(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】耐震用スリット材
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20231017BHJP
E04B 1/62 20060101ALI20231017BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
E04H9/02 321H
E04B1/62 C
E04B1/94 H
(21)【出願番号】P 2022187759
(22)【出願日】2022-11-24
(62)【分割の表示】P 2018225808の分割
【原出願日】2018-11-30
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】596105644
【氏名又は名称】株式会社東北イノアック
(74)【代理人】
【識別番号】100105315
【氏名又は名称】伊藤 温
(72)【発明者】
【氏名】前田 哲▲尭▼
【審査官】沖原 有里奈
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-008574(JP,A)
【文献】特開2018-100346(JP,A)
【文献】特開2006-321882(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00-9/16
E04B 1/62-1/99
C08G 18/00-18/87;
71/00-71/04
C08G 101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート建造物における梁部または柱部と壁部との間に埋設される用途に使用される、合成樹脂板状体を芯材に含む耐震用スリット材であって、
前記合成樹脂板状体が、
変形復帰性が70%以上であり、耐火性が30秒以上であり、かつ、熱伝導率(JIS A9521)が0.028W/m・K未満である、ポリイソシアヌレート発泡体を含む、耐震用スリット材。
【請求項2】
コンクリート建造物における梁部または柱部と壁部との間に埋設される用途に使用される、合成樹脂板状体を芯材に含む耐震用スリット材であって、
前記合成樹脂板状体が、独立気泡率(ASTM D2856)が85%以上であり、かつ、ヌレート化率が20~40%である、ポリイソシアヌレート発泡体を含む、耐震用スリット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイソシアヌレート発泡体を含む耐震用スリット材に関する。
【背景技術】
【0002】
コンクリート構造物においては、耐震用スリット材を設置することで、地震による構造物への損害を低減させる方法がとられている。耐震用スリット材は構成要素として合成樹脂板状体を含んでいる。従来から、合成樹脂板状体の素材としていくつかの発泡体が提案されている(特許文献1~2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第4124351号公報
【文献】特開2016-151116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1ではフェノール樹脂発泡体が提案されている。しかしフェノール樹脂発泡体には以下の点で問題がある。
フェノール樹脂発泡体はアルカリによって腐食される性質を有するところ、コンクリートは非常に強いアルカリである。そのためフェノール樹脂発泡体とコンクリートが接する箇所ではフェノール樹脂発泡体は劣化し易く、強度低下等の問題が生じる恐れがある。さらに鉄筋コンクリート構造においてはフェノール樹脂発泡体の酸によって中性化され、内部の鉄筋の不導態被膜が破れ、腐食するため構造の脆化を引き起こす恐れがある。さらにコンクリート打設時の側圧に耐えるためには50N/cm2以上が必要と言われている。フェノール樹脂発泡体の曲げ強度は約40N/cm2であるため、曲げ強度を向上させる何らかのシート状補強材を用いなければならない。以上よりフェノール樹脂発泡体の表面には非通気性のシート状補強材を使用しなければならない。しかしながらフェノール樹脂発泡体はその製造方法の制約によってこれら非通気性のシート状補強材と一体成型して製造することができない。そのため非通気性のシート状補強材は接着剤等で貼り付ける他なく、施工効率を低下させる要因となる。また耐震用スリット材には変形復帰性が求められる。変形復帰性が高ければ、地震によって合成樹脂板状体が圧縮変形した場合でも、元の状態に近い形まで戻ることができる。そのため地震後に隙間が生じる恐れを低減でき、初期性能を維持することができる。しかしながらフェノール樹脂発泡体の変形復帰性は小さい。
【0005】
特許文献2ではポリカーボネート樹脂発泡体が提案されている。しかしポリカーボネート樹脂発泡体には以下の点で問題がある。
ポリカーボネート樹脂はアルカリによって腐食される性質を有するところ、コンクリートは非常に強いアルカリである。そのため樹脂とコンクリートが接すると、ポリカーボネート樹脂の強度低下等の問題が生じる恐れがある。また、ポリカーボネート発泡体の熱伝導率は高く、コンクリート建造物の断熱性の低下を引き起こす。またポリカーボネート樹脂は熱可塑性樹脂であり単独では耐火性に劣るため、実際に建材として使用する際には耐火性シートの積層が必要となる。結果として経済的、時間的なコストの増大を招く。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、コンクリート建造物における梁部または柱部と壁部との間に埋設される用途に使用される、合成樹脂板状体を含む耐震用スリット材であって、
前記合成樹脂板状体が、イソシアネート指数が170~610であるポリイソシアヌレート発泡体を含む、耐震用スリット材を提供する。
前記ポリイソシアヌレート発泡体の見掛け密度は25~55kg/m3であってもよい。
前記ポリイソシアヌレート発泡体の独立気泡率は80%以上であってもよい。
前記ポリイソシアヌレート発泡体は、発泡体全量基準で0.5~25重量%の難燃剤を含んでもよい。前記難燃剤はリン酸エステルでもよい。
前記ポリイソシアヌレート発泡体は、ポリオール成分100重量%のうちポリエステルポリオールの割合が5重量%以上である原料組成物を発泡させたものであってもよい。
前記ポリイソシアヌレート発泡体は、物理的発泡剤としてシクロペンタン、もしくはハイドロフルオロオレフィン(HFO)、もしくはその両方を使用して原料組成物を発泡させたものであってもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、合成樹脂板状体およびコンクリートを劣化させることなく、良好な変形復帰性、断熱性および耐火性を両立できる耐震用スリット材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。なお本明細書及び特許請求の範囲における数値範囲「X~Y」は、X以上、Y以下を意味する。また、説明した化合物に異性体が存在する場合、特に断らない限り、存在し得る全ての異性体が本発明において使用可能である。
【0010】
本発明の耐震用スリット材は、後述する構成を備えることにより、優れた変形復帰性、断熱性、耐火性を有する。例えば、変形復帰性は70%以上、好ましくは80%以上である。なおフェノール樹脂発泡体の場合、変形復帰性は約70%であり、本発明の耐震用スリット材は同等以上の変形復帰性を発揮できる。
【0011】
本発明において変形復帰性(%)は、「独立行政法人都市再生機構」が制定した「機材の品質判定基準(平成26年5月版):スリット材の性能試験方法」に基づいて測定される値である。具体的な試験方法は以下のとおりである。100mm×100mm×30mmにカットした合成樹脂板状体の試験片を15mmまで圧縮し、荷重を0に戻す。これを5回繰り返して、荷重0にしたのち、23(±5)℃、相対湿度50(+20-10)%の状態下で3時間以上放置させ、測定した厚さを復帰厚さとする。荷重速度は、500mm/min程度とする。
【0012】
本発明の耐震用スリット材は、芯材として合成樹脂板状体を含む。本発明に使用される芯材は、合成樹脂板状体を単独で使用できる。また、芯材の長手方向に沿った少なくとも一方の端面に無機繊維の耐火材が補強材として使用されていてもかまわない。無機繊維の耐火材としては、ロックウールやセラミックファイバー等があげられる。また、芯材の長手方向に沿った少なくとも一方の端面に耐火性シートが積層されていてもかまわない。耐火性シートとしては、アルミニウム、銅等の金属箔、不燃紙、鉄板等があげられる。
【0013】
本発明に使用される合成樹脂板状体は、その両面に面材を使用することができる。本発明の合成樹脂板状体に使用されるポリイソシアヌレート発泡体が発泡する際にもつ自己接着性により、面材を一体成型として使用できるため、面材の使用に工数の増大を引き起こすことはない。面材としては、一般的な面材(例えば金属箔、無機繊維面材、有機繊維面材、樹脂面材およびこれらの組み合わせ)を使用することができ、具体的にはアルミ箔、ガラス不織布、炭酸カルシウム紙、水酸化アルミニウム紙、ポリエステル不織布、クラフト紙、アルミクラフト紙、ポリ塩化ビニルシートやこれらにポリエチレン樹脂でラミネート加工したもの等があげられる。ポリイソシアヌレート発泡体は中性であり、アルカリに対して腐食されにくく、またコンクリートの中性化を引き起こさない性質を有するため、面材は通気性、非通気性を問わず使用することができる。
【0014】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体では、後述する構成を備えることにより、10N/cm2以上、好ましくは15N/cm2以上、特に好ましくは50N/cm2以上の曲げ強度が単独で得られる。面材は必要に応じて使用することができる。例えば、曲げ強度が15N/cm2以上であれば、一般的な面材(例えば金属箔、無機繊維面材、有機繊維面材、樹脂面材およびこれらの組み合わせ)を一体成型として使用することで、耐震用スリット材の曲げ強度を50N/cm2以上とすることができる。また曲げ強度が10N/cm2以上であれば、比較的強度の強い面材(例えば無機繊維面材、有機繊維面材、樹脂面材およびその組み合わせ、並びにこれらに金属箔を組み合わせたもの)を一体成型として使用することで、耐震用スリット材の曲げ強度を50N/cm2以上とすることができる。
【0015】
本発明の合成樹脂板状体は素材としてポリイソシアヌレート発泡体を必須的に含む。本発明の合成樹脂板状体は面材など他の要素を含んでいてもよい。
【0016】
ポリイソシアヌレート発泡体は、分子構造中にイソシアヌレート環を有する樹脂の発泡体である。イソシアヌレート環が強固な構造であることから、ポリイソシアヌレート発泡体は耐火性に優れる材料である。またポリイソシアヌレート発泡体は中性であり、アルカリに対して腐食されにくく、またコンクリートの中性化を引き起こさない性質を有する。
【0017】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体のイソシアネート指数は、170~610が好ましく、200~610がより好ましく、350~610が特に好ましい。上述の範囲に調整することで良好な変形復帰性および耐火性を両立できる。なお、ポリイソシアヌレート発泡体のイソシアネート指数とは、ポリイソシアヌレート発泡体の原料となる組成物(原料組成物)のイソシアネート指数と同義である。
【0018】
原料組成物のイソシアネート指数とは、全原料配合である反応混合液のすべての活性水素のモル数と、ポリイソシアネート中のイソシアネート基のモル数の比(NCO/OHのモル比)をいう。また、下記実施例及び比較例におけるOHVは水酸基価を指す。ここで、複数のポリオールを添加する場合は、個々の水酸基価に個々の添加部数を掛け、全ポリオールの添加部数合計で除した加重平均を平均水酸基価(平均OHV)とする。
【0019】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体の見掛け密度は、25~55kg/m3であることが好ましい。29~50kg/m3、30~48kg/m3としてもよい。見掛け密度を上記範囲内とすることで、耐火性、変形復帰性、断熱性をバランス良く有することができる。
【0020】
本発明において、ポリイソシアヌレート発泡体の見掛け密度は、JIS K7222に基づいて測定される値である。
【0021】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体の独立気泡率は、80%以上であることが好ましい。82.5%以上、85%以上としてもよい。上限値は特に限定されないが、例えば99%である。独立気泡率が上記範囲内であれば、良好な耐火性を確保することができ、さらに断熱性等他の性能とのバランスにも優れる。
【0022】
本発明において、ポリイソシアヌレート発泡体の独立気泡率は、ASTM D2856に基づいて測定される値である。
【0023】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体のヌレート化率は、特に制限されない。20~40%、22~40%、25~40%、30~40%としてもよい。ヌレート化率を上記範囲内に制御すると、耐火性、変形復帰性、断熱性をバランス良く有するポリイソシアヌレート発泡体となる。なお、上記範囲内のヌレート化率を得るために、イソシアネート指数は170以上であることが好ましい。
【0024】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体のヌレート化率は、発泡体の表面から深さ3mmの部位を切り出したものをサンプルとし、赤外線吸収スペクトル法に基づいて測定される値である。より具体的には、ヌレート環に基づく吸収ピーク面積を、ヌレート環、ウレタン・ウレアのN-H、ウレアのC=O、ウレタン・ヌレートのC=Oに基づく吸収ピーク面積との総和で割ることによって、全体の部分構造に対するヌレート環の割合を算出した値である。より具体的には以下のように算出される。
ヌレート化率(%)=[a/(a+b+c+d)]×100
a:ヌレート環に基づく吸収ピーク位置:1410cm-1、面積位置:1347.03~1464.67cm-1の面積
b:ウレタン・ウレアの[N-H]に基づく吸収ピーク位置:1510cm-1、面積位置:1460.81~1562.06cm-1の面積
c:ウレアの「C=O]に基づく吸収ピーク位置:1595cm-1、面積位置:1566.88~1638.23cm-1の面積
d:ウレタン・ヌレートの「C=O]に基づく吸収ピーク位置:1710cm-1、面積位置:1636.3~1768.4cm-1の面積
【0025】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体は、成分として難燃剤を有していてもよい。
【0026】
難燃剤としては、公知の難燃剤を例示することができる。例えば、赤燐;リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム化合物;リン酸メラミン、メラミンシアヌレート、メラミン等のメラミン化合物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水和物;三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等のアンチモン化合物;リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリフェニル、リン酸トリクレジル、リン酸トリキシレニル、リン酸クレジルジフェノル、リン酸クレジルジ2,6-キシレニル、リン酸トリス(ジクロロプロピル)、リン酸トリス(クロロプロピル)、リン酸トリス(トリブロモネオペンチル)等のリン酸エステル化合物;ポリ塩化ビニル、クロロプレンゴム、塩素化ポリエチレン等のハロゲン化ポリマー;ヘキサブロモベンゼン、ペンタブロモトルエン、エチレンビスペンタブロモジフェニル、デカブロモジフェニルオキサイド、ポリペンタブロモベンジルアクリレート、ポリブロモスチレン、テトラブロモビスフェノールA、テトラブロモビスフェノールS等のハロゲン化芳香族化合物;が挙げられる。これらのなかでも、リン酸エステル化合物が好ましい。特に好ましいリン酸エステル化合物として、リン酸トリエチル、リン酸トリス(2-クロロエチル)、リン酸トリス(2-クロロプロピル)、リン酸トリクレジルが挙げられる。
【0027】
難燃剤の含有量は、ポリイソシアヌレート発泡体の全量を基準として、0.5~25重量%であることが好ましい。3~18重量%、5~16重量%としてもよい。含有量が上記範囲内である場合、耐火性を向上させつつ、良好な断熱性、変形復帰性をバランス良く有するポリイソシアヌレート発泡体となる。なお難燃剤の含有量は、ポリイソシアヌレート発泡体の原料組成物における難燃剤の含有量から算出してもよい。
【0028】
本発明において、「ポリイソシアヌレート発泡体の全量」とは、ポリイソシアヌレート発泡体をクラッシング及び破砕等をすることで連通化し(独立気泡率0%の状態とし)、23(±5)℃、相対湿度50(+20-10)%の状態下で16時間以上放置させた状態の重量を意味する。
【0029】
上述したポリイソシアヌレート発泡体を得られるのであれば、その製造方法は特に制限されない。本発明のポリイソシアヌレート発泡体の製造方法について以下に概要を記載する。
【0030】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体は、1種以上のポリイソシアネートからなるポリイソシアネート成分と、1種以上のポリオールからなるポリオール成分を含むポリオール側原料液とを混合した混合物(原料組成物)を得た後、この混合物と物理的発泡剤と、を混合して発泡硬化することにより製造可能である。例えば、汎用の高圧発泡機等を用い、衝突混合して混合液とし、該混合液を所定の寸法の金型等に入れて発泡硬化させることで得られる。連続成形には低圧注入機を用い、常温大気圧下でベルトコンベア上に吐出することで平板、スラブストック等を成形できる。基本的な製造方法は、特許文献1及び特許文献2に示したものが適用される。ポリオール側原料液はポリオール成分以外の成分として、触媒、難燃剤等を含んでもよい。
【0031】
ポリイソシアネートとしては、1分子構造内に複数のイソシアネート基を有する化合物であれば特に制限されない。好適には芳香族ポリイソシアネート化合物が挙げられる。例えば、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、ジメチルジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート等が挙げられる。
【0032】
上記ポリイソシアネート成分の25℃粘度は、150~750mPa・sであることが好適である。ここで、当該粘度は、ASTM D4889に準じて測定される。
【0033】
ポリオールとしては、1分子構造内に複数の水酸基を有している化合物であれば特に限定されない。ポリアルコール、ポリアルコールの縮合物(ポリエーテルポリオール)、ポリアルコールとポリカルボン酸の縮合物(ポリエステルポリオール)等が挙げられる。ポリエーテルポリオールは、ポリアルコールにアルキレンオキサイドを付加することで得ることもできる。アルキレンオキサイドとしては、炭素数2~10のアルキレンオキサイド、特にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイドが挙げられる。
【0034】
ポリアルコールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF、水添ビスフェノールS、トリメチロールプロパン、グリセリンが挙げられる。
【0035】
ポリエーテルポリオールとしては、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコールが挙げられる。
【0036】
ポリカルボン酸としては、コハク酸、クエン酸、マレイン酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸が挙げられる。
【0037】
ポリエステルポリオールの中でも、芳香族ポリエステルポリオールが好ましい。フタル酸と、2官能、3官能もしくは多官能のポリアルコールまたはこれらのアルキレンオキサイド付加物の1種以上とを縮合して得られる芳香族ポリエステルポリオールがより好ましい。テレフタル酸とジエチレングリコールとを縮合して得られる芳香族ポリエステルポリオールが特に好ましい。
【0038】
ポリエーテルポリオールの数平均分子量(Mn)は、特に制限されないが、100~5,000、150~4,000、200~3,000が好ましい。
【0039】
ポリエステルポリオールの数平均分子量(Mn)は、特に制限されないが、100~5,000、150~4,000、200~3,000が好ましい。
【0040】
ポリオール成分の平均水酸基価は、好適には150mgKOH/g以上であり、上限は特に限定されないが例えば1200mgKOH/gである。ポリオール成分の平均水酸基価は、300~600mgKOH/gであることが特に好適である。ポリオール成分の平均水酸基価が当該範囲にあると、耐火性を担保しつつ、より高い断熱性やより好適な圧縮強度・フライアビリティ・寸法安定性を有するポリイソシアヌレート発泡体となる。
【0041】
ポリオール成分を100重量%としたとき、ポリエステルポリオールの割合が5重量%以上であることが好ましい。このように調整することで、良好な変形復帰性を得ることができる。
【0042】
本発明において、平均水酸基価は、JIS K1557-1(プラスチック-ポリウレタン原料ポリオール試験方法-第一部:水酸基価の求め方)に準じて測定した値である。
【0043】
触媒としては三量化触媒が挙げられる。好適には、三量化触媒、樹脂化触媒、泡化触媒との混合触媒である。好適には、金属塩触媒とアミン触媒との混合触媒である。
【0044】
三量化触媒とは、イソシアヌレート環を形成させるための触媒である。例えば、以下のものが挙げられる。
1)酸化リチウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム等の金属酸化物類;
2)メトキシナトリウム、エトキシナトリウム、プロポキシナトリウム、ブトキシナトリウム、メトキシカリウム、エトキシカリウム、プロポキシカリウム、ブトキシカリウム等のアルコキシド類;
3)酢酸カリウム、オクチル酸カリウム、カプリル酸カリウム、シュウ酸鉄等の有機金属塩類;
4)2,4,6‐トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、N,N’,N”‐トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロトリアジン、トリエチレンジアミン等の3級アミン類;
5)エチレンイミンの誘導体;
6)アルカリ金属、アルミニウム、遷移金属類のアセチルアセトンのキレート類、4級アンモニウム塩;
【0045】
なかでも、有機金属塩類や4級アンモニウム塩が好ましい。酢酸金属塩とオクチル酸金属塩とを組み合わせたものがより好ましい。酢酸カリウムとオクチル酸カリウムとを組み合わせたものが特に好ましい。
【0046】
樹脂化触媒、泡化触媒としては、特に限定はなく、通常のウレタン発泡体を製造する際に使用するものを利用できる。例えば、モノアミン類、環状モノアミン類、ジアミン類、トリアミン類、エーテルジアミン類、環状ポリアミン類、アルカノールアミン類のアミン触媒が挙げられる。
【0047】
モノアミン類としては、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N-ジシクロヘキシルメチルアミン、トリエチルアミン、N,N-ジメチルベンジルアミンが挙げられる。
【0048】
環状モノアミン類としては、ピリジン、N-メチルモルフォリン、N-エチルモルフォリンが挙げられる。
【0049】
ジアミン類としては、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチル-1,3-ブタンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサンジアミン、メチレン-ビス(ジメチルシクロヘキシルアミン)、N,N,N’,N’-テトラエチルエチレンジアミンが挙げられる。
【0050】
トリアミン類としては、N,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N’,N’,N”-ペンタメチルジプロピレントリアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)-フェノールが挙げられる。
【0051】
エーテルジアミン類としては、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、2-(N,N-ジメチルアミノ)エチル-3-(N,N-ジメチルアミノ)プロピルエーテル、4,4’-オキシジメチレンジモルフォリンが挙げられる。
【0052】
環状ポリアミン類としては、トリエチレンジアミン、N,N’-ジメチルピペラジン、N,N’-ジエチルピペラジン、N,N-ジメチルアミノエチルモルフォリン、1-イソブチル-2-メチルイミダゾール、1-ブトキシ-2-メチルイミダゾールが挙げられる。
【0053】
アルカノールアミン類としては、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N,N,N’-トリメチルアミノプロピルエタノールアミン、2-(2-ジメチルアミノ-エトキシ)エタノール、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N-トリメチル-1,3-ジアミノ-2-プロパノール、N-メチル-N’-(2-ヒドロキシエチル)-ピペラジンが挙げられる。
【0054】
難燃剤は、前記したものが使用可能である。
【0055】
物理的発泡剤は、特に限定されないが、好適には、炭化水素(好適にはC4~C6)やハイドロフルオロオレフィンである。より具体的には、シクロペンタン、HFO(1336mzz)、HFO(1233zd)を挙げることができる。
【0056】
本発明のポリイソシアヌレート発泡体を製造するに際し、整泡剤、減粘剤、面材接着性向上剤、気泡微細化剤等の各種添加剤を更に用いてもよい。整泡剤としては、従来公知のノニオン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤等が使用できる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0058】
(原料化合物)
実施例及び比較例で原料として使用した化合物は以下の通りである。
【0059】
ポリイソシアネート化合物:東ソー株式会社製クルードMDI、商品名「MR-200」、NCO率31.3%
【0060】
ポリオール化合物1:オルトフタル酸とジエチレングリコールとを脱水縮合して得られたポリエステルポリオール、OHV400mgKOH/g、数平均分子量280.5
ポリオール化合物2:ポリプロピレンエーテルポリオール(三洋化成株式会社製、商品名「PP-400」)、OHV400mgKOH/g、数平均分子量280.5
ポリオール化合物3:ジエチレングリコール、OHV1057mgKOH/g、数平均分子量106
【0061】
難燃剤:トリス(1-クロロ-2-プロピル)ホスフェート(Pro Flame社製、商品名「ProFlame-PC1389」)
整泡剤:エボニックジャパン株式会社製、品番「B8443」
三量化触媒:オクチル酸カリウム65%と酢酸カリウム35%の混合物
【0062】
物理的発泡剤1:シクロペンタン(丸善石油株式会社製、商品名「マルカゾールFH」)
物理的発泡剤2:ハイドロフルオロオレフィン(HFO)(ハネウェル社製、商品名「Solstice 1233zd(E)」)
【0063】
(製造手順)
実施例及び比較例のポリイソシアヌレート発泡体の合成樹脂板状体を製造した手順の概要を以下に説明する。
【0064】
ポリオール化合物、難燃剤、整泡剤、触媒を混合してポリオール側原料液を得た。15℃に温調した当該ポリオール側原料液に対し、同じく15℃に温調したポリイソシアネート化合物を添加して原料組成物を得た。この原料組成物に対し物理的発泡剤を添加し、5000rpmのプロペラ攪拌機にて原料組成物を速やかに10秒攪拌し、攪拌物を得た。当該攪拌物を300×300×300mmの上部が解放されている箱に投入し、面材を備えないポリイソシアヌレート発泡体を作製した。
【0065】
上記製造手順に従い、以下の表の通りの成分および配合量にて、実施例及び比較例のポリイソシアヌレート発泡体の合成樹脂板状体を製造した。
【0066】
また、実施例及び比較例のポリイソシアヌレート発泡体について以下に説明する方法にて物性及び性能を評価した。それらの結果についても表に記載する。
【0067】
(独立気泡率)
ASTM D2856に基づいて測定した。
【0068】
(ヌレート化率)
ヌレート化率は、発泡体の表面から深さ3mmの部位を切り出したものをサンプルとし、赤外線吸収スペクトル法に基づいて測定した。より具体的には、ヌレート環に基づく吸収ピーク面積を、ヌレート環、ウレタン・ウレアのN-H、ウレアのC=O、ウレタン・ヌレートのC=Oに基づく吸収ピーク面積との総和で割ることによって、全体の部分構造に対するヌレート環の割合を算出した。より具体的には以下のように算出した。
ヌレート化率(%)=[a/(a+b+c+d)]×100
a:ヌレート環に基づく吸収ピーク位置:1410cm-1、面積位置:1347.03~1464.67cm-1の面積
b:ウレタン・ウレアの[N-H]に基づく吸収ピーク位置:1510cm-1、面積位置:1460.81~1562.06cm-1の面積
c:ウレアの「C=O]に基づく吸収ピーク位置:1595cm-1、面積位置:1566.88~1638.23cm-1の面積
d:ウレタン・ヌレートの「C=O]に基づく吸収ピーク位置:1710cm-1、面積位置:1636.3~1768.4cm-1の面積
【0069】
(見掛け密度)
JIS K7222に基づいて測定した。
【0070】
(変形復帰性の評価)
「独立行政法人都市再生機構」が制定した「機材の品質判定基準(平成26年5月版):スリット材の性能試験方法」に基づいて測定した。具体的な試験方法は以下のとおりである。100mm×100mm×30mmにカットした合成樹脂板状体の試験片を15mmまで圧縮し、荷重を0に戻す。これを5回繰り返して、荷重0にしたのち、23(±5)℃、相対湿度50(+20-10)%の状態下で3時間以上放置させ、測定した厚さを復帰厚さとした。荷重速度は、500mm/min程度とした。
【0071】
変形復帰性が80%以上のものを「○」、70%以上80%未満のものを「△」、70%未満のものを「×」と評価した。
【0072】
(耐火性の評価)
以下の手順の評価試験に基づいて測定した。
液化ブタンを75重量%~85重量%、液化プロパンを15重量%~25重量%含むボンベ、および直径22mmの火口径のトーチを組み合わせたハンドバーナーを使用し、200mm×200mm×30mmに切断した試験体の中央にバーナーの炎がトーチ先端から50mmの距離で当たるようにして燃焼させる。30mmの厚さの試験体が燃焼し、炎の当たっている面の反対面に炎が貫通するのに要する時間を測定する。
【0073】
貫通に要する時間が6分以上のものを「◎」、4分以上6分未満のものを「○」、30秒以上4分未満のものを「△」、30秒未満のものを「×」と評価した。
【0074】
(曲げ強度の評価)
JIS K7221-2に基づいて測定した。具体的には得られたポリイソシアヌレート発泡体から250mm×50mm×15mmに切断した試験体を200mmの距離にある2つの半径15mmの円柱状端支点上に対称に置き、半径15mmの円柱状端くさびを万能試験機をもちいて20mm/minの一定速度で移動させて試験片の長さ方向に対して垂直に荷重を加える。曲げ強度は破壊するまでの最大荷重を使用して算出する。
【0075】
曲げ強度(N/cm2)が50以上のものを「◎」、15以上のものを「○」、10以上15未満のものを「△」、10未満のものを「×」と評価した。
【0076】
(熱伝導率の評価)
JIS A9521に基づいて測定した。
【0077】
熱伝導率(W/m・K)が0.024未満のものを「○」、0.024以上0.028未満のものを「△」、0.028以上のものを「×」と評価した。
【0078】
【0079】