(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】コークス炉設備監視方法
(51)【国際特許分類】
C10B 25/14 20060101AFI20231018BHJP
C10B 41/00 20060101ALI20231018BHJP
C10B 45/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C10B25/14
C10B41/00
C10B45/00 Z
(21)【出願番号】P 2020071481
(22)【出願日】2020-04-13
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 太郎
【審査官】森 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-8257(JP,A)
【文献】特開2008-184537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 25/14
C10B 41/00
C10B 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の炭化室が炉団長方向に配設されたコークス炉と、
前記炉団長方向に敷設された軌条上を走行移動する移動機と、
前記移動機に搭載され、前記炭化室の炉枠のローラ受けに載置される炉蓋を脱着するシリンダ装置を有する炉蓋脱着機と、を備えたコークス炉設備において、
前記複数の炭化室について、前記炉蓋を脱着する際に、前記シリンダ装置の吊フックの待機位置である初期位置と前記炉枠に取り付けられた状態の前記炉蓋のラグピース下面位置との相対距離であるフック掛けストロークを、少なくとも略一巡分計測し、
計測した前記フック掛けストロークの値であるフック掛けストローク測定値データを、少なくとも計測した位置を示す計測位置情報と関連付けて記憶し、
前記フック掛けストローク測定値データのうちの1つ以上が所定の第1閾値を超えた場合に警告を行う、コークス炉設備監視方法。
【請求項2】
前記所定の第1閾値が、前記シリンダ装置の動作可能範囲に基づいて定められた上限適正値または下限適正値であって、
前記略一巡分のフック掛けストローク測定値データの1つ以上が、前記上限適正値と前記下限適正値との間の範囲である適正範囲を外れた場合に、警告を行う、請求項1に記載のコークス炉設備監視方法。
【請求項3】
前記所定の第1閾値が、前記シリンダ装置の動作可能範囲に基づいて定められた上限適正値または下限適正値であって、
前記略一巡分のフック掛けストローク測定値幅が、前記上限適正値と前記下限適正値との間の幅である適正範囲幅以上であった場合に、前記略一巡分のフック掛けストローク測定値データのうち、数値が最大のもの又は最小のものを特定し、その特定されたフック掛けストローク測定値データの位置情報を通知して、前記炉枠又は前記軌条の高さ位置変更の検討を要請する通知を行う、請求項1又は請求項2に記載のコークス炉設備監視方法。
【請求項4】
前記複数の炭化室について、前記炉蓋を脱着する際に、前記シリンダ装置の吊フックの待機位置である初期位置と前記炉枠に取り付けられた状態の前記炉蓋のラグピース下面位置との相対距離であるフック掛けストロークを、少なくとも略二巡分計測し、
計測した前記フック掛けストロークの値であるフック掛けストローク測定値データを、さらに計測した時を示す計測時情報と関連付けて記憶し、
計測した最新の略一巡分のフック掛けストローク測定値データと、その直近の過去の略一巡分のフック掛けストローク測定値データとの差の絶対値が、所定の第2閾値を超えた場合に警告を行う、請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のコークス炉設備監視方法。
【請求項5】
前記警告を行う際に、前記所定の第2閾値を超えたフック掛けストローク測定値データの位置情報を通知する、請求項4に記載のコークス炉設備監視方法。
【請求項6】
特定の前記炭化室について、複数の前記フック掛けストローク測定値データの数値と前記計測時情報とから将来のフック掛けストロークの値を予測する、請求項4または請求項5に記載のコークス炉設備監視方法。
【請求項7】
前記コークス炉設備は、表示部を有する監視装置をさらに備え、
前記監視装置は、前記フック掛けストローク測定値データに基づいた分析結果を、前記表示部に表示して可視化する、請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載のコークス炉設備監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉設備監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
室炉式コークス炉は、炉体の上部に、炉長方向に細長い燃焼室と炭化室とが交互に複数、それぞれが略等間隔となるように配列されている。原料の石炭を、炭化室上部の装入口から供給し、燃焼室での燃焼ガスの燃焼熱により間接的に加熱して乾留し、コークスを製造する。炭化室には、炉長方向の両端に製造したコークスを取り出すための炉蓋が設けられている。炉蓋は、窯口に設けられた炉枠に脱着可能に取り付けられ、石炭の乾留処理時には窯口を塞いで炭化室を密閉する役割を担う。炉蓋を炉枠に脱着する際は、炉蓋脱着機が用いられる。
【0003】
コークス炉では、原料の石炭の供給、石炭乾留のための加熱、および石炭乾留後のコークスの取り出しが繰り返し行われる。そのため、炉体は急激な膨張と収縮とを繰り返す。このようなコークス炉特有の温度変化やコークス炉の経年変化などにより炉体が変形し、炉枠の位置が変化する。コークス炉は複数の炭化室を有するが、その配設位置の違いや乾留条件の違いなどにより、炉枠の位置の変化量は、炭化室(窯口)ごとに異なる。炉蓋の脱着トラブルを防ぐために、炉枠の位置変化に応じた炉蓋の脱着操作が求められる。
【0004】
炉蓋の脱着の確実性を高めた炉蓋脱着方法が、複数提案されている。例えば、特許文献1には、炉蓋の脱着操作の各工程において、リフター(炉蓋脱着機)の操作機構部分と炉蓋の被検出部位との間の距離を計測し、計測距離が適正基準距離の範囲内にあるときに、次の操作工程に移行するようにリフターを制御する技術が開示されている。
【0005】
特許文献2には、吊フックを昇降動作させるシリンダ装置のストロークを検出するためのストロークセンサを備えることにより、炉蓋を吊上げ吊下げ動作させるシリンダ装置のストローク履歴の把握が可能であり、かつストロークの設定変更も容易で、炉蓋の高さが変化しても安全かつ確実に炉蓋を脱着することができる炉蓋脱着機が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-126632号公報
【文献】特開2008-184537号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の技術は、個々の炉蓋の脱着が適切に行われるように、リフターまたはシリンダ装置を操作する技術である。しかしながら、コークス炉設備において、炉蓋脱着機は移動機(押出機またはガイド車)に搭載されて軌条上を移動し、一つの炉蓋脱着機が複数の炭化室(窯口)の炉蓋の脱着を行うように構成されている。炉蓋脱着機はその動作範囲が限られるため、個々の炉蓋の脱着を管理するだけでは対応できなくなる場合がある。よって、一つの炉蓋脱着機により複数の炭化室の炉蓋の脱着が可能となるようにコークス炉設備を監視すれば、コークス炉の操業をより安定的に行うことができる。
本発明は、コークス炉の操業をより安定的に行うことが可能なコークス炉設備監視方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するために、本発明は以下の手段を提案している。
[1]複数の炭化室が炉団長方向に配設されたコークス炉と、前記炉団長方向に敷設された軌条上を走行移動する移動機と、前記移動機に搭載され、前記炭化室の炉枠のローラ受けに載置される炉蓋を脱着するシリンダ装置を有する炉蓋脱着機と、を備えたコークス炉設備において、前記複数の炭化室について、前記炉蓋を脱着する際に、前記シリンダ装置の吊フックの待機位置である初期位置と前記炉枠に取り付けられた状態の前記炉蓋のラグピース下面位置との相対距離であるフック掛けストロークを、少なくとも略一巡分計測し、計測した前記フック掛けストロークの値であるフック掛けストローク測定値データを、少なくとも計測した位置を示す計測位置情報と関連付けて記憶し、前記フック掛けストローク測定値データのうちの1つ以上が所定の第1閾値を超えた場合に警告を行う、コークス炉設備監視方法。
[2]前記所定の第1閾値が、前記シリンダ装置の動作可能範囲に基づいて定められた上限適正値または下限適正値であって、前記略一巡分のフック掛けストローク測定値データの1つ以上が、前記上限適正値と前記下限適正値との間の範囲である適正範囲を外れた場合に、警告を行う、[1]に記載のコークス炉設備監視方法。
[3]前記所定の第1閾値が、前記シリンダ装置の動作可能範囲に基づいて定められた上限適正値または下限適正値であって、前記略一巡分のフック掛けストローク測定値幅が、前記上限適正値と前記下限適正値との間の幅である適正範囲幅以上であった場合に、前記略一巡分のフック掛けストローク測定値データのうち、数値が最大のもの又は最小のものを特定し、その特定されたフック掛けストローク測定値データの位置情報を通知して、前記炉枠又は前記軌条の高さ位置変更の検討を要請する通知を行う、[1]又は[2]に記載のコークス炉設備監視方法。
[4]前記複数の炭化室について、前記炉蓋を脱着する際に、前記シリンダ装置の吊フックの待機位置である初期位置と前記炉枠に取り付けられた状態の前記炉蓋のラグピース下面位置との相対距離であるフック掛けストロークを、少なくとも略二巡分計測し、計測した前記フック掛けストロークの値であるフック掛けストローク測定値データを、さらに計測した時を示す計測時情報と関連付けて記憶し、計測した最新の略一巡分のフック掛けストローク測定値データと、その直近の過去の略一巡分のフック掛けストローク測定値データとの差の絶対値が、所定の第2閾値を超えた場合に警告を行う、[1]乃至[3]のいずれか1つに記載のコークス炉設備監視方法。
[5]前記警告を行う際に、前記所定の第2閾値を超えたフック掛けストローク測定値データの位置情報を通知する、[4]に記載のコークス炉設備監視方法。
[6]特定の前記炭化室について、複数の前記フック掛けストローク測定値データの数値と前記計測時情報とから将来のフック掛けストロークの値を予測する、[4]または[5]に記載のコークス炉設備監視方法。
[7]前記コークス炉設備は、表示部を有する監視装置をさらに備え、前記監視装置は、前記フック掛けストローク測定値データに基づいた分析結果を、前記表示部に表示して可視化する、[1]乃至[6]のいずれか1つに記載のコークス炉設備監視方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、炭化室の炉蓋を脱着する際に、炉蓋脱着機のシリンダ装置により、吊フックの待機位置である初期位置から、吊フックがラグピースに当接する位置(以下、ラグピース下面位置またはラグピースの下面位置という)までの間隔(フック掛けストローク)を、コークス炉の炉長方向片側の炉蓋について略一巡分計測し、計測したフック掛けストローク測定値データを監視することにより、コークス炉の操業の安定化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】コークス炉設備の構成の一例について、その概要を示す平面図である。
【
図2】窯口に固設される炉枠、および炉枠に脱着される炉蓋の構成の一例を示す模式図である。
【
図3】炉蓋脱着機による炉蓋の取り外し工程を説明する説明図である。
【
図4】ラグピースおよび軌条天と、フック掛けストロークとの関係を説明する説明図である。
【
図5】略一巡分のフック掛けストローク測定値を炉団長方向に並べた図である。
【
図6】フック掛けストロークの適正範囲を定める一例を説明する説明図である。
【
図7】フック掛けストロークの測定値の変化量を炉団長方向に並べた図である。
【
図8】特定の炭化室のフック掛けストロークの測定値の経年変化を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。また、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
なお、以下の説明において、「一巡分」とは、1つのコークス炉の押出機側またはガイド車側において、1つの炉蓋の脱着を行ってから、次に同じ炉蓋の脱着を行う前までのことをいう。「略一巡分」とは、一巡分または一巡分に近いことを示し、例えば、整備中の炭化炉の炉蓋などを含めなくてもよい。また、「超える」とは、範囲であれば範囲を外れること、上限値であれば上限値より大きいこと、下限値であれば下限値より小さいことをいう。
【0012】
〈コークス炉の構成の概要〉
図1は、コークス炉設備の構成の一例について、その概要を示す平面図である。
図1に示すように、室炉式のコークス炉1は、炉体の上部に、炉長方向30に細長い燃焼室10と炭化室20とを複数交互に配列した炉団を備えている。原料の石炭を、炭化室20上部の装入口(図示省略)から炭化室20内に供給し、燃焼室10での燃焼ガスの燃焼熱により間接的に加熱して乾留し、コークスを製造する。
【0013】
炭化室20には、炉長方向30の両側に、2つの窯口21が設けられている。また、コークス炉1の炉長方向30の両側(押出機側41およびガイド車側51)には、炉団長方向40に延びる軌条42が敷設されている。押出機側41の軌条42上には押出機45が、炉団長方向40の全長に移動可能に走行する。また、ガイド車側51の軌条42上にはガイド車53が、コークス炉1の炉団長方向40の全長を移動可能に走行する。軌条42は、地面に置かれたH鋼などの金属製枕木(図示せず)などにより支えられている。押出機45およびガイド車53は軌条42上を走行して、それぞれ、石炭の乾留が完了した炭化室20の押出機側41の窯口21前およびガイド車53側の窯口21前に移動する。炭化室20内のコークスは、押出機45によってガイド車側51に押し出されて、押し出されたコークスは、ガイド車53を経由して消火台車(図示せず)またはバケット台車(図示せず)に取り出される。
【0014】
押出機側41およびガイド車側51の窯口21の周縁には、炉枠60が固設されており、この炉枠60に炉蓋70が脱着可能に取り付けられる。炉蓋70は、石炭の乾留時には窯口21を塞いで炭化室20を密閉し、乾留後には炭化室20内のコークスを取り出すために炉枠60から取り外される。炉蓋70の脱着は、押出機45およびガイド車53に搭載される炉蓋脱着機80が行う。
【0015】
〈窯口の構成の概要〉
図2は、窯口に固設される炉枠、および炉枠に脱着される炉蓋の構成の一例について、炉蓋を炉枠に掛け止めた状態を模式的に示す模式図であり、(1)は正面図、(2)は側面図である。
【0016】
図2(1)に示すように、炉蓋70は、略水平方向に延びるローラ71と2つの閂72と2つのラグピース73とを備える。炉枠60は、両縦枠にローラ受け61と2つの閂受け62とが枠面から突出するように設けられている。
図2(2)に示すように、炉枠60のローラ受け61は上面が平面である。また、炉枠60の閂受け62は、側面視略U字形の鉤状である。炉蓋70のローラ71は、炉枠60のローラ受け61の上面であるローラ受天61aに載せられる。炉蓋70の閂72は、炉枠60の閂受け62の鉤状の内部空間に挿し入れられる。炉枠60のローラ受け61は、炉蓋70の全荷重を受け止める。一方、閂72および閂受け62は、炭化室20を密閉するために設けられる動作機構の一部である。動作機構(図示省略)は、鉤状の閂受け62の内側側壁を利用して、炉蓋70を水平方向に動かして炉枠60に押し付けて、炭化室20を密閉する。炉蓋70のラグピース73は、直径100mm程度の丸鋼である。詳細は後述するが、炉蓋70を炉枠60に脱着する際には、このラグピース73に炉蓋脱着機80の吊フック81が引っ掛けられる。
【0017】
図3は、炉蓋脱着機による炉蓋の取り外し工程を説明する説明図である。なお、便宜上、
図3においては、炉枠60は省略し、
図3(2),(3)においては、
図3(1)の構成の一部のみを示している。また、以下の説明においては、押出機側41の移動機である押出機45に搭載される炉蓋脱着機80について説明し、ガイド車側51の移動機であるガイド車53に搭載される炉蓋脱着機80については説明を省略するが、押出機45に搭載される炉蓋脱着機80と略同様である。また、炉蓋70には、
図2に示すようにラグピース73が通常2本設けられているが、便宜上、上側のラグピース73のみを図示して説明する。
【0018】
図1および
図3(1)に示すように、炉蓋脱着機80は軌条42を走行する押出機45に搭載されている。炉蓋脱着機80は、鉛直方向に移動可能な吊フック81を有するリフト本体部83を備え、吊フック81に炉蓋70のラグピース73を引っ掛けて、炉蓋70を炉枠60から脱着する。炉蓋70を取り外す際の炉蓋脱着機80の動作は以下のようである。
【0019】
まず、
図3(1)に示すように、吊フック81が炉蓋70のラグピース73の下方に位置するようにリフト本体部83を前進移動させる(前進移動工程)。この時点で、吊フック81はリフト本体部83における待機位置である初期位置I(
図3(1)参照)にある。初期位置Iは、吊フック81内底面の位置(高さ)であり、後述するシリンダ装置85の設置位置を動かさない限り、押出機45の上面Pから所定の位置(高さ)となる。次に、
図3(2)に示すように、ラグピース73に吊フック81が当接し、ラグピース73が吊フック81に掛かった状態となるまで、吊フック81を上昇移動させる(ラグピース掛け上昇工程)。このラグピース掛け上昇工程において、吊フック81は、初期位置Iから炉蓋70のラグピース73の下面位置R(高さ位置R(
図2(1)参照))まで移動したこととなる。この移動距離を測定することで後述する軌条天42aの位置rと炉蓋70の相対位置を測定することが可能となる。以下、初期位置Iからラグピース73の下面位置Rまでの吊フック81の移動距離を、フック掛けストローク(フック掛けストローク)という。なお、吊フック81がラグピース73に当接すると、吊フック81に搭載されているシリンダ形状のセンサーにより、シリンダ先端をラグピース73が押し込むことで吊フック81が掛かったことを検知し、そのときのストロークを記録することでフック掛けストロークを測定することができる。
【0020】
ラグピース掛け上昇工程後は、
図3(3)に示すように、吊フック81を、さらに再上昇移動させる(閂外し再上昇移動工程)。
図2(1)に示すように、炉蓋70の閂72は閂受け62に掛け止められている。再上昇移動は、閂72が閂受け62から外れるように、閂72を閂受け62の上面62a(
図2(1)参照)よりも高い位置まで、再上昇させる工程である。その後の工程については図示を省略するが、軸支されているリフト本体部83により掛け上げた炉蓋70を旋回させ、炉蓋70をコークスの押出作業中に洗浄する高さまでさらに上昇させる(再々上昇移動工程)される。炉蓋70を窯口21に戻す際には、この逆の工程を行う。
【0021】
炉蓋脱着機80による吊フック81の昇降動作は、リフト本体部83に備えられたストローク測定機能付きのシリンダ装置85(計測手段)により行われる。このシリンダ装置85は、ピストンロッドに差動トランスを設けて、ピストンロッドの動作距離を電気信号として出力できる機能を備えたものである。本発明においては、ラグピース掛け上昇工程におけるフック掛けストロークのデータを、走行位置情報(例えば、各炭化室に炉団長方向に順に付された室番号情報など)に関連付けて、炉蓋脱着機80自体またはコークス炉設備を管理する中央操作室などに設けた監視装置(図示せず)に出力する。監視装置は情報処理装置である。詳細は後述するが、監視装置は、炉蓋脱着時のフック掛けストローク情報を走行位置情報や計測時情報などに関連付けて取得して、記憶し、記憶した情報の分析を行い、分析の結果に基づいて、表示部への表示などの視覚的手段やアラームなどの聴覚的手段による通知を行う。
【0022】
図4は、フック掛けストロークと、ラグピースおよび軌条天位置(軌条の上面位置)との関係を模式的に示す説明図である。
図4において、説明の便宜上、炉枠60側には変形がない場合について説明する。
図4は、ラグピース73の下面位置Rを一定とし、軌条42の高さ位置が変化した場合のフック掛けストロークの大きさの変化を説明する図であり、
図4の(1)の軌条42の上面(軌条天42a)の位置を基準として、(2)は軌条42が上昇した場合、(3)は軌条42が沈下(下降)した場合を示す。なお、便宜上、炉枠60は正面から見た状態の一部を示し、炉蓋脱着機80および押出機45は側面から見た状態を示す。また、
図4において炉蓋70の構成はラグピース73のみを示している。
【0023】
図4(1)に示すように、軌条天42aがr(A)の位置にある場合、吊フック81の初期位置はI(A)の位置となり、フック掛けストロークはフック掛けストローク(A)で示される距離となる。
図4(2)に示すように、軌条42が変形するなどして、軌条天42aの位置がXmm上昇してr(B)の位置となると、吊フック81の初期位置もXmm上昇してI(B)の位置となり、フック掛けストローク(B)の値は、軌条天42aが高くなった変動分、フック掛けストローク(A)の値よりも小さくなる。また、
図4(3)に示すように、軌条42が沈下し、軌条天42aの位置がYmm下降してr(C)の位置となると、吊フック81の初期位置もYmm下降してI(C)の位置となり、フック掛けストローク(C)の値は、軌条天42aが沈下した変動分、フック掛けストローク(A)の値よりも大きくなる。
【0024】
このように、軌条天42aの高さ位置が変化すると、炉蓋脱着機80の吊フック81の内底面の高さ位置(初期位置I)が変化し、その結果、フック掛けストロークの大きさも変化する。よって、フック掛けストロークを監視することは、軌条天42aの位置rとラグピース73の下面位置Rとの相対的な位置関係を監視することとなる。また、上述したように、炉蓋70は、ローラ71がローラ受け61の上面に載せられて、炉枠60に掛け止められる。そのため、炉蓋70のラグピース73の下面位置の変化は、炉蓋70が載置される炉枠60の位置変化に追従する。よって、フック掛けストロークを監視することは、軌条42と炉枠60との相対的な位置関係を監視することと同様の意義を有する。
【0025】
ここで、軌条42の高さ位置rの変化は、軌条42の変形や軌条42を支持する鋼材の変形や軌条42設備の劣化などに起因する。また、炉蓋70のラグピース73の下面位置Rの変化は、上述したように、炉枠60(ローラ受天61a)の位置変化の影響を受ける。炉枠60の位置変化は、炉体の膨張や収縮、および炉体の沈下などに起因し、炭化室20(窯)ごとに膨張挙動が異なる。そのため、コークス炉1に設けられた複数の炭化室20の炉枠60に取り付けられる複数の炉蓋70の脱着を、一律に管理することは難しい。しかしながら、上述したように、フック掛けストロークを監視することは、軌条42と炉枠60との相対的な位置関係を監視することと同様の意義を有する。フック掛けストロークの値の変化を監視すれば、炉枠60の状態変化および軌条42の状態変化の有無を監視することができ、コークス炉1の操業におけるトラブルの予防保全に活用することが可能となる。本発明は、以下に示すように、フック掛けストロークの値または値の変化を監視するコークス炉設備監視方法である。
【0026】
炉蓋70を窯口21に脱着する際に、移動機(押出機45またはガイド車53)上のシリンダ装置85の計測手段により、コークス炉1の複数の炭化室20、それぞれについて、フック掛けストロークを、略一巡分以上計測する。計測したフック掛けストロークの計測値情報(以下、フック掛けストローク測定値データという)を、フック掛けストロークを計測した炭化室20の位置を示す位置情報と関連付けて、監視装置に記憶させる。また、複数の炭化室20について、フック掛けストロークを略二巡分以上計測する場合には、フック掛けストローク測定値データを、フック掛けストローク測定値データを計測した時を示す計測時情報とも関連付けて、監視装置に記憶させる。
【0027】
監視装置は、記憶したフック掛けストローク測定値データを用いて、所定の分析を行い、分析の結果が所定の条件に該当するときには通知を発する。通知は、整備を促す旨の通知または異常発生を知らせる警告である。通知の際に、炉枠60、軌条42、およびシリンダ装置85の少なくともいずれか1つの構成を特定して、整備を促す旨の通知(または異常発生を知らせる警告)を行うことが好ましい。そして、整備を促す対象となる構成が炉枠60または軌条42であった場合には、通知(または警告)の原因となったフック掛けストローク測定値データに関連付けられた位置情報も合わせて通知する。なお、通知(または警告)は、視覚または聴覚で認識できる手段であれば、限定されない。
【0028】
コークス炉1の押出機側41またはガイド車側51の各炭化室の炉蓋70のフック掛けストロークの値(フック掛けストローク測定値データ)を略一巡分または略二巡分以上、監視することにより、コークス炉設備全体の炉枠60、軌条42、および炉蓋脱着機80の状態または状態変化を監視することができる。分析結果に基づいて発せられる通知(または警告)には、整備を促す対象となる構成や、整備すべき構成の位置情報が特定されるため、コークス炉設備管理者の監視および整備作業が容易となる。
【0029】
監視装置による複数の分析例を以下に示す。
監視装置は、フック掛けストローク測定値データから略一巡分の測定値を抽出して分析を行う。例えば、フック掛けストローク測定値の値を、シリンダ装置85の吊フック81の動作可能範囲に基づいて定められたフック掛けストローク適正範囲(以下、適正範囲βという)と比較する。フック掛けストローク測定値の値が適正範囲の上限値よりも大きい場合または適正範囲の下限値よりも小さい場合、すなわち適正範囲を外れた(超えた)場合には、警告などを発信するように構成することで、炉蓋70の脱着時のトラブルの予防保全を行うことができる。また、詳細は後述するが、略一巡分の測定値の範囲(最大測定値と最小測定値との差)の数値幅を算出して、上述の適正範囲βの数値幅(以下、β幅という、
図5参照)と比較する分析を行ってもよい。
【0030】
監視装置は、フック掛けストローク測定値データから、最新の測定値とその直近の過去の測定値を、それぞれ略一巡分抽出し、最新の測定値とその直近の過去の測定値との差を算出して分析を行ってもよい。例えば、各フック掛けストローク値を、炉枠60と軌条42の相対的な高さ位置関係を示す情報と捉えて分析することにより、従来、炉枠60や炉体の監視とは別作業として行っていた軌条42の監視を、フック掛けストローク値の分析により監視することができる。
【0031】
監視装置を、特定の炉蓋70について、複数のフック掛けストローク測定値データを抽出し、分析を行うように構成してもよい。複数のフック掛けストローク測定値データと計測時情報とから、将来のフック掛けストロークの経年変化状況を予測することで、整備計画に活用することができる。
【0032】
上述したフック掛けストローク測定値データを用いた各分析結果を、例えば、監視装置が備える画像表示部などに表示して可視化することが好ましい。情報の可視化により、炉蓋70のラグピース73の下面位置Rと軌条42の相対的な高さ位置の関係や変化を、実際のコークス炉1における配置関係や位置情報に基づいて把握することができる。上述したように、炉蓋70のラグピース73の下面位置Rの変化は炉枠60の位置変化の指標となる。よって、炉枠60(炉体)の変形状況および炉団長方向に敷設されている軌条42の変形状況の把握とそれに対する対応の検討が容易となる。
【0033】
上述のように、本発明のコークス炉設備監視方法は、複数の炭化室が炉団長方向に配設されたコークス炉と、炉団長方向に敷設された軌条上を走行移動する移動機と、移動機に搭載され、炭化室の炉枠のローラ受けに載置される炉蓋を脱着するシリンダ装置を有する炉蓋脱着機と、を備えたコークス炉設備において、複数の炭化室について、炉蓋を脱着する際に、シリンダ装置の吊フックの待機位置である初期位置と炉枠に取り付けられた状態の前記炉蓋のラグピース下面位置との相対距離であるフック掛けストロークを、少なくとも略一巡分計測し、計測したフック掛けストロークの値であるフック掛けストローク測定値データを、少なくとも計測した位置を示す計測位置情報と関連付けて記憶し、フック掛けストローク測定値データのうちの1つ以上が所定の第1閾値を超えた場合に警告を行う。
【0034】
また、所定の第1閾値が、シリンダ装置の動作可能範囲に基づいて定められた上限適正値または下限適正値であって、略一巡分のフック掛けストローク測定値データの1つ以上が、上限適正値と下限適正値との間の範囲である適正範囲を外れた場合に、警告を行ってもよい。
【0035】
本発明のコークス炉設備監視方法を、以下に具体的に例示する。なお、フック掛けストロークの測定は、炉蓋70の取り外し操作において測定されるものに限らず、炉蓋70の取り付け操作において測定されるもの、またはその両方を使用してもよい。
【0036】
図5は、コークス炉1の炭化室20の押出機側41の炉蓋70の略一巡分のフック掛けストロークの測定値を、各炭化室20の炉団長方向40の位置に並べた図であり、その一部を示している。
図6は、吊フックの動作可能範囲に基づいてフック掛けストロークの適正範囲を定める一例を説明する説明図である。
図5は、縦軸がフック掛けストロークの測定値、横軸が各炭化室20の位置情報である室番号を示し、フック掛けストロークの最新測定値がプロットされている。また、
図5には、フック掛けストロークの適正範囲として、その上限値である上限適正値(第1閾値の一例)および下限値である下限適正値(第1閾値の一例)の各位置が表示している。
【0037】
移動機45,53に固設される炉蓋脱着機80のシリンダ装置85の吊フック81の動作可能範囲α(
図6参照)は、初期位置Iから一定の範囲(距離)に限られる。フック掛けストロークにも適正範囲β(
図6参照)があり、この範囲を外れると炉蓋70の脱着操作においてトラブルが起きる可能性がある。監視装置は、略一巡分のフック掛けストロークの測定値の中にこの適正範囲βを外れる(超える)ものがあった場合には、整備を促す通知(警告)を発信する。例えば、
図5において、室番号1のフック掛けストロークの値は、下限適正値よりも値が小さく、適正範囲βを外れている。また、室番号5のフック掛けストロークの値は、上限適正値よりも値が大きく、適正範囲βを外れている。
【0038】
図6に示すように、吊フック81の動作可能上限位置は、初期位置Iから吊フック81の動作可能範囲αの距離分高い位置である。上限適正値は、動作可能上限位置から、閂外し再上昇移動工程および再々上昇移動工程での上昇移動に必要な最小距離と所定の予備距離との和の分、低い位置である。下限適正値は、初期位置Iから、ラグピース73の下に吊フック81を挿し入れ、吊フック81にラグピース73を掛けるために必要な最小距離と所定の予備距離との和の分、高い位置である。
【0039】
フック掛けストロークの測定値が上限適正値よりも大きい場合(
図5の室番号5)は、閂外し再上昇移動工程および再々上昇移動工程での上昇移動が不十分となることにより、例えば閂72を閂受け62から外すことができなくなる虞がある。また、フック掛けストロークの測定値が下限適正値よりも小さくなった場合(
図5の室番号1)は、前進移動工程において、吊フック81がラグピース73にぶつかってしまう虞がある。
図5の室番号1および室番号5のように、フック掛けストロークの測定値の中に適正範囲を外れるものがあった場合に、警告を行うことにより、炉蓋70の脱着時のトラブルが起こる可能性を低減する。また、警告を行う際に、上限適正値または下限適正値を超えたフック掛けストロークの測定値に関連付けられた位置情報(室番号)を通知することにより、管理者は、整備が必要な軌条42または炉枠60の位置、シリンダ装置85の位置変更に必要な距離などを知ることができる。
【0040】
ここで、監視装置は、いずれかの炉蓋のフック掛けストロークの値が適正範囲βを外れて場合には、以下の分析処理も合わせて行い、対応方法の通知を行うことが好ましい。
監視装置は、略一巡分のフック掛けストロークの測定値のうちの最大値である最大測定値と最小値である最小測定値との差であるフック掛けストローク測定値幅(以下、ST測定値幅という)を算出する。そして、算出したST測定値幅の値を、適正範囲βの数値幅(以下、β幅ともいう)の値に基づいて評価し、その評価結果に基づいた通知を行う。なお、適正範囲βの幅(β幅)は、上限適正値と下限適正値との間の間隔(距離)である。
【0041】
監視装置は、ST測定値幅の値がβ幅の値よりも小さいか否かで、異なる内容を通知する。ST測定値幅の値がβ幅の値よりも小さい場合には、整備対象が「シリンダ装置」であり、炉蓋脱着機80に対するシリンダ装置の位置変更の検討要請を通知する。また、ST測定値幅の値がβ幅の値以上である場合には、整備対象が「軌条42または炉枠60」であり、フック掛けストロークの最大測定値または最小測定値を示した炭化室20の室番号も合わせて通知する。
図5に示す例のように、ST測定値幅がβ幅よりも大きい場合には、シリンダ装置の位置変更では対応できないため、軌条42または炉枠60の高さ位置調整の検討の要請を通知する。シリンダ装置の位置を変更しても、ST測定値幅の値を小さくすることはできないからである。
【0042】
以上のように、本発明のコークス炉設備監視方法において、所定の第1閾値が、シリンダ装置の動作可能範囲に基づいて定められた上限適正値または下限適正値であって、略一巡分のフック掛けストローク測定値幅が、上限適正値と下限適正値との間の幅である適正範囲幅以上であった場合に、略一巡分のフック掛けストローク測定値データのうち、数値が最大のもの又は最小のものを特定し、その特定されたフック掛けストローク測定値データの位置情報を通知して、炉枠又は軌条の高さ位置変更の検討を要請する通知を行ってもよい。
【0043】
図7は、コークス炉1の炭化室20の略一巡分のフック掛けストローク測定値の変化量(以下、フック掛けストローク変化量という)と、各炭化室20の炉団長方向40の位置との関係を表す図である。
図7において、横軸は、各炭化室20の炉団長方向40の位置情報である室番号を示す。また、縦軸のフック掛けストローク変化量は、各炭化室20のフック掛けストローク測定値の最新測定値とその直近の過去の測定値との差(単位:mm)を示す。
【0044】
縦軸のフック掛けストローク変化量は、各炭化室20で測定された直近の過去のフック掛けストロークの測定値を基準値(ゼロ)として、その基準値に対するフック掛けストローク測定値の最新測定値の差で示されている。すなわち、基準値線(ゼロ線)は、直近の過去のフック掛けストロークの測定値の位置を示す。例えば、室番号2については、前回の測定値(基準値)よりも今回の測定値の方がamm大きかったことを示し、室番号3については、前回の測定値(基準値)よりも今回の測定値の方がbmm小さかったことを示す。また、基準値を基準として所定の範囲(例えば、基準値の±cmmの値の範囲)が、フック掛けストロークの測定値の変化許容範囲として表されている。
【0045】
本発明のコークス炉設備監視方法において、複数の炭化室について、炉蓋を脱着する際に、シリンダ装置の吊フックの待機位置である初期位置と炉枠に取り付けられた状態の炉蓋のラグピース下面位置との相対距離であるフック掛けストロークを、少なくとも略二巡分計測し、計測したフック掛けストロークの値であるフック掛けストローク測定値データを、さらに計測した時を示す計測時情報と関連付けて記憶し、計測した最新の略一巡分のフック掛けストローク測定値データと、その直近の過去の略一巡分のフック掛けストローク測定値データとの差の絶対値が、所定の第2閾値を超えた場合に警告を行ってもよい。
【0046】
監視装置は、各炭化室20のフック掛けストローク変化量について、変化許容範囲を外れる(超える)ものがあった場合には、すなわち、測定値が直近の測定値と比較して大きく変化しているものがあった場合には、何らかの異常があった可能性があるとして、この整備を促す通知(警告)を発信する。変化許容範囲の上限(第2閾値の一例)を超えたのか、変化許容範囲の下限(第2閾値の一例)に届かなかったのかなどの態様の違いにより、通知の内容を変えることも好ましい。
【0047】
変化許容範囲をプラス方向に超えた測定値(
図7の室番号9,10)があれば、例えば、その測定値の室番号とともに、軌条42の状態確認を炉枠60(炉体)の状態確認より優先して要請する通知を行う警告(警告1)が監視装置から発せられる。短期間で炉枠60の位置が急激に膨張する可能性よりも、軌条42沈下などの軌条42側の異常の可能性の方が大きいためである。許容範囲をマイナス方向に超えた測定値(
図7の室番号3)があれば、例えば、その測定値の室番号とともに、炉枠60(炉体)の状態確認を軌条42の状態確認より優先して要請する通知を行う警告(警告2)が監視装置から発せられる。軌条42の変形よりも炉枠60が脱落するなどの可能性の方が大きいためである。警告において、室番号が通知されるため、点検が必要な軌条42の位置を知ることができる。
【0048】
また、通知の内容は、上述のものに限らず、変化許容範囲が連続的に外れているのか否かにより、通知の内容を変えることも好ましい。例えば、
図7の室番号3のように許容範囲から外れた室番号が連続する場合は、軌条42設備に何らかの損傷や不具合が起きたと推測し、警告1が発せられる。また、
図7の室番号9,10のように許容範囲から外れた室番号が連続していない場合は、炉枠60(炉体)に何らかの損傷や不具合が起きたと推測し、警告2が発せられる。発せられた警告に基づいた優先順位で、コークス炉設備の点検などを行うことが可能となる。このように、フック掛けストロークの測定値を、炉枠60(炉体)および軌条42の両方の状態の把握するための指標として用いることが可能である。
【0049】
図8は、特定の炭化室20(
図8においては、室番号15)の複数のフック掛けストローク測定値データについて、その値と計測時情報とを用いて、フック掛けストロークSTの測定値の経年変化を示した図である。
図8において、横軸はフック掛けストロークの測定時期を示す。また、
図8において、管理可能範囲は、シリンダ装置85のストローク動作可能範囲に基づいて定められた範囲である。
【0050】
図8に示すように、特定の炉蓋について複数回実施した脱着時のフック掛けストロークの測定値に基づき、例えば回帰直線などを用いるなどして、フック掛けストローク値の将来的な変化予測が可能である。フック掛けストローク値の変化予測結果に基づいて、管理可能範囲に示される管理域から外れる時期を導きだすことができる。管理域を外れるまでの期間を事前予測することにより、炉蓋70の脱着トラブルの発生を抑えるための対応時期を最適化した整備計画を立てることができ、コークス炉操業を安定的に行うことが可能となる。例えば、管理可能範囲の管理域を外れるまでの期間を事前予測することで、炉体の更新も含めた整備計画をたてることができる。
【0051】
なお、コークス炉操業の過程で軌条42、炉枠60、または炉蓋脱着装置の保全対策を行ったものについては、保全後のフック掛けストローク値のみを用いればよい。また、特定の炭化室20ごとに各管理値を外れるまでの期間を求め、最短の期間を示すものに基づいて、コークス炉設備の整備計画を立てることも好ましい。また、管理可能範囲を適宜所定の範囲とすることにより、炉蓋脱着機80側または軌条42側の整備計画(例えば、炉蓋脱着機80のシリンダ装置85の高さ位置の調整計画や、軌条42の高さ位置の調整計画など)を立てることができる。
【0052】
図8に示すように、特定の炭化室20におけるフック掛けストロークの経年変化を可視化することにより、経年変化の状態および管理域を外れるまでの期間を視覚的に把握することができる。上述のフック掛けストロークの測定値やフック掛けストロークの測定値の変化量を、例えば、
図5、
図7に示すように可視化することにより、コークス炉設備の炉団長方向全体の炉枠60、軌条42、および炉蓋脱着機80の状態または状態変化を視覚的に把握することができる。
【0053】
以上のように、本発明のコークス炉1の炉蓋脱着管理方法によれば、略一巡分以上の炭化室のフック掛けストローク値を監視することにより、安定したコークス炉操業が可能となる。また、フック掛けストローク値をコークス炉1の炉枠60と軌条42との相対位置を示す指標として用いることにより、軌条42の整備、移動機の炉蓋脱着機80の改造(移動機に対する相対位置の調整)または炉枠60等の炉体金物の更新等の保全対策である点検や修正の頻度およびタイミングを最適化することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…コークス炉、10…燃焼室、20,20a…炭化室、21…窯口、30…炉長方向、40…炉団長方向、41…押出機側、51…ガイド車側、42…軌条、42a…軌条天、45…押出機、53…ガイド車、60…炉枠、61…ローラ受け、61a…ローラ受天、62…閂受け、70…炉蓋、71…ローラ、72…閂、73…ラグピース、80…炉蓋脱着機、81…吊フック、83…リフト本体部、85…シリンダ装置、I…初期位置、R…ラグピース73の下面位置、r…軌条天位置