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特許7368528抗腫瘍抗原ナノボディ及びその核酸コード配列、並びにその使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】抗腫瘍抗原ナノボディ及びその核酸コード配列、並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20231017BHJP
   C07K 16/28 20060101ALI20231017BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231017BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231017BHJP
   G01N 33/531 20060101ALI20231017BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231017BHJP
   C07K 16/46 20060101ALI20231017BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20231017BHJP
   C12Q 1/04 20060101ALN20231017BHJP
【FI】
C12N15/13
C07K16/28 ZNA
A61P35/00
A61K39/395 N
G01N33/53 D
G01N33/531 A
C12N15/62 Z
C07K16/46
C12P21/08
C12Q1/04
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022046582
(22)【出願日】2022-03-23
(65)【公開番号】P2022151798
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】63/165,266
(32)【優先日】2021-03-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】17/692,599
(32)【優先日】2022-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516144245
【氏名又は名称】中國醫藥大學附設醫院
【氏名又は名称原語表記】China Medical University Hospital
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】周 徳陽
(72)【発明者】
【氏名】邱 紹智
(72)【発明者】
【氏名】黄 士維
(72)【発明者】
【氏名】潘 志明
(72)【発明者】
【氏名】陳 美智
(72)【発明者】
【氏名】林 育全
(72)【発明者】
【氏名】陳 曄
【審査官】飯濱 翔太郎
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/069133(WO,A1)
【文献】MEDCHEM NEWS,2017年,27,35-41
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
A61K
A61P 35/00
G01N 33/53
G01N 33/531
C12P 21/08
C12Q 1/04
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)に特異的に結合する抗腫瘍抗原ナノボディであって、
配列番号1、配列番号2、及び配列番号3からなる群から選ばれるアミノ酸配列であることを特徴とする、
抗腫瘍抗原ナノボディ。
【請求項2】
前記HLA-Gと前記HLA-Gの受容体との相互作用及び/又は結合を遮断
前記受容体は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4、KIR2DL4)、又は白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1、LILRB1)であることを特徴とする、
請求項に記載の抗腫瘍抗原ナノボディ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の抗腫瘍抗原ナノボディのアミノ酸配列をコードする単離された核酸であって、
配列番号4、配列番号5、配列番号6、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれるヌクレオチド配列を含むことを特徴とする、
単離された核酸。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の抗腫瘍抗原ナノボディ、及び医薬上許容可能な担体を含むことを特徴とする、
医薬組成物。
【請求項5】
がん及び免疫関連疾患を治療するための医薬品を製造するための請求項1又は2に記載の抗腫瘍抗原ナノボディの使用。
【請求項6】
サンプルに請求項1又は2に記載の抗腫瘍抗原ナノボディを添加することを含
前記サンプルは、血液、尿液、痰液、唾液又は体液であることを特徴とする、
HLA-Gの発現レベルを検出するための方法。
【請求項7】
請求項1に記載の抗腫瘍抗原ナノボディと、フラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region、Fc region)とを含み、
前記抗腫瘍抗原ナノボディは、前記フラグメント結晶化可能領域と共役していることを特徴とする、
抗体共役物。
【請求項8】
請求項1に記載の抗腫瘍抗原ナノボディと、第2の抗体とを含み、
前記抗腫瘍抗原ナノボディと前記第2の抗体との共役により、二重特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T-cell engager、BiTE)、三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)、二重特異性キラー細胞エンゲージャー(bispecific killer cell enager、BiKE)、三重特異性キラー細胞エンゲージャー(triple specific killer cell engager、TriKE)、又は任意の二重特異性抗体を形成することを特徴とする、
抗体共役物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍抗原ナノボディ及びその核酸コード配列、並びにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、悪性腫瘍とも呼ばれ、細胞の分裂・増殖の制御機能不全による疾患であり、細胞が異常に増殖し、また、異常増殖した細胞が体の他の部分に侵入可能である。世界中でがん患者がどんどん増加しており、台湾でも死因トップ10の1つであり、かつ、長年に死因トップ10の1位を占めている。
【0003】
従来の腫瘍治療方法は、外科手術、放射線療法、化学療法及び標的療法等が挙げられる。腫瘍免疫治療は、上記の治療法以外の腫瘍を治療する方法であり、患者自身の免疫系を活性化させ、腫瘍細胞又は腫瘍抗原物質を利用して生体の特異的細胞性免疫及び体液性免疫反応を誘導し、生体の抗がん能力を高め、腫瘍の成長、拡散、再発を抑制することで、腫瘍の除去又は制御という目的を達成することができる。しかしながら、現在の腫瘍治療方法は、効果が低く、副作用が強いという問題があり、他の免疫関連疾患を引き起こすことさえ可能性がある。
【0004】
ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)は、様々な固形腫瘍において大量に発見され、免疫細胞を抑制する特性を持つため、腫瘍を特定する標的分子として用いられ、抗がん剤として利用する可能性が検討されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の問題を解決するために、当業者は、がん及び免疫関連疾患をより効果的に治療することができる新規な医薬品を研究開発している。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記を鑑み、本発明は、ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)に特異的に結合する抗腫瘍抗原ナノボディを提供することを目的とする。前記抗腫瘍抗原ナノボディは、配列番号1、配列番号2、配列番号3、及びそれらの任意の組み合わせから選ばれるアミノ酸配列を含む。
【0007】
本発明の1つの実施例において、前記アミノ酸配列は、前記抗腫瘍抗原ナノボディの重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)のアミノ酸配列である。
【0008】
本発明の1つの実施例において、前記抗腫瘍抗原ナノボディは、フラグメント結晶化可能領域(fragment crystallizable region、Fc region)に共役される。
【0009】
本発明の1つの実施例において、前記抗腫瘍抗原ナノボディは、第2の抗体に共役されることにより、二重特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T-cell engager、BiTE)、三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)、二重特異性キラー細胞エンゲージャー(bispecific killer cell engager、BiKE)、三重特異性キラー細胞エンゲージャー(triple specific killer cell engager、TriKE)、又は任意の二重特異性抗体を形成する。
【0010】
本発明の1つの実施例において、前記抗腫瘍抗原ナノボディは、前記HLA-Gと前記HLA-Gの受容体との相互作用及び/又は結合を遮断する。
【0011】
本発明の1つの実施例において、前記受容体は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4、KIR2DL4)、又は白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1、LILRB1)である。
【0012】
また、本発明のもう1つの目的は、前記抗腫瘍抗原ナノボディのアミノ酸配列をコードする単離された核酸を提供することである。前記単離された核酸は、配列番号4、配列番号5、配列番号6、及びそれらの任意の組み合わせからなる群から選ばれるヌクレオチド配列を含む。
【0013】
また、本発明のもう1つの目的は、前記抗腫瘍抗原ナノボディ及び医薬上許容可能な担体を含む医薬組成物を提供することである。
【0014】
また、本発明のもう1つの目的は、がん及び免疫関連疾患を治療するための医薬品を製造するための前記抗腫瘍抗原ナノボディの使用を提供することである。
【0015】
また、本発明のもう1つの目的は、サンプルに前記抗腫瘍抗原ナノボディを投与することを含む、HLA-Gの発現レベルを検出するための方法を提供することである。
【0016】
本発明の1つの実施例において、前記サンプルは、血液、尿液、痰液、唾液又は体液である。
【発明の効果】
【0017】
上記をまとめると、本発明の抗腫瘍抗原ナノボディの効果は、以下の通りである。
【0018】
競合酵素結合免疫吸着アッセイ(competitive enzyme linked immunosorbent assay、competitive ELISA)により、HLA-GナノボディがIC50である50%阻害濃度において、HLA-Gとその受容体であるキラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4、KIR2DL4)並びに白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1、LILRB1)との相互作用を遮断すること、及び、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231に対するナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK cell)の細胞溶解(cytolysis)作用及び細胞毒性を向上させることを証明し、
ウエスタンブロッティング(Western blotting)により、抗HLA-Gナノボディがヒトがん細胞株MDA-MB-231及びA549の細胞溶解物中のHLA-Gタンパク質を特定できることを証明し、
フローサイトメトリー(flow cytometric analysis)及び免疫細胞化学の分析により、抗HLA-Gナノボディが細胞膜上のHLA-Gタンパク質を特定できること、HLA-Gの発現及び細胞膜マーカーであるPan-カドヘリン(Pan-Cadherin)がMDA-MB-231及びA549細胞に共局在していることを証明し、及び、
免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)により、抗HLA-G抗体がHLA-Gの発現を検出するために用いられることを証明する。
【0019】
上記効果によれば、がん及び免疫関連疾患を治療する効果を達成する。特に、従来の抗体は、遺伝子をベクターによって細胞にトランスフェクトしてから抗体の機能を発揮することができるため、収率が低くて効果が低いという欠点がある。本発明の抗腫瘍抗原ナノボディは、インビトロで大量に製造してそのまま投与すべき個体に投与して治療を行うことができる。なお、本発明によれば、HLA-Gの発現レベルを検出できる効果も達成することができる。
【0020】
以下、本発明の実施形態についてさらに説明する。下記の実施例は、本発明を説明するためのものに過ぎず、本発明の範囲を制限するものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、改良や変更することができる。よって、本発明の保護範囲は、添付の特許請求の範囲を基準とすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1A図1Hは、競合酵素結合免疫吸着アッセイ(competitive enzyme linked immunosorbent assay、competitive ELISA)によって抗HLA-GナノボディのHLA-G/キラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4、KIR2DL4)又は白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1、LILRB1)の軸遮断を測定する結果を示す。LILRB1は、白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1)を示し、KIR2DL4は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4)を示し、nbは、ナノボディ(nanobody)を示し、87Gは、市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体を示す。
図2】抗HLA-Gナノボディによるヒト乳がん細胞株MDA-MB-231に対するナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK cell)の細胞溶解(cytolysis)作用の向上効果を示すチャートである。HLA-GmAB(87G)は、市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)を示す。
図3A】抗HLA-Gナノボディのウエスタンブロッティングの結果を示す。使用される細胞株は、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231であり、市販の抗体(commercial antibody)は、HLA-G(E8N9C)XP(R)Rabbit mAb#79769であり、上段の数字は、MDA-MB-231細胞株の細胞溶解物(cell lysate)の量(μg)を示し、一次抗体(primary antibody)の濃度は、1ng/mlであり、市販の抗体パネルの二次抗体は、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(anti-rabbit-horseradish peroxidase、anti-Rab-HRP)(1:1000)であり、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)ナノボディ(1ng/ml)であり、実験群(#9、#20)の二次抗体は、抗VHH-HRP(1:1000)である。
図3B】抗HLA-Gナノボディのウエスタンブロッティングの結果を示す。使用される細胞株は、ヒト非小細胞肺がん細胞株A549であり、市販の抗体は、HLA-G(E8N9C)XP(R) Rabbit mAb#79769であり、上段の数字は、A549細胞株の細胞溶解物の量(μg)を示し、一次抗体の濃度は、1ng/mlであり、市販の抗体パネルの二次抗体は、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(1:1000)であり、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(VHH)ナノボディ(1ng/ml)であり、実験群(#9、#20)の二次抗体は、抗VHH-HRP(1:1000)である。
図4】抗HLA-Gナノボディのフローサイトメトリーの結果を示す。ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231及びヒト非小細胞肺がん細胞株A549の量は、1×106であり、市販の抗体(commercial Ab)は、PE(#12-9957-42)(抗HLA-Gモノクローナル抗体、100μlのPBS溶液に0.25μg添加した)及び87Gであり、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(VHH)ナノボディ(100μlのPBS溶液に0.25μg添加した)であり、二次抗体は、ウサギ抗ラクダVHH、iFluor555(rabbit anti-camelid VHH、iFluor555)(100μlのPBS溶液に0.5μg添加した)であり、MFIは、平均蛍光強度(mean fluorescence intensity)を示し、unstainedは、未染色を示し、cloneは、クローン株を示す。
図5図5A及び図5Bは、抗HLA-Gナノボディの免疫細胞化学の分析結果を示す。図5Aに使用される細胞株は、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231である。図5Bに使用される細胞株は、ヒト非小細胞肺がん細胞株A549である。市販の抗体4H84は、抗HLA-Gモノクローナル抗体であり、抗HLA-Gナノボディの濃度は、1ng/mlであり、二次抗体は、抗VHH-フルオレセイン(fluorescein、FITC)(1:5000)である。
図6】抗HLA-Gナノボディの免疫組織化学的染色の結果を示す。使用されるサンプルは、ヒトの胎盤であり、市販の抗体は、4H84(抗HLA-Gモノクローナル抗体)(#sc-21799)であり、濃度が200μg/mlであり、作用濃度が4μg/mlである。市販の抗体パネルの二次抗体は、ヤギ抗ウサギHRPであり、DABは、ジアミノベンジジン(diaminobenzidine)(西洋ワサビペルオキシダーゼの最も感度が高く、最も使用される発色反応物である)を示し、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(VHH)ナノボディ(作用濃度が4μg/mlである)であり、実験群(#9)の抗体は、ウサギ抗ラクダVHH抗体(rabbit anti-camelid VHH antibody)と、ビオチン(biotin)(100μlのPBS溶液に0.5μg添加した)と、ヤギ抗ウサギHRPと、を含む。
【発明を実施するための形態】
【0022】
定義
本明細書に記載の数値は、概算値である。全ての実験データは、その数値の±20%、好ましいは±10%、より好ましくは±5%の範囲を示す。
【0023】
本明細書において、「抗ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)ナノボディ(nanobody、NB)」及び「抗腫瘍抗原ナノボディ」という用語は、相互交換可能に使用される。
【0024】
本明細書において、「第2の抗体」という用語は、ナノボディに共役されることにより、二重特異性T細胞エンゲージャー(bispecific T-cell engager、BiTE)、三重特異性T細胞エンゲージャー(triple specific T-cell engager、TriTE)、二重特異性キラー細胞エンゲージャー(bispecific killer cell engager、BiKE)、三重特異性キラー細胞エンゲージャー(triple specific killer cell engager、TriKE)、又は任意の二重特異性抗体を形成することができる抗体を意味する。
【0025】
好ましくは、前記第2の抗体は、抗CD3ε、CD3、プログラム細胞死リガンド1(programmed cell death ligand 1、PD-L1)、プログラム細胞死リガンド2(programmed cell death ligand 2、PD-L2)、T細胞免疫グロブリンドメイン及びムチンドメイン3(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain 3、Tim3)、表皮成長因子受容体(epidermal growth factor receptor、EGFR)、EGFRvIII、ヒト表皮成長因子受容体2(human epidermal growth factor receptor 2、Her2)、B細胞成熟抗原(B-cell maturation antigen、BCMA)、CD19、CD20、CD34、CD16、Fc、上皮細胞接着分子(epithelial cell adhesion molecule、EpCAM)、メソテリン(mesothelin)、ニューヨーク食道扁平上皮細胞がん-1(New York esophageal squamous cell carcinoma-1、NY-ESO-1)、糖タンパク質100(glycoprotein 100、gp100)、及びムチン1(Muc1)抗体が挙げられるが、これらに限定されない。
【0026】
本明細書において、「治療(treating又はtreatment)」という用語は、疾患(disease)又は障害(disorder)の1つ又は複数の臨床徴候(clinical sign)を緩和(alleviating)、減少(reducing)、改善(ameliorating)、軽減(relieving)、又は制御(controlling)すること、及び治療中の病態(condition)又は症状(symptom)の重症度(severity)の進展(progression)を低下(lowering)、停止(stopping)又は逆転(reversing)させることを意味する。
【0027】
本発明に係る医薬品は、通常の知識に基づいて、非経口(parenterally)投与の剤形(dosage form)に製造されてもよい。前記非経口投与の剤形は、例えば、注射剤(injection)(例えば、滅菌水溶液(sterile aqueous solution)又は分散液(dispersion)、滅菌粉末(sterile powder)、錠剤(tablet)、トローチ剤(troche)、ロゼンジ剤(lozenge)、丸薬(pill)、カプセル(capsule)、分散性粉末(dispersible powder)又は顆粒(granule)、溶液、懸濁液(suspension)、乳剤(emulsion)、シロップ(syrup)、エリキシル剤(elixir)、スラリー剤(slurry)及び類似のものが挙げられるが、これらに限定されない。
【0028】
本発明に係る医薬品は、非経口経路(parenteral routes)で投与してもよい。前記非経口経路は、腹腔内注射(intraperitoneal injection)、皮下注射(subcutaneous injection)、表皮内注射(intraepidermal injection)、皮内注射(intradermal injection)、筋肉内注射(intramuscular injection)、静脈内注射(intravenous injection)及び病巣内注射(intralesional injection)からなる群から選ばれる。
【0029】
本発明に係る医薬品は、医薬上許容可能な担体を含んでもよい。前記医薬上許容可能な担体は、例えば、溶剤(solvent)、乳化剤(emulsifier)、懸濁化剤(suspending agent)、分解剤(decomposer)、結合剤(binding agent)、賦形剤(excipient)、安定剤(stabilizing agent)、キレート剤(chelating agent)、希釈剤(diluent)、ゲル化剤(gelling agent)、防腐剤(preservative)、滑剤(lubricant)、吸収遅延剤(absorption delaying agent)、リポソーム(liposome)及び類似のものからなる群から選ばれる1つ又は複数の試薬を含んでもよい。前記試薬の選用及び数量は、当業者の専門知識及び技術的範囲に属する。
【0030】
本発明に係る前記医薬上許容可能な担体は、溶剤を含んでもよい。前記溶剤は、水、生理食塩水(normal saline)、リン酸塩緩衝生理食塩水(phosphate buffered saline、PBS)、糖含有溶液、アルコール含有水溶液(aqueous solution containing alcohol)、及びそれらの組み合わせからなる群から選ばれる。
【0031】
本明細書において、「核酸」、「核酸配列」又は「核酸フラグメント」等の用語は、一本鎖又は二本鎖形態のデオキシリボヌクレオチド配列又はリボヌクレオチド配列を意味し、かつ、既知の天然に存在するヌクレオチド(naturally occurring nucleotides)又は人工の化学的模倣物を含む。本明細書において、「核酸」という用語は、「遺伝子」、「cDNA」、「mRNA」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」と相互交換可能に使用される。
【実施例
【0032】
実施例1.抗HLA-Gナノボディの製造
本実施例において、抗ヒト白血球抗原-G(human leukocyte antigen-G、HLA-G)ナノボディ(nanobody、NB)の製造プロセスは、以下の通りである。重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)の生成プロセスは、以下の通りである。
【0033】
VHH遺伝子は、発現ベクターpET22b(Amp耐性)又はpSB-init(CmR耐性)に構築され、プラスミドは、制限エンドヌクレアーゼ消化及び配列決定によって同定される。1μLの同定されたプラスミド(約50ng)をBL21(DE3)に添加し、37℃で一晩作用させる。耐性含有LB培地に単一コロニーを接種し、37℃、220r/minで一晩培養する。一晩培養したものを1:100の比例で新鮮な耐性含有LB培地(10L~20L)に接種し、37℃、220r/minで培養する。OD600が0.8に達すと、室温まで冷却する。
【0034】
最終濃度が0.1mMであるイソプロピル-β-D-チオガラクトピラノシド(isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside、IPTG)を添加し、20℃、220r/minで一晩誘導する。遠心分離(20mM Tris pH8.0、150mM NaCl)によって細胞を破壊した後、細胞及び上清が得られる。フロースルー(flow-through)によって上清をNi-NTAビーズ(1mL)に結合させる。
【0035】
適切な濃度勾配を有するイミダゾール(imidazole)(10mM、20mM、50mM、100mM、250mM、及び500mM)を含有する緩衝液によってNi-NTAビーズを溶出する。溶出部分をSDS-PAGEによって分析する。タンパク質の純度と収量(イオン交換クロマトグラフィー又はゲル濾過クロマトグラフィー)に基づいて後の精製方法を決める。要件を満たすタンパク質をゲル濾過クロマトグラフィーで単離精製し、緩衝液をPBS緩衝液に置換する。SDS-PAGEでタンパク質の成分を分析し、要件を満たす成分を合併濃縮し、0.22μmのフィルターで濾過して容器に詰める。その後、タンパク質を-20℃以下で保存する。
【0036】
ナノボディは、大腸菌(E.coli)から生産及び精製される。ナノボディを生成するための大腸菌の生成方法として、文献Microb Cell Fact. 2019 Mar 11、18(1):47を参照することができる。要するに、大腸菌株HB2151を利用する。
【0037】
アンピシリン(ampicillin)耐性をコードするプラスミドpET(Creative Biolab)は、細胞質タンパク質の生成に用いられる。pET-HLA-G又はHLA-G多重特異性ナノボディのプラスミドで新たに形質転換された大腸菌HB2151を50μg/mLのアンピシリンを含有する培地5mLに接種し、37℃で一晩培養する。
【0038】
その後、1mLの前記培養物を100mLの培地に接種し、37℃で成長させる。一晩培養した後、100mLの培養物ごとにEnPresso Booster錠剤2枚及び追加のグルコース放出酵素(0.6U/L)を添加すると共に、1mMのIPTGを添加し、組換えナノボディのタンパク質を24時間誘導発見させる。
【0039】
そして、培養物を回収して氷上で5分間冷却した後に、6,000×g、4℃で15分間遠心分離する。上清を除去した後に、大容量Myc-tag結合樹脂を用いて、細胞ペレットを固定化金属アフィニティークロマトグラフィー(immobilized metal affinity chromatography、IMAC)によって精製する。メーカー(Clontech Laboratories)の操作手順に従って、自然条件下でグラビティーフロー式クロマトグラフィー(gravity-flow-based chromatography)を行う。
【0040】
200mgの細菌細胞ペレットごとに1mLのxTractor細胞溶解緩衝液(Clontech Laboratories)を添加し、EDTAを含有しないプロテアーゼ阻害剤カクテル(Roche Diagnostics)、及び25Uのエンドヌクレアーゼ(Thermo Scientific Pierce)を追加することで、細胞溶解を有効に行うことができる。
【0041】
氷上で15分間作用させ、10,000×g、4℃で20分間遠心分離して細胞破片を除去した後、上清を1mLの樹脂を充填したグラビティフローカラムに添加し、室温で30分間作用させる。300mMのイミダゾールを含有する溶出緩衝液を添加することによってナノボディを溶出する前に、カラムを20及び40mMのイミダゾールで2回洗浄する。分子量カットオフが3.5~5kDaであるセルロースエステル膜(cellulose ester membrane)(Spectrum(R)Laboratories)を用いて、PBSに対して透析を行うことにより、イミダゾールを除去して緩衝液を置換する。
【0042】
抗HLA-Gナノボディの各クローン株の相補性決定領域(complementarity determining region、CDR)のアライメント(alignment)及びアミノ酸配列は、表1に示されている。抗HLA-Gナノボディクローン株#9のアミノ酸配列は、配列番号1である。抗HLA-Gナノボディクローン株#20のアミノ酸配列は、配列番号2である。抗HLA-Gナノボディクローン株#33のアミノ酸配列は、配列番号3である。抗HLA-Gナノボディクローン株#9のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号4である。抗HLA-Gナノボディクローン株#20のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号5である。抗HLA-Gナノボディクローン株#33のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は、配列番号6である。
【0043】
【表1】
【0044】
実施例2.競合酵素結合免疫吸着アッセイ(competitive enzyme linked immunosorbent assay、competitive ELISA)による抗HLA-GナノボディのHLA-G/キラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4、KIR2DL4)又は白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1、LILRB1)の軸遮断(axis blockade)の測定
本実施例において、競合酵素結合免疫吸着アッセイ(competitive enzyme linked immunosorbent assay、competitive ELISA)による抗HLA-GナノボディのHLA-G/キラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4、KIR2DL4)の軸遮断の測定の操作手順は、以下の通りである。
【0045】
まず、HLA-G組換え蛋白(CAT#:TP305216、Origene)(0.2μg/ml、1ウェルあたり100μl)を96ウェルプレートに添加し、4℃で一晩コーティングする。翌日、コーティングバッファーを除去し、室温で3%のスキムミルクで2時間ブロッキングする。そして、PBST(0.05%のTweenをPBSに溶解した)で5回洗浄する。
【0046】
異なる濃度を有する抗HLA-Gナノボディ(クローン株#9、#20又は#33)又は市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)を添加し、4℃で一晩静置する。5回洗浄した後、室温でビオチン化KIR2DL4(biotinylated KIR2DL4)(Sino Biological、Cat:13052-H02S)(0.2mg/ml、1ウェルあたり100μl)を添加して2時間静置する。9回洗浄した後、各ウェルにおいて、100μlのストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ共役物(streptavidin-HRP conjugates)(ThermoFisher、CatNo:N100、希釈力価:5000:1)を含有するPBSTで、室温で2時間作用させる。
【0047】
PBSTで9回洗浄した後、50μlのTMB基質(HRPの活性を検出するため)(ThermoFisher、Cat No:N301)を添加する。その後、50μlの停止液(ThermoFisher、Cat No:N600)を添加して反応を停止させる。そして、450nmの波長のELISAリーダーを使用して測定を行う。市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)の最高濃度を、KIR2DL4/HLA-Gの相互作用を100%遮断するように設定し、他の反応を計算する。
【0048】
また、競合酵素結合免疫吸着アッセイ(competitive ELISA)によって抗HLA-GナノボディのHLA-G/白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1、LILRB1)の軸遮断の測定の操作手順は、大体上記の操作手順と同じであるが、ビオチン化KIR2DL4をビオチン化LILRB1(Sino Biological、Cat:16014-H08H)に置換し、かつ、市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)の最高濃度を、LILRB1/HLA-Gの相互作用を100%遮断するように設定し、他の反応を計算する。
【0049】
図1A図1Hには、本実施例の結果を示している。LILRB1は、白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1)を示し、KIR2DL4は、キラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4)を示し、nbは、ナノボディ(nanobody)を示し、87Gは、市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体を示す。
【0050】
本実施例の結果から分かるように、市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)は、41.4ng/ml(IC50)である50%阻害濃度において、HLA-Gとその受容体の1つであるKIR2DL4との相互作用を遮断する。抗HLA-Gナノボディクローン株#9は、6.14ng/ml(IC50)である50%阻害濃度において、HLA-Gとその受容体の1つであるKIR2DL4との相互作用を遮断し、阻害濃度は、87Gで正規化される。抗HLA-Gナノボディクローン株#20は、814ng/ml(IC50)である50%阻害濃度においてHLA-Gとその受容体の1つであるKIR2DL4との相互作用を遮断し、阻害濃度は、87Gで正規化される。抗HLA-Gナノボディクローン株#33は、53.3ng/ml(IC50)である50%阻害濃度において、HLA-Gとその受容体の1つであるKIR2DL4との相互作用を遮断し、阻害濃度は、87Gで正規化される。
【0051】
市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)は、100.9ng/ml(IC50)である50%阻害濃度において、HLA-Gとそのもう1つの受容体であるLILRB1との相互作用を遮断する。抗HLA-Gナノボディクローン株#9は、0.825ng/ml(IC50)である50%阻害濃度において、HLA-Gとそのもう1つの受容体であるLILRB1との相互作用を遮断し、阻害濃度は、87Gで正規化される。
【0052】
抗HLA-Gナノボディクローン株#20は、0.174ng/ml(IC50)である50%阻害濃度において、HLA-Gとそのもう1つの受容体であるLILRB1との相互作用を遮断し、阻害濃度は、87Gで正規化される。抗HLA-Gナノボディクローン株#33は、0.074ng/ml(IC50)である50%阻害濃度において、HLA-Gとそのもう1つの受容体であるLILRB1との相互作用を遮断し、阻害濃度は、87Gで正規化される。
【0053】
実施例3.抗HLA-Gナノボディによるヒト乳がん細胞株MDA-MB-231に対するナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK cell)の細胞溶解(cytolysis)作用の向上効果の評価
本実施例において、抗HLA-Gナノボディによるヒト乳がん細胞株MDA-MB-231(ATCC(American Type Culture Collection)から購入)に対するナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK cell)の細胞溶解(cytolysis)作用の向上効用を評価する実験プロセスは、以下の通りである。1×105のMDA-MB-231細胞を12ウェルプレートに接種し、一晩静置する。
【0054】
翌日、MDA-MB-231細胞を含有するウェルに5×105の一次ナチュラルキラー細胞を添加する。そして、1μg/mlの抗HLA-Gナノボディ(クローン株#9、#20又は#33)又は10μg/mlの市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)(87g、tHERMOfISHER、cAT nO:14-9957-82)を添加する。48時間後、生/死細胞が媒介する細胞毒性分析により、MDA-MB-231細胞に対する一次ナチュラルキラー細胞の特異的溶解をフローサイトメトリーによって確定する。
【0055】
図2には、抗HLA-Gナノボディによるヒト乳がん細胞株MDA-MB-231に対するナチュラルキラー細胞の細胞溶解作用の向上の結果を示している。本実施例から分かるように、抗HLA-Gナノボディクローン株#9、#20及び#33は、ナチュラルキラー細胞で誘導された腫瘍細胞(MDA-MB-231)に対する細胞毒性を向上させる。
【0056】
実施例4.抗HLA-Gナノボディのウエスタンブロッティング(Western blotting)の結果
本実施例において、抗HLA-Gナノボディのウエスタンブロッティング(Western blotting)の操作手順は、以下の通りである。プロテアーゼ阻害剤カクテルを含有するPRO-PREPタンパク質抽出溶液(iNtRON、台北、台湾)から細胞を取り、4℃で15分間激しく振とうした後、遠心分離をする。上清を回収し、Bio-Rad BCA試薬(Bio-Rad Hercules、CA、USA)を使用してタンパク質の濃度を測定する。30μgの各サンプルのライセートをSDS-ポリアクリルアミドゲルで電気泳動し、そして、PVDF膜にエレクトロブロッティングする。
【0057】
TBSTブロッキング剤に5%のBSAを添加し、メンブレン及び一次抗体(TBSTに溶解された)を4℃下で一晩作用させる。そして、4回洗浄し、西洋ワサビペルオキシダーゼ(horseradish peroxidase、HRP)共役ヤギ抗マウス又はウサギIgG(Upstate、Billerica、MA、USA)にて2時間作用させる。TBSTで4回洗浄した後、転写物とSuperSignal West Pico ECL試薬(Pierce Biotechnology、Rockford、IL、USA)とを一緒に1分間作用させ、そして、Kodak-X-Omatフィルムへの曝露によって化学発光を検出する。
【0058】
図3A図3Bには、抗HLA-Gナノボディのウエスタンブロッティングの分析結果を示している。図3Aに使用される細胞株は、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231であり、市販の抗体(commercial antibody)は、HLA-G(E8N9C)XP(R)Rabbit mAb#79769であり、上段の数字は、MDA-MB-231細胞株の細胞溶解物(cell lysate)の量(μg)を示し、一次抗体(primary antibody)の濃度は、1ng/mlであり、市販の抗体パネルの二次抗体は、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(anti-rabbit-horseradish peroxidase、anti-Rab-HRP)(1:1000)であり、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(heavy chain variable domain、VHH)ナノボディ(1ng/ml)であり、実験群(#9、#20)の二次抗体は、抗VHH-HRP(1:1000)である。
【0059】
図3Bに使用される細胞株は、ヒト非小細胞肺がん細胞株A549(ATCC(American Type Culture Collection)から購入)であり、市販の抗体は、HLA-G(E8N9C)XP(R) Rabbit mAb#79769であり、上段の数字は、A549細胞株の細胞溶解物の量(μg)を示し、一次抗体の濃度は、1ng/mlであり、市販の抗体パネルの二次抗体は、抗ウサギ西洋ワサビペルオキシダーゼ(1:1000)であり、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(VHH)ナノボディ(1ng/ml)であり、実験群(#9、#20)の二次抗体は、抗VHH-HRP(1:1000)である。
【0060】
本実施例の結果から分かるように、ウエスタンブロッティングにより、抗HLA-Gナノボディクローン株#9及び#20は、ヒトがん細胞株MDA-MB-231及びA549細胞の細胞溶解物中のHLA-Gタンパク質を特定することができる。
【0061】
実施例5.抗HLA-Gナノボディのフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)の結果
本実施例において、抗HLA-Gナノボディのフローサイトメトリー(flow cytometric analysis)の操作手順は、以下の通りである。まず、HLA-G組換え蛋白(CAT#:TP305216、Origene)(0.2μg/ml、1ウェルあたり100μl)を96ウェルプレートに添加し、4℃で一晩コーティングする。翌日、コーティングバッファーを除去し、室温で3%のスキムミルクで2時間ブロッキングする。そして、PBST(0.05%のTweenをPBSに溶解した)で5回洗浄する。
【0062】
異なる濃度を有する抗HLA-Gナノボディ(クローン株#9、#20又は#33)又は市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)を添加し、4℃で一晩静置する。5回洗浄した後、室温でビオチン化KIR2DL4(biotinylated KIR2DL4)(Sino Biological、Cat:13052-H02S)(0.2mg/ml、1ウェルあたり100μl)を添加して2時間静置する。9回洗浄した後、各ウェルにおいて、100μlのストレプトアビジン-西洋ワサビペルオキシダーゼ共役物(streptavidin-HRP conjugates)(ThermoFisher、CatNo:N100、希釈力価:5000:1)を含有するPBSTで、室温で2時間作用させる。
【0063】
PBSTで9回洗浄した後、50μlのTMB基質(HRPの活性を検出するため)(ThermoFisher、Cat No:N301)を添加する。その後、50μlの停止液(ThermoFisher、Cat No:N600)を添加して反応を停止させる。そして、450nmの波長のELISAリーダーを使用して測定をする。市販の抗HLA-Gモノクローナル抗体(87G)の最高濃度を、KIR2DL4/HLA-Gの相互作用を100%遮断するように設定し、他の反応を計算する。
【0064】
図4には、抗HLA-Gナノボディのフローサイトメトリーの分析結果を示している。ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231及びヒト非小細胞肺がん細胞株A549の量は、1×106であり、市販の抗体(commercial Ab)は、PE(#12-9957-42)(抗HLA-Gモノクローナル抗体、100μlのPBS溶液に0.25μg添加した)及び市販のモノクローナル抗体87Gであり、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(VHH)ナノボディ(100μlのPBS溶液に0.25μg添加した)であり、二次抗体は、ウサギ抗ラクダVHH、iFluor555(rabbit anti-camelid VHH、iFluor555)(100μlのPBS溶液に0.5μg添加した)であり、MFIは、平均蛍光強度(mean fluorescence intensity)を示し、unstainedは、未染色を示し、cloneは、クローン株を示す。
【0065】
実施例6.抗HLA-Gナノボディの免疫細胞化学(immunocytochemistry)の分析結果
本実施例において、抗HLA-Gナノボディの免疫細胞化学的分析(immunocytochemistry)の操作手順は、以下の通りである。腫瘍細胞(1×105)を6ウェルプレートのスライドガラスに接種し、一晩培養する。特定の処理を行った後、細胞を1%のパラホルムアルデヒド(paraformaldehyde)に固定し、PBSで洗浄し、0.5%のBSAを含有するPBSに0.1% Triton X-100を使用して30分間透過化させ、2%のBSAでブロッキングし、特異的抗体(2%のBSA/0.05%のTween-20を含有するPBS(PBST)で混合された)と作用させる。洗浄した後、細胞とフルオレセイン共役二次抗体とを一緒に作用させる。PBSTで洗浄し、退色剤及び4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール(4’,6-diamidino-2-phenylindole、DAPI)を含有する水溶性の封入剤で封入する。Leica TCS SP8 X共焦点顕微鏡(Leica)によって画像を分析する。
【0066】
図5A及び図5Bには、抗HLA-Gナノボディの免疫細胞化学の分析結果を示している。図5Aに使用される細胞株は、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231である。図5Bに使用される細胞株は、ヒト非小細胞肺がん細胞株A549である。市販の抗体4H84は、抗HLA-Gモノクローナル抗体であり、抗HLA-Gナノボディの濃度は、1ng/mlであり、二次抗体は、抗VHH-フルオレセイン(fluorescein、FITC)(1:5000)である。
【0067】
図5A及び図5Bから分かるように、免疫細胞化学の分析により、抗HLA-Gナノボディクローン株#9及び#20は、細胞膜上のHLA-Gタンパク質を特定することができる。抗HLA-Gナノボディクローン株#9及び#20、並びに市販の抗体4H84及び市販のPan-カドヘリン(Pan-Cadherin)抗体を使用することにより、HLA-Gの発現及び細胞膜マーカーであるPan-カドヘリン(Pan-Cadherin)がMDA-MB-231及びA549細胞に共局在する。
【0068】
実施例7.抗HLA-Gナノボディの免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)の結果
本実施例において、抗HLA-Gナノボディの免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)の操作手順は、以下の通りである。ヒトの胎盤サンプルを10%のホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに包埋する。切片(厚さ=3μm)をヘマトキシリン及びエオジンによって染色する。免疫組織化学について、99℃のマイクロ波によって抗原賦活化(antigen retrieval)を行う。切片をH22で洗浄して20分間作用させることにより、内因性ペルオキシダーゼを遮断する、そして、5%のBSAに30分間浸漬し、切片及び一次抗体を4℃で一晩作用させる。
【0069】
洗浄した後、切片を希釈したビオチン共役二次抗体で、室温で2時間又は4℃で一晩作用させる。最後に、切片と重合物とを一緒に室温で10分間作用させ、ジアミノベンジジン(diaminobenzidine、DAB)(西洋ワサビペルオキシダーゼの最も感度が高く、最も使用される発色反応物)によって染色し、さらに、ヘマトキシリン及びエオジンによって染色し、中性ゴムで固定する。染色の定量化は、光学顕微鏡(Nikon、日本)によって40倍及び400倍の倍率でそれぞれ行う。
【0070】
図6には、抗HLA-Gナノボディの免疫組織化学的染色の結果を示している。使用されるサンプルは、ヒトの胎盤である、市販の抗体は、4H84(HLA-Gモノクローナル抗体)(#sc-21799)であり、濃度が200μg/mlであり、作用濃度が4μg/mlである。
【0071】
市販の抗体パネルの二次抗体は、ヤギ抗ウサギHRPであり、DABは、ジアミノベンジジン(diaminobenzidine)(西洋ワサビペルオキシダーゼの最も感度が高く、最も使用される発色反応物)を示し、抗HLA-Gナノボディは、重鎖可変ドメイン(VHH)ナノボディ(作用濃度が4μg/mlである)であり、実験群(#9)の抗体は、ウサギ抗ラクダVHH抗体(rabbit anti-camelid VHH antibody)と、ビオチン(biotin)(100μlのPBS溶液に0.5μg添加した)と、ヤギ抗ウサギHRPと、を含む。本実施例の結果から分かるように、抗腫瘍抗原ナノボディ(即ち、抗HLA-G抗体)は、免疫組織化学的染色によってHLA-Gの発現を検出するために用いられる。
【0072】
上記をまとめると、本発明の抗腫瘍抗原ナノボディ(即ち、抗HLA-G抗体)の効果は、以下の通りである。
【0073】
競合酵素結合免疫吸着アッセイ(competitive enzyme linked immunosorbent assay、competitive ELISA)により、HLA-GナノボディがIC50である50%阻害濃度において、HLA-Gとその受容体であるキラー細胞免疫グロブリン様受容体の2つのIgドメイン及び長い細胞質尾部4(killer cell immunoglobulin like receptor、two Ig domains and long cytoplasmic tail 4、KIR2DL4)並びに白血球免疫グロブリン様受容体サブファミリーBメンバー1(leukocyte immunoglobulin-like receptor subfamily B member 1、LILRB1)との相互作用を遮断すること、及び、ヒト乳がん細胞株MDA-MB-231に対するナチュラルキラー細胞(natural killer cell、NK cell)の細胞溶解(cytolysis)作用及び細胞毒性を向上させることを証明し、
ウエスタンブロッティング(Western blotting)により、抗HLA-Gナノボディがヒトがん細胞株MDA-MB-231及びA549の細胞溶解物中のHLA-Gタンパク質を特定できることを証明し、
フローサイトメトリー(flow cytometric analysis)及び免疫細胞化学の分析により、抗HLA-Gナノボディが細胞膜上のHLA-Gタンパク質を特定できること、HLA-Gの発現及び細胞膜マーカーであるPan-カドヘリン(Pan-Cadherin)がMDA-MB-231及びA549細胞に共局在していることを証明し、及び、
免疫組織化学的染色(immunohistochemistry staining、IHC staining)により、抗HLA-G抗体がHLA-Gの発現を検出するために用いられることを証明する。
【0074】
上記効果によれば、がん及び免疫関連疾患を治療する効果を達成する。特に、従来の抗体は、遺伝子をベクターによって細胞にトランスフェクトしてから抗体の機能を発揮することができるため、収率が低くて効果が低いという欠点がある。本発明の抗腫瘍抗原ナノボディは、インビトロで大量に製造してそのまま投与すべき個体に投与して治療を行うことができる。なお、本発明によれば、HLA-Gの発現レベルを検出できる効果も達成することができる。
【0075】
上記の内容は、例示的なものであり、本発明を限定するものではない。本発明の精神及び範囲から逸脱しない改良や変更は、いずれも添付の特許請求の範囲に含まれる。
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図1G
図1H
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6
【配列表】
0007368528000001.app