(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】組電池の検査方法
(51)【国際特許分類】
H01M 10/48 20060101AFI20231017BHJP
G01R 31/3835 20190101ALI20231017BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
H01M10/48 P
G01R31/3835
H02J7/00 Q
(21)【出願番号】P 2021152471
(22)【出願日】2021-09-17
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100136423
【氏名又は名称】大井 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【氏名又は名称】山根 広昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】前田 礼造
【審査官】下林 義明
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-012793(JP,A)
【文献】特開2003-134675(JP,A)
【文献】特開2011-060755(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/42 - 10/48
G01R 31/36 - 31/44
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の配列方向に沿って複数の単電池が相互に隣接するように配列された組電池における熱連鎖の発生を検査する組電池の検査方法であって、
前記複数の単電池の各々の電圧を測定する電圧測定工程と、
前記複数の単電池の各々の電圧に基づいて基準電圧値V
Sを算出する基準電圧算出工程と、
前記基準電圧値V
Sと前記複数の単電池の各々の電圧に基づいて前記熱連鎖の発生を検査する検査工程と
を備え、
前記検査工程は、所定の第1の単電池の電圧V
1と前記基準電圧値V
Sとの電圧差である第1の電圧差(V
S-V
1)が第1の閾値V
T1以上であり、かつ、前記第1の単電池に隣接した第2の単電池の電圧V
2と前記基準電圧値V
Sとの電圧差である第2の電圧差(V
S-V
2)が第2の閾値V
T2以上である場合に、前記単電池の熱連鎖が発生していると判定する、組電池の検査方法。
【請求項2】
前記基準電圧値V
Sは、前記複数の単電池の平均電圧V
aveである、請求項1に記載の組電池の検査方法。
【請求項3】
前記基準電圧値V
Sは、前記複数の単電池から前記第1の単電池と前記第2の単電池を除いた他の単電池の平均電圧V
ave(n-2)である、請求項1に記載の組電池の検査方法。
【請求項4】
前記基準電圧値V
Sは、前記複数の単電池における最大電圧V
maxである、請求項1に記載の組電池の検査方法。
【請求項5】
前記検査工程は、前記第1の電圧差(V
S-V
1)が前記第1の閾値V
T1以上であった場合、予め設定された検査時間の間、前記第2の電圧差(V
S-V
2)が第2の閾値V
T2以上であるか否かの判定を継続して実施する、請求項1~4のいずれか一項に記載の組電池の検査方法。
【請求項6】
前記検査時間は15秒~450秒の範囲内で設定される、請求項5に記載の組電池の検査方法。
【請求項7】
前記検査工程は、前記第1の単電池の電圧V
1と前記第2の単電池の電圧V
2が、予め定められた第2の基準電圧値V
S2以下である場合に、前記単電池の熱連鎖が発生していると判定する、請求項1~6のいずれか一項に記載の組電池の検査方法。
【請求項8】
前記第2の基準電圧値V
S2は1V以下に設定される、請求項7に記載の組電池の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組電池の検査方法に関する。詳しくは、複数の単電池を備えた組電池における熱連鎖を検査する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの二次電池は、様々な分野において広く使用されている。そして、車両用電源などの高出力電源が求められる分野では、複数の二次電池を備えた組電池が用いられる。かかる組電池では、通常、複数の二次電池(以下「単電池」ともいう)が相互に隣接するように配列されており、各々の単電池が接続部材によって電気的に接続されている。
【0003】
ところで、二次電池(単電池)は、電極体の構成部材(特にセパレータ)の損傷や過剰な充放電などによって発熱することがある。ここで、上記構成の組電池において一つの単電池が発熱すると隣の単電池が加熱されるため、当該隣の単電池の発熱が促進される。そして、この単電池間の熱伝播による発熱の促進が連鎖的に生じると、組電池全体が非常に高温になるおそれがある。かかる熱連鎖の進行による組電池全体の高温化を予防するため、熱連鎖の発生を初期段階で検出する技術が提案されている。例えば、特許文献1では、単電池の電圧変化に基づいて熱連鎖の発生を検出する技術が提案されている。この特許文献1に記載の技術では、一つの電池セル(単電池)で急峻な電圧低下を検出した後、予め設定された第1の時間内に他の電池セルの少なくとも一つで急峻な電圧低下を検出した場合に熱連鎖が発生していると判定する。ここで、特許文献1に記載の技術における「急峻な電圧低下」とは、比較的に短時間で電池セルの電圧が0V付近まで低下することを指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、近年の安全性への要求の高まりによって、特許文献1に記載の技術よりも早期かつ正確に熱連鎖の発生を検出できる技術が求められている。具体的には、上述した通り、特許文献1に記載の技術では、特定の単電池で急峻な電圧低下(0V付近への電圧低下)が生じた後、第1の時間が経過するまでの間に、他の単電池で急峻な電圧低下(0V付近への電圧低下)が生じた場合に熱連鎖が発生していると判断する。しかしながら、単電池の発熱自体は、電圧が0V付近に低下する前から生じているため、上記第1の時間の計測を始める前に熱連鎖が進行するおそれがある。加えて、特許文献1に記載の技術では、他の単電池の電圧が0V付近に低下するまで熱連鎖が検出されないため、熱連鎖の発生を検出した時点で、対応困難なレベルまで熱連鎖が進行している可能性がある。
【0006】
なお、より早期に熱連鎖の発生を検出する手段として、単電池が発熱しているか否かの判断基準となる電圧値(以下「基準電圧値」という)を0V付近よりも高い値に設定することが考えられる。しかしながら、基準電圧値を高い値に設定すると、正常な充放電反応における電圧変化によって基準電圧値を下回る単電池が生じて誤検知が発生してしまう可能性がある。
【0007】
本発明は、上述の問題を解決するためになされたものであり、組電池における熱連鎖の発生を従来よりも早期かつ正確に検出できる組電池の検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を実現するべく、ここに開示される組電池の検査方法が提供される。
【0009】
ここに開示される組電池の検査方法(以下、単に「検査方法」ともいう。)は、所定の配列方向に沿って複数の単電池が相互に隣接するように配列された組電池における熱連鎖の発生を検査する。かかる検査方法は、複数の単電池の各々の電圧を測定する電圧測定工程と、複数の単電池の各々の電圧に基づいて基準電圧値VSを算出する基準電圧算出工程と、基準電圧値VSと複数の単電池の各々の電圧に基づいて熱連鎖の発生を検査する検査工程とを備えている。そして、ここに開示される検査方法における検査工程は、所定の第1の単電池の電圧V1と基準電圧値VSとの電圧差である第1の電圧差(VS-V1)が第1の閾値VT1以上であり、かつ、第1の単電池に隣接した第2の単電池の電圧V2と基準電圧値VSとの電圧差である第2の電圧差(VS-V2)が第2の閾値VT2以上である場合に、単電池の熱連鎖が発生していると判定する。
【0010】
ここに開示される検査方法における基準電圧値VSは、複数の単電池の各々の電圧に基づいて算出された値である。すなわち、ここに開示される検査方法は、所定の値(例えば0V付近)に固定された基準電圧値との比較を行う絶対評価ではなく、各単電池の現状の電圧に基づいて算出した基準電圧値VSと各単電池の電圧とを比較する相対評価を行っている。かかる検査方法によると、他の単電池と比べて異常な電圧低下が生じている単電池を検知し、当該単電池の周囲で熱連鎖が生じているか否かを検査することができる。このため、基準電圧値を0V付近に固定する従来技術と異なり、特定の単電池の電圧が0V付近まで低下する前に熱連鎖の発生を検出できる。また、ここに開示される技術における基準電圧値VSは、充放電反応に伴って変動する各単電池の電圧に基づいて算出されているため、当該充放電反応に伴う電圧変化によって誤検知が生じることも防止できる。
【0011】
ここに開示される検査方法の好適な一態様における基準電圧値VSは、複数の単電池の平均電圧Vaveである。これによって、より正確に熱連鎖の発生を検出できる。
【0012】
ここに開示される検査方法の好適な一態様における基準電圧値VSは、複数の単電池から第1の単電池と第2の単電池を除いた他の単電池の平均電圧Vave(n-2)である。これによって、さらに正確に熱連鎖の発生を検出できる。
【0013】
ここに開示される検査方法の好適な一態様における基準電圧値VSは、複数の単電池における最大電圧Vmaxである。これによって、より早期に熱連鎖の発生を検出できる。
【0014】
ここに開示される検査方法の好適な一態様では、検査工程は、第1の電圧差(VC-V1)が第1の閾値VT1以上であった場合、予め設定された検査時間の間、第2の電圧差(VC-V2)が第2の閾値VT2以上であるか否かの判定を継続して実施する。これによって、より正確に熱連鎖の発生を検出できる。なお、検査時間は、例えば、15秒~450秒の範囲内で設定されることが好ましい。
【0015】
ここに開示される検査方法の好適な一態様では、検査工程は、第1の単電池の電圧V1と第2の単電池の電圧V2が、予め定められた第2の基準電圧値VS2以下である場合に、単電池の熱連鎖が発生していると判定する。本態様では、予め設定された固定値である第2の基準電圧値VS2との絶対評価に基づいて熱連鎖の発生を検査する工程が追加されている。これによって、熱連鎖の発生をより確実に検出できる。なお、このときの第2の基準電圧値VS2は1V以下に設定されることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】組電池の構造の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図2】
図1中の単電池を模式的に示す斜視図である。
【
図3】一実施形態に係る検査方法を説明するフローチャートである。
【
図4】一実施形態における基準電圧値V
Sの算出を説明する模式図である。
【
図5】他の実施形態における基準電圧値V
Sの算出を説明する模式図である。
【
図6】他の実施形態における基準電圧値V
Sの算出を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、ここで開示される技術の実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって、ここで開示される技術の実施に必要な事柄(例えば、組電池の詳細な構造や製造プロセスなど)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。ここで開示される技術は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において範囲を示す「A~B」の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含するものとする。
【0018】
なお、本明細書において「二次電池」とは、電解質を介して一対の電極(正極と負極)の間で電荷担体が移動することによって充放電反応が生じる蓄電デバイス一般をいう。かかる二次電池は、リチウムイオン二次電池、ニッケル水素電池、ニッケルカドミウム電池等のいわゆる蓄電池の他に、電気二重層キャパシタ等のキャパシタなども包含する。
【0019】
ここで開示される検査方法の一実施形態について説明する。かかる検査方法は、組電池における熱連鎖の発生を検査する方法である。以下では、検査対象である組電池の構造の一例を説明した後に、具体的な検査手順について説明する。
【0020】
1.組電池の構造
図1は、組電池の構造の一例を模式的に示す斜視図である。
図2は、
図1中の単電池を模式的に示す斜視図である。なお、これらの図における符号Xは「(単電池の)幅方向」を示し、符号Yは「(単電池の)配列方向」を示し、符号Zは「(単電池の)高さ方向」を示す。また、配列方向YにおけるUは「上流側」を示し、Dは「下流側」を示す。但し、これらの方向は説明の便宜上の定めたものであり、ここに開示される技術を限定することを意図したものではない。
【0021】
図1に示す組電池100は、複数(N個)の単電池10A~10Nを備えている。
図2に示すように、各々の単電池10A~10Nは、扁平な角型容器である電池ケース12を備えている。かかる電池ケース12は、アルミニウムなどの所定の剛性を有する金属材料で形成されている。また、図示は省略するが、電池ケース12の内部には、充放電反応の場となる電極体と電解質が収容されている。そして、電池ケース12の上面12aには、正極端子14と負極端子16とが取り付けられている。図示は省略するが、正極端子14は、電池ケース12内部において電極体の正極と電気的に接続されている。一方、負極端子16は、電池ケース12内部において電極体の負極と電気的に接続されている。
【0022】
そして、
図1に示すように、この組電池100では、所定の配列方向Yに沿って複数の単電池10A~10Nが相互に隣接するように配列されており、各々の単電池10A~10Nが接続部材20を介して電気的に接続されている。具体的には、各々の単電池10A~10Nは、電池ケース12の長側面12b(
図2参照)同士が対向するように配置される。このとき、各々の単電池10A~10Nは、隣接した単電池間で正極端子14と負極端子16とが近接するように交互に向きを入れ替えながら配置される。そして、一方の単電池の正極端子14と他方の単電池の負極端子16は、接続部材20を介して電気的に接続されている。なお、配列方向Yの上流側Uの端部に配置された単電池10Aの負極端子16は、隣の単電池10Bとは接続されておらず、外部機器(例えば車両のモーター等)と接続される負極出力端子16aとなる。同様に、配列方向Yの下流側Dの端部に配置された単電池10Nの正極端子14は、隣の単電池10N-1と接続されておらず、外部機器と接続される正極出力端子14aとなる。
【0023】
また、この組電池100では、複数の単電池10A~10Nが配列方向Yに沿って拘束されている。具体的には、この組電池100では、配列方向Xにおける両外側の各々に一対の拘束板32、34が配置されている。この一対の拘束板32、34の間に複数の単電池10A~10Nを挟み込んだ状態で、拘束板32、34を架橋部材36で架橋することによって、各々の単電池10A~10Nが配列方向Yに沿って拘束される。なお、
図1に示す組電池100では、隣接した単電池の間に矩形の緩衝板40が配置されている。これによって、電池ケース12の長側面12b(
図2参照)に加わる拘束圧を均一化できる。
【0024】
2.組電池の検査方法
次に、上記構成の組電池100を検査対象とした本実施形態に係る組電池の検査方法について説明する。
図3は、本実施形態に係る検査方法を説明するフローチャートである。また、
図4は、本実施形態における基準電圧値V
Sの算出を説明する模式図である。
【0025】
本実施形態に係る検査方法は、電圧測定工程と、基準電圧算出工程と、検査工程とを備えている。以下、各工程について説明する。
【0026】
(1)電圧測定工程
図3中のステップS10では、複数の単電池10A~10Nの各々の電圧V
A~V
Nを測定する電圧測定工程を実行する。なお、各単電池10A~10Nの電圧V
A~V
Nを測定する手段は、特に限定されず、従来公知の手段を特に制限なく採用できる。
【0027】
(2)基準電圧算出工程
ステップS20では、基準電圧値V
Sを算出する基準電圧算出工程を実行する。上述した通り、本明細書における「基準電圧値」とは、単電池が発熱しているか否かの判断基準となる電圧値である。そして、本実施形態に係る検査方法では、予め設定された固定値ではなく、組電池100を構成する複数の単電池10A~10Nの各々の電圧V
A~V
Nに基づいて算出される値を基準電圧値V
Sとして採用している。詳しくは後述するが、このような各単電池の電圧に基づいた基準電圧値V
Sを用いることによって、他の単電池と比べて異常な電圧低下が発生している単電池を早期に検出できる。なお、
図4に示すように、本実施形態に係る検査方法では、組電池100を構成する複数の単電池10A~10Nの平均電圧V
aveを基準電圧値V
Sとして採用している。かかる平均電圧V
aveに対する電圧差が大きな単電池は、異常な電圧低下が生じているとみなすことができる。そして、内部短絡などによって急激な発熱が生じている単電池は、通常、急激な電圧低下が生じる。すなわち、この基準電圧値V
S(平均電圧V
ave)に対する電圧差が大きな単電池は、急激な発熱が生じているとみなすことができる
【0028】
(3)検査工程
次に、ステップS30では、上述した基準電圧値V
Sと複数の単電池10A~10Nの各々の電圧V
A~V
Nに基づいて熱連鎖の発生を検査する検査工程を実行する。なお、
図3に示すように、本実施形態における検査工程(ステップS30)は、後述のステップS32~S38を備えている。以下、各々のステップについて説明する。
【0029】
本実施形態における検査工程では、先ず、複数の単電池10A~10Nの中から検査対象となる第1の単電池を選択するステップS32を実施する。なお、検査対象となる第1の単電池は、特に制限なく任意に選択できる。以下では、配列方向Yの上流側Uの端部に配置された単電池10A(
図1参照)を第1の単電池として選択した場合を例に挙げて説明する。
【0030】
次に、ステップS34では、第1の単電池の電圧V1(単電池10Aの電圧VA)と基準電圧値VS(平均電圧Vave)との電圧差である第1の電圧差(VS-V1)を算出し、当該第1の電圧差が第1の閾値VT1以上であるか否かを判定する(VS-V1≧VT1?)。このステップS34にて設定されている第1の閾値VT1は、急激な発熱が生じた二次電池における電圧低下量を考慮して設定された値であり、予備試験の結果などを考慮して適宜設定できる。ここに開示される技術を限定するものではないが、第1の閾値VT1は、50mV~150mVの範囲内(例えば100mV)に設定され得る。そして、本ステップS34において、第1の電圧差(VS-V1)が第1の閾値VT1以上となった場合(YES)には、第1の単電池(単電池10A)において急激な発熱が生じていると判断してステップS36に進む。一方、ステップS34において、第1の電圧差(VS-V1)が第1の閾値VT1未満となった場合(NO)には、第1の単電池(単電池10A)において急激な発熱が生じていないと判断してステップS50に進む。かかるステップS50の詳細は後述する。
【0031】
次に、ステップS36では、第1の単電池と隣接した単電池を第2の単電池として選択する。ここに開示される技術を限定するものではないが、本実施形態では、配列方向Xの下流側Dにおいて第1の単電池と隣接した単電池を第2の単電池として選択している。例えば、
図1中の単電池10Aが第1の単電池である場合には、当該単電池10Aの下流側Dに隣接した単電池10Bが第2の単電池として選択される。
【0032】
そして、ステップS38では、第2の単電池の電圧V2(単電池10Bの電圧VB)と基準電圧値VS(平均電圧Vave)との電圧差である第2の電圧差(VS-V2)を算出し、当該第2の電圧差が第2の閾値VT2以上であるか否かを判定する(VS-V2≧VT2?)。なお、第2の閾値VT2は、上記第1の閾値VT1と同様に、急激な発熱が生じた二次電池における電圧低下量を考慮して設定された値であり、予備試験の結果などを考慮して適宜設定できる。かかる第2の閾値VT2は、第1の閾値VT1と同じ値に設定してもよいし、異なる値に設定してもよい。ここに開示される技術を限定するものではないが、第2の閾値VT2も、50mV~150mVの範囲内(例えば100mV)に設定することができる。
【0033】
なお、このステップS38では、予め設定した検査時間の間、第2の電圧差(VC-V2)が第2の閾値VT2以上であるか否かの判定を継続して実施することが好ましい。これによって、第1の単電池で生じた熱が第2の単電池に伝播するまでのタイムラグを考慮できるようになるため、さらに正確に熱連鎖を検出できるようになる。なお、ステップS34において設定される検査時間は、特に限定されず、単電池間の熱伝播速度を測定した予備試験の結果などを考慮して適宜設定できる。一例として、検査時間は、15秒~450秒の範囲内(例えば300秒)で設定されることが好ましい。
【0034】
そして、本ステップS38において、第2の電圧差(VS-V2)が第2の閾値VT2以上となった場合(YES)には、第1の単電池(単電池10A)と第2の単電池(単電池10B)の両方で急激な発熱が生じているため、これらの単電池10A、10Bの間で熱連鎖が生じていると判断される。この場合には、ステップS40に進んで熱連鎖の発生をユーザーに通知した後に熱連鎖の検査を終了する。なお、熱連鎖の発生を通知する手段は特に限定されず、例えば、視覚的な表示(ディスプレイへの表示)、音声等による通知(アラームによる通知)などを特に制限なく採用できる。
【0035】
一方、第1の単電池に急激な発熱が生じていないと判断された場合(ステップS34:NO)や、第1の単電池と第2の単電池との間で熱連鎖が生じていないと判断された場合(ステップS38:NO)には、未選択電池の存在を確認するステップS50に進む。具体的には、ステップS50では、組電池100を構成する複数の単電池10A~10Nの中に、検査対象(第1の単電池)として選択されていない単電池(未選択電池)が存在しているか否かを確認する。そして、未選択電池が存在する場合(YES)には、検査処理をステップS32に戻して未選択電池の中から第1の単電池を選択して再度検査を実施する。一方、未選択電池が存在しない場合(NO)には、組電池100を構成する全ての単電池10A~10Nにおいて熱連鎖が生じていないと判断して検査処理を終了する。
【0036】
以上の通り、本実施形態に係る検査方法では、第1の単電池の電圧V1と基準電圧値VSとの電圧差である第1の電圧差(VS-V1)が第1の閾値VT1以上となり、かつ、第1の単電池に隣接した第2の単電池の電圧V2と基準電圧値VSとの電圧差である第2の電圧差(VS-V2)が第2の閾値VT2以上となった場合に、第1の単電池と第2の単電池との間で熱連鎖が生じていると判断する。かかる構成の検査方法は、各単電池10A~10Nの現状の電圧VA~VNに基づいた基準電圧値VSと各単電池10A~10Nの電圧VA~VNとを比較する相対評価を行っている。これによって、他の単電池と比べて異常な電圧低下が生じている単電池を検出し、当該単電池の周囲で熱連鎖が生じているか否かを検出できる。そして、本実施形態に係る検査方法では、異常な電圧低下が確認できた時点で熱連鎖の発生を検出できるため、電圧が0V付近まで低下するまで熱連鎖を検出できない従来技術と比べて早期に熱連鎖を検知できる。また、本実施形態における基準電圧値VS(平均電圧Vave)は、充放電に伴う各単電池の電圧変化が反映されているため、当該充放電反応に伴う電圧変化によって誤検知が生じることも防止できる。
【0037】
3.他の実施形態
以上、ここに開示される検査方法の一実施形態について説明した。なお、上述した実施形態は、ここに開示される検査方法を限定することを意図したものではなく、種々の点を変更することができる。
【0038】
(1)基準電圧値VSの算出
上述の実施形態では、基準電圧値VSとして平均電圧Vaveを採用している。しかし、基準電圧値VSは、ここに開示される技術の効果を著しく損なわない限り、特に限定されず、平均電圧Vave以外の電圧値を採用することもできる。
【0039】
例えば、
図4に示すように、上述した実施形態で採用している平均電圧V
aveには、検査対象の単電池の電圧(第1の単電池の電圧V
1および第2の単電池の電圧V
2)が含まれている。このため、第1の単電池の電圧V
1と第2の単電池の電圧V
2が大幅に低下している場合に、基準電圧値V
S(平均電圧V
ave)が正常な電圧値よりも低い値になってしまう可能性がある。このため、基準電圧値V
Sとして平均電圧を採用する場合には、
図5に示すように、組電池100を構築する複数の単電池10A~10Nから第1の単電池と第2の単電池を除いた他の単電池の平均電圧V
ave(n-2)を算出した方が好ましい。これによって、熱連鎖をさらに正確に検出することができる。
【0040】
また、基準電圧値V
Sには、平均電圧以外の電圧値を採用することもできる。かかる基準電圧値V
Sの他の例として、組電池100を構成する複数の単電池10A~10Nにおける最大電圧V
maxが挙げられる(
図6参照)。かかる最大電圧V
maxを基準電圧値V
Sとして採用した場合、当該基準電圧値V
Sに対する電圧差(V
S-V
1およびV
S-V
2)が大きくなるため、発熱初期の僅かに電圧が低下した単電池を検出しやすくなる。また、詳しい説明は省略するが、基準電圧値V
Sは、上述した平均値や最大値の他に、複数の単電池10A~10Nの電圧V
A~V
Nの中央値や最頻値などであってもよい。
【0041】
(2)第1の単電池の選択
また、上述の実施形態に係る検査方法では、
図3中のステップS32に示すように、複数の単電池10A~10Nの中から1つの単電池を第1の電池(検査対象)として選択し、当該第1の電池の周囲で熱連鎖が生じているか否かを検査している。そして、選択した第1の電池の周囲で熱連鎖が生じていない場合には、ステップS50を経由して検査処理をステップS32に戻し、未選択電池の中から第1の単電池を選択して再度検査を行っている。しかしながら、検査対象である第1の単電池を選択する手順は、上述の実施形態に限定されない。例えば、複数の単電池10A~10Nの電圧V
A~V
Nの全てに対して基準電圧値V
Sとの電圧差(V
S-V
A~V
S-V
N)を算出し、当該電圧差(V
S-V
A~V
S-V
N)が第1の閾値V
T1以上となった単電池を「第1の単電池」とみなし、当該単電池の周囲で熱連鎖が生じているか否かを検査するという手順を採用することもできる。
【0042】
(3)第2の単電池の選択
上述の実施形態に係る検査方法では、第1の単電池の下流側に隣接した単電池を第2の単電池とみなし、当該第2の単電池において異常な電圧低下が生じているか否かを判定することによって熱連鎖の発生を検査している(
図3中のステップS36、S38参照)。しかし、第2の単電池を選択する手順も、上述の実施形態に限定されない。例えば、第1の単電池の両側に配列された一対の単電池の両方を第2の単電池とみなし、当該一対の第2の単電池の少なくとも一方において異常な電圧低下が生じている場合に熱連鎖が発生していると判定してもよい。
【0043】
(4)第2の基準電圧値VS2の設定
また、上述の通り、ここに開示される検査方法は、各単電池の電圧に基づいて算出した基準電圧値VSと各単電池の電圧とを比較する相対評価を行うことによって、異常な電圧低下が生じている単電池を検出していることを特徴としている。しかしながら、かかる特徴は、所定の値に固定された基準電圧値との比較を行う絶対評価との組み合わせを否定するものではない。すなわち、ここに開示される検査方法は、各単電池の電圧に基づいて算出した第1の基準電圧値VS1との比較を行う相対評価とは別に、第1の単電池の電圧V1と第2の単電池の電圧V2が、予め定められた第2の基準電圧値VS2以下である場合に熱連鎖が発生していると判定する絶対評価を実施してもよい。これによって、組電池を構成する全ての単電池で急激な電圧低下が同時に発生し、第1の基準電圧値VS1が大きく低下した場合でも、熱連鎖の発生を確実に検出することができる。なお、第2の基準電圧値VS2は、急激な発熱が生じた二次電池の電圧値を考慮して設定された値であり、予備試験の結果などを考慮して適宜設定できる。ここに開示される技術を限定するものではないが、第2の基準電圧値VS2は、1V以下が好ましく、0.5V以下がより好ましく、0.1V以下(例えば0V付近)が特に好ましい。
【0044】
以上、具体的な実施形態を挙げて、ここに開示される技術を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に記載した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0045】
10A~10N 単電池
12 電池ケース
14 正極端子
16 負極端子
20 接続部材
32、34 拘束板
36 架橋部材
40 緩衝板
100 組電池