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特許7368403弾性表面波センサの滴下検出装置及び滴下検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】弾性表面波センサの滴下検出装置及び滴下検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/02 20060101AFI20231017BHJP
   G01N 29/48 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
G01N29/02 501
G01N29/48
G01N33/483 B
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021009886
(22)【出願日】2021-01-25
(65)【公開番号】P2022113566
(43)【公開日】2022-08-04
【審査請求日】2022-11-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100160495
【弁理士】
【氏名又は名称】畑 雅明
(74)【代理人】
【識別番号】100173716
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】吉村 直之
【審査官】村田 顕一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-004866(JP,A)
【文献】特開2013-130526(JP,A)
【文献】特開2014-135987(JP,A)
【文献】特開2017-009492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0170631(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00-29/52
G01N 33/483
G01N 5/02
C12M 1/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素免疫測定法の抗体が固定化された検出領域と、弾性表面波を送信及び受信又は送信及び反射する櫛形電極と、を備えるチャネルの出力信号を、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間内に、1回以下だけサンプリングするサンプリング部と、
今回のサンプリング時における、2回以上前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、振幅差分値として計算する振幅差分値計算部と、
今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、1階微分値として計算する1階微分値計算部と、
今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記1階微分値の差分値を、2階微分値として計算する2階微分値計算部と、
今回のサンプリング時における前記2階微分値と、1回前のサンプリング時における前記2階微分値と、の乗算値を、2階微分積として計算する2階微分積計算部と、
連続2回のサンプリング時で前記振幅差分値の絶対値が所定閾値以上になってから、前記2階微分積が初めて0以下になるサンプリング時を、前記検出領域への検体滴下の終了時及び前記検出領域での抗体抗原反応の開始時として検出する滴下終了検出部と、
を備えることを特徴とする弾性表面波センサの滴下検出装置。
【請求項2】
前記サンプリング部は、前記チャネルの出力信号に対するサンプリング間隔として、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間とほぼ等しく設定する
ことを特徴とする、請求項1に記載の弾性表面波センサの滴下検出装置。
【請求項3】
前記滴下終了検出部は、前記振幅差分値の絶対値に対する前記所定閾値として、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの前記チャネルの出力信号の振幅の全変化量の絶対値(単位はdB。)と比べて半分以下(単位はdB。)に設定する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載の弾性表面波センサの滴下検出装置。
【請求項4】
前記滴下終了検出部は、前記検出領域での抗体抗原反応以外の影響が収まるための時間に応じて、前記検出領域への検体滴下の終了時を遅い時刻にオフセットする
ことを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の弾性表面波センサの滴下検出装置。
【請求項5】
前記滴下終了検出部は、前記チャネルの出力信号の振幅の大きな変化から小さな変化への遷移のタイミング、かつ、前記チャネルの出力信号の振幅の定常値への落ち着きのタイミングに応じて、前記検出領域への検体滴下の終了時を早い時刻にオフセットする
ことを特徴とする、請求項1、2又は3に記載の弾性表面波センサの滴下検出装置。
【請求項6】
酵素免疫測定法の抗体が固定化された検出領域と、弾性表面波を送信及び受信又は送信及び反射する櫛形電極と、を備えるチャネルの出力信号を、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間内に、1回以下だけサンプリングするサンプリングステップと、
今回のサンプリング時における、2回以上前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、振幅差分値として計算する振幅差分値計算ステップと、
今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、1階微分値として計算する1階微分値計算ステップと、
今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記1階微分値の差分値を、2階微分値として計算する2階微分値計算ステップと、
今回のサンプリング時における前記2階微分値と、1回前のサンプリング時における前記2階微分値と、の乗算値を、2階微分積として計算する2階微分積計算ステップと、
連続2回のサンプリング時で前記振幅差分値の絶対値が所定閾値以上になってから、前記2階微分積が初めて0以下になるサンプリング時を、前記検出領域への検体滴下の終了時及び前記検出領域での抗体抗原反応の開始時として検出する滴下終了検出ステップと、
をコンピュータに実行させるための弾性表面波センサの滴下検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、血液等の検体中の抗原濃度を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
血液等の検体中の抗原濃度を検出するために、弾性表面波センサを利用している(例えば、特許文献1等を参照。)。つまり、検体の滴下の前後における、弾性表面波の伝搬位相の変化に基づいて、検体中の抗原濃度を検出する。弾性表面波センサは、櫛形電極及び検出領域を備える。櫛形電極は、圧電基板上に形成され、弾性表面波を送信、受信又は反射する。検出領域は、圧電基板上に形成され、検体を滴下される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-009492号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術の抗原濃度の検出方法を図1に示す。まず、抗原を包含する検体を、酵素免疫測定法の抗体が固定化された検出領域に滴下する。次に、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)の時間変化に基づいて、検体中の抗原濃度を検出する。なお、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)のサンプリング周波数は、任意であり例えば数Hzである。また、期間t~t、期間t~t、期間t~t及び期間t~tは、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)のサンプリング間隔と異なってもよく等しくてもよい。
【0005】
ここで、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)は、検体の滴下の前後における、弾性表面波の伝搬位相の変化である。そして、抗原濃度検出に先立って、検体中の既知の様々な抗原濃度に対して、滴下時刻tから短時間後の期間t~tと、滴下時刻tから長時間後の期間t~tと、での抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)の時間変化の傾きを測定したうえで、位相傾き/抗原濃度換算曲線を記憶している。
【0006】
検体中の抗原濃度が高濃度であるときには、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)の時間変化の傾きは、滴下時刻t以降は負であり、滴下時刻tから短時間後の期間t~tでは急勾配であり、滴下時刻tから長時間後の期間t~tでは飽和状態でほぼ0である。そこで、検体中の抗原濃度の検出精度を向上させるために、滴下時刻tから短時間後の期間t~tでの、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)の時間変化の傾きと、位相傾き/抗原濃度換算曲線と、に基づいて、検体中の抗原濃度を検出する。
【0007】
検体中の抗原濃度が低濃度であるときには、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)の時間変化の傾きは、滴下時刻t以降は負であり、滴下時刻tから短時間後の期間t~tでは緩勾配であり、滴下時刻tから長時間後の期間t~tでも依然として緩勾配である。そこで、検体中の抗原濃度の検出精度を向上させるために、滴下時刻tから長時間後の期間t~tでの、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)の時間変化の傾きと、位相傾き/抗原濃度換算曲線と、に基づいて、検体中の抗原濃度を検出する。
【0008】
ここで、抗体固定チャネルの出力信号の位相P(t)の時間変化の傾きは、滴下時刻tから長時間後の期間t~tでは、滴下時刻tの検出精度にあまり影響されないが、滴下時刻tから短時間後の期間t~tでは、滴下時刻tの検出精度に大きく影響される。つまり、検体中の抗原濃度の検出精度は、低濃度では滴下時刻tの検出精度にあまり影響されないが、高濃度では滴下時刻tの検出精度に大きく影響される。
【0009】
そこで、前記課題を解決するために、本開示は、血液等の検体中の抗原濃度を検出するために、弾性表面波センサ及び酵素免疫測定法を利用するにあたり、検体の滴下時刻の検出精度を向上させることにより、検体中の抗原濃度の検出精度を抗原濃度によらず向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
実験によれば、検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間は、検出領域での抗体抗原反応の開始から終了までの時間と比べて、十分に短い時間である。そこで、検体中の抗原濃度の検出精度を犠牲にしないで、抗原濃度の検出アルゴリズムを簡素化するために、抗体固定チャネルの出力信号のサンプリング周波数を低減することとした。
【0011】
すると、検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間内に、抗体固定チャネルの出力信号の振幅は、変曲点を経て単調減少しながら、1回以下だけサンプリングされる。そして、抗体固定チャネルの出力信号の振幅の2階微分値を計算したうえで、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値が十分に0以下になった時を、検出領域への検体滴下の終了時として検出することができる(例えば、図6~9を参照。)。
【0012】
ここで、抗体固定チャネルの出力信号の振幅が、単調減少中の「中間点以外」においてサンプリングされるときには、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値が、十分に0以下になった時を検出することができる(例えば、図6、7、9を参照。)。しかし、抗体固定チャネルの出力信号の振幅が、単調減少中の「中間点近傍」においてサンプリングされるときには、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値が、十分に0以下になった時を検出することができない(例えば、図8を参照。)。
【0013】
ただし、抗体固定チャネルの出力信号の振幅が、単調減少中の「いずれの点」においてサンプリングされるときにも、2回以上離れたサンプリング時における出力信号の振幅の減少量が、連続2回のサンプリング時において十分に大きい機会がある(例えば、図6~9を参照。)。そこで、2回以上離れたサンプリング時における出力信号の振幅の減少量が、連続2回のサンプリング時において十分に大きくなってから、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値が、初めて0以下(ちょうど0でもよい。)になった時を、検出領域への検体滴下の終了時として検出することができる(例えば、図6~9を参照。)。
【0014】
具体的には、本開示は、酵素免疫測定法の抗体が固定化された検出領域と、弾性表面波を送信及び受信又は送信及び反射する櫛形電極と、を備えるチャネルの出力信号を、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間内に、1回以下だけサンプリングするサンプリング部と、今回のサンプリング時における、2回以上前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、振幅差分値として計算する振幅差分値計算部と、今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、1階微分値として計算する1階微分値計算部と、今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記1階微分値の差分値を、2階微分値として計算する2階微分値計算部と、今回のサンプリング時における前記2階微分値と、1回前のサンプリング時における前記2階微分値と、の乗算値を、2階微分積として計算する2階微分積計算部と、連続2回のサンプリング時で前記振幅差分値の絶対値が所定閾値以上になってから、前記2階微分積が初めて0以下になるサンプリング時を、前記検出領域への検体滴下の終了時及び前記検出領域での抗体抗原反応の開始時として検出する滴下終了検出部と、を備えることを特徴とする弾性表面波センサの滴下検出装置である。
【0015】
また、本開示は、酵素免疫測定法の抗体が固定化された検出領域と、弾性表面波を送信及び受信又は送信及び反射する櫛形電極と、を備えるチャネルの出力信号を、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間内に、1回以下だけサンプリングするサンプリングステップと、今回のサンプリング時における、2回以上前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、振幅差分値として計算する振幅差分値計算ステップと、今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記チャネルの出力信号の振幅の差分値を、1階微分値として計算する1階微分値計算ステップと、今回のサンプリング時における、1回前のサンプリング時と比べた、前記1階微分値の差分値を、2階微分値として計算する2階微分値計算ステップと、今回のサンプリング時における前記2階微分値と、1回前のサンプリング時における前記2階微分値と、の乗算値を、2階微分積として計算する2階微分積計算ステップと、連続2回のサンプリング時で前記振幅差分値の絶対値が所定閾値以上になってから、前記2階微分積が初めて0以下になるサンプリング時を、前記検出領域への検体滴下の終了時及び前記検出領域での抗体抗原反応の開始時として検出する滴下終了検出ステップと、をコンピュータに実行させるための弾性表面波センサの滴下検出プログラムである。
【0016】
これらの構成によれば、抗体固定チャネルの出力信号の振幅が、単調減少中の「中間点近傍」においてサンプリングされるとともに、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値が、0の周りのジッタを含むときにも、検出領域への検体滴下の終了時を検出することができる(例えば、図8を参照。)。そして、抗体固定チャネルの出力信号の振幅が、単調減少中の「中間点以外」においてサンプリングされるときには、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値が、ある程度のジッタを含むとしても、検出領域への検体滴下の終了時を検出することができる(例えば、図6、7、9を参照。)。
【0017】
よって、検体の滴下時刻の検出精度を向上させることにより、検体中の抗原濃度の検出精度を抗原濃度によらず向上させることができる。そして、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値について、ジッタの大きさを考慮したうえで、0以外の閾値を設定する必要がない。さらに、隣接するサンプリング時における2階微分値の乗算値について、時間変化の最小値を探索する必要もなく、アルゴリズムを簡素化することができる。
【0018】
また、本開示は、前記サンプリング部は、前記チャネルの出力信号に対するサンプリング間隔として、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間とほぼ等しく設定することを特徴とする弾性表面波センサの滴下検出装置である。
【0019】
この構成によれば、検出領域への検体滴下の開始から終了までの時間内に、抗体固定チャネルの出力信号の振幅が、1回以下だけサンプリングされることを確実にすることができる。よって、検出領域への検体滴下の終了時を検出することができる。
【0020】
また、本開示は、前記滴下終了検出部は、前記振幅差分値の絶対値に対する前記所定閾値として、前記検出領域への検体滴下の開始から終了までの前記チャネルの出力信号の振幅の全変化量の絶対値(単位はdB。)と比べて半分以下(単位はdB。)に設定することを特徴とする弾性表面波センサの滴下検出装置である。
【0021】
この構成によれば、2回以上離れたサンプリング時における出力信号の振幅の減少量が、連続2回のサンプリング時において十分に大きい機会があることを検出することができる。よって、検出領域への検体滴下の終了時を検出することができる。
【0022】
また、本開示は、前記滴下終了検出部は、前記検出領域での抗体抗原反応以外の影響が収まるための時間に応じて、前記検出領域への検体滴下の終了時を遅い時刻にオフセットすることを特徴とする弾性表面波センサの滴下検出装置である。
【0023】
この構成によれば、出力信号の振幅の減少量及び2階微分値の乗算値のみならず、検出領域での抗体抗原反応以外の影響が収まるための時間に応じて、検出領域への検体滴下の終了時を若干遅めのかつ正確な時刻にオフセットすることができる。
【0024】
また、本開示は、前記滴下終了検出部は、前記チャネルの出力信号の振幅の大きな変化から小さな変化への遷移に応じて、前記検出領域への検体滴下の終了時を早い時刻にオフセットすることを特徴とする弾性表面波センサの滴下検出装置である。
【0025】
この構成によれば、出力信号の振幅の減少量及び2階微分値の乗算値のみならず、チャネルの出力信号の振幅の大きな変化から小さな変化への遷移に応じて、検出領域への検体滴下の終了時を若干早めのかつ正確な時刻にオフセットすることができる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本開示は、血液等の検体中の抗原濃度を検出するために、弾性表面波センサ及び酵素免疫測定法を利用するにあたり、検体の滴下時刻の検出精度を向上させることにより、検体中の抗原濃度の検出精度を抗原濃度によらず向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】従来技術及び本開示の抗原濃度の検出方法を示す図である。
図2】本開示の弾性表面波センサの構成を示す図である。
図3】本開示の滴下検出及び濃度検出の方法を示す図である。
図4】本開示の出力信号処理の手順を示す図である。
図5】本開示の滴下終了検出の手順を示す図である。
図6】本開示の出力信号処理及び滴下終了検出の具体例を示す図である。
図7】本開示の出力信号処理及び滴下終了検出の具体例を示す図である。
図8】本開示の出力信号処理及び滴下終了検出の具体例を示す図である。
図9】本開示の出力信号処理及び滴下終了検出の具体例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
添付の図面を参照して本開示の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本開示の実施の例であり、本開示は以下の実施形態に制限されるものではない。
【0029】
(本開示の弾性表面波センサの概要)
本開示の弾性表面波センサの構成を図2に示す。弾性表面波センサSは、抗体固定チャネル1、リファレンスチャネル2及び滴下検出装置3から構成される。抗体固定チャネル1は、検出領域11及び櫛形電極12、12から構成される。リファレンスチャネル2は、検出領域21及び櫛形電極22、22から構成される。滴下検出装置3は、サンプリング部31、振幅差分値計算部32、1階微分値計算部33、2階微分値計算部34、2階微分積計算部35、滴下終了検出部36及び抗原濃度検出部37から構成され、図4、5に示した滴下検出プログラムをコンピュータにインストールすることにより実現される。
【0030】
検出領域11は、酵素免疫測定法の抗体が固定化される。櫛形電極12、12は、弾性表面波を送信及び受信又は送信及び反射する。検出領域21は、リファレンス用に、検体中の抗原と反応しないブロッキング膜が固定化される。櫛形電極22、22は、リファレンス用に、弾性表面波を送信及び受信又は送信及び反射する。サンプリング部31、振幅差分値計算部32、1階微分値計算部33、2階微分値計算部34、2階微分積計算部35、滴下終了検出部36及び抗原濃度検出部37は、図3~9を用いて説明する。
【0031】
本開示の滴下検出及び濃度検出の方法を図3に示す。まず、抗原を包含する検体を、検出領域11、21に滴下する。ここで、不十分な滴下濡れ及び気泡の混入を防止することが望ましい。そして、滴下濡れが不十分である時ではなく、滴下濡れが十分になった時を、検出領域11、21への検体滴下の終了時として検出することが望ましい。
【0032】
最初に、サンプリング部31は、抗体固定チャネル1及びリファレンスチャネル2の出力信号を取得する。ここで、抗体固定チャネル1の出力信号は、検体の滴下の前後における、弾性表面波の伝搬振幅又は伝搬位相の変化である。そして、リファレンスチャネル2の出力信号をリファレンスとすることで、検体の粘弾性の影響を除去したうえで、検出領域11上の抗体と結合した検体中の抗原の影響のみを抽出する。
【0033】
次に、滴下終了検出部36は、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化に基づいて、滴下時刻tを検出する。最後に、抗原濃度検出部37は、抗体固定チャネル1の出力信号の位相P(t)の時間変化に基づいて、検体中の抗原濃度を検出する。
【0034】
ここで、滴下終了検出部36が、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化に基づいて、滴下時刻tを検出するのは、以下の理由からである。
【0035】
図3の上段に示したように、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、酵素免疫測定法の抗体の固定方法及び保存方法(水溶性の薄膜の厚みや種類)によらずに、滴下前後間(t~t)でAからAへと単調減少するのみである。一方で、図3の下段に示したように、抗体固定チャネル1の出力信号の位相P(t)は、酵素免疫測定法の抗体の固定方法及び保存方法(水溶性の薄膜の厚みや種類)によっては、滴下前後間(t~t)でPからPへと単調減少することもあれば、滴下前後間(t~t)でPからPへと単調増加することもあれば、滴下前後間(t~t)でPのまま時間変化しないこともある。そこで、滴下終了検出部36は、滴下時刻tを高精度にかつ容易に検出するために、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化を利用するのである。
【0036】
一方で、抗原濃度検出部37が、抗体固定チャネル1の出力信号の位相P(t)の時間変化に基づいて、検体中の抗原濃度を検出するのは、以下の理由からである。
【0037】
図3の上段に示したように、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、滴下後(t~)でほぼ時間変化しない。一方で、図3の下段に示したように、抗体固定チャネル1の出力信号の位相P(t)は、滴下前後間(t~t)で上記の3種類の時間変化のうちのいずれの時間変化が起きたとしても、滴下後(t~)で大きく単調減少する。そこで、抗原濃度検出部37は、検体中の抗原濃度を高精度にかつ容易に検出するために、抗体固定チャネル1の出力信号の位相P(t)の時間変化を利用するのである。
【0038】
なお、検体の滴下前(~t)では、空気が検出領域11、21に負荷されるのみであるため、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)及び位相P(t)は、ほぼ時間変化しない。一方で、検体の滴下後(t~)では、抗原抗体反応が平衡状態へ進行するため、抗体固定チャネル1の出力信号の位相P(t)は、大きく時間変化する。
【0039】
(本開示の滴下終了検出の詳細)
本開示の出力信号処理の手順を図4に示す。本開示の滴下終了検出の手順を図5に示す。本開示の出力信号処理及び滴下終了検出の具体例を図6~9に示す。
【0040】
サンプリング部31は、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)を、検出領域11、21への検体滴下の開始から終了までの時間内に、1回以下だけサンプリングする(ステップS1)。ここで、サンプリング部31は、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)に対するサンプリング間隔Δtとして、検出領域11、21への検体滴下の開始から終了までの時間とほぼ等しく設定する。図6~9の第1段では、サンプリング時刻が検体滴下時間内の様々な時刻であるときにおいて、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)を破線で示し、サンプリング部31の出力結果を黒丸で示す。
【0041】
なお、検出領域11、21への検体滴下の開始から終了までの時間は、ステップS1に先立って測定することが望ましい。例えば、位相傾き/抗原濃度換算曲線を作成するにあたり、個体差を有する検出領域11、21に様々な抗原濃度の検体を滴下する。そして、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)のサンプリング周波数を十分に高くしたうえで、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化を詳細に測定する。
【0042】
振幅差分値計算部32は、今回のサンプリング時tにおける、2回以上前のサンプリング時t-nΔt(n≧2)と比べた、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の差分値を、振幅差分値ΔA(t)=A(t)-A(t-nΔt)として計算する(ステップS2)。図6~9の第2段では、サンプリング時刻が検体滴下時間内の様々な時刻であるときにおいて、振幅差分値ΔA(t)=A(t)-A(t-4Δt)を黒丸で示す。
【0043】
1階微分値計算部33は、今回のサンプリング時tにおける、1回前(2回以上前ではない。)のサンプリング時t-Δtと比べた、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の差分値を、1階微分値A’(t)=A(t)-A(t-Δt)として計算する(ステップS3)。図6~9の第3段では、サンプリング時刻が検体滴下時間内の様々な時刻であるときにおいて、1階微分値A’(t)=A(t)-A(t-Δt)を黒丸で示す。
【0044】
2階微分値計算部34は、今回のサンプリング時tにおける、1回前(2回以上前ではない。)のサンプリング時t-Δtと比べた、1階微分値A’(t)の差分値を、2階微分値A”(t)=A’(t)-A’(t-Δt)として計算する(ステップS4)。図6~9の第4段では、サンプリング時刻が検体滴下時間内の様々な時刻であるときにおいて、2階微分値A”(t)=A’(t)-A’(t-Δt)を黒丸で示す。
【0045】
2階微分積計算部35は、今回のサンプリング時tにおける2階微分値A”(t)と、1回前(2回以上前ではない。)のサンプリング時t-Δtにおける2階微分値A”(t-Δt)と、の乗算値を、2階微分積M(t)=A”(t)A”(t-Δt)として計算する(ステップS5)。図6~9の第5段では、サンプリング時刻が検体滴下時間内の様々な時刻であるときにおいて、2階微分積M(t)=A”(t)A”(t-Δt)を黒丸で示す。
【0046】
滴下終了検出部36は、連続2回のサンプリング時t、t-Δtで振幅差分値の絶対値|ΔA(t)|、|ΔA(t-Δt)|が所定閾値以上になってから(ステップS11、S12のYES)、2階微分積M(t)が初めて0以下になるサンプリング時tを(ステップS13、S14のYES)、検出領域11、21への検体滴下の終了時及び検出領域11、21での抗体抗原反応の開始時として検出する(ステップS15)。
【0047】
ここで、滴下終了検出部36は、振幅差分値の絶対値|ΔA(t)|に対する所定閾値として、検出領域11、21への検体滴下の開始から終了までの抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の全変化量の絶対値(単位はdB。)と比べて半分以下(単位はdB。)に設定する。図6~9の第2段では、振幅差分値ΔA(t)に対する所定閾値(-3dB)は、検出領域11、21への検体滴下の開始から終了までの抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の全変化量((-40dB)-(-30dB)=-10dB。)と比べて半分以上(-3dB>-10dB/2=-5dB。)に設定される。
【0048】
なお、検出領域11、21への検体滴下の開始から終了までの抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の全変化量は、ステップS11に先立って測定することが望ましい。例えば、位相傾き/抗原濃度換算曲線を作成するにあたり、個体差を有する検出領域11、21に様々な抗原濃度の検体を滴下する。そして、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)のサンプリング周波数を十分に高くしたうえで、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化を詳細に測定する。すると、検出領域11、21への検体滴下の終了時の検出は、実際の滴下濡れ完了とほぼ同時に実行される。
【0049】
又は、検出領域11、21への検体滴下の開始から終了までの抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の全変化量は、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化をリアルタイムに見ながら測定することもできる。例えば、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)のサンプリング周波数を現状通り低くしたうえで、検体の滴下前後(~t及びt~、図3を参照。)において、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化の平坦性をリアルタイムに確認する。すると、検出領域11、21への検体滴下の終了時の検出は、実際の滴下濡れ完了より少々遅れて実行される。
【0050】
以下では、図6~9のように、サンプリング時刻が検体滴下時間内の様々な時刻であるときにおいて、ステップS11~S15がどのように実行されるかを説明する。
【0051】
図6の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、検体の滴下前では、-30dBであり、検体の滴下中では(t≒2.5secの周辺の0.5secの期間)、変曲点を経て単調減少しながら、-33.5dB(「中間点以外」)をサンプリングされ(Δt=0.5sec)、検体の滴下後では、-40dBである。
【0052】
図6の第2段では、振幅差分値ΔA(t)、ΔA(t-Δt)は、連続2回のサンプリング時t=3.0sec、t-Δt=2.5secにおいて、所定閾値=-3dB以下になる(ステップS11、S12のYES)。図6の第5段では、2階微分積M(t)は、現在のサンプリング時t=3.0sec以降のうち、次回のサンプリング時t=3.5secにおいて、初めて0以下になる(ステップS13、S14のYES)。そこで、当該サンプリング時t=3.5secを、検出領域11、21への検体滴下の終了時及び検出領域11、21での抗体抗原反応の開始時として検出する(ステップS15)。
【0053】
図7の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、検体の滴下前では、-30dBであり、検体の滴下中では(t≒2.5secの周辺の0.5secの期間)、変曲点を経て単調減少しながら、-36.5dB(「中間点以外」)をサンプリングされ(Δt=0.5sec)、検体の滴下後では、-40dBである。
【0054】
図7の第2段では、振幅差分値ΔA(t)、ΔA(t-Δt)は、連続2回のサンプリング時t=3.0sec、t-Δt=2.5secにおいて、所定閾値=-3dB以下になる(ステップS11、S12のYES)。図7の第5段では、2階微分積M(t)は、現在のサンプリング時t=3.0sec以降のうち、現在のサンプリング時t=3.0secにおいて、初めて0以下になる(ステップS13、S14のYES)。そこで、当該サンプリング時t=3.0secを、検出領域11、21への検体滴下の終了時及び検出領域11、21での抗体抗原反応の開始時として検出する(ステップS15)。
【0055】
図8の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、検体の滴下前では、-30dBであり、検体の滴下中では(t≒2.5secの周辺の0.5secの期間)、変曲点を経て単調減少しながら、-35.0dB(「中間点近傍」)をサンプリングされ(Δt=0.5sec)、検体の滴下後では、-40dBである。
【0056】
図8の第2段では、振幅差分値ΔA(t)、ΔA(t-Δt)は、連続2回のサンプリング時t=3.0sec、t-Δt=2.5secにおいて、所定閾値=-3dB以下になる(ステップS11、S12のYES)。図8の第5段では、2階微分積M(t)は、現在のサンプリング時t=3.0sec以降のうち、現在のサンプリング時t=3.0secにおいて、初めて0以下になる(ステップS13、S14のYES)。そこで、当該サンプリング時t=3.0secを、検出領域11、21への検体滴下の終了時及び検出領域11、21での抗体抗原反応の開始時として検出する(ステップS15)。
【0057】
図9の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、検体の滴下前では、-30dBであり、検体の滴下中では(t≒2.25secの周辺の0.5secの期間)、変曲点を経て単調減少しながら、図6~8の第1段と異なり、1回もサンプリングされることなく(Δt=0.5sec)、検体の滴下後では、-40dBである。
【0058】
図9の第2段では、振幅差分値ΔA(t)、ΔA(t-Δt)は、連続2回のサンプリング時t=3.0sec、t-Δt=2.5secにおいて、所定閾値=-3dB以下になる(ステップS11、S12のYES)。図9の第5段では、2階微分積M(t)は、現在のサンプリング時t=3.0sec以降のうち、現在のサンプリング時t=3.0secにおいて、初めて0以下になる(ステップS13、S14のYES)。そこで、当該サンプリング時t=3.0secを、検出領域11、21への検体滴下の終了時及び検出領域11、21での抗体抗原反応の開始時として検出する(ステップS15)。
【0059】
このように、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)が、単調減少中の「中間点近傍」においてサンプリングされるとともに、隣接するサンプリング時t、t-Δtにおける2階微分積M(t)が、0の周りのジッタを含むときにも、検出領域11、21への検体滴下の終了時を検出することができる。そして、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)が、単調減少中の「中間点以外」においてサンプリングされるときには、隣接するサンプリング時t、t-Δtにおける2階微分積M(t)が、ある程度のジッタを含むとしても、検出領域11、21への検体滴下の終了時を検出することができる。
【0060】
よって、検体の滴下終了時を検体の滴下途中に検出することなく、検体の滴下時刻の検出精度を向上させることにより、検体中の抗原濃度の検出精度を抗原濃度によらず向上させることができる。そして、隣接するサンプリング時t、t-Δtにおける2階微分積M(t)について、ジッタの大きさを考慮したうえで、0以外の閾値を設定する必要がない。さらに、隣接するサンプリング時t、t-Δtにおける2階微分積M(t)について、時間変化の最小値を探索する必要もなく、アルゴリズムを簡素化することができる。
【0061】
滴下終了検出部36は、ステップS11~S15に加えて、検出領域11、21での抗体抗原反応以外の影響が収まるための時間に応じて、検出領域11、21への検体滴下の終了時を、ステップS15で検出した時刻と比べて遅い時刻にオフセットしてもよい。
【0062】
なお、検出領域11、21での抗体抗原反応以外の影響が収まるための時間は、予め測定することが望ましい。例えば、位相傾き/抗原濃度換算曲線を作成するにあたり、個体差を有する検出領域11、21に様々な抗原濃度の検体を滴下する。そして、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)のサンプリング周波数を十分に高くしたうえで、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の時間変化を詳細に測定する。
【0063】
図6の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、サンプリング時t=3.0sec以降において、定常値の-40dBに落ち着いているが、図6の第5段では、検出領域11、21への検体滴下の終了時は、滴下後安定化のために、サンプリング時t=3.5secからt=4.0sec等へとオフセットされてもよい。
【0064】
図7、8の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、サンプリング時t=3.0sec以降において、定常値の-40dBに落ち着いているが、図7、8の第5段では、検出領域11、21への検体滴下の終了時は、滴下後安定化のために、サンプリング時t=3.0secからt=3.5sec等へとオフセットされてもよい。
【0065】
図9の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、サンプリング時t=2.5sec以降において、定常値の-40dBに落ち着いているが、図9の第5段では、検出領域11、21への検体滴下の終了時は、滴下後安定化のために、サンプリング時t=3.0secからt=3.5sec等へとオフセットされてもよい。
【0066】
以上に説明した実施形態の変形例として、振幅A(t)のサンプリング間隔をΔt/N(Nは2以上の整数。)に短くしてもよい。そして、ステップS1~S5、S11~S15の検体滴下終了時の検出処理では、振幅A(t)のサンプリング間隔Δt/NのN倍毎のポイントを利用すればよい。一方で、ステップS15の後の滴下後安定化のオフセット処理では、振幅A(t)のサンプリング間隔Δt/Nの各回のポイントを利用したうえで、オフセット幅をmΔt/N(mは正の整数。)に設定してもよい。
【0067】
このように、振幅差分値ΔA(t)及び2階微分積M(t)のみならず、検出領域11、21での抗体抗原反応以外の影響が収まるための時間に応じて、検出領域11、21への検体滴下の終了時を若干遅めのかつ正確な時刻にオフセットすることができる。
【0068】
滴下終了検出部36は、ステップS11~S15に加えて、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の大きな変化から小さな変化への遷移(図6~9の第1段では、定常値の-40dBへの落ち着き。)に応じて、検出領域11、21への検体滴下の終了時を、ステップS15で検出した時刻と比べて早い時刻にオフセットしてもよい。
【0069】
図6の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、サンプリング時t=3.0sec以降において、定常値の-40dBに落ち着いているため、図6の第5段では、検出領域11、21への検体滴下の終了時は、早期滴下終了のために、サンプリング時t=3.5secからt=3.0secへとオフセットされてもよい。
【0070】
図7、8の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、サンプリング時t=3.0sec以降において、定常値の-40dBに落ち着いているため、図7、8の第5段では、検出領域11、21への検体滴下の終了時は、早期滴下終了のためとはいえ、サンプリング時t=3.0secからオフセットされないことが望ましい。
【0071】
図9の第1段では、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)は、サンプリング時t=2.5sec以降において、定常値の-40dBに落ち着いているため、図9の第5段では、検出領域11、21への検体滴下の終了時は、早期滴下終了のために、サンプリング時t=3.0secからt=2.5secへとオフセットされてもよい。
【0072】
以上に説明した実施形態の変形例として、振幅A(t)のサンプリング間隔をΔt/N(Nは2以上の整数。)に短くしてもよい。そして、ステップS1~S5、S11~S15の検体滴下終了時の検出処理では、振幅A(t)のサンプリング間隔Δt/NのN倍毎のポイントを利用すればよい。一方で、ステップS15の後の早期滴下終了のオフセット処理では、振幅A(t)のサンプリング間隔Δt/Nの各回のポイントを利用したうえで、オフセット幅をmΔt/N(mは負の整数。)に設定してもよい。
【0073】
このように、振幅差分値ΔA(t)及び2階微分積M(t)のみならず、抗体固定チャネル1の出力信号の振幅A(t)の大きな変化から小さな変化への遷移(図6~9の第1段では、定常値の-40dBへの落ち着き。)に応じて、検出領域11、21への検体滴下の終了時を若干早めのかつ正確な時刻にオフセットすることができる。
【0074】
図6~9では、サンプリング間隔Δtとして、検体滴下時間とほぼ等しく設定される。ここで、サンプリング間隔Δtとして、検体滴下時間と比べて、十分に長い時間が設定されるときには、ステップS11の条件成立の確認を考慮すれば、検体滴下の終了時として、実際の滴下濡れ完了時と比べて、かなり遅い時刻が検出される可能性がある。一方で、サンプリング間隔Δtとして、検体滴下時間と比べて、十分に短い時間が設定されるときには、ステップS11の条件成立の確認を考慮すれば、検体滴下の終了時として、実際の滴下濡れ完了時と比べて、かなり早い時刻が検出される可能性がある。
【0075】
図6~9では、振幅差分値ΔA(t)=A(t)-A(t-nΔt)において、n=4に設定される。ここで、振幅差分値ΔA(t)=A(t)-A(t-nΔt)において、n≧2に設定されるときには、図6~9のいずれの場合でも、ステップS11の条件成立の確認を実行することができる。ただし、初期のサンプリング時において、振幅差分値ΔA(t)を計算するために、nは大き過ぎないことが望ましい。一方で、振幅差分値ΔA(t)=A(t)-A(t-nΔt)において、n=1に設定されるときには、図8の場合に限っては、ステップS11の条件成立の確認を実行することができない。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本開示の弾性表面波センサの滴下検出装置及び滴下検出プログラムは、酵素免疫測定法を利用して、血液等の検体中の抗原濃度を検出する用途に、適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
S:弾性表面波センサ
1:抗体固定チャネル
2:リファレンスチャネル
3:滴下検出装置
11、21:検出領域
12、22:櫛形電極
31:サンプリング部
32:振幅差分値計算部
33:1階微分値計算部
34:2階微分値計算部
35:2階微分積計算部
36:滴下終了検出部
37:抗原濃度検出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9