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特許7368671コンクリート打設前のスラブ下地構造、鉄筋コンクリート製のスラブ構造、コンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法、および鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】コンクリート打設前のスラブ下地構造、鉄筋コンクリート製のスラブ構造、コンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法、および鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E04B 5/40 20060101AFI20231018BHJP
   E04G 25/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
E04B5/40 D
E04G25/00 B
E04G25/00 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021178301
(22)【出願日】2021-10-29
(65)【公開番号】P2023067236
(43)【公開日】2023-05-16
【審査請求日】2021-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】505243939
【氏名又は名称】株式会社山川設計
(74)【代理人】
【識別番号】100110559
【弁理士】
【氏名又は名称】友野 英三
(72)【発明者】
【氏名】山川 幹夫
【審査官】河内 悠
(56)【参考文献】
【文献】特開昭51-026724(JP,A)
【文献】特開2002-061121(JP,A)
【文献】実開昭50-044824(JP,U)
【文献】特開平06-299600(JP,A)
【文献】特開平07-054432(JP,A)
【文献】特開2008-050766(JP,A)
【文献】特開2005-105766(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 5/00- 5/48
E04G 9/00-19/00
E04G 25/00-25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリート打設前の鉄筋コンクリート製のスラブ構造を配設するためのスラブ下地構造であって、
鉄筋が配筋された外壁、仕切り壁、梁部のうちの少なくともいずれかに周縁部が連結されたデッキプレート部であって、鋼製の角パイプ材が溶接により矩形状に形成された枠部と、前記枠部の対辺同士を繋いだ状態に溶接された長尺な複数の第1の掛け渡し部材と、前記枠部及び前記第1の掛け渡し部材にて形成される各長矩形開口をさらに複数の略正方形の開口に分割する短尺な複数の第2の掛け渡し部材とを備えることで縦横方向に升目枠状に成形され支保工機能を有する水平フレームと、前記水平フレームの上面を覆うよう重ねられ固定された鋼板とを含んでなるデッキプレート部と、
工場製作にて前記デッキプレート部の上面に固設され前記デッキプレート部の上面に打設されるコンクリートに埋設されるスラブ内に配筋されるスラブ内鉄筋であって、所要間隔で前記鋼板の縦方向と横方向とに延在する縦方向異形棒鋼と横方向異形棒鋼とが各交差部で括りつけられてなり、さらに前記鋼板の上面より離隔しかつ前記鋼板の上面に打設されるコンクリートに埋設される高さとなるように前記鋼板の上面に一体に設けられた前記スラブ内鉄筋と、
建築現場にて前記デッキプレート部上にコンクリート打設する前に前記デッキプレート部の前記水平フレームの下面に設けられコンクリート打設後に取り外される下がり壁状支保工であって、鋼製の棒材が溶接により横方向に升目枠状に成形されてなる横桟型フレームと、前記横桟型フレームの片面を覆うよう鋼板が重ねて固定されてなる立面パネルとを含み、前記デッキプレート部の前記水平フレームと前記横桟型フレームとが締結手段によって連結された前記下がり壁状支保工と
を備えたことを特徴とするスラブ下地構造。
【請求項2】
前記デッキプレート部の前記スラブ内鉄筋は、
前記鋼板に溶接により所要配置に立設された複数の短尺な間隔保持用の起立鉄筋と、前記複数の起立鉄筋の上部に溶接固定されることにより前記鋼板上に升目枠状に設けられた台枠鉄筋と
をさらに有し、
前記縦方向異形棒鋼と横方向異形棒鋼とが、前記台枠鉄筋に支持されるように掛け渡され括りつけられてなる
ことを特徴とする請求項1に記載のスラブ下地構造。
【請求項3】
スラブの面積に応じて前記デッキプレート部が建築現場にて2つ以上敷き詰められる場合に、鋼板同士の突き合わせ部が接続溶接され、隣り合う前記デッキプレート部の前記スラブ内鉄筋の中、前記デッキプレート部の並び方向に延在する縦方向異形棒鋼同士または横方向異形棒鋼同士に異形棒鋼の補強鉄筋が追加されて重ねて括りつけられまたは溶接されてなる
ことを特徴とする請求項1または2に記載のスラブ下地構造。
【請求項4】
請求項1-3のいずれか1項に記載のスラブ下地構造に係る前記デッキプレート部と前記スラブ内鉄筋との工場製作された下地構造体を、建築現場にて前記鉄筋コンクリート製となり得る外壁、仕切り壁、梁部のうちの少なくともいずれかに周縁部に連結して横架し、前記デッキプレート部の前記水平フレームに前記下がり壁状支保工の前記横桟型フレームとを締結手段で連結し、請求項1-3のいずれか1項に記載のスラブ下地構造を構築する
ことを特徴とするスラブ下地構造の構築方法。
【請求項5】
請求項1-3のいずれか1項に記載のスラブ下地構造に係る前記デッキプレート部と前記スラブ内鉄筋との工場製作された一体物を、建築現場にて前記鉄筋コンクリート製となり得る外壁、仕切り壁、梁部のうちの少なくともいずれかに周縁部に連結して横架し、前記デッキプレート部の前記水平フレームに前記下がり壁状支保工の前記横桟型フレームとを締結手段で連結し、請求項1-3のいずれか1項に記載のスラブ下地構造を構築し、
次いで、前記デッキプレート部上にスラブコンクリートを打設し、スラブコンクリートが乾固し圧縮強度が発現されスラブが形成された時点以降に前記下がり壁状支保工が取り外されてなる
ことを特徴とする鉄筋コンクリート製スラブ構造の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はたとえばコンクリート打設前のスラブ下地構造、鉄筋コンクリート製のスラブ構造、コンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法、および鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法に係り、特に、鉄筋コンクリート製の建築物において、コンパネ(コンクリート型枠用合板)およびこれを支持する支保工が不要であり、少ない工程でかつ現場での手間がかからず狭小建て地の鉄筋コンクリート製建築物に適する、コンクリート打設前のスラブ下地構造、鉄筋コンクリート製のスラブ構造、コンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法、および鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の鉄筋コンクリート製のスラブ構造は、長さ可変の突っ張り棒構造の複数の支保工によりコンパネ下面を下支えされるように、梁間に梁上面と面一となるように複数のコンパネが敷設され、コンパネ上に組み込まれ柱鉄筋や梁鉄筋とも組み込まれた鉄筋と、コンパネ上に鉄筋が埋設された状態に打設されたコンクリートとからなる。そして、コンクリートが固化しコンクリートが強度を発現してスラブが形成された時点以降に、コンパネと支保工はその役割を終えるため取り外される。
【0003】
一方、鉄筋コンクリート製の建築物では、床や天井等にコンクリートスラブを形成する際に、金属製の板材を加工したデッキプレートが型枠の一部として用いられる場合が多い。このデッキプレートは、梁の上面に溶接されたり、ボルト締め等によって梁などに固定されるので固化したコンクリートスラブから分離して回収する際の手間が大きな負担になる。
【0004】
特許文献1には、コンクリート型枠用合板およびこれを下のスラブ上に立ち上げる筋交い様に下支えする支保工が不要な鉄筋コンクリート製のスラブ構造およびその構築方法に関する技術が開示されている。この技術によれば、並列に配置された複数の角パイプと複数の角パイプの上に敷設された鉄板とからなるデッキプレートが、角パイプの配列方向の両側のH型鋼からなる梁に取り付けた梁支持具と角材とによってH型鋼に上面を合わせて連結しているとともに、デッキプレートの下面に曲げ強度を付与するためのリブ状の鋼製梁が一体に敷設されている。これにより、デッキプレートは、梁などに固定されず固化したコンクリートスラブから分離して回収することが容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許第6582154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、完成時には鉄筋コンクリート製として構築される建築物において、据付型のデッキプレートを有しコンクリート型枠用合板およびこれを支持する支保工が不要であり、少ない工程でかつ現場での手間がかからず狭小建て地の鉄筋コンクリート製建築物に適する、コンクリート打設前のスラブ下地構造、鉄筋コンクリート製のスラブ構造、コンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法、および鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本願の第1の発明態様に係るスラブ下地構造は、コンクリート打設前の鉄筋コンクリート製のスラブ構造を配設するためのスラブ下地構造であって、鉄筋が配筋された外壁、仕切り壁、梁部のうちの少なくともいずれかに周縁部が連結されたデッキプレート部であって、鋼製のパイプ材が溶接により縦横方向に升目枠状に成形され支保工機能を有する水平フレームと、前記水平フレームの上面を覆うよう重ねられ固定された鋼板とを含んでなるデッキプレート部と、工場製作にて前記デッキプレート部の上面に固設され前記デッキプレート部の上面に打設されるコンクリートに埋設されるスラブ内に配筋されるスラブ内鉄筋であって、所要間隔で前記金属板の縦方向と横方向とに延在する縦方向異形棒鋼と横方向異形棒鋼とが各交差部で括りつけられてなり、さらに前記金属板の上面より離隔しかつ前記金属板の上面に打設されるコンクリートに埋設される高さとなるように前記金属板の上面に一体に設けられた前記スラブ内鉄筋と、建築現場にて前記デッキプレート部上にコンクリート打設する前に前記デッキプレート部の前記水平フレームの下面に設けられコンクリート打設後に取り外される下がり壁状支保工であって、鋼製の棒材が溶接により横方向に升目枠状に成形されてなる横桟型フレームと、前記横桟型フレームの片面を覆うよう鋼板が重ねて固定されてなる立面パネルとを含み、前記デッキプレート部の前記水平フレームと前記横桟型フレームとが締結手段によって連結された前記下がり壁状支保工とを備えたことを特徴とする。
【0008】
上記において、スラブ内組鉄筋の、たとえば縦方向異形棒鋼と横方向異形棒鋼とが各交差部で括りつけられるのは結束線によってでもよいし、場所に応じて番線その他の結束力を発揮できるものによってでもよい。
【0009】
上記において、鋼製の棒材とは、一定の強度を有する一定の長さの長尺材をいい、たとえば丸形パイプ、角型パイプ、軽量棒材等であってもよい。中が空洞のパイプ材が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0010】
上記において、締結手段とは、二つ(以上)の部材を一定強度を保って緊結する機能を持つものをいい、たとえばボルト、ナット、ピボット、溶接等であってもよい。ボルト・ナット構造体が好ましいが、これに限定されるものではない。
【0011】
本願の第2の発明態様として、上記第1の発明態様において、前記デッキプレート部の前記スラブ内鉄筋は、前記鋼板に溶接により所要配置に立設された複数の短尺な間隔保持用の起立鉄筋と、前記複数の起立鉄筋の上部に溶接固定されることにより前記鋼板上に升目枠状に設けられた台枠鉄筋とをさらに有し、前記縦方向異形棒鋼と横方向異形棒鋼とが、前記台枠鉄筋に支持されるように掛け渡され括りつけられてなるようにしてもよい。
【0012】
本願の第3の発明態様として、上記第1または第2の発明態様において、スラブの面積に応じて前記デッキプレート部が建築現場にて2つ以上敷き詰められる場合に、鋼板同士の突き合わせ部が接続溶接され、隣り合う前記デッキプレート部の前記スラブ内組鉄筋の中、前記デッキプレート部の並び方向に延在する縦方向異形棒鋼同士または横方向異形棒鋼同士に異形棒鋼の補強鉄筋が追加されて重ねて括りつけられまたは溶接されてなるようにしてもよい。
【0013】
本願の第4の発明態様に係る鉄筋コンクリート製スラブ構造として、上記第1ないし第3のうちのいずれか1つの発明態様に係るスラブ下地構造と、2階以上の鉄筋コンクリート製のスラブを構成するためのコンクリート打設前の前記デッキプレート部上に打設されるスラブコンクリートとを備え、前記スラブコンクリートが乾固し強度を発現してスラブが形成された時点以降に前記下がり壁状支保工が取り外されてなるようにしてもよい。
【0014】
本願の第5の発明態様に係るスラブ下地構造の構築方法として、上記第1ないし第3のうちのいずれか1つの発明態様に係るスラブ下地構造に係る前記デッキプレート部と前記スラブ内組鉄筋との工場製作された一体物を、建築現場にて前記鉄筋コンクリート製となり得る外壁、仕切り壁、梁部のうちの少なくともいずれかに周縁部に連結して横架し、前記デッキプレート部の前記水平フレームに前記下がり壁状支保工の前記横桟型フレームとを締結手段で連結し、請求項1-3のいずれか1項に記載のスラブ下地構造を構築し、次いで、前記デッキプレート部上にスラブコンクリートを打設し、スラブコンクリートが乾固し圧縮強度が発現されスラブが形成された時点以降に前記下がり壁状支保工が取り外されてなるようにしてもよい。
【0015】
本願の第6の発明態様に係るスラブ下地構造の構築方法として、上記第1ないし第3のうちのいずれか1つの発明態様に係るスラブ下地構造に係る前記デッキプレート部と前記スラブ内組鉄筋との工場製作された一体物を、建築現場にて前記鉄筋コンクリート製となり得る外壁、仕切り壁、梁部のうちの少なくともいずれかに周縁部に連結して横架し、前記デッキプレート部の前記水平フレームに前記下がり壁状支保工の前記横桟型フレームとを締結手段で連結し、請求項1-3のいずれか1項に記載のスラブ下地構造を構築し、次いで、前記デッキプレート部上にスラブコンクリートを打設し、スラブコンクリートが乾固し圧縮強度が発現されスラブが形成された時点以降に前記下がり壁状支保工が取り外されてなるようにしてもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の態様によれば、鉄筋コンクリート製の建築物において、据付型のデッキプレートを有しコンクリート型枠用合板およびこれを支持する支保工が不要であり、少ない工程でかつ現場での手間がかからず狭小建て地の鉄筋コンクリート製建築物に適する、コンクリート打設前のスラブ下地構造、鉄筋コンクリート製のスラブ構造、コンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法、および鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明の一実施形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造を示す正面図である。
図1B】本発明の一実施形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造を示す側面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係るデッキプレート部の平面図である。
図2B】本発明の一実施形態に係るデッキプレート部の平面図である。
図3A】本発明の一実施形態に係るデッキプレート部の上面に複数の起立鉄筋を立設し起立鉄筋の上部に台枠鉄筋を固設した製作途中の平面図である。
図3B】本発明の一実施形態に係るデッキプレート部の上にスラブ内組鉄筋を一体に設けた状態を示す平面図である。
図4】本発明の一実施形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造のコーナ部の斜視図である。
図5】本発明の一実施形態に係る下地構造体を2つ並べた場合のコンクリート打設前のスラブ下地構造を示す正面図であり、図5(B)は図5(A)に示すスラブ下地構造に対してスラブコンクリートを打設したところを示す正面図である。
図6A】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート製のスラブ構造を示す正面図である。
図6B】本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート製のスラブ構造を示す側面図である。
図7A】上下とも本発明の一実施形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法を示す工程図である。
図7B】上下とも本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
[本発明の一実施形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造の実施の形態]
【0020】
図1A図1Bは、本発明の一実施形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造を示す図である。このスラブ下地構造は、鉄筋コンクリート製(鉄骨鉄筋コンクリート製も含む)の建築物において、2階以上の鉄筋コンクリート製のスラブを構成するためのものであって、デッキプレート部10と、スラブ内組鉄筋20と、下がり壁状支保工30とを備えている。
【0021】
デッキプレート部10が先に工場製作され、スラブ内組鉄筋20がデッキプレート部10の上面に一体に組み立てた状態に工場製作される。以下、デッキプレート部10とスラブ内組鉄筋20との一体物を「下地構造体」とも言う。下がり壁状支保工30は別途に工場製作される。下地構造体と下がり壁状支保工30は、トラックで建設現場に搬送され、下地構造体が鉄筋コンクリート製の建築物の2階以上の鉄筋コンクリート製のスラブの下地構造を構成するよう横架されてから、下がり壁状支保工30がデッキプレート部10の下面に連結される。デッキプレート部10と下がり壁状支保工30とを締結手段13で連結するために、両者にはボルト通し孔14が工場製作の段階で設けられている。下がり壁状支保工30は仮設部材であり後に撤去される。
【0022】
[デッキプレート部10]
図2A図2Bは、本発明の一実施形態に係るデッキプレート部10を示す図である。デッキプレート部10は、2階以上の鉄筋コンクリート製の建築物において2階以上の鉄筋コンクリート製のスラブを構築するための、施工後に取り外すことない必要構成要素である。図示のデッキプレート部10は、正方形であるが長方形であってもよい。
【0023】
デッキプレート部10は、鋼製のパイプ材を用い溶接により縦横方向に複数の升目枠状に成形された支保工機能を有する水平フレーム11と、水平フレーム11の上面を覆うよう重ねられスポット溶接により固定された下地鋼板12とを含んでなる。
【0024】
水平フレーム11は、一例として、50mm角の鋼製の角パイプを用いて溶接により矩形状に形成された枠部11aと、枠部11aの開口を複数(図では4つ)の長矩形の開口となるよう枠部11aの対辺同士を繋いだ状態に溶接された長尺な複数の第1の掛け渡し部材11bと、さらに各長矩形開口をさらに複数(図では4つ)の略正方形の開口に分割する短尺な複数の第2の掛け渡し部材11cとを備えてなる。枠部11aが長矩形に設けられる場合、複数の第1の掛け渡し部材11bは、短辺方向に延在するように設けるのが強度上好ましい。下地鋼板12は、例えば0.6~1.2mmの厚さのものが用いられる。
【0025】
デッキプレート部10は、下面側に防錆塗装が施され、下側に天井部が設けられない場合には露出天井となるので、建築主の指定した色で仕上げ塗装が工場製作の段階で行われ、さらに型紙等を使って天井模様の吹き付け塗装が工場製作の段階で行われてもよい。塗装はスラブ内組鉄筋20が組まれる前に施すのがよい。
【0026】
[スラブ内組鉄筋20]
図3A図3Bは、本発明の一実施形態に係るデッキプレート部10上に一体に組付けたスラブ内組鉄筋20を示す図である。スラブ内組鉄筋20は、デッキプレート部10の上面、すなわち下地鋼板12の上面に固設されるものでデッキプレート部10の上面に打設されるコンクリートに埋設されるように設けられている。
【0027】
図4に示すように、本発明の一実施形態に係るスラブ内組鉄筋20は、下地鋼板12に溶接により所要配置に立設された複数の短尺な起立鉄筋21と、起立鉄筋21の上部に溶接固定されることにより下地鋼板12上に升目枠状に設けられた台枠鉄筋22と、台枠鉄筋22に支持されるように縦方向と横方向とに延在して掛け渡され各交差部を番線25で括りつけられた縦方向異形棒鋼23および横方向異形棒鋼24とを含んでいる。
【0028】
縦方向異形棒鋼23および横方向異形棒鋼24は、2本ずつの単位で起立鉄筋21の近くを通るようにかつ台枠鉄筋22を挟むように配設されている。そして、縦方向異形棒鋼23および横方向異形棒鋼24は、下地鋼板12より所要寸法離隔しかつ下地鋼板12上に打設されるコンクリートに埋設される高さとなるように下地鋼板12上に一体に設けられている。このほかに、例えばピアノを置く場所など、必要に応じて、床強度のための配筋が行われてもよい。
【0029】
[下地構造体の大きさ]
下地構造体、すなわちデッキプレート部10とこれと一体のスラブ内組鉄筋20は、工場製作されトラックで建築現場に搬送されるものであるため、基本的に大型トラックに積み込める大きさであってかつ建築物の最小間取りに対応した大きさであることが要求される。大きい間取りに対しては、建築現場で複数の下地構造体を一平面状に一体に連結する。そこで、単一の大きさの下地構造体は、例えば縦1800mm×横1800mm、縦1800mm×横2700mm、または縦2700mm×横2700mmの大きさの矩形の大きさとして工場製作される。
【0030】
[下地構造体の取付構成]
コンクリート打設前のスラブ下地構造は、下地構造体を1つ、または複数を一平面状態に一体に連結されたものが、建築現場で部屋の間取り・大きさに合わせてスラブの下地構成部分として設けられる構成である。
【0031】
図5(A)は本発明の一実施形態に係る下地構造体を縦方向と横方向に2行2列に並べて床面積を縦2倍×横2倍としたコンクリート打設前のスラブ下地構造を示す正面図であり、図5(B)は図5(A)に示すスラブ下地構造に対してスラブコンクリートを打設したところを示す正面図である。
【0032】
複数の下地構造体を一平面状に一体化する組み合わせに際しては、適宜の一平面板上に複数の下地構造体を敷き詰めた状態に保持し、下地鋼板12同士の突き合わせ部の下側に例えば10mmの高さの枕を敷いて突き合わせ部を断続的に溶接するとともに、隣り合うデッキプレート部10のスラブ内組鉄筋の中、デッキプレート部10の並び方向に延在する縦方向異形棒鋼23同士または横方向異形棒鋼24同士に現場追加部材として異形棒鋼の補強鉄筋26の各半分を重ねて両端および中程を番線25で括りつけ、さらに必要があれば連結のための溶接を行うことで達成されている。
【0033】
さらに、全体を例えば、1500mm持ち上げ、台座で下支えして水平に保ち、下側から、隣り合うデッキプレート部10の枠部11a同士をボルト・ナットまたは溶接により一体連結するのがよい。なお、ボルト・ナットにより連結する場合には、工場製作の段階で枠部11aのボルト通し孔を設けておく。
【0034】
一平面状に一体化した複数の下地構造体を揚重機で上記の一平面から若干寸法持ち上げたときに複数の下地構造体が突き合わせ溶接部において下がって折り曲がる恐れがなく、突き合わせ溶接部が両側の端部(両端支持部)に対して例えば5-10mm持ち上がっている状態として、コンクリート打設すると、溶接部が歪んで下がり、全体が略水平に保たれる十分な強度が得られるようにしてもよい。これに合わせ、下がり壁状支保工30Aの、デッキプレート部10の溶接部に対応する箇所に5-10mmのスペーサを設ける。下がり壁状支保工30Aは、高さ寸法が小さいので、下地構造体に比べて軽量であり、例えば4000mmとしてもトラックに積むことができ、また人手による取り扱いも容易である。なお、下がり壁状支保工30Aを半割の長さに2つ形成したものをボルト・ナットで連結してもよい。
【0035】
[下地構造体の取付構造]
下地構造体(デッキプレート部10とこれと一体のスラブ内組鉄筋20)は、鉄筋コンクリート製の建築物の二階以上の設置階のスラブを構成するため、建物躯体50に形成されたスラブ面より所要寸法下がった高さ位置の段差部51(または仕切り壁のコンクリート打設面、または梁部のコンクリート打設後の上面)にデッキプレート部10が載置された状態に両端支持して、スラブ内組鉄筋20の周囲がコンクリート打設前の外壁内の壁鉄筋、仕切り壁のコンクリート打設面より立ち上がる壁鉄筋52(または梁部のコンクリート打設後の上面より立ち上がる梁鉄筋)に短尺な繋ぎ鉄筋53を介して一体に溶接連結されている。
【0036】
[下がり壁状支保工30]
下がり壁状支保工30は、デッキプレート部10の水平フレーム11と同じ鋼製の角パイプ材を用い溶接により升目枠状に成形された横桟型フレーム31と、横桟型フレーム31の片面を覆うよう重ねられスポット溶接により固定されてなる鋼板製の立面パネル32とを含んでなる。横桟型フレーム31は、図示のものでは横一列の升目枠状に形成されているが、縦2列横一列の升目枠状に形成されていてもよい。立面パネル32は無くてもよい任意構成要素である。
【0037】
下がり壁状支保工30は、工場製作されたものであって、建築物の一部として据え付けられたデッキプレート部10の下面に締結手段で連結されている。さらに詳しくは、水平フレーム11の各直線部材11bの下面または各列一直線に並ぶ複数の第2の掛け渡し部材11cの下面に下がり壁状支保工30の横桟型フレーム31が合わされ、締結手段としてのボルト・ナットで連結されている。ボルト・ナットによる連結構造は、下地鋼板12の上面からデッキプレート部10の水平フレーム11、第1の掛け渡し部材11bおよび第2の掛け渡し部材11cの各所定位置を下まで貫通するように設けられたボルト通し孔に上方からアンカーボルト13aを通し、ナット13bを締め付けた構成である。これによれば、アンカーボルト13aは、スラブを構成するコンクリートに埋設されることになり、コンクリート打設後に下がり壁状支保工30を取り外すと、アンカーボルト13aが垂下するので垂下部分を切断除去する。
【0038】
[コンクリート打設前のスラブ下地構造の機能]
デッキプレート部10とこれと一体のスラブ内組鉄筋20は、鉄筋コンクリート製の建築物において、二階以上の鉄筋コンクリート製のスラブを構成する骨格部分を構成している。デッキプレート部10とこれと一体のスラブ内組鉄筋20は、コンクリート打設する前段階では、デッキプレート部10が支保工機能を発揮しコンクリート打設前のスラブ下地構造の横架のためのアーチ強度を担保している。しかし、このアーチ強度は、材料コストの経済性からコンクリートを例えば120mmの厚さに打設した場合でもデッキプレート部10が中折れ折損することはないが中程が下がってしまう剛性強度しかない。そこで、コンクリート打設前にデッキプレート部10の下面に複数の下がり壁状支保工30が取り付けられており、これによって、下がり壁状支保工30が、デッキプレート部10に対するリブ機能を発現し、デッキプレート部10上にコンクリートが打設されてもデッキプレート部10は中程が下がらず一水平面状態に保持される。そして、コンクリートが十分に乾固すると、コンクリートが耐圧力を発現することになり、コンクリートに埋設されたスラブ内組鉄筋20は高い抗張力、曲げ応力、剪断力を発現することになる。そこで、仮設部材である下がり壁状支保工30は強度上必要ではなく、役目を果たしたので取り外すことができる。仮設部材である下がり壁状支保工30は上の階のスラブ下地構造の構成に繰り返し使えることになる。
【0039】
[本発明に係る鉄筋コンクリート製のスラブ構造の実施の形態]
図6Aは、本発明の実施の形態に係る鉄筋コンクリート製のスラブ構造を示す正面図であり、図6Bはその側面図である。鉄筋コンクリート製のスラブ構造は、2階以上の鉄筋コンクリート製のスラブを構成するため、図1A図1Bに示すように横架されたコンクリート打設前のスラブ下地構造に対し、デッキプレート部10上にスラブコンクリート40が打設され、スラブコンクリート40が乾固し圧縮強度を十分に発現してスラブが形成された時点以降に下がり壁状支保工30が取り外されてなる構成である。アンカーボルト13aの突出部はニッパなどで切断除去される。鉄筋コンクリート製のスラブ構造は物の発明であり方法の発明ではないので、コンクリート打設前に下がり壁状支保工30が組付けられていたことや、コンクリートが強度を発現した後に下がり壁状支保工30が取り外されている経緯は加味されないが、デッキプレート部10が中程でコンクリートの重量負担により下がることなく水平を保てる十分な強度があること、並びに、デッキプレート部10には下がり壁状支保工30をぶら下げるための切除したアンカーボルトの残りが存在することが、下がり壁状支保工30が関与して構築された鉄筋コンクリート製のスラブ構造であることを確認できる。
【0040】
[実施の形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法、および実施の形態に係る鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法]
図7Aは本発明の一実施形態に係るコンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法を示す工程図であり、図7Bは本発明の一実施形態に係る鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法を示す工程図である。
【0041】
コンクリート打設前のスラブ下地構造の構築方法は以下の2工程である。
(1)第1の工程:デッキプレート部10とスラブ内組鉄筋20との工場製作された一体物を、建築現場にて鉄筋コンクリート製の外壁、仕切り壁、または梁部に周縁部に連結して横架する。
(2)第2の工程:デッキプレート部10の水平フレーム11に下がり壁状支保工30の横桟型フレーム31とを締結手段(ボルト・ナット)で連結する。
【0042】
鉄筋コンクリート製のスラブ構造の構築方法は以下の4工程である。
(1)第1の工程:デッキプレート部10とスラブ内組鉄筋20との工場製作された一体物を、建築現場にて鉄筋コンクリート製の外壁、仕切り壁、または梁部に周縁部に連結して横架する。
(2)第2の工程:デッキプレート部10の水平フレーム11に下がり壁状支保工30の横桟型フレーム31とを締結手段(ボルト・ナット)で連結する。
(3)第3の工程:デッキプレート部10の上にスラブコンクリート40をスラブ内組鉄筋20が埋設される所要厚さに打設する。
(4)第4の工程:コンクリートが強度を発現してスラブが形成された時点以降に下がり壁状支保工30を取り外し、連結ボルトを取り外すか、または連結ボルトの下方への突出部を折損する。
【0043】
この構築方法によれば、手間がかからない少ない工程で鉄筋コンクリート製のスラブを構成するためのコンクリート打設前のスラブ下地構造を構築することができ、さらにコンクリート打設前のスラブ下地構造を構築することができる。この構築方法によれば、据付型のデッキプレートを有しコンクリート型枠用合板およびこれを支持する支保工が不要であり、少ない工程でかつ現場での手間がかからず狭小建て地の鉄筋コンクリート製建築物に適する。この構築方法によれば、従来の構築方法のような支保工を使ってコンパネを横架しスラブ鉄筋を組み上げることでスラブコンクリート打設できる構築方法と比べて、大幅に工期を短縮することができ、また、隣接地の建物外壁との距離が殆どとれない都会の狭小地で鉄筋コンクリート建築物の構築に好適である。
【符号の説明】
【0044】
10…デッキプレート部
11…水平フレーム
11a…枠部
11b…第1の掛け渡し部材
11c…第2の掛け渡し部材
12…下地鋼板
13…締結手段
13a…アンカーボルト
13b…ナット
20…スラブ内組鉄筋
21…起立鉄筋
22…台枠鉄筋
23…縦方向異形棒鋼
24…横方向異形棒鋼
25…番線
26…補強鉄筋
30,30A…下がり壁状支保工
31…横桟型フレーム
32…立面パネル
40…スラブコンクリート
50…建物躯体
51…段差部
52…壁鉄筋
53…繋ぎ鉄筋
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B