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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】金型
(51)【国際特許分類】
   B21D 24/00 20060101AFI20231018BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20231018BHJP
   B21D 37/16 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
B21D24/00 M
B21D22/20 H
B21D37/16
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022510414
(86)(22)【出願日】2021-03-19
(86)【国際出願番号】 JP2021011336
(87)【国際公開番号】W WO2021193415
(87)【国際公開日】2021-09-30
【審査請求日】2022-07-05
(31)【優先権主張番号】P 2020055216
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】野村 成彦
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 利哉
(72)【発明者】
【氏名】上西 健太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 亨
【審査官】永井 友子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/161192(WO,A1)
【文献】特開2013-099774(JP,A)
【文献】米国特許第08047037(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21D 24/00
B21D 22/20
B21D 37/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を貯留する貯留部が形成された金型ベースと、
前記金型ベースに取り付けられる金型本体であって、前記金型ベースの前記貯留部側に配置される取付面と、前記取付面と反対側に配置される成形面と、前記取付面から前記成形面に向かって前記金型本体を貫通する複数の流路と、を含む前記金型本体と、
前記金型ベースと前記金型本体との間に配置され、前記複数の流路に対応する複数の貫通孔を含む開閉部材と、
前記貯留部に前記冷媒を供給する冷媒圧送手段と、を備え、
前記開閉部材は、前記貫通孔の各々が対応する前記流路と前記貯留部とを連通させるように前記金型ベース及び前記金型本体に対して可動に構成される、金型。
【請求項2】
請求項1に記載の金型であって、
前記開閉部材は、板状であり、前記金型ベース及び前記金型本体に対してスライドする、金型。
【請求項3】
請求項2に記載の金型であって、
前記複数の貫通孔は、第1貫通孔と、第2貫通孔と、を含み、
前記開閉部材のスライド方向及び/又は前記スライド方向に直交する方向において、前記第2貫通孔の幅は、前記第1貫通孔の幅よりも大きい、金型。
【請求項4】
請求項2又は請求項3に記載の金型であって、
前記開閉部材は、前記金型ベース及び前記金型本体に対して2軸方向にスライドする、金型。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の金型であって、
前記金型ベースは、前記貯留部を構成する複数の溝を表面に有し、
前記複数の溝は、互いに連通する、金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、金型に関し、より詳細には、熱間プレスに用いられる金型に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体部品等の高強度部品を成形する方法として、熱間プレスが知られている。熱間プレスでは、加熱されたブランクをプレス機に取り付けられた金型でプレス加工した後、金型内で成形品を冷却し、焼入れする。成形品は、例えば、金型の成形面から吐出される冷媒によって冷却される。
【0003】
特許文献1は、冷媒吐出機能を有する金型を開示する。この金型には、その内部を通り、成形面に開口する複数の冷媒供給管が配置されている。冷媒供給管の各々には、開閉弁、流量調整弁、圧力調整弁が設けられる。これらの弁を制御することにより、冷媒供給管からの冷媒の吐出量、吐出流速、吐出圧力、吐出時間、吐出タイミング等といったパラメータが制御される。
【0004】
特許文献1の金型では、冷媒の吐出を制御する弁が、冷媒供給管の各々に設けられている。そのため、成形品を冷却する際、複数の弁を同時に制御する必要があり、冷媒の吐出制御が複雑化するという問題がある。
【0005】
これに対し、特許文献2に開示される金型は、成形面を含む金型本体と、金型本体の内部に収容される冷媒収容容器とを備える。金型本体には、成形面に開口する複数の金型供給孔が設けられている。冷媒収容容器の壁部には、複数の容器供給孔が設けられている。この冷媒収容容器が金型本体内で昇降又は回転することで、容器供給孔の各々と、金型供給孔とが連通又は非連通状態となる。容器供給孔と金型供給孔とが連通すると、冷媒収容容器から冷媒が容器供給孔及び金型供給孔を通り、成形面上の成形品に供給される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-198666号公報
【文献】特開2007-136535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2の金型では、冷媒収容容器の昇降又は回転によって容器供給孔と金型供給孔とを連通させることにより、複数の弁による複雑な吐出制御を行うことなく、成形品に冷媒を供給することができる。しかしながら、特許文献2では、金型本体の内部に冷媒収容容器が配置されているため、金型本体の内部に空洞を形成する必要がある。よって、金型の強度が低下してしまうという問題がある。
【0008】
本開示は、強度を確保し、かつ、冷媒を成形品に容易に供給することができる金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に係る金型は、金型ベースと、金型本体と、開閉部材と、を備える。金型ベースには、冷媒を貯留する貯留部が形成される。金型本体は、金型ベースに取り付けられる。金型本体は、取付面と、成形面と、複数の流路と、を含む。取付面は、金型ベースの貯留部側に配置される。成形面は、取付面と反対側に配置される。複数の流路は、取付面から成形面に向かって金型本体を貫通する。開閉部材は、金型ベースと金型本体との間に配置される。開閉部材は、複数の流路に対応する複数の貫通孔を含む。開閉部材は、貫通孔の各々が対応する流路と貯留部とを連通させるように金型ベース及び金型本体に対して可動に構成される。
【発明の効果】
【0010】
本開示による金型によれば、強度を確保し、かつ、冷媒を成形品に容易に供給することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、プレス機を示す模式図である。
図2図2は、第1実施形態に係る金型の分解図である。
図3図3は、非連通状態における金型の長手方向に垂直な面での断面図である。
図4図4は、非連通状態における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図5図5は、連通状態における金型の長手方向に垂直な面での断面図である。
図6図6は、連通状態における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図7図7は、スライド方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図8図8は、スライド方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図9図9は、スライド方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図10図10は、スライド方向に直交する方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図11図11は、スライド方向に直交する方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図12図12は、スライド方向及びスライド方向に直交する方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図13図13は、スライド方向及びスライド方向に直交する方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図14図14は、スライド方向及びスライド方向に直交する方向の幅が互いに異なる貫通孔と流路との重なりを説明するための模式図である。
図15図15は、第2実施形態に係る金型の長手方向に垂直な面での断面図である。
図16図16は、第2実施形態における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図17図17は、第2実施形態における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図18図18は、第2実施形態における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図19図19は、第2実施形態における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図20図20は、第2実施形態の別例における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図21図21は、第2実施形態の別例における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図22図22は、第2実施形態の別例における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図23図23は、第2実施形態の別例における開閉部材の貫通孔と金型本体の流路との重なりを説明するための模式図である。
図24図24は、開閉部材の別例を示す模式図である。
図25図25は、上記実施形態の別例における金型の長手方向に垂直な面での断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係る金型は、金型ベースと、金型本体と、開閉部材と、を備える。金型ベースには、冷媒を貯留する貯留部が形成される。金型本体は、金型ベースに取り付けられる。金型本体は、取付面と、成形面と、複数の流路と、を含む。取付面は、金型ベースの貯留部側に配置される。成形面は、取付面と反対側に配置される。複数の流路は、取付面から成形面に向かって金型本体を貫通する。開閉部材は、金型ベースと金型本体との間に配置される。開閉部材は、複数の流路に対応する複数の貫通孔を含む。開閉部材は、貫通孔の各々が対応する流路と貯留部とを連通させるように金型ベース及び金型本体に対して可動に構成される(第1の構成)。
【0013】
第1の構成において、冷媒を貯留する貯留部は、金型ベースに形成される。したがって、成形面を含む金型本体には、冷媒を貯留するための大きな空洞を設ける必要がないため、金型の強度を確保することができる。また、第1の構成において金型ベースと金型本体との間には、開閉部材が配置される。開閉部材には、金型本体に設けられた複数の流路に対応して、複数の貫通孔が形成されている。金型本体の流路と金型ベースの貯留部とを連通させるには、この開閉部材を移動させるだけでよい。すなわち、開閉部材を移動させると、開閉部材に設けられた複数の貫通孔により、金型本体の各流路と金型ベースの貯留部とが連通し、貯留部内の冷媒が金型本体の流路を通って成形面から吐出される。よって、第1の構成によれば、複数の弁による複雑な制御をすることなく、冷媒を成形品に容易に供給することができる。
【0014】
第1の構成において、開閉部材は、板状であり、金型ベース及び金型本体に対してスライドするのが好ましい(第2の構成)。
【0015】
第2の構成によれば、板状の開閉部材をスライドさせることで、全ての貫通孔を移動させ、金型本体の複数の流路と金型ベースの貯留部とを連通させることができる。また、1枚の開閉部材に複数の貫通孔を効率よく設けることができるため、複数の流路からの冷媒の吐出制御を効率よく行うことができる。
【0016】
第2の構成において、複数の貫通孔は、第1貫通孔と、第2貫通孔と、を含んでもよい。開閉部材のスライド方向及び/又はスライド方向に直交する方向において、第2貫通孔の幅は、第1貫通孔の幅よりも大きい(第3の構成)。
【0017】
金型本体の流路と金型ベースの貯留部とが連通する時間、すなわち、貯留部からの冷媒が流路を介して成形品に供給される時間は、主に、開閉部材のスライド方向における貫通孔の幅に応じて定まる。成形品に供給される冷媒の単位時間の流量は、主に、開閉部材のスライド方向に直交する方向における貫通孔の幅に応じて定まる。第3の構成によれば、第1貫通孔と第2貫通孔とでスライド方向及び/又はスライド方向に直交する方向における幅が異なる。そのため、第1貫通孔に対応する流路と、第2貫通孔に対応する流路とで、冷媒の供給時間及び/又は供給される冷媒の単位時間当たりの流量を変えることができる。よって、成形品の部位ごとに、冷却時間、冷却速度等を適宜設定することができる。
【0018】
第2又は第3の構成において、開閉部材は、金型ベース及び金型本体に対して2軸方向にスライドしてもよい(第4の構成)。
【0019】
板状の開閉部材が単一の軸方向にのみスライドする場合、金型本体の流路と金型ベースの貯留部との連通状態及び非連通状態を切り替えるとき、開閉部材が単純に往復移動することになる。例えば、開閉部材を上記軸方向の一方側にスライドさせると、開閉部材の貫通孔が金型本体の流路と重なり、流路と貯留部とが連通状態となる。この開閉部材を更にスライドさせると、開閉部材の貫通孔が金型本体の流路を通り過ぎて当該流路から外れ、流路と貯留部とが非連通状態になる。その後、開閉部材は同じ経路をたどって元の位置に戻されるため、開閉部材が元の位置に戻るまでに流路と貯留部とが再び連通状態になる。これに対して、第4の構成によれば、一の軸方向にスライドし、連通状態及び非連通状態を経て終着点に到達した開閉部材を他の軸方向にスライドさせることができるため、開閉部材を往路と異なる経路で元の位置に戻すことができる。よって、一旦非連通状態となった流路及び貯留部が再び連通状態となるのを防止することができる。すなわち、成形品への冷媒の供給を停止したまま、開閉部材を初期位置に戻すことができる。
【0020】
第1から第4のいずれかの構成において、金型ベースは、複数の溝を表面に有していてもよい。当該複数の溝は、互いに連通し、貯留部を構成する(第5の構成)。
【0021】
第5の構成によれば、金型ベースの表面に設けられた複数の溝によって貯留部が構成される。そのため、例えば、貯留部が単一の凹部である場合等と比較して、貯留部における冷媒の貯留量を少なくすることができる。よって、特に貯留部に冷媒が充満していない状態で貯留部への冷媒の供給を開始する場合に、金型ベースの貯留部への冷媒の供給の開始から、冷媒が貯留部に貯留されて金型本体の各流路に流入可能となるまでの時間を短縮することができる。また、複数の溝が互いに連通して貯留部を構成することにより、金型ベースに接続される配管系統を集約することができ、金型ベースに接続される配管の径を拡大することができる。よって、貯留部に供給される冷媒の圧力損失を抑制することができる。更に、金型本体の流路と貯留部との連通部分における冷媒の流量の低下を補うことができ、流路を通って成形面から吐出される冷媒の流速を安定させることができる。
【0022】
以下、本開示の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。各図において同一又は相当の構成については同一符号を付し、同じ説明を繰り返さない。
【0023】
<第1実施形態>
[プレス機100の構成]
図1は、プレス機100を示す模式図である。このプレス機100には、金型10,20が取り付けられる。図1は、プレス機100を正面から見た図である。本実施形態では、図1の紙面に垂直な方向をプレス機100の奥行方向という。
【0024】
プレス機100は、本体フレーム30と、スライド40と、ボルスタ50と、ベースプレート60と、を含む。
【0025】
スライド40は、本体フレーム30に取り付けられる。スライド40は、本体フレーム30内に収容された油圧シリンダや、フライホイール等を作動させることで、本体フレーム30に対して昇降する。スライド40は、金型20を保持する。
【0026】
ボルスタ50は、スライド40の下方に配置される。ボルスタ50上には、ベースプレート60が固定される。ベースプレート60は、凹状である。このベースプレート60上に金型10が取り付けられる。ベースプレート60は、金型10の上下方向の位置を調整する。金型10は、金型20と対向する。
【0027】
金型10は、プレス機100の奥行方向に延びている。以下、金型10に関しては、プレス機100の奥行方向を長手方向といい、長手方向及び上下方向に垂直な方向を短手方向という。図2は、金型10の分解図である。金型10は、金型本体11と、金型ベース12と、開閉部材13と、を備える。
【0028】
金型本体11は、成形面111と、取付面112と、を含んでいる。成形面111は、金型本体11の上面である。取付面112は、成形面111の反対側に配置される。すなわち、取付面112は、金型本体11の下面である。取付面112は、概ね平坦である。
【0029】
本実施形態において、金型本体11は、長手方向から見て、概略ハット形状を有する。すなわち、金型本体11は、パンチ部11Aと、フランジ部11Bとを有する。
【0030】
パンチ部11Aは、金型本体11の短手方向の中央に配置される。パンチ部11Aは、頂面11Aaと、側面11Abとを含む。側面11Abは、頂面11Aaの両側に配置される。側面11Abの各々は、頂面11Aaから下方に向かうにつれて短手方向の外側に向かうように、上下方向に対して傾斜する。金型20(図1)の下面には、このパンチ部11Aに対応する凹部が形成されている。
【0031】
フランジ部11Bは、パンチ部11Aから短手方向の外側に突出する。フランジ部11Bの上面11Baは、パンチ部11Aの側面11Abの下端に接続されている。パンチ部11Aの頂面11Aa及び側面11Ab、並びにフランジ部11Bの上面11Baが金型本体11の成形面111を構成する。
【0032】
図3は、金型10の横断面(長手方向に垂直な面での断面図)である。図3を参照して、金型本体11は、更に、複数の流路113を含んでいる。本実施形態の例では、複数の流路113は、金型本体11において、長手方向に等間隔に配列される。また、流路113は、金型本体11の短手方向にも等間隔に配列されている。ただし、複数の流路113は、金型本体11の長手方向又は短手方向において等間隔に配列されていなくてもよい。流路113の各々は、取付面112から成形面111に向かって金型本体11を貫通する。流路113は、金型本体11内を上下方向に延びる。流路113は、短手方向に延びる分岐流路1131を含んでいてもよい。流路113の下端は、取付面112に開口する。流路113の上端1132及び分岐流路1131の先端1133は、成形面111に開口する。
【0033】
より具体的には、流路113の上端1132は、パンチ部11Aの頂面11Aa、及びフランジ部11Bの上面11Baに開口する。分岐流路1131の先端1133は、パンチ部11Aの側面11Abに開口する。流路113の断面形状は、例えば、円形である。ただし、流路113は、円形以外の断面形状を有していてもよい。流路113の各々の断面積は、異なっていてもよいし、同じであってもよい。例えば、パンチ部11A内の流路113の断面積は、フランジ部11B内の流路113の断面積よりも大きい。分岐流路1131は、パンチ部11A内の流路113のうち、両側の側面11Abに近い流路113に設けられている。分岐流路1131の各々の断面積も、異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0034】
金型本体11には、流路113とは別の流路114も複数形成されている。本実施形態の例では、複数の流路114は、金型本体11において、長手方向に等間隔に配列される。また、流路114は、金型本体11の短手方向にも等間隔に配列されている。ただし、複数の流路114は、金型本体11の長手方向又は短手方向において等間隔に配列されていなくてもよい。流路114の各々は、取付面112から成形面111に向かって金型本体11を貫通する。流路114は、金型本体11内を上下方向に延びる。流路114は、短手方向に延びる分岐流路1141を含んでいてもよい。流路114の下端は、取付面112に開口する。流路114の上端1142及び分岐流路1141の先端1143は、成形面111に開口する。
【0035】
より具体的には、流路114の上端1142は、パンチ部11Aの頂面11Aa、及びフランジ部11Bの上面11Baに開口する。分岐流路1141の先端1143は、パンチ部11Aの側面11Abに開口する。流路114の断面形状は、例えば、円形である。ただし、流路114は、円形以外の断面形状を有していてもよい。流路114の各々の断面積は、異なっていてもよいし、同じであってもよい。例えば、パンチ部11A内の流路114の断面積は、フランジ部11B内の流路114の断面積よりも大きい。分岐流路1141は、パンチ部11A内の流路114に設けられている。分岐流路1141の各々の断面積も、異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0036】
金型ベース12は、金型本体11の下方に配置される。金型ベース12には、金型本体11が取り付けられる。金型ベース12は、概略直方体状の外形を有する。金型ベース12の金型本体11側の表面121には、凹状の貯留部122が形成される。貯留部122には、冷媒が貯留される。表面121と反対側の表面には、使用後の冷媒を排出するため、凹状の排出部123が形成されている。金型ベース12には、排出部123から表面121に向かって延びる貫通路126も形成されている。
【0037】
図2を再度参照して、金型ベース12は、貯留部122を構成する複数の溝124,125を表面121に有する。複数の溝124は、それぞれ、上方から見て、すなわち金型ベース12の平面視で、長手方向に延びている。本実施形態の例では、溝124は、並行に配置されている。ただし、各溝124は、他の溝124に対して傾いていてもよい。図2では、貯留部122が7つの溝124を有する場合を示している。溝124は、例えば、短手方向において等間隔に配置される。ただし、溝124は、不等間隔に配置されていてもよい。各溝124の幅、深さ、長さは同じであるのが好ましい。溝124の一端同士は、短手方向に延びる溝125で接続される。各溝124の他端同士は、短手方向に延びる他の溝125で接続される。すなわち、複数の溝124,125は、互いに連通している。
【0038】
貯留部122は、金型ベース12の表面121のうち、長手方向の中央部に配置されている。当該中央部は、他の部分と比較して僅かに凹んでいる。
【0039】
開閉部材13は、金型ベース12の表面121において、凹状の中央部上に載置される。開閉部材13は、中実の板状である。開閉部材13は、例えば、平面視で概略長方形をなす。開閉部材13は、金型本体11と別体の部材であり、金型本体11の外部に配置される。より具体的には、開閉部材13は、金型ベース12と金型本体11との間に配置される。開閉部材13は、金型本体11の取付面112と、金型ベース12の表面(上面)121とによって挟まれる。開閉部材13の下面と金型ベース12の表面121との間、及び開閉部材13の上面と金型本体11の取付面112との間には、図示しないシール材が配置されることが好ましい。
【0040】
開閉部材13は、複数の貫通孔131と、複数の貫通孔132とを含む。複数の貫通孔131は、金型10の長手方向及び短手方向に並んでいる。複数の貫通孔132も、金型10の長手方向及び短手方向に並んでいる。本実施形態の例では、貫通孔132は、貫通孔131の長手方向列の間及び短手方向列の間に配列されている。貫通孔132は、貫通孔131と長手方向及び短手方向に位置をずらして配置されている。ただし、貫通孔131,132の配置は、これに限定されるものではなく、適宜決定することができる。
【0041】
複数の貫通孔131は、金型本体11の複数の流路113(図3)に対応して、開閉部材13に形成されている。例えば、貫通孔131は、金型10の長手方向において、流路113と同じ間隔で配列される。例えば、貫通孔131は、金型10の短手方向においても、流路113と同じ間隔で配列される。本実施形態において、貫通孔131の数は、流路113の数と同じである。ただし、貫通孔131の数は、流路113の数と異なっていてもよい。
【0042】
複数の貫通孔132は、金型本体11の複数の流路114(図3)に対応して、開閉部材13に形成されている。例えば、貫通孔132は、金型10の長手方向において、流路114と同じ間隔で配列される。例えば、貫通孔132は、金型10の短手方向においても、流路114と同じ間隔で配列される。本実施形態において、貫通孔132の数は、流路114の数と同じである。ただし、貫通孔132の数は、流路114の数と異なっていてもよい。貫通孔132の各々は、対応する流路114と、金型ベース12の排出部123とを連通させる。
【0043】
本実施形態の例において、貫通孔131,132の各々は、円形である。ただし、貫通孔131,132の各々は、円形でなくてもよい。貫通孔131,132の各々は、例えば、半円形、楕円形、半楕円形、多角形であってもよい。また、貫通孔131,132の各々の開口面積は、異なっていてもよいし、同じであってもよい。
【0044】
開閉部材13は、貫通孔131の各々が対応する流路113と貯留部122とを連通させるように、金型ベース12及び金型本体11に対して可動に構成される。開閉部材13には、駆動装置133が取り付けられる。駆動装置133は、例えば、油圧シリンダ、電動スライダ等のアクチュエータである。駆動装置133は、開閉部材13を短手方向にスライドさせる。
【0045】
[プレス機100の動作]
続いて、成形品を製造する際のプレス機100の動作について説明する。図1を参照して、まず、加熱されたブランク(図示略)を金型10上に載置する。次に、スライド40を下降させることで、金型20を下降させる。これにより、金型20及び金型10によってブランクがプレス加工される。金型20が下死点に到達した後、金型10の成形面から冷媒を吐出し、成形品(図示略)を金型10,20内で冷却する。
【0046】
図3図6を参照して、成形品を冷却するときの金型10の動作を説明する。図3及び図4は、冷却開始前の金型本体11及び金型ベース12と開閉部材13との位置関係を示す図である。図5及び図6は、冷却中における金型本体11及び金型ベース12と開閉部材13との位置関係を示す図である。図6では、開閉部材13の元の位置を2点鎖線で示している。図3及び図5は、金型10の横断面図である。図4及び図6は、開閉部材13を下方から見た図であり、開閉部材13の一部を拡大して示す。
【0047】
図3を参照して、成形品を冷却するために、金型10の外部に設けられた冷媒圧送手段を駆動し、貯留部122に冷媒を供給して貯留する。冷媒圧送手段としては、例えば、貯留部122と冷媒タンク(図示略)との間に配置された圧送ポンプや、シリンダ等を挙げることができる。冷媒圧送手段は、貯留部122に直結された水道であってもよい。また、金型ベース12の排出部123に接続された吸引ポンプ(図示略)等の冷媒吸引手段を駆動する。冷媒圧送手段及び冷媒吸引手段は、プレス加工が開始される前に駆動されていることが好ましい。これにより、成形品の冷却を開始する前に、貯留部122に冷媒が充満して加圧されるとともに、排出部123が負圧の状態となる。
【0048】
図3及び図4に示すように、成形品の冷却を開始する前は、開閉部材13の貫通孔131が金型本体11の流路113からずれている。開閉部材13は、各貫通孔131が流路113と重ならないように配置されている。そのため、開閉部材13の貫通孔131以外の部分が、流路113の下端を塞いでいる。すなわち、金型ベース12の貯留部122と、金型本体11の流路113とは連通していない。また、金型ベース12の排出部123及び金型本体11の流路114も連通していない。
【0049】
この状態で、駆動装置133を作動させ、開閉部材13をスライドさせる。すなわち、図5及び図6に示すように、開閉部材13の貫通孔131が金型本体11の流路113と重なるように、開閉部材13をスライド方向の一方側に移動させる。これにより、金型ベース12の貯留部122と、金型本体11の流路113とが連通する。このとき、開閉部材13の貫通孔132も金型本体11の流路114と重なる。これにより、金型ベース12の排出部123及び貫通路126は、金型本体11の流路114と連通する。
【0050】
図4及び図6に示す例では、各貫通孔131と、これに対応する流路113とのスライド方向における距離が一致している。そのため、複数の貫通孔131は、対応する流路113と同じタイミングで重なり始める。また、複数の貫通孔131の形状及び面積が互いに等しいため、各貫通孔131が流路113に重なる時間及び面積が等しくなる。
【0051】
流路113と貯留部122とが連通すると、貯留部122内の冷媒が貫通孔131を通り、各流路113に流れ込む。流路113に流れ込んだ冷媒は、パンチ部11Aの頂面11Aa及びフランジ部11Bの上面11Baに開口する流路113の上端1132から吐出される。パンチ部11A内の流路113に流れ込んだ冷媒は、分岐流路1131の先端1133からも吐出される。
【0052】
金型本体11の流路113及び分岐流路1131から吐出された冷媒は、成形面111上を流れる。成形面111上には、例えば、多数の微細な凸部が概ね等密度に設けられており、冷媒は、この凸部の間を流れる。これにより、冷媒が成形品に供給され、成形品が冷却される。
【0053】
成形品を冷却した冷媒は、金型本体11の流路114及び分岐流路1141に流れ込み、各流路114を下方に流れる。冷媒は、開閉部材13の各貫通孔132及び金型ベース12の貫通路126を通り、排出部123に到達した後、金型10の外部に排出される。
【0054】
成形品への冷媒の供給を停止する際には、開閉部材13をスライド方向の他方側に移動させる。これにより、開閉部材13は、貫通孔131が流路113に重なり、流路113と貯留部122とが連通している状態(図5及び図6)から、貫通孔131が流路113から外れ、流路113と貯留部122とが非連通である状態(図3及び図4)に戻される。なお、開閉部材13の移動中、貯留部122に冷媒を供給する冷媒圧送手段、及び排出部123から冷媒を吸引する冷媒吸引手段は駆動されたままである。冷媒圧送手段を駆動状態のままとし、貯留部122に冷媒を充満させた状態で待機させることで、流路113への冷媒の供給量、及び流路113から冷媒が吐出するタイミングを安定させることができる。
【0055】
[効果]
第1実施形態に係る金型10において、冷媒が溜められる貯留部122は、金型ベース12の表面121に形成される。そのため、金型本体11には、冷媒を溜めるための空洞を設ける必要がない。よって、金型10の強度を確保することができる。
【0056】
第1実施形態に係る金型10では、金型ベース12と金型本体11との間に、複数の貫通孔131が形成された開閉部材13が配置される。開閉部材13の貫通孔131は、長手方向及び短手方向において、例えば、流路113と同じ間隔で配置される。この開閉部材13を移動させるだけで、金型本体11の流路113と金型ベース12の貯留部122とを連通状態、非連通状態に切り替えることができる。連通状態では、貯留部122内の冷媒が流路113に流れ込み、成形面111から吐出される。よって、金型10によれば、複数の弁による複雑な制御をすることなく、冷媒を金型10から成形品に容易に供給することができる。
【0057】
第1実施形態では、開閉部材13は、板状であり、金型10の短手方向にスライドする。開閉部材13は、金型本体11の外部で金型本体11に対して水平方向にスライドする。開閉部材13がスライドすることにより、開閉部材13に形成された全ての貫通孔131が移動し、これらの貫通孔131に対応する複数の流路113と貯留部122とを連通させることができる。よって、複数の流路113から冷媒を均等に吐出することができる。
【0058】
第1実施形態では、開閉部材13において、複数の貫通孔131の各々は、円形である。しかしながら、第1実施形態において、複数の貫通孔131は、互いに形状が異なる貫通孔を含んでいてもよい。
【0059】
例えば、図7に示すように、複数の貫通孔131は、円形の貫通孔131Cと、スライド方向を長径とする楕円形の貫通孔131Dと、を含んでいてもよい。スライド方向において、貫通孔131Dの幅(開口長さ)Wdは、貫通孔131Cの幅(開口長さ)Wcよりも大きい。
【0060】
図7を参照して、初期状態では、貫通孔131C,131Dは共に、対応する流路113C,113Dとは重ならず非連通状態である。スライド方向において、貫通孔131C及び貫通孔131Dの流路113C,113Dから遠い方の端の位置は、互いに一致している。この状態から開閉部材13をスライド方向の一方側にスライドさせると、図8に示すように、楕円形の貫通孔131Dが先に流路113Dと重なり、連通状態となる。一方、この時点で円形の貫通孔131Cは、流路113Cと重なっていない。開閉部材13を更にスライドさせると、図9に示すように、貫通孔131Cも流路113Cと重なり、連通状態となる。
【0061】
貫通孔131C,131Dを非連通状態に戻すときには、開閉部材13をスライド方向の他方側にスライドさせる。開閉部材13をスライド方向の他方側にスライドさせると、まず、貫通孔131Cが流路113Cから外れて非連通状態となり(図8)、その後、貫通孔131Dが流路113Dから外れて非連通状態となる(図7)。
【0062】
このように、貫通孔131Dのスライド方向の幅Wdは、貫通孔131Cのスライド方向の幅Wcよりも大きいため、貫通孔131Dが流路113Dと重なる時間は、貫通孔131Cが流路113Cと重なる時間よりも長い。そのため、流路113Dは、流路113Cよりも貯留部122(図5)との連通時間が長い。よって、流路113Dから成形品への冷媒の供給時間を長くすることができる。
【0063】
また、例えば、図10に示すように、スライド方向に直交する方向において、貫通孔131Eの幅(開口長さ)Weは、貫通孔131Fの幅(開口長さ)Wfよりも大きくてもよい。例えば、貫通孔131Eは円形であり、貫通孔131Fは半円形であってもよい。
【0064】
図10を参照して、初期状態では、貫通孔131E,131Fは共に、対応する流路113E,113Fとは重ならず、非連通状態である。貫通孔131E及び貫通孔131Fのスライド方向の位置は、互いに一致している。この状態から開閉部材13をスライド方向の一方側にスライドさせると、図11に示すように、貫通孔131E,131Fは同時に流路113E,113Fと重なって連通状態となる。開閉部材13をスライド方向の他方側に移動させると、貫通孔131E,131Fは同時に流路113E,113Fから外れて非連通状態となる(図10)。ただし、貫通孔131Eと流路113Eとが重なる面積は、貫通孔131Fと流路113Fとが重なる面積よりも大きい。よって、流路113Eから成形品に供給される冷媒の単位時間当たりの流量を、流路113Fから成形品に供給される冷媒の単位時間当たりの流量よりも多くすることができる。
【0065】
また、例えば、図12に示すように、スライド方向において、貫通孔131Hの幅(開口長さ)Wh1は、貫通孔131Gの幅(開口長さ)Wg1よりも大きくてもよい。スライド方向に直交する方向において、貫通孔131Gの幅(開口長さ)Wg2は、貫通孔131Hの幅(開口長さ)Wh2よりも大きくてもよい。例えば、貫通孔131Gは円形であり、貫通孔131Hは半楕円形であってもよい。
【0066】
図12を参照して、初期状態では、貫通孔131G,131Hは共に、対応する流路113G,113Hとは重ならず、非連通状態である。スライド方向において、貫通孔131G及び貫通孔131Hの流路113G,113Hから遠い方の端の位置は、互いに一致している。この状態から開閉部材13をスライド方向の一方側にスライドさせると、図13に示すように、貫通孔131Hが先に流路113Hと重なる。一方、この時点で貫通孔131Gは、流路113Gと重なっていない。開閉部材13を更にスライドさせると、図14に示すように、貫通孔131Gも流路113Gと重なる。開閉部材13をスライド方向の他方側にスライドさせると、貫通孔131Gが先に流路113Gから外れて非連通状態となり(図13)、次に貫通孔131Hが流路113Hから外れて非連通状態となる(図12)。
【0067】
貫通孔131Hのスライド方向の幅Wh1は、貫通孔131Gのスライド方向の幅Wg1よりも大きいため、流路113Hは流路113Gよりも貯留部122(図5)との連通時間が長くなる。よって、流路113Hから成形品への冷媒の供給時間を長くすることができる。一方、貫通孔131Gと流路113Gとが重なる面積は、貫通孔131Hと流路113Hとが重なる面積よりも大きい。そのため、流路113Gから成形品に供給される冷媒の単位時間当たりの流量を、流路113Hから成形品に供給される冷媒の単位時間当たりの流量よりも多くすることができる。
【0068】
このように、開閉部材13の各貫通孔131において、スライド方向の幅を変更することで、貫通孔131ごとに成形品への冷媒の供給時間を調整することができる。各貫通孔131において、スライド方向に直交する方向の幅を変更することで、貫通孔131ごとに成形品に供給される冷媒の単位時間当たりの流量を調整することができる。そのため、成形品の部位ごとに冷却時間、冷却速度等を適宜設定することができる。
【0069】
例えば、成形品のうち、パンチ部11Aの側面11Abで成形される部分を他の部分よりも強く冷却したい場合、スライド方向及び/又はスライド方向に直交する方向において、側面11Abに開口する流路113に対応する貫通孔131の幅を、他の貫通孔131の幅よりも大きくすればよい。成形品のうち、フランジ部11Bで成形される部分を他の部分よりも弱く冷却したい場合、スライド方向及び/又はスライド方向に直交する方向において、フランジ部11Bの流路113に対応する貫通孔131の幅を、他の貫通孔131の幅よりも小さくすればよい。
【0070】
図7から図14では、説明の便宜上、スライド方向及び/又はスライド方向に直交する方向における幅が互いに異なる2種類の貫通孔131を示している。しかしながら、開閉部材13には、スライド方向及び/又はスライド方向に直交する方向における幅が互いに異なる貫通孔131を、3種類以上設けることもできる。複数種類の貫通孔131を開閉部材13に効率よく設けることにより、複数の流路113からの冷媒の吐出制御を効率よく行うことができる。
【0071】
図7から図14に示す例では、開閉部材13をスライド方向の一方側に移動させ、貫通孔131を流路113と重ねて連通状態にした後、開閉部材13をスライド方向の他方側に移動させて初期位置に戻し、貫通孔131を非連通状態としている。しかしながら、開閉部材13をスライド方向の一方側に移動させ、貫通孔131を流路113と重ねて連通状態にした後、そのまま流路113を通過させて貫通孔131を非連通状態としてもよい。次に貫通孔131を連通状態とするときには、開閉部材13をスライド方向の他方側に移動させればよい。すなわち、開閉部材13をスライド方向の他方側に移動させることにより、非連通状態の貫通孔131は、流路113と重なって連通状態となる。その後、開閉部材13をスライド方向の他方側に更に移動させ、初期位置まで戻すことにより、貫通孔131は、流路113を通過して非連通状態となる。開閉部材13を初期位置に戻すに際し、金型からの冷媒の吐出を抑えるために、冷媒供給装置(冷媒圧送手段)を止める、又は冷媒供給装置の冷媒供給部に設けた弁を閉鎖する等により、冷媒の供給を止めてもよい。
【0072】
第1実施形態において、金型ベース12の貯留部122は、表面121に設けられた複数の溝124,125によって構成されている。貯留部122内には、溝124,125によって囲まれた島状の部分、言い換えると、凹状の貯留部122の底面から突出して開閉部材13に接触する部分が1つ以上形成されている。そのため、例えば、貯留部122が島状の部分のない単一の凹部である場合等と比較して、貯留部122における冷媒の貯留量を少なくすることができる。よって、貯留部122に冷媒が充満していない状態で貯留部122への冷媒の供給を開始した場合、貯留部122への冷媒の供給開始から、金型本体11の各流路113に冷媒が流入可能となるまでの時間を短縮することができる。一方、貯留部122に既に冷媒が充満している状態で貯留部122への冷媒の供給を開始した場合には、冷媒圧の良好な応答性(貯留部122への冷媒の供給開始に反応して貯留部122内の冷媒が各流路113に流入する性能)を確保することができる。すなわち、溝124,125によって囲まれた島状の部分を有する貯留部122の場合、冷媒の供給流量が変わらなくても、島状の部分のない貯留部122と比較して冷媒圧の応答性を改善させることができる。これに加えて、冷媒の供給前において貯留部122内の冷媒の表面位置(水位)が下がっている場合でも、金型本体11の各流路113に冷媒が流入可能となるまでの時間変動を抑制することができる。
【0073】
また、複数の溝124,125が互いに連通して貯留部122を構成することにより、金型ベース12に接続される配管系統を集約することができ、金型ベース12に接続される配管の径を拡大することができる。よって、貯留部122に供給される冷媒の圧力損失を抑制することができる。更に、金型本体11の流路113と貯留部122との連通部分における冷媒の流量の低下を補うことができ、流路113を通って成形面111から吐出される冷媒の流速を安定させることができる。同様に、互いに連通する複数の溝によって排出部123を構成すれば、排出側の配管系統を集約して、金型ベース12に接続される配管の径を拡大することができ、排出部123から排出される冷媒の圧力損失を抑制することができる。また、金型本体11の流路114と排出部123との連通部分における冷媒の流量の低下を補うことができ、流路114を通って排出部123から排出される冷媒の流速を安定させることができる。
【0074】
第1実施形態において、金型ベース12の溝124,125は、互いに連通するとともに、開閉部材13の複数の貫通孔131に対応して設けられている。これにより、溝124,125から貫通孔131を通って金型本体11の流路113に流入する冷媒の圧力分布を均一にすることができる。
【0075】
第1実施形態では、冷媒の貯留部122が金型ベース12に形成されるため、成形品の形状に依存する金型本体11に空洞を加工する必要はなく、空洞の形状に合わせた冷媒の収納容器を準備する必要もない。よって、金型本体11の製造が容易となる。また、冷媒の貯留部122を金型ベース12に設けることにより、複数種類の金型本体11で金型ベース12を共用することも可能である。
【0076】
例えば、金型本体11の短手方向における流路113のピッチを金型ベース12の溝124のピッチの整数倍に設定すれば、どの金型本体11を金型ベース12に取り付けても、各流路113が溝124に対向する。そのため、複数種類の金型本体11で1つの金型ベース12を共用することができる。
【0077】
第1実施形態では、金型本体11と金型ベース12との間に配置された開閉部材13により、冷媒の吐出制御を行っている。開閉部材13は、金型本体11及び金型ベース12と別体であるため、適宜交換することが可能である。すなわち、金型10の開閉部材13を、貫通孔131の配置が異なる別の開閉部材13に交換することも可能である。これにより、金型本体11の流路113を選択的に使用することができる。
【0078】
第1実施形態では、金型10が1枚の開閉部材13を備える例について説明したが、開閉部材13の数は特に限定されるものではない。金型10は、必要に応じて複数枚の開閉部材13を備えることもできる。例えば、金型10において、複数枚の開閉部材13が金型ベース12の表面121上に並列に載置されていてもよい。これらの開閉部材13は、例えば、金型ベース12の表面121上を同方向にスライドする。
【0079】
<第2実施形態>
図15は、第2実施形態に係る金型10Aの長手方向に垂直な面での断面図(横断面図)である。第2実施形態に係る金型10Aは、開閉部材の構成において、第1実施形態に係る金型10と異なる。なお、図15では、冷媒供給側の流路113のみを示し、冷媒排出側の流路114を省略している。
【0080】
図15に示すように、金型10Aは、複数の開閉部材13A,13Bを含む。開閉部材13A,13Bの各々は、中実の板状をなす。開閉部材13A,13Bは、金型本体11と別体の部材であり、金型本体11の外部に配置される。より具体的には、開閉部材13A,13Bは、金型ベース12と金型本体11との間に配置される。開閉部材13Aは、開閉部材13B上に載置される。開閉部材13A,13Bには、それぞれ駆動装置133A,133Bが取り付けられる。開閉部材13A,13Bは各々、独立して金型10Aの短手方向にスライドする。開閉部材13Aは、複数の貫通孔131aを含む。開閉部材13Bは、複数の貫通孔131bを含む。図16図19を参照して、この開閉部材13A,13Bの動作について説明する。
【0081】
図16に示すように、成形品を冷却する前は、開閉部材13Bの貫通孔131bは、流路113と重なっている。一方、開閉部材13Aの貫通孔131aは流路113と重なっていないため、開閉部材13Aによって流路113が塞がれた状態になっている。この状態から、駆動装置133Aを駆動して開閉部材13Aをスライド方向の一方側にスライドさせると、図17に示すように、貫通孔131aが流路113と重なる。よって、流路113と貯留部122(図15)とが連通状態となり、貯留部122内の冷媒が流路113の上端から吐出される。開閉部材13Aを更にスライドさせると、図18に示すように、貫通孔131aが流路113を通り過ぎ、流路113が開閉部材13Aによって塞がれる。これにより、成形品への冷媒の供給が終了する。
【0082】
開閉部材13Aを初期位置に戻し、新たなブランクのプレス加工の準備に入る際には、開閉部材13Aを停止したまま、駆動装置133Bを駆動して開閉部材13Bをスライド方向の他方側へスライドさせる。これにより、図19に示すように、開閉部材13Bの貫通孔131bは、流路113と重ならなくなる。その後、開閉部材13Aを他方側へスライドさせ、初期位置に戻す。この際、開閉部材13Aは同じ経路をたどって元の位置に戻るため、開閉部材13Aの貫通孔131aは流路113と重なる。しかしながら、開閉部材13Bによって流路113が塞がれているため、流路113と貯留部122(図15)とは非連通状態のままである。開閉部材13Aが元の位置に戻った後、開閉部材13Bが元の位置に戻される。このときは、開閉部材13Aによって流路113が塞がれているため、流路113と貯留部122とはやはり非連通状態のままである。
【0083】
このように、2枚の開閉部材13A,13Bを用いることで、成形品への冷媒の供給の終了後、流路113と貯留部122とを非連通状態に維持したまま、開閉部材13A,13Bを初期位置に戻すことができる。すなわち、冷媒圧送手段を停止する等の処置をとらなくても、冷媒を流路113から吐出させることなく、開閉部材13A,13Bを初期位置に戻すことができる。よって、例えば、流路113からの冷媒の吐出を開始させるタイミングが複数の貫通孔131aで異なる場合であっても、冷媒の吐出を停止させるタイミングをこれらの貫通孔131aで一致させることができる。つまり、2枚の開閉部材13A,13Bを用いることで、冷媒の吐出を開始させるタイミングと、冷媒の吐出を停止させるタイミングとを各々独立して制御することができる。
【0084】
開閉部材13は、2軸方向にスライド可能とすることもできる。例えば、図20図23に示すように、開閉部材13は、第1のスライド方向と、第1のスライド方向とは異なる第2のスライド方向とにスライドするよう構成されていてもよい。ここでは、第2のスライド方向が、第1のスライド方向と直交する場合について説明する。この場合、成形品を冷却するに際し、開閉部材13を第1のスライド方向の一方側に移動させ(図20)、貫通孔131を流路113と重ならせる(図21)。開閉部材13を更にスライドさせると、貫通孔131が流路113を通り過ぎ、流路113が開閉部材13によって塞がれる(図22)。これにより、成形品への冷媒の供給が終了する。
【0085】
冷媒の供給終了後、開閉部材13を初期位置に戻すときの開閉部材13の移動経路は、冷媒の供給を行うときの開閉部材13の移動経路(図21及び図22)と異なる。開閉部材13を初期位置に戻す際には、開閉部材13を第2のスライド方向の一方側に移動させた後(図23)、第1のスライド方向の他方側に移動させる。このとき、開閉部材13の貫通孔131は、流路113に重ならない。最後に、開閉部材13を第2のスライド方向の他方側に移動させることにより、開閉部材13が図20の位置に戻される。
【0086】
このように、1枚の開閉部材13を2軸方向にスライド可能とした場合も、成形品への冷媒の供給の終了後、流路113と貯留部122とを非連通状態に維持したまま、開閉部材13を初期位置に戻すことができる。すなわち、冷媒圧送手段を停止する等の処置をとらなくても、冷媒を流路113から吐出させることなく、開閉部材13を初期位置に戻すことができる。よって、例えば、流路113からの冷媒の吐出を開始させるタイミングが複数の貫通孔131で異なる場合であっても、冷媒の吐出を停止させるタイミングをこれらの貫通孔131で一致させることができる。つまり、開閉部材13を2軸方向にスライドさせることで、冷媒の吐出を開始させるタイミングと、冷媒の吐出を停止させるタイミングとを各々独立して制御することができる。
【0087】
以上、本開示に係る実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0088】
上記第1実施形態では、開閉部材13は板状である。しかしながら、開閉部材13は、板状でなくてもよい。例えば、図24に示すように、開閉部材13Cは、複数の貫通孔134に加えて、回転軸135と、回転軸135と一体で回転する円柱部材136と、を含んでいてもよい。回転軸135の両端部は、支持部材137に回転可能に取り付けられる。貫通孔134は、円柱部材136及び回転軸135を上下方向に貫通する。
【0089】
円柱部材136及び回転軸135は、金型ベース12Aと金型本体11Cとの間において長手方向に延びる。円柱部材136の外周面は、金型本体11Cの取付面11C1に形成された凹部、及び金型ベース12Aの表面12A1に形成された凹部と接する。取付面11C1の凹部には、流路11C2が開口する。金型ベース12Aの表面12A1の凹部には、貯留部12A2から上方に延びる供給管12A3が開口する。
【0090】
開閉部材13Cの貫通孔134が上下方向に延びているとき、貫通孔134の上端は金型本体11Cの流路11C2と重なり、貫通孔134の下端は金型ベース12Aの貯留部12A2から延びる供給管12A3と重なる。したがって、流路11C2と貯留部12A2とが連通状態となる。この状態から、駆動装置(図示略)により、回転軸135及び円柱部材136を回転させると、貫通孔134が流路11C2及び供給管12A3からずれて流路11C2と貯留部12A2とが非連通状態となる。よって、このような構成であっても、流路11C2と貯留部12A2とを連通状態又は非連通状態に切り替えることができる。
【0091】
上記各実施形態では、板状の開閉部材13を1軸又は2軸方向にスライドすることで、金型本体11の流路113と金型ベース12の貯留部122とを連通させる。しかしながら、板状の開閉部材13を、上下方向を中心軸に回転させることで、流路113と貯留部122とを連通させてもよい。
【0092】
上記各実施形態では、金型ベース12の長手方向の中央部に開閉部材13を載置し、金型ベース12の長手方向の両端部のみで金型本体11を支持している。しかしながら、金型ベース12の長手方向の両端部と、その中間部とで金型本体11を支持することもできる。すなわち、金型ベース12の長手方向の両端部の間に、金型本体11を支持するための中間支持部を1つ以上設けることができる。金型ベース12に中間支持部を設ける場合、例えば、中間支持部の位置で開閉部材13を複数に分割することができる。あるいは、開閉部材13のうち、中間支持部に対応する部分に開口部を設けることもできる。開閉部材13のスライドを許容するため、スライド方向における開口部の長さは、中間支持部の長さよりも十分に大きい。
【0093】
上記各実施形態では、貯留部122は、開閉部材13のスライド方向に直交する方向に延びる複数の溝124を含んでいる。しかしながら、溝124は、必ずしもスライド方向に直交する方向に延びていなくてもよい。溝124は、スライド方向に延びていてもよいし、スライド方向に対して傾斜していてもよい。
【0094】
上記各実施形態では、互いに連通する溝124,125によって貯留部122が構成されている。しかしながら、貯留部122は、溝124,125によって構成されていなくてもよい。例えば、貯留部122は、単なる凹状の空間であってもよい。
【0095】
上記各実施形態では、金型本体11の流路113を冷媒の供給流路、流路114を冷媒の排出流路として使用する。しかしながら、これとは逆に、金型本体11の流路114を冷媒の供給流路、流路113を冷媒の排出流路として使用することもできる。この場合、金型ベース12の貯留部122が排出部、排出部123が貯留部として機能する。
【0096】
上記各実施形態では、金型ベース12において、金型本体11側の表面121に貯留部122が設けられ、その反対側の表面に排出部123が設けられている。しかしながら、金型本体11側の表面121に貯留部122及び排出部123の双方を形成することもできる。例えば、金型ベース12の表面121において、貯留部122を構成する溝(横溝)と、排出部123を構成する溝(横溝)とを交互に配列することができる。貯留部122の横溝同士、排出部123の横溝同士は、それぞれ、配列方向に延びる溝(縦溝)によって互いに連通していることが好ましい。貯留部122及び排出部123の各々において、縦溝は、一方向に並ぶ横溝の端部同士を接続するものであってもよいし、各横溝の中央部同士を接続するものであってもよい。例えば、排出部123において縦溝が各横溝の中央部同士を接続する場合、貯留部122の各横溝は、排出部123の縦溝によって分断されることになる。
【0097】
上記各実施形態では、金型本体11は、長手方向から見て、概略ハット形状である。しかしながら、金型本体11は、これに限定されない。金型本体11は、熱間プレスによって製造される種々の成形品に応じた形状であってもよい。
【0098】
上記各実施形態では、下型である金型10,10Aから冷媒を供給している。しかしながら、金型10,10Aだけでなく上型である金型20(図1)からも冷媒を供給してもよい。この場合、金型20も金型10,10Aと同様の構成であるのが好ましい。
【0099】
すなわち、図25に示すように、金型20も、金型本体21と金型ベース22との間に開閉部材13が配置される構成であることが好ましい。金型本体21には、金型10の金型本体11と同様(図3)、流路113,114及び分岐流路1131,1141が設けられている。金型ベース22には、金型10の金型本体11と同様(図3)、貯留部122及び排出部123が設けられている。開閉部材13は、貫通孔131の各々が対応する金型本体21の流路113と、金型ベース22の貯留部122とを連通させるように、金型本体21及び金型ベース22に対して可動に構成される。また、貫通孔132は、金型本体21の流路114と、金型ベース22の排出部123とを連通させる。貯留部122と流路113とが連通することにより、貯留部122内の冷媒が流路113を介し、金型本体21の成形面211から吐出される。成形面211上の冷媒は、流路114及び排出部123を通って金型20から排出される。
【符号の説明】
【0100】
10,10A,20:金型
11,11C,21:金型本体
111,211:成形面
112,11C1:取付面
113,113C~113H,11C2:流路
12,12A,22:金型ベース
121,12A1:表面
122,12A2:貯留部
124,125:溝
13,13A~13C:開閉部材
131,131C~131H,131a,131b,134:貫通孔
図1
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