(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ナメクジ駆除剤
(51)【国際特許分類】
A01N 37/02 20060101AFI20231018BHJP
A01P 9/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A01N37/02
A01P9/00
(21)【出願番号】P 2017219115
(22)【出願日】2017-11-14
【審査請求日】2020-08-28
【審判番号】
【審判請求日】2021-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】杉丸 勝郎
(72)【発明者】
【氏名】小坂 奈央美
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】宮崎 大輔
【審判官】井上 典之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-95636(JP,A)
【文献】特開2011-1337(JP,A)
【文献】「殺虫・虫よけ効果をプラスした除草剤「虫よけ除草王」新登場!」、[online]、フマキラー、2016年10月12日、[令和5年4月19日検索]、インターネット<URL:https://www.fumakilla.co.jp/new/1757/>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N
A01P
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化したペラルゴン酸を有効成分として含有した水性の液体であり、
ペラルゴン酸を3質量%以上
10質量%以下含有していることを特徴とするナメクジ駆除剤。
【請求項2】
請求項1に記載のナメクジ駆除剤において、
界面活性剤を含有していることを特徴とするナメクジ駆除剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばナメクジ駆除剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ナメクジ等の腹足類は農作物等に害を与えることがあるため、駆除剤や忌避剤を用いて農作物等にできるだけ害を及ぼさないようにすることが行われている。腹足類駆除剤としては、例えば特許文献1に開示されているように、リンゴ酸をゼオライトに含浸させておき、このゼオライトをアマニ油で被覆し、その外面に多数のリンゴ酸粉末を担持させたものが知られている。
【0003】
また、特許文献2の腹足類駆除剤は、水をベースとし、飽和脂肪族アルコールとユーカリ油とを含有してなるものである。
【0004】
また、特許文献3の腹足類駆除剤は、粘液を脱ぎ捨てられなくする粘液脱捨阻害作用を有する香料成分を有効成分とするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-71900号公報
【文献】特開2008-231013号公報
【文献】特開2001-163715号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1では多数のリンゴ酸粉末をゼオライトに担持させることにより、リンゴ酸粉末を有していないものに比べて駆除効果、特に即効性を向上させることができる点で有用である。しかし、使用者はより高い即効性を望んでおり、この点で改良が必要であった。
【0007】
また、特許文献2では水をベースとしていて農作物等に対する薬害が少なくなっていると考えられる。また、特許文献2の駆除剤を腹足類に噴霧したときの致死率について当該特許文献2に開示されてはいるが、噴霧してから死に至るまでの具体的な時間、即ち即効性については不明である。また、特許文献3についても即効性は不明である。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、腹足類駆除剤の即効性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明では、ナメクジ駆除剤にペラルゴン酸を含有させるようにした。
【0010】
第1の発明は、乳化したペラルゴン酸を有効成分として含有した水性の液体であり、ペラルゴン酸を3質量%以上10質量%以下含有していることを特徴とするナメクジ駆除剤である。
【0011】
この構成によれば、ペラルゴン酸が腹足類の体表に触れることで、腹足類が早期にノックダウン状態になるので、高い即効性が得られる。また、腹足類の致死率も極めて高くなる。
【0012】
第2の発明は、界面活性剤を含有していることを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、ペラルゴン酸の乳化状態が安定して得られるようになる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来のリンゴ酸等を使用した駆除剤に比べて高い即効性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0017】
本発明の実施形態に係る腹足類駆除剤は、例えば、コウラナメクジ、チャコウラナメクジ、ヤマナメクジ等のナメクジの他、マイマイ、カタツムリに対して殺虫効果、即ち駆除効果を発揮するものである。また、腹足類駆除剤は、腹足類に付着した後、腹足類を早期にノックダウン状態にする即効性も有している。ノックダウン状態とは、腹足類が動かなくなった状態をいう。腹足類がノックダウン状態であっても死に至っていないこともあるので、即効性と殺虫効果とは必ずしも同じではない。
【0018】
腹足類駆除剤は液体であることが特徴となっており、具体的には、ペラルゴン酸、界面活性剤、水を含有している。ペラルゴン酸は乳化した状態で腹足類駆除剤中に存在している。ペラルゴン酸を乳化させる手法は従来から周知の方法を使用することができる。また、腹足類駆除剤は水ベースであり、具体的には、水が質量比で全成分の半分以上含有された水性の薬剤となっている。
【0019】
ペラルゴン酸の含有量は、1質量%以上が好ましく、より好ましくは3質量%以上である。ペラルゴン酸の含有量が1質量%未満であると、腹足類駆除剤が腹足類に付着しても高い即効性が得られにくくなるので、ペラルゴン酸の含有量は少なくとも1質量%以上とする。ペラルゴン酸の含有量が3質量%以上であると、3質量%未満の場合に比べて即効性がより一層高まる。尚、ペラルゴン酸の含有量の上限は、10質量%とするのが好ましく、20質量%以下がより好ましい。ペラルゴン酸は、上述したように乳化した状態で腹足類駆除剤中に存在しているが、ペラルゴン酸の含有量が多すぎると安定した状態で腹足類駆除剤中に存在させることが難しくなるので、ペラルゴン酸の含有量の上限としては10質量%以下にする。また、ペラルゴン酸の含有量を増やしても即効性の程度は殆ど変わらなくなるので、ペラルゴン酸の含有量の上限は20質量%以下とする。尚、ペラルゴン酸の含有量は、上述した範囲外であってもよいが、即効性が高く、かつ、致死効果も得られ、しかも、腹足類駆除剤中で安定した状態を維持することができる範囲として、3質量%以上10質量%以下の範囲で設定するのが好ましい。
【0020】
界面活性剤としては、各種界面活性剤を使用することができ、1種または複数種を組み合わせて使用することもできる。この実施形態では、ニューカルゲン3種混合物(NK3種混合物ともいう。)を界面活性剤として使用している。ニューカルゲン3種混合物は、NK D240K、NK D935、NK EP70Gの3種類を混合したものである。配合量は、例えば、NK D240Kが15g、NK D935が1.6g、NK EP70Gが5gとすることができるが、これ以外の配合量であってもよい。界面活性剤は、ペラルゴン酸を乳化させるための乳化剤として作用するので、上記範囲内で含有されているペラルゴン酸を乳化した状態で安定して腹足類駆除剤中に存在させておくことができる量の界面活性剤を腹足類駆除剤に含有させておけばよい。
【0021】
水は例えばイオン交換水を使用することができる。水の含有量は、80質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上である。水の含有量を多くすることで水性ベースの薬剤となるので安全性を高めることができる。
【0022】
腹足類駆除剤は、例えば
図1に示すようなハンドスプレー容器1に収容して使用することができる。ハンドスプレー容器1は、腹足類駆除剤が収容される容器本体2と、容器本体2に取り付けられるポンプ部3と、ポンプ部3を操作するためのレバー4と、腹足類駆除剤を噴射する噴射口5とを備えている。使用者がレバー4を指等で引く操作を行うことでポンプ部3を作動させることができるように構成されており、このポンプ部3の作動によって容器本体2内の腹足類駆除剤を噴射口5から噴射させることができる。このハンドスプレー容器1は従来から周知のものを使用することができる。噴射口5は腹足類駆除剤を霧状に噴射する噴霧口とするのが好ましい。また、腹足類駆除剤の噴霧時の粒径を調整する機能を付与することもできる。
【0023】
また、腹足類駆除剤を噴射剤と共にエアゾール容器に収容してエアゾール製品とすることもできる。噴射剤は、例えば液化石油ガスやジメチルエーテル等を挙げることができる。
【0024】
腹足類駆除剤には、ペラルゴン酸、界面活性剤以外の薬剤を含有させるようにしてもよい。この場合、ペラルゴン酸による即効性及び致死効果を阻害しないように、薬剤を選定するとともに、薬剤の含有量を設定するのが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下、本発明に係る腹足類駆除剤の実施例について説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0026】
(試験例1)
試験例1では、供試剤として本発明の腹足類駆除剤である実施例と、比較例1、2とを用意した。
【0027】
【0028】
実施例は、ペラルゴン酸処方であり、ペラルゴン酸を3g、NK3種混合物を4.32g、イオン交換水を92.68gとして合計100gの腹足類駆除剤とした。比較例1は実施例のベラルゴン酸をリンゴ酸に変更したリンゴ酸処方である。比較例2は実施例のペラルゴン酸をクエン酸に変更したクエン酸処方である。
【0029】
図1に示すように、シャーレ100を用意し、シャーレ100の中に雑草101を入れてから、雑草101に、ハンドスプレー容器1に収容した腹足類駆除剤を噴霧する。雑草101の量は3g程度となるようにした。また、腹足類駆除剤の噴霧量は3g程度とし、全量をシャーレ100内に噴霧している。
【0030】
雑草101に腹足類駆除剤を噴霧して1日間静置した後、雑草101を新たなシャーレ100に移した。1日間静置することで雑草101に噴霧した腹足類駆除剤は乾いていた。その新たなシャーレ100内の雑草101の上に供試虫を3匹置いて蓋102をした。供試虫はナメクジ(チャコウラ)である。
【0031】
表1に示すとおり、供試虫をシャーレ100内の雑草101の上に置いてから24時間経過後の致死数を比較すると、実施例では1匹(致死率約33%)であったのに対し、比較例1、2では0匹であり、致死率は0%であった。したがって、実施例は比較例1、2に比べて高い致死率を得ることができる。
【0032】
また、ペラルゴン酸を雑草101に噴霧することでペラルゴン酸を噴霧しない場合に比べて雑草101が早期に枯れる。つまり、実施例では、腹足類に対する即効性を得ることができるとともに、除草効果も得ることができる。
【0033】
(試験例2)
試験例2で使用する供試剤及び供試虫は試験例1と同じである。
【0034】
試験例2では、
図2に示すように、シャーレ100にティッシュ103を敷き、そのティッシュ103の上に供試虫を置いた。その後、腹足類駆除剤を供試虫及びティッシュ103にかかるように噴霧した。また、蓋102の内面にも腹足類駆除剤を噴霧し、すぐにシャーレ100に蓋102をした。シャーレ100に蓋102をした時点から供試虫がノックダウン状態となるのに要する時間(ノックダウン時間)を測定した。測定結果を表2に示す。
【0035】
【0036】
表2に示すように、ノックダウン時間は実施例では2分39秒という極めて短時間であったのに対し、比較例1では実施例に比べて1分以上長い時間となり、また、比較例2では実施例に比べて1分40秒程度長い時間となった。表2のノックダウン時間は、各供試剤の試験3回を平均した時間である。尚、試験例2では、24時間後致死数がいずれも3であり、致死率は100%であった。
【0037】
以上説明したように、この実施形態に係る腹足類駆除剤によれば、ペラルゴン酸が腹足類の体表に触れることで、腹足類が早期にノックダウン状態になるので、高い即効性が得られる。また、腹足類の致死率も極めて高くなる。
【0038】
また、乳化したペラルゴン酸を含有しているので、腹足類に対する即効性をより一層高めることができる。また、乳化したペラルゴン酸を雑草に付着させることで、ペラルゴン酸による除草効果をより一層高めることができる。
【0039】
また、ペラルゴン酸は乳化させることなく腹足類駆除剤中に存在させるようにしてもよい。
【0040】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0041】
以上説明したように、本発明に係る腹足類駆除剤は、例えばナメクジ等の腹足類を駆除するのに用いることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 ハンドスプレー容器
2 容器本体
3 ポンプ部
4 レバー
5 噴射口