(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】溶接継手、及び自動車部品
(51)【国際特許分類】
B23K 31/00 20060101AFI20231018BHJP
B23K 9/23 20060101ALI20231018BHJP
B23K 9/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
B23K31/00 F
B23K9/23 A
B23K9/00 501C
(21)【出願番号】P 2021551652
(86)(22)【出願日】2020-10-05
(86)【国際出願番号】 JP2020037775
(87)【国際公開番号】W WO2021066192
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019184025
(32)【優先日】2019-10-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松田 和貴
(72)【発明者】
【氏名】児玉 真二
【審査官】豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/047665(WO,A1)
【文献】特開2012-170970(JP,A)
【文献】特開平5-50277(JP,A)
【文献】T.Skriko & T.Bjoerk & T.Nylaenen,'Effects of weaving technique on the fatigue strength oftransverse loaded fillet welds made of ultra-high-strength steel',weld World(2014),2014年03月19日,Vol.58,pp.377-387(2014),pp.377-387
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00 - 26/70
B23K 31/00
B23K 9/23
B23K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板厚0.4~4.0mmであり、かつ少なくとも一方が引張強度780MPa以上の一対の鋼母材と、
前記一対の鋼母材を溶接する溶接金属であって、溶接金属を平面視したとき、溶接金属の止端部が山部と谷部とを有し、隣り合う前記山部の頂点と前記谷部の底点との溶接線方向と直交方向での平均距離が3.0mm以下であり、隣り合う前記山部の頂点と前記谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm~3.0mmである前記山部と前記谷部とを合わせた平均の数が2~30個/15mmである溶接金属と、
を有する溶接継手。
【請求項2】
隣り合う前記山部の頂点と前記谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm~3.0mmである前記山部と前記谷部とを合わせた平均の数が4~9個/15mmである請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
前記
一対の鋼母材
の少なくとも一方のビッカース硬さに対する、前記溶接金属のビッカース硬さの比が0.75以上0.95以下である請求項1又は請求項2に記載の溶接継手。
【請求項4】
前記一対の鋼母材のうち少なくとも一方が、0.100~1.000質量%のAlを含有する請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の溶接継手。
【請求項5】
請求項1~請求項4のいずれか1項に記載の溶接継手を有する自動車部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は,溶接継手、及び自動車部品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の分野では、環境保全のため、車体の軽量化による燃費の向上とともに、衝突安全性の向上が求められている。従来から、車体の軽量化と衝突安全性の向上を図るために、板厚の薄い高強度鋼板を車体の構造部材として使用するとともに車体構造の最適化を行うなど、様々な技術開発が行われている。なお、自動車部品のなかには、複数の高強度鋼板を母材として有する溶接継手も含まれる。
【0003】
自動車部品は、振動又は繰返しの外力負荷を伴う環境で使用される。そのため、自動車部品には、通常の静的な引張強度の他に、繰り返し作用する力に耐えるように、十分な疲労強度が要求される。
【0004】
そのため、従来から、溶接継手の疲労強度を向上させる技術が検討されている。
【0005】
また、非特許文献1には、「溶接金属(溶接ビード)を蛇行させることで、溶接金属の止端部の山部(蛇行する溶接金属の止端部において止端部が溶接金属側から母材側にせり出した領域)の溶融境界から亀裂が発生し、蛇行する溶接金属の止端部に沿って亀裂が進展し、谷部(蛇行する溶接金属の止端部において止端部が溶接金属側に寄った領域)付近で亀裂が合体することで,亀裂の合体までに要する時間が増出し、疲労寿命が向上する」ことが報告されている。
【0006】
非特許文献1 M. D. Chapetti, J. L. Otegui. International Journal of Fatigue, Vol.19, No.10, pp.667-675, 1997
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1の技術は、板厚が厚い鋼母材を溶接した場合に、溶接止端部の山部の溶融境界で発生した亀裂を谷部付近で合体させることで,亀裂の合体までに要する時間を増大させて、疲労寿命が向上する技術である。つまり、非特許文献1の技術は、疲労寿命に占める疲労亀裂伝播寿命が大きい、板厚が厚い鋼母材を溶接した場合に疲労寿命が向上する技術である。
しかし、船舶や橋梁などの板厚が厚い鋼板を溶接した構造物に比べ,板厚が薄い鋼板を溶接した構造物は、自動車部材などのように、寸法が小さく、また、板厚が薄いため、発生した疲労亀裂が貫通亀裂となり易い。そのため、疲労寿命に占める疲労亀裂伝播寿命が小さく、疲労亀裂発生寿命が支配的である。
そのため、板厚が薄い鋼母材を溶接した場合、板厚が厚い鋼母材を溶接した場合と同様なメカニズムで疲労寿命は向上しない。
【0008】
そこで、本開示の課題は、板厚が薄く、かつ少なくとも一方が引張強度780MPa以上の一対の鋼母材が溶接されていても、疲労強度に優れた溶接継手、及び、それを備える自動車部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
課題を解決するための手段は、次の態様を含む。
【0010】
[1]
板厚0.4~4.0mmであり、かつ少なくとも一方が引張強度780MPa以上の一対の鋼母材と、
前記一対の鋼母材を溶接する溶接金属であって、溶接金属を平面視したとき、溶接金属の止端部が山部と谷部とを有し、隣り合う前記山部の頂点と前記谷部の底点との溶接線方向と直交方向での平均距離が3.0mm以下であり、隣り合う前記山部の頂点と前記谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm~3.0mmである前記山部と前記谷部とを合わせた平均の数が2~30個/15mmである溶接金属と、
を有する溶接継手。
[2]
隣り合う前記山部の頂点と前記谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm~3.0mmである前記山部と前記谷部とを合わせた平均の数が4~9個/15mmである[2]に記載の溶接継手。
[3]
前記鋼母材のビッカース硬さに対する、前記溶接金属のビッカース硬さの比が0.75以上0.95以下である[1]又は[2]に記載の溶接継手。
[4]
前記一対の鋼母材のうち少なくとも一方が、0.100~1.000質量%のAlを含有する[1]~[3]のいずれか1項に記載の溶接継手。
[5]
[1]~[3]のいずれか1項に記載の溶接継手を有する自動車部品。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、板厚が薄く、かつ少なくとも一方が引張強度780MPa以上の一対の鋼母材が溶接されていても、疲労強度に優れた溶接継手、及び、それを備える自動車部品を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本開示の溶接継手の一例を示す断面図である。
【
図2】本開示の溶接継手の一例を示す平面図である。
【
図3】本開示の溶接継手の溶接金属一例を示す平面図の写真である。
【
図4】本開示の溶接継手の溶接金属における、山部と谷部とを合わせた数、隣り合う山部と谷部との距離の測定方法を説明するための模式図である。
【
図5】本開示の溶接継手の溶接金属における、山部と谷部とを合わせた数、隣り合う山部と谷部との距離の測定方法を説明するための模式図である。
【
図6A】本開示の溶接継手の溶接金属の一例であって、ウィービング溶接したときの溶接金属の断面を化学エッチングした後の光学顕微鏡写真である。ただし、
図6Aは山部の断面図を示す。
【
図6B】本開示の溶接継手の溶接金属の一例であって、ウィービング溶接したときの溶接金属の断面を化学エッチングした後の光学顕微鏡写真である。ただし、
図6Bは溶接金属の谷部の断面図を示す。
【
図7】本開示の溶接継手の溶接金属における、「うねりの数、および山部と谷部との距離」の算出方法を説明するための模式図である。
【
図8】本開示の溶接継手の製造方法の一例における「ウィービング振幅」を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示について説明する。
なお、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
「好ましい態様の組み合わせ」は、より好ましい態様である。
【0014】
ここで、「山部」とは、溶接金属を平面視したとき、止端部(具体的には溶融境界)が溶接金属側から母材側にせり出した領域を示す。そして、「山部の頂点」とは、当該領域の最も母材側にせり出した極点を示す。つまり、「山部の頂点」とは、溶接金属側から母材側にせり出した止端部(具体的には溶融境界)から、溶接線までの最短長さが最も長くなる点を示す。
「谷部」は、溶接金属を平面視したとき、止端部(具体的には溶融境界)が溶接金属側に寄った領域を示す。そして、「谷部の底点」とは、当該領域の最も溶接金属側に寄った極点を示す。つまり、「谷部の底点」とは、溶接金属側に寄った止端部(具体的には溶融境界)から、溶接線までの最短長さが最も短くなる点を示す。
「溶接金属を平面視する」とは、観察する溶接金属の止端部における山部がせり出した側の鋼母材の板厚方向から溶接金属を観察すること示す。
【0015】
本開示の溶接継手は、
板厚0.4~4.0mmであり、かつ少なくとも一方が引張強度780MPa以上の一対の鋼母材と、
前記一対の鋼母材を溶接する溶接金属であって、溶接金属を平面視したとき、溶接金属の止端部が山部と谷部とを有し、隣り合う山部の頂点と谷部の底点との溶接線方向と直交方向での平均距離が3.0mm以下であり、隣り合う山部の頂点と谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm~3.0mmである山部と谷部とを合わせた平均の数が2~30個/15mmである溶接金属と、
を有する。
【0016】
本開示の溶接継手は、上記構成により、板厚が薄く、かつ少なくとも一方が引張強度780MPa以上の一対の鋼母材が溶接されていても、疲労強度に優れる。
本開示の溶接継手は、次の知見により見出された。
【0017】
例えば、多関節ロボットによる自動溶接が行われることが多い自動車足回り部材の溶接では、溶接する鋼母材ごとに溶接ワイヤを交換するのは非効率的である。そのため、引張強度780MPa以上の高い強度の鋼母材を溶接したときの溶接金属は、アンダーマッチ(溶接金属強度が鋼母材強度より低い状態)となる場合がある。
【0018】
例えばウィービング溶接、ウェーブパルス溶接等の溶接をせずに溶接された溶接金属(溶接ビード)は、溶接金属の止端部のいずれの場所からでも疲労亀裂が発生し、すなわち、構造的な応力集中と局所的な応力集中又は強度などが組み合わさった最も疲労強度が低い位置から疲労亀裂が発生する。そのため、溶接金属の疲労強度が低下し易い。
【0019】
一方、例えばウィービング溶接、ウェーブパルス溶接等の溶接を行った場合、疲労亀裂は溶接金属の止端部が鋼母材側にせり出した領域(山部)から生じ、起点が限定される。溶接金属の谷部では、止端形状が急峻となり(
図6B)、応力集中が大きいものの、周辺の溶接金属によって変形が拘束されるので、疲労亀裂起点とならないためである。さらに、山部では止端形状がなだらかとなり(
図6A)、応力集中が低減される。なお、
図6中、31は「溶接金属」を示し、11は「鋼母材」を示す。
【0020】
そのため、疲労寿命に占める疲労亀裂発生寿命の割合が大きい、板厚が薄い鋼母材を溶接したときの、蛇行した溶接金属の止端部における山部と谷部との数および距離を適正にすると、疲労亀裂の起点を山部に限定でき、さらに起点の応力集中を低減することができる。それにより、溶接金属の疲労亀裂発生寿命が延び、疲労強度が向上する。
【0021】
以上の知見により、本開示の溶接継手は、板厚が薄く、かつ少なくとも一方が引張強度780MPa以上の一対の鋼母材が溶接されていても、疲労強度に優れることが見出された。
【0022】
また、板厚が薄い鋼母材を、例えばウィービング溶接、ウェーブパルス溶接等の溶接をすると、溶接金属が引けて、のど厚が減少することがある。
特に、溶接金属の「のど厚」が減少すると、外部から応力が負荷された場合、溶接金属に生じる応力が増加し易い。引張強度780MPa未満の鋼母材では、溶接金属は鋼母材よりも強度が高い(オーバーマッチ)ことが多いため、疲労強度に影響し難いが、引張強度780MPa以上の鋼母材では、溶接金属は鋼母材よりも強度が低い(アンダーマッチ)ことが多く、疲労強度の低下を招くことがある。
【0023】
そこで、開示者らは検討したところ、適正な量(例えば、0.100~1.000質量%)のAlを含む鋼母材を、例えばウィービング溶接、ウェーブパルス溶接等の溶接をすると、溶接金属の「のど厚」の減少が抑えられ、のど厚が確保できることを実験的に知見した。
この原因は、溶接するとき、鋼母材から溶け出したAlが溶融した金属の粘度を上昇させるためと推測される。
そして、溶接金属の「のど厚」の減少を抑えると、溶接金属に作用する応力が抑えられる。その結果、さらに、溶接金属の疲労強度が向上する。
そのため、本開示の溶接継手において、一対の鋼母材のうち少なくとも一方は、0.100~1.000質量%のAlを含有することがよい。
【0024】
以下、本開示の溶接継手について、詳細に説明する。
【0025】
<溶接継手>
以下、本開示の溶接継手について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
図1~
図2に示すように、本開示の溶接継手10は、例えば、互いに重ね合わされた一対の鋼母材(
図1中、1は下側の第1鋼母材、2は上側の第2鋼母材を示す)と、第1鋼母材1の表面1aと第2鋼母材2の端面2aとで形成される隅4に沿って延在する溶接金属(溶接ビード)3と、を備える重ね隅肉溶接継手が例示できる。
【0027】
ここで、
図1~
図2中、溶接継手10は、第1鋼母材1の表面1a(板厚方向に対向する面)と第2鋼母材2の端面2a(例えば鋼母材が平板である場合、板厚方向と直交方向に対向する面)とで形成される隅4に沿って、溶接金属3が延在する重ね隅肉溶接継手の態様を示しているが、この態様に限られるものではない。具体的には、次の態様が挙げられる。
1)第1鋼母材1と第2鋼母材2とをL字又はT字に配置し、第1鋼母材1と第2鋼母材2との互いの表面(板厚方向に対向する面)で形成される隅4に沿って、溶接金属3が延在する隅肉溶接継手の態様。
2)第1鋼母材1と第2鋼母材2との端面(例えば鋼母材が平板である場合、板厚方向と直交方向に対向した面)を突き合わせて配置され、突き合わせ部に沿って、溶接金属3が延在する突合せ溶接継手の態様。
3)その他、開先継手、へり溶接継手等の周知の溶接した溶接継手の態様。
【0028】
なお、
図1は、溶接継手10を、溶接金属3の溶接線W(
図2参照)に直交する断面でみた図である。また、
図1及び
図2に示すように、溶接線Wに平行な方向をZ軸方向とし、Z軸方向に直交し且つ第1鋼母材1の表面1aに平行な方向をX軸方向とし、X軸方向及びZ軸方向に直交し且つ第1鋼母材1の板厚方向に平行な方向をY軸方向とする。
【0029】
<溶接金属>
[溶接金属の止端部形状]
本開示の溶接金属3を平面視したとき、溶接金属3の止端部が溶接線方向(溶接金属すなわち溶接ビードの長手方向)に山部と谷部とを有する(
図3参照)。
図3中、Bは「谷部の底点」を示し、Tは「山部の頂点」を示す。
本開示の溶接金属は、隣り合う山部の頂点と谷部の底点との溶接線方向と直交方向での平均距離(以下、「山部と谷部との距離」とも称する)が3.0mm以下である。溶接線方向と直交方向の山部と谷部の平均距離が3.0mmを超えると、溶接金属3の形状が局所的に乱れ易く、疲労強度の低下を招く。溶接金属3の形状の局所的な乱れは、特に、ウィービング溶接によって溶接を行う場合に生じやすくなる。
よって、溶接線と直交方向の山部と谷部の平均距離は、3.0mm以下とする。
疲労強度向上の観点から、山部と谷部の平均距離は、2.8mm以下が好ましく、2.5mm以下がより好ましく、2.0mm以下がさらに好ましい。
【0030】
隣り合う山部の頂点と谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm~3.0mmである山部と谷部の合計の数(以下、「うねりの数」とも称する)が、2~30個/15mmである(
図4参照)。うねりの数は、溶接線方向に15mmの範囲内に存在する、山部の頂点と谷部の底点の合計の数である。なお、
図4中、Bは「谷部の底点」を示し、Tは「山部の頂点」を示す。W1は「溶接線方向」を示し、31は「溶接金属」を示し、11は「鋼母材」を示す。A1~A4については後述する。
隣り合う山部と谷部との距離が0.1mm未満だと、山部による疲労強度向上効果が小さくなるため、隣り合う山部と谷部との距離が0.1mm未満の山部および谷部は数えない。具体的には、任意の山部の頂点(又は谷部の底点)が、両隣に存在する2つの谷部(又は2つの山部)のうち一方の谷部の底点(又は山部の頂点)との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm未満の場合、前記任意の山部の頂点(又は谷部の底点)は、うねりの数として数えない。
つまり、うねりの数、および山部と谷部との距離は、距離が0.1mm未満の隣り合う山部と谷部を飛ばして、測定する(
図5参照)。なお、
図5中の符号の意味は
図4と同一である。
【0031】
また、任意の山部の頂点(又は谷部の底点)が、両隣に存在する2つの谷部(又は2つの山部)の両方の谷部の底点(又は山部の頂点)との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm未満又は3.0mm超過であれば、前記任意の山部の頂点(又は谷部の底点)は、前記うねりの数として数えない。一方、任意の山部の頂点(又は谷部の底点)が、両隣に存在する2つの谷部(又は2つの山部)のうち少なくとも一方の谷部の底点(又は山部の頂点)との溶接線方向と直交方向での距離が0.1mm~3.0mmの範囲内であれば、前記任意の山部の頂点(又は谷部の底点)は、前記うねりの数として数える。
【0032】
ここで、
図4中、A1~A4のすべてが0.1mm~3.0mmの範囲内の場合、溶接金属の「うねりの数」は、5個/15mmである。また、A1、A3及びA4が0.1mm~3.0mmの範囲内であり、かつA2が3.0mm超過の場合も、溶接金属の「うねりの数」は、5個/15mmである。そして、A1及びA4が0.1mm~3.0mmの範囲内であり、かつA2及びA3が3.0mm超過の場合は、溶接金属の「うねりの数」は、4個/15mmである。
なお、
図4~
図5中、隣り合う山部の頂点と谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離「A1~A4」及び「A」は、山部と谷部とのX軸方向距離(つまり、
図1中のX方向に相当する溶接線方向と直交方向に沿った距離)を示す。
【0033】
そして、うねりの数、および山部と谷部との距離は、上記基準で、始終端の各々5mmを除いた溶接金属3の任意の範囲(最低、溶接線方向に、長さ15mm以上の範囲)を測定し、その平均値とする。
うねりの数が2個/15mm未満では、疲労亀裂の発生起点を山部に局所化する働きを失う。
うねりの数が30個/15mm超えでは、疲労亀裂の発生起点となる山部の数が多すぎて、疲労亀裂の発生起点を山部に局所化する利点が失われる。
よって、うねりの数は、上記範囲とする。疲労強度向上の観点から、うねりの数は、2~28個/15mmが好ましく、3~15個/15mmがより好ましい。
【0034】
うねりの数は、4~9個/15mmであることが更に好ましく、うねりの数を当該範囲内とすることで、疲労強度がさらに向上する。その理由としては、下記の通りと推測される。
うねりの数を4~9個/15mmとすることで、溶接金属の谷部の構造に由来する、疲労亀裂の発生が抑制される領域が、山部の頂点に近い範囲まで及びやすくなる。そのため、より疲労亀裂の起点が、止端形状がなだらかな山部の頂点に近づく。それにより、溶接金属の疲労亀裂発生寿命がより延び、疲労強度がより向上すると推測される。
【0035】
ここで、溶接金属3の溶接線が湾曲している場合における、「うねりの数、および山部と谷部との距離」の算出方法について
図7を基に説明する。
先ず、溶接金属3上に溶接線Wを描き、測定対象とする溶接金属3の止端部を上に向ける。始終端の各々5mmを除いた溶接金属3の任意の範囲(最低、溶接線方向に、長さ15mm以上の範囲)において、うねりの数、および山部と谷部との距離を測定する箇所の溶接線の長さWrを測定する。ここで、溶接線の長さWrの測定は、溶接線に直接、長さを測定する装置によって測定してもよいし、溶接金属3を平面視した状態の画像から、任意の曲線f(x)のx範囲[0,a]の曲線の長さx
iとして、以下の式1を用いて算出しても良い。
【数1】
続いて、存在する山部及び谷部のすべてにおいて、左側から右側にかけて1から始まる整数で番号付けをする。そして、番号付けされた山部及び谷部のすべてにおいて、山部の頂点から溶接線までの最短長さT2、T4、及びT6(以下、「山部の頂点から溶接線までの最短長さ」を単に「山部最短長さ」ともいう。)、及び谷部の底点から溶接線までの最短長さT1、T3、T5、及びT7(以下、単に「谷部の底点から溶接線までの最短長さ」を「谷部最短長さ」ともいう。)を測定する。また、溶接線における、山部の頂点から溶接線までの最短長さとなる線と溶接線との交点、及び谷部の底点から溶接線までの最短長さとなる線と溶接線との交点をプロットする。そして、各プロット間の距離Wr1~Wr6を測定する。
続いて、任意の記録媒体(例えば、紙)に、溶接線の長さWrと同一の長さの直線を書く(以下、当該直線を「模擬溶接線」ともいう)。模擬溶接線の上部、かつ模擬溶接線と直交方向において、模擬溶接線から谷部最短長さT1と同一の位置に点「P1」を書く。そして、点「P1」を谷部の底点とする。次に、前記「P1」の右側、かつ模擬溶接線の上部、かつ模擬溶接線と直交方向において、模擬溶接線から山部最短長さT2と同一の位置に点「P2」を書く。そして、点「P2」を山部の頂点とする。このとき、模擬溶接線に沿った、点「P1」及び「P2」間の距離を、前記距離Wr1と同一の距離とする。以下、「P2」と同様の手順で、「P3」以降についても記載を行う。なお、番号付けされた山部及び谷部のすべてにおいて、本作業を行う。
そして、隣り合う山部の頂点と谷部の底点との模擬溶接線方向と直交方向での距離を、「隣り合う山部の頂点と谷部の底点との溶接線方向と直交方向での距離A」とする。
【0036】
溶接金属3を挟む両側の止端部の内、少なくとも一方の止端部が、溶接金属を平面視したとき、山部と谷部との距離が3.0mm以下であり、うねりの数が2~30個/15mmを満たせばよい。
【0037】
溶接金属3を挟む両側の止端部の内、少なくとも、止端部の疲労亀裂の発生がより懸念される側の鋼母材上にある止端部が、山部と谷部との距離が3.0mm以下であり、うねりの数が2~30個/15mmを満たすことが好ましい。
【0038】
止端部の疲労亀裂の発生が懸念される側は、まず部材の構造的に応力が集中し易い側があれば、そちら側の止端部から疲労亀裂が発生し易い。
継手部のみの特徴としては、止端部の疲労亀裂は、例えば、止端部の形状が急峻である場合、止端部近傍に溶接欠陥(例えば、アンダカット等)がある場合、止端部近傍にスパッタの付着がある場合等に発生しやすい。
【0039】
また、溶接継手の種類ごとの疲労亀裂が発生し易い側の止端部の特徴を挙げると下記の通りである。
重ね隅肉溶接の場合、下側鋼母材1の上にある「溶接金属3の止端部のうねり」が、疲労強度に影響する場合が多い。そのため、本開示では、下側鋼母材1の上にある「溶接金属3の止端部」のうねりの数、および山部と谷部との距離が上記範囲内であればよい。
T字継手の場合、疲労亀裂の発生が懸念される側の鋼母材の上にある「溶接金属3の止端部」のうねりの数、および山部と谷部との距離が上記範囲内であればよい。具体的には、例えば、主板側(応力伝達側)の鋼母材の上にある「溶接金属3の止端部」、溶接脚長が短い側の鋼母材の上にある「溶接金属3の止端部」、のど厚が小さい側の鋼母材の上にある「溶接金属3の止端部」、鋼母材の板厚が異なる場合は板厚が薄い側の鋼母材の上にある「溶接金属3の止端部」から疲労亀裂が発生し易いため、これらの側のうねりの数、および山部と谷部との距離が上記範囲内であればよい。
突合せ溶接の場合、例えば、鋼母材の板厚が異なる場合は板厚が薄い側の鋼母材の上にある「溶接金属3の止端部」から疲労亀裂が発生し易いため、これらの側のうねりの数、および山部と谷部との距離が上記範囲内であればよい。
【0040】
[溶接金属3の化学組成]
溶接金属3の化学組成は、特に制限はないが、質量%で
C :0.01~0.50%
Si:0.005~2.000%
Mn:0.01~3.00%
P :0.100%以下
S :0.0500%以下
を含む鋼で構成された化学組成が例示できる。
具体的には、例えば、溶接金属3は、C :0.01~0.50%、Si:0.005~2.000%、Mn:0.01~3.00%、P :0.100%以下、およびS :0.0500%以下と、必要に応じて任意元素と、を含み、残部がFeおよび不純物からなる化学組成が例示できる。
【0041】
なお、溶接金属3の化学組成は、溶接金属3の表面および溶融境界から、各々、500μm以上離れた溶接金属3の内部の化学組成である。
【0042】
-C:0.01~0.50%-
Cは、溶接金属3の強度を確保する元素であり、少ないと溶接金属3の強度が担保できなくなることがある。そのため、C量は、0.01%以上が好ましい。一方、Cが過度に含有すると水素脆化割れが生じることがある。そのため、C量は0.50%以下が好ましい。
【0043】
-Si:0.005~2.000%-
Siは、溶接金属3の強度調整、脱酸材として機能する元素である。加えて、そのため、Si量を極めて低下させた場合、精錬のコストアップを招く。Si量は、0.005%以上が好ましい。一方、Siを過度に含有すると溶接性が悪化し、目的とする溶接金属3の止端部形状が得られ難くなる。そのため、Si量は、2.000%以下が好ましい。
【0044】
-Mn:0.01~3.00%-
Mnは、溶接金属3の焼入れ性を増加させる元素である。そのため、Mn量は、0.01%以上が好ましい。Mn量が多いと靭性が低下する。そのため、Mn量は、3.00%以下が好ましい。
【0045】
-P:0.100%以下-
Pは、溶接金属3を強化する働きを有するが、溶接金属3の靱性を著しく劣化させる。そのため、P量は、0.100%以下が好ましい。一方、P量は0%でもよいが、鋼母材の原料などから混入するPを完全に除去することは経済的に不利である。そのため、P量は0.001%以上が好ましい。
【0046】
-S:0.0500%以下-
Sは、Pと同様に溶接金属3の靱性を劣化させる元素であり、多量に含まれると溶接金属3の凝固割れの原因となる。そのため、S量は、0.0500%以下が好ましい、一方、鋼母材の原料などから混入するSを完全に除去することは経済的に不利である。そのため、S量は、0.0001%以上が好ましい。
【0047】
溶接金属3の化学組成は、任意元素として、溶接金属3の疲労強度に影響を与えない範囲で、質量%で、
Ti:0~0.5%、
Cr:0~2.0%、
Mo:0~1.0%、
Ni:0~5.0%、
B :0~0.01%、
N :0~0.01%、
Al:0~1.0%
を1種以上を含んでもよい。
なお、溶接金属3が凝固する前、溶接金属3に含まれるAlは、酸化して、溶接スラグ浮上する場合がある。そのため、鋼母材中のAlが、凝固前の溶接金属3に入ったとしても、凝固後の溶接金属3に、残るAlは少なくなる。
【0048】
<鋼母材>
一対の鋼母材は、少なくとも一方が引張強度780MPa以上の鋼母材である。高引張強度を有する鋼母材は、特に軽量化及び衝突安全性の向上が強く要請される自動車用の溶接継手10の鋼母材として好適である。この観点から、一対の鋼母材は、双方が、引張強度780MPa以上の鋼母材であることがよい。
なお、引張強度は、JIS Z2241(2011)に準じて測定される。
【0049】
以下、鋼母材の化学組成について説明するが、各元素の含有量は、鋼母材の全質量に対する各元素の含有量を示す。
一対の鋼母材のうち少なくとも一方は、上述のように、溶接金属3の疲労強度向上の観点から、0.100~1.000質量%のAlを含有することが好ましい。
一対の鋼母材のうち少なくとも一方は、0.100%以上のAlを含有した一対の鋼母材を溶接すると、溶融した金属の粘度が大きくなり、例えばウィービング溶接、ウェーブパルス溶接等の溶接を行った際にのど厚の減少を伴うことなく、また、山部の応力集中が大きく低減される。それにより、溶接金属3の疲労強度が大幅に向上する。
一方、1.000%以下のAlを含有した一対の鋼母材を溶接すると、溶接金属3の靭性確保の点から好ましい。
Al量は、好ましくは0.100~0.500質量%であり、より好ましくは0.200~0.500質量%である。
なお、疲労強度向上の観点から、一対の鋼母材の双方が、0.100~1.000質量%のAlを含有することが好ましい。
【0050】
ここで、Alによって、溶融した金属の粘度を大きくし、「のど厚の減少」を抑えるには、溶接ワイヤにAlを含有させることも考えられる。しかし、溶接ワイヤに上記範囲でAlを含有させると、溶接中に、酸化消耗し易く、鋼母材に添加する場合よりも溶接金属に含有されるAl量が少なくなる。そのため、上記量のAlを鋼母材に含有させることが望ましい。
【0051】
一対の鋼母材の化学組成は、溶接金属3の「のど厚」の減少抑制、および引張強度780MPa以上の機械的特性を得る化学組成が好ましい。
一対の鋼母材の化学組成の一例としては、質量%で
C :0.002~0.400%
Si:0.002~2.000%
Mn:0.1~3.0%
P :0.1%以下
S :0.05%以下
Al:0.100~0.500%、
Ti:0~0.5%、
N:0~0.01%、
Cr:0~2.0%、
Mo:0~1.0%、
Ni:0~5.0%、
残部:Fe及び不純物からなる化学組成が挙げられる。
【0052】
一対の鋼母材の板厚は、0.4~4.0mmである。
一対の鋼母材の板厚が0.4mm未満では、安定した溶接が実施できず、疲労強度が低下する。
一対の鋼母材の板厚が4.0mm超えでは、溶接残留応力が疲労強度に対して支配的となり、溶接金属3の山部による疲労強度向上効果の影響が小さくなってしまう。
好ましい一対の鋼母材の板厚は、0.8~3.2mmである。
【0053】
一対の鋼母材の板厚は、溶接金属を平面視した場合における、溶接継手の止端部が有する任意の山部の頂点から母材側に向けて溶接線方向と直交方向に3mm離れた位置において測定される値である。板厚の測定は、板厚を厚み方向で挟み込む接触式変位計を用いて行う。
【0054】
<ビッカース硬さ>
鋼母材のビッカース硬さに対する、溶接金属のビッカース硬さの比が0.75以上0.95以下であることが好ましい。
【0055】
ビッカース硬さの比が前記範囲内であることは、鋼母材と比較して溶接金属の硬度が低いことを示す。つまり、ビッカース硬さの比が前記範囲内である溶接継手の製造において溶接する際に、鋼母材と比較して硬度が低い溶接ワイヤで溶接金属を形成している。硬度が低い溶接ワイヤは原価が低いため、製造コストを抑えつつ、溶接継手が得られやすくなる。そのため、前記ビッカース硬さの比が前記範囲内であり、かつ、溶接金属のうねりの数、および山部と谷部との距離を上記範囲とすることで、製造コストを抑えつつ、疲労強度に優れた溶接継手が得られやすくなる。
なお、一対の鋼母材のビッカース硬さがそれぞれ異なる場合、少なくとも一対の鋼母材の内、一方の鋼母材のビッカース硬さに対する、溶接金属のビッカース硬さの比が前記範囲内であることが好ましく、一対の鋼母材の内、両方の鋼母材のビッカース硬さに対する、溶接金属のビッカース硬さの比が前記範囲内であることがより好ましい。
【0056】
鋼母材のビッカース硬さに対する、溶接金属のビッカース硬さの比の測定は、下記の手順で算出する。
溶接金属のビッカース硬さの測定は、溶接継手のうち
図1に示すようにX軸とY軸とで形成される面において測定する。溶接金属表面(
図1に記載されている溶接金属3の実線部分)から0.2mm以上離れた位置で、かつ溶融境界(
図1に記載されている溶接金属3の点線部分)からも0.2mm以上離れた位置で5点以上ビッカース硬さを測定し、得られる測定値の算術平均値を溶接金属のビッカース硬さとする。
続いて、溶接継手の止端部が有する任意の山部の頂点から母材側に向けて溶接線方向と直交方向に5mm以上離れた位置において、鋼母材の厚さ方向に鋼母材を切断することで断面試料を採取する。鋼母材のビッカース硬さは断面試料のうち、切断面において測定する。鋼母材の鋼板表面から深さ0.1mm以上、かつ板厚の40%以下の範囲において、ビッカース硬さの測定を5点以上行う。得られる測定値の算術平均値を鋼母材のビッカース硬さとする。
溶接金属のビッカース硬さを鋼母材のビッカース硬さで除する(つまり、「溶接金属のビッカース硬さ」/「鋼母材のビッカース硬さ」)ことで、鋼母材のビッカース硬さに対する、溶接金属のビッカース硬さの比を算出する。
ここで、「ビッカース硬さ」は、JIS Z 2244(2009年)に準拠して測定する。測定条件は、圧子の押込み荷重100gf以上、圧子=対面角136°のビッカース四角錐ダイヤモンド圧子、押込み時間=10s以上とする。
【0057】
<溶接継手の製造方法>
本開示の溶接継手の製造方法の一例は、下記条件を満たすウィービングアーク溶接による溶接継手の製造方法が挙げられる。
(1)溶接速度:40~110cm/min
(2)ウィービング周波数:0.2~20Hz
(3)ウィービング振幅:0.6~20mm
(4)シールドガスの組成(体積%):CO2濃度20%以下又はO2濃度8%以下、残部:Ar
(5)溶接電流:150~250A
【0058】
まず、本開示の溶接継手の製造方法において、溶接ワイヤは、溶接金属3の止端部形状を満たすワイヤであれば、特に制限はない。
溶接ワイヤの化学組成の一例としては、質量%で
C :0.002~0.400%
Si:0.002~2.000%
Mn:0.1~3.0%
P :0.1%以下
S :0.05%以下
Al:0.1~1.0%、
Ti:0~0.5%、
N :0~0.01%、
Cr:0~2.0%、
Mo:0~1.0%、
Ni:0~5.0%、
Cu:0~1.0%、
残部:Fe及び不純物からなる化学組成が挙げられる。
【0059】
溶接速度を110cm/min以下とすることで、溶接金属3の止端部形状の乱れの発生が抑制され、目的とする止端部形状が得られやすくなり、溶接金属3の疲労強度が向上する。一方、溶接速度を40cm/min以上とすることで、溶接作業効率が向上する。
そのため、溶接速度は、40~110cm/minが好ましい。
【0060】
ウィービング周波数を0.2~20Hzとすることで、「うねりの数」が2~30個/15mmの範囲内となりやすい。
なお、「うねりの数」が2~30個/15mmの範囲内とするには、溶接速度を速める場合、ウィービング周波数を上げることが好ましい。一方、溶接速度を遅くする場合、ウィービング周波数を下げることが好ましい。
そのため、ウィービング周波数は、0.2~20Hzが好ましい。
【0061】
ウィービング振幅を0.6~20mmとすることで、「山部と谷部との距離」が3.0mm以下となりやすい。
そのため、ウィービング振幅は、0.6~20mmが好ましい。
ここで、「ウィービング振幅」について、
図8に基づいて説明する。溶接トーチをウィービングさせる時における、溶接トーチの動きMの振幅Waの2倍の値をいう。つまり、ウィービング振幅は、
図8中、Wbで示される。なお、
図8中、Dは溶接方向を示す。
【0062】
シールドガスの組成において、CO2濃度やO2濃度が低い場合には、スパッタ量が低下し、溶接金属3の表面の乱れが抑制され、疲労亀裂の起点が山部に限定されやすくなる。
そのため、シールドガスの組成(体積%)は、CO2濃度20%以下又はO2濃度8%以下、残部:Arとすることが好ましい。
【0063】
溶接電流を150A以上とすることで、溶接の乱れが抑制され、安定な溶接金属3の形状(溶接ビード形状)となる。一方、溶接電流を250A以下とすることで、溶け落ちなどの問題の発生が抑制されやすくなる。
そのため、150~250Aとすることが好ましい。
【0064】
<自動車部品>
本開示の自動車部品は、本開示の溶接継手を備える。
例えば、本開示の自動車部品は、
図1~
図2に示す溶接継手を備える。
具体的には、本開示の自動車部品は、車体の骨格部品、パネル部品、足回り部品が例示され、具体的には、高い強度を必要とするサスペンションアーム、サスペンションフレーム、シャシーフレーム等が好適に挙げられる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例により本開示をさらに詳細に説明するが、本開示はこれら実施例に限定されない。
【0066】
(実施例)
一対の鋼母材として、表1に示す、化学組成、板厚および引張強度を有する鋼板を用いて、表3及び表4に示す溶接条件で、重ね隅肉溶接を行った。
ただし、シールドガスの組成は、Ar+20%CO2とした。
また、溶接ワイヤは、JIS Z 3312(2009)のYGW16相当のワイヤ(表2参照)を用いた。
【0067】
溶接した試験体の溶接金属の止端部のうち、下側鋼板上にある溶接金属の止端部のみについて、1)うねりの数(山部と谷部とを合わせた数)、2)山部と谷部との距離(隣り合う山部の頂点と谷部の底点との距離)を既述の方法で調べた。始終端、各々、5mmずつをのぞき、溶接金属(溶接ビード)全長の中央付近の15mmを調べた。
【0068】
溶接した試験体における、鋼母材のビッカース硬さ及び溶接金属のビッカース硬さを既述の方法に従って測定し、鋼母材のビッカース硬さに対する、溶接金属のビッカース硬さの比を算出した。
【0069】
溶接した試験体から、平面曲げ疲労試験片を作製し,応力比R=-1の両振り載荷で平面曲げ疲労試験を実施した。
疲労限は1,000万回未破断となった最大の応力振幅とした。
曲げ応力は、試験片の最小断面(幅20mm、板厚2.9mm)における応力集中を考慮しない表面における最大曲げ応力を基準とした。
【0070】
得られた結果を表3及び表4に示す。
なお、表3及び表4中の「疲労限向上率」は以下の通り算出した。
ウィービング有りの条件で溶接した試験体の疲労限を、ウィービング無しとした以外は同溶接条件で溶接した試験体の疲労限で除した値を疲労限向上率と定義した。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
上記結果から、試験例2~3、5、7、10~12、16は、試験例1、4、6、8、9、13~15に比べ、疲労限200MPa以上という疲労強度が得られることがわかる。
特に、Al量を適正な範囲で含む鋼母材を適用した試験例2~3、7、10~12は、優れた疲労強度が得られることがわかる。
【0076】
以下、主要な符号の説明について記載する。
1、2 鋼母材
3 溶接金属
【0077】
2019年10月4日に出願された日本国特許出願第2019-184025号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び、技術規格は、個々の文献、特許出願、及び、技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。