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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】車両制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60W 30/08 20120101AFI20231018BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20231018BHJP
   B60W 50/14 20200101ALI20231018BHJP
【FI】
B60W30/08
G08G1/16 C
B60W50/14
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019219233
(22)【出願日】2019-12-04
(65)【公開番号】P2021088253
(43)【公開日】2021-06-10
【審査請求日】2022-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 雅史
(72)【発明者】
【氏名】久保寺 直樹
(72)【発明者】
【氏名】太場 裕昌
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 篤
(72)【発明者】
【氏名】諸冨 浩平
(72)【発明者】
【氏名】野田 雅之
【審査官】竹村 秀康
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-141697(JP,A)
【文献】特開2007-249539(JP,A)
【文献】特開平05-155291(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 10/00-10/30
B60W 30/00-60/00
G08G 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の周辺状況に関する情報である車両周辺情報を取得するセンサと、
所定の実行条件が成立するか否かを前記車両周辺情報に基いて判定し、前記実行条件が成立したと判定した場合、前記車両が前記車両の周辺に存在する物体に接近するのを回避するための衝突回避制御を実行する制御装置と、
を備え、
前記制御装置は、前記車両の運転者の特性を表す特性情報に基いて、前記運転者が、第1ユーザであるか又は第2ユーザであるかを判定するように構成され、ここで、前記第1ユーザは、前記衝突回避制御に応じて通常の反応時間で運転操作を行うとみなすことができる運転者を表し、前記第2ユーザは、前記衝突回避制御に応じて、前記第1ユーザよりも長い反応時間で運転操作を行うとみなすことができる運転者を表し、
更に、前記制御装置は、前記運転者が前記第2ユーザであると判定した場合、前記衝突回避制御の前記実行条件を、前記運転者が前記第1ユーザであると判定した場合に比べて早いタイミングで前記衝突回避制御が実行されるような条件へと変更する
ように構成された車両制御装置において、
前記制御装置は、
前記車両のシフトレバーの位置が駐車位置であり且つ前記運転者が前記車両のブレーキペダルを踏み込んでいる状態で前記車両のスタートボタンがオフ状態からオン状態へと変更された時点での前記ブレーキペダルの踏込み力を前記特性情報として取得し、当該取得した踏込み力がユーザ判定閾値以上である場合に前記運転者が前記第1ユーザであると判定し、当該取得した踏込み力が前記ユーザ判定閾値以上でない場合に前記運転者が前記第2ユーザであると判定する、
ように構成された
車両制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から知られる車両制御装置の一つは、車両の周囲に存在する物体(立体物及び白線等)を検出し、その物体に関する情報を運転者に対して報知する衝突回避制御を実行する(例えば、特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-148892号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、運転者の運転能力は、各人により異なる。例えば、体調が悪い人や年配者は、運転能力及び/又は認知能力が低くなっていると考えられる。このように運転者の運転能力及び/又は認知能力が低い場合、物体に関する情報が運転者に対して報知されても、運転者が即座にその物体との衝突を回避するための運転操作を行うことが難しい。
【0005】
本発明は、上記課題を解決するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、運転者の特性(例えば、運転能力、認知能力及び判断能力等)を考慮して衝突回避制御を実行する条件を変更することが可能な車両制御装置を提供することである。
【0006】
本発明の車両制御装置は、
車両の周辺状況に関する情報である車両周辺情報を取得するセンサ(50)と、
所定の実行条件が成立するか否かを前記車両周辺情報に基いて判定し、前記実行条件が成立したと判定した場合、前記車両が前記車両の周辺に存在する物体に接近するのを回避するための衝突回避制御を実行する制御装置(10)と、
を備える。
前記制御装置は、前記車両の運転者の特性を表す特性情報に基いて、前記運転者が、第1ユーザであるか又は第2ユーザであるかを判定する(ステップ203)ように構成されている。ここで、前記第1ユーザは、前記衝突回避制御に応じて通常の反応時間で運転操作を行うとみなすことができる運転者を表し、前記第2ユーザは、前記衝突回避制御に応じて、前記第1ユーザよりも長い反応時間で運転操作を行うとみなすことができる運転者を表す。
更に、前記制御装置は、前記運転者が前記第2ユーザであると判定した場合(ステップ203:No)、前記衝突回避制御の前記実行条件を、前記運転者が前記第1ユーザであると判定した場合に比べて早いタイミングで前記衝突回避制御が実行されるような条件へと変更する(ステップ205)
ように構成されている。
【0007】
この構成によれば、運転者が第2ユーザであると判定された場合、第1ユーザの場合と比べて早いタイミングで衝突回避制御が実行される。運転者の運転能力及び/又は認知能力が低い場合であっても、運転者は、車両の周辺に存在する物体の存在を早いタイミングで認識することができる。これにより、運転者は、余裕を持って物体を回避する運転操作を行うことができる。
【0008】
上記説明においては、本発明の理解を助けるために、後述する実施形態に対応する発明の構成に対し、その実施形態で用いた名称及び/又は符号を括弧書きで添えている。しかしながら、本発明の各構成要素は、前記名称及び/又は符号によって規定される実施形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る車両制御装置の概略構成図である。
図2】PCS・ECUのCPUが実行する「閾値設定ルーチン」を示したフローチャートである。
図3】PCS・ECUのCPUが実行する「衝突回避制御実行ルーチン」を示したフローチャートである。
図4】本発明の第2実施形態に係るPCS・ECUのCPUが実行する「閾値設定ルーチン」を示したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<第1実施形態>
図1に示すように、車両制御装置は、PCS(Pre-Crash Safety)・ECU10、エンジンECU20、ブレーキECU30、及び、SBW(Shift-by-Wire)・ECU40を備えている。
【0011】
本明細書において、「ECU」は、電気制御装置(Electric Control Unit)を意味する。ECUは、CPU、RAM、ROM、インターフェース(I/F)及び不揮発性メモリ等を含むマイクロコンピュータを含む。例えば、PCS・ECU10は、CPU10a、RAM10b、ROM10c、(I/F)10d及び不揮発性メモリ10e等を含むマイクロコンピュータを備える。CPUはROMに格納されたインストラクションを実行することにより、後述する各種機能を実現するようになっている。
【0012】
PCS・ECU10は、CAN(Controller Area Network)90を介して、エンジンECU20、ブレーキECU30、及び、SBW・ECU40に接続されている。これらのECUは、CAN90を介して相互に情報を送信可能及び受信可能に構成されている。従って、特定のECUに接続されたセンサの検出値は他のECUにも送信されるようになっている。
【0013】
エンジンECU20は、アクセルペダル操作量センサ21を含むエンジン状態量センサ(図示省略)及びエンジンアクチュエータ22に接続されている。アクセルペダル操作量センサ21は、アクセルペダル25の操作量(アクセル開度[%])を検出し、アクセルペダル操作量APを表す信号を発生する。
【0014】
エンジンECU20は、アクセルペダル操作量AP及び他のエンジン状態量センサにより検出される運転状態量(例えば、エンジン回転速度)に基いてエンジンアクチュエータ22を駆動する。これにより、エンジンECU20は、エンジン23が発生するトルク(エンジン発生トルク)を変更することができる。エンジン発生トルクは、変速機24を介して駆動輪に伝達される。従って、エンジンECU20は、エンジンアクチュエータ22を制御することによって、車両の駆動力を制御することができる。なお、車両が、エンジン23に代えて又は加えて、車両駆動源として電動機を備えてもよい。
【0015】
ブレーキECU30は、ブレーキ踏力センサ31及び油圧回路32に接続されている。ブレーキ踏力センサ31は、運転者によるブレーキペダル33の踏込み力(或いは踏込み圧力)Pfを表す信号を発生する。なお、ブレーキ踏力センサ31は、運転者がブレーキペダル33を踏み込んでいる強さが分かるものであればよく、他のセンサでもよい。例えば、ブレーキ踏力センサ31の代わりに、マスタシリンダ34の圧力を検出するマスタシリンダ圧センサが用いられてもよい。
【0016】
油圧回路32は、図示しないリザーバ、オイルポンプ及び種々の弁装置等を含み、ブレーキアクチュエータとして機能する。油圧回路32は、マスタシリンダ34と摩擦ブレーキ機構35との間に設けられている。ブレーキECU30は、運転者によるブレーキペダル33の踏込みに応じて駆動されるマスタシリンダ34の圧力に基いて油圧回路32を制御し、摩擦ブレーキ機構35の図示しないホイールシリンダに供給する油圧を調整する。これにより、ホイールシリンダは、車輪に対する摩擦制動力を発生させる。従って、ブレーキECU30は、油圧回路32を制御することによって、車両の制動力を制御することができる。
【0017】
SBW・ECU40は、シフトレバーセンサ41及びSBWアクチュエータ42に接続されている。シフトレバーセンサ41は、シフトレバーの位置を検出する。SBW・ECU40は、シフトレバーの位置をシフトレバーセンサ41から受け取り、そのシフトレバー位置に基いてSBWアクチュエータ42を制御するようになっている。SBWアクチュエータ42は、SBW・ECU40からの指示に応じてシフト切替機構43を制御して、変速機24のシフト位置を、複数のシフト位置のうちの一つへと切り替える。
【0018】
本例において、シフト位置は、駆動輪に駆動力が伝達されず且つ車両が機械的に停止位置にロックされる位置である駐車位置(P)、駆動輪に駆動力が伝達されず且つ車両が機械的に停止位置にロックされないニュートラル位置(N)、駆動輪に車両を前進させる駆動力が伝達される位置である前進位置(D)、及び、駆動輪に車両を後進させる駆動力が伝達される位置である後進位置(R)を少なくとも含む。なお、シフト位置の変更は、シフトバイワイヤ方式でなく、機械方式で行われてもよい。
【0019】
PCS・ECU10は、周囲センサ50に接続されている。周囲センサ50は、車両の周辺の状況を検出するセンサである。周囲センサ50は、車両の周囲の道路(例えば、車両が走行しているレーン)に関する情報、及び、その道路に存在する立体物に関する情報を取得するようになっている。立体物は、例えば、自動車、歩行者及び自転車などの移動物、並びに、ガードレール及びフェンスなどの固定物を表す。以下、これらの立体物は「物標」と称呼される。周囲センサ50は、レーダセンサ51及びカメラセンサ52を備えている。
【0020】
レーダセンサ51は、例えば、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を車両の周辺領域に放射し、放射範囲内に存在する物標によって反射されたミリ波(即ち、反射波)を受信する。そして、レーダセンサ51は、物標の有無及び車両と物標との相対関係を示すパラメータ(即ち、車両に対する物標の位置、車両と物標との距離、及び、車両に対する物標の相対速度等)を演算して出力する。なお、レーダセンサ51によって取得された物標に関する情報(上記のパラメータを含む。)は「物標情報」と称呼される。
【0021】
カメラセンサ52は、車両の前方の風景を撮影して画像データを取得する。カメラセンサ52は、その画像データに基いて、道路(車両が走行しているレーン)の左右の区画線を認識し、道路の形状(例えば、道路の曲率)、及び、車両と道路との位置関係(例えば、左側の区画線又は右側の区画線から車両の車幅方向の中心位置までの距離)を演算する。カメラセンサ52によって取得された情報は「車線情報」と称呼される。なお、カメラセンサ52は、画像データに基いて、物標の有無を判定し、物標情報を演算するように構成されてもよい。
【0022】
PCS・ECU10は、「物標情報」及び「車線情報」を含む車両の周辺状況に関する情報を、「車両周辺情報」として周囲センサ50から取得する。
【0023】
なお、PCS・ECU10は、更に、車両の走行状態(車速及びヨーレート等)を検出する図示しない各種センサ(走行状態検出センサ)に接続されている。PCS・ECU10は、これらのセンサから、車両の走行状態を表す情報を走行状態情報として取得する。
【0024】
更に、PCS・ECU10は、ディスプレイ61及びスピーカ62に接続されている。ディスプレイ61は、運転席の正面に設けられたマルチインフォーメーションディスプレイである。なお、ディスプレイ61として、ヘッドアップディスプレイが採用されてもよい。スピーカ62は、PCS・ECU10からの発話指令を受信した場合、その発話指令に応じた音声を発生させる。
【0025】
車両は、電源装置100を備えている。電源装置100は、図示しないバッテリと、エンジン23の回転により発電する図示しないオルタネータとを含む。電源装置100は、2系統の電源ライン(第1電源ライン101及び第2電源ライン102)を介して、車両内の電気負荷に電力を供給するようになっている。
【0026】
第1電源ライン101は、イグニッションスイッチ120を介して、電源装置100と、エンジンECU20とを接続する。以降、イグニッションスイッチ120を「IGスイッチ120」と称呼する。IGスイッチ120の状態は、エンジンスタートボタン110に対する操作に応じて変更される。以降、エンジンスタートボタン110を単に「スタートボタン110」と称呼する。スタートボタン110は、運転者がエンジン23の始動及び停止を指示する際に操作するボタンである。なお、スタートボタン110は、当該ボタンの状態(オフ状態又はオン状態)を表す信号をPCS・ECU10に出力するようになっている。
【0027】
スタートボタン110の状態がオフ状態からオン状態へ変更されると、IGスイッチ120の状態は、オフ状態(非接続状態)からオン状態(接続状態)に変更される。IGスイッチ120がオン状態であるとき、電源装置100の電力が、第1電源ライン101を介して、エンジンECU20に供給される。
【0028】
第2電源ライン102は、電源装置100と、ECU10、30及び40とを直接的に接続する。即ち、電源装置100と、「ECU10、30及び40」とは、IGスイッチ120を介さずに接続されている。従って、IGスイッチ120の状態に関係なく(即ち、IGスイッチ120がオン状態及びオフ状態の何れの場合でも)、電源装置100の電力が、ECU10、30及び40に供給される。即ち、ECU10、30及び40は、IGスイッチ120の状態に関係なく作動できる。
【0029】
以上の構成により、PCS・ECU10は、IGスイッチ120の状態に関係なく、スタートボタン110からの信号を取得できる。ブレーキECU30は、IGスイッチ120の状態に関係なく、ブレーキ踏力センサ31から踏込み力Pfを表す信号を取得し、当該信号をPCS・ECU10に出力できる。更に、SBW・ECU40は、IGスイッチ120の状態に関係なく、シフトレバーセンサ41からシフトレバーの位置を表す信号を取得し、当該信号をPCS・ECU10に出力できる。
【0030】
(衝突回避制御の概要)
PCS・ECU10は、周知の衝突回避制御を実行するようになっている。衝突回避制御は、車両が車両の周辺に存在する物体に接近するのを回避する制御である。このような衝突回避制御の一つとして、プリクラッシュセーフティー制御(Pre-Crash Safety Control)が挙げられる。以降において、当該制御を「PCS制御」と称呼する。
【0031】
PCS・ECU10は、車両と衝突する可能性が高い立体物(物標)が存在すると判定した場合に、PCS制御を実行する。具体的には、PCS・ECU10は、物標(f)を認識(検出)した場合、物標(f)についての衝突予測時間TTC(Time To Collision)を演算する。以降において、衝突予測時間TTCを単に「TTC」と称呼する。TTCは、物標までの距離を車両に対する物標の相対速度で除算することによって算出される。TTCが所定の時間閾値Tth以下である場合、PCS・ECU10は、物標(f)が車両と衝突する可能性が高い障害物であると判定し、PCS制御を実行する。
【0032】
本例において、PCS制御は、運転者に対して注意喚起を行う注意喚起制御を含む。具体的には、PCS・ECU10は、注意喚起用のマークをディスプレイ61に表示させるとともに、警報音をスピーカ62に出力させる。なお、PCS制御は、注意喚起制御に代えて又は加えて、車輪に制動力を付与する制動力制御及び車両の駆動力を抑制する駆動力抑制制御を含んでもよい。
【0033】
(作動の概要)
次に、本実施形態に係る車両制御装置の作動の概要について説明する。PCS・ECU10は、運転者の特性を表す特性情報に基いて、運転者が第1ユーザか又は第2ユーザであるかを判定する。第1ユーザは、衝突回避制御(PCS制御の注意喚起制御)に応じて通常の反応時間で運転操作を行うとみなすことができる運転者を表し、第2ユーザは、衝突回避制御に応じて、第1ユーザよりも長い反応時間で運転操作を行うとみなすことができる運転者を表す。
【0034】
本明細書において、特性情報は、運転者に備わっている各種能力(運転能力、認知能力及び判断能力等)に関連する情報である。本例において、特性情報は、運転者がエンジン23を始動させるときの踏込み力Pfである。踏込み力Pfの情報は、以下のように、運転能力、認知能力及び判断能力等に関連する情報である。
【0035】
踏込み力Pfが小さい場合、運転者の踏込み力が弱いことから、運転者は、年配者である又は体調が悪い可能性が高い。この場合、その運転者は、運転能力及び認知能力等が低下している可能性が高い。この場合、PCS制御の注意喚起制御により運転者に対して物標の存在が報知されたとしても、その報知に応じて運転操作を行うのに時間がかかる。これを考慮して、踏込み力Pfが小さい場合、PCS・ECU10は、運転者が第2ユーザであると判定する。
【0036】
これに対し、踏込み力Pfが大きい場合、運転者の足腰が強い又は運転者が健康であると考えられることから、その運転者は、運転能力及び認知能力等が低下していない可能性が高い。従って、踏込み力Pfが大きい場合、PCS・ECU10は、運転者が第1ユーザであると判定する。
【0037】
運転者が第2ユーザである場合、PCS制御の注意喚起制御によって運転者に対して物標の存在が報知されても、運転者が即座にその物標との衝突を回避するための運転操作を行うことが難しい。従って、PCS・ECU10は、運転者が第2ユーザであると判定した場合、PCS制御の実行条件を、運転者が第1ユーザであると判定した場合に比べて早いタイミングでPCS制御が実行されるような条件へと変更する。具体的には、PCS・ECU10は、第2ユーザである場合の時間閾値Tthを、第1ユーザである場合の時間閾値Tthに比べて大きい値に設定する。このようにPCS制御が、通常のモードから、より安全マージンが高いモード(即ち、衝突までの余裕時間が長いモード)へ変更される。
【0038】
この構成によれば、PCS・ECU10は、運転者が第2ユーザであると判定した場合、より早いタイミングでPCS制御を実行する。運転者が運転能力及び/又は認知能力が低い場合であっても、その運転者に対して早いタイミングで物標の存在が報知される。これにより、運転者は、余裕を持ってその物標との衝突を回避するための運転操作を行うことができる。
【0039】
<具体的な作動>
PCS・ECU10のCPU10a(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、所定時間が経過する毎に図2に示したルーチンを実行するようになっている。
【0040】
なお、CPUは、所定時間が経過するごとに、各種センサ(21、31及び41)及びスタートボタン110から、検出信号又は出力信号を受信してRAMに格納している。
【0041】
所定のタイミングになると、CPUは、図2のステップ200から処理を開始してステップ201に進み、所定の閾値設定条件が成立するか否かを判定する。閾値設定条件は、以下の条件A1乃至条件A3の全てが成立したときに成立する。
条件A1:シフトレバーの位置が駐車位置(P)である。
条件A2:運転者がブレーキペダル33を踏み込んでいる。例えば、CPUは、図示しないブレーキスイッチがオン状態であるときに、当該条件A2が成立すると判定してもよい。別の例において、CPUは、踏込み力Pfが所定値Ps以上であるときに、当該条件A2が成立すると判定してもよい。
条件A3:条件A2が成立している状態で運転者がスタートボタン110を操作して、スタートボタン110をオフ状態からオン状態へと変更した。
【0042】
閾値設定条件が成立しない場合、CPUはステップ201にて「No」と判定してステップ295に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0043】
これに対し、閾値設定条件が成立する場合、CPUはステップ201にて「Yes」と判定してステップ202に進み、スタートボタン110がオン状態へと変更した時点での踏込み力Pfの値を取得する。
【0044】
次に、CPUはステップ203に進み、踏込み力Pfが所定のユーザ判定閾値Pth以上であるか否かを判定する。ユーザ判定閾値Pthは、運転者が第1ユーザか又は第2ユーザでるかを判定するための閾値である。踏込み力Pfがユーザ判定閾値Pth以上である場合、CPUは、ステップ203にて「Yes」と判定してステップ204に進み、運転者が第1ユーザであると判定する。そして、CPUは、TTCの時間閾値Tthを第1の値T1に設定する。その後、CPUは、ステップ295に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0045】
これに対し、踏込み力Pfがユーザ判定閾値Pth以上でない場合、CPUは、ステップ203にて「No」と判定してステップ205に進み、運転者が第2ユーザであると判定する。そして、CPUは、TTCの時間閾値Tthを第2の値T2に設定する。第2の値T2は、第1の値T1よりも大きい値である。その後、CPUは、ステップ295に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0046】
更に、CPUは、スタートボタン110がオン状態である状況(即ち、車両が走行している状況)において、所定時間が経過する毎に図3に示したルーチンを実行するようになっている。
【0047】
なお、CPUは、所定時間が経過するごとに、周囲センサ50から車両周辺情報を受信するとともに走行状態検出センサから走行状態情報(車速及びヨーレート等)を受信し、これらの情報をRAMに格納している。
【0048】
所定のタイミングになると、CPUは、図3のステップ300から処理を開始してステップ301に進み、車両周辺情報に基いて車両の周囲領域に1つ以上の物標が存在するか否かを判定する。車両の周囲領域に物標が存在しない場合、CPUはそのステップ301にて「No」と判定して、ステップ395に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0049】
これに対し、車両の周囲領域に1つ以上の物標が存在する場合、CPUは、ステップ301にて「Yes」と判定してステップ302に進み、走行状態情報及び車両周辺情報(物標情報)に基いて、各物標のTTCを演算する。ここで、CPUは、算出されたTTCのうち、最小のTTCを有する物標を選択する。当該選択された物標のTTCを「TTCmin」と表記する。
【0050】
次に、ステップ303にて、CPUは、TTCminが時間閾値Tth以下であるか否かを判定する。TTCminが時間閾値Tth以下である場合、CPUは、ステップ303にて「Yes」と判定してステップ304に進み、PCS制御を実行する。具体的には、CPUは、注意喚起用のマークをディスプレイ61に表示させるとともに、警報音をスピーカ62に出力させる。
【0051】
なお、ステップ303にてTTCminが時間閾値Tth以下でない場合、CPUは、ステップ303にて「No」と判定してステップ395に直接進み、本ルーチンを一旦終了する。この場合、PCS制御は実行されない。
【0052】
以上説明したように、車両制御装置は、運転者が第2ユーザである場合の時間閾値Tthを運転者が第1ユーザである場合の時間閾値Tthに比べて大きい値に設定する。従って、車両制御装置は、運転者が第2ユーザであると判定した場合、より早いタイミングでPCS制御を実行する。従って、第2ユーザである運転者に対して早いタイミングで物標の存在が報知される。これにより、運転者は、余裕を持ってその物標との衝突を回避するための運転操作を行うことができる。
【0053】
<第2実施形態>
運転者の特性情報は、上記の例に限定されない。運転者の認知能力及び/又は判断能力が低下してくると、運転者が頻繁に誤操作を行うと考えられる。従って、運転者の特性情報は、誤操作の回数(以降、「誤操作回数N」と称呼する。)であってもよい。第2実施形態において、PCS・ECU10は、誤操作回数Nを不揮発性メモリ10eに記録する。PCS・ECU10は、誤操作回数Nが所定の回数閾値Nthより大きくなった以降、運転者が第2ユーザであると判定する。
【0054】
誤操作は、例えば、以下の操作1乃至操作7を含む。なお、以下の操作は一例であり、誤操作は、他の操作を含んでよい。
操作1:シフトレバーの位置が駐車位置(P)又はニュートラル位置(N)である状態で運転者がアクセルペダル25を操作した。
操作2:運転者がブレーキペダル33を踏み込まない状態でシフトレバーの位置を変更した。
操作3:運転者がアクセルペダル25及びブレーキペダル33を同時に踏み込んだ。
操作4:運転者がアクセルペダル25を急に大きく踏み込んだ。例えば、運転者がアクセルペダル25を踏み込んだときのアクセルペダル操作速度APV[%/s]が所定の操作速度閾値APVth以上である。アクセルペダル操作速度APVは、アクセルペダル操作量APの単位時間当たりの変化量である。
操作5:運転者がアクセルペダル25を踏み込んだ状態でシフトレバーの位置を変更した。
操作6:車速がゼロより大きい状態で運転者がシフトレバーの位置を駐車位置(P)へ変更した。
操作7:シフトレバーの位置が駐車位置(P)以外の位置の状態で運転者がスタートボタン110をオフ状態へ変更した。
【0055】
PCS・ECU10は、操作1乃至操作7の何れかが行われるたびに、不揮発性メモリ10eに記録されている誤操作回数Nをインクリメントして(N←N+1)、そのインクリメントされた誤操作回数Nを不揮発性メモリ10eに記録する。
【0056】
なお、誤操作回数Nは、一定期間経過した後にリセットされてもよい。この場合、一定期間の間で誤操作回数Nが所定の回数閾値Nthより大きくなった以降、PCS・ECU10は、運転者が第2ユーザであると判定する。
【0057】
<具体的な作動>
PCS・ECU10のCPU10a(以下、単に「CPU」と称呼する。)は、図2に示したルーチンに代えて又は加えて、図4のルーチンを実行するようになっている。
【0058】
所定のタイミングになると、CPUは、図4のステップ400から処理を開始してステップ401に進み、不揮発性メモリ10eから誤操作回数Nを取得する。
【0059】
次に、CPUは、ステップ402に進み、誤操作回数Nが所定の回数閾値Nth以下であるか否かを判定する。誤操作回数Nが回数閾値Nth以下である場合、CPUは、ステップ402にて「Yes」と判定してステップ403に進み、運転者が第1ユーザであると判定する。そして、CPUは、TTCの時間閾値Tthを第1の値T1に設定する。その後、CPUは、ステップ495に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0060】
これに対し、誤操作回数Nが回数閾値Nth以下でない場合、CPUは、ステップ402にて「No」と判定してステップ404に進み、運転者が第2ユーザであると判定する。そして、CPUは、TTCの時間閾値Tthを第2の値T2に設定する。なお、CPUは、運転者が第2ユーザであると判定されたことをディスプレイ61に表示させてもよい。その後、CPUは、ステップ495に進み、本ルーチンを一旦終了する。
【0061】
この構成によれば、車両制御装置は、誤操作回数Nに基いて、運転者の認知能力及び/又は判断能力の低下を検知して、PCS制御の実行条件を変更することができる。
【0062】
なお、第2実施形態において、PCS・ECU10は、図示しない通信装置に接続されてもよい。この構成において、CPUは、ステップ404にて運転者が第2ユーザであると判定したとき、その旨を知らせる情報を車外の通信端末(例えば、運転者の家族が所有する通信端末)へと送信してもよい。この構成によれば、運転者の家族が、運転者の認知能力が低下したことを把握することができる。
【0063】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることはなく、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0064】
(変形例1)
PCS制御の実行条件は、上述の例に限定されない。PCS制御の実行条件として、別の条件が追加されてもよい。例えば、CPUは、ステップ303にて、以下の条件B1及び条件B2の何れかが成立したときに「Yes」と判定するように構成されてもよい。
条件B1:TTCminが時間閾値Tth以下である。
条件B2:アクセルペダル操作速度APV[%/s]が所定の操作速度閾値APVth以上である。
【0065】
CPUは、運転者が第1ユーザであるとき、操作速度閾値APVthを第1の値V1に設定し、運転者が第2ユーザであるとき、操作速度閾値APVthを第2の値V2に設定してもよい。例えば、第2の値V2は、第1の値V1より小さい。
【0066】
CPUは、運転者が第1ユーザであるとき、PCS制御の実行条件が条件B1のみを含み、運転者が第2ユーザであるとき、PCS制御の実行条件が条件B1及び条件B2の両方を含むようにしてもよい。これにより、運転者が第2ユーザであるとき、PCS制御が、第1ユーザの場合と比べて実行され易くなる。
【0067】
(変形例2)
運転者の特性情報は、以下のように管理されてもよい。例えば、PCS・ECU10は、運転者の識別情報と、ユーザ情報(その運転者が第1ユーザであるか又は第2ユーザであるかを表す情報)とを関連づけて、予め不揮発性メモリ10eに記憶しておいてもよい。識別情報は、例えば、顔情報及び指紋情報等である。この構成によれば、運転能力等が低下してきた運転者を第2ユーザとして車両制御装置に予め記録しておき、運転者が第2ユーザの場合に早いタイミングでPCS制御を実行することができる。
【0068】
例えば、車両は、運転席に対向する位置にドライバモニタ(カメラ)を備える。PCS・ECU10は、ドライバモニタから運転者の顔情報(画像情報)を取得し、その運転者が第1ユーザであるか又は第2ユーザであるかを判定する。
【0069】
別の例によれば、車両は、運転者が指を接触させる指紋認証部を備える。PCS・ECU10は、指紋認証部から運転者の指紋情報を取得し、その運転者が第1ユーザであるか又は第2ユーザであるかを判定する。
【0070】
更に別の例によれば、運転者は、ユーザ情報(運転者が第1ユーザであるか又は第2ユーザであるかを表す情報)を通信可能な通信機(例えば、通信機能を備えたキー)を身に着けた状態で車両に乗車してもよい。この場合、PCS・ECU10は、図示しない通信装置を介して、キーからユーザ情報を取得し、その運転者が第1ユーザであるか又は第2ユーザであるかを判定する。
【0071】
(変形例3)
衝突回避制御は、上述の例に限定されず、後述する周知の他の制御であってもよい。例えば、衝突回避制御は、後方車両通知制御(BSM:Blind Spot Monitor)、車線逸脱防止制御(LDA:Lane Departure Alert)、及び、駆動力抑制制御の何れかであってもよい。
【0072】
BSMは、車両(自車両)が走行しているレーンの隣接レーンを走行する他車両であって、車両の斜め後方を走行している他車両を運転者に対して報知する制御である。車両制御装置は、自車両が隣接レーンを走行していると仮定して、TTCを演算する。TTCが所定の時間閾値Td以下である場合、車両制御装置は、他車両が存在することを知らせるマークをディスプレイ61に表示させるとともに、警報音をスピーカ62に出力させる。これにより、自車両が隣接レーンを走行している他車両に接近するのを回避することができる。本例において、車両制御装置は、運転者が第1ユーザであると判定したとき、時間閾値Tdを「Td1」に設定し、運転者が第2ユーザであると判定したとき、時間閾値Tdを「Td2」に設定する。「Td2」は「Td1」より大きい値である。
【0073】
LDAは、車両がレーンを逸脱しようとするときに運転者に対して警告を行う制御である。車両制御装置は、車両周辺情報(車線情報)に基いて、車両と左側の区画線又は右側の区画線との間の距離Ldを演算する。距離Ldが所定の距離閾値Lth以下である場合、車両制御装置は、警報音をスピーカ62に出力させる。これにより、車両がレーンの周囲にある縁石や隣接レーンを走行している他車両に接近するのを回避することができる。本例において、車両制御装置は、運転者が第1ユーザであると判定したとき、距離閾値Lthを「L1」に設定し、運転者が第2ユーザであると判定したとき、距離閾値Lthを「L2」に設定する。「L2」は「L1」より大きい値である。
【0074】
駆動力抑制制御は、車両の駆動力を抑制して車両の周辺に存在する物体に接近するのを回避する制御である。車両制御装置は、例えば、2つのS-G特性マップを予め記憶している。S-G特性マップは、アクセルペダル25の操作量(ストロークS)に対する目標加速度(G)を定義したマップである。本例において、車両制御装置は、運転者が第1ユーザであると判定したとき、第1S-G特性マップを使用し、運転者が第2ユーザであると判定したとき、第2S-G特性マップを使用する。ここで、第2S-G特性マップに関して、目標加速度(G)の変化量(Gの増加量)が、第1S-G特性マップに比べて緩やかであってもよい。更に、第2S-G特性マップに関して、目標加速度(G)が大きく増加し始める操作量(ストロークS)の位置が、第1S-G特性マップに比べて大きい位置に設定されてもよい。即ち、運転者が第2ユーザであると判定された場合、アクセルペダル25の操作量に対する駆動力の増加量が、第1ユーザに比べて小さくなる。従って、第2S-G特性マップを使用する場合、運転者がアクセルペダル25を踏み込んだとしても、車両は緩やかに加速する。
【0075】
加えて、車両制御装置は、運転者が第2ユーザであると判定したとき、クリープ走行を禁止してもよい。この場合、運転者が足をブレーキペダル33から離しても、アクセルペダル25を踏まない限り車両が動かない。従って、車両の周辺に存在する物体に接近するのを回避することができる。更に、運転者がブレーキペダル33及びアクセルペダル25の何れかは踏み込むようになるので、ペダルの踏み間違いを防止できる。
【符号の説明】
【0076】
10…PCS・ECU、20…エンジンECU、30…ブレーキECU、40…SBW・ECU。

図1
図2
図3
図4