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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】組立キット、及び送電線の接続構造
(51)【国際特許分類】
   H02G 15/08 20060101AFI20231018BHJP
   H02G 7/05 20060101ALI20231018BHJP
   H02G 1/02 20060101ALI20231018BHJP
   H02G 1/14 20060101ALI20231018BHJP
   H01R 4/20 20060101ALI20231018BHJP
   H01R 4/62 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
H02G15/08
H02G7/05 060
H02G1/02
H02G1/14
H01R4/20
H01R4/62 A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020034029
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021136847
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-08-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000213884
【氏名又は名称】住電機器システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003528
【氏名又は名称】東京製綱株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100147
【弁理士】
【氏名又は名称】山野 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】間野 彰
(72)【発明者】
【氏名】中村 満秀
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基希
【審査官】木村 励
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-21487(JP,A)
【文献】特開2019-22314(JP,A)
【文献】特開2017-135786(JP,A)
【文献】登録実用新案第3160110(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/08
H02G 7/05
H02G 7/02
H02G 1/02
H02G 1/14
H01R 4/20
H01R 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心線部の外周に導体部が設けられた送電線の端部を保持して、前記送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材を構成する組立キットであって、
第一中空孔を有する第一スリーブと、
前記第一スリーブを収納する第二中空孔を有する第二スリーブと、
前記第二スリーブを収納する第三中空孔を有する第三スリーブとを備え、
前記第二中空孔は、底部と開口部とを有し、
前記第一スリーブは、前記底部に接触する第一端と、前記開口部側に配置される第二端とを備え、
前記第二スリーブは、前記送電線の端部に取り付けられる際、軸方向に実質的に直交する方向から機械的に圧縮される圧縮領域を備え、
前記第一中空孔に前記心線部が収納され、前記第二中空孔に前記第一スリーブが収納された状態において、前記圧縮領域にわたって前記第二スリーブの外周が前記直交する方向から圧縮されたとき、前記第一スリーブの軸方向の伸びが、前記第二スリーブの軸方向の伸びよりも3mm以上長い、
組立キット。
【請求項2】
前記第一スリーブのビッカース硬度が15以上30以下であり、
前記第二スリーブのビッカース硬度が100以上300以下である請求項1に記載の組立キット。
【請求項3】
前記第一スリーブにおける前記第一中空孔が形成される部分の厚さが、2.5mm以上5.0mm以下であり、
前記第二スリーブにおける前記第二中空孔が形成される部分の厚さが、3.5mm以上10.0mm以下である請求項1又は請求項2に記載の組立キット。
【請求項4】
前記第一スリーブは、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成され、
前記第二スリーブは、鋼によって構成され、
前記第三スリーブは、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成される請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項5】
前記第一端が前記底部に接触した状態において、前記第二端が前記開口部から突出する請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項6】
前記第一中空孔における内周面の表面粗さRaは、0.2μm以上12.5μm以下である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項7】
前記第一スリーブにおける前記第一中空孔が形成される部分の外周面の表面粗さRaは、0.2μm以上12.5μm以下である請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項8】
前記心線部がカーボンファイバを含み、前記導体部がアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成される前記送電線に接続される請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項9】
前記第二スリーブは、その軸方向における前記開口部とは反対側に設けられるアイボルトを備える請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項10】
前記第一スリーブを二つ備え、
前記第二スリーブは、前記第二中空孔を二つ備え、
一方の前記第二中空孔と他方の前記第二中空孔とはそれぞれ、前記第二スリーブの軸方向の一端側と他端側とに設けられる請求項1から請求項8のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項11】
前記第一スリーブは、前記第一スリーブの軸方向における前記第二端から所定長の領域である第二端領域を備え、
少なくとも前記第二端領域における前記第一中空孔の内径は、前記第二端に向かうに従って大きくなっている請求項1から請求項10のいずれか1項に記載の組立キット。
【請求項12】
心線部、及び前記心線部の外周に配置される導体部を有する送電線と、
前記送電線の端部を保持して、前記送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材と、を備える送電線の接続構造であって、
前記心線部は、カーボンファイバを含み、
前記導体部は、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成され、
前記電線保持部材は、
前記心線部が収納される第一中空孔を有する第一スリーブと、
前記第一スリーブが収納される第二中空孔を有する第二スリーブと、
前記第二スリーブ、及び前記導体部の端部が収納される第三中空孔を有する第三スリーブとを備え、
前記第二中空孔は、底部と開口部とを有し、
前記第一スリーブは、前記底部に接触する第一端と、前記開口部側に配置される第二端と、を備え、
前記第一スリーブは、前記心線部に密着し、
前記第三スリーブは、前記導体部に密着し、
前記第一スリーブの軸方向における前記第二端から所定長の部分において、前記第一中空孔の内径が、前記第二端に向かうに従って大きくなっており、
前記第二スリーブは、前記送電線の端部に取り付けられる際、軸方向に実質的に直交する方向から機械的に圧縮された圧縮領域を備え、
前記第一スリーブの軸方向の伸びが、前記第二スリーブの軸方向の伸びよりも3mm以上長い、
送電線の接続構造。
【請求項13】
前記第二端は、前記開口部から突出している請求項12に記載の送電線の接続構造。
【請求項14】
前記第二端における前記第一中空孔の内周面が、前記心線部の外周面から離隔している請求項13に記載の送電線の接続構造。
【請求項15】
前記開口部から突出している前記第一スリーブの外径が、前記第二端に向かうに従って徐々に大きくなっている請求項13又は請求項14に記載の送電線の接続構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組立キット、及び送電線の接続構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1から特許文献3には、送電線の端部を保持して、送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材が開示されている。送電線は、心線部と、心線部の外周に設けられる導体部とを備える。心線部は、鋼よりも熱膨張し難いカーボンファイバを含むCFRPストランドである。CFRPは、炭素繊維強化プラスチックのことである。導体部は、CFRPストランドの外周に撚り合わされた複数のアルミニウム(Al)線によって構成される。
【0003】
特許文献1から特許文献3の電線保持部材は、第一スリーブと第二スリーブと第三スリーブとを備える組立キットによって構成される。第一スリーブは、その内部に心線部を収納する部材である。第二スリーブは、その内部に第一スリーブを収納する部材である。第三スリーブは、その内部に第二スリーブ及び送電線の導体部を収納する部材である。この組立キットによって送電線を保持する場合、まず心線部が第一スリーブの内部に収納され、第一スリーブが第二スリーブの内部に収納された状態とする。その状態において、第二スリーブの外周が、第二スリーブの軸方向に実質的に直交する方向から機械的に圧縮される。その結果、第一スリーブの内周面が心線部の外周に密着し、送電線が電線保持部材に保持される。その後、導体部が第三スリーブの内部に収納された状態において、第三スリーブの外周が機械的に圧縮される。その結果、第三スリーブが導体部に電気的に接続される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-135786号公報
【文献】特開2019-21487号公報
【文献】特開2019-22314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
CFRPストランドの心線部は、鋼の心線部と比較して、熱膨張しにくいものの、圧縮に弱い。そのため、CFRPストランドの心線部を第一スリーブと第二スリーブとによって圧縮する際などに、CFRPストランドが圧壊する恐れがある。CFRPストランドが圧壊すると、電線保持部材による送電線を保持力が十分に得られなくなる恐れがある。
【0006】
本開示は、送電線への取付けの際などに心線部が圧壊し難い電線保持部材の組立キットを提供することを目的の一つとする。
【0007】
また、本開示は、送電線をしっかりと保持する送電線の接続構造を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る組立キットは、
心線部の外周に導体部が設けられた送電線の端部を保持して、前記送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材を構成する組立キットであって、
第一中空孔を有する第一スリーブと、
前記第一スリーブを収納する第二中空孔を有する第二スリーブと、
前記第二スリーブを収納する第三中空孔を有する第三スリーブとを備え、
前記第二中空孔は、底部と開口部とを有し、
前記第一スリーブは、前記底部に接触する第一端と、前記開口部側に配置される第二端とを備え、
前記第二スリーブは、前記送電線の端部に取り付けられる際、軸方向に実質的に直交する方向から機械的に圧縮される圧縮領域を備え、
前記第一中空孔に前記心線部が収納され、前記第二中空孔に前記第一スリーブが収納された状態において、前記圧縮領域にわたって前記第二スリーブの外周が前記直交する方向から圧縮されたとき、前記第一スリーブの軸方向の伸びが、前記第二スリーブの軸方向の伸びよりも3mm以上長い。
【0009】
本開示に係る送電線の接続構造は、
心線部、及び前記心線部の外周に配置される導体部を有する送電線と、
前記送電線の端部を保持して、前記送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材と、を備える送電線の接続構造であって、
前記心線部は、カーボンファイバを含み、
前記導体部は、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成され、
前記電線保持部材は、
前記心線部が収納される第一中空孔を有する第一スリーブと、
前記第一スリーブが収納される第二中空孔を有する第二スリーブと、
前記第二スリーブ、及び前記導体部の端部が収納される第三中空孔を有する第三スリーブとを備え、
前記第二中空孔は、底部と開口部とを有し、
前記第一スリーブは、前記底部に接触する第一端と、前記開口部側に配置される第二端と、を備え、
前記第一スリーブは、前記心線部に密着し、
前記第三スリーブは、前記導体部に密着し、
前記第一スリーブの軸方向における前記第二端から所定長の部分において、前記第一中空孔の内径が、前記第二端に向かうに従って大きくなっている。
【発明の効果】
【0010】
本開示の組立キットは、送電線に取り付けられる際などに送電線の心線部を損傷し難い。
【0011】
本開示の送電線の接続構造は、送電線を損傷することなく送電線をしっかりと保持できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態1に係る組立キットの部分断面図である。
図2図2は、実施形態1に係る組立キットに備わる第一スリーブと第二スリーブの部分断面図である。
図3図3は、図2における点線で囲った部分の部分拡大図である。
図4図4は、実施形態1に係る送電線の接続構造の部分断面図である。
図5図5は、図4における点線で囲った部分の部分拡大図である。
図6図6は、実施形態2に係る組立キットの縦断面図である。
図7図7は、図6における点線で囲った部分の部分拡大図である。
図8図8は、実施形態2に係る送電線の接続構造の部分断面図である。
図9図9は、図8における点線で囲った部分の部分拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
・本発明の実施形態の説明
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
【0014】
<1>実施形態に係る組立キットは、
心線部の外周に導体部が設けられた送電線の端部を保持して、前記送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材を構成する組立キットであって、
第一中空孔を有する第一スリーブと、
前記第一スリーブを収納する第二中空孔を有する第二スリーブと、
前記第二スリーブを収納する第三中空孔を有する第三スリーブとを備え、
前記第二中空孔は、底部と開口部とを有し、
前記第一スリーブは、前記底部に接触する第一端と、前記開口部側に配置される第二端とを備え、
前記第二スリーブは、前記送電線の端部に取り付けられる際、軸方向に実質的に直交する方向から機械的に圧縮される圧縮領域を備え、
前記第一中空孔に前記心線部が収納され、前記第二中空孔に前記第一スリーブが収納された状態において、前記圧縮領域にわたって前記第二スリーブの外周が前記直交する方向から圧縮されたとき、前記第一スリーブの軸方向の伸びが、前記第二スリーブの軸方向の伸びよりも3mm以上長い。
【0015】
上記組立キットは、送電線に取り付けられる際に送電線の心線部を損傷し難い。第一スリーブが第二スリーブと共に圧縮されたときに、第一スリーブの軸方向の伸びが、第二スリーブの軸方向の伸びよりも3mm以上長くなるからである。心線部に接触する第一スリーブが伸び易くなっていることで、心線部に過度の圧縮応力が作用し難く、心線部の損傷が抑制される。
【0016】
また、第一スリーブが第二スリーブよりも軸方向に延び易くなっていることで、実施形態の組立キットを用いて形成された電線保持部材において、第一スリーブの内径が第二端に向かうに従って大きくなる。そのため、第一スリーブにおける第二端と第一中空孔の内周面との間に形成される角部が、心線部の外周に食い込み難くなる。
以降、本明細書では上記角部を『内角部』と呼ぶ。
【0017】
<2>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一スリーブのビッカース硬度が15以上30以下であり、
前記第二スリーブのビッカース硬度が100以上300以下である形態が挙げられる。
【0018】
第一スリーブと第二スリーブのビッカース硬度がそれぞれ上記範囲にあれば、第一スリーブの軸方向の伸びが、上記<1>に規定する数値を達成し易い。
【0019】
<3>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一スリーブにおける前記第一中空孔が形成される部分の厚さが、2.5mm以上5.0mm以下であり、
前記第二スリーブにおける前記第二中空孔が形成される部分の厚さが、3.5mm以上10.0mm以下である形態が挙げられる。
【0020】
第一スリーブにおける第一中空孔が形成される部分の厚さが2.5mm以上であり、第二スリーブの第二中空孔が形成される部分の厚さが3.5mm以上であれば、第一スリーブの軸方向の伸びが、上記<1>に規定する数値を達成し易い。第一スリーブにおける第一中空孔が形成される部分の厚さが5.0mm以下であり、第二スリーブの第二中空孔が形成される部分の厚さが10.0mm以下であれば、電線保持部材の大型化が抑制される。その結果、電線保持部材の大型化に伴うコストを含めた電線保持部材の生産性の低下が抑制される。また、電線保持部材の重量の増加に伴う電線保持部材の施工性の低下が抑制される。
【0021】
<4>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一スリーブは、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成され、
前記第二スリーブは、鋼によって構成され、
前記第三スリーブは、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成される形態が挙げられる。
【0022】
第一スリーブがAl又はAl合金であり、第二スリーブが鋼又は鋼合金であれば、第一スリーブの軸方向の伸びが、上記<1>に規定する数値を達成し易い。Al又はAl合金は、鋼に比べて柔らかく、伸び易いからである。また、Al又はAl合金は、送電線の導体部と接続対象とを電気的に接続する第三スリーブの材料として好適である。Al又はAl合金は展性に優れ、高い導電率を有するからである。
【0023】
<5>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一端が前記底部に接触した状態において、前記第二端が前記開口部から突出する形態が挙げられる。
【0024】
第二スリーブの圧縮領域は、第二中空孔の底部側から開口部側に向かって順次圧縮される場合と、開口部側から底部側に向かって順次圧縮される場合とがある。いずれの場合においても、第一スリーブの第二端が第二スリーブの第二中空孔の内部に位置していると、第一スリーブの内角部が心線部を損傷する恐れがある。一方、上記構成に示されるように、第一スリーブの第二端が第二スリーブの第二中空孔の開口部から突出していれば、第二スリーブが第一スリーブごと圧縮されたとき、第二スリーブから突出する第一スリーブの突出部が第二スリーブに圧縮されることはない。その結果、第一スリーブの内角部が心線部を強く押圧し難いため、心線部が断線し難い。
【0025】
<6>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一中空孔における内周面の表面粗さRaは、0.2μm以上12.5μm以下である形態が挙げられる。
【0026】
第一中空孔の内周面の表面粗さRaが0.2μm以上であれば、第一スリーブが圧縮されたときに、第一スリーブと心線部との接続が強固になる。第一中空孔の内周面の表面粗さRaが12.5μm以下であれば、第一スリーブが圧縮されたときに、心線部に損傷が生じ難い。ここで、本明細書における表面粗さRaは全て、JIS 0601-2001に準拠する算術平均粗さである。
【0027】
<7>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一スリーブにおける前記第一中空孔が形成される部分の外周面の表面粗さRaは、0.2μm以上12.5μm以下である形態が挙げられる。
【0028】
上記構成によれば、第二スリーブの圧縮領域が圧縮されたとき、第二スリーブと、第二スリーブの内部に配置された第一スリーブとの接続が強固になる。
【0029】
<8>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記心線部がカーボンファイバを含み、前記導体部がアルミニウム又はアルミニウム合金によって構成される前記送電線に接続される形態が挙げられる。
【0030】
カーボンファイバを含む心線部は熱膨張し難い。従って、電線保持部材による心線部の保持が弛み難い。また、アルミニウム又はアルミニウム合金は導電性に優れ、軽量である。従って、架空送電線の導体部として好適である。心線部を損傷し難い実施形態の組立キットは、このような送電線をしっかりと保持できる。
【0031】
<9>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第二スリーブは、その軸方向における前記第二中空孔とは反対側に設けられるアイボルトを備える形態が挙げられる。
【0032】
アイボルトは、鉄塔などに電線保持部材を固定することに利用される。つまり、アイボルトを備える電線保持部材は、送電線を鉄塔などに固定する引留クランプに利用できる。
【0033】
<10>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一スリーブを二つ備え、
前記第二スリーブは、前記第二中空孔を二つ備え、
一方の前記第二中空孔と他方の前記第二中空孔とはそれぞれ、前記第二スリーブの軸方向の一端側と他端側とに設けられる形態が挙げられる。
【0034】
第二スリーブの軸方向の一端側と他端側とにそれぞれ第二中空孔を備える電線保持部材は、送電線同士を接続する中間接続部材に利用できる。
【0035】
<11>実施形態に係る組立キットの一形態として、
前記第一スリーブは、前記第一スリーブの軸方向における前記第二端から所定長の領域である第二端領域を備え、
少なくとも前記第二端領域における前記第一中空孔の内径は、前記第二端に向かうに従って大きくなっている形態が挙げられる。
【0036】
上記構成は、圧縮接続前から、第一スリーブの第二端側の内径が徐々に拡がっている構成である。上記構成によれば、第二スリーブの圧縮部を圧縮したときに、第一スリーブの内角部が心線部を損傷し難い。
【0037】
<12>実施形態に係る送電線の接続構造は、
心線部、及び前記心線部の外周に配置される導体部を有する送電線と、
前記送電線の端部を保持して、前記送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材と、を備える送電線の接続構造であって、
前記心線部は、カーボンファイバを含み、
前記導体部は、アルミニウム又はアルミニウム合金によって構成され、
前記電線保持部材は、
前記心線部が収納される第一中空孔を有する第一スリーブと、
前記第一スリーブが収納される第二中空孔を有する第二スリーブと、
前記第二スリーブ、及び前記導体部の端部が収納される第三中空孔を有する第三スリーブとを備え、
前記第二中空孔は、底部と開口部とを有し、
前記第一スリーブは、前記底部に接触する第一端と、前記開口部側に配置される第二端と、を備え、
前記第一スリーブは、前記心線部に密着し、
前記第三スリーブは、前記導体部に密着し、
前記第一スリーブの軸方向における前記第二端から所定長の部分において、前記第一中空孔の内径が、前記第二端に向かうに従って大きくなっている。
【0038】
上記構成に示されるように、第一スリーブの内径が第二端に向かうに従って拡がっていることで、内角部が心線部の外周に食い込み難くなる。例えば風などで送電線が揺れても、心線部の外周が内角部に強く押圧され難い。従って、経時的な心線部の損傷が抑制されると考えられる。
【0039】
<13>実施形態に係る送電線の接続構造の一形態として、
前記第二端は、前記開口部から突出している形態が挙げられる。
【0040】
第一スリーブの第二端が、第二スリーブの第二中空孔の開口端から突出しているということは、第一スリーブの第二端近傍の外周が、第二スリーブに覆われていないことを示す。従って、内角部が心線部を強く押圧することが抑制されるので、心線部が損傷し難い。
【0041】
<14>上記<13>に記載の送電線の接続構造の一形態として、
前記第二端における前記第一中空孔の内周面が、前記心線部の外周面から離隔している形態が挙げられる。
【0042】
上記構成では、内角部が心線部に接触していない。そのため、送電線が揺れても、内角部が心線部に接触し難く、経時的に心線部の損傷が抑制される。
【0043】
<15>上記<13>又は<14>に記載の送電線の接続構造の一形態として、
前記開口部から突出している前記第一スリーブの外径が、前記第二端に向かうに従って徐々に大きくなっている形態が挙げられる。
【0044】
上記構成では、第二スリーブの第二中空孔の開口端から突出する第一スリーブの突出部分が、第一スリーブの径方向外方に拡がっている。これは、第一スリーブの内径が第二端に向かうに従って拡がっているからである。圧縮前の厚みが一様な第一スリーブを用いて電線保持部材が形成された場合に、第一スリーブの第二端側の内径及び外径が末広がりになり易い。
【0045】
・本開示の実施形態の詳細
以下、本開示の電線保持部材の接続キット、及び送電線の接続構造の実施形態の詳細を図面に基づいて説明する。図中の同一符号は同一名称物を示す。なお、本発明は、実施形態の例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0046】
<実施形態1>
実施形態1では、図1から図4に基づいて、圧縮型の引留クランプである電線保持部材7(図4)を構成する組立キット5を説明する。引留クランプは、送電線9とジャンパ線95とを機械的・電気的に接続する。図1から図3では、組立キット5を構成する各部材が組まれた状態が示されている。また、説明の便宜上、組立キット5に対する送電線9とジャンパ線95の配置位置が仮想線で示されている。
【0047】
≪送電線とジャンパ線≫
組立キット5の説明に先立ち、送電線9と、送電線9の接続対象であるジャンパ線95の構成を簡単に説明する。送電線9は、鉄塔間に架設されて、発電所で発電した電力を送電網を構築する。送電線9は、心線部92と、心線部92の外周に設けられる導体部93と、を備える。本例の心線部92はカーボンファイバを含む。例えば、心線部92は、カーボンファイバを主体とする複数の素線921が撚り合わされてなる。また、本例の導体部93は、Al又はAl合金を主体とする複数の素線931が心線部92の外周により合わされてなる。このような送電線9として、代表的にはカーボンファイバ心アルミより線が挙げられる。カーボンファイバ心アルミより線は、CFRPストランドからなる心線部92と、心線部92の外周に複数のAl線が撚り合わされた導体部93とを備える。CFRPストランドは、炭素繊維と樹脂とを用いて構成された炭素繊維強化プラスチック(CFRP)の素線が複数撚り合わされて構成される。CFRPストランドは、例えば、炭素繊維複合材ケーブル(CFCC(東京製綱株式会社の登録商標):Carbon Fiber Composite Cable)を用いることができる。Al線は、純Al線又はAl合金線を用いることができる。一方、ジャンパ線95は、例えばAlより線によって構成される。
【0048】
≪組立キット≫
本例の組立キット5は、入れ子状に構成される第一スリーブ1と第二スリーブ2と第三スリーブ3とを備える。引留クランプを構成する本例の組立キット5は更に、ジャンパソケット4を備える。送電線9に組立キット5が取り付けられる際、第一スリーブ1及び第二スリーブ2は、第二スリーブ2の外周側から圧縮され、送電線9の心線部92を保持する。第三スリーブ3は、その外周から圧縮され、送電線9の導体部93を保持する。ジャンパソケット4は、その外周から圧縮され、ジャンパ線95を保持する。この本例の組立キット5の特徴の一つは、以下に示す前提において、第一スリーブ1の軸方向の伸びが、第二スリーブ2の軸方向の伸びよりも3mm以上長くなる点にある。
前提…第一スリーブ1に心線部92が収納され、第二スリーブ2に第一スリーブ1が収納された状態において、第二スリーブ2の圧縮領域2R(図2)にわたって第二スリーブ2の外周が第二スリーブ2の軸方向に直交する方向から圧縮されること。圧縮領域2Rについては後述する。
以下、組立キット5の各構成を詳細に説明する。
【0049】
[第一スリーブ]
第一スリーブ1は、図2に示されるように、第一中空孔1hを備える筒状部材である。第一中空孔1hは、その内部に送電線9の心線部92を収納する。第一中空孔1hの軸線と、第一スリーブ1の軸線とは一致していることが好ましい。また、第一中空孔1hは、図示する貫通孔でも良いし、底部を有する止まり穴であっても良い。この第一スリーブ1は、後述する第二スリーブ2の内部に収納され、第二スリーブ2と共に外周側から圧縮される。第二スリーブ2が圧縮されると、第一スリーブ1は、心線部92の外周面に密着すると共に、第二スリーブ2の第二中空孔2hの内周面に密着する。このとき、第一スリーブ1の軸方向の伸びが、第二スリーブ2の軸方向の伸びよりも3mm以上長くなることで、心線部92の圧壊が抑制されると共に、第一スリーブ1を介して心線部92と第二スリーブ2とが接続される。
【0050】
第一中空孔1hを備える第一スリーブ1は、円筒状部材であることが好ましい。円筒状の第一スリーブ1は、第二スリーブ2への圧縮力が第二スリーブ2を介して第一スリーブ1に作用した際、周方向にほぼ均等に変形する。その結果、第一スリーブ1は、心線部92を圧壊させることなく心線部92のより溝に入り込む。
【0051】
第一スリーブ1は、第二スリーブ2よりも伸びて、心線部92に作用する圧縮力を緩和し、心線部92に密着する必要がある。つまり、第一スリーブ1には圧縮によって変形し易い性質が求められる。その観点から、第一スリーブ1のビッカース硬さHvは30以下であることが好ましい。第一スリーブ1のビッカース硬さHvが30以下であれば、第二スリーブ2が圧縮された際に、変形し易い。変形し易い第一スリーブ1は、圧縮力の心線部92への作用を緩和し易い上に、心線部92に密着し易い。ビッカース硬さHvの下限値は特に限定されない。実用的には第一スリーブ1のビッカース硬さHvは15以上が好ましい。第一スリーブ1のビッカース硬さHvが15以上であれば、第二スリーブ2を圧縮した際に、第一スリーブ1の過度な変形を抑制し易い。そのため、第一スリーブ1の過度な変形に伴う心線部92の損傷を抑制し易い。ビッカース硬さHvは、例えば15以上25以下が特に好ましい。
【0052】
上記ビッカース硬さHvを満たす材質として、純Al又はAl合金を挙げることができる。純Alは、Al含有量が99.0質量%以上であり、「JIS H 4000(2014) アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条」で規定される1000系、例えば、A1050、A1070、A1100の質別OやH14などやこれらに熱処理したものが挙げられる。Al合金は、例えば、A5052,A6061,A6063などに熱処理を施したものが挙げられる。
【0053】
第一スリーブ1の厚さは、第一スリーブ1の外径d1、第一中空孔1hの内径d2としたとき、(d1-d2)/2である。第一スリーブ1の厚さは、2.5mm以上5.0mm以下であることが好ましい。第一スリーブ1の厚さが2.5mm以上であれば、第二スリーブ2が圧縮されて第一スリーブ1が変形した際、心線部92に過度な圧縮力が作用することを抑制できる。心線部92に作用する圧縮力を緩和する観点から、第一スリーブ1の厚さは2.8mm以上がより好ましく、3.0mm以上が更に好ましい。一方、第一スリーブ1の厚さが5.0mm以下であれば、第一スリーブ1が過度に厚くなり過ぎず、組立キット5の大型化が抑制される。組立キット5の大型化を回避する観点から、第一スリーブ1の厚さは、4.5mm以下がより好ましく、4.0mm以下が更に好ましい。
【0054】
第一中空孔1hの内径は、心線部92の外接円の直径との差が小さいほうが好ましい。第二スリーブ2を圧縮して第一スリーブ1を変形させた際、変形した第一スリーブ1が心線部92のより溝を埋め易く、心線部92と第一スリーブ1とが密着し易いからである。第一スリーブ1の内径と心線部92の外接円の直径との差は、1mm以下とすることが好ましい。
【0055】
第一スリーブ1の長さは、後述する第二スリーブ2の第二中空孔2hの長さと同等以上であることが好ましい。第一スリーブ1は、後述する第二中空孔2hの底部21に接触する第一端11と、開口部22側に配置される第二端12とを備える。第一スリーブ1は、第一端11が底部21に接触した状態において、第二端12が開口部22から突出する長さを有することが好ましい。第一スリーブ1の第二端12が第二スリーブ2から突出していれば、第二スリーブ2が第一スリーブ1ごと圧縮されたとき、第二スリーブ2の開口部22から突出する第一スリーブ1の突出部が、外周側から第二スリーブ2に圧縮されることがない。その結果、第一スリーブ1の内角部13が心線部92を強く押圧し難いため、心線部92が断線し難い。内角部13は、第一スリーブ1における第二端12と第一中空孔1hの内周面との間に形成される角部である。本例とは異なり、第一スリーブ1は、第二端12が開口部22に面一となる長さであっても良い。
【0056】
内角部13が心線部92を損傷し難い構成として、少なくとも第二端領域1R(図3)における第一スリーブ1の外径が、第二端12に向かうに従って小さくなっていても良い。第二端領域1Rは、第一スリーブ1の軸方向における第二端12から所定長の領域である。本例の第二端領域1Rは、第一スリーブ1の第二端12から開口部22に対応する位置までの領域である。もちろん、第二端領域1Rにおける第一端11側の位置は、開口部22に対応する位置よりも第二端12側の位置でも第一端11側の位置でも良い。この構成は、第一スリーブ1の第二端12側の外径が先細りのテーパ形状となっているテーパ構成である。テーパ構成によれば、第二スリーブ2の圧縮領域2Rを圧縮したときに、第一スリーブ1の内角部13が心線部92に強く押圧され難い。本例とは異なり、第一スリーブ1の第一端11から第二端12に向かって、第一スリーブ1の全体の外径が徐々に小さくなっても良い。なお、図面上において第二端12の近傍に形成される外径が小さくなっている部分は、第一スリーブ1の第二端12の外部が面取りされている部分である。
【0057】
内角部13が心線部92を損傷し難い構成として、少なくとも第二端領域1Rにおける第一中空孔1hの内径が、第二端12に向かうに従って大きくなっていても良い。つまり、この構成は第一スリーブ1の第二端12側の内径が徐々に大きくなる内拡がり構成である。内拡がり構成によれば、第二スリーブ2の圧縮領域2Rを圧縮したときに、第一スリーブ1の内角部13が心線部92に強く押圧され難い。本例とは異なり、第一スリーブ1の第一端11から第二端12に向かって、第一中空孔1hの全体の内径が徐々に大きくなっても良い。
【0058】
第一スリーブ1における内拡がり構成とテーパ構成は、それぞれ単独で用いることもできるし、組み合わせて用いることもできる。ここで、これらの構成が第一スリーブ1に適用されると、第一スリーブ1の厚さが局所的に薄くなった箇所が形成される。その局所的に薄くなった箇所は、2.5mm以下であっても良い。
【0059】
第一中空孔1hにおける内周面の表面粗さRaは、0.2μm以上12.5μm以下であることが好ましい。表面粗さRaは、JIS0601-2001に準拠する算術平均粗さである。第一中空孔1hの内周面の表面粗さRaが0.2μm以上であれば、第一スリーブ1が圧縮されたときに、第一スリーブ1と心線部92との接続が強固になる。第一中空孔1hの内周面の表面粗さRaが12.5μm以下であれば、第一スリーブ1が圧縮されたときに、心線部92に損傷が生じ難い。
【0060】
第一スリーブ1における第一中空孔1hが形成される部分の外周面の表面粗さRaは、0.2μm以上12.5μm以下であることが好ましい。上記構成によれば、第二スリーブ2の圧縮領域2Rが圧縮されたとき、第二スリーブ2と、第二スリーブ2の内部に配置された第一スリーブ1との接続が強固になる。
【0061】
[第二スリーブ]
第二スリーブ2は、図2,3に示されるように、心線部92の端部を把持する部材である。組立キット5が送電線9に取り付けられる際、第二スリーブ2は、心線部92の端部及び第一スリーブ1を内部に収納した状態で圧縮される。
【0062】
第二スリーブ2は、第二中空孔2hを備える。第二中空孔2hは、底部21と開口部22を有する止まり穴である。つまり、第二スリーブ2は、一端側に第二中空孔2hを備え、他端側は中実の棒材である。第二中空孔2hは、内部に心線部92の端部及び第一スリーブ1を収納する。第二スリーブ2の軸方向に沿った第二中空孔2hの長さは、第二スリーブ2の圧縮領域2Rの長さ以上である。圧縮領域2Rについては後述する。
【0063】
第二中空孔2hを備える第二スリーブ2は、円筒状部材であることが好ましい。第二スリーブ2が円筒状部材であれば、第二スリーブ2が軸方向に実質的に直交する方向から圧縮されたときに、第二スリーブ2によって第一スリーブ1が全周にわたって均等に圧縮され易くなる。第二中空孔2hの形成は、例えば、第二スリーブ2の先端面にドリルで穴あけ加工を施すことで行える。
【0064】
第二スリーブ2の外周面には圧縮領域2Rを備える。圧縮領域2Rは、心線部92を把持するために圧縮すべき領域のことである。本例では、第二スリーブ2における開口部22が形成される端部から、第二中空孔2hの底部21よりも開口部22側の位置までが、圧縮領域2Rである。第二スリーブ2の軸方向における圧縮領域2Rの長さは、心線部92の外径、送電線9の全長などに応じて適宜選択される。例えば、圧縮領域2Rの長さは70mm以上250mm以下である。圧縮領域2Rはペイントなどのマーカーで示すことができる。後述するように、第二スリーブ2を圧縮する市販の圧縮機が1回に圧縮できる幅は決まっている。従って、圧縮領域2Rは複数回に分けて圧縮される。圧縮機によって圧縮領域2Rを若干超える部分が圧縮されることは許容される。
【0065】
第二スリーブ2は、第一スリーブ1を介して心線部92を強固に把持できる程度の圧縮力を第一スリーブ1に作用させる必要がある。この観点から、第二スリーブ2のビッカース硬さHvは100以上300以下であることが好ましい。上記ビッカース硬さHvを満たす材質として、鋼又は鋼合金が挙げられる。
【0066】
第二スリーブ2の厚さは、第二スリーブ2の外径d3、第二中空孔2hの内径d4としたとき、(d3-d4)/2である。第二スリーブ2の厚さは、3.5mm以上10.0mm以下であることが好ましい。第二スリーブ2の厚さが3.5mm以上であれば、第二スリーブ2が圧縮されたとき、第一スリーブ1を介して心線部92に適切な圧縮力を作用させられる。一方、第二スリーブ2の厚さが10.0mm以下であれば、第二スリーブ2が過度に厚くなり過ぎず、組立キット5の大型化が抑制される。
【0067】
本例の第二スリーブ2は、その圧縮時に第一スリーブ1の内角部13が心線部92を損傷することを抑制する構成を備える。その構成は、開口端領域20Rにおける第二スリーブ2の外径が、開口部22に向かうに従って小さくなるテーパ構成である。テーパ構成によれば、第二スリーブ2の圧縮領域2Rを圧縮したときに、開口部22近傍において第二スリーブ2が第一スリーブ1を強く押圧することを抑制できる。その結果、第一スリーブ1の内角部13によって心線部92が強く押圧されることを抑制できる。
【0068】
心線部92の損傷を抑制する構成として、開口端領域20Rにおける第二中空孔2hの内径が、開口部22に向かうに従って徐々に大きくなる内拡がり構成が挙げられる。この内拡がり構成によっても、開口部22近傍において第二スリーブ2が第一スリーブ1を強く押圧することを抑制できる。
【0069】
第二スリーブ2における内拡がり構成とテーパ構成は、それぞれ単独で用いることもできるし、組み合わせて用いることもできる。ここで、これらの構成が第二スリーブ2に適用されると、第二スリーブ2の厚さが局所的に薄くなった箇所が形成される。
【0070】
本例の第二スリーブ2は、開口部22とは反対側の端部に設けられるアイボルト24を備える。アイボルト24は、第二スリーブ2を鉄塔の碍子のヨークに接続することに利用される。アイボルト24の形状はリング状である。このアイボルト24は、後述する第三スリーブ3から突出する。
【0071】
[第三スリーブ]
第三スリーブ3は、図1に示されるように、第三中空孔3hを備える筒状部材である。第三中空孔3hは、第三スリーブ3の軸方向に沿って伸びる貫通孔である。第三中空孔3hの内部には、送電線9の導体部93の端部と、第二スリーブ2のアイボルト24以外の部分とが収納される。第三スリーブ3は、導体部93の端部及び第二スリーブ2の開口部22側の部分と共に圧縮される。第三スリーブ3は、導体部93の素線931と同じ材質によって構成されることが好ましい、具体的には、第三スリーブ3は、純Al又はAl合金によって構成される。
【0072】
第三スリーブ3は、送電線9の導体部93とジャンパ線95とを電気的に接続する役割を持つ。そのための構成として、本例の第三スリーブ3は、ソケット接続部30を備える。ソケット接続部30は、第三スリーブ3における接続対象側の端部、即ちジャンパ線95側の端部に設けられている。ソケット接続部30は、第三スリーブ3の軸方向にほぼ直交する方向に延びる平板状部材である。ソケット接続部30には、図示しない複数の挿通孔が設けられている。挿通孔には、ジャンパソケット4をソケット接続部30に固定するボルト4Bが挿通される。
【0073】
[ジャンパソケット]
ジャンパソケット4は、ソケット接続部30に接続される取付部40と、ジャンパ線95を把持する把持部48とを備える。ジャンパソケット4の材質は、純Al又はAl合金が挙げられる。
【0074】
取付部40は、ソケット接続部30に電気的かつ機械的に接続される。取付部40は、本例ではソケット接続部30を挟み込む二股状に形成されている。その二股状部は、それぞれソケット接続部30に対応した大きさを有する矩形板である。各二股状部には、ボルト4Bを挿通させる複数の挿通孔が形成されている。取付部40のソケット接続部30への接続は、二股状部でソケット接続部30を挟み、ボルト4Bで締め付けることで行える。
【0075】
[効果]
実施形態1に係る組立キット5によれば、送電線9への取付け時における送電線9の心線部92の損傷を抑制できる。第一中空孔1hに心線部92が収納され、第二中空孔2hに第一スリーブ1が収納された状態において、圧縮領域2Rにわたって第二スリーブ2の外周が圧縮機によって圧縮されたとき、第一スリーブ1の軸方向の伸びが、第二スリーブ2の軸方向の伸びよりも3mm以上長くなるからである。この点は、後述する試験例の結果によって裏付けられる。
【0076】
≪組立キットの施工方法≫
組立キット5の施工方法は、心線部接続工程と導体部接続工程とを備える。その説明にあたっては、送電線の接続構造100を示す図4を参照する。
【0077】
[心線部接続工程]
心線部接続工程では、第二スリーブ2の圧縮領域2Rを圧縮して、心線部92の端部と第二スリーブ2とを接続する。
【0078】
まず、送電線9の端部を段剥ぎして心線部92の端部を露出させる。送電線9の端部から第三スリーブ3を嵌め、第三スリーブ3を当該端部から離れた位置に逃がしておく。次いで、送電線9の端部から露出した心線部92を第一スリーブ1の第一中空孔1h内部に収納した後、これらを第二中空孔2hの内部に収納する。あるいは、第二中空孔2hの内部に第一スリーブ1を収納した後、その第一スリーブ1の第一中空孔1hの内部に心線部92を収納する。心線部92の先端が第二中空孔2hの底部21に当て止めされるまで第二中空孔2hの内部に収納することが好ましい。
【0079】
次に、第二スリーブ2の圧縮領域2Rを圧縮する。この圧縮領域2Rが圧縮されることで、圧縮領域2Rの内部にある第一スリーブ1が変形し、心線部92のより溝に嵌まり込む。圧縮領域2Rの圧縮は、圧縮領域2Rにおける第二スリーブ2の横断面の外形が、例えば六角形状となるように行う。
【0080】
圧縮領域2Rは、白抜き矢印で示されるように底部21側から複数回に分けて圧縮を行う正圧縮、又は塗り潰し矢印で示されるように開口部22側から複数回に分けて圧縮を行う逆圧縮によって圧縮される。圧縮には市販の圧縮機が利用される。市販の圧縮機には、100トン圧縮機と200トン圧縮機がある。圧縮機の圧縮ダイス幅は、圧縮部44の外径により決まっている。例えば、圧縮部44の外径が24mm以上28mm以下の場合、100トン圧縮機の圧縮ダイス幅は30mmで、200トン圧縮機の圧縮ダイス幅は60mmであり、圧縮領域2Rの外径が30mm以上34mm以上の場合、100トン圧縮機の圧縮ダイス幅は25mmで、200トン圧縮機の圧縮ダイス幅は50mmである。圧縮領域2Rの圧縮は、市販の100トン圧縮機を使用することで各圧縮幅を小さくできて、心線部92の損傷を抑制し易い。各圧縮幅が小さいほど、各圧縮における第一スリーブ1の変形度合いが小さく、第一スリーブ1の軸方向への伸びが小さい。そのため、第一スリーブ1の変形により心線部92の軸方向に作用する力を小さくできる。
【0081】
圧縮回数、即ち軸方向への圧縮の分割数は、多い方が好ましい。例えば、第二スリーブ2の圧縮領域2Rの外径が26mmで、圧縮領域2Rの長さが130mmの場合、200トン圧縮機を使用して60mm幅で以下のように合計3回の圧縮を行うよりも、100トン圧縮機を使用して30mm幅で以下のように合計6回の圧縮を行う方が好ましい。200トン圧縮機を使用して60mm幅で行う合計3回の圧縮のうち2回目の圧縮は、1回目の圧縮に対して20mm重複させ、3回目の圧縮は、2回目の圧縮に対して30mm重複させる。100トン圧縮機を使用して30mm幅で行う合計6回の圧縮のうち、2回目から6回目の各圧縮は、その前回の圧縮に対して10mmずつ重複させる。
【0082】
第二スリーブ2の軸方向に沿った各圧縮区間は、互いに一部重複するように行うことが好ましい。そうすれば、圧縮領域2Rにおいて圧縮されない部分が形成されない。圧縮区間の重複領域の長さは、例えば、各圧縮区間(圧縮幅)の1/5倍以上2/5倍以下程度とすることができ、更には1/4倍以上1/3倍以下とすることができる。各圧縮における圧縮機の圧縮幅(圧縮区間)及びその重複領域は、均等にすることが好ましい。圧縮区間の重複領域の長さは、圧縮幅の1/3倍が代表的である。
【0083】
圧縮領域2Rの圧縮率は、5%以上15%以下が好ましい。圧縮率を5%以上とすれば、第一スリーブ1を介して心線部92と第二スリーブ2とを十分に接続できる。圧縮率を15%以下とすれば、心線部92に作用する圧縮力が過度に大きくなり過ぎないため、心線部92の圧壊が抑制され易い。この圧縮率は、10%以上15%以下が特に好ましい。この圧縮率とは、{(A-B)/A}×100で求められる比率とする。「A」は、圧縮前における心線部92と第一スリーブ1と第二スリーブ2の合計断面積とする。「B」は、圧縮後における心線部92と第一スリーブ1と第二スリーブ2の合計断面積とする。
【0084】
[導体部接続工程]
導体部接続工程では、第三スリーブ3を圧縮して、導体部93の端部及び第二スリーブ2と、第三スリーブ3とを接続する。まず、送電線9の端部から離れた位置に逃がされていた第三スリーブ3を当該端部に移動させる。その結果、心線部92の端部が接続された第二スリーブ2及び導体部93の端部が第三スリーブ3の内部に収納される。次に、第三スリーブ3を圧縮する。この圧縮により、導体部93の端部と第三スリーブ3とを接続する。この圧縮では、第三スリーブ3の横断面形状が、例えば六角形状となるように圧縮する。この圧縮には市販の圧縮機を利用できる。
【0085】
≪送電線の接続構造≫
主として図4,5を参照して、実施形態1に係る送電線の接続構造100を説明する。この送電線の接続構造100は、送電線9と、送電線9の端部を圧縮してその端部を鉄塔の碍子に固定する電線保持部材7とを備える。電線保持部材7は、上述の組立キット5を用いて得られたものである。図4では説明の便宜上、図1に示されるジャンパソケット4は省略している。
【0086】
[第一スリーブ]
第一スリーブ1の第一中空孔1hの内周面は、心線部92の外周輪郭に沿って密着する密着面を有する。この密着面は心線部92のより溝を埋めるように形成され、密着面と心線部92との間には実質的に隙間が形成されていない。第一中空孔1hの密着面よりも第二スリーブ2の底部21側は、第一スリーブ1の内部に心線部92が挿通されない空隙部が形成されている。第一スリーブ1の外周面のうち密着面の外側に対応する箇所は、第二スリーブ2の第二中空孔2hの内周面の形状に沿っている。本例では、第一スリーブ1の横断面の外周輪郭形状は円形状である。
【0087】
図5に示されるように、第一スリーブ1の軸方向における第二端12から所定長の部分において、第一中空孔1hの内径が第二端12に向かうに従って大きくなっている。これは、電線保持部材7を構成する組立キット5において、圧縮領域2Rが圧縮されたときに第一スリーブ1が第二スリーブ2よりも軸方向に延び易くなっているからである。また、本例の組立キット5では、圧縮領域2Rの圧縮前において第一スリーブ1の第二端12が第二スリーブ2の開口部22から突出していることも、第一中空孔1hの内径が第二端12に向かうに従って大きくなる理由の一つである。第一スリーブ1の内径が第二端12に向かうに従って拡がっていることで、内角部13が心線部92の外周に食い込み難くなる。例えば風などで送電線9が揺れても、心線部92の外周が内角部13に強く押圧され難い。従って、経時的な心線部92の損傷が抑制され易いと考えられる。
【0088】
また、本例では、第一スリーブ1の第二端12が、第二スリーブ2の開口部22から突出している。つまり、第一スリーブ1における第二スリーブ2から突出した部分の外周は、第二スリーブ2に覆われていない。そのため、内角部13が心線部92を強く押圧することが抑制されるので、心線部92が損傷し難い。
【0089】
ここで、第一スリーブ1の第二端12における第一中空孔1hの内周面が、心線部92の外周面から離隔していても良い。この場合、第一スリーブ1の内角部13が心線部92に接触しない。この構成によれば、送電線9が揺れても、内角部13が心線部92に接触し難く、経時的に心線部92の損傷が抑制される。
【0090】
一方、第二スリーブ2の開口部22から突出している第一スリーブ1の外径は、第二端12に向かうに従って徐々に大きくなっている。つまり、第二スリーブ2の第二中空孔2hの開口部22から突出する第一スリーブ1の突出部分が、第一スリーブ1の径方向外方に拡がっている。これは、第一スリーブ1の内径が第二端12に向かうに従って拡がっているからである。
【0091】
[第二スリーブ]
第二スリーブ2の圧縮領域2Rにおける第二中空孔2hは、第一スリーブ1の外周輪郭形状に沿って密着する内周面を有する。電線保持部材7において、圧縮領域2Rは実際に圧縮された状態にある。圧縮領域2Rにおける第二中空孔2hの内周面と第一スリーブ1の外周面との間には、実質的に隙間が形成されていない。圧縮領域2Rの全域にわたって心線部92の端部が収納されていることが好ましく、心線部92の端部が収納されていない空隙部が形成されていないことが好ましい。圧縮領域2Rの外周面は、圧縮領域2Rを圧縮する圧縮機のダイス形状に沿っている。本例の圧縮領域2Rの横断面形状は六角形状である。
【0092】
圧縮領域2Rの外周面には、その軸方向に並列して形成される複数の圧縮痕を備える。各圧縮痕は、第二スリーブ2の周方向に略連続して形成される。その圧縮痕の数は、例えば、3個以上が好ましい。圧縮痕の数は、施工過程での圧縮回数をnとするとき、n個となる。圧縮痕同士の間隔は、第二スリーブ2の開口部22側又は底部21側のいずれか一方が最も長い。その間隔の長い箇所が、最初に圧縮された箇所である。2回目以降の圧縮では、圧縮区間の重複領域の圧縮領域2Rを実質的に圧縮しないため、重複する側では圧縮痕が形成されないからである。その他の箇所における圧縮痕同士の長さは、等間隔である。
【0093】
[第三スリーブ]
第三スリーブ3の内周面は、導体部93の外周輪郭に沿って密着する導体部密着面と、第二スリーブ2の外周輪郭に沿って密着するスリーブ密着面とを有する。導体部密着面は導体部93のより溝を埋めるように形成され、導体部密着面と導体部93との間には実質的に隙間が形成されていない。本例では、スリーブ密着面は、圧縮領域2Rの一部(先端側)の外周面と密着することもある。第三スリーブ3の外周面のうち、導体部密着面及びスリーブ密着面の外側に対応する箇所は、第三スリーブ3を圧縮する圧縮機のダイス形状に沿っている。本例では、圧縮された第三スリーブ3の横断面の外周輪郭形状は六角形状である。
【0094】
[用途]
実施形態1に係る送電線の接続構造100は、カーボンファイバの心線部92を有するアルミより線の送電線9を鉄塔に引き留めることに好適に利用される。
【0095】
[効果]
実施形態1に係る送電線の接続構造100によれば、送電線9と電線保持部材7との接合強度が高い。電線保持部材7を構成する組立キット5によって、心線部92が圧壊することなく、心線部92が電線保持部材7に接続されるからである。
【0096】
また、実施形態1に係る送電線の接続構造100によれば、経時的な心線部92の損傷が抑制されると考えられる。心線部92を把持する第一スリーブ1の内角部13が、第一スリーブ1の径方向外方に拡がっているため、当該内角部13が心線部92を強く押圧することが抑制されるからである。
【0097】
<実施形態2>
実施形態2に係る組立キット6を主として図6,7に基づいて説明する。実施形態2に係る組立キット6は、送電線9Aの接続対象が他の送電線9Bである中間接続構造である。図6,7では、組立キット6を構成する各部材が組まれた状態が示されている。送電線9A,9Bに関しては、図8,9を参照のこと。図7では、送電線9Aを仮想線によって示す。
【0098】
≪組立キット≫
本例の組立キット6は、鉄塔間に配置されて一方の送電線9Aと他方の送電線9Bとを電気的かつ機械的に接続する。組立キット6は、実施形態1の組立キット5と同様に、第一スリーブ1と第二スリーブ2と第三スリーブ3とを備える。
【0099】
[第一スリーブ]
本例の組立キット6は、二つの第一スリーブ1を備える。二つの第一スリーブ1は、実施形態1の第一スリーブ1と同様の構成を備える。本例の第一スリーブ1の第二端12は、図7に示されるように第二スリーブ2の開口部22から突出している。また、本例の第一スリーブ1も、第二スリーブ2の圧縮領域2Rが圧縮されたとき、第一スリーブ1の軸方向の伸びが第二スリーブ2の軸方向の伸びよりも3mm以上長くなるように構成されている。
【0100】
[第二スリーブ]
第二スリーブ2は、図6に示されるように心線部92の端部及び第一スリーブ1を内部に収納する2つの第二中空孔2hを備える。一方の第二中空孔2hと他方の第二中空孔2hとはそれぞれ、第二スリーブ2の軸方向の一端側と他端側とに設けられる。一方の第二中空孔2hと他方の第二中空孔2hとは連通していない。
【0101】
第二スリーブ2には、二つの第二中空孔2hに対応する二つの圧縮領域2Rを備える。一方の圧縮領域2Rは、一方の第二中空孔2hの開口部22から所定長の領域である。他方の圧縮領域2Rは、他方の第二中空孔2hの開口部22から所定長の領域である。一方の圧縮領域2Rと他方の圧縮領域2Rとで挟まれる領域は、送電線9A,9Bを接続する際に圧縮されない。
【0102】
[第三スリーブ]
第三スリーブ3は、一方の導体部93と他方の導体部93とを把持する。第三スリーブ3は、第二スリーブ2の全部と両導体部93の端部とを内部に収納する円筒状部材であり、軸方向の両端に開口部を有する。
【0103】
上記構成を備える組立キット6は、第一中空孔1hに心線部92が収納され、第二中空孔2hに第一スリーブ1が収納された状態において、圧縮領域2Rが圧縮されることで、送電線9A,9Bの心線部92を把持できる。その際、第一スリーブ1が第二スリーブ2よりも軸方向に伸び易くなっているので、心線部92の損傷が抑制される。
【0104】
≪送電線の接続構造≫
図6,7に示される組立キット6を用いて作製された実施形態2に係る送電線の接続構造101を図8,9に基づいて説明する。この送電線の接続構造101は、一方の送電線9Aと他方の送電線9Bと電線保持部材8とを備える。電線保持部材8は、一方の心線部92及び他方の心線部92の端部を把持する第一スリーブ1及び第二スリーブ2と、一方の導体部93及び他方の導体部93の端部を把持する第三スリーブ3とを備える。この電線保持部材8は、組立キット6に備わる第一スリーブ1及び第二スリーブ2の圧縮領域2Rと、第三スリーブ3とを個々に圧縮したものである。
【0105】
本例の送電線の接続構造101において、図9に示されるように、第一スリーブ1の軸方向における第二端12から所定長の部分において、第一中空孔1hの内径が、第二端12に向かうに従って大きくなっている。しかも、第一スリーブ1の内角部13が心線部92から離隔している。また、第一スリーブ1の第二端12が、第二スリーブ2の開口部22から突出している。更に、第二スリーブ2の開口部22から突出している第一スリーブ1の外径は、第二端12に向かうに従って徐々に大きくなっている。
【0106】
本例の送電線の接続構造101によっても、実施形態1の送電線の接続構造100(図4)と同様の効果が得られる。
【0107】
<試験例>
試験例では、実施形態1に示す組立キット5の第一スリーブ1と第二スリーブ2とを用いて、複数の圧縮条件の下、送電線9の心線部92を圧縮する圧縮試験を行った。一つの圧縮条件に対して必ず複数の送電線9の圧縮試験を実施している。
【0108】
≪試験例1≫
試験例1の心線部92は、カーボンファイバとエポキシ樹脂とで構成された7本の素線921をより合わせたより線であった。心線部92の外径、即ち複数の素線921の外接円の直径は6.9mmであった。一方、組立キット5は3種類用意した。
【0109】
用意した組立キット5の主要寸法は表1に示される。表中の『AL』は、純Al製の第一スリーブ1を、『ST』は鋼製の第二スリーブ2を意味する。外径及び内径の寸法の単位はミリメートル(mm)である。第一スリーブ1のビッカース硬さHvは15以上30以下、第二スリーブ2のビッカース硬さHvは100以上300以下であった。ラップ割合の右側に表示される『t1=』の後の数字は、AL外径とAL内径とから求めた圧縮前の第一スリーブ1の厚さ(mm)を示す。『t2=』の後の数字は、ST外径とST内径とから求めた圧縮前の第二スリーブ2の厚さ(mm)を示す。第一スリーブ1における第一中空孔1hの内周面の表面粗さRaは0.2μm以上12.5μm以下、第一中空孔1hが形成される部分の外周面の表面粗さRaは0.2μm以上12.5μm以下であった。いずれの試料においても、第一スリーブ1の第一端11が第二スリーブ2の第二中空孔2hの底部21に接触した状態において、第一スリーブ1の第二端12が第二中空孔2hの開口部22から突出していた。その突出長さは0mm超1.0mm以下であった。また、各試料の圧縮領域2Rの長さは140mmであった。
【0110】
なお、第一スリーブ1と第二スリーブ2の材質とビッカース硬さHv、第一スリーブ1の内周面と外周面の表面粗さRa、及び第一スリーブ1の突出長さは、試験例1以降の試験例2~6においても同様である。
【0111】
心線部92の端部を第一スリーブ1の内部に収納し、更にこれらを第二スリーブ2の第二中空孔2hに収納する。そして、市販の100トン圧縮機により第二スリーブ2の圧縮領域2Rをその外周輪郭外形が六角形状となるように圧縮した。圧縮は複数回に分けて行われる。圧縮幅の単位はミリメートルである。ここで、nを1以上の自然数としたとき、n+1回目の圧縮箇所とn回目の圧縮箇所とが重複する割合をラップ割合とする。上記ラップ割合が大きいほど、心線部92に作用するストレスは小さくなる。圧縮条件は表1に示される。表1に示される圧縮条件はいずれも、第二スリーブ2の開口部22側から順次圧縮を行う逆圧縮であった。
【0112】
圧縮試験の結果を表1に示す。試験条件のナンバーの行と、試料ナンバーの列とが交差するセルには、心線部92の断線率をパーセントで示す。心線部92を構成する素線921が1本でも切れた送電線9は、断線したと判断する。断線結果の右にカッコ書きで記載されている分数の分母は試験した送電線9の数、分子は断線した送電線9の数を示す。『-』は試験を行っていないことを示す。
【0113】
【表1】
【0114】
次に、各試料を縦断し、第一スリーブ1の軸方向の長さと第二スリーブ2の軸方向の長さを測定し、圧縮前の各長さと比較して、第一スリーブ1の軸方向の伸びと、第二スリーブ2の軸方向の伸びの差を求めた。その結果、試料No.1では、いずれの圧縮条件においても伸びの差が2mm程度、試料No.2及び試料No.3では、いずれの圧縮条件においても伸びの差が3mm以上であった。
【0115】
表1に示されるように、圧縮条件3において、第一スリーブ1の厚さが2.3mm、第二スリーブ2の厚さが5.5mmである試料No.1では心線部92の断線が生じたが、第一スリーブ1の厚さが2.8mm、第二スリーブ2の厚さが5.0mmである試料No.2では心線部92の断線は生じなかった。また、第一スリーブ1の厚さが3.3mm、第二スリーブ2の厚さが4.5mmである試料No.3では、厳しい圧縮条件である圧縮条件1及び圧縮条件2においても心線部92の断線が生じなかった。従って、第一スリーブ1の厚さが2.5mm以上5.0mm以下で、第二スリーブ2の厚さが3.5mm以上10.0mm以下であれば、心線部92に断線が生じ難いことが分かった。ラップ割合が小さくなるほど、所定長の圧縮領域2Rを圧縮するために必要な圧縮の回数が減る。従って、心線部92が断線し難い組立キット5は、電線保持部材7の取付作業性を向上させることにも寄与する。
【0116】
≪試験例2≫
試験例2の心線部92は、7本の素線921をより合わせたより線であって、その外径が7.8mmである。試験例2において使用される試料No.4から試料No.7の組立キット5は表2に示す通りである。各試料の圧縮領域2Rの長さは140mmであった。
【0117】
試験例2における圧縮条件は、試験例1の圧縮条件2,3,4のいずれかであった。圧縮試験の結果を表2に示す。表2の見方は表1と同じである。
【0118】
【表2】
【0119】
試料No.4では、いずれの圧縮条件においても第一スリーブ1と第二スリーブ2の軸方向の伸びの差が2mm程度であった。一方、試料No.5から試料No.7では、いずれの圧縮条件においても上記伸びの差が3mm以上であった。
【0120】
表2に示されるように、圧縮条件2において、第一スリーブ1の厚さが1.8mm、第二スリーブ2の厚さが5.5mmである試料No.4では心線部92が断線した。一方、圧縮条件1において、第一スリーブ1の厚さが2.8mm、第二スリーブ2の厚さが4.5mmである試料No.5、及び第一スリーブの厚さが3.3mm、第二スリーブ2の厚さが4.9mmである試料No.6では心線部92の断線は生じなかった。圧縮条件2において、第一スリーブの厚さが3.3mm、第二スリーブ2の厚さが5.0mmである試料No.7では心線部92の断線が生じたが、これは圧縮率が高いためと推察される。
【0121】
≪試験例3≫
試験例3の心線部92は、7本の素線921をより合わせたより線であって、その外径が8.3mmである。試験例3において使用される試料No.8から試料No.10の組立キット5は表3に示す通りである。各試料の圧縮領域2Rの長さは160mmであった。
【0122】
試験例3における圧縮条件は、試験例1の圧縮条件2,3,4のいずれかであった。圧縮試験の結果を表3に示す。表3の見方は表1と同じである。
【0123】
【表3】
【0124】
試料No.8では、いずれの圧縮条件においても第一スリーブ1と第二スリーブ2の軸方向の伸びの差が2mm程度であった。一方、試料No.9及び試料No.10では、いずれの圧縮条件においても上記伸びの差が3mm以上であった。
【0125】
表3に示されるように、実施した全ての試験において心線部92の断線は生じなかった。圧縮率が低く、圧縮条件が厳しくなければ、第一スリーブ1の厚さが2.05mm、第二スリーブ2の厚さが5.0mmである試料No.8でも断線が生じなかった。しかし、圧縮率が高くなったり、圧縮条件が厳しくなれば、試料No.8において心線部92の断線が生じる可能性は高いと考えられる。
【0126】
≪試験例4≫
試験例4の心線部92は、7本の素線921をより合わせたより線であって、その外径が9.6mmである。試験例4において使用される試料No.11及び試料No.12の組立キット5は表4に示す通りである。各試料の圧縮領域2Rの長さは180mmであった。
【0127】
試験例4における圧縮条件は、試験例1の圧縮条件2,3,4のいずれかであった。圧縮試験の結果を表4に示す。表4の見方は表1と同じである。
【0128】
【表4】
【0129】
試料No.11では、いずれの圧縮条件においても第一スリーブ1と第二スリーブ2の軸方向の伸びの差が2mm程度であった。一方、試料No.12では、いずれの圧縮条件においても上記伸びの差が3mm以上であった。
【0130】
第一スリーブ1の厚さが2.4mm、第二スリーブ2の厚さが6.0mmである試料No.11では、圧縮条件3において心線部92の断線が生じた。第二スリーブ2が厚く、第二スリーブ2からの圧縮力が高いことに加え、第一スリーブ1の厚さが薄く、第二スリーブ2からの圧縮力を十分に緩和できないからと考えられる。一方、第一スリーブの厚さが2.9mm、第二スリーブ2の厚さが5.5mmである試料No.12では、いずれの圧縮条件においても心線部92の断線は生じなかった。
【0131】
≪試験例5≫
試験例5の心線部92は、7本の素線921をより合わせたより線であって、その外径が10.8mmである。試験例5において使用される試料No.13及び試料No.14の組立キット5は表5に示す通りである。各試料の圧縮領域2Rの長さは200mmであった。
【0132】
試験例5では、圧縮条件5又は圧縮条件6により行った。圧縮条件5,6は表5に示す通りである。圧縮は、市販の100トン圧縮機により行った。圧縮試験の結果を表5に示す。表5の見方は表1と同じである。
【0133】
【表5】
【0134】
試料No.13及び試料No.14では、いずれの圧縮条件においても第一スリーブ1と第二スリーブ2の軸方向の伸びの差が3mm以上であった。
【0135】
表5に示されるように、実施した全ての試験において心線部92の断線は生じなかった。圧縮率は10%を超えているが、第一スリーブ1の厚さが2.5mm以上5.0mm以下、第二スリーブ2の厚さが3.5mm以上10.0mm以下であることで、第一スリーブ1が伸び易く、心線部92に過剰な負荷がかからなかったためと推察される。
【0136】
≪試験例6≫
試験例6の心線部92は、7本の素線921をより合わせたより線であって、その外径が12.5mmである。試験例6において使用される試料No.15の組立キット5は、表6に示す通りである。試料No.15の圧縮領域2Rの長さは200mmであった。
【0137】
試験例6の圧縮条件は、試験例5の圧縮条件6、又は表6に示す圧縮条件7のいずれかであった。その結果を表6に示す。
【0138】
【表6】
【0139】
試料No.15では、いずれの圧縮条件においても第一スリーブ1と第二スリーブ2の軸方向の伸びの差が3mm以上であった。
【0140】
表6に示されるように、実施した全ての試験において心線部92の断線は生じなかった。第一スリーブ1の厚さが2.5mm以上5.0mm以下であれば、比較的第二スリーブ2が厚く、第二スリーブ2からの圧縮力が強くても、心線部92が断線し難いことがわかった。
【0141】
<付記>
以上説明した本開示の実施形態に関連して、更に以下の構成を開示する。
【0142】
心線部の外周に導体部が設けられた送電線の端部を保持して、前記送電線を接続対象に電気的に接続させる電線保持部材を構成する組立キットであって、
第一中空孔を有する第一スリーブと、
前記第一スリーブを収納する第二中空孔を有する第二スリーブと、
前記第二スリーブを収納する第三中空孔を有する第三スリーブとを備え、
前記第二中空孔は、底部と開口部とを有し、
前記第一スリーブは、前記底部に接触する第一端と、前記開口部側に配置される第二端とを備え、
前記第一端が前記底部に接触した状態において、前記第二端が前記開口部から突出する、
組立キット。
【0143】
付記に記載される組立キットは、特に、第二スリーブの第二中空孔の開口端近傍における心線部の断線を抑制できる。第二スリーブを圧縮する際、第一スリーブの第二端近傍が、第二スリーブに覆われることなく第二スリーブから露出しているため、第一スリーブの径方向外方に拡がることができるからである。
【符号の説明】
【0144】
100,101 送電線の接続構造
1 第一スリーブ
1h 第一中空孔、1R 第二端領域
11 第一端、12 第二端、13 内角部
2 第二スリーブ
2h 第二中空孔、2R 圧縮領域
21 底部、22 開口部、24 アイボルト
3 第三スリーブ
3h 第三中空孔
30 ソケット接続部
4 ジャンパソケット
40 取付部、48 把持部、4B ボルト
5,6 組立キット
7,8 電線保持部材
9,9A,9B 送電線
92 心線部 921 素線
93 導体部 931 素線
95 ジャンパ線
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9