(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】車両用のアンチロックブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
B60T 17/02 20060101AFI20231017BHJP
B60T 8/34 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B60T17/02
B60T8/34
(21)【出願番号】P 2021540837
(86)(22)【出願日】2020-01-14
(86)【国際出願番号】 EP2020050764
(87)【国際公開番号】W WO2020148253
(87)【国際公開日】2020-07-23
【審査請求日】2021-08-06
(31)【優先権主張番号】201920065973.1
(32)【優先日】2019-01-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】390023711
【氏名又は名称】ローベルト ボツシユ ゲゼルシヤフト ミツト ベシユレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
【住所又は居所原語表記】Stuttgart, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100134315
【氏名又は名称】永島 秀郎
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】ウェンイン シオン
(72)【発明者】
【氏名】ユウフィ ホー
(72)【発明者】
【氏名】シェソン ワン
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/109576(WO,A1)
【文献】独国実用新案第202006019526(DE,U1)
【文献】特開平04-054381(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
B60T 15/00-17/22
F04B 23/00-23/14
F04B 53/00-53/22
F16J 15/16-15/32
F16J 15/324-15/3296
F16J 15/46-15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用のアンチロックブレーキ装置であって、
内面を有するポンプ取付け穴(20)を規定するハウジング(10)と、
前記ポンプ取付け穴(20)内に取付け方向(D)で取り付けられるように構成されたプランジャポンプ(50)であって、前記内面に面する外面(51)を有しかつ流体キャビティ(54)を規定するプランジャスリーブ(52)を備えるプランジャポンプ(50)と、
を備える、アンチロックブレーキ装置において、
前記プランジャスリーブ(52)は、前記外面(51)に一体形成された
封止材(74)を備え、該封止材(74)の最も外側の直径が、前記外面(51)の最大外径よりも僅かに大きくて、前記ポンプ取付け穴(20)の前記内面の内径よりも僅かに大きく、
前記取付け方向(D)において、前記外面(51)は、最大直径部(51a)と、テーパ移行部(51b)と、縮径部(51c)とを備え、前記テーパ移行部(51b)は、前記最大直径部(51a)と前記縮径部(51c)との両方につながっており、
前記封止材(74)は、前記外面(51)の
前記テーパ移行部(51b)に配置されており、
前記アンチロックブレーキ装置は、前記ハウジング(10)に取り付けられたショックアブソーバ(80)をさらに備え、前記縮径部(51c)において、前記ポンプ取付け穴(20)の前記内面と、前記プランジャスリーブ(52)の前記外面(51)との間に衝撃吸収液体領域(90)が形成されており、該衝撃吸収液体領域は、前記ショックアブソーバ(80)からの流体を収容するために使用されることを特徴とする、アンチロックブレーキ装置。
【請求項2】
前記封止材(74)は、前記外面(51)に一体形成されている、または前記外面(51)に凹設された封止溝(72)内に一体形成されていることを特徴とする、請求項1記載のアンチロックブレーキ装置。
【請求項3】
前記封止材(74)は、ゴム封止材であることを特徴とする、請求項1または2記載のアンチロックブレーキ装置。
【請求項4】
前記流体は、ブレーキ流体であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか1項記載のアンチロックブレーキ装置。
【請求項5】
前記プランジャスリーブ(52)は、衝撃吸収出口(62)を備え、該衝撃吸収出口(62)を通って、前記流体キャビティ(54)内の流体は、前記ショックアブソーバ(80)の衝撃吸収キャビティ(82)に流入することができ、前記取付け方向(D)において、前記封止材(74)は、前記衝撃吸収出口(62)と前記衝撃吸収液体領域(90)との間に位置していることを特徴とする、請求項1記載のアンチロックブレーキ装置。
【請求項6】
前記アンチロックブレーキ装置は、ボール弁(70)を備え、該ボール弁(70)は、前記衝撃吸収出口(62)に配置されていて、前記流体キャビティ(54)内の流体が前記ショックアブソーバ(80)へと流れることを可能にする、または前記流体キャビティ内の流体が前記ショックアブソーバへと流れることを不可能にするように構成されていることを特徴とする、請求項
5記載のアンチロックブレーキ装置。
【請求項7】
前記ハウジング(10)は、該ハウジング(10)内に形成された衝撃吸収通路(15)を有し、該衝撃吸収通路(15)を介して、前記プランジャスリーブ(52)の前記衝撃吸収出口(62)は、前記ショックアブソーバ(80)の前記衝撃吸収キャビティ(82)に流体連通していることを特徴とする、請求項
5記載のアンチロックブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、車両用のアンチロックブレーキ装置に関する。
【0002】
背景技術
自動車のアンチロックブレーキ装置は、主として、ハウジングと、ハウジング内に配置されたプランジャポンプおよびショックアブソーバとを備え、ショックアブソーバは、プランジャポンプにおける流体圧力の変動を軽減するために使用される。
【0003】
プランジャポンプは、流体、すなわち、ブレーキ流体に一定の圧力を加え、加圧された流体を制動輪のブレーキに供給して、制動輪に制動力を加えるために使用される。制動力に起因する反作用力により流体圧力が増大すると、それに対応して、プランジャポンプの流体キャビティの流体圧力も増大し、この圧力は、一定の程度まで増大すると、プランジャポンプのプランジャスリーブに設けられた衝撃吸収出口を介して、ショックアブソーバの衝撃吸収キャビティ内に排出される。ショックアブソーバから排出された流体は、ショックアブソーバに設けられた流体出口を介して排出されて、プランジャポンプのプランジャスリーブを取り囲む衝撃吸収液体領域に入り、その後、プランジャポンプから排出される。
【0004】
この構造では、ハウジングの内面と、それに合致するプランジャスリーブの外面との間に、封止装置が配置されている。全般的に、プランジャスリーブの外面に封止溝が形成され、この封止溝内に封止材が取り付けられる。封止材は、全般的にゴム封止材、たとえば、ゴム製のOリングである。
【0005】
しかし、プランジャスリーブの外面に形成された封止溝内にゴム封止材を取り付けることには、引張りにより封止材が破損する危険性があり、さらに、封止材がすでにプランジャスリーブに取り付けられている状態で、プランジャスリーブがハウジングのポンプ取付け穴内に取り付けられる工程では、プランジャスリーブの外面を越えて突出している封止材が、ポンプ取付け穴の鋭利な縁部によって切断される恐れがある。これらはすべて、プランジャポンプとハウジングとの間の封止結果に影響を及ぼすことになり、プランジャポンプからショックアブソーバに向けて排出される高圧流体が、衝撃吸収液体領域へと漏れ入ってしまう恐れがある。
【0006】
この技術的な問題を解決することができることが所望されている。
【0007】
発明の内容
本発明の目的は、プランジャポンプとポンプ取付け穴との間の封止材が、引張りまたは切断によって破損することを防止して、プランジャポンプとハウジングとの間の封止結果を改善することである。
【0008】
この目的のために、車両用のアンチロックブレーキ装置であって、内面を有するポンプ取付け穴を規定するハウジングと、ポンプ取付け穴内に取付け方向で取り付けられるように構成されたプランジャポンプであって、内面に面する外面を有しかつ流体キャビティを規定するプランジャスリーブを備えるプランジャポンプと、を備え、プランジャスリーブが、外面に一体形成された封止材を備え、この封止材の最も外側の直径が、外面の最大外径よりも僅かに大きくて、ポンプ取付け穴の内面の内径よりも僅かに大きい、アンチロックブレーキ装置が提供される。封止材は、外面に一体形成されていてもよい、または外面に凹設された封止溝内に一体形成されていてもよい。
【0009】
一実施形態では、取付け方向において、外面が、最大直径部と、テーパ移行部と、縮径部とを備え、テーパ移行部が、最大直径部と縮径部との両方につながっている。封止材は、外面の最大直径部またはテーパ移行部に配置されていてもよい。
【0010】
一実施形態では、自動車のアンチロックブレーキ装置が、ハウジングに取り付けられたショックアブソーバをさらに備えてもよく、縮径部において、ポンプ取付け穴の内面と、プランジャスリーブの外面との間に衝撃吸収液体領域が形成されていてもよく、衝撃吸収液体領域が、ショックアブソーバからの流体を収容するために使用される。プランジャスリーブは、衝撃吸収出口を備えてもよく、この衝撃吸収出口を通って、流体キャビティ内の流体が、ショックアブソーバの衝撃吸収キャビティに流入することができ、取付け方向において、封止材は、衝撃吸収出口と衝撃吸収液体領域との間に位置していてもよい。
【0011】
自動車用アンチロックブレーキ装置は、ボール弁を備えてもよく、このボール弁は、衝撃吸収出口に配置されていて、流体キャビティ内の流体がショックアブソーバへと流れることを可能にする、または流体キャビティ内の流体がショックアブソーバへと流れることを不可能にするように構成されている。ハウジングは、このハウジング内に形成された衝撃吸収通路を有してもよく、この衝撃吸収通路を介して、プランジャスリーブの衝撃吸収出口が、ショックアブソーバの衝撃吸収キャビティに流体連通している。封止材は、ゴム封止材であってもよい。流体は、ブレーキ流体であってもよい。
【0012】
本発明によれば、自動車のアンチロックブレーキ装置のハウジングのポンプ取付け穴とプランジャポンプとの間の封止材が、プランジャポンプのプランジャスリーブの外面にまたは外面に凹設された封止溝内に一体形成されている。こうして、別個の封止材をプランジャスリーブの外面にまたは外面に形成された封止溝内に取り付ける作業ステップが回避され、したがって、その結果、封止材が引張りによって破損する危険性がなくなる。封止材は、プランジャスリーブの外面の縮径部に配置されてもよく、それにより、プランジャポンプをポンプ取付け穴に取り付ける工程において、ポンプ取付け穴の鋭利な縁部により封止材が切断される危険性が回避される。
【0013】
本発明の上記およびその他の特徴および利点は、添付図面を参照しながら説明する特定の実施形態から、より深く理解されよう。図面は原寸に比例しておらず、説明目的に寄与することだけを意図しており、本発明の範囲を限定することを意図してはいない。したがって、図面に示す構成要素は、すべてのアンチロックブレーキ装置に必ず存在するわけではなく、図面に示していない構成要素が、一部のアンチロックブレーキ装置に存在してもよいことが理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】プランジャポンプの衝撃吸収出口に設けられたボール弁が閉鎖状態の、本発明の第1の実施形態によるアンチロックブレーキ装置の一部分の断面図である。
【
図2】プランジャポンプの衝撃吸収出口に設けられたボール弁が開放状態のときの、
図1の一部分の部分拡大図である。
【
図3】本発明による、
図2に対応した第2の実施形態を示す図である。
【0015】
特定の実施形態
本発明による、車両用のアンチロックブレーキ装置を、添付図面を参照しながら以下で詳細に説明する。
【0016】
図1は、本発明によるアンチロックブレーキ装置の一部の断面図を示す。
図1に示してあるように、アンチロックブレーキ装置は、主として、ハウジング10と、ハウジング10内に収容されたプランジャポンプ50およびショックアブソーバ80とを備える。このために、ハウジング10は、内面を有するポンプ取付け穴20を規定し、プランジャポンプ50は、ポンプ取付け穴20内に取付け方向Dで取り付けられる。
【0017】
プランジャポンプ50は、プランジャスリーブ52を備え、プランジャスリーブ52は、流体を内部で加圧することができる流体キャビティ54を規定し、ポンプ取付け穴20の内面に対向する外面51を備える。プランジャスリーブ52は、車輪に取り付けられた車輪ブレーキに加圧流体が供給されることを可能にする流体出口(図示せず)と、加圧流体がショックアブソーバ80に流入することを可能にする衝撃吸収出口62とを備える。
図1は、衝撃吸収出口62に配置されたボール弁70を示し、このボール弁70は、(
図2および
図3に示す)開放状態のときに、ショックアブソーバ80によって規定された衝撃吸収キャビティ82へと衝撃吸収出口62を介して加圧流体が流れることを可能にし、(
図1に示す)閉鎖状態のときに、ショックアブソーバ80の衝撃吸収キャビティ82へと衝撃吸収出口62を介して加圧流体が流れることを不可能にする。
【0018】
取付け方向Dにおいて、プランジャポンプ50のプランジャスリーブ52の外面51は、最大直径を有する最大直径部51aと、テーパ移行部51bと、縮径部51cとを順番に備え、テーパ移行部51bが、最大直径部51aと縮径部51cとの両方につながっている。
【0019】
図1および
図2に示す第1の実施形態において、封止溝72は、プランジャスリーブ52の最大直径部51aに形成され、封止溝は、プランジャスリーブ52に周方向で延在し、プランジャスリーブ52の外面51に凹設されており、封止材74が、封止溝72に一体形成される。具体的には、封止材74は、ゴム封止材または当技術分野で既知の任意の他の封止材であってもよい。封止材74の最も外側の直径は、プランジャスリーブ52の外面51の最大外径よりも僅かに大きくて、ポンプ取付け穴20の内径よりも僅かに大きく、それにより、一体形成された封止材74を有するプランジャスリーブ52がポンプ取付け穴20内に取り付けられるときに、封止材74がポンプ取付け穴20の内面によって締め付けられ、プランジャスリーブ52の外面51とポンプ取付け穴20の内面との間で封止を実現する。
【0020】
外面51のテーパ移行部51bおよび縮径部51cにおいて、プランジャスリーブ52とポンプ取付け穴20の内面との間に衝撃吸収液体領域90も形成され、この衝撃吸収液体領域90は、プランジャスリーブ52の外面51を取り囲む環状の間隙帯である。ショックアブソーバ80の衝撃吸収キャビティ82からの流体は、ショックアブソーバ80の流体出口84と、衝撃吸収液体領域90とを介して排出される。
【0021】
動作中、流体、具体的にはブレーキ流体が、プランジャポンプ50のプランジャスリーブ52によって形成された流体キャビティ54において加圧され、加圧流体は、車輪ブレーキのブレーキシリンダに向けて流体出口を介して供給されて、対応する制動輪に制動力を加える。制動作用が制動輪に加えられると、1つの制動輪においてブレーキ内のブレーキ流体の圧力が増大し、反作用に起因して、プランジャポンプ50の流体キャビティ54内のブレーキ流体の圧力も増大する。この圧力が増大して、予め設定された特定の臨界値に達すると、プランジャポンプ50のボール弁70が開放し、ブレーキ流体が、ボール弁70と、衝撃吸収出口62と、ハウジング10に形成された衝撃吸収通路15とを介してショックアブソーバ80の衝撃吸収キャビティ82に流入する。ショックアブソーバ80の流体は、上述したように、流体出口84および衝撃吸収液体領域90を介して排出される。
【0022】
本発明の第1の実施形態によれば、プランジャポンプ50の取付け方向Dにおいて、プランジャスリーブ52の外面51に位置する封止材74および封止溝72は、プランジャスリーブ52の衝撃吸収出口62と衝撃吸収液体領域90との間に位置していて、衝撃吸収出口62を介してプランジャポンプ50から流出した高圧流体が、プランジャスリーブ52の外面51とポンプ取付け穴20の内面との間の間隙を通って衝撃吸収液体領域90に漏れ入ってしまうことを効果的に防止するという効果を有する。
【0023】
本発明の原理によれば、封止材74は、プランジャスリーブ52の外面51に形成された封止溝72内に一体形成され、先行技術のように、ゴム材料の封止材74を封止溝に取り付けるステップがもはや不要となり、こうして、このステップにおいて封止材74が取り付けられるときに、封止材74自体が引張りによって破損したり、封止溝の鋭利な縁部によって裂けたり、切断されたりする危険性が回避される。
【0024】
図3は、本発明による第2の実施形態を示す。この実施形態は、封止材が、プランジャスリーブ52の外面51の最大直径部51aに配置されるのではなく、その代わりに、
図3に示すように、最大直径部51aと衝撃吸収液体領域90の縮径部51cとの間のテーパ移行部51bに配置されている点で第1の実施形態とは異なっている。
【0025】
この実施形態では、封止材74を収容するために使用される、外面51に凹設された封止溝が、プランジャスリーブ52の外面51に形成されておらず、その代わりに、封止材74が、外面51のテーパ移行部51bに直接一体成形され、それと同時に、封止材74の最も外側の直径が、外面51の最大外径よりもなお僅かに大きくて、ポンプ取付け穴20の内径よりも僅かに大きく、
図2の第1の実施形態と同じ封止効果を達成する。選択的には、この実施形態において、封止材74の一部を収容するための封止溝を提供することも可能である。
【0026】
この第2の実施形態は、封止溝を機械加工する機械加工ステップを省略するという利点を提供し、さらに、この構造を有する封止材74を備えるプランジャスリーブ52が、ポンプ取付け穴20に取り付けられるときに、ポンプ取付け穴20の端縁部による切断さえ大幅に生じなくなり、したがって、封止材74をより良好に保護することができる。
【0027】
図示の特定の実施形態を参照しながら、本発明を本明細書で説明してきたが、本発明の範囲は、上で図説した詳細事項に限定されるものではない。本発明の基本原理から逸脱することなく、これらの詳細事項に様々な修正が加えられてもよい。