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特許7368641ニッケル基高温合金、その製造方法、部品および使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-16
(45)【発行日】2023-10-24
(54)【発明の名称】ニッケル基高温合金、その製造方法、部品および使用
(51)【国際特許分類】
   C22C 19/05 20060101AFI20231017BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20231017BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20231017BHJP
   B22F 10/366 20210101ALI20231017BHJP
   B22F 10/36 20210101ALI20231017BHJP
   B22F 10/64 20210101ALI20231017BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20231017BHJP
   B22F 10/38 20210101ALI20231017BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20231017BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231017BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20231017BHJP
【FI】
C22C19/05 C
B22F1/05
B22F10/28
B22F10/366
B22F10/36
B22F10/64
B22F1/00 M
B22F10/38
B33Y70/00
B33Y10/00
B33Y80/00
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022571333
(86)(22)【出願日】2021-06-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-06-20
(86)【国際出願番号】 CN2021100852
(87)【国際公開番号】W WO2021254480
(87)【国際公開日】2021-12-23
【審査請求日】2022-11-21
(31)【優先権主張番号】202010571208.4
(32)【優先日】2020-06-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】521467799
【氏名又は名称】ガオナ アエロ マテリアル カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】弁理士法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 少明
(72)【発明者】
【氏名】▲畢▼ 中南
(72)【発明者】
【氏名】夏 ▲天▼
(72)【発明者】
【氏名】王 睿
(72)【発明者】
【氏名】曲 敬▲竜▼
(72)【発明者】
【氏名】▲馬▼ 惠萍
(72)【発明者】
【氏名】▲韓▼ 寿波
(72)【発明者】
【氏名】▲孫▼ 广宝
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106717742(CN,A)
【文献】特開2013-129880(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110747377(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第111074101(CN,A)
【文献】特開2020-143311(JP,A)
【文献】特開2020-147781(JP,A)
【文献】特開2019-044209(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 19/05
B22F 1/05
B22F 10/28
B22F 10/366
B22F 10/36
B22F 10/64
B22F 1/00
B22F 10/38
B33Y 70/00
B33Y 10/00
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ッケル基高温合金であって、
量%で、C:0.3%以下、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.2%、Si:0.02~0.2%、残部がNiからなる組成を有し、
前記ニッケル基高温合金に割れがなく、その組織中における炭化物の平均直径は150~200nmであり、炭化物直径分布は50nm~4μmであり、
前記ニッケル基高温合金における炭化物は、一次炭化物及び二次炭化物を含み、
前記一次炭化物は、直径が200nm~4μmであり、樹枝状結晶とセル状結晶の間にあるW、Moが濃化された領域に存在し、
前記二次炭化物は、直径が50~150nmであり、一部が粒界に存在し、その他が結晶粒内に存在する
ことを特徴とするニッケル基高温合金。
【請求項2】
量%で、C:0.05~0.3%、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.1%、Si:0.02~0.1%、残部がNiからなる組成を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル基高温合金。
【請求項3】
量%で、C:0.08~0.25%、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.06%、Si:0.02~0.06%、残部がNiからなる組成を有する
ことを特徴とする請求項1に記載のニッケル基高温合金。
【請求項4】
前記ニッケル基高温合金の1100℃環境での降伏強度は、50MPa以上であ
ことを特徴とする請求項に記載のニッケル基高温合金。
【請求項5】
ニッケル基高温合金の製造方法であって、
Dプリントにより、請求項1~3のいずれか1項に記載の前記ニッケル基高温合金を製造する工程を含む
ことを特徴とするニッケル基高温合金の製造方法。
【請求項6】
前記3Dプリントは、選択的レーザ溶融法による3Dプリントまたは電子ビーム溶融法による3Dプリントを含む
ことを特徴とする請求項に記載のニッケル基高温合金の製造方法。
【請求項7】
前記3Dプリントは選択的レーザ溶融法による3Dプリントであることを特徴とする請求項に記載のニッケル基高温合金の製造方法。
【請求項8】
料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行うことで、前記ニッケル基高温合金を製造する工程を含む
ことを特徴とする請求項に記載のニッケル基高温合金の製造方法。
【請求項9】
料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行い、さらに熱間静水圧法による処理と熱処理を行うことで、前記ニッケル基高温合金を製造する工程を含む
ことを特徴とする請求項に記載のニッケル基高温合金の製造方法。
【請求項10】
前記選択的レーザ溶融法の3Dプリントのパラメータは、
(a)レーザー出力:100~700W、
(b)レーザー走査速度:600~2000mm/s、
(c)スポット径:40~110μm、
(d)レーザー間隔:80~120μm、
(e)粉末の敷き厚さ:20~80μm
を含むことを特徴とする請求項に記載のニッケル基高温合金の製造方法。
【請求項11】
請求項1~のいずれか1項に記載のニッケル基高温合金含む
ことを特徴とする部品。
【請求項12】
請求項11に記載の部品を含むことを特徴とする航空機エンジン、飛行体またはガスタービン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、合金技術分野に関し、特に、ニッケル基高温合金、その製造方法、部品および使用に関する。
(関係出願の相互参照)
【0002】
本開示は、2020年06月19日に中国専利局に提出された出願番号が202010571208.4であり、名称が「ニッケル基高温合金、その製造方法、部品および使用」である中国出願に基づいて優先権を主張し、その全ての内容は、参照により本明細書に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
高温合金は、良好な耐酸化性と耐食性を有し、高温強度が高いので、航空機(大気中を飛行する機械の総称)の動力系におけるホットエンドの重要な材料となる。航空宇宙産業の発展に伴い、重要部品への設計要件が徐々に厳しくなり、部品内部には数多くの複雑な内部流路や薄肉構造を形成する必要があるため、従来の鋳造、鍛造、溶接で得られた高温合金は設計要件を満たすことができなくなった。
【発明の概要】
【0004】
本開示は、表面及び内部に割れがなく、高温強度が高く、1100℃の温度下でも優れた性能を有し、航空機の使用要求を満たすことができるニッケル基高温合金及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
本開示の第1の態様は、3Dプリントにより以下の原料から製造されるニッケル基高温合金を提供し、前記原料は、質量%で、C:0.3%以下、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.2%、Si:0.02~0.2%、残部がNiからなる組成を有し、前記ニッケル基高温合金に割れがなく、その組織中における炭化物の平均直径は150~200nmであり、炭化物直径分布は50nm~4μmである。
【0006】
一又は複数の実施形態において、前記原料は、質量%で、C:0.05~0.3%、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.1%、Si:0.02~0.1%、残部がNiからなる組成を有する。
【0007】
一又は複数の実施形態において、前記原料は、質量%で、C:0.08~0.25%、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.06%、Si:0.02~0.06%、残部がNiからなる組成を有する。
【0008】
一又は複数の実施形態において、前記ニッケル基高温合金における炭化物は、一次炭化物及び二次炭化物を含み、前記一次炭化物は、直径が200nm~4μmであり、樹枝状結晶とセル状結晶の間にあるW、Moが濃化された領域に存在し、前記二次炭化物は、直径が50~150nmであり、一部が粒界に存在し、その他が結晶粒内に存在する。
【0009】
一又は複数の実施形態において、前記3Dプリントは、選択的レーザ溶融法による3Dプリントまたは電子ビーム溶融法による3Dプリントを含み、例えば、選択的レーザ溶融法による3Dプリントである。
【0010】
一又は複数の実施形態において、前記ニッケル基高温合金は、前記原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行うことで製造されるものである。
【0011】
一又は複数の実施形態において、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行った後、熱間静水圧法による処理と熱処理を行う。
【0012】
一又は複数の実施形態において、前記ニッケル基高温合金の1100℃環境での降伏強度は、50MPa以上である。
【0013】
一又は複数の実施形態において、熱間静水圧法による処理を行う前の前記ニッケル基高温合金の緻密性は99%以上であり、熱間静水圧法による処理を行った後の前記ニッケル基高温合金の緻密性は99.95%以上である。
【0014】
一又は複数の実施形態において、前記選択的レーザ溶融法の3Dプリントのパラメータは、
(a)レーザー出力:100~700W、
(b)レーザー走査速度:600~2000mm/s、
(c)スポット径:40~110μm、
(d)レーザー間隔:80~120μm、
(e)粉末の敷き厚さ:20~80μm
を含む。
【0015】
本開示の第2の態様は、前記ニッケル基高温合金の前記原料を用いて、3Dプリントにより、前記ニッケル基高温合金を製造する工程を含むニッケル基高温合金の製造方法を提供する。
【0016】
一又は複数の実施形態において、前記3Dプリントは、選択的レーザ溶融法による3Dプリントまたは電子ビーム溶融法による3Dプリントを含み、例えば、選択的レーザ溶融法による3Dプリントである。
【0017】
一又は複数の実施形態において、前記原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行うことで、前記ニッケル基高温合金を製造する。
【0018】
一又は複数の実施形態において、前記原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行い、さらに熱間静水圧法による処理と熱処理を行うことで、前記ニッケル基高温合金を製造する工程を含む。
【0019】
一又は複数の実施形態において、前記選択的レーザ溶融法の3Dプリントのパラメータは、
(a)レーザー出力:100~700W、
(b)レーザー走査速度:600~2000mm/s、
(c)スポット径:40~110μm、
(d)レーザー間隔:80~120μm、
(e)粉末の敷き厚さ:20~80μm
を含む。
【0020】
本開示の第3の態様は、前記ニッケル基高温合金、または前記製造方法により製造されたニッケル基高温合金を含む部品を提供する。
【0021】
本開示の第4の態様は、前記部品を含む航空機エンジン、飛行体またはガスタービンを提供する。
【0022】
従来技術に比べ、本開示は、少なくとも下記のような有益な効果を得ることができる。
【0023】
本開示は、特定の元素からなる材料を用いて、3Dプリント、特に選択的レーザ溶融法による3Dプリントにより、ニッケル基高温合金を製造することにより、該合金に特殊な組織及び構造を持たせることができるため、緻密で割れのない、高温環境下でも強度を確保できる複雑な部品を得ることができる。
【0024】
特定の元素からなる材料を3Dプリント、特に選択的レーザ溶融法による3Dプリントに適用する場合、選択的レーザ溶融法による造形プロセスにおける割れの形成易さを著しく下げることができ、ニッケル合金における炭素の含有量が高くても、割れのない状態を維持できる。得られた合金は、表面及び内部に割れがなく、高温強度が高く、1100℃の使用温度下でも優れた性能を有する。
【0025】
さらに、一又は複数の実施形態において、合金材料に適合するパラメータを用いることで、高温特性に優れる合金を得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】実施例1に係る高温合金試料の金属組織を示す図である。
図2】実施例1に係る高温合金試料のミクロ構造を示す図である。
図3】比較例3に係る合金試料の金属組織を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本開示の実施例の目的、技術案及び利点をより明瞭にするため、以下、本開示の実施例の図面を参照しながら、本開示の実施例の技術案を明瞭、完全に説明する。説明する実施例は、本開示の一部の実施例にすぎず、当然のことながら全ての実施例ではない。通常、ここで図面を用いて示した本開示の実施例における部品は、様々な配置方法で配置、設計することが可能である。
【0028】
従来の鋳造、鍛造、溶接で作られた機械部品は、既に航空分野の設計要件を満たすことができなくなった。機械部品の性能を向上させるために、3Dプリント技術が用いられる。
【0029】
3Dプリント技術を高性能な高温合金分野に広める際に、既存の高性能な高温合金は種類が豊富であるが、それはすべて従来の調製プロセスのために開発されたものであることがわかった。印刷適性を確保するため、現在3Dプリント分野で使用されている主な高温合金は、IN625、IN718、Hastelloy Xなどである。現在、Hastelloy X(中国合金記号:GH3536)、Inconel 625(中国合金記号:GH3625)、Inconel 718(中国合金記号:GH4169)の3つの記号の高温合金に対する研究及び最適化が進むにつれて、それに対応する3Dプリント技術もより成熟し、既に、航空機エンジンの燃焼室などに使用されている。
【0030】
GH3230合金は、ニッケル基高温合金の一種であり、鋳造、鍛造、圧延などのような製造プロセスで製造され、IN718、IN625、HastelloyXなどの合金を上回る1000℃以上の温度下でも長時間使用可能である。また、GH3230合金はある程度の溶接性を有するため、3Dプリントにも適用可能な材料である。
【0031】
本発明者らは、GH3230合金で、3Dプリントの特殊なプロセス条件下において、特に複雑な構造を有するものを作製する場合、プリントで得られた部品に割れが生じやすいことを見出した。
【0032】
本開示は、GH3230合金の化学成分を改良することにより、3Dプリントの特殊なプロセス条件により適合させ、1100℃における使用性能を確保するとともに、割れという技術的問題を解決できるものになる。
【0033】
本開示の一態様は、ニッケル基高温合金を提供する。ニッケル基高温合金は、3Dプリントにより以下の原料で製造される。前記原料は、質量%で、C:0.3%以下、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.2%、Si:0.02~0.2%、残部がNiからなる組成を有する。前記ニッケル基高温合金に割れがなく、その組織中における炭化物の平均直径は150~200nmであり、炭化物直径分布は50nm~4μmである。
【0034】
原料は、質量%で、C:0.3%以下(例えば、0.01%、0.02%、0.05%、0.08%、0.09%、0.1%、0.12%、0.15%、0.16%、0.18%、0.2%、0.22%、0.24%、0.25%、0.26%、0.28%または0.3%など)、Co:5%未満(例えば、0.01%、0.1%、1%、2%、3%、4%または4.8%など)、W:13~15%(例えば、13%、13.5%、14%、14.5%、または15%など)、Cr:20~24%(例えば、20%、21%、22%または24%など)、Mo:1~3%(例えば、1%、2%または3%など)、Al:0.2~0.5%(例えば、0.2%、0.3%、0.4%または0.5%など)、Ti:0.1%未満(例えば、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.07%、0.08%または0.09%など)、Fe:3%未満(例えば、0.01%、0.1%、0.5%、1%、1.5%、2%、2.5%、または2.9%など)、B:0.015%未満(例えば、0.001%、0.002%、0.005%、0.008%、0.01%または0.014%など)、La:0.001~0.004%(例えば、0.001%、0.002%、0.003%または0.004%など)、Mn:0.01~0.2%(例えば、0.01%、0.02%、0.03%、0.04%、0.05%、0.06%、0.08%、0.1%、0.12%、0.15%、0.16%、0.18%または0.2%など)、Si:0.02~0.2%(例えば、0.02%、0.05%、0.06%、0.08%、0.1%、0.12%、0.15%、0.16%、0.18%または0.2%など)、残部がNiからなる組成を有する。
【0035】
なお、残部であるNiとは、原料における上記のNi以外の成分に加えて、他の任意成分(残留成分や不純物の元素の合計)が含まれてもよいことを意味する。すなわち、原料において、Ni、Ni以外の成分及び他の任意成分の質量%の合計が100%である。
【0036】
ニッケル基高温合金において、Crは、固溶強化の役割を果たすものであり、高温環境で金属表面に酸化物層が形成されるので、合金の耐酸化性を向上させることができる。なお、Crの含有量が24%を超えると、有害な第二相析出を促進し、割れの発生率が高くなり、合金の高温力学特性に影響を及ぼすことになる。そのため、本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Crの含有量を20~24%に抑える。
【0037】
ニッケル基高温合金において、Alは、緻密な酸化膜を形成し、合金の耐酸化性を向上させるものである。本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Alの含有量を0.2~0.5%に抑える。
【0038】
ニッケル基高温合金において、Wは、固溶強化の役割を果たすものである。なお、Wの含有量が15%を超えると、有害なTCP相の生成を促進する。そのため、本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Wの含有量を13~15%に抑える。
【0039】
ニッケル基高温合金において、Cは、炭化物を形成し、高温強化の役割を果たすものである。なお、従来の鋳造、鍛造により製造される場合、Cの含有量が高すぎると、製造された後、炭化物の粒界への析出と連続した炭化膜の形成を引き起こし、合金の力学特性を損なうため、従来、GH3230合金におけるCの含有量を0.05~0.15%に抑えた。これに対して、3Dプリントのプロセスにおける急速凝固や急速冷却により、炭化物は、微細な分散体に形成しやすくなり、強化相となるので、力学特性を向上させることができる。そのため、本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Cの含有量の上限を、0.15%から0.3%に上げること可能である。
【0040】
Siは、合金の耐酸化性の向上に寄与するものである。従来のGH3230合金におけるSiの含有量は0.25~0.75%である。なお、3Dプリントのプロセスにおいて、Siの存在で、割れがすごく発生しやすくなるため、Siの含有量を厳密に制限する必要がある。そのため、本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Siの含有量を0.02~0.2%に抑える。
【0041】
Mnは、脱酸元素であり、また、硫黄と反応してMnSを形成でき、硫黄の有害作用を軽減するものである。従来のGH3230合金におけるMnの含有量は0.3~1%である。なお、Mnの存在で、プリント中に割れが発生しやすくなるため、本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Mnの含有量を0.01~0.2%に抑える。
【0042】
ニッケル基高温合金において、Laは、酸化膜の組成や形態に影響を及ぼし、合金の耐酸化性と高温力学特性を向上させるものである。従来のGH3230合金におけるLaの含有量は0.005~0.05%である。なお、3Dプリントのプロセスにおいて、Laの存在で、偏析またはランタノイド系化合物の生成を引き起こすため、割れが発生しやすくなる。そのため、本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Laの含有量を0.001~0.004%に抑える。
【0043】
Bは、粒界強化のための元素であり、適量のBの存在により合金の粒界強度を向上させることができる。なお、Bの含有量が0.015%を超えると、多量のホウ化物が生成するので、合金の力学特性を損なってしまう。また、生成した低融点のホウ化物で、プリント中の割れの発生率が高くなるので、本開示に係るニッケル基高温合金の原料において、Bの含有量を0.015%未満に抑える。
【0044】
幾つかの典型的な実施形態において、前記原料は、質量%で、C:0.05~0.3%、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.1%、Si:0.02~0.1%、残部がNiからなる組成を有する。
【0045】
幾つかのより典型的な実施形態において、前記原料は、質量%で、C:0.08~0.25%、Co:5%未満、W:13~15%、Cr:20~24%、Mo:1~3%、Al:0.2~0.5%、Ti:0.1%未満、Fe:3%未満、B:0.015%未満、La:0.001~0.004%、Mn:0.01~0.06%、Si:0.02~0.06%、残部がNiからなる組成を有する。
【0046】
前記原料は、例えば、粉末である。
【0047】
一又は複数の実施形態において、前記3Dプリントは、選択的レーザ溶融法による3Dプリントまたは電子ビーム溶融法による3Dプリントを含み、例えば、選択的レーザ溶融法による3Dプリントである。
【0048】
選択的レーザ溶融法(SLM)による3Dプリントは、層ごとに金属粉末を溶かすことにより、金型レスで、高緻密性の金属部品をニアネットシェイプ成形することができる高速3Dプリント技術である。選択的レーザ溶融法は、成形効率が高く、複雑な構造を持つ部品を作製できるので、複雑な構造を持つ高温合金部品の作製技術として最も有望視される。
【0049】
具体的に、ニッケル基高温合金は、前記原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行って製造される。一又は複数の実施形態において、選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行った後、熱間静水圧法による処理と熱処理を行うことで、ニッケル基高温合金を得る。
【0050】
一又は複数の実施形態において、選択的レーザ溶融法による3Dプリントのパラメータは、
(a)レーザー出力:100~700W、例えば、100W、200W、300W、400W、500W、600Wまたは700W、
(b)レーザー走査速度:600~2000mm/s、例えば、600mm/s、700mm/s、800mm/s、900mm/s、1000mm/s、1200mm/s、1500mm/s、1800mm/sまたは2000mm/s、
(c)スポット径:40~110μm、例えば、40μm、50μm、60μm、70μm、80μm、90μm、100μmまたは110μm、
(d)レーザー間隔:80~120μm、例えば、80μm、90μm、100μm、110μmまたは120μm、
(e)粉末の敷き厚さ:20~80μm、例えば、20μm、30μm、40μm、50μm、60μm、70μmまたは80μm
を含む。
【0051】
本開示において、選択的レーザ溶融法のレーザーの体積エネルギー密度Evが50~100J/mmとなるように、SLMのパラメータを選択する。Evは下記の式で算出される。
【数1】
【0052】
ここで、Pはレーザー出力であり、Vはレーザー走査速度であり、Hはレーザー間隔であり、tは粉末の敷き厚さである。
【0053】
この4つのパラメータの設定により、選択的レーザ溶融法のレーザーの体積エネルギー密度Evを、50~100J/mmに保つことができる。この範囲内に抑えられない場合、合金内部に多数の穴や欠陥が形成されるため、合金の特性が低下してしまう。
【0054】
本開示に係るニッケル基高温合金は、その原料の組成におけるSi、Mn、Laの含有量を制御することにより、特に選択的レーザ溶融法による3Dプリントに適合するようになったため、選択的レーザ溶融法による造形プロセスにおける割れの形成を著しく下げることができる。また、割れの形成の低下とともに、原料におけるCの含有量が高くなるため、高温強度が高くなり、1100℃の使用温度下でも優れた性能を有する。
【0055】
本開示は、各成分の含有量の設定により、ニッケル合金における炭素の含有量が高くても、割れがない合金製品をプリントできる。
【0056】
前記原料の成分を用いて3Dプリントにより造形したニッケル基高温合金は、表面及び内部に割れがなく、鋳造、鍛造によるGH3230合金に比べて、合金における炭化物は、直径が明らかに小さくなり、より微細に分散される。
【0057】
炭化物の平均直径は150~200nm(例えば、160、170、180、190nm)であり、炭化物直径分布は50nm~4μm(例えば、50~100nm、50~150nm、50~200nm、300nm~4μm、300nm~2μm、500nm~2μm、200nm~3μmなど)である。
【0058】
一又は複数の実施形態において、前記ニッケル基高温合金における典型的なミクロ組織である炭化物は、一次炭化物及び二次炭化物を含む。
【0059】
一次炭化物は、直径が200nm~4μmであり(例えば、200nm~1μm、200nm~2μm、200nm~3μm、300nm~1μm、300nm~2μm、300nm~3μm、300nm~4μm、400nm~1μm、400nm~2μm、400nm~3μm、400nm~4μm、500nm~1μm、500nm~2μm、500nm~3μm、500nm~4μm)、樹枝状結晶とセル状結晶の間にあるW、Moが濃化された領域に存在する。
【0060】
二次炭化物は、直径が50~150nmであり(例えば、50~100nm、60~120nm、70~130nm、80~140nm、90~150nm、100~150nm)、一部が粒界に存在し、他の一部が結晶粒内に存在する。
【0061】
本開示に係るニッケル基高温合金は、3Dプリントのプロセスへの適用性と割れの問題点を鑑みてなされたものである。合金の原料は、従来のGH3230合金の化学成分を改良することにより、良好な溶接性を持つようになったため、選択的レーザ溶融法による3Dプリントであっても、割れがほとんど発生せず、高温強度が高くなる。一又は複数の実施形態において、プリントのプロセスにおける各パラメータ及び原料の各成分との設定により、緻密性が高く、割れがなく、高温環境下でも強度の高い合金製品を得られる。
【0062】
典型的に、本開示に係るニッケル基高温合金の高温(1100℃)環境での降伏強度は、50MPa以上(例えば、55MPa、56MPa、58MPa、60MPa)である。
【0063】
降伏強度は、金属材料の引張試験(GB/T 228.1-2010)により、測定されたものである。
【0064】
典型的には、本開示に係るニッケル基高温合金の室温における破断伸びは、16%以上である。
【0065】
破断伸びは、金属材料の引張試験(GB/T 228.1-2010)により、測定されたものである。
【0066】
典型的に、熱間静水圧法による処理を行う前の前記ニッケル基高温合金の緻密性は99%以上であり、熱間静水圧法による処理を行った後の前記ニッケル基高温合金の緻密性は99.95%以上である。
【0067】
緻密性は、GB/T 3850~2015「緻密焼結金属材料と硬質合金の密度測定方法」により測定されたものである。
【0068】
本開示の一態様は、前記ニッケル基高温合金の前記原料を用いて、3Dプリントにより、前記ニッケル基高温合金を製造する工程を含むニッケル基高温合金の製造方法を提供する。
【0069】
本開示の方法は、特定の元素からなる材料を用いて、3Dプリントにより、ニッケル基高温合金を製造する。この方法は、緻密で割れのない、高温性能に優れる合金部品を得られる新たな方法を提供する。
【0070】
幾つかの実施形態において、3Dプリントは、選択的レーザ溶融法による3Dプリントまたは電子ビーム溶融法による3Dプリントを含み、例えば、選択的レーザ溶融法による3Dプリントである。
【0071】
幾つかの実施形態において、前記原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行うことで、前記ニッケル基高温合金を製造する。
【0072】
幾つかの実施形態において、前記原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントを行い、さらに熱間静水圧法による処理を行うことで、緻密性が99.95%以上のニッケル基高温合金を製造し、その後、熱処理により所望の力学特性を得る工程を含む。
【0073】
幾つかの実施形態において、前記選択的レーザ溶融法による3Dプリントのパラメータは、
(a)レーザー出力:100~700W、
(b)レーザー走査速度:600~2000mm/s、
(c)スポット径:40~110μm、
(d)レーザー間隔:80~120μm、
(e)粉末の敷き厚さ:20~80μm
を含む。
【0074】
前記製造方法における各用語の説明は、第1の態様のニッケル基高温合金における該当する説明と同一であるため、ここで説明を省略する。
【0075】
前記製造方法により得られたニッケル基高温合金は、第1の態様のニッケル基高温合金と同様な組織形態および特性を有する。鋳造、鍛造によるGH3230合金に比べて、選択的レーザ溶融法による3Dプリントにより造形されたニッケル基高温合金における炭化物は、直径が明らかに小さく、より微細に分散される。本開示のニッケル基高温合金における特定の元素からなる材料を本開示の方法に適用することで、割れが生じにくい優れた特性を有する部品を作製できる。
【0076】
本開示の一態様は、前記ニッケル基高温合金、または前記製造方法により製造されるニッケル基高温合金を含む部品を提供する。
【0077】
そのため、該部品は、表面及び内部に割れがなく、緻密性が高く、高温強度が高いので、航空機の使用要求を満たすことができる。
【0078】
部品は、例えば、典型的なエンジンのエアインテーク、ライナー、熱シールドなどを含むが、これらに限定されない。
【0079】
本開示の一態様は、前記部品を含む航空機エンジン、飛行体またはガスタービンを提供する。
【0080】
航空機エンジン、飛行体またはガスタービンは、本開示に係るニッケル基高温合金及び部品と同様な利点を有するため、ここで説明を省略する。
【0081】
以下、具体的な実施形態を参照しながら、本開示の幾つかの実施例を詳細に説明する。矛盾がない限り、以下の実施例及び実施例における特徴を結合させることができる。実施例において、具体的な条件を明記しないことについて、従来の条件又はメーカーの推奨条件下で行うことが可能である。使用する試薬又は器具の、製造メーカーが明記されていないものが、市販の従来品を使用することが可能である。
実施例1
【0082】
3Dプリント用ニッケル基高温合金の原料は、質量%で、C:0.3%、Cr:22%、W:14%、Mo:2%、Fe:0.5%、Al:0.4%、Ti:0.01%、Si:0.02%、Mn:0.01%、B:0.01%、La:0.001%、残部がNiからなる組成を有する。
【0083】
実施例1に記載の3Dプリント用ニッケル基高温合金の原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、選択的レーザ溶融法(SLM)による3Dプリントにより、高温合金試料を製造した。プリントのレーザー出力は240Wであり、レーザー走査速度は1000mm/sであり、スポット径は100μmであり、レーザー間隔は90μmであり、粉末の敷き厚さは30μmである。
【0084】
製造した高温合金試料に対して、その金属の組織を観察し、さらに緻密性を測定した。
【0085】
図1に示すように、高温合金試料は、いずれも、緻密で割れのない金属組織を有し、緻密性の測定結果が99.2%であった。
【0086】
図2は、高温合金試料のミクロ構造を示す。結晶粒は、堆積方向に沿って長いセル状に分布し、多数の炭化物粒子が粒界(セル状結晶粒界を含む)に析出し、結晶粒内にも微細で均一に分布する炭化物が存在した。高温合金試料中における炭化物は、一次炭化物を主として含む。一次炭化物は、直径が大きく(200nm~4μm)、凝固時に液相から析出し、樹枝状結晶とセル状結晶の間にあるW、Moなどが濃化された領域に多く存在した。さらに、固相から析出した二次炭化物を含み、直径が比較的小さく(50~150nm)、一部が粒界に、その他が結晶粒内に存在した。
【0087】
鋳造、鍛造による合金に比べて、3Dプリントにより造形された合金における炭化物は、直径が明らかに小さく、より微細に分散された。炭化物の平均直径は150~200nmであり、最小直径は数十nmであり、最大直径は5μm以下であった。
【0088】
通常、炭化物は、オーステナイト基地よりも硬度が高く、特に粒界に連続して分布する場合、材料の粒界結合力が低下し、合金の力学特性に悪影響を及ぼすおそれがある。本実施例において、非連続分布とした直径の小さい炭化物は、逆に強化の役割を果たすことができる。
【0089】
本実施例に係る3Dプリントで得られた高温合金試料と、前記ニッケル基高温合金の原料を用いて鋳造、鍛造により製造された鋳造合金試料との、室温(25℃)及び高温環境での引張特性がそれぞれ表1に示される。
【0090】
鋳造合金試料の調製方法は、前記3Dプリント用ニッケル基高温合金の原料組成を用いて、
(1)組成の配合に従って、Co、Al、W、Ti、Ni、Fe、Cr、Mo、C、B、Mn、Si、Laなどの高純度の単体を秤量する工程と、
(2)Co、Ni、Crなど比較的融点の低い元素の単体を坩堝の底に入れ、その上にW、Moなど高融点元素の単体を入れ、またAl、Ti、Bなど元素の単体をホッパにいれて溶融時に添加する工程と、
(3)真空誘導炉で溶融する工程、つまり、まず、低出力(約120kWである)で原料を加熱することにより、付着ガスを除き、続いて、高出力(約200kW)で1500℃以上に素早く昇温して10分間保持した後、約1300~1400℃に温度を下げて5分間保持し、さらに、ホッパ内のAl、Ti、Bなど元素の単体を添加し、1500℃以上に昇温して15分間保持した後、鋳込んで高温合金鋳塊を得る工程と
を含む。
【表1】
【0091】
表1に示すように、本実施例に係る鋳造合金試料と、3Dプリントで得られた高温合金試料との、室温及び高温環境での引張特性を比較すると、3Dプリントで得られた高温合金試料の降伏強度は、いずれの温度環境で鋳造合金試料よりも高いことがわかった。
実施例2~4
【0092】
実施例2~4の3Dプリント用ニッケル基高温合金の原料における各成分の質量%が表2に示される。その他は実施例1と同様である。
【表2】
比較例1-3
【0093】
比較例1-3の3Dプリント用ニッケル基高温合金の原料における各成分の質量%が表3に示される。その他は実施例1と同様である。
【表3】
【0094】
実施例2~4及び比較例1~3の合金原料を粒径15~75μmの粉末に調製した後、実施例1と同様な選択的レーザ溶融法(SLM)による3Dプリントにより、合金試料を製造した(比較例3に係る合金粉末を用いて製造した合金試料の金属組織が図3に示される。その金属組織には、多数の割れが形成された)。各合金試料の室温(25℃)環境での降伏強度が表4に示される。
【表4】
【0095】
最後に要注意なのは、上記各実施例が、本開示の技術案を説明するためのものにすぎず、それを限定するものではない。上記各実施例を参照しながら本開示を詳細に説明したにもかかわらず、当業者は、上記各実施例に記載された技術案を変更してもよく、その一部または全ての技術的特徴を均等に置き換えてもよい。これらの変更または置き換えは、該当技術案の本質を本開示の各実施例による技術案の範囲から逸脱させていない。
図1
図2
図3