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特許7368359摺動性コーティング、それの製造法、それを備えた摺動要素及びそれの使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】摺動性コーティング、それの製造法、それを備えた摺動要素及びそれの使用
(51)【国際特許分類】
   C10M 107/44 20060101AFI20231017BHJP
   C10M 169/04 20060101ALI20231017BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20231017BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231017BHJP
   C09D 7/20 20180101ALI20231017BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231017BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20231017BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20231017BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20231017BHJP
   F16C 33/20 20060101ALI20231017BHJP
   C10M 125/02 20060101ALN20231017BHJP
   C10M 125/22 20060101ALN20231017BHJP
   C10M 125/26 20060101ALN20231017BHJP
   C10M 147/02 20060101ALN20231017BHJP
   C10N 10/04 20060101ALN20231017BHJP
   C10N 10/08 20060101ALN20231017BHJP
   C10N 10/12 20060101ALN20231017BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20231017BHJP
   C10N 50/02 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
C10M107/44
C10M169/04
C08L79/08
C09D5/00 Z
C09D7/20
C09D7/61
C09D7/65
C09D179/08 A
C09D179/08 B
C09D179/08 D
C23C28/00 A
F16C33/20 A
C10M125/02
C10M125/22
C10M125/26
C10M147/02
C10N10:04
C10N10:08
C10N10:12
C10N40:02
C10N50:02
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2020535301
(86)(22)【出願日】2018-09-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-11-19
(86)【国際出願番号】 EP2018074103
(87)【国際公開番号】W WO2019052905
(87)【国際公開日】2019-03-21
【審査請求日】2021-05-11
(31)【優先権主張番号】102017216109.4
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】501014452
【氏名又は名称】フエデラル―モーグル・ウイースバーデン・ゲゼルシヤフト・ミト・ベシユレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】アダム・アヒム
(72)【発明者】
【氏名】シュリューター・ヨーアヒム
【審査官】上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-199859(JP,A)
【文献】国際公開第2015/090597(WO,A1)
【文献】特開2012-062355(JP,A)
【文献】特開2000-044800(JP,A)
【文献】特表2012-514170(JP,A)
【文献】特表2017-509837(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D,F16C,C08,C23C,C10M,C10N
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂マトリックスとしてのイミドポリマーをベースとする摺動要素用摺動性コーティングを製造するための方法であって、溶剤または溶剤混合物中の非イミド化または部分イミド化ポリアミド酸プレポリマーあるいはイミド化短鎖ブロック化プレポリマーに、二官能性または環化二官能性化合物、任意選択的に及び機能性フィラーを添加し、次いで、前記プレポリマーに依存して、重合またはイミド化と、両方の場合に架橋反応とを行い、前記溶剤または溶剤混合物が、前記重合またはイミド化の実行に及び両方の場合に前記架橋反応の実行に適した強極性の非プロトン性溶剤を含及び前記の二官能性または環化二官能性化合物が、前記非イミド化または部分イミド化ポリアミド酸プレポリマーあるいはイミド化短鎖ブロック化プレポリマーを架橋し、及び前記二官能性または環化二官能性化合物が8個の炭素原子未満の鎖長を有する、前記方法。
【請求項2】
二官能性または環化二官能性化合物の使用量が、ポリアミド酸プレポリマーの潜在的なイミド基の数に基づいてまたは短鎖ブロック化プレポリマーの既存のイミド基の数に基づいて少なくとも1モル%であり、及び/または二官能性または環化二官能性化合物の使用量が、ポリアミド酸プレポリマーの潜在的なイミド基の数に基づいてまたは短鎖ブロック化プレポリマーの既存のイミド基の数に基づいて最大で35モル%であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
二官能性または環化二官能性化合物の使用量が、アミド酸プレポリマーの潜在的なイミド基の数に基づいてまたは短鎖ブロック化プレポリマーの既存のイミド基の数に基づいて3~25モル%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリアミド酸プレポリマーまたは短鎖ブロック化プレポリマーが、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエステルイミドの製造のためのプレポリマーの群から選択されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
前記二官能性または環化二官能性化合物が、ジアミン、ジアミド、ジカルボン酸、アミノ酸、ラクタム、ラクトン、イミド、酸無水物、酸ハロゲン化物、ジアルコール及びヒドロキシカルボン酸からなる群の芳香族または脂肪族または芳香族-脂肪族化合物から選択されることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
前記溶剤または溶剤混合物が、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N-エチル-2-ピロリドン(NEP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、γ-ブチロラクトン(GBL)、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン(DMEU)、1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン(DMPU)、1-メチルイミダゾール(MI)、メチル-エチルケトン(MEK)を含むことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一つに記載の方法に従い製造される、樹脂マトリックスとしてのイミドポリマー、任意選択的に及び機能性フィラーを含む摺動要素用摺動性コーティングであって、前記イミドポリマーの分子が、架橋に寄与する二官能性または環化二官能性化合物の残基を追加的に含む、前記摺動性コーティング。
【請求項8】
前記機能性フィラーの割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして75体積%を超えず、及び前記機能性フィラーが、任意選択的に、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を向上する物質の一つまたは複数を含むことを特徴とする、請求項7に記載の摺動性コーティング。
【請求項9】
前記固体潤滑剤が、層構造を有する一つまたは複数の金属硫化物、グラファイト、六方晶系BN、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ZnS、BaSO及びこれらの混合物を含むことを特徴とする、請求項8に記載の摺動性コーティング。
【請求項10】
硬質材料が、窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物の一つまたは複数を含み前記硬質材料の割合が、硬化摺動性コーティングに基づいて10体積%以下であることを特徴する、請求項9に記載の摺動性コーティング。
【請求項11】
硬質材料が、立方晶系BN、またはSiO の一つまたは複数を含むことを特徴する、請求項10に記載の摺動性コーティング。
【請求項12】
前記熱伝導性を向上する物質が、Ag、Pb、Au、Sn、Al、BiまたはCuからなる群からの一つまたは複数の金属粉末を含み前記金属粉末の割合が、硬化摺動性コーティングに基づいて30体積%以下であることを特徴とする、請求項9~11のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
【請求項13】
前記機能性フィラーが、鉄(III)酸化物またはNiSbTi混合相酸化物を、硬化摺動性コーティングを基準にして15体積%までの割合で含むことを特徴とする、請求項7~12のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
【請求項14】
金属製基材層と、その上に施与された、請求項7~13のいずれか一つに記載の少なくとも一つの摺動性コーティングからなる被膜とを備えた摺動要素であって、前記金属製基材層が、鋼製支持層または金属製軸受け金属層、または鋼製支持層と金属製軸受け金属層、任意選択的に金属製中間層、任意選択的に及び摺動層を含み、ここで前記被膜は、前記基材層の露出された層に施与されている、前記摺動要素。
【請求項15】
前記基材層の露出された層が、Cu合金、Al合金、Ni合金、Sn合金、Zn合金、Ag合金、Au合金、Bi合金またはFe合金から形成されることを特徴とする、請求項14に記載の摺動要素。
【請求項16】
摺動層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としてまたは適応のためのなじみ層として形成されており、ここで前記摺動層が、任意選択的にスパッタリング層としてまたは電解めっき摺動層として形成されていることを特徴とする、請求項14または15に記載の摺動要素。
【請求項17】
軸受け金属層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が長い耐用期間を有する摺動層として形成されていることを特徴とする、請求項14または15に記載の摺動要素。
【請求項18】
Sn、Ni、Ag、Cu、Feまたはそれらの合金からなる中間層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が形成されていることを特徴とする、請求項14または15に記載の摺動要素。
【請求項19】
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、請求項7~13のいずれか一つに従い形成されており、ここで、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としての上側の摺動性コーティング層が、長い耐用期間を有する摺動層としての下側の摺動性コーティング層上に形成されているか、または前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、請求項7~12のいずれか一つに従い形成されており、ここで、良好な滑り特性及びなじみ特性を有する摺動層としての上側の摺動性コーティング層の下に、高い耐磨耗性を有する下側の摺動性コーティング層が形成されていることを特徴とする、請求項1418のいずれか一つに記載の摺動要素。
【請求項20】
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、請求項7~13のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記金属製基材層と、良好な滑り特性及びなじみ特性を有する摺動層としてまたは高い耐摩耗性を有する摺動層として形成された上側の摺動性コーティング層との間に、添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない追加的な摺動性コーティング層が配置されていることを特徴とする、請求項1419のいずれか一つに記載の摺動要素。
【請求項21】
前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、請求項7~13のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記少なくとも二つの摺動性コーティングは、二官能性または環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を向上する物質からなる群から選択される物質に関して、異なる割合を有するか、または前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる勾配型層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、請求項7~13のいずれか一つに従い形成され、ここで、前記勾配型層系は、層厚の少なくとも一部を考慮した場合に、二官能性または環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を向上する物質からなる群から選択される少なくとも一つの物質を、増加または減少する割合で含むことを特徴とする、請求項1420のいずれか一つに記載の摺動要素。
【請求項22】
内燃機関のためのピストン、ピストンリング、軸受けシェルまたはブッシュをコーティングするための、請求項7~13のいずれか一つに記載の摺動要素用摺動性コーティングの使用。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
エンジンの摺動要素は、大概は、滑り特性を最適化する特別に変性された表面を有する多層材料からなる。一般に、滑り軸受けの表面は、例えば鉛、錫又はアルミニウムをベースとする金属層であり、これらは、電解めっきプロセス、蒸着又は機械的めっきによって適用される。
【0002】
また、合成樹脂をベースとする非金属層、いわゆる摺動性コーティングも知られており、これらは、フィラーを添加することによって、それらの滑り特性、耐荷重性及び耐摩耗性の点で改良される。
【0003】
合成樹脂ベースの摺動性コーティングは、機械的構造において摩擦を低減するための手段として非常に一般に長年使用されてきた。原則として、金属、プラスチック及びゴム部品は被覆されており、これらは更なる潤滑なしに永久的に容易に稼働可能でなければならない。典型的な用途では、荷重はかなり低く、温度または媒体などの境界条件は重要ではない。
【0004】
架橋ポリイミドからなるプラスチックは、一般に、例えば、DE2729825C2(特許文献1)またはDE1198547A(特許文献2)から既知である。
【0005】
エンジンにおける用途、例えばクランクシャフト軸受けのための用途も、例えばEP0984182A1(特許文献3)のような種々の特許出願及び市販されている最初の滑り軸受け製品から既に知られている。既知の種類の銅及びアルミニウム合金は通常は基材として称され、コーティングマトリックスは、ポリアミドイミド(PAI)、ポリイミド(PI)、エポキシド及びフェノール樹脂、ポリベンズイミダゾール(PBI)またはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる。一例として、文献EP1775487A1(特許文献4)を参照されたい。滑り特性及び耐荷重性を改善するために、マトリックスプラスチックには、例えば、固体潤滑剤、例えばMoS2、WS、BN、PTFE、セラミック粉体、例えば酸化物、窒化物、炭化物、シリケート、金属、例えばAl、Cu、Ag、W、Ni、Auなどの機能性フィラーが充填される。例えばWO2004/002673A1(特許文献5)を参照されたい。層の施与は、噴霧または印刷プロセス及びその後の熱硬化によって行われる。
【0006】
それにもかかわらず、公知のコーティングは、高回転数の時の潤滑不足状態の場合に、この状態が頻繁に生じるときに層を完全に摩耗させるような摩耗速度を有する。特に、銅ベースの軸受け金属の場合に一般的にそうである、制限された滑り特性を有する基材材料では、これはフレッティング(Fressen)による軸受の完全な破損につながる可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】DE2729825C2
【文献】DE1198547A
【文献】EP0984182A1
【文献】EP1775487A1
【文献】WO2004/002673A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、臨界潤滑条件及び高回転数の場合に、イミドポリマーをベースとするコーティング層の摩耗速度の更なる減少を達成することである。ここで及び以下において、イミドポリマーと称されるポリマーとは、繰り返し単位が1個以上のイミド基を含有するポリマーのことと理解される。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、請求項1に記載のイミドポリマーをベースとする摺動性コーティングの製造方法、請求項9に記載の摺動性コーティング、及び請求項19に記載の摺動要素によって解決される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
樹脂マトリックスとしてのイミドポリマーをベースとする摺動性コーティングを製造するための本発明の方法は、溶剤または溶剤混合物中の非イミド化または部分イミド化ポリアミド酸プレポリマーあるいはイミド化された短鎖のブロック化プレポリマーに、二官能性または環化二官能性化合物、任意選択的に及び機能性フィラーを添加し、次いで、前記プレポリマーに依存して、重合またはイミド化と、両方の場合に架橋反応とを行うことを企図する。
【0011】
従って、上記課題は、架橋可能な官能基を有し、それ故、以下では「架橋剤」とも称される二官能性または環化二官能性化合物をコーティング調合物に添加し、それによって、重合またはイミド化反応に加えて、コーティングが硬化する時に架橋の割合が増加されることによって解消される。架橋剤無しでは、プレポリマーの分子の自発的な架橋は、偶然に及びイミド化の副反応としてのみ進行する一方で、架橋剤は、架橋部分の的確で大きな増加を保証する。前記の追加的な架橋は、樹脂マトリックスの機械的耐性を向上し、それ故、最終的には、特に高回転数及び低められた潤滑またはドライランの時に、コーティング層の耐荷重性及び耐摩耗性を改善する。
【0012】
上記二官能性化合物は、以下のように記載できる:
X-R‘-Y。
式中、R’は、芳香族、脂肪族または芳香族-脂肪族残基を表し、X、Yは、-NH、-NHR’’、-CONH、-CONHR’’、-COOH、-COZを表し、ここで、Zはハロゲンを表し、そしてR’’は、芳香族、脂肪族または芳香族-脂肪族残基を表し、この際、X及びYは、同一かまたは異なることができる。
【0013】
上記環化二官能性化合物は、以下のように記載できる:
【0014】
【化1】
この場合も、R’は、それぞれ芳香族、脂肪族または芳香族-脂肪族残基を表す。
【0015】
追加的な架橋は、使用するプレポリマーに依存して、ポリアミドイミド(PAI)の例によって説明される、二つの異なる反応経路で行われる。二つのタイプのPAIコーティング原料が使用される:すなわち、成分としてのジアミン及びトリメリト酸無水物塩化物から製造されるポリアミド酸プレポリマーをベースとするもの、及びジイソシアネート-及び酸無水物ベースのもの。第一のケースでは、使用される二官能性化合物は、架橋の時に、ポリアミド酸プレポリマーの少なくとも二つの分子の、分子内環化を担うアミド-及び酸基(以下単に、「ポリアミド酸基」と略す)と反応(架橋反応)することができる。イミド化反応は同時に起こる。この際、架橋反応は、好ましくは、イミドに(まだ)環化されていない残りのポリアミド酸基を介してのみ起こる。イソシアネート成分から製造されるポリマーの場合は、先ず、短鎖であるが既にイミド化されたプレポリマーが製造され、その完全な重合は、適切な末端基によって中断またはブロックされる。次に、硬化の間に、ブロック末端基の開裂及び短鎖プレポリマー相互の反応によって鎖伸長が起こる(「重合」)。このようにして製造されたポリマーは既に完全にイミド化されているべきではあるものの、本発明による効果はそれらにおいても確認できる。溶解状態では、架橋性の二官能性または環化二官能性添加剤との転位反応(「架橋反応」)が起こり得ると考えられる。
【0016】
ここでは、第一のケースの「イミド化反応」及び「架橋反応」、並びに第二のケースの「重合」及び「架橋反応」をまとめて「硬化」と称する。
【0017】
このために適した二官能性化合物は排他的ではないが、特に好ましくはジアミン、ジアミド、ジカルボン酸、アミノ酸、酸ハロゲン化物、ジアルコール及びヒドロキシカルボン酸である。適当な環化二官能性化合物は、これらの環化によって形成できる化合物、好ましくはラクトンまたはラクタムであるが、イミド及び無水物も可能である。これらの二官能性または環化二官能性化合物は、芳香族、脂肪族または芳香族-脂肪族化合物であることができるか、またはこれらの二種の複合化合物からなることができる。
【0018】
脂肪族ジアミン、ジアミド、ジカルボン酸、アミノ酸、ラクタム、ラクトン、ジアルコール及びヒドロキシカルボン酸の場合の鎖長は、好ましくは8個未満のC原子、特に好ましくは5個未満のC原子であり; これは、鎖は長い方が、摺動性コーティングの耐熱性に悪影響を及ぼすからである。
【0019】
好ましくは、二官能性または環化二官能性化合物の使用量は、ポリアミド酸プレポリマーの潜在的なイミド基の数に基づいて、または短鎖ブロック化プレポリマーの既存のイミド基の数に基づいて少なくとも1モル%である。簡潔さのために、以下では、ポリアミド酸プレポリマーの潜在的イミド基及び短鎖プレポリマーの既存のイミド基は、「プレポリマーのイミド基」と称する。
【0020】
二官能性または環化二官能性化合物の使用量は、プレポリマーのイミド基の数に基づいて1モル%を超えれば少量でも既に、PAIベースの特定のコーティング組成物の特性を改善する。割合がこれより小さいと、有意な改善は確認できない。このような改善される特性には、特に高回転数及び低潤滑下での、耐荷重性及び耐摩耗性が挙げられる。それによって、クランクシャフト軸受けのピーク耐荷重性を、既に120MPaまで高めることができ、この値は、他ではAlベースのスパッタ層でしか達成されない値である。標準化された潤滑不足条件下での耐久期間に関して測定された耐フレッティング性は、追加的に架橋されていないバインダーと比較して3倍以上であった。
【0021】
架橋性添加剤によって、変形が可塑性領域から弾性領域にシフトし、それによって、適応摩耗(Anpassungsverschleiss)及びアブレシブ摩耗成分の一部を回避することができるものと仮定される。これによって、高エネルギー入力下、例えば、高回転または潤滑不足条件下でさえも、荷重限界及び耐摩耗性の両方が高まる。それ故、追加的に架橋された層は、荷重限界未満の荷重下での軸受けの著しく増大した動作安全性ももたらす。
【0022】
35モル%を超える割合は、樹脂マトリックの結晶化度の強い変化を招く。それ故、二官能性化合物の使用量は、プレポリマーのイミド基の数に基づいて好ましくは最大でも35モル%である。
【0023】
特に好ましくは、二官能性または環化二官能性化合物の割合は、3~25モル%、非常に特に好ましくは5~20モル%である。
【0024】
該アミド酸プレポリマー及び短鎖ブロック化プレポリマーは、好ましくは、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエステルイミドの製造のためのプレポリマーの群から選択される。
【0025】
すなわち、摺動性コーティングのための架橋可能な樹脂マトリックとしては、特に適しており、それ故好ましいイミドポリマーは、それらの高い耐熱性及び耐媒体性に基づいてPI、PAI、PEI及びポリエステルイミドである。
【0026】
典型的には、硬化、すなわち重合またはイミド化それぞれ及び両方の場合において、架橋反応は、好ましくは熱の形のエネルギーの供給によって進行する。
【0027】
特に適したものは、強極性の非プロトン性溶剤、特に好ましくはNMP(N-メチル-2-ピロリドン)、NEP(N-エチル-2-ピロリドン)または他の同族体、DMSO(ジメチルスルホキシド)、GBL(γ-ブチロラクトン)、DMF(ジメチルホルムアミド)、DMAC(ジメチルアセトアミド)、DMEU(1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン)、DMPU(1,3-ジメチル-3,4,5,6-テトラヒドロ-2(1H)-ピリミジノン、MI(1-メチルイミダゾール)、MEK(メチル-エチルケトン)である。現在、他の溶媒が、それらの適合性について試験されているが、その理由は、上記の溶媒は、毒性の可能性、または乾燥及び流動挙動のような加工特性に関しての妥協のいずれかを有するからである。
【0028】
本発明による摺動性コーティングは、上記のような方法によって製造され、従って、架橋に寄与する二官能性または環化二官能性化合物の残基を追加的に含む分子を有するイミドポリマー、特に上記の群からのイミドポリマーを樹脂マトリックスとして、及び任意に官能性フィラーを含有する。ここで、溶剤を含まない完成した硬化摺動性コーティングが、「摺動性コーティング」と称される。
【0029】
該摺動性コーティングの層の特性を、個々の用途における目的設定に適合させるためには、上記の機能性フィラーが使用される。これらは、プレポリマーの架橋反応及びイミド化反応に関与しない。これらは、摺動性コーティング中にできるだけ均一に分散した状態で存在する。
【0030】
機能性フィラーの割合は、硬化摺動性コーティングを基準にして最大75体積%である。「摺動性コーティング」と同様に、「硬化摺動性コーティング」または「硬化摺動性コーティング層」または「架橋摺動性コーティング」または「架橋摺動性コーティング層」という用語は、本明細書では、溶剤は考慮せずに硬化後の摺動性コーティングまたはそれから形成された層を指す。
【0031】
好ましくは、該機能性フィラーは、任意に、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導率を改善するかまたはコーティング表面の湿潤に影響を及ぼす物質のうちの一つまたは複数を含有する。
【0032】
固体潤滑剤の添加は、緊急運転特性、すなわち非流体力学的運転条件における挙動を改善する。硬質材料は、摩耗低減剤として、またはシャフトの状態調節のために使用され、熱伝導性を改善する物質は、摩擦熱の迅速な除去、従って持続耐荷重性に役立つ。
【0033】
固体潤滑剤としては、MoS、WS、SnSなどの層構造を有する金属硫化物、グラファイト、六方晶系BN、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)またはZnS/BaSO混合物が好ましく使用される。
【0034】
硬質材料としては、好ましくは窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物、例えばSiC、Si、B、立方晶系BN、またはSiOが使用される。
【0035】
熱伝導性を改善する物質としては、好ましくは、一種または複数の金属粉末、特にAg、Pb、Au、Sn、Al、BiまたはCuからなる金属粉末が含まれる。
【0036】
湿潤及び表面特性は、例えば非常に微細なフィラー、例えばFeまたはTiOまたはこれらの混合酸化物によって影響され得る。
【0037】
酸化鉄(III)及びニッケル-アンチモン-チタン混合相酸化物は、硬化摺動性コーティングに対してそれぞれ15体積%まで、好ましくは1~10体積%の量で、特に有効な更なる機能性フィラーであることが判明した。酸化物添加剤を用いた場合も、硬化摺動性コーティング中の機能性フィラーの全割合は合計して75体積%を超えるべきではない。
【0038】
これらの添加剤の量は、硬化摺動性コーティングの総体積割合75%を超えないように選択するのがよい。この際、硬質材料の体積割合は、有利には10%を超えず、そして金属粉末の体積割合は30%を超えない。
【0039】
硬質材料の割合をより多くすると、滑り特性を劣化させ、シャフト走行面にアブラシブ効果を発揮するようになる。金属の割合をより多くすると、分散が困難となり、それ故、加工特性にとって悪い。
【0040】
本発明による摺動要素は、金属基材層、及びその上に施与された上述のタイプの少なくとも一つの摺動性コーティングからなる被膜を有する。
【0041】
完成した摺動要素における架橋された摺動性コーティング層の厚さは、有利には1μmと50μmとの間である。この際、厚さは、摺動要素に通常のように、構成部材の大きさに適応され、すなわち、5~25μmの厚さが、130mmまでの直径を有する軸受けに特に好ましい。5μm未満では適応性が失われ、そして25μmを超えると、層の耐荷重性は大きく低下する。130mmを超える直径を有する大きな軸受けの場合、50μmまでの摺動性コーティング層の層厚は、幾何学的誤差またはより大きな許容範囲のために増加したなじみ摩耗(Einlaufverschleiss)が予想され得るので、依然として許容可能である。
【0042】
被膜が施された金属製基材層の露出表面は、好ましくはR=1~10μm、特に好ましくはR=3~8μmの粗さを有する。この領域では、一方では改善された付着性が見出され、他方では、粗い表面のために、被膜が部分的に摩耗する時に、先端、すなわち金属製基材層の表面の非常に小さい表面部分のみが最初に露出され、これは、金属製基材のより大きな露出領域のフレッティングされ易さを同時に有することなく、表面の積載力を高める。
【0043】
必要とされる粗さは、サンドブラストまたは研削のような機械的プロセスによって生成できるが、化学的にリン酸塩処理またはエッチングによっても生成することができる。不規則な粗さの他に、規則的な基材構造も有利であり、これは、例えば、ドリル加工、リーミングまたはエンボス加工によって形成することができる。
【0044】
硬質粒子の射出が、特に有利であることが判明している。軸受け金属がコーティング層の適応効果及び他の引き起こされる摩擦によって局所的に露出される時、表面中の小さな粒子残留物により、耐摩耗性の更なる改善を達成できると考えられる。
【0045】
金属製基材層自体は、個々の金属層からまたは複数の機能的に異なる金属層の層複合体からなることができる。従って、摺動性コーティングから被膜が塗布される基材層の各々の露出された層は、異なる金属または金属合金、特にCu、Al、Ni、Sn、Zn、Ag、Au、BiまたはFe合金から作ることができる。
【0046】
金属製基材層は、鋼製支持層、または金属製軸受け金属層、または鋼製支持層、及び金属製軸受け金属層、任意選択で金属製中間層、及び任意選択で(薄い)金属製カバーまたは摺動層を含むことができる。鋼製支持層も、軸受け金属層も、それぞれの要求される特性、特に強度に依存して、単独でまたは組み合わせで基材層中に存在するかまたは基材層を形成することができる。
【0047】
摺動層が基材層の露出層を形成する場合、摺動性コーティングの被膜は、好ましくは、シャフト材料のラジアル軸受けの場合、カウンタ軸(Gegenlaeufer)を適応させるまたは状態調節するためのなじみ層として設計される。
【0048】
「カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層」とは、本教示の意味では、以下の手段のうちの少なくとも1つを必要とする:硬化摺動性コーティング層に基づいて少なくとも0.5重量%の硬質材料の添加;プレポリマーのイミド基の数に基づいて1~15モル%の架橋剤のわずかな添加。架橋剤の少量の添加の選択によって、或る程度の適応摩耗が全く望ましいなじみ層の架橋度が比較的小さくなる。
【0049】
本教示の意味での「適応のためのなじみ層」は、同様に、プレポリマーのイミド基の数に基づいて1~15モル%の少量のみの架橋剤と、合計して少なくとも30体積%の固体潤滑剤含量、並びに同時に比較的少ないバインダー含量、すなわちポリマーマトリックの割合によっても得られる。
【0050】
両方のなじみ層は、好ましくは、1~5μmの層厚を有し、高荷重可能なスパッタ層、特にAlSnをベースとするスパッタ層に特に有利であり得る。しかし、電解めっきされた摺動層上においても、特にカウンタ軸の表面が格別フレッティングされ易い場合には、なじみ層は有利である。
【0051】
軸受け金属層が、摺動性コーティングから被膜が形成されている露出した金属層を形成する場合には、摺動性コーティングの被膜は、好ましくは、長い耐用期間を有する独立した摺動層として形成される。「長い耐用期間を有する摺動層」とは、本教示の意味では、以下の手段のうちの少なくとも1つを必要とする:プレポリマーのイミド基の数に基づいて3~25モル%の架橋剤の添加;5μmと25μmとの間の層厚。耐久層(Lebensdauerschicht)は、できるだけ長い期間持続するべきである。このためには、ある程度の耐摩耗性と十分な厚さが必要である。これに関して、架橋剤の添加は改善をもたらし、そして層厚は相応して選択される。
【0052】
CuSn、CuNiSi、CuZn、CuSnZn、AlSn、AlSi、AlSnSi、AlZn軸受け金属合金上の摺動層としての被膜の使用が有利である。
【0053】
有利な発展形態の一つでは、該摺動要素の金属製基材層は、鋼製支持層上または存在する場合には軸受け金属層上に、中間層、好ましくはSn、Ni、Ag、Cu、Feまたはそれらの合金からなる中間層を有し、そしてその中間層の上には、カバー層または摺動層のいずれかが形成されるか、または該摺動性コーティングからの被膜が直接形成される。後者の場合には、中間層は、基材層の露出された層を形成する。NiまたはAg並びにそれらの合金からなる中間層が特に好ましい。
【0054】
中間層は任意であり、そして前記被膜並びに存在する場合には前記カバー及び摺動層が完全に摩耗される場合には、接合及び/または滑り特性の改善に役立つ。
前記中間層自体は、一つまたは複数の個々の層から構成でき、例えばNi層とNiSn層との組み合わせから構成できる。
【0055】
本発明の特に好ましい実施形態の一つは、前記被膜は、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは、上述の技術に従い形成され、ここで該摺動性コーティングは、上側の摺動性コーティング層が、長い耐用期間を持つ摺動層として形成される下側の摺動性コーティング層上に、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層として設計されるように形成される。
【0056】
本発明による代替的な多層系は、良好な滑り特性及び適応特性を持つ摺動層としての上側の摺動性コーティング層の下に、高い耐摩耗性を有する摺動層として下側の摺動性コーティング層が形成されるように構成される。
【0057】
「良好な滑り特性及び適応特性を持つ摺動層」は、本教示の意味では、以下の手段のうちの少なくとも1つを必要とする:硬化摺動性コーティング層に基づいて合計30~60重量%の固体潤滑剤の添加;プレポリマーのイミド基の数に基づいて1~10モル%の架橋剤の添加;1μmと10μmとの間の層厚。まず第一に、滑り特性を最適化すること、すなわち摩擦を減少させ及び埋め込み性を高めて、その上で、機械的耐性も調節されることが重要である。
【0058】
「高い耐摩擦性を有する摺動層」は、本教示の意味では、少なくとも、プレポリマーのイミド基の数に基づいて10~25モル%の架橋剤の添加を必要とする。その仕事は、摺動要素または軸受けが特に耐摩耗性に関して最適化され、そうして軸受け金属にまで完全にすり減るのを遅らせることによって、摺動要素または軸受けの動作安定性を更に高めることである。高い耐摩耗性を有する摺動層は、架橋に関して耐久層に類似しているが、後者は、その厚さにも依存し、それはまた、耐用期間を決定する。
【0059】
本発明による多層システムを有する更なる摺動要素は、被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなり、そのうちの少なくとも1つの摺動性コーティングが、上記の技術に従い形成され、この際、添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない追加的な下側の摺動性コーティング層が、金属製基材と、良好な滑り特性及び適応特性を有する摺動層としてまたは高い耐摩耗性を有する摺動層としてまたは長い耐用期間を有する摺動層として形成された上側の摺動性コーティン層との間に配置されることを企図する。
【0060】
添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない摺動性コーティング層」は、本教示では、以下の手段を必要とする:硬化摺動性コーティングに基づいて0~25体積%の機能性フィラーの割合。この層は、基材への付着に関して最適化され、そしてプライマーと同様に、その上にある摺動性コーティング層の接合を改善する目的を有する。加えて、この添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない摺動性コーティング層は、好ましくは、その上にある摺動性コーティング層よりも薄く、そして特に好ましくはわずか0.5~5μm厚である。
【0061】
従って、摺動要素の被膜は、好ましくは、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、上述の技術に従い形成され、この際、前記摺動性コーティングは、少なくとも二官能性または環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される物質に関して、用途に応じて様々な割合を有する。
【0062】
摺動性コーティング層の個別のレイヤーを有する多層系とは異なり、本発明の更なる発展形態の一つは、勾配型層系からなる被膜を有する摺動要素を企図する。勾配型層系は、少なくとも二つの摺動性コーティングからなり、そのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは、上記の技術に従い形成され、この際、層厚の少なくとも一部分について考慮した場合に、二官能性または環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を改善する物質からなる群から選択される少なくとも一種の物質は、用途に応じて増加または減少する割合を有する。
【0063】
特に好ましくは、滑り軸受けシェルまたはブッシュとして(コンロッド軸受けまたはクランクシャフト軸受けとして)形成される上述の摺動要素は、内燃機関に使用される。同様に、該摺動性コーティングは、直接的に内燃機関におけるコーティングとして、例えば、ピストンのためにはスカートコーティング(Hemdbeschichtung)として、またはピストンリングのためにはマイクロ溶接防止フランクコーティングとして適している。該摺動性コーティングは、例えば、これを、金属製基材層上に施与して、金属製支持層を備えた上記の摺動要素のうちの一つを形成することによって、被膜として使用できる。
【0064】
更なる特徴、利点及び用途は、図面を引き合いに出しつつ実施例に基づいて以下により詳しく説明する。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1図1は、本発明の第一の実施例に従う摺動要素の概略的な層構造を示す。
図2図2は、本発明の第二の実施例に従う摺動要素の概略的な層構造を示す。
図3図3は、本発明の第三の実施例に従う摺動要素の概略な層構造を示す。
図4図4は、本発明の第四の実施例に従う摺動要素の概略な層構造を示す。
図5図5は、本発明の第五の実施例に従う摺動要素の概略な層構造を示す。
【0066】
全ての実施例は、金属製基材層11、21、31、41、51、及び少なくとも一つの本発明による摺動性コーティングからなるその上に施与された被膜12、22、32、42、52を有し、ここで基材層及び/または被膜の内部構造は様々である。被膜の厚さは、1μmと50μmとの間であり、この際、これらの概略図は、実際の層厚の比率を正確に再現しているわけでも、比例的に正確に再現しているわけではなく、単に、層の順序を示すのに役立つに過ぎない。
【0067】
図1による摺動要素の金属製基材層11は、支持層13、通常は鋼製の支持層13、及び軸受け金属14、大概はCuもしくはAl合金に基づく軸受け金属14、並びに中間層15を有し、中間層15自体は、一つまたは複数の個々の層から構成することができそして軸受け金属層と被膜12との間の接合の向上に役立つ。用途に応じて、前記中間層も、その上にある層が摩耗される時に、改善された滑り特性または緊急運転特性を有するように構成することもできる。被膜12は、この実施例では、本発明による摺動性コーティングの単一の層16からなる。
【0068】
基本的には、軸受け金属が十分な強度を有する場合は、この及び以下の実施例においては、鋼でできた支持層は省略できる。同様に、幾つかの使用条件では、基本的に軸受け金属層も不要の場合がある。以下の実施例の一部が示すように、中間層も同様に任意である。
【0069】
図2では、摺動要素の金属製基材層21は、この場合もまた、鋼製支持層23及び軸受け金属層24からなり、その上には、この例では、被膜22が、中間層なしに、再び本発明による摺動性コーティングの単一の層26の形で施与されている。
【0070】
図3に従う実施例は、金属製支持体層31を有し、これは、鋼製支持層33、軸受け金属層34、中間層35及びその上に施与された薄い金属製摺動またはカバー層37からなる。前記摺動またはカバー層37は、中間層35上にスパッタリングされるか、またはそこで電解めっきにより堆積される。この場合、中間層35は、軸受け金属層34に対する金属製摺動またはカバー層37の改善された接合に役立つ。被覆32は、本発明による摺動性コーティングの単一の層36の形で、摺動層37上に施与され、そしてなじみ層として役立つ。なじみ層としては、カウンタ軸の状態調節のために最適化されたコーティング組成物、並びに適応に関して最低化されたコーティング組成物の両方を使用することができる。
【0071】
図4は、金属製支持体層41を備え、この層41が、鋼製支持層43及び軸受け金属層44からなる、実施例を示す。その上には、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系の形の被膜42が配置され、これらのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは本発明に従い形成される。前記被膜42は、具体的には、なじみ層として形成された上側の摺動性コーティング層46と、その下の、金属層41と接触しそして長い耐用期間を有する摺動層として形成された摺動性コーティング層48とを含む。耐久コーティング層48は、本発明に従う架橋された摺動性コーティング、架橋されたまたは架橋されていないコーティングからなる、その上に施与されたなじみ層46からなる。この場合も、なじみ層としては、カウンタ軸の状態調節のために最適化されたコーティング組成物、または適応に関して最適化されたコーティング組成物も使用することができる。
【0072】
最後に、図5には、金属製支持材層51を備えた実施例が示され、これは、鋼製支持層53及び軸受け金属層54からなる。その上には、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系の形の被膜52が配置され、これらのうちの少なくとも一つの摺動性コーティングは本発明に従い形成される。被膜52は、金属製基材51上に、下側の摺動性コーティング層58とその上に上側の摺動性コーティング層56を有する。上側の摺動性コーティング層56は、良好な滑り特性及びなじみ特性を有する摺動層または長い耐用期間を有する摺動層を形成する。下側の摺動性コーティング層は、基材への付着に関して最適化され、そしてプライマーと同様に、その上にある摺動性コーティング層の接合を改善する目的を有する。
【実施例
【0073】
以下に記載の全ての実施例は、同じ方法で製造した。
【0074】
N-エチル-2-ピロリドン(NEP)中でのPAIプレポリマーの使用、完全な均一化及びグラインドメータ測定を使用して測定して5μmの粒度までの、ディスソルバ及びビーズミルを用いた成分の混合、洗浄、脱脂及び鋼玉の射出による基材原材料の前処理、噴霧法での基材原材料への施与、乾燥、260℃、20分間での硬化。基材としてのスズ含有アルミニウム原材料の場合には、硬化温度を200℃に下げ、そして硬化時間は40分間に長めた。これらのプロセス及びプロセス条件は、結果の比較のために、全ての試料において同じものを選択した。しかし、本発明は、このような製造方法に限定されない。
【0075】
表1では、本発明による摺動性コーティングを用いた摺動要素の例1~7、及び対比例R1を比較する。前記対比例R1では、摺動性コーティングは、架橋剤が添加されていない。全ての摺動要素は、10μmの厚さを有する摺動性コーティング層が上に施与された、CuNiSi合金をベースとする金属製基材層を有する。全ての摺動性コーティングには、等しく、30体積%の軟質層MoSが唯一のフィラーとして含まれる。摺動性コーティングの樹脂マトリックスは、全ての場合においてPAIであり、これは、全ての場合に、対比例は除いて、PAIプレポリマーのイミド基に基づいて10モル%の架橋剤が添加されている。すなわち、架橋剤のみを変えた。
【0076】
それぞれの場合において、いわゆるアンダーウッド(UW)耐荷重性が測定され、これは、摺動性コーティング層が損傷なしに250時間のアンダーウッド試験に耐える最高荷重量のことと解される。ここで行われるアンダーウッド試験では、軸受け荷重は4000rpmのシャフト回転数によって達成され、ここで、このシャフトは50mmの直径を有し、そして周期的な力を発生させる偏心重りを備えていた。比荷重量は、軸受の幅にわたって設定した。全ての例要素1~7では、架橋剤を使用していない摺動要素R1と比べてアンダーウッド耐荷重性の著しい向上を確認できた。最良の結果は、架橋剤としてのコハク酸及びスクシンイミドを用いて達成された。
【0077】
更に、それぞれフレッティング指数(Fress-Index)を測定した。これは、一つの試験で、シャフトにより駆動された単一シリンダ試験スタンドで、圧縮無しで6700rpm及び潤滑不足下にフレッティングまでに到達する平均運転時間(h)のことと解される。試験期間は最大35時間であり、シャフトまたは軸受け内径はこの場合も50mmである。このシャフトは鋼製であった。この場合も、架橋剤を添加した場合はフレッティング指数の増加が明らかに記録される。この場合は、最良の結果は、架橋剤のコハク酸、カプロラクタム及びコハク酸無水物によって達成される。
【0078】
表2には、例8~12並びに二つの参考例R2及びR3を対比する。これらは、架橋剤として二官能性化合物を添加した本発明よる摺動性コーティングを含む。全ての摺動要素は、先の例1~7と同じ金属製基材層を有する。この場合もまた、摺動性コーティング層が、10μmの厚さで同じ方法でその上に施与されている。同様に、全ての摺動性コーティング中において、一定して、30体積%の軟質相MoSが単一のフィラーとして含まれている。加えて、全ての例8~12において及び参考例R2及びR3においても、同じ架橋剤のコハク酸が使用されたが、これらは異なる濃度であった。該摺動性コーティングの樹脂マトリックスは、この場合も全てのケースにおいてPAIである。また同様に、同じ方法でUW耐荷重性及びフレッティング指数を測定した。
【0079】
PAIプレポリマーのイミド基に基づいて1モル%から少なくとも34モル%の架橋剤量では、測定された2つのパラメータの、それ故、耐荷重性及び耐フレッティング性の特性の少なくとも一つについて改善があることが確認できる。表1中の、例8~12と比較例R1を参照されたい。両特性の総和における最大の改善は、PAIプレポリマーのイミド基に基づいて15モル%コハク酸の時に確認でき、この際、そのうえ、同時にこの改善は、5~25モル%の広い範囲で有意である。これに対して、PAIプレポリマーのイミド基に基づいて0.5モル%では、特性の変化はまだ確認できず(参考例R2参照)、そして37モル%では両方の特性の悪化さえも確認された(参考例R3参照)。
【0080】
表3では、摺動性コーティングの樹脂マトリックス、金属製基材層の銅合金、摺動性コーティング中の架橋剤、架橋剤含有率、摺動性コーティング中の固体潤滑剤、摺動性コーティング中の硬質材料及び他の添加剤、並びに摺動性コーティング層の層厚を変化させた摺動要素の様々な例13~22を、架橋剤は含まないが他の点では同じ構成の摺動要素の比較例とそれぞれ対比している。全ての例が共通して有することは、基材材料が銅マトリックスに基づく点のみである。比較例は参照番号R13~R22を有し、それらの数値は、同じ番号の本発明による実施形態に対する関係を示唆している。また同様に、同じ方法でUW耐荷重性及びフレッティング指数を測定した。
【0081】
架橋剤添加によって、可変のパラメータとは関係なく、基本的に耐荷重性及び耐フレッティング性の向上が達成可能であることが示される。それどころか、個々のケースでは、対応する比較例と比べて、耐フレッティング性は3倍強、耐荷重性は35%向上する。
【0082】
表4では、表3に類似して、摺動性コーティングの樹脂マトリックス、金属製基材層のアルミニウム合金、摺動性コーティング中の架橋剤、架橋剤含有率、摺動性コーティング中の固体潤滑剤、摺動性コーティング中の硬質材料及び他の添加剤亜、並びに摺動性コーティング層の層厚を変化させた摺動要素の様々な例23~27を、架橋剤は含まないが他の点では同じ構成の摺動要素の比較例とそれぞれ対比している。全ての例に共通することは、基材材料がアルミニウムマトリックスをベースとし、この点はまた、これらの例を、表3の例と区別する。比較例は参照番号R23~R27を有し、この場合も、それらの数値は、同じ番号の本発明による実施形態に対する関係を示唆している。また同様に、同じ方法でUW耐荷重性及びフレッティング指数を測定した。
【0083】
架橋剤を添加することによって、銅ベースの基材原材料の場合ほどには明確には現れないが、可変のパラメータとは関係なく、耐荷重性及び/または耐フレッティング性の改善を達成可能であることが再び判明した。これは、一方では、アルミニウム原材料が基本的に銅原材料よりも低い基本強度を有するという事実によるものであり、これは、摺動性コーティング層によっては限られた程度までしか補償することができない。他方、アルミニウムをベースとする基材原材料のフレッティング指数は、比較構成において既に高いので、ほとんどの例の場合、最大試験期間を超えてしまい、その結果、これらの場合、特性の改善について述べることはできない。これは、摺動性コーティング層の特性測定に重なるAl層の緊急運転特性が著しく良好であるためであり得る。
【0084】
表5は、例28~30並びに架橋剤を使用していないが、他の点では同じ構成を持つ対応する対比例R28~R30を含み、これらではCuSn8Niからなる軸受け金属層上に電解めっきされた、Ni、Ni/SnNiまたはAgからなる金属製中間層が金属製基材層を形成し、その上に、摺動性コーティングの被膜が、好ましくは長い耐用期間を有する摺動層として形成されている。樹脂マトリックスとしてのPAI及び架橋剤としての摺動性コーティングのコハク酸の両方とも、全ての本発明の例において同じである。しかしながら、摺動要素は、中間層の組成及び厚さ、架橋剤含有量、摺動性コーティングに添加された機能性フィラーの種類及び量、並びに摺動性コーティング層の層厚さが異なる。また同様に、同じ方法でUW耐荷重性及びフレッティング指数を測定した。
【0085】
金属製中間層との組み合わせは、既に架橋なしで、非常に良好なUW荷重値を供するが、この場合も、架橋剤の添加によって、全てのケースにおいて、耐荷重性及び中でも耐フレッティング性の向上が確認できる。
【0086】
表6の実施例31~33は、金属性基材層が、電解めっきされた薄い摺動層またはカバー層として機能的に設計され、その上に、摺動性コーティングの被膜が、カウンタ軸の適応または状態調節のための追加的ななじみ層として形成されている摺動要素に関する。各実施例につき、比較のためにそれぞれ二つの参考例が与えられている。それぞれの第一の参考例R31、R32及びR33は、電気めっき層の上には、ポリマー性なじみ層を持たない。それぞれの第二の参考例R31A、R32A及びR33Aは、電気めっき層の上に、架橋剤を用いていないポリマー性なじみ層を有する。三つの異なる電気めっき層を使用するが、全て同じ厚鎖を有する。樹脂マトリックスとしてのPAI及び架橋剤としての摺動性コーティングのシュウ酸の両方とも、全ての本発明の例において同じである。しかしながら、摺動要素は、架橋剤含有量、摺動性コーティングに添加された機能性フィラーの種類及び量、並びに摺動性コーティング層の層厚が異なる。
【0087】
また同様に、同じ方法でUW耐荷重性及びフレッティング指数を測定した。全ての例において、先ず、1つの鋼製シャフトのみをフレッティング試験に使用し、他方、表6の例は、2つの異なるシャフト材料、すなわち1つは鋼製シャフトを、1つは鋳造シャフトを用いて試験した。
【0088】
最大UW荷重量は、全ての例において、従来の摺動性コーティングを使用すると既に、このようなコーティングを使用していない軸受けと比べて、上昇した。全ての実施例について、追加的な架橋剤の本発明による使用による耐荷重性の向上は、この場合もより有意でありかつ一貫している。
【0089】
フレッティング指数に関して、先ず確認されたことは、例31及び33とそれぞれの対比例R31及びR33との比較から示されるように、特に粗い鋳造シャフトでは、摺動性コーティング中の硬質粒子による状態調節は有意の向上を起こす。それ故、摺動性コーティングへの架橋剤の添加は劣化を起こさない。鋼製シャフト(32)の場合には、より高い固体潤滑剤含有量かつ硬質粒子なしでの適応の促進によってより簡単に改善を説明することができる。この場合、架橋剤を追加的に使用すると、高まった耐摩耗性が適応を遅くする場合には、フレッティング挙動の悪化も起こり得る。しかし、多くの場合、これは、組成の調節によって補償することができる。ここでは、特定の使用事例における要件に関して、特性像の考慮及び全体的な考察が必要とされる。
【0090】
表7は、本発明の滑り軸受け要素の更に3つの実施例34~36を示し、これらの例では、被膜は、少なくとも2つの摺動性コーティングの多層系であり、そのうち、上側の摺動性コーティング層は、良好な滑り特性及び適応特性を持つ摺動層として、及び下側の摺動性コーティング層は、高い耐摩耗性を有する摺動層として形成される。これらの例に共通することは、基材材料(CuNiSi)、両摺動性コーティング層の摺動性コーティングの樹脂マトリックス(PAI)、及び摺動性コーティング中の架橋剤(コハク酸)である。可変値は、下側の層及び上側の層両方の架橋剤含有率であり、この際、例34は、上側の層中に架橋剤を含まない。更なる可変値は、摺動性コーティング中の官能性フィラー及びそれの含有率、並びに両摺動性コーティング層の層厚である。
【0091】
いずれの場合も、非常に良好な耐荷重値及びフレッティング指数が、ここに記載された組成物の枠内で常に達成されることが判明した。
【0092】
表8は、本発明の滑り軸受け要素の更に2つの実施例37及び38を示し、これらの例では、被膜は、少なくとも2つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち、上側の摺動性コーティング層は、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層として、及び下側の摺動性コーティング層は、長い耐用期間を有する摺動層として形成されている。これらの例に共通することは、この場合も、基材材料(CuNiSi)、及び両摺動性コーティング層の摺動性コーティングの樹脂マトリックス(PAI)である。可変値は、摺動性コーティング中の架橋剤並びに下側層及び上側層両方中のそれの含有率、摺動性コーティング中の機能性フィラー及びそれの含有率、及び両摺動性コーティング層の層厚である。
【0093】
この場合も及び表7の例と比較して、摺動性コーティング層の少なくとも一つに、好ましくは長い耐用期間を有する摺動層または高い耐摩耗性を有する摺動層中に一般的に十分な量でのみ架橋剤が存在する場合に、非常に良好な耐荷重値及びフレッティング指数が、可変パラメータにそれほど依存しないことが示される。
【0094】
表9:付着改善のためのまたはフリクションブレーキとしての(下側の)層の例
表9は、本発明の滑り軸受け要素の2つの更なる実施形態39及び40を含み、これらの例では、被膜は、少なくとも2つの摺動性コーティングからなる多層系である。ここでは、変形例として、上側の層としてのより高い適応性を持つ耐久層を、比較的少ない潤滑物質含有率及び硬質粒子を用いたフリクションブレーキとして敷設された比較的薄い下側の層と組み合わせた。これらの中間層によって、上側の層が完全に摩耗された場合には、大概は、基材上に直接コーティングされた耐久層と比較して、向上されたフレッティング挙動を達成することができる。これは、例えば例40と例6とを比較すると把握できる。
【0095】
【表1】
【0096】
【表2】
【0097】
【表3】
【0098】
【表4】
【0099】
【表5】
【0100】
【表6】
【0101】
【表7】
【0102】
【表8】
【0103】
【表9】
本願は特許請求の範囲に記載の発明に係るものであるが、本願の開示は以下も包含する:
1. 樹脂マトリックスとしてのイミドポリマーをベースとする摺動性コーティングを製造するための方法であって、溶剤または溶剤混合物中の非イミド化または部分イミド化ポリアミド酸プレポリマーあるいはイミド化短鎖ブロック化プレポリマーに、二官能性または環化二官能性化合物、任意選択的に及び機能性フィラーを添加し、次いで、前記プレポリマーに依存して、重合またはイミド化と、両方の場合に架橋反応とを行う、前記方法。
2. 二官能性または環化二官能性化合物の使用量が、ポリアミド酸プレポリマーの潜在的なイミド基の数に基づいてまたは短鎖ブロック化プレポリマーの既存のイミド基の数に基づいて少なくとも1モル%であることを特徴とする、前記1.に記載の方法。
3. 二官能性または環化二官能性化合物の使用量が、ポリアミド酸プレポリマーの潜在的なイミド基の数に基づいてまたは短鎖ブロック化プレポリマーの既存のイミド基の数に基づいて最大で35モル%であることを特徴とする、前記1.または2.に記載の方法。
4. 二官能性または環化二官能性化合物の使用量が、アミド酸プレポリマーの潜在的なイミド基の数に基づいてまたは短鎖ブロック化プレポリマーの既存のイミド基の数に基づいて3~25モル%、好ましくは5~20モル%であることを特徴とする、前記1.~3.のいずれか一つに記載の方法。
5. 前記ポリアミド酸プレポリマーまたは短鎖ブロック化プレポリマーが、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエステルイミドの製造のためのプレポリマーの群から選択されることを特徴とする、前記1.~4.のいずれか一つに記載の方法。
6. 前記二官能性または環化二官能性化合物が、ジアミン、ジアミド、ジカルボン酸、アミノ酸、ラクタム、ラクトン、イミド、酸無水物、酸ハロゲン化物、ジアルコール及びヒドロキシカルボン酸からなる群の芳香族または脂肪族または芳香族-脂肪族化合物から選択されることを特徴とする、前記1.~5.のいずれか一つに記載の方法。
7. 前記二官能性または環化二官能性化合物が、8個の炭素原子未満、好ましくは5個の炭素原子未満の鎖長を有することを特徴とする、前記6.に記載の方法。
8. 前記溶剤または溶剤混合物が、強極性の非プロトン性溶剤、特にNMP、NEP、または更なる同族類、DMSO、GBL、DMF、DMAC、DMEU、DMPU、MI、MEKを含むことを特徴とする、前記1.~7.のいずれか一つに記載の方法。
9. 前記1.~8.のいずれか一つに記載の方法に従い製造される、樹脂マトリックスとしてのイミドポリマー、任意選択的に及び機能性フィラーを含む摺動性コーティングであって、前記イミドポリマーの分子が、架橋に寄与する二官能性または環化二官能性化合物の残基を追加的に含む、前記摺動性コーティング。
10. 前記機能性フィラーの割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして75体積%を超えないことを特徴とする、前記9.に記載の摺動性コーティング。
11. 前記機能性フィラーが、任意選択的に、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を向上する物質の一つまたは複数を含むことを特徴とする、前記9.または10.に記載の摺動性コーティング。
12. 前記固体潤滑剤が、層構造を有する一つまたは複数の金属硫化物、特にMoS 、WS 、SnS ;グラファイト、六方晶系BN、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ZnS、BaSO 及びこれらの混合物を含むことを特徴とする、前記11.に記載の摺動性コーティング。
13. 硬質材料が、窒化物、炭化物、ホウ化物、酸化物、特にSiC、Si 、B 、立方晶系BN、またはSiO の一つまたは複数を含むことを特徴する、前記11.または12.に記載の摺動性コーティング。
14. 前記熱伝導性を向上する物質が、Ag、Pb、Au、Sn、Al、BiまたはCuからなる群からの一つまたは複数の金属粉末を含むことを特徴とする、前記11.~13.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
15. 前記金属粉末の割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして30体積%以下であることを特徴とする、前記14.に記載の摺動性コーティング。
16. 前記硬質材料の割合が、硬化摺動性コーティングを基準にして10体積%以下であることを特徴とする、前記10.~15.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
17. 前記機能性フィラーが、鉄(III)酸化物またはNiSbTi混合相酸化物を、硬化摺動性コーティングを基準にして15体積%まで、好ましくは1~10体積%の割合で含むことを特徴とする、前記9.~16.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
18. 前記イミドポリマーが、ポリイミド(PI)、ポリアミドイミド(PAI)、ポリエーテルイミド(PEI)及びポリエステルイミドからなる群から選択されることを特徴とする、前記9.~17.のいずれか一つに記載の摺動性コーティング。
19. 金属製基材層と、その上に施与された、前記9.~18.のいずれか一つに記載の少なくとも一つの摺動性コーティングからなる被膜とを備えた摺動要素。
20. 前記被膜の厚さが1μmと50μmとの間であることを特徴とする、前記19.に記載の摺動要素。
21. 前記摺動要素が、130mmまでの直径を有するラジアル軸受けであり、ここで前記被膜の厚さが5μmと25μmとの間であることを特徴とする、前記20.に記載の摺動要素。
22. 前記金属製基材層が、単一の金属層からまたは複数の金属層の層複合体からなり、ここで、前記基材層の露出された層上に前記被膜が施与されていることを特徴とする、前記19.~21.のいずれか一つに記載の摺動要素。
23. 前記基材層の露出された層が、Cu合金、Al合金、Ni合金、Sn合金、Zn合金、Ag合金、Au合金、Bi合金またはFe合金から形成されることを特徴とする、前記22.に記載の摺動要素。
24. 前記金属製基材層が、鋼製支持層または金属製軸受け金属層、または鋼製支持層と金属製軸受け金属層、任意選択的に金属製中間層、任意選択的に及び摺動層を含むことを特徴とする、前記22.または23.に記載の摺動要素。
25. 摺動層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としてまたは適応のためのなじみ層として形成されていることを特徴とする、前記24.に記載の摺動要素。
26. 前記摺動層が、任意選択的にスパッタリング層としてまたは電解めっき摺動層として形成されていることを特徴とする、前記25.に記載の摺動要素。
27. 軸受け金属層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が長い耐用期間を有する摺動層として形成されていることを特徴とする、前記24.に記載の摺動要素。
28. 前記軸受け金属層が、CuSn軸受け金属合金、CuNiSi軸受け金属合金、CuZn軸受け金属合金、CuSnZn軸受け金属合金、AlSn軸受け金属合金、AlSi軸受け金属合金、AlSnSi軸受け金属合金またはAlZn軸受け金属合金をベースとする、前記24.~27.のいずれか一つに記載の摺動要素。
29. Sn、Ni、Ag、Cu、Feまたはそれらの合金からなる中間層が、前記基材層の露出された層を形成し、その上に、前記被膜が形成されていることを特徴とする、前記24.に記載の摺動要素。
30. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、前記9.~18.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、カウンタ軸の状態調節のためのなじみ層としての上側の摺動性コーティング層が、長い耐用期間を有する摺動層としての下側の摺動性コーティング層上に形成されていることを特徴とする、前記19.~29.のいずれか一つに記載の摺動要素。
31. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、前記9.~18.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、良好な滑り特性及びなじみ特性を有する摺動僧としての上側の摺動性コーティング層の下に、高い耐磨耗性を有する下側の摺動性コーティングが形成されていることを特徴とする、前記19.~30.のいずれか一つに記載の摺動要素。
32. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、前記9.~18.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記金属製基材層と、良好な滑り特性及びなじみ特性を有する摺動層としてまたは高い耐摩耗性を有する摺動層として形成された上側の摺動性コーティング層との間に、添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない追加的な摺動性コーティング層が配置されていることを特徴とする、前記19.~31.のいずれか一つに記載の摺動要素。
33. 添加剤を僅かに含むかまたは全く含まない前記コーティング層が、前記摺動層よりも薄く形成されていることを特徴とする、前記32.に記載の摺動要素。
34. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる多層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、前記9.~18.のいずれか一つに従い形成されており、ここで、前記少なくとも二つの摺動性コーティングは、少なくとも二官能性または環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を向上する物質からなる群から選択される物質に関して、異なる割合を有することを特徴とする、前記19.~33.のいずれか一つに記載の摺動要素。
35. 前記被膜が、少なくとも二つの摺動性コーティングからなる勾配型層系であり、そのうち少なくとも一つの摺動性コーティングは、前記9.~17.のいずれか一つに従い形成され、ここで、前記勾配型層系は、層厚の少なくとも一部を考慮した場合に、二官能性または環化二官能性化合物、固体潤滑剤、硬質材料、及び熱伝導性を向上する物質からなる群から選択される少なくとも一つの物質を、増加または減少する割合で含むことを特徴とする、前記19.~34.のいずれか一つに記載の摺動要素。
36. 滑り軸受けシェルまたはブッシュとして、特に内燃機関のための滑り軸受けシェルまたはブッシュとして形成される、前記19.~35.のいずれか一つに記載の摺動要素。
37. 内燃機関のためのピストン、ピストンリング、軸受けシェルまたはブッシュをコーティングするための、前記9.~18.のいずれか一つに記載の摺動性コーティングの使用。
38. 前記19.~36.のいずれか一つに記載の摺動要素の形成のための金属製基材層上に施与された被膜としての、前記9.~18.のいずれか一つに記載の摺動性コーティングの使用。
【符号の説明】
【0104】
11 金属製基材
12 被膜
13 鋼製支持層
14 軸受け金属層
15 中間層
16 摺動性コーティング層
21 金属製基材
22 被膜
23 鋼製支持層
24 軸受け金属層
26 摺動性コーティング層
31 金属製基材
32 被膜
33 鋼製支持層
34 軸受け金属層
35 中間層
36 摺動性コーティング層,なじみ層
37 金属製摺動-またはカバー層
41 金属製基材
42 被膜
43 鋼製支持層
44 軸受け金属層
46 摺動性コーティング層,なじみ層
48 摺動性コーティング層,耐久層
51 金属製基材
52 被膜
53 鋼製支持層
54 軸受け金属層
56 摺動性コーティング層,耐久層
58 摺動性コーティング層,プライマー
図1
図2
図3
図4
図5