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特許7368715巻鉄心、珪素鋼板、およびそれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】巻鉄心、珪素鋼板、およびそれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 27/245 20060101AFI20231018BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20231018BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01F27/245 155
H01F41/02 A
H01F1/147 175
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019200893
(22)【出願日】2019-11-05
(65)【公開番号】P2021077677
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100144417
【弁理士】
【氏名又は名称】堂垣 泰雄
(72)【発明者】
【氏名】水村 崇人
(72)【発明者】
【氏名】茂木 尚
(72)【発明者】
【氏名】峯松 英資
(72)【発明者】
【氏名】植村 俊彦
(72)【発明者】
【氏名】藤村 浩志
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-012756(JP,A)
【文献】特開平04-165082(JP,A)
【文献】国際公開第2018/131613(WO,A1)
【文献】特開平02-271509(JP,A)
【文献】特開平06-256008(JP,A)
【文献】特開2018-008405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/245
H01F 41/02
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の珪素鋼板を積層させ、閉磁路を形成する巻鉄心であって、前記珪素鋼板の絶縁皮膜表面に粉末が3×10-3(g/m)以上5(g/m)以下で配置され、前記粉末は平均粒径が30μm以上1500μm以下であり、かつ円形度が0.3以上、0.9以下であることを特徴とする巻鉄心。
【請求項2】
前記粉末は、木屑、炭素、鉄、アルミ、銅、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化鉄(II、III)、メタケイ酸鉄(II)、鉄カンラン石(FeSiO)、苦土カンラン石(MgSiO)、二酸化珪素、酸化アルミニウム、五酸化二リン、酸化クロム(III)、酸化ホウ素、二酸化ジルコニウム、酸化チタン(IV)、酸化マグネシウム、五酸化ニオブ、酸化ネオジム、酸化リチウム、酸化イットリウム(III)、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化バナジウム、酸化ビスマス(III)、三酸化アンチモン、酸化マンガン、二酸化セレン、二酸化テルルからなる群から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の巻鉄心。
【請求項3】
前記巻鉄心は、コーナー部と、前記コーナー部を除く辺部と、を有し、
前記珪素鋼板は、前記コーナー部を形成する部分が予め折り曲げられた状態で巻回されるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の巻鉄心。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の巻鉄心を構成するための、前記絶縁皮膜表面に粉末が配置された珪素鋼板であって、フープ形状または切り板形状であることを特徴とする、珪素鋼板。
【請求項5】
請求項1~3のいずれか1項に記載の巻鉄心を製造する方法であって、前記粉末が付着した鋼板を使用するもしくは、前記粉末を前記巻鉄心を構成する前記珪素鋼板前記絶縁皮膜表面にふきかける工程を含むことを、特徴とした巻鉄心の製造方法。
【請求項6】
請求項4に記載の珪素鋼板を製造する方法であって、前記粉末が付着した珪素鋼板を使用するもしくは、前記粉末を前記珪素鋼板の前記絶縁皮膜表面にふきかける工程を含むことを、特徴とした珪素鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数枚の珪素鋼板が巻回された巻鉄心およびその珪素鋼板、ならびにそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の地球温暖化問題への意識の高まり、一部地域における急速な経済発展による電力需要の急増に伴い、変圧器においては、損失の低減、特に鉄損(無負荷損)の低減に対する関心が高まっている。「鉄損」を低減するための努力が世界規模で展開されており、各メーカは、鉄心材料の改良や鉄心構造の改良に注力し激しい競争を繰り広げている。
【0003】
そのような変圧器の性能向上に注力がされる一方で、変圧器そのものの生産性を向上することも求められている。
【0004】
変圧器の重要な構成要素である巻鉄心は、一般的に、次のような方法により製造されている。即ち、薄い珪素鋼板から鉄心材を一巻き分、つまりワンターン分ごとに切断しながら円形の巻き取り型に巻き取る。その後、巻き取った鉄心材の内側と外側に成形型を当ててプレスし、これにより、中心にほぼ矩形の鉄心窓を形成する。このとき、巻鉄心を構成する鉄心材には、鉄損増大の原因となる曲げ応力が生じる。そのため、残留応力を緩和して鉄損特性を回復させるための処理、即ち、巻鉄心を例えば約800℃に加熱した後に冷却する焼鈍処理が行われる。
【0005】
また、巻鉄心に巻線(コイル)を組み付ける際には、巻鉄心を、各鉄心材の切断部において一旦開き、巻鉄心の辺部に巻線を組み付けた後、再び、巻鉄心を閉じる。このとき、各鉄心材の切断部が接合される接合部で、ギャップが大きく開くと、磁気抵抗が増大し、鉄損増大の原因となる。そのため、各鉄心材では、ギャップの発生を極力抑えるような長さの調整を行っている。
【0006】
このように、巻鉄心の鉄損増大を抑制するために、すなわち、各鉄心材の切断部が接合される接合部に生じるギャップを極力小さくするために、現状では、巻鉄心を製造する一連の各工程、即ち、珪素鋼板の切断工程、巻き取り工程、成形工程、焼鈍工程、巻線の組み付け工程において精密な寸法管理が必要とされている。また、特に巻線の組み付け工程では、上述したように巻鉄心を締め付ける作業が必要であり、製造工数の増大を招いている。
【0007】
特許文献1は、製造工程における精密な寸法管理と要することなく、また、製造工数の増大を招くことなく製造され、且つ、鉄損の増大を抑制することができる巻鉄心を提供しようとするものである。より具体的には、巻鉄心の製造方法として、一巻ごとに少なくとも1箇所の切断部を有する複数枚の鉄心材をコーナー部で緩く巻回し、各鉄心材の切断部を接合した状態で中心に矩形の窓部を形成することを開示する。
【0008】
各鉄心材が従来よりも緩く巻回されていることから、その後、巻鉄心がプレス成形される際に、コーナー部が形成される部分の鉄心材が適宜変形する。コーナー部が適宜変形することにより、プレスや締め付けに伴う鉄心材の変形が吸収される。よって、プレス後に、各鉄心材の切断部、換言すれば接合部が開いてしまうことを防止することができる。
【0009】
さらに、巻線の組み付けのために、巻鉄心を一旦開いたとしても、再び閉じて開く前の元通りの形状に戻すことで、接合部にギャップが発生していない巻鉄心を巻線が組み付けられた状態で再生することができる。そのため、巻鉄心の周囲を締付バンドで締め付けるといった従来の作業を行う必要がなくなり、製造工数の削減を図ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2015-141930号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1のように、製造工程における精密な寸法管理と要することなく、また、製造工数の増大を招くことなく製造され、且つ、鉄損の増大を抑制することができる巻鉄心について検討されている。
【0012】
一方で、巻線(コイル)に巻鉄心を挿入する工程に、比較的時間が費やされることが問題となっている。より具体的に巻線(コイル)に巻鉄心を挿入して組み付ける工程を説明すると、一旦巻鉄心を、各鉄心材の切断部において開き、巻鉄心の開いた箇所から巻線(コイル)に挿入し、巻鉄心の辺部まで巻線(コイル)をスライドさせて、巻線(コイル)を巻鉄心に組み付けた後、再び、巻鉄心の開いた箇所を閉じる。この工程において、特に、コイルに巻鉄心を挿入する際、鉄心を巻厚で数分割して、少しずつコイルに入れていく。この際に鉄心材の鋼板と鋼板をスライドさせ、鉄心材の板幅を揃え、巻鉄心の形状を整えるために要する時間が比較的長く、これを短縮することができれば、生産性の向上に大きく資することができる。
【0013】
そこで、本発明は、巻線(コイル)を巻鉄心に挿入して組み付ける工程を従来より短縮することのできる、巻鉄心、これに用いる珪素鋼板ならびにそれらの製造法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは鋭意検討の結果、巻線(コイル)を巻鉄心に挿入して組み付ける工程において、それらのすべり性を特定の条件で高めることができること、それにより巻線(コイル)の巻鉄心への挿入、および巻線(コイル)を巻鉄心の辺部までへのスライドに要する時間を従来よりも短縮できることを見出し、本発明を完成にいたらしめた。
【0015】
本発明により、以下の態様が提供される。
[1]
複数枚の珪素鋼板を積層させ、閉磁路を形成する巻鉄心であって、前記珪素鋼板の表面に粉末が3×10-3(g/m)以上5(g/m)以下で配置され、前記粉末は平均粒径が30μm以上1500μm以下であり、かつ円形度が0.3以上、0.9以下であることを特徴とする巻鉄心。
[2]
前記粉末は、木屑、炭素、鉄、アルミ、銅、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化鉄(II、III)、メタケイ酸鉄(II)、鉄カンラン石(FeSiO)、苦土カンラン石(MgSiO)、二酸化珪素、酸化アルミニウム、五酸化二リン、酸化クロム(III)、酸化ホウ素、二酸化ジルコニウム、酸化チタン(IV)、酸化マグネシウム、五酸化ニオブ、酸化ネオジム、酸化リチウム、酸化イットリウム(III)、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化バナジウム、酸化ビスマス(III)、三酸化アンチモン、酸化マンガン、二酸化セレン、二酸化テルルからなる群から選択される1種または2種以上を含むことを特徴とする[1]に記載の巻鉄心。
[3]
前記巻鉄心は、コーナー部と、前記コーナー部を除く辺部と、を有し、
前記珪素鋼板は、前記コーナー部を形成する部分が予め折り曲げられた状態で巻回されるものであることを特徴とする[1]または[2]に記載の巻鉄心。
[4]
[1]~[3]のいずれか1つに記載の巻鉄心を構成するための、表面に粉末が配置された珪素鋼板であって、フープ形状または切り板形状であることを特徴とする、珪素鋼板。
[5]
[1]~[3]のいずれか1つに記載の巻鉄心を製造する方法であって、前記粉末が付着した珪素鋼板を使用するもしくは、前記粉末を前記巻鉄心の表面にふきかける工程を含むことを、特徴とした巻鉄心の製造方法。
[6]
[4]に記載の珪素鋼板を製造する方法であって、前記粉末が付着した珪素鋼板を使用するもしくは、前記粉末を前記珪素鋼板の表面にふきかける工程を含むことを、特徴とした珪素鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、巻線(コイル)に巻鉄心を挿入する工程において、特に、巻線(コイル)に巻鉄心を挿入し、巻鉄心をスライドさせるために要する時間を従来より短縮することができ、生産性の向上に大きく資することができる。
また、本発明によって、鉄損等の磁気特性は著しく劣化することはなく、本発明を用いない巻鉄心およびそれを構成する珪素鋼板と概ね同等の磁気特性を維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】第1実施形態に係る巻鉄心の一構成例を示す全体図
図2】巻鉄心の製造装置の一構成例を概略的に示す図
図3】巻鉄心の成形工程の一例を示す図
図4】巻線の組み付け工程の一例を示す図
図5】巻鉄心の組み付け途中を示す斜視図
図6】粉末重量の測定方法を説明する図
図7】鋭角的であるコーナー部を有する巻鉄心の一構成例を示す全体図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、巻鉄心およびそれを構成する珪素鋼板ならびにそれらの製造方法に係る複数の実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各実施形態で実質的に同一の要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0019】
図1に示す巻鉄心10は、図示しない珪素鋼板を切断することにより得られた複数枚の鉄心材10aが巻回された構成である。この巻鉄心10は、中心にほぼ矩形の窓部11を有する。また、巻鉄心10は、4つのコーナー部12と、これらコーナー部12を除く4つの辺部13を有する。この場合、辺部13は、図示しない巻線(コイル)が組み付けられる長辺部13aと、この長辺部13aよりも短い短辺部13bからなる。巻鉄心10を構成する複数枚の鉄心材10aは、一巻き分、つまりワンターン分ごとに珪素鋼板から切断されたものであり、従って、この場合、一巻ごとに1箇所の切断部を有している。そして、各鉄心材10aにおいて切断部が接合される部分、つまり、各鉄心材10aの両端部には接合部14が形成される。
【0020】
図1では、コーナー部が曲率を有する曲線形状であるが、コーナー部の形状は曲線形状に限定されるものではなく、図7に示すように、コーナー部が鋭角的に折り曲げられた状態であってもよい。したがって、珪素鋼板は、コーナー部を形成する部分が予め折り曲げられた状態で巻回されるものであってもよい。折り曲げられた状態の珪素鋼板は、積層して巻鉄心を形成することが容易であり、また、巻線(コイル)に巻鉄心を挿入する際に珪素鋼板がズレにくいため、好ましい。
【0021】
本発明によれば、巻鉄心を構成する珪素鋼板の表面には、粉末が3×10-3(g/m)以上5(g/m)以下で配置され、その粉末は平均粒径が30μm以上1500μm以下であり、かつ円形度が0.3以上、0.9以下である。
これにより、巻鉄心の表面のすべり性が向上する。その結果、巻線(コイル)に巻鉄心を挿入する工程において、特に、巻鉄心を巻線(コイル)に挿入し、スライドさせるために要する時間を従来より短縮することができる。
【0022】
巻鉄心を構成する珪素鋼板の表面に配置する粉末の量は、3×10-3(g/m)以上5(g/m)以下である。
表面に配置する粉末の量が少ないと、十分なすべり性を得ることができないので、配置量を3×10-3(g/m)以上とする。概して、配置量が大きいほど、すべり性は向上するので、好ましくは5×10-3(g/m)以上、より好ましくは3×10-2(g/m)以上、さらに好ましくは5×10-2(g/m)以上としてもよい。
ただし、粉末の量が多すぎる場合、すべり性の向上効果は飽和し、鉄損等の磁気特性を劣化させるおそれがあるので、配置量を5(g/m)以下とする。すべり性の向上効果と磁気特性の低下のおそれとを比較考量して、配置量を、3(g/m)以下、5×10-1(g/m)以下、3×10-1(g/m)以下としてもよい。
【0023】
粉末の平均粒径は30μm以上1500μm以下である。なお、本明細書において、特に断りのないかぎり、平均粒径は、粒度分布の最頻値に対応する粒子径(すなわちモード径)である。また、平均粒径は、少なくとも2万個以上の粉末試料について、粒径と頻度のヒストグラムを作成し、評価を行なう。粒径測定評価を行なう装置として、マイクロトラック・ベル株式会社のマイクロトラックSyncを用いた。
平均粒径が小さすぎると、十分なすべり性を得ることができないので、平均粒径を30μm以上とする。概して、平均粒径が大きいほど、すべり性は向上するので、好ましくは50μm以上、より好ましくは100μm以上、さらに好ましくは200μm以上としてもよい。
ただし、平均粒径が大きすぎる場合、すべり性の向上効果は飽和し、鉄損等の磁気特性を劣化させるおそれがあるので、平均粒径を1500μm以下とする。すべり性の向上効果と磁気特性の低下のおそれとを比較考量して、平均粒径を、1300μm以下、1100μm以下、1000μm以下としてもよい。
【0024】
粉末の円形度は0.3以上、0.9以下である。円形度とは、粒子を画像解析した際の二次元画像における面積から、その面積と等しい真円の円周を求めて、真円の円周を前記粒子の周囲長で除した数値であり、形状の複雑さを測る指標である。例えば、粒子の二次元画像が真円であれば、円形度は1であり、前記粒子が真円からかけ離れた形状であるほど円形度は低下する。円形度については上記平均粒径と同じく、観察して画像解析した2万個以上の粉末試料について、円形度と頻度のヒストグラムで評価し、出現比率の最も大きい円形度を今回評価した円形度と定義した。
円形度が小さすぎると、十分なすべり性を得ることができないので、円形度を0.3以上とする。概して、円形度が大きいほど、すべり性は向上するので、円形度は高いほど好ましい。好ましくは0.4以上、より好ましくは0、5以上、さらに好ましくは0.6以上としてもよい。
ただし、現実的には、円形度を1またはそれに近づけることは、調達コストが過大になること、すべり性の向上効果は概ね飽和すること、等を考慮して、円形度を0.9以下とする。すべり性の向上効果と調達コストを比較考量して、円形度を、0.8以下、0.7以下、0.6以下としてもよい。
【0025】
本発明者らは、多種多様な材料について、すべり性の向上効果の有無を調査した。その結果、粉末の材料として、以下のものが適用可能であることを見出した。具体的には、粉末は、木屑、炭素、鉄、アルミ、銅、酸化鉄(II)、酸化鉄(III)、酸化鉄(II、III)、メタケイ酸鉄(II)、鉄カンラン石(FeSiO)、苦土カンラン石(MgSiO)、二酸化珪素、酸化アルミニウム、五酸化二リン、酸化クロム(III)、酸化ホウ素、二酸化ジルコニウム、酸化チタン(IV)、酸化マグネシウム、五酸化ニオブ、酸化ネオジム、酸化リチウム、酸化イットリウム(III)、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化ナトリウム、酸化カリウム、酸化バナジウム、酸化ビスマス(III)、三酸化アンチモン、酸化マンガン、二酸化セレン、二酸化テルル、からなる群から選択される1種または2種以上であってよく、それらの混合物であってもよい。
【0026】
なお、本発明者らは、上記以外の材料として、水や油等の液体についても調査したが、すべり性を向上させることはないか、かえってすべり性を低下させることがあり、材料として適当でないと判断した。
また、巻鉄心は、複数枚の珪素鋼板を積層させたものであるので、珪素鋼板自体の表面粗さや摩擦係数を調整することも検討したが、それらの調整により鋼板の鉄損や鋼板の応力分布に影響が及び、結果として鉄損等の磁気特性が劣化することがあった。そのため、本発明では、そのような珪素鋼板自体の調整も採用しない。
ただし、本願発明より期待される作用効果への影響が許容される程度の軽微なものであれば、本願発明に係る粉末に加えて、液体を配置すること、珪素鋼板の表面粗度調整等を排除するものではない。
【0027】
本発明の一態様では、巻鉄心を構成する珪素鋼板も提供される。その珪素鋼板の表面に粉末が3×10-3(g/m)以上5(g/m)以下で配置され、前記粉末は平均粒径が30μm以上1500μm以下であり、かつ円形度が0.3以上、0.9以下である。
すなわち、珪素鋼板の表面は、上述の粉末が配置されており、巻線(コイル)へ挿入する際の滑り性が向上する。この、珪素鋼板は、巻鉄心を構成するものであるので、珪素鋼板のすべり性が向上することにより、巻鉄心を構成する珪素鋼板を巻線(コイル)に挿入し、巻鉄心の辺部まで巻線(コイル)をスライドさせるのに要する時間を短縮することができる。
前記の珪素鋼板は、フープ形状または切り板形状である。これらの形状は、巻鉄心を容易に構成することができる。
【0028】
珪素鋼板は、巻鉄心のコーナー部を形成する部分が予め折り曲げられた状態で積層されるものであってもよい。ここで、折り曲げられた状態とは、図7に示すように、珪素鋼板を鋭角的に曲げられた状態を指す。折り曲げられた状態の珪素鋼板は、積層して巻鉄心を形成することが容易であり、また、巻線(コイル)に巻鉄心を挿入する際に珪素鋼板がズレにくいため、好ましい。
【0029】
次に、図1のような巻鉄心10を製造するための製造方法の一例について説明する。この製造方法は、珪素鋼板の切断工程、鉄心材の巻き取り工程、巻鉄心の成形工程、巻鉄心の焼鈍工程からなる。
【0030】
≪珪素鋼板の切断工程≫
この工程では、例えば図2に示すように、製造装置100は、珪素鋼帯Mをフィーダ101によって順次送る構成である。そして、製造装置100は、順次送られる珪素鋼帯Mから、一巻き分、つまりワンターン分の鉄心材10aを切断刃102により順次切断する。
【0031】
ここで、製造される巻鉄心の表面のすべり性を向上させるために、巻鉄心の構成部材である珪素鋼板の表面に、上記で規定した粉末を吹きかけてもよい。粉末をふきかける方法は、特に限定されるものではなく、粉末そのものをキャリアガスによってふきつけてもよく、あるいは、粉末を適当な溶媒と混合し、スラリーにした後に、当該スラリーを巻鉄心の表面に塗布し、溶媒を乾燥除去してもよい。
【0032】
≪鉄心材の巻き取り工程≫
この工程では、例えば図2に示すように、製造装置100は、珪素鋼帯Mから得られた鉄心材10aを、円形の巻き取り型103に順次巻き取る。
【0033】
≪巻鉄心の成形工程≫
この工程では、例えば図3に示すように、巻き取られ積層された複数枚の鉄心材10aの内側の4箇所と外側の4箇所に成形型104,105を当てる。そして、成形型104,105により、鉄心材10aの4箇所を積層方向に沿って適宜プレスする。なお、プレスは、各鉄心材10aの切断部を接合した状態で行われる。鉄心材10aの4箇所が適宜プレスされることにより、プレスされる部分つまり成形型104,105によって挟まれた部分にそれぞれ辺部13が形成され、それ以外の部分、つまり、プレスされない部分(成形型104,105によって挟まれていない部分)にそれぞれコーナー部12が形成される。
【0034】
なお、成形型104,105は、二組の長辺成形型104a,105aと、二組の短辺成形型104b,105bとからなる。そして、長辺成形型104a,105aによってプレスされる部分に長辺部13aが形成され、短辺成形型104b,105bによってプレスされる部分に短辺部13bが形成される。そして、接合部14は、短辺部13bに位置して形成されるように設定されている。即ち、各鉄心材10aは、接合部14を形成する部分が短辺成形型104b,105bの間に挟まれた状態でプレスされる。
【0035】
≪巻鉄心の焼鈍工程≫
この工程では、巻鉄心10を、例えば約800℃ほどの所定温度に加熱した後に冷却する。これにより、巻鉄心10を構成する各鉄心材10aに生じている残留応力を緩和することができ、残留応力に起因して巻鉄心10の鉄損特性が悪化してしまうことを回避することができる。
【0036】
以上の各工程により、巻鉄心10が製造される。この巻鉄心の表面のすべり性を向上させるために、製造された巻鉄心10の表面に、上記で規定した粉末を吹きかけてもよい。粉末をふきかける方法は、特に限定されるものではなく、粉末そのものをキャリアガスによってふきつけてもよく、あるいは、粉末を適当な溶媒と混合し、スラリーにした後に、当該スラリーを巻鉄心の表面に塗布し、溶媒を乾燥除去してもよい。
【0037】
次に、巻鉄心10に組み付けられる、巻線(コイル)を製造するための製造方法の一例について説明する。巻線(コイル)は、鋼材をらせん状に巻いて形成される。らせん状に巻く間隔や巻く回数等は、所望する変圧器の特性に応じて適宜調整してもよい。
【0038】
次に、巻鉄心10に巻線(コイル)を組み付ける組み付け工程について説明する。この巻線の組み付け工程では、まず、図4(a)に例示する巻鉄心10が、図4(b)に例示するように、各鉄心材10aの切断部、換言すれば接合部14を境界として一旦開かれる。そして、図4(c)に例示するように、開かれた接合部から巻線(コイル)600に挿入し、巻線(コイル)600を長辺部13aまでスライドさせて、巻線(コイル)600が組み付けられる。巻線(コイル)に巻鉄心を挿入する際、鉄心を巻厚で数分割して、少しずつコイルに入れていく。この際に鉄心材の鋼板どうしをスライドさせ、鉄心材の板幅を揃え、巻鉄心の形状を整える。そして、図4(d)に例示するように、再び、各鉄心材10aの切断部が接合するように巻鉄心10を閉じる。これにより、長辺部13aに巻線(コイル)600が組み付けられた巻鉄心10が製造される。
【0039】
このとき、巻鉄心10を構成する複数の珪素鋼板の表面は、規定の粉末を配置されているため、それらの表面のすべり性が向上している。そのため、図4(c)に例示される、開かれた接合部から巻線(コイル)600に挿入され、巻線(コイル)600を長辺部13aまでスライドさせて、巻線(コイル)600が組み付けに要する時間を従来より短縮することができる。なお、図5に示されるように、巻線(コイル)2に巻鉄心を挿入する際、鉄心3を巻厚で数分割して、分割した鉄心材1bを少しずつコイル2の挿入孔2aに入れていく。これにより、鉄心材1bをスムーズにコイル2に挿入することができ、先に挿入された鉄心材1aと一体化して鉄心3とすることができる。また、この際に鉄心材1a、1bの鋼板どうしをスライドさせ、鉄心材の板幅を揃え、巻鉄心3の形状を整える。
【0040】
以下、実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例
【0041】
以下では、巻鉄心を構成する珪素鋼板は、巻鉄心のコーナー部を形成する部分を予め折り曲げられた状態にし、その表面に種々の材料を配置した上で、巻鉄心を形成し、その巻鉄心を巻線(コイル)に挿入して組み上げを行い、組み上げ効率の評価を行なった。組み上げられた巻鉄心は、図7に示すような形状を有する。ここで、巻鉄心を構成する珪素鋼板は表面に電子ビームを照射し、磁区制御したものを用いた。
組み上げ効率の評価は、表面に材料を配置した巻鉄心と巻線(コイル)の組み上げに要した時間が、対照、すなわち材料を配置しない場合に比べて、短縮された時間を指標として、以下のように評点づけした。
○:短縮された時間が1分以上
×:短縮された時間が1分未満
【0042】
(珪素鋼板の粗度を調整した場合)
巻鉄心を構成する、珪素鋼板の粗度を表1に示すように調整し、巻鉄心および巻線(コイル)の組み上げを行なった。組み上げ効率の評価結果も表1に示す。
なお、ここでのRa、RSmについてはJIS B 0633:2001に記載の定義に基づき、カットオフ値λs=2.5μm、λc=0.80mmとした際の粗さ曲線を定義し、鋼板の任意の箇所を測定した際の測定値である。
【0043】
また、変圧器としての鉄損値を測定し、鋼板1(標準条件)に対する鉄損値の変化についても調査を行ない、その結果も表1に示す。
【0044】
【表1】
【0045】
珪素鋼板の粗度の調整では、組み上げ効率は改善されず、さらに鉄損等の磁気特性が劣化することが確認された。
【0046】
(液体を配置した場合)
巻鉄心を構成する珪素鋼板の表面に配置する材料として、表2に示す液体を用いて、巻鉄心および巻線(コイル)の組み上げを行った。組み上げ効率の評価結果も表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
巻鉄心を構成する珪素鋼板の表面に液体を配置した場合、すべり性は向上せず、組み上げ効率は改善されないことが確認された。
【0049】
(粉末を配置した場合)
巻鉄心を構成する珪素鋼板の表面に配置する材料として、表3に示す粉末を用いて、巻鉄心および巻線(コイル)の組み上げを行った。組み上げ効率の評価結果も表3に示す。
なお、粉末の重量は、組み上げを行った後に、巻鉄心および巻線(コイル)を解体し、表面に配置された粉末を回収し、その重量を計量した。粉末重量の測定方法について、図6を用いて詳述する。粉末の重量の計量については、風速が0.1m/s以下の実質的に無風の室内で実施した。風により粉末が飛び散ってしまうことがあるため、風量は0とする。
(1) 粉末を受けるための水平なシートに巻鉄心を載置し、巻鉄心を構成する複数の珪素鋼板を塑性変形させることなく、1枚ごとに垂直に持ち上げて取り外し、分解する。分解された1枚ごとの珪素鋼板も前記シートの上に載置する。
(2) 粉末重量を回収するための、小型集塵機(マキタ製450(p))の、粉末回収前の重量を計量する。
(3) (1)で分解された1枚ごとの珪素鋼板の表裏の全面に対して、(2)の集塵機の吸入口面を対向接触した状態で、集塵機による5秒間以上の吸引を行う。
(4) 珪素鋼板の表裏の全面(コーナー部は除く)に配置された粉末を全量回収する。
(5) 粉末回収前後の集塵機の重量を計量、比較して、回収された粉末重量を算出する。
(6) 前記シートに落ちた粉末を別途回収し、重量を測定する。その重量を、(5)で算出された粉末重量と合計して、巻鉄心を構成する珪素鋼板の表面に配置された粉末の重量を算出する。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4-1】
【表4-2】
【表4-3】
【表4-4】
【表5-1】
【表5-2】
【0052】
本発明の規定する範囲内で粉末を巻鉄心および/または巻線(コイル)の表面に配置した場合、すべり性は向上し、組み上げ効率は改善されることが確認された。
【0053】
(巻鉄心のコーナー部が曲率を有する形状とした場合)
上述の実施例では、図7に示すような、巻鉄心のコーナー部が鋭角的である形状の巻鉄心を用いたが、別途、図1に示すような、巻鉄心のコーナー部が曲率を有する形状の巻鉄心の組み上げも行った。その結果、コーナー部が曲率を有する形状の巻鉄心でも、本発明の規定する範囲内で粉末を巻鉄心および/または巻線(コイル)の表面に配置した場合、すべり性は向上し、組み上げ効率は改善されることが確認された。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7