(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】耐火用硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/04 20060101AFI20231018BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231018BHJP
C08L 101/10 20060101ALI20231018BHJP
E04B 1/94 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C08L33/04
C08K3/04
C08L101/10
E04B1/94
(21)【出願番号】P 2019540937
(86)(22)【出願日】2018-08-31
(86)【国際出願番号】 JP2018032455
(87)【国際公開番号】W WO2019049797
(87)【国際公開日】2019-03-14
【審査請求日】2021-07-08
(31)【優先権主張番号】P 2017170029
(32)【優先日】2017-09-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100151688
【氏名又は名称】今 智司
(72)【発明者】
【氏名】石原 奈穂子
(72)【発明者】
【氏名】池田 敦
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 知紀
(72)【発明者】
【氏名】橋向 秀治
【審査官】藤井 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-039893(JP,A)
【文献】国際公開第2014/057689(WO,A1)
【文献】特開2011-042715(JP,A)
【文献】特開2006-348229(JP,A)
【文献】特開2000-143941(JP,A)
【文献】特開2006-087819(JP,A)
【文献】特表2016-528336(JP,A)
【文献】特開2001-354830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
E04B 1/62-1/99
C08G 59/00-59/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、(B)熱膨張性黒鉛と、ノボラック型エポキシ樹脂、リン化合物、ホウ素化合物、及びベンゾオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である形状保持剤とを含有すると共に塗布時に流動性を有し、硬化後の硬化物が、空気中、600℃の雰囲気下で30分間燃焼させた場合に、燃焼後の前記硬化物が形状保持性を有
し、
前記(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは異なる(C)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する有機重合体を更に含有する耐火性の硬化性組成物。
【請求項2】
請求項
1に記載の耐火性の硬化性組成物の硬化物。
【請求項3】
塗布時に流動性を有し、(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、(B)熱膨張性黒鉛と、ノボラック型エポキシ樹脂、リン化合物、ホウ素化合物、及びベンゾオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である形状保持剤とを含有する硬化性組成物の硬化物を備える耐火材であって、
前記硬化物が、空気中、600℃の雰囲気下で30分間燃焼させた場合に、燃焼後の前記硬化物が形状保持性を有
し、
前記硬化性組成物が、前記(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは異なる(C)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する有機重合体を更に含有する耐火材。
【請求項4】
耐火構造体形成工法であって、
構造物の表面の少なくとも一部に、塗布時に流動性を有し、(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、(B)熱膨張性黒鉛と、ノボラック型エポキシ樹脂、リン化合物、ホウ素化合物、及びベンゾオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物である形状保持剤とを含有する硬化性組成物を塗布する塗布工程と、
前記硬化性組成物を硬化させて硬化物にする硬化工程と
を備え、
前記硬化物が、空気中、600℃の雰囲気下で30分間燃焼させた場合に、燃焼後の前記硬化物が形状保持性を有
し、
前記硬化性組成物が、前記(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは異なる(C)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する有機重合体を更に含有する耐火構造体形成工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐火用硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物等の構造物の内部や外部で火災が発生した場合に備え、構造物は、火災の延焼を防止する機能を有することが要求される。そこで、従来、様々な耐火材料を用いた防火構造が提案されている。例えば、特許文献1では、長手方向に中空部を有する樹脂枠材の中空部に注入される用途に用いられる熱膨張性耐火材料であって、(i)反応硬化性樹脂成分、(ii)熱膨張成分、(iii)液状分散剤、及び(iv)無機充填材を少なくとも含み、樹脂枠材と同じ樹脂からなる成形材を液状分散剤(iii)に50℃の温度下に5日間浸漬した際、液状分散剤(iii)に浸漬する前と浸漬した後の成形材の重量変化が1%未満である熱膨張性耐火材料が提案されている。特許文献1に記載の熱膨張性耐火材料によれば、樹脂枠材に用いた場合であっても長期間安定した防火性を示す熱膨張性耐火材料を提供することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の熱膨張性耐火材料は、膨張倍率が5倍を超えるような場合に、膨張残渣の強度が不十分となっており、硬化物が燃焼した後の形状を保持することが困難である。
【0005】
したがって、本発明の目的は、優れた耐火性能を有する硬化物を形成し、硬化物の燃焼後の膨張倍率を高く設計した場合であっても形状保持性に優れる硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記目的を達成するため、形状保持剤を含有すると共に塗布時に流動性を有し、硬化後の硬化物が、空気中、600℃の雰囲気下で30分間燃焼させた場合に、燃焼後の硬化物が形状保持性を有する耐火性の硬化性組成物が提供される。
【0007】
また、上記耐火性の硬化性組成物において、形状保持剤が、ノボラック型エポキシ樹脂、リン化合物、ホウ素化合物、及びベンゾオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【0008】
また、上記耐火性の硬化性組成物が、(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、(B)熱膨張性黒鉛とを含有することが好ましい。
【0009】
また、上記耐火性の硬化性組成物が、(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは異なる(C)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する有機重合体を更に含有することもできる。
【0010】
また、本発明は、上記目的を達成するため、塗布時に流動性を有し、形状保持剤を含有する硬化性組成物の硬化物を備える耐火材であって、硬化物が、空気中、600℃の雰囲気下で30分間燃焼させた場合に、燃焼後の硬化物が形状保持性を有する耐火材が提供される。
【0011】
また、上記耐火材において、形状保持剤が、ノボラック型エポキシ樹脂、リン化合物、ホウ素化合物、及びベンゾオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、上記目的を達成するため、耐火構造体形成工法であって、構造物の表面の少なくとも一部に、塗布時に流動性を有し、形状保持剤を含有する硬化性組成物を塗布する塗布工程と、硬化性組成物を硬化させて硬化物にする硬化工程とを備え、硬化物が、空気中、600℃の雰囲気下で30分間燃焼させた場合に、燃焼後の硬化物が形状保持性を有する耐火構造体形成工法が提供される。
【0013】
また、上記耐火構造体形成工法において、形状保持剤が、ノボラック型エポキシ樹脂、リン化合物、ホウ素化合物、及びベンゾオキサジン化合物からなる群から選択される少なくとも1つの化合物であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る耐火性の硬化性組成物によれば、硬化後に優れた耐火性能及び形状保持性を発揮する硬化物になる耐火性の硬化性組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る耐火性の硬化性組成物は、硬化性組成物の硬化物の燃焼後の形状保持性の確保に寄与し得る機能を有する形状保持剤を含有すると共に塗布時に流動性を有し、硬化して得られる硬化物は、空気中、所定温度下で所定時間燃焼させても、燃焼後における硬化物がその形状を保持する。また、本発明に係る耐火性の硬化性組成物は、(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体と、(B)熱膨張性黒鉛とを含有する。
【0016】
また、本発明に係る硬化性組成物は、硬化して得られる硬化物が所定の硬度を有していてもよい。当該硬化物の硬度は、JIS K6253-3に準拠して求められるデュロメータタイプA硬度が30以上であり、40以上が好ましく、50以上がより好ましい。硬度が前記範囲内であることで、耐圧縮性に優れる硬化物が得られ、耐火構造の適用箇所を選ばず、安定した膨張性を確保することができる。そして、本発明に係る硬化性組成物の硬化物は、(B)熱膨張性黒鉛を含有するため、炎や高温に曝された場合に膨張するが、燃焼後の硬化物の体積が燃焼前の硬化物の体積の5倍を超えるような膨張倍率に設計した場合であっても、膨張した後の燃焼残渣が崩壊しづらく、膨張した状態を保持する形状保持性に優れる。
【0017】
すなわち、本発明に係る硬化性組成物の硬化物は、例えば空気中、600℃の雰囲気下で硬化物を30分間燃焼させた後の燃焼残渣を速度2.0mm/sで持ち上げた場合であっても、持ち上げ前の燃焼残渣の体積に対する持ち上げ後の燃焼残渣の体積が50%以上残存するような形状保持性を有する。なお、持ち上げ前の燃焼残渣の体積に対する持ち上げ後の燃焼残渣の体積は、炎や熱の伝搬を防止若しくは抑制し、より長時間炎や高温に曝された場合であっても耐火性能を発揮する観点から、50%以上が好ましく、80%以上がより好ましい。
【0018】
[硬化性組成物の詳細]
本発明に係る硬化性組成物は、形状保持剤を必須成分として含有する。形状保持剤としては、ノボラック型エポキシ樹脂、及びノボラック型エポキシ樹脂を除く形状保持剤が挙げられ、ノボラック型エポキシ樹脂を(D)ノボラック型エポキシ樹脂、若しくは「(D)成分」と称し、ノボラック型エポキシ樹脂を除く形状保持剤を(D’)ノボラック型エポキシ樹脂を除く形状保持剤、若しくは「(D’)成分」と称する場合がある。
【0019】
更に、主として(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体(以下、「(A)成分」という場合がある)と、(B)熱膨張性黒鉛(以下、「(B)成分」という場合がある)とを含有することが好ましい。また、(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは異なる(C)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する有機重合体を含むことも好ましい(以下、「(C)成分」という場合がある。)。
【0020】
本発明に係る硬化性組成物は、塗布時に流動性を有することを特徴とする。本発明に係る硬化性組成物は、常温環境下(例えば23℃)で塗布してもよく、塗布に適した粘度となるまで加熱して塗布してもよいが、塗布工程の簡略化の観点から、常温環境下で流動性を有していることが好ましい。なお、本発明において、塗布時に流動性を有するとは、一般的に流動性を有しているといえる物性であれば限定はないが、塗布性の観点から特に、被塗布物への塗布時の粘度が0.1Pa・s以上3,000Pa・s以下であることが好ましく、1.0Pa・s以上2,000Pa・s以下がより好ましく、1.0Pa・s以上1,000Pa・s以下であることが特に好ましい。本発明に係る硬化性組成物を加熱して塗布する場合、加熱温度は特に限定されず、塗布性と、(B)熱膨張性黒鉛の膨張開始温度との関係で適宜決定すればよい。
【0021】
[(A)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個する(メタ)アクリル酸エステル系重合体]
(A)成分としては、主鎖が実質的に(メタ)アクリル酸エステル系重合体であり、架橋性ケイ素基を1分子中に平均して少なくとも1個以上含有する有機重合体を用いることができる。(A)成分は、硬化性組成物の硬化物が燃焼した場合に、硬化物の形状保持に寄与し得る(メタ)アクリル酸エステル系重合体である。
【0022】
(A)成分の架橋性ケイ素基は、ケイ素原子に結合した水酸基又は加水分解性基を有し、空気中等の湿分によりシロキサン結合を形成することで架橋し得る基である。架橋性ケイ素基としては、例えば、一般式(1)で示される基が挙げられる。
【0023】
【0024】
式(1)中、R1は、炭素数が1~20の炭化水素基、炭素数が1~20のアルキル基、炭素数が3~20のシクロアルキル基、炭素数が6~20のアリール基、炭素数が7~20のアラルキル基、R1
3SiO-(R1は、前記と同じ)で示されるトリオルガノシロキシ基、若しくは-CH2OR1基(R1は、前記と同じ)である。また、R1は、1位から3位の炭素原子上の少なくとも1個の水素原子が、ハロゲン、-OR2、-NR3R4、-N=R5、-SR6(R2、R3、R4、R6はそれぞれ水素原子、又は炭素数が1~20の置換基を有するか若しくは置換基を有さない炭化水素基、R5は炭素数が1~20の2価の置換基を有するか若しくは置換基を有さない炭化水素基である。)、炭素数が1~20のペルフルオロアルキル基、若しくはシアノ基で置換された炭素数が1~20の炭化水素基を示す。これらの中でR1は、メチル基が好ましい。R1が2個以上存在する場合、複数のR1は同一であっても、異なっていてもよい。Xは水酸基、又は加水分解性基を示し、Xが2個以上存在する場合、複数のXは同一であっても、異なっていてもよい。aは0、1、2又は3の整数のいずれかである。硬化性を考慮し、十分な硬化速度を有する硬化性組成物を得るためには、式(1)においてaは2以上が好ましく、3がより好ましい。
【0025】
加水分解性基や水酸基は1個のケイ素原子に1~3個の範囲で結合することができる。加水分解性基や水酸基が架橋性ケイ素基中に2個以上結合する場合には、それらは同一であっても、異なっていてもよい。架橋性ケイ素基を形成するケイ素原子は1個でもよく、2個以上であってもよいが、シロキサン結合等により連結されたケイ素原子の場合には、20個程度あってもよい。
【0026】
Xで示される加水分解性基としては、F原子以外であれば特に限定されない。例えば、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、アルケニルオキシ基等が挙げられる。これらの中では、加水分解性が穏やかで取り扱いやすいという観点からアルコキシ基が好ましい。アルコキシ基の中では炭素数の少ない基の方が反応性が高く、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順のように炭素数が多くなるほど反応性が低くなる。目的や用途に応じて選択できるが、通常、メトキシ基やエトキシ基が用いられる。
【0027】
架橋性ケイ素基としては、例えば、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基等のトリアルコキシシリル基、-Si(OR)3、メチルジメトキシシリル基、メチルジエトキシシリル基等のジアルコキシシリル基、-SiR1(OR)2が挙げられる。ここでRはメチル基やエチル基等のアルキル基である。また、架橋性ケイ素基は1種で用いても、2種以上併用してもよい。架橋性ケイ素基は、主鎖又は側鎖、若しくは双方に結合していてもよい。架橋性ケイ素基が分子鎖の主鎖の末端にのみある場合、最終的に形成される硬化物に含まれる重合体成分の有効網目長が長くなるため、高強度、高伸びで、低弾性率を示すゴム状硬化物が得られやすくなる。そして、硬化性組成物の硬化物の引張特性等の硬化物の物性が優れる観点からは、架橋性ケイ素基が分子鎖末端に存在することが好ましい。
【0028】
また、(A)成分において、架橋性ケイ素基は、硬化後の引張接着性、モジュラス等の物性の観点から、重合体1分子中に平均して1.0個以上5個以下存在することが好ましく、1.1個以上3個以下存在することがより好ましい。高強度、高伸びで、低弾性率を示すゴム状硬化物を得る観点からは、(A)成分に含有される架橋性ケイ素基は、有機重合体1分子中に平均して1.0個以上存在することが好ましく、1.1個以上5個以下存在することがより好ましい。なお、架橋密度を低下させる観点からは、分子中に含まれる架橋性ケイ素基の数が平均して1.0個以下の有機重合体を併用することもできる。
【0029】
(A)成分の主鎖骨格としては、具体的には、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート等のモノマーをラジカル重合して得られる(メタ)アクリル酸エステル系重合体が挙げられる。これらの骨格は、(A)成分の中に単独で含まれていても、2種類以上がブロック若しくはランダムに含まれていてもよい。
【0030】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体は比較的ガラス転移温度が低く、得られる硬化物が耐寒性に優れる。また、(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、透湿性が高く1液型組成物にした場合に深部硬化性に優れる。
【0031】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の主鎖を構成する(メタ)アクリル酸エステル系モノマーとしては、各種のモノマーを用いることができる。例えば、アクリル酸等の(メタ)アクリル酸系モノマー;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n-ブチル、(メタ)アクリル酸2-エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル系モノマー;脂環式(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;芳香族(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;(メタ)アクリル酸2-メトキシエチル等の(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)ジメトキシメチルシラン等のシリル基含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマー;(メタ)アクリル酸の誘導体;フッ素含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマー等が挙げられる。
【0032】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体では、(メタ)アクリル酸エステル系モノマーと共に、以下のビニル系モノマーを共重合することもできる。ビニル系モノマーを例示すると、スチレン、無水マレイン酸、酢酸ビニル等が挙げられる。また、単量体単位(以下、他の単量体単位とも称する)として、これら以外にアクリル酸、グリシジルアクリレートを含有してもよい。
【0033】
これらは、単独で用いても、複数を共重合させてもよい。生成物の物性等の観点からは、(メタ)アクリル酸系モノマーからなる重合体が好ましい。また、1種又は2種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルモノマーを用い、必要に応じて他の(メタ)アクリル酸モノマーを併用した(メタ)アクリル酸エステル系重合体がより好ましい。更に、シリル基含有(メタ)アクリル酸エステル系モノマーを併用することで、(メタ)アクリル酸エステル系重合体中のケイ素基の数を制御できる。接着性が良いことからメタクリル酸エステルモノマーからなるメタクリル酸エステル系重合体が特に好ましい。また、低粘度化、柔軟性の付与、粘着性の付与をする場合、アクリル酸エステルモノマーを適宜用いることが好ましい。なお、本発明において、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を表す。
【0034】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の製造方法は、例えば、ラジカル重合反応を用いたラジカル重合法を用いることができる。ラジカル重合法としては、重合開始剤を用いて所定の単量体単位を共重合させるラジカル重合法(フリーラジカル重合法)や、末端等の制御された位置に反応性シリル基を導入できる制御ラジカル重合法が挙げられる。ただし、重合開始剤としてアゾ系化合物、過酸化物等を用いるフリーラジカル重合法で得られる重合体は、分子量分布の値が一般に2以上と大きく、粘度が高くなる。したがって、分子量分布が狭く、粘度の低い(メタ)アクリル酸エステル系重合体であって、高い割合で分子鎖末端に架橋性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体を得る場合には、制御ラジカル重合法を用いることが好ましい。
【0035】
制御ラジカル重合法としては、特定の官能基を有する連鎖移動剤を用いたフリーラジカル重合法やリビングラジカル重合法が挙げられる。付加-開裂移動反応(Reversible Addition Fragmentationchain Transfer;RAFT)重合法、遷移金属錯体を用いたラジカル重合法(Transition Metal Mediated Living Radical Polymerization)、原子移動ラジカル重合法(Atom Transfer Radical Polymerization;ATRP)等のリビングラジカル重合法を採用することが好ましい。なお、主鎖骨格が(メタ)アクリル酸エステル系重合体であって、その一部がテレケリックポリマーである重合体(以下、「疑似テレケリックポリマー」という。)を合成する反応として、反応性シリル基を有するチオール化合物を用いた反応や、反応性シリル基を有するチオール化合物、及びメタロセン化合物を用いた反応が挙げられる。これらの反応により得られる疑似テレケリックポリマーも、本発明に係る硬化性組成物の機能、及び奏する効果を阻害しない範囲で用いることができる。
【0036】
(メタ)アクリル酸エステル系重合体の数平均分子量は、(メタ)アクリル酸エステル系重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃未満の場合、例えば(メタ)アクリル酸エステル系重合体がアクリル酸ブチル単量体単位から主として構成される場合、20,000以上が好ましく、30,000以上がより好ましく、35,000以上が更に好ましく、40,000以上が特に好ましい。また、(メタ)アクリル酸エステル系重合体のガラス転移温度(Tg)が0℃以上の場合、例えば(メタ)アクリル酸エステル系重合体がメタクリル酸メチル単量体単位から主として構成される場合、数平均分子量は、600以上10,000以下が好ましく、600以上5,000以下がより好ましく、1,000以上4,500以下が更に好ましい。数平均分子量をこの範囲とすることにより、(C)成分を用いる場合であって(C)成分に架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体が含まれている場合、このポリオキシアルキレン系重合体との相溶性が向上する。(メタ)アクリル酸エステル系重合体は、単独で用いても、2種以上併用してもよい。なお、本発明に係る数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算分子量である。
【0037】
[(B)熱膨張性黒鉛]
(B)熱膨張性黒鉛は、グラファイトを硫酸、硝酸等の無機酸と、濃硝酸、過塩素酸、過酸化水素等の強酸化剤とで処理することによりグラファイトの層間に酸等がインターカレートされた層状物質である。(B)熱膨張性黒鉛は、加熱により層間の化合物がガス化し、ガス化によって膨張する性質を有する。なお、本発明において粒径はJIS規格のZ8801-1982「標準ふるい」に準拠した粒径であり、「μm」で表記すると共に「mesh」でも表記する場合がある。
【0038】
熱膨張性黒鉛は、更にアンモニア、脂肪族低級アミン、アルカリ金属化合物、アルカリ土類金属化合物等で中和処理して用いることが好ましい。
【0039】
燃焼後の硬化物の体積をより大きくすると共に、燃焼後の硬化物内の熱膨張性黒鉛を密集させて充填させる観点から、粒径の異なる複数種類の熱膨張性黒鉛を混合させることが好ましい。具体的には、互いに粒径の異なる少なくとも2種類の熱膨張性黒鉛を用いればよい。そして、一方の熱膨張性黒鉛の粒径と他方の熱膨張性黒鉛の粒径との差の絶対値が100μm以上であることが好ましい。また、互いに粒径の異なる少なくとも2種類の熱膨張性黒鉛を用いる場合、例えば、粒径が小さい方の熱膨張性黒鉛と大きい方の熱膨張性黒鉛とを併用すると、形状保持性を向上させることができる。
【0040】
また、粒径が小さい方の熱膨張性黒鉛は、100μm未満の粒径を有していてもよいが、100μm以上の粒径を有することが好ましく、150μm以上の粒径を有することがより好ましい。そして、粒径が大きい方の熱膨張性黒鉛は、200μm以上の粒径を有することが好ましく、250μm以上の粒径を有することがより好ましく、300μm以上の粒径を有することが更に好ましい。
【0041】
すなわち、一例として2種類の熱膨張性黒鉛を用いる場合、第1の熱膨張性黒鉛と第1の熱膨張性黒鉛とは粒径の異なる第2の熱膨張性黒鉛とを用いる。そして、第1の熱膨張性黒鉛として、例えば、粒径が150μm(100mesh)の熱膨張性黒鉛を用いる場合、第2の熱膨張性黒鉛としては、例えば、粒径が250μm(60mesh)以上の熱膨張性黒鉛を用いることが好ましい。同様に、第1の熱膨張性黒鉛として粒径が300μm(50mesh)の熱膨張性黒鉛を用いる場合、第2の熱膨張性黒鉛としては、粒径が400μm以上、又は500μm(30mesh)以上の熱膨張性黒鉛を用いることが好ましい。
【0042】
なお、燃焼後の硬化物の体積をより大きくすると共に、燃焼後の硬化物内の熱膨張性黒鉛を密集させて充填させて炎、及び/又は熱の遮断性能をより向上させる観点から、粒径の大きい方の熱膨張性黒鉛は最小で300μm以上の粒径を有することが好ましく、粒径の小さい方の熱膨張性黒鉛の粒径は200μm以上であることが好ましい。
【0043】
本発明に係る硬化性組成物において(B)熱膨張性黒鉛の含有割合は、(A)成分100質量部((C)成分を含有する場合には、(A)成分と(C)成分とを合わせた量を100質量部とする)に対して10質量部以上100質量部以下が好ましい。
【0044】
[(C)架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する有機重合体]
硬化物の表面タックを抑制若しくは消去する観点から、硬化性組成物は(C)成分を含有することもできる。(C)成分は、架橋性ケイ素基を1分子中に平均して少なくとも1個含有する有機重合体であって、主鎖がポリシロキサンを含んでいてもよい有機重合体である。(C)成分は、(A)成分と異なり、(メタ)アクリル酸エステル系重合体とは異なる有機重合体が主鎖を構成する。なお、(C)成分の架橋性ケイ素基については、(A)成分の架橋性ケイ素基と同様であるので詳細な説明は省略する。
【0045】
(C)成分の主鎖としては、硬化後の引張接着性、モジュラス等の物性が良好である観点から、例えば、ポリオキシプロピレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン-ポリオキシプロピレン共重合体等のポリオキシアルキレン系重合体;エチレン-プロピレン系共重合体、ポリイソブチレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、これらのポリオレフィン系重合体に水素添加して得られる水添ポリオレフィン系重合体等の炭化水素系重合体;アジピン酸等の2塩基酸とグリコールとの縮合、又は、ラクトン類の開環重合で得られるポリエステル系重合体;酢酸ビニル、アクリロニトリル、スチレン等のモノマーをラジカル重合して得られるビニル系重合体;有機重合体中でのビニルモノマーを重合して得られるグラフト重合体;ポリサルファイド系重合体;ポリアミド系重合体;ポリカーボネート系重合体;ジアリルフタレート系重合体等が挙げられる。これらの骨格は、オルガノシロキサンを含有していてもよく、(C)成分の中に単独で含まれていても、2種類以上がブロック若しくはランダムに含まれていてもよい。
【0046】
更に、ポリイソブチレン、水添ポリイソプレン、水添ポリブタジエン等の飽和炭化水素系重合体や、ポリオキシアルキレン系重合体等は比較的ガラス転移温度が低く、得られる硬化物が耐寒性に優れることから好ましい。また、ポリオキシアルキレン系重合体は、透湿性が高く1液型組成物にした場合に深部硬化性に優れることから好ましい。
【0047】
これらの架橋性ケイ素基を有する有機重合体は、単独で用いても、2種以上併用してもよい。具体的には、架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体、及び架橋性ケイ素基を有する飽和炭化水素系重合体からなる群から選択される2種以上をブレンドした有機重合体も用いることができる。
【0048】
主鎖骨格がオキシアルキレン系重合体であり末端に加水分解性基等の官能基を有するポリマー(以下、「ポリオキシアルキレン系重合体」という。)は、一般式(2)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
-R7-O-・・・(2)
一般式(2)中、R7は炭素数が1~14の直鎖状若しくは分岐アルキレン基であり、炭素数が1~14の直鎖状若しくは分岐アルキレン基が好ましく、炭素数が2~4の直鎖状若しくは分岐アルキレン基が更に好ましい。
【0049】
一般式(2)で示される繰り返し単位の具体例としては、-CH2O-、-CH2CH2O-、-CH2CH(CH3)O-、-CH2CH(C2H5)O-、-CH2C(CH3)2O-、-CH2CH2CH2CH2O-等が挙げられる。ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格は、1種類だけの繰り返し単位からなってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなってもよい。特にオキシプロピレンを主成分とする重合体からなる主鎖骨格が好ましい。
【0050】
架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の分子量は、硬化物の初期の引張特性である引張モジュラスを小さくし、破断時伸びを大きくするため高い分子量が好ましい。本発明においては、ポリオキシアルキレン系重合体の数平均分子量の下限としては15,000が好ましく、18,000以上が更に好ましく、20,000以上がより好ましい。分子量が高くなると重合体の粘度が上昇して硬化性組成物の粘度も上昇するので、数平均分子量が20,000以上の重合体を一部に含む重合体も好ましい。また、数平均分子量の上限は50,000、更には40,000が好ましい。なお、本発明に係る数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算分子量である。硬化性組成物の硬化物の引張モジュラスや破断時伸びを十分に確保する観点から、数平均分子量は15,000以上が好ましく、硬化性組成物の粘度を適切な範囲にし、良好な作業性を確保する観点から、数平均分子量は50,000以下が好ましい。
【0051】
ポリオキシアルキレン系重合体において架橋性ケイ素基の含有量を適度に低下させると、硬化物における架橋密度が低下するので、初期においてより柔軟な硬化物になり、モジュラス特性が小さくなると共に破断時伸び特性が大きくなる。ポリオキシアルキレン系重合体において架橋性ケイ素基は、重合体1分子中に平均して1.2個以上2.8個以下存在することが好ましく、1.3個以上2.6個以下存在することがより好ましく、1.4個以上2.4個以下存在することが更に好ましい。十分な硬化性を確保する観点からは、分子中に含まれる架橋性ケイ素基の数は1個以上が好ましく、適切な密度の網目構造にして良好な機械的特性を確保する観点から、架橋性ケイ素基の数は所定数以下が好ましい。そして、主鎖骨格が直鎖である2官能の重合体の場合、当該重合体の架橋性ケイ素基は、重合体1分子中に平均して1.2個以上1.9個未満存在することが好ましく、1.25個以上1.8個以下存在することがより好ましく、1.3個以上1.7個未満存在することが更に好ましい。
【0052】
架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は直鎖状でも分岐を有してもよい。引張モジュラスを小さくする観点からは、架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は直鎖状の重合体が好ましい。また、架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体の分子量分布(重量平均分子量[Mw]/数平均分子量[Mn])は2以下、特には1.6以下が好ましい。
【0053】
ポリオキシアルキレン系重合体の合成法としては、例えば、KOHのようなアルカリ触媒による重合法、例えば、複金属シアン化物錯体触媒による重合法等が挙げられるが、特に限定されない。複金属シアン化物錯体触媒による重合法によれば数平均分子量6,000以上、Mw/Mnが1.6以下の高分子量で分子量分布が狭いポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0054】
ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格中にはウレタン結合成分等の他の成分を含んでいてもよい。ウレタン結合成分としては、例えば、トルエン(トリレン)ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネートと水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体との反応から得られる成分を挙げることができる。
【0055】
分子中に不飽和基、水酸基、エポキシ基、又はイソシアネート基等の官能基を有するポリオキシアルキレン系重合体に、この官能基に対して反応性を有する官能基、及び架橋性ケイ素基を有する化合物を反応させることで、ポリオキシアルキレン系重合体へ架橋性ケイ素基を導入できる(以下、高分子反応法という)
【0056】
高分子反応法の例として、不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体に架橋性ケイ素基を有するヒドロシランや、架橋性ケイ素基を有するメルカプト化合物を作用させてヒドロシリル化やメルカプト化し、架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を得る方法を挙げることができる。不飽和基含有ポリオキシアルキレン系重合体は水酸基等の官能基を有する有機重合体に、この官能基に対して反応性を示す活性基及び不飽和基を有する有機化合物を反応させ、不飽和基を含有するポリオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0057】
また、高分子反応法の他の例として、末端に水酸基を有するポリオキシアルキレン系重合体とイソシアネート基、並びに架橋性ケイ素基を有する化合物とを反応させる方法や、末端にイソシアネート基を有するポリオキシアルキレン系重合体と水酸基やアミノ基等の活性水素基、並びに架橋性ケイ素基を有する化合物とを反応させる方法を挙げることができる。イソシアネート化合物を用いると、架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体を容易に得ることができる。
【0058】
架橋性ケイ素基を有するポリオキシアルキレン系重合体は、単独で使用しても、2種以上併用してもよい。
【0059】
本発明に係る硬化性組成物の(C)成分において、架橋性ケイ素基は、有機重合体1分子中に平均して1個以上存在することが好ましく、2個以上存在することがより好ましい。また、本発明に係る硬化性組成物において硬化物の表面タックを抑制若しくは消去する観点から、硬化性組成物中の(C)成分は、(A)成分の単位質量部に対して0.4倍以上含まれることが好ましく、1.5倍以上含まれることが更に好ましい。
【0060】
[(D)ノボラック型エポキシ樹脂]
硬化物の形状保持性を向上させる観点から、硬化性組成物は、形状保持剤である(D)ノボラック型エポキシ樹脂を含有することが好ましい。すなわち、(D)ノボラック型エポキシ樹脂は、硬化性組成物の硬化物の燃焼後の形状保持性の確保に寄与し得る機能を有する。(D)成分としては、例えば、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0061】
(D)ノボラック型エポキシ樹脂の分子量は特に制限はないが、数平均分子量350以上1000以下が好ましく、350以上800以下がより好ましい。また、取り扱いやすさの面から常温で液状の(D)ノボラック型エポキシ樹脂を用いることが好ましい。
【0062】
本発明に係る硬化性組成物において(D)ノボラック型エポキシ樹脂の配合割合は、(A)成分100質量部((C)成分を含有する場合には、(A)成分と(C)成分とを合わせた量を100質量部とする)に対して、0.5質量部以上であり、1質量部以上が好ましく、50質量部以下であり、25質量部以下が好ましく、15質量部以下であることが特に好ましい。
【0063】
[(D’)ノボラック型エポキシ樹脂を除く形状保持剤]
硬化物の形状保持性を向上させる観点から、硬化性組成物は、(D)ノボラック型エポキシ樹脂を除く他の形状保持剤を含有することも好ましい。(D)ノボラック型エポキシ樹脂を除く他の形状保持剤としては、リン化合物、ホウ素化合物、及び/又はベンゾオキサジン化合物が挙げられる。これらの化合物は(D)ノボラック型エポキシ樹脂の代わりに、又は(D)ノボラック型エポキシ樹脂と共に用いることができる。
【0064】
(リン化合物)
リン化合物としては特に限定されず、例えば、赤リン;トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート等の各種リン酸エステル;リン酸ナトリウム、リン酸カリウム、リン酸マグネシウム等のリン酸金属塩;ポリリン酸アンモニウム類;一般式(2)で表される化合物等が挙げられる。これらのうち、耐火性の観点から、赤リン、ポリリン酸アンモニウム類、及び一般式(2)で表される化合物が好ましく、性能、安全性、及びコスト等の観点から、ポリリン酸アンモニウム類が更に好ましい。
【0065】
【0066】
式中、R8及びR10はそれぞれ、水素、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、又は、炭素数6~16のアリール基を表す。R9は、水酸基、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルキル基、炭素数1~16の直鎖状若しくは分岐状のアルコキシル基、炭素数6~16のアリール基、又は炭素数6~16のアリールオキシ基を表す。
【0067】
赤リンは、少量の添加で硬化性組成物の難燃効果を向上させることができる。赤リンとしては、市販の赤リンを用いることができるが、耐湿性、混練時に自然発火しない等の安全性の観点から、赤リン粒子の表面を樹脂でコーティングした化合物等を用いることが好ましい。
【0068】
ポリリン酸アンモニウム類としては、特に限定されず、例えば、ポリリン酸アンモニウム、メラミン変性ポリリン酸アンモニウム等が挙げられる。特に難燃性、安全性、及びコスト等の観点から、ポリリン酸アンモニウムが好ましい。市販品としては、例えば、ヘキスト社製「AP422」、「AP462」;住友化学社製「スミセーフP」;チッソ社製「テラージュC60」等が挙げられる。
【0069】
一般式(2)で表される化合物としては特に限定されず、例えば、メチルホスホン酸、メチルホスホン酸ジメチル、メチルホスホン酸ジエチル、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、2-メチルプロピルホスホン酸、t-ブチルホスホン酸、2,3-ジメチル-ブチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、フェニルホスホン酸、ジオクチルフェニルホスホネート、ジメチルホスフィン酸、メチルエチルホスフィン酸、メチルプロピルホスフィン酸、ジエチルホスフィン酸、ジオクチルホスフィン酸、フェニルホスフィン酸、ジエチルフェニルホスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ビス(4-メトキシフェニル)ホスフィン酸等が挙げられる。なかでも、t-ブチルホスホン酸は、高難燃性の観点から好ましい。
【0070】
上記リン化合物は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0071】
(ホウ素化合物)
ホウ素化合物としては、ホウ砂、酸化ホウ素、ホウ酸、及び/又はホウ酸塩等が挙げられる。
【0072】
ホウ酸塩としては、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、周期表第4族、第12族、第13族の元素、及びアンモニウムのホウ酸塩等が挙げられる。具体的には、ホウ酸リチウム、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸カリウム、ホウ酸セシウム等のホウ酸アルカリ金属塩、ホウ酸マグネシウム、ホウ酸カルシウム、ホウ酸バリウム等のホウ酸アルカリ土類金属塩、ホウ酸ジルコニウム、ホウ酸アルミニウム、ホウ酸アンモニウム等が挙げられる。
【0073】
上記ホウ素化合物は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0074】
(ベンゾオキサジン化合物)
ベンゾオキサジン化合物であるジヒドロベンゾオキサジン環を有する樹脂は、例えば、特開昭49-47387号公報に記載されており、対応するフェノール性水酸基を有する化合物、ホルマリン、1級アミンから以下の式(3)に従って合成できる。この樹脂は、加熱により開環重合反応を起こし、揮発分を発生させることなく優れた特性を有する架橋構造を形成する。
【0075】
【0076】
式(3)中、Rは、アルキル基、置換アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アラルキル基等を表す。
【0077】
フェノール性水酸基を有する化合物としては、ビスフェノール化合物、ビフェノール化合物、トリスフェノール化合物、テトラフェノール化合物が挙げられる。フェノール樹脂としては、ノボラック樹脂、レゾール樹脂、フェノール変性キシレン樹脂、アルキルフェノール樹脂、メラミンフェノール樹脂、ポリブタジエン変性フェノール樹脂等のフェノール樹脂を挙げることができる。ビスフェノール化合物としては、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF及びその位置異性体、テトラフルオロビスフェノールA等を挙げることができる。また、フェノール樹脂を用いる場合、ジヒドロベンゾオキサジン環を含む耐熱性樹脂が、下記一般式(A)で表される構造単位、及び下記一般式(B)で表される構造単位を含み、A/Bがモル比で1/0.25~9であり、各構造単位は、直接に又は有機基を介している場合、強度、耐熱性の点で優れた硬化物を得ることができる。
【0078】
【0079】
【0080】
ただし、R11は、メチル基、シクロヘキシル基、フェニル基、又は置換フェニル基であり、構造単位(A)、(B)の芳香族の水素は、構造単位(A)のヒドロキシル基のオルト位の一つを除き、任意の置換基で置換されてもよい。各構造単位の数は、特に制限はないが、1分子中に含まれる構造単位(A)の数をm、構造単位(B)の数をnとした場合、m≧1、n≧1、かつm+n≧2であればよく、10≧m+n≧3であることが望ましい。各構造単位は、直接結合していてもよく、有機基を介して結合していてもよい。有機基としては、アルキレン基、キシリレン基等が挙げられ、アルキレン基としては、例えば、炭素数5以上の長鎖アルキレン基等が挙げられる。1級アミンとしては、具体的にメチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン、置換アニリン等が挙げられる。
【0081】
更に、市販されているベンゾオキサジン化合物としては、例えば、四国化成工業株式会社製の商品名「P-d型ベンゾオキサジン」や「F-a型ベンゾオキサジン」等が挙げられる。
【0082】
本発明に係る硬化性組成物において(D’)ノボラック型エポキシ樹脂を除く形状保持性向上剤の配合割合は、(A)成分100質量部((C)成分を含有する場合には、(A)成分と(C)成分とを合わせた量を100質量部とする)に対して、0.5質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上が特に好ましく、150質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下が特に好ましい。
【0083】
形状保持剤としては、少量の添加で形状保持性に優れた効果を発揮し、作業性の調整が良好という観点から、ノボラック型エポキシ樹脂、及び/又はベンゾオキサジン化合物を用いることが好ましい。また、取り扱いやすさの観点から、常温で液状のノボラック型エポキシ樹脂を用いることが特に好ましい。
【0084】
[その他の配合物]
本発明に係る耐火性の硬化性組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、難燃剤、ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂、エポキシ樹脂の硬化剤、フェノール樹脂、難燃剤以外の無機充填剤、老化防止剤、水分吸収材、接着付与剤、硬化触媒、充填剤、希釈剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、物性調整剤、可塑剤、揺変剤、粘着付与剤、垂れ防止剤、ラジカル重合開始剤、防カビ剤、着色剤等、及び/又はトルエンやアルコール等の溶剤等の各種物質を更に配合してもよく、また、相溶する他の重合体をブレンドしてもよい。
【0085】
[難燃剤]
本発明に係る硬化性組成物は、(B)熱膨張性黒鉛以外の難燃剤を更に配合することができる。(B)熱膨張性黒鉛以外の難燃剤を更に添加することで、硬化性組成物の硬化物について優れた耐火性能を保持しつつ硬化物の燃焼後の膨張率を調整することができる。
【0086】
難燃剤としては、特に限定されず、従来公知の化合物を用いることができるが、例えば、水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム等の金属水酸化物、塩素化合物や臭素化合物等のハロゲン系難燃剤、三酸化アンチモンや五酸化アンチモン等のアンチモン系難燃剤、シリカフィラー等の無機酸化物等を用いることができる。これらの難燃剤は、単独で用いることも、2種以上を併用することもできる。
【0087】
難燃剤のうち、有害ガス等が発生しないという観点から、金属水酸化物である水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく、水酸化アルミニウムがより好ましい。
【0088】
また、本発明に係る硬化性組成物に(B)熱膨張性黒鉛以外の難燃剤を配合する場合、(B)熱膨張性黒鉛と(B)熱膨張性黒鉛以外の難燃剤との合計量が、本発明に係る硬化性組成物の全体量(質量「g」)に対して30%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。なお、当該全体量は、(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分若しくは(D’)成分、並びに必要に応じて配合される他の配合物の合計量である。
【0089】
(B)熱膨張性黒鉛と難燃剤との合計量を上記の配合量とすることで、より硬化物の耐火性能に優れる硬化性組成物を得ることができる。
【0090】
なお、(B)熱膨張性黒鉛と難燃剤との配合割合としては特に限定されないが、本発明に係る硬化性組成物の硬化物について、燃焼後の膨張率を高める場合には、(B)熱膨張性黒鉛の配合割合を高めればよい。
【0091】
[ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂]
ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂としては、様々なエポキシ樹脂を用いることができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらを水添したエポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂、ウレタン結合を有するウレタン変性エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂(例えば、ポリブタジエン、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ニトリルゴム(NBR)、及びCTBNのいずれかのゴムで変性したエポキシ樹脂等)、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテル等の難燃型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂は、単独で用いることも、2種以上併用することもできる。ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂を含有することで、被着体への接着性を向上させることができる。
【0092】
これらエポキシ樹脂の中では、作業性や硬化性、接着強度、被着体汎用性、耐水性、耐久性等のバランスの観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂やこれらを水添したエポキシ樹脂を用いることもでき、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂が好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂がより好ましい。なお、(D)成分を除く他のエポキシ樹脂を硬化性組成物に配合する場合は、本発明に係る硬化性組成物の効果を阻害しない限度で配合することができる。
【0093】
本発明に係る硬化性組成物が(D)成分以外のエポキシ樹脂を含有する場合、(D)成分以外のエポキシ樹脂の配合割合は、(A)成分100質量部((C)成分を含有する場合には、(A)成分と(C)成分とを合わせた量を100質量部とする)に対して、0.01質量部以上であり、3質量部以上が好ましく、100質量部以下であり、50質量部以下が好ましい。
【0094】
[エポキシ樹脂の硬化剤]
本発明に係る硬化性組成物は、エポキシ樹脂の硬化剤を含有していてもよい。また、硬化剤としては、例えば、エポキシ樹脂硬化剤を1種又は複数種選択して用いることができる。このような硬化剤としては、例えば、脂環族アミン、芳香環を含む脂肪族アミン、芳香族アミン、変性アミン等の第一級アミン;直鎖第二級アミン等の第二級アミン;芳香族酸無水物、環状脂肪族酸無水物、脂肪族酸無水物等の酸無水物類;ポリアミド樹脂、有機酸ヒドラジッド、合成樹脂初期縮合物、ポリビニルフェノール等のその他の硬化剤;アミノ基をケチミン化した化合物等を挙げることができる。
【0095】
[フェノール樹脂]
本発明に係る硬化性組成物は、フェノール樹脂を含有していてもよい。フェノール樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等の様々なフェノール樹脂を用いることができる。フェノール樹脂としては室内空気質汚染対策の観点から、ホルムアルデヒドの発生を防止し得るノボラック型フェノール樹脂等を用いることが好ましい。フェノール樹脂は、硬化性組成物の硬化物が燃焼した後の残渣の形状保持に寄与し得る。
【0096】
本発明に係る硬化性組成物がフェノール樹脂を含有する場合、フェノール樹脂の配合割合は、(A)成分100質量部((C)成分を含有する場合には、(A)成分と(C)成分とを合わせた量を100質量部とする)に対して、0.01質量部以上であり、3質量部以上が好ましく、20質量部以下であり、10質量部以下が好ましい。
【0097】
[難燃剤以外の無機充填剤]
難燃剤以外の無機充填剤としては、例えば、ヒュームドシリカ、沈降性シリカ、無水ケイ酸、含水ケイ酸、カーボンブラック、微細炭酸カルシウム、重質炭酸カルシウム若しくはこれらの表面処理物等の炭酸カルシウム、アルミナ、炭酸マグネシウム、ケイソウ土、けい砂、軽石粉、スレート粉、焼成クレー、クレー、タルク、カオリン、酸化チタン、ベントナイト、有機ベントナイト、酸化第二鉄、酸化亜鉛、活性亜鉛華、ガラスバルーン、シラスバルーン、又は無機繊維等を用いることができる。また、無機充填剤として、これらの化合物に対してシランカップリング剤等によって表面処理を施した表面処理済みの無機充填剤を用いることもできる。更に、無機充填剤として、上記した各無機充填剤、及び表面処理済みの無機充填剤からなる群から選択される2種類以上の無機充填剤の混合物を用いることもできる。
【0098】
[接着付与剤]
本発明に係る硬化性組成物は、接着付与剤を配合することにより、硬化物の金属、プラスチック、ガラス等の様々な被着体に対する接着性を向上させることができる。
【0099】
接着付与剤は、アルコキシ基含有シランである様々なシランカップリング剤を用いることができる。例えば、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、1,3-ジアミノイソプロピルトリメトキシシラン等のアミノ基含有シラン類;3-トリメトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン等のケチミン基含有シラン類;3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト基含有シラン類等の様々なシランカップリング剤を用いることができる。
【0100】
接着付与剤の配合割合は特に制限はないが、(A)成分100質量部((C)成分を含有する場合には、(A)成分と(C)成分とを合わせた量を100質量部とする)に対し、0.2質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が更に好ましく、20質量部以下が好ましく、15質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。これら接着付与剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0101】
[硬化触媒]
硬化触媒としては、例えば、ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫ジアセテート、ジオクチル錫オキサイドとシリケート化合物との反応物、ジブチル錫オキサイドとフタル酸エステルとの反応物等の有機錫化合物;カルボン酸錫、カルボン酸ビスマス、カルボン酸鉄等のカルボン酸金属塩;脂肪族アミン類、芳香族アミン類;バーサチック酸等のカルボン酸;ジイソプロポキシチタンビス(エチルアセトセテート)等のチタン化合物、アルミニウム化合物類等のアルコキシ金属;無機酸;三フッ化ホウ素エチルアミン錯体等の三フッ化ホウ素錯体;アルミニウムモノアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)等の金属キレート化合物等を用いることもできる。これらの中では有機錫化合物が好ましい。
【0102】
硬化触媒を用いる場合、(A)成分100質量部((C)成分を含有する場合には、(A)成分と(C)成分とを合わせた量を100質量部とする)に対して、0.5質量部以上であり、1質量部以上が好ましく、20質量部以下であり、15質量部以下で用いることが好ましい。
【0103】
本発明に係る硬化性組成物は、1液型若しくは2液型にすることもできるが、作業性の観点から1液型として用いることが好ましい。本発明に係る硬化性組成物は湿気硬化型であるため、塗布後、養生することで十分な耐火性を発揮することができる。
【0104】
本発明に係る硬化性組成物は、耐火性が要求される用途として用いることができ、例えば、接着剤、ポッティング材、コーティング材、シーリング材、粘着材、塗料、パテ材、及び/又はプライマー等として用いることができる。また、本発明に係る硬化性組成物は、当該硬化性組成物自体を耐火材として用いること、又は耐火性を有する部材に本発明に係る硬化性組成物を設けた耐火材として用いることもできる。本発明に係る硬化性組成物は、例えば、各種建築物等の構造物用、自動車用、土木用、各種電気・電子分野用等に適用できる。
【0105】
[耐火構造体形成工法]
本発明に係る硬化性組成物を用い、耐火構造体を形成できる。すなわち、本発明に係る耐火構造体形成工法は、構造物の表面の少なくとも一部に、本発明に係る硬化性組成物を塗布する塗布工程と、硬化性組成物を硬化させて硬化物にする硬化工程とを備える。一例として、本発明に係る硬化性組成物を含有するシーリング材と、耐火性を有する壁材とを組み合わせることで、燃焼性UL94規格に記載されているV-0級の耐火試験に合格し得る耐火構造体を形成できる。なお、本発明において構造物とは、複数の部材を用いて構成される建築物、建築物を構成する複数の部材自体、空調設備に用いる部材(排気ダクト等)、配電設備等の電気回線を有する部材、水道やガス管等を構成する部材、その他の火災・燃焼若しくは外部からの炎の延焼・類焼を防止することが要求される物体や部材等を含む。
【0106】
塗布工程は、例えば、耐火性を有する第1の構造部材(例えば、壁を構成する壁部材)と、第1の構造部材に組み合わされる第2の構造部材とが組み合わされる部分に本発明に係る硬化性組成物を塗布する工程である。また、構造部材が開口部を有する場合、開口部の内側に本発明に係る硬化性組成物を塗布することもできる。塗布工程後、硬化性組成物を硬化させることで、第1の構造部材と第2の構造部材とが組み合わされた部分に耐火性の硬化物が設けられる。なお、第1の構造部材の第2の構造部材が組合わされる領域に予め本発明に係る硬化性組成物を塗布し、硬化させておくこともできる。この場合、第1の構造部材の硬化物が設けられている領域を挟むように、第1の構造部材と第2の構造部材とが組み合わされ、一体化する。
【0107】
(実施の形態の効果)
本実施形態に係る硬化性組成物を用いて形成される構造物の耐火構造体は、火炎や高温に曝された場合に、硬化性組成物の硬化物が断熱層としての炭化層若しくは炭化物を形成すると共に膨張し、一定の形状を保持する。更に、本発明の硬化性組成物を用いて耐火構造体を形成する場合、膨張倍率が高くなるように硬化性組成物を設計した場合であっても硬化物の形状保持性に優れるため、耐火構造体の設計の自由度を高めることができると共に、より耐火性能が高い耐火構造体を得ることができる。これにより、構造物を構成する部材間の間隙や開口若しくは孔等が硬化物の燃焼残渣により塞がれ、炎、熱、煙、及び/又は燃焼により発生するガス等を遮断した状態を保つことができる。したがって、本実施形態に係る硬化性組成物を用いて形成される構造物の耐火構造体は、優れた耐火性能、及び炎、熱、煙、及び/又はガス等の遮断性能を発揮することができる。
【0108】
また、本実施形態においては、硬化物が所定の硬度と柔軟性とを有しているので、外部からある程度の力が加わっても変形しづらい性質を有する。したがって、構造物に凹凸が存在している場合であっても、この構造物に設けられた本実施形態に係る硬化性組成物の硬化物は、凹凸に応じた形状を保持できる。これにより、本実施形態に係る構造物の耐火構造体は、長期間の耐火性を維持できる。
【0109】
更に、硬化性組成物に形状保持剤として(D)ノボラック型エポキシ樹脂若しくは(D’)リン化合物、ホウ素化合物、及び/又はベンゾオキサジン化合物を配合しているので、硬化物の形状保持性を向上させることができる。すなわち、(D)ノボラック型エポキシ樹脂若しくは(D’)リン化合物、ホウ素化合物、及び/又はベンゾオキサジン化合物を用いた場合、ビスフェノール型エポキシ樹脂等の(D)ノボラック型エポキシ樹脂以外のエポキシ樹脂のみを用いた場合に比べ、硬化物の形状保持性を確保・向上させることができる。
【実施例】
【0110】
以下、本発明に係る硬化性組成物、及び硬化物について、実施例を用いて詳細に説明する。
【0111】
(実施例1)
実施例1に係る耐火性の硬化性組成物(以下、「耐火用硬化性組成物」という。)は以下のように調製した。まず、表1に示すように(A)成分と、(B)成分と、(C)成分と、(D)成分と、その他の配合物とのそれぞれとを表1記載の量で混合した。そして、混合物を撹拌することで実施例1に係る耐火用硬化性組成物を調製した。続いて、実施例1に係る耐火用硬化性組成物、及び硬化物の特性を評価した。その結果を表1に示す。なお、表1において、各配合物質の配合量の単位は「g」である。また、配合物質の詳細は下記の通りである。
【0112】
[(A)成分]
*1 架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体A1:製品名「アクトフローSE-09」(シリル基末端を有するアクリルポリマー)、綜研化学株式会社製
*2 架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体A2:製品名「SA100S」(シリル基末端を有するアクリルポリマー)、株式会社カネカ製
[(B)成分]
*3 熱膨張性黒鉛B1:製品名「膨張黒鉛9532400A」(粒径大:+32mesh 75%以上、粒径500μmに該当)、伊藤黒鉛工業株式会社製
*4 熱膨張性黒鉛B2:製品名「膨張黒鉛9950200」(粒径小:+50mesh 80%以上、粒径300μmに該当)、伊藤黒鉛工業株式会社製
[(C)成分]
*5 (A)成分とは異なる、架橋性ケイ素基を1分子中に少なくとも1個含有する有機重合体:製品名「サイリルEST280」(シリル末端ポリマー)、株式会社カネカ製
[(D)成分]
*6 エポキシ樹脂(ノボラック型):製品名「jER152」(フェノールノボラック型エポキシ樹脂)、三菱化学社製
[(D’)成分]
*7 リン化合物:製品名「テラージュC70」(ポリリン酸アンモニウム)、チッソ株式会社製
*8 ホウ素化合物:ホウ酸、健栄薬品株式会社製
*9 ベンゾオキサジン化合物:製品名「p-d型ベンゾオキサジン」、四国化成工業株式会社製
[難燃剤]
*10 水酸化アルミニウム:製品名「アルモリックスB350」、巴工業株式会社製
[硬化触媒]
*11 硬化触媒:製品名「ネオスタンU-700ES」(ジブチル錫オキシドと正珪酸エチルとの反応生成物)、日東化成株式会社製
*12 潜在性硬化剤:製品名「X12-812H」(メチルイソブチルケトン(MIBK)と3-アミノプロピルトリメトキシシランとの反応物)、信越化学工業株式会社製
[その他配合剤]
*13 (D)成分以外のエポキシ樹脂:製品名「DER331」(ビスフェノールA型エポキシ樹脂)、ダウ・ケミカル日本株式会社製
*14 シリカ:疎水性フュームドシリカ、製品名「RY200S」、日本アエロジル株式会社製
*15 炭酸カルシウム:製品名「ホワイトンSB青」、白石カルシウム株式会社製
*16 炭酸カルシウム:製品名「カルファイン200」、丸尾カルシウム株式会社製
【0113】
【0114】
実施例1に係る耐火性の硬化性組成物の特性は以下のように評価した。
【0115】
1)硬化物の硬度
実施例1に係る硬化性組成物を硬化させ、硬化物を得た。具体的に硬化物は、硬化性組成物を23℃50%RHで7日間養生し、硬化させて得た(以下、「硬化条件1」という。)。硬化物のサイズは、縦200mm×横200mm×厚さ3.0mmとした。実施例1に係る硬化性組成物を硬化条件1で硬化させて得られた硬化物の硬度を、JIS K6253-3に準拠してデュロメータタイプAにて測定した。
【0116】
2)燃焼時間
実施例1に係る硬化組成物を硬化条件1で硬化させ、サイズが縦127mm×横12.7mm×厚さ1.5mmの硬化物を得た。そして、この硬化物をクランプ付きスタンドに設置した。JIS K6911の5.24.2B法に準拠し、ブンゼンバーナーを用いて燃焼試験を行い、接炎後、バーナーを試験片から離した後のフレーミング時間を測定した。
◎:フレーミング時間が5秒以内。
○:フレーミング時間が5秒を超えて10秒以内。
×:フレーミング時間が10秒を超える。
【0117】
3)燃焼後の形状保持性
実施例1に係る硬化性組成物を硬化条件1で硬化させ、サイズが縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの硬化物を得た。そして、この硬化物を電気炉(ヤマト科学株式会社製 品番:FO300型)内に載置し、空気中、600℃雰囲気下で30分間燃焼させた。燃焼後、電気炉内を23℃に保ち12時間放置した。その後、硬化物(以下、「燃焼残渣」と言う。)の状態を23℃50%RH下にて目視で確認した。確認事項は、燃焼残渣の形状、及び体積である。燃焼残渣の体積は、23℃50%RH下で定規を用い、燃焼残渣のサイズ(縦、横、及び厚さ)を測定することにより算出した。なお、燃焼残渣に凹凸がある場合、凹部分と凸部分との平均値を測定結果にした。
【0118】
そして、燃焼残渣を2.0mm/sの速度で鉛直方向に5.0cm指で持ち上げた。その後、持ち上げと同様の条件で燃焼残渣を下ろし、持ち上げた後の燃焼残渣のサイズを定規を用いて測定することにより、燃焼残渣の持ち上げ後の体積を算出した。そして、持ち上げ前の燃焼残渣の体積に対する持ち上げ後の燃焼残渣の体積の割合を算出した。なお、燃焼残渣を持ち上げる指の力は、当該力によって燃焼残渣が実質的に変形しない程度の力である。
【0119】
形状保持性は以下の基準に則って評価した。
◎:体積が80%以上残った。
○:体積が50%以上80%未満残った。
×:体積が50%未満残った、又は指で持ち上げることができなかった。
【0120】
4)燃焼後の膨張率
実施例1に係る硬化性組成物を硬化条件1で硬化させ、サイズが縦10mm×横10mm×厚さ1.5mmの硬化物を得た。そして、この硬化物を電気炉(ヤマト科学株式会社製 品番:FO300型)内に載置し、空気中、600℃雰囲気下で30分間燃焼させた。燃焼後、電気炉内を23℃に保ち12時間放置した。その後、燃焼残渣の体積を算出した。体積は、23℃50%RH下で定規を用い、燃焼残渣のサイズ(縦、横、及び厚さ)を測定することにより算出した。なお、燃焼残渣に凹凸がある場合、凹部分と凸部分との平均値を測定結果にした。そして、以下の式のように、燃焼後の硬化物の体積(燃焼残渣の体積)を燃焼前の硬化物の体積で除すことにより、燃焼後の膨張率(倍)を算出した。
燃焼後の膨張率(倍)=燃焼後の硬化物の体積/燃焼前の硬化物の体積
【0121】
5)タック
実施例1に係る硬化性組成物を硬化条件1で硬化させて得られた硬化物(硬化物のサイズ:縦200mm×横200mm×厚さ3.0mm)について、23℃50%RH下にて硬化物の表面を指で触り、べたつきを確認した。タックは以下の基準に則って評価した。
○:表面にべたつきがない。
△:表面にややべたつきがある。
×:表面にべたつきがある。
【0122】
(実施例2~14、比較例1~4)
実施例1とは配合物質を表1に示すように代えた以外は実施例1と同様にして、実施例2~14、及び比較例1~4に係る硬化性組成物を調整した。そして、実施例1と同様に特性を評価した。それらの結果を表1に示す。
【0123】
表1を参照すると分かるように、実施例に係る硬化性組成物はいずれも、優れた耐火性と、燃焼後の膨張率を大きく設計した場合であっても優れた形状保持性とを兼ね備えていることが示された。更に、実施例に係る硬化性組成物の硬化物はいずれも、適切な硬度を有することが示された。一方、比較例においては実施例とは異なり、これらの特性を全て兼ね備えている例はなかった。また、例えば、比較例においては、形状保持性が不十分であり、比較例4については、耐火性が不十分であった。
【0124】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組み合わせの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点、及び本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能である点に留意すべきである。