(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ハニカム構造体及び排気ガス浄化装置
(51)【国際特許分類】
B01D 46/00 20220101AFI20231017BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20231017BHJP
F01N 3/20 20060101ALI20231017BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20231017BHJP
F01N 3/027 20060101ALI20231017BHJP
F01N 3/023 20060101ALI20231017BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20231017BHJP
B01J 35/04 20060101ALI20231017BHJP
B01J 32/00 20060101ALI20231017BHJP
【FI】
B01D46/00 302
B01D39/20 D ZAB
F01N3/20 K
F01N3/28 301
F01N3/027 D
F01N3/023 E
F01N3/24 L
B01J35/04 301H
B01J35/04 301E
B01J35/04 301F
B01J32/00
(21)【出願番号】P 2022521850
(86)(22)【出願日】2021-04-30
(86)【国際出願番号】 JP2021017292
(87)【国際公開番号】W WO2021230118
(87)【国際公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-06-03
(31)【優先権主張番号】P 2020085408
(32)【優先日】2020-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】細田 和也
(72)【発明者】
【氏名】木俣 貴文
(72)【発明者】
【氏名】泉 有仁枝
(72)【発明者】
【氏名】中島 拓哉
【審査官】小久保 勝伊
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/031434(WO,A1)
【文献】特開2011-134995(JP,A)
【文献】特開2020-072001(JP,A)
【文献】特開平11-336534(JP,A)
【文献】国際公開第2016/021186(WO,A1)
【文献】特開2016-187766(JP,A)
【文献】国際公開第2019/086517(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 46/00
B01D 39/20
F01N 3/20
F01N 3/28
F01N 3/027
F01N 3/023
F01N 3/24
B01J 35/04
B01J 32/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記複数のセルのうち、少なくとも1つのセル内に、ガラスで被覆された磁性体を有し、
前記ガラスで被覆された磁性体が、前記セル内の隔壁の表面に層状に設けられて、コート層を構成し、前記コート層の開気孔率が、40~90%であ
り、
前記磁性体の熱膨張率α1と、前記ガラスの熱膨張率α2との比:α1/α2が、0.8~1.2であるハニカム構造体。
【請求項2】
前記コート層の厚さが、30~100μmである請求項1に記載のハニカム構造体。
【請求項3】
外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記複数のセルのうち、少なくとも1つのセル内に、ガラスで被覆された磁性体を有し、前記ガラスで被覆された磁性体が、前記セル内に充填されて
おり、
前記磁性体の熱膨張率α1と、前記ガラスの熱膨張率α2との比:α1/α2が、0.8~1.2であるハニカム構造体。
【請求項4】
前記磁性体が、多孔体で構成された磁性体部を構成している請求項3に記載のハニカム構造体。
【請求項5】
前記磁性体を被覆しているガラスの厚さが、1~10μmである請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項6】
前記ガラスが、SiO
2-MgO-Al
2O
3-ZnOからなる請求項5に記載のハニカム構造体。
【請求項7】
前記磁性体を被覆しているガラスの厚さが、10~40μmである請求項1~4のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項8】
前記磁性体の最大透磁率が、10000以上である請求項1~
7のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項9】
前記磁性体は、粒径が30μm以下の粒子で構成されている請求項1~
8のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項10】
前記磁性体の体積が、前記ガラスの体積の60~90%である請求項1~
9のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項11】
前記磁性体が、600℃以上のキュリー温度を有する請求項1~
10のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項12】
前記磁性体が、Coを10質量%以上含むFeCo合金、または、ステンレス鋼で構成されている請求項1~
11のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項13】
前記ガラスは、実質的にアルカリ金属を含まない請求項1~
12のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項14】
前記隔壁及び外周壁がセラミックス材料で構成されている請求項1~
13のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項15】
前記セラミックス材料がコージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つである請求項
14に記載のハニカム構造体。
【請求項16】
前記セルは、
前記一方の端面側が開口して前記他方の端面に目封止部を有する複数のセルAと、
前記セルAとそれぞれ交互に配置され、前記他方の端面側が開口して前記一方の端面に目封止部を有する複数のセルBと、
を含む請求項1~
15のいずれか一項に記載のハニカム構造体。
【請求項17】
請求項1~
16のいずれか一項に記載のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハニカム構造体及び排気ガス浄化装置に関する。とりわけ、耐酸化性が良好なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の排気ガスには、通常は不完全燃焼の結果として一酸化炭素、炭化水素、窒素酸化物などの有害成分やカーボンなどの微粒子が含まれる。人体への健康被害低減の観点から、自動車排気ガス中の有害ガス成分および微粒子の低減要求が高まっている。
【0003】
しかしながら、現在、これらの有害成分は、エンジン始動直後という、触媒温度が低く、触媒活性が不十分な期間に排出されている。このため、排気ガス中の有害成分が、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるおそれがある。このような要求に応えるためには、触媒活性化温度に達する前に触媒で浄化されずに排出されるエミッションを極力低減させることが必要であり、例えば、電気加熱技術を利用した対策が知られている。
【0004】
このような技術として、特許文献1には、触媒担体ハニカムとして広く使用されているコージェライトハニカムの一部のセルに、磁性体ワイヤーを挿入する技術が提案されている。当該技術によれば、ハニカム外周のコイルに電流を流し、電磁誘導加熱によりワイヤー温度を上昇させ、その熱でハニカム温度を上昇させることができる。
【0005】
ガソリンエンジンやディーゼルエンジンの排気カーボン微粒子も人体の健康への影響があるため低減要求が高く、このような排気ガス処理には、ハニカム構造体に交互に目封止部を設けたウォールフロー型のフィルタが用いられている。当該フィルタで捕集したカーボン微粒子(スス)は、排気ガスを高温化することにより燃焼除去している。しかしながら、燃焼除去にかかる時間が長いと、排気ガス温度を高温化するために必要な燃料の消費が増加してしまう問題が生じる。また、搭載スペース確保の観点からは、比較的スペースの余裕のある床下位置に搭載することが、排気システム構成上の設計自由度確保の観点から好ましい。しかしながら、車両床下に当該フィルタを配置すると、エンジンからの排気温度が低くなり、カーボン微粒子を燃焼除去できない問題が生じる。
【0006】
この対策として、特許文献2には、フィルタの目封止部に磁性体ワイヤーを挿入する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】米国特許出願公開第2017/0022868号明細書
【文献】米国特許出願公開第2017/0014763号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
セル内に金属製のワイヤーを設ける代わりに、セルの隔壁表面に磁性体粒子を分散配置して、電磁誘導加熱により加熱する形態が知られている。このような形態によれば、磁性体粒子間に空間が生じるため、透過性の確保や圧力損失を抑制することができる。しかしながら、磁性体粒子を用いると、磁性体の表面積が大きくなり、容易に酸化され、加熱性能が劣化するという課題が生じる。
【0009】
また、いくつかのセルの両端を目封止で封止し、その内部に磁性体金属を充填して電磁誘導加熱に使用する場合、加熱によって磁性体金属が膨張して、セルの目封止を破壊する課題が生じる。この場合、耐熱衝撃性の面からも、上述のように、粒子状の磁性体を用いることが好ましい。しかしながら、粒子状の磁性体を用いると、上述のように、磁性体の表面積が大きくなり、容易に酸化され、加熱性能が劣化するという課題が生じる。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑み、耐酸化性が良好なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討の結果、ハニカム構造体のセル内に、ガラスで被覆された磁性体を設ける構成とすることで、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は以下のように特定される。
(1)外周壁と、
前記外周壁の内側に配設され、一方の端面から他方の端面まで貫通して流路を形成する複数のセルを区画形成する多孔質の隔壁と、
を有する柱状のハニカム構造体であって、
前記複数のセルのうち、少なくとも1つのセル内に、ガラスで被覆された磁性体を有するハニカム構造体。
(2)(1)のハニカム構造体と、
前記ハニカム構造体の外周を螺旋状に周回するコイル配線と、
前記ハニカム構造体及び前記コイル配線を収容する金属管と、
を有する排気ガス浄化装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、耐酸化性が良好なハニカム構造体及び排気ガス浄化装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態1に係るハニカム構造体を模式的に示す斜視図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係るハニカム構造体のセルの延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図4】本発明の実施形態2に係るハニカム構造体のセルの延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の実施形態1、2に係るハニカム構造体が組み込まれた排気ガス浄化装置の排気ガス流路の概略図である。
【
図6】実施例2に係るハニカム構造体の磁性体部の断面のSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、本発明のハニカム構造体の実施形態について説明するが、本発明は、これに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加え得るものである。
【0015】
<1.ハニカム構造体>
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10を模式的に示す斜視図である。
図2は、本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10のセル15の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。ハニカム構造体10は、柱状に形成されており、外周壁11と、外周壁11の内側に配設され、一方の端面13から他方の端面14まで貫通して流路を形成する複数のセル15を区画形成する多孔質の隔壁12とを備える。
【0016】
複数のセル15のうち、少なくとも1つのセル15内に、ガラス19で被覆された磁性体18が設けられている。ガラス19で被覆された磁性体18が設けられたセル15の位置は特に限定されず、例えば、セル15の延伸方向に垂直な断面において、縦方向及び横方向に、それぞれ、ガラス19で被覆された磁性体18が設けられたセル15と、ガラス19で被覆された磁性体18が設けられていないセル15とを交互に設けてもよい。このように、ガラス19で被覆された磁性体18が設けられたセル15と、ガラス19で被覆された磁性体18が設けられていないセル15とを交互に設けることで、電磁誘導加熱効率がより良好になる。ガラス19で被覆された磁性体18が設けられたセル15の配置位置及び配置数は、ハニカム構造体10の加熱効率及び圧力損失を考慮して、適宜設計することができる。
【0017】
本発明において、「ガラス」は、非晶質のガラスの他に、結晶化ガラスを含む。また、当該ガラスの化学組成は適宜選択されるが、例えば、SiO2系、SiO2-Al2O3-MgO系、SiO2-Al2O3-MgO-BaO系、SiO2-MgO-Al2O3-ZnO系、SiO2-B2O3-Bi2O3系、B2O3-Bi2O3系、B2O3-ZnO-Bi2O3系、B2O3-ZnO系、V2O5-P2O5系、SnO-P2O5系、SnO-ZnO-P2O5系、ZnO-La2O3-B2O3-MgO-BaO-SiO2-Al2O3系、SiO2-CaO-ZnO-Al2O3-MgO系、BaO-SiO2-MgO-Al2O3-Y2O3-B2O3系、BaO-B2O3-SiO2系、BaO-B2O3-MgO-ZnO-SiO2-Al2O3系等が挙げられる。これらのうち、SiO2-Al2O3-MgO系、SiO2-Al2O3-MgO-BaO系、SiO2-MgO-Al2O3-ZnO系、ZnO-La2O3-B2O3-MgO-BaO-SiO2-Al2O3系、SiO2-CaO-ZnO-Al2O3-MgO系、BaO-SiO2-MgO-Al2O3-Y2O3-B2O3系、BaO-B2O3-SiO2系、BaO-B2O3-MgO-ZnO-SiO2-Al2O3系が、耐酸化性の観点からより好ましい。
【0018】
また、本発明において、「ガラス」の材料と、「磁性体」の金属とは、例えば、以下のいずれかの組み合わせが、ガラスが磁性体を欠陥なく均一に被覆できるという観点から好ましい。また、実使用時の耐久性においても以下の組み合わせが好ましい。
・ガラスの材料:SiO2-Al2O3-MgO系と、磁性体の金属:残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、残部Fe-18質量%Cr、または、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si。
・ガラスの材料:SiO2-Al2O3-MgO-BaO系と、金属:49質量%Co-49質量%Fe-2質量%V、残部Fe-17質量%Co、または、残部Fe-18質量%Cr。
・ガラスの材料:SiO2-MgO-Al2O3-ZnO系、ZnO-La2O3-B2O3-MgO-BaO-SiO2-Al2O3系、SiO2-CaO-ZnO-Al2O3-MgO系、BaO-SiO2-MgO-Al2O3-Y2O3-B2O3系、BaO-B2O3-SiO2系、または、BaO-B2O3-MgO-ZnO-SiO2-Al2O3系と、金属:残部Fe-17質量%Co。
【0019】
リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属は、一般には、ガラスの中で単体として含まれることもあり、酸化物の形態で含まれることもある。ガラスに含まれたアルカリ金属は、製造工程における焼成の際や、ハニカム構造体に用いられて使用される際に、所定の温度範囲でガラスから抜け出てしまい、ハニカム構造体の組成であるコージェライト等と反応してしまうおそれがある。このため、本発明の実施形態では、「ガラス」が実質的にこれらのアルカリ金属を含まないことが好ましい。ここで、例えば、原料に元から含まれていた、または、製造工程において混入した等の原因から、ガラスが微量の不可避的不純物を含んでしまうことがある。本発明の実施形態において、アルカリ金属を「実質的に」含まないとは、そのような微量の不可避的不純物を超えた量のアルカリ金属を含まないことを示す。このような観点から、本発明において、「ガラス」は、アルカリ金属の含有量が500質量ppm以下であるのが好ましく、200質量ppm以下であるのがより好ましい。
【0020】
本発明において、「ガラス」は、熱膨張率が6.5×10-6/℃~15×10-6/℃であるのが好ましい。ガラスの熱膨張率が6.5×10-6/℃以上である、または、ガラスの熱膨張率が15×10-6/℃以下であると、ガラスと磁性体との熱膨張差による耐熱衝撃性が良好となる。また、ガラスの熱膨張率が6.5×10-6/℃~15×10-6/℃であると、金属に対してのガラス被覆の操作が容易となる。
【0021】
本発明において、「ガラス」の軟化点は600~1200℃であるのが好ましい。ガラスの軟化点が600℃以上であると、ハニカム構造体10の使用温度域での耐酸化性を良好に保つことができ、1200℃以下であると、ハニカム構造体10の耐熱温度を超えない温度域で、ガラス及び磁性体材料の焼付を実施することができる。ガラスの軟化点は、700~1000℃であるのがより好ましい。
【0022】
本発明において、「ガラスで被覆された磁性体」は、磁性体表面が露出せずに、全ての表面がガラスで被覆された状態の磁性体であることが好ましい。また、磁性体表面の一部が露出している磁性体であってもよい。その際、磁性体表面の露出割合は、耐酸化性の観点から、許容し得る程度で適宜設計することができる。
【0023】
また、当該「ガラスで被覆された磁性体」において、ガラスと磁性体との界面に、一部剥がれがあり、当該剥がれ部分を含む開気孔を有する構成であってもよい。また、当該「ガラスで被覆された磁性体」において、磁性体を被覆しているガラスに気孔が含まれている構成であってもよい。また、当該「ガラスで被覆された磁性体」において、ガラスの膜厚は一定であってもよく、不均一であってもよい。ガラスの膜厚が不均一である場合は、ガラスの最も厚い部位と最も薄い部位の膜厚差が20μm以下であることが好ましい。また、当該「ガラスで被覆された磁性体」において、ガラスと磁性体の金属とが一部反応した層が含まれている構成であってもよい。
【0024】
ハニカム構造体10は、このように、セル15内に設けられた磁性体18が、ガラス19で被覆されているため、耐酸化性が良好となる。また、このような構成によれば、磁性体18が微粒子で構成されていて、それ自体では非常に酸化されやすい場合であっても、ガラス19で被覆されていることで、耐酸化性が良好となる。
【0025】
ハニカム構造体10は、フィルタ構造を有している。すなわち、ハニカム構造体10において、セル15は、一方の端面13側が開口して他方の端面14に目封止部16を有する複数のセルAと、セルAとそれぞれ交互に配置され、他方の端面14側が開口して一方の端面13に目封止部16を有する複数のセルBとを備える。セルA及びセルBの数、配置、形状等は制限されず、必要に応じて適宜設計することができる。このようなハニカム構造体10は、排気ガス中の粒子状物質(カーボン微粒子)を浄化するフィルタ(例えば、ガソリンパティキュレートフィルタ(以下、「GPF」ともいう)、または、ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」ともいう))として用いることができる。目封止部16は、従来公知のハニカム構造体の目封止部として用いられるものと同様に構成されたものを用いることができる。
【0026】
ハニカム構造体10は、ガラス19で被覆された磁性体18が、セル15内の隔壁12の表面に層状に設けられて、コート層を構成している。ガラス19で被覆された磁性体18で構成されたコート層は、開気孔率が、40~90%であるのが好ましい。ガラス19で被覆された磁性体18で構成されたコート層の開気孔率が、40%以上であると、ハニカム構造体のセル15内に入った排気ガスが、当該コート層を通過しやすくなり、ハニカム構造体10のフィルタとしての機能の劣化を抑制することができる。また、ガラス19で被覆された磁性体18で構成されたコート層の開気孔率が、90%以下であると、加熱に必要な磁性体量を確保することができる。ガラス19で被覆された磁性体18で構成されたコート層の開気孔率は、40~60%であるのがより好ましく、45~55%であるのが更により好ましい。
【0027】
本発明において、「ガラスで被覆された磁性体が、セル内の隔壁の表面に層状に設けられて」いるときの、「層状」とは、好ましくは層の構造に欠陥が存在しない状態をいうが、層が部分的に形成されている等の欠陥が存在する状態も含む。
【0028】
ここで、「コート層の開気孔率」について説明する。まず、
図2の点線枠で囲まれた領域の拡大図を
図3に示す。
図3に示すように、コート層内に存在する気孔であって、密閉状態ではなく、コート層の外とつながっている開放系の気孔に注目し、当該開放系の気孔を「開気孔」とする。そして、コート層の体積における、当該開気孔の体積の割合(%)を、「コート層の開気孔率」とする。当該コート層の開気孔率は、SEM画像撮影を行い、コート層部分の画像解析により、開放系の空隙部と個体部の面積比率から算出することができる。またアルキメデス法によって算出してもよい。
【0029】
コート層の厚さは、30~100μmであるのが好ましい。コート層の厚さが30μm以上であると、電磁誘導によるハニカム構造体10の加熱効率がより良好となる。コート層の厚さが100μm以下であると、ハニカム構造体10のセル15の圧力損失の低下を抑制することができる。コート層の厚さは、35~80μmであるのがより好ましく、40~60μmであるのが更により好ましい。また、コート層を設けたセル15の圧力損失の増加量は、コート層を設けていないセル15に対して25%以下であるのが好ましく、20%以下であるのがより好ましい。
【0030】
磁性体18は、磁場により磁化され、磁場の強さにより磁化の状態も変わる。これを表したものが「磁化曲線」である。磁化曲線は、横軸には磁場Hを目盛り、縦軸には、磁束密度Bを目盛る場合(B-H曲線)がある。磁性体材料に全く磁場が加えられていない状態を消磁状態といい原点Oで表す。磁場を加えていくと、原点Oから、磁束密度が増加していき飽和する曲線を描く。この曲線が「初磁化曲線」である。初磁化曲線上の点と原点を結ぶ直線の傾きが「透磁率」である。透磁率は、磁場が浸透するといったような意味合いで、磁性体の磁化のしやすさの目安となる。原点付近の磁場が小さい所での透磁率が「初透磁率」であり、初磁化曲線上で最大となる透磁率が「最大透磁率」である。
【0031】
磁性体18は、10000以上の最大透磁率を有するのが好ましい。このような構成によれば、当該磁性体18を有するハニカム構造体10を電磁誘導加熱した際、水分が気化する温度(約100℃)まで、さらには触媒が活性化する温度(約300℃)まで、短時間に温度を上昇させることができる。磁性体18は、は、25000以上の最大透磁率を有するのがより好ましく、50000以上の最大透磁率を有するのが更により好ましい。10000以上の最大透磁率を有する磁性体としては、例えば、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、49質量%Co-49質量%Fe-2質量%V、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni等がある。
【0032】
磁性体18は、600℃以上のキュリー温度を有するのが好ましい。磁性体18のキュリー温度が600℃以上であると、触媒活性化温度以上に触媒温度を上昇させるのに十分なハニカム温度に達することが可能になるのはもちろん、セル15内に捕集されたPM(粒子状物質)を燃焼除去してハニカム構造フィルタを再生させることが容易となる。600℃以上のキュリー温度を有する磁性体としては、例えば、残部Co-20質量%Fe、残部Co-25質量%Ni-4質量%Fe、残部Fe-15~35質量%Co、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-17質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-27質量%Co-1質量%Nb、残部Fe-20質量%Co-1質量%Cr-2質量%V、残部Fe-35質量%Co-1質量%Cr、純コバルト、純鉄、電磁軟鉄、残部Fe-0.1~0.5質量%Mn、残部Fe-3質量%Si等がある。ここで、磁性体のキュリー温度は、強磁性の特性を失う温度をさす。
【0033】
磁性体18は、25℃で、10μΩcm~100μΩcmの固有抵抗値を有するのが好ましい。磁性体18が、25℃で、10μΩcm以上の固有抵抗値を有すると、高い抵抗値によって電磁誘導加熱による発熱量をより高くすることができる。また、磁性体18が、25℃で、100μΩcm以下の固有抵抗値を有すると、電磁誘導による電流の流れる部位を多くすることができ、電磁誘導加熱による発熱量をより高くすることができる。25℃で、10μΩcm以上の固有抵抗値を有する磁性体としては、例えば、残部Fe-18質量%Cr、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-20質量%Cr-2質量%Si-2質量%Mo、残部Fe-10質量%Si-5質量%Al、残部Co-20質量%Fe、残部Fe-15~35質量%Co、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-17質量%Co-10質量%Cr-2質量%Mo-1質量%Al、残部Fe-36質量%Ni、残部Fe-45質量%Ni等がある。
【0034】
磁性体18は、100A/m以上の保磁力を有するのが好ましい。このような構成によれば、磁性体18を有するハニカム構造体10を電磁誘導加熱した際、水分が気化する温度(約100℃)まで、さらには触媒が活性化する温度(約300℃)まで、短時間に温度を上昇させることができる。100A/m以上の保磁力を有する磁性体としては、残部Fe-35質量%Co、残部Fe-20質量%Co-1質量%V、残部Fe-13質量%Cr-2質量%Si、残部Fe-18質量%Cr等がある。
【0035】
磁性体18の材質は、ガラスと反応して析出しないものがより好ましい。磁性体18がガラスと反応して析出してしまうと、電磁誘導による加熱効率が低下してしまうおそれがある。
【0036】
磁性体18の熱膨張率α1と、ガラス19の熱膨張率α2との比:α1/α2が、0.8~1.2であるのが好ましい。α1/α2が0.8~1.2であると、磁性体18の膨張率がガラス19の膨張率と近い値となり、ハニカム構造体10の加熱時に、膨張によってガラス19が磁性体18から剥離することを良好に抑制することができる。α1/α2は、0.9~1.1であるのがより好ましい。
【0037】
磁性体18の熱膨張率α1は、特に限定されないが、例えば、8×10-6~12×10-6/℃の熱膨張係数を有するのが好ましい。ハニカム構造体10を電磁誘導加熱した際、磁性体18の熱膨張係数が、12×10-6/℃より大きいと、ガラス19が剥離するおそれがある。また、熱膨張係数が8×10-6/℃より小さく、キュリー温度が600℃を超える磁性体材料は実質的に存在しない。なお、本明細書中での熱膨張係数とは、25℃を基準温度としたときの900℃での熱膨張係数を指す。8×10-6~12×10-6/℃の熱膨張係数を有する磁性体としては、Coを10質量%以上含むFeCo合金、または、ステンレス鋼等がある。Coを10質量%以上含むFeCo合金としては、パーメンジュール、残部Fe-17質量%Co、残部Fe-49質量%Co-2質量%V、残部Fe-17質量%Co-2質量%Cr-1質量%Mo等がある。また、ステンレス鋼としては、SUS430fをはじめとするフェライト系ステンレス等がある。
【0038】
磁性体18を被覆しているガラス19の厚さは、1~40μmであるのが好ましい。磁性体18を被覆しているガラス19の厚さが1μm以上であると、磁性体18の耐酸化性をより向上させることができる。磁性体18を被覆しているガラス19の厚さが40μm以下であると、セル15の圧力損失を良好に抑制することができる。磁性体18を被覆しているガラス19の厚さは、1~10μmであるのが好ましく、3~8μmであるのがより好ましく、4~6μmであるのがより好ましい。また、磁性体18を被覆しているガラス19の厚さは、10~40μmであるのが好ましく、15~30μmであるのがより好ましく、20~25μmであるのが更により好ましい。
【0039】
ガラス19の組成によって、ガラス19の厚みを制御すると、磁性体18の耐酸化性がより良好となる。このような観点から、ガラス19の組成と、それに対応するガラス19の厚み(μm)の好ましい範囲について、以下に示す。
SiO2-MgO-Al2O3-ZnO:1~10μm
ZnO-La2O3-B2O3-MgO-BaO-SiO2-Al2O3:5~15μm
SiO2-CaO-ZnO-Al2O3-MgO:5~15μm
BaO-SiO2-MgO-Al2O3-Y2O3-B2O3:15~25μm
BaO-B2O3-SiO2:20~25μm
BaO-B2O3-MgO-ZnO-SiO2-Al2O3:15~25μm
SiO2-Al2O3-MgO-BaOを含む上記以外のガラス:20~25μm
【0040】
磁性体18の体積は、ガラス19の体積の60~90%であるのが好ましい。磁性体18の体積が、ガラス19の体積の60%以上であると、電磁誘導による加熱効率がより良好となる。磁性体18の体積が、ガラス19の体積の90%以下であると、ガラス19による被覆効果がより向上し、磁性体18の耐酸化性がより良好となる。磁性体18の体積は、ガラス19の体積の70~80%であるのがより好ましく、75~80%であるのが更により好ましい。
【0041】
磁性体18は、粒径が30μm以下の粒子で構成されているのが好ましい。磁性体18が、粒径が30μm以下の粒子で構成されていると、電磁誘導による加熱効率がより良好となる。磁性体18は、20μm以下の粒子で構成されているのがより好ましい。また、電磁誘導で使用する周波数が高くなりすぎることを抑制するために、磁性体18は、粒径が5μm以上の粒子で構成されているのが好ましい。磁性体18の粒子の粒径の測定は、インターセプト法により、以下のようにして行うことができる。すなわち、SEM(走査型電子顕微鏡)によって、磁性体18の断面図を撮影し、3本の任意の線分を断面図内に引き、当該線分と磁性体とが交わる部分の長さを、画像解析ソフトを用いて測定する。次に、得られた長さの平均を磁性体18の粒子の粒径とする。
【0042】
ハニカム構造体10の隔壁12及び外周壁11の材質については特に制限はないが、多数の細孔を有する多孔質体であることが必要であるため、通常は、セラミックス材料で形成される。例えば、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、アルミナ、珪素-炭化珪素系複合材料、炭化珪素-コージェライト系複合材料の、特に珪素-炭化珪素複合材又は炭化珪素を主成分とする焼結体が挙げられる。本明細書において「炭化珪素系」とは、ハニカム構造体10が炭化珪素を、ハニカム構造体10全体の50質量%以上含有していることを意味する。ハニカム構造体10が珪素-炭化珪素複合材を主成分とするというのは、ハニカム構造体10が珪素-炭化珪素複合材(合計質量)を、ハニカム構造体10全体の90質量%以上含有していることを意味する。ここで、珪素-炭化珪素複合材は、骨材としての炭化珪素粒子、及び炭化珪素粒子を結合させる結合材としての珪素を含有するものであり、複数の炭化珪素粒子が、炭化珪素粒子間に細孔を形成するようにして、珪素によって結合されていることが好ましい。また、ハニカム構造体10が炭化珪素を主成分とするというのは、ハニカム構造体10が炭化珪素(合計質量)を、ハニカム構造体10全体の90質量%以上含有していることを意味する。
【0043】
好ましくは、ハニカム構造体10は、コージェライト、炭化珪素、チタン酸アルミニウム、窒化珪素、ムライト、及び、アルミナからなる群から選択される少なくとも1つのセラミックス材料で形成される。
【0044】
ハニカム構造体10のセル15の形状は特に限定されないが、ハニカム構造体10の中心軸に直交する断面において、三角形、四角形、五角形、六角形、八角形等の多角形、円形、又は楕円形であることが好ましく、その他不定形であってもよい。
【0045】
また、ハニカム構造体10の外形としては、特に限定されないが、端面が円形の柱状(円柱形状)、端面がオーバル形状の柱状、端面が多角形(四角形、五角形、六角形、七角形、八角形等)の柱状等の形状とすることができる。また、ハニカム構造体10の大きさは、特に限定されないが、中心軸方向長さが40~500mmが好ましい。また、例えば、ハニカム構造体10の外形が円筒状の場合、その端面の半径が50~500mmであることが好ましい。
【0046】
ハニカム構造体10の隔壁12の厚さは、0.10~0.50mmであることが好ましく、製造の容易さの点で、0.25~0.45mmであることが更に好ましい。例えば、0.10mm以上であると、ハニカム構造体10の強度がより向上し、0.50mm以下であると、ハニカム構造体10をフィルタとして用いた場合に、圧力損失をより小さくすることができる。なお、この隔壁12の厚さは、中心軸方向断面を顕微鏡観察する方法で測定した平均値である。
【0047】
また、ハニカム構造体10を構成する隔壁12の気孔率は、30~70%であることが好ましく、製造の容易さの点で40~65%であることが更に好ましい。30%以上であると、圧力損失が減少しやすく、70%以下であると、ハニカム構造体10の強度を維持できる。
【0048】
また、多孔質の隔壁12の平均細孔径は、5~30μmであることが好ましく、10~25μmであることが更に好ましい。5μm以上であると、フィルタとして用いた場合に、圧力損失を小さくすることができ、30μm以下であると、ハニカム構造体10の強度を維持できる。
【0049】
ハニカム構造体10のセル密度も特に制限はないが、5~93セル/cm2の範囲であることが好ましく、5~63セル/cm2の範囲であることがより好ましく、31~54セル/cm2の範囲であることが更に好ましい。
【0050】
このようなハニカム構造体10は、セラミックス原料を含有する坏土を、一方の端面から他方の端面まで貫通し流体の流路となる複数のセル15を区画形成する隔壁12を有するハニカム状に成形して、ハニカム成形体を形成し、このハニカム成形体を、乾燥した後に焼成することによって作製される。そして、このようなハニカム構造体を、本実施形態のハニカム構造体10として用いる場合には、外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま外周壁として使用してもよいし、成形又は焼成後に、ハニカム成形体(ハニカム構造体)の外周を研削して所定形状とし、この外周を研削したハニカム構造体に、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。なお、本実施形態のハニカム構造体10においては、例えば、ハニカム構造体の最外周を研削せずに、外周を有したハニカム構造体を用い、この外周を有するハニカム構造体の外周面(即ち、ハニカム構造体の外周の更に外側)に、更に、上記コーティング材を塗布して、外周コーティングを形成してもよい。即ち、前者の場合には、ハニカム構造体の外周面には、コーティング材からなる外周コーティングのみが最外周に位置する外周壁となる。一方、後者の場合には、ハニカム構造体の外周面に、更にコーティング材からなる外周コーティングが積層された、最外周に位置する、二層構造の外周壁が形成される。外周壁をハニカム構造部と一体的に押し出してそのまま焼成し、外周の加工無しに、外周壁として使用してもよい。
【0051】
コーティング材の組成は特に限定されるものではなく、種々の公知のコーティング材を適宜使用することができる。コーティング材は、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0052】
なお、ハニカム構造体10は、隔壁12が一体的に形成された一体型のハニカム構造体10に限定されることはなく、例えば、多孔質の隔壁12を有し、隔壁12によって流体の流路となる複数のセル15が区画形成された柱状のハニカムセグメントが、接合材層を介して複数個組み合わされた構造を有するハニカム構造体10(以下、「接合型ハニカム構造体」ということがある)であってもよい。
【0053】
ハニカム構造体10は、焼成ハニカム構造体のそれぞれをハニカムセグメントとして利用し、複数のハニカムセグメントの側面同士を接合材で接合して一体化し、ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体とすることができる。ハニカムセグメントが接合された状態のハニカム構造体は例えば以下のように製造することができる。
【0054】
まず、各ハニカムセグメントの両底面に接合材付着防止用マスクを貼り付けた状態で、接合面(側面)に接合材を塗工する。次に、これらのハニカムセグメントを、ハニカムセグメントの互いの側面同士が対向するように隣接して配置し、隣接するハニカムセグメント同士を圧着した後、加熱乾燥する。このようにして、隣接するハニカムセグメントの側面同士が接合材によって接合されたハニカム構造体を作製する。ハニカム構造体に対しては、外周部を研削加工して所望の形状(例えば円柱状)とし、外周面にコーティング材を塗工した後、加熱乾燥させて外周壁11を形成してもよい。
【0055】
接合材付着防止用マスクの材料は、特に制限はないが、例えばポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、又はテフロン(登録商標)等の合成樹脂を好適に使用可能である。また、マスクは粘着層を備えていることが好ましく、粘着層の材料は、アクリル系樹脂、ゴム系(例えば、天然ゴム又は合成ゴムを主成分とするゴム)、又はシリコン系樹脂であることが好ましい。
【0056】
接合材付着防止用マスクとしては、例えば厚さが20~50μmの粘着フィルムを好適に使用することができる。
【0057】
接合材としては、例えば、セラミックス粉末、分散媒(例えば、水等)、及び必要に応じて、バインダ、解膠剤、発泡樹脂等の添加剤を混合することによって調製したものを用いることができる。セラミックスとしては、コージェライト、ムライト、ジルコン、チタン酸アルミニウム、炭化珪素、窒化珪素、ジルコニア、スピネル、インディアライト、サフィリン、コランダム、及びチタニアからなる群から選ばれる少なくとも一種を含有するセラミックスであることが好ましく、ハニカム構造体と同材質であることがより好ましい。バインダとしては、ポリビニルアルコールやメチルセルロース、CMC(カルボキシメチルセルロース)などを挙げることができる。
【0058】
次に、ハニカム構造体10の製造方法を説明する。まず、多孔質の隔壁を有し、隔壁によって複数のセルが区画形成されたハニカム構造体を作製する。例えば、コージェライトからなるハニカム構造体を作製する場合には、まず、坏土用材料としてコージェライト化原料を用意する。コージェライト化原料は、コージェライト結晶の理論組成となるように各成分を配合するため、シリカ源成分、マグネシア源成分、及びアルミナ源成分等を配合する。このうちシリカ源成分としては、石英、溶融シリカを用いることが好ましく、更に、このシリカ源成分の粒径を100~150μmとすることが好ましい。
【0059】
マグネシア源成分としては、例えば、タルク、マグネサイト等を挙げることができる。これらの中でも、タルクが好ましい。タルクは、コージェライト化原料中37~43質量%含有させることが好ましい。タルクの粒径(平均粒子径)は、5~50μmであることが好ましく、10~40μmであることが更に好ましい。また、マグネシア(MgO)源成分は、不純物としてFe2O3、CaO、Na2O、K2O等を含有していてもよい。
【0060】
アルミナ源成分としては、不純物が少ないという点で、酸化アルミニウム及び水酸化アルミニウムの少なくとも一種を含有するものが好ましい。また、コージェライト化原料中、水酸化アルミニウムは10~30質量%含有させることが好ましく、酸化アルミニウムは0~20質量%含有させることが好ましい。
【0061】
次に、コージェライト化原料に添加する坏土用材料(添加剤)を用意する。添加剤として、少なくともバインダと造孔剤を用いる。そして、バインダと造孔剤以外には、分散剤や界面活性剤を使用することができる。
【0062】
造孔剤としては、コージェライトの焼成温度以下において酸素と反応して酸化除去可能な物質、又は、コージェライトの焼成温度以下の温度に融点を有する低融点反応物質等を用いることができる。酸化除去可能な物質としては、例えば、樹脂(特に、粒子状の樹脂)、黒鉛(特に、粒子状の黒鉛)等を挙げることができる。低融点反応物質としては、鉄、銅、亜鉛、鉛、アルミニウム、及びニッケルからなる群より選択される少なくとも一種の金属、これらの金属を主成分とする合金(例えば、鉄の場合には炭素鋼や鋳鉄、ステンレス鋼)、又は、二種以上を主成分とする合金を用いることができる。これらの中でも、低融点反応物質は、粉粒状又は繊維状の鉄合金であることが好ましい。更に、その粒径又は繊維径(平均径)は10~200μmであることが好ましい。低融点反応物質の形状は、球状、巻菱形状、金平糖状等が挙げられ、これらの形状であると、細孔の形状をコントロールすることが容易となるため好ましい。
【0063】
バインダとしては、例えば、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等を挙げることができる。また、分散剤としては、例えば、デキストリン、ポリアルコール等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、例えば、脂肪酸石鹸を挙げることができる。なお、添加剤は、一種単独又は二種以上用いることができる。
【0064】
次に、コージェライト化原料100質量部に対して、バインダを3~8質量部、造孔剤を3~40質量部、分散剤を0.1~2質量部、水を10~40質量部の割合で混合し、これら坏土用材料を混練し、坏土を調製する。
【0065】
次に、調製した坏土を、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等でハニカム形状に成形し、生のハニカム成形体を得る。連続成形が容易であり、例えばコージェライト結晶を配向させることができることから、押出成形法を採用することが好ましい。押出成形法は、真空土練機、ラム式押出成形機、2軸スクリュー式連続押出成形機等の装置を用いて行うことができる。
【0066】
次に、ハニカム成形体を乾燥させて所定の寸法に調整してハニカム乾燥体を得る。ハニカム成形体の乾燥は、熱風乾燥、マイクロ波乾燥、誘電乾燥、減圧乾燥、真空乾燥、凍結乾燥等で行うことができる。なお、全体を迅速且つ均一に乾燥することができることから、熱風乾燥と、マイクロ波乾燥又は誘電乾燥と、を組み合わせて乾燥を行うことが好ましい。
【0067】
次に、目封止部の原料を用意する。目封止部の材料(目封止用スラリー)は、隔壁(ハニカム乾燥体)と同じ坏土用材料を用いてもよいし、異なる材料を用いてもよい。具体的には、セラミック原料、界面活性剤、及び水を混合し、必要に応じて焼結助剤、造孔剤等を添加してスラリー状にし、ミキサー等を使用して混練することにより得ることができる。
【0068】
次に、ハニカム乾燥体の一方の端面のセル開口部の一部にマスクを施し、その端面を、目封止用スラリーが貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止用スラリーを充填する。同様にして、ハニカム乾燥体の他方の端面のセル開口部の一部にマスクを施し、その端面を、目封止用スラリーが貯留された貯留容器中に浸漬して、マスクをしていないセルに目封止用スラリーを充填する。このようにして、セルの両端を目封止する。その後、乾燥させ、焼成することによって、目封止部を有するハニカム構造体を得る。上記乾燥の条件は、ハニカム成形体を乾燥させる条件と同様の条件を採用することができる。また、上記焼成の条件は、コージェライト化原料を用いた場合には、通常、大気雰囲気下、1410~1440℃の温度で3~15時間とすることができる。
【0069】
目封止の方法としては、ペースト状の材料を、スキージのようなヘラで押し込むのが簡単な方法である。スキージの押し込み回数で深さを制御するのが簡単である。深く目封止部を入れたいセルの部分は、押し込み回数を多くし、周辺の浅い箇所は押し込み回数を少なくする。
【0070】
また、得られたハニカム構造体は、その外周面に外周壁が形成された状態で作製される場合には、その外周面を研削し、外周壁を取り除いた状態としてもよい。このようにして外周壁を取り除いたハニカム構造体の外周に、後の工程にて、コーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。また、外周面を研削する場合には、外周壁の一部を研削して取り除き、その部分に、コーティング材によって外周コーティングを形成してもよい。コーティング材を調製する場合には、例えば、2軸回転式の縦型ミキサーを用いて調製することができる。
【0071】
また、コーティング材には、コロイダルシリカ、有機バインダ、粘土等を更に含有させてもよい。なお、有機バインダは、0.05~0.5質量%用いることが好ましく、0.1~0.2質量%用いることが更に好ましい。また、粘土は、0.2~2.0質量%用いることが好ましく、0.4~0.8質量%用いることが更に好ましい。
【0072】
先に作製したハニカム構造体の外周面に、コーティング材を塗布し、塗布したコーティング材を乾燥させて、外周コーティングを形成する。このように構成することによって、乾燥・熱処理時の外周コーティングのクラックの発生を効果的に抑制することができる。
【0073】
コーティング材の塗工方法としては、例えば、ハニカム構造体を回転台の上に載せて回転させ、コーティング材をブレード状の塗布ノズルから吐出させながらハニカム構造体の外周部に沿うように塗布ノズルを押し付けて塗布する方法を挙げることができる。このように構成することによって、コーティング材を均一な厚さで塗布することができる。また、形成した外周コーティングの表面粗さが小さくなり、外観に優れ、且つ熱衝撃によって破損し難い外周コーティングを形成することができる。
【0074】
なお、ハニカム構造体の外周面が研削されて、外周壁が取り除かれたものの場合には、ハニカム構造体の外周面全体にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成する。一方、ハニカム構造体の外周面に外周壁が存在する、或いは、一部の外周壁が取り除かれている場合には、部分的にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよいし、勿論、ハニカム構造体の外周面全体にコーティング材を塗布して外周コーティングを形成してもよい。
【0075】
塗布したコーティング材(即ち、未乾燥の外周コーティング)を乾燥する方法については特に制限はないが、例えば、乾燥クラック防止の観点から、室温にて24時間以上保持することでコーティング材中の水分の25%以上を乾燥させた後、電気炉にて600℃で1時間以上保持することで水分及び有機物を除去する方法を好適に用いることができる。
【0076】
また、ハニカム構造体のセルの開口部が予め封止されていない場合には、外周コーティングを形成した後に、セルの開口部に目封止を行ってもよい。
【0077】
また、得られたハニカム構造体は、その外周面にレーザーを照射することによって、コーティング材に含まれる炭化珪素粉末が発色するため、得られたハニカム構造体の外周コーティングに、レーザー光を照射して、製品情報等を印字(マーキング)してもよい。
【0078】
レーザーによるマーキングの際に使用するレーザー光としては、例えば、炭酸ガス(CO2)レーザー、YAGレーザー、YVO4レーザーを好適例として挙げることができる。レーザー光を照射するレーザーの条件については、使用するレーザーの種類に応じて適宜選択することができるが、例えば、CO2レーザーを用いた場合には、出力15~25W、スキャンスピード400~600mm/sでマーキングすることが好ましい。このようにマーキングすることによって、照射部分が、黒色から緑色のような暗色を呈するように発色し、非照射部分との発色によるコントラストが極めて良好なものとなる。
【0079】
次に、ハニカム構造体のセル内に、ガラスで被覆された磁性体を設ける。具体的には、磁性体粉末周りにガラス粉末を付着させて被覆したものをセル内に設けるが、この方法として転動造粒機、流動層造粒機でのコートやCVD法、ゾルゲル法、メカノフュージョン等が使用できる。ここでは、例として転動造粒機でのコート層の形成について説明をする。まず、平均粒径1~10μm径のガラス粉末に、バインダ、分散剤及び溶媒を混ぜ、コート用のスラリーを作製する。次に、転動造粒機で金属磁性体粉末を回転させながら、上記スラリーをエアスプレーで噴霧して造粒を行う。その際、ガラスの膜厚は噴霧するスラリー量で調整することができる。こうして得られた粉末の乾燥としては、例えば、乾燥機を用いて100℃で加熱乾燥することができる。その後、上記粉末、バインダ、分散材及び水を配合してペーストを作製し、シリンジを用いて当該ペーストをハニカム構造体のセル内に注入する。続いて、乾燥、脱脂後、真空雰囲気下でセルの隔壁に焼付を行うことで、ハニカム構造体のセルの隔壁に、コート層を設けることができる。当該コート層は、ガラスで被覆された磁性体が、セル内の隔壁の表面に層状に設けられて構成されている。なお、コート層の作製は、上記のスラリーを用いた湿式成膜の手段に限定されず、例えばガラスで被覆された磁性体粉末を直接セル壁に付着させる、乾式成膜によって行ってもよい。
【0080】
(実施形態2)
次に、本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20について説明する。
図4は、本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20のセル25の延伸方向に平行な断面を模式的に示す断面図である。ハニカム構造体20は、柱状に形成されており、外周壁と、外周壁の内側に配設され、一方の端面23から他方の端面24まで貫通して流路を形成する複数のセル25を区画形成する多孔質の隔壁22とを備える。
【0081】
ハニカム構造体20において、セル25は、一方の端面23側が開口して他方の端面24に目封止部26を有する複数のセルAと、セルAとそれぞれ交互に配置され、他方の端面24側が開口して一方の端面23に目封止部26を有する複数のセルBとを備える。
【0082】
また、ハニカム構造体20の少なくとも1つのセル25内には、ガラス29で被覆された磁性体28が充填されている。ハニカム構造体20は、このように、セル25内に、ガラス29で被覆された磁性体28が充填されているため、耐酸化性が良好となる。また、このような構成によれば、磁性体28が微粒子で構成されていて、それ自体では非常に酸化されやすい場合であっても、ガラス29で被覆されていることで、耐酸化性が良好となる。
【0083】
ここで、セル25内に、ガラス29で被覆された磁性体28が充填されているというとき、
図4に示すように、セル25内に適度の隙間がある状態で充填されていることをいう。セル25内における、ガラス29で被覆された磁性体28の充填率は、40~80%であるのが好ましく、60~70%であるのがより好ましい。当該ガラス29で被覆された磁性体28の充填率は、SEM画像撮影を行い、セル25内に充填されたガラス29及び磁性体28の画像解析により、セル25内の開放系の空隙部を含む気孔と、ガラス29及び磁性体28との面積比率から算出することができる。また、アルキメデス法によって算出してもよい。
【0084】
実施形態2に係るハニカム構造体20のガラス29及びガラス29で被覆された磁性体28の構成は、実施形態1に係るハニカム構造体10のガラス19及びガラス19で被覆された磁性体18と同様の構成を採用することができる。ただし、実施形態1に係るハニカム構造体10の磁性体18は、粒径が30μm以下の粒子で構成されているのが好ましいが、実施形態2に係るハニカム構造体20の磁性体28は、粒径が300μm以下の粒子で構成されているのが好ましい。このような構成によれば、電磁誘導による加熱効率がより良好となる。また、電磁誘導で使用する周波数が高くなりすぎることを抑制するために、磁性体28は、粒径が5μm以上の粒子で構成されているのが好ましい。磁性体28の粒子の粒径の測定は以下のようにして行うことができる。すなわち、SEM(走査型電子顕微鏡)によって、磁性体28の断面図を撮影し、3本の任意の線分を断面図内に引き、当該線分と磁性体とが交わる部分の長さを、画像解析ソフトを用いて測定する。次に、得られた長さの平均を磁性体28の粒子の粒径とする。
【0085】
ハニカム構造体20の磁性体28は、多孔体で構成された磁性体部を構成しているのが好ましい。ここで、当該磁性体部とは、磁性体28の粒子が集合したものをいう。このような構成によれば、耐熱衝撃性が良好となり、高温時に発生する磁性体部にクラックが発生することを良好に抑制することができる。
【0086】
本発明の実施形態2に係るハニカム構造体20の製造方法は、ハニカム乾燥体において、ガラスで被覆された磁性体をセル内に充填する点以外は、本発明の実施形態1に係るハニカム構造体10の製造方法と同様に行うことができる。また、ハニカム構造体20の製造方法において、ガラスで被覆された磁性体をセル内に充填する方法としては、ハニカム焼成体の所定のセル内に、ガラスでコートした磁性体粒子を流し入れて焼成を行うことで、実施することができる。このとき、ハニカム構造体を、バイブレータ等を用いて振動させながら、セル内にガラスでコートした磁性体粒子を流し入れてもよい。このような方法によって、セル内でのコート材料の詰まりや偏りを抑制することができる。
【0087】
<2.排気ガス浄化装置>
上述した本発明の各実施形態に係るハニカム構造体を用いて排気ガス浄化装置を構成することができる。
図5は、例として、ハニカム構造体10またはハニカム構造体20が組み込まれた排気ガス浄化装置6の排気ガス流路の概略図を示している。排気ガス浄化装置6は、ハニカム構造体10、20とハニカム構造体10、20の外周を螺旋状に周回するコイル配線4とを有する。また、排気ガス浄化装置6は、ハニカム構造体10、20及びコイル配線4を収容する金属管2を有する。金属管2の拡径部2aに排気ガス浄化装置6を配置することができる。コイル配線4は固定部材5によって金属管2内に固定されてもよい。固定部材5は、セラミック繊維等の耐熱性部材であることが好ましい。ハニカム構造体10、20は触媒を担持してもよい。
【0088】
コイル配線4は、ハニカム構造体10、20の外周に螺旋状に巻かれる。2以上のコイル配線4が用いられる形態も想定される。スイッチSWのオン(ON)に応じて交流電源CSから供給される交流電流がコイル配線4に流れ、この結果として、コイル配線4の周囲には周期的に変化する磁界が生じる。なお、スイッチSWのオン・オフが制御部3により制御される。制御部3は、エンジンの始動に同期してスイッチSWをオンさせ、コイル配線4に交流電流を流すことができる。なお、エンジンの始動とは無関係に(例えば、運転手により押される加熱スイッチの作動に応じて)制御部3がスイッチSWをオンする形態も想定される。
【0089】
本開示においては、コイル配線4に流れる交流電流に応じた磁界の変化に応じてハニカム構造体10、20が昇温する。これによりハニカム構造体10、20により捕集されるカーボン微粒子などが燃焼する。また、ハニカム構造体10、20が触媒を担持する場合、ハニカム構造体10、20の昇温は、ハニカム構造体10、20に含まれる触媒担体より担持された触媒の温度を高め、触媒反応が促進される。端的には、一酸化炭素(CO)、窒化酸化物(NOx)、炭化水素(CH)が、二酸化炭素(CO2)、窒素(N2)、水(H2O)に酸化又は還元される。
【実施例】
【0090】
以下、本発明及びその利点をより良く理解するための実施例を例示するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0091】
<実施例1>
隔壁厚さが0.1mm、隔壁間距離が約1mmのコージェライト製ハニカムから、20mm×12mm×25mmの矩形状のハニカム基材を切出した。当該ハニカム基材において、20×12mmの断面には15セル×9セルがあった。
また、別途、造粒により磁性体周りにガラスを被覆したものと、バインダ、分散剤、水でペーストを作製した。
次に、5×5セルに1セルの間隔で、上記ハニカム基材の隔壁内にシリンジを用いて上記ペーストを注入し、計6セルにコートした。その後、乾燥、N2雰囲気下500℃5時間の脱脂、及び、Ar雰囲気下で1100℃1時間の焼成を行うことで、ガラスで被覆された磁性体が、セル内の隔壁の表面に層状に設けられてコート層を構成しているハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-49質量%Co-2質量%V粉末を使用した。上記ガラスはSiO2-Al2O3-MgO-BaOを使用した。
また、実施例1で形成されたセル内のコート層は、ガラスで被覆された磁性体で構成されている。
【0092】
<実施例2>
実施例1と同じ矩形状のコージェライト製ハニカム基材を準備した。
次に、5×5セル間隔に1セルの間隔で、上記ハニカム基材の隔壁内に、造粒により磁性体周りにガラスを被覆したものを流し入れ、計6セルに充填した。その後、Ar雰囲気下1100℃1時間の焼成を行い、ガラスで被覆された磁性体が、セル内に充填されているハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が60μmの残部Fe-49質量%Co-2質量%V粉末を使用した。上記ガラスはSiO2-Al2O3-MgO-BaOを使用した。
【0093】
<実施例3~7>
磁性体及びガラスが異なる以外は、実施例1と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。上記ガラスはSiO2-MgO-Al2O3-ZnOを使用した。
【0094】
<実施例8~10>
磁性体及びガラスが異なる以外は、実施例2と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が60μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。上記ガラスはSiO2-MgO-Al2O3-ZnOを使用した。
【0095】
<実施例11~14>
磁性体及びガラスが異なる以外は、実施例1と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。上記ガラスはZnO-La2O3-B2O3-MgO-BaO-SiO2-Al2O3を使用した。
【0096】
<実施例15~17>
磁性体及びガラスが異なる以外は、実施例1と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。上記ガラスはSiO2-CaO-ZnO-Al2O3-MgOを使用した。
【0097】
<実施例18~19>
磁性体及びガラスが異なる以外は、実施例1と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。上記ガラスはBaO-SiO2-MgO-Al2O3-Y2O3-B2O3を使用した。
【0098】
<実施例20~21>
磁性体及びガラスが異なる以外は、実施例1と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。上記ガラスはBaO-B2O3-SiO2を使用した。
【0099】
<実施例22~24>
磁性体及びガラスが異なる以外は、実施例1と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。上記ガラスはBaO-B2O3-MgO-ZnO-SiO2-Al2O3を使用した。
【0100】
<比較例1>
実施例1と同じ矩形状のコージェライト製ハニカム基材を準備した。
次に、磁性体粉末と、バインダ、分散剤、水でペーストを作製し、5×5セルに1セルの間隔で、上記ハニカム基材の隔壁内にシリンジを用いて上記ペーストを注入し、計6セルにコートした。その後、乾燥、N2雰囲気炉500℃5時間の脱脂、及び、Ar雰囲気下で1100℃1時間の焼成を行うことで、磁性体が、セル内の隔壁の表面に層状に設けられてコート層を構成しているハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-49質量%Co-2質量%V粉末を使用した。
また、比較例1で形成されたセル内のコート層は、磁性体で構成されている。
【0101】
<比較例2>
実施例1と同じ矩形状のコージェライト製ハニカム基材を準備した。
次に、5×5セル間隔に1セルの間隔で、上記ハニカム基材の隔壁内に磁性体粉末を流し入れ、計6セルに充填した。その後、Ar雰囲気下1100℃1時間の焼成を行い、磁性体が、セル内に充填されているハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が60μmの残部Fe-49質量%Co-2質量%V粉末を使用した。
【0102】
<比較例3>
磁性体が異なる以外は、比較例1と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が10μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。
【0103】
<比較例4>
磁性体が異なる以外は、比較例2と同様にハニカム構造体のサンプルを作製した。
上記磁性体は、平均粒径D50が60μmの残部Fe-17質量%Co粉末を使用した。
【0104】
(酸化試験)
誘導加熱時の温度を模擬し、電気炉を用いて、実施例1~24、及び、比較例1~4に係るハニカム構造体に、600℃1時間の加熱を行った。
次に、下記式(1)及び(2)に基づき、加熱後の磁性体の酸化割合(%)を算出した。
(1)「加熱後の磁性体の酸化割合」=[(磁性体の酸化による質量増加割合)/(磁性体が完全酸化したときの質量増加割合)]×100(%)
(2)「磁性体の酸化による質量増加割合」=[(加熱後のハニカム構造体の合計質量-加熱前のハニカム構造体の合計質量)/加熱前の磁性体の合計質量]×100(%)
なお、上記(1)における「磁性体が完全酸化したときの質量増加割合」は、理論値であり、磁性体中の金属が全て酸化物になったとき(FeがFe2O3、CoがCoO、VがV2O5となったとき)の質量増加量の割合を算出したものである。具体的には、磁性体が残部Fe-49質量%Co-2質量%Vであるときは0.35、残部Fe-17質量%Coであるときは0.40とした。
また、加熱後の磁性体の酸化割合(%)が30%以下であるものを、耐酸化性が良好(A)と評価し、30%超であるものを、耐酸化性が不良(B)と評価した。
【0105】
(磁性体とガラスの熱膨張比)
各サンプルについて、磁性体の熱膨張率α1と、ガラスの熱膨張率α2との比:α1/α2を算出した。各々の熱膨張係数は、25℃を基準温度としたときの900℃での値とした。
【0106】
(開気孔率、充填率、コート層厚さ、ガラス厚さ、磁性体粒子の粒径の測定)
各サンプルについて、コート層の開気孔率(実施例1、3~7、11~24及び比較例1、3)、ガラスで被覆された磁性体の充填率(実施例2、8~10及び比較例2、4)、コート層の厚さ、ガラス厚さ、及び、磁性体粒子の粒径を、それぞれ、
図6に示すようなハニカム構造体の磁性体の断面のSEM画像から画像解析によって測定した。なお、
図6は、実施例2に係るハニカム構造体の磁性体部の断面のSEM画像である。コート層の開気孔率、磁性体の充填率については、倍率200倍で5視野観察して計測し、それらの平均から算出した。コート層の厚さは倍率200倍、ガラス厚さは倍率500倍で、それぞれ3視野観察し、1視野ごとに10箇所計測し、それらの平均を厚さとした。磁性体の粒径は倍率200倍で観察したSEM画像を用いてインターセプト法により測定した。すなわち、SEMによって、磁性体の断面図を撮影し、3本の任意の線分を断面図内に引き、当該線分と磁性体とが交わる部分の長さを、画像解析ソフトを用いて測定した。次に、得られた長さの平均を磁性体粒子の粒径とした。
評価結果を表1に示す。
【0107】
【0108】
(評価)
実施例1~24は、いずれも、セル内の磁性体が、ガラスで被覆されているため、耐酸化性が良好であった。
一方、比較例1~4は、いずれも、セル内の磁性体が、ガラスで被覆されていないため、耐酸化性が不良であった。
【符号の説明】
【0109】
10、20 ハニカム構造体
2 金属管
3 制御部
4 コイル配線
5 固定部材
6 排気ガス浄化装置
11 外周壁
12、22 隔壁
13、14、23、24 端面
15、25 セル(セルA+セルB)
16、26 目封止部
18、28 磁性体
19、29 ガラス