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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】自動車
(51)【国際特許分類】
   B60L 9/18 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
B60L9/18 P
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020214090
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099984
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2022-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】門奈 博
(72)【発明者】
【氏名】野田 新一郎
(72)【発明者】
【氏名】村瀬 淳一
(72)【発明者】
【氏名】堀江 拓也
【審査官】清水 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-081327(JP,A)
【文献】特開2020-171067(JP,A)
【文献】特開2006-148991(JP,A)
【文献】特開2002-078110(JP,A)
【文献】特開2018-033290(JP,A)
【文献】特表2016-502953(JP,A)
【文献】国際公開第2016/024640(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2002/0060545(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 1/00 - 3/12
B60L 7/00 - 13/00
B60L 15/00 - 58/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用のメインモータと、
走行用のサブモータと、
前記メインモータと前記サブモータを制御するコントローラと、
を備えており、
前記コントローラは、
前記メインモータの回転速度の時系列データから、前記メインモータを含む駆動系の共振周波数及び前記サブモータを含むサブ駆動系のサブモータ共振周波数を含む所定周波数帯域の振動データを抽出し、
前記振動データから得られる振動の大きさが第1閾値を超えたら前記メインモータの出力上限値を通常上限値から第1上限値へ下げるとともに前記サブモータの出力上限値(サブモータ出力上限値)をサブモータ通常上限値からサブモータ第1上限値へ下げ
前記振動の大きさが前記第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたら前記出力上限値を前記第1上限値よりも低い第2上限値に下げるとともに前記サブモータ出力上限値を前記サブモータ第1上限値よりも低いサブモータ第2上限値に下げる
自動車。
【請求項2】
前記サブモータの最大出力が前記メインモータの最大出力以下である、請求項に記載の自動車。
【請求項3】
前記振動の大きさは、前記振動データにおける最新の所定期間の振幅の積算値または移動平均で表される、請求項1または2に記載の自動車。
【請求項4】
前記振動の大きさは、前記振動データの周波数特性におけるピーク、あるいは、前記周波数特性における振幅の積算値で表される、請求項1または2に記載の自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、走行用のモータを備える自動車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車は走行中に振動する。特に、路面から受ける荷重の周波数が車体の共振周波数に近づくと車体の振動が大きくなる。車体が共振しているか否かを車輪の回転速度の振動振幅で判断する技術が例えば特許文献1、2に開示されている。特許文献1に開示された自動車は、回転速度の時系列データに対して車両の共振周波数領域を含むバンドパスフィルタを適用するフィルタ処理部と、フィルタ処理部からの所定数のフィルタ処理値のそれぞれの絶対値の積算値が第1閾値以上のときに共振が生じていると判断する判定部を備える。振動から車体の部品を保護するため、特許文献1、2に開示された自動車は、共振が生じていると判定されたときに駆動力を制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-24278号公報
【文献】特開2020-171067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
駆動力を急に大きく下げると乗員に違和感を与えるおそれがある。本明細書は、振動を抑制しつつ、乗員に与える違和感を軽減する技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する自動車は、走行用のメインモータと、メインモータを制御するコントローラを備える。コントローラは、メインモータの回転速度の時系列データから、メインモータを含む駆動系の共振周波数を含む所定周波数帯域の振動データを抽出する。コントローラは、抽出された振動データから得られる振動の大きさが第1閾値を超えたらメインモータの出力上限値を通常上限値から第1上限値へ下げる。さらに、コントローラは、振動の大きさが第1閾値よりも大きい第2閾値を超えたら出力上限値を第1上限値よりも低い第2上限値に下げる。すなわち、コントローラは、振動データの大きさに応じてメインモータの出力上限値を2段階で下げる。メインモータの出力上限値を下げることで、振動を抑えることができる。また、メインモータの出力上限値を2段階で下げるので、出力上限値を急激に下げることに起因して生じる乗員の違和感を軽減することができる。また、出力上限値の第1段階の下げ(通常上限値から第1上限値への下げ)で振動の大きさが小さくなれば、第2段階の下げ(第1上限値から第2上限値への下げ)を行わなくて済む。
【0006】
振動の大きさは、振動データにおける最新の所定期間の振幅の積算値または移動平均で表されるとよい。あるいは、振動の大きさは、振動データの周波数特性におけるピーク、あるいは、周波数特性における振幅の積算値で表されてもよい。振動の大きさを測るのに所定期間の振幅の積算値または移動平均を採用することで、振幅の経時的変化の傾向を正確に捉えることができる。「振幅」は、両振幅(peak to peak)で表されてもよいし、片振幅(zero to peak)で表されてもよい。振幅が正負の符号付き片振幅で計測される場合、振動データにおける振幅の絶対値の積算値あるいは絶対値の移動平均が採用され得る。
【0007】
自動車が2個のモータ(メインモータとサブモータ)を含んでおり、サブモータを含むサブ駆動系の共振周波数がメインモータを含む駆動系の共振周波数を含む所定周波数帯域に含まれている場合、コントローラは次の処理を行ってもよい。すなわち、コントローラは、振動の大きさが第1閾値を超えたらメインモータの出力上限値を通常上限値から第1上限値に下げるとともにサブモータの出力上限値(サブモータ出力上限値)をサブモータ通常上限値からサブモータ第1上限値へ下げる。コントローラは、振動の大きさが第2閾値を超えたら出力上限値を第2上限値に下げるとともに、サブモータ出力上限値をサブモータ第1上限値よりも低いサブモータ第2上限値に下げる。サブモータの共振周波数がメインモータの共振周波数に近い場合には、メインモータを含む駆動系の振動が大きいときにはサブ駆動系の振動も大きくなる。メインモータの振動データに基づいてメインモータだけでなくサブモータの出力上限値も下げることで、振動をより効果的に抑えることができる。
【0008】
一方、サブ駆動系の共振周波数がメインモータを含む駆動系の共振周波数から離れている場合、メインモータを含む駆動系の振動が大きくても、サブ駆動系の振動は大きくならない。そのような場合には、メインモータ系の振動の大きさが第1閾値を超えたらメインモータの出力上限値を通常上限値から第1上限値に下げるとともに自動車の目標総出力に対するメインモータの出力割合を下げてサブモータの出力割合を上げるようにしてもよい。振動の小さいサブモータの出力割合を上げることで、メインモータを含む駆動系の振動を抑えるとともに、メインモータの出力低下を補うことができる。
【0009】
本明細書が開示する技術の詳細とさらなる改良は以下の「発明を実施するための形態」にて説明する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施例の自動車のブロック図である。
図2】コントローラが実行する出力制限処理のフローチャートである。
図3】回転速度の振動データと出力上限値のタイムチャートの一例である。
図4】第2実施例の自動車のブロック図である。
図5】第3実施例の自動車のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施例)図面を参照して第1実施例の自動車2を説明する。図1に、自動車2の駆動系のブロック図を示す。図1の点線矢印線は信号線を意味している。自動車2は、走行用のメインモータ3を備える。メインモータ3は、前輪5を駆動する。メインモータ3の出力トルクは前輪デファレンシャルギア4と前輪車軸9を介して前輪5に伝達される。
【0012】
自動車2は、メインモータ3のほか、インバータ6、バッテリ7、コントローラ10を備える。バッテリ7の出力電力(直流電力)は、インバータ6で交流電力に変換され、メインモータ3に供給される。インバータ6はコントローラ10によって制御される。メインモータ3にはメインモータ3の回転速度を計測する回転数センサ8が備えられている。また、インバータ6の交流端には不図示の電流センサが備えられている。コントローラ10は、電流センサの計測値と回転数センサ8の計測値に基づき、メインモータ3の出力トルクが目標トルクに追従するようにインバータ6を制御する。
【0013】
コントローラ10は、メインモータ3を含む駆動系の振動を抑える処理も行う。ここで、メインモータ3を含む駆動系とは、メインモータ3と、メインモータ3が駆動する駆動輪(前輪5)までの動力伝達経路(前輪デファレンシャルギア4と前輪車軸9)と、それらを支持する構造体を意味する。
【0014】
自動車2が走行すると、路面の凹凸に応じて車体に様々な荷重が加わる。車体に加わる荷重の周波数がメインモータ3を含む駆動系の共振周波数に近くなると、駆動系の振動が大きくなり、駆動系の構造体に加わる負荷が大きくなるとともに、乗員に不快感を与えることになる。一方、自動車2が路面から受ける振動は、回転数センサ8の計測データに現れる。コントローラ10は、回転数センサ8の計測データ(回転速度の時系列データ)からメインモータ3を含む駆動系の共振周波数を含む所定周波数帯域(共振帯域)の振動データを抽出する。別言すれば、コントローラ10は、回転速度の時系列データから共振帯域以外の帯域の成分を除去し、共振帯域の振動データを抽出する。共振帯域の振動データは、回転速度の時系列データにバンドパスフィルタを適用することで得られる。バンドパスフィルタは、共振帯域の振動成分を通過させ、共振帯域以外の帯域の振動成分を除去するように設定されている。
【0015】
路面から受ける振動の周波数がメインモータ3を含む駆動系の共振周波数に近づくと、振動データから得られる振動の大きさが増大する。コントローラ10は、振動データから得られる振動の大きさが第1閾値を超えたらメインモータ3の出力上限値を通常上限値から第1上限値へ下げる。コントローラ10は、メインモータ3の出力が設定された出力上限値を超えないように、インバータ6の出力を制限する。メインモータ3の出力上限値を下げることで、メインモータ3を含む駆動系の振動の増大を抑えることができる。
【0016】
「振動の大きさ」とは、具体的には、振動データ(バンドパスフィルタ適用後の回転速度の時系列データ)における最新の所定期間の振幅の積算値または移動平均でよい。あるいは、「振動の大きさ」とは、振動データの周波数特性におけるピーク値、あるいは、周波数特性における振幅の積算値でもよい。振動データの周波数特性は、振動データに高速フーリエ変換を適用すれば得られる。
【0017】
回転数センサ8から得られる振幅は、両振幅(peak to peak)で計測されることが望ましいが、片振幅(zero to peak)で計測されるものであってもよい。正負の符号付きの片振幅が計測される場合、振動の大きさを計る指標には、片振幅の絶対値の積算値あるいは移動平均が用いられる。
【0018】
コントローラ10は、振動の大きさが第1閾値を超えた後に第2閾値を超えたら出力上限値を第1上限値よりも低い第2上限値まで下げる。第2閾値は第1閾値よりも大きい値である。すなわち、コントローラ10は、振動の大きさに応じてメインモータ3の出力上限値を2段階で下げる。出力上限値が急激に大きく下がると乗員に違和感を与えるおそれがある。メインモータ3の出力上限値を2段階で下げることで、乗員に与える違和感を軽減することができる。
【0019】
コントローラ10が実行する処理(出力制限処理)のフローチャートを図2に示す。図2のフローチャートに沿ってコントローラ10の処理を説明する。
【0020】
コントローラ10は、図2の処理を一定の周期で繰り返す。コントローラ10は、まず、回転数センサ8から回転速度を取得する(ステップS11)。コントローラ10は、過去に取得した回転速度も記憶している。すなわち、コントローラ10は、回転速度の時系列データを取得する。ステップS11を実行する毎に、回転速度の時系列データは最新のデータ列に更新される。
【0021】
コントローラ10は、回転速度の最新の時系列データにバンドパスフィルタを適用する(ステップS12)。バンドパスフィルタは、メインモータ3を含む駆動系の共振周波数を含む所定の周波数帯域(共振帯域)の振動成分を残し、共振帯域以外の周波数の振動成分を除去する。バンドパスフィルタを適用した後の回転速度の時系列データを振動データと称する。
【0022】
続いてコントローラ10は、最新の所定期間の振動データの積算値を計算する(ステップS13)。先に述べたように、振動データが正負の符号付きの片振幅で表されている場合は、コントローラ10は、所定期間の各振幅データの絶対値を積算する。所定期間は、任意に設定し得る。振動データの積算値が振動の大きさを測る指標となる。
【0023】
続いてコントローラ10は、積算値を第2閾値と比較する(ステップS14)。コントローラ10は後述するステップS16で積算値を第1閾値と比較する。第2閾値は第1閾値よりも大きい値に設定されている。
【0024】
メインモータ3を含む駆動系の振動が激しいとき、積算値は時間の経過とともに徐々に大きくなる。それゆえ、ステップS14の分岐判断がYESとなる前にステップS16の分岐判断がYESとなる。ステップS16の分岐判断がYESの場合(すなわち、積算値が第1閾値を超えた場合)、コントローラ10は、メインモータ3の出力上限値を通常上限値からそれよりも低い第1上限値に変更する(ステップS16:YES、S17)。なお、自動車2が走行を開始したとき、メインモータ3の出力上限値は通常上限値に設定されている。
【0025】
積算値が第2閾値を超えている場合(ステップS14:YES)、コントローラ10は、メインモータ3の出力上限値を第2上限値に変更する(ステップS15)。第2上限値は第1上限値よりも低い値に設定されている。
【0026】
ステップS14-S17の処理により、積算値が大きくなるにつれて、メインモータ3の出力上限値は通常上限値から第1上限値へ、さらに第1上限値から第2上限値へと、2段階で下げられる。
【0027】
車体の振動が小さくなると積算値が徐々に小さくなる。積算値が回復閾値を下まわると、コントローラ10はメインモータ3の出力上限値を通常上限値に戻す(ステップS18:YES、S19)。回復閾値は、第1閾値よりも低い値に設定されている。第1閾値よりも低い回復閾値を設定するのは、第1閾値の近傍でメインモータ3の出力上限値が通常上限値と第1上限値の間でハンチングすることを防止するためである。回復閾値を設定するのに代えて(あるいは回復閾値を設定するとともに)、積算値が所定の回復判定期間を超えて連続して第1閾値を下回ったときに出力上限値を通常上限値に戻してもよい。
【0028】
図3に、振動データと振幅積算値と出力上限値のタイムチャートの一例を示す。図3(A)は、振動データのグラフである。別言すれば、図3(A)のグラフは、回転速度の時系列データにバンドパスフィルタを適用した後のデータを示している。従って図3(A)のグラフにはDC成分は含まれず、振動はゼロを中心に上下に振れている。先に述べたように、バンドパスフィルタを適用した後の回転速度の時系列データ(振動データ)には、共振帯域の振動成分のみが含まれる。
【0029】
図3(B)は、振動データにおける最新の所定期間の振幅の積算値のグラフである。所定期間の積算値であるため、振幅が小さくなれば積算値も徐々に小さくなる。図3(C)はメインモータ3の出力上限値のタイムチャートである。メインモータ3の出力上限値は、最初は通常上限値に設定されている。
【0030】
時刻T1に振動データの振幅の積算値が第1閾値を超える。コントローラ10は、時刻T1にメインモータ3の出力上限値を通常上限値から第1上限値に下げる。時刻T2に積算値が第2閾値を超える。コントローラ10はメインモータ3の出力上限値を第1上限値から第2上限値に下げる。第2上限値は第1上限値よりも低い値に設定されている。
【0031】
時刻T3以降、振幅は徐々に小さくなり、積算値も小さくなっていく。時刻T4に積算値が回復閾値を下回る。コントローラ10は、時刻T4にメインモータ3の出力上限値を通常上限値に戻す。
【0032】
第1実施例の自動車2は、メインモータ3を含む駆動系の振動の大きさに応じてメインモータ3の出力上限値を2段階で下げる。出力上限値を2段階で下げることで、駆動系の振動を抑えるとともに、乗員に与える違和感を軽減することができる。
【0033】
なお、時刻T1の後、積算値が第2閾値を超える前に積算値が小さくなり、回復閾値を下回った場合、コントローラ10は、メインモータ3の出力上限値を第1上限値から通常上限値に戻す。振動の大きさに応じて出力上限値を2段階で下げることには、出力上限値の1段階の下げで振動が抑制できた場合に2段階目の下げを行わずに済むという利点がある。
【0034】
(第2実施例)図4に、第2実施例の自動車2aのブロック図を示す。第2実施例の自動車2aは、メインモータ3に加えてサブモータ13を備える。サブモータ13は、メインモータ3とともに前輪5を駆動する。サブモータ13の出力トルクとメインモータ3の出力トルクはギアセット19で合成されて前輪デファレンシャルギア4に伝達される。サブインバータ16が、バッテリ7の直流電力を交流電力に変換してサブモータ13に供給する。インバータ6とサブインバータ16はコントローラ10aが制御する。
【0035】
サブモータ13はメインモータ3とともに前輪5を駆動する。サブモータ13とメインモータ3は一つの筐体に収容される。それゆえ、メインモータ3とサブモータ13は一つの駆動系を構成する。メインモータ3を含む駆動系は、サブモータ13を含む駆動系に等しい。それゆえ、メインモータ3を含む駆動系の共振周波数は、サブモータ13を含む駆動系の共振周波数と同じになる。従って、メインモータ3の回転速度の振動成分が大きくなるとき、サブモータ13の回転速度の振動成分も大きくなる。
【0036】
第2実施例の自動車2aの場合、コントローラ10aは、メインモータ3の回転速度の時系列データにバンドパスフィルタを適用し、共振帯域の振動データを得る。コントローラ10aは、振動データから得られる振動の大きさが第1閾値を超えたらメインモータ3の出力上限値を通常上限値から第1上限値に下げるとともに、サブモータ13の出力上限値(サブモータ出力上限値)をサブモータ通常上限値からサブモータ第1上限値へ下げる。コントローラ10aは、振動の大きさが第2閾値を超えたらメインモータ3の出力上限値を第2上限値に下げるとともに、サブモータ出力上限値をサブモータ第1上限値よりも低いサブモータ第2上限値に下げる。第2実施例の自動車2aは、サブモータ13の振動も効果的に抑制することができる。
【0037】
サブモータ13の最大出力はメインモータ3の最大出力以下であり、サブモータ13の振動の影響は、メインモータ3の振動の影響よりも小さい。それゆえ、メインモータ3の回転速度の時系列データに基づいて振動の大きさを測ることで、駆動系の振動を正確に把握することができる。
【0038】
(第3実施例)図5に、第3実施例の自動車2bのブロック図を示す。第3実施例の自動車2bも、メインモータ3に加えてサブモータ23を備える。サブモータ23は、後輪25を駆動する。サブモータ23の出力トルクは、後輪デファレンシャルギア24と後輪車軸29を介して後輪25に伝達される。サブインバータ26が、バッテリ7の直流電力を交流電力に変換してサブモータ23に供給する。インバータ6とサブインバータ26はコントローラ10bが制御する。
【0039】
サブモータ23は車体の後部に配置されており、車体の前部に配置されているメインモータ3から離れている。サブモータ23を含む駆動系(サブモータ駆動系)は、サブモータ23と、サブモータ23から駆動輪(後輪25)までの動力伝達経路(後輪デファレンシャルギア24と後輪車軸29)と、それらを支持する構造体である。サブモータ駆動系の共振周波数は、先に述べた共振帯域(メインモータ3を含む駆動系の共振周波数を含む周波数帯域)から外れている。それゆえ、路面から受ける振動の周波数が共振帯域に含まれてメインモータ3を含む駆動系の構造体の振動が大きくなっても、サブモータ駆動系の振動は大きくならない。
【0040】
そこで、コントローラ10bは、メインモータ3の振動データから得られる振動の大きさが第1閾値を超えたらメインモータ3の出力上限値を通常上限値から第1上限値に下げるとともに、自動車2bの目標総出力に対するメインモータ3の出力割合を下げてサブモータの出力割合を上げる。より厳密には、コントローラ10bは、メインモータ3の振動データから得られる振動の大きさが第1閾値を超えたら、メインモータ3の出力割合を、振動の大きさが第1閾値を超える前の出力割合よりも下げる。同時にコントローラ10bは、サブモータ23の出力割合を、振動の大きさが第1閾値を超える前の出力割合よりも上げる。
【0041】
メインモータ3の出力上限値を第1上限値に下げるとメインモータ3の最大出力が下がる。サブモータ23の出力割合を高めることで、メインモータ3の出力トルクの不足分を補うことができる。サブモータ駆動系の共振周波数は共振帯域から外れているので、メインモータ3を含む駆動系の振動が大きくなるとき、サブモータ23を含む駆動系の振動は大きくならない。サブモータ23の出力割合を高くしても、車体全体の振動は大きくならない。
【0042】
実施例で説明した技術に関する留意点を述べる。振動の大きさを示す指標として、振動データにおける最新の所定期間の振幅の移動平均を用いてもよい。あるいは、振動の大きさを示す指標として、振動データの周波数特性におけるピーク、あるいは、周波数特性における振幅の積算値を用いてもよい。振動データの周波数特性は、バンドパスフィルタを適用した後の回転速度の時系列データに高速フーリエ変換を適用すれば得られる。あるいは、振動データの周波数特性は、回転速度の時系列データに高速フーリエ変換を適用した後、共振帯域の周波数特性を抽出しても得られる。この場合、バンドパスフィルタが不要となる。
【0043】
振動の大きさを示す指標として最新の所定期間の振幅の積算値や移動平均を採用することによって、振幅の瞬間的な変化に捉われることなく、振幅の経時的変化の傾向を正確に把握することができる。また、積算値や移動平均を採用することにより振動の大きさの時間変化が緩やかになる。振動の大きさが第1閾値を超えてから第2閾値を超えるまでに相応の時間を要することになる。出力トルクの上限値が短時間に通常上限値から第2上限値へ下がることが避けられる。すなわち、出力トルクの上限値の急激な変化が避けられる。
【0044】
本明細書が開示する技術によれば、出力上限値を2段階で下げることで振動を抑制できる。本明細書が開示する振動抑制技術は、何等かの部品を付加して振動を抑制する技術と比べて質量の点でもコストの点でも有利である。
【0045】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0046】
2、2a、2b:自動車
3:メインモータ
4:前輪デファレンシャルギア
5:前輪
6:インバータ
7:バッテリ
8:回転数センサ
9:前輪車軸
10、10a、10b:コントローラ
13、23:サブモータ
16、26:サブインバータ
19:ギアセット
24:後輪デファレンシャルギア
25:後輪
29:後輪車軸
図1
図2
図3
図4
図5