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特許7368499繊維強化樹脂複合シート、繊維強化樹脂複合材およびそれを備える樹脂成形品
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  • 特許-繊維強化樹脂複合シート、繊維強化樹脂複合材およびそれを備える樹脂成形品 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】繊維強化樹脂複合シート、繊維強化樹脂複合材およびそれを備える樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/34 20060101AFI20231017BHJP
   B32B 5/08 20060101ALI20231017BHJP
   C08G 69/26 20060101ALI20231017BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B32B27/34
B32B5/08
C08G69/26
C08J5/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021565458
(86)(22)【出願日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 JP2020045029
(87)【国際公開番号】W WO2021124907
(87)【国際公開日】2021-06-24
【審査請求日】2023-02-01
(31)【優先権主張番号】P 2019227455
(32)【優先日】2019-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010065
【氏名又は名称】フクビ化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】金森 尚哲
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-274061(JP,A)
【文献】特開2012-31371(JP,A)
【文献】特開2010-84111(JP,A)
【文献】特開2012-131918(JP,A)
【文献】特開2011-68874(JP,A)
【文献】特開2014-111757(JP,A)
【文献】特開2006-83227(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/34
B32B 5/08
C08G 69/26
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分(a)およびジアミン成分(b)を含むポリアミド樹脂フィルムと、前記ポリアミド樹脂フィルムに強化繊維束から開繊した複数の強化繊維が同一方向に配向した状態で積層された複数の強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合シートであり、
前記ジカルボン酸成分(a)の60モル%以上100モル%以下がテレフタル酸であり、前記ジアミン成分(b)の60モル%以上100モル%以下が1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンであり、
前記強化繊維の体積含有率Vfは、20%以上70%以下であり、
前記繊維強化樹脂複合シートの厚さは、20μm以上70μm以下である、繊維強化樹脂複合シート。
【請求項2】
前記ポリアミド樹脂フィルムは、5μm以上50μm以下の厚さを有し、
前記強化繊維は、前記ポリアミド樹脂フィルムの一方または両方の面に積層されている、請求項1に記載の繊維強化樹脂複合シート。
【請求項3】
前記強化繊維は、炭素繊維である、請求項1または2に記載の繊維強化樹脂複合シート。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂複合シートが、厚さ方向に複数積層された繊維強化複合材であり、
前記繊維強化複合材は、複数の前記繊維強化樹脂複合シートの前記強化繊維の繊維方向が二次元方向に角度差を有する状態で積層されている、繊維強化樹脂複合材。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂複合シートが、複数のチョップ材の形状で、厚さ方向に積層された繊維強化複合材であり、
前記チョップ材は、前記繊維強化樹脂複合シートが短辺の長さが2mm以上50mm以下で、かつ長辺の長さが2mm以上80mm以下の矩形を呈するように形成されており、
前記繊維強化複合材は、複数の前記チョップ材の前記強化繊維の繊維方向が二次元的にランダムになる状態で積層されている、繊維強化樹脂複合材。
【請求項6】
前記繊維強化樹脂複合材は、キャリアシートをさらに備え、
前記キャリアシートは、その一方または両方の面において、前記複数のチョップ材を積層状態で支持している、請求項5に記載の繊維強化樹脂複合材。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の繊維強化樹脂複合材を備える、樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド樹脂フィルムと強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合シートに関する。
【背景技術】
【0002】
繊維強化樹脂複合材は、軽量、高強度、かつ高剛性であるため、スポーツやレジャー用途から、自動車や航空機等の産業用途まで、幅広く用いられている。このような繊維強化樹脂複合材の製造方法としては、強化繊維等の長繊維(連続繊維)からなる補強材にマトリックス樹脂を含浸させた中間材料、すなわちプリプレグを使用する方法がある。この方法によれば、得られる繊維強化樹脂複合材の強化繊維の含有量を管理しやすくなるとともに、その含有量を高めに設計することが可能であるという利点がある。このプリプレグを複数積層して加熱および硬化することにより、繊維強化樹脂複合材の成形品を得ることができる。
【0003】
従来、繊維強化樹脂複合材の製造の際に、強度および剛性に優れているとの観点から、マトリックス樹脂として熱硬化性樹脂が多く用いられていた(例えば特許文献1参照)。しかしながら、熱硬化性樹脂を用いたプレプリグは、耐衝撃性が低く、かつ二次加工性および量産性が困難であるという課題がある。そのため、近年では、マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いて、強化繊維に含浸させたプレプリグが広く開発されている。このようなプレプリグは、加熱による溶融および冷却による固化が容易であるため、繊維強化樹脂複合材の成形加工時における操作性に優れ、生産時間短縮等の効果も見込まれ、コスト低減にも繋がる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平8-118381号公報
【発明の概要】
【0005】
マトリックス樹脂に熱可塑性樹脂を用いて繊維強化樹脂複合材を成形する場合、耐衝撃性、強靭性および柔軟性等の物性に優れるとの観点から、熱可塑性樹脂としてポリアミド樹脂が用いられることがある。ポリアミド樹脂が用いられる場合、一般的に、ポリアミド6(ポリカプロアミド)が用いられることが多い。これは、ポリアミド6が、安価で大量に入手可能であり、広い温度域で強度を維持し易く、強化繊維への含侵性も優れており、かつサイジング剤との相性がよく取り扱いにも優れているためである。
【0006】
しかしながら、ポリアミド6は吸水性が十分に低いとは言えないため、水分を吸収することにより、繊維強化樹脂複合材の物性値に影響を与えてしまうおそれがある。具体的には、水分を吸収することにより、繊維強化樹脂複合材の強度等の物性値の低下や寸法変化を引き起こす可能性がある。従って、ポリアミド6は、例えば水に濡れる、または水中に浸潤する可能性がある成形品、雨水または湿気が多い周囲環境下で使用される成形品等への適用には不向きとなる場合がある。なお、本明細書において、寸法変化とは、質量変化の意味も含む概念である。
【0007】
一方で、吸水性のみに着目すると、ポリアミド樹脂の中でもポリアミド12(ポリドデカンアミド)は顕著に低い吸水性を有する。しかしながら、ポリアミド12は、その物性値において、ガラス転移温度Tgが低く、かつ融点Tmも低い。そのため、十分な強度を有する繊維強化樹脂複合材を作製できないことが想定される。このように、繊維強化樹脂複合材の中間材料となる繊維強化樹脂複合シートが、低吸水性であり、吸水による寸法変化を引き起こさず、かつ十分な強度を有する場合、繊維強化樹脂複合材および最終的な成形品である樹脂成形品をより幅広い用途や周囲環境下等で用いることができるため、好ましい。
【0008】
そこで、本発明は、吸水性が低く、かつ優れた強度を有する繊維強化樹脂複合シートを提供することを目的とする。
【0009】
そこで、本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。
【0010】
すなわち、本発明の一局面に係る繊維強化樹脂複合シートは、ジカルボン酸成分(a)およびジアミン成分(b)を含むポリアミド樹脂フィルムと、前記ポリアミド樹脂フィルムに強化繊維束から開繊した複数の強化繊維が同一方向に配向した状態で積層された複数の強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合シートであり、前記ジカルボン酸成分(a)の60モル%以上100モル%以下がテレフタル酸であり、前記ジアミン成分(b)の60モル%以上100モル%以下が1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンであり、前記強化繊維の体積含有率Vfは、20%以上70%以下であり、前記繊維強化樹脂複合シートの厚さは、20μm以上70μm以下である。
【0011】
本発明によれば、吸水性が低く、かつ優れた強度を有する繊維強化樹脂複合シートを提供することができる。換言すると、本発明による繊維強化樹脂複合シートは、優れた強度を有しているだけでなく、吸水による寸法変化によって強度等の物性が変化することもないため、例えば水に濡れる、または水中に浸潤させる可能性がある成形品、雨水または湿気が多い周囲環境下で使用される成形品等を製造する際の材料として好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの製造装置の概略構成の1例を示す図である。
図2】本実施形態における繊維強化樹脂複合シートからチョップ材を切り出す方法の1例を示す図である。
図3】本実施形態における繊維強化樹脂複合材の1例である積層チョップドシートを作製する方法を説明するための図である。
図4】本実施形態における繊維強化樹脂複合材の1例である積層チョップドシートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0014】
<繊維強化樹脂複合シート>
本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、ポリアミド樹脂フィルムと、当該ポリアミド樹脂フィルムに積層された複数の強化繊維とを含む。複数の強化繊維は、ポリアミド樹脂フィルムに、強化繊維束から開繊した複数の強化繊維が同一方向に配向した状態で積層されている。
【0015】
ここで、本明細書全体において、「ポリアミド樹脂フィルムに積層された」との文言において使用されている「積層」とは、ポリアミド樹脂フィルムの物性値、形状、積層のために行われる処理の種類およびその条件等に応じて、「少なくとも一部において融着した上での積層」、「少なくとも一部において付着した上での積層」および「少なくとも一部において圧着した上での積層」の意味も含む。より具体的には、「積層」の際に、必要に応じて加熱、冷却および/または加圧処理がなされていてもよい。
【0016】
まず、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートに含まれる各構成要素について説明する。
【0017】
[ポリアミド樹脂フィルム]
ポリアミド樹脂フィルムは、具体的には、ジカルボン酸成分(a)およびジアミン成分(b)からなるポリアミド樹脂をフィルム化することにより得ることができる。なお、必要に応じて、ポリアミド樹脂フィルムは、ジカルボン酸成分(a)およびジアミン成分(b)からなるポリアミド樹脂以外にも、他の熱可塑性樹脂、他の添加物等を含んでもよい。以下、ポリアミド樹脂フィルムに含まれる各成分を説明する。
【0018】
(ポリアミド樹脂)
・ジカルボン酸成分(a)
本実施形態では、ポリアミド樹脂において、ジカルボン酸成分(a)の60モル%以上100モル%以下がテレフタル酸である。これは、ジカルボン酸成分(a)中のテレフタル酸が60モル%未満の場合には、得られるポリアミド樹脂の耐熱性、耐薬品性等の物性が低下してしまうためである。テレフタル酸は、ジカルボン酸成分(a)において、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、または、よりさらに好ましくは90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上、99.9モル%以上もしくは100モル%の割合を占める。
【0019】
テレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分(a)としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ジカルボン酸(マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、スベリン酸等)、脂環式ジカルボン酸(1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等)、芳香族ジカルボン酸(イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,4-フェニレンジオキシジ酢酸、1,3-フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、ジ安息香酸、4,4’-オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸等)、またはこれらの任意の混合物等を挙げることができる。これらのテレフタル酸以外の他のジカルボン酸成分(a)は、繊維強化樹脂複合シートを製造した際、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの低吸水性および優れた強度を有するという効果を損なわない範囲内で用いることもできる。
【0020】
・ジアミン成分(b)
本実施形態では、ポリアミド樹脂において、ジアミン成分(b)の60モル%以上100モル%以下が1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンである。ジアミン成分(b)の60モル%以上を1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンとすることによって、低吸水性、高耐熱性、耐衝撃性に優れ、成形可能温度範囲が広いポリアミド樹脂を得ることができる。1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンは、ジアミン成分(b)の全体量に対して、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、または、よりさらに好ましくは90モル%以上、95モル%以上、99モル%以上、99.9モル%以上もしくは100モル%の割合を占める。
【0021】
また、ジアミン成分(b)として、1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンのいずれかを含んでも構わない。この場合、得られるポリアミド樹脂の低吸水性の物性に影響を与え難いため、1,9-ノナンジアミンを含む方が好ましい。ジアミン成分(b)として、1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンの両方を含む場合、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンとのモル比は、好ましくは60:40~99:1であり、より好ましくは70:30~95:5、さらに好ましくは80:20~95:5である。このように、ジアミン成分(b)として2-メチル-1,8-オクタンジアミンと比べて1,9-ノナンジアミンを比較的多いモル比で含ませることによって、成形可能温度範囲が広く、成形加工性が顕著に優れているだけでなく、耐衝撃性に優れたポリアミド樹脂を得ることができる。
【0022】
1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミン以外の他のジアミン成分(b)としては、特に限定されないが、例えば、脂肪族ジアミン(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等)、脂環式ジアミン(シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等)、芳香族ジアミン(p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、キシレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等)、またはこれらの任意の混合物等を挙げることができる。これらの1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8-オクタンジアミン以外の他のジアミン成分(b)は、繊維強化樹脂複合シートを製造した際、本発明の低吸水性および優れた強度を有するという効果を損なわない範囲内で用いることもできる。
【0023】
ポリアミド樹脂において、ジカルボン酸成分(a)全体のモル量1に対して、ジアミン成分(b)全体のモル量は、好ましくは0.9以上1.2以下であり、より好ましくは0.95以上1.1以下であり、さらに好ましくは0.98以上1.05以下である。
【0024】
これらの成分からなるポリアミド樹脂は、ポリアミド樹脂を製造する方法として当業者に公知である任意の方法を用いて製造することができる。例えば、(i)ジカルボン酸成分(a)とジアミン成分(b)との混合物等を加熱し、溶融状態を維持したまま重合させる熱溶融重縮合法、(ii)熱溶融重縮合法で得られたポリアミド樹脂を融点以下の温度で固体状態を維持したまま重合度を上昇させる熱溶融重合・固相重合法、(iii)ジカルボン酸成分(a)とジアミン成分(b)との混合物を固体状態を維持したまま重合させる固相重合法等を挙げることができる。
【0025】
好ましくは、得られたポリアミド樹脂の末端は、当業者に公知である任意の末端封止剤により封止されている。末端封止剤としては、特に限定されないが、例えば、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類等が挙げられる。これらの末端封止剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。末端封止剤により末端封止されたポリアミド樹脂は、耐熱性、流動性、靭性、低吸水性および剛性により優れる傾向にある。
【0026】
フィルム化されるポリアミド樹脂に含まれるモノマー単位を上記のような構成とすることによって、得られるポリアミド樹脂フィルムおよびそれを用いて製造される本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、低吸水性および高耐熱性等の物性を有する。
【0027】
具体的に、上述してきたようなポリアミド樹脂の代表例として、ポリアミド9T(ポリノナメチレンテレフタルアミド)がある。以下の表1に、ポリアミド6およびポリアミド12と比較したポリアミド9Tの大凡の物性値を参考として示す。なお、下記表1中の吸水率(%)は、23℃、相対湿度(RH)100%、24時間の条件下での測定値である(ポリアミド6およびポリアミド12については「改定新版 エンジニアリングポリマー」(化学日報工業社)の第174頁を参照、ポリアミド9Tについてはクラレ製「ジェネスタ」(登録商標)のPA9Tの基本物性値を参照)。
【0028】
【表1】
【0029】
上記表1から分かるように、ポリアミド9Tはポリアミド6と比較すると吸水率が顕著に低く、7分の1程度となっている。さらに、ポリアミド9Tは、ポリアミド6およびポリアミド12と比較するとガラス転移温度Tgおよび融点Tmも高くなっている。そのため、ポリアミド9Tを繊維強化樹脂複合シート、ならびにそれを用いた繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品に適用した場合、特に低吸水性および高耐熱性が期待される。このようなポリアミド9Tは、市販品としては、例えば、融点Tm(℃)が250℃~320℃の「ジェネスタ」(登録商標)(クラレ製)(グレード:N1000A、N1001A、N1002A、N1006A、N1006D、N1001D等)等を挙げることができる。
【0030】
(他の熱可塑性樹脂)
ポリアミド樹脂フィルムは、必要に応じて、前述のジカルボン酸成分(a)およびジアミン成分(b)からなるポリアミド樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含んでもよい。これは、ポリアミド樹脂フィルムに強化繊維が積層される際の樹脂フロー制御を良好にするため、および/または繊維強化樹脂複合シートに靱性等の追加機能を与えるためである。
【0031】
このような他の熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、ポリエステル、前述のポリアミド樹脂に該当しないポリアミド、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエーテル、ポリオレフィン、液晶ポリマー、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアクリロニトリルスチレン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルメタクリレート、ABS、AES、ASA、ポリ塩化ビニル、ポリビニルホルマール樹脂、ブロックポリマー等が挙げられる。これらの熱可塑性樹脂は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0032】
ポリアミド樹脂フィルムがこのような他の熱可塑性樹脂も含有する場合、その含有量は、前述したポリアミド樹脂100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは15質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以下、よりさらに好ましくは5質量部以下である。前述のポリアミド樹脂以外の他の熱可塑性樹脂の含有量が20質量部以下であれば、ポリアミド樹脂フィルムの低吸水性かつ耐衝撃性の効果も維持しつつ、追加機能を容易に付与することができる。
【0033】
(その他の添加剤)
ポリアミド樹脂フィルムは、必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の様々な添加剤を含んでもよい。例えば、ポリアミド樹脂フィルムの貯蔵安定性向上、硬化物の変色または変質の回避のために、酸化防止剤、光安定剤、耐候性改良材等を添加することができる。
【0034】
さらには、例えば、熱硬化性エラストマー、熱可塑性エラストマー、難燃剤(例えばリン含有ポリアミド樹脂や赤燐、ホスファゼン化合物、リン酸塩類、リン酸エステル類等)、シリコーンオイル、湿潤分散剤、消泡剤、脱泡剤、天然ワックス類、合成ワックス類、直鎖脂肪酸の金属塩、酸アミド、エステル類、パラフィン類等の離型剤、結晶質シリカ、溶融シリカ、ケイ酸カルシウム、アルミナ、炭酸カルシウム、タルク、硫酸バリウム等の粉体や金属酸化物、金属水酸化物、ガラス繊維、カーボンナノチューブ、フラーレン等の無機フィラー、炭素繊維、セルロースナノファイバー等の有機フィラー、ベンガラ等の着色剤、シランカップリング剤、導電材、スリップ剤、レベリング剤、ハイドロキノンモノメチルエーテル等の重合禁止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0035】
上述してきたような成分を含むポリアミド樹脂フィルムは、当業者に公知である任意の方法を適用して製造することができる。フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、ロールコート、リバースコート、コンマコート、ナイフコート、ダイコート、グラビアコート、溶融押出成形法、溶液流延法、Tダイ法、カレンダー法等が挙げられる。また、共押出法やラミネート法を用いることにより、厚さを厚くしたり、樹脂組成の異なる樹脂フィルムを積層したりして製造することもできる。
【0036】
ポリアミド樹脂フィルムの厚さの下限は、特に限定されないが、好ましくは5μm以上にすることによって、フィルム成形時においてフィルムの形態を良好に維持し易い。また、ポリアミド樹脂フィルムの厚さは、好ましくは50μm以下、より好ましくは45μm以下、さらに好ましくは40μm以下、よりさらに好ましくは30μm以下である。ポリアミド樹脂フィルムの厚さを50μm以下とすることによって、当該ポリアミド樹脂フィルムに開繊した複数の強化繊維が積層した本実施形態における繊維強化樹脂複合シートもより薄く構成することができる。
【0037】
このようなポリアミド樹脂フィルムは、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートを製造するための中間材料である。ポリアミド樹脂フィルムの一方または両方の面に、強化繊維束から開繊した複数の強化繊維が同一方向に配向した状態で積層されて、加熱、冷却および/または加圧処理されることによって、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートが得られる。
【0038】
[強化繊維]
強化繊維は、前述のポリアミド樹脂フィルムに、強化繊維束から開繊した複数の強化繊維が同一方向に配向した状態で積層されている。本明細書において、「複数の強化繊維が同一方向に配向した状態」とは、複数の強化繊維について、各々の強化繊維が略平行方向に延びている状態を意味する。
【0039】
強化繊維の材料としては、特に限定されないが、繊維強化樹脂複合シートを構成する強化繊維として公知のものから用途等に応じて適宜選択すればよい。具体例としては、炭素繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維、高強度ポリエステル繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維、バサルト繊維等の各種の無機繊維または有機繊維を用いることができる。これらのうち、比強度および比弾性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ガラス繊維、ボロン繊維、アルミナ繊維、窒化珪素繊維が好ましい。さらに、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートを用いた成形品の強度および耐食性等を向上させることができるため、炭素繊維がより好ましい。炭素繊維としては、強度が特に高いPAN(ポリアクリロニトリル)系の炭素繊維を用いることが好ましい。強化繊維として炭素繊維を用いる場合、金属による表面処理を炭素繊維に施してもよい。なお、これら強化繊維束から開繊した強化繊維は、同一方向に配向した状態であれば、1種または2種以上を適宜組み合わせて使用することができる。
【0040】
本実施形態における繊維強化樹脂複合シートでは、繊維強化樹脂複合シートに対する強化繊維の体積含有率Vfが20%以上70%以下である。強化繊維の体積含有率Vfをこのような範囲内にすることによって、繊維強化樹脂複合シートは、強化繊維によって十分に補強されるため、優れた強度を有する。強化繊維の体積含有率Vfは、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上、さらに好ましくは40%以上、よりさらに好ましくは45%以上である。また、強化繊維の体積含有率Vfは、好ましくは65%以下、より好ましくは60%以下、さらに好ましくは55%以下である。なお、繊維強化樹脂複合シートにおける強化繊維の体積含有率Vfは、強化繊維の種類および太さ、強化繊維が配向する繊維幅、ポリアミド樹脂フィルムの厚さ等だけでなく、繊維強化樹脂複合シートの製造時に加える温度および圧力等を適宜制御することによって上記範囲内に調整することができる。強化繊維の体積含有率Vfは、燃焼法、硝酸分解法および硫酸分解法等によって測定することができるが、本明細書における強化繊維の体積含有率Vfは、実施例と同様である燃焼法によって測定される値とする。
【0041】
さらに、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの厚さは、20μm以上70μm以下となっている。繊維強化樹脂複合シートの厚さは、好ましくは25μm以上、より好ましくは30μm以上、さらに好ましくは35μm以上、よりさらに好ましくは40μm以上である。また、繊維強化樹脂複合シートの厚さは、好ましくは65μm以下、より好ましくは60μm以下、さらに好ましくは55μm以下である。具体的には、繊維強化樹脂複合シートの厚さを上記範囲内でなるべく薄くすることによって、ポリアミド樹脂と強化繊維とが大部分において融着した上で積層されるため、強化繊維が有する強度を十分に発揮できるようになる。また、応力がかかった際に、繊維強化複合シートからなる積層体(後述する繊維強化樹脂複合材)の層間剥離が発生し難く、疲労特性にも優れる。さらに、繊維強化樹脂複合シートを用いる際の成形加工性がより優れる。なお、繊維強化樹脂複合シートの厚さは、ポリアミド樹脂フィルムの厚さも影響するが、繊維強化樹脂複合シートの製造時に加える温度および圧力等を適宜制御することによって上記範囲内にすることができる。
【0042】
上述したように、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、低吸水性かつ高耐熱性の物性を有しているだけでなく、十分な値を占める強化繊維の体積含有率Vfによる優れた補強効果や耐疲労特性、さらには繊維強化樹脂複合シートの厚さが比較的薄いことによる優れた成形加工性を有する。すなわち、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートは、低吸水性であるため、例えば水に濡れる、または水中に浸潤させる可能性がある樹脂成形品、雨水または湿気が多い周囲環境下で使用される樹脂成形品等を製造する際の材料として好適に用いられる。さらには、本実施形態における繊維強化樹脂複合シートによると、空隙をなるべく少なくしながら繊維強化樹脂複合シートを複数枚積層して高密度で様々な形状を成形することができるため、優れた強度を有する繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品を製造することができる。
【0043】
本実施形態における繊維強化樹脂複合シートの製造方法の1例について、図1に基づいて説明する。図1において各符号は、繊維強化樹脂複合シート製造装置1、強化繊維束F0、強化繊維((強化繊維束から)開繊した強化繊維)F、ポリアミド樹脂フィルムR0、加熱ローラ2、冷却ローラ3、無端ベルト4、引き出しローラ5、ボビン6、および繊維強化樹脂複合シートSを表している。
【0044】
繊維強化樹脂複合シートSは、例えば、図1に示す繊維強化樹脂複合シート製造装置1を用いて連続的に製造することができる。この繊維強化樹脂複合シート製造装置1は、強化繊維束F0およびポリアミド樹脂フィルムR0から、繊維強化樹脂複合シートSを連続的に製造する装置である。
【0045】
具体的に、繊維強化樹脂複合シート製造装置1は、上下に並ぶ複数対(図1では2対)の加熱ローラ2と、加熱ローラ2の下側において上下に並ぶ複数対(図1では2対)の冷却ローラ3と、加熱ローラ2と冷却ローラ3との間に掛け回された一対の無端ベルト4と、無端ベルト4の下側に位置する一対の引き出しローラ5と、引き出しローラ5の下側に配置された巻き取り用のボビン6とを備えている。
【0046】
図示されていないが、最上段の加熱ローラ2の近傍には、強化繊維束F0を開繊して帯状に広げる開繊機構が設けられている。この開繊機構は、強化繊維束F0を連続的に開繊することにより、多数の連続した強化繊維Fを同一方向に配向して延びるように広げつつ形成することが可能である。開繊機構としては、このような処理が可能な機構であればよく、強化繊維束F0を叩いて広げる機構、強化繊維束F0に風を当てて広げる機構、強化繊維束F0に超音波を当てて広げる機構等、種々の機構を用いることができる。
【0047】
図1の例において、上記開繊機構は、ポリアミド樹脂フィルムR0の一方の面に開繊後の強化繊維Fを供給する機構と、ポリアミド樹脂フィルムR0の他方の面に開繊後の強化繊維Fを供給する機構とを有する。前者の機構は、ポリアミド樹脂フィルムR0の一方の面と当該面と接する加熱ローラ2との間に強化繊維Fを導入するように設けられ、後者の機構は、ポリアミド樹脂フィルムR0の他方の面と当該面と接する加熱ローラ2との間に強化繊維Fを導入するように設けられる。ただし、開繊機構は、ポリアミド樹脂フィルムR0の一方の面のみに強化繊維Fを供給するものであってもよい。
【0048】
加熱ローラ2は、電気ヒータまたは加熱媒体等(例えば加熱流体)により加熱された高温のローラである。2対の加熱ローラ2は、ポリアミド樹脂フィルムR0およびその両面に導入された強化繊維Fを無端ベルト4を介して両側から挟み込みながら加熱することにより、強化繊維Fをポリアミド樹脂フィルムR0に連続的に積層させる。強化繊維Fは、同一方向に配向した状態(図1の上下方向に引き揃えられた状態)でポリアミド樹脂フィルムR0に積層される。
【0049】
冷却ローラ3は、冷却媒体等(例えば冷却流体)により冷却された低温のローラである。冷却ローラ3は、強化繊維Fが積層された状態のポリアミド樹脂フィルムR0を無端ベルト4を介して両側から挟み込みながら冷却することにより、強化繊維Fをポリアミド樹脂フィルムR0に固定する。これにより、ポリアミド樹脂フィルムR0(マトリックス樹脂)と強化繊維Fとが一体化された繊維強化樹脂複合シートSが成形される。
【0050】
引き出しローラ5は、成形された繊維強化樹脂複合シートSに張力を付与しつつこれを下方へ引き出すローラである。
【0051】
巻き取り用のボビン6は、繊維強化樹脂複合シートSを巻き取るための芯材である。ボビン6は、モータ等の駆動源により回転駆動され、引き出しローラ5により引き出された繊維強化樹脂複合シートSを順次巻き取ることにより、ロール状の繊維強化樹脂複合シートSを形成する。
【0052】
なお、図1に示される無端ベルト4を用いずにポリアミド樹脂フィルムR0と開繊した強化繊維を同一方向に一緒に流して巻き取る方法によっても、繊維強化樹脂複合シートSを製造することが可能である。
【0053】
ポリアミド樹脂フィルムR0の一方の面に、開繊した強化繊維が同一の方向に配向した状態で強化繊維を積層する場合には、図1で示した強化繊維Fを両側から送らずに、片方側から送ることによって、ポリアミド樹脂フィルムの一方の面に強化繊維Fを積層した繊維強化樹脂複合シートSが得られる。
【0054】
<繊維強化樹脂複合材>
本実施形態における繊維強化樹脂複合材は、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合シートが、厚さ方向に複数積層された繊維強化複合材である。
【0055】
ここで、本明細書全体において、「繊維強化樹脂複合シート(またはそのチョップ材)が積層された」において使用されている「積層」とは、繊維強化樹脂複合シート(またはそのチョップ材)の物性値、形状、積層のために行われる処理の種類およびその条件等に応じて、「少なくとも一部において固定された上での積層」、「少なくとも一部において結合した上での積層」、「少なくとも一部において融着した上での積層」、「少なくとも一部において付着した上での積層」および「少なくとも一部において圧着した上での積層」の意味も含む。より具体的には、「積層」の際に、必要に応じて加熱、冷却および/または加圧処理がなされていてもよい。
【0056】
積層される繊維強化樹脂複合シートは、所望する繊維強化樹脂複合材の形状に合わせて必要に応じて細断等が行われ、積層されてもよい。繊維強化樹脂複合シートの積層枚数も、特に限定されず、所望する繊維強化樹脂複合材の大きさ等に合わせて適宜設定すればよい。繊維強化樹脂複合シートは、その強化繊維の繊維方向についてどのような状態で積層されていてもよいが、好ましくは、複数の繊維強化樹脂複合シートの強化繊維の繊維方向が二次元方向に角度差を有する状態で積層されている。
【0057】
例えば、複数の繊維強化樹脂複合シートが、強化繊維の繊維方向が二次元方向に略45°ずつ角度差を有するように、換言すれば二次元平面において0°、45°、-45°および90°の4軸方向(以下、「角度差45°の4軸方向」とも称する)を有するように厚さ方向に2枚以上、好ましくは4×n枚(nは1以上の整数)積層されている繊維強化複合材を挙げることができる。このように繊維強化樹脂複合シートが積層されることによって、各々の繊維方向に沿った引張強度および曲げ強度を向上させることができるため、繊維強化樹脂複合材の全体としての強度を効果的に向上させることができる。
【0058】
あるいは、本実施形態における別の繊維強化樹脂複合材は、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合シートが、複数のチョップ材の形状で、厚さ方向に積層されていてもよい。
【0059】
チョップ材は、例えば、前述の実施形態における図1に示す繊維強化樹脂複合シートSを長手方向および幅方向に細断することにより、複数作製することができる。
【0060】
具体例としては、図2に示すように、次のような手順でチョップ材を作製することができる。図2において各符号は、繊維強化樹脂複合シートS、区間I、長手方向に連続する切込みX、区間II、幅方向の一端から他端まで連続する切込みY、およびチョップ材Cを表している。まず、図2に示すように、長手方向に延びる切込みXを形成する。すなわち、繊維強化樹脂複合シートSを長手方向に送り出しながら、その送り経路の途中の区間Iにおいて、長手方向に連続する多数の切込みXを形成する。切込みXは、例えば、繊維強化樹脂複合シートSの幅方向に等間隔に並ぶ多数の刃を含む細断装置を用いて形成することができる。
【0061】
次いで、続く区間IIにおいて、繊維強化樹脂複合シートSの幅方向の一端から他端まで連続する切込みYを形成する。切込みYは、例えばロータリーカッター等を用いて形成することができる。切込みYは、繊維強化樹脂複合シートSが長手方向に一定距離ずつ送り出される度に形成される。これにより、切込みXのピッチに相当する長さの短辺と切込みYのピッチに相当する長さの長辺とを有する矩形状の多数のチョップ材Cが切り出される。
【0062】
上述したように、繊維強化樹脂複合シートSは、その長手方向に多数の強化繊維Fが同一方向に配向した状態で積層されたシートである。そのため、当該繊維強化樹脂複合シートSから切り出された各チョップ材Cも、その長手方向(長辺の方向)に多数の強化繊維Fが同一方向に配向した状態で積層している。すなわち、チョップ材Cは、ポリアミド樹脂フィルムR0と、当該ポリアミド樹脂フィルムR0に同一方向に配向した状態で積層された多数の強化繊維Fとを含んでいる。
【0063】
チョップ材Cのサイズは、それを用いて製造される繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品の賦形性等を考慮して、適宜適切なサイズに定めることができる。具体的には、好ましくは、チョップ材Cは、短辺の長さが2mm以上50mm以下で、かつ長辺の長さが2mm以上80mm以下の矩形状に形成される。チョップ材Cの短辺および長辺の長さを小さくすることによって、それを用いて製造される繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品におけるチョップ材Cの密度をより高密度にすることができる。そのため、それを用いて製造される繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品が極端に大きいサイズまたは短時間で量産する必要があるもの等ではない場合、チョップ材Cの短辺および長辺の長さを小さくした方が、繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品の強度をより効果的に高めることができる。一方、極端に大きいサイズの樹脂成形品を製造する場合、チョップ材Cの短辺および長辺の長さを強度を極端に損なわない程度に大きくすることによって、繊維強化樹脂複合材および樹脂成形品を短時間でより効率的に製造することができる。チョップ材Cの短辺の長さは、好ましくは2mm以上、より好ましくは3mm以上、さらに好ましくは4mm以上、よりさらに好ましくは4.5mm以上であり、また、好ましくは50mm以下、より好ましくは40mm以下、さらに好ましくは30mm以下、または、よりさらに好ましくは20mm以下、15mm以下もしくは10mm以下である。チョップ材Cの長辺の長さは、好ましくは2mm以上、より好ましくは4mm以上、さらに好ましくは6mm以上、または、よりさらに好ましくは8mm以上もしくは10mm以上であり、また、好ましくは80mm以下、より好ましくは70mm以下、さらに好ましくは60mm以下、または、よりさらに好ましくは50mm以下もしくは45mm以下である。
【0064】
チョップ材Cの厚さは、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合シートの厚さと同じであり、20μm以上70μm以下である。好ましい厚さについても、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合シートの厚さと同じである。すなわち、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合シートと同様に、その薄さのために空隙をなるべく少なくしながら、かつチョップ材Cとしての小さいサイズで複数枚積層することができる。そのため、より密度が高まった顕著に優れた強度および低吸水性を有する繊維強化樹脂複合材およびそれを用いた樹脂成形品を製造することができる。さらにチョップ材Cの形状にすることによって、賦形性がよくなり、複雑な形状の樹脂成形品を製造することもできる。
【0065】
本実施形態における繊維強化複合材では、このような複数のチョップ材Cがその強化繊維の繊維方向がどのような状態で積層されていてもよいが、複数のチョップ材Cの強化繊維の繊維方向が、二次元的にランダムになる状態(疑似等方)で積層されていると好ましい。
【0066】
このような繊維強化複合材の製造方法の1例について述べる。まず、略水平に配置され回転しているベルトコンベアの上面に多数のチョップ材Cを分散させつつ配置する。このチョップ材Cの分散配置には、例えばベルトコンベアの上方からチョップ材Cを振動させつつ落下させる落下装置を用いることができる。そして、このような落下装置を用いたチョップ材Cの落下操作を繰り返すことにより、ベルトコンベア上面のチョップ材Cの密度および積層枚数を増やしていく。その結果、各チョップ材Cに含有される強化繊維Fの繊維方向(換言すればチョップ材Cの長手方向)が水平面上で種々の方向にばらつき、かつ厚さ方向に複数枚のチョップ材Cが積み重なるように、ベルトコンベアに多数のチョップ材Cが積層する。
【0067】
そして、多数のチョップ材Cが積層された末端側から、耐熱性の無端ベルトまたは離形フィルムを介した加熱ローラを用いてベルトコンベア上面に積層されたチョップ材Cを加圧および加熱処理し、多数のチョップ材Cを一体化させる。すなわち、当該加熱ローラを用いた加圧および加熱処理により、積層されたチョップ材C同士が互いに結合する。このようにベルトコンベアの上面への多数のチョップ材Cの分散および積層と加熱ローラを用いた加圧および加熱処理は、連続的に行われる。また、チョップ材Cの落下操作は、後述するようなキャリアシートを用いる場合の製造方法の例と同様に、ベルトコンベアの回転方向の複数個所で繰り返してもよく、その結果、チョップ材Cの密度および積層枚数を増やしてもよい。このような方法により、積層チョップドシートとして、複数枚のチョップ材Cが互いに一体化して積層された積層チョップドシートが巻物状で連続成形される。連続成形された形状は、図示していないが、当該巻物状の積層チョップドシートの一部断面が、後述する図4においてキャリアシートRを省略した形状となる。この積層チョップドシートの厚さは、適宜設定することができる。
【0068】
あるいは、繊維強化複合材の製造方法の他の例として、積層チョップドシートを作製する際に、熱可塑性樹脂製のキャリアシートRの上に多数のチョップ材Cを積層してもよい。以下、繊維強化複合材の製造方法の一例を示す図3および図4を用いて説明する。図3および図4において各符号は、キャリアシートR、区間XI、チョップ材C、区間XII、区間XIII、積層チョップドシート(繊維強化複合材)CS、および積層チョップドシートCSの厚さtを表している。
【0069】
まず、図3に示すように、キャリアシートRをその長手方向に送り出しながら、当該キャリアシートRの上面に多数のチョップ材Cを分散させつつ配置する。このチョップ材Cの分散配置には、例えばキャリアシートRの上方から前述と同様の落下装置を用いることができる。そして、このような落下装置を用いたチョップ材Cの落下操作をキャリアシートRの送り方向の複数個所で繰り返すことにより、キャリアシートR上のチョップ材Cの密度および積層枚数を増やしていく。すなわち、キャリアシートRの長手方向の複数の区間XI、区間XII、区間XIII・・・・において、落下装置を用いたチョップ材Cの落下操作を繰り返し行うことにより、各チョップ材Cに含有される強化繊維Fの繊維方向が水平面上で種々の方向にばらつき、かつ厚さ方向に複数枚のチョップ材Cが積み重なるように、キャリアシートRの上に多数のチョップ材Cを積層する。
【0070】
次に、加熱ローラを用いてキャリアシートRおよびその上のチョップ材Cを加圧および加熱処理し、キャリアシートRとチョップ材Cとを互いに一体化する。すなわち、当該加熱ローラを用いた加圧および加熱処理により、キャリアシートRにチョップ材Cを積層状態で支持させるとともに、積層されたチョップ材C同士が互いに結合する。このような方法により、図4に示すように、キャリアシートRの上面に複数枚のチョップ材Cが積層された積層チョップドシートCSが成形される。この積層チョップドシートCSの厚さt、つまりキャリアシートRとその上に複数枚以上積層されたチョップ材Cとの合計の厚さは、適宜設定することができる。
【0071】
キャリアシートRの材質としては、基本的にチョップ材Cの樹脂と同一のポリアミド樹脂、または前述したようなその他の熱可塑性樹脂を用いることができる。
【0072】
なお、図3および図4では、キャリアシートRの上面のみにチョップ材Cを積層して積層チョップドシートCSを作製する場合を例示したが、キャリアシートRの両面にチョップ材Cを積層することも当然に可能である。この場合は、キャリアシートRにチョップ材Cを積層する作業(つまりチョップ材Cを多重にランダムに配置して加熱および加圧処理する作業)を、キャリアシートRの上面および下面に対し順に行うとよい。すなわち、キャリアシートRの上面にチョップ材Cを積層した後、キャリアシートRの下面が上にくるようにキャリアシートRを裏返し、その状態でチョップ材Cを積層する作業を同様に繰り返す。その結果、キャリアシートRの両面にチョップ材Cが積層された積層チョップドシートを作製することができる。
【0073】
<樹脂成形品>
本実施形態における樹脂成形品は、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合材を備える。
【0074】
樹脂成形品は、当業者に公知である任意の成形方法により、前述の実施形態における繊維強化樹脂複合材を用いて製造可能な任意の形状の成形品であればどのようなものでもよい。例えば、一般産業用途、スポーツ用途、航空宇宙用途等における成形品等が挙げられる。具体的には、例えば、自動車、自転車、二輪自動車、鉄道車両等の各種車両、船舶等の移動体に用いられている成形品等が挙げられる。より具体的には、例えば、ブレーキペダル、アンダーカバー、フロントエンド、シートシェル、ドライブシャフト等の各種車両用の成形品、板バネ、風車ブレード、圧力容器、フライホイール、製紙用ローラ、屋根材、ケーブル、補修補強材、ゴルフシャフト、釣り竿、テニスやバドミントンのラケット、ホッケースティック、スキーポール等のその他の成形品を挙げることができる。
【0075】
本実施形態における樹脂成形品の製造方法は、特に限定されない。1例を挙げると、まず、所定サイズに切り出された板状の前述の実施形態で述べた積層チョップドシートCSを複数枚用意し、これを厚さ方向に積み重ねつつ熱プレス機等の金型内に配置する。その後、積み重ねられた複数枚の積層チョップドシートCSに対して加熱および/または加圧処理ならびに必要に応じて冷却処理を行うことによって、樹脂成形品を製造することができる。
【0076】
上述したような製造方法によると、熱可塑性樹脂として低吸水性のポリアミド樹脂フィルムR0を用いているため、吸水による樹脂成形品の物性値の低下や寸法変化が生じ難い樹脂成形品を得ることができる。さらには、強化繊維の体積含有率Vfが20%以上70%以下となる十分な量の強化繊維Fが含有された積層チョップドシートCSを用いて樹脂成形品が成形されるので、強化繊維Fによる優れた補強効果を得ることができ、樹脂成形品の強度を高めることができる。さらには、複数のチョップ材Cの強化繊維Fの繊維方向が二次元的にランダムになる状態(疑似等方)で積層されている積層チョップドシートCSは、積層チョップドシートCSがプレス加工されたときに強化繊維Fが細断される可能性を低減できるとともに、プレス加工時の樹脂の流動を促進して樹脂成形品の形状自由度を高めることができる。これにより、強化繊維Fによる補強効果を等方的に発揮させつつ、種々の形状の樹脂成形品を支障なく成形することができる。
【0077】
以上、本発明の概要について説明したが、本実施形態における繊維強化樹脂複合シート等をまとめると下記の通りである。
【0078】
本発明の一局面に係る繊維強化樹脂複合シートは、ジカルボン酸成分(a)およびジアミン成分(b)を含むポリアミド樹脂フィルムと、前記ポリアミド樹脂フィルムに強化繊維束から開繊した複数の強化繊維が同一方向に配向した状態で積層された複数の強化繊維とを含む繊維強化樹脂複合シートであり、前記ジカルボン酸成分(a)の60モル%以上100モル%以下がテレフタル酸であり、前記ジアミン成分(b)の60モル%以上100モル%以下が1,9-ノナンジアミンおよび2-メチル-1,8オクタンジアミンであり、前記強化繊維の体積含有率Vfは、20%以上70%以下であり、前記繊維強化樹脂複合シートの厚さは、20μm以上70μm以下である。
【0079】
このような構成を有する繊維強化樹脂複合シートは、吸水性が低く、かつ優れた強度を有する。換言すると、当該繊維強化樹脂複合シートは、優れた強度を有しているだけでなく、吸水による寸法変化によって強度等の物性が変化することもないため、例えば水に濡れる、または水中に浸潤させる可能性がある成形品、雨水または湿気が多い周囲環境下で使用される成形品等を製造する際の材料として好適に用いられる。
【0080】
また、前記ポリアミド樹脂フィルムは、5μm以上50μm以下の厚さを有し、前記強化繊維は、前記ポリアミド樹脂フィルムの一方または両方の面に積層されていると好ましい。
【0081】
さらに、前記強化繊維は、炭素繊維であるとより好ましい。
【0082】
本発明の別の局面に係る繊維強化樹脂複合材は、前述の本発明の一局面に係る繊維強化樹脂複合シートが、厚さ方向に複数積層された繊維強化複合材であり、前記繊維強化複合材は、複数の前記繊維強化樹脂複合シートの前記強化繊維の繊維方向が二次元方向に角度差を有する状態で積層されている。
【0083】
このような構成を有する繊維強化樹脂複合材は、吸水性が低く、かつ優れた強度を有する。
【0084】
あるいは、本発明の別の局面に係る繊維強化樹脂複合材は、複数のチョップ材の形状で、厚さ方向に積層された繊維強化複合材であり、前記チョップ材は、前記繊維強化樹脂複合シートが短辺の長さが2mm以上50mm以下で、かつ長辺の長さが2mm以上80mm以下の矩形を呈するように形成されており、前記繊維強化複合材は、複数の前記チョップ材の前記強化繊維の繊維方向が二次元的にランダムになる状態で積層されている。
【0085】
このような構成を有する繊維強化樹脂複合材は、吸水性が低く、かつ優れた強度を有する。
【0086】
さらに、上記局面に係る繊維強化樹脂複合材において、前記繊維強化樹脂複合材は、キャリアシートをさらに備え、前記キャリアシートは、その一方または両方の面において、前記複数のチョップ材を積層状態で支持していると好ましい。
【0087】
また、本発明のさらなる別の局面に係る樹脂成形品は、前述した本発明の別の局面に係る繊維強化樹脂複合材を備える。
【0088】
このような構成を有する樹脂成形品は、吸水性が低く、かつ優れた強度を有する。換言すると、当該樹脂成形品は、優れた強度を有しているだけでなく、吸水による寸法変化によって強度等の物性が変化することもないため、例えば水に濡れる、または水中に浸潤する可能性がある環境下、雨水または湿気が多い周囲環境下等であっても好適に用いることができる。
【実施例
【0089】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0090】
実施例1~2および比較例1~2における繊維強化樹脂複合材の試験片を、以下のように作製した。
【0091】
<実施例1>
まず、繊維強化樹脂複合シートを作製するために、ポリアミド樹脂フィルムを作製した。ポリアミド9T(クラレ製、「ジェネスタ」(登録商標))のペレットを、Tダイが取り付けられた押出成形機を用いて成形温度290℃~310℃の条件下で成形し、厚さ20μmのポリアミド9Tのポリアミド樹脂フィルムを得た。
【0092】
このポリアミド樹脂フィルムと、強化繊維として炭素繊維(東レ社製、「TORAYCA」、グレード:T-700(PAN系炭素繊維)、繊維径:7μm、フィラメント数:12K、繊度:800tex)を用い、図1に示した製造装置によって、炭素繊維束を開繊しながら上述した本実施形態における繊維強化樹脂複合シートを得た。このとき、ロール温度(図1に示した加熱ローラ2の温度)は280℃とし、送り速度は20m/minとした。得られた繊維強化樹脂複合シートは、ポリアミド樹脂フィルムの両面に、開繊された炭素繊維束が積層されたものである。繊維強化樹脂複合シートに対する炭素繊維の体積含有率Vfは同様に53%であり、繊維強化樹脂複合シートの厚さは40μm~50μmであった。なお、本実施例では、強化繊維の体積含有率Vfは、燃焼法によって測定した。
【0093】
得られた繊維強化樹脂複合シートを、開繊した炭素繊維が角度差45°の4軸方向となるように48枚積層した。積層した繊維強化樹脂複合シートを金型に投入し、300℃、2MPaの条件下において15分間加熱しながら加圧し、その後、常温、3MPaの条件下において10分間冷却しながら加圧した。金型から300mm×300mm×2mm(厚さ)の繊維強化樹脂複合材を取り出し、当該繊維強化樹脂複合材を所定の各種サイズに切り出して、最終的に、積層構造が角度差45°の4軸方向である繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。繊維強化樹脂複合材の試験片は、25mm(短軸方向の長さ)×250mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、15mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、および、50mm×50mm×2mm(厚さ)のサイズに切り出した。当該試験片の炭素繊維の体積含有率Vfも53%であった。
【0094】
<実施例2>
実施例1と同じ方法で得られた繊維強化樹脂複合シートを図2で示した方法によって細断して、短辺の長さが5mmかつ長辺の長さが20mmの矩形を呈するチョップ材を複数作製した。チョップ材の厚さは、繊維強化樹脂複合シートと同様であるため、40μm~50μmである。開繊した炭素繊維が図2図4において示したような疑似等方を有する、すなわちチョップ材の炭素繊維の繊維方向が二次元的にランダムになる状態(疑似等方)となるように、金型内に投入および積層した。金型内における積層されたチョップ材を、300℃、2MPaの条件下において15分間加熱しながら加圧し、その後、常温、3MPaの条件下において10分間冷却しながら加圧した。金型から300mm×300mm×2mm(厚さ)の繊維強化樹脂複合材を取り出し、当該繊維強化樹脂複合材を所定の各種サイズに切り出して、最終的に、積層構造が疑似等方である繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。繊維強化樹脂複合材の試験片は、25mm(短軸方向の長さ)×250mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、15mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、および、50mm×50mm×2mm(厚さ)のサイズに切り出した。当該試験片の炭素繊維の体積含有率Vfは50%であった。
【0095】
<比較例1>
ポリアミド樹脂として、ポリアミド6(三菱ケミカル社製、「ダイアミロン」、グレード:C-Z(融点Tm225℃))を用いた以外は、実施例1と同じ方法で厚さ20μmのポリアミド6のポリアミド樹脂フィルムを得て、最終的に、積層構造が角度差45°の4軸方向である、25mm(短軸方向の長さ)×250mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、15mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、および、50mm×50mm×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。
【0096】
<比較例2>
ポリアミド樹脂として、ポリアミド6(三菱ケミカル社製、「ダイアミロン」、グレード:C-Z(融点Tm225℃))を用いた以外は、実施例1と同じ方法で厚さ20μmのポリアミド6のポリアミド樹脂フィルムを得た後、実施例2と同じ方法で、最終的に、積層構造が疑似等方である、25mm(短軸方向の長さ)×250mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、15mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズ、および、50mm×50mm×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂複合材の試験片を得た。
【0097】
切り出した繊維強化樹脂複合材の試験片の引張強度および引張弾性率と曲げ強度および曲げ弾性率を以下に示す方法で測定し、さらに吸水性を以下に示す方法で評価した。
【0098】
[引張強度(MPa)および引張弾性率(GPa)]
引張強度および引張弾性率は、25mm(短軸方向の長さ)×250mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂複合材の試験片を用いて測定した。具体的には、実施例1~2および比較例1~2の繊維強化樹脂複合材の試験片の引張強度および引張弾性率について、JIS K 7164:2005に準じて測定した。
【0099】
[曲げ強度(MPa)および曲げ弾性率(GPa)]
曲げ強度および曲げ弾性率は、15mm(短軸方向の長さ)×100mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂複合材の試験片を用いて測定した。具体的には、実施例1~2および比較例1~2の繊維強化樹脂複合材の試験片の引張強度および引張弾性率について、JIS K 7074:1988の炭素繊維強化プラスチックの4点曲げ(B法)による曲げ試験方法に準じて測定した。
【0100】
[吸水性の評価]
吸水性は、50mm×50mm×2mm(厚さ)のサイズの繊維強化樹脂複合材の試験片を用いて評価した。繊維強化樹脂複合材の試験片を80℃のオーブン内に6時間入れて絶対乾燥状態にした。次いで、210mm×297mmのステンレスバット内に常温の水を深さ10mm程度まで入れて、当該バットの中に絶対乾燥状態にした繊維強化樹脂複合材の試験片を浸漬した。この時、周囲環境は大気雰囲気下とした。所定の時間経過毎に、繊維強化樹脂複合材の試験片を水中から取り出して、電子天秤にて質量を計測した。実施例1および比較例1の繊維強化樹脂複合材の試験片についてそれぞれ2つずつ評価試験を行い、平均質量(g)、ならびに絶対乾燥状態からの平均質量変化量(時間経過時における平均質量-絶対乾燥状態における平均質量)(g)および平均質量変化率(平均質量変化量/絶対乾燥状態における平均質量)(%)を算出した。
【0101】
実施例1~2および比較例1~2の繊維強化樹脂複合材の試験片における上記測定結果、ならびに実施例1および比較例1の繊維強化樹脂複合材の試験片の吸水性の評価結果を、以下の表2および表3にそれぞれまとめて示す。
【0102】
【表2】
【0103】
【表3】
【0104】
上記表2の結果から明らかなように、ポリアミド9Tのフィルムを用いて作製された繊維強化樹脂複合材の試験片は、ポリアミド6のフィルムを用いた場合と比較して、概ね優れた引張特性および曲げ特性を有しており、十分に優れた強度を有することが分かる。さらに、上記表3の結果から明らかなように、ポリアミド9Tのフィルムを用いて作製された繊維強化樹脂複合材の試験片は、ポリアミド6のフィルムを用いた場合と比較して、顕著に吸水性が低く、浸漬開始後24時間から149時間まで計測しても平均質量変化率が0.2%以下のままであり、ほとんど質量変化を生じていなかった。
【0105】
さらに、繊維強化樹脂複合材の試験片の吸水性についてより精確に評価するために、恒温・恒湿度環境下での吸水性の追加試験を行った。その後、当該追加試験後の試験片を用い、吸水後の繊維強化樹脂複合材の試験片の引張特性および曲げ特性の評価試験を行った。
【0106】
恒温・恒湿度環境下での吸水性の追加試験では、繊維強化樹脂複合材の試験片として、前述の実施例1および比較例1と同じ方法によって作製して切り出した、積層構造が角度差45°の4軸方向である、25mm(短軸方向の長さ)×250mm(長軸方向の長さ)×2mm(厚さ)のサイズの試験片を用いた。
【0107】
[恒温・恒湿度環境下での吸水性の追加試験]
使用する繊維強化樹脂複合材の試験片のサイズが異なること、および、繊維強化樹脂複合材の試験片を浸漬する際の周囲環境が23℃の温度かつ50%RHの湿度の恒温・恒湿度の環境下であること以外は、前述の吸水性の評価試験と同様の方法によって、所定の時間経過毎に、繊維強化樹脂複合材の試験片を水中から取り出して、電子天秤にて質量を計測した。この追加試験では、前述したサイズにおける実施例1および比較例1の繊維強化樹脂複合材の試験片についてそれぞれ6つずつ評価試験を行い、平均質量(g)、ならびに、絶対乾燥状態からの平均質量変化量(g)および平均質量変化率(平均質量変化量/絶対乾燥状態における平均質量)(%)を前述と同様に算出した。
【0108】
恒温・恒湿度環境下での吸水性の追加試験の結果を、以下の表4にまとめて示す。
【0109】
【表4】
【0110】
上記表4の結果から明らかなように、ポリアミド9Tのフィルムを用いて作製された実施例1における試験片は、浸漬開始後864時間が経過しても平均質量変化率が0.26%であり、恒温・恒湿度環境下においてもほとんど質量変化を生じなかった。一方、ポリアミド6のフィルムを用いて作製された比較例1における試験片は、浸漬開始後864時間において、その平均質量変化率は2.42%となっており、吸水により質量変化が生じていた。
【0111】
次いで、上述した恒温・恒湿度環境下での吸水試験後の試験片を用いて、吸水後の繊維強化樹脂複合材の試験片の引張特性および曲げ特性の評価試験を行った。具体的には、23℃かつ50%RHの恒温・恒湿度環境下において864時間にわたり水に浸漬させた実施例1および比較例1の吸水後の試験片を、各々実施例3の試験片および比較例3の試験片として用いて、これらの試験片の引張強度、引張弾性率、曲げ強度および曲げ弾性率を測定した。測定方法は、前述した方法と同じである。
【0112】
実施例3および比較例3の吸水後の繊維強化樹脂複合材の試験片における、引張強度、引張弾性率、曲げ強度および曲げ弾性率の測定結果を、以下の表5にまとめて示す。
【0113】
【表5】
【0114】
上記表5の結果から明らかなように、ポリアミド9Tのフィルムを用いて作製された実施例3の試験片は、ポリアミド6のフィルムを用いて作製された比較例3の試験片と比較すると、顕著に優れた引張特性および曲げ特性を有していた。これは、ポリアミド6のフィルムを用いて作製された比較例3の試験片は、吸水により質量変化が生じたため、強度等の物性値が低下したためと考えられる。
【0115】
これらの結果から、ポリアミド9Tのフィルムを用いて作製された本発明例の繊維強化樹脂複合シートは、十分な強度を有するだけでなく、吸水によって強度等の物性が大きく劣化することがないため、水に濡れる、水中に浸漬する等の環境下であっても、好適に用いられることが分かった。一方、ポリアミド6のフィルムを用いて作製される繊維強化樹脂複合シートは、湿気や雨水等で水に濡れるような環境下等において、アミド基と水分子との結合により結晶化度が低下することで、寸法変化(具体的には質量変化)を引き起こし、本発明例と比べると強度等の物性値が顕著に低くなることが分かった。
【0116】
この出願は、2019年12月17日に出願された日本国特許出願特願2019-227455号を基礎とするものであり、その内容は、本願に含まれるものである。
【0117】
本発明を表現するために、前述において具体例等を参照しながら実施形態および実施例を通して本発明を適切かつ十分に説明したが、当業者であれば前述の実施形態および実施例を変更および/または改良することは容易になし得ることであると認識すべきである。したがって、当業者が実施する変更形態または改良形態が、請求の範囲に記載された請求項の権利範囲を離脱するレベルのものでない限り、当該変更形態または当該改良形態は、当該請求項の権利範囲に包括されると解釈される。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明によれば、吸水性が低く、かつ優れた強度を有する繊維強化樹脂複合シートを提供することができる。従って、本発明における繊維強化樹脂複合シートは、例えば水に濡れる、または水中に浸潤させる可能性がある樹脂成形品、雨水または湿気が多い周囲環境下で使用される樹脂成形品等を製造する際の材料として、広範な製品に好適に用いることができる。
図1
図2
図3
図4