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特許73687141-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンと水を含む組成物、および組成物を保存する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンと水を含む組成物、および組成物を保存する方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 21/18 20060101AFI20231018BHJP
   C07C 11/02 20060101ALI20231018BHJP
   C11D 7/30 20060101ALI20231018BHJP
   C11D 7/50 20060101ALI20231018BHJP
   C11D 7/24 20060101ALI20231018BHJP
   C09K 5/04 20060101ALI20231018BHJP
   C09K 3/30 20060101ALI20231018BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20231018BHJP
   C07C 17/38 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C07C21/18
C07C11/02
C11D7/30
C11D7/50
C11D7/24
C09K5/04 C
C09K5/04 B
C09K3/30 T
C09K3/00 111B
C07C17/38
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019199006
(22)【出願日】2019-10-31
(65)【公開番号】P2021070655
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2022-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】北元 崇勝
(72)【発明者】
【氏名】河野 翔太
(72)【発明者】
【氏名】岡本 覚
【審査官】松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/097300(WO,A1)
【文献】特表2013-504658(JP,A)
【文献】国際公開第2019/078062(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して1000重量ppm以上1600重量ppm以下の量の水、および1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して2重量%以下の添加剤からなる組成物。
【請求項2】
潤滑剤塗布液用溶剤、熱媒体、冷媒、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、および消火剤から選ばれる少なくとも一種に用いられる、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記添加剤の量は、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して10重量ppm以上2重量%以下である、請求項に記載の組成物。
【請求項4】
前記添加剤は多置換アルケンである、請求項に記載の組成物。
【請求項5】
前記多置換アルケンは、少なくとも2,3,3-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、3,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-2-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3-エチル-2-メチル-2-ペンテン、および3-エチル-4-メチル-2-ペンテンのいずれかを含む、請求項に記載の組成物。
【請求項6】
1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して1000重量ppm以上1600重量ppm以下の量の水を添加することを含む、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、水、および添加剤からなる組成物を保存する方法であり、
前記添加剤の量は、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して2重量%以下である、方法
【請求項7】
前記組成物は、潤滑剤塗布液用溶剤、熱媒体、冷媒、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、および消火剤から選ばれる少なくとも一種に用いられる、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記組成物は、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ステンレス、鉄、またはガラスを含む容器に保存される、請求項に記載の方法。
【請求項9】
前記添加剤の前記量が1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して10重量ppm以上2重量%以下である、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記添加剤は多置換アルケンである、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記多置換アルケンは、少なくとも2,3,3-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、3,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-2-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3-エチル-2-メチル-2-ペンテン、および3-エチル-4-メチル-2-ペンテンのいずれかを含む、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態の一つは、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンと水とを含む組成物、およびこの組成物を保存する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球温暖化能力(GWP)が低い種々のハイドロフルオロカーボンやクロロフルオロカーボンが開発されている。その一つの例として、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンが知られている(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/018412号
【文献】国際公開第2017/122801号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の一つは、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む組成物を安定的に保存するための方法を提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の一つは、長期保存可能な1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む組成物を提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン、および1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して1000重量ppm以上の量の水を含む組成物である。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンに対して1000重量ppm以上の量の水を添加することを含む、組成物を保存する方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態により、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む組成物を安定的に長期にわたって保存することができる。また、安定的に長期保存可能な、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペンを含む組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の各実施形態について説明する。但し、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な態様で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。また、以下の実施形態の態様によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、又は、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと解される。
【0009】
以下、本発明の実施形態の一つに係る、1-クロロ-2,3,3-トリフルオロ-1-プロペン(以下、1233ydと記す)を含む組成物、およびこの組成物を安定的に保存する方法について説明する。
【0010】
1.組成物
この組成物は、以下の式で表される1233ydと水を含む。組成物はさらに、任意の構成として添加剤を含んでもよい。
【化1】
【0011】
1-1.1233yd
クロロフルオロカーボンの一種である1233ydは、E体(1233yd(E))であってもよく、Z体(1233yd(Z))であってもよく、あるいはこれらの混合物でも良い。混合物の場合、E体とZ体の割合も任意に選択することができる。例えばE体とZ体の総量に対するE体の割合は、1%以上99%以下、1%以上50%以下、あるいは1%以上20%以下でも良い。E体とZ体の割合は、核磁気共鳴分光法(NMR)で算出してもよく、あるいはガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーのクロマトグラムの面積比から求めてもよい。NMRを用いる場合、1H-NMR、19F-NMR、13C-NMRのいずれを用いてもよいが、定量性が高い1H-NMRまたは19F-NMRを用いることが好ましい。
【0012】
本組成物は、種々の溶質に対する1233ydの高い溶解力、不燃性、大きな気化熱、低い沸点などに起因し、潤滑剤を塗布する際に使用する溶剤(潤滑剤塗布液用溶剤)として、あるいは熱媒体、冷媒、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、消火剤など、様々な用途に利用することができる。また、1233ydはGWPが低いため、本組成物は、従来のハイドロフルオロカーボンやハイドロクロロフルオロカーボンを主に含む組成物と比較して、地球温暖化を招きにくい点も大きな特徴である。
【0013】
1233ydの合成方法に制約はないが、高効率な合成法として、以下の式に示す3-クロロ-1,1,2,2-テトラフルオロプロパン(以下、244caと記す)の塩基による脱フッ化水素が挙げられる。
【化2】
【0014】
脱フッ化水素に用いられる塩基としては、ナトリウムやカリウム、リチウムなどのアルカリ金属若しくはマグネシウムやカルシウム、ストロンチウム、バリウムなどの第2族元素の水酸化物、炭酸塩、酸化物、アルコキシド、アミドなどが挙げられる。塩基は244caと1:1のモル比で反応することを考慮し、244caと等モル、あるいは244caよりも過剰量用いればよい。具体的には、塩基は244caに対して1.0当量以上3.0当量以下、1.0当量以上2.0当量以下、1.0当量以上1.5当量以下、あるいは1.0当量以上1.2当量以下の範囲から適宜選択される。
【0015】
塩基は水、メタノールやエタノール、イソプロパノール、1-ブタノールなどの炭素数1から4のアルコール、あるいはテトラヒドロフランやジオキサンなどのエーテルに溶解させ、この塩基溶液をバルクの1233yd、あるいは1233ydの溶液に滴下させることで脱フッ化水素を行うことができる。1233ydの溶液を構成する溶媒に制約はなく、上記炭素数1から4のアルコールやエーテル、あるいはトルエンやキシレンなどの芳香族炭化水素などが挙げられる。
【0016】
脱フッ化水素では、相間移動触媒を用いてもよい。相間移動触媒としては、第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級スルホニウム塩、ピリジン塩、クラウンエーテル類などが例示される。第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩、第四級スルホニウム塩、またはピリジン塩を用いる場合、カウンターアニオンとしては塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、水酸化物イオン、リン酸イオン、p-トルエンスルホン酸イオンなどが挙げられる。
【0017】
脱フッ化水素の温度に制約はなく、例えば-40℃以上+80℃以下、-20℃以上+60℃以下、あるいは0℃以上+40℃以下から適宜選択される。
【0018】
脱フッ化水素では、反応系に安定化剤を加えてもよい。安定化剤としては、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ペンタジエン、シクロペンテン、シクロヘキセンなどのアルケン(オレフィン)、ニトロメタンやニトロエタン、ニトロプロパンなどの脂肪族ニトロ化合物、ニトロベンゼンやニトロトルエン、ニトロアニリンなどの芳香族ニトロ化合物、ジメトキシメタンや1,2-ジメトキシエタン、1,4-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル、グリシドールやメチルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、1,2-ブチレンオキシド、フェニルグリシジルエーテル、シクロヘキセンオキシド、エピクロルヒドリンなどのエポキシ化合物、フェノールなどのアリルアルコール、1-ブテン-3-オールなどのオレフィン系アルコール;3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オールなどのアセチレン系アルコール、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチルなどのアクリル酸エステルが挙げられる。なかでも、オクテンのような安価であり、比較的反応性が低く、1233ydを含む組成物を利用する際に用いられる装置に対して悪影響を及ぼす可能性の低いアルケンが好ましい。アルケンには異性体が存在する場合があるが、単離された一種類の異性体を用いてもよく、あるいは二種類以上の異性体の混合物を用いてもよい。例えばオクテンを安定化剤として使用する場合、1-オクテン、2-オクテン、3-オクテン、4-オクテン、2-メチル-1-へプテン、2-メチル-2-へプテン、2-メチル-3-へプテン、3-メチル-1-へプテン、3-メチル-2-へプテン、3-メチル-3-へプテン、4-メチル-1-へプテン、4-メチル-2-へプテン、4-メチル-3-へプテン、5-メチル-1-へプテン、5-メチル-2-へプテン、5-メチル-3-へプテン、6-メチル-1-へプテン、6-メチル-2-へプテン、6-メチル-3-へプテン、2,3-ジメチル-1-ヘキセン、2,4-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、3,5-ジメチル-1-ヘキセン、4,5-ジメチル-1-ヘキセン、3,3-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、5,5-ジメチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、2,3-ジメチル-2-ヘキセン、2,4-ジメチル-2-ヘキセン、2,5-ジメチル-2-ヘキセン、3,4-ジメチル-2-ヘキセン、3,5-ジメチル-2-ヘキセン、4,5-ジメチル-2-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、5,5-ジメチル-1-ヘキセン、3-エチル-2-ヘキセン、4-エチル-2-ヘキセン、2,3-ジメチル-3-ヘキセン、2,4-ジメチル-3-ヘキセン、2,5-ジメチル-3-ヘキセン、3,4-ジメチル-3-ヘキセン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン、2,2-ジメチル-3-ヘキセン、3-エチル-3-ヘキセン、2,3,3-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、3,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-2-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3-エチル-2-メチル-2-ペンテン、3-エチル-4-メチル-2-ペンテンのいずれか一種を用いてもよく、あるいはこれらの混合物でもよい。
【0019】
脱フッ化水素の後、有機層を抽出し、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウムなどの塩基の水溶液で洗浄し、その後水で洗浄する。有機層をさらに飽和食塩水で洗浄してもよい。その後、硫酸マグネシウムや硫酸ナトリウムなどの脱水剤を用いて簡易的に脱水することで1233ydの粗生成物が得られる。この粗生成物を精製することなく本組成物を調製してもよく、あるいは蒸留精製によって単離される1233ydを用いて本組成物を調製してもよい。
【0020】
未精製の1233yd、および蒸留によって精製される1233ydには微量の酸素が存在するが、1233ydに対して酸素を除去するための処理(例えば脱気処理や不活性ガスのバブリングなどの脱酸素処理)を行う必要は無い。実施例で示すように、1233ydの脱酸素処理を行わなくても、水、あるいは水と添加剤を添加することで、本組成物を長期にわたって安定的に保存することが可能である。
【0021】
1-2.水
組成物に含まれる水の量は、1233ydに対して1000重量ppm以上であればよい。例えば水の量は、1233ydに対して1000重量ppm以上であり、1233ydにおける飽和濃度以下であってもよい。あるいは、水の量は、1233ydに対して1000重量ppm以上であり、1600重量ppm以下であってもよい。水の量が飽和濃度以下、または1600重量ppm以下であれば、組成物は均一であり、相分離しない。このため、組成物の取り扱いが容易となり、均一な特性を発現することができる。組成物中の水の量は、カールフィッシャー水分分析法を用いて求めることができる。
【0022】
水の添加は、蒸留精製して得られる1233yd、または簡易的な脱水で得られる1233ydを含む粗生成物に対して任意の方法で水を添加することで調整することができる。例えば、蒸留された1233yd、または簡易脱水された1233ydを秤量し、マイクロピペットやマイクロシリンジなどを用いて水を滴下すればよい。なお、水は蒸留や濾過、抽出、イオン交換樹脂や活性炭との処理を行った後に1233ydに添加することが好ましい。
【0023】
1-3.添加剤
組成物に添加剤が含まれる場合、その量は1233ydに対して10重量ppm以上2重量%以下、10重量ppm以上1重量%以下、あるいは10重量ppm以上0.5重量%以下の範囲となるように添加剤が加えられる。添加剤の添加も、水の添加と同様の方法で行えばよい。添加剤と脱フッ化水素の際に用いられる安定化剤が同一の場合、添加剤を別途添加せず、粗生成物中に残留する安定化剤を添加剤として用いてもよい。
【0024】
添加剤としては、例えば、ニトロ化合物、エポキシ化合物、フェノール誘導体、エーテル、アルコール、イミダゾール誘導体、アミン、不飽和炭化水素等が挙げられる。また、これらは単独で用いてもよく、2種類以上の添加剤を併用してもよい。
【0025】
ニトロ化合物としては、例えば、脂肪族または芳香族ニトロ化合物が挙げられる。脂肪族ニトロ化合物としては、例えば、ニトロメタン、ニトロエタン、1-ニトロプロパン、2-ニトロプロパンなどが挙げられる。芳香族ニトロ化合物としては、例えば、ニトロベンゼン、o-、m-、またはp-ジニトロベンゼン、トリニトロベンゼン、o-、m-、またはp-ニトロトルエン、o-、m-、またはp-エチルニトロベンゼン、2,3-、2,4-、2,5-、2,6-、3,4-、または3,5-ジメチルニトロベンゼン、o-、m-、またはp-ニトロアセトフェノン、o-、m-、またはp-ニトロフェノール、o-、m-、またはp-ニトロアニソールなどが挙げられる。
【0026】
エポキシ化合物としては、例えばエチレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、プロピレンオキシド、スチレンオキシド、シクロヘキセンオキシド、グリシドール、エピクロルヒドリン、グリシジルメタクリレート、フェニルグリシジルエーテルなどのアリルグリシジルエーテル、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテルなどに例示されるモノエポキシ化合物に加え、ジエポキシブタン、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントルグリシジルエーテルなどの多官能性エポキシ化合物等が挙げられる。
【0027】
フェノール誘導体としては、無置換のフェノールのほか、例えば、フェノール性水酸基とともにアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、ハロゲンなど各種の置換基を芳香環上に有する化合物が挙げられる。このようなフェノール誘導体としては、例えば、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、o-クレゾール、m-クレゾール、p-クレゾール、チモール、p-t-ブチルフェノール、o-メトキシフェノール、m-メトキシフェノール、p-メトキシフェノール、オイゲノール、イソオイゲノール、ブチルヒドロキシアニソール、キシレノールなどの1価のフェノール誘導体に加え、t-ブチルカテコール、2,5-ジ-t-アミノヒドロキノン、2,5-ジ-t-ブチルヒドロキノンなどの2価のフェノール誘導体などが挙げられる。
【0028】
エーテルとしては、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、エチルメチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルイソプロピルエーテル、エチルイソブチルエーテル、エチルイソペンチルエーテル、エチルビニルエーテル、エチルプロパルギルエーテル、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキサン、1,3,5-トリオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリメトキシエタン、トリエトキシエタン、テトラヒドロフランなどの脂肪族置換基が酸素に結合されたエーテルのほか、エチルフェニルエーテル、ジフェニルエーテル、エチルナフチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールジフェニルエーテル、アニソール、アネトールなどの芳香族置換基が少なくとも一つ酸素に結合されたエーテルでも良い。
【0029】
アルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、イソプロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、1-エチル-1-プロパノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、ベンジルアルコール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、4-メチルシクロヘキサノール、α-テルピネオール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、ノニルアルコール、テトラデシルアルコール、2-プロピン-1-オールなどが挙げられる。これらのアルコールなかでも、炭素数が1から3のアルコールであるメタノール、エタノール、イソプロパノール、2-プロピン-1-オールが好ましい。
【0030】
イミダゾール誘導体としては、未置換のイミダゾールのほか、炭素数1から18のアルキル基、シクロアルキル基、またはアリール基を窒素上の置換基として有する1-メチルイミダソール、1-n-ブチルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-(β-オキシエチル)イミダゾール、1-メチル-2-プロピルイミダゾール、1-メチル-2-イソブチルイミダゾール、1-n-ブチル-2-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,4-ジメチルイミダゾール、1,5-ジメチルイミダゾール、1,2,5ートリメチルイミダゾール、1,4,5-トリメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾールなどが挙げられる。
【0031】
アミンとしては、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ジイソプロピルアミン、ジイソブチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、トリエチルアミン、モルホリン、N-メチルモルホリン、ベンジルアミン、ジベンジルアミン、α-メチルベンジルアミン、メチルアミン、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ジプロピルアミン、ブチルアミン、イソブチルアミン、ジブチルアミン、トリブチルアミン、ジペンチルアミン、トリペンチルアミン、2-エチルヘキシルアミンなどに例示される脂肪族アミンに加え、アニリン、N-メチルアニリン、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、ジフェニルアミン、トリフェニルアミンなどの芳香族アミン、ピリジンなどの含窒素ヘテロ芳香族化合物が挙げられる。あるいはエチレンジアミンやプロピレンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミンなどの多官能性アミンでもよく、ジエチルヒドロキシルアミンなどのヒロロキシルアミンでもよい。
【0032】
不飽和炭化水素としては、1-ペンテン、2-ペンテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、2-メチル-2-ブテンなどのペンテン異性体、1-ヘキセン、2-ヘキセン、3-ヘキセン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、2-エチル-1-ブテン、3-エチル-1-ブテン、3-エチル-2-ブテン、2-メチル-2-ペンテン、3-メチル-2-ペンテン、4-メチル-2-ペンテン、2,3-ジメチル-2-ブテンなどのヘキセン異性体、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、4-ヘプテン、3-エチル-2-ペンテンなどのへプテン異性体、1-オクテン、2-オクテン、3-オクテン、4-オクテン、2-メチル-1-へプテン、2-メチル-2-へプテン、2-メチル-3-へプテン、3-メチル-1-へプテン、3-メチル-2-へプテン、3-メチル-3-へプテン、4-メチル-1-へプテン、4-メチル-2-へプテン、4-メチル-3-へプテン、5-メチル-1-へプテン、5-メチル-2-へプテン、5-メチル-3-へプテン、6-メチル-1-へプテン、6-メチル-2-へプテン、6-メチル-3-へプテン、2,3-ジメチル-1-ヘキセン、2,4-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、3,5-ジメチル-1-ヘキセン、4,5-ジメチル-1-ヘキセン、3,3-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、5,5-ジメチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、4-エチル-1-ヘキセン、2,3-ジメチル-2-ヘキセン、2,4-ジメチル-2-ヘキセン、2,5-ジメチル-2-ヘキセン、3,4-ジメチル-2-ヘキセン、3,5-ジメチル-2-ヘキセン、4,5-ジメチル-2-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、5,5-ジメチル-1-ヘキセン、3-エチル-2-ヘキセン、4-エチル-2-ヘキセン、2,3-ジメチル-3-ヘキセン、2,4-ジメチル-3-ヘキセン、2,5-ジメチル-3-ヘキセン、3,4-ジメチル-3-ヘキセン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン、2,2-ジメチル-3-ヘキセン、3-エチル-3-ヘキセン、2,3,3-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,4,4-トリメチル-1-ペンテン、3,3,4-トリメチル-1-ペンテン、2,3,4-トリメチル-2-ペンテン、2,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3,4,4-トリメチル-2-ペンテン、3-エチル-2-メチル-2-ペンテン、3-エチル-4-メチル-2-ペンテンなどのオクテン異性体、1-ノネンなどのノネン異性体、また、ブタジエン、イソプレン、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエンなどのジエン、シクロヘキセン、シクロヘキサジエン、シクロヘプテン、シクロヘプタジエン、シクロオクテン、シクロオクタジエンなどの不飽和環状化合物が挙げられる。
【0033】
特許文献1に開示されているように、1233ydは水に対して不安定であり、水によって容易に分解すると考えられてきた。しかしながら実施例に示すように、1233ydを含む組成物に水を高濃度で添加することにより、1233ydの分解が効果的に抑制され、その結果、長期にわたって1233ydを含む組成物を安定的に保存することができる。
【0034】
2.組成物の保存
1233ydと水を含む組成物、および1233yd、水、ならびに添加剤を含む組成物は、例えばポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルコキシエチレン共重合体、ステンレスや鉄などの金属、またはガラスなどを材料として含む容器内で密閉することによって保存することができる。容器内部はコーティング処理などをしなくてもよく、容器内で組成物が上記材料と接してもよい。あるいは、ステンレスまたは鉄などの金属で作製され、内表面がガラスコーティングされた容器を用いてもよい。容器内に組成物を注入した後に窒素やアルゴンなどの不活性ガスを封入してもよい。なお、ガラスを材料として選択する場合には、紫外線や可視光を遮蔽するための遮光フィルムで容器を覆う、あるいは酸化鉄を含むガラスを材料として用いたガラス容器を用いてもよい。また、少量(例えば数mLから数百mL)の組成物を保存する場合には、容器としてガラス製のアンプルを用い、アンプル内に組成物を注入した後に一部を溶融して封止してもよい。
【0035】
組成物を容器内に密閉する前に、脱酸素処理を行ってもよい。これにより、酸素による1233ydの分解をさらに抑制することができる。脱酸素処理は、例えば液体窒素やドライアイスなどを用いて容器内で組成物を固化し、その後容器内を減圧して(例えば10Pa以上300Pa)密閉し、外部環境温度に戻るまで静置する。この操作を数回(例えば2回から5回)繰り返せばよい。あるいは組成物に対して窒素やアルゴンなどの不活性ガスをバブリングすることで脱酸素処理を行ってもよい。
【0036】
実施例で示されるように、1233ydに水を添加することで1233ydの分解が抑制される。したがって、水を含むように組成物を構成することで、組成物の潤滑剤塗布液用溶剤、熱媒体、冷媒、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、あるいは消火剤としての機能を長期にわたって維持できるのみならず、組成物を使用する装置の腐食や劣化、破損を防止することができる。
【実施例
【0037】
以下の実施例では、1233ydに対して保存試験を行った結果を示す。1233ydは244caの脱フッ化水素によって合成し、精密蒸留によって生成した後に用いた。ただし、1233ydに対しては脱気処理などの脱酸素処理は行わなかった。1233ydの有機成分に対する分析は、FID検出器を備えたガスクロマトグラフィー(島津製作所製、型番GC-2010 plus)を用いて行い、クロマトグラムにおける各有機成分の面積比に基づいて成分比を決定した。
【0038】
1233ydのイオン成分の分析は、イオンクロマトグラフィー(Thermo Fisher Scientifc製、Aquion、カラム:AS-22、溶離液:炭酸系溶離液)を用いて行い、クロマトグラムにおける各イオンの面積比に基づいて成分比を決定した。具体的には、4gの1233ydを超純水4gで抽出し、この溶液をイオンクロマトグラフで分析した。
【0039】
用いた1233ydの組成を表1に示す。表1に示すように、蒸留後の1233ydにはイオン成分はほとんど含まれていないことが確認された。なお、1233ydには、1233ydの合成時に安定剤として添加されたオクテン(異性体を含む)が3.2重量ppmで含まれていることをガスクロマトグラフィーによって確認した。
【0040】
【表1】
【0041】
保存試験は、1233ydに水を添加し、これをガラス容器、またはステンレス製容器内で保存することで行った。具体的には、30gの1233ydに対して水をマイクロシリンジで添加し、1233ydに対して50重量ppm、または1600重量ppmで水を含む試料を調製した。前者を試料A、後者を試料Bと呼ぶ。
【0042】
ガラス容器内における保存試験では、試料A、試料Bをそれぞれガラスバイアル(内径約3.5mm、長さ約13cm)に加え、遮光下、55℃の温度で6日間静置した。その後ガラスバイアルを開封し、試料をイオンクロマトグラフで分析した。一方、ステンレス製容器内における保存試験では、試料A、試料B(各60g)を120ccの容積を有するオートクレーブ(耐圧硝子社製)内に密閉し、55℃で7日間静置した。その後、オートクレーブを開放し、試料をイオンクロマトグラフで分析した。ガラス容器、およびステンレス製容器内における保存試験分析結果をそれぞれ表2、表3に示す。
【0043】
【表2】
【0044】
【表3】
【0045】
上述したように、保存試験開始前の1233ydでは、フッ化物イオンやCHF2CO2 -イオン、塩化物イオン、CF3CO2 -イオンの濃度は極めて低い(表1)。これに対し、水の量が1233ydに対して50重量ppmの時には、容器に含まれる材料の種類に依存せず、これらのイオンの濃度が大幅に増大することが分かった(表2、3)。このことは、特許文献1に開示された1233ydの水に対する不安定性と一致する。ただし、特許文献2には、オクテンなどの安定化剤が1重量ppm以上の濃度で存在することで1233ydが安定化することが開示されているが、この結果は、3.2重量ppmの濃度では1233ydの分解を抑制することができないことを示している。
【0046】
これに対し、水が1233ydに対して大量に存在する場合には、容器に含まれる材料の種類に依存せず、保存試験後におけるイオンの濃度の増大は殆ど確認されなかった(表2、3)。この結果は、1233ydが水に不安定であり速やかに分解するという知見からは予想できない結果であると言える。
【0047】
なお、特開2016-216477(以下、参考文献)には、ハイドロフルオロオレフィンである2,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、1234yf)や1,3,3,3-テトラフルオロプロペン(以下、1234ze)は高濃度酸素存在下においては、水を添加することで安定化することが開示されている。しかしながら、1234yfや1234zeの分解を抑制するためには極めて大量の水(10000重量ppm)が必要である。このような大量の水の存在下では、1233ydと水は相分離するため、1233ydを含む組成物を潤滑剤塗布液用溶剤、熱媒体、冷媒、発泡剤、溶媒、洗浄剤、噴射剤、あるいは消火剤などの機能性材料として使用する際、取り扱いが困難となる、あるいは組成物を使用する装置の腐食や劣化、破損を誘発する。
【0048】
しかしながら本発明の実施形態に係る組成物の場合には、水の量は1233ydに対して1000重量ppm以上であるものの、飽和濃度以下であれば組成物に十分な安定性を付与することができる。このため、相分離しない条件下、その機能を長期にわたって維持できるだけでなく、装置の腐食や劣化、破損を防止することができる。