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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】人検出システム及び床用パネル材
(51)【国際特許分類】
   G01R 29/08 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
G01R29/08 F
G01R29/08 B
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019164357
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2021043031
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-07-04
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星谷 隆嗣
(72)【発明者】
【氏名】大村 廉
(72)【発明者】
【氏名】池田 一貴
【審査官】田口 孝明
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-146203(JP,A)
【文献】実開昭56-023482(JP,U)
【文献】特開2010-181369(JP,A)
【文献】特開2004-015463(JP,A)
【文献】特開平03-275039(JP,A)
【文献】特開2013-257344(JP,A)
【文献】特開2014-203327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
IPC G01R 29/00-29/26、
31/12-31/20、
H02J 50/00-50/90、
G08B 23/00-31/00、
13/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁波源が設置された屋内空間において人を検出するための人検出システムであって、
前記屋内空間の床下地材と床板で構成される床基部に並べて設置される床用パネル材と、人の有無を検出する検出部とを備え、
前記床用パネル材は、
前記電磁波源から発生する電磁波を受信するために該電磁波源の側に配置される検出用アンテナと、
前記検出用アンテナに対して絶縁体を介して対向して配置される接地用アンテナと、
前記検出用アンテナと前記接地用アンテナとの間に電気的に接続され、前記検出用アンテナから入力される前記電磁波源からの電磁波の電力で動作し且つ当該電磁波の電力に応じた出力信号を出力するセンサ回路部と
を備え、
前記接地用アンテナは、前記床用パネル材を接地するために、前記検出用アンテナとの間で容量性カップリングを生じさせない間隙を有しており、
前記検出部は、前記センサ回路部の出力信号に基づいて前記検出用アンテナに近接する人の有無を検出するものであることを特徴とする人検出システム。
【請求項2】
前記床用パネル材は、前記接地用アンテナ、前記絶縁体、前記検出用アンテナ及び前記センサ回路部を一体的に構成してなり、前記屋内空間の床面に並べて配置することで床構造体を構成し、
前記検出部は、それぞれの前記床用パネル材の前記センサ回路部からの前記出力信号を受け、前記センサ回路部の出力信号に基づいて、前記床構造体に近接する人の有無を検出する、ことを特徴とする請求項1記載の人検出システム。
【請求項3】
屋内空間の床面に並べて配置された前記床構造体のそれぞれの前記検出部で検出された人の検出結果に基づいて人の移動を推定する演算処理部を更に備えることを特徴とする、請求項2記載の人検出システム。
【請求項4】
前記各床用パネル材において、前記接地用アンテナの面積は300cm2以上、且つ、前記検出用アンテナの面積は1cm2以上2400cm2以下である、ことを特徴とする請求項2記載の人検出システム。
【請求項5】
前記各床用パネル材において、前記絶縁体は、20mm以上の肉厚を有し、前記接地用アンテナと前記検出アンテナとの間に前記肉厚と同じ間隙を形成させるものである、ことを特徴とする請求項2又は4に記載の人検出システム。
【請求項6】
前記各床用パネル材において、前記検出用アンテナは矩形状であり、前記接地用アンテナは、前記検出用アンテナと合同形状、又は、前記検出用アンテナより面積の大きい相似形状である、ことを特徴とする請求項2,4,5のいずれかに記載の人検出システム。
【請求項7】
前記センサ回路部は、コッククロフト・ウォルトン回路による整流昇圧回路であり、
前記検出部は、前記センサ回路部から出力された前記出力信号としての出力電圧値の高さを基に、人と検出用アンテナとのカップリングを検出することで前記検出用アンテナに人が接近したことを検出する、こと特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の人検出システム。
【請求項8】
電磁波源が設置された屋内空間において人を検出するための人検出システムに用いる床用パネル材であって、
前記電磁波源から発生する電磁波を受信するために該電磁波源の側に配置される検出用アンテナと、
前記検出用アンテナに対して絶縁体を介して対向して配置される接地用アンテナと、
前記検出用アンテナと前記接地用アンテナとの間に電気的に接続され、前記検出用アンテナから入力される前記電磁波源からの電磁波の電力で動作し且つ当該電磁波の電力に応じた出力信号を出力するセンサ回路部とを備え、
前記接地用アンテナは、前記床用パネル材を接地するために、前記検出用アンテナとの間で容量性カップリングを生じさせない間隙を有していることを特徴とする床用パネル材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人の検出システム及び人検出システムに用いる床用パネル材に関する。
【背景技術】
【0002】
公共施設や店舗、住宅等において、人の出入りや移動等を検知するために、カメラや人感センサ等が用いられている。特にプライバシー保護の観点から、床にセンサを設けて、人が踏むことでスイッチが入る機構が一般的に知られている。例えば特許文献1には、床材に圧電素子を設けた人感センサ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-204325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記文献記載の技術では、床材内のセンサ駆動に電源が必要であり、長期に亘って使用しないときには待機電力の無駄が生じる他、敷設には大掛かりな工事が必要であった。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みなされたものであり、専用の電源が無くても人の検知が可能な人検出システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明にかかる人検出システムは、電磁波源が設置された屋内空間において人を検出するものであって、前記屋内空間の床面に沿うように敷設又は設置された接地用アンテナと、前記接地用アンテナに対して絶縁体を介して対向して配置される検出用アンテナと、前記検出用アンテナと前記接地用アンテナとの間に電気的に接続され、前記検出用アンテナから入力される前記電磁波源からの電磁波の電力で動作し且つ当該電磁波の電力に応じた出力信号を出力するセンサ回路部と、前記センサ回路部の出力信号に基づいて前記検出用アンテナに近接する人の有無を検出する検出部とを備える、ことを特徴とする。
【0007】
前記人検出システムにおいて、前記接地用アンテナ、前記絶縁体、前記検出用アンテナ及び前記センサ回路部を一体的に構成した床用パネル材を、前記屋内空間の床面に並べて配置することで床構造体を構成し、前記検出部は、それぞれの前記床用パネル材の前記センサ回路部からの前記出力信号を受け、前記センサ回路部の出力信号に基づいて、前記床構造体に近接する人の有無を検出する、としてもよい。
【0008】
前記人検出システムにおいて、屋内空間の床面に並べて配置された前記床構造体のそれぞれの前記検出部で検出された人の検出結果に基づいて人の移動を推定する演算処理部を更に備える、としてもよい。
【0009】
前記各床用パネル材において、前記接地用アンテナの面積は300cm2以上、且つ、前記検出用アンテナの面積は1cm2以上2400cm2以下であることが好ましい。
【0010】
前記各床用パネル材において、前記絶縁体は、20mm以上の肉厚を有し、前記接地用アンテナと前記検出アンテナとの間に前記肉厚と同じ間隙を形成させるものであることが好ましい。
【0011】
前記各床用パネル材において、前記検出用アンテナは矩形状であり、前記接地用アンテナは、前記検出用アンテナと合同形状、又は、前記検出用アンテナより面積の大きい相似形状であることが好ましい。
【0012】
前記センサ回路部は、Cockcroft-Walton回路による整流昇圧回路であり、前記検出部は、前記センサ回路部から出力された前記出力信号としての出力電圧値の高さを基に、人と検出用アンテナとのカップリングを検出することで前記検出用アンテナに人が接近したことを検出する、としてもよい。
【0013】
本発明にかかる床材パネルは、電磁波源が設置された屋内空間において人を検出するための人検出システムに用いるものであって、前記屋内空間の床面に敷設又は設置される平板状の接地用アンテナと、前記接地用アンテナに対して絶縁体を介して対向して配置される平板状の検出用アンテナと、前記検出用アンテナと前記接地用アンテナとの間に電気的に接続され、前記検出用アンテナから入力される前記電磁波源からの電磁波の電力で動作し且つ当該電磁波の電力に応じた出力信号を出力するセンサ回路部とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る人検出システムは、電磁波源からの電磁波の電力に基づいて人を検出するので、屋内空間内の環境の影響を受けずに人を検出することができる。また、検出用アンテナから入力される電磁波源からの電磁波の電力で動作するので、省電力で動作することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】人検出システムの主要な構成を示す概略図
図2】人検出システムに用いる床用パネル材の構成例を示す模式図
図3】人検出システムのブロック構成図
図4】センサ回路部の回路構成例を示す回路図
図5】検出用アンテナのサイズに対する人検出装置の出力電位差を示すグラフ図
図6】接地用アンテナのサイズに対する人検出装置の出力電位差を示すグラフ図
図7】検出用アンテナを露出させた場合のセンサ回路部の出力電圧を示すグラフ図
図8】人検出用アンテナを絶縁体で覆った場合のセンサ回路部の出力電圧を示すグラフ図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用範囲あるいはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
人検出システムは、電磁波源が設置された建物内における空間(以下、屋内空間という)において、人を検出するためのものである。本開示において、屋内空間とは、少なくとも床面53を備え、例えば、建物内において、床面53と、天井もしくは屋根と、天井もしくは屋根を支える壁面とにより囲まれた空間である。また、電磁波源とは、屋内空間に電磁波を供給するものであり、屋内空間に元来備えられている家電や照明等の電気製品を用いることができる。具体的に、電磁波源として、例えば、テレビ、パソコン、IHヒーター、蛍光灯からなる群から選択される一種又は二種以上の任意の電気製品が挙げられる。すなわち、本開示の人検出システムでは、システムを動作させるための電磁波源として、電磁波ノイズと呼ばれる微弱な電磁波で十分であり、専用の電源装置を設ける必要がない点に特徴がある。図1では、電磁波源として、屋内空間の天井に蛍光灯10が互いに所定の間隔をあけて並べて配置されている例を示している。
【0018】
屋内空間では、建物に設けられた支持部材(図示省略)に支持された床下地材51と、床下地材51の上に敷設された床板52とにより、床基部50が構成されている(図2参照)。そして、床基部50の表面(以下、床面53という)には、矩形状の床用パネル材Cが並べて配置されている。本実施形態では、室内空間の床面53の全体において、互いの側面同士を突き合わせるように複数の床用パネル材Cを並べて配置することで、床構造体5が構成されている例を示している。なお、床基部50の構成は、上記に限定されるものではない。例えば、床下地材51のみで床基部50が構成されてもよい。この場合、床用パネル材Cは、床面としての床下地材51の表面に並べて配置される。また、例えば、床基部50が、床板52の表面に敷設された防虫・防水シート等を含んでもよい。この場合、床用パネル材Cは、床面としての防虫・防水シート等の表面に並べて配置される。また、床面53を構成する床基部50の表材(例えば、床板52)の材質は、特に限定されず、木、コンクリート、タイル、カーペット等の公知の床材を用いることができる。床下地材51についても同様である。また、床下地材51上に床板52を支持する支柱等(図示省略)を設け、床下地材51と床板52との間にケーブル等(図示省略)を通す空間が設けられていてもよい。
【0019】
なお、図1では、屋内空間に、図面左右方向に8枚の床用パネル材Cが並べて配置されている例を示している。また、図1において、説明の便宜上、床用パネル材Cについて、図面奥から一列目の左側から順に、C11,C12,…,C18の符号を付している。同様に、図面奥から二列目の左側から順に、C21,C22,…,C28の符号を付し、図面奥から三列目の左側から順に、C31,C32,…,C38の符号を付している。
【0020】
図2は、床用パネル材Cの構成例を示す模式図であり、床用パネル材Cを床面53に沿う方向の中間位置で破断した図である。また、図3は、人検出システムのブロック構成図である。
【0021】
図2に示すように、床用パネル材Cは、床面53に設置される面形状の接地用アンテナ21と、接地用アンテナ21に対して絶縁体22を介して対向して配置される面形状の検出用アンテナ23と、検出用アンテナ23に入力される電磁波の電力に応じた出力信号を出力するセンサ回路部24とを備える。
【0022】
接地用アンテナ21は、床用パネル材Cを接地させるためのアンテナであり、例えば、床用パネル材Cの床側の端面に、床面53に沿うように平板状に設けられている。床用パネル材Cを天井側から見た平面視における接地用アンテナ21の形状は、特に限定されず、例えば、矩形状、略多角形状、略円形状等の形状であってもよい。また、接地用アンテナ21は、螺旋や櫛形等の回路パターン状に形成されていてもよく、面形状以外の不定形状(例えば、棒状)であってもよい。また、接地用アンテナ21の具体的な形態は、特に限定されないが、例えば、金属板、金属箔、金属蒸着シート及び金属棒からなる群から選択される1種または2種以上を好適に用いることができる。好ましくは、接地用アンテナ21は、検出用アンテナ23と合同な形状(平面視において同一形状)、又は、平面視において検出用アンテナ23よりも面積の大きい相似形状であることが好ましい。
【0023】
接地用アンテナ21の材質は、導電性を有する素材、例えば、金属であることが好ましい。また、接地用アンテナの面積は、検出精度を高める観点から300cm以上であるのが好ましく、さらに、設置容易性の観点から300cm以上かつ9600cm以下であるのがより好ましい。なお、具体的な図示は省略しているが、接地用アンテナ21は、耐久性を高める観点から、絶縁フィルム等の絶縁層で表面を覆うようにしてもよい。また、接地用アンテナ21は、床用パネル材Cの床面53側の端面に設けなくてもよく、床用パネル材Cの厚さ方向の中間位置に設けるようにしてもよい。
【0024】
検出用アンテナ23は、電磁波源(図1では蛍光灯10)から発生された電磁波を受信するためアンテナであって、接地用アンテナ21よりも電磁波源側に位置するように配置されている。床用パネル材Cの場合、電磁波源が室内空間側にあるため、検出用アンテナ23は、例えば、床用パネル材Cの室内空間側の端面に、接地用アンテナ21と対向するように平板状に設けられている。
【0025】
検出用アンテナ23の平面視における形状は、特に限定されず、例えば、矩形状、略多角形状、略円形状等の形状であってもよい。また、接地用アンテナ21が、螺旋や櫛形等の回路パターン状に形成されていてもよく、面形状以外の不定形状(例えば、棒状)であってもよい。また、検出用アンテナ23の具体的な形態は、特に限定されないが、例えば、金属板、金属箔、金属蒸着シート及び金属棒からなる群から選択される1種または2種以上を好適に用いることができる。好ましくは、検出用アンテナ23は、接地用アンテナ21と合同な形状(平面視において同一形状)、又は、平面視において接地用アンテナ21よりも面積の小さい相似形状であることが好ましい。
【0026】
検出用アンテナ23の材質は、導電性を有する素材、例えば、金属であることが好ましい。また、検出用アンテナ23の面積は、検出精度を高める観点から1cm以上2400cm以下であるのが好ましく、1cm以上1200cm以下がより好ましい。さらに、センサ回路部24の後段に設けられた検出部の入力段の設計容易性を高める観点、例えば、検出部25の入力段に設けられるトランジスタの閾値を中間電位に設定しやすくする(例えば、3Vにする)観点から、検出用アンテナ23の面積が600cm以上1200cm以下であるのがより好ましい。なお、具体的な図示は省略しているが、検出用アンテナ23は、耐久性を高める観点から、表面を絶縁フィルム等の絶縁層で覆うようにしてもよい。また、検出用アンテナ23は、床用パネル材Cの室内空間側の端面に設けなくてもよく、床用パネル材Cの厚さ方向の中間位置に設けるようにしてもよい。
【0027】
絶縁体22は、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21との間に介在されるものである。換言すると、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21とは、絶縁体22の肉厚の分だけ間隙をもって離間することになる。ここで、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21とは向かい合わせに配置されており、両者間でカップリングを起こす可能性があるので、両者間に絶縁体22を挟んでギャップを作るようにしている。また、絶縁体22でギャップを作ることで、絶縁体22の内部にセンサや通信モジュールの回路を搭載することできる。
【0028】
絶縁体22の厚さは、特に限定されないが、例えば20mm以上の肉厚を有していることが好ましい。絶縁体22の厚さを20mm以上にすることで、接地用アンテナ21と検出接地用アンテナ21との間に20mm以上の間隙が確保され、人の検出におけるノイズが低減されるとともに、設置場所毎の校正を必ずしも必要としない。なお、絶縁体22の種類は、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21とが短絡しないものであればよいので、特に限定されないが、例えばゴム、木板、タイル、カーペット、コンクリート、レンガ、発泡スチロール、樹脂板からなる群から選択される1種又は2種以上の絶縁物質を用いることができる。
【0029】
センサ回路部24は、接地用アンテナ21と検出用アンテナ23との間に電気的に接続される回路部である。センサ回路部24は、検出用アンテナ23から入力される電磁波源(図1では蛍光灯10)からの電磁波の電力で動作し、検出用アンテナ23に入力された電磁波の電力に応じた出力信号を出力する。例えば、人体が検出用アンテナ23に接近した場合に、人体と検出用アンテナ23とが電気的に結合し、その結果、センサ回路部24から出力される出力信号(例えば、出力電圧)が変化する。以下の説明では、単に出力電圧の変化として記載する。
【0030】
センサ回路部24は、接地用アンテナ21と検出用アンテナ23とは離間した位置に備えられていることが好ましいが、前述のとおり、接地用アンテナ21と検出用アンテナ23との間に介在する絶縁体22に内蔵されていてもよい。このように構成することで、検出用アンテナ23、センサ回路部24、絶縁体22及び接地用アンテナ21が、一体的なブロック状に構成され、全体がコンパクトとなる。さらに、人がセンサ回路部24を踏んで壊してしまうことを防ぐことができる。
【0031】
図4は、センサ回路部24の構成例を示している。センサ回路部24は、検出用アンテナ23に入力された電磁波(環境電磁波)の電力を直流に整流し、且つ昇圧して出力するように構成されている。図4の例では、昇圧回路に、コッククロフト・ウォルトン回路241を用いた例を示している。コッククロフト・ウォルトン回路241は、入力端子INから入力された交流入力を整流・昇圧して出力する回路であり、部品点数が少なく、回路構成が単純であるという特徴がある。具体的には、図4に示すように、コッククロフト・ウォルトン回路241は、ショットキーダイオード等のダイオード(逆電流0.5μA)とポリプロピレンフィルムコンデンサ、セラミックコンデンサ等のコンデンサを用いて構成される。また、図4の例では、カスケード接続の各段と出力端子OUTとの間にスイッチ242を挿入し、昇圧比を変更できるようになっている。また、出力端子OUTとグランドとの間には、可変抵抗243及びコンデンサ244が直列に接続されている。
【0032】
一般的に、本開示で想定している電磁波源(屋内空間に元来備えられている家電や照明等の電気製品)から検出用アンテナ23に受信される電磁波の電圧は、数mV程度であるため、本開示では、センサ回路部24において、検出用アンテナ23から受信した交流入力を直流に変換するとともに、昇圧して後段の検出部25に出力するようにしている。なお、本開示の構成では、人体と検出用アンテナ23との電気的結合(容量性カップリング、又は単にカップリングともいう)に基づいて、人が近接していることを検出するので、人体と検出用アンテナ23との間に遮蔽物があるような場合でも検出することができる。また、検出用アンテナ23に受信(集電)される電力は、人体が検出用アンテナ23に接触している状態で最大となり、人体が検出用アンテナ23から離れるのにつれて小さくなる。詳細については、後ほど具体的に説明する。
【0033】
図3に戻り、前述のとおり、検出用アンテナ23に人Pが接近すると、人Pと検出用アンテナ23とが電気的に結合し、検出用アンテナ23から受信される電磁波の振幅が変化する。すなわち、センサ回路部24からの出力電圧が変化する。検出部25では、センサ回路部24からの出力電圧に基づいて検出用アンテナ23に人が接近している状態である、すなわち、近接していることを検出する。図3には、検出部25の回路の一例を示しており、センサ回路部24からの出力電圧が、所定の閾値を超えると、トランジスタ251がオンされ、発光ダイオード252が点灯するようになっている。なお、図3では、検出部25の発光ダイオード252を駆動させるために電源を用いているが、他の構成を用いて、検出部25も電源を用いずに構成することが可能である。
【0034】
各床用パネル材Cの検出部25で検出された結果は、例えば、図1に示すように、床下に設けられた通信装置30に集約され、CPU等の演算処理部41を有するサーバ装置40等に転送され、サーバ装置40に接続されたディスプレイ42等に表示される。このように、複数の床用パネル材Cからの結果を集約して処理することで、屋内空間内の人Pの有無のみならず人の行動を検出・推定することが可能となる。具体的には、人Pがある床用パネル材Cを踏んだ後、隣接する他の床用パネル材Cを踏んだことが検出できるので、人Pの移動を推定もしくは検出することができる。より具体的に、人PがドアDから屋内空間に進入し、図1の矢印で示すように移動した場合に、演算処理部41では、まず床用パネル材C12からの出力を基に人が検出されたことがわかり、続いて、床用パネル材C13,C14,C15,C25,C35の順で人が検出されるので、現在床用パネル材C35上に人Pがいることとともに、人Pの屋内空間における移動経路を推定もしくは検出することができる。演算処理部41による人Pの移動経路の演算結果は、例えば、ディスプレイ42に表示される。
【0035】
(実験例1)
まず検出用アンテナ23の大きさを検証するために、以下の実験を行った。
【0036】
床上に、センサ回路部24と接地用アンテナ21との共通のグランドとして、アルミニウム箔(東洋アルミニウム株式会社製1N30、厚さ20μm、大きさ80cm×120cm=9600cm)を敷いて商用電源のグランドとコンデンサを介して接続した。
【0037】
そして、床上に敷いたアルミニウム箔上に、人が乗るための実験用台(絶縁体22に相当)を設置した。実験用台は、陶器タイル製であり、サイズが30cm×50cm、厚さ5cmである。センサ回路部24は床から1m離し、被験者が絶縁体22の上に乗ることで人体と接地用アンテナ21との間にギャップ(60mm)を作った。
【0038】
また、実験用台の上方に検出用アンテナ23を配置し、検出用アンテナ23のサイズを変えてセンサ回路部24からの出力電圧(以下、単に出力電圧ともいう)を測定した。検出用アンテナ23のサイズは、5cm×7.5cm、7.5cm×10cm、10cm×15cm、15cm×20cm、20cm×30cm、30cm×40cm、40cm×60cm、60cm×80cm、80cm×120cmとした。また、測定条件は、「A)被験者が人検出用アンテナに近づいて触れる」、「B)被験者が人検出用アンテナから1m離れる」の2つとした。
【0039】
図5は、横軸に各検出用アンテナ23のサイズをとり、それぞれのサイズ毎に、条件A)及び条件B)における出力電圧、並びに、条件A),B)の出力電圧差を示したものである。換言すると、条件A),B)の出力電圧差は、人Pの有無による出力電圧の差を示している。
【0040】
図5に示すように、条件A)、B)のどちらにおいても、検出用アンテナ23のサイズを大きくするほど出力電圧は高くなった。条件A)、B)の出力電圧差については、検出用アンテナ23のサイズを大きくするほど電圧差は小さくなった。また、人検出用アンテナのサイズが60cm×80cm及び80cm×120cmでは、出力電圧は、人が近くに居ない場合の方が高かった。
【0041】
出力電圧差に関し、検出用アンテナ23のサイズが大きくなるのにしたがって、人の有無による出力電圧差が小さくなることから、検出用アンテナ23のサイズが小さい方が人検出センサとしては適している。しかし、原理上、人が検出用アンテナ23のアンテナ面にいなければ検出できないため、検出用アンテナ23が小さいと狭い範囲の検出しかできない。
【0042】
ここで、出力電圧差は、30cm×40cmでは0.76Vであり、40cm×60cmでは0.12Vである。したがって、検出用アンテナ23のサイズは、30cm×40cm=1200cmまでの大きさが好ましい。
【0043】
なお、検出部25として3V系の回路を用いる場合、センサ回路部24からは3V程度の出力電圧が必要となる。これに対し、検出用アンテナ23のサイズが5cm×7.5cmの場合に条件A)の出力電圧は2.72Vであるが、例えば、コッククロフト・ウォルトン回路241の昇圧段数を増やすことで、出力電圧は調整することができる。
【0044】
(実験例2)
次に、接地用アンテナ21の大きさを検証するために以下の実験を行った。実験例1では、センサ回路部24のグランドを商用電源のグランドに接続していたが、実験例2では、センサ回路部24のグランドをアルミニウム箔製の接地用アンテナ21(東洋アルミニウム製1N30、20μm厚、大きさは後述する)に接続し、床の上に置いている。
【0045】
実験例2では、接地用アンテナ21の面積を変更して実験を行った。具体的に、接地用アンテナ21のサイズは、5cm×7.5cm、7.5cm×10cm、10cm×15cm、15cm×20cm、20cm×30cm、30cm×40cm、40cm×60cm、60cm×80cm、80cm×120cmとして実験を行った。また、接地用アンテナ21がない場合と、接地用アンテナ21を設置する代わりに商用電源のグランドに接続した場合の評価も行った。また、検出用アンテナ23のサイズは、30cm×40cmとし、実験用台のサイズは検出用アンテナ23のサイズ以上とした。
【0046】
上記以外の実験環境、測定条件は、上記の「実験例1」と同様であり、ここでは、その詳細説明を省略する。
【0047】
図6は、横軸に各接地用アンテナ21のサイズをとり、それぞれのサイズ毎に、条件A)及び条件B)における出力電圧、並びに、条件A),B)の出力電圧差を示したものである。「実験例1」と同様に、条件A),B)の出力電圧差は、人の有無による出力電圧の差を示している。
【0048】
図6に示すように、センサ回路部24の出力電圧が3V以上となったのは、接地用アンテナ21のサイズが15cm×20cm以上のときであった。また、人が近くに居ない条件Bにおいて、接地用アンテナ21のサイズが80cm×120cmのときにセンサ回路部24の出力電圧が2.12Vであった。したがって、接地用アンテナのサイズは、15cm×20cm以上80cm×120cm以下のサイズとすることが好ましい。人の有無による出力電圧差は、接地用アンテナ21のサイズを大きくするほど大きくなったことから、接地用アンテナ21のサイズは、上記範囲のうちできる限り大きくすることが好ましい。
【0049】
(実験例3)
次に、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21との間に介在する絶縁体22の厚みを検証するための実験を行った。絶縁体の中にセンサ回路を埋め込む場合、絶縁体22の厚みはセンサ回路部24の厚みより大きくなければいけない。また、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21との間のカップリングを防ぐ観点から、両者間に十分なギャップを作ることが好ましい。検出用アンテナ23と接地用アンテナ21とを向かい合わせて配置した場合、両アンテナ23,21によりコンデンサが形成される。そして、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21と間のカップリングのしやすさは、両アンテナ23,21間の静電容量に依存する、すなわち、両アンテナ23,21の面積と両者間の距離に依存する。以上の背景から、両アンテナ23,21間に、どれぐらいのギャップがあると安定して人Pが検出できるかを評価した。
【0050】
実験例3では、実験例1と同様の実験環境において、絶縁体の厚みを4mm、20mm、40mm、60mm、80mm、100mmとしたときのセンサ回路部24の出力電圧を評価した。また、実験例3では、測定条件として、「A)人が床用パネル材Cの上で立つ」及び「B)人が床用パネル材Cから1m離れた場所に立つ」の2つとした。なお、人検出用アンテナが露出することによる劣化を防止する観点から、検出用アンテナ23を露出させた場合に加えて、検出用アンテナ23を厚さ4mmの絶縁層で覆った場合について評価した。
【0051】
図7及び図8は、横軸に絶縁体22の厚さをとり、それぞれの厚さ毎に、条件A)及び条件B)における出力電圧を示したものである。図7は、検出用アンテナ23を露出させた場合のグラフであり、図8は、検出用アンテナ23を厚さ4mmの絶縁層で覆った場合のグラフである。
【0052】
図7に示すように、条件A)について、絶縁体22の厚さを大きくすることで、出力電圧が高くなることが確認された。また、絶縁体22の厚さが4mmでは、条件A)と条件B)との出力電圧がほとんど変わらなかった。そのため、絶縁体22の厚さは、4mmを超えることが好ましく、特に20mm以上であることが好ましい。なお、人が存在する条件A)では、絶縁体22の厚さが40mm以上の際に出力電圧が3Vを超えたことから、40mm以上がさらに好ましい。なお、絶縁体22の厚さ40mmは、センサ回路部24を搭載する空間としては十分な厚さである。
【0053】
図8に示すように、検出用アンテナ23を厚さ4mmの絶縁体22で覆った場合でも、若干の出力電圧低下は見られるものの、図7の場合と同じような出力電圧が得られた。具体的に、絶縁体22の厚さ40mmにおいて、出力電圧が2.84Vであった。この出力電圧は、3Vを下回っているが、3V系の回路においても十分利用できることが示唆された結果である。
【0054】
(実験例4)
次に、接地用アンテナ21、絶縁体22、検出用アンテナ23及びセンサ回路部24を一体化したセンサノードの評価実験を行った。具体的には、屋内空間への設置を想定して、センサノードの上に室内マット(非導体製、厚さ5mm)を敷き、センサノードの上に人Pが乗った場合(近接している場合に相当)と、本を乗せた場合について検出の有無を評価した。人は、靴下をはいた状態と、靴を履いた状態について評価した。また、電磁波源として、蛍光灯、IHクッキングヒーター(アイリスオーヤマ製IHクッキングヒーターIHK-T41-B、1400W出力)、PC(株式会社ユニットコム社製BTOデスクトップパソコン)、TV(シャープ社製LC-40U45)を用意し、それぞれの電源をオン/オフさせて評価をおこなった。また、蛍光灯10以外の電磁波源については、電磁波ノイズ源から検出用アンテナ23までの距離を20cm、50cmとを変えて評価した。
【0055】
以下の表1と表2は、実験例4の評価結果を示している。表1は、電磁波源から検出用アンテナ23までの距離が20cmの場合の評価結果、表2は同50cmの場合の評価結果である。表1,2では、屋内空間に何も無いとき、人Pが靴下を履いて検出用アンテナ23上に存在していたとき、人Pが靴下に加えて靴を履いて検出用アンテナ23上に存在していたとき、人に代えて重さ5kgの本を検出用アンテナ23上に載せたときについての結果を記載している。また、感圧式センサ(Taiwan Alpha Electronic社製MF02-N-221-A01)で測定した場合と、本実施形態の方式(表では、「電磁波ノイズ式」と記載する)で測定した場合の結果を示している。本開示の人検出システム(電磁波ノイズ式)については、センサ回路部24の出力電圧が2.0V以上となって検出と判断されたものを「○」、出力電圧が2.0V以下となって検出と判断されなかったものを「×」として評価した。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1に示すように、従来技術の感圧式人感センサは、人を検出することができる一方で、本等の重いものを乗せた時に誤検出することがわかる。これに対して、本開示の人検出システムでは、電気製品からの距離間20cmにおいて、蛍光灯とPC、IH、TVをそれぞれオンさせたときに、期待どおりの検出ができた。また、全ての電気製品の電源を入れた場合(表では、「ALL」と記載)に、人Pがセンサノードの上に居ない時に誤検出することがあった。
【0059】
また、表2に示す様に、電気製品からの距離が50cmにおいて、蛍光灯とPC、全ての電気製品の電源が入っている時は期待どおりの検出結果だった。一方で、IHについては人が居ても検出できなかった。TVについては、人が靴下の状態では検出でき、靴を履いた状態では検出しないという結果が得られた。
【0060】
以上の結果より、本開示の人検出システムは、専用の電源が無くても人の検知が可能である。さらに、電磁波源の種類や配置によっては、従来の感圧式人感センサよりも人の検出精度を高めることができる。
【0061】
以上をまとめると、本実施形態では、電磁波源(例えば、蛍光灯10)が設置された屋内空間において人を検出するための人検出システムを対象として、屋内空間の床面53に沿うように敷設又は設置された接地用アンテナ21と、接地用アンテナ21に対して絶縁体22を介して対向して配置される検出用アンテナ23と、検出用アンテナ23と接地用アンテナ21との間に電気的に接続され、検出用アンテナ23から入力される電磁波源からの電磁波の電力で動作し且つ当該電磁波の電力に応じた出力信号を出力するセンサ回路部24と、センサ回路部24の出力信号に基づいて検出用アンテナ23に近接する人の有無を検出する検出部25とを備えることを特徴とする。
【0062】
本構成によると、電磁波源からの電磁波の電力に基づいて人を検出するので、屋内空間内の環境の影響を受けずに人を検出することができる。また、検出用アンテナ23から入力される電磁波源からの電磁波の電力で動作するので、省電力で動作することができる。
【0063】
上記の人検出システムにおいて、接地用アンテナ21、絶縁体22、検出用アンテナ23及びセンサ回路部24を一体的に構成した床用パネル材Cを、屋内空間の床面53に並べて配置することで床構造体5を構成し、検出部25は、それぞれの床用パネル材Cのセンサ回路部24からの出力信号を受け、センサ回路部24の出力信号に基づいて、床構造体に近接する人の有無を検出する、としてもよい。
【0064】
このように、床用パネル材Cに一体化することにより、床面53への設置が容易になる。また、人の検出結果に基づいて人の移動を推定する演算処理部を更に備えることで、人の移動を推定、検出することができる。
【0065】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態において、人の移動を推定もしくは検出するための演算処理部41は、床用パネル材Cの外側に設けられているものとしたが、これに限定されない。例えば、演算処理部41が、センサ回路部24に組み込まれていてもよい。すなわち、1つまたは複数の床用パネル材Cに、演算処理部41が組み込まれていてもよい。
【0066】
また、上記の実施形態では、床用パネル材Cに、接地用アンテナ21、検出用アンテナ23及びセンサ回路部24を内蔵する例を示したが、これに限定されず、接地用アンテナ21、検出用アンテナ23及びセンサ回路部24をそれぞれ別体に構成し、それぞれ床面53に設置するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、専用の電源が無くても人の検知が可能であり、極めて有用である。
【符号の説明】
【0068】
5 床構造体
10 蛍光灯(電磁波源)
21 接地用アンテナ
22 絶縁体
23 検出用アンテナ
24 センサ回路部
241 コッククロフト・ウォルトン回路
25 検出部
53 床面
C 床用パネル材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8