(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】吸水性多孔質積層体
(51)【国際特許分類】
B32B 5/32 20060101AFI20231017BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20231017BHJP
B32B 27/40 20060101ALI20231017BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20231017BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231017BHJP
【FI】
B32B5/32
B32B27/18 Z
B32B27/40
C09D175/04
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2022078478
(22)【出願日】2022-05-11
(62)【分割の表示】P 2018015716の分割
【原出願日】2018-01-31
【審査請求日】2022-05-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000119232
【氏名又は名称】株式会社イノアックコーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】000127307
【氏名又は名称】株式会社イノアック技術研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉隆
(72)【発明者】
【氏名】宮田 敦史
(72)【発明者】
【氏名】大田 英生
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-306526(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 5/32
B32B 27/18
B32B 27/40
C09D 175/04
C09D 7/63
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンポリマーと界面活性剤を含み、複数の繊維状及び/又はドット状の親水性ホットメルト樹脂の集合体によって形成され
、連通構造を有する層。
【請求項2】
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸エステルアルコキシレート、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの少なくとも1つである請求項1に記載の層。
【請求項3】
前記親水性ホットメルト樹脂が湿気硬化型であり、
硬化した前記親水性ホットメルト樹脂の水に対する接触角が50°以下である請求項1又は2に記載の層。
【請求項4】
多孔質高分子基材と、
前記多孔質高分子基材の少なくとも1つの表面に積層された、連通構造を有するコート層と、を含む、吸水性多孔質積層体であって、
前記コート層が、ウレタンポリマーと、界面活性剤と、を含む、親水性ホットメルト樹脂であり、
下記吸水性評価により得られる、吸水性が3以上であることを特徴とする吸水性多孔質積層体。
(吸水性評価)
(1)100mm×100mm×1mmtの大きさの多孔質高分子基材、及び、当該多孔質高分子基材の1つの表面全体に調製した前記親水性ホットメルト樹脂を積層した吸水性多孔質積層体を測定試料とする。
(2)蒸留水を100mL秤量し、各測定試料のコート層表面に着液させ、液滴が完全に吸収されるまでの時間を測定する。多孔質高分子基材の吸水時間をcとし、吸水性多孔質積層体のコート層を積層した表面の吸水時間をdとして下式により算出した値を、吸水性を表す数値とする。
式:c/d
c:多孔質高分子基材単独の吸水時間
d:吸水性多孔質積層体の上記コート層を積層した表面における吸水時間
【請求項5】
多孔質高分子基材と、
前記多孔質高分子基材の少なくとも1つの表面に積層された、連通構造を有するコート層と、を含む、吸水性多孔質積層体であって、
前記コート層が、ウレタンポリマーと、界面活性剤と、を含む、親水性ホットメルト樹脂であり、
下記拡散性評価により得られる、拡散性が1.2以上であることを特徴とする吸水性多孔質積層体。
(拡散性評価)
(1)100mm×100mm×10mmtの大きさの多孔質高分子基材、及び、多孔質高分子基材の少なくとも1つの表面全体に、調製した親水性ホットメルト樹脂を積層した吸水性多孔質積層体を測定試料とする。
(2)上記測定試料上に、円筒(φ2.2cm、重量220g)を載せ、この円筒内部に10mLの蒸留水を注ぎ入れ、蒸留水が測定試料の表面において拡がった面積を測定する。
吸水性多孔質積層体のコート層を積層した表面において拡がった面積をeとし、多孔質高分子基材の表面において拡がった面積をfとして、下式により算出した値を、拡散性を表す数値とする。
式:e/f
e:吸水性多孔質積層体のコート層を積層した表面における拡散面積
f:多孔質高分子基材の表面における拡散面積
【請求項6】
ウレタンポリマーと界面活性剤と、を含む親水性ホットメルト樹脂組成物
であって、連通構造を有する層を形成用の親水性ホットメルト樹脂組成物(ただし接着剤組成物および水を含む親水性ホットメルト樹脂組成物を除く)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸水性多孔質積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタンフォームに代表される、多孔質高分子基材は、軽量で柔軟な特徴を持っており、安価であるため、様々な用途で使用されている。特にその細孔構造を利用して、水耕栽培用培地、水処理用担体、清掃用スポンジ、絆創膏等に用いられるドレッシング材、生理用ナプキン等に用いられる血液吸収材といった吸水性が求められる用途に用いられている。
【0003】
しかしながら一般に高分子は疎水性であるため、前記用途で用いるためには、前記多孔質高分子基材に含まれる高分子を親水性に改善する必要がある。疎水性が高い場合には、その表面に接触した水分を毛細管現象が起こりづらく、吸水速度が遅くなる。そのため使い勝手が悪くなったり、要求される性能(特に吸水時間)を満たさなくなる。
【0004】
前記多孔質高分子基材に含まれる高分子の親水性を改善する方法としては、原料の親水性を改善する方法が用いられている。例えば、特許文献1には、ウレタン骨格中にポリエチレングリコールを導入した原料を用いることで、ウレタンフォームの親水性を改善する発明が提案されている。また、特許文献2には、水溶性高分子を分散させたポリオールを原料とすることで、ウレタンフォームの親水性を改善する方法が提案されており、さらに特許文献3には、原料に親水性高分子を混合して、ウレタンフォームの親水性を改善する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-26642号公報
【文献】特許第3733991号
【文献】特開平7-62226号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3の発明のように原料に親水性材料を用いるだけでは、親水性が不十分であるため、毛細管現象による吸水が起こりづらく、吸水速度が遅くなる。そのため、ウレタンフォーム内へ吸水が始まるまでに、数秒から数十秒かかってしまうおそれがあり、例えば、絆創膏や生理用ナプキン等に用いられる場合には、不快に感じるという問題があった。
従って、本発明の目的は、多孔質高分子基材の軽量で柔軟な特徴を有し、吸水性能に優れた吸水性多孔質積層体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意研究を行い、多孔質高分子基材の表面に、ウレタンポリマーと界面活性剤を含む親水性ホットメルト樹脂を、連通構造を有するコート層として積層することで、前記課題を解決可能なことを見出し、本発明を完成させた。即ち、本発明は下記の通りである。
【0008】
本発明(1)は、
多孔質高分子基材と、
前記多孔質高分子基材の少なくとも1つの表面に積層された、連通構造を有するコート層と、を含む、吸水性多孔質積層体であって、
前記コート層が、ウレタンポリマーと、界面活性剤と、を含む、親水性ホットメルト樹脂であり、
前記ウレタンポリマーの原料として、少なくともポリオール及びポリイソシアネートを含み、
さらに、前記親水性ホットメルト樹脂の水に対する接触角が50°以下であることを特徴とする、吸水性多孔質積層体である。
本発明(2)は、
前記コート層が、複数の、繊維状及び/又はドット状の前記親水性ホットメルト樹脂、の集合体を含む、連通構造を有するコート層、であることを特徴とする、前記発明(1)の吸水性多孔質積層体である。
本発明(3)は、
前記コート層の目付量が1~100g/m
2であることを特徴とする、前記発明(1)又は(2)の吸水性多孔質積層体である。
本発明(4)は、
前記コート層の開口率が、5~90%であることを特徴とする、前記発明(1)~(3)の吸水性多孔質積層体である。
前記開口率は、前記コート層表面のランダムに選択した5か所の観察範囲について、市販の画像解析ソフトを用いて、開口部の面積を測定し、下式(A)により求められる値である。
式(A):開口率(%)=a/b×100
a:前記コート層表面の観察範囲内の開口部の面積
b:光学観察装置の観察範囲の面積
本発明(5)は、
前記親水性ホットメルト樹脂が、
湿気硬化型樹脂であることを特徴とする、前記発明(1)~(4)のに記載の吸水性多孔質積層体。
本発明(6)は、
前記界面活性剤が、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸エステルアルコキシレート、ポリエチレングリコールアルキルエーテルの少なくとも1つであることを特徴とする、本発明(1)~(5)の吸水性多孔質積層体である。
本発明(7)は、
前記界面活性剤が、下式(1)~(4)のいずれかで表される化合物からなる群より選択される1つ以上の非イオン性化合物であり、
下式(1)~(4)中、
R1、R2、R3、R4及びR5が、炭素数が8以上のアルキル鎖であり、
R6、R7、R8及びR9が、炭素数が20以下のアルキル鎖であって、
R1~R9は、水酸基、カルボキシル基、スルホニル基アミノ基、エポキシ基、並びに、カルボキシル基、又はスルホニル基の酸無水物、を含有しないことを特徴とする、
前記発明(1)~(6)のいずれか一項に記載の吸水性多孔質積層体である。
なお、式中、x、y、z、nは任意の整数である。
【発明の効果】
【0009】
多孔質高分子基材が単独で用いられた場合には、その疎水性により、その表面に接触した水分は、毛細管現象が起こりづらく、基材内部に吸収され難かった。さらにその疎水性のため平面方向への広がりも悪いため、多孔質高分子基材は限られた面積でしか吸水できず、従って吸水速度が遅くなっていた。
【0010】
本発明によれば、多孔質高分子基材の表面に積層されたコート層の連通構造及び親水性により、コート層表面に接触した水分が、コート層の厚み方向の拡がりのみならず、平面方向の拡がり(拡散効果)によって、多孔質高分子基材と接触する面積を増加させることが可能であり、多孔質高分子基材の吸水速度改善することができる。
従って、本発明によれば、軽量で柔軟、且つ、安価である多孔質高分子基材の特徴を有し、さらに優れた吸水性能をもつ吸水性多孔質積層体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の吸水性多孔質積層体について詳述する。
<<吸水性多孔質積層体>>
本発明の吸水性多孔質積層体は、多孔質高分子基材と、前記多孔質高分子基材の少なくとも1つの表面に積層された連通構造を有するコート層とを、含む。コート層は、ウレタンポリマーと、界面活性剤とを含む、親水性ホットメルト樹脂である。
【0012】
また、本発明の吸水性多孔質積層体のコート層は、多孔質高分子基材の表面に直接積層してもよく、多孔質高分子基材の通気性及び通水性を妨げない限りにおいて、1つ以上の別の層を積層し、さらにその表面にコート層を積層することができる。例えば、多孔質高分子基材とコート層の密着性が得られない場合に、多孔質高分子基材とコート層の間に、両者と密着性が高い層を積層することで、多孔質高分子基材とコート層を備えた吸水性多孔質積層体の形成を可能にすることができる。
【0013】
1.吸水性多孔質積層体の構成
1-1.多孔質高分子基材
多孔質高分子基材は、特に限定されないが、不織布、発泡体及び多孔質体等の3次元形状の通気空間を持つものを用いることができる。下記にその特徴について詳述する。
1-1-1.多孔質高分子基材の材質
【0014】
前記多孔質高分子基材の材質は、高分子であればよく、特に限定されない。高分子としては、樹脂やゴム等を用いることができ、天然物又は合成物を用いることができる。
前記高分子の親水性の程度は、特に限定されないが、本発明に係るコート層の親水性の程度と比べ、疎水性が高い場合には、本発明の効果が著しくなる。即ち、吸水性の低い多孔質高分子基材ほど、本発明に係るコート層を積層することで、吸水性を改善することができる。
【0015】
不織布の材質としては、不織布を形成し得る高分子であれば、特に限定されず、例えば、アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリオレフィン繊維、レーヨン繊維のような繊維により形成されたもの;低密度ポリエチレン樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂、合成ゴム、共重合ポリアミド樹脂、共重合ポリエステル樹脂のような熱可塑性樹脂を不織布状に形成したもの;を用いることができる。
【0016】
発泡体の材質としては、発泡体を形成し得る高分子であれば、特に限定されず、例えば、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリオレフィン、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニル、ユリア樹脂、シリコーン、ポリイミド、メラミン樹脂等を、用途に応じて、用いることができる。
【0017】
多孔質体としては、その製造方法や材質は特に限定されず、例えば高分子の粉末等を焼結させて形成したものを用いることができ、前記高分子の粉末として、特に限定されず、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリメチルメタアクリレート、ポリ塩化ビニル、フッ素樹脂等の粉末を用いることができる。
【0018】
1-2.コート層
本発明に係るコート層の組成は、ウレタンポリマーをベース樹脂とし、さらに界面活性剤を含む、親水性ホットメルト樹脂である。更に、必要に応じて、親水性ホットメルト樹脂中に、その他の成分を含んでいてもよい。
【0019】
本明細書において、ホットメルト樹脂とは、水や溶剤を含まず室温(通常約25℃)で固体である、不揮発性の接着性樹脂である。ホットメルト樹脂は、加熱される等して樹脂温度が上昇して溶融開始温度以上になると溶融し、樹脂温度が固化温度以下に低下すると固化する。
【0020】
また、ホットメルト樹脂は、加熱溶融状態では接着性を有し、樹脂温度が固化温度以下(例えば常温)に低下すると固体状態となり接着性を有さない(有さなくなる)性質を有する樹脂である。
【0021】
さらに、本発明に係るホットメルト樹脂は、反応型でも、非反応型でもよい。反応型とは、ホットメルト樹脂が、使用後に何らかの硬化反応を含むホットメルト樹脂であり、例えば、空気中の湿気(水分)と硬化反応するホットメルト樹脂である。
【0022】
反応型のホットメルト樹脂のうち、湿気硬化型ホットメルト樹脂は、前記多孔質高分子基材との接着強度を高くすることが可能であるため、本発明のコート層として好適である。湿気硬化型ホットメルト樹脂としては、例えば、ウレタンポリマー中にイソシアネート末端(NCO基)を有するウレタンポリマーが挙げられ、ウレタンポリマーを塗布したのち、空気中の水分により反応が開始され、架橋反応によりウレア結合を形成し、3次元網目構造を形成して硬化する。
【0023】
非反応型とは、加熱溶融・固化するが、他の物質とは反応しないホットメルト樹脂であり、熱可塑性ホットメルト樹脂のことをいう。
【0024】
本発明に係る親水性ホットメルト樹脂は、前記多孔質高分子基材の表面に、連通構造を有するコート層を形成する。本発明に係るコート層は、前記多孔質高分子基材の表面に積層され、水分と接触した際に前記吸水性を改善する(吸水速度を向上させる)効果を有する。
【0025】
ここで、連通構造とは、コート層中のすべての空隙が外側の空間(空気)と接しており、独立した空隙(独立気泡)を持たない構造のことである。特には、毛管現象による吸液効果を有する限りにおいて、その構造は特に限定されない。
【0026】
なお、本発明に係るコート層は、その連通構造による毛管現象と親水性の効果により、接触した水分を厚み方向への拡がり(主に吸水作用)のみならず、平面方向にも拡げる効果(主に拡散作用)を有し、多孔質高分子基材の吸水性を向上させることができる。また、多孔質高分子基材が、本コート層よりも親水性が高い場合には、前記多孔質高分子基材の吸水効果はほとんど得られないが、前記拡散効果により多孔質高分子基材表面で水分が拡がり(拡散し)、吸水面積を増加させることで吸水性を向上することができる。
【0027】
なお、本発明に係るコート層は、複数の、繊維状及び/又はドット状の前記親水性ホットメルト樹脂の、集合体によって形成された連通構造を有するコート層とすることができる。この場合に、複数の、繊維状及び/又はドット状の前記親水性ホットメルト樹脂の、集合体は、それぞれの繊維状及び/又はドット状の前記親水性ホットメルト樹脂が密着していてもよく、隔離されていてもよい。本発明においては、全ての繊維状、及び/又は、ドット状の前記親水性ホットメルト樹脂が、隔離されている状態もコート層とする。
【0028】
具体的には、ドット状とは、上記親水性ホットメルト樹脂を、直径1μm~1mmの点(ドット)を、各点から100μm~1mmの等間隔で塗工することをいう。これらドット群は、単位面積当たりのドット数が50個/inch2~200個/inch2とすることができる。そして、前記多孔質高分子基材の通気性及び通水性を妨げなければ、例えば、上記ドットが二つ隣接、一部密着して配列されていてもよく、個々のドットが等間隔に離間されていてもよい。
【0029】
このように形成された連通構造は、その細孔構造がより微細となり、毛管現象による吸液効果が向上するため、本願発明において好適である。
【0030】
また、繊維状及びドット状の前記親水性ホットメルト樹脂を併用して、単一のコート層を形成した場合には、繊維状又はドット状の前記親水性ホットメルト樹脂を、それぞれ単一で用いる場合に比べ、さらに微細な細孔構造を得ることができ、従って毛管現象による吸水性向上の利点を、さらに得ることができるため、より好ましい。特に水耕栽培や吸液素材、紙おむつの用途において、高速吸液の効果を奏することができる。
【0031】
また、本発明に係るコート層は、コート層を形成する多孔性高分子基材の表面に対し、一部の領域に繊維状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層を形成し、他の領域にドット状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層を形成することができる。
【0032】
さらに、本発明に係るコート層は、多孔性高分子基材の表面に、繊維状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層を形成し、さらに、その表面にドット状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層を積層して形成することができる。
【0033】
なお、繊維状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層と、ドット状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層とを、積層してコート層を形成する場合において、繊維状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層とドット状の前記親水性ホットメルト樹脂のみで形成されたコート層とを積層する順番や、積層回数は特に限定されない。
【0034】
本発明に係るコート層の目付量は、前記多孔質高分子基材の通気性及び通水性を妨げない限りにおいて、特に限定されず、例えば、1~100g/m2とすることができ、好ましくは10~90g/m2、より好ましくは20~80g/m2とすることができる。
【0035】
本発明に係るコート層の開口率は、前記多孔質高分子基材の通気性及び通水性を妨げない限りにおいて、特に限定されず、例えば、5~90%とすることができ、好ましくは20~80%、より好ましくは50~80%とすることができる。
【0036】
本発明のコート層の開口率は、以下の式に従って測定・算出される。下記aは、例えば、ランダムに選択した5か所の観察範囲について、市販の画像解析ソフトを用いて、開口部の面積として求めることができる。
式(A):開口率(%)=a/b×100
a:前記コート層表面の観察範囲内の開口部の面積
b:光学観察装置の観察範囲の面積
以下にコート層について、詳述する。
【0037】
1-2-1.親水性ホットメルト樹脂の原料
1-2-1-1.ウレタンポリマー
ウレタンポリマーは、ポリイソシアネートをポリオールと反応させることで得られる。
【0038】
親水性ホットメルト樹脂におけるウレタンポリマーの含有量は、親水性ホットメルト樹脂組成物全体に対して、好ましくは50~95質量%、より好ましくは75~90質量%である。
【0039】
1-2-1-1-1.ウレタンポリマーの原料
1-2-1-1-1-1.ポリオール
本発明において用いられるポリオールとしては、反応型ホットメルト樹脂と非反応型ホットメルト樹脂に関わらず、例えば、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリエステルエーテルポリオール等が挙げられる。前記ポリオールは、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0040】
ポリエステルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等、芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等、脂環族ジカルボン酸、例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、エチレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール等、もしくは、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるポリエステルポリオール;ε-カプロラクトン、メチルバレロラクトン等のラクトンモノマーの開環重合で得られるポリラクトンジオール等が挙げられる。
【0041】
ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、1,3-プロピレングリコール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、ジエチレングリコール等の多価アルコールの少なくとも1種と、ジエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等とを反応させて得られるものが挙げられる。
【0042】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、テトラヒドロフラン等の環状エーテルをそれぞれ重合させて得られるポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等、及び、これらのコポリエーテルが挙げられる。また、グリセリンやトリメチロールエタン等の多価アルコールを用い、上記の環状エーテルを重合させて得ることもできる。
【0043】
ポリエステルエーテルポリオールとしては、例えば、脂肪族ジカルボン酸、例えばコハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びアゼライン酸等、芳香族ジカルボン酸、例えばフタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びナフタレンジカルボン酸等、脂環族ジカルボン酸、例えばヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸及びヘキサヒドロイソフタル酸等、又はこれらの酸エステルもしくは酸無水物と、ジエチレングリコール、もしくはプロピレンオキシド付加物等のグリコール等、又は、これらの混合物との脱水縮合反応で得られるものが挙げられる。
【0044】
1-2-1-1-1-2.ポリイソシアネート
本発明に用いられるポリイソシアネートとしては、例えば、2官能のポリイソシアネートとしては、2,4-トルエンジイソシアネート(2,4-TDI)、2,6-トルエンジイソシアネート(2,6-TDI)、m-フェニレンジイソシネート、p-フェニレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(4,4’-MDI)、2,4’-ジフェニルメタンジアネート(2,4’-MDI)、2,2’-ジフェニルメタンジイソシアネート(2,2’-MDI)、水素添加MDI、キシリレンジイソシアネート、3,3’-ジメチル-4,4’-ビフェニレンジイソネート、3,3’-ジメトキシ-4,4’-ビフェニレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、水素添加XDI、テトラメチルキシレンジイソシアネート(TMXDI)、等の芳香族系のもの、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等の脂環式のもの、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソプロピレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等のアルキレン系のもの、3官能以上のポリイソシアネートとしては、1-メチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、1,3,5-トリメチルベンゾール-2,4,6-トリイソシアネート、ビフェニル-2,4,4’-トリイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4,4’-トリイソシアネート、メチルジフェニルメタン-4,6,4’-トリイソシアネート、4,4’-ジメチルジフェニルメタン-2,2’,5,5’テトライソシアネート、トリフェニルメタン-4,4’,4”-トリイソシアネート、ポリメリックMDI、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6-ヘキサメチレントリイソシアネート、1,6,11-ウンデカントリイソシアネート、ビシクロヘプタントリイソシアネート、1,8-ジイソシアナトメチルオクタン等及びこれら変性体、誘導体等が挙げられる。
【0045】
ここで、反応型ホットメルト樹脂の場合には、イソシアネート末端ポリウレタンポリマーのNCO基含有率は、特に限定されないが、好ましくは1.0~2.5%である。このような範囲とすることで、作業中の発泡等を抑制しつつも、湿気による硬化を促進することが可能となる。なお、NCO基含有率は、JIS K1603-1に従って測定されたものである。
また、非反応型ホットメルト樹脂の場合には、イソシアネート末端ポリウレタンポリマーのNCO基含有率は、1.0%未満であり、好ましくは0.5%以下であり、さらに好ましく0.3%以下である。
【0046】
1-2-1-2.界面活性剤
本発明における界面活性剤は、主にホットメルト樹脂を親水性とするために用いられるが、さらにその他の効果、例えば、消泡効果等を付与してもよく、本発明の効果を阻害しない限りにおいて、特に限定されない。
【0047】
界面活性剤としては、例えば1分子中に1つ以上の親水基を有する化合物等が挙げられ、親水基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、ポリオキシエチレン基等が挙げられる。
【0048】
界面活性剤は、ポリイソシアネート類と反応したとき、親水性ホットメルト樹脂の骨格となるポリウレタン部分に対して非相溶性を示して表面に配向し、ポリウレタン発泡体に親水性を付与するものと考えられる。これらの界面活性剤のうち、非イオン性化合物である界面活性剤が好ましく、ポリオキシエチレン基を有する界面活性剤がより好ましく、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、脂肪酸エステルアルコキシレート、ポリエチレングリコールジアルキルエーテルの群から選択された界面活性剤がさらに好ましく、下式(1)~(4)のいずれかで表される化合物であって、R1、R2、R3、R4及びR5が、炭素数が8以上のアルキル鎖であり、R6、R7、R8及びR9が、炭素数が20以下のアルキル鎖であって、R1~R9には、水酸基やアミノ酸等の活性水素基、及び、イソシアネート基を反応し得る官能基(カルボン酸、酸無水物、エポキシ基)を含有しない界面活性剤が最も好ましい。なお、式中、x、y、z、nは任意の整数である。
【0049】
前記界面活性剤は、1つ、又は、複数の界面活性剤を同時に用いてもよい。
【0050】
前記界面活性剤の添加量は、特に限定されないが、前記ウレタンポリマーに5~20質量%を含むことが好ましい。
【0051】
1-2-1-3.添加剤
ウレタンポリマーは、本発明の目的を損なわない範囲で、上述した各成分以外に、必要に応じて、各種の添加剤を含有することができる。添加剤としては、例えば、充填剤、可塑剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着性付与剤、抗菌剤、光安定剤、安定剤、分散剤、溶剤等が挙げられる。
【0052】
1-2-2.親水性ホットメルト樹脂の物性
次に、本発明に係る親水性ホットメルト樹脂(コート層)の各物性について説明する。
【0053】
1-2-2-1.軟化点
本発明に係る親水性ホットメルト樹脂の軟化点は、30~160℃である。軟化点の測定方法は、特に限定されないが、例えば、JIS K7121:2012「プラスチックの転移温度測定方法」に従って、測定することができる。
【0054】
軟化点をこの範囲とすることで、耐熱性の高い用途へ適用することができる。ここで、本発明に係る反応型ホットメルト樹脂が非反応型ホットメルト樹脂である場合には、軟化点が100~160℃であることが好ましい。なお、軟化点を調整するためには、軟化点の高いベース樹脂もしくは添加剤を用いればよい。
【0055】
1-2-2-2.溶融粘度
本発明に係る親水性ホットメルト樹脂の160℃における溶融粘度は、50Pa・s以下、好ましくは35Pa・s以下である。溶融粘度の測定方法は、特に限定されないが、例えば、JIS Z8803-2011「液体の粘度測定方法」に従ってすることができる。溶融粘度をこの範囲とすることで、後述する非接触方式による塗布方法により、安定した繊維状、ドット状の親水性ホットメルト樹脂を形成することができる。溶融粘度を調整するためには、粘着付与剤や可塑剤等の添加剤含有量を増加すればよい。
【0056】
1-2-2-3.接触角
本発明に係る親水性ホットメルト樹脂の水に対する接触角は、50°以下(好ましくは40°以下)である。前記接触角の測定方法は、特に限定されないが、例えば、JIS R3257:1999「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して行うことができる。前記接触角をこの範囲とすることで、本発明の吸水性多孔質積層体の吸水特性を高めることができる。なお、前記接触角を調整するためには、極性の高いベース樹脂や界面活性剤を使用することや、界面活性剤の添加量を調整すればよい。
【0057】
1-2-2-4.重量平均分子量
本発明に係る親水性ホットメルト樹脂の重量平均分子量としては、溶融温度や低温における適度なオープンタイム等を適正とするため、1000~200000の範囲であることが好ましく、3000~100000の範囲であることがより好ましい。なお前記重量平均分子量は、ゲルパーエミッションクロマトグラフィー法により測定し、標準試料であるポリスチレンの分子量として換算した数値とすることができる。
【0058】
1-2-3.親水性ホットメルト樹脂の製造方法
本発明に係る親水性ホットメルト樹脂の製造方法は、公知の方法であればよく、製造された親水性ホットメルト樹脂が本発明の目的を損なわない限りにおいて、特に限定されない。
例えば、(1)所定量のポリイソシアネートの入った反応容器に、所定量のポリオールを滴下した後に加熱し、前記ポリイソシアネートの有するイソシアネート基が、前記ポリオールの有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させ、ウレタンポリマーを調製する、(2)前記ウレタンポリマーに界面活性剤を所定量滴下し、撹拌することで親水性ホットメルト樹脂を製造する方法が挙げられる。前記反応は通常50~120℃、好ましくは60~100℃の温度で行われる。反応時間は通常1~15時間である。
【0059】
より好ましい製造方法の例としては、(1)所定量のポリイソシアネートが入った反応容器に、界面活性剤の配合量の一部(親水性ホットメルト樹脂の総重量に対して2~10質量%の界面活性剤)を滴下、混合させたのち、さらに所定量のポリオールを滴下し、加熱して、前記ポリイソシアネートの有するイソシアネート基が、前記ポリオールの有する水酸基に対して過剰となる条件で反応させ、ウレタンポリマーを調製する、(2)前記ウレタンポリマーに、残りの界面活性剤を滴下し、撹拌することで親水性ホットメルト樹脂を製造する方法が挙げられる。このようにすることで、親水性ホットメルト樹脂内において界面活性剤を均一に分散させることができる。また前記反応は通常50~120℃、好ましくは70~95℃の温度で行われる。反応時間は通常1~15時間である。
【0060】
前記ウレタンポリマーを製造する際に使用するポリオールとポリイソシアネートとの配合は、前記ポリイソシアネートが有するイソシアネート基と前記ポリオールが有する水酸基との当量比(以下、[イソシアネート基/水酸基]の当量比という。)が、1.1~5.0の範囲内であることが好ましく、1.5~3.0の範囲内であることがより好ましい。
【0061】
前記ポリウレタンポリマーは、通常、無溶剤下で製造することができるが、ポリオールとポリイソシアネートとを有機溶剤中で反応させることによって製造してもよい。有機溶剤中で反応させる場合には、反応を阻害しない酢酸エチル、酢酸n-ブチル、メチルエチルケトン、トルエン等の有機溶剤を使用することができるが、反応の途中又は反応終了後に減圧加熱等の方法により有機溶剤を除去することが必要である。
【0062】
前記ポリウレタンポリマーを製造する際には、必要に応じてウレタン化触媒を使用することができる。ウレタン化触媒は、前記反応の任意の段階で、適宜加えることができる。前記ウレタン化触媒としては、例えばトリエチルアミン、トリエチレンジアミン及びN-メチルモルホリン等の含窒素化合物;酢酸カリウム、ステアリン酸亜鉛及びオクチル酸錫等の金属塩;ジブチル錫ジラウレート等の有機金属化合物を使用することができる。
【0063】
2.吸水性多孔質積層体の製造方法(コート層の形成方法)
続いて、前記親水性ホットメルト樹脂を用いて、多孔質高分子基材表面に、連通構造を有するコート層を形成する方法について説明する。コート層の形成方法は、多孔質高分子基材の通気性、通水性を阻害しない限りにおいて、特に限定されず、例えば、溶融させた親水性ホットメルト樹脂を、スプレー等を用いて、塗布し、複数の繊維状やドット状の親水性ホットメルト樹脂の集合体として形成する非接触型の形成方法や、薄膜状に形成した親水性ホットメルト樹脂にニードルパンチ等を用いて、細孔加工する形成方法等が挙げられる。なお本例では、好適例である繊維状、及び/又は、ドット状の親水性ホットメルト樹脂により形成されたコート層について説明するが、本発明に係る親水性ホットメルト樹脂の適用方法はこれには限定されず、公知の方法により、コート層を形成してもよい。
【0064】
1-2-4-1.溶融工程
先ず、本発明に係る親水性ホットメルト樹脂を溶融した状態で保持する(溶融工程)。親水性ホットメルト樹脂が湿気硬化型樹脂である場合には、溶融工程においては水分非含有雰囲気とする必要がある。
【0065】
1-2-4-2.塗布工程
次に、非接触方式の塗布方法により、溶融状態である親水性ホットメルト樹脂を、多孔質高分子基材の塗布対象面に対して、連続した直線状、曲線状、又はその組み合わせからなる一方向に延長した線形状に塗布し、又は、ドット状に塗布し、コート層を形成する。なお、線(繊維)径は、100μm以下(好ましくは80μm以下)として、所定の目付量及び開口率になるように塗布される。
【0066】
ドット状の親水性ホットメルト樹脂は、直径が1μm~1mmであり、100μm~1mmの一定間隔で塗布される。また所定の目付量及び開口率になるように塗布される。この方法により面積当たりのドット数が50個/inch2~200個/inch2とすることができる。
【0067】
前記親水性ホットメルト樹脂の各ドットは、前記多孔質高分子基材の通気性及び通水性を妨げなければ、ドット同士が密着していてもよく、ドット同士が隔離されていてもよい。
【0068】
なお、具体的な塗布条件としては特に限定されず、例えば、圧力0.1~0.3MPa、温度120~160℃にて、0.3~1mmのノズルから吐出を行えばよい。
【0069】
具体的な塗布パターンとしては特に限定されず、例えば、スパイラル状、オメガ状、サミット状、ライン状、不織布状、ドット状等が挙げられる。前記塗布パターンは複数を組み合せてもよい。
【0070】
また線(繊維)径又はドット径は、マイクロスコープを用いてランダムに10箇所の線(繊維)径又はドット径を確認し、その平均値によって測定されたものである。
【0071】
ここで、非接触方式の塗布方法とは、多孔質高分子基材に塗布設備が接触することがなく親水性ホットメルト樹脂を塗布する方法であり、例えば、スプレー方式(例えば、カーテンスプレー、オメガスプレー、スパイラルスプレー、サミットスプレー等)である。
【0072】
なお、塗布工程前に、塗布面に公知の前処理(例えば、プライマー処理、コロナ処理、プラズマ処理等)を行ってもよい。
【0073】
上記塗布工程に記載された方法において、親水性ホットメルト樹脂をドット状に塗布した場合にはドット状の親水性ホットメルト樹脂の集合体によるコート層を形成することができる。
【0074】
1-2-4-3.硬化工程
親水性ホットメルト樹脂を冷却硬化させる。湿気硬化型ホットメルト樹脂である場合、前述のように、冷却硬化後、未反応のイソシアネート末端が空気中の水分と反応し架橋構造を形成することで、より強固な構造を発現する。
【0075】
2.吸水性多孔質積層体の特性
2-1.吸水性評価
吸水性多孔質積層体の吸水性は、多孔質高分子基材及び吸水性多孔質積層体の表面における、一定水量の吸水時間の比を求め、評価することができる。この比が、大きい場合にはコート層による吸水性の改善効果が高い。
【0076】
具体的には、100mm×100mm×1mmtの大きさの多孔質高分子基材、及び、多孔質高分子基材の1つの表面全体に調製した親水性ホットメルト樹脂を積層した吸水性多孔質積層体を測定試料とする。
蒸留水を100mL秤量し、各測定試料のコート層表面に着液させ、液滴が完全に吸収されるまでの時間を測定する。多孔質高分子基材の吸水時間をcとし、吸水性多孔質積層体のコート層を積層した表面の吸水時間をdとして下式(B)により算出した値を、吸水性を表す数値とする。
式(B):c/d
c:前記多孔質高分子基材単独の吸水時間
d:吸水性多孔質積層体の前記コート層を積層した表面における吸水時間
【0077】
3-2.拡散性評価
本発明における拡散性とは、多孔質高分子基材、又は、吸水性多孔質積層体の平面方向への拡がりの程度を示す。上述したように拡散性が大きな場合には、多孔質高分子基材の接水面積(吸水面積)が広くなるため、多孔質高分子基材の吸水性が高くなる。
【0078】
吸水性多孔質積層体の拡散性は、多孔質高分子基材及び吸水性多孔質積層体の表面において、所定の面積範囲に一定水量を注いだ際の、濡れ拡がった面積の比を求め、評価することができる。この比が大きい場合には、コート層による拡散性の効果が高いことを示す。
【0079】
具体的には、100mm×100mm×10mmtの大きさの多孔質高分子基材、及び、多孔質高分子基材の少なくとも1つの表面全体に、調製した親水性ホットメルト樹脂を積層した吸水性多孔質積層体を測定試料とする。
前記測定試料上に、円筒(φ2.2cm、重量220g)を載せ、この円筒内部に10mLの蒸留水を注ぎ入れ、蒸留水が各測定試料の表面において拡がった面積を測定する。吸水性多孔質積層体の前記コート層を積層した表面において拡がった面積をeとし、多孔質高分子基材の表面において拡がった面積をfとして、下式(C)により算出した値を、拡散性を表す数値とする。
式(C):e/f
e:吸水性多孔質積層体の前記コート層を積層した表面における拡散面積
f:前記多孔質高分子基材の表面における拡散面積
【0080】
4.吸水性多孔質積層体の用途
本発明に係る吸水性多孔質積層体は、軽量で柔軟であり、保水量が多く、さらに速い吸水速度が要求される用途に適合している。例えば、水耕栽培用培地、水処理用担体、清掃用スポンジ、絆創膏等に用いられるドレッシング材、生理用ナプキン等に用いられる血液吸収材といった吸水性が求められる用途に用いることができる。
【実施例】
【0081】
以下、実施例により、本発明の吸水性多孔質積層体の効果について、具体的に説明する。ただし、本発明は、この実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した種々の態様で実施することができる。
【0082】
(原料)
下記原料を、表1に従って配合・調製したホットメルト樹脂を、表2の組み合わせになるように、各基材上に積層し、実施例及び比較例の測定試料を作製した。なお、比較例には前記親水性ホットメルト樹脂を積層せず、多孔質高分子基材のものを含む。
・多孔質高分子基材A:ウレタンフォーム(イノアックコーポレーション社製:SAQ、密度82kg/m3)
・多孔質高分子基材B:ポリプロピレン製不織布(密度0.040g/cm3)
・ポリオール : ポリテトラメチレンアジペート、分子量2000
・ポリイソシアネート: 4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)
・界面活性剤A: ポリオキシエチレンステアリン酸トリグリセリド
・界面活性剤B: ポリオキシエチレンジオレート
・界面活性剤C: ポリオキシエチレンドデシル酸メチルエーテル
・界面活性剤D: ポリオキシエチレンジエチルエーテル
【0083】
(親水性ホットメルト樹脂の調製)
実施例1~5及び比較例3及び4のホットメルト樹脂A~Eの調製方法を示す。なお、各組成物の配合量を表1に示した。(1)反応容器に所定量のイソシアネートを入れ、所定量のポリオールを滴下したのち、60℃に加熱し、5時間反応させ、界面活性剤を所定量添加し、撹拌して調製した。なおホットメルト樹脂Eには、界面活性剤を添加していない。
【0084】
(水に対する接触角測定)
調製したホットメルト樹脂A~E及び市販品のガラス製のプレパラート上に0.5mmの厚さに塗布し、24時間放置して、完全に硬化したさせたものを評価用試料とした。接触角は接触角計(協和界面科学社製:CA-D)を用いて、水に対する接触角を測定した。なお測定方法は、JIS R3257:1999「基板ガラス表面のぬれ性試験方法」に準拠して行った。結果を表1に示した。
【0085】
【0086】
(吸水性多孔質積層体の作製)
表2の多孔質高分子基材とホットメルト樹脂A~Eの組み合わせに従い、ホットメルト樹脂を多孔質高分子基材に塗布して、吸水性多孔質積層体を作製した。
具体的には、上述の方法により調製された各親水性ホットメルト樹脂を窒素雰囲気中で140℃に加熱溶融し、その状態で保持した。
【0087】
次に、ハンドガン(サンツール社製:TR80LCD)を用いて、溶融状態であるホットメルト樹脂A~Eを、多孔質高分子基材の表面全体に塗布した。塗布条件は、圧力0.2MPa、ノズル径を0.6mmとして、目付量が50g/m2の不織布状になるようにノズルから吐出した。その後、静置して冷却して実施例及び比較例の評価試料を得た。なお、比較例1及び2はホットメルト樹脂の塗布は行わず、多孔質高分子基材のみを評価試料とした。
【0088】
(吸水性多孔質積層体の評価)
実施例1~5と比較例1~4の評価結果を表2及び表3に示した。評価は下記に従って行った。
・コート層の開口率
各実施例及び比較例の評価試料の開口率は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製:VHX-5000)を用い、観察範囲が3mm×3mmになるように調整し、ランダムに選択した5か所の観察範囲について、付属の画像解析ソフトを用いてコート層表面の観察範囲内の開口部の面積(下式のa)を求め、下式により算出した。結果を表2に示した。
式(A):開口率(%)=a/b×100
a:前記コート層表面の観察範囲内の開口部の面積
b:デジタルマイクロスコープの観察範囲の面積(3mm×3mm)
【0089】
・繊維径
各実施例及び比較例の評価試料の繊維径は、デジタルマイクロスコープ(キーエンス社製:VHX-5000)を用い、各測定試料の表面からランダムに選択した10か所の繊維の幅(短軸の長さ)を測定し、平均して求めた。結果を表3に示した。
【0090】
・吸水性評価
各実施例及び比較例の評価試料の吸水性は、評価試料を100mm×100mm×1mmtとして、そのコート層を有する表面(コート層を積層していない場合には基材表面)に100mLの蒸留水を着液させ、液滴が完全に吸収されるまでの時間を測定した。ここで、多孔質高分子基材(比較例1及び2)の吸水時間をcとし、吸水性多孔質積層体(実施例1~3及び比較例3及び4)の吸水時間をdとして、下式(B)により算出した値を、吸水性を表す数値とした。コート層を積層していない比較例1及び2は、吸水性評価の測定結果は1とした。結果を表2に示した。
式(B):c/d
c:前記多孔質高分子基材単独の吸水時間
d:吸水性多孔質積層体の前記コート層を積層した表面における吸水時間
【0091】
・拡散性評価
各実施例及び比較例の評価試料の拡散性は、評価試料を100mm×100mm×10mmtとして、そのコート層を有する表面(コート層を積層していない場合には基材表面)に、円筒(φ2.2cm、重量220g)を載せ、この円筒内部に10mLの蒸留水を注ぎ入れ、蒸留水が拡がった面積を測定した。面積は、拡がった面積部を画像として取り込み、印刷してペーパーウエイト法により算出した。ここで、吸水性多孔質積層体(実施例1~3、比較例3及び4)の測定結果をeとし、多孔質高分子基材(比較例1及び2)の測定結果をfとして下式(C)により算出した値を、拡散性を表す数値とした。コート層を積層していない比較例1及び2は、拡散性評価の測定結果は1とした。結果を表2に示した。
式(C):e/f
e:吸水性多孔質積層体の前記コート層を積層した表面における拡散面積
f:前記多孔質高分子基材の表面における拡散面積
【0092】
【0093】
【0094】
(評価結果)
評価の結果、本発明の吸水性多孔質積層体は、良好な吸水性を示し、ウレタンフォーム及びポリプロピレン不織布の単独の吸水性を改善することが理解できる。本発明によれば、多孔質高分子基材の吸水性を改善することが可能であり、これまで吸収材として使用されてこなかった、低吸水性の多孔質高分子基材を吸水材として使用することが可能となることが理解できる。また、これまで吸水材として使用されてきた多孔質高分子基材についても、さらに吸水性を高めることが可能であり、新たな用途への応用が期待できる。