(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】リチウムイオン電池の極板材料
(51)【国際特許分類】
H01M 4/13 20100101AFI20231017BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20231017BHJP
H01M 4/62 20060101ALI20231017BHJP
H01M 4/38 20060101ALI20231017BHJP
H01M 4/587 20100101ALI20231017BHJP
【FI】
H01M4/13
H01M4/36 C
H01M4/36 D
H01M4/62 Z
H01M4/38 Z
H01M4/36 E
H01M4/587
(21)【出願番号】P 2021110796
(22)【出願日】2021-07-02
【審査請求日】2021-07-02
(32)【優先日】2020-07-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】521293718
【氏名又は名称】中鋼炭素化学股▲ふん▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002181
【氏名又は名称】弁理士法人IP-FOCUS
(72)【発明者】
【氏名】陳 柏欽
(72)【発明者】
【氏名】陳 韋志
(72)【発明者】
【氏名】陳 奕勲
(72)【発明者】
【氏名】許 湘禹
(72)【発明者】
【氏名】許 凱智
(72)【発明者】
【氏名】楊 遠平
【審査官】式部 玲
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152114(WO,A1)
【文献】特開2020-087910(JP,A)
【文献】特開2013-131325(JP,A)
【文献】特開2010-129545(JP,A)
【文献】国際公開第2016/148185(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/113783(WO,A1)
【文献】特開2017-107808(JP,A)
【文献】国際公開第2017/159267(WO,A1)
【文献】特開2019-029158(JP,A)
【文献】特開2005-294011(JP,A)
【文献】特許第5574404(JP,B2)
【文献】国際公開第2015/080203(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアと、前記コアを被覆するシェルと、を含む70重量部の非緩衝活物質と、
30重量部の緩衝活物質と、を含み、
前記緩衝活物質は、26重量部の天然黒鉛、及び4重量部の人
工黒鉛からなる、
リチウムイオン電池の極板材料。
【請求項2】
0より大きく5重量部以下の増粘剤をさらに含む、
請求項1に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【請求項3】
前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム
、アクリル酸シリコンポリマー及び脂肪酸エステルのうちの少なくとも一種類を含む、
請求項2に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【請求項4】
0より大きく5重量部以下の接着剤をさらに含む、
請求項1に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【請求項5】
前記接着剤は、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンポリマー、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル及びポリイミドのうちの少なくとも一種類を含む、
請求項4に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【請求項6】
0より大きく5重量部以下の導電性助剤をさらに含む、
請求項1に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【請求項7】
前記導電性助剤は、金属粉末、金属繊維及び導電性炭素基材のうちの少なくとも一種類を含む、
請求項6に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【請求項8】
前記コアは、平均粒径が16~20マイクロメートルであり、
前記シェルは、厚さが2~3マイクロメートルであり、非晶質炭素シェルと非晶質炭素シェルに散布されたナノシリコンとを含む、
請求項1に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【請求項9】
前記緩衝活物質は前記非緩衝活物質よりも軟らかい、
請求項1に記載のリチウムイオン電池の極板材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池の分野に関し、特にリチウムイオン電池の極板材料に関する。
【背景技術】
【0002】
一次電池が環境保護の需要に合わないため、近年、充電可能な二次電池システムが徐々に注目されている。ポータブル電子機器の急速な発展と普及に伴い、リチウムイオン二次電池は、軽量、高電圧値及び高エネルギ密度などの特性を兼ね備えているため、市場の需要が急増している。リチウムイオン電池は、ニッケル水素、ニッケル亜鉛、ニッケルカドミウム電池と比較して、動作電圧が高く、エネルギ密度が大きく、軽量、長寿命及び優れた環境保護特性などの利点を有し、将来可撓性電池に適用される最良な選択である。
【0003】
太陽光パネルの作業環境は、屋外に限られる。太陽光パネルの動作に影響を与える最大
の問題は、風雨雷ではなく、長年蓄積してきた粉塵である。太陽光パネルに付着した粉塵又はその他の付着物は、パネルの透過率に影響し、光電効率を妨げるため、パネルが太陽光を直接に取得する効率に深刻な影響を与え、パネルのエネルギー吸収及び変換効率を低下させ、発電効率を低下させる。リチウムイオン電池に使用される極板は、通常、極板密度を高めるためにいずれも圧延する必要があるが、一般的な活物質は、圧延過程において容易に圧壊され、又は裂開することになる。したがって、従来技術に存在する問題を解決するためにリチウムイオン電池の極板材料を提供する必要がある。
【発明の概要】
【0004】
本発明の他の目的は、特定割合の緩衝材(例えば、黒鉛物質粒子)を添加することにより、非緩衝活物質自体又はシェルの破損又は破裂が回避又は低減されるため、電池のサイクル寿命を向上させることができるリチウムイオン電池の極板材料を提供することにある。
【0005】
上記目的を達成するために、本発明によれば、コアと、前記コアを被覆するシェルと、を含む70重量部の非緩衝活物質と、30重量部の緩衝活物質と、を含み、前記緩衝活物質は、26重量部の天然黒鉛、及び4重量部の人工黒鉛からなるリチウムイオン電池の極板材料が提供される。
【0007】
本発明の一実施例において、0より大きく5重量部以下の増粘剤をさらに含む。
【0008】
本発明の一実施例において、前記増粘剤は、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリル酸ナトリウム、その他のアクリル酸シリコンポリマー及び脂肪酸エステルのうちの少なくとも一種類を含む。
【0009】
本発明の一実施例において、0より大きく5重量部以下の接着剤をさらに含む。
【0010】
本発明の一実施例において、前記接着剤は、ポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンポリマー、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル及びポリイミドのうちの少なくとも一種類を含む。
【0011】
本発明の一実施例において、0より大きく5重量部以下の導電性助剤をさらに含む。
【0012】
本発明の一実施例において、前記導電性助剤は、金属粉末、金属繊維及び導電性炭素基材のうちの少なくとも一種類を含む。
【0013】
本発明の一実施例において、前記コアは、平均粒径が16~20マイクロメートルであり、前記シェルは、厚さが2~3マイクロメートルであり、非晶質炭素シェルと非晶質炭素シェルに散布されたナノシリコンとを含む。
【0014】
本発明の一実施例において、前記緩衝活物質は前記非緩衝活物質よりも軟らかい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1A】一般的なリチウムイオン電池の極板材料の圧延ステップ前の断面を示す概略図である。
【
図1B】一般的なリチウムイオン電池の極板材料の圧延ステップ後の断面を示す概略図である。
【
図2A】本発明の一実施例に係るリチウムイオン電池の極板材料の圧延ステップ前の断面を示す概略図である。
【
図2B】本発明の一実施例に係るリチウムイオン電池の極板材料の圧延ステップ後の断面を示す概略図である。
【
図3A】実施例1の顕微鏡写真を示す概略図である。
【
図3B】比較例1の顕微鏡写真を示す概略図である。
【
図4A】実施例2の顕微鏡写真を示す概略図である。
【
図4B】比較例2の顕微鏡写真を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の上記及びその他の目的、特徴、利点をより明確に理解するために、本発明の好適実施例を挙げ、添付図面を参照しながら、以下に詳細に説明する。なお、本発明でいう方向用語、例えば、上、下、頂、底、前、後、左、右、内、外、側面、周囲、中央、水平、横方向、垂直、縦方向、軸方向、径方向、最上層又は最下層などは、添付図面の方向のみを参照する。したがって、使用される方向用語は、本発明を説明及び理解するためのものであり、本発明を制限するものではない。
【0017】
図1A及び
図1Bを参照して、まず、極板(負極材料)を作製する際に、基板13に位置するリチウムイオン電池の極板材料は、通常、極板が所定の圧縮密度(例えば、1.0~2.0g/cm
3)を有するように圧延ステップを経ることになる。しかしながら、一般的な単一成分活物質11、例えば、シリコン系材料(例えば、Si、SiOx(xが0より大きく2以下))、スズ系材料(例えば、Sn、SnOx(xが0より大きく2以下)、チタン酸リチウム(LTO)、又は硬い炭素系材料(例えば、軟質炭素又は硬質炭素)などの場合、圧延ステップを経ることで一般的な活物質自体が破損又は破裂することになる。したがって、このような破損又は破裂した活物質をリチウムイオン電池の極板に適用すると、電池のサイクル寿命が低下する。
【0018】
これにより、本発明によれば、新しいタイプのリチウムイオン電池の極板材料20が提供される。
図2A及び
図2Bを参照して、本発明の実施例に係るリチウムイオン電池の極板材料20は、コア211と、前記コア211を被覆するシェル212と、を含む5~70重量部の非緩衝活物質21と、30~95重量部の緩衝活物質22と、を含む。一実施例において、非緩衝活物質21は、例えば、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、66、67、68又は69重量部である。他の実施例において、緩衝活物質22は、例えば、31、32、33、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、91、92、93、94又は95重量部である。
【0019】
なお、本明細書に記載の非緩衝活物質とは、活物質を指すが、それ自体が緩衝機能に用いられるものではない。また、本明細書に記載の緩衝活物質とは、活物質を指すが、それ自体が主に緩衝機能に用いられるものである。
【0020】
上記により、本発明によれば、緩衝材として緩衝活物質22を添加することにより、特定構造の非緩衝活物質21自体又はシェルが圧延ステップ後に破損又は破裂する状況が回避又は低減される。一方、緩衝活物質22は、非緩衝活物質21よりも軟らかいため、圧延ステップにおいて応力を優先的に受け、ひいては非緩衝活物質21が保護される。他方、緩衝活物質22自体の材質はリチウムイオンを貯蔵する特性を有するため、本発明の極板材料20からなるリチウム電池の電力特性の利用にも寄与する。
【0021】
なお、コア211の材質がシェル212の材質よりも軟らかい場合、圧延を受ける際にシェル212は外側から内側への応力を受け、さらにコア211は材質が軟らかいためにシェルを支持できず、ひいてはシェル212が破裂することになるが、本発明の実施例によれば、緩衝材の存在によりシェルが受ける応力を分散させることができ、ひいてはシェルの材料を保護する効果が達成される。
【0022】
他方、コア211の材質がシェル212の材質よりも軟らかくない場合、圧延を受ける際にシェルは外側から内側への応力を受け、さらにコア211の材質がシェル212の材質よりも軟らかくないため、シェル212の材質もコア211から内側から外側への反作用力を受けるとともに、コア211の材料もシェル212から外側から内側への応力を受け、応力を受ける際にシェル212が破裂し、ひいてはコア211が破裂することになるが、本発明の実施例によれば、緩衝材の存在により材料が受ける応力を分散させることができ、ひいてはシェル212とコア211の材料を保護する効果が達成される。
【0023】
一実施例において、本発明の実施例では、基本的にコア211とシェル212との間の硬軟関係を制限しない。一例において、コア211の材質は、シェル212の材質よりも軟らかく、例えば、コア211の材質は黒鉛を含み、シェル212の材質はシリコン炭素複合材を含む。他の例において、コア211の材質は、シェル212の材質よりも軟らかくない。
【0024】
また、本発明によれば、特定構造の非緩衝活物質21を使用するとともに、緩衝活物質22と併用することにより、作製されたリチウムイオン電池の極板材料20は、高い初期電気容量及び初回効率だけではなく、高い電気容量維持率(例えば、第70周の電気容量維持率)を有する。
【0025】
なお、本発明では、軟い非緩衝活物質21(上記硬い非緩衝活物質21に対して)を採用してもよい。緩衝活物質22が非緩衝活物質よりも軟らかい限り、緩衝活物質22によって非緩衝活物質21を保護することができる。
【0026】
一実施例において、前記緩衝活物質22は、天然黒鉛、及び人工黒鉛(人工導電性黒鉛とも言う)のうちの少なくとも一種類を含む。一般的に、天然黒鉛は人工黒鉛よりも軟らかい。また、人工黒鉛はリチウム電池の電力特性に対して優れた効果(例えば高い電気容量維持率を有する)を有することが一般的に認識されている。しかしながら、以下の実験結果から分かるように、天然黒鉛と人工導電性黒鉛の組み合わせが逆に高い電気容量維持率を有する。これは主に、天然黒鉛が人工黒鉛よりも軟らかいために発生する効果である。また、後述する実施例において人工導電性黒鉛の添加量が少ないため、実質的に電気容量維持率に過度の影響を与えることはない。以上から分かるように、天然黒鉛の軟らかさは、確かに電気容量維持率に多くの効果(人工黒鉛に比べて)に寄与している。
【0027】
特に、本明細書において「電気容量」という用語は、いずれも「脱リチウム(de-lithiation)電気容量」を指す。上記脱リチウム電気容量とは、電気化学における放電容量、すなわち、リチウムイオンが負極から離脱して正極に戻るときに測定される電気容量を指し、電池における半反応過程で測定される電気容量である。
【0028】
一実施例において、本発明の実施例に係るリチウムイオン電池の極板材料20は、添加剤、例えば、増粘剤(例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリアクリル酸ナトリウム、その他のアクリルシリコンポリマー及び脂肪酸エステルのうちの少なくとも一種類)、0より大きく5重量部以下の接着剤(例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンプロピレンポリマー、ブタジエンゴム、ブチルゴム、ポリエチレンオキシド、ポリエピクロロヒドリン、ポリホスファゼン、ポリアクリロニトリル及びポリイミドのうちの少なくとも一種類)及び/又は0より大きく5重量部以下の導電性助剤を含んでもよい。一実施例において、導電性助剤の種類は、構成される電池において分解又は変質しない電子伝導性材料である限り、特に限定されない。例えば、Al、Ti、Fe、Ni、Cu、Zn、Ag、Sn、Siなどの金属粉末若しくは金属繊維、又は天然黒鉛、人工黒鉛、各種コークス粉末、アセチレンブラック、カーボンブラック、気相成長炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維若しくは各種樹脂焼成体などの導電性カーボン基材を使用することができる。上記添加剤は、極板材料の使用範囲に応じて添加することができる。例えば、水性極板材料には、カルボキシメチルセルロース、スチレンブタジエンゴム及び導電性カーボンブラックを添加することができ、又は油性極板材料には、ポリフッ化ビニリデンを添加することができる。
【0029】
一実施例において、前記コア211は、平均粒径が16~20マイクロメートル(例えば、約18マイクロメートル)であり、前記シェル212は、厚さが2~3マイクロメートル(例えば、約2.5マイクロメートル)であり、非晶質炭素シェル212Aと非晶質炭素シェル212Aに散布されたナノシリコン212B(例えば、約30~150ナノメートル、例えば、約100ナノメートル、ここで、ナノシリコン212Bは非晶質炭素シェル内及び/又は表面に散布される)とを含む。各非緩衝活物質21間は、近い又は類似する電気的性質を有する。
【0030】
なお、本発明によれば、特定割合の緩衝材(例えば、黒鉛物質粒子)を添加することにより、非緩衝活物質21のシェル212の破損又は破裂が回避又は低減されるため、電池のサイクル寿命を向上させることができる(
図2A及び
図2Bに示すように)。
【0031】
一実施例において、本発明に係るリチウムイオン電池の極板材料20は、リチウムイオン電池の極板が形成されるように、基板23上に塗布し、一般的なリチウムイオン電池の極板のプロセス(例えば、圧延ステップ)によって作製することができるため、ここでは説明しない。
【0032】
他方、本発明の実施例では、リチウムイオン電池の極板材料として、特定割合の特定物質の組み合わせ(すなわち、コアと、前記コアを被覆するシェルと、を含む5~70重量部の非緩衝活物質と、30~95重量部の緩衝活物質と)の組み合わせを使用することにより、ひいては圧延ステップにおける非緩衝活物質自体(又は非緩衝活物質のシェル)の破損又は破裂が回避されることが達成されるため、電池のサイクル寿命を向上させることができる。
【0033】
以下、本発明の実施例に係るリチウムイオン電池の極板材料が上記効果を確実に達成できることを説明するための複数の実施例及び比較例を挙げる。
【0034】
実施例1
70重量部の非緩衝活物質(例えば、黒鉛材質のコアと、前記コアを被覆し、材質が例えば、シリコン炭素複合材を含むシェルと、を含む)、26重量部の天然黒鉛、4重量部の人工導電性黒鉛、1.5重量部のカルボキシメチルセルロース、3重量部のスチレンブタジエンゴム及び3.5重量部の導電性カーボンブラック(SuperP)を混合し、水を添加してスラリーに混ぜ、基板(例えば、銅箔)に塗布して極片を作製し、ここで、極片における物質の塗布重量は約6mg/cm2である。真空オーブンを使用して前述の基板を約85℃で乾燥させた後、圧縮密度1.4g/cm3の極片が得られるように圧延ステップを行う。
【0035】
実施例2~5及び比較例1、2
実施例2~5並びに比較例1及び2は、作製方式が実施例1と同様であるが、使用される非緩衝活物質と黒鉛との比率、及び圧縮密度が若干異なる点で相違し、下記表1を参照されたい。
【0036】
【0037】
その後、実施例1~5並びに比較例1及び2について評価分析を行う。まず、実施例1~5並びに比較例1及び2を直径13mmの円形極片に裁断し、次いでポリプロピレン/ポリエチレン/ポリプロピレンの隔離膜を組み合わせる。また、実施例1~5並びに比較例1及び2に使用される電解液処方は、炭酸エチレン(EC)/炭酸ジエチル(DEC)/炭酸エチルメチル(EMC)(EC/DEC/EMCの重量割合は3/2/5)であり、さらに1wt%の炭酸ビニレン(VC)と3wt%の炭酸フルオロエチレン(FEC)(VCとFECはいずれもEC/DEC/EMCの総重量を100wt%とする)。また、電極にはリチウム金属が使用される。これによれば、実施例1~5並びに比較例1及び2のボタン型半電池を作製ことができる。
【0038】
次に、実施例1~5並びに比較例1及び2の電気容量と充放電効能を分析する。電気容量のテストにおいて、第1~4周の充放電速度はいずれも0.1C-rateに設定され、第5周以降は0.5Cに設定される。充放電電位区間は1mV~1.5Vである。充放電効能のテストにおいて、リチウム電池の充放電効能は、各周のリチウムの充電される電気容量に対するリチウムの放電される電気容量の比率である電池のクーロン効率と容量保持率とによって判断される。容量保持率は、第1周のリチウムの放電される電気容量に対する各周のリチウムの放電される電気容量の比率である。したがって,第70周の容量保持率は、第1周のリチウムの放電される電気容量に対する第70周のリチウムの放電される電気容量の比率である。1C充電能力は、1Cの充電速度で定電流充電段階において得られる電気容量を総電気容量(定電流電気容量+定電圧電気容量)で割ったものであり、5C放電能力は、5C放電速度で定電流放電を行って得られる電気容量を0.2C放電速度で定電流放電を行って得られる電気容量で割ったものである。
【0039】
実施例1と比較例1とを比較して、同じ圧縮密度で実施例1と比較例1の第70周サイクル後の電気容量維持率は、それぞれ95.8%と94.4%であり、実施例1のサイクル寿命が比較例1よりも優れていることが示されている。実施例1の非緩衝活物質のシェル(例えば、シリコン炭素複合材)表面は極板密度が1.4g/cm
3まで圧延された後も破壊されずに元の状態を維持できるのに対し(
図3Aに矢印、破線及び実線で示すように)、比較例1では、1.4g/cm
3まで圧延された後に一部の粒子が破裂することが見られる(
図3Bに矢印で示すように)ため、その後のサイクルテスト時の非緩衝活物質の安定性に影響を及ぼすことになる。
【0040】
他方、圧延後の非緩衝活物質の破裂程度が異なる要因は、非緩衝活物質間に緩衝材として十分な天然/人工黒鉛がないため、圧延後、非緩衝活物質が互いに押圧されることにより、表面が破裂する状況が深刻であり、ひいてはサイクル寿命が急速に低下する。逆に、非緩衝活物質間に緩衝材として十分な天然/人工黒鉛/人工導電性材料がある場合、非緩衝活物質は、依然として比較的完全な粒子外形が保持される。
【0041】
比較例2及び実施例2の場合、高い圧延密度でサイクル寿命に著しい影響を与えることがより明らかに見られる。1.6g/cm
3まで圧延される場合、実施例2の非緩衝活物質には、一部の亀裂しか現れないのに対し(
図4Aの矢印に示すように)、比較例2では、多数の亀裂及び破裂が現れる(
図4Bに示すように)。そのため、実施例2のサイクル寿命は比較例2よりもはるかに優れている。同様に、実施例3及び4のサイクル寿命も、それぞれ比較例1及び2のサイクル寿命よりも優れている。
【0042】
実施例5からも観察できるように、極板密度が1.6g/cm3まで圧延されても、実施例5の緩衝材は95%と高いため、優れた緩衝効果を有し、非緩衝活物質が圧延される際に破裂がほとんど発生しないため、第70周サイクル後の電気容量維持率は依然として99.9%と高い。
【0043】
実施例1及び実施例3から分かるように、天然黒鉛と人工導電性黒鉛の組み合わせは、逆に高い電気容量維持率を有する。これは主に、天然黒鉛が人工黒鉛よりも軟らかいために発生する効果である。また、人工導電性黒鉛の添加量が少ないため、実質的に電気容量維持率に過度の影響を与えることはない。以上から分かるように、天然黒鉛の軟らかさは、確かに電気容量維持率に多くの効果(人工黒鉛に比べて)に寄与している。より具体的には、一般的にリチウムイオン電池の活物質とする純粋な黒鉛のサイクル性能について言えば、人工黒鉛のサイクル寿命は一般的に天然黒鉛のそれよりも優れている。しかし、一定割合のシリコン含有活物質が添加されている場合、サイクル寿命に対するシリコンの悪影響は、サイクル寿命に対する黒鉛の影響よりもはるかに大きくなる。上記二点と、本件実施例と比較例の結果を組み合わせると、天然黒鉛といった軟らかい緩衝活物質がシリコン含有活物質のサイクル寿命を維持するのに役立つことがさらに確認できる。また、本件に使用される人工黒鉛の緩衝効果は天然黒鉛に劣るものの、非緩衝活物質と比較して、人工黒鉛は依然として緩衝効果を有し、非緩衝活物質を保護することができるため、添加後にサイクル寿命に依然として役立つ。
【0044】
比較例1及び比較例2の場合、両者の非緩衝活物質間にいずれも同様に緩衝材として十分な天然/人工黒鉛がないが、比較例2のサイクル寿命は比較例1よりも著しく低下している。
図3B及び
図4Bから見られるように、比較例2の非緩衝活物質は、互いに押圧されることにより表面が破壊する状況がより深刻であり、ひいてはサイクル寿命がより急速に低下する。
【0045】
【0046】
実施例2、実施例5及び比較例2の充放電能力を比較すると、緩衝活物質の割合が最も高い(95%)実施例5は性能が最も悪く、割合がこれに次ぐ(30%)実施例2は性能が最も良く、割合が最も低い(4%)比較例2の充放電能力は両者の間にある。実施例5は、充放電能力が比較例2よりもやや悪いが、優れた緩衝効果を有するため、依然として適用シナリオ(例えば、高い圧縮密度と長サイクル寿命が必要であるが、通常の充放電能力のみを必要とする適用)がある。
【0047】
以上により、実施例1~5並びに比較例1及び2の分析から分かるように、本発明の実施例によれば、緩衝活物質を添加することにより、ひいては特定構造を有する非緩衝活物質自体(及び/又はシェル)の破損又は破裂が回避される。なお、ここでの比較例1及び2は、単に対照群とするのみで、自ら認めた前件技術ではない。より具体的には、本発明によれば、特定構造の非緩衝活物質と緩衝材の組み合わせを使用してはじめて、非緩衝活物質の破損又は破裂が回避又は低減されるとともに、サイクル寿命を増加させる効果を有する。上記の特徴は、如何なる従来技術によって開示又は示唆されていない。
【0048】
本発明は、好適実施例で開示されているが、本発明を限定するものではなく、当業者であれば、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更及び修正を行うことができる。したがって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲に従うものとする。
【符号の説明】
【0049】
11、単一成分活物質
13、基板
20、極板材料
21、非緩衝活物質
22、緩衝活物質
23、基板
211、コア
212、シェル
212A、非晶質炭素シェル
212B、ナノシリコン