(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】流動性を有した脂肪酸ナトリウム石鹸を基材とした洗剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11D 9/30 20060101AFI20231018BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20231018BHJP
A61K 8/64 20060101ALI20231018BHJP
A61Q 19/10 20060101ALI20231018BHJP
C11D 9/26 20060101ALI20231018BHJP
C11D 9/60 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C11D9/30
A61K8/36
A61K8/64
A61Q19/10
C11D9/26
C11D9/60
(21)【出願番号】P 2019105036
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】516373328
【氏名又は名称】株式会社ビースタイル
(74)【代理人】
【識別番号】100187322
【氏名又は名称】前川 直輝
(74)【代理人】
【識別番号】100213702
【氏名又は名称】渡邉 芳則
(72)【発明者】
【氏名】尾池哲郎
【審査官】中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-057287(JP,A)
【文献】特開2014-193992(JP,A)
【文献】特開2014-148512(JP,A)
【文献】特開2000-327591(JP,A)
【文献】特開2016-027026(JP,A)
【文献】特開平02-070799(JP,A)
【文献】特表2004-513958(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C11D 1/00- 19/00
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00- 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪酸ナトリウム石鹸素地10~35重量部、環状ペプチド界面活性剤0.01~5重量部、水65~90重量部、増粘安定剤0.01~1重量部、
油脂、グリセリン又はホホバ油である流動助剤0.5~5重量部を加え、起泡を導入しながら容量が
元の容積と比較して130%
から160%に増加するまで攪拌し、さらにせん断刃つきミキサーで撹拌した後、1時間以上静置し、再度せん断刃つきミキサーで撹拌して製造することを特徴とする流動性を有した脂肪酸ナトリウム石鹸を基材とした洗剤
の製造方法。
【請求項2】
請求項1の各成分の配合条件が、脂肪酸ナトリウム石鹸素地15~25重量部、環状ペプチド界面活性剤0.1~1重量部、水70~80重量部、増粘安定剤0.05~0.2重量部、流動助剤1~3重量部であり、せん断刃つきミキサーの回転数が毎分5000回転以上であり、環状ペプチド界面活性剤がサーファクチンであり、増粘安定剤がカルボキシメチルセルロースであり、流動助剤がホホバ油であり、撹拌前後の容量変化が140%以上に増加することを特徴とする流動性を有した脂肪酸ナトリウム石鹸を基材とした洗剤
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流動性を持たせた脂肪酸ナトリウムを基材とした洗剤に関する。特に取扱い易さ、清潔さ、すすぎやすさ、使用感、高級感、機能性、品質安定性、汎用性、新商品への開発可能性を向上させるために流動性を持たせた脂肪酸ナトリウムを基材とした洗剤に関する。
【背景技術】
【0002】
現在一般的に流通している洗剤は、純石鹸(脂肪酸ナトリウムおよび脂肪酸カリウム)と、その他の合成洗剤の大きく二つに大別される。純石鹸は、植物油や動物油をアルカリ(水酸化ナトリウムあるいは水酸化カリウム)でケン化することによって得られる洗剤であり、その他の安価な合成洗剤が開発されて以降も、そのすすぎ易さ、自然な香り、使用後のさっぱり感、適度な殺菌力、生分解性、環境に与える影響の小ささから、根強い人気を維持してきた。特に水酸化ナトリウムによってケン化された純石鹸(脂肪酸ナトリウム)は、香りが柔らかく、泡がきめ細かく、泡切れがよく、低刺激性のため、主に人肌を洗うために利用されてきた。水酸化カリウムでケン化されたものからは液体せっけんが得られ、主に洗濯用として利用され、一部シャンプーとして利用されている向きもあるが、やや刺激のある香りと、洗い上がりのきしみ感から肌の洗浄用としては敬遠されている。
【0003】
純石鹸以外の合成洗剤は大量に生産でき、安価で、かつ化学的に機能性を容易に追加できるため、現在では純石鹸よりも広く普及している。特に、アルキル硫酸系の界面活性剤は、ミネラルが含まれている場合でも洗浄能力が落ちず、少量で長期間利用できるため、家庭用として一般的な洗剤である。しかし後述の通り、脱脂力の強さや、肌への吸着性、生分解性の低さといった問題点も多い。また第三の洗剤として微生物由来の界面活性剤(サーファクチン)も開発されたが、それ単独ではコストが高く、普及は遅れている。
【0004】
脂肪酸ナトリウム系の石鹸は、使用感ではもっとも人肌に優しく、しかも環境へ与える負荷も小さいため一定の需要を維持しているが、常温固形であるため、各社は純石鹸をベースに、使いやすい液体タイプや、発泡タイプの商品開発に腐心してきた。
【0005】
たとえば、特開2004-210833 の「石鹸組成物及びその製造方法」では、脂肪酸やアルコール化合物をアルカリでケン化し、35%以上の濃度の流動性の石鹸を得ている。また、特開2003-040761の「突っ張り感を緩和された洗浄料」では、脂肪酸系石鹸のもつ洗い上がり感を追求し、過剰な皮脂を除去するために感じるツッパリ感を緩和するため、ジポリヒドロキシステアリン酸ポリオキシエチレンを配合し、クリーム状にしている。
【0006】
特開2002-356417の「液体身体洗浄料」では、流動性と低温安定性が良好で、かつ脂肪酸石鹸の長所である泡立ち、ぬるつき感のなさを実現するため、脂肪酸カリウム塩に、グリチルリチン酸塩、あるいはアニオン界面活性剤を配合して、液体せっけんを得ている。
【0007】
特許3421018 の「ホイップドO/W型乳化化粧料及びその製造方法」では、脂肪酸石鹸のホイップド化粧料を作成するため、カチオン型高分子を加え、泡立った状態で充填するものである。しかし、流動性を持たない場合は、脂肪酸ナトリウムを使用すると、ポンプアップができないほどに固形化するため、使用できなくなる。使用するためには広い温度範囲(1℃~37℃)において流動性を保たなければならない。
【0008】
特許2132950 の「液体石鹸組成物」では、もともと水溶性の高いカリウムあるいはジエタノールアミン等をアルカリ剤とした液体石鹸で、脂肪酸の炭素数を12以上とするものを利用して課題を克服しようとしている。
【0009】
特許4667163の「透明ゲル状洗浄剤組成物」では、クラフト点が低いオレイン酸やイソステアリン酸のカリウム塩によって低温域でもゲル状を維持する洗浄剤を提案している。しかしこれもカリウム塩によるものである。
【0010】
以上のような先行技術の課題を克服するために特開2017-057287の「流動性を有した脂肪酸ナトリウム石鹸」では、石鹸素地粒子と気泡にせん断力をかけることで微粒子に粉砕し、安定化させることで流動性を確保する方法を見出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2004-210833
【文献】特開2003-040761
【文献】特開2002-356417
【文献】特許3421018
【文献】特許2132950
【文献】特許4667163
【文献】特開2017-057287
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
純石鹸以外の合成洗剤を使用した流動性を持った洗剤の場合、その合成界面活性剤が人肌に吸着することによる、ぬるぬる感、残膜感が洗浄後に残ってしまう。特にカチオン系界面活性剤は人肌や毛髪に吸着しやすく、保湿感と誤認されるケースもあり、長時間残存すると肌荒れの原因になったり、洗浄後に適用する育毛剤などの有効成分の効果を阻害する原因になったりする。特にアルキル硫酸系の合成界面活性剤の場合、皮脂を取りすぎる傾向にあり、毛穴の奥の皮脂まで取り去った場合、お風呂上がりの乾燥後に、つっぱり感、ちくちく感、かさかさ感が残ることになる。
【0013】
脂肪酸ナトリウム以外の合成界面活性剤は天然に存在しない物質が多いため、生分解性に乏しく微生物が処理できないことが多いため排水後に、環境中に残存し、自然環境に与える影響が大きい。脂肪酸石鹸の持つ課題もある。液体状脂肪酸石鹸は、ケン化の際に水酸化カリウムを使用することで容易に得ることができるが、カリウム系石鹸は、泡が粗く、フォーミング後の高級感に劣り、洗い上がりにも違和感を覚えることがある。
【0014】
またカリウム純石鹸は臭いにやや違和感を生じる場合があるため、カリウム石鹸を主成分とした液体シャンプーなどは香料を配合したものが多い。香料は人肌に刺激の強いものも多いため注意を要する。純石鹸系のシャンプーはほぼすべてがカリウム石鹸を使用したものであるが、カリウム石鹸は油の配合量を増やすことが難しいため、洗い上がりのきしみ感が強く残る傾向にある。
【0015】
特許文献7に示した先行技術の液体純石鹸も登場しているが、時間と共に固液分離する可能性があり、それが消費期限の短さや、希釈しにくいといった商品開発上の課題につながっている。
【0016】
以上のような課題から、使用感や環境に与える影響を考慮すると、脂肪酸ナトリウム純石鹸が最も課題の少ない界面活性剤であるが、常温固形であり、使用においては人肌に触れた石鹸表面を常に外気にさらすことで不清潔感があり、さらにその石鹸表面が常に溶解と乾燥を繰り返すために形状が一定でなく、高級感を持たない。使用に伴って石鹸は小さくなるため、表面積が減少し、泡立てるのに時間がかかる上、ある程度小さくなってしまうと、使いにくくなり、そのまま放置されるか、廃棄される。
【課題を解決するための手段】
【0017】
発明者は、これらの課題が長年解決できていない要因は、脂肪酸ナトリウム純石鹸自体の流動性改善がほとんど考慮されず、その他の界面活性剤や添加剤の配合によって流動性を持たせようとしているからであると考えた。つまり流動性の低い脂肪酸ナトリウムに、流動性の高い他の合成界面活性剤や増粘剤や安定剤を配合して流動性を持たせようとしてきたものの、脂肪酸ナトリウム自体の改良を経ない以上は十分な流動性の確保は困難であり、結局、流動性の高いカリウム石鹸やアルキル硫酸エステル塩が主たる成分に置き換わってしまう結果となっている。そうした考え方は脂肪酸ナトリウムの固形純石鹸をそのまま液状化する開発方向性を長年にわたって失うことにつながった。
【0018】
発明者は、脂肪酸ナトリウムの優れた長所を引き継いだ流動性洗剤を得るためには、あくまでも脂肪酸ナトリウムを主成分とする固形純石鹸をそのまま液状化すべきであり、かつ、流動性を持たせるためには、添加物などの配合成分の組み合わせといった化学的見地だけに頼らない、より広範囲な物理化学的な対策が必要であると考えた。
【0019】
発明者は脂肪酸ナトリウムの流動性向上に利用できる手段について調査研究し、マイクロバブル、ホモジナイザー、チョッパーミキサー、ホモミキサーといった機材を用いて様々な手法を試みた。その中で、極めて大きなせん断力を用いて脂肪酸ナトリウム粒子径をできるだけ小さくすることによって、これまでとは異なる外観の脂肪酸ナトリウムが得られることが分かった。その実験結果についてつぶさに比較検証する中で、親水性の高い脂肪酸ナトリウム粒子と、水と、こまかな気泡とオイルを巻き込むことで、長期的かつ広い温度範囲で安定的な流動性石鹸を作り出せるのではないかと考えた。
【0020】
固形脂肪酸ナトリウム石鹸素地、水、油、空気を混合した場合に形成される、気液ミセルと液液ミセルの粒径をできるだけ小さくすることで、それぞれの微小ミセル表面に水和水が均一に結合し、それら集合体が安定的な流動性を維持できるのではないかと考えた。
【0021】
そのために必要な知見は、成分を粉砕し微小ミセルを生じさせるための物理的力(せん断力)と、それを実現するための各化学成分の配合量である。特に空気の混合比率については重要であり、撹拌前後の容量変化によって調整を試みた。脂肪酸ナトリウムに大きな剪断力をかける具体的技術として、メカノケミカルに着目した。メカノケミカルとは、固体物質が粉砕過程で界面に受ける剪断力、摩擦力、圧縮力等の物理的エネルギーにより界面に活性を持った結合面が生じる現象を利用した技術であり、その結果として新たな特性を有した物質が得られる。微小ミセル安定化のための知見を得ることができれば、温度変化においても大きな粘度変化を生じなくなるのではないかと考えた。しかも十分に水と結合した微細な気泡状態の脂肪酸ナトリウムは、生じる金属石鹸(石鹸カス)の粒子も小さくなり、より洗い流しやすくなることも期待した。
【0022】
こうした脂肪酸ナトリウムを起点とする着想により、十分な安定性と洗浄力、流動性を有し、石鹸カスが生じにくく、洗い流しやすく、かつ、常に清潔な状態でポンプ吐出できる、まったく新しい液状の石鹸洗剤を得ることができることを想定した。以上のメカニズム上の仮説は開発の方向性と手法を考察するためのものであり、発明品のメカニズムを特定するものではない。
【0023】
高い剪断力を生み出すプロシェアミキサー、ハイシェアミキサー、カッターミキサー、チョッパーミキサー、ホモジナイザーなどの産業用ミキサーは高価であり、民生用の石鹸製造への利用はほとんど見られなかった。実際に特許文献調査でも、強い剪断力を利用した流動性石鹸の事例は見られない。しかし近年、製造機械のコストが下がることで、高価だった上記のミキサーも安価になっている。メカノケミカルの石鹸製造への適用によって脂肪酸ナトリウムの新たな形態が生まれると考え、適用と試作を開始した。
【0024】
原料として検討した脂肪酸ナトリウム系石鹸は4種類であり、植物性および動物性の石けん素地、および熟成直後のスラリーである。石鹸素地は水に溶解させることでスラリー状にすることができる。発明者は、このスラリーの段階においてメカノケミカル現象を利用できると考えた。
【0025】
まず固形石鹸は、薄くスライスした後に添加水分とともに加熱するとスラリー状にすることができる。しかしその場合は過剰な添加水量でなければ冷却と共に元の固形状態に戻り、実用的ではなかった。次に回転数毎分5000回転以上のチョッパーミキサーによって剪断力をかけながら混錬した結果、同様に溶解しスラリー状になると共に、さらに気泡をまきこむことで、発泡させることが可能で、流動性と粘性を持った液状の石鹸が得られた。しかし時間の経過と共に水が分離した。
【0026】
次に、粉末状の石鹸素地を利用してスラリーを作り、さらにホイップミキサーによる事前の気泡巻き込みを導入したり、チョッパーミキサーの回転数を毎分5000回転以上に上げたり、刃の傾き、混錬タンクの形状を工夫することで、さらに根気よく条件を繰り返し調整したところ、特定の条件下において粘性が安定し、液状の石鹸洗剤を得ることができた。
【0027】
しかしこの液状石鹸も、時間変化や温度変化によっては水が分離し、特に37℃以上の環境では分離速度も速いことが分かった。また0℃以下の低温域では硬化することもあった。
【0028】
発明者は、増粘安定剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)を配合し、また添加剤としてアスコルビン酸ナトリウムを配合したところ、37℃において6か月以上の長期にわたり水の分離が起きないことが分かり、0℃においても硬化が起きず、ポンプ吐出が可能であることが分かった。
【0029】
発見者は、さらに使用感や高級感を追求するため、1年間にわたり、モニターユーザーへ試作品を配布し、評価を実施した。その結果、使用後のべたつき、ポンプボトルの吐出口での乾燥、気泡の安定性(見た目の高級感)、寒冷時の硬化といった課題が指摘され、これらの課題について、使用感、流動性、高級感、安定性を補完するため、流動助剤としてホホバ油を配合し、混錬条件を変化させたところ、実施例に示した特定の配合条件において課題を克服することに成功した。その結果得られた液状石鹸は、発泡性、洗浄性いずれにおいても固形石鹸と大きな違いはなかった。合成洗剤に比較した場合は発泡性、洗浄性において劣る課題があったものの、微生物由来の界面活性剤であるサーファクチンを微量配合することにより、それらの課題もある程度克服することができ、かつ生分解性を維持できることが分かった。
【0030】
ホホバ油はグリセリンの配合と比較して流動安定性が向上し、洗い上がりのつっぱり感が緩和され、しっとり感が長続きする結果となった。また、混錬条件の改善においては、気泡の巻き込み程度(容積の増加程度)、そして混錬時間を長くすることで、気泡がよりきめ細かく、そして気泡と流動性がより安定した。また一回目に混錬と気泡巻き込みを行った後、数時間放置すると粘度が徐々に上昇した。しかし翌日以降に再度せん断力により混錬したところ、粘度の変化が低下し、流動性の安定性が向上した液状の純石鹸を得ることができた。この静置時間を挟んだ複数回混錬による粘度安定性の改善は特に大きな発見であった。以上の知見と発見は、脂肪酸ナトリウムだけに立脚し、物理化学的見地における大胆な試作条件のもとでなければ到底辿り着かないものである。特にホイップミキサーによる気泡の巻き込みとチョッパーミキサーによる気泡の粉砕の組み合わせは、気泡の微細化とメカノケミカル現象に着目したミセル表面への水和水の吸着といった着想がなければ試みられない条件であり、複数回の混錬による粘度安定性の向上や、微量のサーファクチンと組み合わせは以上の条件を前提としなければ得られない発見である。
【0031】
以上の検討によって得られた脂肪酸ナトリウムを主剤とした液状洗剤は、純石鹸以外の合成洗剤に見られるような、ぬるぬる感、残膜感がなく、なおかつ、皮脂を取りすぎることがないため、お風呂上がりの乾燥後に、つっぱり感、ちくちく感、かさかさ感が残らず、自らの皮脂の働きで、しっとりとした洗い上がりになる。
【0032】
また脂肪酸ナトリウム界面活性剤はもともと自然に存在する脂肪酸塩であるため、微生物が好んで分解するため生分解性に優れ、排水後に、環境中に残存することがなく、自然環境に与える影響も少ない。本発明において生分解性は極めて重要な要素であり、発泡性を改善するために配合する界面活性剤は純石鹸、あるいは微生物由来の界面活性剤に限定される。
【0033】
また脂肪酸ナトリウム石鹸は、カリウム系石鹸と異なり、泡がきめ細かく、フォーミング後にふわっとした泡が形成され、高級感があり、洗い上がりもしっとりとする。
【0034】
脂肪酸ナトリウム石鹸は、いわゆるソープの自然な香りであり、洗剤の中ではもっとも受け入れられている香りである。そのため、追加で香料を配合せずとも、洗顔ソープ、ボディーソープ、シャンプーとして、従来の純石鹸と同様に使用できる。また、粘性を持っているため保湿油の配合が容易である。すでに起泡されているため香料がごく少量で済み、肌への負担も最小限に抑制できる。
【0035】
ポンプボトルに充填して使用できる程度の流動性、安定性、耐乾燥性を持っているため、従来の固形石鹸のような、不清潔感がなく、ボトルの形状を選ぶことで高級感を持たせることができ、取扱い易く、かつ最後まで使い切ることができるため、経済的である。さらには希釈もできるため、固形石鹸にくらべて開発可能性が格段に広がる。
【発明の効果】
【0036】
本発明によって、これまで固形状でしか取り扱えなかった脂肪酸ナトリウム石鹸が流動性を持った液状で利用できるようになり、ポンプボトルやチューブに充填して使用できるようになる。これによってユーザーは、合成界面活性剤由来のぬるぬる感、残膜感が伴わない、すすぎが楽で、洗い上りがさっぱりとした洗浄剤をいつでも清潔な状態で手軽に利用できるようになる。粘度や品質の安定性が向上したことにより、希釈や後加工などが容易になり、手洗いソープとしてだけではなく、洗顔剤、ボディーソープ、シャンプー、家庭用洗剤と広い範囲で利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0037】
使用する原材料は、脂肪酸ナトリウム石鹸素地、微生物由来の界面活性剤、水、増粘安定剤、流動助剤、酸化防止剤であり、場合によって香料、防腐剤、金属封鎖剤、顔料、染料、増量剤であり、使用する器具は攪拌ミキサー、起泡ミキサー、せん断ミキサーである。
【0038】
脂肪酸ナトリウム石鹸素地の原料となる脂肪酸は、植物油脂、動物油脂から得られる直鎖状炭化水素カルボン酸であり、ホホバ油、ヤシ油、牛脂などの天然油脂だけではなく、単一成分のオレイン酸、ラウリン酸、ステアリン酸なども含まれる。微生物由来の界面活性剤は環状ペプチドからなる界面活性剤である。
【0039】
水は、望ましくは純水であるが、水道水からミネラルを除去した滅菌水も利用可能である。
【0040】
増粘安定剤は主に増粘多糖類か高分子ポリマーであり、CMCやキサンタンガム、カルボマーなどが望ましいが、これに限定されるものではない。流動助剤は油脂やグリセリンが主に使用され、本発明においてはホホバ油が最も望ましいが、これらに限定されるものではない。酸化防止剤もアスコルビン酸ナトリウムが最も望ましいが、これに限定されるものではない。
【0041】
ミキサーのうち起泡を目的としたミキサーは針金を有した一般的なホイップミキサーでよい。強い剪断力を発生させるチョッパーミキサーは金属製の羽根を有し、回転力毎分1000回転以上のもので、特に5000回転以上のものが望ましい。
【0042】
配合する材料は、脂肪酸ナトリウム石鹸素地10~35重量部、環状ペプチド界面活性剤0.01~5重量部、純水65~90重量部、増粘安定剤0.05~0.5重量部、流動助剤0.5~5重量部、酸化防止剤0.01~0.1重量部を使用する。望ましい配合条件としては、脂肪酸ナトリウム石鹸素地15~25重量部に、純水70~80重量部、増粘安定剤0.1~0.3重量部、流動助剤1~3重量部、酸化防止剤0.01~0.05重量部である。
【0043】
これらを混合した後、チョッパーミキサーで撹拌すると、一定時間後に、混合物の粘度が上がり、スラリー状からゲル状へと変化する。ゲル状となった後、ホイップミキサーによって気泡を巻き込みつつ、一定時間以上混錬すると、次第に全体の容積が増加し、かさ容積(石鹸と巻き込まれた気泡を含めた見た目の容積)が元の容積と比較して130%以上から160%以上に増加する。その後チョッパーミキサーでせん断力をかけ十分混錬すると、粒子と気泡がきめ細かくなり流動性が安定した液状洗剤が得られる。また、一度混錬して得られた液状石鹸洗剤を数時間放置すると粘度が上昇することがあるため、これを数時間後に再度混錬すると、粘度が下がる。これを繰り返すことで品質のより安定した液状石鹸が得られる。
【実施例】
【0044】
脂肪酸ナトリウム石鹸素地としてまるは油脂社製の粉末石鹸21重量部に、環状ペプチド界面活性剤としてカネカ社製のサーファクチンを0.2重量部、純水76重量部、増粘安定剤としてCMC0.1重量部、流動助剤としてホホバ油1.5重量部、酸化防止剤としてアスコルビン酸0.05重量部を加え、ホイップミキサーにより、30秒間撹拌を施すと、次第に粘度が上がり始める。
【0045】
ある程度粘性を持つ流動体になったところで、ホイップミキサーによって気泡を巻き込みながらさらに3分間撹拌すると、全体の容積が増加しはじめ、かさ容積が元の容積と比較して150%以上に増加した。さらにその後回転数毎分5000回転以上のチョッパーミキサーで10分間攪拌して、液状の石鹸が得られた。10時間静置した後、粘度が上がった液状の石鹸をさらに回転数毎分5000回転以上のチョッパーミキサーで10分間攪拌して安定化した液状の石鹸Aを得た。
【0046】
比較例として、増粘安定剤としてキサンタンガム、流動助剤としてグリセリン、ミキサーとして回転数1300回転のテーブルミキサーによって混錬し、液状の石鹸Bを得た。
【0047】
その結果、気泡の大きさにおいて、石鹸Aは石鹸Bよりもきめ細かく、使用感において、石鹸Bは石鹸Aに比べてべたつき感があり、石鹸Aは石鹸Bよりも発泡性が高かった。安定性においては、石鹸Aは37℃において1か月間変化がなく、1℃においてやや粘度が上がったものの、ポンプ吐出と使用上は問題が生じなかった。一方石鹸Bは37℃において水が分離し、1℃において粘度が上がり、吐出がやや難しくなった。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は家庭用品や化粧品だけにとどまらず、工業用品、医療向けなど、流動性を有した脂肪酸ナトリウム系洗浄剤を利用する商品には広く利用することができる。