(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】細胞浮揚およびモニタリングのための系および方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/24 20060101AFI20231017BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20231017BHJP
G01N 33/49 20060101ALI20231017BHJP
C12M 1/42 20060101ALI20231017BHJP
C12M 1/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
C12Q1/24
G01N33/48 M
G01N33/49 A
C12M1/42
C12M1/00 Z
(21)【出願番号】P 2021211834
(22)【出願日】2021-12-27
(62)【分割の表示】P 2020005012の分割
【原出願日】2015-02-26
【審査請求日】2022-01-26
(32)【優先日】2014-10-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505270980
【氏名又は名称】ブリガム・アンド・ウイミンズ・ホスピタル・インコーポレイテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】516256308
【氏名又は名称】ボード オブ トラスティーズ オブ ザ レランド スタンフォード ジュニア ユニバーシティ
(73)【特許権者】
【識別番号】507316413
【氏名又は名称】ベス イスラエル デアコネス メディカル センター
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(72)【発明者】
【氏名】デミルチ ウトカン
(72)【発明者】
【氏名】ジラン イオニタ
(72)【発明者】
【氏名】タソグル サバス
(72)【発明者】
【氏名】デイヴィス ロナルド ダブリュ.
(72)【発明者】
【氏名】シュタインメッツ ラース
(72)【発明者】
【氏名】ドュルミュシュ ナシデ ゴズデ
(72)【発明者】
【氏名】テキン フセイン クムフル
【審査官】大久保 元浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/044089(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/037732(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0314080(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q
C12M
C12N
Google Scholar
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞異質集団を分離する方法であって:
細胞異質集団のサンプルを磁気反応培地中に含有するマイクロキャピラリチャンネルを、重力方向に対して水平方向になるように浮揚系中に配置し、浮揚系が、
磁場をもたらす2個一組の磁石であって、2個の磁石間の空間が、マイクロキャピラリチャンネルを受け入れるように大きさが設定されている、2個一組の磁石と、;
マイクロキャピラリチャンネル内の細胞異質集団を画像化するために配置された顕微鏡検査装置と、
を備える工程と、;
磁石の磁場によって個々の細胞に及ぶ磁力を細胞の補正重力と磁気反応培地中でバランスをとることにより細胞異質集団を分離して、磁気反応培地中の細胞異質集団を浮揚させる工程と、;
顕微鏡検査装置を使用して細胞異質集団の画像を取得し、画像を分析して細胞異質集団を特徴付ける工程と、
を含む方法。
【請求項2】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、細胞異質集団の形態的な差異の評価を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、浮揚高さの範囲にわたって細胞分布プロフィールを生成することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
顕微鏡検査装置を使用した細胞異質集団の画像の取得が、一定期間にわたる細胞異質集団のさまざまな画像を提供するために細胞異質集団をリアルタイムで観察することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、蛍光画像と明視野画像を重ねることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
細胞異質集団が、磁化率および細胞密度の少なくとも1つにおいて、他の細胞から分離され、細胞の変異がこの差異を生じさせ、
細胞の変異が、細胞型、細胞周期のステージ、悪性腫瘍、疾患状態、活性化状態、細胞齢、感染状態、細胞分化、細胞のアポトーシス、および細胞の食作用からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
個々の細胞を分離して、個々の細胞に及ぶ重力と磁力間のバランスを示す平衡に至らす工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
細胞異質集団が、赤血球、白血球、リンパ球、食細胞、血小板、および癌細胞からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
癌細胞が、健康な細胞から分離される、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
顕微鏡検査装置が、水平方向に横にした正立蛍光顕微鏡、側視顕微鏡、携帯電話カメラ、レンズのない電荷結合素子(CCD)もしくは相補型MOS(CMOS)系、または倒立顕微鏡である、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
磁気反応培地が、常磁性培地であり、かつ、ガドリニウムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
細胞異質集団を、顕微鏡検査装置によってリアルタイムで観察する工程をさらに含み、顕微鏡検査装置は、細胞異質集団の種々の画像を、持続期間にわたって提供する、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
細胞異質集団中に処理剤を導入する工程と、処理剤の導入の結果としての細胞異質集団の反応を観察する工程と、をさらに含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
浮揚工程中に、細胞異質集団中の生細胞が、死細胞から分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
細胞のリアルタイムインタロゲーション法であって:
細胞異質集団のサンプルを磁気反応培地中に含有するマイクロキャピラリチャンネルを、重力方向に対して水平方向になるように浮揚系中に配置し、浮揚系が、
磁場をもたらす2個一組の磁石であって、前記2個の磁石間の空間が、前記マイクロキャピラリチャンネルを受け入れるように大きさが設定されている、2個一組の磁石と;
マイクロキャピラリチャンネル内の細胞異質集団を画像化するために配置された顕微鏡検査装置と、
を備える工程と、;
磁石の磁場によって個々の細胞に及ぶ磁力を細胞の補正重力と磁気反応培地中でバランスをとることにより細胞異質集団を分離して、磁気反応培地中の細胞異質集団を浮揚させる工程と、;
顕微鏡検査装置を使用して細胞異質集団の画像を取得し、画像を分析して細胞異質集団を特徴付ける工程と、
を含む方法。
【請求項16】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、細胞異質集団の形態的な差異の評価を含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、浮揚高さの範囲にわたって細胞分布プロフィールを生成することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
顕微鏡検査装置を使用した細胞異質集団の画像の取得が、一定期間にわたる細胞異質集団のさまざまな画像を提供するために細胞異質集団をリアルタイムで観察することを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、蛍光画像と明視野画像を重ねることを含む、請求項15に記載の方法。
【請求項20】
細胞異質集団が、磁化率および細胞密度の少なくとも1つにおいて、他の細胞から分離され、細胞の変異がこの差異を生じさせ、
細胞の変異が、細胞型、細胞周期のステージ、悪性腫瘍、疾患状態、活性化状態、細胞齢、感染状態、細胞分化、細胞のアポトーシス、および細胞の食作用からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
個々の細胞を分離して、個々の細胞に及ぶ重力と磁力間のバランスを示す平衡に至らす工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
細胞異質集団が、赤血球、白血球、リンパ球、食細胞、血小板、および癌細胞からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。
【請求項23】
癌細胞が、健康な細胞から分離される、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
前記細胞異質集団が、患者サンプルである血液中で浮揚する、請求項15に記載の方法。
【請求項25】
浮揚工程中に、細胞異質集団中の生細胞が、死細胞から分離される、請求項15に記載の方法。
【請求項26】
磁化率の差異に基づいて細胞異質集団を分離する浮揚系であって、浮揚系が、
前記細胞異質集団のサンプルを磁気反応培地中に含有し、重力方向に対して水平方向になるように配置したマイクロキャピラリチャンネルと、
磁場をもたらす2個一組の磁石であって、前記2個の磁石間の空間が、前記マイクロキャピラリチャンネルを受け入れるように大きさが設定されている、2個一組の磁石と、
前記マイクロキャピラリチャンネル内の細胞異質集団を画像化するために配置された顕微鏡検査装置と;
を備え、
顕微鏡検査装置を使用して細胞異質集団の画像を取得し、かつ細胞異質集団を特徴付ける画像を分析する、
浮揚系。
【請求項27】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、細胞異質集団の形態的な差異の評価を含む、請求項26に記載の浮揚系。
【請求項28】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、浮揚高さの範囲にわたって細胞分布プロフィールを生成することを含む、請求項26に記載の浮揚系。
【請求項29】
顕微鏡検査装置を使用した細胞異質集団の画像の取得が、一定期間にわたる細胞異質集団のさまざまな画像を提供するために細胞異質集団をリアルタイムで観察することを含む、請求項26に記載の浮揚系。
【請求項30】
細胞異質集団を特徴付ける画像の分析が、蛍光画像と明視野画像を重ねることを含む、請求項26に記載の浮揚系。
【請求項31】
顕微鏡検査装置が、水平方向に横にした正立蛍光顕微鏡、側視顕微鏡、携帯電話カメラ、レンズのない電荷結合素子(CCD)もしくは相補型MOS(CMOS)系、または倒立顕微鏡である、請求項26に記載の浮揚系。
【請求項32】
2個一組の磁石が、アンチヘルムホルツ構成にある永久磁石である、請求項26に記載の浮揚系。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年2月26日出願の米国特許仮出願第61/944707号明細書(表題「System and Method of Cell Monitoring
and/or Separation」)の利益を主張し、さらに、2014年10月29日出願の米国特許仮出願第62/072040号明細書(表題「System and Method for Cell Levitation and Monitoring」)の利益を主張する。これらの出願の内容は、全ての目的について、その全体が引用を以て本明細書中に組み込まれる。
【0002】
連邦政府による資金提供を受けた研究開発の記載
本発明は、国立科学財団によって授与された契約CBET 1150733、ならびに国立衛生研究所によって授与されたR01 AI093282、R15 HL115556、R01EB015776-01A1、R21HL112114、R01 HL096795、およびP01 HG000205の下に、政府支援を受けてなされた。政府は、本発明において、一定の権利を有する。
【0003】
本開示は、細胞の異質集団の浮揚(levitation)に関する。より詳細には、細胞と懸濁培地間の磁化率(magnetic susceptibility)の差異、および磁力と補正重力(corrected gravitational force)間のバランスに基づく細胞の分離に関する。
【背景技術】
【0004】
磁気浮揚は伝統的に、個々の巨視的対象の密度および磁化率の分析のために、そして食物を分離し、乳、チーズおよびピーナッツバター中の脂肪含有量を測定し、種々の粒体をそれらの固有の密度に基づいて比較し、対象の自己集合を導き、かつ法医学に関する証拠を特徴付けるのに有効な手段として用いられてきた。これらのより初期の磁気浮揚ベースの実験は、大きなセットアップを用いて実行されたが、顕微鏡検査との適合性もなければ、顕微鏡検査に向いてもいなかった。
【0005】
多種多様な(生理学的、病理学的双方の)細胞プロセスが、細胞内の常磁性の反応性種、例えば活性酸素種(ROS)または活性窒素種(RNS)の形成または消失による、細胞の容量測定質量密度(volumetric mass density)または磁気情報(magnetic signature)の一時的な変化または不変の変化を伴う。これらの事象として、細胞周期のステージ、分化、細胞死(アポトーシス/壊死)、悪性腫瘍、疾患状態、活性化、食作用、in vivoおよびex vivo細胞エージング、ウィルス感染、ならびに薬剤に対する特異的反応および非特異的反応が挙げられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高い精度で生単細胞の密度を測定する試みが、ごく少数あった。そのような一技術は、低スループットを実現するナノ製造された懸濁マイクロチャンネル共振子、および様々な密度の流体間で細胞を運ぶための精巧なポンプ機構を用いる必要を含む。したがって、細胞の磁気情報および容量測定質量密度の、高い解像度のリアルタイムモニタリングおよび定量化のために設計された信頼性が高いツールが、複雑な細胞機構の解明の助けとなるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、顕微鏡検査装置と適合性があり、かつ細胞に及ぶ補正重力と、磁石によって誘導される磁力間のバランスに基づいて細胞を分離する細胞の浮揚系を提供することによって、上述の欠点を克服する。補正重力は、細胞に及ぶ重力であり、以下の発明を実施するための形態の項においてより詳細に概説されるように、特定の培地における特定の細胞の比較密度(すなわち、細胞の浮力)に相当する(accounting for)ものである。
【0008】
本発明の一態様に従えば、細胞の異質集団を分離する方法が提供される。本方法は、細胞の異質集団のサンプルを、磁気反応培地(例えば、常磁性培地、反磁性培地、または分離に十分な環境差異をもたらすことができるラジカルを含有する溶液)を含有するマイクロキャピラリチャンネル中にロードする工程と、細胞のサンプルおよび磁気反応培地を含有するマイクロキャピラリチャンネルを、浮揚系中に配置する工程と、磁気反応培地中の細胞の異質集団を浮揚させる工程とを含む。用いられる浮揚系は、磁場をもたらす2個一組の磁石で構成され、2個の磁石間の空間が、マイクロキャピラリチャンネルを受け入れるように大きさが設定されている。加えて、浮揚系は、マイクロキャピラリチャンネルが配置されるステージを、2個一組の磁石間に有する顕微鏡検査装置を備える。細胞の浮揚工程は、磁石の磁場によって各細胞に及ぶ磁力を、細胞の補正重力と磁気反応培地中でバランスをとって、結果的に細胞の異質集団を分離することによって起こる。本機構は、以前に実行されたもの(磁力を補正重力とバランスをとるのではなくむしろ、磁力を慣性力および抗力とバランスをとることが知られている)と反対である。
【0009】
一部の特定の形態において、細胞の異質集団は、赤血球、白血球、リンパ球、食細胞、血小板、癌細胞等の異質集団から選択されてよい。磁気反応培地は、常磁性培地であること、そしてガドリニウムを含むこと、またはガドリニウムベースであることも可能であり、培地は、純粋なガドリニウムであってもよいし、付加的な成分を容認してもよい。
【0010】
更なる可能性において、細胞の異質集団内の個々の細胞は、磁化率、および細胞の変異によって生じる細胞密度の少なくとも1つに基づいて、他の細胞から分離され得る。細胞の変異は、細胞間の多様な差異、例えば細胞型、細胞周期のステージ、悪性腫瘍、疾患状態、活性化状態、細胞齢、感染状態、細胞分化、細胞のアポトーシス、および細胞の食作用によって生じ得る。
【0011】
一部の形態において、磁場勾配は、電磁石を用いて形成されてもよい。この電磁石は、交流電流を用いて勾配を生じさせることができる。一部の形態において、2個一組の磁石は、アンチヘルムホルツ構成にある2個の永久磁石であってよい。
【0012】
一部の形態において、個々の細胞の分離が生じて、個々の細胞に及ぶ重力と磁力間のバランスを示す平衡に至り得る。
【0013】
さらに、用いられる浮揚系は、遠隔診断に用いられ得るモバイル装置に干渉しないため、細胞の集団の分離は、ポイント・オブ・ケア時に実行することが可能である。
【0014】
本方法の一部の形態において、本方法はさらに、細胞の異質集団を、顕微鏡検査装置を用いてリアルタイムで観察する工程を含んでよく、顕微鏡検査装置は、細胞の異質集団の種々の画像を、持続期間にわたって提供することができる。
【0015】
この持続期間にわたって、更なる工程が実行されてよい。例えば、細胞の異質集団の物理的環境が変更されてよく、物理的環境の結果としての細胞の異質集団の反応が観察され得る。別の例として、処理剤(例えば、薬剤または抗生物質等)が、細胞の異質集団中に
導入されてよく、処理剤の導入の結果としての細胞の異質集団の反応が観察され得る。処理剤が導入されるならば、本方法はさらに、処理剤に対する細胞の異質集団の耐性の出現を確認するための、細胞の異質集団の継続的な反応をモニターする工程を含んでよい。
【0016】
一部の形態において、細胞の異質集団中の個々の細胞が、観察する工程中に個々にモニターされ得、かつ追跡され得る。
【0017】
本方法の一部の形態において、観察する工程は、細胞周期の異なる期間の間、細胞の異質集団をモニターする工程を含んでよい。
【0018】
本方法の一部の形態において、細胞の異質集団は、患者サンプル中で浮揚し得、さらに、患者サンプルは血液でもよいと考えられる。勿論、血液はほんの一例であり、患者サンプルは、血液のみに限定されると考えられない。
【0019】
本方法の一部の形態において、健康な細胞は、不健康な細胞から分離され得る。例えば、癌細胞が、健康な細胞から分離され得る。別の例として、赤血球が浮揚して、I型糖尿病の存在が検出され得る。
【0020】
本方法の一部の形態において、浮揚工程中に、細胞の異質集団中の生細胞が、死細胞から分離され得る。細胞の異質集団中の死細胞からの生細胞のこの分離が用いられて、例えば、処理剤の有効性が判定され得、または細胞に及ぼす物理的環境の変化の影響が判定され得る。
【0021】
本方法の他の形態において、分離工程中に、様々な微生物が互いから分離され得る。
【0022】
本方法の一部の形態において、少なくとも一部の細胞の異質集団の特性が、マイクロキャピラリチャンネル中の細胞の測定された高さによって判定され得る。このようにして、不健康な細胞が、参照健康細胞と比較されずとも検出され得る。
【0023】
本方法の更なる態様において、浮揚系は、マイクロキャピラリチャンネルの第1の開放側にある第1の鏡と、マイクロキャピラリチャンネルの第2の開放側にある第2の鏡とを備えていてもよく、鏡は、鏡間の経路に対して斜角に向きを定められている。細胞を浮揚させながら、本方法はさらに、細胞集団のリアルタイム分析を可能にするために、顕微鏡内の光源からの光を、第1の鏡によって、細胞のサンプルに通して、第2の鏡に向けて反射する工程を含んでよい。顕微鏡検査装置はまた、水平方向に横にした(leveled
horizontally on its side)正立蛍光顕微鏡であることも可能であり、鏡を用いた光の反射を必要としない細胞集団のイメージングが可能となる。加えて、顕微鏡検査装置は、側視顕微鏡、携帯電話カメラ、レンズのない電荷結合素子(CCD)もしくは相補型MOS(CMOS)系、または倒立顕微鏡であってよい。
【0024】
本発明の別の態様に従えば、細胞のリアルタイムインタロゲーション法が提供される。本方法は、細胞の異質集団のサンプルを、磁気反応培地を含有するマイクロキャピラリチャンネル中にロードする工程と、細胞のサンプルおよび磁気反応培地を含有するマイクロキャピラリチャンネルを、浮揚系中に配置する工程と、磁気反応培地中の細胞の異質集団を浮揚させる工程と、磁気反応培地の磁気性質を変更する工程とを含む。ここでも、用いられる浮揚系は、磁場をもたらす2個一組の磁石で構成され、2個の磁石間の空間が、マイクロキャピラリチャンネルを受け入れるように大きさが設定されている。加えて、本系は、マイクロキャピラリチャンネルが配置されるステージを、2個一組の磁石間に有する顕微鏡検査装置を備える。細胞の浮揚は、磁石の磁場によって各細胞に及ぶ磁力を、細胞の補正重力と磁気反応培地中でバランスをとって、結果的に細胞の異質集団を分離するこ
とによって起こる。
【0025】
先に記載されたように、細胞の異質集団は、赤血球、白血球、リンパ球、食細胞、血小板、癌細胞等の異質集団から選択することが可能である。磁気反応培地は、常磁性培地であること、そしてガドリニウムを含むこと、またはガドリニウムベースであることも可能であり、培地は、純粋なガドリニウムであってもよいし、付加的な成分を容認してもよい。更なる可能性において、磁気反応培地の磁気性質を局所的に変更する工程が、磁気反応培地を低強度レーザービームに曝すことによって達成されてよい。
【0026】
一部の形態において、細胞の異質集団内の個々の細胞は、磁化率、および細胞の変異によって生じる細胞密度の少なくとも1つに基づいて、他の細胞から分離され得る。細胞の変異は、細胞間の多様な差異、例えば細胞型、細胞周期のステージ、悪性腫瘍、疾患状態、活性化状態、細胞齢、感染状態、細胞分化、細胞のアポトーシス、および細胞の食作用によって生じ得る。
【0027】
さらに、個々の細胞の分離が生じて、個々の細胞に及ぶ重力と磁力間のバランスを示す平衡に至ることが可能である。
【0028】
さらに、用いられる浮揚系は、遠隔診断に用いられ得るモバイル装置に干渉しないため、細胞の集団の分離は、ポイント・オブ・ケア時に実行され得る。
【0029】
一部の形態において、浮揚系はさらに、マイクロキャピラリチャンネルの第1の開放側にある第1の鏡と、マイクロキャピラリチャンネルの第2の開放側にある第2の鏡とを備えていてもよく、鏡は、鏡間の経路に対して斜角に向きを定められている。細胞を浮揚させながら、本方法はさらに、細胞集団のリアルタイム分析を可能にするために、顕微鏡内の光源からの光を、第1の鏡によって、細胞のサンプルに通して、第2の鏡に向けて反射する工程を含んでよい。一部の形態において、顕微鏡検査装置は、水平方向に横にした正立蛍光顕微鏡であってよく、鏡を用いた光の反射を必要としないで、細胞集団のイメージングが可能となる。他の形態において、顕微鏡検査装置は、側視顕微鏡、携帯電話カメラ、レンズのない電荷結合素子(CCD)もしくは相補型MOS(CMOS)系、または倒立顕微鏡であってよい。
【0030】
ここでも、磁石はいくつかの異なる形態をとってよい。例えば、磁石は、アンチヘルムホルツ構成にある一対の永久磁石であってよい。別の例として、磁石は電磁石であってよい。電磁石に交流電流を通すことによって、磁場勾配が生じ得る。
【0031】
本方法の一部の形態において、本方法はさらに、細胞の異質集団を、顕微鏡検査装置を用いてリアルタイムで観察する工程を含んでよく、顕微鏡検査装置は、細胞の異質集団の種々の画像を、持続期間にわたって提供することができる。
【0032】
この持続期間にわたって、更なる工程が実行されてよい。例えば、細胞の異質集団の物理的環境が変更されてよく、物理的環境の結果としての細胞の異質集団の反応が観察され得る。別の例として、処理剤(例えば、薬剤または抗生物質等)が、細胞の異質集団中に導入されてよく、処理剤の導入の結果としての細胞の異質集団の反応が観察され得る。処理剤が導入されるならば、本方法はさらに、処理剤に対する細胞の異質集団の耐性の出現を確認するための、細胞の異質集団の継続的な反応をモニターする工程を含んでよい。
【0033】
一部の形態において、細胞の異質集団中の個々の細胞が、観察する工程中に個々にモニターされ得、かつ追跡され得る。
【0034】
本方法の一部の形態において、観察する工程は、細胞周期の異なる期間の間、細胞の異質集団をモニターする工程を含んでよい。
【0035】
本方法の一部の形態において、細胞の異質集団は、患者サンプル中で浮揚し得、さらに、患者サンプルは血液でもよいと考えられる。勿論、血液はほんの一例であり、患者サンプルは、血液のみに限定されると考えられない。
【0036】
本方法の一部の形態において、健康な細胞は、不健康な細胞から分離され得る。例えば、癌細胞が、健康な細胞から分離され得る。別の例として、赤血球が浮揚して、I型糖尿病の存在が検出され得る。
【0037】
本方法の一部の形態において、浮揚工程中に、細胞の異質集団中の生細胞が、死細胞から分離され得る。細胞の異質集団中の死細胞からの生細胞のこの分離が用いられて、例えば、処理剤の有効性が判定され得、または細胞に及ぼす物理的環境の変化の影響が判定され得る。
【0038】
本方法の他の形態において、分離工程中に、様々な微生物が互いから分離され得る。
【0039】
本方法の一部の形態において、少なくとも一部の細胞の異質集団の特性が、マイクロキャピラリチャンネル中の細胞の測定された高さによって判定され得る。このように、不健康な細胞が、参照健康細胞と比較されずとも検出され得る。
【0040】
本発明のさらに別の態様に従えば、細胞の異質集団を分離する浮揚系が教示される。本系は、磁場をもたらす2個一組の磁石であって、2個の磁石間の空間が、細胞の異質集団を受け入れるように構成されたマイクロキャピラリチャンネルを受け入れるように大きさが設定されている、2個一組の磁石と、マイクロキャピラリチャンネルが配置されるステージを、2個一組の磁石間に有する顕微鏡検査装置とを備える。
【0041】
さらに、本系は、マイクロキャピラリチャンネルの第1の開放側にある第1の鏡と、マイクロキャピラリチャンネルの第2の開放側にある第2の鏡とを備えてよく、鏡は、鏡間の経路に対して斜角に向きを定められている。一部の形態において、顕微鏡検査装置は、水平方向に横にした正立蛍光顕微鏡であってよいと考えられる。他の形態において、顕微鏡検査装置は、例えば、側視顕微鏡、携帯電話カメラ、レンズのない電荷結合素子(CCD)もしくは相補型MOS(CMOS)系、または倒立顕微鏡その他であってよい。
【0042】
ここでも、系における磁石は、いくつかの異なる形態または構成をとってよい。例えば、磁石は、アンチヘルムホルツ構成にある一対の永久磁石であってよい。別の例として、磁石は電磁石であってよい。電磁石に交流電流を通すことによって、磁場勾配が生じ得る。
【0043】
本発明のこれらの利点およびさらに他の利点が、発明を実施するための形態および図面から明らかとなろう。以下は単に、本発明の好ましい実施形態の記載でしかない。本発明の完全な範囲を評価するには、特許請求の範囲に目を向けるべきである。なぜなら、好ましい実施形態は、特許請求の範囲内の唯一の実施形態であることが意図されないからである。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】細胞の磁気浮揚媒介スクリーニングおよびモジュレーションを詳述する図である。
図1aは、磁場における磁気細胞浮揚および操作の概略図である。
図1bは、細胞と培地の磁化率の差異によって細胞に及ぶ力の概略図である。
図1cは、磁気浮揚系の複数の図である。
図1dは、アンチヘルムホルツ構成の磁石によって誘導された磁場勾配の正面および側面の輪郭プロットである。
図1eは、40mM Gd
+溶液中のRBCの細胞培養体画像である。
【
図2】磁気浮揚を用いた細胞分離の特徴付けを詳述する図である。
図2aは、単球、リンパ球、好塩基球、PMN、好酸球、およびRBCの密度ヒストグラムである。
図2bは、30mM Gd
+中で磁気駆動されて、密度ベースの分離を受けた、蛍光標識RBC、PMN、およびリンパ球の細胞培養体画像である。
図2cは、20、35、50、および100mM Gd
+中で浮揚するRBCの細胞培養体画像である。
図2dは、古いRBCおよび若いRBCが分離する、細胞培養体のタイムラプス画像セットである。
図2eは、平衡浮揚高さでの、古いRBCおよび若いRBCの蛍光標識細胞培養体画像である。
図2fは、古いRBCおよび若いRBCの平衡高さの関数としての分析平衡時間のグラフ図である。
図2gは、磁気浮揚装置において沈降したRBCが浮揚する、細胞培養体のタイムラプス画像セットである。
図2hは、マイクロキャピラリの底面から平衡点に浮揚するRBCの時間依存位置のグラフ図である。
【
図3】機能的に変更された血球の静的浮揚を詳述する図である。
図3aは、PMA活性化と関連するPMN密度の変化を詳述する蛍光標識細胞培養体の画像である。
図3bは、浮揚する、活性化PMN、及び、静止PMNの低倍率画像であり、挿入図は、形状差異および光学密度差異を示す。
図3cは、静止PMNと活性化PMN間の真円度差異の図的記述である。
図3dは、静止PMNおよび活性化PMNに関する蛍光活性化細胞の播種結果である。
図3eは、静止PMNと、活性化PMNと、GSH処理済みPMN間の制限高さ(confinement height)の差異を詳述する細胞培養体画像である。
図3fは、磁気駆動されて密度分離した血球の細胞培養体画像である。左側のパネルは、PMN、リンパ球、および血小板を示す。右側のパネルは、静止PMN、活性化PMN(矢印)、および2つの好酸球(矢尻)を示す。
図3gは、PMNの同型(homo-typical)凝集を詳述する、浮揚の2時間後の細胞培養体画像である。
図3hは、ヒトPMNによるサルモネラ菌の食作用を詳述する細胞培養体画像である。
【
図4】磁気的に浮揚した血球の機能的インタロゲーションを詳述する図である。
図4aは、局所化レーザー照射を介した細胞または細胞の離散的な群の操作を示す。
図4bは、UV刺激による制限高さの上昇、および常磁性媒介細胞クラスタリング(破線の円)を示す細胞培養体画像のセットである。
図4cは、細胞クラスタリングおよび浮揚の低下を引き起こす、細胞内ATPの増大によるRBCの磁気性質の変化を示す細胞培養体画像セットである。
【
図5】臨床ポイント・オブ・ケア診断のための磁気浮揚の汎用性を詳述する図である。
図5aは、乳癌細胞(TC)が添加された希釈血液由来の、TC、PMN、およびリンパ球の浮揚の明視野像を示す。
図5bは、浮揚細胞の蛍光イメージングであり、TCは、上段におけるより大きな細胞である。
図5cは、
図5aおよび
図5bの統合図である。
図5dは、10mMピロ亜硫酸Naの存在下で浮揚した健康なRBCの細胞培養体画像である。
図5eは、10mMピロ亜硫酸Naの存在下で浮揚した鎌状RBCの細胞培養体画像である。
【
図6】浮揚系の一実施形態の概略図である。
図6aは、浮揚系の注釈付き写真である。
図6bは、一部の支持要素の寸法を示す。
【
図7】懸濁細胞と常磁性培地間の密度差異の関数としての平衡高さのグラフ図である。
【
図8】非小細胞肺癌(NSCLC)細胞(HCC-827)が添加された血球の顕微鏡写真、および対応する観察細胞分布プロフィールである。この実験のために、RBCを先立って溶解させ、細胞が、30mM Gadavist(Gd
+)溶液を用いてソートした。
【
図9】患者血液サンプルから検出された非小細胞肺癌細胞(NSCLC)の顕微鏡写真である。
【
図10】乳癌細胞の分離効率を示す図である。
図10aは、血液中に添加された蛍光標識乳癌細胞(MDA)の顕微鏡写真である。
図10bは、血液サンプル中に異なる濃度で添加された乳癌細胞の分離効率を示しており、データ点は、3反復の平均±誤差棒(標準偏差)を表す。
【
図11】健常者および白血病患者の末梢血単核球細胞(PBMC)の観察プロフィールを示す図である。
【
図12】塩酸(HCl)への適用後の、単細胞のリアルタイム密度変化を示す図である。
図12aは、コントロール(未処理)およびHCl処理済みMDA乳癌細胞の顕微鏡写真を示しており、コントロール細胞は、その浮揚高さ(すなわち、密度)を維持しているが、HCl適用細胞は、チャンネルの底部に沈んでいる(すなわち、z=-500μm)。
図12bは、HCl適用単細胞のリアルタイム観察を詳述しており、生存度アッセイもまた、生細胞についてCalcein(緑色の蛍光)を、そして死細胞についてPropidium Iodine(赤色の蛍光)を用いて行われた。蛍光画像および明視野像を互いに重ねて、様々な時点での顕微鏡写真を構図した。細胞がチャンネル底部に沈降して密度が上がる一方、細胞の蛍光プロフィールは、緑色から赤色に変化し、瀕死の細胞を示している。
図12cは、酸処理済み単細胞のリアルタイム密度測定を示しており、たとえ酸が細胞に同時に適用されても、各細胞が、細胞異質性のために、異なって挙動することを示す。
【
図13】磁気浮揚高さに関して、非処理の、そしてアンピシリン処理済みの細菌(すなわち、大腸菌(E.coli))細胞の、磁気浮揚媒介プラットホームを用いて得られた相対高さ分布プロフィールを示す図である。生細菌細胞および死細菌細胞が、リアルタイムで迅速に検出され得る明確に区別可能な磁気プロフィールを有する。
【
図14】酵母細胞の磁気浮揚および特性を示す図である。
図14aは、24時間の異なる薬剤処理後の酵母細胞の生存度をグラフで示す。
図14bは、酵母細胞の浮揚高さ、磁気性質、および固有の磁気情報が、100μMカンタリジンおよび100μMフルコナゾールによる薬剤処理後にいかに変更されるかを示す。
【
図15a】
図15は、観察された薬剤反応、および細胞の磁気プロフィールの観察された変化に関するデータを提供する図である。
図15aは、光学密度(OD)プロフィールを示す。
図15a~
図15dによれば、細胞磁気プロフィールおよび密度が、様々な薬剤濃度による処理後に変化すること、そしてこれらの変化が、磁気浮揚系により単細胞レベルでモニターされ得ることが観察される。
【
図15b】
図15は、観察された薬剤反応、および細胞の磁気プロフィールの観察された変化に関するデータを提供する図である。
図15bは、チャンネル内の分布を示す。
図15a~
図15dによれば、細胞磁気プロフィールおよび密度が、様々な薬剤濃度による処理後に変化すること、そしてこれらの変化が、磁気浮揚系により単細胞レベルでモニターされ得ることが観察される。
【
図15c】
図15は、観察された薬剤反応、および細胞の磁気プロフィールの観察された変化に関するデータを提供する図である。
図15cは、算出された単細胞密度を示す。
図15a~
図15dによれば、細胞磁気プロフィールおよび密度が、様々な薬剤濃度による処理後に変化すること、そしてこれらの変化が、磁気浮揚系により単細胞レベルでモニターされ得ることが観察される。
【
図15d】
図15は、観察された薬剤反応、および細胞の磁気プロフィールの観察された変化に関するデータを提供する図である。
図15dは、異なる濃度の薬剤(フルコナゾール)で処理された細胞の種々の顕微鏡写真を提供し、処理濃度は、各顕微鏡写真の上に記載されている。
図15a~
図15dによれば、細胞磁気プロフィールおよび密度が、様々な薬剤濃度による処理後に変化すること、そしてこれらの変化が、磁気浮揚系により単細胞レベルでモニターされ得ることが観察される。
【
図16】出芽酵母細胞は、細胞周期の異なる期間の間、密度が異なること、そして磁気プロフィールが明確に区別可能であることを示す図である。細胞周期を通しての細胞(すなわち、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae))の質量、密度および容量が、浮揚高さをモニターすることによって測定され得る。
【
図17】細胞の老化およびエージングを示す、収集された磁気プロフィールを提供する図である。若い酵母細胞ほど、1400rpmでの遠心分離によって単離されるが、古い細胞ほど、900rpmおよび1400rpmでの遠心分離によってそれぞれ単離される。考慮された遠心分離速度で一旦単離されると、開示される細胞浮揚装置は、若い細胞集団および古い細胞集団が、異なる細胞磁気プロフィールを有し、そして異なる高さにて浮揚することを示した。
【
図18】いかに細胞浮揚装置が用いられて、微生物を同定することができるかを詳述する図である。酵母および細菌細胞は、異なる特性の磁気プロフィールを有することが、
図18に示される;したがって、磁気浮揚ベースのプラットホームを用いた密度に従えば、低濃度の混合培養体から、個々の微生物が同定され得、かつ分離され得る。
【
図19】健康な肝細胞、およびC型肝炎ウィルス(HCV)感染肝細胞の顕微鏡写真、および対応する磁気プロフィールを提供する図である。感染細胞は、密度および磁気プロフィールによって、健康な細胞からはっきりと識別される。
【
図20】非糖尿病マウスおよび糖尿病マウス(I型糖尿病)のRBCの磁気プロフィールを提供する図である。
【
図21】抗生物質処理中の磁気浮揚プロフィールの変化を示す図である。大腸菌細胞が、異なるクラスの抗生物質;1mg/mLのアンピシリン(ベータラクタム系抗生物質)(
図21a)、シプロフロキサシン(フルオロキノロン系抗生物質)(
図21b)、およびゲンタマイシン(アミノグリコシド系抗生物質)(
図21c)で2時間処理された。
【
図22】抗生物質処理中の多剤耐性細菌の磁気浮揚プロフィールの変化を示す図である。多剤耐性大腸菌に及ぼす様々な抗生物質(
図22a、
図22b、および
図22cにおける、それぞれアンピシリン、シプロフロキサシン、およびゲンタマイシン)の影響が、磁気浮揚系を用いて調査された。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本開示は、磁気的に懸濁された細胞の生物学的機能のリアルタイムのインタロゲーションおよびモニタリングのための技術を提供する。これを達成するために、細胞の異質集団が、2個の磁石(例えばアンチヘルムホルツ構成にある一対の永久磁石)間に配置されたマイクロキャピラリチャンネル(例えば管内)で浮揚し、かつ制限される。これは、細胞に作用する磁力と補正重力間のバランスに基づいて、異なる高さでの細胞の平衡を可能とする。
【0046】
セットアップ内の永久磁石により、この系は、その幅広い用途に関心を持つであろう生医学ラボによって再現され、かつ用いられるのがより容易になり得る。永久磁石系を用いると、一定の磁場線が生じるので、最小の磁場強度位置が、空間的に一定となり、かつ細胞の浮揚高さを決定する。交流電流を用いることによって、磁場は、方向および強度、ならびに最小の場強度位置が変わり得る。交流磁場は、原則として、時間と共に細胞の浮揚高さを変化させる等、新しい能力を加え得る。
【0047】
このアプローチを用いて、赤血球、白血球、血小板および循環転移性乳癌細胞、ならびに異なる齢の赤血球が分離される。また、細胞プロセス、例えば好中球の活性化、食作用、および脱水に対する健康な赤血球および鎌状赤血球の反応が、リアルタイムでモニターされる。この技術は、高解像度のリアルタイム細胞生物学研究、ならびにポイント・オブ・ケアセッティングのための疾患スクリーニングおよび診断法に広く適用可能なツールを提供する。
【0048】
磁気浮揚ベースの本方法の核心の原理は、2つの対向力:補正重力および磁力の平衡に依存する。示されるのは、強力な磁気浮揚ベースの微流量プラットホームであり、これは、細胞集団のリアルタイムの、標識フリーの、高解像度のモニタリングを可能とし、正立
顕微鏡または倒立顕微鏡と完全に適合性がある。この技術は、異なる細胞集団の迅速な分離を、それらの磁気情報および密度に基づいて実現するものであり、抗体タグ付き磁気ビーズも遠心分離も使用しないし、特殊な密度勾配培地も、連続密度勾配培地も、非連続密度勾配培地も使用しない。浮揚プラットホームは、種々の刺激に対する個々の細胞の機能的な反応の、経時的な、細胞単位ベースでの固有のモニタリングを可能とする。このアプローチにより発明者らは、擬似(quasi-)生理学的な血流様セッティングにおいて、特異的な、細胞-細胞相互作用、および細胞-分子相互作用後の生物学的反応をex vivoで調べることができる。
【0049】
マイクロキャピラリ中の細胞の浮揚に関する基礎をなす機構は、以下のように理解され得る。アンチヘルムホルツ構成に配置される2つの磁石(同じ極が互いに向き合う)によって生じる印加磁場Bの下で、細胞上に及ぶ磁力Fmが、式1に与えられる。細胞に作用する補正重力Fgが、式2に与えられる。
【0050】
【0051】
式中、μ0=4π×10-7(N・A-2)は、自由空間の透磁率であり、ρm(kg・m-3)は、常磁性培地の密度であり、χmは、常磁性培地の無次元磁化率であり、ρcell(kg・m-3)は、細胞の密度であり、χcellは、懸濁細胞の無次元磁化率であり、V(m3)は、細胞の容量であり、gは、重力のベクトルである。細胞は、その容量の全体を通じて、密度分布および磁化率の分布が均一であると仮定される。
【0052】
磁力Fmは、細胞の位置に依存し(磁場がマイクロキャピラリ内で空間的に変化するからである)、最低の磁場に向けられる。補正重力Fgは、マイクロキャピラリ内の細胞の位置に依存しない。ストークの抗力Fdは、半径R、体積V=4πR3/3の球状粒子に関する式5によって与えられる。
【0053】
一時的な場合において、例えば、磁力が補正重力とバランスをとる平衡点に細胞が達する前に、慣性力(例えば式3における左辺の項)、および細胞の移動速度に依存する抗力Fd(式5)は、式3に記載されるように、作用することとなる。平衡時、抗力および慣性力は消滅し、細胞に作用する磁力および重力は、式4に与えられるように、互いとバランスをとることとなる。
【0054】
【0055】
式中、vは、粒子の速度(m/s)であり、ηは、懸濁培地の動的粘度(kg/ms)である。補正重力がアラインされるz軸において、力のバランスは、以下のように書かれ得る。
【0056】
【0057】
【0058】
式8は、式10によって与えられるBを、式8中に代入した後に解かれて、式11に見られる平衡高さhを見出すことができる。平衡高さhは、磁力および補正重力が互いを打ち消す垂直距離である。式11から、ρcellが同様に抽出されて、hの関数として書かれ得(式12a)、係数αおよび係数βは、式12bおよび式12cによる。
【0059】
【0060】
細胞と懸濁液間の密度差の関数としての平衡高さが、
図7にプロットされている。
【0061】
平衡までの時間もまた算出され得る。ここで、平衡時間t0は、細胞が、マイクロキャピラリ内で、その最初の位置zi(例えば、マイクロキャピラリの底部)から、別の位置zf(例えば、浮揚高さ)に移動する間に経過する時間であると定義される。t0を見出すために、ここでは、式3において、細胞は、加速度がゼロであり(a=0)、式13によって記載されるように、その終速度で移動することになると仮定され得る。
【0062】
【0063】
式13のz成分は、式5、式8および式10を式13中に代入することによって見出された(代入は式14aとして示される)。式14aを積分した後に、細胞が平衡に達する間に経過する時間は、式15によって記載されるように見出された。細胞が平衡点に近づくにつれ、駆動磁力は小さくなるので、細胞の速度は小さくなり、今度は抗力が低下する。数学的モデルにおいて、細胞は平衡に決して達しないので、式15がzf=hで解かれると、t0=∞である。
【0064】
【0065】
新しい赤血球および成熟した赤血球の平衡時間が、
図2hにおいて、平衡高さの関数としてプロットされている。一部の実験において、細胞または周囲の常磁性流体の磁化率は、これをUVに曝して、活性酸素種(ROS)を形成させることによって、変えられた。
【実施例】
【0066】
以下、本発明を実行するための具体的な実施形態の例である。当該例は、説明のためだけに提供されるものであり、いかなる形であれ本発明の範囲を制限することは意図されない。
【0067】
用いられる数(例えば、量、温度、その他)に関して精度を確実にするよう努力したが、勿論、若干の実験的な誤りおよび偏りは認められるべきである。
【0068】
実施例1:磁気浮揚アプローチおよび基礎をなす機構
懸濁対象χ
0(例えば、細胞の異質群)と、懸濁培地(χ
medium)との磁化率間の負の差が、
図1aに示すように、磁力場を生じさせて、対象が、補正重力と磁力間のバランスに依存して、様々な高さに制限される。対象(χ
o)と懸濁培地(χ
medium)との磁化率間の負の差により、対象は、より大きな磁場強度部位から離れて、より低い磁場強度に移動する。対象、例えば、常磁性培地中に懸濁した赤血球(RBC)が平衡高さに達するまで、一組の力、例えば流体の抗力、慣性力、重力および磁力が、対象に連続的に作用する。対象が平衡に近づくにつれ、その速度が、そして故に抗力および慣性力が次第に小さくなる。これは、
図1bに見ることができる。
【0069】
このセットアップにおいて、そしてさらに進んで
図6aおよび
図6bに示す装置を参照して、全長が50mmであり、矩断面が1mm×1mmであるマイクロキャピラリ管を、アンチヘルムホルツ構成(同じ極が互いに向き合う)にある2つのN52グレードのネオジム永久磁石(NdFeB、全長50mm、幅2mm、および高さ5mm)間に配置する。これらの部品を、カットした厚さ1.5mmのポリメチルメタクリレート(PMMA)ピースを用いて、レーザー系(VLS 2.30 Versa Laser)と一緒にアセンブルした。それぞれ別個の測定前に、マイクロキャピラリチャンネルを、100W、0.5Torr(IoN 3 Tepla)で2分間プラズマ処理してから、磁石の間に配置した。2つの鏡を、画像浮揚高さに対して45°(または他の斜角)に配置して、倒立顕微鏡(Zeiss Axio Observer Z1)を用いて、5×対物レンズまたは20×対物レンズの下で、浮揚中の細胞の高解像度時空間モニタリング用の従来の顕微鏡検査系と適合性のある装置を作った。これを
図1cに詳述する。各軸に対する磁場強度分布が対称である(
図1d)2つの磁石の特定の配置により、懸濁細胞は、最小場強度の位置、および磁化率と細胞密度の比率の双方によって決まる位置にて浮揚する。
【0070】
このセットアップを試験するために、健常なドナーから単離したRBCを、40mMのガドリニウムベースの(Gd+)常磁性培地中に懸濁させる。ここに示す全ての実験に用いた常磁性溶液は、ヒトのMRI検査に現在利用されており、非毒性であり、そしてヒト血球と適合性がある。磁気制限の10分後、RBCは、
図1eに見られるように、底部の磁石からおおよそ300μmの高さで安定して浮揚し、小さな、壁のない、血流のようなアセンブリを形成した。
【0071】
より高解像度の明視野蛍光イメージング(20×、40×および60×)のために、横にした蛍光正立顕微鏡に連結した、鏡のないセットアップを用いる。
【0072】
実施例2:磁気浮揚による細胞分離
ヒト血球の質量密度分布は、
図2aに示すように、1.055から1.11g/mLの間で変化する。単位容量あたりの質量と定義される容量測定質量密度が、細胞を特徴付ける最も基本的な物理的パラメータの1つである。いくつかの細胞事象(例えば分化、細胞死(アポトーシス/壊死)、悪性腫瘍、食作用、および細胞齢)が、細胞の容量測定質量密度の永続的な変化または一時的な変化を生じさせる。
【0073】
セットアップの細胞分離能力は、
図2bに示すように、単離し、かつ蛍光標識したRBC、多形核白血球(PMN)、およびリンパ球を磁気的に制限することによって評価した。
【0074】
PMNを単離するために、Beth Israel Deaconess Medical Centerの施設内倫理委員会(IRB)のガイドラインに従って、そしてヘルシンキ宣言に従うインフォームドコンセントの後に、健常な成人ボランティアから静脈穿刺によって40mLの血液を得た。血液は、14mLの6%デキストランT500および6mLのクエン酸溶液を含有する60mLシリンジ中に採血された。分離させて1時間後に、15mlのFicoll(GE Healthcareから得た)の上部にバフィコートが得られて階層化され、これを350×gにて15分間遠心分離した。PMN、好酸球およびコンタミしているRBCからなるペレットを、25mlの0.2% NaCl中に45秒間再懸濁させてRBCを溶解させてから、等容量の1.6% NaClを加えて、連続的に転倒混和して(end-over-end mixing)、塩溶液のバランスをとった。懸濁液を350×gにて5分間遠心分離して、ペレット化したPMNを洗浄し、1mL HBSS++中に再懸濁させた。
【0075】
結果は、30mM Gd+溶液中に懸濁した細胞が、RBC、PMNおよびリンパ球のみによって占められる、はっきり区別可能な密度および細胞特異的な制限バンドを形成することを示している。
【0076】
その後、RBCの集束高さに及ぼす懸濁溶液の磁気強度の影響を、
図2cに見ることができるように、RBC懸濁液に用いたGd+溶液のモル濃度を次第に増大させることによって調査した。Gd+のモル濃度の、そしてそれ故に懸濁培地の磁化率の増大が、細胞の集束高さの段階的な上昇を生じさせることが見出された。
【0077】
RBCは、骨髄中で造血幹細胞(HSC)によって形成されて、100~120日間循環してから、組織マクロファージによって再利用される。RBCが循環すると、表面対容量の比率が次第に低下して、密度が増大した微粒子が連続的に放出される。
【0078】
様々な容量測定質量密度に基づいて、若い(1.09g/ml)RBCを古い(1.11g/ml)RBCから分離するのにセットアップの感度解像度が十分正確であるかを調査するために、Percoll(登録商標)勾配によって単離した、蛍光標識した若いRBCおよび古いRBCの混合物を、30mM Gd+溶液中に浮揚させた。
【0079】
蛍光標識するために、古いRBCおよび新しいRBCを分離した。RBC(10%ヘマトクリット)を、静脈穿刺またはフィンガープリックによって収集して、HBSS++中で3回洗浄した。RBCは、77%のPercoll、10%の1.5M NaCl、および13%のddH2Oを含有する13mLの溶液で階層化させてから、15000×gにて20分間遠心分離した(ブレーキオフの状態)。最上層の新しいRBCを収集し、洗浄してPercoll溶液を取り除き、1mL HBSS++中に再懸濁させた。同様に、溶液の底部に分離した古いRBCを収集し、洗浄し、1mL HBSS++中に再懸濁させた。
【0080】
最初に、マイクロキャピラリ中でランダムに分布したRBCは、磁場に曝されると、様々な浮揚高さに集束し始めた(タイムラプス記録のスナップショットを、
図2dに示す)。蛍光標識した若いRBCおよび古いRBC(それぞれの平衡浮揚高さにある)を、
図2eに示す。
【0081】
浮揚プロセスのタイムラプス記録を用いて、古いRBCおよび若いRBCの集束高さの特異的な平衡時間関数を、
図2fに示すように、分析的に評価した。すなわち、平衡高さを、若いRBCおよび古いRBCについて、底部の磁石から測定し、それぞれ0.156mmおよび0.092mmであることが見出された。それぞれの細胞と懸濁液との密度差を、
図7を用いて算出し、式11を用いてプロットした。密度差を式14および式15中に代入することによって、平衡時間をプロットした。これは、
図2fに見ることができる。
【0082】
重力で沈殿した細胞を浮揚させるセットアップの能力もまた試験した。RBCをガラスのマイクロキャピラリ管内にロードしてから、全ての細胞がマイクロキャピラリの底部に沿って受動的に(重力で)沈殿するまで、ベンチ上に15分間置いた。その後、マイクロキャピラリ管を、磁気浮揚セットアップ内にロードした。懸濁液と比較した相対的な反磁性性質のために、細胞は、
図2gに示すように、磁石から離れて、その密度依存平衡点に向けて浮揚し始めた。最後に、タイムラプス顕微鏡検査を用いて、磁気集束中の細胞の、時間の関数としての位置を、
図2hに見られるように定量化した。
【0083】
実施例3:機能的に変更した血球の静的浮揚
PMNは、食細胞(微生物特異的な危険シグナルを感知してこれに応答してから、外来
の微生物または粒子に特異的に結合してこれを内在化することができる細胞)である。食細胞事象は、活性酸素種(ROS)の形成および加水分解酵素のROS媒介活性化をもたらす。ROSおよび活性窒素種(RNS)の発生は、食細胞の磁気情報の変化を引き起こすこととなるが、食作用中のエンドサイトーシスプロセスとエクソサイトーシスプロセス間の動的相互作用は、活性化PMNの容量測定質量密度に直接的に影響を及ぼすであろう。
【0084】
新たに単離したPMNを、バッファ(静止PMN)、GSH-ME(GSH処理済みPMN)、または10nM PMA(活性化PMN)のいずれかと5分間インキュベートし、35mM Gd+溶液中で2回洗浄し、混合し、再懸濁することによって、活性化した。処理の前に、細胞を、Cell Tracker Green(活性化PMN)またはCell Mask Deep Red(GSH処理済みPMN)のいずれかで標識した。
【0085】
食作用の活性化フェーズ中のヒトPMNの反応を、PMNをホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA、10nM)と10分間インキュベートすることによって調べた。コントロールとして、PMNをバッファ中に10分間置いた。その後、細胞を洗浄し、蛍光標識し、一緒に混合し、そして磁気浮揚セットアップ内にロードした。磁気集束により、
図3aに示すように、サイズ、形状、光学密度、ならびに磁気および質量密度情報に関して、コントロールと活性化PMN間のはっきり区別可能な差異が明らかとなった。
【0086】
活性化PMNは、細胞と懸濁培地との磁化率間の差異を盛んに小さくする細胞内常磁性ROSを発生させる。結果として、活性化PMNは、バッファ処理済みのものと比較して、「沈む」と予想されるであろう。しかしながら、結果は、細胞活性化によって促進された密度の低下が、磁気性質の一時的な増大よりも顕著であり、結果として、細胞は、コントロールよりも高所に浮揚したことを示している。
【0087】
【0088】
算出した真円度の値(
図3cに示す)は、活性化PMAとバッファ処理済みPMN間の有意な差異を示す。同じサンプルを、
図3dに示すように、PMA活性化を伴うPMNの前方散乱および側方散乱の性質の変化について、フローサイトメトリによって同時に調査した。フローサイトメトリと比較すると、磁気浮揚は、細胞の直接的な視覚化、ならびに形状およびサイズの検出感度および解像度の向上を可能とするのと同時に、細胞単位のベースで、リアルタイム密度測定を実現する。
【0089】
細胞内ROSが浮揚細胞の最終位置に及ぼす影響をさらに理解するために、ROSスカベンジャである、細胞浸透性のグルタチオン(GSH)を用いた。
図3eに示す結果は、低密度の活性化PMNが、予想されるように、これらの2つの群の上に集束したが、GSH処理済みPMNが、静止PMNの近くで平衡となった。
【0090】
セットアップの密度解像度を試験するために、PMN、リンパ球、および血小板の混合物を浮揚させた。静止PMNの高倍率イメージングは、殆どの細胞が非活性型である一方で、少数(
図3f中で矢印によって示す)が、形状変化および高さ位置の双方(より低い細胞密度を示す)によって、活性化の初期の徴候を示すことを明らかにした。また、コン
タミしている好酸球が、PMNカラムの底部に位置を定められ、それらの密度が、
図2aに見られるように、最も密度の高いPMNの密度以上であったことと整合性がとれている。連続的な浮揚の2時間後に、
図3gに示すように、PMNは、自己活性化に続いてインテグリン媒介同型凝集を経た。
【0091】
注目すべきことに、一部のPMNクラスタもまた、非活性型PMNと比較して低い位置に現れ、活性化中に形成された細胞内の常磁性ROS種もまた、細胞の制限高さに影響を及ぼすことが示唆された。次に、ヒトPMN食作用中の密度変化を、新たに単離したPMNを蛍光標識サルモネラ モンテビデオ(Salmonella Montevideo)とインキュベートすることによって、研究した。PMN食作用を可能にするために、Cell Tracker Green標識PMN(5×105)を、600μLのHBSS/0.1% BSAを含有するミクロフュージ管に加えた。血清オプソニン化Alexa-594標識サルモネラ モンテビデオ(1×106)を、10:1の比率でPMNに加え、混合物を8rpmにて反転させながら37℃にて10分間インキュベートした。PMNを洗浄し、Hoechst 33342標識静止PMNと混合し、35mM Gd+溶液中に再懸濁させた。用いたサルモネラ モンテビデオ(American Type
Culture Collection)を、バクトニュートリエントブロス(Difco)中で一晩増殖させ、定量化した(0.5 OD600=4.5×108cells/mL)。細菌を穏やかにペレット化させ、洗浄し、HBSS中に再懸濁させた。
【0092】
この研究の細胞培養体を、
図3hに見ることができる。結果は、食細胞PMNの密度が有意に下がったが、
図3h中に赤色で当初示した(現在、画像のグレイスケール変換により容易に明らかではない)摂取されたサルモネラの数と、PMNの制限高さとの関係は、明らかでなかったことを示している。
【0093】
実施例4:磁気的に浮揚した血球の機能的インタロゲーション
磁気浮揚セットアップは、種々の時点での高解像度画像の獲得に続いて、集団中の個々の細胞の固有の反応の調査を可能とする。これは、与えられた集団について細胞単位のベースで、経時的な、広範な形態的かつ機能的マッピング能力を提供する。
【0094】
提唱されるプラットホームは、制限された細胞の特定の領域を低強度レーザービームに曝すことによって、単細胞操作を可能とし、これにより、標的細胞または細胞群の広範な時空間高さ調整が、ガドリニウム溶液の磁気性質を一時的かつ局所的に変更することによって可能となる(
図4aに示す)。
【0095】
一つの浮揚セットアップを、1.5mmの厚さのポリメチルメタクリレート(PMMA)(McMaster Carr)を用いて製造した。セットアップ構成要素を、
図6b(VersaLASER;Universal Laser Systems Inc.)に与える寸法にカットした。この実験的セットアップにおいて、矩断面が1mm×1mm(外側エッジ、壁厚0.2mm)であるマイクロキャピラリ管(VitroTubes(商標)Square Capillary Microcells、Borosilicate Glass 8100、Vitrocom、Mountain Glass、NJ)を、アンチヘルムホルツ構成(同じ極が互いに向き合う)にある2つのネオジム永久磁石(NdFeB)間に配置する。金コーティングした2つの鏡を、マイクロキャピラリの各開放側に45度で配置して、浮揚中の細胞の高解像度時空間モニタリング用の従来の顕微鏡検査系と適合性のある装置を作る。容易にアクセス可能な、安価な構成要素および磁石を備える微流量チップを設計し、製造して、世界中の他の研究者によるこの方法の広範な使用を可能とした。
【0096】
一実験において、RBC制限後、安定して浮揚したRBCの中央にある20×20μm
の矩形領域を、30mW、488nmの、0.34%の強度のレーザービームで連続的に1分間、Vector Photomanipulationユニット(3i)を用いて照射した。ビームの標的化は、全実験を通して同じ細胞上に維持した。
【0097】
別の実験において、より大領域(900×900μm)の浮揚RBC、PMNおよびリンパ球をUV照射した。照射の持続期間中、懸濁培地の磁気性質の増大のために、細胞が次第に浮揚高さを上昇させた。UV刺激をオフにした直後に、細胞が元の位置に戻り始めたが、RBCが元の高さよりも低い高さにて平衡したことは、潜在的に、細胞内UV誘導ROSが、RBCの常磁性情報を増大させたことを示す。UV照射をオン、オフしたときに撮った細胞培養体を、
図4bに示す。
【0098】
UV誘導ROSが、RBCの常磁性情報を増大させた可能性と整合して、細胞密度が増大した領域において、RBCは、おそらくROS含有RBC間の弱い常磁性引力のために、はっきり区別可能な凝集体(
図4b中の赤色の円として示す)を形成した。この仮説を試験するために、細胞外ATPを一気に用いて、ヘモグロビンから2-3DPG(2,3-ジホスホグリセレート)を切り離した(反磁性細胞から弱い常磁性細胞にRBCを推移させるプロセスでもある)。単離したRBCを洗浄し、かつ、HBSS
++含有40mM
Gd+および10mMcaged ATP(Life Technologies)中に再懸濁させた。RBCをキャピラリ中にロードし、磁石間に配置し、集束させた。次に、浮揚RBCよりも約70μm上に位置した60×900μmの領域を選択して、488nmのレーザービームによって100%の強度で1秒間照らした。非caged ATP(懸濁液中に放出される)は、ATPの細胞外濃度を、0からほぼ10mMに上げた。細胞は、Slidebook 5.5を用いて記録した。
【0099】
光分解後に、caged ATPはATPとなり、生物学的に活性な細胞外ATPの濃度を、0から10mM近くまで効果的に上げた。細胞内(約1~1.3mM)と比較して高濃度の細胞外ATP(10mM)が、細胞内ATPの急な上昇を促進してから、2,3DPGがヘモグロビンから切り離され、常磁性媒介細胞クラスタリング(
図4c中の円によって表す)に至るRBCの磁気性質が変化し、浮揚が喪失する。RBCが底部の磁石(
図4c中の矢印によって表す)に近づくにつれ、常磁性RBCと磁石間の相互作用は次第に増すので、最終的に、クラスタ形成RBC間の弱い常磁性相互作用を克服し、RBCクラスタの段階的な離散に至る。
【0100】
実施例5:磁気浮揚ベースの臨床POC診断アプローチの汎用性
様々な細胞型に対するこの磁気浮揚ベースのアプローチの広い適用性を実証するために、循環癌細胞および鎌状RBCを用いた。転移は、原発部位から別の非隣接部位に悪性細胞が広がる原因となるプロセスである。悪性細胞が腫瘍から離脱すると、血流またはリンパ系を通って体の他の領域に移動し、循環腫瘍細胞(CTC)となる。
【0101】
用いることになる乳癌細胞株MDA-MB-231を、American Type Culture Collectionから購入して、10% FBS、100ユニット/mLペニシリン、および100μg/mLストレプトマイシンを補ったDMEM中で培養し、5% CO2下で37℃にて維持した。
【0102】
正常な血液に、細胞浸透性のDNA特異的色素Hoechst 33342で予め染色した乳癌細胞(CTC)を添加することによって、細胞の異質群を調製した。その後、細胞混合物を、RBCではなく、PMNおよびリンパ球の浮揚のみを可能とする20mM Gd+溶液中で15分間、磁気的に集束させた。
図5a中の上段において青色の核を有する細胞として示されるCTCを、マイクロキャピラリ管の中心の近くに制限される多細胞懸濁液から容易に同定した(リンパ球およびPMNからそれぞれ数十から数百マイクロメ
ートル離れていた)。
【0103】
加えて、健常なドナーおよび鎌状赤血球症についてホモ接合(SS)の患者から単離したRBCが、
図5cに見ることができように、迅速に分離され得、かつ10mMピロ亜硫酸ナトリウム誘導脱水に対する個々の反応に特異的に基づき得ることが示される。
【0104】
健常者、および鎌状赤血球症患者から単離したRBCを3回洗浄して、10μMピロ亜硫酸ナトリウムと室温で10分間インキュベートした。細胞を、先に述べたように浮揚させて、画像を10分後に記録した。バックグラウンドに対する細胞のコントラストを上げるために、エッジ検出アルゴリズム(Roberts)を用いて画像をフィルタ処理した。この処理は、健康なRBCよりも、鎌状RBC(おそらく若いRBC)の亜集団を、有意に濃くする。
【0105】
実施例6:循環腫瘍細胞(CTC)および循環腫瘍微小塞栓(CTM)の標識フリー検出
図8~
図11を参照して、循環腫瘍細胞(CTC)および循環腫瘍微小塞栓(CTM)の標識フリー検出を説明する。
【0106】
図8を参照すると、非小細胞肺癌(NSCLC)のCTCおよびCTMが、磁気浮揚系を用いて同定された。これらの癌細胞は、左側のパネルに示すように、血球集団よりも高く浮揚した。右側のパネルにおいて、特定の距離(すなわち、浮揚の高さ)にて正規化した細胞数を同定する、対応するプロフィールを示す。標識ピークから、癌細胞および微小塞栓が、白血球(比較的低い高さに残存する)から上方に分離することが分かる。
【0107】
ここで
図9を参照すると、CTCはまた、磁気浮揚系により、NSCLC患者血液サンプル中でもモニターされた。白色のドットの円は、患者血液サンプル中のCTCを示す。
【0108】
図10を見ると、乳癌細胞の分離効率が示される。血液サンプル中に添加した癌細胞を、血球から高い効率で分離することができることが実証される。
図10aに、蛍光標識乳癌細胞(MDA)を血液中に添加して、浮揚系を用いて分離した顕微鏡写真を提供する。
図10aの挿入パネルは、標識MDAである3つの大きなドットを示す。
図10bは、様々な濃度で血球中に添加した乳癌細胞の分離効率を示す。このデータから、浮揚系を、癌の診断用途および予後の用途のためのCTCおよびCTMの定量化に容易に適用することができることが確認される。
【0109】
装置はまた、血球からの他の癌細胞の同定もできる。例えば、
図11に示すように、健常者および白血病患者の末梢血単核球細胞(PBMC)は、分離にあたり異なる細胞プロフィールを示す(すなわち、白血病細胞の高さは、PBMCの高さよりも高い)。
【0110】
実施例7:単細胞レベルにおける環境因子に対する細胞の反応のリアルタイムモニタリング
図12に示すように、環境因子に対する細胞の反応のリアルタイムモニタリングを、単細胞レベルで実行することができる。特に、
図12は、塩酸(HCl)への適用後の、単細胞のリアルタイム密度変化を示す。
【0111】
図12aは、コントロール(未処理)およびHCl処理済みMDA乳癌細胞の顕微鏡写真を示しており、コントロール細胞は、その浮揚高さ(すなわち、密度)を維持しているが、HCl適用細胞は、100mM HClへの40分にわたる曝露で、チャンネルの底部に沈んでいる(すなわち、z=-500μm)。
【0112】
図12bは、HCl適用単細胞のリアルタイム観察を詳述しており、生存度アッセイもまた、生細胞についてCalcein(緑色の蛍光)を、そして死細胞についてPropidium Iodine(赤色の蛍光)を用いて行われた。蛍光画像および明視野像を互いに重ねて、様々な時点での顕微鏡写真を構図した。細胞がチャンネル底部に沈んで密度が上がる一方、細胞の蛍光プロフィールは、緑色から赤色に変化し、瀕死の細胞を示している。これは、リアルタイムで、700秒のスパンにわたって、細胞の死、ならびにこの細胞死の、密度変化および浮揚の高さ変化との相関関係を示す。
【0113】
図12cは、酸処理済み単細胞のリアルタイム密度測定を示しており、たとえ酸が細胞に同時に適用されても、各細胞が、細胞異質性のために、異なって挙動することを示す。
【0114】
この例によって、細胞に及ぼす環境因子(例えば、pH、温度、化学物質、その他)の影響を、細胞密度変化としていかにモニターすることができるかが示される。これを用いて、細胞異質性を分析することができ、このことは、癌、免疫応答、感染症、薬剤耐性、および進化を理解するのに役に立つ。
【0115】
実施例8:薬剤スクリーニング用途のためのリアルタイムモニタリング
浮揚系はまた、
図13~
図15において概して示されるように、薬剤スクリーニング用途のための薬剤処理(すなわち、抗生物質、化学療法)後の細胞プロフィールのリアルタイム評価を可能とする。感染中、ならびに薬剤処理(すなわち、抗生物質、抗真菌剤、抗癌剤)中の細胞プロフィールの変化を、磁気浮揚系を用いて迅速に観察することができる。
【0116】
図13(そして、特に、
図13の右下のパネル)に示すように、磁気浮揚媒介プラットホームを用いて、未処理細菌(すなわち、大腸菌)細胞とアンピシリン処理済み細菌細胞との、磁気浮揚高さに関する有意な差異を検出した。細菌が刺激および抗生物質に反応すると、その密度が変わる。これが、その浮揚高さに対して直接的に反映する。
【0117】
同様の技術をリアルタイムで用いて、細菌における抗生物質耐性の出現をモニターすることができる。抗生物質耐性は、抗生物質への曝露後に動的に変わる観察細胞密度について変化する浮揚高さの関数として生/死細菌をモニターすることによって、評価することができる。
【0118】
図14を見ると、種々の薬剤処理に一定の持続期間曝さなかった、または曝した酵母細胞の磁気浮揚および特性が示される。
図14aは、24時間の様々な薬剤処理(すなわち、薬剤処理なし/コントロール、100μMカンタリジン、または100μMフルコナゾール)後の酵母細胞の生存度をグラフで示す。異なる生存度が観察され、種々の薬剤処理に関する光学密度が示される。
図14bは、磁気浮揚の15分後に、酵母細胞の浮揚高さ、磁気性質、および固有の磁気情報が、24時間の100μMカンタリジンおよび100μMフルコナゾールによる薬剤処理後にいかに変化するかを示す顕微鏡写真を提供する。
【0119】
ここで
図15を参照すると、この図は、観察された薬剤反応および細胞の磁気プロフィールの観察された変化に関するデータを提供する。
図15aは、種々のタイプの薬剤曝露(すなわち、コントロール、25μMフルコナゾール、50μMフルコナゾール、または100μMフルコナゾール)後の光学密度(OD)プロフィールを示す。
図15bは、チャンネルの内側の細胞分布を示し、
図15cは、算出した単細胞密度を示す。
図15dは、異なる濃度の薬剤(フルコナゾール)で処理した細胞の種々の顕微鏡写真を提供し、処理濃度を、各顕微鏡写真の上に記載している。細胞磁気プロフィールおよび密度が、様々な薬剤濃度による処理後に(細胞の健康、および、細胞の健康状態の違いをそれぞれ示す、高さおよび広がりの双方において)変化することが観察される。これらの変化を、単細
胞レベルで、磁気浮揚系によりモニターすることができることがさらに認められる。
【0120】
進んで
図21を参照すると、様々なタイプの抗生物質処理後に観察された大腸菌細胞の磁気浮揚プロフィールの差異が示される。大腸菌細胞を、1mg/mLのアンピシリン(ベータラクタム系抗生物質)、シプロフロキサシン(フルオロキノロン系抗生物質)、およびゲンタマイシン(アミノグリコシド系抗生物質)を含む様々なクラスの抗生物質で2時間処理した。これらの抗生物質のそれぞれの磁気浮揚プロフィールを、
図21a、
図21bおよび
図21cそれぞれにおいて、コントロール(すなわち、未処理の大腸菌細胞)と比較する。このデータは、様々な抗生物質処理が、異なる挙動で浮揚高さおよび細胞磁気プロフィールを変えることを示す。
【0121】
さらに進んで
図22を参照すると、様々なタイプの抗生物質処理後に観察された、多剤耐性大腸菌細胞の磁気浮揚プロフィールの差異が示される。これらの実験において、多剤耐性大腸菌に及ぼす様々な抗生物質(それぞれアンピシリン、シプロフロキサシン、およびゲンタマイシン)の影響を、磁気浮揚系を用いて調べた。この臨床単離体は、アンピシリンおよびシプロフロキサシンに対して耐性を示すが、ゲンタマイシンに対して感受性である。したがって、
図22aおよび
図22bにそれぞれ示すように、1mg/mLアンピシリンおよびシプロフロキサシンによる2時間の処理後に、浮揚高さおよび磁気浮揚プロフィールの顕著な変化はなかった。他方では、
図22cに示すように、1mg/mLゲンタマイシンによる2時間の処理後に、浮揚高さおよび磁気浮揚プロフィールの顕著な変化があった。
【0122】
ゆえに、磁気浮揚系は、抗菌処理の有効性を試験する潜在性を有し、磁気浮揚系を抗菌感受性試験用途に用いることができる。
【0123】
実施例9:癌細胞の薬剤耐性の出現のリアルタイムモニタリング
これらの同じタイプの技術を用いて、リアルタイムで、癌細胞における薬剤耐性の出現をモニターすることができる:癌細胞における薬剤耐性は、抗癌剤への曝露後に動的に変わる磁気浮揚中に観察される細胞プロフィールについて変化する浮揚高さをモニターすることによって、評価することができる。薬剤処理の有効性もまた、これらのリアルタイムの手法を用いて調査することができると考えられる。
【0124】
実施例10:単細胞レベルでの細胞異質性のリアルタイム検出
特に、この技術は、
図12に示す単細胞レベルでの細胞異質性のリアルタイム検出を可能とし、そして、様々な細胞が多くの細胞因子の結果として異なって反応し得ることを確認する。
【0125】
同様に、これは、様々な細胞の薬剤反応の異質性を、単細胞解像度にてリアルタイムでモニターすることができることを意味する。例えば、単細胞解像度が与えられて、酸処理済みの単細胞のリアルタイム密度測定を行って、細胞の反応における変動が観察された。酸を細胞に同時に適用したとしても、各細胞は、
図12cに強く示されるような細胞異質性のために、異なって挙動した。
【0126】
したがって、このリアルタイム浮揚系を用いれば、ある細胞の群を最初に特徴付けてから処理することができると考えられる。細胞集団中の細胞挙動におけるこの変動は固有のものであり得るが、単細胞解像度にて、環境因子の変動に応じて、または可変的な処理条件に応じて、細胞をモニターする能力は、これらの系における基礎をなす機構、挙動、および反応のより良好な理解に非常に貴重であり得る集団細胞反応様式を研究する複雑かつ精巧な方法を提供し、そして強力なアッセイツールを提供する。
【0127】
実施例11:生細胞および死細胞の検出および分離
さらに、
図12および
図13における観察実験結果を参照すると、生細胞および死細胞は、このプラットホームを用いて分離することができる。これにより、細胞集団の検出および特徴付けの双方が潜在的に、または生細胞集団と死細胞集団の互いの分離が潜在的に可能である。そのような検出およびソーティングは、試験プロトコルに組み込まれてもよいし、ある種の細胞サンプルを選択的に得てもよい。
【0128】
実施例12:細胞周期の、そして細胞の老化およびエージングのプロフィール
系またはプラットホームはまた、細胞周期を観察するためのツールとして用いることができ、そして、観察挙動に基づいて、あるタイプの細胞を特徴付けるのに用いることができる。
【0129】
図16に示すように、出芽酵母細胞は、細胞周期の異なる期間の間、密度が異なる。また、このプラットホームは、細胞(すなわち、酵母細胞)の観察プロフィールが、細胞周期中に変化することを実証した。例えば、
図16に示すように、M期の酵母細胞は、浮揚高さが、S期の細胞よりも高かった。
【0130】
更なる観察プロフィールを、酵母における細胞の老化およびエージングを示す
図17中に提供する。酵母細胞が老化するにつれ、多くの物理学的変化および生物学的変化が生じる。例えば、細胞サイズは増大し、細胞周期は減速し、細胞形状は変わり、細胞核小体はより大きくなる、かつ/またはより断片化する傾向があり、そして細胞は生殖不能(sterile)になる。古い酵母および若い酵母の、提供した顕微鏡写真(それぞれ左側パネルおよび中央パネル)は、より若い酵母集団とより古い酵母集団のプロフィールが異なることを示す。これらのプロフィールは、最も右側のパネルにあるようにさらに特徴付けることができ、正規化した細胞数が、種々の浮揚高さ(すなわち、距離)にて提供される。ゆえに、2つの非常に異なるプロフィールを生じさせて比較して、最も右側のパネルにあるように、特定の細胞群の健康を示すことができ、さらに、データ収集のリアルタイム性質のために、これらのプロフィールを用いて、観察細胞集団のエージングを特徴付ける、順番に配列したプロフィールを生じさせることができる。
【0131】
実施例13:微生物および病原体の同定
図18に示すように、このプラットホームおよび系はまた、微生物および病原体を同定するために用いることができる。磁気浮揚ベースのプラットホームを用いた磁気情報に従って、低濃度の混合培養体から、個々の微生物(すなわち、細菌、酵母、菌類、ウィルス)を同定かつ分離することができる。例えば、酵母および細菌細胞は、様々な特徴的磁気分布またはプロフィールを有する。
図18に示すように、系を用いると、チャンネルの中央部は主に細菌細胞を含むが、チャンネルの底部は主に酵母細胞を含む。
【0132】
実施例14:磁気プロフィールを用いたグラム陽性菌種およびグラム陰性菌種の識別 さらに、グラム陽性菌種とグラム陰性菌種を、磁気プロフィールおよび細胞分布を用いて識別することができると考えられる。グラム陽性菌とグラム陰性菌は、表面性質が異なる。例えば、グラム陽性菌の細胞壁は、ペプチドグリカン(20~80nm)およびタイコ酸の厚い層からなる。グラム陰性菌の細胞壁はかなり複雑であり、外膜(7~8nm)およびペプチドグリカンの薄い層(1~3nm)で構成される。また、グラム陰性菌は、外膜およびリポ多糖類(LPS)の存在のために、脂質およびリポタンパク質の含有量がより高い。ゆえに、グラム陰性菌とグラム陽性菌は、細胞壁の異なる組成のために、密度が異なり、この差異は、磁気浮揚の原理を用いてリアルタイムで検出かつモニターすることができる。
【0133】
実施例15:細胞のウィルス感染検出
図19を参照すると、健康な肝細胞と、C型肝炎ウィルス(HCV)感染肝細胞の顕微鏡写真および対応する磁気プロフィールが提供される。感染細胞は、密度および磁気プロフィールによって、健康な細胞からはっきりと識別される。このデータは明らかに、最下部のパネルに示すように、C型肝炎ウィルス(HCV)に感染していると、肝細胞の磁気分離プロフィールが顕著に変化することを示す。
【0134】
実施例16:初期の糖尿病検出
最後に、他のタイプの細胞変化もまた、本プラットホームを用いて観察することができる。
図20にあるのは、非糖尿病マウスおよび糖尿病マウス(I型糖尿病)の赤血球の磁気プロフィールである。I型糖尿病マウスの血球は、健康な細胞由来の血球と異なる細胞密度プロフィールを示す。したがって、本装置は、浮揚高さの変化をモニターすることによって、糖尿病の初期の診断のための新しい方法を提供する。
【0135】
前述した実施例において、以下の抗体および試薬を利用した:Hoecsht 33342(H1399、Molecular Probes、OR、Eugene); Hank’s Balanced Salt Solution(14025-092)、Cell Mask Deep Red plasma membrane stain(C10046)、Cell Tracker Green、CMFDA(C-7025)、NPE-caged ATP(A-1048、Life Technologies、NY、Grand Island);Ficoll(登録商標)(17-5442-03)、Percoll(登録商標)(17-0891-01、GE Healthcare、PA、Pittsburgh);クエン酸塩4%w/v(S5770)、デキストランT500(31392)、グルタチオン還元型エチルエステル(GSH-ME、G1404)、ピロ亜硫酸ナトリウム(S9000)、塩化ナトリウム(S5886、Sigma、MI、St.Louis);ホルボール12-ミリステート13-アセテート(PMA、1201、Tocris、英国、Bristol);VitroTubes(商標)Square Capillary Microcells、Borosilicate Glass(8100、Vitrocom、NJ、Mountain Glass);Gadolinium-based(Gd+) paramagnetic medium
Prohance(登録商標)(Bracco Diagnostics、NJ、Princeton);Critoseal(商標)(Fisher Scientific、PA、Pittsburgh)。
【0136】
前述した実施例において、マイクロキャピラリ管中にサンプルをロードするためには、マイクロキャピラリを単にサンプルバイアル中に浸して、サンプルを毛細管力によってキャピラリ中に満たした。
実験毎に、新しいマイクロキャピラリを用いた。さらに、特に明記しない限り、細胞を、200μLの40mMガドリニウム溶液中に再懸濁させて、表面張力の作用によって1.0×1.0mmの矩形のマイクロキャピラリ管(壁厚0.2mm)中にロードした。Critoseal(商標)を、マイクロキャピラリのいずれかの端部中に挿入して、分析中に細胞が流されることを防止した。その後、キャピラリを磁石間のスロット中にロードして、細胞を、Olympus BX62顕微鏡上のQImaging Emc2 EMCCDカメラ、またはZeiss Axioscope顕微鏡上のQimaging EXi CCDカメラのいずれかを用いて画像化した。高解像度画像のために、横にした蛍光顕微鏡を完全に水平方向に配置して、鏡のない磁気浮揚セットアップを用いた。画像を、Slidebook 5.5(3i、CO、Denver)、ImageProPlus 7(Media Cybernetics、MD、Rockville)、およびiVison 4.7(Biovision、PA、Exton)で分析した。
【0137】
これらの実施例によって、細胞の分離および活性化、ならびに種々の形態的な属性、特
異的な細胞活性、およびアゴニスト反応のリアルタイムでのモニタリングおよび定量化を可能にする、微流量の磁気浮揚プラットホームの汎用性が実証されてきた。本明細書で示した戦略は、caged化合物(例えばATP等)によって導入される生理活性メディエータに対する細胞の時間反応の検査を可能にする。系の利点として、限定されないが、(i)単純なワークフロー、(ii)精巧なミクロ/ナノ組立て構成要素の不要、(iii)モジュールがオートクレーブに耐え、再使用できる可能性があるディスポーザブルな設計、ならびに(iv)例えば抗原提示細胞:T細胞、および、血小板:単球相互作用のように、動的な細胞:細胞コミュニケーション、の多次元の、リアルタイムでの擬似生理学的調査が挙げられる。
【0138】
磁気浮揚装置は、いくつかの基本的な細胞挙動を研究かつモニターするための、多数のバイオテクノロジー用途およびプラットホームを提供する。これは、細胞密度が重要であり、かつ種々のプロセス、例えば細胞周期、食作用、アポトーシス、および分化を反映することができる細胞生物学研究に固有の能力を提供する。本系はまた、細胞の磁化率にも感度が高いので、RBC(例えば、保存された血球および鎌状赤血球)内のヘモグロビン分解の分析に用いることができる。いくつかの細胞活性をモニターする能力はまた、薬剤発見、毒性試験、および単細胞試験にとって重要であり得る。浮揚細胞のリアルタイムモニタリングに続くタンパク質および核酸の分析は、低重力条件の間にしか存在しない固有のシグナリング機構の研究への道を開く可能性がある。
【0139】
本プラットホームは、補正重力と、反対に作用する磁力とのバランスに基づいて、細胞密度(例えば、RBC、白血球)および細胞の分離の測定を可能にする。また、設計の単純さ、小サイズスケール、および柔軟性は、本系に、遠隔医療用の、そしてマラリア感染赤血球および鎌状赤血球のスクリーニングおよび診断のための資源不十分なセッティングに用いるモバイル装置との適合性を持たせる。この戦略は、抗体も、進んだ顕微鏡検査測定器も、信頼性が高い診断技術も、顕微鏡検査スペシャリストの存在も必要としない。この戦略は、種々の健康な状態および病理学的状態にある細胞の亜集団の同定、単離、および詳細なオミクスデータ分析に非常に有望である。
【0140】
本発明は、1つまたは複数の好ましい実施形態に関して記載されてきたが、多くの等価物、代替物、変形物および修飾物が、明示的に述べられたもの以外に考えられ、本発明の範囲内であることが理解されるべきである。