(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】防音材およびフロア敷設構造体
(51)【国際特許分類】
E04B 5/43 20060101AFI20231017BHJP
E04B 1/82 20060101ALI20231017BHJP
E04B 1/98 20060101ALI20231017BHJP
E04F 15/20 20060101ALI20231017BHJP
E04F 15/02 20060101ALI20231017BHJP
B60R 13/08 20060101ALI20231017BHJP
B60N 3/04 20060101ALI20231017BHJP
B32B 5/14 20060101ALI20231017BHJP
B32B 7/04 20190101ALI20231017BHJP
【FI】
E04B5/43 H
E04B1/82 H
E04B1/98 H
E04F15/20
E04F15/02 A
B60R13/08
B60N3/04 A
B32B5/14
B32B7/04
(21)【出願番号】P 2021502094
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006563
(87)【国際公開番号】W WO2020175282
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-11-01
(31)【優先権主張番号】P 2019036218
(32)【優先日】2019-02-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000251060
【氏名又は名称】林テレンプ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】柴田 剛
(72)【発明者】
【氏名】森 貴志
(72)【発明者】
【氏名】大野 弘毅
(72)【発明者】
【氏名】矢口 亮助
【審査官】吉村 庄太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-146854(JP,A)
【文献】特開2015-54570(JP,A)
【文献】特開2006-240595(JP,A)
【文献】特開昭61-75865(JP,A)
【文献】実開平4-13096(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/43
E04B 1/82
E04B 1/98
E04F 15/20
E04F 15/02
B60R 13/08
B60N 3/04
B32B 5/14
B32B 7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維成形体と、前記繊維成形体と重なり合うように配置された樹脂成形体とを有し、
前記繊維成形体は、少なくとも前記樹脂成形体と接する接合面に設けられている、前記樹脂成形体を構成する樹脂が浸入して繊維材と混在する樹脂含浸部を有するとともに、前記樹脂が浸入しておらず前記繊維材のみからなる非含浸部を有し、
前記樹脂含浸部は部分的に厚みの大きい領域を含んでいることを特徴とする、防音材。
【請求項2】
前記繊維成形体の前記樹脂含浸部は、前記非含浸部よりも通気度が低い、請求項1に記載の防音材。
【請求項3】
前記樹脂含浸部の前記厚みの大きい領域は、前記繊維成形体の、前記樹脂成形体と接する面と反対側の面に到達している部分を含み、前記反対側の面には、前記樹脂含浸部と前記非含浸部とが混在している、請求項1または2に記載の防音材。
【請求項4】
前記繊維成形体の前記樹脂含浸部の少なくとも一部は、前記非含浸部に比べて厚さが薄く剛性が高い高剛性部である、請求項1から3のいずれか1項に記載の防音材。
【請求項5】
前記高剛性部は、前記繊維成形体の前記接合面から、該接合面に対して垂直または斜めに延びている立壁部に設けられている、請求項4に記載の防音材。
【請求項6】
前記繊維成形体の両面に、前記樹脂成形体がそれぞれ配置されて、前記樹脂含浸部がそれぞれ形成されている、請求項1から5のいずれか1項に記載の防音材。
【請求項7】
互いに分離して配置された複数の前記樹脂成形体を有し、
前記繊維成形体は、複数の前記樹脂成形体にまたがって位置し、複数の前記樹脂成形体を連結している、請求項1から6のいずれか1項に記載の防音材。
【請求項8】
前記繊維成形体の一方の面の全面または一部に遮音層が設けられている、請求項1から7のいずれか1項に記載の防音材。
【請求項9】
前記遮音層は、前記繊維成形体に積層された樹脂層である、請求項8に記載の防音材。
【請求項10】
前記遮音層の一部は、他の部分よりも目付量が大きくなっている、請求項8または9に記載の防音材。
【請求項11】
請求項1から10のいずれか1項に記載の防音材からなるフロアサイレンサと、前記フロアサイレンサと重なり合うように配置されたフロアカーペットと、を有し、前記フロアカーペットが居室の内部側に位置するように乗物の居室内に敷設されるフロア敷設構造体。
【請求項12】
前記フロアカーペットの前記居室の内部側と反対側の面の少なくとも一部が、摺動性を高める樹脂層によりバッキングされている、請求項11に記載のフロア敷設構造体。
【請求項13】
前記フロアサイレンサの前記樹脂成形体の少なくとも一部に剛性体がインサートされている、請求項11または12に記載のフロア敷設構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は防音材およびフロア敷設構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
建物や乗物の壁や天井や床等に取り付けられる防音材の一種として、特許文献1~4に開示されているように樹脂成形体や繊維成形体が用いられる場合がある。樹脂成形体の例としては、発泡樹脂(例えばウレタン)からなる成形体が挙げられる。繊維成形体の例としては、合成樹脂(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)やポリプロピレン(PPなど)の繊維材、または反毛繊維(例えばナイロンや羊毛や綿などが含まれる衣料反毛繊維)の繊維材からなる織布または不織布が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-244648号公報
【文献】特開平10-329596号公報
【文献】特許第2541626号公報
【文献】特許第3956844号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前述したように樹脂成形体によって防音材を成形する場合に、必ずしも良好な成形が行えないことがある。例えば、薄肉部分(例えば厚さ10mm以下の部分)を有する防音材を成形する際に、この薄肉部分の脱型が容易ではない。そのため、樹脂成形体または金型に離型材を設けておく必要があり、製造コストの上昇を招く。さらに、発泡樹脂からなる樹脂成形体は形状保持性が低く、敷き込みが難しく荷姿(輸送時や保管時の姿勢や形状)に合わせて変形する等の問題が生じる。そして、発泡樹脂からなる樹脂成形体に複雑な形状を形成することは困難である。
【0005】
一方、繊維成形体によって防音材を形成する場合には、肉厚の厚い部分を形成し難く、特に平面部から垂直または斜めに延びる立壁部を精度良く肉厚に形成することは困難である。
【0006】
このように、樹脂成形体からなる防音材と繊維成形体からなる防音材のいずれにも一長一短があり、良好な防音材を形成することは容易ではない。仮に樹脂成形体と繊維成形体とを組み合わせて防音材を構成したとしても、それだけでは、前述した様々な課題を必ずしも解決できるとは限らない。
【0007】
そこで、本発明の目的は、肉厚の薄い部分や厚い部分が混在していたり、複雑な形状の部分が存在していたりしても、良好に形成でき、しかも製造工程が容易で製造コストが低く抑えられる防音材およびフロア敷設構造体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の防音材は、繊維成形体と、繊維成形体と重なり合うように配置された樹脂成形体とを有し、繊維成形体は、少なくとも樹脂成形体と接する接合面に設けられている、樹脂成形体を構成する樹脂が浸入して繊維材と混在する樹脂含浸部を有するとともに、樹脂が浸入しておらず繊維材のみからなる非含浸部を有し、樹脂含浸部は部分的に厚みの大きい領域を含んでいることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明の防音材およびフロア敷設構造体によると、肉厚の薄い部分や厚い部分が混在していたり、複雑な形状の部分が存在していたりしても、良好に形成でき、しかも製造工程が容易で製造コストが低く抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1の実施形態の防音材の断面図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態の防音材の変形例の断面図である。
【
図5】
図3に示す防音材の樹脂成形体の断面図である。
【
図7A】繊維部材の成形工程を模式的に示す斜視図である。
【
図8A】
図3に示す防音材の変形例の要部の拡大図である。
【
図8B】
図3に示す防音材の他の変形例の要部の拡大図である。
【
図9】実施例1の防音材の具体的な形態を示す斜視図である。
【
図13】
図3に示す防音材を含むフロア敷設構造体の分解斜視図である。
【
図14A】
図13に示すフロア敷設構造体が取り付けられる乗物のフロアと内部部材とを模式的に示す断面図である。
【
図14B】
図13に示すフロア敷設構造体を、
図14Aに示すフロアと内部部材とに取り付けた状態を模式的に示す断面図である。
【
図16】本発明の第2の実施形態の防音材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0012】
図1には、本発明の第1の実施形態の防音材1が示されている。この防音材1は、互いに重なり合うように配置されている樹脂成形体2と繊維成形体3とを含む。そして、繊維成形体3の、樹脂成形体2と接する接合面において、樹脂成形体2を構成する樹脂が繊維成形体3内に浸入して繊維材と混在した状態で固化している。すなわち、繊維成形体3の内部において、少なくとも樹脂成形体2との接合面に、樹脂成形体2を構成する樹脂が繊維材に混入した樹脂含浸部3aが設けられている。一方、繊維成形体3には、樹脂が混入しておらず繊維材のみからなる非含浸部3bも存在する。各図面では、樹脂含浸部3aをドット模様で示している。
【0013】
繊維成形体3の樹脂含浸部3aは、全面に亘って接合面に平行な平坦形状であるわけではなく、部分的に厚みの大きい領域を有している。特に剛性や遮音性が高くなければならない部分において、樹脂含浸部3aの厚みが大きくなるように形成することが好ましい。
図1に示す例では、樹脂成形体2との接合面からその接合面に対して垂直または斜めに突出して延びる突起部である立壁部1aが設けられている。この立壁部1aは外力や衝撃によって破損しないように強度および剛性が高いことが望ましい。そこで、この立壁部1aにおいて、樹脂含浸部3aの厚みが大きくなっている。特に樹脂含浸部3aが厚い部分では、接合面からその反対側の面に到達するまで、繊維成形体3の厚さ全体に亘って樹脂が貫通して樹脂含浸部3aが設けられている。言い換えると、繊維成形体3の樹脂成形体2との接合面においては、実質的に全域が樹脂含浸部3aである。そして、樹脂成形体2との接合面と反対側の面においては、樹脂含浸部3aと非含浸部3bとが混在している。前述したように、接合面の反対側の面において、高い剛性や強度が求められる部分(例えば立壁部1a)には樹脂含浸部3aが設けられている。それ以外の部分は非含浸部3bである。
【0014】
図2に示す変形例では、立壁部1aのような突起部を持たない防音材1のうち、特に高い遮音性が望まれる部分において、樹脂含浸部3aの厚みが大きくなっている。この防音材1の一部では、樹脂成形体2を構成する樹脂が、繊維成形体3の接合面からその反対側の面に至るまで、繊維成形体3を厚さ方向に貫通した状態で固化している。この樹脂含浸部3aは非含浸部3bに比べて通気性が低く、大きな遮音効果を奏する。例えば、この防音材1を乗物の床(フロア)等に配置する場合に、図示しないが床面に開口部が設けられていると、開口部を介して騒音が伝わるおそれがある。そこで、開口部に対向する位置に、本実施形態の防音材1の樹脂含浸部3aの厚みが大きい領域を配置すると、開口部を介して伝わる音に対して高い遮音効果が実現する。その結果、この床面に配置される防音材1として優れた効果が得られる。
【0015】
次に、本発明の防音材のより具体的な実施例について説明する。
図3,4は、乗物、特に車両のフロア敷設構造体の一部として用いられる本発明の実施例1の防音材1を模式的に示している。
図5はその防音材1の樹脂成形体2の断面を模式的に示している。防音材1は、繊維成形体3が車両の居室の内部側に位置し、樹脂成形体2がその反対側(居室の外部側)に位置するように配置されている。樹脂成形体2は、車両のフロアの形状に合わせて成形されている。互いに分離して設けられて対向するように位置する2つの樹脂成形体2(
図5参照)に重なるように、繊維成形体3が形成されている。そして、1つの繊維成形体3が、互いに離れて位置する2つの樹脂成形体2にまたがって配置されてそれらを連結させている。2つの樹脂成形体2は形状が異なるが、ここでは区別せずに同一の符号を付与している。
【0016】
この防音材1は、いわゆるフロア敷設構造体のフロアサイレンサとして用いられ、樹脂成形体2と繊維成形体3との接合面からその接合面に垂直または斜めに突出して延びている突起部である立壁部1aが設けられている。この立壁部1aは屈曲して、厚さの薄い薄肉部分1bを先端部に有している。
図6に拡大して示すように、薄肉部分1bの先端は複雑な形状であるとともに特に厚さが薄い。このように複雑な形状かつ厚さの薄い(特に厚さ10mm以下の)部分は、脱型の困難さ等の問題から、樹脂成形体2のみで精度良く形成することは困難である。また、バリ1cが生じやすい。一方、このような部分を繊維成形体3のみで形成しようとすると、薄肉部分1bを形成することは可能であるが、それよりも厚肉の立壁部1aを十分な強度および精度で形成することは困難である。そこで本発明では、樹脂成形体2と繊維成形体3とを組み合わせて用いている。そのため、主に繊維成形体3の特性によって薄肉部分1bや複雑な形状の部分を精度良く形成でき、バリの発生を抑えることができる。また、繊維成形体3は形状保持性が低く、敷き込みが難しく荷姿に合わせて変形しやすい。そのため、例えば
図6に2点鎖線で示すように変形するおそれがあるという問題がある。しかし、本実施形態では、繊維成形体3に樹脂成形体2を重ね合わせることによって、形状保持性を向上でき、敷き込みを容易にし、かつ変形を抑制できる。
【0017】
立壁部1aを肉厚に形成する場合、繊維成形体によって形成することが困難な場合がある。例えば
図7Aに示すように繊維部材5をプレス機4によって成形して、
図7Bに示すようなフロア敷設構造体を形成しようとする場合、立壁部5aをあまり肉厚に形成することができない。特に、
図7Cに示すように、立壁部5aにアンダーカット形状になる肉厚部5bが設けられている場合には成形困難である。それに対し、本実施形態では、繊維成形体3と樹脂成形体2とを組み合わせて防音材1を形成する。そのため、主に樹脂成形体2の特性を活かして、肉厚の立壁部1aを高精度かつ高剛性に形成することができる。
【0018】
樹脂成形体2は、脱型が容易ではなく離型材を必要とする場合がある。しかし、本実施例の防音材1は、一方の面は繊維成形体3からなるので、その面には離型材が不要で良好な脱型が行える。両面の脱型が困難で離型材を必要とする構成に比べると、一方の面が脱型し易く離型材が不要になることで製造効率の向上や製造コストの低減が図れる。なお、防音材1は、樹脂成形体2と繊維成形体3が重なり合った構成であるが、いずれか一方の成形体のみが存在する部分(単層の部分)が設けられていてもよい。例えば、
図8A,8Bに示すように、繊維成形体3のみからなる単層部分によって極薄部分1dを形成することができる。繊維成形体の単層部分を利用することにより、
図8Aに示すように段階的に厚さが変化する部分も良好に形成できる。メルトファイバー(溶融状態の繊維材)を増やして潰すことにより、
図8Bに示すように段階的に厚さが変化する部分を形成することも可能である。
【0019】
さらに、本実施例では、
図4に示すように、繊維成形体3の一部に樹脂を混入させた樹脂含浸部3aを設けている。樹脂含浸部3aは、樹脂が混入されていない非含浸部3bに比べて通気性が低く遮音性が高いとともに、固化した樹脂が繊維材を補強することにより強度および剛性が高い。特に、変形、破れ、摩耗などの損傷を生じるおそれがある立壁部1aや薄肉部分1bの強度および剛性をより高くするために、これらの部分においては繊維成形体3の厚さ方向の大部分に亘って樹脂を浸入させて、樹脂含浸部3aの厚みの大きい部分を形成することが好ましい。これにより、損傷するおそれがある部分の剛性を局所的に高くして十分な強度および剛性を実現し、損傷する可能性を低くすることができる。
【0020】
樹脂含浸部3aの少なくとも一部は、非含浸部3bに比べて厚さが薄く剛性が高い高剛性部であってもよい。この高剛性部は立壁部1aに設けられてもよい。
図9には、本実施形態の防音材1を車両のフロア敷設構造体として用いる場合の具体的な形状を示している。このように、防音材1は、実際には非常に複雑な形状に形成され、用途に応じて特に高い剛性が求められる部分が存在することがある。前述したように、樹脂成形体2と繊維成形体3とを組み合わせて用い、さらに樹脂含浸部3aを設けている。それに加えて、剛性をより高くするために、樹脂含浸部3aを部分的に圧縮して潰した形状にすることができる。例えば、
図9,10A,10Bに示す高剛性部1eは、他の部分(特に周囲に位置するリブ状の部分)に比べて厚さが薄く剛性が高い。この高剛性部1eは、成形時に樹脂の発泡領域を狭くして薄型化し、樹脂と繊維材とをより緊密に一体化させることにより、高剛性を実現している。
【0021】
なお、防音材1のうち、立壁部1aおよび薄肉部分1b以外の部分においては、損傷の可能性はさほど高くないので、樹脂含浸部3aは接合面付近のみに形成している。樹脂含浸部3aは、遮音性の向上と、樹脂成形体2と繊維成形体3との接合強度の向上とを実現する。しかし、本実施例では必要以上に樹脂含浸部3aを厚くせず、接合面と反対側の面では非含浸部3bが存在している。それにより、樹脂の使用量があまり多くならず、低コスト化や軽量化の妨げにならない。
【0022】
本実施形態では、樹脂成形体2と繊維成形体3とを組み合わせて用いて、それぞれの特性を活かすことによって、防音材1の様々な形状の部分をいずれも精度良く形成することができるとともに、NV性(低騒音性および制振性)を向上させることができる。さらに、繊維成形体3に樹脂含浸部3aを設けることによって、遮音性の向上と強度の向上と剛性の向上とが図れる。特に、樹脂含浸部3aを一様な厚さの層状に形成するのではなく、厚さの異なる部分を設けている。従って、特に遮音性や剛性が必要とされる部分に、樹脂含浸部3aの厚みが大きい部分を位置させることによって、遮音性と強度および剛性を適切に向上させつつ、必要以上の重量化や高コスト化を抑えられる。なお、図示しないが、防音材1としてさらに高い遮音性を実現するために、繊維成形体3の一方の面の全面または一部に遮音層を設けることもできる。この遮音層は、繊維成形体3の、樹脂成形体2との接合面に設けてもよく、その反対側の面に設けてもよい。遮音層は、樹脂により形成されていてよく、その一部は、他の部分よりも目付量が大きくなっている。
【0023】
図3,4に示す構成では、互いに分離した2つの樹脂成形体2を1つの繊維成形体3で連結している。これに対し、
図11に示す構成では、互いに分離して、車両の進行方向の前後左右にそれぞれ配置された4つの樹脂成形体2(
図12参照)にまたがるように1つの大きな繊維成形体3を形成している。その繊維成形体3によって4つの樹脂成形体2を連結させている。このように、複数の樹脂成形体2を繊維成形体3によって連結して1つの防音材を構成すると、個々の樹脂成形体2の製造が容易になり、大型の防音材1が容易に製造できる。しかも、各樹脂成形体2をまとめて1つの金型に挿入して繊維成形体3とともに形成するため、複数(例えば4つ)の樹脂成形体2を用いているにもかかわらず、面倒な作業である脱型が1回ですみ、作業効率が良い。なお、1つの繊維成形体3で連結する樹脂成形体2の数は限定されない。図示しないが、防音材1を車両の進行方向の前方部分と後方部分とに分割して形成することもできる。その場合、左右に並ぶ2つの樹脂成形体2を含む防音材1(
図3,4に示す防音材1の前後方向の長さが短くなったような構成の部材)が、前後に2つ並んで配置される。
【0024】
以上説明した防音材1を乗物のフロアサイレンサとして用いる場合、
図13に示すように、フロアカーペット6がフロアサイレンサ1に重ねられてフロア敷設構造体が構成される。フロアカーペット6は従来から公知の部材であってよく、例えばディロアからなる表層が樹脂層でバッキングされた構成であってよい。本発明のフロアサイレンサ1はウレタン等の樹脂成形体2を有しているが、フロアカーペット6との間には繊維成形体3が介在している。その結果、ウレタン等の樹脂がフロアカーペット
6に浸み出すことはなくなる。本実施形態では、フロアカーペット6とウレタン等の樹脂成形体2とが別々に成形され、フロアカーペット6によって被覆される。ウレタン等の樹脂成形体2は、フロアカーペット6ではなく繊維成形体3に樹脂が含浸するように形成される。仮に、繊維成形体3の表面に樹脂が浸み出したとしても、フロアカーペット6で被覆されるため問題にならない。従って、樹脂の浸み出しを気にする必要はない。その結果、浸み出し抑制用のフィルム材を用いる必要がない。ただし、フロアカーペット6の居室とは反対側の面の少なくとも一部を、図示しない樹脂層によりバッキングすることができる。それによって摺動性が向上しフロア敷設構造体の設置や取り扱いが容易になる。なお、ディロアからなる表層を、公知の部材と同様に樹脂層でバッキングした上で、フロアカーペット6の居室と反対側の面の少なくとも一部を樹脂層でバッキングして、二重にバッキングする形態にすることも可能である。また、フロアサイレンサ1を、乗物の進行方向の前方部分と後方部分とを含む少なくとも2つの部材から構成してもよい。
【0025】
図14Aに示す乗物のフロア7と内部部材(コンソールボックス等)8とに挟まれるように、フロア敷設構造体が配置される構成(
図14B参照)において、従来は内部部材8の下方の位置(B部分)は覆われずに開放されている場合があった。しかし、本実施例によると、内部部材8の下方の位置は繊維成形体3に覆われて、開放されないようにすることができる。このように本実施形態によるとサイレンサカバー率の向上が図れる。カーペットの敷設範囲(カバー範囲)に対するサイレンサカバー率は、任意に設定可能である(例えば、60%としてもよい)。本発明によればサイレンサカバー率を80%以上、さらに100%以上にすることも可能である。
【0026】
本発明のフロアサイレンサ1の、乗員の足が置かれる位置には、ある程度しっかりとした踏み心地が求められる。そのために、
図15に示すように、乗物の居室の内部側に向いていて乗員の足が置かれる位置に足置き部9を形成することができる。一例としては、平面形状が300mm×400mmの長方形であって厚さが50mmの足置き部9が、フロアサイレンサ1に組み込まれている。この足置き部9は、樹脂成形体2を構成する樹脂中にビーズ等の剛性体がインサートされたものである。例えば、300mm×400mm×50mmの繊維成形体3は密度ρが0.1g/cm
3で質量600gであるとする。これに対し、本実施例では、厚さ5mmの繊維形成体3と、厚さ10mmで密度ρが0.03g/cm
3のEPP(発泡ポリプロピレン)と、厚さ35mmで密度ρが0.065g/cm
3のPU(ポリウレタン)とを重ね合わせて足置き部9を構成し、その合計の質量は369gである。1台の車両に対して4箇所の足置き部9が存在する場合には、繊維成形体のみからなる足置き部の総重量は2400gであるのに対し、本実施例の足置き部9の総重量は1476gであって軽量化が図れる。そして、このPUにビーズ等の剛性体をインサートしておくことにより、安定して良好な踏み心地を実現することができる。
【0027】
本発明の第2の実施形態の防音材は、
図16に示すように、繊維成形体3と、繊維成形体3の両面にそれぞれ位置する1対の樹脂成形体2とからなる。この防音材1では、繊維成形体3の両面に通気性が低く遮音性および剛性が高い樹脂含浸部3aが設けられており、樹脂含浸部3aには部分的に厚みの大きい領域が存在する。このように繊維成形体
3の両面に樹脂成形体を設ける構成では、繊維成形体
3をウレタン等の樹脂でサンドイッチすることで、剛性の向上が見込める。それにより、たとえば、前述したビーズ等の剛性体のインサートが不要になるといった効果が得られる。
【0028】
以上、主にフロアサイレンサとして用いられる防音材1について説明したが、本発明はそれに限定されない。例えば、本発明の防音材1を、乗物のダッシュサイレンサ、トランクフロアサイレンサ、トランクサイドサイレンサ、タイヤパンサイレンサ、ホイルハウスインナーサイレンサ、カウルサイドサイレンサ等に用いることができる。また、本発明の防音材1を、建物の壁や天井や床等に配置される防音材として用いることもできる。
【0029】
どのような用途に用いられる場合であっても、本発明では、樹脂成形体2と繊維成形体3を組み合わせ、完成品の形状や肉厚等に応じて樹脂成形体2と繊維成形体3を使い分け、さらに樹脂含浸部3aによって遮音性と剛性をより高めている。そのため、精度および強度に優れた防音材1を形成できる。しかも、本発明では、樹脂含浸部3aが防音材1全体に均一に存在するのではなく、必要に応じて厚みの大きい部分と、厚みの小さい部分とを混在させている。それにより、各部分において必要な遮音性や剛性を適切に実現するとともに、過剰な樹脂の使用を抑えて、重量の増大や製造コストの上昇を抑えることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 防音材(フロアサイレンサ)
1a 立壁部
1b 薄肉部分
1c バリ
1d 極薄部分
1e 高剛性部
2 樹脂成形体
3 繊維成形体
3a 樹脂含浸部
3b 非含浸部
4 プレス機
5 繊維部材
5a 立壁部
5b 肉厚部
6 フロアカーペット
7 フロア
8 内部部材
9 足置き部