(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】撥水撥油性コーティング組成物、およびその用途
(51)【国際特許分類】
C09D 183/08 20060101AFI20231018BHJP
C09D 163/00 20060101ALI20231018BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231018BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20231018BHJP
【FI】
C09D183/08
C09D163/00
C09D7/20
C09D7/63
(21)【出願番号】P 2020053000
(22)【出願日】2020-03-24
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003975
【氏名又は名称】日東紡績株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504229284
【氏名又は名称】国立大学法人弘前大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】瀧下 俊平
(72)【発明者】
【氏名】土澤 健一
(72)【発明者】
【氏名】照内 洋子
(72)【発明者】
【氏名】橋本 三昌
(72)【発明者】
【氏名】澤田 英夫
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-133334(JP,A)
【文献】特開2002-241744(JP,A)
【文献】特開平05-339538(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00 - 10/00
C09D 101/00 - 201/10
C09K 3/18
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
C08G 77/00 - 77/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)成分、(b)成分
、(c)成分
、(d)成分、及び(g)成分を含有する、コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R
4-n-Si-(OR’)
n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H
3BO
3及びB
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)下記式(II)で表される、フッ素含有化合物
【化1】
(上記式(II)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。)
;
(d)炭素数4の分岐アルコールである有機溶媒;
(g)エポキシ樹脂。
【請求項2】
前記(d)有機溶媒を20質量%以上含有する、請求項
1に記載のコーティング組成物。
【請求項3】
更に(e)金属アルコキシド((a)成分又は(c)成分に該当するものを除く。)を含有する、請求項1
又は2に記載のコーティング組成物。
【請求項4】
下記(a)成分、(b)成分
、(c)成分
、及び(g)成分を反応させる工程を有する、コーティング層の製造方法:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R
4-n-Si-(OR’)
n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす);
(b)H
3BO
3及びB
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)下記式(II)で表される、フッ素含有化合物
【化2】
(上記式(II)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。)
;
(d)炭素数4の分岐アルコールである有機溶媒;
(g)エポキシ樹脂。
【請求項5】
前記工程が(d)有機溶媒を20質量%以上含有する組成物中で実施される、請求項
4に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項6】
前記工程において、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分が、更に(e)金属アルコキシド((a)成分又は(c)成分に該当するものを除く。)とも反応する、請求項
4又は5に記載のコーティング層の製造方法。
【請求項7】
請求項1から
3のいずれか一項に記載のコーティング用組成物を塗布する工程を有する、コーティング層の製造方法。
【請求項8】
金属基板、ガラス基板、木材、又はセラミック基板上にコーティング層を形成する、請求項
4から7のいずれか一項に記載の、コーティング層の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ基を有する有機シラン化合物、ホウ素化合物、及び特定のフッ素化合物を含む、コーティング組成物及びその用途に関し、より具体的には撥水性及び撥油性に優れた上記コーティング組成物及びその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
有機シラン化合物とホウ素化合物とを反応させて得られる高分子物質は、無機材料の長所と有機材料の長所とを両立させることが可能であり、より具体的には高い硬度、割れの防止、透明性、耐熱性、耐薬品性等を用途に応じて適宜具備する設計が可能であるため、コーティング材、塗料、接着剤、ガラス基材、フィラー等の各種用途に応用されている。
【0003】
特に、アミノ基を有する有機シラン化合物と特定のホウ素化合物とを反応させて得られる高分子物質は、ゾル・ゲル法などで必要とされる加水分解などの複雑な工程を要せず、比較的短時間で形成可能であり、一液常温硬化性の材料に適用可能であるなどの優れた性質を有する(例えば、特許文献1参照。)。
また、上記アミノ基を有する有機シラン化合物と特定のホウ素化合物に対して、更に金属アルコキシド及びリチウムを組み合わせることで、常温常湿下での乾燥でも、ハードコート特性が良く、かつ金属への密着性の良い被膜が得られることが報告されており、金属のみならず、ガラス、セラミック、プラスチック等へのコーティング剤としての応用が提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
コーティング用途においては、防汚性の観点から撥水性、撥油性に関する性能が要求されることが多く、コーティングの具体的な用途、使用環境等によっては撥水性及び撥油性の両方を要求される場合があるが、撥水性と撥油性とを兼ね備えたコーティング剤は少なく、これらを高いレベルで両立できるコーティング剤が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2006/129695号
【文献】特開2011-26473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の撥水性及び撥油性に対する強い要求、及び従来技術の限界に鑑み、本発明は、アミノ基を有する有機シラン化合物とホウ素化合物とを含有するコーティング用組成物であって、好ましくは高い硬度等の優れた諸特性を維持しながら、硬化後のコーティングの撥水性及と撥油性とを高いレベルで両立することができるコーティング組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討の結果、アミノ基を有する有機シラン化合物と特定の構造を有するホウ素化合物との組み合わせに対して、更に特定の構造を有するフッ素含有化合物を組み合わせることで、コーティングの撥水性と撥油性とを従来技術の限界を超えて高いレベルで両立でき、更に好ましくはコーティングの高い硬度、透明性等の優れた諸特性を維持できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、
[1]
下記(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を含有する、コーティング組成物:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R
4-n-Si-(OR’)
n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。);
(b)H
3BO
3及びB
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)下記式(II)で表される、フッ素含有化合物
【化1】
(上記式(II)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。)、に関する。
【0008】
また、下記[2]から[16]は、いずれも本発明の好ましい一態様又は一実施形態である。
[2]
更に(d)有機溶媒を含有する、[1]に記載のコーティング組成物。
[3]
前記(d)有機溶媒が、炭素数1から5のアルコールを含有する、[2]に記載のコーティング組成物。
[4]
前記炭素数1から5のアルコールが、炭素数3から5の分岐アルコールである、[請求項3]に記載のコーティング組成物。
[5]
前記(d)有機溶媒を20質量%以上含有する、[2]から[4]のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[6]
更に(e)金属アルコキシド((a)成分又は(c)成分に該当するものを除く。)を含有する、[1]から[5]のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[7]
更に(g)エポキシ樹脂を含有する、[1]から[6]のいずれか一項に記載のコーティング組成物。
[8]
下記(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を反応させる工程を有する、コーティング層の製造方法:
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R
4-n-Si-(OR’)
n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす);
(b)H
3BO
3及びB
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)下記式(II)で表される、フッ素含有化合物
【化2】
(上記式(II)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。)。
[9]
前記工程が(d)有機溶媒中で実施される、[8]に記載のコーティング層の製造方法。
[10]
前記(d)有機溶媒が、炭素数1から5のアルコールを含有する、[9]に記載のコーティング層の製造方法。
[11]
前記炭素数1から5のアルコールが、炭素数3から5の分岐アルコールである、[10]に記載のコーティング層の製造方法。
[12]
前記(d)有機溶媒を20質量%以上含有する、[9]から[11]のいずれか一項に記載のコーティング層の製造方法。
[13]
前記工程において、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分が、更に(e)金属アルコキシド((a)成分又は(c)成分に該当するものを除く。)とも反応する、[8]から[12]のいずれか一項に記載のコーティング層の製造方法。
[14]
前記工程において、(a)成分、(b)成分、及び(c)成分が、更に(g)エポキシ樹脂とも反応する、[8]から[13]のいずれか一項に記載のコーティング層の製造方法。
[15]
[1]から[7]のいずれか一項に記載のコーティング用組成物を塗布する工程を有する、コーティング層の製造方法。
[16]
金属基板、ガラス基板、木材、又はセラミック基板上にコーティング層を形成する、[8]から[15]のいずれか一項に記載の、コーティング層の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、硬化後のコーティングの撥水性及び撥油性を高いレベルで両立できるコーティング組成物、並びにコーティング層の製造方法等のコーティング組成物の用途が提供される。
当該コーティング用組成物は、それから得られるコーティングの撥水性と撥油性とを従来技術の限界を超えた高いレベルで両立でき、さらに好ましくは有機シラン化合物とホウ素化合物とを反応させて得られる高分子物質に由来する高い硬度、透明性等の優れた特性を維持することができるので、建築内装材や外壁材等の水溶性の汚れ、及び油性の汚れの双方に暴露される部材のコーティングにおいて、特に好適に使用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、下記(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を含有する、コーティング組成物である。
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R
4-n-Si-(OR’)
n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。)。
(b)H
3BO
3及びB
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物。
(c)下記式(II)で表される、フッ素含有化合物
【化3】
(上記式(II)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。)。
【0011】
すなわち本発明のコーティング組成物は、上記(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、(b)成分(ホウ素化合物)、及び(c)成分(特定の化学構造を有するフッ素含有化合物)を含有する組成物である。本発明のコーティング組成物を硬化させて得られるコーティング層は、通常、これら(a)から(c)成分を反応させ得られる化学構造を、その少なくとも一部に含む化合物を含有する。また、本発明のコーティング組成物は、硬化前においても(a)から(c)成分が一部反応していてもよく、(a)から(c)成分の反応生成物を一部含有していてもよい。
上述の(a)成分(アミノ基を含むシラン化合物)、(b)成分(ホウ素化合物)、及び(c)成分(特定の化学構造を有するフッ素含有化合物)を反応させて得られる化学構造は、多くの場合、高分子構造を形成する。典型的には、(b)ホウ素化合物が、(a)アミノ基を含むシラン化合物中のアミノ基を介して架橋剤として働き、これらの成分を高分子化させて、(b)ホウ素化合物から導かれる構成単位と(b)ホウ素化合物から導かれる構成単位とを有する高分子構造が形成される。
すなわち、この好ましい実施形態のコーティング組成物は、(a)成分と(b)成分とが、典型的には10~50℃の条件下で、高分子構造を有する反応生成物を形成可能な組み合わせとなっている。すなわち当該反応生成物は、(a)成分から導かれる構成単位、と(b)成分から導かれる構成単位とを有する高分子構造を有するものである。この高分子構造においては、(a)成分から導かれる構成単位と(b)成分から導かれる構成単位との比率が、(a)成分から導かれる構成単位1モルに対して(b)成分から導かれる構成単位0.02モル以上であることが好ましい。
【0012】
またこの実施形態においては、(a)成分から導かれる構成単位、と(b)成分から導かれる構成単位とを有する高分子構造が(c)成分のフッ素含有化合物によって変性された構造を有することが好ましい。しかし、上記反応生成物がそれ以外の構造、例えば(c)成分のフッ素含有化合物から導かれる構成単位が、(a)成分から導かれる構成単位、と(b)成分から導かれる構成単位とを有する高分子構造に取り込まれた構造を有していてもよい。
【0013】
(a)アミノ基を含むシラン化合物
本発明において用いられる(a)成分は、以下の式で表わされる特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物である。
R4-n-Si-(OR’)n
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす。)
【0014】
ここで、Rはアミノ基含有の有機基を表わすが、たとえば、モノアミノメチル、ジアミノメチル、トリアミノメチル、モノアミノエチル、ジアミノエチル、トリアミノエチル、モノアミノプロピル、ジアミノプロピル、トリアミノプロピル、モノアミノブチル、ジアミノブチル、トリアミノブチル、及びこれらよりも炭素数の多いアルキル基またはアリール基を有する有機基を挙げることができるが、それらに限定されない。γ―アミノプロピルや、アミノエチルアミノプロピルが特に好ましく、γ―アミノプロピルが最も好ましい。
【0015】
(a)成分中のR’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わす。その中でも、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0016】
(a)成分中のnは1~3から選択される整数を表わす。その中でも、nは2~3であるのが好ましく、nは3であるのが特に好ましい。
したがって、(a)成分としては、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-β-(アミノエチル)-γ-アミノプロピルトリメトキシシランなどが特に好ましい。
【0017】
(b)ホウ素化合物
本発明において用いられる(b)成分は、H3BO3及びB2O3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物である。(b)成分は、好ましくは、H3BO3である。
【0018】
(a)成分と(b)成分との反応における両成分の使用量は、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル以上の比率であることが好ましく、より好ましくは、(a)成分1モルに対して(b)成分0.02モル~8モルの比率、更に好ましくは、0.02モル~5モルの比率である。
(a)成分1モルに対し、(b)成分が0.02モル以上であることで、固化に要する時間が過度に長くなったり、充分に固化しなかったりする等の問題を効果的に抑制できる。また、(a)成分1モルに対し(b)成分が8モル以下であることで、(b)成分が(a)成分に溶解せず残ってしまう等の問題を効果的に抑制できる。
【0019】
(a)アミノ基を含むシラン化合物と(b)ホウ素化合物とを反応させる際の混合条件(温度、混合時間、混合方法など)は、適宜選択することができる。通常の室温条件では、数分から数十分で透明で粘稠な液体となり、固化する。固化する時間や得られる反応生成物の粘度や剛性はホウ素化合物の割合でも異なるため、得るべき反応生成物の物性や使用目的に応じて、これらの条件を適宜調節することが好ましい。
【0020】
前記ホウ素化合物(b)は、好ましくは、炭素数1~7のアルコールに溶解したホウ素化合物アルコール溶液の形態で用いることができる。炭素数1~7のアルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、各種プロピルアルコール、各種ブチルアルコール、及びグリセリンなどが挙げられるが、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールが好ましい。当該アルコール溶液を使用することにより、(b)成分を(a)成分に溶解する時間を短縮できる。なお、取り扱い上アルコール中のホウ素化合物の濃度は高いほうが好ましい。
【0021】
前記好ましい態様における(a)成分と(b)成分との反応生成物は、水を添加して加水分解する工程を経ないで(a)成分と(b)成分を反応させて得られる反応生成物であることが好ましい。このとき、水を添加して加水分解する工程を要さないため、ゾル・ゲル形成等の複雑な工程を要せず、しかも、長時間を要することなく、上記反応生成物を製造することができる。
【0022】
(c)フッ素含有化合物
本発明において用いられる(c)成分は、下記式(II)で表される、フッ素含有化合物である。
【化4】
上記式(II)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。
【0023】
上記式(II)において、R
1で表されるフルオロアルキル基を含有する基としては、例えば、-CF
3、-C
2F
5、-C
3F
7、-C
6F
13、-C
7F
15等の-C
qF
2q+1(q=1~10)で表されるフルオロアルキル基;オキシフルオロアルキレン基等を挙げることができ、これらのうち、下記式(III)で示されるオキシフルオロアルキレン基であるのが好ましい。
【化5】
上記式(II)中、pは0~2の整数である。
【0024】
上記式(I)において、R2で表されるアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基等の炭素数1~2のアルキル基が挙げられ、R2で表されるアルコキシアルキル基としては、例えば、メトキシメチル基、メトキシエチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基等の炭素数2~4のアルコキシアルキル基が挙げられる。これらのうち、R2で表される基としては、アルキル基が好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0025】
上記式(I)において、R
3及びR
4で表される有機基としては、例えば、下記式(i)~(v)で示される基を挙げることができる。
【化6】
【0026】
上記式(I)において、トリアルコキシシリル基又はトリアルコキシアルコキシシリル基(-Si(OR2)3)が結合する中間鎖(-CH2-CH-)の数xは、1~100であり、好ましくは1~50、より好ましくは1~10、特に好ましくは2~5である。また、中間鎖(-CH2-CR3R4-)の数yは、0~100であり、好ましくは0~50、より好ましくは0~10である。
【0027】
上記フッ素含有化合物として好適な化合物としては、下記式(IIa)~(IIe)で示される化合物を例示することができる。特に、上記フッ素含有化合物が下記式(IIa)又は式(IIb)で示される化合物(上記式(II)においてy=0である化合物)であると、1分子中に占められるフッ素原子の割合が大きいことで、(c)フッ素含有化合物による変性反応を効率的に進行させることができる。
【0028】
【0029】
【0030】
【化9】
式(IIb)及び式(IIc)中、R
1’は、-CF(CF
3)OCF
2CF(CF
3)OC
3F
7で表される基である。式(IIb)中、xaは1~100の整数である。式(IIc)中、xbは1~100の整数であり、ybは1~500の整数である。
【0031】
【化10】
式(IId)中、xcは1~10の整数であり、ycは0~100の整数である。
【0032】
【化11】
式(IIe)中、xdは1~10の整数であり、ydは0~100の整数である。
【0033】
上記式(II)で示されるフッ素含有化合物の製造方法に特に制限はないが、好ましい下記式(2a)で示されるフッ素含有過酸化物の存在下に、下記式(2b)で示される単量体と、下記式(2c)で示される単量体とを重合させることにより得られる。なお、この反応生成物(フッ素含有化合物)中には、フルオロアルキル基を含有する基(R
1)が片末端のみに導入されているオリゴマーが任意の割合で含まれていてもよい。
【化12】
式(2a)~(2c)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表す。
【0034】
(c)フッ素含有化合物の使用量には特に制限はなく、コーティング組成物の用途や要求特性、(a)アミノ基を含むシラン化合物及び/又は(b)ホウ素化合物との反応条件や反応性を考慮して適宜設定すれば良い。
好ましくは、(a)成分及び(b)成分の合計量1モルに対して、0.002~0.5モル使用することが好ましく、0.02~0.3モル使用することが特に好ましい。
(c)フッ素含有化合物の使用量が、(a)成分及び(b)成分の合計量1モルに対して、0.002モル以上であることは、撥水性・撥油性等の観点から好ましい。
(c)フッ素含有化合物の使用量が、(a)成分及び(b)成分の合計量1モルに対して、0.5モル以下であることは、塗膜外観等の観点から好ましい。
【0035】
(d)有機溶媒
本発明のコーティング組成物は、反応の速度や均一性、コーティング塗工の容易性などの観点から、(d)有機溶媒を含むことが好ましい。
上記(d)有機溶媒には特に制限はなく、常温において液体であり、上記各成分、とりわけ(a)から(c)成分を溶解又は分散することができる有機溶媒を適宜使用することができる。
【0036】
一部極性基を有する上記各成分との親和性や、コーティングの被塗工物との親和性との観点からは、上記(d)有機溶媒が、一定の極性を有し水と相溶性を有する、いわゆる水溶性有機溶媒であることが好ましい。
(d)成分として好ましく用いられる水溶性有機溶媒は、希釈剤として働き、水溶性であれば特に限定されないが、例えばアルコール類、エステル類を好ましく使用することができる。なかでも炭素数1から5のアルコールを含む有機溶媒を、(d)成分として用いることが好ましい。炭素数1から5のアルコールは、直鎖状であっても分岐状であってもよいが、分岐状(この場合炭素数は3から5となる。)であると、一層優れた撥水性及び撥油性を実現できるので特に好ましい。
また、メトキシメチルブタノール(MMB)等の、より高分子量のアルコールを使用又は併用することもできる。この様なより高分子量のアルコールや、酢酸エチル等のエステル類を使用した場合でも、炭素数1から5の直鎖状のアルコールを用いた場合と同様の良好な撥水性及び撥油性を実現できることがある。
【0037】
炭素数が1以上のアルコールを用いることで、当該実施態様のコーティング組成物から得られるコーティングは、小さな水滑落角や優れたマジック耐性などの、撥水撥油性コーティングとしての優れた特性を一層効果的に実現することができる。
炭素数が5以下のアルコールを用いることで、当該実施態様のコーティング組成物は、優れた塗工性を実現することができる。
【0038】
(d)有機溶媒の使用量には特に制限はなく、上記(a)から(c)成分をはじめとする各成分間の反応効率や、コーティングの塗工における効率や作業性、得られるコーティングの品質等を考慮しながら適宜設定すればよい。
撥水撥油性コーティングの一般的な使用形態を前提とすれば、(d)有機溶媒の使用量が、コーティング組成物の20~90質量%であることが好ましく、40~70質量%であることがより好ましい。
【0039】
(e)金属アルコキシド
本発明のコーティング組成物は、好ましくは更に(e)金属アルコキシド((a)成分又は(c)に該当するものを除く)を含有することができる。
したがって、本実施形態のコーティング組成物の反応により形成され得る高分子物質は、上記(a)成分から(c)成分の反応生成物である高分子構造が、更に(e)金属アルコキシドで変性された構造を有していてもよい。
すなわち、前記(a)成分及び(b)成分の反応に際して、あるいは、反応後、金属アルコキシド((e)成分)を添加することができる。(e)金属アルコキシドを添加することにより、高分子構造を適宜調整したり、得られる反応生成物中の金属塩の含有率を高めるたりすることができ、機械特性、化学特性等をより向上させることができるとともに、(e)成分を用いない場合と同様の粘稠な液体の状態とすることができるので、コーティングの性状、物性を用途に応じて適宜調整することができる。
【0040】
(d)成分の金属アルコキシドからは、上記(a)成分に該当する化合物(特定の構造を有する、アミノ基を含むシラン化合物)及び上記(c)成分に該当する化合物(特定の構造を有するフッ素含有化合物)は除外されるが、それ以外の制限は(e)成分の金属アルコキシドには適用されず、上記(a)成分及び(c)成分に該当しない限り、一般に金属アルコキシドに分類される化合物、すなわち少なくとも1の金属原子と、少なくとも1のアルコキシ基を有する化合物を、(e)成分の金属アルコキシドとして使用することができる。
【0041】
(e)成分の金属アルコキシドの金属としては、Si、Ta、Nb、Ti、Zr、Al、Ge、B、Na、Ga、Ce、V、Ta、P、Sb、などを挙げることができるが、これらに限定されない。好ましくは、アルコキシドの形成の容易さなどから、Si、Ti、Zrであり、また、(e)成分は液体であることが好ましいため、これを実現する観点からSi、Tiが特に好ましい。(e)成分の金属アルコキシドのアルコキシド(アルコキシ基)としては、メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ、及びそれ以上の炭素数を有するアルコキシ基を挙げることができる。メトキシ、エトキシ、プロポキシ、及びブトキシが好ましく、メトキシ及びエトキシがより好ましい。特に好ましい(e)成分としては、テトラメトキシシラン及びテトラエトキシシランなどを挙げることができる。
(e)成分は多量体であってもよく、例えばテトラエトキシシランの5量体等を好適に使用することができる。単量体と5量体とを組み合わせて使用してもよい。
【0042】
(e)成分の使用量には特に制限はなく、得られるコーティングの用途、所望の特性等に応じて適宜設定することができるが、例えば(a)成分1モルに対して10モル以下の比率でもちいることが好ましい。より好ましくは、(a)成分1モルに対して0.1モル~5モルの比率である。(a)成分1モルに対し、(d)成分が0.1モル以上とすることで、前述したような(d)成分を添加する効果を十分に発現することができる。また、(d)成分を10モル以下とすることで、白濁の発生等を効果的に抑制することができる。
【0043】
(f)界面活性剤
本発明のコーティング組成物には、基材との濡れ性の改善等を目的として、更に(f)界面活性剤を添加してもよい。
界面活性剤の種類には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や、他の成分、とりわけ(d)有機溶媒との親和性などに応じて適宜選択することができる。界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、及び非イオン界面活性剤のいずれであってもよい。
【0044】
(f)界面活性剤の添加量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、(f)界面活性剤の使用量が、コーティング組成物の0.01~5.0質量%であることが好ましく、0.1~1.0質量%であることが特に好ましい。
【0045】
合成樹脂
本発明のコーティング組成物は、前記(e)金属アルコキシドの代わりにあるいはそれに加えて、合成樹脂を更に含むことができる。すなわち、前記(a)成分、及び(b)成分の反応に際して、あるいは、反応後、合成樹脂を添加することができる。合成樹脂を加えることで、得られるコーティングにクラック防止性等を付与することができ、本発明のコーティング組成物を、例えば樹脂ハードコート剤として使用することができる。
【0046】
本発明において使用することができる合成樹脂は、特に限定されないが、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、ウレタン樹脂、フラン樹脂を挙げることができ、様々な重合度(分子量)を有する合成樹脂を使用することができる。また、ビニルエステル樹脂、エポキシアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートなども好ましく使用することができる。その中でも、強度等の樹脂としての特性や、他の成分との反応性、安定性等の観点から、(g)エポキシ樹脂を使用することが好ましい。
【0047】
(g)エポキシ樹脂
本発明のコーティング組成物は、上記(a)から(c)成分に加えて、(g)エポキシ樹脂を含有していてもよい。
(g)エポキシ樹脂は、硬化にあたって、上記(a)成分及び(b)成分で構成される高分子構造に取り込まれて高分子構造の一部を構成してもよく、また、該高分子構造を架橋するなどして、(a)成分及び(b)成分の反応生成物の化学構造や物性を変更したりすることができる。本態様のコーティング組成物は、この様に(g)エポキシ樹脂を含有することで、硬化後のコーティングを構成する反応生成物の化学構造や物性に影響を与え、コーティングの反応性や機械的性質等を制御することができる。
【0048】
本態様において好ましく使用することができる(g)エポキシ樹脂には特に限定はなく、当業界においてエポキシ樹脂に分類される樹脂、すなわち、高分子構造中のエポキシ基で架橋ネットワークを形成することで硬化することが可能な熱硬化性樹脂であればよく、様々な重合度(分子量)を有するエポキシ樹脂を使用することができる。その中でも、ビスフェノールAまたはビスフェノールFのグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、脂環族エポキシ樹脂、及び、ポリグリコール型エポキシ樹脂から成る群から選択される少なくとも1種のエポキシ樹脂などを好ましく使用することができる。
【0049】
(g)エポキシ樹脂の添加量には特に制限はなく、コーティングの塗工形態や硬化後に求められる物性等に応じて適宜設定することができる。
コーティング組成物の一般的な使用形態を前提とすれば、(g)エポキシ樹脂の使用量は、前記(a)成分1gに対し、1~30gであるのが好ましく、4~10gであるのが、より好ましい。すなわち、(g)エポキシ樹脂の添加量が過大でなければ、硬度の低下が抑制される傾向があり、逆に過小でなければ、化学的耐久性の維持が容易となる傾向がある。
【0050】
コーティング層及びその製造方法
本発明のコーティング組成物を、基材上に塗布して硬化させることで、コーティング層を製造することができる。
すなわちこの実施形態のコーティング層の製造方法は、下記(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を反応させる工程を有する。
(a)下記式(I)で表わされるアミノ基を含むシラン化合物
R
4-n-Si-(OR’)
n -(I)
(式中、Rはアミノ基含有の有機基を表わし、R’はメチル基、エチル基またはプロピル基を表わし、nは1~3から選択される整数を表わす);
(b)H
3BO
3及びB
2O
3からなる群から選択される少なくとも1種のホウ素化合物;
(c)下記式(II)で表される、フッ素含有化合物
【化13】
(上記式(II)中、R
1はフルオロアルキル基を含有する基を表し、R
2はアルキル基又はアルコキシアルキル基を表し、R
3及びR
4は各々独立して水素原子又は1価の有機基を表し、xは1~100の整数であり、yは0~100の整数である。)。
ここで、(a)から(c)成分及びその好ましい態様の詳細は、本発明のコーティング組成物に関して上記にて説明したものと同様である。
【0051】
上記(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を反応させる工程は、(d)有機溶媒中で実施されることが好ましく、(d)有機溶媒は、炭素数1から5のアルコールを、好ましくは20質量%以上含有することが好ましい。
ここで、(d)有機溶媒及びその好ましい態様の詳細は、本発明のコーティング組成物に関して上記にて説明したものと同様である。
【0052】
上記(a)成分、(b)成分、及び(c)成分を反応させる工程においては、更に(e)金属アルコキシド((a)成分又は(c)成分に該当するものを除く。)、(g)エポキシ樹脂等の合成樹脂、(f)界面活性剤等を併用することができる。
ここで、(e)金属アルコキシド、(g)エポキシ樹脂等の合成樹脂、及び(f)界面活性剤、並びにそれらの好ましい態様の詳細は、本発明のコーティング組成物に関して上記にて説明したものと同様である。
【0053】
本態様のコーティング層の製造方法においては、本発明のコーティング組成物をディッピング、スプレー塗布、ロール塗布、刷毛塗り等の方法で基材の表面に塗布することができる。1回の塗布でコーティング層を形成してもよいし、2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成してもよい。2回以上の塗布を繰り返すことでコーティング層を形成する場合には、塗布後にコーティング組成物を硬化させた後に、更に塗布を行ってもよいし、硬化させないまま塗布を繰り返し、全ての塗布が終了した後に、コーティング組成物を硬化させてもよい。
硬化にあたり加熱は必須ではないが、加熱することにより硬化時間を短縮することができる。
【0054】
コーティング組成物の塗布量には特に制限は無いが、基材の面積100cm2あたり、0.3g~10gであることが好ましく、0.5g~2.0gであることが特に好ましく、1.0g以上であることがとりわけ好ましい。塗布量が基材の面積100cm2あたり、0.3g以上であることで、十分な厚さのコーティング層を形成することができる。
【0055】
硬化後のコーティング層の厚みには特に限定はなく、コーティングの目的、要求物性、コーティング付き部材の使用態様等に応じて適宜設定することが可能であるが、0.1~25μmであることが好ましく、1~10μmであることが特に好ましい。
【0056】
コーティング層が形成される基材は、特に限定されないが、例えば、紙、布、木材、プラスチック、別の塗膜、石材、セラミック、金属、及び金属合金から成る群から選択される少なくとも1種の基材(基板)を挙げることができる。中でも、金属基板、ガラス基板、木材、又はセラミック基板上に、本発明のコーティング用組成物によるコーティングを形成することで、これらの基材に高い撥水性及び撥油性を付与できる。
【0057】
本発明のコーティング用組成物は、硬化後のコーティング層の撥水撥油性を大幅に向上することで、良好な外観等を維持する一方で、必要又は所望に応じて、有機シラン化合物とホウ素化合物とを反応させて得られる高分子物質に由来する高い硬度、割れの防止、透明性、耐熱性、耐薬品性等を適宜具備するコーティングを実現することができるので、例えば家電製品、自動車部品、建築部材等の表面保護剤として有用であり、特に外観保護や衛生性等の観点から高い撥水撥油性が求められる、建築、建設用の内装材、外装材、自動車等の輸送機械の内装材、外装材等において、特に好適に使用することができる。
【実施例】
【0058】
以下、本発明を実施例/比較例/参考例を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明は、これにより何ら限定されるものではない。
【0059】
以下の実施例/比較例/参考例において、物性/特性の評価は下記の方法で行った。
コーティング被膜の作製
各実施例/比較例/参考例で得られたコーティング組成物をスライドガラスに塗布し、温度20℃、湿度70±10%RHにて168時間養生することで、コーティング被膜を得た。得られた被膜について、以下の項目を評価した。
塗膜状態
目視にて、コーティング被膜の外観(白化の有無)を観察した。
鉛筆硬度
JIS K-5600-5-4の方法にしたがって評価した(荷重:750±10g)。
水接触角
接触角計(協和界面科学株式会社製、DropMaster 301)を用いて、JIS R 3257に準拠して水の接触角を測定した。
油接触角
接触角計(協和界面科学株式会社製、DropMaster 301)を用いて、JIS R 3257に準拠してヘキサデカンの接触角を測定した。
水転落角
コーティング被膜が形成された試験片(スライドガラス)を水平な面に置き、コーティング被膜表面にイオン交換水を40μL滴下して水滴を形成した。この状態から水平な面に対して試験片に徐々に傾斜をつけて行き、水滴が流れ始めた角度を測定し、水転落角とした。
マジック耐性
コーティング被膜表面に黒マジックペンで線を書き、ティッシュペーパーによる拭き取りで該線のふき取りが可能であるかを試験し、以下の基準にしたがって評価した。
○:ふき取りにより該線が完全に拭き取れるもの
△:ふき取りにより該線が一部拭き取れないもの
×:ふき取りにより該線がまったく拭き取れないもの
【0060】
(
参考例1)
テトラエトキシシラン5量体(コルコート株式会社製、製品名:エチルシリケート40)を70質量部、テトラエトキシシラン単量体(コルコート株式会社製、製品名:エチルシリケート28)を70質量部、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、製品名:KBE903)を40質量部、ホウ酸(H
3BO
3)を10質量部、計量し混合後1時間以上攪拌した。その後、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、製品名:EX-252)を20質量部、希釈溶媒としてメタノールを200質量部添加し、30分以上攪拌した。
上記操作で得られたコーティング原液の全体に対して下記式(IIa’)で示されるフッ素含有化合物5質量部を添加し、3時間以上攪拌することで
参考例1のコーティング液(コーティング組成物)を得た。
【化14】
得られたコーティング組成物を用い、上記方法に従いコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0061】
(参考例2)
溶媒として、メタノールに代えて同量のエタノールを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0062】
(参考例3)
溶媒として、メタノールに代えて同量のn-プロパノールを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0063】
(参考例4)
溶媒として、メタノールに代えて同量のiso-プロパノールを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0064】
(参考例5)
溶媒として、メタノールに代えて同量のn-ブタノールを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0065】
(実施例6)
溶媒として、メタノールに代えて同量の2-ブタノールを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0066】
(実施例7)
溶媒として、メタノールに代えて同量のt-ブタノールを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0067】
(参考例8)
溶媒として、メタノールに代えて同量のn-ヘキサノールを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0068】
(参考例9)
溶媒として、メタノールに代えて同量の酢酸エチルを使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0069】
(参考例10)
溶媒として、メタノールに代えて同量のメトキシメチルブタノール(MMB)を使用した他は、参考例1と同様にしてコーティング組成物を得、これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0070】
(比較例)
テトラエトキシシラン5量体(コルコート株式会社製、製品名:エチルシリケート40)を70質量部、テトラエトキシシラン単量体(コルコート株式会社製、製品名:エチルシリケート28)を70質量部、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業株式会社製、製品名:KBE903)を40質量部、ホウ酸(H3BO3)を10質量部、計量し混合後1時間以上攪拌した。その後、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス株式会社製、製品名:EX-252)を20質量部、VORASURF SZ-1919(DOW社製)を1.2質量部、希釈溶媒としてメトキシメチルブタノール(MMB)を200質量部添加し、30分以上攪拌した。3時間以上攪拌することで比較例のコーティング液(コーティング組成物)を得た。
これを用いてコーティング被膜を作製し、特性を評価した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
各実施例
/参考例は、水接触角及び油接触角の想定結果に示すように撥水撥油性を示し、水転落角も30°以下となった。中でも、炭素数1から5のアルコールを用いた実施例
/参考例は良好な結果を示し、分岐アルコール(この場合炭素数は3から5となる。)を用いた
参考例4、
並びに実施例6及び7において、特に良好な結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明のコーティング組成物は、それから得られるコーティングの撥水性と撥油性とを従来技術の限界を超えた高いレベルで両立でき、さらに好ましくは有機シラン化合物とホウ素化合物とを反応させて得られる高分子物質に由来する高い硬度、透明性等の優れた特性を維持することができるので、建築、建設、自動車等の輸送機械、電気電子機器等の産業の各分野において、高い利用可能性を有する。