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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】薬液注入針および薬液注入針システム
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/158 20060101AFI20231017BHJP
   A61M 5/168 20060101ALI20231017BHJP
   A61M 5/172 20060101ALI20231017BHJP
   A61M 25/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
A61M5/158 500F
A61M5/168 512
A61M5/172
A61M25/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022510382
(86)(22)【出願日】2020-03-27
(86)【国際出願番号】 JP2020014251
(87)【国際公開番号】W WO2021192283
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】594170727
【氏名又は名称】日本ライフライン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】小磯 智春
(72)【発明者】
【氏名】星田 綾季
(72)【発明者】
【氏名】吉沼 正樹
(72)【発明者】
【氏名】森 謙二
(72)【発明者】
【氏名】町野 毅
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 明
(72)【発明者】
【氏名】村越 伸行
【審査官】上石 大
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/0171304(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2004/0193152(US,A1)
【文献】国際公開第2019/049628(WO,A1)
【文献】特表2003-517863(JP,A)
【文献】国際公開第2018/219842(WO,A1)
【文献】特表2011-507648(JP,A)
【文献】特開2004-290582(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/168
A61M 5/158
A61M 5/172
A61M 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の心筋層に穿刺して薬液を注入するための中空の針であって、
金属製の尖鋭な先端部材と、
前記先端部材の基端側に接続された電気絶縁性の連結管と、
前記連結管の基端側に接続された金属管と、
前記金属管の基端部分の外周面を被覆する絶縁層とを備え、
前記連結管および/または前記先端部材には、前記針の内腔に連通して前記連結管または前記先端部材の外表面に開口する少なくとも1個の孔が形成され、
前記絶縁層に被覆されていない前記金属管の先端部分により、電位測定用の電極が構成されていることを特徴とする薬液注入針。
【請求項2】
前記先端部材の先端が閉塞されており、
前記連結管の管壁には、前記針の内腔に連通して当該連結管の外周面に開口する複数の側孔が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の薬液注入針。
【請求項3】
前記連結管の軸方向に沿って複数の前記側孔が配列されてなる側孔の群が、前記連結管の円周方向に沿って等角度間隔に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の薬液注入針。
【請求項4】
前記側孔の群における先端側に位置する前記側孔は、基端側に位置する前記側孔よりも大きい径を有していることを特徴とする請求項3に記載の薬液注入針。
【請求項5】
前記金属管の基端部分の先端領域において、螺旋状のスリットが形成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の薬液注入針。
【請求項6】
前記薬液が心筋再生細胞製剤である請求項1または2に記載の薬液注入針。
【請求項7】
請求項1または2に記載の薬液注入針と、
前記薬液注入針の前記電極によって測定された電位が所定の値以上であるときに、前記薬液の注入が可能であることをオペレータに通知する通知手段とを備えている薬液注入針システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、患者の心筋層に穿刺して薬液を注入するための薬液注入針、およびそのような薬液注入針を備えた薬液注入針システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、心筋梗塞などで機能を失いつつある心筋細胞に対して、心筋再生細胞製剤などの薬液を直接投与することにより、当該心筋細胞を再生する治療法が行われている。
なお、治療に先立って投薬治療を要する目的部位を特定するために、電気生理学(EP)カテーテルなどによる診断(マッピング)が行われている。
【0003】
心筋細胞に直接投薬するためには、患者の心筋層に穿刺して薬液を注入する中空針(薬液注入針)が使用される(下記特許文献1参照)。
【0004】
この薬液注入針は、シースまたはガイディングカテーテルに挿入された状態で生体内腔(心腔)に導入され、シースまたはガイディングカテーテルの先端が目的部位の近傍に到達したところで、その先端開口から薬液注入針の針先を突出させて目的部位(心筋層)に穿刺して心筋細胞に薬液を投与する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開公報第99/49926号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかして、薬液注入針による投薬治療にあっては、患者の心筋細胞に確実に薬液を投与することが肝要であり、そのためには、薬液の注入時に、薬液注入針の針先における薬液注入用の開口が心筋層に位置していることが必要である。
【0007】
しかしながら、薬液注入針の前記開口が心筋層に位置しているか否かを確認することは容易ではない。
例えば、上記特許文献1に記載の薬液注入針のように、放射線不透過バンドなどを針先に配置し、当該針先の位置をシネ画像により確認しようとしても、拍動している心臓壁の形状をシネ画像によって把握することができないため、当該針先が心臓壁の内部(心筋層)に位置しているのか、心臓壁の外部(心腔)に位置しているのか見分けることは困難である。
【0008】
本発明は以上のような事情に基いてなされたものである。
本発明の目的は、薬液注入用の開口が心臓壁の内部(心筋層)に位置しているか否かを容易に判断することができ、心筋層に対して薬液を確実に注入することができる薬液注入針を提供することにある。
本発明の他の目的は、心筋層に対して薬液を確実に注入することができる薬液注入針システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の薬液注入針は、患者の心筋層に穿刺して薬液を注入するための中空の針であって、
金属製の尖鋭な先端部材と、
前記先端部材の基端側に接続された電気絶縁性の連結管と、
前記連結管の基端側に接続された金属管と、
前記金属管の基端部分の外周面を被覆する絶縁層とを備え、
前記連結管および/または前記先端部材には、前記針の内腔に連通して前記連結管または前記先端部材の外表面に開口する少なくとも1個の孔(前記薬液の流出路)が形成され、
前記絶縁層に被覆されていない前記金属管の先端部分により、電位測定用の電極が構成されていることを特徴とする。
【0010】
このような構成の薬液注入針によれば、金属管の先端部分により構成される電極が心臓壁の内部(心筋層)に導入されたときには、当該電極により測定される電位が急激に上昇する(一定以上の電位を取得することができる)。従って、当該電位の急激な上昇を検知することにより、当該電極が心臓壁の内部に導入されたことを確認することができる。
そして、この電極(金属管の先端部分)は、連結管および/または前記先端部材に形成されている孔の基端側にあるので、当該電極が心臓壁の内部に位置しているときには、孔の開口(薬液注入用の開口)も心臓壁の内部(心筋層)に位置していることになる。
従って、前記電極によって測定される電位が所定の値以上であるか否かを確認することにより、薬液注入用の開口が心臓壁の内部に位置しているか否かを容易に判断することができ、当該電位が所定の値以上であることを確認して薬液の注入操作を行うことにより、孔の開口から心筋層に確実に薬液を注入することができる。
【0011】
また、金属管と、その基端部分の外周面を被覆する絶縁層とを備えていることにより、金属管の先端部分を電極として使用することができるとともに、金属管の基端部分を電極のリードとして使用することができる。
これにより、針の外表面にリング状の電極を別途設けたり、金属管の内部または外部に電極のリード線を設けたりする必要がないので、針の小径化を図ることができるとともに、針の内腔スペースを十分に確保することができる。
【0012】
また、薬液注入針を構成する金属製の先端部材と、金属管とは、連結管によって互いに電気的に絶縁されていて先端部材は電極を構成しないので、先端部材や連結管が心臓壁の内部に導入されているが、金属管の先端部分(電極)が導入されていない段階では、電位が上昇することはない。
【0013】
(2)本発明の薬液注入針において、前記先端部材の先端が閉塞されており、
前記連結管の管壁には、前記針の内腔(当該連結管の内腔)に連通して、当該連結管の外周面に開口する複数の側孔が形成されていることが好ましい。
【0014】
このような構成の薬液注入針によれば、先端部材に側孔が形成されている薬液注入針と比較して、柔軟性に劣る針の先端部分の長さを短くすることができる。
【0015】
(3)上記(2)の薬液注入針において、前記連結管の軸方向に沿って複数の前記側孔が配列されてなる側孔の群が、前記連結管の円周方向に沿って等角度間隔に配置されていることが好ましい。
このような構成の薬液注入針によれば、連結管の軸方向(心筋層の肉厚方向)および連結管の円周方向に対して均等に薬液を注入することができる。
【0016】
(4)上記(3)の薬液注入針において、前記側孔の群における先端側に位置する前記側孔は、基端側に位置する前記側孔よりも大きい径を有していることが好ましい。
このような構成の薬液注入針によれば、連結管の軸方向(心筋層の肉厚方向)に対して更に均等に薬液を注入することができる。
【0017】
(5)本発明の薬液注入針において、前記金属管の基端部分の先端領域には、螺旋状のスリットが形成されていることが好ましい。
【0018】
このような構成の薬液注入針によれば、金属管の基端部分の先端領域における剛性を、螺旋状のスリットが形成されていることによってある程度低くして、柔軟な注入針とすることができる。
【0019】
(6)本発明の薬液注入針において、前記薬液が心筋再生細胞製剤であることが好ましい。
【0020】
(7)本発明の薬液注入針システムは、本発明の薬液注入針と、
前記薬液注入針の前記電極によって測定された電位が所定の値以上であるときに、前記薬液の注入が可能であることをオペレータに通知する通知手段とを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の薬液注入針によれば、薬液を注入するための孔の開口が心臓壁の内部(心筋層)に位置しているか否かを容易に判断することができ、これにより、患者の心筋層に対して薬液を確実に注入することができる。
【0022】
本発明の薬液注入針システムによれば、通知手段からの通知を待って薬液の注入操作を行うことにより、電極による測定電位をモニタなどで常時監視しなくても、患者の心筋層に対して薬液を確実に注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の一実施形態に係る薬液注入針を示す正面図である。
図2図1に示した薬液注入針の先端部分を示す部分拡大正面図(図1のII部詳細図)である。
図3図1に示した薬液注入針の先端部分を示す部分拡大断面図である。
図4A図1に示した薬液注入針を構成する先端部材および連結管の一部が心臓壁の内部に導入されている状態を示す説明図である。
図4B図1に示した薬液注入針を構成する金属管の先端部分(電極)が心臓壁の内部に導入されている状態を示す説明図である。
図5A】本発明の変形例に係る薬液注入針の先端部分を示す斜視図である。
図5B】本発明の変形例に係る薬液注入針の先端部分を示す部分拡大断面図である。
図6】本発明の一実施形態に係る薬液注入針システムの概略構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
<薬液注入針>
図1図3に示すこの実施形態の薬液注入針100は、患者の心筋層に穿刺して薬液を注入するための中空の針であって、先端が閉塞されている金属製の尖鋭な先端部材10と、先端部材10の基端側に接続された電気絶縁性の連結管20と、連結管20の基端側に接続された金属管30と、金属管30の基端部分32の外周面を被覆する絶縁層40とを備え、連結管20には、薬液注入針100の内腔に連通して当該連結管20の外周面に開口する10個の側孔25(251~259,25X)が形成され、絶縁層40に被覆されていない金属管30の先端部分31により、電位測定用の電極が構成されている。
【0025】
本実施形態の薬液注入針100は、金属製の先端部材10と、電気絶縁性の連結管20と、金属管30と、絶縁層40とを備えてなる。
【0026】
図1に示すように、薬液注入針100を構成する金属管30の基端側には把持部50が装着されており、薬液注入針100と把持部50とによって薬液注入針装置が構成されている。
【0027】
薬液注入針装置を構成する把持部50は、樹脂、ゴム、エラストマーなどからなる。
この把持部50には、薬液注入針100の内腔に薬液を供給するための注入ポート51が設けられているとともに、金属管30の基端に溶接されたリードを介して、薬液注入針100の電極と電気的に接続されたコネクタ53が装着されている。
【0028】
把持部50の先端より突出する薬液注入針100の有効長(図1に示すL100)は、通常800~2500mmとされ、好適な一例を示せば1300mmである。
薬液注入針100の外径は、通常0.3~1.5mmとされ、好適な一例を示せば0.8mmである。
薬液注入針100の内径は、通常0.1~1.3mmとされ、好適な一例を示せば0.6mmである。
【0029】
本実施形態の薬液注入針100は、患者の心筋層に穿刺して心筋細胞に薬液を注入するための中空の針である。
ここに、「薬液」としては、心筋再生細胞製剤などの細胞製剤および遺伝子導入薬などを挙げることができる。
【0030】
図3に示すように、薬液注入針100を構成する先端部材10は、中実の尖鋭部分11と、内部空間を有する管状部分12とにより構成された金属製の部材であり、先端部材10の先端は閉塞されている。
【0031】
先端部材10の長さ(図2に示すL10)は、通常0.5~5mmとされ、好適な一例を示せば2.5mmである。
【0032】
先端部材10の長さが短すぎると、穿刺性能が損なわれたり、連結管20との接合強度が低下したりする場合がある。
他方、先端部材10の長さが長すぎると、薬液注入針100の血管追従性が損なわれたり、その基端側に接続されている連結管20および金属管30の先端部分31(電極)を心筋層に導入することが困難となる場合がある。
【0033】
先端部材10を構成する金属としては、薬液注入針を構成する金属として従来公知であるものをすべて使用することができ、例えばステンレススチール、NiTi、βチタン、プラチナイリジウムなどを挙げることができる。
【0034】
また、先端部材10の一部または全部が放射線不透過金属により構成されていてもよく、これにより、目的部位に至るまでの先端部材10の位置をシネ画像により確認することができる。放射線不透過金属としては、白金およびその合金、金、タングステン、タンタルなどを例示することができる。
【0035】
薬液注入針100を構成する連結管20は、電気絶縁性の材料からなり、先端部材10と金属管30とを、両者の電気絶縁性を確保しながら連結する部材である。
【0036】
連結管20を介して先端部材10と金属管30とを連結する態様としては特に限定され
るものではないが、本実施形態では、図3に示すように、連結管20の先端側細径部21を先端部材10(管状部分12)の内部空間に挿入するとともに、連結管20の基端側細径部22を金属管30の先端開口に挿入することにより、先端部材10と金属管30とを連結している。
図3に示すように、連結管20の内腔と、金属管30の内腔とは互いに連通して、薬液注入針100の内腔を形成している。
【0037】
連結管20の長さ(図2に示すL20)は、通常0.1~25mmとされ、好適な一例を示せば14mmである。
【0038】
連結管20の長さが短すぎると、先端部材10と金属管30とを十分に絶縁できないことがある。
他方、連結管20の長さが長すぎると、薬液注入針100の先端部分における血管追従性が損なわれることがある。
【0039】
連結管20を構成する電気絶縁性材料としては、特に限定されるものではないが、樹脂材料およびセラミック材料が好ましく、電気絶縁性および断熱性が良好で、成形も容易であることから樹脂材料を用いることが特に好ましい。
【0040】
連結管20を構成する樹脂は、熱可塑性樹脂であっても熱硬化性樹脂であってもよい。また、当該樹脂にはエボナイトが包含される。具体的には、環状オレフィン系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアミド、ポリアセタール、変性ポリフェニレンエーテル、ポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素系樹脂、スルホン系樹脂、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルラクトン、液晶ポリエステル、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリエーテルニトリル、ポリプロピレン、ポリエチレン;エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。これらのうち、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、ポリフェニルスルホン、ポリアミドおよびポリアセタールなどが好ましい。
【0041】
連結管20には、注入すべき薬液の流出路として、当該連結管20(薬液注入針100)の内腔に連通して当該連結管20の外周面に開口する10個の側孔25(251~259,25X)が形成されている。
【0042】
図2および図3に示すように、側孔251、252および253による第1の側孔群と、側孔254および255による第2の側孔群と、側孔256、257および258による第3の側孔群と、側孔259および25Xによる第4の側孔群とが、連結管20の円周方向に沿って等角度(90°)間隔に配置されている。
これにより、連結管20の軸方向(心筋層の肉厚方向)および連結管20の円周方向に対して均等に薬液を注入することができる。
【0043】
第1の側孔群における各々の側孔の径は、先端側に位置する側孔251が最大であり、次に中間に位置する側孔252が大きく、基端側に位置する側孔253が最小である。
第2の側孔群における各々の側孔の径は、先端側に位置する側孔254が基端側に位置する側孔255よりも大きい。
第3の側孔群における各々の側孔の径は、先端側に位置する側孔256が最大であり、次に中間に位置する側孔257が大きく、基端側に位置する側孔258が最小である。
第4の側孔群における各々の側孔の径は、先端側に位置する側孔259が基端側に位置する側孔25Xよりも大きい。
このように、先端側に位置する側孔の径を、基端側に位置する側孔の径より大きくすることにより、同一の側孔群における側孔の間で、薬液の排出量を均等化することができ、連結管20の軸方向(心筋層の肉厚方向)に対して更に均等に薬液を注入することができる。
【0044】
側孔25(251~259,25X)の径の一例を示せば、側孔251および側孔256が0.27mm、側孔252および側孔257が0.23mm、側孔253および側孔258が0.20mmであり、側孔254および側孔259が0.30mm、側孔255および側孔25Xが0.25mmである。
【0045】
薬液注入針100を構成する金属管30は、連結管20の内腔に連通する内腔を有する管状部材からなる。
金属管30の長さ(L100-L10-L20)は、通常800~2500mmとされ、好適な一例を示せば1283.5mmである。
金属管30には、通常の薬液注入針において必要とされる剛性(特に曲げ剛性)および弾性(特に曲げ弾性)が要求される。
金属管30を構成する金属としては、先端部材10と同一の金属を挙げることができる。また、金属管30の先端部分31の一部または全部が放射線不透過金属により構成されていてもよく、これにより、目的部位に至るまでの電極の位置をシネ画像により確認することができる。
【0046】
図1に示すように、金属管30の基端部分32の先端領域において、螺旋状のスリット33が形成されている。これにより、先端領域における金属管30の剛性がある程度弱められて可撓性(柔軟性)が付与され、この薬液注入針100は血管追従性に優れたものとなり、目的部位に至る血管形状に容易に追従させることができる。
なお、このスリット33は、金属管の外周面から内周面に至る貫通スリットであるが、内周面に至らないようにスリットを形成していてもよい。
【0047】
基端部分32の先端領域に形成されるスリット33の長さ(図1に示すL33)は、通常30~400mmとされ、好適な一例を示せば100mmである。
【0048】
スリット33のピッチは、先端方向に向かって連続的に狭くなるように形成されている。これにより、基端部分32の先端領域の剛性を先端方向に向かって連続的(滑らか)に低下させることができ、これにより、薬液注入針100を目的部位へ導入する際の操作性を向上させることができる。但し、基端部分の先端領域に形成されるスリットは、すべて同じピッチで形成されていてもよい。
【0049】
薬液注入針100を構成する絶縁層40は、金属管30の基端部分32の外周面を被覆する電気絶縁性材料からなる層である。
金属管30の基端部分32の外周面が絶縁層40で被覆されることにより、絶縁層40に被覆されていない金属管30の先端部分31が電位測定用の電極として機能するとともに、金属管30の基端部分32が当該電極のリードとして機能する。
これにより、針の外表面にリング状の電極を別途設けたり、金属管の内部または外部に電極のリード線を設けたりする必要がないので、薬液注入針100の小径化を図ることができるとともに、内腔スペースを十分に確保することができる。
【0050】
また、絶縁層40により、金属管30の基端部分32の先端領域に形成されたスリット33を塞ぐことができるので、薬液注入針100の液密性を確保することができる。
【0051】
ここに、電極として機能する金属管30の先端部分31の長さ(図2に示すL31)と
しては、通常0.1~4mm(金属管30の全長の0.007~0.3%程度)とされ、好適な一例を示せば0.5mmである。
【0052】
なお、絶縁層40は、金属管30の基端部分32の全長(L100-L10-L20-L31)にわたる外周面を被覆する必要はなく、本実施形態では、基端部分32の先端から一定長さにわたる領域が絶縁層40により被覆されている。
ここに、絶縁層40により被覆される領域の長さ(図1に示すL40)は、通常60~420mmとされ、好適な一例を示せば120mmである。
【0053】
絶縁層40は、金属管30の基端部分32が内部に挿入された状態の熱収縮性樹脂チューブを収縮させることにより形成することができる。
絶縁層40を形成するための熱収縮性樹脂チューブとしては、例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエーテルブロックアミド共重合体樹脂(PEBAX(登録商標))等を挙げることができる。
【0054】
絶縁層40の膜厚としては、例えば10~100μmとされ、好適な一例を示せば20μmである。
【0055】
本実施形態の薬液注入針100と、把持部50(注入ポート51およびコネクタ53)とにより薬液注入針装置が構成され、この薬液注入針装置により、患者の心筋層に薬液を注入する。
薬液注入針装置による薬液の注入時において、注入ポート51には、薬液注入針100の内腔に供給する薬液が充填されたシリンジが接続され、コネクタ53は心電位計に接続される。
【0056】
本実施形態の薬液注入針100は、シースまたはガイディングカテーテルに挿入された状態で生体内腔(心腔)に導入され、マッピングによって特定された目的部位の近傍に、シースまたはガイディングカテーテルの先端が到達したところで、その先端開口から、薬液注入針100の針先を突出させて目的部位(心筋層)に穿刺する。
【0057】
図4Aは、薬液注入針100を心筋層に穿刺して先端部材10および連結管20の一部(先端部分)が心臓壁の内部に導入されている状態を示している。
この段階では、側孔25の形成領域を含む連結管20の残部(基端部分)が、心腔内に位置しているので、この段階で薬液の注入操作を行っても心腔内に漏れ出てしまい、当該薬液を心筋層に注入することができない。
【0058】
然るに、図4Aに示した状態では、連結管20の基端側に位置する電極(金属管30の先端部分31)が心腔内に位置しているので、当該電極によって測定される電位が急激に上昇する(一定以上の電位を取得する)ことはない。このため、この段階で、オペレータによる薬液の注入操作は行われない。
【0059】
図4Bは、薬液注入針100を更に突き進めて、先端部材10および連結管20が心臓壁の内部(心筋層)に完全に埋没し、その基端側にある金属管30の先端部分31(電極)の一部が、心臓壁の内部(心筋層)に導入されている状態を示している。
この段階では、側孔25が形成された連結管20が心筋層に位置しているので、この段階で薬液の注入操作を行えば、当該薬液を心筋層に注入することができる。
【0060】
そして、図4Bに示した状態では、心筋層に導入された電極が心筋組織と接触することにより、当該電極によって測定される電位が急激に上昇して、一定以上(例えば、2mV以上)の電位が取得される。従って、心電位計のモニタなどに表示される電位が一定以上
になったことを確認したオペレータが薬液の注入操作を行うことにより、連結管20に形成された側孔25の開口(薬液注入用の開口)から患者の心筋層に対して薬液90を確実に注入することができる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の薬液注入針はこれに限定されるものではなく種々の変更が可能である。
例えば、先端部材に、連結管および金属管の内腔に連通する内腔を形成するとともに、先端部材の内腔に連通して当該先端部材の外表面(先端面または外周面)に開口する孔が形成されていてもよい。この場合において、連結管の外周面には側孔が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。
そのような薬液注入針として、図5Aおよび図5Bに示すように先端面のみが開口する先端部材16と、この先端部材16の基端側に接続され、側孔が形成されていない連結管26とを備えた薬液注入針を例示することができる。
【0062】
<薬液注入針システム>
図6に示す本実施形態の薬液注入針システム200は、上記実施形態の薬液注入針100と、薬液注入針100を構成する金属管の基端側に装着された把持部50と、薬液注入針100の先端部分を患者Pの心腔Hに案内するためのガイディングカテーテル60と、薬液注入針100の内腔に薬液を供給するための注入ポート51と、薬液注入針100の電極と電気的に接続されたコネクタ53と、このコネクタ53が接続された心電位計70と、この心電位計70に接続されるとともに患者Pの体内(大静脈)に配置される不関電極72と、薬液注入針100の電極により測定された電位が所定の値以上であるときに、薬液の注入が可能であることをオペレータOPに通知する通知手段80とを備えている。同図において、55は、注入ポート51に接続されたシリンジ55である。
【0063】
図6に示すように、薬液注入針100の電極に接続されたコネクタ53は、心電位計70の薬液注入針接続コネクタ76に接続されている。また、不関電極72は、心電位計70の不関電極接続コネクタ77に接続されている。
不関電極72は、ガイディングカテーテル60とは別の電極カテーテル(図示省略)に設けられ、患者Pの心電位を拾わないよう、患者Pの大静脈に配置される。
これにより、薬液注入針100の電極と不関電極72との間の電位が測定され、測定された電位情報を心電位計70に逐次入力することが可能になる。
【0064】
薬液注入針システム200を構成するガイディングカテーテル60は、薬液注入針100の先端部分を患者Pの心腔Hに案内し、その先端が目的部位の近傍に位置するよう先行して挿入される。
【0065】
薬液注入針システム200を構成する通知手段80は、薬液注入針100の電極により測定された電位が所定の値以上であるか否かを常時判定し、所定の値以上となったときに、薬液の注入が可能である(心筋層に薬液を注入することができる)ことをオペレータOPに通知する通知手段80とを備えている。
ここに、オペレータOPへの通知形態としては、特に限定されるものではなく、モニタなどへのメッセージの表示、ランプの点灯/点滅、ブザーや音声メッセージなど特に限定されるものではない。
【0066】
本実施形態の薬液注入針システム200によれば、通知手段80からの通知を待って、薬液注入針100の内腔にシリンジ55から薬液を供給する注入操作を行うことにより、電極による測定電位をモニタなどで常時監視しなくても、患者の心筋層に対して、薬液を確実に注入することができる。
【符号の説明】
【0067】
100 薬液注入針
10 先端部材
11 先端部材の尖鋭部分
12 先端部材の管状部分
16 先端部材(変形例)
20 連結管
21 連結管の先端側細径部
22 連結管の基端側細径部
25(251~259,25X) 側孔
26 連結管(変形例)
30 金属管
31 金属管の先端部分
32 金属管の基端部分
33 スリット
40 絶縁層
50 把持部
51 注入ポート
53 コネクタ
55 シリンジ
200 薬液注入針システム
60 ガイディングカテーテル
70 心電位計
72 不関電極
76 薬液注入針接続コネクタ
77 不関電極接続コネクタ
80 通知手段
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6