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特許7368385イオンに基づく放射線治療計画作成のためのシステム、コンピュータプログラム製品、及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】イオンに基づく放射線治療計画作成のためのシステム、コンピュータプログラム製品、及び方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20231017BHJP
【FI】
A61N5/10 P
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020564946
(86)(22)【出願日】2019-05-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-09-16
(86)【国際出願番号】 EP2019062377
(87)【国際公開番号】W WO2019224054
(87)【国際公開日】2019-11-28
【審査請求日】2022-04-26
(31)【優先権主張番号】18173400.5
(32)【優先日】2018-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】522454806
【氏名又は名称】レイサーチ ラボラトリーズ エービー
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】トラネウス,エリック
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/129258(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンに基づく放射線療法の放射線治療計画の堅牢性を評価するためのコンピュータに基づく方法であって、プロセッサで行われる、選択されたビーム方向についての、
-治療体積内の少なくとも第1及び第2の部分のそれぞれに関する、イオンが前記部分に到達するときに通過した組織の累積経路長に関係する情報を取得するステップと、
-前記少なくとも第1及び第2の部分のそれぞれに関する累積経路長を表す量の値を計算するステップと、
-前記第1及び第2の部分に関する量の値に基づいて計画の堅牢性を判定するステップと、
を含む、方法。
【請求項2】
前記累積経路長が水等価経路長WEPLである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記累積経路長が幾何学的経路長である、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
治療体積の第1及び第2の部分のそれぞれに関する量の値を表す情報を治療体積の画像に表示するステップをさらに含む、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記治療体積の部分に到達するイオンの量の値に関係する情報が、前記治療体積の部分に到達する少なくとも2つのイオンが通過した累積経路長の平均を示す値を含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
各量の値に色が割り当てられ、前記累積経路長を表す情報を表示するステップが、治療体積の表現を表示することを含み、前記治療体積の少なくとも第1及び第2の部分のそれぞれが、前記治療体積の該部分に関して計算された経路長を表す色で表示される、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
各量の値に隆起レベルが割り当てられ、前記経路長を表す情報を表示するステップが、治療体積の三次元表現を表示することを含み、前記治療体積の少なくとも第1及び第2の部分のそれぞれが、前記治療体積の該部分に関して計算された経路長を表す隆起レベルで表示される、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記量の情報を用いるステップが、好ましくは計画に用いられる少なくとも1つのビーム方向についての経路長の変動に逆依存する、治療計画の堅牢性を判定することを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
コンピュータで実行されるときに、前記コンピュータに請求項1~8のいずれか一項に記載の方法を行わせることになるコンピュータ可読コード手段を備えるコンピュータプログラム。
【請求項10】
第1のコンピュータデバイスで実行されるときに前記デバイスに請求項1~のいずれか一項に記載の方法を行わせることになるコンピュータ実行可能命令でエンコードされた非一時的なコンピュータ可読媒体。
【請求項11】
プロセッサ(33)、データメモリ(34)、及びプログラムメモリ(35)を備えるコンピュータシステムであって、前記プログラムメモリが、請求項に記載のコンピュータプログラム、又は請求項10に記載の非一時的なコンピュータ可読媒体を含む、コンピュータシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンに基づく放射線治療計画作成における堅牢性の判定、及び、イオンに基づく放射線治療計画作成におけるビーム方向の選択に関する。
【背景技術】
【0002】
放射線治療計画が適正に送達され、患者に所望の様態で作用することを保証するために、放射線治療計画の品質を評価することが重要である。患者への放射線治療計画の送達は、いくつかの因子に影響され、重要な因子は、患者自身の解剖学的構造である。患者の体の構造的変化は、粒子の散乱につながり、それらの経路が変わり、したがって、結果として線量分布に影響する。イオンが通過する構造体の密度も経路長に影響する。
【0003】
イオンに基づく放射線療法では、各イオンがそのエネルギーのほとんどをその経路の終点に向けて放出し、ブラッグピークとして知られているものを生じることになる。治療計画作成で重要なことは、周囲体積への線量を最小にしながら治療体積のすべての部分が処方線量を受けるような様態で、すべてのビームのブラッグピークが確実に治療体積内にあるようにすることである。
【0004】
ブラッグピークの位置は、各イオンの運動エネルギーTpと、イオンが通過する組織の特性の影響を受ける。Tpの値は、放射線源から見て、最低のエネルギーを有するイオンが治療体積の最近位端の近くで止まり、最高のエネルギーを有するイオンが治療体積の最遠位端の近くで止まるように選択される。セットアップに変化がある場合、例えば、患者が動いて、イオンが異なるタイプの組織を通過することになる場合、これはブラッグピークの位置に影響し、その結果、送達される線量に誤差が生じる。
【0005】
放射線治療では、普通は、周囲組織への線量を低く保ちながら標的への線量を最大にするために、患者の周りのいくつかの異なる方向から放射線が照射される。線量計画作成の重要な部分は、適切なビーム方向を選択することである。
【0006】
幾何学的経路長と水等価経路長(WEPL)との両方が、線量計画作成において重要である。WEPLは、イオンが通過する組織の密度と、水と通過する媒体との阻止能比の変動を考慮に入れて、水中で測定された距離と等価な距離として定義される。これは、普通は、考慮される材料での距離×密度×水と媒体の阻止能比として計算される。水等価経路長を求めるためのいくつかの方法が知られている。いくつかの線量エンジン、例えばモンテカルロ線量エンジンは、線量計画作成の一部としてWEPLを計算する機能を有する。幾何学的経路長とWEPLは両方とも、セットアップ誤差の影響を受ける可能性がある。幾何学的経路長は、特に、ビームが進入する患者の体の部分が耳などの不規則な形状を有する場合に、影響を受ける可能性がある。WEPLは、不規則な形状と組織密度の変動との両方の影響を受ける。経路長は、最も簡単には、進入点から関連するボクセルまでの直線に沿って求められる。しかしながら、より現実的には、経路は直線とはならない。したがって、経路長を求める代替的な方法は、ボクセルを通過するすべてのシミュレートされた軌道の平均経路長値に基づく。これは、幾何学的経路長とWEPLとの両方に有効である。
【0007】
CTのキャリブレーション、組織の不均質性、臓器の動き、及び変形などの因子は制御することができないため、線量計画作成には常にある程度の不確実性が存在する。このような不確実性因子のため、計画は可能な限り堅牢であることが望まれ、これは、何らかの因子が変化した場合であっても同じ線量分布を提供するべきであることを意味する。放射線治療計画が適正に送達され、患者に所望の様態で作用することを保証するために、放射線治療計画の品質を評価することも重要である。放射線治療計画を評価するときに、その堅牢性は重要な因子である。堅牢性は、セットアップに小さな変化がある場合に計画がどの程度うまく機能するかを反映する。例えば、治療を受けている患者が想定された位置に対して動く場合、これは粒子が停止する場所に影響し、したがって治療にも影響する。動いた結果として通過する組織のタイプが変化する場合、経路長への影響は顕著となる可能性がある。したがって、組織の不均質性が高い領域を含む計画は、一般に、同じ又は類似の組織タイプの領域を含む計画よりも堅牢性が低くなる。上記の因子のいずれかが変化しても線量が変わらない場合、計画は堅牢であると言える。可能な限り堅牢な治療計画を提供し、且つ、計算された治療計画の堅牢性を評価することへの要望は常にある。
【発明の概要】
【0008】
治療計画の堅牢性を評価する方法を提供することが、本発明の目的である。
【0009】
本発明は、イオンに基づく放射線療法のためのコンピュータに基づく放射線治療計画作成における使用のための方法であって、プロセッサで行われる、選択されたビーム方向についての、治療体積内の少なくとも第1及び第2の部分のそれぞれに関する、
-イオンが前記部分に到達するときに通過した組織の累積経路長に関係する情報を取得するステップと、
-累積経路長を表す量の値を計算するステップと、
-第1及び第2の部分の量の値を治療計画作成のための入力値として用いるステップと、
を含む、方法に関する。
【0010】
本発明の方法は、既に計算されている放射線治療計画の堅牢性を判定するのに有用である。その場合、量の値を用いるステップは、計画に用いられるビーム方向についての経路長の変動に逆依存する、計画の堅牢性を判定することを含む。
【0011】
特定のビーム方向と関連付けられる累積経路長の変動は、この特定のビーム方向を用いる治療計画がどれほど堅牢であるかの指標である。ビームにわたって一様な累積経路長を有するビーム方向は、組織の均質性を示し、累積経路長がビームにわたって変化する場合のビーム方向よりもさらに堅牢である。これに従って、量の値を用いるステップは、治療計画作成の一部としてビーム方向を選択することを含み得る。したがって、この方法は、堅牢な治療計画の生成を可能にする、適切なビーム方向の選択を可能にする。これについては以下でより詳細に説明する。
【0012】
体積の各部分は、通常はボクセルであるが、別の適切な様態で、例えばボクセルのグループとして定義されてもよい。体積全体の計画の品質の指標をもたらすために、好ましくは、体積内の又は体積の関連する部分内のすべてのボクセルが、個々に又はグループで考慮される。
【0013】
考慮される累積経路長は、幾何学的経路長であり得る。これにより、患者の幾何学的形状、特にビームが患者に進入する領域の不規則な形状を考えることができる。好ましい実施形態において、累積経路長は、水等価経路長WEPLである。この場合、患者の幾何学的形状と、各粒子が通過する組織の密度が考慮される。
【0014】
治療体積の或る部分に到達するイオンの量の値に関係する情報は、好ましくは、治療体積の或る部分に到達する少なくとも2つのイオンが通過した経路長の平均を示す値を含む。代替的に、量の値に関係する情報は、1つの粒子のみに関係していてもよい。進入点と関連するボクセルとの間の最短経路についても計算され得る。
【0015】
累積経路長は、好ましくは、ビームごとにカバーされる体積全体にわたって、体積内のすべてのボクセルについて又はボクセルの代表的な選択について、例えば、1つおきのボクセル又はすべてのn番目のボクセルについて計算及び報告され、nは適切な整数である。
【0016】
この方法は、好ましくは、堅牢性の視覚的表示を提供するべく、治療体積の第1及び第2の部分のそれぞれに関する量の値を表す情報を治療体積の画像に表示するステップをさらに含む。
【0017】
情報を表示する1つの好ましい方法は、経路長値に色が割り当てられるカラースキームを用いる。この場合、各量の値に色が割り当てられ、累積経路長を表す情報を表示するステップは、治療体積の表現を表示することを含み、治療体積の少なくとも第1及び第2の部分のそれぞれは、治療体積の該部分に関して計算された経路長を表す色で表示される。
【0018】
情報を表示する別の実行可能な方法は、経路長を表す情報を表示する各量の値に隆起レベルを割り当てることであり、治療体積の三次元表現を表示することを含み、治療体積の少なくとも第1及び第2の部分のそれぞれは、治療体積の該部分に関して計算された経路長を表す隆起レベルで表示される。
【0019】
代替的に、分布は、同じ経路長値を有するボクセルを通るライン又は平面の組の形態で表示されてよい。ライン又は平面が滑らかでビーム方向に垂直な場合、これは計画が堅牢であることを意味する。ラインが不規則な場合、これは、小さな変化が、例えば、患者の動きが線量に大きな影響を与える可能性があることを示す。
【0020】
計算を容易にするために、好ましくは、計算の一部として各ボクセルの関連する経路長情報を取得する線量計算エンジンが用いられ、これにより、事実上追加の計算労力なしに本発明に係る計算を行うことができる。WEPLと幾何学的経路長に関するこのような情報を提供する線量計算エンジンは、モンテカルロエンジンである。この場合の量の値は、上流の解剖学的構造を通るモンテカルロ伝搬から求められるため、それぞれのボクセルに到達する粒子が通過した領域のみが考慮される。各標的ボクセルの考慮される領域は、イオンが通過する場所に関して最適に重要性の重みが付けられる様態でサンプリングされる。
【0021】
量の値を治療計画作成への入力として用いるとき、情報を取得するステップ及び量の値を計算するステップは、2つ以上のビーム方向について行われ、これにより、治療計画に用いるビーム方向を選択するための入力データが提供される。この方法を治療計画作成に適用するとき、少なくとも2つの可能なビーム方向のそれぞれについての情報を取得するステップ及び量の値を計算するステップと、それらの判定される堅牢性に依存する、可能なビーム方向の中から治療に用いる少なくとも1つのビーム方向を選択するステップを行うことによって、少なくとも2つの可能なビーム方向のそれぞれについての堅牢性が判定される。より適切なビーム方向は、小さなセットアップ誤差が線量に影響しないことをWEPL分布が示す方向である。このようにして、本発明に係る方法はまた、放射線治療計画作成のための入力データを提供し、これは結果として得られる計画をより堅牢にする一助となる。
【0022】
少なくとも1つのビーム方向の選択は、オペレータによって手動で行われてもよい。その場合、いくつかのビーム方向が考慮され、ビーム方向のそれぞれについての経路長の変動を示すデータが表示される。次いで、オペレータは、経路長の変動が容認できるビーム方向を選択する及び/又は大きすぎる経路長の変動を有するビーム方向を回避することができる。
【0023】
代替的に、選択は、コンピュータで実施される最適化の一部として行われる。この場合、最適化問題は、経路長の変動に関して最良の値を有するビーム方向の選択につながる、経路長の変動に対するペナルティを含むべきである。
【0024】
本発明はまた、コンピュータで実行されるときに、コンピュータに前述の方法を行わせることになるコンピュータ可読コード手段を備える、コンピュータプログラム製品に関する。本発明はまた、第1のコンピュータデバイスで実行するときにデバイスに方法を行わせることになるコンピュータ実行可能命令でエンコードされた非一時的なコンピュータ可読媒体に関する。本発明はまた、プロセッサ、データメモリ、及びプログラムメモリを備えるコンピュータシステムであって、プログラムメモリが、前述のコンピュータプログラム製品又は非一時的なコンピュータ可読媒体を含む、コンピュータシステムに関する。
【0025】
本発明は、例として添付図を参照して以下でより詳細に説明されることになる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】それぞれ第1及び第2のビーム方向から患者を通るビームの経路を例示する。
図2a】患者を通る水等価経路長を例示する。
図2b】患者にわたる水等価経路長の変動を例示する。
図3a】本発明の実施形態を構成する方法の流れ図である。
図3b】本発明の実施形態を構成する方法の流れ図である。
図4a】iso-WEPL曲線の形態の経路長の変動を例示する。
図4b】iso-WEPL曲線の形態の経路長の変動を例示する。
図5】本方法を実施することができるコンピュータシステムの略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
図1は、経路長の累積を概略的に例示する。患者を通る簡略化された断面1と、荷電粒子の2つのビーム、すなわち、図の左側から患者に水平に進入する第1のビーム2と、図の右下隅から患者に進入する第2のビーム3が示されている。粒子は、患者を通過する際に、図1には示されていない様々なタイプの組織を通過する。幾何学的経路長は、粒子が通過する幾何学的距離にのみ依存する。破線4は、ビーム方向の、すなわち、患者の外側輪郭に従う、患者内の一様な幾何学的深さを例示する。水等価経路長WEPLは、粒子が通過する幾何学的距離と、通過する組織のタイプ、特に組織の密度の影響を受ける。
【0028】
第1のビーム2で例示されるように、患者を通る粒子の経路は、部分δsに分割される。明確にするために、部分は、不釣り合いに大きく、そのうちのほんのいくつかにラベルが付けられている。δsの通常の値は2mmである。通常、各部分は、1つのボクセルを通る経路に対応し、このため、線量エンジンで既に計算された値を用いることができるが、可能であれば他の分割が用いられてもよい。特定のボクセルに到達する1つの粒子の経路長は、その上流のすべてのボクセル、すなわち、その粒子が特定のボクセルに到達するまでに通過したボクセルを通る経路長値δsの和である。上で述べたように、1つの粒子の経路は、通常は直線ではない。
【0029】
幾何学的経路長は、患者への粒子の進入点から関連するボクセルまでの距離である。これは、普通は非常に一様に分布するが、例えばビームが耳を横切る場合などの患者の輪郭が不規則な領域では、より複雑な形態をとり得る。
【0030】
WEPLは、フォワードMC線量計算中に累積されたボクセルごとのデータに基づいて計算され得る。モンテカルロ線量エンジンで本発明に係る方法を実施するとき、モンテカルロ線量計算中に、WEPLは、プロトンが通過するすべてのボクセルのビームごとに累積される。線量計算の終了後に、ボクセルごとの平均WEPLの3D分布が計算される。
【0031】
図2aは、図1の第1のビーム1に関するWEPL深さプロファイルの概略図である。図でわかるように、WEPLは、患者内の深さが増加するにつれて本質的に直線的に増加し、この単純化された例では、ほぼ均質な組織を示している。組織がより不均質な場合、曲線はあまり直線的ではなくなる。
【0032】
図2bは、1つの特定のビーム方向で見たときの、患者を通るクロスプロファイル(すなわちビーム方向に垂直)に沿ったWEPLの変動の概略図である。WEPLクロスプロファイルは、患者内の特定の深さでのボクセルに沿ったWEPL値を示す。図1の第1のビーム2を考えると、WEPLクロスプロファイルは、ビーム方向に対して垂直方向に、患者を垂直に通る。曲線の不規則性は、患者にわたる組織の密度の変動が増加するにつれて増加し、放射線治療計画に用いるためのビーム方向の適合性の指標となる。不規則な曲線は、そのビーム方向では計画の堅牢性が低下するというサインである。滑らかな曲線は、患者の動きが送達線量に大きな影響を与えないという点で、そのビーム方向が堅牢な計画をもたらす可能性があるというサインである。
【0033】
図3aは、本発明に係る計画の堅牢性を判定するための方法の概略的な流れ図である。第1のステップS31で、計画に用いられるビーム方向が選択される。前述のように、ビームが患者に進入する点から考慮されるボクセルまでの幾何学的距離と、通過する組織のタイプとの両方は、ビーム方向が異なっていれば異なるため、各ボクセルの経路長はビーム方向に依存する。
【0034】
ステップS32で、考慮されるボクセルが選択され、ステップS33で、このボクセルに到達する粒子が通過した平均経路長を表す経路長値が計算される。粒子は、当該ボクセルで停止する場合があり、又は患者の体を通って移動し続ける場合がある。重要なのは、ボクセルの上流の累積経路長である。経路長は、幾何学的経路長であり得る、又はWEPLであり得る。幾何学的経路長の変動は、患者の幾何学的形状が治療にどの程度影響するか、特に、患者の表面が進入点の周りでどの程度不規則であるかを示す。WEPLの変動は、患者の幾何学的形状と組織のタイプの変動との両方の影響を示す。
【0035】
幾何学的経路長とWEPL値は、多くの場合、線量エンジンから直接取得することができる。例えば、モンテカルロ線量エンジンは、すべてのボクセルの幾何学的経路長とWEPL値を既に計算している。
【0036】
ステップS34は、さらなるボクセルの経路長を求めるべきかどうかを判定するための決定ステップである。Yesの場合、手順はステップS32に戻り、Noの場合、手順はステップS35に進む。ステップS32~S34は例示する目的で示されていることを理解されたい。典型的なケースでは、ビームの影響を受ける患者体積内のいくつかのボクセルが選択され、すべてのボクセルの経路長は並列に提供される。ボクセルは、関連する患者体積内のすべてのボクセルであってよく、又はボクセルの1つの選択であってよい。例えば、患者のサブ体積が選択されてよい。サブ体積を選択する代わりに又は加えて、1つのボクセルのみの値、又は好ましくはサブ体積にわたって均等に分布するいくつかのボクセル、例えば第2又は第3のボクセルごとの値を取得することが決定されてよい。
【0037】
表示されるべきすべての経路長値が取得されたときに、ステップS35で、それらは通常は患者の画像上に重ね合わせて表示される。値は、2D画像ではラインとして、又は3Dでは色分けされた平面として表示され得る。表示は、そのビーム方向を用いる計画の堅牢性を示す。もちろん、この方法は、計画に用いられる1つよりも多いビーム方向について行われてよく、結果のデータが表示される。
【0038】
この方法は、図3bに示すように、治療に用いる適切なビーム方向を選択するべく、治療計画作成のために用いられてもよい。その場合、ステップS31’は、計画での使用が考慮されるビーム方向を選択することを含む。ステップS32’、S33’及びS34’は、図3aのステップS32~34と同様である。この実施形態では、この方法は、異なるビーム方向について何度も行われる。これは、別のビーム方向を考慮するためにステップS31’に戻ることができる、ステップS35’によって示される。同じ経路長を示すラインの滑らかなiso-WEPL曲線、又は同じ経路長を有するボクセルの滑らかな平行フィールドを表示するビーム方向は、曲線が平らでないビーム方向よりもさらに堅牢となる。さらなるビーム方向が考慮されないとき、方法は、ステップS36’に進み、そこで結果が用いられる。いくつかのビーム方向について行われた方法の結果に基づいて、堅牢な計画を可能にするビーム方向が選択され得る。
【0039】
選択は、1つ以上のビーム方向を選択するオペレータによって手動で行われてもよい。この場合、ステップS36’は、オペレータが選択を行うことを可能にするためにS35と同様の方法でデータを表示することを含む。代替的に、結果は、ステップS36’で、経路長の変動にペナルティを課すように構成された自動計画作成アルゴリズムで用いられてもよい。これをどのようにして達成するかは当業者にはよく知られており、通常は、経路長の変動を制限するように設計された目的関数、又は最大許容経路長の変動に対する制約を含む。
【0040】
WEPL深さプロファイル又はiso-WEPL平面の形状は、ステップS31で選択されたビーム方向を用いる計画の堅牢性の指標である。Iso-WEPLラインは、或る間隔内で同じ1つ又は複数のWEPL値を有するボクセルを通るラインである。
【0041】
図4a及び図4bは、2つの異なる状況でのiso-WEPLバンドを例示する。図4aは、イオンが平坦な外面を有する完全に均質な媒体を通過する理想的な状況での、治療体積1内のWEPLの分布を示す。入ってくるイオンの方向は、水平矢印で示すように、媒体の表面に垂直である。6つの異なるiso-WEPL曲線B1~B6は、異なるパターン、すなわち、水平ライン、垂直ライン、及び4つの異なる斜めラインのパターンで識別される。各iso-WEPL曲線は、簡単にするために直線として示されているが、イオンの入射面に実質的に平行な治療体積の全体にわたるWEPL値のバンドを形成する。これは、ビーム方向の同じ幾何学的経路長にあるすべてのボクセルはまた、本質的に同じWEPLと関連付けられることを例証する。
【0042】
図4bは、若干より現実的な患者体積内の経路長の分布を示す。イオンの経路2内に空気腔などの低密度領域3が存在する。これにより、低密度領域を通過するイオンは、他のタイプの組織を通って同じ幾何学的距離を移動するイオンよりも、該領域でより短いWEPLの寄与を経験する。したがって、空気腔3内の及びその周りの経路長は、iso-WEPL曲線B1’~B6’で例示されるように、解剖学的画像内でより不規則な形状をとることになる。図でわかるように、低密度体積3を通って伝搬するイオンによって生じるリップルが存在する。
【0043】
図4a及び図4bのような画像は、その体積を通って伝搬するイオンが経験するWEPLの規則性の指標をもたらす。WEPLバンドの大量のリップル又は不規則な形状は、患者の小さな動き又はセットアップの他の変化が、患者に実際に送達される線量分布の大きな変動を引き起こすという点で、計画の堅牢性がより低いことを示す。幾何学的経路長は、図4a及び図4bに示されているのと同じ様態で表示され得る。
【0044】
図5は、本発明の方法が行われ得るコンピュータシステムの略図である。コンピュータ31は、プロセッサ33、データメモリ34、及びプログラムメモリ35を備える。好ましくは、キーボード、マウス、ジョイスティック、音声認識手段、又は任意の他の利用可能なユーザ入力手段の形態の、ユーザ入力手段37、38も存在する。ユーザ入力手段はまた、外部メモリユニットからデータを受信するように構成され得る。
【0045】
評価されるべき治療計画は、データメモリ34内で見つけられる。治療計画は、コンピュータ31で生成されてよく、又は当該技術分野では公知の任意の様態で別のストレージ手段から受信されてよい。
【0046】
データメモリ34は、各ボクセルの蓄積されたイオンの経路長の情報も保持する。理解されるように、データメモリ34は、概略的にのみ示されている。例えば、治療計画用の1つのデータメモリ、CTスキャン用の1つのデータメモリなどの、それぞれ1つ以上の異なるタイプのデータを保持するいくつかのデータメモリユニットが存在してよい。
【0047】
プログラムメモリ35は、本発明に係る計画の評価を行うべくプロセッサを制御するように構成されたコンピュータプログラムを保持する。
図1
図2a
図2b
図3a
図3b
図4a
図4b
図5