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特許7368729圧延装置の制御装置、圧延装置の制御方法、及び圧延装置の制御プログラム
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  • 特許-圧延装置の制御装置、圧延装置の制御方法、及び圧延装置の制御プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】圧延装置の制御装置、圧延装置の制御方法、及び圧延装置の制御プログラム
(51)【国際特許分類】
   B21B 37/68 20060101AFI20231018BHJP
   B21B 45/02 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
B21B37/68 D
B21B45/02 320S
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020023161
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021126684
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】鷲北 芳郎
(72)【発明者】
【氏名】新國 大介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 将太
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-230875(JP,A)
【文献】特開平07-088522(JP,A)
【文献】特表2006-518670(JP,A)
【文献】特開平03-188562(JP,A)
【文献】特開2002-219504(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21B 37/00-37/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送路上で圧延材を圧延する粗圧延機及び仕上圧延機と、
前記搬送路上における前記粗圧延機出口と前記仕上圧延機入口との間において前記圧延材の温度を測定する温度測定部と、
前記搬送路上における前記温度測定部と前記仕上圧延機出口との間において前記圧延材の温度を調節する複数の温度調節部と、
を備える圧延装置を制御して前記圧延材を圧延する圧延装置の制御装置であって、
前記圧延材が搬送される搬送方向に互いに間隔を空けて前記圧延材に設定された複数の制御点における前記圧延材の温度をそれぞれ前記温度測定部から取得する温度取得部と、
予め設定された複数の温度管理位置それぞれにおいて、前記複数の制御点の温度が、前記温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、前記複数の温度調節部それぞれの操作量を設定する操作量設定部と、
前記操作量設定部により設定された各前記操作量を、対応する前記温度調節部にそれぞれ出力する出力部と、
を備え、
前記複数の温度管理位置は、前記仕上圧延機出口側における前記搬送路上に設定された温度管理位置、及び、前記仕上圧延機内における前記搬送路上に設定された温度管理位置を含み、
前記複数の温度調節部の数をN とし、
前記複数の制御点のうち、前記搬送方向の下流側から上流側に向かってk番目の制御点を第k制御点とし、
前記複数の温度管理位置のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってi番目の温度管理位置を第i温度管理位置とし、
前記複数の温度調節部のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってj番目の温度調節部を第j温度調節部とし、
前記複数の温度調節部それぞれの前記操作量を0としたときの前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度をU i,k とし、
前記第j温度調節部が、前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差を△U i,k,j とし、
前記第j温度調節部の前記操作量で操作したときの前記第k制御点の温度変化の、前記温度差△U i,k,j に対する比率を操作比率x k,j としたときに、
前記操作量設定部は、
(1)式で表される前記第k制御点の前記第i温度管理位置における予測温度U i,k が、前記温度条件を満たすことを不等式制約条件として、数理計画法を用いて前記操作比率x k,j の最適値を求め、
前記操作比率x k,j の最適値に基づいて複数の操作量を設定する、圧延装置の制御装置。
【数1】
【請求項2】
前記操作量設定部は、前記複数の制御点における、前記仕上圧延機入口側に対する前記複数の温度管理位置の温度差が、予め決められた条件を満たすことを前記不等式制約条件として前記数理計画法を用いる、請求項1に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項3】
前記操作量設定部は、前記複数の制御点の温度が、前記下限温度から緩和量を減じた値以上、かつ、前記上限温度に緩和量を加えたもの以下に収まる温度条件を満たすように、前記複数の温度調節部それぞれの操作量を設定する、請求項1又は2に記載の圧延装置の制御装置。
【請求項4】
搬送路上で圧延材を圧延する粗圧延機及び仕上圧延機と、
前記搬送路上における前記粗圧延機出口と前記仕上圧延機入口との間の部分における前記圧延材の温度を測定する温度測定部と、
前記搬送路上における温度測定部と前記仕上圧延機出口との間の部分における前記圧延材の温度を調節する複数の温度調節部と、
を備える圧延装置を制御して前記圧延材を圧延する圧延装置の制御方法であって、
前記圧延材が搬送される搬送方向に互いに間隔を空けて前記圧延材に設定された複数の制御点における前記圧延材の温度をそれぞれ前記温度測定部から取得する温度取得工程と、
予め設定された複数の温度管理位置それぞれにおける前記複数の制御点の温度が、前記温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、前記複数の温度調節部それぞれの操作量を設定する操作量設定工程と、
前記操作量設定工程により設定された各前記操作量を、対応する前記複数の温度調節部にそれぞれ出力する出力工程と、
を行い、
前記複数の温度管理位置は、前記仕上圧延機出口側における前記搬送路上に設定された温度管理位置、及び、前記仕上圧延機内における前記搬送路上に設定された温度管理位置を含み、
前記複数の温度調節部の数をN とし、
前記複数の制御点のうち、前記搬送方向の下流側から上流側に向かってk番目の制御点を第k制御点とし、
前記複数の温度管理位置のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってi番目の温度管理位置を第i温度管理位置とし、
前記複数の温度調節部のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってj番目の温度調節部を第j温度調節部とし、
前記複数の温度調節部それぞれの前記操作量を0としたときの前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度をU i,k とし、
前記第j温度調節部が、前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差を△U i,k,j とし、
前記第j温度調節部の前記操作量で操作したときの前記第k制御点の温度変化の、前記温度差△U i,k,j に対する比率を操作比率x k,j としたときに、
前記操作量設定工程は、
(1A)式で表される前記第k制御点の前記第i温度管理位置における予測温度U i,k が、前記温度条件を満たすことを不等式制約条件として、数理計画法を用いて前記操作比率x k,j の最適値を求め、
前記操作比率x k,j の最適値に基づいて複数の操作量を設定する、圧延装置の制御方法。
【数2】
【請求項5】
搬送路上で圧延材を圧延する粗圧延機及び仕上圧延機と、
前記搬送路上における前記粗圧延機出口と前記仕上圧延機入口との間の部分における前記圧延材の温度を測定する温度測定部と、
前記搬送路上における温度測定部と前記仕上圧延機出口との間の部分における前記圧延材の温度を調節する複数の温度調節部と、
を備える圧延装置を制御して前記圧延材を圧延する制御装置用の圧延装置の制御プログラムであって、
前記制御装置を、
前記圧延材が搬送される搬送方向に互いに間隔を空けて前記圧延材に設定された複数の制御点における前記圧延材の温度をそれぞれ前記温度測定部から取得する温度取得部と、
予め設定された複数の温度管理位置それぞれにおける前記複数の制御点の温度が、前記温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、前記複数の温度調節部それぞれの操作量を設定する操作量設定部と、
前記操作量設定部により設定された各前記操作量を、対応する前記温度調節部にそれぞれ出力する出力部と、
して機能させ、
前記複数の温度管理位置は、前記仕上圧延機出口側における前記搬送路上に設定された温度管理位置、及び、前記仕上圧延機内における前記搬送路上に設定された温度管理位置を含み、
前記複数の温度調節部の数をN とし、
前記複数の制御点のうち、前記搬送方向の下流側から上流側に向かってk番目の制御点を第k制御点とし、
前記複数の温度管理位置のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってi番目の温度管理位置を第i温度管理位置とし、
前記複数の温度調節部のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってj番目の温度調節部を第j温度調節部とし、
前記複数の温度調節部それぞれの前記操作量を0としたときの前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度をU i,k とし、
前記第j温度調節部が、前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差を△U i,k,j とし、
前記第j温度調節部の前記操作量で操作したときの前記第k制御点の温度変化の、前記温度差△U i,k,j に対する比率を操作比率x k,j としたときに、
前記操作量設定部は、
(1B)式で表される前記第k制御点の前記第i温度管理位置における予測温度U i,k が、前記温度条件を満たすことを不等式制約条件として、数理計画法を用いて前記操作比率x k,j の最適値を求め、
前記操作比率x k,j の最適値に基づいて複数の操作量を設定する、圧延装置の制御プログラム。
【数3】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧延装置の制御装置、圧延装置の制御方法、及び圧延装置の制御プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
熱延薄鋼板は、以下のようにな工程で製造される。まず、圧延材であるスラブを加熱炉にて加熱する。その後で、粗圧延機で粗圧延して、スラブを粗バーとする。続いて、粗バーを複数のスタンドからなる仕上タンデム圧延機(仕上圧延機)で仕上圧延することで、熱延薄鋼板を製造する。
仕上圧延では、強度や延性等の圧延材の機械的特性を確保するために、仕上タンデム圧延機出口側(温度管理位置)の温度の制御が実施されている。圧延材の温度を調節する温度調節部としては、粗圧延機と仕上タンデム圧延機との間で粗バーを加熱する粗バーヒータ、粗圧延機と仕上タンデム圧延機との間で粗バーを冷却する粗バー冷却装置、仕上タンデム圧延機のスタンド間で圧延材を冷却する冷却スプレー装置等が用いられている。
温度制御方法としては、特許文献1に開示されている技術がある。
【0003】
特許文献1に開示されている方法では、粗バーに、粗バーの搬送方向にわたって複数の制御点を設定している。そして、各制御点の粗圧延機出口側の温度を測定し、各制御点の仕上タンデム圧延機出口側の温度が目標温度になるように粗バーヒータと冷却スプレー装置を操作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-219504号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、以下の複数の観点により、圧延材の品質をさらに向上させることが要望されている。複数の観点のうちの1つは、圧延材の機械特性を向上させることである。複数の観点のうちの他の1つは、圧延装置の圧延ロールが圧延材の熱で加熱されることによって圧延ロールに表面荒れが生じるが、この表面荒れが圧延材に転写されて鋼板の表面性状が悪化することを防止することである。複数の観点のうちの別の他の1つは、剥離した圧延材のスケールは圧延材とともに圧延されるが、この際にスケールにより生じる圧延材のスケール疵を防止することである。
【0006】
本発明は、このような問題点に鑑みてなされたものであって、圧延材の品質をさらに向上させた圧延装置の制御装置、圧延装置の制御方法、及び圧延装置の制御プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の圧延装置の制御装置は、搬送路上で圧延材を圧延する粗圧延機及び仕上圧延機と、前記搬送路上における前記粗圧延機出口と前記仕上圧延機入口との間において前記圧延材の温度を測定する温度測定部と、前記搬送路上における前記温度測定部と前記仕上圧延機出口との間において前記圧延材の温度を調節する複数の温度調節部と、を備える圧延装置を制御して前記圧延材を圧延する圧延装置の制御装置であって、前記圧延材が搬送される搬送方向に互いに間隔を空けて前記圧延材に設定された複数の制御点における前記圧延材の温度をそれぞれ前記温度測定部から取得する温度取得部と、予め設定された複数の温度管理位置それぞれにおいて、前記複数の制御点の温度が、前記温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、前記複数の温度調節部それぞれの操作量を設定する操作量設定部と、前記操作量設定部により設定された各前記操作量を、対応する前記温度調節部にそれぞれ出力する出力部と、を備え、前記複数の温度管理位置は、前記仕上圧延機出口側における前記搬送路上に設定された温度管理位置、及び、前記仕上圧延機内における前記搬送路上に設定された温度管理位置を含むことを特徴としている。
【0008】
また、本発明の圧延装置の制御方法は、搬送路上で圧延材を圧延する粗圧延機及び仕上圧延機と、前記搬送路上における前記粗圧延機出口と前記仕上圧延機入口との間の部分における前記圧延材の温度を測定する温度測定部と、前記搬送路上における温度測定部と前記仕上圧延機出口との間の部分における前記圧延材の温度を調節する複数の温度調節部と、を備える圧延装置を制御して前記圧延材を圧延する圧延装置の制御方法であって、前記圧延材が搬送される搬送方向に互いに間隔を空けて前記圧延材に設定された複数の制御点における前記圧延材の温度をそれぞれ前記温度測定部から取得する温度取得工程と、予め設定された複数の温度管理位置それぞれにおける前記複数の制御点の温度が、前記温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、前記複数の温度調節部それぞれの操作量を設定する操作量設定工程と、前記操作量設定工程により設定された各前記操作量を、対応する前記複数の温度調節部にそれぞれ出力する出力工程と、を行い、前記複数の温度管理位置は、前記仕上圧延機出口側における前記搬送路上に設定された温度管理位置、及び、前記仕上圧延機内における前記搬送路上に設定された温度管理位置を含むことを特徴としている。
【0009】
また、本発明の圧延装置の制御プログラムは、搬送路上で圧延材を圧延する粗圧延機及び仕上圧延機と、前記搬送路上における前記粗圧延機出口と前記仕上圧延機入口との間の部分における前記圧延材の温度を測定する温度測定部と、前記搬送路上における温度測定部と前記仕上圧延機出口との間の部分における前記圧延材の温度を調節する複数の温度調節部と、を備える圧延装置を制御して前記圧延材を圧延する制御装置用の圧延装置の制御プログラムであって、前記制御装置を、前記圧延材が搬送される搬送方向に互いに間隔を空けて前記圧延材に設定された複数の制御点における前記圧延材の温度をそれぞれ前記温度測定部から取得する温度取得部と、予め設定された複数の温度管理位置それぞれにおける前記複数の制御点の温度が、前記温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、前記複数の温度調節部それぞれの操作量を設定する操作量設定部と、前記操作量設定部により設定された各前記操作量を、対応する前記温度調節部にそれぞれ出力する出力部と、して機能させ、前記複数の温度管理位置は、前記仕上圧延機出口側における前記搬送路上に設定された温度管理位置、及び、前記仕上圧延機内における前記搬送路上に設定された温度管理位置を含むことを特徴としている。
【0010】
これらの発明によれば、温度取得部により(温度取得工程において)、圧延材に設定された複数の制御点における圧延材の温度をそれぞれ温度測定部から取得する。操作量設定部により(操作量設定工程において)、予め設定された複数の温度管理位置それぞれにおける複数の制御点の温度が、温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、複数の操作量を設定する。そして、出力部により(出力工程において)、操作量設定部により(操作量設定工程において)設定された各操作量を、対応する温度調節部に出力することで、圧延材の温度が制御された状態で圧延材が圧延される。
この際に、複数の温度管理位置は、仕上圧延機外の位置である仕上圧延機出口側における搬送路上に設定された温度管理位置だけでなく、仕上圧延機内の位置である、仕上圧延機内における搬送路上に設定された温度管理位置を含む。このため、仕上圧延機外の温度管理位置だけでなく仕上圧延機内の温度管理位置においても、複数の制御点の温度が、各温度管理位置ごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる。従って、圧延材の複数の制御点の温度がさらに安定するため、圧延材の品質をさらに向上させることができる。
【0011】
また、前記圧延装置の制御装置において、前記複数の温度調節部の数をNとし、前記複数の制御点のうち、前記搬送方向の下流側から上流側に向かってk番目の制御点を第k制御点とし、前記複数の温度管理位置のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってi番目の温度管理位置を第i温度管理位置とし、前記複数の温度調節部のうち、前記搬送方向の上流側から下流側に向かってj番目の温度調節部を第j温度調節部とし、前記複数の温度調節部それぞれの前記操作量を0としたときの前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度をU i,kとし、前記第j温度調節部が、前記第i温度管理位置における前記第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差を△Ui,k,jとし、前記第j温度調節部の前記操作量で操作したときの前記第k制御点の温度変化の、前記温度差△U i,k,j に対する比率を操作比率xk,jとしたときに、前記操作量設定部は、前記第k制御点の前記第i温度管理位置における予測温度Ui,kを(1)式で表し、前記予測温度Ui,kが前記温度条件を満たすことを不等式制約条件とした数理計画法を用いて前記操作比率xk,jの最適値を求め、前記操作比率xk,jの最適値に基づいて複数の操作量を設定してもよい。
【0012】
【数1】
【0013】
この発明によれば、予め、第k制御点の温度U i,k、及び第k制御点の温度を最も大きな変化幅で調節可能な温度差△Ui,k,jを求めておく。そして、第k制御点の温度U i,k、及び温度差△Ui,k,jに基づいて、予測温度Ui,kが温度条件を満たすことを不等式制約条件とした数理計画法を用いて操作比率xk,jの最適値を求める。これにより、数理計画法を非線形ではなく線形な問題として解くことができ、操作比率xk,jの最適値に基づいて、複数の操作量を容易に設定することができる。
【0014】
また、前記圧延装置の制御装置において、前記数理計画法の目的関数又は前記不等式制約条件は、複数の制御点における、前記仕上圧延機入口側に対する前記複数の温度管理位置での温度変化量を評価する項を含んでもよい。
この発明によれば、仕上圧延機入口側に対する前記複数の温度管理位置での温度変化量が評価されるので、制御点の温度履歴を搬送方向の位置によらずほぼ一定にし、圧延材の搬送方向の位置による形状変化を小さくすることができる。
【0015】
また、前記圧延装置の制御装置において、前記不等式制約条件を表す数式には、前記数式の下限又は上限に対する緩和量がさらに規定され、前記数理計画法の目的関数は、前記緩和量と、前記緩和量のバランスをとるための重み係数と、を有する項を含んでもよい。
この発明によれば、不等式制約条件を満たす操作比率の解が存在する場合だけでなく、不等式制約条件を満たす操作比率の解が存在しない場合でも、緩和量及び重み係数を用いて、元の不等式制約条件からの逸脱量を最小に抑えた状態で、緩和された不等式制約条件を満たす操作比率の解を得ることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の圧延装置の制御装置、圧延装置の制御方法、及び圧延装置の制御プログラムによれば、圧延材の品質をさらに向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態の圧延装置の制御装置が制御する圧延装置を説明するための模式図である。
図2】同圧延装置の制御装置の概要を示す図である。
図3】本発明の一実施形態における圧延装置の制御方法を示すフローチャートである。
図4】比較例の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する、(A)圧延速度、(B)制御点の温度、(C)制御点の温度降下量の変化を示す図である。
図5】実施例1の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する、(A)圧延速度、(B)制御点の温度、(C)制御点の温度降下量の変化を示す図である。
図6】実施例2の制御装置のシミュレーション結果について、時間に対する、(A)圧延速度、(B)制御点の温度、(C)制御点の温度降下量の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る圧延装置の制御装置(以下、単に制御装置と呼ぶ)の一実施形態を、図1から図6を参照しながら説明する。
図1は、本発明に係る圧延装置の制御装置(以下、単に制御装置と呼ぶ)60が制御する圧延装置100を説明するための模式図である。
圧延装置100は、圧延材1を圧延するための装置である。圧延装置100は、圧延装置100に形成された搬送路R上で圧延材1を圧延する。搬送路Rは、圧延材1を搬送しつつ圧延するために圧延装置100内に形成された空間である。
圧延装置100は、粗圧延機10と、仕上タンデム圧延機(仕上圧延機)20と、温度計(温度測定部)15と、複数の温度調節部である粗バーヒータ30、粗バー冷却装置40、冷却スプレー装置51~56と、を備えている。
【0019】
粗圧延機10及び仕上タンデム圧延機20は、それぞれ搬送路R上で圧延材1を圧延する。
仕上タンデム圧延機20は、粗圧延機10よりも圧延材1が搬送される搬送方向Dの下流側D2に配置されている。圧延材1は、粗圧延機10で粗圧延されて粗バーとも呼ばれる圧延材となる。続いて、圧延材1は、仕上タンデム圧延機20で仕上圧延される。
仕上タンデム圧延機20は、複数台(本実施形態では7台)のスタンド(圧延機)F1~F7を備えている。スタンドF1~F7は、搬送方向Dの上流側D1から下流側D2に向かって、スタンドF1、スタンドF2、‥、スタンドF7の順に配置されている。
圧延材1には、搬送方向Dに互いに間隔を空けて複数の制御点(不図示)が設定される。複数の制御点は、圧延材1の搬送方向Dにおける先端から後端まで一定ピッチに設定されることが好ましい。複数の制御点のうち、搬送方向Dの下流側D2から上流側D1に向かってk番目の制御点を、第k制御点と呼ぶ。複数の制御点の数を、Nとする。なお、kは、1以上N以下の整数である。
複数の制御点は、制御装置60を使用する使用者が予め設定する。
【0020】
温度計15は、粗圧延機10出口側(下流側D2)に配置されている。温度計15は、粗圧延機10出口側において圧延材1の複数の制御点の温度を測定する。なお、温度計15は、搬送路R上における粗圧延機10出口と、複数の温度調整部のうち最上流に位置する粗バーヒータ30との間に配置されて、圧延材1の温度を測定するように構成されていればよい。
温度計15は、各制御点ごとに温度を測定する。温度計15は、測定した温度を、制御装置60に与える。
【0021】
粗バーヒータ30、粗バー冷却装置40、冷却スプレー装置51~56は、搬送路R上のそれぞれの設置位置において圧延材1の温度を調節する。粗バーヒータ30及び粗バー冷却装置40は、温度計15と仕上タンデム圧延機20入口との間に配置されている。粗バーヒータ30は、粗バー冷却装置40よりも上流側D1に配置されている。
粗バーヒータ30は、コイル状の巻線に印加する電力を操作して圧延材1を誘導加熱する装置である。粗バー冷却装置40及び冷却スプレー装置51~56は、弁開度を操作することにより冷却水量を調節して圧延材1を冷却する装置である。
冷却スプレー装置51~56は、スタンドF1~F6出口側にそれぞれ配置されている。例えば、冷却スプレー装置51は、スタンドF1とスタンドF2との間に配置されている。
【0022】
以下では、複数の温度調節部のうち、搬送方向Dの上流側D1から下流側D2に向かってj番目の温度調節部を、第j温度調節部とも呼ぶ。ここで、複数の温度調節部の数をNとする。この例では、複数の温度調節部の数Nは、8である。jは、1以上8以下の整数である。以下では、「j=1~8」とも記載する。
例えば、第1温度調節部は粗バーヒータ30であり、第3温度調節部は冷却スプレー装置51であり、第8温度調節部は冷却スプレー装置56である。
なお、複数の温度調節部の順番付けの方法は、特に限定されない。
【0023】
圧延装置100に対して、複数の温度管理位置Pが予め設定される。本実施形態で実際に設定される複数の温度管理位置Pを、塗り潰した丸印及び実線の引出し線で示す。
複数の温度管理位置Pは、使用者が予め設定する。本実施形態では、仕上タンデム圧延機20内に温度管理位置Pが1つ設定されるため、複数の温度管理位置Pは、仕上タンデム圧延機20内における搬送路R上に設定されている第1温度管理位置P1、及び、仕上タンデム圧延機20出口側における搬送路R上に設定されている第2温度管理位置P2を含む。本実施形態では、複数の温度管理位置Pの数Nは、2である。
第1温度管理位置P1及び第2温度管理位置P2は、複数の温度管理位置Pのうち、搬送方向Dの上流側D1から下流側D2に向かってi番目の温度管理位置Pが第i温度管理位置Piとなるように、並べて配置されている。なお、iは、1以上2以下の整数である。
本実施形態の例では、第1温度管理位置P1は、スタンドF3出口側における搬送路R上に設定されている。
【0024】
なお、仕上タンデム圧延機20内に設定される温度管理位置Pの数は特に限定されず、2以上でもよい。
例えば、本実施形態とは異なるが、仕上タンデム圧延機20内に温度管理位置Pが3つ設定される場合について説明する。この場合、仕上タンデム圧延機20内における搬送路R上に、上流側D1から下流側D2に向かって第1温度管理位置P1から第3温度管理位置P3が設定される。変形例において設定される複数の温度管理位置Pを、バツ印及び点線の引出し線で示す。仕上タンデム圧延機20出口側における搬送路R上に、第4温度管理位置P4が設定される。この場合、複数の温度管理位置Pの数Nは、4である。
温度管理位置Pごとに、下限温度及び上限温度が予め定められる。温度管理位置Pごとの下限温度及び上限温度は、使用者が予め設定する。
また、図1中には、後述するように、温度管理位置Pとは異なり、仕上タンデム圧延機20入口側における搬送路R上に設定される参照位置P0を示している。
【0025】
図2に、本実施形態の制御装置60を示す。制御装置60は、圧延装置100を制御して圧延材1を圧延する。制御装置60はコンピュータであり、CPU(Central Processing Unit)61と、主記憶装置62と、補助記憶装置63と、入出力インタフェース(IO・I/F)64と、記録・再生装置65と、を備えている。CPU61、主記憶装置62、補助記憶装置63、入出力インタフェース64、及び記録・再生装置65は、バス66により互いに接続されている。
主記憶装置62は、CPU61のワークエリア等になるRAM(Random Access Memory)等である。
入出力インタフェース64は、キーボードやマウス等の入力装置64a、及び表示装置64bに接続される。
記録・再生装置65は、USB(Universal Serial Bus)メモリ等の記録媒体65aに対するデータの記録や再生を行う。
【0026】
補助記憶装置63は、各種データやプログラム等が記憶されるハードディスクドライブ装置等である。補助記憶装置63には、前記コンピュータを制御装置60として機能させるための圧延装置の制御プログラム(以下、単に制御プログラムと言う)63aや、OS(Operating System)プログラム等の各種プログラム等が格納されている。制御プログラム63aを含む各種プログラムは、記録・再生装置65を介して記録媒体65aから補助記憶装置63に取り込まれる。制御プログラム63a等は、記録媒体65aに格納される。
なお、これらのプログラムは、CDやDVD等のディスク型の記録媒体や、図示されていない通信装置を介して外部装置から補助記憶装置63に取り込まれてもよい。
【0027】
CPU61は、各種演算処理を実行する。CPU61は、機能的に、トラッキング(追跡)部61aと、温度取得部61bと、操作量設定部61cと、出力部61dと、を備えている。
CPU61の機能構成要素であるトラッキング部61a、温度取得部61b、操作量設定部61c、及び出力部61dは、補助記憶装置63に格納されている制御プログラム63a等をCPU61が実行することで機能する。制御プログラム63a等は、制御装置60用のプログラムである。制御プログラム63aは、制御装置60をトラッキング部61a、温度取得部61b、操作量設定部61c、及び出力部61dとして機能させる。
【0028】
トラッキング部61aは、圧延材1の複数の制御点の搬送方向Dの位置を追跡する。例えば、各スタンドF1~F7入口側に図示しない板速計がそれぞれ設置されてもよい。この場合、各板速計は、板速計の設置位置における圧延材1の板速度を測定し、測定した板速度をトラッキング部61aに出力する。トラッキング部61aは、各板速計から出力された板速度に基づいて、複数の制御点の搬送方向Dの位置(トラッキング情報)を算出する。
なお、トラッキング部61aは、粗圧延機10の圧延速度、仕上タンデム圧延機20の圧延速度、粗圧延機10と仕上タンデム圧延機20間を搬送するための搬送速度等を用いて各第k制御点の位置を、所定の時間間隔ごとに追跡してもよい。
トラッキング部61aは、算出したトラッキング情報を粗バーヒータ30、粗バー冷却装置40、冷却スプレー装置51~56に所定の時間間隔ごとに与える。
温度取得部61bは、温度計15に接続されている。温度取得部61bは、温度計15が測定した複数の制御点における圧延材1の温度をそれぞれ温度計15から取得する。
【0029】
操作量設定部61cは、複数の温度管理位置Pそれぞれにおいて、上記の各制御点の温度が、温度管理位置Pごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まるという温度条件を満たすように、各温度調整部の操作量を設定する。例えば、操作量は、粗バーヒータ30に印加する電力、粗バー冷却装置40及び冷却スプレー装置51~56の弁開度である。
操作量設定部61cは、温度計15から与えられた各制御点の温度に基づいて、各制御点に対する粗バーヒータ30の電力、粗バー冷却装置40の弁開度、及び冷却スプレー装置51~56の弁開度をそれぞれ計算する。
操作量設定部61cは、計算した粗バーヒータ30の電力、粗バー冷却装置40の弁開度、冷却スプレー装置51~56の弁開度を、出力部61dに与える。
【0030】
出力部61dは、操作量設定部61cから与えられた各操作量を、対応する温度調整部、すなわち粗バーヒータ30、粗バー冷却装置40、冷却スプレー装置51~56にそれぞれ出力する。
粗バーヒータ30は、出力部61dから与えられた各制御点に対する電力についての操作量と、トラッキング部61aから与えられたトラッキング情報に基づいて、自身が出力する電力を操作する。
粗バー冷却装置40は、出力部61dから与えられた各制御点に対する粗バー冷却装置40の弁開度と、トラッキング部61aから与えられたトラッキング情報に基づいて、自身の弁開度を操作する。
冷却スプレー装置51~56は、出力部61dから与えられた各制御点に対する各冷却スプレー装置51~56の弁開度と、トラッキング部61aから与えられたトラッキング情報に基づいて、自身の弁開度を操作する。
以上により、圧延材1の温度が制御される。
なお、操作量設定部61cにおける詳しい制御内容は、以下の圧延装置の制御方法(以下、単に制御方法と言う)において詳しく説明する。
【0031】
次に、本実施形態の制御方法について説明する。図3は、本実施形態の制御方法Sを示すフローチャートである。制御方法Sでは、初期工程S10と、温度取得工程S20と、操作量設定工程S30と、出力工程S40と、を行う。
まず、初期工程S10において、使用者は温度管理位置Pごとに下限温度及び上限温度を定める。下限温度及び上限温度は、圧延材1に求められる機械特性や、表面性状の悪化やスケール疵の防止の観点から、圧延材1ごとに定められる。
なお、下限温度の制約が不要な場合には、下限温度を例えば0℃と小さくして、下限温度の制約が必ず満足できるようにすればよい。また、上限温度の制約が不要な場合には、上限温度を例えば2000℃と大きくして、上限温度の制約が必ず満足できるようにすればよい。また、下限温度及び上限温度という一定の温度幅を持った範囲ではなく、所定の値の目標温度に可能な限り一致させたい場合は、下限温度と上限温度にそれぞれ目標温度を与えればよい。
また、初期工程S10において、使用者は、圧延材1に複数の制御点を設定する。使用者は、圧延装置100に第1温度管理位置P1及び第2温度管理位置P2を設定する。
以上で初期工程S10が終了し、温度取得工程S20に移行する。
【0032】
次に、温度取得工程S20について説明する。
圧延材1の第k制御点が温度計15の測定位置に到達すると、温度計15は圧延材1の第k制御点の温度θを測定する。温度計15が圧延材1の温度の測定を開始したときには、kは1である。温度計15は、測定した温度θを制御装置60の温度取得部61bに与える。
この際、全ての制御点の温度測定値のサンプリングが完了してから、測定した温度θを温度取得部61bに与えると、圧延材1の先端が最も上流側D1の温度調節部である粗バーヒータ30に到達するまでに、操作量設定部61cが行う後述する計算が間に合わない場合がある。このため、第k制御点の温度を測定したら、第(k+1)制御点以降の温度の測定を待つことなく、測定した第k制御点の温度を温度取得部61bに与える。
温度取得部61bは、温度計15から測定した温度θが与えられると、その温度θを操作量設定部61cに与える。
以上で温度取得工程S20が終了し、操作量設定工程S30に移行する。
【0033】
次に、操作量設定工程S30について説明する。
操作量設定部61cは、前記温度条件を満たすように複数の操作量を設定する。温度管理位置Pが複数あり、それらの温度を制御するための温度調節部も複数である場合、特許文献1に記載されているように、温度調節部の操作量を順番に変更してみる方法では、一般的に電力、弁開度に対する圧延材の温度の変化が非線形となるため、温度管理位置Pにおける圧延材の温度が予測し難い。従って、望ましい電力、弁開度を求めることは困難である。
そこで、前記温度条件を不等式制約条件とした数理計画法を用いる。ただし、電力と弁開度を解くべき変数として数理計画法を適用すると、電力や弁開度と温度変化の関係が非線形であるため非線形計画問題となる。この場合、計算対象としている制御点が粗バーヒータ30に到達するまでに、最適解を求めることが困難である。
【0034】
そこで、第1温度管理位置P1の温度と第2温度管理位置P2の温度を、複数の温度調節部それぞれの操作量を0(零)としたときの基準温度と、複数の温度調節部の操作量を個別に最大としたときに得られる最大温度変更可能量に、その温度調節部の操作比率を乗じた項の和で表す。そして、操作比率を解くべき変数として数理計画法を適用する。
このようにすれば、操作比率と、温度管理位置P1,P2の温度変化の関係が線形になるため、短時間で操作比率の最適値を求めることができる。そして、その数理計画法の最適解として得られた各温度調節部の操作比率の最適値から、各温度調節部の操作量を求める。
以下、この計算について詳述する。
【0035】
<ステップS31:基準温度の計算>
第k制御点に対して粗圧延機10出口側で測定した温度θに基づいて、複数の温度調節部それぞれの操作量を0としたときの第i温度管理位置における第k制御点の温度である基準温度を計算する。複数の温度調節部それぞれの操作量を0とするとは、複数の温度調節部全てにおいて温度制御を実施しないことを意味する。
具体的には、スタンドF3出口側における搬送路R上に設定された第1温度管理位置P1における第k制御点の基準温度T 3,kを予測する。同様に、仕上タンデム圧延機20出口側における搬送路R上に設定された第2温度管理位置P2における第k制御点の基準温度T 7,kを予測する。さらに、温度管理位置Pとは異なるが、仕上タンデム圧延機20入口側における搬送路R上に、参照位置P0を設定する。そして、参照位置P0における第k制御点の基準温度T 0,kを予測する。
この温度計算には、例えば特開2008-221232号公報に記載されている公知の計算方法を用いることができる。
【0036】
ここで、第1温度管理位置P1に対する基準温度T 3,kを基準温度U 1,kとし、第2温度管理位置P2に対する基準温度T 7,kを基準温度U 2,kとする。このとき、複数の温度調節部それぞれの操作量を0としたときの第i温度管理位置における第k制御点の基準温度(温度)は、U i,kと表せる。
【0037】
<ステップS32:最大温度変更可能量の計算>
第k制御点に対して粗圧延機10出口側で測定した温度θに基づいて、粗バーヒータ30の電力を最大にしたときの第k制御点に対する仕上タンデム圧延機20入口側の温度、スタンドF3出口側の温度、及び仕上タンデム圧延機20出口側の温度を予測する。予測した温度と、それぞれの基準温度T 0,k,T 3,k,T 7,kとの差を、粗バーヒータ30の最大温度変更可能量△T0,k,1、△T3,k,1、△T7,k,1とする。粗バーヒータ30が加熱装置であるため、これらの値は正である。
最大温度変更可能量△T3,k,1、△T7,k,1は、第1温度調節部である粗バーヒータ30が、第1温度管理位置P1、第2温度管理位置P2における第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差である。粗バーヒータ30が加熱装置であるため、変化幅は第k制御点の温度を上げる側の正の値をとる幅になり、温度差は正の値をとる。
粗バーヒータ30による温度変化の計算には、例えば特許文献1に記載されている公知の計算方法を用いることができる。
【0038】
また、粗バー冷却装置40の弁開度を最大にしたときの第k制御点に対する仕上タンデム圧延機20入口側の温度、スタンドF3出口側の温度、及び仕上タンデム圧延機20出口側の温度を予測する。予測した温度と、それぞれの基準温度T 0,k,T 3,k,T 7,kとの差を、粗バー冷却装置40の最大温度変更可能量△T0,k,2、△T3,k,2、△T7,k,2とする。粗バー冷却装置40が冷却装置であるため、これらの値は負である。
最大温度変更可能量△T3,k,2、△T7,k,2は、第2温度調節部である粗バー冷却装置40が、第1温度管理位置P1、第2温度管理位置P2における第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差である。粗バー冷却装置40が冷却装置であるため、変化幅は第k制御点の温度を下げる側の正の値をとる幅になり、温度差は負の値をとる。
【0039】
同様に、mを1以上6以下の整数として、スタンドFm出口側の冷却スプレー装置(50+m)の弁開度を最大にしたときの第k制御点に対する仕上タンデム圧延機20入口側の温度、スタンドF3出口側の温度、及び仕上タンデム圧延機20出口側の温度を予測する。予測した温度と、それぞれの基準温度T 0,k,T 3,k,T 7,kとの差を、冷却スプレー装置(50+m)の最大温度変更可能量△T0,k,(m+2)、△T3,k,(m+2)、△T7,k,(m+2)とする。冷却スプレー装置(50+m)が冷却装置であるため、これらの値は負である。
最大温度変更可能量△T3,k,(m+2)、△T7,k,(m+2)は、第(m+2)温度調節部である冷却スプレー装置(50+m)が、第1温度管理位置P1、第2温度管理位置P2における第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差である。冷却スプレー装置(50+m)が冷却装置であるため、変化幅は第k制御点の温度を下げる側の正の値をとる幅になり、温度差は負の値をとる。
粗バー冷却装置40や冷却スプレー装置51~56等の冷却装置による温度変化の計算には、例えば特開2008-221232号公報に記載されている公知の計算方法を用いることができる。
【0040】
ここで、第j温度調節部が、第i温度管理位置における第k制御点の温度を、最も大きな変化幅で調節可能な温度差である最大温度変更可能量を△Ui,k,jとする。
粗バー加熱装置30は、第1温度調節部である。すると、第1温度管理位置に対しては、△U1,k,1=△T3,k,1となる。第2温度管理位置に対しては、△U2,k,1=△T7,k,1となる。
粗バー冷却装置40は、第2温度調節部である。すると、第1温度管理位置に対しては、△U1,k,2=△T3,k,2となる。第2温度管理位置に対しては、△U2,k,2=△T7,k,2となる。
冷却スプレー装置51~56は、第3温度調節部から第8温度調節部である。すると、第1温度管理位置に対しては、△U1,k,j=△T3,k,(m+2)(j=m+2)となる。第2温度管理位置に対しては、△U2,k,j=△T7,k,(m+2)(j=m+2)となる。
なお、ステップS31,S32を初期工程S10で行ってもよい。
【0041】
<ステップS33:数理計画問題を解く>
ここで、第k制御点の仕上タンデム圧延機20入口側における温度を、予測温度T0,kとする。第k制御点の第1温度管理位置P1における温度を、予測温度T3,kとする。第k制御点の第2温度管理位置P2における温度を、予測温度T7,kとする。
ステップS31,S32で求められた値を用いると、予測温度T0,k,T3,k,T7,kは、それぞれ(6)式~(8)式で表される。
【0042】
【数2】
【0043】
ただし、xk,jは、第j温度調節部において設定される(求解される)操作量で操作したときの第k制御点の温度変化の、最大温度変更可能量(温度差△U i,k,j )に対する比率である操作比率である。従って、操作量が0(零)である場合には第k制御点の温度変化は0になるので、操作比率x k,j の値も0になる。また、操作量が最大である場合には、操作比率x k,j の値は1になる。
各温度制御装置の操作比率xk,jについて(9)式が成立する。すなわち、操作比率xk,jは、0以上1以下の値をとる比率である。
【0044】
【数3】
【0045】
なお、仕上タンデム圧延機20入口側は温度管理位置Pではないが、後述する制御点間の温度履歴の変化を求めるために算出している。
ここで、第k制御点が第i温度管理位置における予測温度をUi,kとする。このとき、U1,k=T3,k、U2,k=T7,kであり、複数の温度調節部の数Nが8である。従って、予測温度Ui,kは(10)式で表される。
【0046】
【数4】
【0047】
また、温度管理位置Pにおける第k制御点の温度を、それぞれの下限温度以上かつ上限温度以下に収めるという温度条件は、(11)式及び(12)式の不等式制約条件で表すことができる。
【0048】
【数5】
【0049】
ここで、d,uは、第1温度管理位置P1での下限温度、上限温度である。d,uは、第2温度管理位置P2での下限温度、上限温度である。
【0050】
なお、複数の温度調節部の能力に比べて温度管理位置Pごとに予め定められた下限温度と上限温度との温度差が大きい場合は、(11)式及び(12)式の不等式制約条件を満たす操作比率xk,jの組は1組とは限らず複数存在することがある。このような場合は、以下に説明するような観点を考慮した不等式制約条件、目的関数を設定して最適解を選択してもよい。
【0051】
<第1の観点>
第1の観点は、制御点間の温度履歴のばらつき抑制である。ここで温度履歴とは、ある制御点に対して、仕上タンデム圧延機20入口側での温度、スタンドF3出口側である第1温度管理位置P1での温度、そして仕上タンデム圧延機20出口側である第2温度管理位置P2での温度等と、ある制御点の搬送方向Dの位置により移り変わる温度のことを意味する。
仕上タンデム圧延機20の各スタンドF1~F7において、圧延中の圧延荷重の比率の変化は、小さい方が望ましい。この理由は、圧延材1の制御点間の形状変化が小さくなるためである。
このためには、複数の制御点間での温度履歴の変化が小さいほうがよい。そこで、第k制御点の仕上タンデム圧延機20入口側での温度と第1温度管理位置P1での温度との差と、第1制御点の仕上タンデム圧延機20入口側での温度と第1温度管理位置P1での温度との差が、±τ03,k以内に収まることを意味する不等式制約条件である(14)式を考慮する。
【0052】
【数6】
【0053】
また、第k制御点の第1温度管理位置P1での温度と第2温度管理位置P2での温度との差と、第1制御点の第1温度管理位置P1での温度と第2温度管理位置P2での温度との差が、±τ37,k以内に収まることを意味する不等式制約条件である(15)式を考慮する。
【0054】
【数7】
【0055】
同様に、第k制御点の仕上タンデム圧延機20入口側での温度と第2温度管理位置P2での温度との差と、第1制御点の仕上タンデム圧延機20入口側での温度と第2温度管理位置P2での温度との差が、±τ07,k以内に収まることを意味する不等式制約条件である(16)式を考慮する。
【0056】
【数8】
【0057】
そして、(14)式から(16)式の上下限値τ03,k,τ37,k,τ07,kの和が小さくなるように、(19)式のJτ,kを数理計画法における目的関数の一項とすることが好ましい。
【0058】
【数9】
【0059】
ただし、wτは、正の重み係数である。
すなわち、数理計画法の目的関数は、複数の制御点における、仕上圧延機10入口側に対する第1温度管理位置P1での温度変化量、及び仕上圧延機10入口側に対する第2温度管理位置P2での温度変化量を評価する、(19)式のJτ,kによる項を含む。
目的関数に含まれる(19)式のJτ,kを最小化するように複数の操作量を設定することで、第k制御点の温度履歴と第1制御点の温度履歴とを近づけることができる。これにより、圧延材1の制御点間の形状変化を小さくすることができる。
なお、前記(14)式から(16)式では、第k制御点と第1制御点の温度変化の差の上下限を不等式制約条件とした。しかし、例えば第k制御点と第(k-1)制御点との温度変化の差の上下限を不等式制約条件としてもよい。
また、(19)式では、Jτ,kを上下限値τ03,k,τ37,k,τ07,kの重み付き線形和としているが、Jτ,kを上下限値τ03,k,τ37,k,τ07,kの重み付き自乗和としてもよい。数理計画法の不等式制約条件が、複数の制御点における、仕上圧延機10入口側に対する複数の温度管理位置Pでの温度変化量を評価する項を含んでもよい。
【0060】
<第2の観点>
第2の観点は、各温度調節部の操作量の抑制である。各温度調節部の操作量が小さい方が、圧延材1の製造コストは低くなる。このため、加熱装置である粗バーヒータ30で必要以上に加熱しないように、また、冷却装置である粗バー冷却装置40と冷却スプレー装置51~56で必要以上に冷却しないように、(20)式のJT,kを目的関数の一項とすることが好ましい。
【0061】
【数10】
【0062】
(20)式の右辺において、第1項は、粗バーヒータ30による加熱量を抑制するための項である。第2項は、冷却装置群(粗バー冷却装置40及び冷却スプレー装置51~56)の操作量が大きくなりすぎて第2温度管理位置P2における第k制御点の予測温度T7,kが低くなりすぎることを抑制するための項である。wx1,wT7は、それぞれ正の重み係数である。(20)式のJT,kを小さくすることにより、各温度調節部の操作量を抑制することができる。
【0063】
<第3の観点>
第3の観点は、冷却装置群が備える複数の冷却装置の使用優先度である。圧延材1に温度変化が生じたとき、板厚が厚いほど圧延材1の形状変化は生じにくい。このため、冷却装置は搬送方向Dの上流側D1に配置された冷却装置から使用することが望ましい。そこで、粗バー冷却装置40と冷却スプレー装置51~56のうち上流側D1に配置された冷却装置を優先的に用いるために、(21)式のJx,kを目的関数の一項とすることが好ましい。
【0064】
【数11】
【0065】
ただし、wは正の重み係数であり、添字jに対してwが昇順になる(w<w<‥<w)ようにする。(21)式のJx,kを小さくすることにより、上流側D1に配置された冷却装置から優先的に使用して、圧延材1の形状変化を生じにくくすることができる。
【0066】
以上の説明は、(11)式及び(12)式の不等式制約条件を満たす操作比率xk,j(j=1~8)の組が複数存在する場合に、より望ましい組を選択するための方法である。
逆に、複数の温度調節部の能力に比べて温度管理位置Pごとに予め定められた下限温度と上限温度との温度差が小さい場合、粗圧延機10出口側の温度θによっては、各温度調節部をどのように用いても(11)式又は(12)式の不等式制約条件を満足できないことがある。そのような場合には、(11)式又は(12)式の不等式制約条件からの温度逸脱量ができる限り小さくなるように制御することが望ましい。
そこで、不等式制約条件を表す数式に、当該数式の下限温度(下限)又は上限温度(上限)に対する緩和量を規定する。そして、数理計画法の目的関数は、緩和量と、緩和量のバランス(釣り合い)をとるための重み係数と、を有する項を含むことが望ましい。例えば、下限温度d、上限温度uの緩和量δ3,kと、下限温度d、上限温度uの緩和量δ7,kを規定し、不等式制約条件である(11)式を(24)式に、(12)式を(25)式にそれぞれ変更する。
【0067】
【数12】
【0068】
そして、緩和量δ3,kと緩和量δ7,kとの重み付き線形和である(26)式で表されるJδ,kを、目的関数の一項とすることが好ましい。
【0069】
【数13】
【0070】
ここで、wδ3,wδ7は、緩和量δ3,k,δ7,kのバランスをとるための正の重み係数である。重み係数wδ3,wδ7は、十分に大きく設定しておくことが好ましい。
これにより、(11)式及び(12)式の不等式制約条件を満たす操作比率xk,jの解が存在する場合には、Jδ,k=0、すなわちδ3,k=δ7,k=0となる解が得られ、(11)式及び(12)式の不等式制約条件を満足する操作比率xk,jの解を得ることができる。
また、(11)式及び(12)式の不等式制約条件を満たす操作比率xk,jの解が存在しない場合には、(26)式のJδ,kが表す指標のもとで温度逸脱量が最小となる量だけ(11)式及び(12)式の不等式制約条件が緩和され、緩和された(24)式及び(25)式の不等式制約条件を満足する解を得ることができる。
なお、目的関数に加算する項は、緩和量の大きさに(26)式のようなペナルティをかけるような項であればよい。このため、(26)式のようにJδ,kを緩和量δ3,k,δ7,kの重み付き線形和とする代わりに、Jδ,kを緩和量δ3,k,δ7,kの重み付き自乗和としてもよい。
【0071】
以上をまとめると、数理計画問題(数理計画法)の不等式制約条件は、(9),(14)~(16)、(24)、及び(25)式である。この不等式制約条件は、前記温度条件を緩和した(24)式及び(25)式に、(9),(14)~(16)式の条件を追加した修正温度条件である。
ステップS33では、操作量設定部61cは、予測温度T3,k,T7,kが修正温度条件を満たすことを不等式制約条件とした数理計画法を用いて、(19)~(21)式、及び(26)式の和で表される(27)式の目的関数を最小にする各温度調節部の操作比率xk,jの最適解(最適値)xopt,k,jを求める。
【0072】
【数14】
【0073】
なお、予測温度T3,kは予測温度U1,kと同じ値であり、予測温度T7,kは予測温度U2,kと同じ値である。このため、操作比率xk,jの最適解(最適値)xopt,k,jを求める上述の手続きは、(10)式で表される予測温度Ui,kについて、予測温度Ui,kが修正温度条件を満たすことを不等式制約条件とした数理計画法を用いて、(27)式の目的関数を最小にする各温度調節部の操作比率xk,jの最適解xopt,k,jを求めたことと同じである。
【0074】
<ステップS34:各温度調節部の操作量を求める>
粗バーヒータ30に印加する電力zに対する圧延材1の温度変化は、例えば特許文献1に記載されているような関係で表すことができる。従って、圧延材1の温度変化を、例えば関数f(z)として表すことができる。ここで、粗バーヒータ30に印加できる最大電力をz1maxとすると、ステップS33の数理計画問題を解くことによって求められた粗バーヒータ30の操作比率xk,1の最適解xopt,k,1を満たす電力zk,1(操作量)は、(30)式で表される。
操作量設定部61cは、(30)式を解いて、操作比率xk,1の最適解xopt,k,1に基づいて、第k制御点に対する粗バーヒータ30に印加する電力zk,1を設定する。
【0075】
【数15】
【0076】
また、粗バー冷却装置40の弁開度zに対する圧延材1の温度変化は、例えば特開2008-221232号公報に記載されているような関係で表すことができる。圧延材1の温度変化を、例えば関数f(z)として表すことができる。
ここで、粗バー冷却装置40の最大弁開度をz2maxとすると、数理計画法を解くことで求められた粗バー冷却装置40の操作比率の最適解xopt,k,2を満たす弁開度zk,2(操作量)は、(31)式で表される。
操作量設定部61cは、(31)式を解いて、操作比率xk,2の最適解xopt,k,2に基づいて、第k制御点に対する粗バー冷却装置40の弁開度zk,2を設定する。
【0077】
【数16】
【0078】
同様に、スタンドFm出口側(m=1~6)の冷却スプレー装置(50+m)の弁開度z(m+2)に対する圧延材1の温度変化は、関数f(m+2)(z(m+2))として表すことができる。ここで、冷却スプレー装置(50+m)の最大弁開度をz(m+2)maxとすると、数理計画法を解くことで求められた冷却スプレー装置(50+m)の操作比率の最適解xopt,k,(m+2)を満たす弁開度zk,(m+2)(操作量)は、(32)式で表される。
操作量設定部61cは、(32)式を解いて、操作比率xk,(m+2)の最適解xopt,k,(m+2)に基づいて、第k制御点に対する冷却スプレー装置(50+m)の弁開度zk,(m+2)を設定する。
【0079】
【数17】
【0080】
操作量設定部61cは、以上のように設定した粗バーヒータ30に印加する電力zk,1、粗バー冷却装置40の弁開度zk,2、及び冷却スプレー装置(50+m)の弁開度zk,(m+2)を出力部61dに与える。
以上で操作量設定工程S30が終了し、出力工程S40に移行する。
【0081】
出力工程S40では、出力部61dは、電力zk,1、及び弁開度zk,2,zk,(m+2)を、対応する温度調節部にそれぞれ出力する。
具体的には、第k制御点に対する粗バーヒータ30に印加する電力zk,1を、電力zk,1に対応する粗バーヒータ30に与える。同様に、第k制御点に対する粗バー冷却装置40の弁開度zk,2を、弁開度zk,2に対応する粗バー冷却装置40に与える。第k制御点に対する冷却スプレー装置(50+m)の弁開度zk,(m+2)を、弁開度zk,(m+2)に対応する冷却スプレー装置(50+m)にそれぞれ与える。
以上で出力工程S40が終了し、ステップS50に移行する。
【0082】
ステップS50では、第N制御点(圧延材1の後端に位置する制御点)の温度を測定したか否かが判断される。第N制御点の温度を測定した場合には、制御方法Sの全ての工程を終了する。
一方でステップS50でNoと判断された場合には、再び温度取得工程S20、操作量設定工程S30、及び出力工程S40を行う。再び温度取得工程S20を行う際には、温度計15により、圧延材1の第(k+1)制御点の温度θ(k+1)を測定する。
温度取得工程S20、操作量設定工程S30、及び出力工程S40を組にして、ステップS50でYesと判断されるまで繰り返す。
【0083】
以上説明したように、本実施形態の制御装置60、制御方法S、及び制御プログラム63aによれば、温度取得部61bにより(温度取得工程S20において)、圧延材1に設定された複数の制御点における圧延材1の温度をそれぞれ温度計15から取得する。操作量設定部61cにより(操作量設定工程S30において)、予め設定された複数の温度管理位置Pそれぞれにおける複数の制御点の温度が、温度管理位置Pごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる温度条件を満たすように、複数の操作量を設定する。そして、出力部61dにより(出力工程S40において)、操作量設定部61cにより(操作量設定工程S30において)設定された各操作量を、対応する温度調節部に出力する。
【0084】
粗バーヒータ30は、第k制御点が粗バーヒータ30の制御位置に到達したというトラッキング情報を受け取ると、粗バーヒータ30の電力を電力zk,1とする。また、同様に、粗バー冷却装置40は、第k制御点が粗バー冷却装置40の制御位置に到達したというトラッキング情報を受け取ると、粗バー冷却装置40の弁開度を弁開度zk,2とする。冷却スプレー装置(50+m)は、第k制御点が冷却スプレー装置(50+m)の制御位置に到達したというトラッキング情報を受け取ると、冷却スプレー装置(50+m)の弁開度を弁開度zk,(m+2)とする。
以上の工程により、圧延材1の温度が制御された状態で圧延材1が圧延される。
【0085】
この際に、複数の温度管理位置Pは、仕上圧延機20外の位置である仕上圧延機20出口側における搬送路R上に設定された第2温度管理位置P2だけでなく、仕上圧延機内の位置である、仕上圧延機20内における搬送路R上に設定された第1温度管理位置P1を含む。このため、仕上圧延機20外の第2温度管理位置P2だけでなく仕上圧延機20内の第1温度管理位置P1においても、複数の制御点の温度が、各温度管理位置Pごとに予め定められた下限温度以上かつ上限温度以下に収まる。従って、圧延材1の複数の制御点の温度がさらに安定するため、圧延材1の品質をさらに向上させることができる。
【0086】
操作量設定部61cは、第k制御点が第i温度管理位置における予測温度Ui,kを(10)式で表す。そして、予測温度Ui,kが修正温度条件を満たすことを不等式制約条件とした数理計画法を用いて操作比率xk,jの最適値を求め、操作比率xk,jの最適値に基づいて複数の操作量を設定する。
この際、第k制御点の温度U i,k、及び最大温度変更可能量△Ui,k,jを求めておく。そして、温度U i,k、及び最大温度変更可能量△Ui,k,jに基づいて、予測温度Ui,kが修正温度条件を満たすことを不等式制約条件とした数理計画法を用いて操作比率xk,jの最適値を求める。これにより、数理計画法を非線形ではなく線形な問題として解くことができ、操作比率xk,jの最適値に基づいて、複数の操作量を容易に設定することができる。
複数の操作量の計算が容易になるため、複数の操作量の設定を短時間で行うことができる。
【0087】
以上、本発明の一実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の構成の変更、組み合わせ、削除等も含まれる。
例えば、前記実施形態では、(27)式の右辺として、(27)式の右辺の4つの項のうち一部を用いてもよい。
また、予測温度Ui,kが修正温度条件を満たすのに代えて、予測温度Ui,kが、(11)式及び(12)式である温度条件を満たしてもよい。この場合、温度条件が不等式制約条件に一致する。そして、操作量設定部61cは、予測温度Ui,kが温度条件を満たすことを不等式制約条件とした数理計画法を用いて、(27)式の目的関数を最小にする各温度調節部の操作比率xk,jの最適解xopt,k,jを求める。
【0088】
複数の温度調節部の構成及び配置は、特に限定されない。
仕上タンデム圧延機20が備えるスタンドの数は、特に限定されない。
操作量設定部61cは、数理計画法以外の方法を用いて複数の操作量を設定してもよい。
【0089】
(実施例)
以下では、本発明の実施例及び比較例を具体的に示してより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
以下では、前記実施形態等をコンピュータを用いてシミュレーションした結果を説明する。比較例及び実施例のいずれにおいても、スタンドF3出口側の第1温度管理位置P1での下限温度dを0℃、上限温度uを925℃とした。仕上タンデム圧延機20出口側の第2温度管理位置P2での下限温度dを860℃、上限温度uを900℃とした。複数の制御点間の搬送方向Dのピッチを0.5mとした。
【0090】
図4の(A)~(C)は比較例の制御装置のシミュレーションの条件及び結果を示す。同様に、図5の(A)~(C)は実施例1の制御装置のシミュレーションの条件及び結果を示す。図6の(A)~(C)は実施例2の制御装置のシミュレーションの条件及び結果を示す。
図4から図6のいずれにおいても、横軸は、粗バー状態における圧延材1の先端から制御点までの距離を表す。
(A)の縦軸は、制御点がスタンドF7を通過する際の仕上タンデム圧延機20の圧延速度を表す。(B)の縦軸は、制御点の温度を表す。(C)の縦軸は、制御点の温度降下量を表す。
【0091】
(B)中の細い実線による線L2は、粗圧延機10出口側で粗バーとなった圧延材1の制御点の温度を表す。(B)中の点線による線L3は、スタンドF3出口側である第1温度管理位置P1での制御点の温度を表す。(B)中の太い実線による線L4は、仕上タンデム圧延機20出口側である第2温度管理位置P2での制御点の温度を表す。
(C)中の点線による線L5は、制御点の仕上タンデム圧延機20入口側での温度と第1温度管理位置P1での温度との間の降下量を表す。(C)中の太い実線による線L6は、制御点の第1温度管理位置P1での温度と第2温度管理位置P2での温度との間の降下量を表す。(C)中の細い実線による線L7は、制御点の仕上タンデム圧延機20入口側での温度と第2温度管理位置P2での温度との間の降下量を表す。
【0092】
比較例及び実施例の制御装置において、各制御点の粗圧延機10出口側での温度を、図4から図6の(B)中の線L2のように与えた。また、各制御点がスタンドF7を通過する際の仕上タンデム圧延機20の圧延速度は、図4から図6の(A)の線L1のように圧延途中より加速して一定となるパターンとした。
【0093】
まず、従来法である比較例の制御装置として、温度管理位置Pを第2温度管理位置P2のみとした場合のシミュレーション結果を図4に示す。この例では、上述したステップS33の数理計画問題を解く際に、第1温度管理位置P1に関する(24)式と、制御点間の温度履歴の変化に関する(14)式~(16)式を不等式制約条件から削除している。それに対応して、目的関数である(27)式の一項(第4項)である(26)式のJδ,kを、(35)式に変更するとともに、目的関数である(27)式の右辺から(19)式のJτ,kの項を削除して計算している。
【0094】
【数18】
【0095】
比較例の制御装置では、(B)の線L4で示す第2温度管理位置P2での圧延材1の温度は、第2温度管理位置P2での下限温度d以上上限温度u以下の範囲である860~900℃の間にほぼ収まっている。
一方で、線L3で示す第1温度管理位置P1での圧延材1の温度は、第1温度管理位置P1での上限温度uの925℃より高くなっている。
【0096】
次に、実施例1の制御装置として、温度管理位置Pを第1温度管理位置P1及び第2温度管理位置P2の2点にした場合のシミュレーション結果を図5に示す。これは、上述したステップS33の数理計画問題を解く際に、制御点間の温度履歴の変化に関する(14)式~(16)式を不等式制約条件から削除している。それに対応して、目的関数である(27)式から(19)式のJτ,kの項を削除して計算している。すなわち、比較例の制御装置に対して、第1温度管理位置P1に関する(24)式が不等式制約条件に加わり、目的関数の一項であるJδ,kが(35)式から(26)式に変更されている。
【0097】
実施例1の制御装置では、図5の(B)の線L4で示す第2温度管理位置P2での圧延材1の温度は、第2温度管理位置P2での下限温度d以上上限温度u以下の範囲である860~900℃の間にほぼ収まっている。そして、線L3で示す第1温度管理位置P1での圧延材1の温度は、第1温度管理位置P1での下限温度d以上上限温度u以下の範囲である0~925℃の間に収まっている。
圧延材1の先端から30m付近の位置での線L4で示す第2温度管理位置P2での圧延材1の温度が、上限温度uの900℃を少し超過している。この付近では全ての冷却装置の弁開度を全開にしており、冷却制御能力不足が生じている。このような場合でも、下限温度d、上限温度uに対する緩和量δ7,kを規定した(25)式を不等式制約条件を表す数式とし、目的関数(27)式の一項として(26)式中の(wδ7δ7,k)の項を加える。これにより、(12)式の不等式制約条件からの温度逸脱量が、できる限り小さくなるように制御できている。
【0098】
実施例2の制御装置では、実施例1の制御装置のように温度管理位置Pを第1温度管理位置P1及び第2温度管理位置Pの2点にした。さらに、制御点間の温度履歴の変化を評価する項を目的関数と不等式制約条件に含めている。この場合のシミュレーション結果を、図6に示す。これは、上述したステップS33の数理計画問題を解く手順に従って計算した結果である。実施例2の制御装置では、実施例1の制御装置に対して、制御点間の温度履歴の変化に関する不等式(14)式~(16)式が不等式制約条件に追加され、目的関数に(19)式のJτ,kの項が加算されている。
【0099】
実施例2の制御装置では、実施例1の制御装置と同様に、図6の(B)の線L4で示す第2温度管理位置P2での圧延材1の温度は、第2温度管理位置P2での下限温度d以上上限温度u以下の範囲である860~900℃の間にほぼ収まっている。そして、線L3で示す第1温度管理位置P1での圧延材1の温度は、第1温度管理位置P1での下限温度d以上上限温度u以下の範囲である0~925℃の間に収まっている。
また、圧延材1の先端から30m付近の位置における冷却制御能力不足が生じた場合の温度逸脱量もできる限り小さくなるように制御できている。さらに実施例2の制御装置では、(C)に線L5からL7で示す制御点の温度降下量が、実施例1の制御装置の温度降下量よりも小さくなっている。実施例2の制御装置では、実施例1の制御装置に比べて、制御点間の温度履歴のばらつきが抑制されている。
【符号の説明】
【0100】
1 圧延材
10 粗圧延機
15 温度計(温度測定部)
20 仕上タンデム圧延機(仕上圧延機)
30 粗バーヒータ(温度調節部)
40 粗バー冷却装置(温度調節部)
51,52,53,54,55,56 冷却スプレー装置(温度調節部)
60 制御装置(圧延装置の制御装置)
61b 温度取得部
61c 操作量設定部
61d 出力部
63a 制御プログラム(圧延装置の制御プログラム)
100 圧延装置
D 搬送方向
P 温度管理位置
P1 第1温度管理位置(温度管理位置)
P2 第2温度管理位置(温度管理位置)
R 搬送路
S 制御方法(圧延装置の制御方法)
S20 温度取得工程
S30 操作量設定工程
S40 出力工程
図1
図2
図3
図4
図5
図6