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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】抗SIRPα抗体
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20231018BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231018BHJP
   C12P 21/08 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C07K16/28 ZNA
C12N15/13
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61P35/00
A61P35/02
A61K45/00
A61K39/395 N
【請求項の数】 26
(21)【出願番号】P 2020530192
(86)(22)【出願日】2019-07-09
(86)【国際出願番号】 JP2019027114
(87)【国際公開番号】W WO2020013170
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2022-02-14
(31)【優先権主張番号】P 2018131116
(32)【優先日】2018-07-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(73)【特許権者】
【識別番号】307010166
【氏名又は名称】第一三共株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】的崎 尚
(72)【発明者】
【氏名】須江 真由美
(72)【発明者】
【氏名】中村 健介
(72)【発明者】
【氏名】吉村 千草
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/178653(WO,A2)
【文献】特表2014-525940(JP,A)
【文献】特開2016-169220(JP,A)
【文献】特表2017-510251(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0337053(US,A1)
【文献】がん分子標的治療,2017年,Vol.15, No.4,pp.414-419
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL1、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL2、
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL3、
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH1、
(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH2、及び
(f)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH3
を含む、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
【請求項2】
重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、請求項1記載の抗体。
【請求項3】
重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、請求項1又は2に記載の抗体。
【請求項4】
重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号25の140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、請求項3記載の抗体。
【請求項5】
(ai)配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域若しくは
(aii)配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖可変領域、並びに
(bi)配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域若しくは
(bii)配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖可変領域
を含み、
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL1、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL2、
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL3、
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH1、
(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH2、及び
(f)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH3を含み、
重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、請求項1記載のヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
【請求項6】
重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、請求項5記載の抗体。
【請求項7】
重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号25の140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、請求項6記載の抗体。
【請求項8】
以下の(1)~(8)のいずれかの、
(a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL1、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL2、
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL3、
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH1、
(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH2、及び
(f)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH3を含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の抗体:
(1)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(2)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(3)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号39の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(4)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号39の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(5)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号35の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(6)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号35の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(7)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;及び
(8)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
【請求項9】
ADCC及び/又はADCP活性が低減されている、請求項8記載の抗体。
【請求項10】
マクロファージの貪食作用を増強する請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体であって、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している抗体。
【請求項12】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体の抗原結合性断片。
【請求項13】
Fab、F(ab’)2、Fab’及びscFvからなる群から選択される、請求項12に記載の抗体の抗原結合性断片。
【請求項14】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体又は請求項12若しくは13に記載の抗体の抗原結合性断片を有効成分として含む医薬組成物。
【請求項15】
抗腫瘍剤である、請求項14記載の医薬組成物。
【請求項16】
抗腫瘍剤の有効成分として、さらに免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬を含む、請求項15記載の医薬組成物。
【請求項17】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体又は請求項12若しくは13に記載の抗体の抗原結合性断片を有効成分として含む、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬と併用される抗腫瘍剤である医薬組成物。
【請求項18】
免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1とPD-1との結合阻害剤、又はCTLA4阻害剤である、請求項16又は17に記載の医薬組成物。
【請求項19】
がん抗原に特異的に反応してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬が、抗CD20抗体、抗HER2抗体及び抗EGFR抗体からなる群から選択される、請求項16又は17に記載の医薬組成物。
【請求項20】
腫瘍が、がん腫、肉腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫、胚細胞腫、脳腫瘍、カルチノイド、神経芽腫、網膜芽細胞腫及び腎芽腫からなる群から選択される一種又は複数種の腫瘍である、請求項15~19のいずれか1項に記載の医薬組成物。
【請求項21】
腫瘍が、腎がん、メラノーマ、有棘細胞がん、基底細胞がん、結膜がん、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、虫垂がん、肛門がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、副腎がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮がん、膣がん、脂肪肉腫、血管肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、未分化多型肉腫、粘液型線維肉腫、悪性末梢性神経鞘腫、後腹膜肉腫、滑膜肉腫、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、類上皮肉腫、B細胞リンパ腫、T・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、精巣がん、卵巣がん、神経膠腫及び髄膜腫からなる群から選択される一種又は複数種の腫瘍である、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
【請求項23】
請求項22記載のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項24】
請求項22記載のポリヌクレオチド又は請求項23記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項25】
請求項24に記載の宿主細胞を培養し、培養物から抗体を精製することを含む、請求項1~11のいずれか1項に記載の抗体の製造方法。
【請求項26】
請求項25記載の方法によって製造された抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、腫瘍の治療に有用な抗SIRPα抗体、及び該抗体を含む抗腫瘍剤に関する。
【背景技術】
【0002】
SIRPα(SHPS-1)は、マクロファージ、樹細胞、好中球などのミエロイド細胞、及びグリア細胞に存在するIgスーパーファミリーの1回膜貫通型分子である(非特許文献1)。細胞外領域は1つのIgVドメインと2つのIgCドメインからなり、CD47との結合部位であるIgVドメインについては、ヒトでは10種類のバリアントが報告されている(非特許文献2)。一方、細胞内領域はimmunoreceptor tyrosine-based inhibition motifs(ITIM)を含み、CD47との結合によりチロシン脱リン酸化酵素であるSHP-1、及びSHP-2への結合が誘導され抑制性のシグナルが伝えられる。
【0003】
SIRPα-CD47相互作用による生理現象としては、マクロファージ上のSIRPαに赤血球上のCD47が結合し“Don’t eat me”シグナルを伝えることで、赤血球の不必要な貪食を回避することが示されている(非特許文献3)。一方、腫瘍微小環境下においても、マクロファージや樹細胞上のSIRPαに腫瘍細胞に高発現するCD47が結合することで、腫瘍細胞に対する貪食能を抑制することが示唆されている。貪食能の抑制は、その後のT細胞への腫瘍抗原提示の抑制、更には腫瘍免疫応答の抑制に繋がることが予想される。よって、腫瘍細胞の貪食という免疫現象は、腫瘍抗原の取り込み(エントリー)に対するチェックポイントに当たると考えられる。
【0004】
これまでに、SIRPαのリガンドであるCD47に対する抗体でSIRPα-CD47相互作用を阻害することにより、腫瘍細胞に対する貪食能を増強することが報告されており(非特許文献4)、これは抗SIRPα抗体を用いた場合でも、腫瘍細胞を免疫細胞に引き寄せるエフェクター活性を持つような抗癌抗体併用条件下では同様の現象が示されている(非特許文献5及び6)。また、抗CD47抗体を用いた同種マウス担癌モデルでは、抗腫瘍効果だけでなく、腫瘍免疫を誘導することが示唆されており(非特許文献7)、抗SIRPα抗体についても、抗癌抗体併用条件下では同様の効果が期待できる。
【0005】
一方で、免疫チェックポイント阻害剤として、PD-1/PD-L1などT細胞上の免疫抑制性分子に対する抗体が複数開発されており、臨床でもその効果が実証されている(非特許文献8及び9)。SIRPα-CD47は現在証明されている唯一の貪食抑制分子であり、この分子に対する阻害抗体は、T細胞以外の標的に対する新たなチェックポイント阻害剤としての可能性が予想され、従来の免疫チェックポイント阻害剤に抵抗性の患者に対しても、広く効果を示す可能性も持ち合わせている。
【0006】
これまでに、抗マウスSIRPα抗体(MY-1)を用いたヒトBurkitt’s lymphoma皮下移植モデルでの検討により、Rituximabとの併用で抗腫瘍効果が示されている。また、マウス大腸がんモデルではPD-1抗体との併用で抗腫瘍効果が認められている(非特許文献5)。加えて、クローンの異なる抗mSIRPα抗体(P84)を用いた検討では、マウス肝臓がんモデルで抗PD-L1抗体や抗4-1BB抗体との併用でも抗腫瘍効果及び延命効果が認められている。延命効果を示したマウスに同じ腫瘍細胞を再移植した際も、更なる抗腫瘍効果、延命効果が得られていることから、異なる免疫チェックポイントを阻害することで、強い腫瘍免疫応答を誘導できる可能性を示している(特許文献1)。これらの結果は、従来から予想されたエフェクター活性を持つ抗癌抗体との併用のみならず、T細胞を標的とした免疫チェックポイント阻害剤との併用においても併用効果を示した例であり、抗ヒトSIRPα抗体においても、同様の効果が期待できる。
近年、各社から抗SIRPα抗体に関する特許の報告が相次いでいる(特許文献1、2及び3)。例えば、OSE-172はIgG4Pro型の抗体であり、SIRPαのV1タイプとSIRPβ1に結合性を示すが、SIRPαのV2タイプとSIRPγには結合性を示さない。KWAR23はIgG1N279A型の抗体であり、10種類のSIRPαバリアント並びにSIRPβ1及びSIRPγに結合性を示す。ADU-1805はIgG2型の抗体であり、10種類のSIRPαバリアントとSIRPγへの結合性を示す。いずれの抗体が医薬として最も適切か未解明であり、優れた抗体を取得する努力が続けられている。
【0007】
更に、抗CD47抗体を用いた検討では、前述のような抗体医薬以外に従来からSOC(標準療法:Standard of Care)として広く用いられている化学療法剤、放射線療法との併用でも、十分な抗腫瘍効果、延命効果を示すことが報告されている。特に、化学療法剤との併用事例では、化学療法剤を事前に投与し、続いて抗CD47抗体を投与することで、化学療法剤と抗CD47抗体の同時投与よりも強い抗腫瘍効果、延命効果を示すことから(非特許文献7)、化学療法剤の前投与により腫瘍抗原を取り込み易いような環境を準備することで、SIRPα-CD47相互作用の阻害による抗原取り込み能(免疫賦活化能)の効果を増強できる可能性を示している。
【0008】
以上のことから、抗SIRPα抗体は種々の抗腫瘍剤との併用により、より強い腫瘍免疫応答を誘導しうる薬剤であると推測できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第WO2017/178653号
【文献】国際公開第WO2018/026600号
【文献】国際公開第WO2018/190719号
【非特許文献】
【0010】
【文献】Matozaki et al. Trends in cell biol. 2009(19) 2, 72-80
【文献】Takenaka et al. Nat Immunol. 2007(8)12, 1313-1323
【文献】Matozaki et al. Trends in cell biol. 2009(19) 2, 72-80
【文献】Liu et al. Plos One, 2015 (10) 9
【文献】Yanagita et al. JCI Insight, 2017 (2) 1, 1-15
【文献】Ring et al. PNAS, 2017 (114) 49, E10578-E10585
【文献】Liu et al, Nat Med. 2015 (21) 10, 1209-1215
【文献】Lee et al. The Oncologist, 2017(22)11, 1392-1399
【文献】Weinstock et al. Clin Can Res. 2017(23)16, 4534-4539
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、抗腫瘍剤として用いることができる抗SIRPα抗体、及び該抗体を有効成分として含む抗腫瘍剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、貪食能を有する貪食細胞に発現しているSIRPαと腫瘍細胞に発現しているCD47との相互作用を抗SIRPα抗体により阻害し、腫瘍細胞から貪食細胞に“Don’t-eat-me”シグナルが伝達されるのを阻害し、貪食細胞による腫瘍細胞の貪食作用を増強する方法について検討を行った。本発明者らは、SIRPαに対する親和性がより高く、SIRPαとCD47との相互作用の阻害効果が高い抗体の作製を試みるとともに、抗SIRPα抗体がADCC又はADCPといったエフェクター機能を有している場合に、自己の免疫細胞を攻撃してしまう可能性があることを考え、エフェクター機能を有しない抗SIRPα抗体の作製についても検討を行った。エフェクター機能を低減させるために、抗体のサブクラスをIgG4とし、さらに、エフェクター機能を低減させる変異を抗体のFc領域に導入した。その結果、SIRPαとCD47との相互作用を強く阻害するが、エフェクター機能が低減されている抗SIRPα抗体を作製することができた。この抗体は、エフェクター細胞のFc受容体に結合せずエフェクター機能を発揮しないので、単独では十分な抗腫瘍作用がない。そこで、エフェクター機能を有する他の抗体医薬や免疫チェックポイント阻害作用を有する他の抗体医薬と併用したところ、良好な抗腫瘍効果を発揮することが確認され、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1](a)配列番号1で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL1、
(b)配列番号2で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL2、
(c)配列番号3で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL3、
(d)配列番号4で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH1、
(e)配列番号5で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH2、及び
(f)配列番号6で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH3
を含む、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[2] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、[1]の抗体。
[3] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、[1]又は[2]の抗体。
[4] 重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号25の140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、[3]の抗体。
【0014】
[5] (ai)配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域若しくは
(aii)配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖可変領域、並びに
(bi)配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域若しくは
(bii)配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖可変領域
を含み、重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[6] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、[5]の抗体。
[7] 重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号25の140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、[6]の抗体。
【0015】
[8](a)配列番号7で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL1、
(b)配列番号8で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL2、
(c)配列番号9で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL3、
(d)配列番号10で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH1、
(e)配列番号11で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH2、及び
(f)配列番号12で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH3
を含む、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[9] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、[8]の抗体。
[10] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、[8]又は[9]のヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[11] 重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号29の139~465番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、[10]の抗体。
【0016】
[12] (ai)配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域若しくは
(aii)配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖可変領域、並びに
(bi)配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域若しくは
(bii)配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖可変領域
を含み、重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[13] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、[12]のヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[14] 重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号29の139~465番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、[13]の抗体。
【0017】
[15](a)配列番号13で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL1、
(b)配列番号14で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL2、
(c)配列番号15で表されるアミノ酸配列からなる軽鎖CDRL3、
(d)配列番号16で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH1、
(e)配列番号17で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH2、及び
(f)配列番号18で表されるアミノ酸配列からなる重鎖CDRH3
を含む、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[16] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、[15]の抗体。
[17] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、[15]又は[16]のヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[18] 重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号33の144~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、[17]の抗体。
【0018】
[19] (ai)配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域若しくは
(aii)配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖可変領域、並びに
(bi)配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域若しくは
(bii)配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖可変領域
を含み、重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[20] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、[19]のヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[21] 重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号33の144~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、[20]の抗体。
【0019】
[22] 以下の(1)~(8)のいずれかの、[1]~[4]のいずれかの抗体:
(1)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(2)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(3)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号39の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(4)配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号39の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(5)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号35の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(6)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号35の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;
(7)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体;及び
(8)配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列からなり、ヒトSIRPαへの結合活性を有する軽鎖からなるヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[23] ADCC及び/又はADCP活性が低減されている、[22]の抗体。
【0020】
[24] 配列番号57で表されるヒトSIRPαの82番目のGln、83番目のLys、84番目のGlu、85番目のGlyを含むエピトープに結合する、ヒトSIRPαに特異的に結合し、ヒトSIRPαとCD47の結合を阻害する抗体。
[25] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、ADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす変異を含む、[24]の抗体。
[26] 重鎖定常領域がヒトIgG4の重鎖定常領域であり、KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンがアラニンへ置換され、235位のロイシンがアラニンに置換され、さらに228位のセリンがプロリンへ置換されている、[24]又は[25]の抗体。
[27] 重鎖定常領域のアミノ酸配列が、配列番号25の140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である、[26]の抗体。
[28] マクロファージの貪食作用を増強する[1]~[27]のいずれかの抗体。
[29] [1]~[28]のいずれかの抗体であって、重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失している抗体。
【0021】
[30] [1]~[29]のいずれかの抗体の抗原結合性断片。
[31] Fab、F(ab’)2、Fab’及びscFvからなる群から選択される、[30]の抗体の抗原結合性断片。
[32] [1]~[29]のいずれかの抗体又は[30]若しくは[31]の抗体の抗原結合断片を有効成分として含む医薬組成物。
[33] 抗腫瘍剤である、[32]の医薬組成物。
[34] 抗腫瘍剤の有効成分として、さらに免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬を含む、[33]の医薬組成物。
[35] [1]~[29]のいずれかの抗体又は[30]若しくは[31]の抗体の抗原結合断片を有効成分として含む、免疫チェックポイント阻害剤及び/又はがん抗原に特異的に反応してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬と併用される医薬組成物。
[36] 免疫チェックポイント阻害剤が、PD-L1とPD-1との結合阻害剤、又はCTLA4阻害剤である、[34]又は[35]の医薬組成物。
[37] がん抗原に特異的に反応してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬が、抗CD20抗体、抗HER2抗体及び抗EGFR抗体からなる群から選択される、[34]又は[35]の医薬組成物。
[38] 腫瘍が、がん腫、肉腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫、胚細胞腫、脳腫瘍、カルチノイド、神経芽腫、網膜芽細胞腫及び腎芽腫からなる群から選択される一種又は複数種の腫瘍である、[33]~[37]のいずれかの医薬組成物。
[39] 腫瘍が、腎がん、メラノーマ、有棘細胞がん、基底細胞がん、結膜がん、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、虫垂がん、肛門がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、副腎がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮がん、膣がん、脂肪肉腫、血管肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、未分化多型肉腫、粘液型線維肉腫、悪性末梢性神経鞘腫、後腹膜肉腫、滑膜肉腫、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、類上皮肉腫、B細胞リンパ腫、T・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、骨髄性白血病、リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群、多発性骨髄腫、精巣がん、卵巣がん、神経膠腫及び髄膜腫からなる群から選択される一種又は複数種の腫瘍である、[38]の医薬組成物。
[40] [1]~[29]のいずれかの抗体の重鎖及び軽鎖のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列からなるポリヌクレオチド。
[41] [40]のポリヌクレオチドを含むベクター。
[42] [40]のポリヌクレオチド又は[41]のベクターを含む宿主細胞。
[43] [42]の宿主細胞を培養し、培養物から抗体を精製することを含む、[1]~[29]のいずれかの抗体の製造方法。
[44] [43]の方法によって製造された抗体。
【0022】
本明細書は本願の優先権の基礎となる日本国特許出願番号2018-131116号の開示内容を包含する。
【発明の効果】
【0023】
本発明の抗SIRPα抗体は、貪食細胞に発現しているSIRPαと腫瘍細胞に発現しているCD47との相互作用を強く阻害し、腫瘍細胞から貪食細胞に“Don’t-eat-me”シグナルが伝達されるのを阻害する一方で、エフェクター機能を有していないので自己の免疫細胞を攻撃することはないので安全である。
【0024】
本発明の抗SIRPα抗体は、エフェクター機能を有する他の抗体医薬や免疫チェックポイント阻害作用を有する他の抗体医薬と併用することにより、優れた抗腫瘍効果を発揮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1A】抗SIRPA抗体のエピトープ解析に用いたSIRPAコンストラクトの構造(A)及びラット抗ヒトSIRPA抗体の各コンストラクトに対する反応性を示す図(B)である。
図1B】抗SIRPA抗体のエピトープ解析に用いたhmSIRPAコンストラクトに対するヒト化抗ヒトSIRPA抗体の反応性を示す図(i)-(iv)、及び抗SIRPA抗体のエピトープ解析に用いたSIRPAコンストラクトのアミノ酸配列(v)を示す図である。
図2】抗SIRPA抗体のFab断片とSIRPA_V2_IgVの複合体全体のリボンモデルを示す図である。
図3】ヒトSIRPAのbeta5以前(A)とbeta5以降(B)の領域と抗体SIRPA抗体(抗体D13)との相互作用を示す図である。
図4】ヒトSIRPAのbeta5‐6ループ部分の各バリアントのアミノ酸配列の比較を示す図である。
図5】抗SIRPA抗体単剤で用いた場合(A)と抗SIRPA抗体とTrastuzumabを併用した場合(B)の胃癌細胞株に対するADCP活性を示す図である。
図6】ヒトキメラ化抗SIRPA抗体(cD13、cF44、cF63)のヒトSIRPAに対する結合性評価の結果を示す図である。
図7】ヒトキメラ化抗SIRPA抗体(cD13、cF44、cF63)のサルSIRPAに対する結合性評価の結果を示す図である。
図8A】ヒトキメラ化抗SIRPA抗体(cD13、cF44、cF63)のヒト又はサルSIRPAとCD47の結合阻害活性評価の結果を示す図である((i):SIRPA_V1、(ii):SIRPA_V2、(iii):サルSIRPA)。
図8B】ヒトキメラ化抗SIRPA抗体(cF44の各アイソタイプ)のヒト又はサルSIRPAとCD47の結合阻害活性評価の結果を示す図である((i):SIRPA_V1、(ii):SIRPA_V2、(iii):サルSIRPA)。
図9】抗SIRPA抗体単剤で用いた場合(A)と抗SIRPA抗体とRituximabを併用した場合(B)のBurkitt’s lymphoma細胞株に対するADCP活性を示す図である。
図10】ヒトキメラ化抗ヒトSIRPA抗体のPBMC及びマクロファージに対する毒性評価の結果を示す図である。AはcD13、cF44及びcF63のPBMCに対するADCP活性を示し、Bは定常領域の異なるcF44抗体のADCP活性を示し、Cはマクロファージの存在比を示す。
図11】抗体D13の重鎖可変領域とヒト化抗体重鎖hH1の可変領域とヒト化抗体重鎖hH2の可変領域のアミノ酸配列の比較を示す図である。
図12】抗体D13の軽鎖可変領域とヒト化抗体軽鎖hL2の可変領域とヒト化抗体鎖hL3の可変領域とヒト化抗体軽鎖hL4の可変領域のアミノ酸配列の比較を示す図である。
図13A】ヒト化抗SIRPA抗体のヒトSIRPAのバリアント((i):V1、(ii):V2、(iii):V3及び(iv):V4)に対する結合活性を示す図である。
図13B】ヒト化抗SIRPA抗体のヒトSIRPAのバリアント((i):V5、(ii):V6、(iii):V7及び(iv):V8)に対する結合活性を示す図である。
図13C】ヒト化抗SIRPA抗体のヒトSIRPAのバリアント((i):V9、(ii):V10、(iii):サルSIRPA及び(iv):Mock)に対する結合活性を示す図である。
図14A】ヒト化抗SIRPA抗体のマウスSIRPA((i):C57BL/6、(ii):Balb/c、(iii):129sv)に対する結合活性を示す図である。
図14B】ヒト化抗SIRPA抗体のマウスSIRPA((i):NOD、(ii):Mock)に対する結合活性を示す図である。
図15】ヒト化抗SIRPA抗体のヒト(A及びB)、又はサルSIRPA(C)とCD47の結合の阻害活性評価の結果を示す図である。
図16】ヒト化抗ヒトSIRPA抗体単剤で用いた場合(A及びC)とヒト化抗ヒトSIRPA抗体とRituximabを併用した場合(B及びD)の癌細胞株(A及びB:Raji株、C及びD:Ramos株)に対するADCP活性を示す図である。
図17】cD13軽鎖をコードするヌクレオチド配列及びcD13軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
図18】cD13重鎖をコードするヌクレオチド配列及びcD13重鎖のアミノ酸配列を示す図である。
図19】cF44軽鎖をコードするヌクレオチド配列及びcF44軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
図20】cF44重鎖をコードするヌクレオチド配列及びcF44重鎖のアミノ酸配列を示す図である。
図21】cF63軽鎖をコードするヌクレオチド配列及びcF63軽鎖のアミノ酸配列を示す図である。
図22】cF63重鎖をコードするヌクレオチド配列及びcF63重鎖のアミノ酸配列を示す図である。
図23】hL2をコードするヌクレオチド配列及びhL2のアミノ酸配列を示す図である。
図24】hL3をコードするヌクレオチド配列及びhL3のアミノ酸配列を示す図である。
図25】hL4をコードするヌクレオチド配列及びhL4のアミノ酸配列を示す図である。
図26】hH1をコードするヌクレオチド配列及びhH1のアミノ酸配列を示す図である。
図27】hH2をコードするヌクレオチド配列及びhH2のアミノ酸配列を示す図である。
図28】抗体D13のCDR配列を示す図である。
図29】抗体F44のCDR配列を示す図である。
図30】抗体F63のCDR配列を示す図である。
図31】各種抗ヒトSIRPA抗体によるヒトSIRPA_V1/CD47結合阻害活性評価の結果(A)、各種抗ヒトSIRPA抗体によるヒトSIRPA_V2/CD47結合阻害活性評価の結果(B)、並びに各種抗体によるヒトSIRPA抗体によるヒトSIRPA_V1/CD47若しくはSIRPA_V2/CD47結合活性阻害のIC50値を示す図である。
図32】各種抗ヒトSIRPA抗体のヒトSIRPB(A)、ヒトSIRPG(B)、に対する結合性評価の結果、並びにA及びBの陰性対照となる試験の結果(C)を示す図である。
図33】各種抗ヒトSIRPA抗体にRituximabを併用した際のBurkitt‘s lymphoma細胞株(Raji)に対するADCP活性:10μg/mLにおけるドナー毎の反応性比較結果のうち、反応時間2時間(A)、反応時間16時間(B)、反応時間2時間における濃度依存性比較結果(C)、及び各種抗ヒトSIRPA抗体による、マクロファージ同士が貪食するSelf-ADCP活性(D)を示す図である。各図中の「Ab-」は抗体を添加しない陰性対照を示し、「+ Rmab」はRituximabを同時添加していることを示している。
図34】OSE-172抗体重鎖(OSE-172_hG4Pro)及び軽鎖(OSE-172_hK)のアミノ酸配列を示す図である。
図35】KWAR23抗体重鎖(KWAR23_hG4Pro)及び軽鎖(KWAR23_hK)のアミノ酸配列を示す図である。
図36】ADU-1805抗体重鎖(ADU-1805_hG2)及び軽鎖(ADU-1805_hK)のアミノ酸配列を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
抗SIRPα抗体の特性
本発明は、SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインを認識し結合する抗SIRPα抗体である。
【0028】
SIRPα(signal regulatory protein α)は、マクロファージ、樹細胞、好中球などのミエロイド細胞、及びグリア細胞に存在するIgスーパーファミリーの1回膜貫通型分子である。細胞外領域は1つのIgVドメインと2つのIgCドメインからなり、CD47との結合部位であるIgVドメインについては、ヒトではV1~V10の10種類のバリアントが報告されている。SIRPα蛋白質の細胞外IgVドメインは、SIRPα蛋白質を構成する3つの細胞外Ig様ドメインのうちの1つのIgVドメインである。このうち、V1及びV2がメジャーなバリアントであり、本発明の抗SIRPα抗体は、メジャーなバリアントであるV1及びV2を含むすべてのバリアントに結合する。本発明において、「SIRPα」を「SIRPA」と称する場合がある。
【0029】
ヒトSIRPα蛋白質のアミノ酸配列は、GenBank Accession No.:NP_001035111に開示されている。
【0030】
本発明で用いるモノクローナル抗体は、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、モルモット、ウマ、サル、イヌ、ブタ、ウシ、ヤギ、ヒツジ等の哺乳動物をSIRPα又はその断片を免疫原として免疫し、脾臓細胞等とミエローマとを融合し、ハイブリドーマを作製し、ハイブリドーマが産生分泌する抗体として得ることができる。ハイブリドーマは公知の方法で作製することができる。
【0031】
免疫原としてのSIRPαは配列情報に基づいて化学合成することもでき、またタンパク質をコードするDNA配列情報に基づいて公知の方法でリコンビナントタンパク質として得ることもできる。
【0032】
抗体のスクリーニングは任意の方法で行うことができるが、好ましくは、SIRPαをコードするDNAでトランスフェクトした動物細胞を用いたCell-ELISAによりスクリーニングすればよい。ヒトSIRPαのV1蛋白質のアミノ酸配列を配列表の配列番号56に、ヒトSIRPαのV2蛋白質のアミノ酸配列を配列表の配列番号57に示す。
【0033】
本発明の抗SIRPα抗体は、SIRPαとCD47の結合を阻害する。
腫瘍細胞はCD47を高発現しており、貪食能を有する貪食細胞に発現しているSIRPαとCD47が結合し相互作用することにより、貪食細胞に“Don’t-eat-me”シグナルを伝達し、貪食細胞による貪食から逃れている。抗SIRPα抗体は、SIRPαとCD47の結合を阻害することにより、腫瘍細胞から貪食細胞に“Don’t-eat-me”シグナルが伝達されるのを阻害し、貪食細胞による腫瘍細胞の貪食作用を増強する。その結果、抗腫瘍効果を発揮し得る。貪食能を有する貪食細胞として、M1型、M2型マクロファージなどのマクロファージやimDC(未成熟樹状細胞)などの樹状細胞等が挙げられる。
【0034】
この際、抗SIRPα抗体がエフェクター機能を有し、マクロファージ等の貪食細胞やナチュラルキラー細胞やT細胞等のエフェクター細胞のFcγレセプター等のFcレセプターに結合すると、ADCC(Antibody Dependent Cellular Cytotoxicity:抗体依存性細胞傷害)やADCP(Antidoby Dependent Cellular Phagocytosis:抗体依存性細胞貪食能)によりPBMC(末梢血単核球)やマクロファージ等の自己のエフェクター細胞を攻撃してしまう。
【0035】
自己の細胞への攻撃を避けるため、本発明の抗SIRPα抗体は、エフェクター機能が低減されている。その結果、本発明の抗SIRPα抗体は、単にSIRPαとCD47の結合を抑制する作用のみを有し、エフェクター細胞のFcレセプターには結合せず、エフェクター機能を発揮しない。
【0036】
本発明の抗SIRPα抗体は、自己の免疫細胞を攻撃することがないため、副作用なしに医薬として安全に用いることができる。
【0037】
ただし、本発明の抗SIRPα抗体は、エフェクター機能が低減されているため、単独では十分な抗腫瘍効果を発揮しない。そのため、後記するように他の抗腫瘍剤と併用して用いる。
【0038】
エフェクター機能を低減させるためには、抗SIRPα抗体のFc部分がマクロファージやT細胞のFcレセプターに結合しないことが必要である。このため、本発明の抗SIRPα抗体のサブクラスはIgG4由来のものに置換してある。一般的にヒトIgGサブクラスの中で、IgG4はADCC活性、CDC活性及び/又はADCP活性等のエフェクター機能が低いサブクラスとして知られている(Bruggemann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987)。治療用抗体で正常臓器に発現する分子を標的とする場合にエフェクター機能を介した細胞障害による毒性を回避するためのIgGフォーマットの一つとして利用される(オプジーボなど)。ただし、IgG4サブクラスのエフェクター機能が低いといっても、全く無いわけではない。そこで、本発明の抗SIRPα抗体は重鎖定常領域にエフェクター機能をさらに低減させるような変異、すなわちADCC及び/又はADCP活性の低減をもたらす1アミノ酸以上の置換等の変異を導入している。そのような変異として、KabatらによるEUインデックス(Kabat et.al.,Sequences of proteins of immunological interest,1991 Fifth edition)により示される234位のフェニルアラニンのアラニンへの置換(F234A)及び235位のロイシンのアラニンへの置換(L235A)が挙げられる(Parekh et al.,mAbs,310-318,2012)。このような抗体の変異をFALA変異と呼ぶ。KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンをEUナンバリング234のフェニルアラニンということもある。
【0039】
また、IgG4は抗体重鎖間のSS結合の形成が安定していないので、安定性を高めるために、抗体重鎖間のSS結合の形成を促進させる変異を導入する。このような変異として、KabatらによるEUインデックスにより示される228位のセリンのプロリンへの置換(S228P)が挙げられる(ANGAL et.al.,Molecular Immunology,105-108,1993)。この抗体の変異をPRO変異と呼ぶ。
【0040】
本発明の抗体の定常領域には、上記のFALA変異及びPRO変異が同時に導入されていても良い(Vafa et.al.,Methods,65,114-126,2014)。FALA変異及びPro変異の両方の変異を有するIgG4重鎖を「IgG4proFALA」タイプ重鎖、「IgG4PFALA」タイプ重鎖又は「IgG4pf」タイプ重鎖とも呼ぶ。
【0041】
抗体重鎖定常領域はCH1、ヒンジ、CH2及びCH3領域からなり、CH1は、EUインデックス118から215、ヒンジはEUインデックス216から230、CH2はEUインデックス231から340、CH3はEUインデックス341から446と定義される。KabatらによるEUインデックスにより示される234位のフェニルアラニンから置換されたアラニンは抗体D13の重鎖アミノ酸配列を示す配列番号25の第253番目のアラニン、抗体F44の重鎖アミノ酸配列を示す配列番号29の第252番目のアラニン及び抗体F63の重鎖アミノ酸配列を示す配列番号33の第257番目のアラニンに相当し、235位のロイシンから置換されたアラニンは配列番号25の第254番目のアラニン、配列番号29の第253番目のアラニン及び配列番号33の第258番目のアラニンに相当する。また、KabatらによるEUインデックスにより示される228位のセリンから置換されたプロリンは配列番号25の第247番目のプロリン、配列番号29の第246番目のプロリン及び配列番号33の第251番目のプロリンに相当する。
【0042】
「IgG4proFALA」タイプ重鎖の定常領域のアミノ酸配列は、配列番号25の140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列、配列番号29の139~465番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列及び配列番号33の144~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である。
【0043】
ヒトIgG1は、ヒトIgG サブクラスの中で、補体結合を介したCDC活性、抗体依存的な細胞障害活性といったエフェクター機能が非常に強く(Bruggemann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987)、治療用抗体で癌に高発現する分子を標的とする場合に、エフェクター機能を介した細胞障害による癌細胞の細胞死誘導を促すことで治療効果を示すIgGフォーマットとして利用される(trastuzumab、rituximabなど)。本発明の抗体のアイソタイプとしてIgG1を用いる場合は、定常領域のアミノ酸残基の一部を置換することによって、エフェクター機能を調整することが可能である(WO88/007089、W094/28027、W094/29351参照)。エフェクター機能を減弱させたIgG1の変異体としては、IgG1 LALA(IgG1-L234A、L235A)、IgG1 LAGA(IgG1-L235A、G237A)等が挙げられる。本発明の抗体の定常領域として、これらの変異が導入されたIgG1重鎖定常領域を使用することも可能である。
【0044】
ヒトIgG2は、ヒトIgG サブクラスの中で、補体結合を介したCDC活性、抗体依存的な細胞障害活性といったエフェクター機能が非常に弱く(Bruggemann et al.,J.Exp.Med.,1351-1361,1987)、治療用抗体で正常臓器に発現する分子を標的とする場合にエフェクター機能を介した細胞障害による毒性を回避するためのIgGフォーマットの一つとして利用される(denosumab、evolocumab、brodalumabなど)。本発明の抗体の定常領域として、IgG2重鎖定常領域を使用することも可能である。
種交差性については、本発明の抗SIRPα抗体は、ヒトSIRPα及びサル(Cynomolgus monkey)に結合するが、マウスSIRPαには結合しない。
【0045】
ヒトキメラ化抗体及びヒト化抗体
本発明の抗SIRPα抗体は、ヒトに対する異種抗原性を低下させるために改変したヒトキメラ化抗体及びヒト化抗体も含む。ヒト化抗体はCDR移植抗体ともいう。
【0046】
ヒトキメラ化抗体
ヒトキメラ化抗体は、ヒト以外の動物の抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域とヒト抗体の軽鎖定常領域及び重鎖定常領域とからなる抗体をいう。ヒトキメラ化抗体は、抗SIRPα抗体を産生するハイブリドーマより軽鎖可変領域をコードするcDNA及び重鎖可変領域をコードするcDNAを採取し、ヒト抗体の軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をコードするcDNAを有する発現ベクターに挿入してヒトキメラ化抗体発現ベクターを構築し、宿主細胞へ導入して発現させることにより作製することができる。
【0047】
重鎖定常領域は、3個のドメインC1、C2及びC3から構成されている。本発明においては、上記のように、キメラ抗体のヒト重鎖定常領域は、IgG4サブクラスの重鎖定常領域であってPro変異及びFALA変異を有する重鎖定常領域IgG4proFALAである。また、軽鎖定常領域としてはヒトIgに属すればよく、κ又はλ定常領域である。
【0048】
本発明の抗SIRPα抗体のヒトキメラ化抗体の例として、ラット抗ヒトSIRPαモノクローナル抗体D13、F44及びF63の可変領域を有するヒトキメラ化抗体、抗体cD13、抗体cF44及び抗体cF63が挙げられる。これら3つの抗体は、ヒトSIRPαとの結合性が高い抗体であり、SIRPαとCD47の結合の阻害活性が高い抗体である。この中でも、高い活性を有している抗体cD13及び抗体cF63が好ましい。
【0049】
抗体cD13
抗体cD13の軽鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列は、配列表の配列番号22の61~378番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり(図17)、抗体cD13の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である(図17)。
【0050】
また、抗体cD13の重鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列は、配列表の配列番号24の58~417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり(図18)、抗体cD13の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である(図18)。
【0051】
すなわち、本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域及び配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む、ヒトSIRPαに結合する抗ヒトSIRPα抗体である。
【0052】
また、上記の配列番号22の61~378番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列又は配列番号24の58~417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列とCLUSTAL W(アラインメントツール)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、98%以上、あるいは99%以上の配列同一性を有しているヌクレオチド配列からなるDNAであって、抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域をコードするDNAに含まれる。
【0053】
また、上記の配列番号22の61~378番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列又は配列番号24の58~417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域をコードするDNAに含まれる。
【0054】
また、上記の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域は、配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のみならず、該アミノ酸配列において、1若しくは数個、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなり、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質からなる軽鎖可変領域又は重鎖可変領域も含む。
【0055】
このような配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列として、配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と、CLUSTAL W(アラインメントツール)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、98%以上、あるいは99%以上の配列同一性を有しているものが挙げられる。
【0056】
このような配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同一である。
【0057】
さらに、抗体cD13は、軽鎖可変領域のCDR(相補性決定領域)として、配列番号1で表されるアミノ酸配列(GASKSVRTYMH)からなるCDRL1、配列番号2で表されるアミノ酸配列(SASNLEA)からなるCDRL2、配列番号3で表されるアミノ酸配列(QQSNEPPYT)からなるCDRL3を含み、さらに、重鎖可変領域のCDRとして、配列番号4で表されるアミノ酸配列(GFTFSDYGMI)からなるCDRH1、配列番号5で表されるアミノ酸配列(SISSSSSYIY)からなるCDRH2、配列番号6で表されるアミノ酸配列(RYYGFNYPFDY)からなるCDRH3を含む(図28)。
【0058】
すなわち、本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号1で表されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号2で表されるアミノ酸配列からなるCDRL2、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含み、さらに、重鎖可変領域のCDRとして、配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号5で表されるアミノ酸配列からなるCDRH2、配列番号6で表されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む抗体である。
【0059】
上記の各CDRは、それぞれに表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなるCDRも含む。
【0060】
キメラ又はヒト化D13抗体は、配列番号73で表されるアミノ酸配列からなるSIRPα変異体には結合するが、配列番号74又は75で表されるアミノ酸配列からなるSIRPα変異体には結合しない。配列番号73で表されるアミノ酸配列中のNQKEG配列(配列番号76)は、配列番号74ではNQKEE配列(配列番号77)に、配列番号75ではSFTEG配列(配列番号80)に置換されており、キメラ又はヒト化D13抗体とSIRPαの結合にNQKEG配列(配列番号76)が必要であることが明らかになった。なお、X線結晶構造解析により、抗体cD13は配列番号57で表されるヒトSIRPαバリアント2のアミノ酸残基Gln82、Lys83、Glu84、Gly85、His86、Phe87(各アミノ酸残基の位置は、配列表の配列番号57に対応している)を介してSIRPαと結合することが示唆されており、Gln82、Lys83、Glu84、Gly85からなる配列が、上記NQKEG配列中のQKEG部分に相当する。従って、NQKEG配列はD13抗体とヒトSIRPαの結合に必須なエピトープである。NQKEG配列(配列番号76)を特異的に認識する抗体、すなわちNQKEG配列(配列番号76)を有する配列番号73で表されるアミノ酸配列からなるSIRPα変異体には結合するが該配列を有さない配列番号74又は75で表されるアミノ酸配列からなるSIRPα変異体には結合しない抗体を選択することにより、D13抗体と同一のエピトープを有する抗体を選択することができる。
【0061】
抗体cF44
抗体cF44の軽鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列は、配列表の配列番号26の61~381番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり(図19)、抗体cF44の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である(図19)。
【0062】
また、抗体cF44の重鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列は、配列表の配列番号28の58~414番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり(図20)、抗体cF44の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である(図20)。
【0063】
すなわち、本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域及び配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む、ヒトSIRPαに結合する抗ヒトSIRPα抗体である。
【0064】
また、上記の配列番号26の61~381番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列又は配列番号28の58~414番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列とCLUSTAL W(アラインメントツール)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、98%以上、あるいは99%以上の配列同一性を有しているヌクレオチド配列からなるDNAであって、抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域をコードするDNAに含まれる。
【0065】
また、上記の配列番号26の61~381番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列又は配列番号28の58~414番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域をコードするDNAに含まれる。
【0066】
また、上記の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域は、配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のみならず、該アミノ酸配列において、1若しくは数個、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなり、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質からなる軽鎖可変領域又は重鎖可変領域も含む。
【0067】
このような配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列として、配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と、CLUSTAL W(アラインメントツール)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、98%以上、あるいは99%以上の配列同一性を有しているものが挙げられる。
【0068】
このような配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同一である。
【0069】
さらに、抗体cF44は、軽鎖可変領域のCDR(相補性決定領域)として、配列番号7で表されるアミノ酸配列(KASKSISKYLA)からなるCDRL1、配列番号8で表されるアミノ酸配列(SGSTLQS)からなるCDRL2、配列番号9で表されるアミノ酸配列(QQHNEYPPT)からなるCDRL3を含み、さらに、重鎖可変領域のCDRとして、配列番号10で表されるアミノ酸配列(GFTFSNYYMA)からなるCDRH1、配列番号11で表されるアミノ酸配列(YITTGGGSTY)からなるCDRH2、配列番号12で表されるアミノ酸配列(ANYGGSYFDY)からなるCDRH3を含む(図29)。
【0070】
すなわち、本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号7で表されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号8で表されるアミノ酸配列からなるCDRL2、配列番号9で表されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含み、さらに、重鎖可変領域のCDRとして、配列番号10で表されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号11で表されるアミノ酸配列からなるCDRH2、配列番号12で表されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む抗体である。
【0071】
上記の各CDRは、それぞれに表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなるCDRも含む。
【0072】
抗体cF63
抗体cF63の軽鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列は、配列表の配列番号30の61~390番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり(図21)、抗体F63の軽鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である(図21)。
【0073】
また、抗体cF63の重鎖可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列は、配列表の配列番号32の58~429番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列であり(図22)、抗体cF63の重鎖可変領域のアミノ酸配列は、配列表の配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列である(図22)。
【0074】
すなわち、本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域及び配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる重鎖可変領域を含む、ヒトSIRPαに結合する抗ヒトSIRPα抗体である。
【0075】
また、上記の配列番号30の61~390番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列又は配列番号32の58~429番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列とCLUSTAL W(アラインメントツール)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、98%以上、あるいは99%以上の配列同一性を有しているヌクレオチド配列からなるDNAであって、抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域をコードするDNAに含まれる。
【0076】
また、上記の配列番号30の61~390番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列又は配列番号32の58~429番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列と相補的な配列からなるDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズすることができるDNAであって抗体の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質をコードするDNAも本発明の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域をコードするDNAに含まれる。
【0077】
また、上記の軽鎖可変領域又は重鎖可変領域は、配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列からなる軽鎖可変領域又は重鎖可変領域のみならず、該アミノ酸配列において、1若しくは数個、例えば、1~10個、好ましくは1~5個、さらに好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなり、抗体の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域の活性、すなわちヒトSIRPαへの結合活性を有するタンパク質からなる軽鎖可変領域又は重鎖可変領域も含む。
【0078】
このような配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列として、配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列と、CLUSTAL W(アラインメントツール)等(例えば、デフォルトすなわち初期設定のパラメータ)を用いて計算したときに、少なくとも85%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは95%以上、特に好ましくは97%以上、98%以上、あるいは99%以上の配列同一性を有しているものが挙げられる。
【0079】
このような配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を有するタンパク質は配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列又は配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列を有するタンパク質と実質的に同一である。
【0080】
さらに、抗体cF63は、軽鎖可変領域のCDR(相補性決定領域)として、配列番号13で表されるアミノ酸配列(ERSSGDIGDSYVS)からなるCDRL1、配列番号14で表されるアミノ酸配列(ADDQRPS)からなるCDRL2、配列番号15で表されるアミノ酸配列(QSYDSKIDI)からなるCDRL3を含み、さらに、重鎖可変領域のCDRとして、配列番号16で表されるアミノ酸配列(GFSLASYSLS)からなるCDRH1、配列番号17で表されるアミノ酸配列(RMYYDGDTA)からなるCDRH2、配列番号18で表されるアミノ酸配列(DRSMFGTDYPHWYFDF)からなるCDRH3を含む(図30)。
【0081】
すなわち、本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号13で表されるアミノ酸配列からなるCDRL1、配列番号14で表されるアミノ酸配列からなるCDRL2、配列番号15で表されるアミノ酸配列からなるCDRL3を含み、さらに、重鎖可変領域のCDRとして、配列番号16で表されるアミノ酸配列からなるCDRH1、配列番号17で表されるアミノ酸配列からなるCDRH2、配列番号18で表されるアミノ酸配列からなるCDRH3を含む抗体である。
【0082】
上記の各CDRは、それぞれに表されるアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1若しくは2個、さらに好ましくは1個のアミノ酸が欠失、置換、付加されたアミノ酸配列からなるCDRも含む。
【0083】
ヒト化抗体
ヒト化抗体(CDR移植抗体)は、ヒト以外の動物の抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列をヒト抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域の適切な位置に移植した抗体をいう。
【0084】
本発明のヒト化抗SIRPα抗体は、ヒトSIRPαに結合し、かつ、SIRPαとCD47の結合を阻害することにより、マクロファージの貪食能を増強するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマから産生されるヒト以外の動物の抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のCDRのアミノ酸配列を任意のヒト抗体の軽鎖可変領域及び重鎖可変領域のフレームワーク(FR:frame work)領域に移植した可変領域をコードするcDNAを構築し、ヒト抗体の軽鎖定常領域及び重鎖定常領域をコードする遺伝子を有する動物細胞用発現ベクターにそれぞれ挿入してヒト化抗体発現ベクターを構築し、動物細胞へ導入することにより発現させ、製造することができる。
【0085】
具体的には、抗体D13、抗体F44又は抗体F63のCDRとヒト抗体のフレームワーク領域とを連結するように設計したDNA配列を合成すればよい。CDRを介して連結されるヒト抗体のフレームワーク領域は、CDRが良好な抗原結合部位を形成するように選択される。また、必要な場合は、ヒト化抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するように、抗体の可変領域におけるフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい。CDRを移植したヒト化抗体の作製は、公知のCDRグラフティング技術により行うことができる。
【0086】
上記の方法で、抗体D13の重鎖可変領域のCDR(配列番号1~6に示すアミノ酸からなる6つのCDR)を有するヒト化抗体の重鎖であって、可変領域のフレームワーク領域の一部のアミノ酸が置換された重鎖として、ヒト化抗体重鎖hH1及びヒト化抗体重鎖hH2が挙げられる。また、抗体D13の軽鎖可変領域のCDRを有するヒト化抗体の軽鎖であって、可変領域のフレームワーク領域の一部のアミノ酸が置換された軽鎖として、ヒト化抗体軽鎖hL2、ヒト化抗体軽鎖hL3及びヒト化抗体軽鎖hL4が挙げられる。
【0087】
ヒト化抗体重鎖hH1の全長ヌクレオチド配列を配列番号40に、アミノ酸配列を配列番号41に示す。また、ヒト化抗体重鎖hH2の全長ヌクレオチド配列を配列番号42に、アミノ酸配列を配列番号43に示す。配列番号40及び42において、1~57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、58~417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、418~1398番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。また、配列番号41及び43において、1~19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列、20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域、140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域のアミノ酸配列である。図11に抗体D13の重鎖可変領域とヒト化抗体重鎖hH1の可変領域とヒト化抗体重鎖hH2の可変領域のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)の比較を示す。
【0088】
本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号41又は43の20~139番目のアミノ酸残基からなる重鎖可変領域と140~466番目のアミノ酸残基からなる重鎖定常領域を有する抗体を含む。
【0089】
ヒト化抗体軽鎖hL2の全長ヌクレオチド配列を配列番号34に、アミノ酸配列を配列番号35に示す。また、ヒト化抗体軽鎖hL3の全長ヌクレオチド配列を配列番号36に、アミノ酸配列を配列番号37に示す。さらに、ヒト化抗体軽鎖hL4の全長ヌクレオチド配列を配列番号38に、アミノ酸配列を配列番号39に示す。配列番号34、36及び38において、1~60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、61~381番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、382~702番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。配列番号35、37及び39において、1~20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列、21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域、128~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域のアミノ酸配列である。図12に抗体D13の軽鎖可変領域とヒト化抗体軽鎖hL2の可変領域とヒト化抗体鎖hL3の可変領域とヒト化抗体軽鎖hL4の可変領域のアミノ酸配列(シグナル配列を含む)の比較を示す。
【0090】
本発明の抗SIRPα抗体は、配列番号35、37及び39の21~127番目のアミノ酸残基からなる可変領域と128~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖定常領域を有する抗体を含む。
【0091】
ヒト化抗体の重鎖定常領域は、IgG4サブクラスの重鎖定常領域であってPro変異及びFALA変異を有する重鎖定常領域IgG4proFALAである。
【0092】
ヒトSIRPαとの結合性が高い抗体であり、SIRPαとCD47の結合の阻害活性が高い抗体として、ヒト化抗体重鎖hH1及びヒト化抗体軽鎖hL3からなる抗体(hD13_H1L3抗体)、ヒト化抗体重鎖hH1及びヒト化抗体軽鎖hL4からなる抗体(hD13_H1L4抗体)、ヒト化抗体重鎖hH2及びヒト化抗体軽鎖hL2からなる抗体(hD13_H2L2抗体)及びヒト化抗体重鎖hH2及びヒト化抗体軽鎖hL3からなる抗体(hD13_H2L3抗体)が挙げられる。
【0093】
hD13_H1L3抗体は、配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなる重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を有する抗体である。
【0094】
hD13_H1L4抗体は、配列番号41の20~466番目のアミノ酸残基からなる重鎖及び配列番号39の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を有する抗体である。
【0095】
hD13_H2L2抗体は、配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなる重鎖及び配列番号35の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を有する抗体である。
【0096】
hD13_H2L3抗体は、配列番号43の20~466番目のアミノ酸残基からなる重鎖及び配列番号37の21~234番目のアミノ酸残基からなる軽鎖を有する抗体である。
【0097】
なお、哺乳類培養細胞で生産される抗体の重鎖のカルボキシル末端のリシン残基が欠失することが知られている(Tsubaki et.al.,Int.J.Biol.Macromol,139-147,2013)。しかし、この重鎖配列の欠失は、抗体の抗原結合能及びエフェクター機能(補体の活性化や抗体依存性細胞障害作用など)には影響を及ぼさない。従って、本発明には重鎖カルボキシル末端のリシン残基が欠失した抗体も含まれる。
【0098】
その他の抗体
本発明の抗体は、抗体の抗原結合部を有する抗体の抗原結合性断片又はその修飾物であってもよい。抗体をパパイン、ペプシン等の蛋白質分解酵素で処理するか、あるいは抗体遺伝子を遺伝子工学的手法によって改変し適当な培養細胞において発現させることによって、該抗体の断片を得ることができる。このような抗体断片のうちで、抗体全長分子の持つ機能の全て又は一部を保持している断片を抗体の抗原結合性断片と呼ぶことができる。抗体の機能としては、一般的には抗原結合活性、抗原の活性を中和する活性、抗原の活性を増強する活性、抗体依存性細胞傷害活性、補体依存性細胞傷害活性及び補体依存性細胞性細胞傷害活性を挙げることができる。本発明における抗体の抗原結合性断片が保持する機能は、SIRPαに対する結合活性である。
【0099】
例えば、抗体の断片としては、Fab、F(ab’)2、可変領域(Fv)、又は重鎖及び軽鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)、diabody(diabodies)、線状抗体、及び抗体断片より形成された多特異性抗体などを挙げることができる。また、F(ab’)2を還元条件下で処理した抗体の可変領域の一価の断片であるFab’も抗体の断片に含まれる。
【0100】
さらに、本発明の抗体は少なくとも2種類の異なる抗原に対して特異性を有する多特異性抗体であってもよい。通常このような分子は2種類の抗原に結合するものであるが(即ち、二重特異性抗体(bispecific antibody))、本発明における「多特異性抗体」は、それ以上(例えば、3種類)の抗原に対して特異性を有する抗体を包含するものである。
本発明の多特異性抗体は、全長からなる抗体、又はそのような抗体の断片(例えば、F(ab’)2二重特異性抗体)でもよい。二重特異性抗体は2種類の抗体の重鎖と軽鎖(HL対)を結合させて作製することもできるし、異なるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを融合させて、二重特異性抗体産生融合細胞を作製することによっても、作製することができる(Millstein et al.,Nature(1983)305,p.537-539)。
【0101】
本発明の抗体は一本鎖抗体(scFvとも記載する)でもよい。一本鎖抗体は、抗体の重鎖可変領域と軽鎖可変領域とをポリペプチドのリンカーで連結することにより得られる(Pluckthun,The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,113(Rosenberg及びMoore編、Springer Verlag,New York,p.269-315(1994)、Nature Biotechnology(2005),23,p.1126-1136)。また、2つのscFvをポリペプチドリンカーで結合させて作製されるBiscFv断片を二重特異性抗体として使用することもできる。
【0102】
一本鎖抗体を作製する方法は当技術分野において周知である(例えば、米国特許第4,946,778号、米国特許第5,260,203号、米国特許第5,091,513号、米国特許第5,455,030号等を参照)。このscFvにおいて、重鎖可変領域と軽鎖可変領域は、コンジュゲートを作らないようなリンカー、好ましくはポリペプチドリンカーを介して連結される(Huston,J.S.et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.(1988),85,p.5879-5883)。scFvにおける重鎖可変領域及び軽鎖可変領域は、同一の抗体に由来してもよく、別々の抗体に由来してもよい。可変領域を連結するポリペプチドリンカーとしては、例えば12~19残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0103】
scFvをコードするDNAは、前記抗体の重鎖又は重鎖可変領域をコードするDNA、及び軽鎖又は軽鎖可変領域をコードするDNAのうち、それらの配列のうちの全部又は所望のアミノ酸配列をコードするDNA部分を鋳型とし、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR法により増幅し、次いで、さらにポリペプチドリンカー部分をコードするDNA、及びその両端が各々重鎖、軽鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合わせて増幅することにより得られる。
【0104】
また、一旦scFvをコードするDNAが作製されると、それらを含有する発現ベクター、及び該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いることにより、常法に従ってscFvを得ることができる。これらの抗体断片は、前記と同様にして遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。
【0105】
本発明の抗体は、多量化して抗原に対する親和性を高めたものであってもよい。多量化する抗体としては、1種類の抗体であっても、同一の抗原の複数のエピトープを認識する複数の抗体であってもよい。抗体を多量化する方法としては、IgG CH3ドメインと2つのscFvとの結合、ストレプトアビジンとの結合、へリックスーターン-へリックスモチーフの導入等を挙げることができる。
本発明の抗体は、アミノ酸配列が異なる複数種類の抗SIRPα抗体の混合物である、ポリクローナル抗体であってもよい。ポリクローナル抗体の一例としては、CDRが異なる複数種類の抗体の混合物を挙げることができる。そのようなポリクローナル抗体としては、異なる抗体を産生する細胞の混合物を培養し、該培養物から精製された抗体を用いることが出来る(WO2004/061104号参照)。
【0106】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。
【0107】
本発明の抗体は、更にこれらの抗体と他の薬剤がコンジュゲートを形成しているもの(Immunoconjugate)でもよい。このような抗体の例としては、該抗体が放射性物質や薬理作用を有する化合物と結合している物を挙げることができる(Nature Biotechnology(2005)23,p.1137-1146)。
【0108】
また、抗体の重鎖及び軽鎖の全長配列を適切なリンカーを用いて連結し、一本鎖イムノグロブリン(single chain immunoglobulin)を取得する方法も知られている(Lee,H-S,et.al.,Molecular Immunology(1999)36,p.61-71;Shirrmann,T.et.al.,mAbs(2010),2,(1)p.1-4)。このような一本鎖イムノグロブリンは二量体化することによって、本来は四量体である抗体と類似した構造と活性を保持することが可能である。また、本発明の抗体は、単一の重鎖可変領域を有し、軽鎖配列を有さない抗体であっても良い。このような抗体は、単一ドメイン抗体(single domain antibody:sdAb)又はナノボディ(nanobody)と呼ばれており、実際にラクダ又はラマで観察され、抗原結合能が保持されていることが報告されている(Muyldemans S.et.al.,Protein Eng.(1994)7(9),1129-35,Hamers-Casterman C.et.al.,Nature(1993)363(6428)446-8)。上記の抗体は、本発明における抗体の抗原結合性断片の一種と解釈することも可能である。
【0109】
抗体の産生方法
本発明の抗体は、重鎖可変領域をコードするDNA又は軽鎖可変領域をコードするDNAを発現ベクターに挿入し、発現用の宿主細胞を該ベクターを用いて形質転換し、宿主細胞を培養することにより、リコンビナント抗体として細胞に産生させることができる。
【0110】
抗体をコードするDNAは、重鎖可変領域をコードするDNAと重鎖定常領域をコードするDNAを連結することにより重鎖をコードするDNAが得られ、さらに軽鎖可変領域をコードするDNAと軽鎖定常領域をコードするDNAを連結することにより軽鎖をコードするDNAが得られる。
【0111】
本発明の抗SIRPα抗体は、上記の重鎖をコードするDNA及び軽鎖をコードするDNAを発現ベクターに挿入し、宿主細胞を該ベクターを用いて形質転換し、該宿主細胞を培養して産生させることができる。この際、上記の重鎖をコードするDNA及び軽鎖をコードするDNAを同じ発現ベクターに導入し、該ベクターを用いて宿主細胞を形質転換してもよいし、重鎖をコードするDNAと軽鎖をコードするDNAを別々のベクターに挿入し、2つのベクターを用いて宿主細胞を形質転換してもよい。この際、重鎖定常領域をコードするDNA及び軽鎖定常領域をコードするDNAを予め導入したベクターに重鎖可変領域及び軽鎖可変領域をコードするDNAを導入してもよい。また、該ベクターは宿主細胞からの抗体の分泌を促進するシグナルペプチドをコードするDNAを含んでいてもよい、この場合、シグナルペプチドをコードするDNAと抗体をコードするDNAをインフレームで連結しておく。抗体が産生された後にシグナルペプチドを除去することにより、抗体を成熟タンパク質として得ることができる。
【0112】
この際、重鎖可変領域をコードするDNA、軽鎖可変領域をコードするDNA、重鎖可変領域をコードするDNA及び重鎖定常領域をコードするDNAを連結したDNA、軽鎖可変領域をコードするDNAと軽鎖定常領域をコードするDNAを連結したDNAをプロモータ、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル等のエレメントと機能的に連結してもよい。ここで機能的に連結とは、エレメントがその機能を果たすように連結することをいう。
【0113】
発現ベクターは、動物細胞、細菌、酵母等の宿主中で複製可能なものであれば特に限定されず、例えば、公知のプラスミド、ファージ等が挙げられる。発現ベクターの構築に用いられるベクターとしては、例えば、pcDNA(商標)(ThermoFisher SCIENTIFIC)、Flexi(登録商標)ベクター(プロメガ社)、pUC19、pUEX2(アマシャム社製)、pGEX-4T、pKK233-2(ファルマシア社製)、pMAM-neo(クロンテック社製)等が挙げられる。宿主細胞としては、大腸菌、枯草菌等の原核細胞も酵母、動物細胞等の真核細胞も用いることができるが、真核細胞を用いることが好ましい。例えば、動物細胞として、ヒト胎児腎細胞株であるHEK293細胞、チャイニーズ・ハムスター・卵巣(CHO)細胞等を用いればよい。発現ベクターは公知の方法で宿主細胞に導入し、宿主細胞を形質転換すればよい。例えば、エレクトロポレーション法、リン酸カルシウム沈殿法、DEAE-デキストラントランスフェクション法等が挙げられる。産生された抗体は、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用して精製することができる。例えば、アフィニティークロマトグラフィー、その他のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択し、組み合わせればよい。
【0114】
抗腫瘍剤
本発明は、本発明の抗SIRPα抗体を有効成分として含む抗腫瘍剤を包含する。ただし、本発明の抗SIRPα抗体の重鎖定常領域は、IgG4サブクラスの重鎖定常領域であってPro変異及びFALA変異を有する重鎖定常領域IgG4proFALAであり、エフェクター機能を有しておらず、SIRPαとCD47の結合を阻害することにより、“Don’t-eat-me”シグナル伝達を阻害する機能のみを有している。そのため、本発明の抗SIRPα抗体のみでは、腫瘍細胞を十分に傷害することはできない。そこで、本発明はエフェクター機能を有し、腫瘍細胞を攻撃し傷害し得る他の抗腫瘍剤や腫瘍細胞による免疫細胞の免疫チェックポイントを阻害する他の抗腫瘍剤と併用する。併用に用いる他の抗腫瘍剤は、腫瘍細胞に結合し、腫瘍細胞とマクロファージ等の貪食細胞とを接触させることができる。そのときに本発明の抗SIRPα抗体が腫瘍細胞のCD47と貪食細胞のSIRPαとの結合を阻害することにより、貪食細胞の腫瘍細胞の貪食能を増強するので、腫瘍細胞は傷害される。すなわち、本発明の抗SIRPα抗体と他の抗腫瘍剤を併用することにより、相乗的な抗腫瘍効果を発揮することができる。
【0115】
本発明の抗SIRPα抗体と併用する抗腫瘍剤として、免疫チェックポイント阻害剤、がん抗原に特異的に結合してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬が挙げられる。免疫チェックポイント阻害剤としては、PD-1と、そのリガンドであるPD-L1との結合阻害剤、又はCTLA4阻害剤などが挙げられ、具体的には抗PD-1抗体(nivolumab、pembrolizumab、cemiplimab、spartalizumab、PDR-001、BI 754091)、抗PD-L1抗体(atezolizumab、avelumab、durbarumab)、抗CTLA4抗体(ipilimumab、tremelimumab)等が挙げられる。また、がん抗原に特異的に反応してADCC及び/又はADCP活性を有する抗体医薬としては、抗CD20抗体(rituximab)、抗HER2抗体(trastuzumab)、抗EGFR抗体(cetuximab)、抗CD52抗体(alemutuzumab)等が挙げられる。
【0116】
ADCCは、Fcγレセプターを発現する非特異的細胞傷害性細胞(例えばNK細胞、好中球、及びマクロファージ等)が標的細胞上に結合した抗体を認識して、その後にターゲット細胞の溶解を起こす細胞介在性反応をいう。ADCCを担うプライマリー細胞であるNK細胞ではFcγRIICとFcγRIIIAが発現しており、単球ではFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIC及びFcγRIIIAを発現している。一方、ADCPは、Fcレセプターを発現する貪食細胞(例えばマクロファージ、好中球等)が標的細胞上に結合した抗体を認識して、その後、ターゲット細胞を細胞内に貪食する細胞介在性反応をいう。ADCPを担うプライマリー細胞である単球ではFcγRI、FcγRIIA、FcγRIIC及びFcγRIIIAが発現している。
【0117】
本発明は、抗SIRPα抗体を有効成分として含む抗腫瘍剤であって、上記の他の抗腫瘍剤と併用される抗腫瘍剤を含む。
【0118】
さらに、本発明は抗SIRPα抗体を有効成分として含む抗腫瘍剤と上記の他の抗腫瘍剤の両方を含む抗腫瘍剤又はキットを含む。
【0119】
本発明の抗SIRPα抗体を有効成分として含む抗腫瘍剤と上記の他の抗腫瘍剤は同時に投与しても、逐次に投与してもよい。また、投与順は限定されず、本発明の抗SIRPα抗体を有効成分として含む抗腫瘍剤を投与した後に他の抗腫瘍剤を投与してもよく、他の抗腫瘍剤を投与した後に、本発明の抗SIRPα抗体を有効成分として含む抗腫瘍剤を投与してもよい。
【0120】
本発明の抗腫瘍剤は、がん腫、肉腫、リンパ腫、白血病、骨髄腫、胚細胞腫、脳腫瘍、カルチノイド、神経芽腫、網膜芽細胞腫、腎芽腫から選択される一種又は複数種に対して使用することができる。具体的には、がん腫では、腎がん、メラノーマ、有棘細胞がん、基底細胞がん、結膜がん、口腔がん、喉頭がん、咽頭がん、甲状腺がん、肺がん、乳がん、食道がん、胃がん、十二指腸がん、小腸がん、大腸がん、直腸がん、虫垂がん、肛門がん、肝がん、胆嚢がん、胆管がん、膵がん、副腎がん、膀胱がん、前立腺がん、子宮がん、膣がんなどが挙げられ、肉腫では、脂肪肉腫、血管肉腫、軟骨肉腫、横紋筋肉腫、ユーイング肉腫、骨肉腫、未分化多型肉腫、粘液型線維肉腫、悪性末梢性神経鞘腫、後腹膜肉腫、滑膜肉腫、子宮肉腫、消化管間質腫瘍、平滑筋肉腫、類上皮肉腫などが挙げられ、リンパ腫では、B細胞リンパ腫、T・NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫などが挙げられ、白血病では、骨髄性白血病、リンパ性白血病、骨髄増殖性疾患、骨髄異形成症候群などが挙げられ、骨髄腫では、多発性骨髄腫などが挙げられ、胚細胞腫では、精巣がん、卵巣がんなどが挙げられ、脳腫瘍では、神経膠腫、髄膜腫などが挙げられる。
【0121】
本発明の抗SIRPα抗体は、他の抗腫瘍剤と併用することにより細胞性免疫を増強する。本発明は、抗SIRPα抗体を有効成分として含む細胞性免疫増強剤も包含する。該細胞性免疫増強剤においては、ナチュラルキラー細胞及び/又はT細胞の機能増強に伴う細胞性免疫を増強する。
【0122】
本発明の抗腫瘍剤は、治療に有効量の抗SIRPα抗体と薬学上許容可能な担体、希釈剤、可溶化剤、乳化剤、保存剤、補助剤等を含めることができる。「薬学上許容可能な担体」等は、対象疾患の種類や薬剤の投与形態に応じて広い範囲から適宜選択することができる。本発明の抗腫瘍剤の投与方法は適宜選択することができるが、例えば注射投与することができ、局所注入、腹腔内投与、選択的静脈内注入、静脈注射、皮下注射、臓器灌流液注入等を採用することができる。また、注射用の溶液は、塩溶液、グルコース溶液、又は塩水とグルコース溶液の混合物、各種の緩衝液等からなる担体を用いて製剤化することができる。また粉末状態で製剤化し、使用時に前記液体担体と混合して注射液を調整するようにしてもよい。
【0123】
他の投与方法についても、製剤の開発と共に適宜選択することができる。例えば経口投与の場合には、経口液剤や散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤等を適用することができる。経口液剤の場合には、懸濁剤及びシロップ剤等のような経口液体調整物として、水、シュークロース、ソルビトール、フラクト-ス等の糖類、ポリエチレングリコール等のグリコール類、ごま油、大豆油等の油類、アルキルパラヒドロキシベンゾエート等の防腐剤、ストロベリー・フレーバー、ペパーミント等のフレーバー類等を使用して製造することができる。散剤、丸剤、カプセル剤及び錠剤は、ラクト-ス、グルコース、シュークロース、マンニトール等の賦形剤、デンプン、アルギニン酸ソーダ等の崩壊剤、マグネシウムステアレート、タルク等の滑沢剤、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、ゼラチン等の結合剤、脂肪酸エステル等の表面活性剤、グリセリン等の可塑剤等を用いて製剤化することができる。錠剤及びカプセル剤は、投与が容易であるという点において、この発明の組成物における好ましい単位投与形態である。錠剤やカプセル剤を製造する際には、固体の製造担体が用いられる。
【0124】
治療に用いるに有効な抗体の量は、治療する病状の性質、患者の年齢や状態により変更され、最終的には医師が決めればよい。例えば、1回体重1kg当たり0.0001mg~100mgである。所定の投与量は1~180日に1回投与してもよいし、1日当たり2回、3回、4回又はそれ以上の分割投与とし適当な間隔で投与してもよい。
【実施例
【0125】
本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0126】
実施例1.ラット抗SIRPA抗体の作製
1)‐1 発現コンストラクト調製
1)‐1‐1 SIRPA_V1_ECD発現ベクターの構築
ヒトSIRPA_V1(NCBIの蛋白データベースのACCESSION番号:NP_001035111)のアミノ酸配列の1乃至373番目のC末端側にHHHHHHを連結したポリペプチドをコードするDNAと制限酵素XbaIとPmeIで消化したベクターpcDNA3.3-TOPO/LaxZ(ThermoFisher SCIENTIFIC)をIn‐Fusion HD Cloning Kit(CLONTECH)を用いて結合することにより、SIRPA_V1_ECD発現ベクターを作製した。SIRPA_V1_ECDのアミノ酸配列を配列表の配列番号45に、SIRPA_V1_ECDをコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号44に示す。
【0127】
1)‐1‐2 SIRPA_V1_IgV発現ベクターの構築
SIRPA_V1(NCBIの蛋白データベースのACCESSION番号NP_001035111)のアミノ酸配列の1乃至149番目のC末端側にHHHHHHを連結したポリペプチドをコードするDNAを用いて1)‐1‐1と同様の方法でSIRPA_V1_IgV発現ベクターを作製した。SIRPA_V1_IgVのアミノ酸配列を配列表の配列番号47に、SIRPA_V1_IgVをコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号46に示す。
【0128】
1)‐1‐3 SIRPA_V2_ECD発現ベクターの構築
SIRPA_V2(V1配列、JBC Vol.289,No14,10024(2014)を元に改変)のアミノ酸配列の1乃至372番目のC末端側にHHHHHHを連結したポリペプチドをコードするDNAを用いて1)‐1‐1と同様の方法でSIRPA_V2_ECD発現ベクターを作製した。SIRPA_V2_ECDのアミノ酸配列を配列表の配列番号49に、SIRPA_V2_ECDをコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号48に示す。
【0129】
1)‐1‐4 SIRPA_V2_IgV発現ベクターの構築
SIRPA_V2のアミノ酸配列の1乃至148番目のC末端側にHHHHHHを連結したポリペプチドをコードするDNAを用いて1)‐1‐1と同様の方法でSIRPA_V2_IgV発現ベクターを作製した。SIRPA_V2_IgVのアミノ酸配列を配列表の配列番号51に、SIRPA_V2_IgVをコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号50に示す。
【0130】
1)‐1‐5 cSIRPA_ECD発現ベクターの構築
cSIRPA(NCBIの蛋白データベースのACCESSION番号NP_001768)のアミノ酸配列の1乃至372番目のC末端側にHHHHHHHを連結したポリペプチドをコードするDNAを用いて1)‐1‐1と同様の方法でcSIRPA_ECD発現ベクターを作製した。cSIRPA_ECDのアミノ酸配列を配列表の配列番号53に、cSIRPA_ECDをコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号52に示す。
【0131】
1)‐1‐6 CD47‐Fc発現ベクターの構築
ヒトCD47(NCBIの蛋白データベースのACCESSION番号NP_001271679)のポリペプチドをコードするDNAを用いて1)‐1‐1と同様の方法でCD47‐Fc発現ベクターを作製した。CD47‐Fcのアミノ酸配列を配列表の配列番号55に、SIRPA_V1_ECDをコードするヌクレオチド配列を配列表の配列番号54に示す。
【0132】
1)‐2 リコンビナント蛋白質の調製
1)‐2‐1 SIRPA_V1_ECDの調製
1)‐1‐1で作製したSIRPA_V1_ECD発現ベクターをFreeStyle 293F cells(ThermoFisher SCIENTIFIC)にトランスフェクションすることで一過性に発現させた。培養上清を3×PBSで平衡化したHisTrap excel(GEヘルスケア・ジャパン社)に添加したのち、3×PBSでカラムを洗浄した。次に3×PBS、500 mM Imidazole,pH 7.5で溶出した。回収したSIRPA_V1_ECD画分からHiLoad 26/600 Superdex 75 pg(GEヘルスケア・ジャパン社)を用いてSIRPA_V1_ECDを精製した。
【0133】
1)‐2‐2 SIRPA_V1_IgVの調製
1)‐1‐2で作製したSIRPA_V1_IgV発現ベクターをFreeStyle 293F cells(ThermoFisher SCIENTIFIC)にトランスフェクションすることで一過性に発現させた。培養上清を3×PBSで平衡化したHisTrap excel(GEヘルスケア・ジャパン社)に添加したのち、3×PBSでカラムを洗浄した。次に3×PBS、500 mM Imidazole,pH 7.5で溶出した。回収したSIRPA_V1_IgV画分からHiLoad 26/600 Superdex 75 pg(GEヘルスケア・ジャパン社)を用いてSIRPA_V1_IgVを精製した。
【0134】
1)‐2‐3 SIRPA_V2_ECDの調製
1)‐1‐3で作製したSIRPA_V2_ECD発現ベクターを用いて1)‐2‐1と同様の方法でSIRPA_V2_ECDを精製した。
【0135】
1)‐2‐4 SIRPA_V2_IgVの調製
1)‐1‐4で作製したSIRPA_V2_ECD発現ベクターを用いて1)‐2‐2と同様の方法でSIRPA_V2_ECDを精製した。
【0136】
1)‐2‐5 cSIRPA_ECDの調製
1)‐1‐5で作製したcSIRPA_ECD発現ベクターを用いて1)‐2‐1と同様の方法でcSIRPA_ECDを精製した。
【0137】
1)‐2‐6 CD47‐Fcの調製
CD47‐Fc発現ベクターをFreeStyle 293F cells(ThermoFisher SCIENTIFIC)にトランスフェクションすることで一過性に発現させた。培養上清をPBSで平衡化したMabSelectSuRe(GEヘルスケア・ジャパン社)にすべて入れたのち、PBSでカラムを洗浄した。次に2Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、CD47‐Fcの含まれる画分を集めた。回収したCD47‐Fc画分からHiLoad 26/600 Superdex 200 pg(GEヘルスケア・ジャパン社)を用いてCD47‐Fcを精製した。
【0138】
1)‐3 免疫
免疫にはWKY/Izmラットの雌(日本エスエルシー社)を使用した。1)‐2で作製した抗原蛋白SIRPA_V1_ECD、SIRPA_V1_IgV、SIRPA_V2_ECD、SIRPA_V2_IgVそれぞれとFreund‘s Complete Adjuvant(和光純薬社)を混合したものを尾根部に投与したラットのリンパ節及び脾臓を採取しハイブリドーマ作製に用いた。
【0139】
1)‐4 ハイブリドーマ作製
リンパ節細胞あるいは脾臓細胞とマウスミエローマSP2/0‐ag14細胞(ATCC:CRL‐1581)をLF301‐Cell Fusion Unit(BEX社)を用いて電気細胞融合し、Clona Cell‐HY Selection MediumD(Stem Cell Technologies社)に希釈して培養した。出現したハイブリドーマコロニーを回収することでモノクローンハイブリドーマを作製した。回収された各ハイブリドーマコロニーを培養し、得られたハイブリドーマ培養上清を用いて抗SIRPA抗体産生ハイブリドーマのスクリーニングを実施した。
【0140】
1)‐5 抗原結合性抗体スクリーニング用発現ベクターの構築
1)‐5‐1 ヒトSIRPA_V1及びV2発現ベクター(pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1_ECD及びSIRPA_V2_ECD)の構築
ヒトSIRPA_V1蛋白質(NP_001035111)、又はヒトSIRPA_V2蛋白質[NP_001035111、JBC Vol.289,No14,10024(2014)を元に改変]をコードするcDNAをpcDNA3.2 V5‐DESTベクターにクローニングし、それぞれを発現するベクターpcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1_ECD、V2_ECD(又はpcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、V2)を構築した。ヒトSIRPA_V1蛋白質のアミノ酸配列を配列表の配列番号56に、ヒトSIRPA_V2蛋白質のアミノ酸配列を配列表の配列番号57にそれぞれ示す。
【0141】
1)‐5‐2 サルSIRPA及びマウスSIRPA発現ベクター(pcDNA3.2 V5‐DEST‐サルSIRPA、pFLAG V5‐DEST‐サルSIRPA又はpFLAG V5‐DEST‐マウスSIRPA)の構築
サルSIRPA蛋白質(NP_001271679)又はマウスSIRPA蛋白質(C57BL6:NP_031573、BALB/c:BAA20376、129:P97797、NOD SCID:Immunology,143,61-67,2014を元に改変)をコードするcDNAをpcDNA3.2 V5-DESTベクター、又はpFLAG V5‐DESTベクターにクローニングし、それぞれの蛋白質を発現するベクターpcDNA3.2 V5‐DEST‐サルSIRPA、pFLAG V5‐DEST‐サルSIRPA及びpFLAG V5‐DEST‐マウスSIRPA(C57BL6、BALB/c、129、NOD)を構築した。サルSIRPAのアミノ酸配列を配列表の配列番号58に、マウスSIRPA_C57BL/6のアミノ酸配列を配列表の配列番号59に、マウスSIRPA_BALB/cのアミノ酸配列を配列表の配列番号60に、マウスSIRPA_129のアミノ酸配列を配列表の配列番号61に、マウスSIRPA_NODのアミノ酸配列を配列表の配列番号62にそれぞれ示す。
【0142】
1)‐6 ハイブリドーマスクリーニング
1)‐6‐1 Cell‐ELISA用抗原遺伝子発現細胞の調製
HEK293α細胞(インテグリンαv及びインテグリンβ3を発現するHEK293由来の安定発現細胞株)を10% FBS含有DMEM培地中7.5×10細胞/mLになるよう調製した。それに対し、Lipofectamine 2000(Thermo Fisher Scientific社)を用いた形質移入手順に従い、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1若しくはpcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V2、又はコントロールとしてpcDNA3.2 V5‐DESTを導入後、96‐Half area well plate(Corning社)に50μLずつ分注、又は96‐well plate(Corning社製)に100μLずつ分注し、10% FBS含有DMEM培地中で37℃、5% COの条件下で24から27時間培養した。得られた導入細胞を接着状態のまま、Cell‐ELISAに使用した。
【0143】
1)‐6‐2 ヒトSIRPAに対する結合性評価(Cell‐ELISA)
実施例1)‐6‐1で調製した発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、V2又はpcDNA3.2 V5‐DEST導入293α細胞のそれぞれに対しハイブリドーマ培養上清を添加し、4℃で1時間静置した。ウェル中の細胞を5% FBS含有PBSで2回洗浄後、5% FBS含有PBSで500倍に希釈したAnti‐Rat IgG‐Peroxidase antibody produced in rabbit(SIGMA社)を加えて、4℃で1時間静置した。well中の細胞を5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、OPD発色液(OPD溶解液(0.05 M クエン酸3ナトリウム、0.1M リン酸水素2ナトリウム・12水 pH4.5)にo-フェニレンジアミン二塩酸塩(和光純薬社)、H2O2をそれぞれ0.4mg/mL、0.6%(v/v)になるように溶解)を50μL/wellで添加した。時々攪拌しながら発色反応を行い、1M HCLを50μL/wellで添加して発色反応を停止させた後、プレートリーダー(ENVISION:PerkinElmer社)で490nmの吸光度を測定した。細胞膜表面上に発現するSIRPAに特異的に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択するため、コントロールのpcDNA3.2 V5‐DEST導入293α細胞と比較し、pcDNA3.2 V5-DEST‐SIRPA_V1及びSIRPA_V2発現ベクター導入293α細胞の方でより高い吸光度を示す培養上清を産生するハイブリドーマを抗SIRPA抗体産生陽性として選択した。
【0144】
1)‐6‐3 SIRPA‐CD47結合阻害活性評価
実施例1)‐6‐1で調製した発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、SIRPA_V2又はpcDNA3.2 V5‐DEST導入293α細胞のそれぞれに対しハイブリドーマ培養上清を添加し、直後に終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで調製したPeroxidase labeled CD47‐Fcを50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。ウェル中の細胞を5% FBS含有PBSで2回洗浄した後、OPD発色液(OPD溶解液(0.05 M クエン酸3ナトリウム、0.1M リン酸水素2ナトリウム・12水 pH4.5)にo‐フェニレンジアミン二塩酸塩(和光純薬社製)、H2O2をそれぞれ0.4mg/mL、0.6%(v/v)になるように溶解)を100μL/ウェルで添加した。時々攪拌しながら発色反応を行い、1M HClを100μL/ウェルを添加して発色反応を停止させた後、プレートリーダー(Spectramax:Molecular devices社)で490nmの吸光度を測定した。細胞膜表面上に発現するSIRPAとCD47‐Fcの結合を特異的に阻害する抗体を産生するハイブリドーマを選択するため、コントロールの培地添加群と比較し、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、又はSIRPA_V2発現ベクター導入293α細胞において、より低い吸光度を示す培養上清を産生するハイブリドーマを、リガンド結合阻害活性を持つ抗SIRPA抗体産生陽性として選択した。
【0145】
1)‐6‐4 マウス、サルSIRPAに対する種交差性評価
実施例1)‐5‐2で調製したpcDNA3.2 V5‐DEST‐サルSIRPA、又はマウスSIRPA発現ベクター導入293α細胞、及びpcDNA3.2 V5‐DEST導入293α細胞の培養上清を除去後、ヒトSIRPAの結合活性評価と同じ方法でサル、又はマウスSIRPAに対する結合性を評価した。上記のヒト、及び動物種への結合活性、並びにSIRPA‐CD47結合阻害活性をもとに、D13、F42、F44、F47、F60、F63、及びF86抗体の計7クローンを選抜した。
【0146】
1)‐7 抗体のアイソタイプ決定
取得したラット抗SIRPA抗体産生ハイブリドーマの中から、強く特異的にヒトSIRPA_V1及びSIRPA_V2並びにサルSIRPAに結合し、高いSIRPA-CD47結合阻害活性能を有することが示唆されたD13、F42、F44、F47、F60、F63、及びF86抗体を産生するハイブリドーマを選抜し、抗体アイソタイプを同定した。アイソタイプは、Rat Immunoglobulin Isotyping ELISA Kit(BD Pharmingen社)により決定された。その結果、ラット抗SIRPAモノクローナル抗体D13、F42、F60、及びF86のアイソタイプはIgG1/κ鎖、F44、F47のアイソタイプはIgG2a/κ鎖、F63のアイソタイプはIgG2a/λ鎖であることが確認された。
【0147】
1)‐8 モノクローナル抗体の調製
1)‐8‐1 培養上清の調製
7種類のラット抗SIRPAモノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養上清から精製した。まず各抗体産生ハイブリドーマをClonaCell‐HY Selection Medium E(StemCell Technologies社)で十分量まで増殖させた後、Ultra Low IgG FBS(Thermo Fisher Scientific社)を20%添加した、5μg/mLのゲンタマイシン(Thermo Fisher Scientific社)含有Hybridoma SFM(Thermo Fisher Scientific社)に培地交換し、7日間培養した。本培養上清を回収し、0.22μmのフィルター(Corning社)を通して滅菌した。
【0148】
1)‐8‐2 抗体の精製
実施例1)‐8‐1で調製したハイブリドーマの培養上清から抗体をProtein Gアフィニティークロマトグラフィーで精製した。Protein Gカラム(GE Healthcare Bioscience社)に抗体を吸着させ、PBSでカラムを洗浄後に0.1M グリシン/塩酸水溶液(pH2.7)で溶出した。溶出液に1M Tris-HCl(pH9.0)を加えてpH7.0~7.5に調整した後に、Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF30K、Sartorius社)にてPBSへのバッファー置換を行うとともに抗体の濃縮を行い、抗体濃度を2mg/mL以上に調製した。最後にMinisart‐Plus filter(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0149】
実施例2.ラット抗ヒトSIRPA抗体(7種)のin vitro評価
2)‐1 抗原結合性抗体スクリーニング用発現ベクターの構築
2)‐1‐1 FLAG‐ヒトSIRPA発現ベクター(pFLAG V5‐DEST‐SIRPA_V1‐V10)の構築
10種類のヒトSIRPAバリアント蛋白質(Nature Immunology 8,1313‐1323,2007より抜粋)をコードするcDNAをpFLAG V5‐DESTベクターにクローニングし、それぞれのバリアント蛋白質を発現するベクターpFLAG V5‐DEST‐SIRPA_V1‐V10を構築した。
ヒトSIRPA_V3のアミノ酸配列を配列表の配列番号63に、ヒトSIRPA_V4のアミノ酸配列を配列表の配列番号64に、ヒトSIRPA_V5のアミノ酸配列を配列表の配列番号65に、ヒトSIRPA_V6のアミノ酸配列を配列表の配列番号66に、ヒトSIRPA_V7のアミノ酸配列を配列表の配列番号67に、ヒトSIRPA_V8のアミノ酸配列を配列表の配列番号68に、ヒトSIRPA_V9のアミノ酸配列を配列表の配列番号69に、ヒトSIRPA_V10のアミノ酸配列を配列表の配列番号70に、それぞれ示す。
【0150】
2)‐1‐2‐1 ヒトSIRPA_ECD、IgV、及びIgV_IgC1発現ベクター(pFLAG V5‐DEST‐SIRPA_ECD、及びIgVIgV_IgC1)の構築
ヒトSIRPA_V2の全長アミノ酸(1乃至504番)、及び165乃至371番の領域の欠損体(以下「IgV体」と記す)、225乃至371番の領域の欠損体(以下「IgV_IgC体」と記す)をコードするcDNAをpFLAG V5‐DESTベクターにクローニングし、それぞれの変異体蛋白質を発現するベクターを構築した。
【0151】
ヒトSIRPA_V2_IgV体のアミノ酸配列を配列表の配列番号71に、ヒトSIRPA_V2_IgV_IgC1体のアミノ酸を配列表の配列番号72に示す。
【0152】
2)‐1‐2‐2 hmSIRPA_Δ0、Δ1、及びΔ2_マウスSIRPA発現ベクター(pFLAG V5‐DEST‐hmSIRPA_Δ0、Δ1、及びΔ2)の構築
配列番号60に記載のマウスSIRPAの81乃至85番目のアミノ酸残基からなるSFTGE配列(配列番号78)をNQKEG配列(配列番号76)に置換し、126乃至130番目のアミノ酸残基からなるRGSSE配列(配列番号79)をKGS配列に置換したSIRPA変異体をhmSIRPA_Δ0と命名した。配列番号60に記載のマウスSIRPAの81乃至85番のアミノ酸残基からなるSFTGE配列(配列番号78)をNQKEE配列(配列番号77)に置換したSIRPA変異体をhmSIRPA_Δ1と命名した。さらに、配列番号60に記載のマウスSIRPAの81乃至85番のアミノ酸残基からなるSFTGE配列(配列番号78)をSFTEG配列(配列番号80)に置換したSIRPA変異体をhmSIRPA_Δ2と命名した。これらのSIRPA変異体をコードするcDNAをpFLAG V5‐DESTベクターにクローニングし、それぞれのSIRPA変異体を発現するベクターを構築した。
hmSIRPA_Δ0のアミノ酸配列を配列表の配列番号73に、hmSIRPA_Δ1のアミノ酸を配列表の配列番号74に、hmSIRPA_Δ2のアミノ酸を配列表の配列番号75にそれぞれ示す。
【0153】
2)‐2 ヒトSIRPAバリアントV1~V10に対する結合性評価
実施例2)‐1‐1で調製した10種類のバリアント蛋白質の発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、pFLAG V5‐DEST‐SIRPA_V1~V10又はpFLAG V5‐DEST導入293α細胞のそれぞれに対し終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈したラット抗ヒトSIRPA精製抗体を50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。また、各SIRPAバリアント発現検出用のウェルには、終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈した抗FLAG M2抗体(SIGMA社製)を50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。以下は1)‐6‐2に示すヒトSIRPAの結合活性価と同じ方法で、10種類のヒトSIRPAバリアント体に対する結合性を評価した。各バリアントに対するラット抗ヒトSIRPA抗体の結合性はFLAGタグの発現をもとに標準化した。
表1に示すように何れのクローンも全てのバリアントに対し結合性を示した。
【0154】
【表1】
【0155】
2)‐3 マウス、サルSIRPAに対する種交差性評価
実施例1)‐5‐2で調製したpFLAG V5‐DEST‐サルSIRPA、又はpFLAG V5‐DEST‐マウスSIRPA発現ベクター導入293α細胞、及びpFLAG V5‐DEST導入293α細胞の培養上清を除去後、ヒトSIRPAの結合活性評価と同じ方法でサル、又はマウスSIRPAに対する結合性を評価した。
表2に示す通り、ラット抗ヒトSIRPA抗体はいずれもサルSIRPAには結合性を示したが、マウスSIRPAには結合性を示さなかった。
【0156】
【表2】
【0157】
2)‐4 エピトープ解析
2)‐4‐1‐1 Cell‐ELISA法によるエピトープ解析(1)
2)‐1‐2‐1で調製したpFLAG V5‐DEST‐ECD体、IgV体、並びにIgV_IgC1体発現ベクター導入293α細胞、及びpFLAG V5‐DEST導入293α細胞の培養上清を除去後、それぞれの細胞に対し終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈したラット抗ヒトSIRPA精製抗体を50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。また、各SIRPAコンストラクト発現検出用のウェルには、終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈した抗FLAG M2抗体(SIGMA社製)を50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。以下はヒトSIRPAの結合活性評価と同じ方法で精製抗体7クローンの各ドメイン体への結合性を評価した。各コンストラクトに対するラット抗ヒトSIRPA抗体の結合性はFLAGタグの発現をもとに標準化した。
図1Aに示す通り、ラット抗ヒトSIRPA抗体は何れのコンストラクトに対しても結合を示すことから、IgVドメインを認識することが示唆された。
【0158】
2)‐4‐1‐2 Cell‐ELISA法によるエピトープ解析(2)
2)‐1‐2‐2で調製したpFLAG V5‐DEST‐hmSIRPA_Δ0、Δ1、並びにΔ2発現ベクター導入293α細胞、及びpFLAG V5‐DEST導入293α細胞の培養上清を除去後、それぞれの細胞に対し終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈したD13ヒト化抗ヒトSIRPA抗体4種、及びキメラ化抗ヒトSIRPA抗体をそれぞれ50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。また、各SIRPAコンストラクト発現検出用のウェルには、終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈した抗FLAG M2抗体(SIGMA社製)を50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。以下はヒトSIRPAの結合活性評価と同じ方法で各コンストラクトへの結合性を評価した。各コンストラクトに対する抗ヒトSIRPA抗体の結合性はFLAGタグの発現をもとに標準化した。
図1Bに示す通り、hD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3、又はcD13はNQKEG配列を持つhmSIRPA_Δ0に対しては、添加した抗体濃度依存的な結合性を示したが、Δ1、及びΔ2に対しては、いずれの濃度においても結合性を示さなかった。
以上のことから、hD13及びcD13の結合にはNQKEGの配列が必要であることが示唆された。
【0159】
2)‐4‐2 X線結晶構造解析によるエピトープ解析
2)‐4‐2‐1 複合体の結晶化
全長型のcD13抗体を弱酸性下でLysyl Endopeptidase(Wako)により限定的に切断し、BioAssist S陽イオン交換カラム(東ソー)を用いてcD13抗体のFab断片を分離した。実施例1)‐2で取得したSIRPA_V2_IgVとcD13のFab断片をモル比1:1で混合し、Superdex 75,10/300GLゲルろ過カラム(GE Healthcare)で複合体画分を分離した後、限外ろ過により10mM Tris HCl(pH 8.2)に緩衝液を置換し、3g/Lに濃縮した。複合体溶液を蒸気拡散法により結晶化した。タンパク質溶液0.5μLに沈殿剤溶液(0.2M Potassium phosphate dibasic、20%(w/v) Polyethylene Glycol 3350、pH 9.2)を等量加えた溶液を、0.05mLの沈殿剤溶液を入れた密閉容器に両溶液が触れ合わないように収め、25℃で静置した。1週間後に0.2mm×0.2mm×0.05mmの棒状晶が得られた。得られた結晶を、Glycolで沈殿剤溶液を約1.4倍希釈した溶液に浸し、続いて液体窒素で凍結した。放射光施設フォトンファクトリー(つくば)のビームラインPF BL‐17AにてX線回折データを収集した。得られた回折像からソフトウェアXDS(Max Plank Institute for Medical Research)を用いて回折強度を数値化し、結晶構造因子を求めた。結晶は六方晶系で空間群はR32、結晶の単位格子はa=b=149.61Å、c=155.61Å、alpha=beta=90°、gamma=120°であった。
【0160】
2)‐4‐2‐2 複合体の構造解析
得られた構造因子とFab断片のホモロジーモデル及びヒトSIRPAのIgVドメインの既知構造(PDBID:2JJS)の三次元構造座標を用いて分子置換法を行い、位相を決定した。計算にはソフトウェアphaser(CCP4:Collaborative Computational Project No.4)を使用した。結晶は非対称単位に1つの複合体を含んでいた。ソフトウェアRefmac5(CCP4:Collaborative Computational Project No.4)を用いて構造の精密化を行い、ソフトウェアcootを用いてモデルの修正を行った。この操作を繰り返し行い、2.4Å分解能で最終のR値22%、free R値25%を得た。最終のモデルはcD13のFab断片のL鎖アミノ酸残基1‐213、H鎖アミノ酸残基1‐225、及び、ヒトSIRPAバリアント2のアミノ酸残基33‐143を含む。
【0161】
2)‐4‐2‐3 複合体の構造解析D13のエピトープの同定
cD13のFab断片から4Å以内にあるヒトSIRPAのアミノ酸残基(各アミノ酸残基の位置は、配列表の配列番号57に対応している)は以下の通りである:Gly64、Pro65、Leu78、Gln82、Lys83、Glu84、Gly85、His86、Phe87、Thr91、Thr92、Glu95、Thr97、Lys98、Lys126。図2に複合体全体のリボンモデルと表面を、図3にヒトSIRPAのbeta5以前(A)とbeta5以降(B)の領域とcD13との相互作用を示した。cD13がヒトSIRPAにおいて配列多様性の低いbeta4‐5ループ、つまり残基番号82‐87を強く認識することが、様々なバリアントに強く結合することを可能としていることが示唆された(図4)。一方で、beta5‐6ループつまり残基番号92‐105の領域での相互作用は弱い。例えば、グルタミン酸の代わりにアスパラギン酸に置換されたバリアントが存在するGlu95はFab近傍に存在するが、その側鎖の電子密度が観測されず相互作用に大きく寄与していないことが示唆される。なお、図4の配列において「・」はSIRPA_V1と同一のアミノ酸残基を示し、アミノ酸残基が記載されている箇所は異なるアミノ酸残基を示す。
【0162】
2)‐5 ヒトSIRPA‐CD47結合阻害活性評価
1)‐5‐1で調製したヒトSIRPA発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、V2又はpcDNA3.2 V5‐DEST導入293α細胞のそれぞれに対し、終濃度で0乃至10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈したラット抗ヒトSIRPA精製抗体を50μL/ウェル添加した。直後に終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで調製したPeroxidase labeled CD47‐Fcを50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。以下は1)‐6‐3と同様の方法で結合阻害活性を評価した。
表3に示すとおり、ラット抗ヒトSIRPA抗体は、何れもヒトSIRPA‐CD47に対して結合阻害活性を示した。
【0163】
【表3】
【0164】
2)‐6 ラット抗ヒトSIRPA抗体の癌細胞株に対するADCP活性
2)‐6‐1 標的細胞の調製
ヒト胃癌細胞株AGS細胞はTrypLE Express(Life Technology社製)を添加し、37℃ 5分間反応後、剥離した。10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し2回洗浄後、PBSで2回洗浄後、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測した。4×10細胞を分取、遠心後、PKH26 Red Fluorescent Cell Linker Kit for General Cell Membrane Labeling(Sigma社製)付属のDilluentC 2mLで細胞を懸濁した。標識溶液として1mM PKH26 LinkerをDilluentCで10μMに希釈後、ただちに、細胞懸濁液と等量のPKH26 Linker溶液を混合し、室温5分間静置した。25mLの10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し2回洗浄後、2×10細胞/mLになるよう再懸濁したものを標的細胞として用いた。
【0165】
2)‐6‐2 PBMC細胞の調製
20mL Ficoll Paque Plus(GE社製)に25mL健常人血液をゆっくり重層後、室温1500rpm×30分間遠心した。血漿とFicoll Paque Plusの中間に位置する細胞層をスポイトで回収し、20mL 10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)に懸濁した。1500rpm×5分間遠心、上清除去後、20mL 10% FBS含有RPMI1640培地を添加し、2回洗浄した。1mLのRobosep buffer(STEMCELL社)に懸濁したのち、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測しエフェクター細胞として用いた。
【0166】
2)‐6‐3 エフェクター細胞の調製
実施例2)‐6‐2で調製したPBMC細胞はRoboSep buffer(STEMCELL社製)にて5×10細胞/mLになるように調製した。Human monocyte Enrichment Kit Without CD16 Depletion(STEMCELL社製)付属のEasySep human Monocyte enrichment cocktailをPBMC細胞懸濁液1mLあたり50μL添加した。4℃ 10分間反応後、EasySep Magnetic ParticlesをPBMC細胞懸濁液1mLあたり50μL添加した。4℃ 5分間反応後、2.5mLになるようにRoboSep buffer(STEMCELL社製)を添加し、EasySep Magnetにセットした。2分30秒後に上清を回収した後1200rpm×5分間遠心し、Monocyte画分を分取した。10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加1回洗浄後、10ng/mL M‐CSF(PEPROTEC社製)を含む10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し、浮遊用225cm2フラスコ(住友ベークライト社製)に播種した。37℃、5% COの条件下で10日間培養した。培養上清を除き、10ng/mL IL‐10、10ng/mL M‐CSF(PEPROTEC社製)を含む10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し、さらに2日間培養した。12日後、分化誘導されたマクロファージはTrypLE Express(Life Technology社製)を添加し、37℃ 40分間反応後、剥離した。10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し2回洗浄後、5×10細胞/mLになるように、10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)に再懸濁し、エフェクター細胞として用いた。
【0167】
2)‐6‐4 ADCP活性の評価
実施例2)‐6‐1の方法で調製した標的細胞50μL/ウェルを超低接着表面96穴U底マイクロプレート(住友ベークライト社製)に添加した。そこに終濃度で0乃至10000ng/mLになるよう10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したラット抗ヒトSIRPA抗体7クローン、Hu5F9G4(抗ヒトCD47抗体:PloS ONE 10[9]:e0137345、US2015183874を元に調製)、TTI‐621(ヒトSIRPA‐Fc:WO2014/094122を元に調製)又は各種コントロールIgGを50μL/ウェル添加した。単剤群では10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を50μL/ウェル添加し、併用群では終濃度で250ng/mLになるよう10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したTrastuzumab(Roche社製)を50μL/ウェル添加した。実施例2)‐6‐3で調製した、1×10細胞/mL、50μL/ウェルのエフェクター細胞を添加後、37℃、5% COの条件下で16時間静置した。4℃ 1200rpm×5分間遠心、上清除去後、200μL/ウェルの5%FBS含有PBSで洗浄した。細胞に45μL/ウェルの5%FBS含有PBS、5μL/ウェルのAPC human CD11b(Becton Dickison社製)を添加し、4℃、15分間静置した。200μL/ウェルの5%FBS含有PBSで2回洗浄した。100μL/ウェルの1×BD Stabilizing Fixative(Becton Dickison社製)で懸濁し、4℃、一晩静置した。翌日フローサイトメトリー(FACS CantoII:Becton Dickison社製)にて測定した。データ解析にはFlowjo(TreeStar社製)を用いた。FSC(前方散乱光)/SSC(側方散乱光)で展開したのち、PE陽性(A)、APC、PE共に陽性(B)となる細胞数を算出した。APC、PE共に陽性(B)となった細胞をマクロファージにより標的細胞が貪食されたものとした。ADCP活性による細胞貪食率は次式で算出した。
細胞貪食率(%)=B/(A+B)×100
図5に示す通り、CD47陽性ヒト胃癌細胞株AGSに対し、ラット抗ヒトSIRPA抗体単剤では、Hu5F9G4(抗ヒトCD47抗体)、及びTTI‐621(ヒトSIRPA‐Fc)と比較し低いADCP活性を示した(図5A)。一方で、Trastuzumab併用時は、Hu5F9‐G4、及びTTI‐621と同等程度のADCP活性を示した(図5B)。よって、抗SIRPA抗体によりSIRPA‐CD47の結合を阻害することで、マクロファージの貪食能が増強することが示唆された。
【0168】
実施例3.ラット抗SIRPA抗体(D13、F44、F63)可変領域のcDNAのヌクレオチド配列解析とアミノ酸配列の決定
3)‐1 D13の可変領域のcDNAのヌクレオチド配列解析とアミノ酸配列の決定
3)‐1‐1 D13生産ハイブリドーマのtotal RNAの調製
D13の可変領域をコードするcDNAを増幅するため、D13産生ハイブリドーマよりTRIzol Reagent(Ambion社)を用いてtotal RNAを調製した。
【0169】
3)‐1‐2 5’‐RACE PCRによるD13の軽鎖可変領域のcDNAのヌクレオチド配列解析とアミノ酸配列の決定
軽鎖可変領域をコードするcDNAの増幅は、実施例3)‐1‐1で調製したtotal RNAの約1μgとSMARTer RACE 5’/3’ Kit(Clontech社)を用いて実施した。D13の軽鎖遺伝子の可変領域をコードするcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM (Universal Primer A Mix:SMARTer RACE 5’/3’ Kitに付属)、及び公知のラット軽鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを用いた。
5’‐RACE PCRで増幅した軽鎖の可変領域をコードするcDNAをプラスミドにクローニングし、次に軽鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。
決定されたcDNAのヌクレオチド配列にコードされるD13の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列表の配列番号23の21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。D13のCDRL1、CDRL2、CDRL3のアミノ酸配列を、配列表の配列番号1乃至3に示す。これらのCDRのアミノ酸は図28にも示されている。
各CDRのアミノ鎖配列は、AbMの定義 (Martin, A. C. R., Cheetham, J. C. and Rees, A. R. (1989) Proc. Natl Acad. Sci. USA, 86,9268-9272)に基づき記載されている。
【0170】
3)‐1‐3 5’-RACE PCRによるD13の重鎖可変領域のcDNAのヌクレオチド配列解析とアミノ酸配列の決定
重鎖可変領域をコードするcDNAの増幅は、実施例3)‐1‐1で調製したtotal RNAの約1μgとSMARTer RACE 5’/3’ Kit(Clontech社)を用いて実施した。D13の重鎖遺伝子の可変領域をコードするcDNAをPCRで増幅するためのプライマーとして、UPM(Universal Primer A Mix:SMARTer RACE 5’/3’ Kitに付属)、及び公知のラット重鎖の定常領域の配列から設計したプライマーを用いた。
5’‐RACE PCRで増幅した重鎖の可変領域をコードするcDNAをプラスミドにクローニングし、次に重鎖の可変領域をコードするcDNAのヌクレオチド配列のシークエンス解析を実施した。
決定されたcDNAのヌクレオチド配列にコードされるD13の重鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列表の配列番号25の20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。D13のCDRH1、CDRH2、CDRH3のアミノ酸配列を、配列表の配列番号4乃至6に示す。これらのCDRのアミノ酸配列は図28にも示されている。
【0171】
3)‐2 F44の可変領域のcDNAのヌクレオチド配列解析とアミノ酸配列の決定
実施例3)‐1と同様の方法で実施した。決定されたcDNAのヌクレオチド配列にコードされるF44の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列表の配列番号27の21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。また、決定されたcDNAのヌクレオチド配列にコードされるF44の重鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列表の配列番号29の20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。F44のCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2、CDRH3のアミノ酸配列を、配列表の配列番号7乃至12に示す。これらのCDRのアミノ酸配列は図29にも示されている。
【0172】
3)‐3 F63の可変領域のcDNAのヌクレオチド配列解析とアミノ酸配列の決定
実施例3)‐1と同様の方法で実施した。決定されたcDNAのヌクレオチド配列にコードされるF63の軽鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列表の配列番号31の21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。また、決定されたcDNAのヌクレオチド配列にコードされるF63の重鎖の可変領域のアミノ酸配列は配列番号33の20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列に相当する。F63のCDRL1、CDRL2、CDRL3、CDRH1、CDRH2、CDRH3のアミノ酸配列を、配列表の配列番号13乃至18に示す。これらのCDRのアミノ酸配列は図30にも示されている。
【0173】
実施例4.ヒトキメラ化抗SIRPA抗体(cD13、cF44、cF63)の作製
4)‐1 ヒトキメラ化及びヒト化κタイプ軽鎖発現ベクターpCMA-LKの構築
プラスミドpcDNA3.3‐TOPO/LacZ(Invitrogen社)を制限酵素XbaI及びPmeIで消化して得られる約5.4kbのフラグメントと、配列番号19に示すヒト軽鎖シグナル配列及びヒトκ鎖定常領域をコードするDNA配列を含むDNA断片をIn‐Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて結合して、pcDNA3.3/LKを作製した。
pcDNA3.3/LKからネオマイシン発現ユニットを除去することによりpCMA‐LKを構築した。
【0174】
4)‐2 ヒトキメラ化及びヒト化λタイプ軽鎖発現ベクターpCMA‐LLの構築
pCMA‐LKをXbaI及びPmeIで消化して軽鎖シグナル配列及びヒトκ鎖定常領域を取り除いたDNA断片と、配列番号20で示されるヒト軽鎖シグナル配列及びヒトλ鎖定常領域をコードするDNA配列を含むDNA断片をIn‐Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて結合して、pCMA‐LLを構築した。
【0175】
4)‐3 ヒトキメラ化及びヒト化IgG4proFALAタイプ重鎖発現ベクターpCMA‐G4PFALAの構築
配列番号21で示されるヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG4PFALA定常領域のアミノ酸をコードするDNA配列を含むDNA断片を用いて、実施例4)‐2と同様の方法でpCMA‐G4proFALAを構築した。
【0176】
4)‐4 cD13の発現ベクターの構築
4)‐4‐1 cD13のIgG4proFALAタイプ重鎖発現ベクターの構築
実施例3)‐1で得られたD13重鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、In‐fusionクローニング用に設計したプライマーでPCRを行うことにより重鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅した。pCMA‐G4proFALAを制限酵素BlpIで切断した箇所に、In‐Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDNA断片を挿入することによりcD13重鎖発現ベクターを構築した。cD13重鎖をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号24に示す。1~57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、58~417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、418~1398番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。cD13重鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号25に示す。1~19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。配列番号24及び配列番号25の配列は図18にも示されている。
【0177】
4)‐4‐2 cD13の軽鎖発現ベクターの構築
実施例3)‐1で得られたD13軽鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、In‐fusionクローニング用に設計したプライマーでPCRを行うことにより軽鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅した。pCMA‐LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所に、In‐Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDNA断片を挿入することによりcD13軽鎖発現ベクターを構築した。cD13軽鎖をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号22に示す。1~60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、61~378番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、379~699番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。cD13軽鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号23に示す。1~20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、21~126番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、127~233番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。配列番号22及び配列番号23の配列は図17にも示されている。
【0178】
4)‐5 cF44の発現ベクターの構築
4)‐5‐1 cF44のIgG4proFALAタイプ重鎖発現ベクターの構築
実施例3)‐2で得られたF44重鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、実施例4)‐4‐1と同様の方法でcF44重鎖発現ベクターを構築した。cF44重鎖をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号28に示す。1~57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、58~414番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、415~1395番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。cF44重鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号29に示す。1~19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、20~138番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、139~465番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。配列番号28及び配列番号29の配列は図20にも示されている。
【0179】
4)‐5‐2 cF44の軽鎖発現ベクターの構築
実施例3)‐2で得られたF44軽鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、実施例4)‐4‐2と同様の方法でcF44軽鎖発現ベクターを構築した。cF44軽鎖をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号26に示す。1~60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、61~381番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、382~702番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。cF44軽鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号27に示す。1~20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、128~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。配列番号26及び配列番号27の配列は図19にも示されている。
【0180】
4)‐6 cF63の発現ベクターの構築
4)‐6‐1 cF63のIgG4proFALAタイプ重鎖発現ベクターの構築
実施例3)‐3で得られたF63重鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、実施例4)‐4‐1と同様の方法でcF63重鎖発現ベクターを構築した。cF63重鎖をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号32に示す。1~57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、58~429番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、430~1410番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。cF63重鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号33に示す。1~19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、20~143番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、144~470番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。配列番号32及び配列番号33の配列は図22にも示されている。
【0181】
4)‐6‐2 cF63の軽鎖発現ベクターの構築
実施例3)‐3で得られたF63軽鎖の可変領域をコードするcDNAをテンプレートとして、In‐fusionクローニング用に設計したプライマーでPCRを行うことにより軽鎖の可変領域をコードするcDNAを含むDNA断片を増幅した。pCMA‐LLを制限酵素BsiWIとHpaIで切断した箇所に、In‐Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、増幅したDNA断片を挿入することによりcF63軽鎖発現ベクターを構築した。cF63軽鎖をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号30に示す。1~60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、61~390番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、391~708番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。cF63軽鎖のアミノ酸配列を、配列表の配列番号31に示す。1~20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、21~130番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、131~236番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。配列番号30及び配列番号31の配列は図21にも示されている。
【0182】
4)‐7 cD13、cF44、cF63の調製
4)‐7‐1 cD13、cF44、cF63の生産
FreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)はマニュアルに従い、継代、培養をおこなった。対数増殖期の1.2×10個のFreeStyle 293F細胞(Invitrogen社)を3L Fernbach Erlenmeyer Flask(CORNING社)に播種し、FreeStyle 293 expression medium(Invitrogen社)で希釈して2.0×10細胞/mLに調製した。40mLのOpti‐Pro SFM培地(Invitrogen社)に0.24mgの重鎖発現ベクターと0.36mgの軽鎖発現ベクターと1.8mgのPolyethyleneimine(Polyscience #24765)を加えて穏やかに攪拌し、さらに5分間放置した後にFreeStyle 293F細胞に添加した。37℃、8%COインキュベーターで4時間、90rpmで振とう培養後に600mLのEX‐CELL VPRO培地(SAFC Biosciences社)、18mLのGlutaMAX I(GIBCO社)、及び30mLのYeastolate Ultrafiltrate(GIBCO社)を添加し、37℃、8%COインキュベーターで7日間、90rpmで振とう培養して得られた培養上清をDisposable Capsule Filter(Advantec #CCS‐045‐E1H)でろ過した。
【0183】
4)‐7‐2 cD13、cF44、cF63の精製
実施例4)‐7‐1で得られた培養上清から抗体をrProtein Aアフィニティークロマトグラフィーの1段階工程で精製した。培養上清をPBSで平衡化したMabSelectSuReが充填されたカラム(GE Healthcare Bioscience社製)にアプライしたのちに、カラム容量の2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2M アルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で溶出し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide‐A‐Lyzer Dialysis Cassette)によりPBS(-)へのバッファー置換を行った。Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社)で抗体を濃縮し、IgG濃度を10mg/mL以上に調製した。最後にMinisart‐Plus filter(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0184】
実施例5.ヒトキメラ化抗SIRPA抗体(cD13、cF44、cF63)のin vitro評価
5)‐1 ヒトSIRPAに対する結合性評価
5)‐1‐1 ヒトSIRPAに対する結合性評価(Cell‐ELISA)
293α細胞[実施例1)‐6に記載]を10% FBS含有DMEM培地中5x10細胞/mLになるよう調製した。それに対し、Lipofectamine LTX(Invitrogen社製)を用いて、pFLAG V5‐DEST‐SIRPA_V1、V2、若しくはpFLAG V5‐DESTを導入し、96‐well plate(Corning社製)に100μLずつ分注したのち、10% FBS含有DMEM培地中で37℃、5% COの条件下で一晩培養した。得られた導入細胞を接着状態のまま、Cell‐ELISAに使用した。培養上清を除去後、pFLAG V5‐DEST‐SIRPA_V1、V2、若しくはpFLAG V5‐DEST導入細胞のそれぞれに対し、実施例3及び実施例4で調製したcD13(IgG2、IgG4pf)、cF44(IgG1、IgG2、IgG4p、IgG4pf)、cF63(IgG2、IgG4pf)抗体を終濃度0乃至10000ng/mL、50μL/ウェルで添加し、4℃で1時間静置した。また、各SIRPAコンストラクト発現検出用のウェルには、終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈した抗FLAG M2抗体(SIGMA社製)を50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。ウェル中の細胞を5% FBS含有PBSで1回洗浄後、5% FBS含有PBSで1000倍に希釈したPeroxidase AffiniPure F(ab’)Fragment Goat Anti‐Human IgG、 Fcγ Fragment Specific(Jackson ImmunoResearch社製)を加えて、4℃で1時間静置した。ウェル中の細胞を5% FBS含有PBSで5回洗浄した後、OPD発色液(OPD溶解液(0.05M クエン酸3ナトリウム、0.1M リン酸水素2ナトリウム・12水 pH4.5)にo‐フェニレンジアミン二塩酸塩(和光純薬社製)、Hをそれぞれ0.4mg/mL、0.6%(v/v)になるように溶解)を100μL/ウェルで添加した。時々攪拌しながら発色反応を行い、1M HClを100μL/ウェルを添加して発色反応を停止させた後、プレートリーダー(ARVO:PerkinElmer社)で490nmの吸光度を測定した。各コンストラクトに対するヒトキメラ化抗ヒトSIRPA抗体の結合性はFLAGタグの発現をもとに標準化した。
図6に示す通り、cD13、cF44、cF63抗体はSIRPA_V1とSIRPA_V2両方に結合し(図6A、B)、各アイソタイプ間で結合性はほぼ同等であった(図6C、D)。
【0185】
5)‐1‐2 ヒトキメラ化抗体のヒトSIRPAに対する結合性評価
実施例4で作製したcD13、cF44、cF63の実施例1で作製したヒトSIRPA_V1_IgVに対する解離定数測定は、Biacore T200(GE Healthcare Bioscience社製)を使用し、ヒトキメラ化抗体をリガンドとして捕捉し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。ランニングバッファーとしてHBS-EP+(GE Healthcare Bioscience社製)、センサーチップとしてCM5(GE Healthcare Bioscience社製)を用いた。チップ上に1μg/mLのヒトキメラ化抗体を10μL/分で60秒間添加した後、抗原としてヒトSIRPA蛋白質の希釈系列溶液(0.5~8μg/mL)を流速30μL/分で120秒間添加し、引き続き600秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、3M magnesium chloride(GE Healthcare Bioscience社製)を流速20μL/分で30秒間添加した。データの解析には1:1結合モデルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/ka)を算出した。結果を表4に示す。
【0186】
【表4】
【0187】
5)‐2 サルSIRPAに対する種交差性評価
293α細胞を10% FBS含有DMEM培地中5x10細胞/mLになるよう調製した。それに対し、Lipofectamine LTX(Invitrogen社製)を用いて、pFLAG V5‐DEST‐サルSIRPA、若しくはpFLAG V5‐DESTを導入し、96‐well plate(Corning社製)に100μLずつ分注したのち、10% FBS含有DMEM培地中で37℃、5% COの条件下で一晩培養した。得られた導入細胞を接着状態のまま、Cell‐ELISAに使用した。培養上清を除去後、ヒトSIRPAに対する結合活性と同様の方法でサルSIRPAに対する結合活性を評価した。
図7に示すように、cD13、cF44、cF63抗体はサルSIRPAに結合性を示した。
【0188】
5)‐3 ヒト、又はサルSIRPA‐CD47結合阻害活性評価
実施例5)-1、5)-2で調製したヒトSIRPA、又はサルSIRPA発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、pcDNA3.2 V5‐DEST‐サルSIRPA又はpcDNA3.2 V5‐DEST導入293α細胞のそれぞれに対し、終濃度で0乃至10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで希釈したcD13(IgG2、IgG4pf)、cF44(IgG1、IgG2、IgG4p、IgG4pfの定常領域4種)、及びcF63(IgG2、IgG4pf)を50μL/ウェル添加した。直後に終濃度で10000ng/mLになるよう5% FBS含有PBSで調製したPeroxidase labeled CD47‐Fcを50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。以下は1)‐6‐3と同様の方法でSIRPA‐CD47結合阻害活性を評価した。
図8に示すように、cF44、cF63、cD13はヒト及びサルSIRPA‐CD47結合阻害活性を示し(図8A(i)、(ii)、(iii))、各アイソタイプ間でその活性はほぼ同等であった(図8B(i)、(ii)、(iii)。
【0189】
5)‐4 ヒトキメラ化抗ヒトSIRPA抗体の癌細胞株に対するADCP活性
5)‐4‐1 標的細胞の調製
CD47陽性ヒトBurkitt’s lymphoma細胞株Raji細胞を回収し、PBSで2回洗浄後、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測した。以下は2‐6‐1と同様の方法にて標的細胞を調製した。
【0190】
5)‐4‐2 PBMC細胞の調製
2)‐6‐2と同様の方法にてPBMC細胞を調製した。
【0191】
5)‐4‐3 エフェクター細胞の調製
2)‐6‐3と同様の方法にてエフェクター細胞を調製した。
【0192】
5)‐4‐4 ADCP活性の評価
実施例5)-4-1の方法で調製した標的細胞50μL/ウェルを超低接着表面96穴U底マイクロプレート(住友ベークライト社製)に添加した。そこに終濃度で0乃至10000ng/mLになるよう10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したcD13、cF44、cF63、Hu5F9G4、TTI‐621又は各種コントロールHuman IgGを50μL/ウェル添加した。単剤群では10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を50μL/ウェル添加し、併用群では終濃度で400ng/mLになるよう10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したRituximab(全薬工業社製)を50μL/ウェル添加した。以下は2‐6‐4と同様の方法にてADCP活性を評価した。
図9に示す通り、cD13、cF44、cF63は、CD47陽性ヒトBurkitt’s lymphoma細胞株Raji細胞に対し、単剤ではADCP活性を示さず(図9A)、Rituximab併用時において、Hu5F9G4並びにTTI-621と同程度のADCP活性を示した(図9B)。
【0193】
5)‐5 ヒトキメラ化抗ヒトSIRPA抗体のPBMC及びマクロファージに対する毒性評価
5)‐5‐1 標的細胞としてのPBMC、並びにマクロファージの調製
2)‐6‐2(PBMC)、並びに2)‐6‐3(マクロファージ)と同様の方法にて標的細胞を調製した。回収した各細胞は2)‐6‐1と同様の方法で蛍光標識し、標的細胞として用いた。
【0194】
5)‐5‐2 エフェクター細胞の調製
2)‐6‐3と同様の方法にてエフェクター細胞を調製した。
【0195】
5)‐5‐3 ADCP活性の評価
実施例5)-4-2の方法で調製したPBMC、又はマクロファージ50μL/ウェルを超低接着表面96穴U底マイクロプレート(住友ベークライト社製)に添加した。そこに終濃度で0.64乃至10000ng/mLになるよう10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したcD13(IgG4pf)、cF44(IgG1、IgG2、IgG4p、IgG4pfの定常領域4種)、cF63(IgG4pf)、Hu5F9G4、TTI‐621又は各種コントロールHuman IgGを50μL/ウェル添加した。10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を50μL/ウェル添加した。以下は2‐6‐4と同様の方法にてADCP活性を評価した。なお、マクロファージに対するADCP活性の比率は各抗体添加時のマクロファージのカウント数をコントロール抗体添加時のカウント数で除することで算出した。
図10に示す通り、cD13、cF44、cF63のPBMCに対するADCP活性はコントロールIgGとほぼ同等であった(図10A)。また、定常領域の異なるcF44抗体を比較すると、IgG1型、IgG4p型では添加した抗体の濃度依存的にADCP活性を示すのに対し、IgG2型、IgG4pf型ではADCP活性を示さなかった(図10B)。
一方で、抗体添加16時間後のマクロファージの存在比について定常領域の異なるcF44抗体を比較すると、IgG4pf型が最もマクロファージの減少率が低いことから、抗体添加により誘導される、SIRPA陽性細胞に対する毒性が最も低い可能性が示された(図10C)。
【0196】
実施例6 ヒト化抗SIRPA抗体の設計
6)‐1 キメラ化抗体cD13の可変領域の分子モデリング
cD13の可変領域の分子モデリングは、ホモロジーモデリングとして公知の方法[Methods in Enzymology,203,121‐153(1991)]を利用した。cD13の重鎖と軽鎖の可変領域に対して高い配列同一性を有するProtein Data Bank[Nuc.Acid Res.35,D301‐D303(2007)]に登録されている構造(PDB ID:3CSY)を鋳型に、市販のタンパク質立体構造解析プログラムBioLuminate(Schrodinger社製)を用いて行った。
【0197】
6)‐2 ヒト化アミノ酸配列の設計
cD13は、CDRグラフティング[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029‐10033(1989)]によりヒト化した。IMGT(THE INTERNATIONAL IMMUNOGENETICS INFORMATION SYSTEM,http://www.imgt.org)に登録されているヒトgermline配列のIGHV3‐30*13とIGHJ3*01、及びIGKV1‐6*01とIGKJ2*01、そしてKabat et al.[Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.Public Health Service National Institutes of Health,Bethesda,MD.(1991)]において既定されるヒトのカッパ鎖サブグループ4のコンセンサス配列がcD13のフレームワーク領域に対して高い同一性を有することから、アクセプターとして選択された。アクセプター上に移入すべきドナー残基は、Queen et al.[Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86,10029‐10033(1989)]によって与えられる基準などを参考に三次元モデルを分析することで選択された。
【0198】
6)‐3 cD13重鎖のヒト化
設計された2種の重鎖をhH1及びhH2と命名した。hH1の重鎖全長アミノ酸配列を、配列表の配列番号41に記載する。配列番号41のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号40に記載する。hH2の重鎖全長アミノ酸配列を、配列表の配列番号43に記載する。配列番号43のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号42に記載する。配列番号41及び43において、1~19番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、20~139番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、140~466番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。また、配列番号40及び42において、1~57番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、58~417番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、418~1398番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。配列番号40及び配列番号41の配列は図26にも、配列番号42及び配列番号43の配列は図27にも、示されている。
ヒトキメラ化抗SIRPA抗体cD13の重鎖であるcD13_H、ヒト化抗体重鎖hH1、及びhH2のアミノ酸配列の比較を図11に示す。hH1及びhH2の配列において「・」はc013_Hと同一のアミノ酸残基を示し、アミノ酸残基が記載されている箇所は置換されたアミノ酸残基を示す。
【0199】
6)‐4 cD13軽鎖のヒト化
設計された3種の軽鎖をhL2、hL3、及びhL4と命名した。hL2の軽鎖全長アミノ酸配列を、配列表の配列番号35に記載する。配列番号34のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を、配列表の配列番号34に記載する。hL3の軽鎖全長アミノ酸配列を、配列表の配列番号37に記載する。配列番号37のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列は配列番号36に記載する。hL4の軽鎖全長アミノ酸配列を、配列表の配列番号39に記載する。配列番号39のアミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列を、配列番号38に記載する。配列番号35、37及び39において、1~20番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列はシグナル配列に、21~127番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は可変領域に、128~234番目のアミノ酸残基からなるアミノ酸配列は定常領域に、それぞれ相当する。また、配列番号34、36及び38において、1~60番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列はシグナル配列を、61~381番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は可変領域を、382~702番目のヌクレオチドからなるヌクレオチド配列は定常領域を、それぞれコードしている。配列番号34及び配列番号35の配列は図23にも、配列番号36及び配列番号37の配列は図24にも、配列番号38及び配列番号39の配列は図25にも、それぞれ示されている。
ヒトキメラ化抗SIRPA抗体cD13の軽鎖であるcD13_L、ヒト化抗体軽鎖hL2、hL3及びhL4のアミノ酸配列の比較を図12に示す。hL2、hL3、及びhL4の配列において、「・」はcD13_Lと同一のアミノ酸残基を示し、アミノ酸残基が記載されている箇所は置換されたアミノ酸残基を示す。
【0200】
6)‐5 重鎖及び軽鎖の組み合わせによるヒト化抗体の設計
hH1及びhL3からなる抗体を「H1L3抗体」又は「H1L3」と称する。hH1及びhL4からなる抗体を「H1L4抗体」又は「H1L4」と称する。hH2及びhL2からなる抗体を「H2L2抗体」又は「H2L2」と称する。hH2及びhL3からなる抗体を「H2L3抗体」又は「H2L3」と称する。
【0201】
実施例7.ヒト化抗SIRPA抗体の作製
7)-1 ヒト化抗体の重鎖発現ベクターの構築
7)-1-1 hH1発現ベクターの構築
配列表の配列番号40に示すhH1のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至434に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。In-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、pCMA-G4proFALAを制限酵素BlpIで切断した箇所に合成したDNA断片を挿入することによりhH1発現ベクターを構築した。
【0202】
7)-1-2 hH2発現ベクターの構築
配列表の配列番号42に示すhH2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号36乃至434に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例7)-1-1と同様の方法でhH2発現ベクターを構築した。
【0203】
7)-2 ヒト化抗体の軽鎖発現ベクターの構築
7)-2-1 hL2発現ベクターの構築
配列表の配列番号34に示すhL2のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。In-Fusion HD PCRクローニングキット(Clontech社)を用いて、pCMA-LKを制限酵素BsiWIで切断した箇所に合成したDNA断片を挿入することによりhL2発現ベクターを構築した。
【0204】
7)-2-2 hL3発現ベクターの構築
配列表の配列番号36に示すhL3のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例7)-2-1と同様の方法でhL3発現ベクターを構築した。
【0205】
7)-2-3 hL4発現ベクターの構築
配列表の配列番号38に示すhL4のヌクレオチド配列のヌクレオチド番号37乃至402に示されるDNA断片を合成した(GENEART社)。実施例7)-2-1と同様の方法でhL4発現ベクターを構築した。
【0206】
7)‐3 ヒト化抗体の調製
7)-3-1 ヒト化抗体の生産
実施例4)-7-1と同様の方法で生産した。実施例6)‐5に示したH鎖とL鎖の組み合わせに対応したH鎖発現ベクターとL鎖発現ベクターの組み合わせで、各種ヒト化抗体を取得した。
【0207】
7)-3-2 ヒト化抗体の調製
実施例7)-3-1で得られた培養上清をrProtein Aアフィニティークロマトグラフィーとセラミックハイドロキシアパタイトの2段階工程で精製した。培養上清をPBSで平衡化したMabSelectSuReが充填されたカラム(GE Healthcare Bioscience社製)にアプライした後に、カラム容量の2倍以上のPBSでカラムを洗浄した。次に2 Mアルギニン塩酸塩溶液(pH4.0)で抗体を溶出した。抗体の含まれる画分を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりPBSへのバッファー置換を行い、5mMリン酸ナトリウム/50mM MES/pH7.0のバッファーで5倍希釈した後に、5mM NaPi/50mM MES/30mM NaCl/pH7.0のバッファーで平衡化したセラミックハイドロキシアパタイトカラム(日本バイオラッド、Bio-Scale CHT Type―1 Hydroxyapatite Column)にアプライした。塩化ナトリウムによる直線的濃度勾配溶出を実施し、抗体の含まれる画分を集めた。その画分を透析(Thermo Scientific社、Slide-A-Lyzer Dialysis Cassette)によりHBSor(25mM ヒスチジン/5% ソルビトール、pH6.0)へのバッファー置換を行った。Centrifugal UF Filter Device VIVASPIN20(分画分子量UF10K,Sartorius社)にて抗体を濃縮し、IgG濃度を50mg/mLに調製した。最後にMinisart-Plus filter(Sartorius社)でろ過し、精製サンプルとした。
【0208】
実施例8.ヒト化抗SIRPA抗体(hD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3)のin vitro評価
8)‐1 ヒト化抗SIRPA抗体のヒト、サル、マウスSIRPAに対する結合活性
8)‐1-1 ヒト化抗SIRPA抗体のヒト、サル、マウスSIRPAに対する結合活性(Cell‐ELISA)
293α細胞[実施例1]‐6に記載]を10% FBS含有DMEM培地中5x10細胞/mLになるよう調製した。それに対し、Lipofectamine LTX(Invitrogen社製)を用いて、pFLAG V5‐DEST‐SIRPA_V1‐V10、pFLAG V5‐DEST‐サルSIRPA、pFLAG V5‐DEST‐マウスSIRPA若しくはpFLAG V5‐DESTを導入し、96‐well plate(Corning社製)に100μLずつ分注したのち、10% FBS含有DMEM培地中で37℃、5% COの条件下で一晩培養した。得られた導入細胞を接着状態のまま、Cell‐ELISAに使用した。培養上清を除去後、各種SIRPA遺伝子導入細胞のそれぞれに対し、実施例6及び実施例7で調製したhD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3、又はcD13及びコントロール抗体を終濃度0乃至10000ng/mL、50μL/ウェル添加し、4℃で1時間静置した。以下は実施例5-1と同様の方法にてヒトSIRPAへの結合性を評価した。
図13A~Cに示す通り、hD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3抗体はSIRPAバリアント(V1‐V10)、サルSIRPAに対しcD13抗体と同等以上の結合性を示した。一方で、図14A及びBに示す通りマウスSIRPAに対しては、ヒト化抗体、ヒトキメラ化抗体共に結合性を示さなかった。
【0209】
8)‐1-2 ヒト化抗体のSIRPAに対する結合性評価
実施例7で作製したhD13_H1L3、hD13_H1L4、hD13_H2L2及びhD13_H2L3の、実施例1で作製したヒトSIRPA_V1_IgV及びサルSIRPA_ECDに対する解離定数測定は、Biacore T200(GE Healthcare Bioscience社製)を使用し、Human Antibody Capture Kit(GE Healthcare Bioscience社製)を用いて固定化したAnti‐Human IgG(Fc)antibodyにヒト化抗体をリガンドとして捕捉し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。ランニングバッファーとしてHBS-EP+(GE Healthcare Bioscience社製)、センサーチップとしてCM5(GE Healthcare Bioscience社製)を用いた。チップ上に1μg/mLのヒト化抗体を10μL/分で60秒間添加した後、抗原としてヒトSIRPA蛋白質の希釈系列溶液(0.5~8μg/mL)又はサルSIRPA蛋白質の希釈系列溶液(1~16μg/mL)を流速30μL/分で120秒間添加し、引き続き600秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、3M magnesium chloride(GE Healthcare Bioscience社製)を流速20μL/分で30秒間添加した。データの解析には1:1結合モデルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/ka)を算出した。結果を表5に示す。
【0210】
【表5】
【0211】
8)-2 ヒト化抗SIRPA抗体のヒト、又はサルSIRPA‐CD47結合阻害活性評価
実施例8)-1で調製したヒトSIRPA、又はサルSIRPA発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、V2、pcDNA3.2 V5‐DEST‐サルSIRPA又はpcDNA3.2 V5‐DEST導入293α細胞のそれぞれに対し、終濃度0乃至10000ng/mLとなるように5% FBS含有PBSで希釈したhD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3を50μL/ウェル添加し、直後に5% FBS含有PBSで1μg/mLに調製したPeroxidase labeled CD47‐Fcを加えて、4℃で1時間静置した。以下は1)‐6‐3と同様の方法でSIRPA‐CD47結合阻害活性を評価した。
図15に示す通り、hD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3抗体は、SIRPA_V1(図15A)、SIRPA_V2(図15B)、サルSIRPA(図15C)に対しcD13抗体と同等以上の結合阻害活性を示した。
【0212】
8)‐3 ヒト化抗ヒトSIRPA抗体の癌細胞株に対するADCP活性
8)‐3‐1 標的細胞の調製
CD47陽性ヒトBurkitt’s lymphoma細胞株Raji細胞、又はRamos細胞を回収し、PBSで2回洗浄後、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測した。4×10細胞を分取、遠心後、CellVue Claret Far Red Fluorescent Cell Linker Kit(Sigma社製)付属のDilluentC 2mLで細胞を懸濁した。標識溶液として1mM CellVue Claret DyeをDilluentCで10μMに希釈後、ただちに、細胞懸濁液と等量のCellVue Claret Dye溶液を混合し、室温15分間静置した。25mLの10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し2回洗浄後、2×10細胞/mLになるよう再懸濁したものを標的細胞として用いた。以下は2)‐6‐1と同様の方法にて標的細胞を調製した。
【0213】
8)‐3‐2 PBMC細胞の調製
2)‐6‐2と同様の方法にてPBMC細胞を調製した。
【0214】
8)‐3‐3 エフェクター細胞の調製
2)‐6‐3と同様の方法にてエフェクター細胞を調製し、PBSで2回洗浄後、1×10細胞/mLになるようにPBSに再懸濁した。標識溶液として1μL/10細胞/mLのCFSE溶液(ThermoFisher社製)を添加し、室温10分間静置した。20mlの10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し2回洗浄後、1×10細胞/mLになるよう再懸濁したものをエフェクター細胞として用いた。
【0215】
8)‐3‐4 ADCP活性の評価
実施例8)-3-1の方法で調製した標的細胞50μL/ウェルを超低接着表面96穴U底マイクロプレート(住友ベークライト社製)に添加した。そこに終濃度0乃至10000ng/mLとなるように10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したhD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3、又はcD13抗体、Hu5F9G4、TTI‐621又は各種コントロールHuman IgGを50μL/ウェル添加した。単剤群では10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を50μL/ウェル添加し、併用群では終濃度で400ng/mLになるよう10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したRituximab(全薬工業社製)を50μL/ウェル添加した。実施例8‐3‐3で調製した、1×10細胞/mL、50μL/ウェルのエフェクター細胞を添加後、37℃、5% COの条件下で16時間静置した。4℃ 1200rpm×5分間遠心、上清除去後、200μL/ウェルの5%FBS含有PBSで洗浄した。100μL/ウェルの1×BD Stabilizing Fixative(Becton Dickison社製)で懸濁し、4℃、一晩静置した。翌日フローサイトメトリー(FACS CantoII:Becton Dickison社製)にて測定した。データ解析にはFlowjo(TreeStar社製)を用いた。FSC(前方散乱光)/SSC(側方散乱光)で展開したのち、APC陽性(A)、APC、FITC共に陽性(B)となる細胞数を算出した。APC、FITC共に陽性(B)となった細胞をマクロファージにより標的細胞が貪食されたものとした。ADCP活性による細胞貪食率は次式で算出した。
細胞貪食率(%)=B/(A+B)×100
図16に示す通り、hD13_H1L3、hD13_H1L4h、hD13_H2L2、hD13_H2L3、又はcD13抗体添加群はCD47陽性ヒトBurkitt’s lymphoma細胞株Raji、及びRamos細胞に対し、単剤ではADCP活性を示さず(図16A、C)、Rituximab併用時において、添加した抗体濃度依存的なADCP活性を示した(図16B、D)。なお、ヒト化抗体クローンはヒトキメラ化抗体クローンと同等以上のADCP活性を示した。
【0216】
実施例9.各種抗SIRPA抗体のin vitro評価
9)‐1 各種抗SIRPA抗体のSIRPAに対する結合性評価
実施例7で作製したhD13_H1L3抗体、及びOSE‐172(国際公報第WO17/178653号を参照して調製)、KWAR23(国際公報第WO18/026600号を参照して調製)、又はADU‐1805(国際公報第WO18/190719号を参照して調製)の、実施例1で作製したヒトSIRPA_V1_IgV及びヒトSIRPA_V2_IgVに対する解離定数を測定した。なお、OSE‐172の重鎖のアミノ酸配列は配列表の配列番号81に、OSE‐172の軽鎖のアミノ酸配列は配列番号82に、KWAR23の重鎖のアミノ酸配列は配列番号83に、KWAR23の軽鎖のアミノ酸配列は配列番号84に、ADU‐1805の重鎖のアミノ酸配列は配列番号85に、ADU‐1805の軽鎖のアミノ酸配列は配列番号86に、それぞれ示されている。解離定数の測定には、Biacore T200(GE Healthcare Bioscience社製)を使用し、Human Antibody Capture Kit(GE Healthcare Bioscience社製)を用いて固定化したAnti‐Human IgG(Fc)antibodyに各抗体をリガンドとして捕捉し、抗原をアナライトとして測定するキャプチャー法にて行った。ランニングバッファーとしてHBS-EP+(GE Healthcare Bioscience社製)、センサーチップとしてCM5(GE Healthcare Bioscience社製)を用いた。チップ上に2μg/mLの各種抗体を10μL/分で30秒間添加した後、抗原としてヒトSIRPA蛋白質の希釈系列溶液(0.25~16nM)を流速30μL/分で120秒間添加し、引き続き600秒間の解離相をモニターした。再生溶液として、3M magnesium chloride(GE Healthcare Bioscience社製)を流速20μL/分で30秒間添加した。データの解析には1:1結合モデルを用いて、結合速度定数ka、解離速度定数kd及び解離定数(KD;KD=kd/ka)を算出した。結果を表6に示す。
【0217】
【表6】
【0218】
9)-2 各種抗ヒトSIRPA抗体のヒトSIRPA‐CD47結合阻害活性評価
実施例9)-1で調製したヒトSIRPA_V1又はV2発現ベクター導入293α細胞の培養上清を除去後、pcDNA3.2 V5‐DEST‐SIRPA_V1、V2導入293α細胞のそれぞれに対し、終濃度0乃至10000ng/mLとなるように5% FBS含有PBSで希釈した各種抗SIRPA抗体、又は各種コントロールHuman IgGを50μL/ウェル添加し、直後に5% FBS含有PBSで1μg/mLに調製したPeroxidase labeled CD47‐Fcを50μL/ウェル加えて、4℃で1時間静置した。以下は1)‐6‐3と同様の方法でSIRPA‐CD47結合阻害活性を評価した。
図31Aに示す通り、hD13_H1L3、OSE‐172、KWAR23、及びADU‐1805抗体はSIRPA_V1‐CD47に対し結合阻害活性を示した。一方で、図31Bに示す通りヒトSIRPA_V2‐CD47に対して、hD13_H1L3、KWAR23、及びADU‐1805は結合性を示したが、OSE‐172は結合阻害活性を示さなかった。また、図31Cで示されるように、hD13_H1L3が最も低濃度で結合を阻害した。
【0219】
9)-3 各種抗ヒトSIRPA抗体のヒトSIRPB、及びヒトSIRPG結合活性評価
SIRPβ1(signal regulatory protein β1:RefSeqアクセッション番号NP_006056としてアミノ酸配列が公開されている)、及び SIRPγ(signal regulatory protein γ:RefSeqアクセッション番号NP_061026としてアミノ酸配列が公開されている)は、 SIRPAのファミリー分子である。本発明において、「SIRPα」を「SIRPA」、「SIRPβ1」を「SIRPB1」、「SIRPγ」を「SIRPG」と称する場合がある。CHO‐K1細胞を10% FBS含有Ham‘s F‐12K培地中3.3x10細胞/mLになるよう調製し、37℃、5% COの条件下で一晩培養した。それに対し、Lipofectamine LTX(Invitrogen社製)を用いて、pFLAG V5‐DEST‐ヒトSIRPB、pFLAG V5‐DEST‐ヒトSIRPG、若しくはpFLAG V5‐DESTを導入し、10% FBS含有Ham‘s F‐12K培地中で37℃、5% COの条件下で24時間培養した。得られた導入細胞を回収し、96 well plateに播種した。培養上清を除去後、各種遺伝子導入細胞のそれぞれに対し、各種抗ヒトSIRPA抗体、又は各種コントロールHuman IgGを終濃度0乃至10000ng/mL、100μL/ウェル添加し、4℃で25分間静置した。遠心後、上清を除去し、5%FBS含有PBSで2回洗浄した。遠心後、上清を除去し、PE Mouse anti‐Human IgG抗体(Biolegend社製)の1/400希釈溶液を50μL/ウェル添加し、4℃で25分間静置した。遠心後、上清を除去し、5%FBS含有PBSで2回洗浄した。
遠心後、上清を除去し、100μL/ウェルの1×BD Stabilizing Fixative(Becton Dickison社製)で懸濁し、フローサイトメトリー(FACS CantoII:Becton Dickison社製)にて測定した。データ解析にはFlowjo(TreeStar社製)を用いた。FSC(前方散乱光)/SSC(側方散乱光)で展開したのち、PEの平均蛍光強度を計測した。二次抗体のみ反応させたサンプルの平均蛍光強度で標準化することで、各種抗体におけるファミリー分子への結合性を算出した。
図32A及びBに示す通り、各種抗ヒトSIRPA抗体はヒトSIRPB、及びヒトSIRPGに対し濃度依存的な結合性を示したが、OSE‐172はヒトSIRPGに対し結合性を示さなかった。
【0220】
9)‐4 各種抗ヒトSIRPA抗体の癌細胞株に対するADCP活性
9)‐4‐1 標的細胞の調製
CD47陽性ヒトBurkitt’s lymphoma細胞株Raji細胞を回収し、PBSで2回洗浄後、生細胞数をトリパンブルー色素排除試験にて計測した。1×10細胞/mLになるようにPBSに再懸濁した。標識溶液として1μL/10細胞/mLのCell Trace Far Red溶液(ThermoFisher社製)を添加し、室温10分間静置した。25mLの10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し2回洗浄後、2×10細胞/mLになるよう再懸濁したものを標的細胞として用いた。以下は2)‐6‐1と同様の方法にて標的細胞を調製した。
【0221】
9)‐4‐2 PBMC細胞の調製
2)‐6‐2と同様の方法にてPBMC細胞を調製した。
【0222】
9)‐4‐3 エフェクター細胞の調製
2)‐6‐3と同様の方法にてエフェクター細胞を調製し、PBSで2回洗浄後、1×10細胞/mLになるようにPBSに再懸濁した。標識溶液として1μL/10細胞/mLのCFSE溶液(ThermoFisher社製)を添加し、室温10分間静置した。20mlの10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を添加し2回洗浄後、1×10細胞/mLになるよう再懸濁したものをエフェクター細胞として用いた。
【0223】
9)‐4‐4 ADCP活性の評価
実施例8-3-1の方法で調製した標的細胞50μL/ウェルを超低接着表面96穴U底マイクロプレート(住友ベークライト社製)に添加した。そこに終濃度0乃至10000ng/mLとなるように10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈した各種抗SIRPA抗体、又は各種コントロールHuman IgGを50μL/ウェル添加した。併用群として終濃度で1000ng/mLになるよう10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈したRituximab(全薬工業社製)を50μL/ウェル添加した。実施例8‐3‐3で調製した、1×10細胞/mL、50μL/ウェルのエフェクター細胞を添加後、37℃、5% COの条件下で2~16時間静置した。4℃ 1200rpm×5分間遠心、上清除去後、200μL/ウェルの5%FBS含有PBSで洗浄した。50μL/ウェルの1×BD Stabilizing Fixative(Becton Dickison社製)で懸濁し、フローサイトメトリー(FACS CantoII:Becton Dickison社製)にて測定した。データ解析にはFlowjo(TreeStar社製)を用いた。FSC(前方散乱光)/SSC(側方散乱光)で展開したのち、APC陽性(A)、APC、FITC共に陽性(B)となる細胞数を算出した。APC、FITC共に陽性(B)となった細胞をマクロファージにより標的細胞が貪食されたものとした。ADCP活性による細胞貪食率は次式で算出した。
細胞貪食率(%)=B/(A+B)×100
図33A-Cに示す通り、hD13_H1L3、OSE‐172、KWAR23、及びADU‐1805抗体添加群は、CD47陽性ヒトBurkitt’s lymphoma細胞株Rajiに対し、Rituximab併用時において、ADCP活性を示した。2時間反応後のADCP増強活性の強さはhD13_H1L3、ADU‐1805、KWAR23、OSE‐172の順であり(A)、16時間反応後はADU‐1805、hD13_H1L3、KWAR23、OSE‐172の順だった(B)。なお、16時間での反応性は貪食活性の飽和状態にあると推測される。2時間反応後の濃度依存性とADCP活性比較については、hD13_H1L3が最も低濃度から高い活性を示し、ADU‐1805とKWAR23はほぼ同等、OSE‐172の順だった。以上の結果より、hD13_H1L3は短時間で最も低濃度からADCP活性を増強した。
【0224】
9)‐4‐5 各種抗ヒトSIRPA抗体によるマクロファージ同士の貪食活性(Self‐ADCP活性)評価
実施例8‐3‐3の方法で調製したエフェクター細胞50μL/ウェルを超低接着表面96穴U底マイクロプレート(住友ベークライト社製)に添加した。そこに終濃度0乃至5000ng/mLとなるように10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)で希釈した各種抗SIRPA抗体、又は各種コントロールHuman IgGを50μL/ウェル添加した。10% FBS含有RPMI1640培地(Life Technology社製)を100μL/ウェル添加した。37℃、5% COの条件下で16~20時間静置した。4℃ 1200rpm×5分間遠心、上清除去後、200μL/ウェルの5%FBS含有PBSで洗浄した。100μL/ウェルの1×BD Stabilizing Fixative(Becton Dickison社製)で懸濁し、フローサイトメトリー(FACS CantoII:Becton Dickison社製)にて測定した。データ解析にはFlowjo(TreeStar社製)を用いた。FSC(前方散乱光)/SSC(側方散乱光)で展開したのち、各ウェルでのFITC陽性となる細胞数を算出した(A)。抗体添加なしのウェルにおけるFITC陽性細胞のカウント(B)で標準化することで、各サンプルでの減少分はマクロファージ同士の貪食によるものとした。Self‐ADCP活性は次式で算出した。
Self-ADCP(%)=(A/B)×100
図33Bに示す通り、hD13_H1L3、OSE‐172、KWAR23、及びADU‐1805抗体添加により、エフェクター細胞であるマクロファージに対し、Self-ADCP活性を示した。減少率の高さはOSE‐172、KWAR23、ADU‐1805、hD13_H1L3の順だった。減少率の高さは、抗SIRPA抗体によるSelf-ADCP活性が高いことを示している。この現象は、各抗SIRPA抗体の投与によりマクロファージや樹状細胞などSIRPA陽性細胞が減少又は枯渇する可能性を示唆しており、免疫系に対する副作用の指標となる。
【0225】
実施例10.各種抗SIRPA抗体のin vivo評価
SIRPAは宿主の免疫細胞に発現する標的であることから、ヒトSIRPA抗体による抗腫瘍効果を評価するためには、ヒトSIRPAを発現するマウスでの検討が必要となる[Ring et al. PNAS, 2017 (114) 49, E10578‐E10585]。一方で、抗腫瘍効果における免疫系の寄与を評価するためには、免疫不全マウスではなく、免疫正常なマウスを用いることが重要である[Yanagita et al. JCI, 2017 (2) 1, 1‐15]。ヒトSIRPA単独、若しくはヒトSIRPA及びヒトCD47の両方を免疫正常マウスに導入した遺伝子改変マウスに、ヒトCD47を遺伝子導入したマウスがん細胞株を移植し、腫瘍体積が100mm程度になったところで群分けを行う。これらのマウスに対し、各種抗SIRPA抗体、抗CD47抗体又はSIRPA-Fc融合蛋白質等の抗CD47バイオロジクス、又は陰性対照群としてPBS等を週に1~3回程度、1~3週間投与する。併用薬剤による抗腫瘍効果の上乗せを検討する場合には、これらの各群に対し化学療法剤、抗体医薬、分子標的薬等を併せて投与する。2~3日毎に各投与群における腫瘍径(長径/短径)を電子ノギス等で測定し、腫瘍体積を算出する。各種抗体投与群と陰性対照群の腫瘍体積から腫瘍増殖抑制率を算出することで、各々のin vivoにおける薬効を比較評価することが出来る。なお、腫瘍体積、及び腫瘍増殖抑制率は次式で示される。
腫瘍体積(mm)=(長径×短径×短径)/2
腫瘍増殖抑制率(%)=(1-各投与群の腫瘍体積/陰性対象群の腫瘍体積)×100
【産業上の利用可能性】
【0226】
本発明の抗SIRPα抗体は、他のエフェクター機能を有する他の抗体医薬や免疫チェックポイント阻害作用を有する他の抗体医薬と併用するための抗体医薬として利用することができる。
【配列表フリーテキスト】
【0227】
配列番号1:D13 CDR-L1のアミノ酸配列
配列番号2:D13 CDR-L2のアミノ酸配列
配列番号3:D13 CDR-L3のアミノ酸配列
配列番号4:D13 CDR-H1のアミノ酸配列
配列番号5:D13 CDR-H2のアミノ酸配列
配列番号6:D13 CDR-H3のアミノ酸配列
配列番号7:F44 CDR-L1のアミノ酸配列
配列番号8:F44 CDR-L2のアミノ酸配列
配列番号9:F44 CDR-L3のアミノ酸配列
配列番号10:F44 CDR-H1のアミノ酸配列
配列番号11:F44 CDR-H2のアミノ酸配列
配列番号12:F44 CDR-H3のアミノ酸配列
配列番号13:F63 CDR-L1のアミノ酸配列
配列番号14:F63 CDR-L2のアミノ酸配列
配列番号15:F63 CDR-L3のアミノ酸配列
配列番号16:F63 CDR-H1のアミノ酸配列
配列番号17:F63 CDR-H2のアミノ酸配列
配列番号18:F63 CDR-H3のアミノ酸配列
配列番号19:ヒト軽鎖シグナル配列及びヒトκ軽鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片
配列番号20:ヒト軽鎖シグナル配列及びヒトλ軽鎖の定常領域をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片
配列番号21:ヒト重鎖シグナル配列及びヒトIgG4ProFALA重鎖定常領域をコードするヌクレオチド配列を含むDNA断片
配列番号22:ヒトキメラ抗体D13の軽鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号23:ヒトキメラ抗体D13の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号24:ヒトキメラ抗体D13の重鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号25:ヒトキメラ抗体D13の重鎖のアミノ酸配列
配列番号26:ヒトキメラ抗体F44の軽鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号27:ヒトキメラ抗体F44の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号28:ヒトキメラ抗体F44の重鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号29:ヒトキメラ抗体F44の重鎖のアミノ酸配列
配列番号30:ヒトキメラ抗体F63の軽鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号31:ヒトキメラ抗体F63の軽鎖のアミノ酸配列
配列番号32:ヒトキメラ抗体F63の重鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号33:ヒトキメラ抗体F63の重鎖のアミノ酸配列
配列番号34:ヒト化D13のhL2軽鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号35:ヒト化D13のhL2軽鎖のアミノ酸配列
配列番号36:ヒト化D13のhL3軽鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号37:ヒト化D13のhL3軽鎖のアミノ酸配列
配列番号38:ヒト化D13のhL4軽鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号39:ヒト化D13のhL4軽鎖のアミノ酸配列
配列番号40:ヒト化D13のhH1重鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号41:ヒト化D13のhH1重鎖のアミノ酸配列
配列番号42:ヒト化D13のhH2重鎖をコードするヌクレオチド配列
配列番号43:ヒト化D13のhH2重鎖のアミノ酸配列
配列番号44:ヒトSIRPAバリアント1のECDをコードするヌクレオチド配列
配列番号45:ヒトSIRPAバリアント1のECDのアミノ酸配列
配列番号46:ヒトSIRPAバリアント1のIgVをコードするヌクレオチド配列
配列番号47:ヒトSIRPAバリアント1のIgVのアミノ酸配列
配列番号48:ヒトSIRPAバリアント2のECDをコードするヌクレオチド配列
配列番号49:ヒトSIRPAバリアント2のECDのアミノ酸配列
配列番号50:ヒトSIRPAバリアント2のIgVをコードするヌクレオチド配列
配列番号51:ヒトSIRPAバリアント2のIgVのアミノ酸配列
配列番号52:サルSIRPAのECDをコードするヌクレオチド配列
配列番号53:サルSIRPAのECDのアミノ酸配列
配列番号54:ヒトCD47-Fcをコードするヌクレオチド配列
配列番号55:ヒトCD47-FcのIgVのアミノ酸配列
配列番号56:ヒトSIRPAバリアント1のアミノ酸配列
配列番号57:ヒトSIRPAバリアント2のアミノ酸配列
配列番号58:サルSIRPAのアミノ酸配列
配列番号59:C57 BL/6マウスSIRPAのアミノ酸配列
配列番号60:BALB/CマウスSIRPAのアミノ酸配列
配列番号61:129マウスSIRPAのアミノ酸配列
配列番号62:NODマウスSIRPAのアミノ酸配列
配列番号63:ヒトSIRPAバリアント3のアミノ酸配列
配列番号64:ヒトSIRPAバリアント4のアミノ酸配列
配列番号65:ヒトSIRPAバリアント5のアミノ酸配列
配列番号66:ヒトSIRPAバリアント6のアミノ酸配列
配列番号67:ヒトSIRPAバリアント7のアミノ酸配列
配列番号68:ヒトSIRPAバリアント8のアミノ酸配列
配列番号69:ヒトSIRPAバリアント9のアミノ酸配列
配列番号70:ヒトSIRPAバリアント10のアミノ酸配列
配列番号71:ヒトSIRPA_V2_IgV体のアミノ酸配列
配列番号72:ヒトSIRPA_V2_IgV_IgC1体のアミノ酸配列
配列番号73:マウスSIRPA変異体hmSIRPA_Δ0のアミノ酸配列
配列番号74:マウスSIRPA変異体hmSIRPA_Δ1のアミノ酸配列
配列番号75:マウスSIRPA変異体hmSIRPA_Δ2のアミノ酸配列
配列番号76:マウスSIRPA変異体hmSIRPA_Δ0のアミノ酸配列中の81番目~85番目のアミノ酸配列
配列番号77:マウスSIRPA変異体hmSIRPA_Δ1のアミノ酸配列中の81番目~85番目のアミノ酸配列
配列番号78:BALB/CマウスSIRPAのアミノ酸配列中の81番目~85番目のアミノ酸配列
配列番号79:BALB/CマウスSIRPAのアミノ酸配列中の126番目~130番目のアミノ酸配列
配列番号80:マウスSIRPA変異体hmSIRPA_Δ2のアミノ酸配列中の81番目~85番目のアミノ酸配列
配列番号81:OSE-172抗体重鎖(OSE-172_hG4Pro)のアミノ酸配列
配列番号82:OSE-172抗体軽鎖(OSE-172_hK)のアミノ酸配列
配列番号83:KWAR23抗体重鎖(KWAR23_hG4Pro)のアミノ酸配列
配列番号84:KWAR23抗体軽鎖(KWAR23_hK)のアミノ酸配列
配列番号85:ADU-1805抗体重鎖(ADU-1805_hG2)のアミノ酸配列
配列番号86:ADU-1805抗体軽鎖(ADU-1805_hK)のアミノ酸配列
【0228】
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
図13A
図13B
図13C
図14A
図14B
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
【配列表】
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