また用いる担体としてはアニオン交換体が望ましい。アニオン交換体は粒状のアニオン交換樹脂であってもよいし、アニオン交換樹脂が一体のものとして成形されたモノリス状有機多孔質アニオン交換体であってもよい。ここで用いることができるモノリス状有機多孔質アニオン交換体は、例えば、特開2002-306976号公報、特開2009-62512号公報に記載されている。アニオン交換体に白金族金属触媒を担持することにより、高い触媒能力の発揮と、触媒からの溶出物の低減に効果がある。またアニオン交換体はOH形の強塩基性アニオン交換樹脂にパラジウム(Pd)を担持したものがより好ましい。
【0013】
第2の電気再生式脱イオン装置60は、紫外線酸化装置40で処理しきれなかった有機物及びイオン成分を除去する。
【0014】
次に、本発明に係る純水製造装置について説明する。
図2において、本発明に係る純水製造装置200は、被処理水が供給される低圧型逆浸透膜装置70と、前記低圧型逆浸透膜装置70からの透過水が供給されるpH調整装置75と、前記pH調整装置75によってpH調整された調整水がポンプ45を介して供給される高圧型逆浸透膜装置80と、前記高圧型逆浸透膜装置80からの透過水が供給される第1の電気再生式脱イオン装置(EDI-1)30と、前記第1の電気再生式脱イオン装置30で処理された水を紫外線酸化処理する紫外線酸化装置40と、前記紫外線酸化装置40で処理された水を処理する触媒塔50と、前記触媒塔50で処理された水が供給される第2の電気再生式脱イオン装置(EDI-2)60と、カートリッジポリッシャー(CP)90と、を備える。
【0015】
そして、被処理水10は、前記低圧型逆浸透膜装置70によって被処理水中のイオン成分および有機物等の懸濁物質が除去され、次いで、その透過水が前記pH調整装置75によってpH=5.0~9.0、好ましくは、pH=5.5~8.5に調整される。その後、前記pH調整水が、前記高圧型逆浸透装置80及び前記第1の電気再生式脱イオン装置(EDI-1)30で処理されることによって効率的にホウ素が除去される。その処理水中に残存した全有機炭素(TOC)成分は紫外線酸化装置(UV)40により有機酸及び二酸化炭素に分解される。一方、紫外線酸化装置40は、全有機炭素(TOC)成分を分解して過酸化酸素やオゾン等の酸化性物質を発生させるので、後段の触媒塔50で酸化性物質を除去した後、第2の電気再生式脱イオン装置60によりイオン交換処理され、最終的に純水95が製造される。半導体製造等においては、純水95を一次純水として、サブシステムに供給されて超純水が製造される。
【0016】
次に、本発明に用いられる逆浸透膜装置について説明する。逆浸透膜装置は、逆浸透膜や流路材といった部材から構成された逆浸透膜エレメントと、それが一つ以上装填された、一つ以上の圧力容器(ベッセル)から構成される。膜エレメントが装填されたベッセルに被処理水を圧送することで、有効圧力に見合った量の透過水がベッセルから得られる。また、膜エレメントを透過せず、ベッセル内で濃縮された水は、濃縮水としてベッセルから排出される。逆浸透膜エレメントの形状に特に制限はなく、チューブラー型、スパイラル型、中空糸型使用することができる。同一ベッセル内で複数の逆浸透膜エレメントを使用する場合は、各逆浸透膜エレメントは直列に接続される。逆浸透装置で複数本のベッセルを用いる場合、ベッセルは並列もしくは直列に設置することができる。たとえば、圧送された被処理水を、並列に設置された複数本のベッセルに供給し、各ベッセルの透過水および濃縮水を合流させて装置から排出することができる。さらに、各ベッセルから排出された濃縮水を、別のベッセルに供給する、いわゆるクリスマスツリー方式のようなベッセル構成にすることができる。
【0017】
これら逆浸透膜装置のエレメント構成、ベッセル構成は、求められる透過水質、透過水量、水回収率、フットプリント等によって、適切なものを設計、選定することができる。
【0018】
本発明で用いられる各逆浸透膜装置の水回収率は、各逆浸透膜装置の被処理水と、各逆浸透膜装置で得られる透過水の比率によって算出される。すなわち、各逆浸透膜装置の回収率=(各逆浸透膜装置により得られる透過水量)/(各逆浸透膜装置に供給される被処理水量)である。水回収率は、被処理水の水質、求められる透過水質、透過水量、水回収率、フットプリント等によって、適切なものを設計、選定することができる。これらに特に制限はないが、低圧型逆浸透装置の回収率は50~90%、好ましくは65~85%、高圧型逆浸透膜装置の回収率は80~99%、好ましくは85~95%である。特に、高圧型逆浸透膜の水回収率は、低圧型逆浸透膜処理により不純物濃度が低下していることから、高い値を設定することができる。
【0019】
また、逆浸透膜装置では、一般的な逆浸透膜装置に用いられる薬品(例えば、還元剤、pH調整剤、スケール分散剤、殺菌剤等)を用いることができる。
【0020】
本発明で用いる低圧型逆浸透装置(BWRO装置)に使用される膜は、比較的低い圧力で運転が可能である低圧膜、超低圧膜が好適に使用される。
低圧膜、超低圧膜としては、有効圧力1MPa、水温25℃における純水の透過流束が0.65~1.8m/d、好ましくは0.65~1.0m/dのものを使用することができる。
【0021】
ここで、透過流束は、透過水量を逆浸透膜面積で割ったものである。「有効圧力」とは、JIS K3802:2015「膜用語」に記載の、平均操作圧から浸透圧差及び2次側圧を差し引いた、膜に働く有効な圧である。なお、平均操作圧は、逆浸透膜の1次側における膜供給水の圧力(運転圧力)と濃縮水の圧力(濃縮水出口圧力)の平均値であり、以下の式により表される。
平均操作圧=(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2
有効圧力1MPaあたりの透過流束は、膜メーカーのカタログに記載の情報、例えば、透過水量、膜面積、評価時の回収率、NaCl濃度等から計算することができる。また、1つ又は複数の圧力容器に同一の透過流束である逆浸透膜が複数本装填されている場合、圧力容器の平均操作圧/2次側圧力、被処理水の水質、透過水量、膜本数等の情報より、装填された膜の透過流束を計算することができる。
【0022】
低圧~超低圧型逆浸透膜としては、例えば、NITTO製ESシリーズ(ES15-D8、ES20-U8)(商品名)、HYDRANAUTICS製ESPAシリーズ(ESPAB、ESPA2、ESPA2-LD-MAX)(商品名)、CPAシリーズ(CPA5‐MAX、CPA7-LD)(商品名)、東レ製TMGシリーズ(TMG20‐400、TMG20D-440)(商品名)、TM700シリーズ(TM720-440、TM720D-440)(商品名)、ダウケミカル社製BWシリーズ(BW30HR、BW30XFR-400/34i)、SGシリーズ(SG30LE-440、SG30-400)(商品名)、FORTILIFE CR100(商品名)などが挙げられる。
【0023】
本発明で用いる高圧型逆浸透膜装置(SWRO装置)に用いられる「高圧型」の定義としては、おおよそ、次の性質を示すものを挙げることができる。すなわち、有効圧力1MPa、水温25℃における純水の透過流束が0.2~0.65m/dのものである。高圧型逆浸透膜の有効圧力は、1.5~2.0MPaであることが好ましい。有効圧力を1.5MPa以上にすることで、高圧型逆浸透膜のほう素阻止率を十分に高めることができる。なお、有効圧力を2.0MPa以上にすることで更なるホウ素阻止率向上効果が見込めるが、装置の耐久圧力を高める必要があるため、設備費用が増加する場合がある。
【0024】
高圧型逆浸透膜としては、例えば、HYDRANAUTICS社製SWCシリーズ(SWC4、SWC5、SWC6)(商品名)、東レ社製TM800シリーズ(TM820V、TM820M)(商品名)、ダウケミカル社製SWシリーズ(SW30HRLE、SW30ULE)(商品名)などが挙げられる。
【0025】
このように、第1の電気再生式脱イオン装置の前段に低圧型逆浸透装置-高圧型逆浸透膜装置を備えることで、処理水のホウ素濃度をより低減できる。
【0026】
次に、本発明に用いられるEDIについて説明する。EDIは、イオン交換膜にて区画され、イオン交換体が充填された脱塩室と、脱塩室にて脱塩されたイオンを濃縮する濃縮室と、電流を通電するための陽極と陰極を有する装置であり、電流を通電して運転することで、イオン交換体による被処理水の脱イオン化(脱塩)処理と、イオン交換体の再生処理とを同時に行う装置である。EDIに通水された被処理水は、脱塩室に充填されたイオン交換体によって脱塩され、EDI処理水としてEDI外部に排出される。同様に、イオン類が濃縮された濃縮水は、EDI濃縮水として外部に排出される。
【0027】
EDIの回収率は、EDIに供給される被処理水量と、得られる処理水量によって算出される。すなわち、EDI回収率=(EDI処理水流量)/(EDI被処理水量)である。EDI回収率に特に制限はないが、90~95%であることが好ましい。
【0028】
RO-EDIシステムの回収率は、被処理水量と、EDIによって得られる処理水量の比率によって算出される。すなわち、RO-EDIシステムの回収率=EDI処理水量/被処理水量である。本RO-EDIシステムの水回収率に特に制限はないが、80~99%、好ましくは85~95%である。本システムでは高圧型逆浸透装置の濃縮水、EDI濃縮水を回収しつつ、系内の濃縮がかからないため、高いシステム回収率と水回収率の両方を満足することができる。
【0029】
カートリッジポリッシャー90は、イオン交換体が充填された非再生型のイオン交換装置であり、紫外線酸化装置で生成した有機酸や二酸化炭素を除去する。なお、サブシステムにおいてもカートリッジポリッシャーを備える場合があるが、本願におけるCP装置を設置することで、サブシステムの紫外線酸化装置への有機酸や二酸化炭素の流入を防ぐことができるため、サブシステムの紫外線酸化装置で分解すべきTOC濃度が低減でき、エネルギーコストを抑えることが可能となる。またCP装置へのイオン負荷も低減できるため交換頻度を削減できる。
【0030】
また、高圧型逆浸透膜装置80と第1の電気再生式脱イオン装置30との間に、脱気膜装置(不図示)を設けてもよい。脱気膜装置を備えることにより電気再生式脱イオン装置(EDI)への炭酸負荷が軽減できるため、共存イオンを除去しホウ素除去率を向上させることが期待できる。
また酸化物除去装置への炭酸負荷を軽減でき、強塩基性アニオン交換樹脂のイオン形をOH形に維持することができるため、長期にわたって酸化性物質の除去能力を維持することが可能となる。
さらに、DO濃度が大過剰に存在すると紫外線酸化装置に対してはラジカルスカベンジャーとなりTOC分解効率が低下するため、脱気膜装置の気体側の真空度やスイープガス流量を制御するといったDO調整機構を設けてもよい。
【0031】
本発明に用いられる被処理水としては、特に制限はないが、工水、地下水、表層水、水道水、海水、海水を逆浸透法または蒸発法等によって脱塩した海水淡水化処理水、下水、下水処理水、各種排水、例えば半導体製造工程で使用された排水、これらの混合水が挙げられる。なお、被処理水成分としては、導電率10~1000μS/cm、TDS=5~500ppm、ホウ素濃度10ppb~10ppmのいずれか一つ以上を満たすことが好ましく、これらを満たさない場合は、凝集沈殿処理、ろ過処理、軟化処理、脱炭酸処理、活性炭処理、等の前処理を行うのが好ましい。
【0032】
本発明で得られる高圧型逆浸透膜装置の処理水の水質としては、導電率2μS/cm以下、ナトリウム濃度200ppb以下、あるいはその両方を満たすことが好ましい。RO透過水(EDI供給水)のナトリウム濃度が高いと、対となるアニオンもナトリウムとともにROからリークする。そのため、EDIに充填されているイオン交換樹脂におけるホウ素の選択性が下がり、EDI処理水のホウ素が十分に低減できなくなる。また、本発明で得られる純水の水質としては、特に制限はないが、比抵抗17MΩ・cm以上、ホウ素濃度50ppt以下、シリカ濃度50ppt以下、TOC濃度5ppb以下のものを挙げることができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0034】
(実施例1)
無機炭素(IC:Inorganic carbon)300ppb、イオン状シリカ14ppb、ホウ素14ppb、TOC濃度13ppbの被処理水100L/hに対し、
図1に示す装置を用いて、約2000時間の通水試験を実施した。第1の電気再生式脱イオン装置(EDI-1)および第2の電気再生式脱イオン装置(EDI-2)はともにEDI-XP(商品名、オルガノ社製)を用い、回収率90%とした。運転電流値の設定は5Aとした。紫外線化装置は、JPW(日本フォトサイエンス社製)を用いた。酸化物除去装置(触媒塔)は、円筒容器(内径25mm、高さ600mm)内に触媒樹脂200mL(層高約400mm)充填したものを用いた。触媒樹脂は、Pd担持量が100mg-Pd/L-R(ゲル形、OH形:95%以上)を用いた。EDI-1、UV酸化装置、触媒塔、EDI-2のそれぞれの出口の水質を表1に示す。
【0035】
ここで、過酸化水素濃度について着目してみると、被処理水およびEDI-1出口において<1ppbであったものが、UV酸化装置出口では25ppbに上昇している。これは、UV酸化装置によって生成したOHラジカルの重合やEDI-1出口において9ppbあったTOCの分解時に過酸化水素が生成したものと考えられる。その過酸化水素が触媒塔により分解され、触媒塔出口では1ppb未満の値なっている。これにより、EDI-2には、過酸化水素がほとんど流入せず、過酸化水素の影響を受けることなく、ホウ素及びTOCが除去されることを示す。このことは、EDI-1、EDI-2いずれも脱塩室差圧は通水初期と同じ0.16MPaであることからも裏付けられる。
なお通水前後の触媒のイオン形を分析したところ、通水前のOH形の割合は>99%であり、通水後のOH形の割合は97%と、大きな差は見られなかった。
【0036】
【0037】
(比較例1)
図3に示す装置を用いた他は実施例1と同様の条件で5000分の通水試験を実施した。EDI-1、UV酸化装置、触媒塔、EDI-2のそれぞれの出口の水質を表2に示す。
EDI-1の脱塩室差圧は通水初期の0.16MPaから0.18MPaに上昇した。また、過酸化水素濃度はEDI-1入口(触媒塔出口)で16ppb、EDI-1出口で12ppbとなっており、EDI-1内部で過酸化水素が消費されていることがわかった。すなわち、EDI-1のイオン交換樹脂が酸化され、劣化する可能性があることが示唆される。
【0038】
【0039】
また、比較例1において、通水時間における触媒塔出口の過酸化水素濃度及びEDI-1脱塩室差圧の推移を、それぞれ
図4、
図5に示す。
図4からわかるように、通水時間の経過とともに、触媒の過酸化水素除去性能が大きく低下する傾向が見られた。また、
図5からわかるように、過酸化水素が触媒塔出口にリークし始めた2000分以降からEDI脱塩室差圧の上昇傾向が始まり、2000分から3500分の間に0.006MPaの上昇が確認され、さらに、3500分から5000分の間に0.014MPaの上昇が確認された。2000分以降は、差圧が加速度的に上昇しているため、このまま運転を継続してもEDI装置の耐圧を超えてしまうおそれや、供給水の圧力不足により目的の水量が通水できない状況に至ると考えられ、実際のシステムへの適用が不可能と判断して運転を停止した。
通水停止時の触媒のイオン形を分析したところ、通水前のOH形の割合は>99%であったのに対して、通水後のOH形の割合は85%まで低下していた。すなわち触媒のイオン形がOH形を維持できなくなり、反応速度が低下し過酸化水素がリークし始めたことが分かる。
【0040】
上述のように、本発明のホウ素除去装置においては、複数のEDIと、紫外線酸化装置、酸化物除去装置を適切に組み合わせることにより、2000時間に亘って安定的に、被処理水のホウ素濃度を低減することができる。一方、比較例1では、わずか5000分の運転でもホウ素除去に支障をきたすことがわかった。
【符号の説明】
【0041】
10 被処理水
20 処理水
30 第1の電気再生式脱イオン装置(EDI-1)
40 紫外線酸化装置(UV)
45 ポンプ
50 酸化物除去装置(触媒塔)
60 第2の電気再生式脱イオン装置(EDI-2)
70 低圧型逆浸透膜装置(BWRO)
75 pH調整装置
80 高圧型逆浸透膜装置(SWRO)
90 カートリッジポリッシャー(CP)
95 純水
100 ホウ素除去装置
200 純水製造装置