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特許7368841分割型ルシフェラーゼ及びそれを用いたビタミンD受容体リガンドの高感度検出法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】分割型ルシフェラーゼ及びそれを用いたビタミンD受容体リガンドの高感度検出法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/62 20060101AFI20231018BHJP
   C12N 15/53 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231018BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 9/02 20060101ALI20231018BHJP
   C07K 14/705 20060101ALI20231018BHJP
   C12Q 1/66 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/53
C12N15/12
C12N15/63 Z
C12N5/10
C07K19/00
C12N9/02
C07K14/705
C12Q1/66
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2019550472
(86)(22)【出願日】2018-10-31
(86)【国際出願番号】 JP2018040583
(87)【国際公開番号】W WO2019088200
(87)【国際公開日】2019-05-09
【審査請求日】2021-09-10
(31)【優先権主張番号】P 2017210604
(32)【優先日】2017-10-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】榊 利之
(72)【発明者】
【氏名】西川 美宇
(72)【発明者】
【氏名】真野 寛生
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-163559(JP,A)
【文献】特開2010-178676(JP,A)
【文献】Anal. Chem.,2009年,Vol.81, No.10,pp.3760-3768
【文献】Arch. Biochem. Biophys.,2007年,Vol.460,pp.206-212
【文献】J. Steroid Biochem. Mol. Biol.,2018年07月09日,Vol.183,pp.221-227
【文献】Biochem. Biophys. Res. Commun.,2018年09月26日,Vol.505,pp.460-465
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1a)N末端側からルシフェラーゼのN端ドメイン(以下、LucNと表記する)、
アミノ酸数1~20個の挿入配列A、
LX12LL配列(X1は、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、X2は、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)、
アミノ酸数1~20個の挿入配列B、
ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)のビタミンD結合ドメイン(以下、LBDと表記する)を少なくとも1個、及び
ルシフェラーゼのC端ドメイン(以下、LucCと表記する)をこの順に含み、
挿入配列BとLBDの間にGGGGS配列及びEAAAK配列から成る群から選ばれる少なくとも1種のリンカー配列をさらに含むことができる融合タンパク質、または
(1b)N末端側から少なくとも1個のLBD、
LucC、LucN、アミノ酸数1~20個の挿入配列A、LX12LL配列(X1は、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、X2は、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)、及び
アミノ酸数1~20個の挿入配列Bをこの順に含み、
LucCとLucNの間に、GGGGS配列及びEAAAK配列から成る群から選ばれる少なくとも1種のリンカー配列をさらに含むことができる、融合タンパク質であって、
N末端側に6×HNまたはHATタグをさらに含むことができ、
ルシフェラーゼは、(ア)ホタルルシフェラーゼ、(イ) ウミシイタケルシフェラーゼ、(ウ)エメラルドルシフェラーゼ、及び(エ)トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体から成る群から選ばれ、
(ア)ホタルルシフェラーゼは、配列表の配列番号36で示されるアミノ酸配列を有し、N端ドメインは、1番から415番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、416番から550番までのアミノ酸配列を有し、
(イ)ウミシイタケルシフェラーゼは、配列表の配列番号38で示されるアミノ酸配列を有し、N端ドメインは、1番から229番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、230番から311番までのアミノ酸配列を有し、
(ウ)エメラルドルシフェラーゼは、配列表の配列番号40で示されるアミノ酸配列を有し、
N端ドメインは、1番からn番のアミノ酸配列を有し、C端ドメインはn+1番から542番までのアミノ酸配列を有し、nは388から422のいずれかの整数であり、
(エ)トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体(以下、NLucと表記する)は、配列表の配列番号104で示されるアミノ酸配列を有し、NLucのN端ドメインは、配列表の配列番号105で示されるアミノ酸配列を有し、NLucのC端ドメインは、配列表の配列番号106で示されるアミノ酸配列を有する、融合タンパク質。
【請求項2】
下記(2)の融合タンパク質及び(3)の融合タンパク質の組合せ。
(2)ルシフェラーゼのN端ドメイン(以下、LucNと表記する)、及びLX12LL配列(X1は、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、X2は、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)を順不同に含み、かつGGGGS配列及びEAAAK配列から成る群から選ばれる少なくとも1種のリンカー配列をさらに順不同に含むことができる融合タンパク質であって、
LucNとLX12LL配列の間に、アミノ酸数1~20個の挿入配列Aをさらに有し、
リンカー配列を含む場合、LX12LL配列とリンカー配列の間に、アミノ酸数1~20個の挿入配列Bをさらに有し、N末端側に6×HNまたはHATタグをさらに含むことができる融合タンパク質、
(3)ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)のビタミンD結合ドメイン(以下、LBDと表記する)を少なくとも1個、及びルシフェラーゼのC端ドメイン(以下、LucCと表記する)を順不同に含む融合タンパク質であって、
GGGGS配列及びEAAAK配列から成る群から選ばれる少なくとも1種のリンカー配列をさらに順不同に含むことができ、N末端側に6×HNまたはHATタグをさらに含むことができる融合タンパク質、
但し、ルシフェラーゼは、(ア)ホタルルシフェラーゼ、(イ) ウミシイタケルシフェラーゼ、(ウ)エメラルドルシフェラーゼ、及び(エ)トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体から成る群から選ばれ、
(ア)ホタルルシフェラーゼは、配列表の配列番号36で示されるアミノ酸配列を有し、N端ドメインは、1番から415番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、416番から550番までのアミノ酸配列を有し、
(イ)ウミシイタケルシフェラーゼは、配列表の配列番号38で示されるアミノ酸配列を有し、N端ドメインは、1番から229番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、230番から311番までのアミノ酸配列を有し、
(ウ)エメラルドルシフェラーゼは、配列表の配列番号40で示されるアミノ酸配列を有し、
N端ドメインは、1番からn番のアミノ酸配列を有し、C端ドメインはn+1番から542番までのアミノ酸配列を有し、nは388から422のいずれかの整数であり、
(エ)トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体(以下、NLucと表記する)は、配列表の配列番号104で示されるアミノ酸配列を有し、NLucのN端ドメインは、配列表の配列番号105で示されるアミノ酸配列を有し、NLucのC端ドメインは、配列表の配列番号106で示されるアミノ酸配列を有する。
【請求項3】
GGGGS配列は3個のGGGGSの繰り返し配列(GGGGS)×3である、請求項1~2のいずれかに記載の融合タンパク質または融合タンパク質の組合せ
【請求項4】
VDRは、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、またはウシのVDRである請求項1~3のいずれかに記載の融合タンパク質または融合タンパク質の組合せ
【請求項5】
ヒトVDRは、配列表の配列番号42で示されるアミノ酸配列を有し、そのLBDは、121番から427番までのアミノ酸配列を有し、
マウスVDRは、配列表の配列番号44で示されるアミノ酸配列を有し、そのLBDは、121番から422番までのアミノ酸配列を有し、
ラットVDRは、配列表の配列番号46で示されるアミノ酸配列を有し、そのLBDは、121番から423番までのアミノ酸配列を有し、
サルVDRは、配列表の配列番号47で示されるアミノ酸配列を有し、そのLBDは、121番から434番までのアミノ酸配列を有し、
イヌVDRは、配列表の配列番号48で示されるアミノ酸配列を有し、そのLBDは、121番から427番までのアミノ酸配列を有し、
ウシVDRは、配列表の配列番号49で示されるアミノ酸配列を有し、そのLBDは、121番から426番までのアミノ酸配列を有する、請求項4に記載の融合タンパク質または融合タンパク質の組合せ
【請求項6】
LBDのアミノ酸配列は変異を有する請求項1~5のいずれかに記載の融合タンパク質または融合タンパク質の組合せ
【請求項7】
LBDを2個有する請求項1~6のいずれかに記載の融合タンパク質または融合タンパク質の組合せ
【請求項8】
LucN、LucC、LX12LL配列、リンカー配列、挿入配列Aおよび挿入配列Bのいずれかの間に、VD、GS、VE、RS、又はEFのいずれかの2個のアミノ酸をさらに含む、請求項1~7のいずれかに記載の融合タンパク質または融合タンパク質の組合せ
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の融合タンパク質または融合タンパク質の組合せをコードするDNA。
【請求項10】
ベクター中に請求項9に記載のDNAを含有するプラスミド。
【請求項11】
請求項10に記載のプラスミドを導入した細胞である形質転換細胞。
【請求項12】
前記細胞は、哺乳動物または昆虫由来の細胞である請求項11に記載の形質転換細胞。
【請求項13】
ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)に結合性を示す物質のスクリーニング方法であって、
請求項11または12に記載の形質転換細胞(但し、融合タンパク質は、融合タンパク質(1a)若しくは(1b)であるか、又は融合タンパク質(2)及び融合タンパク質(3)である)を、ルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素、並びに候補物質の共存下で培養し、培養中及び/又は培養後に発光を測定し、
発光に基づいて前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択することを含む、前記スクリーニング方法。
【請求項14】
前記形質転換細胞に導入されたプラスミドが含有するビタミンD結合ドメイン(以下、LBDと表記する)のアミノ酸配列をコードするDNAは、前記LBDのアミノ酸配列が変異を有し、前記アミノ酸配列の変異と疾患との関係から、前記疾患に関与する変異を有するLBDに特異的に結合する候補物質をスクリーニングする、請求項13に記載のスクリーニング方法。
【請求項15】
ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)に結合性を示す物質のスクリーニング方法であって、
請求項1~8のいずれかに記載の融合タンパク質(但し、融合タンパク質は、融合タンパク質(1a)若しくは(1b)であるか、又は融合タンパク質(2)及び融合タンパク質(3)である)を、ルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素、並びに候補物質の共存下で作用させて、作用中及び/又は作用後に発光を測定し、
発光に基づいて前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択することを含む、前記スクリーニング方法。
【請求項16】
前記融合タンパク質が含有するビタミンD結合ドメイン(以下、LBDと表記する)のアミノ酸配列が変異を有し、前記アミノ酸配列の変異と疾患との関係から、前記疾患に関与する変異を有するLBDに特異的に結合する候補物質をスクリーニングする、請求項15に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
前記候補物質は、ステロイド骨格を有する化合物、脂肪酸類、脂溶性ビタミン類、又はポリフェノール類である請求項13~16のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分割型ルシフェラーゼ及びそれを用いたビタミンD受容体リガンドの高感度検出法に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2017年10月31日出願の日本特願2017-210604号の優先権を主張し、それの全記載は、ここに特に開示として援用される。
【背景技術】
【0002】
ビタミンD3(VD3)は皮膚で生成された後、血中を循環するビタミンD結合タンパク質(DBP)によって肝臓に運ばれ、25ヒドロキシビタミンD3[25(OH)D3]に代謝される。その後、再び血中のDBPと結合し腎臓に運ばれ、最も生理活性の強い1α,25-ジヒドロキシビタミンD3[1α,25(OH)2D3]に代謝される(図1A)。1α,25(OH)2D3は活性型ビタミンD3と呼ばれ、標的細胞の核内に存在するビタミンD受容体(VDR)と特異的に結合した後、レチノイドX受容体(RXR)とヘテロ二量体を形成する。次いで、steroid receptorcoactivating factor 1(SRC-1)やvitaminD receptor interacting protein 205(DRIP-205)などの転写共役因子と複合体を形成し、DNA上のビタミンD応答配列(VDRE)に結合して、骨代謝、細胞分化・増殖、免疫機能の調節に関わる種々の遺伝子を活性化する(図1B)。
【0003】
そのため、小児期においてビタミンDが欠乏すると、くる病や骨軟化症を引き起こす危険性がある。また、加齢に伴うビタミンDの欠乏は、骨粗鬆症、がん、糖尿病、動脈硬化、自己免疫疾患、さらには、アルツハイマー病やパーキンソン病等の脳疾患とも関連があると言われている。近年、ビタミンDやその誘導体が、癌細胞の増殖阻害や記憶・学習能力を向上させるという報告が増えており、がんや認知症の治療薬として期待が膨らんでいる。しかし、これまでに1000種類以上ものビタミンD誘導体が合成・研究されているにもかかわらず、医薬品に至っている化合物は極々僅かであるのが現状である。その主な理由は、ビタミンD誘導体のVDRへの親和性が低いことや体内の種々の代謝酵素によって、速やかに不活性なものへと代謝されてしまうことが挙げられる。従って、VDRへの親和性が高く、代謝酵素による不活性化を受けにくい化合物の開発は、上述した、多くの疾患の治療薬となる可能性が高い。膨大な数のビタミンD誘導体の中から、VDRに結合する化合物を簡便かつ短時間に探索・評価する検出系の構築は、医薬品開発に重要な役割を果たすと考えられる。
【0004】
これまでに、VDRリガンドをスクリーニングし、その親和性を測定するシステムとして、ウシ胸腺VDRを用いた競合アッセイ(非特許文献1)、さらに、SRC-1等のコアクチベーターを利用した方法が広く用いられている(非特許文献2)。一方、細胞を使うシステムとして、ビタミンD応答配列(VDRE)含有プロモーター・ルシフェラーゼレポーターアッセイを用いた系が知られる(非特許文献3)。
【0005】
特許文献1:日本特開2016-163559号公報
【0006】
非特許文献1:D. Abe, T. Sakaki, T. Kusudo, A. Kittaka, N. Saito, Y. Suhara, T.Fujishima, H. Takayama, H. Hamamoto, M. Kamakura, M. Ohta, K. Inouye, Metabolismof 2 alpha-propoxy-1 alpha,25-dihydroxyvitamin D3 and 2alpha-(3-hydroxypropoxy)-1 alpha,25-dihydroxyvitamin D3 by human CYP27A1 andCYP24A1, Drug metabolism and disposition: the biological fate of chemicals, 33(2005) 778-784.
非特許文献2:K. Yasuda, S. Ikushiro, M. Kamakura, M. Takano, N. Saito, A.Kittaka, T.C. Chen, M. Ohta, T. Sakaki, Human cytochrome P450-dependentdifferential metabolism among three2alpha-substituted-1alpha,25-dihydroxyvitamin D(3) analogs, The Journal ofsteroid biochemistry and molecular biology, 133 (2013) 84-92.
非特許文献3:M. Nakabayashi, Y. Tsukahara, Y. Iwasaki-Miyamoto, M.Mihori-Shimazaki, S. Yamada, S. Inaba, M. Oda, M. Shimizu, M. Makishima, H.Tokiwa, T. Ikura, N. Ito, Crystal structures of hereditary vitamin D-resistantrickets-associated vitamin D receptor mutants R270L and W282R bound to1,25-dihydroxyvitamin D3 and synthetic ligands, Journal of medicinal chemistry,56 (2013) 6745-6760.
非特許文献4:H. Mano, M. Nishikawa, K. Yasuda, S. Ikushiro, N. Saito, M. Takano,A. Kittaka, T. Sakaki, Development of Novel Bioluminescent Sensor to Detect andDiscriminate between Vitamin D Receptor Agonists and Antagonists in LivingCells, Bioconjugate chemistry, 26 (2015) 2038-2045.
非特許文献5:L.A. Zella, C.Y. Chang, D.P. McDonnell, J.W. Pike, The vitamin Dreceptor interacts preferentially with DRIP205-like LxxLL motifs, Archives ofbiochemistry and biophysics, 460 (2007) 206-212.
特許文献1及び非特許文献1~5の全記載は、ここに特に開示として援用される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1および2に記載の方法は、細胞を使わず高感度に検出することが可能ではあるが、高コストであることや、細胞を透過しない物質もポジティブに判定してしまうという問題点がある。一方、非特許文献3に記載の方法では、VDRリガンドの細胞膜透過性、細胞毒性を含めての作用が評価可能であるが、VDRとの直接の結合を検出しているわけではなく、評価が終了するまでに12時間以上要するという問題点がある。
【0008】
これらの問題点を解決するために、分割型ルシフェラーゼを用いたVDRリガンドの新規の検出系を2015年に開発した(非特許文献4、特許文献1)。この検出系は、VDRのリガンド結合領域(LBD)のN末およびC末端に、分割したホタルルシフェラーゼのN末領域(LucN)またはC末領域(LucC)を結合した融合タンパク質であり、LucN-LBD-LucCおよびLucC-LBD-LucNバイオセンサーと命名した。本バイオセンサーは、バイオセンサーの内部に存在するLBDにリガンドが結合すると、LBDの構造変化に伴って、ルシフェラーゼの発光が変化する。特に、アゴニストが結合するとルシフェラーゼの発光が減少し、アンタゴニストが結合すると発光が増加することから、1つの系でアゴニストとアンタゴニストを識別できる点が最大の特徴である。
【0009】
本発明者らは、細胞レベルだけでなく、個体レベルにおいてVDRアゴニストの可視化および時空的な解析を目指しており、これまでに開発したLucN-LBD-LucCおよびLucC-LBD-LucNバイオセンサーは、発光が低い事に加え、アゴニストが結合すると発光が減少するため、適していない。つまり、VDRアゴニストを検出すると発光が増大するようなバイオセンサーへの改良が必要である。
【0010】
本発明が解決すべき課題は、アゴニストが結合すると発光が増大するようなバイオセンサーの提供であり、本発明はそのようなバイオセンサーを提供することを目的とする。さらに本発明は、ビタミンD受容体(VDR)に強く結合する物質を簡便にスクリーニングできる方法を提供する。
【0011】
一般的に、分割型ルシフェラーゼを用いたバイオセンサーは、LucN、LBDおよびLucCの各連結部位にGGGGS配列やその繰り返し配列等のリンカー配列を挿入すると感度や反応性などが向上する場合がある。また、上述したように、VDRはRXRの他に、SRC-1やDRIP-205などの転写共役因子とも結合するが、この結合は、転写共役因子内に存在するLXXLLモチーフと呼ばれる特異的な配列(アミノ酸配列の例としてNHPMLMNLLKDN、LSETHPLLWTLLSSTEGDSMおよびLTEMHPILTSLLQNGVDHV)を介して行われることが報告されている(非特許文献5)。そのため、リンカー配列以外にもLucN、LBDおよびLucCの各連結部位にLXXLL配列を挿入することでバイオセンサーの性能向上に繋がる可能性を考えた。
【0012】
これまでに作製したLucN-LBD-LucCバイオセンサーを基に、LucNとLBDの間に(GGGGS)の3回繰り返し配列である(GGGGS)×3リンカーを挿入したLucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを作製し、アゴニストに対する応答性を調べたが、LucN-LBD-LucCバイオセンサーと同様、アゴニストに反応して発光が減少した。
【0013】
そこで、さらなる改良点として、LucNと(GGGGS)×3の間にLXXLL配列を挿入したLucN-LXXLL-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを新たに作製したところ、アゴニストに応答して発光量が増加し本発明が目的とするアゴニストに応答して発光が増加するタイプのバイオセンサーを得ることに成功した。これらのバイオセンサーは、1分子内の構造変化によって発光が変化するタイプであることから、1分子型と呼ぶ。
【0014】
また、アゴニスト結合後のLXXLL配列とLBD間の相互作用にも着目し、LXXLL配列とLBD間相互作用を検出すると発光量が増加することを期待し、LucN-LXXLLとLBD-LucCの2つの分子からなるバイオセンサーも開発した。このタイプのバイオセンサーは2分子間の相互作用によって発光が変化することから2分子型と呼ぶ。2分子型では、アゴニストに応答してバイオセンサー内のLXXLL配列とLBD間相互作用が生じる際に、LucNとLucCが再構成されて発光が復活することが確認された。
【0015】
1分子型も2分子型も、アゴニストに応答して発光が増加するため、細胞や個体レベルでのビタミンDやその代謝物を可視化できる可能性がある。さらに、今回開発したバイオセンサーをコードする遺伝子組み換え動物(ゼブラフィッシュやマウスなど)の作製は、現在の分析技術では困難である個体の発生や発達、成長期におけるビタミンDの分布や作用機序を可視的に解析できる可能性もある。
【0016】
加えて、本発明ではルシフェラーゼとして、深海エビ(トゲオキヒオドシエビ[Oplophorus gracilirostris])由来の19kDaのルシフェラーゼ又はその改変体を用いること、さらには、基質として天然のセレンテラジンに代わり、Furimazineを用いることで、発光強度を高め、より高感度での利用が可能になった。
これらの知見に基づいて、本発明は完成された。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明は、以下のとおりである。
[1]
下記(1)~(3)のいずれかの融合タンパク質。
(1)ルシフェラーゼのN端ドメイン(以下、LucNと表記する)、
ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)のビタミンD結合ドメインを少なくとも1個、及び
ルシフェラーゼのC端ドメイン(以下、LucCと表記する)を順不同に含む融合タンパク質であって、
LXLL配列(Xは、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、Xは、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)、及び
リンカー配列の一方又は両方をさらに順不同に含む融合タンパク質、
(2)LucN又はLucC、及び
LXLL配列(Xは、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、Xは、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)を順不同に含む融合タンパク質であって、
リンカー配列をさらに順不同に含むことができる融合タンパク質、
(3)VDRのビタミンD結合ドメインを少なくとも1個、及び
LucC又はLucNを順不同に含む融合タンパク質であって、
リンカー配列をさらに順不同に含むことができる融合タンパク質。
[2]
リンカー配列は、GGGGS配列及びEAAAK配列から成る群から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくは3個のGGGGSの繰り返し配列(GGGGS)×3である、[1]に記載の融合タンパク質。
[3]
融合タンパク質(1)又は(2)において、LucN又はLucCとLXLL配列の間に、アミノ酸数1~20個の挿入配列Aをさらに有する、[1]又は[2]に記載の融合タンパク質。
[4]
融合タンパク質(1)又は(2)において、LXLL配列とリンカー配列の間に、アミノ酸数1~20個の挿入配列Bをさらに有する、[1]~[3]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[5]
ルシフェラーゼは、ホタルルシフェラーゼ、クリックビートルルシフェラーゼ、エメラルドルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ウミホタルルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼルシフェラーゼ、トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼ、及びトゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体から成る群から選ばれる[1]~[4]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[6]
ホタルルシフェラーゼは、配列表の配列番号36で示されるアミノ酸配列を有し、
N端ドメインは、1番から415番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、416番から550番までのアミノ酸配列を有する[1]~[4]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[7]
ウミシイタケルシフェラーゼは、配列表の配列番号38で示されるアミノ酸配列を有し、
N端ドメインは、1番から229番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、230番から311番までのアミノ酸配列を有する[1]~[4]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[8]
エメラルドルシフェラーゼは、配列表の配列番号40で示されるアミノ酸配列を有し、
N端ドメインは、1番からn番のアミノ酸配列を有し、C端ドメインはn+1番から542番までのアミノ酸配列を有し、nは388から422のいずれかの整数である、[1]~[4]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[9]
トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体(以下、NLucと表記する)は、配列表の配列番号104で示されるアミノ酸配列を有し、
NLucのN端ドメインは、配列表の配列番号105で示されるアミノ酸配列を有し、
NLucのC端ドメインは、配列表の配列番号106で示されるアミノ酸配列を有する、[1]~[4]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[10]
VDRは、ヒト、マウス、ラット、サル、イヌ、またはウシのVDRである[1]~[9]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[11]
ヒトVDRは、配列表の配列番号42で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から427番までのアミノ酸配列を有し、
マウスVDRは、配列表の配列番号44で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から422番までのアミノ酸配列を有し、
ラットVDRは、配列表の配列番号46で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から423番までのアミノ酸配列を有し、
サルVDRは、配列表の配列番号47で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から434番までのアミノ酸配列を有し、
イヌVDRは、配列表の配列番号48で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から427番までのアミノ酸配列を有し、
ウシVDRは、配列表の配列番号49で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から426番までのアミノ酸配列を有する、請求項10に記載の融合タンパク質。
[12]
ビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列は変異を有する[1]~[11]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[13]
ビタミンD結合ドメインを2個有する[1]~[12]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[14]
LucN、LucC、LXLL配列、リンカー配列、挿入配列Aおよび挿入配列Bのいずれかの間に、VD、GS、VE、RS、又はEFのいずれかの2個のアミノ酸をさらに含む、[1]~[13]のいずれかに記載の融合タンパク質。
[15]
[1]~[14]のいずれかに記載の融合タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNA。
[16]
ベクター中に[15]に記載のDNAを含有するプラスミド。
[17]
[16に記載のプラスミドを導入した細胞である形質転換細胞。
[18]
前記細胞は、哺乳動物または昆虫由来の細胞である[17]に記載の形質転換細胞。
[19]
ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)に結合性を示す物質のスクリーニング方法であって、
[17]または[18]に記載の形質転換細胞(但し、融合タンパク質は、融合タンパク質(1)であるか、又は融合タンパク質(2)及び融合タンパク質(3)(但し、融合タンパク質(2)がLucNを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucCを含み、融合タンパク質(2)がLucCを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucNを含む)である)を、形質転換細胞にDNAが含有されるルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素、並びに候補物質の共存下で培養し、培養中及び/又は培養後に発光を測定し、
発光に基づいて前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択することを含む、前記スクリーニング方法。
[20]
前記形質転換細胞に導入されたプラスミドが含有するビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列をコードするDNAは、前記ビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列が変異を有し、前記アミノ酸配列の変異と疾患との関係から、前記疾患に関与する変異を有するビタミンD結合ドメインに特異的に結合する候補物質をスクリーニングする、[19]に記載のスクリーニング方法。
[21]
ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)に結合性を示す物質のスクリーニング方法であって、
[1]~[14]のいずれかに記載の融合タンパク質(但し、融合タンパク質は、融合タンパク質(1)であるか、又は融合タンパク質(2)及び融合タンパク質(3)(但し、融合タンパク質(2)がLucNを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucCを含み、融合タンパク質(2)がLucCを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucNを含む)である)を、ルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素、並びに候補物質の共存下で作用させて、作用中及び/又は作用後に発光を測定し、
発光に基づいて前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択することを含む、前記スクリーニング方法。
[22]
前記融合タンパク質が含有するビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列が変異を有し、前記アミノ酸配列の変異と疾患との関係から、前記疾患に関与する変異を有するビタミンD結合ドメインに特異的に結合する候補物質をスクリーニングする、[21]に記載のスクリーニング方法。
[23]
前記候補物質は、ステロイド骨格を有する化合物、脂肪酸類、脂溶性ビタミン類、又はポリフェノール類である[19]~[22]のいずれかに記載のスクリーニング方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アゴニストが結合すると発光が増大するバイオセンサーを提供することができる。さらにこのバイオセンサーを用いることで、
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】(A)ビタミンD3(VD3)の1α,25-ジヒドロキシビタミンD3[1α,25(OH)2D3]への代謝、(B)ビタミンD依存的シグナル伝達
図2】1分子型および2分子型バイオセンサーの構造
図3】1分子型バイオセンサーの発光量変化の原理
図4】2分子型バイオセンサーの発光量変化の原理
図5A】LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの1α,25(OH)2D3応答性
図5B】LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの1α,25(OH)2D3応答性
図6】LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの25(OH)D3および1α,25(OH)2D3の濃度依存性
図7A】バイオセンサータンパク質を発現させるプロモーターとLXXLL配列の最適化
図7B】バイオセンサータンパク質を発現させるプロモーターとLXXLL配列の最適化
図8】LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの比較
図9】2分子型バイオセンサーの1α,25(OH)2D3応答性
図10A】1分子型バイオセンサーの1α,25(OH)2D3濃度依存性
図10B】2分子型バイオセンサーの1α,25(OH)2D3濃度依存性
図11】LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD[Δ165-215 aa]-LucCバイオセンサーの1α,25(OH)2D3濃度依存性比較
図12A】HAT-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよび6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの1α,25(OH)2D3応答性の比較
図12B】HAT-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよび6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの発現量の比較
図13A】6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの発光測定時間の最適化
図13B】6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの発光測定時間の最適化
図14】6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの25(OH)D3と1α,25(OH)2D3濃度依存性比較
図15】6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCバイオセンサーの1α,25(OH)2D3応答性
図16】2分子型バイオセンサーの1,25D3およびNS-4添加後の発光変化
図17】ホタルルシフェラーゼ遺伝子(配列配列番号35)、アンダーライン部がN端ドメインとC端ドメインとの切断部位。
図18】ホタルルシフェラーゼアミノ酸配列(配列番号36)、アンダーライン部がN端ドメインとC端ドメインとの切断部位。
図19】ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子配列(配列番号37)、アンダーライン部がN端ドメインとC端ドメインとの切断部位。
図20】ウミシイタケルシフェラーゼアミノ酸配列(配列番号38)、アンダーライン部がN端ドメインとC端ドメインとの切断部位。
図21】エメラルドルシフェラーゼ遺伝子配列(配列番号39)、アンダーライン部がN端ドメインとC端ドメインとの切断候補部位(n=388×3(=1164)から422×3(=1266))。
図22】エメラルドルシフェラーゼアミノ酸配列(配列番号40)、アンダーライン部がN端ドメインとC端ドメインとの切断候補部位(n=388から422)。
図23】ヒトビタミンD受容体塩基配列(配列番号41)、アンダーライン部がビタミンD結合ドメイン。
図24】ヒトビタミンD受容体アミノ酸配列(配列番号42)、アンダーライン部がビタミンD結合ドメイン。
図25】マウスビタミンD受容体塩基配列(配列番号43)。
図26】マウスビタミンD受容体アミノ酸配列(配列番号44)アンダーライン部がビタミンD結合ドメイン。
図27】ラットビタミンD受容体塩基配列(配列番号45)
図28】ラットビタミンD受容体アミノ酸配列(配列番号46)、アンダーライン部がビタミンD結合ドメイン。
図29】サルビタミンD受容体アミノ酸配列(配列番号47)、アンダーライン部がビタミンD結合ドメイン。
図30】イヌビタミンD受容体アミノ酸配列(配列番号48)、アンダーライン部がビタミンD結合ドメイン。
図31】ウシビタミンD受容体アミノ酸配列(配列番号49)、アンダーライン部がビタミンD結合ドメイン。
図32-1】NanoLuciferase型バイオセンサーの構造を示す。
図32-2】NanoLuciferase型バイオセンサーの構造を示す。
図33】1分子型NanoLuc型バイオセンサーの発光原理を示す。
図34】2分子型NanoLuc型バイオセンサーの発光原理を示す。
図35】2分子型NanoLuciferaseバイオセンサーの選抜試験結果を示す。
図36】(GGGGS3)x3挿入によるバイオセンサーの性能比較結果を示す。
図37】LXXLL配列の親和性比較結果を示す。
図38】LBDの最適化およびR274L型バイオセンサーの比較結果を示す。
図39】1分子型NanoLuciferase型バイオセンサーの比較結果を示す。
図40】Invitro系における2分子型および1分子型NanoLuciferase型バイオセンサーの比較結果を示す。
図41】25(OH)D3濃度依存性およびタイムコース試験結果を示す。
図42】2分子型N29+N31バイオセンサーの25(OH)D3検出限界の試験を示す。
図43】カルシトロン酸の親和性試験結果を示す。
図44】ラット血漿抽出物の順相HPLCチャートおよび採取した各画分結果を示す。
図45】血漿中の25(OH)D3および1α,25(OH)2D3の算出結果を示す。
図46】NLuc塩基配列(配列番号101)、LgBiT塩基配列(配列番号102)、SmBiT塩基配列(配列番号103)
図47】NLucアミノ配列(配列番号104)、LgBiTアミノ配列(配列番号105)、SmBiTアミノ配列(配列番号106)
図48】トゲオキヒオドシエビ[Oplophorus gracilirostris](深海エビ)ルシフェラーゼ遺伝子配列(配列番号107)、アミノ酸配列(配列番号108)
【発明を実施するための形態】
【0020】
<融合タンパク質>
本発明は、下記(1)~(3)のいずれかの融合タンパク質に関する。
(1)ルシフェラーゼのN端ドメイン(以下、LucNと表記する)、
ビタミンD受容体(以下、VDRと表記する)のビタミンD結合ドメインを少なくとも1個、及び
ルシフェラーゼのC端ドメイン(以下、LucCと表記する)を順不同に含む融合タンパク質であって、
LXLL配列(Xは、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、Xは、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)、及び
リンカー配列の一方又は両方をさらに順不同に含む融合タンパク質、
(2)LucN又はLucC、及び
LXLL配列(Xは、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、Xは、N、T、S、G、E、R、Q、Y又はKである)を順不同に含む融合タンパク質であって、
リンカー配列をさらに順不同に含むことができる融合タンパク質、
(3)VDRのビタミンD結合ドメインを少なくとも1個、及び
LucC又はLucNを順不同に含む融合タンパク質であって、
リンカー配列をさらに順不同に含むことができる融合タンパク質。
【0021】
ルシフェラーゼは、基質となる物質(ルシフェリンと総称される)を酸化する酵素であり、酸化反応時に生じるエネルギーの一部を発光として放出しており、その起源の違いで、種々の酵素が知られている。本発明では、基質となる物質を酸化してルシフェリンを生成する酵素であれば、特に制限なく種々のルシフェラーゼを用いることができる。ルシフェラーゼとしては、例えば、ホタルルシフェラーゼ、クリックビートルルシフェラーゼ、エメラルドルシフェラーゼ、ウミシイタケルシフェラーゼ、ウミホタルルシフェラーゼ、及びガウシアルシフェラーゼルシフェラーゼ、トゲオキヒオドシエビ[Oplophorus gracilirostris](深海エビ)ルシフェラーゼ及びトゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体から成る群から選ばれるルシフェラーゼを挙げることができる。ホタルルシフェラーゼとクリックビートルルシフェラーゼの基質はホタルルシフェリンであり、ウミシイタケルシフェラーゼ、ウミホタルルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼ及びトゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの基質は、セレンテラジンである。トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体の基質はFurimazine(フリマジン)である。
【0022】
本発明の融合タンパク質においては、ルシフェラーゼは、N端ドメインLucNとC端ドメインLucCに分割される。
融合タンパク質(1)では、LucNとLucCの間に、LXLL配列、リンカー配列、及びVDRのビタミンD結合ドメインを少なくとも1個を含む。
融合タンパク質(2)は、LucN又はLucC、及びLXLL配列を少なくとも含む融合タンパク質である。
融合タンパク質(3)は、VDRのビタミンD結合ドメインを少なくとも1個、及びLucC又はLucNを少なくとも含む融合タンパク質である。
【0023】
ルシフェラーゼのN端ドメインとC端ドメインへの分割の箇所は、VDRのビタミンD結合ドメインに結合性の物質としてVDRアゴニストが結合し、続いてLXLL配列と相互作用した場合には、ルシフェラーゼのN端ドメインとC端ドメインが再構成されて、ルシフェラーゼの酵素活性を示すことを可能にすることを考慮して決定される。
【0024】
ルシフェラーゼが、ホタルルシフェラーゼの場合、アミノ酸配列は、配列表の配列番号36で示され(塩基配列は、配列表の配列番号35で示される)、N端ドメインは、1番から415番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、416番から550番までのアミノ酸配列を有する。N端ドメインが1番から415番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインが416番から550番までのアミノ酸配列を有する場合、VDRのビタミンD結合ドメインに結合性の物質が結合し、続いて、LXLL配列と相互作用した場合には、ルシフェラーゼのN端ドメインとC端ドメインが再構成されてルシフェラーゼの酵素活性を示す。但し、N端ドメインとC端ドメインの切断部位がアミノ酸配列の415番と416番の間ではなく、切断箇所が415~500の間であれば同様の機能を有することができる。例えば、以下の参考文献Aでは、ルシフェラーゼのN末部位とC末部位の切断部位を様々な場所に設定し、発光能について検証している。415番と416番目以外の部位で切断しても発光能は維持されていることが示されている。参考文献Aでは415と416の間以外に420と421の間、437と438の間、445と446の間、455と456の間、475と476の間、500と501の間でも活性が検出されている。
【0025】
参考文献A:FireflyLuciferase Enzyme Fragment Complementation for Imaging in Cells and Living Animals.Anal.Chem. 2005, 77, 1295-1302
【0026】
ルシフェラーゼが、ウミシイタケルシフェラーゼの場合、アミノ酸配列は、配列表の配列番号38で示され(塩基配列は、配列表の配列番号37で示される)、N端ドメインは、1番から229番までのアミノ酸配列を有し、C端ドメインは、230番から311番までのアミノ酸配列を有する。但し、ウミシイタケルシフェラーゼの場合も、ホタルルシフェラーゼの場合と同様に、N端ドメインとC端ドメインの切断部位は、229番と230番の間に限定されず、その他の部位での切断も可能である。
【0027】
ルシフェラーゼが、エメラルドルシフェラーゼの場合、アミノ酸配列は、配列表の配列番号40で示され(塩基配列は、配列表の配列番号39で示される)、N端ドメインは、1番からn番のアミノ酸配列を有し、C端ドメインはn+1番から542番までのアミノ酸配列を有し、nは388から422のいずれかの整数である。分割部位になるnは、388から422のいずれかである。N端ドメイン及びC端ドメインが、これらのいずれの部位で分割されたエメラルドルシフェラーゼである融合タンパクでは、VDRのビタミンD結合ドメインに結合性の物質が結合し、続いて、LXLL配列と相互作用した場合には、ルシフェラーゼのN端ドメインとC端ドメインが再構成されてルシフェラーゼの酵素活性を示す。
【0028】
ルシフェラーゼが、トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼの改変体(NLuc)の場合、NLucは配列表の配列番号104で示されるアミノ酸配列を有し、NLucのN端ドメインは、配列表の配列番号105で示されるアミノ酸配列を有し、NLucのC端ドメインは、配列表の配列番号106で示されるアミノ酸配列を有する。各配列を図47にも示す。配列表の配列番号105で示されるアミノ酸配列を有するNLucのN端ドメイン、及び配列表の配列番号106で示されるアミノ酸配列を有するNLucのC端ドメインは、それぞれPromega社からLgBiT及びSmBiTとして市販されている。LgBiTは、NLucの大きな断片であるLargeBiT (LgBiT)[18 KDa] であり、SmBiTは、NLucの小さなペプチド断片(11 アミノ酸)であるSmall BiT(SmBiT)である。LgBiTおよびSmBiTをそれぞれ標的タンパク質との融合タンパク質として発現させ、相互作用が起こるとLgBiTとSmBiTが再構成されて発光が復活する。NLucは、ホタルルシフェラーゼ(FLuc)と比べて、発光強度が約80~240倍高い。NLucに関しては以下の論文を参照できる。M.P. Hall, J. Unch, B.F. Binkowski, M.P. Valley, B.L. Butler, M.G.Wood, P. Otto, K. Zimmerman, G. Vidugiris, T. Machleidt, M.B. Robers, H.A.Benink, C.T. Eggers, M.R. Slater, P.L. Meisenheimer, D.H. Klaubert, F. Fan,L.P. Encell, K.V. Wood, Engineered luciferase reporter from a deep sea shrimputilizing a novel imidazopyrazinone substrate, ACS Chem Biol, 7 (2012)1848-1857.
【0029】
ルシフェラーゼが、トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼ(野生型)の場合、配列表の配列番号108で示されるアミノ酸配列(図48にも示す)を有し、N端ドメインおよびC端ドメインは、上記NLucの場合を参照して、適宜決定できる。トゲオキヒオドシエビルシフェラーゼ(野生型)に関しては、S.Inouye, K. Watanabe, H. Nakamura, O. Shimomura, Secretional luciferase of theluminous shrimp Oplophorus gracilirostris: cDNA cloning of a novelimidazopyrazinone luciferase (1), FEBS Lett, 481 (2000) 19-25を参照できる。
【0030】
融合タンパク質(1)は、LucN、少なくとも1個のVDR(以下単にVDRと表記する場合がある)及びLucCを順不同に含み、かつLXLL配列(以下LXXLL配列と表記することがある)及びリンカー配列の一方又は両方をさらに順不同に含む融合タンパク質である。LucN、VDR、及びLucCの順序はN末端側からLucN-VDR-LucCの順序であることが好ましいが、LucC-VDR-LucN、VDR-LucC-LucN、VDR-LucN-LucCの順であることもできる。LXXLL配列及びリンカー配列は、いずれか一方又は両方が、上記LucN、VDR、及びLucCのいずれかの間に挿入されているか、またはN末端側、及び/又はC末端側に追加されていても良い。LucN-VDR-LucCを例にすると、好ましくは、LucN-LXXLL-VDR-LucC及びLucN-LXXLL-VDR-LucC、LucN-LXXLL-リンカー-VDR-LucCであり、VDR-LucC-LucNを例にすると、好ましくは、VDR-LucC-LucN-LXXLL、VDR-LucC-リンカー-LucN-LXXLLなどである。
【0031】
融合タンパク質(2)は、LucN又はLucC、及びLXXLL配列を順不同に含むであって、リンカー配列をさらに順不同に含むことができる融合タンパク質である。好ましくはN末端側からLucN-LXXLL、LucN-リンカー-LXXLL、LXXLL-LucN、LucC-LXXLL、LXXLL-LucCなどである。
【0032】
融合タンパク質(3)は、少なくとも1個のVDR及びLucC又はLucNを順不同に含む融合タンパク質であって、リンカー配列をさらに順不同に含むことができる融合タンパク質である。好ましくはN末端側からVDR-LucC、LucN-VDR、LucC-VDR、LucN-VDR、VDR-リンカー-LucC、などである。
【0033】
融合タンパク質(1)及び(2)が有することができるLXLL配列は、転写共役因子内に存在するLXXLLモチーフと呼ばれる特異的な配列である。LXXLLモチーフは、リガンド結合型の受容体と結合し転写活性化を促進する共役因子群に見出されるリガンド結合ドメイン結合配列である。配列中のXは、M、W、T、S、E、V、R、Q、K、L又はHであり、Xは、N、T、S、G、E、R、Q、Y、又はKである。LXXLLモチーフを含むアミノ酸配列の例としては、例えば、NHPMLMNLLKDN、LSETHPLLWTLLSSTEGDSMおよびLTEMHPILTSLLQNGVDHVが報告されている(非特許文献5)。さらに、LXXLLモチーフを含むアミノ酸配列の例としては、以下の参考文献B~Dに記載されたLXXLLモチーフも例示でき、配列中のXが、S、E、V、R、Q、K、L又はHであるか、Xが、G、E、R、Q、Y、又はKであるLXXLLモチーフは、以下の参考文献B~Dに記載されたLXXLLモチーフである。LXXLL配列は、転写活性化因子由来の配列や人工的に合成された配列であり、配列ごとにLBDとの親和性は異なるので、各LXXLL配列を含む融合タンパク質により得られる発光強度を考慮して、適宜選択することができる。
【0034】
参考文献B:C.Rachez, M. Gamble, C.P. Chang, G.B. Atkins, M.A. Lazar, L.P. Freedman, The DRIPcomplex and SRC-1/p160 coactivators share similar nuclear receptor bindingdeterminants but constitute functionally distinct complexes, Mol Cell Biol, 20(2000) 2718-2726.
参考文献C:C.Chang, J.D. Norris, H. Gron, L.A. Paige, P.T. Hamilton, D.J. Kenan, D. Fowlkes,D.P. McDonnell, Dissection of the LXXLL nuclear receptor-coactivatorinteraction motif using combinatorial peptide libraries: discovery of peptideantagonists of estrogen receptors alpha and beta, Mol Cell Biol, 19 (1999)8226-8239.
参考文献D:B.He, E.M. Wilson, Electrostatic modulation in steroid receptor recruitment ofLXXLL and FXXLF motifs, Mol Cell Biol, 23 (2003) 2135-2150.
【0035】
融合タンパク質(1)~(3)に用いることができるリンカー配列は、例えば、GGGGS配列及びEAAAK配列を例示することができる。GGGGS配列は、自由度と柔軟性が高いリンカー配列として知られており、EAAAK配列は、自由度と柔軟性が低い配列が知られる(参考文献E:G. Li, Z. Huang, C. Zhang, B.J. Dong, R.H.Guo, H.W. Yue, L.T. Yan, X.H. Xing, Construction of a linker library withwidely controllable flexibility for fusion protein design, Applied microbiologyand biotechnology, 100 (2016) 215-225.)。本発明においてリンカー配列として用いる場合、GGGGS配列およびEAAAK配列は、これら配列をそれぞれ2~6回の繰り返し配列、またはGGGGSおよびEAAAKを複数個組み合わせた配列(順序は任意)を用いることができる。本発明においては、好ましくは(GGGGS)×3である。
【0036】
融合タンパク質(1)及び(3)が有するVDRは、標的細胞の核内に存在し、活性型ビタミンD3(1α,25(OH)2D3)と特異的に結合し、ビタミンD依存性タンパク質の遺伝子発現を誘導し、骨代謝、細胞分化・増殖、免疫機能の調節に重要な役割を担っている。VDRは、種々の哺乳動物に内在し、例えば、ヒト、マウス、ラット、サル及びウサギのVDRのアミノ酸配列及び塩基配列が知られている。
【0037】
ヒトVDRは、配列表の配列番号42で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から427番までのアミノ酸配列を有する。
【0038】
マウスVDRは、配列表の配列番号44で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から422番までのアミノ酸配列を有する。
【0039】
ラットVDRは、配列表の配列番号46で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から423番までのアミノ酸配列を有する。
【0040】
サルVDRは、配列表の配列番号47で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から434番までのアミノ酸配列を有する。
【0041】
イヌVDRは、配列表の配列番号48で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から427番までのアミノ酸配列を有する。
【0042】
ウシVDRは、配列表の配列番号49で示されるアミノ酸配列を有し、そのビタミンD結合ドメインは、121番から426番までのアミノ酸配列を有する。
【0043】
ビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列は変異を有することもできる。例えば、くる病患者に見られる変異は、ビタミンD結合領域に存在し、活性型ビタミンDと受容体の親和性を低下させるという報告がある。過去の報告によれば、ビタミンD結合領域内に存在するR274Lの変異は、ビタミンD受容体への親和性が健常者の約1/1000になると報告されている(非特許文献5)。
【0044】
くる病患者に見られる変異は、DNA結合領域またはビタミンD結合領域に存在するが、本研究ではビタミンD結合領域について着目しているため、ビタミンD結合領域内の変異について以下に示す。ヒトのビタミンD結合ドメインは、配列番号42に示され、そのビタミンD結合ドメインは、121番から427番までのアミノ酸配列を有する。
【0045】
T146I、R158C、C190W、L227P、L233S、ΔK246、F251C、Q259P、Q259E、L263R、I268T、R274L、R274H、W286R、H305Q、I314S、G319V、E329K、V346M、R391C、R391S、E420K、E420A
【0046】
これらの変異は、くる病患者に見られる変異であるが、活性型ビタミンDとの親和性を低下させる変異、また、活性型ビタミンDとの親和性は正常であるがビタミンD受容体と共因子(RXRタンパク質やその他の転写因子)との相互作用を阻害する変異、さらには、作用機序が不明な変異の3つに分けられる。作用機序が不明な変異については、それぞれの変異を入れたバイオセンサーを用いることで、活性型ビタミンDとの親和性を評価することができると考えられる。
【0047】
くる病患者に見られる変異について書かれた参考文献1~7を以下に示す。
参考文献1:The Unique Tryptophan Residue of the Vitamin D Receptor IsCritical for Ligand Binding and Transcriptional Activation. JOURNAL OF BONE ANDMINERAL RESEARCH Volume 16, Number 1, 2001 39-45
参考文献2:Novel Compound Heterozygous Mutations in the Vitamin D ReceptorGene in a Korean Girl with Hereditary Vitamin D Resistant Rickets. J Korean MedSci 2011; 26: 1111-1114
参考文献3:Crystal Structures of Hereditary Vitamin D-ResistantRickets-Associated Vitamin D Receptor Mutants R270L and W282R Bound to1,25-Dihydroxyvitamin D3 and Synthetic Ligands. J. Med. Chem. 2013, 56,6745-6760
参考文献4:Mutations in the vitamin D receptor and hereditary vitaminD-resistant rickets. BoneKEy Reports 3, Article number: 510. (2014) 1-11
参考文献5:Crystal structure of hereditary vitamin D-resistant rickets-Associatedmutant H305Q of vitamin D nuclear receptor bound to its natural ligand. Journalof Steroid Biochemistry & Molecular Biology 121 (2010) 84-87
参考文献6:Mutations in the Vitamin D Receptor Gene in Four Patients withHereditary 1,25-Dihydroxyvitamin D-Resistant Rickets. Arq Bras Endocrinol Metab2008;52/8 1244-1251
参考文献7:The Vitamin D Receptor and the Syndrome of Hereditary1,25-Dihydroxyvitamin D-Resistant Rickets. Endocrine Reviews 20(2): 156-1881999
【0048】
さらに、ビタミンD結合領域内の変異について、上記ヒトの場合との対比として、他の動物のビタミンD結合領域内の変異を以下の表に示す。表中、C190Wについての斜線は、C(Cys)が保存されていないことを意味する。
【0049】
【表1】
【0050】
本発明の融合タンパク質(1)は、ルシフェラーゼのN端ドメインをLucN、ルシフェラーゼのC端ドメインをLucC、VDRのビタミンD結合ドメインをLBD、LXLL配列をLXXLL、GGGGS配列をGGGGS(但し、GGGGS配列は2~6個連続した: (GGGGS)xN (N=2-6))であることもでき、以下では単にGGGGSと表示する)とそれぞれ表記すると、例えば、LucN-LBD-LucC 、LucN-GGGGS-LBD-LucC、LucN-LXXLL-LBD-LucC、LucN-LXXLL-GGGGS-LBD-LucC、LucC-LBD-LucN、LucC-GGGGS-LBD-LucN、LucC-LXXLL-LBD-LucN、LucC-LXXLL-GGGGS-LBD-LucN、LBD-LucC-LucN-LXXLL、LBD-LucC-GGGGS-LucN-LXXLL、又はLucN-LXXLL-LBD-LucCで表されるLBDを1個有する融合タンパク質であることができる。
【0051】
本発明の融合タンパク質(2)は、例えば、LucC-LXXLL、LucN-LXXLL、LXXLL- LucN、LXXLL-LucC、LucC-GGGGS-LXXLL、LucN-GGGGS-LXXLL、LXXLL-GGGGS-LucN、LXXLL-GGGGS-LucCで表される融合タンパク質であることができる。
【0052】
融合タンパク質(3)は、LBD-LucN、LBD-LucC、LucC-LBD、LucN-LBD 、LBD-GGGGS -LucN、LBD-GGGGS-LucC、LucC-GGGGS-LBD、LucN-GGGGS-LBDで表されるLBDを1個有する融合タンパク質であることができる。
【0053】
これに加えて、本発明の融合タンパク質(1)及び(3)は、ビタミンD結合ドメインを2個有することもできる。本発明の融合タンパク質(1)は、例えば、LucN-LXXLL-GGGGS-LBD-LBD-LucC、LucC-LXXLL-GGGGS-LBD-LBD-LucNという、LucN-LXXLL-GGGGS-とLucCの間、又はLucC-LXXLL-GGGGSとLucNの間に2個のLBDを有する構造であることもできる。さらに、例えば、LucN-LXXLL-GGGGS-LBD-LucC-LBD、LucC-LXXLL-GGGGS-LBD-LucN-LBD、LBD-LucC-LXXLL-GGGGS-LBD-LucN、LBD-LucN-LXXLL-GGGGS-LBD-LucCなどのようにいずれかの末端にLBDが存在する構造であることもできる。本発明の融合タンパク質(3)は、例えば、LBD-LBD-LucC、LBD-LBD-LucN、LBD-LucC-LBD、LBD-LucN-LBDであることもできる。さらに、2個以上のLBDを連結させる場合、同一種類の配列のLBDを連結させること、及び異なる種類の配列のLBDを連結させることができる。同一又は異なる種類の配列のLBDを連結させることで、活性型ビタミンD3結合後の発光の減少がより高くなる可能性、発光の変化が起きなくなる可能性、逆に、発光が増加する可能性がある。
【0054】
上記融合タンパク質(1)~(3)の例において、各配列の順序はこれらに限定される意図ではない。さらに、各アミノ酸配列の間は直接結合していても、1~5個の任意のアミノ酸、例えば、VD、GS、VE、RS、EF等が介在していてもよい。VD、GS、VE、RS、EF等は、クローニングの際に使用する制限酵素やリンカーの配列に起因して含まれる配列である。
【0055】
本発明の融合タンパク質(1)及び(2)がLXLL配列を有する場合、LXLL配列は、そのN末端側に挿入配列Aをさらに有し、C末端側に挿入配列Bをさらに有することができる。挿入配列Aは、アミノ酸数が1~20個、好ましくは3~10個、より好ましくは3~8個であることができる。挿入配列Bは、アミノ酸数が1~20個、好ましくは3~10個、より好ましくは3~7個であることができる。これら2つの挿入配列を有する配列、好ましい配列およびより好ましい配列は、それぞれ以下のように表記できる。
(A)1-20aa-LXLL(B)1-20aa
(A)3-10aa-LXLL(B)3-10aa
(A)3-8aa-LXLL(B)3-7aa
(A)は挿入配列Aを示し、1-20aaは、挿入配列Aのアミノ酸数が1~20個であることを示す。(B)は挿入配列Bを示す、1-20aaは、挿入配列Bのアミノ酸数が1~20個であることを示す。
【0056】
挿入配列A及びB中のアミノ酸は任意であるが、挿入配列Aについては、例えば、前記非特許文献5に例示された「NHPMLMNLLKDN」(配列番号50)中の「NHPM」であり、「LSETHPLLWTLLSSTEGDSM」(配列番号51)中の「LSETHPL」であり、「LTEMHPILTSLLQNGVDHV」(配列番号52)中の「LTEMHPI」であることができる。さらに挿入配列Aは、例えば、図32に示すN11~N21、N25~N28、N31、N32に含まれるLXLL配列とLgBitの間に位置する配列を例示できる。これらの挿入配列Aを有するLXLL配列は参考文献B~Dに記載されている。但し、LgBitに直接隣接する2つのアミノ酸VDは、挿入配列A以外のアミノ酸であり、LgBiTとLXXLLをクローニングする際に使用する制限酵素やリンカーに起因して含まれる配列である。
【0057】
挿入配列中のアミノ酸は任意であるが、挿入配列Bについては、例えば、前記非特許文献5に例示された「NHPMLMNLLKDN」中の「KDN」であり、「LSETHPLLWTLLSSTEGDSM」中の「SSTEGDSM」であり、「LTEMHPILTSLLQNGVDHV」中の「QNGVDHV」であることができる。さらに挿入配列Bは、例えば、図32に示すN11~N21に含まれるLXLL配列のLgBitから遠い側(C 末端側)に位置する配列を例示できる。例えば、N11であれば、「MESQWGA」である。これらの挿入配列Bを有するLXLL配列は参考文献B~Dに記載されている。
【0058】
N11~N21に記載された挿入配列A及びBを有するLXLL配列(LX1X2LL配列関連配列)を以下に示す。HVEMHPLLMGLLMESQWGA (N11、配列番号109)、DAASKHKQLSELLRGGSGSS(N12、配列番号110)、GHEPLTLLERLLMDDKQAV (N13、配列番号111)、KVSQNPILTSLLQITGNGG (N14、配列番号112)、YSQTSHKLVQLLTTTAEQQ (N15、配列番号113)、ESKDHQLLRYLLDKDEKDL (N16、配列番号114)、QAQQKSLLQQLLTE (N17、配列番号115)、EAEEPSLLKKLLLAPANTQ (N18、配列番号116)、LPYEGSLLLKLLRAPVEEV (N19、配列番号117)、HVYQHPLLLSLLSSEHESG (N20、配列番号118)、HKILHRLLQEG (N21、配列番号119)
【0059】
挿入配列A及びBを有するLXLL配列を(A)LXXLL(B)と表示すると、融合タンパク質(1)は、LBDを1個有する場合、例えば、LucN-(A)LXXLL(B)-LBD-LucC、LucN-(A)LXXLL(B)-GGGGS-LBD-LucC、LucC-(A)LXXLL(B)-LBD-LucN、LucC-(A)LXXLL(B)-GGGGS-LBD-LucN、LBD-LucC-LucN-(A)LXXLL(B)、LBD-LucC-GGGGS-LucN-(A)-LXXLL(B)、又はLucN-(A)LXXLL(B)-LBD-LucCで表される。融合タンパク質(2)は、例えば、LucC-(A)LXXLL(B)、LucN-(A)LXXLL(B)、(A)LXXLL(B)-LucN、(A)LXXLL(B)-LucC、LucC-GGGGS-(A)LXXLL(B)、LucN-GGGGS-(A)LXXLL(B)、(A)LXXLL(B)-GGGGS-LucN、(A)LXXLL(B)-GGGGS-LucCで表される。
【0060】
さらに本発明の融合タンパク質(1)~(3)は何れもN末端側にn個(例えば、n=3-10)のHisタグを有することができる。
【0061】
本発明は、上記本発明の融合タンパク質(1)~(3)のいずれか1つのアミノ酸配列をコードするDNAを包含する。本発明の融合タンパク質(1)~(3)のアミノ酸配列をコードするDNAは、ルシフェラーゼのN端ドメインのアミノ酸配列をコードするDNA、LXLL配列をコードするDNA、リンカー配列をコードするDNA、ビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列をコードするDNA、及びルシフェラーゼのC端ドメインのアミノ酸配列をコードするDNAのいずれか、さらには必要により挿入配列A及びBをそれぞれ適宜常法により連結することで調製できる。
【0062】
本発明は、任意のベクターに、上記本発明の融合タンパク質(1)~(3)のいずれか1つのアミノ酸配列をコードするDNAを含有するプラスミドを包含する。好ましくは、本発明の融合タンパク質(1)のアミノ酸配列をコードするDNAを含有するプラスミド及び本発明の融合タンパク質(2)及び(3)のアミノ酸配列をコードするDNAを含有するプラスミドを包含する。本プラスミドを構成するベクターは任意であり、本プラスミドを導入して形質転換させる細胞に応じて適宜選択できる。尚、プラスミドは、細胞内において本発明の融合タンパク質を恒常的かつ高発現させることが好ましいため、例えば、SV40、CMV、CAGプロモーター等のようなプロモーターを含む物が望ましい。
【0063】
本発明の融合タンパク質(1)~(3)は、本発明の融合タンパク質(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAを含有するプラスミドを導入した細胞(形質転換体)で発現させることで調製できる。DNAの細胞への導入(形質転換)及び形質転換体におけるタンパク質の発現は常法により適宜実施できる。本発明の融合タンパク質は、本発明の融合タンパク質(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAを用いて、in vitroでのタンパク質合成方法により合成することもできる。invitroでのタンパク質合成は、市販のキットを用いて行うことができ、市販のキットとしては、例えば、TNTSP6 High-Yield Wheat GermProtein Expression System (Promega)を挙げることができる。但し、このキットに限定される意図ではなく、例えば、TNT SP6 Coupled Wheat Germ Extract System(Promega)やTNT SP6 Coupled Reticulocyte Lysate System(Promega)なども利用できる。
【0064】
本発明のプラスミドを導入した細胞は、プラスミドDNAを細胞内に入れることができるものであれば、接着性でも付着生を問わず使用できる。具体的には、哺乳動物および昆虫由来の細胞(NIH3T3細胞、PC12細胞、HEK293細胞、COS-7細胞、CHO細胞、HeLa細胞、Sf-9細胞、S2細胞)等を使用することができる。特に、哺乳動物由来の細胞であることで、細胞膜を透過できる物質であって、哺乳動物におけるVDRに結合性を有する物質のスクリーニングに用いるという観点で好ましい。同様に、その他の動物におけるVDRに結合性を有する物質のスクリーニングに用いる場合には、その動物由来の細胞にプラスミドを導入した細胞を用いることが好ましい。
【0065】
<スクリーニング方法(細胞内)>
本発明は、VDRに結合性を示す物質の細胞内スクリーニング方法を包含する。本発明のスクリーニング方法は、本発明のプラスミドを導入した細胞を、形質転換細胞にDNAが含有されるルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素、並びに候補物質の共存下で培養し、培養中及び/又は培養後に発光を測定し、発光に基づいて前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択することを含む。
【0066】
本発明のプラスミドは、本発明の融合タンパク質(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列をコードするDNAを含有するプラスミドであるが、より具体的には、融合タンパク質は、融合タンパク質(1)であるか、又は融合タンパク質(2)及び融合タンパク質(3)である。但し、融合タンパク質(2)がLucNを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucCを含み、融合タンパク質(2)がLucCを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucNを含む。これら融合タンパク質のアミノ酸配列をコードするDNAを含有するプラスミドを導入した細胞を用いる。
【0067】
本発明のプラスミドを導入した細胞は、形質転換細胞にDNAが含有されるルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素、並びに候補物質の共存下で培養する。形質転換細胞にDNAが含有されるルシフェラーゼの基質は、ルシフェラーゼの種類に応じて適宜選択できる。ルシフェラーゼが、ホタルルシフェラーゼ、クリックビートルルシフェラーゼおよびエメラルドルシフェラーゼの場合、基質はホタルルシフェリンであり、ウミシイタケルシフェラーゼ、ウミホタルルシフェラーゼ、ガウシアルシフェラーゼの場合、基質は、セレンテラジンである。
【0068】
候補物質は、限定される物ではなく、VDRに対する結合性を評価すべき化合物であれば、制限はない。例えば、ステロイド骨格を有する化合物を挙げることができる。ステロイド骨格を有する化合物以外に、脂肪酸類、脂溶性ビタミン類、又はポリフェノール類なども候補物質となり得る。但し、これらの物質に限定される意図ではない。
【0069】
細胞の培養は、細胞の種類に応じて適宜決定できる。哺乳動物細胞を用いる場合には、常法に従い、細胞をシャーレ等に播種し、無血清培地あるいはウシ胎児血清を5~10%含む市販の基本培地(MEM、DMEMなど)中で、5%CO2存在下、37℃でインキュベートすることにより、培養することができる。
【0070】
細胞の培養中及び/又は培養後に発光を測定する。測定した発に基づいて前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択する。発光の測定は、例えば、マイクロプレートリーダーを用いて行うことができる。但し、これに限定される意図ではなく、既存の発光測定方法及び装置を適宜使用できる。
【0071】
本発明のプラスミドを導入した細胞は、プラスミドが本発明の融合タンパク質(1)のアミノ酸配列をコードするDNAを含有する場合には、細胞内で本発明の融合タンパク質(1)を発現し、この融合タンパク質は、図3に示すように、VDRに対する結合性を有する物質(アゴニスト)の存在下においてはN端ドメインとC端ドメインの距離が近くなり、ルシフェラーゼ活性を発揮し、ルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素が存在する場合には発光を示す。
【0072】
また、プラスミドが本発明の融合タンパク質(2)及び(3)のアミノ酸配列をコードするDNAを含有する場合には、細胞内で本発明の融合タンパク質(2)及び(3)(但し、融合タンパク質(2)がLucNを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucCを含み、融合タンパク質(2)がLucCを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucNを含む)を発現し、これら2つの融合タンパク質は、VDRに対する結合性を有する物質(アゴニスト)の存在下においてはN端ドメインとC端ドメインの距離が近くなり、ルシフェラーゼ活性を発揮し、ルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素が存在する場合には発光を示す。
【0073】
本発明の融合タンパク質を発現させた細胞にアゴニスト(活性型ビタミンDやその誘導体類)を投与すると、発光が生じることから、発光はアゴニストがビタミンD結合領域に結合と考えられる。従って、スクリーニングの結果、発光を生じる物質があった場合、その化合物はアゴニストの候補になる。実施例においては、ステロイド骨格を有するアゴニストについての結果を示す。しかし、ステロイド骨格を持たない化合物においても、結合性を示す物質が存在する可能性はある。
【0074】
下記に示した構造を見ると、ステロイド骨格を有する化合物の例を示す。これらの中で、実施例に示すように、VD3やVD2は発光の増加を起こさないが、OH基が1つ(25(OH)D3、25(OH)D2)または2つ(1α,25(OH)2D3、1α,25(OH)2D2)付くだけで、著しく発光の増加を起こす。このことから、構造が似ていても発光が増加しない(ビタミンD結合領域に結合しない)場合もあるが、逆に構造がかなり異なっていても結合できる場合もあることから、本発明のスクリーニング方法により、新規のVDRリガンドが見出される可能性は高い。
【0075】
【化1】
【0076】
<スクリーニング方法(in vitro)>
本発明は、VDRに結合性を示す物質のスクリーニング方法であって、スクリーニングに細胞を用いないin vitroスクリーニング方法も包含する。本発明のin vitroスクリーニング方法は、本発明の融合タンパク質(1)又は(2)及び(3)を、ルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素、並びに候補物質の共存下で作用させて、作用中及び/又は作用後に発光を測定し、発光に基づいて前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択することを含む。
【0077】
本発明のin vitroスクリーニング方法は、本発明のプラスミドを導入した細胞を培養する代りに、本発明の融合タンパク質を用い、融合タンパク質を作用させること以外は、前記本発明の細胞内スクリーニング方法と同様に実施できる。尚、融合タンパク質(2)がLucNを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucCを含み、融合タンパク質(2)がLucCを含む場合は、融合タンパク質(3)はLucNを含むことも同様である。融合タンパク質を作用させる条件は、融合タンパク質が含有するルシフェラーゼの種類に応じて、ルシフェラーゼの活性に適した条件から、適宜選択することができる。融合タンパク質を用いるin vitroスクリーニング方法の方が、細胞の培養が不要なため、アッセイに要する時間は短時間になる。
【0078】
融合タンパク質の作用中及び/又は作用後に発光を測定する。測定した発光に基づいて、前記候補物質のVDRに対する結合性を評価して、VDRに結合性を示す物質を選択する。発光の測定は、例えば、マイクロプレートリーダーを用いて行うことができる。但し、これに限定される意図ではなく、既存の発光測定方法及び装置を適宜使用できる。
【0079】
本発明の融合タンパク質は、VDRに対する結合性を有する物質(アゴニスト)の存在下においてはN端ドメインとC端ドメインの距離が近くなり、ルシフェラーゼ活性を発揮し、ルシフェラーゼの基質、Mg2+、ATP及び酸素が存在する場合には発光を示す(図3及び4参照))。これらのメカニズムは、前記で説明した細胞を用いる場合と実質的に同じである。
【0080】
本発明の細胞内スクリーニング方法においては、前記形質転換細胞に導入されたプラスミドが含有するビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列をコードするDNAが、前記ビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列が変異を有するものであることができる。本発明のin vitroスクリーニング方法においては、前記融合タンパク質が含有するビタミンD結合ドメインのアミノ酸配列が変異を有するものであることができる。ビタミンD結合ドメインに変異を有する融合タンパク質を発現させ、これに基づく発光を計測することで、前記アミノ酸配列の変異と疾患との関係から、前記疾患に関与する変異を有するビタミンD結合ドメインに特異的に結合する候補物質をスクリーニングすることもできる。
【0081】
例えば、くる病患者に見られる変異は、ビタミンD結合領域に存在し、活性型ビタミンDと受容体の親和性を低下させるという報告がある。過去の報告によれば、ビタミンD結合領域内に存在するR274Lの変異は、ビタミンD受容体への親和性が健常者の約1/1000になると報告されている。このような変異を持つタイプのバイオセンサー(LucC-LXXLL-GGGGS-LBD-LucN R274L)を用いて化合物スクリーニングを行い、もし、発光する化合物がヒットすれば、変異を持っていても受容体に結合する化合物であるという解釈ができる。くる病患者に効く治療薬開発のための化合物スクリーニングとして使うことができる。
【実施例
【0082】
以下、本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。但し、実施例は本発明の例示であって、本発明は実施例に限定される意図ではない。
【0083】
例1 ヒトVDR(hVDR)遺伝子のクローニング
ヒト急性単球性白血病由来のTHP-1細胞からtRNAを抽出し、逆転写して合成したcDNAを鋳型とし、プライマー1および2(配列番号1および2)を用い、PCRによってヒトVDRを増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃1分、30サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、 KOD-plus neo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。PCR産物 1μLを1%アガロースゲルにより電気泳動した結果、目的の位置(約1.3 kb)に特異的な増幅が認められた(以下、1% アガロースゲルでの電気泳動は、単に電気泳動と略称する)。電気泳動による目的断片の増幅確認後、Zero blunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen)の取り扱い説明書に従い、PCR産物をpCR Blunt II-TOPO ベクターにクローニングし、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン 30μg/mLを含むLB寒天培地(ポリペプトン 10 g、イーストエキストラクト 5 g、NaCl 5 gおよび寒天15gを蒸留水1 Lに溶解)に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、プラスミド濃度を260 nmの吸光度を用いて測定し、鋳型DNAとした。サイクルシークエンス反応は、BigDye Terminator v3.1Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用いて行った。配列解析の結果、hVDRをコードする遺伝子であることが確認できた。このプラスミドをpCR-BluntII-TOPO-hVDRと命名した。
【0084】
配列番号1:
5’-AATTCTCGAGATGGAGGCAATGGCGGCCAGCACTTC-3’
配列番号2:
5’-ATATGCGGCCGCTCAGGAGATCTCATTGCCAAACAC-3’
【0085】
例2 LucN-LBD-LucC遺伝子の作製
例1で作製したpCR-Blunt II-TOPO-hVDRを鋳型とし、プライマー3および4(配列番号3および4)を用い、PCRによってhVDRのLBD(リガンド結合領域121-427 aa)を増幅した。また、Luc2(ホタルルシフェラーゼ)をコードするpGL4.31(Promega)ベクターを鋳型にし、プライマー5および6(配列番号5および6)、プライマー7および8(配列番号7および8)を用い、LucN(Luc21-1246 bp)、LucC(Luc2 1247-1650bp)をPCRでそれぞれ増幅した。PCRは反応2(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 30秒、30サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2 U、10 xPCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。各PCR産物(LucN、LBD、LucC)1μLを電気泳動で増幅確認後、PCR産物各20 ngを混合したものと、プライマー5および8(配列番号5および8)を用い、オーバーラップPCR法によってLucN、LBD、LucCを連結した。PCRは反応3(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃1分30秒、30サイクル;PCR産物各 20 ng、MgSO41.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plusneo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。)PCR産物を電気泳動し、目的の位置(約2.2 kb)に特異的な増幅が認められた。PCR産物は、上述の方法により、pCR-Blunt II-TOPOベクターにクローニングし、シークエンス解析後のプラスミドDNAをpCR-Blunt II-TOPO-LucN-LBD-LucCと命名した。
【0086】
配列番号3:
5’-TACAAACGCTCTCATCGACAAGGACCGGCCCAAGCTGTCTGAGGAGCAGC-3’
配列番号4:
5’-CGATGTCGCCGCTGTGCAGCCAGCCGGAGATCTCATTGCCAAACACTTCG-3’
配列番号5:
5’-AATTCTCGAGATGGAAGATGCCAAAAACATTAAG-3’
配列番号6:
5’-GCTGCTCCTCAGACAGCTTGGGCCGGTCCTTGTCGATGAGAGCGTTTGTA-3’
配列番号7:
5’-CGAAGTGTTTGGCAATGAGATCTCCGGCTGGCTGCACAGCGGCGACATCG-3’
配列番号8:
5’-ATATGCGGCCGCTTACACGGCGATCTTGCCGCCCTTCTTG-3’
【0087】
例3 LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucC遺伝子の作製
例2で作製したpCR-Blunt II-TOPO-LucN-LBD-LucCを鋳型とし、プライマー9および10(配列番号9および10)を用い、inverse PCRによってLucNとLBDの間に(GGGGS)×3リンカー配列を付加する直鎖状のDNA断片を得た。Inverse PCRには、TOYOBO社のKOD-plus mutagenesis kitを用いた。Inverse PCRは反応5(94℃ 2分後、98℃ 10秒、68℃ 6分、12サイクル;鋳型DNA10 ng、dNTPs 0.2 mM、KOD-plus DNApolymerase(TOYOBO)0.2 U、10 x Buffer for iPCR、プライマー各 0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。PCR産物1μLをアガロースゲル電気泳動で約6 kbpの増幅産物を確認後、PCR産物10μLに5Uの制限酵素DpnIを加え、37℃で2時間の反応を行うことで、メチル化されている鋳型DNAを消化した。DpnI処理を行った反応液1μL、T4 Polynucleotide Kinase 2.5 U、Ligation high 2.5μL、滅菌蒸留水3.5μLを混合し、Total volumeを7.5μLとして、16℃で1時間のライゲーション反応を行った。塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン 30μg/mLを含むLB寒天培地(ポリペプトン 10 g、イーストエキストラクト 5 g、NaCl 5 gおよび寒天15gを蒸留水1 Lに溶解)に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、プラスミド濃度を260 nmの吸光度を用いて測定した。得られたプラスミドDNAはシークエンス解析後pCR-Blunt II-TOPO-LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCと命名した。
【0088】
配列番号 9:
5’-GGAGGTAGCGGTGGCGGTGGTAGTCTGCCCCACCTGGCTGACCTGGTCAG-3’
配列番号10:
5’-CCCTCCACTACCCCCACCTCCGTCCTTGTCGATGAGAGCGTTTGTAGCC-3’
【0089】
例4 LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN- VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucC遺伝子の作製
例3で作製したpCR-Blunt II-TOPO-LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCを鋳型とし、プライマー11および12(配列番号11および12)、プライマー13および14(配列番号13および14)、プライマー15および16(配列番号15および16)を用い、inversePCRによってLucNと(GGGGS)×3リンカー配列の間にLXXLL配列(アミノ酸配列NHPMLMNLLKDN、VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSMおよびVDLTEMHPILTSLLQNGVDHV)を付加した直鎖状のDNA断片をそれぞれ得た。Inverse PCRは反応5(94℃2分後、98℃ 10秒、68℃ 6分、12サイクル;鋳型DNA 10 ng、dNTPs0.2 mM、KOD-plus DNA polymerase(TOYOBO)0.2 U、10 x Buffer for iPCR、プライマー各 0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。PCR産物1μLをアガロースゲル電気泳動で約6 kbpの増幅産物を確認後、PCR産物10μLに5 Uの制限酵素DpnIを加え、37℃で2時間の反応を行うことで、メチル化された鋳型DNAを消化した。DpnI処理を行った反応液1μL、T4 Polynucleotide Kinase 2.5 U、Ligation high 2.5μL、滅菌蒸留水3.5μLを混合し、Total volumeを7.5μLとして、16℃で1時間のライゲーション反応を行った。得られたプラスミドDNAはシークエンス解析後pCR-BluntII-TOPO-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pCR-Blunt II-TOPO-LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pCR-Blunt II-TOPO-LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucCとそれぞれ命名した。
【0090】
配列番号11:
5’-CATGAGCATCGGGTGGTTGTCCTTGTCGATGAGAGCGTTTGTAGC-3’
配列番号12:
5’-AACCTTCTTAAAGATAATGGAGGTGGGGGTAGTGGAGGGGGAGG-3’
配列番号13:
5’-ACAAGCCTTCTTCAGAATGGAGTTGACCATGTGGGAGGTGGGGGTAGTGGAGGGGGAGG-3’
配列番号14:
5’-GAGGATCGGGTGCATCTCTGTGAGGTCGACGTCCTTGTCGATGAGAGCGTTTGTAG-3’
配列番号15:
5’-TGGACACTTCTTAGCAGCGAAGGGGACAGCATGGGAGGTGGGGGTAGTGGAGGGGGAGG-3’
配列番号16:
5’-AAGAAGCGGGTGTGTCTCGCTGAGGTCGACGTCCTTGTCGATGAGAGCGTTTGTAG-3’
【0091】
例5 哺乳動物細胞でLucN-LBD-LucC、LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを発現させるためのベクターの作製
例2、3および4で作製したpCR-Blunt II-TOPO-LucN-LBD-LucC、pCR-BluntII-TOPO-LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pCR-Blunt II-TOPO-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pCR-Blunt II-TOPO-LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびpCR-Blunt II-TOPO-LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucCプラスミドDNA各約1μgを各3 Uの制限酵素XhoI、SphIおよびNotIで処理(37℃、1時間)し、電気泳動を行った。目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出しQIAquick Gel ExtractionKit(QIAGEN)を用いて精製し、インサート断片(LucN-LBD-LucC、LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucC)とした。哺乳動物細胞で発現させるためのpEBMulti-neoベクター(Wako)およびpIRES2-AcGFPベクター約1μgを各3 Uの制限酵素XhoIおよびNotIで処理(37℃、1時間)後、Calf Intestinal AlkalinePhosphatase(TaKaRa)で切断末端を脱リン酸化処理し、エタノール沈殿によって精製したものをベクター断片とした。インサート断片とベクター断片はモル比が3:1~10:1程度になるように混合し、等量のLigation High Ver.2(TOYOBO)を加え、16℃、1時間の反応を行った。その後、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン 30μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、その一部を1 Uの制限酵素XhoIとNotIで処理し、電気泳動によってインサートの導入を確認した。得られたプラスミドDNAを、それぞれpEBMulti-neo-LucN-LBD-LucC、pIRES2-LucN-LBD-LucC、pEBMulti-neo-LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pEBMulti-neo-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pEBMulti-neo-LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pEBMulti-neo-LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucCと命名した。
【0092】
例6 哺乳動物細胞でLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCバイオセンサーを発現させるためのベクターの作製
例4で作製したpCR-Blunt II-TOPO-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCプラスミドDNAを鋳型とし、プライマー17および18(配列番号17および18)を用い、PCRによってVDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC断片を増幅した。PCRは、反応6(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 1分、30サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase(TOYOBO) 0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。PCR産物を電気泳動し、目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出しQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。PCR断片VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCは3 Uの制限酵素SalIおよびNotIで処理(37℃、1時間)した後、エタノール沈殿により精製し、これをインサート断片とした。また、pIRES2-LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucCベクター約1μgを各3 Uの制限酵素SalIおよびNotIで処理(37℃、1時間)後、CalfIntestinal Alkaline Phosphatase(TaKaRa)で切断末端を脱リン酸化処理し、エタノール沈殿によって精製したものをベクター断片とした。インサート断片とベクター断片はモル比が3:1~10:1程度になるように混合し、等量のLigation High Ver.2(TOYOBO)を加え、16℃、1時間の反応を行った。その後、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン 30μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、その一部を1 Uの制限酵素XhoIとNotIで処理し、電気泳動によってインサートの導入を確認した。得られたプラスミドDNAを、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCと命名した。また、バイオセンサー内のLBDにR274L型変異を有するLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274)-LucCバイオセンサーを作製するために、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCを鋳型とし、プライマー19および20(配列番号19および20)を用いてPCRを行った。PCRは、反応7(94℃ 2分後、98℃ 10秒、60℃30秒、68℃ 3分30秒、16サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO41.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plusneo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2 U、10 x PCR Buffer for KODplus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量20μLの条件で行った。PCR産物に、制限酵素DpnI 5 Uを加えて37℃で3時間処理後、エタノール沈殿により精製し、5μLの超純水に溶解した。その後、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン 30μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、得られたプラスミドDNAはシークエンスにより配列を確認後、例5と同様の方法で、pIRES2-AcGFP ベクターのXhoIとNotIサイトにそれぞれクローニングし、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCと命名した。
【0093】
配列番号17:
5’-ATAGTCGACAACCACCCGATGCTCATGAACCTTC-3’
配列番号18:
5’-ATATGCGGCCGCTTACACGGCGATCTTGCCGCCCTTCTTG-3’
配列番号19:
5’-CATCATGTTGCTCTCCAATGAGTCCTTCAC-3’
配列番号20:
5’-ACTCATTGGAGAGCAACATGATGACCTCAATG-3’
【0094】
例7 LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215)-LucCバイオセンサーの作製
VDR(1-427 aa)の結晶構造解析には、安定性の理由から50アミノ酸(165-215 aa)を欠失させたものが用いられる(参考文献E)。そこで、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCを鋳型とし、プライマー21および22(配列番号21および22)を用い、inverse PCRによってLBD内の165-215aaを欠失させたDNA断片を得た。Inverse PCRは反応8(94℃ 2分後、98℃ 10秒、68℃ 7分、12サイクル;鋳型DNA10 ng、dNTPs 0.2 mM、KOD-plus DNApolymerase(TOYOBO)0.2 U、10 x Buffer for iPCR、プライマー各 0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。PCR産物1μLをアガロースゲル電気泳動で約6 kbpの増幅産物を確認後、PCR産物10μLに5 Uの制限酵素DpnIを加え、37℃で2時間の反応を行うことで、メチル化されている鋳型DNAを消化した。DpnI処理を行った反応液1μL、T4 Polynucleotide Kinase 2.5 U、Ligation high 2.5μL、滅菌蒸留水3.5μLを混合し、Total volumeを7.5μLとして、16℃で1時間のライゲーション反応を行った。得られたプラスミドDNAはシークエンス解析後pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucCと命名した。
【0095】
配列番号 21:
5’-TCTGTGACCCTAGAGCTGTCCCAGC-3’
配列番号22:
5’-CCCTCCACCATCATTCACACGAAC-3’
参考文献E:N. Rochel, J.M. Wurtz, A. Mitschler, B.Klaholz, D. Moras, The crystal structure of the nuclear receptor for vitamin Dbound to its natural ligand, Molecular cell, 5 (2000) 173-179.
【0096】
例8 LucN-NHPMLMNLLKDN、LucN-VDNHPMLMNLLKDN、LBD-LucCおよびLBD(R274L)-LucCバイオセンサーの作製
例5および6で作製したpIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびpIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCを鋳型とし、プライマー23および24(配列番号23および24)、プライマー25および26(配列番号25および26)を用い、PCRによってLucN-NHPMLMNLLKDN、LucN-VDNHPMLMNLLKDN 、LBD-LucCおよびLBD(R274L)-LucC断片をそれぞれ増幅した。PCRは、反応9(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 50秒、30サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase(TOYOBO)0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plusneo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10μLの条件で行った。PCR産物を電気泳動し、目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出しQIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。PCR断片LucN-NHPMLMNLLKDN、LucN-VDNHPMLMNLLKDN、LBD-LucCおよびLBD(R274L)-LucCは3 Uの制限酵素XhoIおよびNotIで処理(37℃、1時間)した後、エタノール沈殿により精製し、これをインサート断片とした。例5で作製したベクター断片pIRES2-AcGFPのXhoI/NotIサイトにインサート断片(LucN-NHPMLMNLLKDN、LucN-VDNHPMLMNLLKDN、LBD-LucCおよびLBD(R274L)-LucC)をクローニングし、pIRES2-LucN-NHPMLMNLLKDN、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN、pIRES2-LBD-LucCおよびpIRES2-LBD(R274L)-LucCを最終産物として得た。バイオセンサーの構造については、図2に示した。
【0097】
配列番号 23:
5’-AATTCTCGAGATGGAAGATGCCAAAAACATTAAG-3’
配列番号24:
5’-ATATGCGGCCGCTAATTATCTTTAAGAAGGTTCATGAGC-3’
配列番号 25:
5’-ATCTCGAGATGCGGCCCAAGCTGTCTGAGGAGCAGCAG-3’
配列番号26:
5’-ATATGCGGCCGCTTACACGGCGATCTTGCCGCCCTTCTTG-3’
【0098】
例9 COS-7細胞への1分子型および2分子型バイオセンサーの遺伝子導入
アフリカミドリザルの腎臓由来のCOS-7細胞を10 % FBSを含むDMEM培地(フェノールレッド含有)に懸濁し、0.7~1.0×106個の細胞を10 cmの培養皿に播種した。その後、5 % CO2、37℃で24時間培養後、リポフェクション法でCOS-7細胞内に遺伝子導入を行った。作製した1分子型および2分子型バイオセンサーをコードするプラスミドDNA 各10μgを1 mlのOpti-MEM培地に懸濁し、DNA溶液とした。別のチューブに20μLのLipofectamine 2000 Transfection Reagent(Invitrogen)と1 mlのOpti-MEM培地を懸濁し、準備しておいたDNA溶液と混和させて室温で20分静置した後、細胞に滴下した。細胞は、5 % CO2、37℃で24時間培養した。
【0099】
例10 96ウェルプレートへのプレーティング
遺伝子導入してから24時間後、培地を除去し、1×PBSで細胞を洗浄した。細胞をトリプシン処理によって剥がし、15 mLのコニカルチューブに回収後、600 rpmで3分間の遠心分離を行った。上清を除去した後、10 % CS-FBS(ホルモン類非含有血清)を含むDMEM(フェノールレッド非含有培地)に懸濁した細胞を、1ウェルあたり1.5×104個の細胞数で播種し、5 % CO2、37℃で24時間培養した。
【0100】
例11 1分子型および2分子型バイオセンサー発現細胞におけるルシフェラーゼ発光測定
遺伝子導入してから48時間後、終濃度0.5 mM D-Luciferin Monosodium Salt(Thermo Scientific)を含むL-15培地(フェノールレッド非含有)に培地交換し、室温で30~60分静置した。VDRアゴニスト(25(OH)D3や1α,25(OH)2D3)投与前を0分とし、各ウェルにVDRアゴニストを投与してから経時的に発光測定を行った。VDRアゴニストの溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度0.1%とした。発光測定の機器には、マイクロプレートリーダーInfinite 200Pro(TECAN)を用いた。また、VDRアゴニスト投与後の1分子型および2分子型バイオセンサーの発光量変化の原理は図3および4に示した。尚、図3および4に記載のH12は、VDRに関連するヘリックスであり、その配列は、LBDの配列に包含されている領域であり配列番号41-49(図23~31)に含まれてている。H12は、リガンドがLBDのリガンド結合ポケットに結合した際に、構造変化が起こり、蓋のようにリガンドを包み込むような働きがある。また、H12は転写共役因子(コアクチベータ)の結合にも重要である。バイオセンサー中にH12が存在することで、リガンド結合後の構造変化が起こる際に、LucNおよびLucCの立体的な位置にも大きな影響を与えるため、発光変化にも関わるので重要である。
【0101】
例12 LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCまたはLucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを発現するCOS-7細胞におけるルシフェラーゼ発光測定
LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCまたはLucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを発現させたCOS-7細胞に100nM 1α,25(OH)2D3を添加してから120分間の発光の相対変化量を比較した。発光変化量は、100 nM 1α,25(OH)2D3添加後5, 10, 15, 30, 60, 90および120分時点での発光量を100 nM 1α,25(OH)2D3添加前0分の発光量で割り、さらに0.1% EtOH添加群の発光量で割って得られた値をプロットした。LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーは100 nM 1α,25(OH)2D3添加後の発光量が約40%減少したが(図5A)、LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーは発光量が約6倍増加した(図5B)。LucN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーのLBDに、1α,25(OH)2D3が結合すると、発光能を失う構造に変化するのに対し、LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーは、LBDの構造変化に加えて、LXXLL配列(NHPMLMNLLKDN)とLBD間の相互作用も含むため、この2つの構造変化が、発光能の復活に大きく寄与しているものと考えられる。従って、目的である1α,25(OH)2D3に応答して発光が増加するバイオセンサーの構築に成功した。以降の実験ではこのバイオセンサーを基に用いることとした。
【0102】
例13 LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの25(OH)D 3 および1α,25(OH) 2 D 3 応答性
LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを発現させたCOS-7細胞に様々な濃度(0-1000 nM)の25(OH)D3および1α,25(OH)2D3を添加し、90分後の相対発光変化量から濃度依存性を比較した。発光変化量は、25(OH)D3および1α,25(OH)2D3添加後90分時点での発光量を25(OH)D3および1α,25(OH)2D3添加前0分の発光量で割り、さらに0 nM添加群の発光量で割って得られた値をプロットした。その結果、25(OH)D3および1α,25(OH)2D3共に濃度依存的に発光が増加した。しかし、1α,25(OH)2D3は最大発光量に達する濃度が1nMであったのに対し、25(OH)D3は1000 nMを要した(図6)。この違いは、25(OH)D3と1α,25(OH)2D3の親和性の違いを反映しているものと考えられる。従って、LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーはVDRアゴニストの親和性の違いを評価可能である。
【0103】
例14 バイオセンサータンパク質を発現させるプロモーターの選択とLXXLL配列の最適化
本研究では、哺乳動物細胞発現系で用いる発現ベクターは、pEBMulti-neo、pIRES2-AcGFPベクターの2種類である。前者はCAGプロモーター、後者はCMVプロモーターによって遺伝子発現を誘導する。いずれのプロモーターも恒常的にタンパク質を発現することができ、VDRアゴニストの添加によって発現量は変化しない。例5で作製したプラスミドDNA(pEBMulti-neo-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS) ×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pEBMulti-neo- LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSM-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pEBMulti-neo-LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-VDLTEMHPILTSLLQNGVDHV-(GGGGS)×3-LBD-LucC)をそれぞれ発現させたCOS-7細胞に100 nM 1α,25(OH)2D3を添加し、90分後の発光量および相対発光変化量を比較した。その結果、各バイオセンサーをpIRES2-AcGFPにクローニングし、CMVプロモーター制御下で発現するプラスミドDNAのほうが発光量は高かった(図7A)。一方、相対発光変化量に関しては、pEBMulti-neoにクローニングし、CAGプロモーター制御下で発現するプラスミドDNAのほうが大きかった(図7B)。また、LXXLL配列は、NHPMLMNLLKDNおよびVDLTEMHPILTSLLQNGVDHVを用いた場合は約20-25倍の発光増加を示したが、VDLSETHPLLWTLLSSTEGDSMを用いた場合は、約10-15倍の発光増加であり、変化量がやや小さかった。以上のことから、プロモーターの違いはバイオセンサーの性能自体に大きな影響を与えないが、LXXLL配列の違いは発光変化量に影響を与えるものと考えられる。以降の実験では、pIRES2-AcGFPベクターにバイオセンサーをクローニングしたものを使用した。
【0104】
例15 LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの性能比較
LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーをそれぞれ発現させたCOS-7細胞に100 nM 1α,25(OH)2D3を添加し、60分後の相対発光変化量を比較した。その結果、どちらのバイオセンサーも発光量が約14倍増加し、有意な差は認められなかった(図8)。以上のことから、LucNとNHPMLMNLLKDNの間のSalIサイト(アミノ酸配列VD)はバイオセンサーの性能には影響しないことを示唆している。
【0105】
例16 2分子型LucN-NHPMLMNLLKDN+LBD-LucCバイオセンサーの1α,25(OH) 2 D 3 応答性
LucN-NHPMLMNLLKDNまたはLBD-LucCを単独、LucN-NHPMLMNLLKDNおよびLBD-LucCを共発現させたCOS-7細胞に100 nM 1α,25(OH)2D3を添加し、60分後の相対発光変化量を比較した。その結果、LucN-NHPMLMNLLKDNまたはLBD-LucCを単独で発現させたCOS-7細胞では、1α,25(OH)2D3を添加しても発光は検出出来なかった。これに対し、LucN-NHPMLMNLLKDNおよびLBD-LucCを共発現させたCOS-7細胞では、1α,25(OH)2D3に応答して発光が増加した(図9)。この発光増加は、バイオセンサータンパク質内のLXXLL配列とLBD間相互作用が生じる際に、LucNとLucCが再構成されて発光が復活したことを示唆している。
【0106】
例17 1分子型および2分子型バイオセンサーの1α,25(OH) 2 D 3 濃度依存性の比較
LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC単独、LucN-NHPMLMNLLKDNおよびLBD-LucCを共発現させたCOS-7細胞に様々な濃度(0-1000 nM)の1α,25(OH)2D3を添加し、60分後の相対発光変化量から濃度依存性を比較した。その結果、1分子型および2分子型バイオセンサー共に、1α,25(OH)2D3濃度依存的に発光量が増加し、濃度曲線もほぼ一致した(図10)。
【0107】
例18 LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD[Δ165-215 aa]-LucCバイオセンサーの1α,25(OH) 2 D 3 濃度依存性の比較
LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよびLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD[Δ165-215 aa]-LucCバイオセンサーを発現させたCOS-7細胞に様々な濃度(0-100 nM)の1α,25(OH)2D3を添加し、60分後の相対発光変化量から濃度依存性を比較した。その結果、どちらのバイオセンサーも濃度依存的に発光が増加したが、LBD内の50アミノ酸を欠失させたLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD[Δ165-215 aa]-LucCバイオセンサーのほうが発光変化量は大きかった。(図11)。
【0108】
例19 大腸菌でLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN、LBD-LucCおよびLBD(R274L)-LucCバイオセンサータンパク質を発現させるためのベクター作製
【0109】
バイオセンサータンパク質を大腸菌で発現させるために、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucC、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucC、pIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN 、pIRES2-LBD-LucCおよびpIRES2-LBD(R274L)-LucCプラスミドDNA各約1μgを各3 Uの制限酵素XhoIおよびNotIで処理(37℃、1時間)し、電気泳動を行った。目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出しQIAquick Gel ExtractionKit(QIAGEN)を用いて精製し、インサート断片(LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN、LBD-LucCおよびLBD(R274L)-LucC)とした。pET-11d(Novagen社)ベクターのNcoI/BamHIサイトに、プライマー27および28(配列番号27および28)各10μM、10×PNK buffer、1 mM ATP、1 U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて作製した2本鎖断片を組み込み、pET-11d-N-6×Hisベクターを作製した。pET-11d-N-6×HisベクターにNotIサイトを挿入するために、プライマー29および30(配列番号29および30)各10μM、10×PNK buffer、1 mM ATP、1 U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて作製した2本鎖断片をpET-11d-N-6×HisベクターのXhoIサイトに組み込み、pET-11d-N-6×His-XhoI/NotIベクターを作製した。6×Hisタグを含むタンパク質は、大腸菌内で封入体を形成する場合があり、6×HNやHATタグを用いるとこの問題を解決する場合がある。そこで、プライマー31および32(配列番号31および32)、プライマー33および34(配列番号33および34)を用いて6×HNタグ、HATタグをそれぞれ作製するためのinverse PCRを行った。Inverse PCRは反応5(94℃ 2分後、98℃ 10秒、68℃ 6分、12サイクル;鋳型DNA10 ng、dNTPs 0.2 mM、KOD-plus DNA polymerase (TOYOBO) 0.2 U、10 x Buffer for iPCR、プライマー各 0.3μM、最終液量10 μLの条件で行った。PCR産物1μLをアガロースゲル電気泳動で約6kbpの増幅産物を確認後、PCR産物10μLに5Uの制限酵素DpnIを加え、37℃で2時間の反応を行うことで、メチル化されている鋳型DNAを消化した。DpnI処理を行った反応液1μL、T4 Polynucleotide Kinase 2.5 U、Ligation high 2.5μL、滅菌蒸留水3.5μLを混合し、Total volumeを7.5μLとして、16℃で1時間のライゲーション反応を行った。得られたプラスミドDNAはシークエンス解析、pET-11d-N-6×HN-XhoI/NotIおよびpET-11d-N-HAT-XhoI/NotIベクターとした。pET-11d-N-6×HN-XhoI/NotIおよびpET-11d-N-HAT-XhoI/NotIベクター約1μgを各3 Uの制限酵素XhoIおよびNotIで処理(37℃、1時間)後、Calf Intestinal Alkaline Phosphatase(TaKaRa)で切断末端を脱リン酸化処理し、エタノール沈殿によって精製したものをベクター断片とした。インサート断片とベクター断片はモル比が3:1~10:1程度になるように混合し、等量のLigation High Ver.2(TOYOBO)を加え、16℃、1時間の反応を行った。その後、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、アンピシリン100μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、10 mLのLB液体培地(アンピシリン100μg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、その一部を1 Uの制限酵素XhoIとNotIで処理し、電気泳動によってインサートの導入を確認した。得られたプラスミドDNAを、それぞれ、pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucC、pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucC、pET-11d-N-HAT-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN、pET-11d-N-6×HN-LBD-LucCおよびpET-11d-N-6×HN-LBD(R274L)-LucCと命名した。
【0110】
配列番号 27:
5’-CATGCGCGGAAGCCATCACCATCACCATCACGGATCCCTCGAGAGGCCT-3’
配列番号28:
5’-GATCAGGCCTCTCGAGGGATCCGTGATGGTGATGGTGATGGCTTCCGCG-3’
配列番号 29:
5’-TCGAGGAATTCGCGGCCGCGTCGACG-3’
配列番号30:
5’-TCGACGTCGACGCGGCCGCGAATTCC-3’
配列番号 31:
5’-CACAACGCTGCAGGTGATGACGATGATAAGGGATCCCTCGAGAGGCCTGATCCGGC-3’
配列番号32:
5’-ATTATGATTATGATTATGATTATGATTATGACCCATGGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3’
配列番号 33:
5’-CACGCTCATGCCCACAACAAGATCGATGACGATGACAAAGGATCCCTCGAGAGGCCTGATCCGGC-3’
配列番号34:
5’-ATTATGATTATGATTATGATTATGATTATGACCCATGGTATATCTCCTTCTTAAAGTTAAAC-3’
【0111】
例20 大腸菌BL21(DE)3またはSoluBL21株におけるLucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucC、LucN-VDNHPMLMNLLKDN、LBD-LucCおよびLBD(R274L)-LucCタンパク質の発現
pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucC、pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucC、pET-11d-N-HAT-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucC、pET-11d-N-6×HN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN、pET-11d-N-6×HN-LBD-LucCおよびpET-11d-N-6×HN-LBD(R274L)-LucCプラスミドDNAを用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)またはSoluBL21株を形質転換し、アンピシリン100μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(アンピシリン100μg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。2 mLの大腸菌培養液は、500 mLのLB液体培地(アンピシリン100μg/mL含有)に植え継いで37℃でOD600=0.4まで培養し、0.1 mMisopropyl-1-thio-β-D-galactopyranoside[IPTG (ナカライテスク社)]を添加し、15℃で3時間培養することでタンパク質を発現させた。培養後、4℃、5000×g、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体を回収した。菌体は、25 mM Tris-HCl,pH 7.4, 10 mM DTT、プロテアーゼ阻害剤カクテル(ナカライテスク社)を含む溶液に懸濁後、氷中で15秒×7回の超音波破砕処理を行った。その後、4℃、20000×g、30分間の条件で遠心分離を行い、上清を回収してバイオセンサータンパク質溶液とした。
【0112】
例21 In vitro系におけるルシフェラーゼアッセイ
例20で作製したバイオセンサータンパク質を96ウェルプレートに1ウェルあたり50μL分注後、様々な濃度で1α,25(OH)2D3を添加し、室温で5-10分インキュベートした。その後、50μLのルシフェリン溶液[25 mM Tris-HCl (pH 7.4), 20 mMMgSO4, 2mM D-Luciferin, 4 mM ATP]を加え、任意の時点で発光量を測定した。VDRリガンドの溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度1%とした。発光測定の機器には、マイクロプレートリーダーInfinite 200 Pro(TECAN)を用いた。
【0113】
例22 HAT-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよび6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの発現量および1α,25(OH) 2 D 3 応答性の比較
HAT-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよび6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサータンパク質を96ウェルプレートに1ウェルあたり50μL分注後、200 nM 1α,25(OH)2D3を添加し、室温で5-10分インキュベートした。その後、50μLのルシフェリン溶液[25 mM Tris-HCl (pH 7.4), 20 mM MgSO4, 2 mM D-Luciferin,4 mM ATP]を加え、10分後の発光量および相対発光変化量を比較した。1α,25(OH)2D3の終濃度は100nM、1α,25(OH)2D3の溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度1%とした。どちらのバイオセンサーも1α,25(OH)2D3に応答して相対発光量は約8増加した(図12A)。発光量はHAT-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCよりも6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサータンパク質のほうが2倍以上高かった(図12B)。
【0114】
例23 6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーの発光測定時間の最適化
6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサータンパク質を96ウェルプレートに1ウェルあたり50μL分注後、200 nM 1α,25(OH)2D3を添加し、室温で5-10分インキュベートした。その後、50μLのルシフェリン溶液[25 mM Tris-HCl(pH 7.4), 20 mM MgSO4, 2 mM D-Luciferin, 4mM ATP]を加え、0-30分後の発光量および相対発光変化量を比較した。1α,25(OH)2D3の終濃度は100nM、1α,25(OH)2D3の溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度1%とした。1α,25(OH)2D3に応答して相対発光量は約6増加し、2分以降は平衡状態に達した(図13A)。しかし、発光量はルシフェリン溶液添加後3-5分でピークに達し、その後減少した(図13B)。従って、ルシフェリン添加後5分後を発光測定の時間とした。
【0115】
例24 6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを用いて1α,25(OH) 2 D 3 および25(OH) D 3 の親和性を比較
6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサータンパク質を96ウェルプレートに1ウェルあたり50μL分注後、様々な濃度(終濃度0-1000 nM)の1α,25(OH)2D3および25(OH) D3を添加し、室温で5-10分インキュベートした。その後、50μLのルシフェリン溶液[25 mM Tris-HCl (pH 7.4), 20 mMMgSO4, 2 mM D-Luciferin, 4 mM ATP]を加え、5分後の相対発光変化量を比較した。1α,25(OH)2D3および25(OH)D3の溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度1%とした。1α,25(OH)2D3および25(OH) D3濃度依存的に相対発光量は増加したが、25(OH)D3の発光増加量は1α,25(OH)2D3に比べると低かった(図14)。この違いは、25(OH)D3と1α,25(OH)2D3の親和性の違いを反映しているものと考えられる。
【0116】
例25 6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCバイオセンサーの1α,25(OH) 2 D 3 応答性
【0117】
6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCおよび6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCバイオセンサータンパク質を96ウェルプレートに1ウェルあたり50μL分注後、200 nMの1α,25(OH)2D3を添加し、室温で5-10分インキュベートした。その後、50μLのルシフェリン溶液[25 mM Tris-HCl(pH 7.4), 20 mM MgSO4, 2 mM D-Luciferin, 4mM ATP]を加え、5分後の相対発光変化量を比較した。1α,25(OH)2D3の終濃度は100 nM、1α,25(OH)2D3の溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度1%とした。例22-24で示したように、6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD-LucCバイオセンサーを用いた場合、100 nM の1α,25(OH)2D3添加後の発光増加量は約6-8倍であったが、6xHN-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCバイオセンサーは、100 nM の1α,25(OH)2D3添加後も約1.7倍程度しか発光が増加しなかった(図15)。これは、LBDにR274L変異を挿入したことで、1α,25(OH)2D3に対する親和性が著しく低下したことを示している。
【0118】
例26 2分子型の6xHN-LucN-NHPMLMNLLKDN,6xHN-LBD-LucC,6xHN-LBD(R274L)-LucCバイオセンサーを用いて100 nM 1α,25(OH)2D3および100 nM NS-4添加後の変化量を評価
6xHN-LBD-LucCまたは6xHN-LBD(R274L)-LucCタンパク質を96ウェルプレートに1ウェルあたり25μLそれぞれ分注し後、100 nMの1α,25(OH)2D3または100 nM のNS-4を添加し、室温で5-10分インキュベートした。その後、6xHN-LucN-NHPMLMNLLKDNを25μL加えて5-10分反応後、50μLのルシフェリン溶液[25 mM Tris-HCl(pH 7.4), 20 mM MgSO4, 2 mM D-Luciferin, 4mM ATP]を加え、5分後の相対発光変化量を比較した。1α,25(OH)2D3溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度1%とした。6xHN-LucN-NHPMLMNLLKDN と6xHN-LBD-LucCの組み合わせでは、100 nM 1α,25(OH)2D3を添加すると、相対発光量は160倍増加したが、100 nM NS-4を添加すると、10倍程度の増加に留まった(図16)。一方、6xHN-LucN-NHPMLMNLLKDNと6xHN-LBD(R274L)-LucCの組み合わせでは、1α,25(OH)2D3を添加しても、相対発光量は120倍の増加になり、6xHN-LBD-LucCと比べると応答性が約25%減少した。NS-4に対しては、全く発光が増加しなかった。以上のことから、上述した1分子型の6xHN-LucN-NHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(R274L)-LucCバイオセンサーに比べて、2分子型のほうが1α,25(OH)2D3添加後の増加量が大きいことから、検出感度が極めて高いと考えられる。
【0119】
例27 LgBiTおよびSmBiTのクローニング
pBiT.1-N[TK/LgBiT]vector(Promega社)を鋳型とし、プライマー53および54(配列番号53および54)およびプライマー55および56(配列番号55および56)を用い、PCRによってXhoI-ATG-LgBiT-SalIおよびBamHI-LgBiT-TAG-NotIをそれぞれ増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 20秒、30サイクル;鋳型DNA10 ng、MgSO41.5 mM、dNTPs0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase (TOYOBO) 0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10 μLの条件で行った。PCR産物 1 μLを1%アガロースゲルにより電気泳動した結果、目的の位置(約400bp)に特異的な増幅が認められた(以下、1% アガロースゲルでの電気泳動は、単に電気泳動と略称する)。電気泳動による目的断片の増幅確認後、Zeroblunt TOPO PCR Cloning Kit(Invitrogen)の取り扱い説明書に従い、PCR産物をpCRBlunt II-TOPO ベクターにクローニングし、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン 30μg/mLを含むLB寒天培地(ポリペプトン 10 g、イーストエキストラクト 5 g、NaCl 5 gおよび寒天15 gを蒸留水1 Lに溶解)に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(カナマイシン30 mg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprepSpin Miniprep Kit (QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、プラスミド濃度を260 nmの吸光度を用いて測定し、鋳型DNAとした。サイクルシークエンス反応は、BigDyeTerminator v3.1 Cycle Sequencing Kit (Applied Biosystems)を用いて行った。配列解析の結果、XhoI-ATG-LgBiT-SalIおよびBamHI-LgBiT-TAG-NotIする遺伝子であることが確認できた。このプラスミドをpCR-BluntII-TOPO-XhoI-ATG-LgBiT-SalIおよびpCR-Blunt II-TOPO-BamHI-LgBiT-TAG-NotIと命名した。
【0120】
次に、プライマー57と58(配列番号57と58)およびプライマー59と60(配列番号59と60)各10 mM、10×PNK buffer、1 mM ATP、1 U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて、XhoI-ATG-SmBiT-SalIおよびBamHI-SmBiT-TAG-NotIの2本鎖断片をそれぞれ作製した。また、SmBitをコードする2本鎖断片の作製に必要なプライマー57-60(配列番号57-60)は、Promega社の許可を得て作製した。
【0121】
配列番号53:
5’-atatctcgagATGGTCTTCACACTCGAAGATTTC-3’
配列番号54:
5’-atatgtcgacACTGTTGATGGTTACTCGGAACAG-3’
配列番号55:
5’-atatggatccGTCTTCACACTCGAAGATTTCGTTG-3’
配列番号56:
5’-atatgcggccgCTAACTGTTGATGGTTACTCGGAAC-3’
配列番号57:
5’-tcgagATGGTGACCGGCTACCGGCTGTTCGAGGAGATTCTGg-3’
配列番号58:
5’-tcgacCAGAATCTCCTCGAACAGCCGGTAGCCGGTCACCATc-3’
配列番号59:
5’-gatccGTGACCGGCTACCGGCTGTTCGAGGAGATTCTGtagc-3’
配列番号60:
5’-ggccgctaCAGAATCTCCTCGAACAGCCGGTAGCCGGTCACg-3’
【0122】
例28 pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI、pIRES2-BamHI-LgBiT-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-SmBiT-SalIおよびpIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorの作製
【0123】
例27で作製したpCR-BluntII-TOPO-XhoI-ATG-LgBiT-SalIおよびpCR-Blunt II-TOPO-BamHI-LgBiT-TAG-NotIvectorを制限酵素XhoI/SalIおよびBamHI/NotIで処理後、得られたXhoI-ATG-LgBiT-SalIおよびBamHI-LgBiT-TAG-NotI断片とXhoI-ATG-SmBiT-SalIおよびBamHI-SmBiT-TAG-NotIの2本鎖断片をpIRES2-AcGFPvectorのXhoI/SalIサイトおよびBamHI/NotIサイトに組み込んだ。得られたプラスミドDNAを、それぞれpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI、pIRES2-BamHI-LgBiT-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-SmBiT-SalIおよびpIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorと命名した。
【0124】
例29 pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-LBD(121-427aa)-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-LgBiT-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-NHPMLMNLLKDN-BamHI-LgBiT-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-SmBiT-SalI-LBD(121-427aa)-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-SmBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-NHPMLMNLLKDN-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorの作製
【0125】
例1で作製した、pCR-BluntII-TOPO-hVDRを鋳型とし、プライマー61および62(配列番号61および62)、プライマー63および64(配列番号63および64)を用い、PCRによってXhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHIおよびSalI-LBD(121-427aa)-TAG-NotIをそれぞれ増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 40秒、30サイクル;鋳型DNA10 ng、MgSO41.5 mM、dNTPs0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase (TOYOBO) 0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10 μLの条件で行った。PCR産物 1 μLを1%アガロースゲルにより電気泳動した結果、目的の位置(約1000bp)に特異的な増幅が認められた。PCR産物は、制限酵素XhoI/BamHI、SalI/NotIでそれぞれ処理し、電気泳動後に目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出し、QIAquickGel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。プライマー65と66(配列番号65と66)およびプライマー67と68(配列番号67と68)各10 mM、10×PNK buffer、1 mM ATP、1 U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて2本鎖断片SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびXhoI-ATG-NHPMLMNLLKDN-BamHIを作製した。これらをインサート断片とした。
【0126】
例28で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalIおよびpIRES2-XhoI-ATG-SmBiT-SalIvectorのSalI/NotIサイト、pIRES2-BamHI-LgBiT-TAG-NotIおよびpIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorのXhoI/BamHIサイトに上述のインサート断片を組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-LBD(121-427aa)-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-SmBiT-SalI-LBD(121-427aa)-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-LgBiT-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-NHPMLMNLLKDN-BamHI-LgBiT-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-NHPMLMNLLKDN-BamHI-SmBiT-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-SmBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIvectorと命名した。
【0127】
配列番号61:
5’-ATCTCGAGatgCGGCCCAAGCTGTCTGAGGAGCAGCAG-3’
配列番号62:
5’-aattGGATCCggagatctcattgccaaacacttcg-3’
配列番号63:
5’-atatgtcgaccggcccaagctgtctgaggagcagc-3’
配列番号64:
5’-atatgcggccgctcaggagatctcattgccaaacac-3’
配列番号65:
5’-tcgacaaccacccgatgctcatgaaccttcttaaagataattaagc-3’
配列番号66:
5’-ggccgcttaattatctttaagaaggttcatgagcatcgggtggttg-3’
配列番号67:
5’-tcgagatgaaccacccgatgctcatgaaccttcttaaagataatg-3’
配列番号68:
5’-gatccattatctttaagaaggttcatgagcatcgggtggttcatc-3’
【0128】
例30 pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-(GGGGS)×3-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-(GGGGS)×3-SmBiT-TAG-NotIvectorの作製
【0129】
プライマー69と70(配列番号69と70)およびプライマー71と72(配列番号71と72)各10 mM、10×PNK buffer、1 mM ATP、1 U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて2本鎖断片XhoI-(GGGGS)×3-SalIおよびBamHI-(GGGGS)×3-BglIIを作製した。
例29で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorのSalIまたはBamHIサイトに2本鎖断片XhoI-(GGGGS)×3-SalIおよびBamHI-(GGGGS)×3-BglIIをそれぞれ組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-(GGGGS)×3-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-(GGGGS)×3-SmBiT-TAG-NotIvectorと命名した。
【0130】
配列番号69:
5’-tcgagGGAGGTGGGGGTAGTGGAGGGGGAGGTAGCGGTGGCGGTGGTAGTg-3’
配列番号70:
5’-tcgacACTACCACCGCCACCGCTACCTCCCCCTCCACTACCCCCACCTCCc-3’
配列番号71:
5’-gatccGGTGGCGGTGGTAGTGGGGGCGGAGGTAGCGGAGGTGGGGGTAGTa-3’
配列番号72:
5’-gatctACTACCCCCACCTCCGCTACCTCCGCCCCCACTACCACCGCCACCg-3’
【0131】
例31 pIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorの作製
例8で作製したpIRES2-LBD(R274L)-LucCvectorを鋳型に、プライマー61および62(配列番号61および62)を用い、PCRによってXhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHIを増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 40秒、30サイクル;鋳型DNA10 ng、MgSO41.5 mM、dNTPs0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase (TOYOBO) 0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10 μLの条件で行った。PCR産物 1 μLを1%アガロースゲルにより電気泳動した結果、目的の位置(約1000bp)に特異的な増幅が認められた。PCR産物は、制限酵素XhoI/BamHIで処理し、電気泳動後に目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。例28で作製したpIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorのXhoI/BamHIサイトに上述のインサート断片を組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorと命名した。
【0132】
例32 pIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aaΔ165-215aa)]-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorの作製
例7で作製したpIRES2-LucN-VDNHPMLMNLLKDN-(GGGGS)×3-LBD(Δ165-215aa)-LucCを鋳型にして、プライマー61および62(配列番号61および62)を用い、PCRによってXhoI-ATG-[LBD(121-427aaΔ165-215aa)]-BamHIを増幅した。PCRは、反応1(94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、68℃ 40秒、30サイクル;鋳型DNA10 ng、MgSO41.5 mM、dNTPs0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase (TOYOBO) 0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo)、プライマー各 0.3μM、最終液量10 μLの条件で行った。PCR産物 1 μLを1%アガロースゲルにより電気泳動した結果、目的の位置(約1000bp)に特異的な増幅が認められた。PCR産物は、制限酵素XhoI/BamHIで処理し、電気泳動後に目的のDNA断片をアガロースゲルから抽出し、QIAquick Gel Extraction Kit(QIAGEN)を用いて精製した。例28で作製したpIRES2-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorのXhoI/BamHIサイトに上述のインサート断片を組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aaΔ165-215aa)]-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorと命名した。
【0133】
例33 pIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aaΔ165-215aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorの作製
例32で作製した、pIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aaΔ165-215aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorを鋳型に、プライマー19および20(配列番号19および20)を用いてPCRを行った。PCRは、94℃ 2分後、98℃ 10秒、60℃ 30秒、68℃ 3分30秒、16サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plusneo-DNA polymerase (TOYOBO) 0.2 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo、プライマー各 0.3μM、最終液量20 μLの条件で行った。PCR産物に、制限酵素DpnI 5 Uを加えて37℃で3時間処理後、エタノール沈殿により精製し、5 μLの超純水に溶解した。その後、塩化カルシウム法により大腸菌HST08株を形質転換し、カナマイシン 30μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(カナマイシン30μg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで16時間振盪培養を行った。その後、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)を用いてプラスミドを抽出し、得られたプラスミドDNAはシークエンスにより配列を確認した。得られたプラスミドDNAはpIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aaΔ165-215aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotIvectorと命名した。
【0134】
例34 pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-EcoRI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIvectorの作製
例29で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIを鋳型とし、プライマー25および73(配列番号25および73)を用い、PCRによってXhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiTを増幅した。また、pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIを鋳型にし、プライマー74および24(配列番号74および24)を用いてLgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAGを増幅した。PCRは94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、 68℃ 30秒、30サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plusneo-DNA polymerase (TOYOBO) 1 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo、プライマー各 0.3 mM、最終液量20 mLの条件で行った。各PCR産物(XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiTおよびLgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG) 1 mLを電気泳動で増幅確認後、PCR産物各20 ngを混合したものと、プライマー25および24(配列番号25および24)を用い、オーバーラップPCR法によってXhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiTおよびLgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAGを連結した。PCRは94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、 68℃ 60秒、30サイクル;PCR産物各 20ng、MgSO41.5 mM、dNTPs0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase (TOYOBO) 1 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo、プライマー各 0.3 mM、最終液量20 mLの条件で行った。PCR産物を電気泳動し、目的の位置(約1.5kb)に特異的な増幅が認められた。PCR産物は、上述の方法により、pCRBlunt II-TOPOベクターにクローニングし、シークエンス解析後のプラスミドDNAをpCR BluntII-TOPO-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-EcoRI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAGと命名した。その後、XhoI/SalIでインサート断片を切り出し、pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIのXhoI/SalIサイトに組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-EcoRI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIと命名した。
【0135】
配列番号:73
5’-CAACGAAATCTTCGAGTGTGAAGACgaattcCAGAATCTCCTCGAACAGCCGGTAG-3’
配列番号:74
5’-CTACCGGCTGTTCGAGGAGATTCTGgaattcGTCTTCACACTCGAAGATTTCGTTG-3’
【0136】
例35 pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIの作製
例29で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIを鋳型とし、プライマー53および75(配列番号53および75)を用い、PCRによってXhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDNを増幅した。また、pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIを鋳型にし、プライマー76および60(配列番号76および60)を用いてLBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAGを増幅した。PCRは94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、 68℃ 30秒、30サイクル;鋳型DNA 10 ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plusneo-DNA polymerase (TOYOBO) 1 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo、プライマー各 0.3 mM、最終液量20 mLの条件で行った。各PCR産物(XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDNおよびLBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG) 1 mLを電気泳動で増幅確認後、PCR産物各20 ngを混合したものと、プライマー53および60(配列番号53および60)を用い、オーバーラップPCR法によってXhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDNおよびLBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAGを連結した。PCRは94℃ 2分後、98℃ 10秒、56℃ 30秒、 68℃ 60秒、30サイクル;PCR産物各 20ng、MgSO4 1.5 mM、dNTPs 0.2 mM、KOD-plus neo-DNA polymerase (TOYOBO) 1 U、10 x PCR Buffer for KOD plus neo、プライマー各 0.3 mM、最終液量20 mLの条件で行った。PCR産物を電気泳動し、目的の位置(約1.5kb)に特異的な増幅が認められた。PCR産物は、上述の方法により、pCRBlunt II-TOPOベクターにクローニングし、シークエンス解析後のプラスミドDNAをpCR BluntII-TOPO-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAGと命名した。その後、XhoI/BamHIでインサート断片を切り出し、pIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIのXhoI/BamHIサイトに組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIと命名した。
【0137】
配列番号:75
5’-gctgctcctcagacagcttgggccgGAATTCattatctttaagaaggttcatgagc-3’
配列番号:76
5’-gctcatgaaccttcttaaagataatGAATTCcggcccaagctgtctgaggagcagc-3’
【0138】
例36 pIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-(GGGGS)×3-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-(GGGGS)×3-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotI
【0139】
プライマー77と78(配列番号77と78)各10 mM、10×PNK buffer、1 mM ATP、1 U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて、2本鎖断片EcoRI-(GGGGS)×3-EcoRIを作製した。例34および35で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-EcoRI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIのEcoRIサイトにEcoRI-(GGGGS)×3-EcoRIを組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-(GGGGS)×3-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-(GGGGS)×3-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIと命名した。
【0140】
配列番号:77
5’-aattcGGAGGTGGCGGAAGCGGTGGCGGCGGGAGTGGAGGAGGCGGTAGCg-3’
配列番号:78
5’-aattcGCTACCGCCTCCTCCACTCCCGCCGCCACCGCTTCCGCCACCTCCg-3’
【0141】
例37 pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-HVEMHPLLMGLLMESQWGA-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-DAASKHKQLSELLRGGSGSS-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-GHEPLTLLERLLMDDKQAV-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-KVSQNPILTSLLQITGNGG-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-YSQTSHKLVQLLTTTAEQQ-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-ESKDHQLLRYLLDKDEKDL-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-QAQQKSLLQQLLTE-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-EAEEPSLLKKLLLAPANTQ-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-LPYEGSLLLKLLRAPVEEV-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-HVYQHPLLLSLLSSEHESG-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-HKILHRLLQEG-TAG-NotIvectorの作製
【0142】
プライマー79と80(配列番号79と80)、プライマー81と82(配列番号81と82)、プライマー83と84(配列番号83と84)、プライマー85と86(配列番号85と86)、プライマー87と88(配列番号87と88)、プライマー89と90(配列番号89と90)、プライマー91と92(配列番号91と92)、プライマー93と94(配列番号93と94)、プライマー95と96(配列番号95と96)、プライマー97と98(配列番号97と98)、プライマー99と100(配列番号99と100)、各10 mM、10×PNK buffer、1 mM ATP、1 U T4 PNKを混合し、37℃で1時間半反応後、95℃ 10分、75℃ 10分後、37℃まで温度を低下させて、2本鎖断片SalI-HVEMHPLLMGLLMESQWGA-TAG-NotI、SalI-DAASKHKQLSELLRGGSGSS-TAG-NotI、SalI-GHEPLTLLERLLMDDKQAV-TAG-NotI、SalI-KVSQNPILTSLLQITGNGG-TAG-NotI、SalI-YSQTSHKLVQLLTTTAEQQ-TAG-NotI、SalI-ESKDHQLLRYLLDKDEKDL-TAG-NotI、SalI-QAQQKSLLQQLLTE-TAG-NotI、SalI-EAEEPSLLKKLLLAPANTQ-TAG-NotI、SalI-LPYEGSLLLKLLRAPVEEV-TAG-NotI、SalI-HVYQHPLLLSLLSSEHESG-TAG-NotI、SalI-HKILHRLLQEG-TAG-NotIをそれぞれ作製した。これらの2本鎖断片を、例28で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalIのSalI/NotIサイトに組み込み、得られたプラスミドDNAをpIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-HVEMHPLLMGLLMESQWGA-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-DAASKHKQLSELLRGGSGSS-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-GHEPLTLLERLLMDDKQAV-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-KVSQNPILTSLLQITGNGG-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-YSQTSHKLVQLLTTTAEQQ-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-ESKDHQLLRYLLDKDEKDL-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-QAQQKSLLQQLLTE-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-EAEEPSLLKKLLLAPANTQ-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-LPYEGSLLLKLLRAPVEEV-TAG-NotI、pIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-HVYQHPLLLSLLSSEHESG-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LgBit-SalI-HKILHRLLQEG-TAG-NotIvectorと命名した。
【0143】
配列番号:79
5’-TCGACcatgtcgagatgcacccactcctgatgggacttctcatggaatcgcagtggggcgccTAGC-3’
配列番号:80
5’-GGCCGCTAggcgccccactgcgattccatgagaagtcccatcaggagtgggtgcatctcgacatgG-3’
配列番号:81
5’-TCGACgctgcttccaaacataaacaactgtcggagcttctacgaggaggcagcggctctagtTAGC-3’
配列番号:82
5’-GGCCGCTAactagagccgctgcctcctcgtagaagctccgacagttgtttatgtttggaagcagcG-3’
配列番号:83
5’-TCGACggacacgaaccactcacgcttctggaacgactgctaatggacgacaagcaggcggtcTAGC-3’
配列番号:84
5’-GGCCGCTAgaccgcctgcttgtcgtccattagcagtcgttccagaagcgtgagtggttcgtgtccG-3’
配列番号:85
5’-TCGACagcaaggtgtctcagaacccaattcttaccagtttgttgcaaatcacagggaacggggggTAGC-3’
配列番号:86
5’-GGCCGCTAccccccgttccctgtgatttgcaacaaactggtaagaattgggttctgagacaccttgctG-3’
配列番号:87
5’-TCGACaaatactctcaaaccagtcacaaactagtgcagcttttgacaacaactgccgaacagcagTAGC-3’
配列番号:88
5’-GGCCGCTActgctgttcggcagttgttgtcaaaagctgcactagtttgtgactggtttgagagtatttG-3’
配列番号:89
5’-TCGACaaagaatcaaaagaccatcagctcctacgctatcttttagataaagatgagaaagatttaTAGC-3’
配列番号:90
5’-GGCCGCTAtaaatctttctcatctttatctaaaagatagcgtaggagctgatggtcttttgattctttG-3’
配列番号:91
5’-TCGACcaggcccagcagaagagcctccttcagcagctactgactgaaTAGC-3’
配列番号:92
5’-GGCCGCTAttcagtcagtagctgctgaaggaggctcttctgctgggcctgG-3’
配列番号:93
5’-tcgacgaggcagaagagccgtctctacttaagaagctcttactggcaccagccaacactcagtagc-3’
配列番号:94
5’-ggccgctactgagtgttggctggtgccagtaagagcttcttaagtagagacggctcttctgcctcg-3’
配列番号:95
5’-tcgacctaccatacgaaggcagtctacttctcaagctacttagagccccagttgaggaggtgtaggc-3’
配列番号:96
5’-ggccgcctacacctcctcaactggggctctaagtagcttgagaagtagactgccttcgtatggtagg-3’
配列番号:97
5’-tcgaccacgtttatcagcatcctctacttctcagcctacttagctcagagcacgagtcaggttagc-3’
配列番号:98
5’-ggccgctaacctgactcgtgctctgagctaagtaggctgagaagtagaggatgctgataaacgtgg-3’
配列番号:99
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配列番号:100
5’-ggccgctaaccctcctgtaagagccggtgtagaattttatgg-3’
【0144】
例38 大腸菌発現ベクターへのクローニング
例29で作製したpIRES2-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotIおよびpIRES2-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotI、例31で作製したpIRES2-XhoI-ATG-[LBD(121-427aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotI、例35で作製したpIRES2-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIをXhoI/NotIで処理し、インサート断片を切り出し、例19で作製したpET-11d-N-6×His-XhoI/NotIベクターのXhoI/NotIサイトに組み込んだ。得られたプラスミドDNAをpET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotI、pET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotI、pET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-[LBD(121-427aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotI、およびpET-11d-N-6×His-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIと命名した。
例27-38で作製したバイオセンサーの構造は、図32に示した。
【0145】
例39 NanoLuciferase型バイオセンサー発現細胞における発光測定
NanoLuciferase型のバイオセンサーをコードするプラスミドDNAをCOS-7細胞に遺伝子導入し、96ウェルプレートにプレーティングした。例9および10に記載した方法に従って行った。遺伝子導入してから48時間後、フェノールレッド非含有のL-15培地(Gibco)に培地交換し、室温で30分静置し、VDRアゴニスト(25(OH)D3や1α,25(OH)2D3)を添加してから60分後に、発光基質溶液(Nano-GloLive Cell Assay System, Promega社)を添加し測定を行った。VDRアゴニストの溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度0.1%とした。発光測定の機器には、マイクロプレートリーダーInfinite200 Pro(TECAN)を用いた。また、VDRアゴニスト添加後の1分子型および2分子型バイオセンサーの発光量変化の原理は図33および34に示した。尚、図33および34に記載のH12については、例11における図3および4の説明を参照のこと。
【0146】
例40 2分子型NanoLuciferase型バイオセンサーの選抜
図32のGroupAおよびBまたはGroupCおよびDの組み合わせでバイオセンサーを発現させたCOS-7細胞に、100nM1α,25(OH)2D3を添加してから60分後の(図35(A))発光量と(図35(B))発光相対変化量を比較した。発光相対変化量は、100nM 1α,25(OH)2D3添加後60分時点での発光量を0.1% EtOH添加群の発光量で割って得られた値とした。尚、哺乳動物細胞系の場合、実験によりタンパク質発現量が変化し、発現量により発光量が変動するのでこの点を補正するために、発光相対変化量を並記する。但し、後述する大腸菌発現系のin vitroアッセイ系の場合には、タンパク質発現量に変動はなく、発光量と発光相対変化量とは対応する。
【0147】
N2+N3の組み合わせが、100nM 1α,25(OH)2D3添加後の発光量および発光相対変化量が最も大きく、その変化量は約40倍の増加であった。1α,25(OH)2D3がバイオセンサー内のLBDに結合することで構造変化が起こり、続いてLXXLL配列(NHPMLMNLLKDN)とLBD間の相互作用が起こる際にLgBiTとSmBiTも相互作用し、発光能が復活したと考えられる。発光強度は、従来のホタルルシフェラーゼを用いたタイプに比べて、100倍以上高かった。
【0148】
例41 LgBiT-(GGGGS)×3-SalI-NHPMLMNLLKDNおよびLBD(121-427aa)-BamHI-(GGGGS)×3-SmBiTを用いたバイオセンサーの性能比較
バイオセンサーを発現させたCOS-7細胞に、100nM1α,25(OH)2D3を添加してから60分後の(図36(A))発光量と(図36(B))発光相対変化量を比較した。
【0149】
例40にて発光量および相対発光変化量の大きいバイオセンサーN2+N3の組み合わせを基本に、それぞれのバイオセンサーに(GGGGS3)×3リンカーを挿入したN10およびN9を作製して発光量の違いについて比較したところ、N10+N9では発光量は増加したものの、相対変化量はN2+N3と同程度であった。一方、N2+N9では発光量はN2+N3と同定でであったが、相対発光変化量については最も高かった。これらの結果から、(GGGGS3)×3リンカーの有無によって、バイオセンサー内のLgBiTおよびSmBiTの距離や向きが変わり、発光量に影響しているものと考えられる。
【0150】
例42 バイオセンサー内のLXXLL配列の最適化
N3+N2の組み合わせを基準に、例37で作製したN11-21とN2をそれぞれ発現させたCOS-7細胞に、100nM1α,25(OH)2D3を添加してから60分後の(図37(A))発光量と(図37(B))発光相対変化量を比較した。
【0151】
100nM 1α,25(OH)2D3を添加後の発光量がN2+N3よりも大きいのは、N2+N20、N2+N11、N2+N16およびN2+N17であった。この中で、相対変化量がN2+N3よりも大きい組み合わせはなかったが、いずれもN2+N3と同じ約40倍増加を示した。一方、相対変化量がN2+N3よりも大きい組み合わせは、N2+N19、N2+N21およびN2+N14であった。この中で、発光量がN2+N3よりも大きい組み合わせはなかったが、同程度の組み合わせはN2+N14であった。これらの結果から、N2+N20、N2+N11、N2+N16、N2+N17およびN2+N14はバイオセンサーの感度の向上につながる可能性が高いことを示唆する。また、例41の結果を考慮すると、これらのバイオセンサー内のLgBiTとLXXLL配列との間にも(GGGGS3)×3リンカーを挿入することで、発光量がさらに増加する可能性もあり、性能の向上が期待出来る。
【0152】
例43 2分子型バイオセンサー内のLBDの最適化およびR274L型バイオセンサーの比較
例31-33で作製したN22-24とN3を組み合わせ、N22+N3、N23+N3あるいはN24+N3をそれぞれ発現させたCOS-7細胞に、100nM1α,25(OH)2D3を添加してから60分後の(図38(A))発光量と(図38(B))発光相対変化量を比較した。
【0153】
バイオセンサー内のLBDの165-215aaを欠失させたN23およびN24は発光量が高い傾向にあったが、相対変化量を比較すると、欠失させていないN2およびN22はほぼ同じであった。また、R274L変異型LBDにおいては、1α,25(OH)2D3の親和性が低下するため、N22およびN24の相対変化量はN2およびN23よりも小さかった。
【0154】
例44 1分子型NanoLuciferaseバイオセンサーの発光量比較
例34-36で作製した1分子型NanoLuciferase型バイオセンサーN25-28をそれぞれ発現させたCOS-7細胞に、100nM1α,25(OH)2D3を添加してから60分後の(図39(A))発光量と(図39(B))発光相対変化量を比較した。
【0155】
100nM 1α,25(OH)2D3を添加後の発光量に関しては、N25およびN26は2分子型N2+N3やN10+9と比べて小さかったが、(GGGGS3)×3リンカーを含むN27およびN28は2分子型と同程度あるいは大きかった。しかし、相対変化量を比較すると、N26は20倍の増加量であったが、N25、N27およびN28は10倍以下であり、2分子型よりも劣る結果であった。これらのことから、1分子型バイオセンサーは2分子型バイオセンサーとの対比では、さらなる改良・工夫が期待される。
【0156】
例45 大腸菌BL21(DE)3またはSoluBL21株におけるLgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN、LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT、[LBD(121-427aa)R274L]-BamHI-SmBiT、およびLgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiTタンパク質の発現
【0157】
例38で作製したpET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-TAG-NotI、pET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotI、pET-11d-N-6×His-XhoI-ATG-[LBD(121-427aa)R274L]-BamHI-SmBiT-TAG-NotI、およびpET-11d-N-6×His-XhoI-LgBiT-SalI-NHPMLMNLLKDN-EcoRI-LBD(121-427aa)-BamHI-SmBiT-TAG-NotIプラスミドDNAを用いて、塩化カルシウム法により大腸菌BL21(DE3)株を形質転換し、アンピシリン100μg/mLを含むLB寒天培地に塗布した。得られた大腸菌コロニーのうち数個を選択し、2 mLのLB液体培地(アンピシリン100μg/mL含有)に植菌し、37℃、200 rpmで12時間振盪培養を行った。2 mLの大腸菌培養液は、500mLのLB液体培地(アンピシリン100μg/mL含有)に植え継いで37℃でOD600=0.4まで培養し、0.1mM isopropyl-1-thio-b-D-galactopyranoside[IPTG (ナカライテスク社)]を添加し、15℃で3時間培養することでタンパク質を発現させた。培養後、4℃、5000×g、10分間の条件で遠心分離を行い、菌体を回収した。菌体は、25 mMTris-HCl, pH 7.4, 10 mM DTT、プロテアーゼ阻害剤カクテル (ナカライテスク社)を含む溶液に懸濁後、氷中で15秒×7回の超音波破砕処理を行った。その後、4℃、20000×g、30分間の条件で遠心分離を行い、上清を回収してバイオセンサータンパク質溶液N29,N30, N31およびN32とした。
【0158】
例46 Invitro系におけるルシフェラーゼアッセイ
例45で作製したN29+N31、N30+N31あるいはN32バイオセンサータンパク質を96ウェルプレートに1ウェルあたり40 μL分注後、様々な濃度で25(OH)D3や1α,25(OH)2D3を添加し、室温で5-10分インキュベートした。その後、10 μLの発光基質溶液(Nano-GloLive Cell Assay System, Promega社)を添加し測定を行った。VDRリガンドの溶媒として用いているエタノール(EtOH)の持ち込みは、終濃度1%とした。発光測定の機器には、マイクロプレートリーダーInfinite200 Pro(TECAN)を用いた。
【0159】
例47 Invitro系における2分子型および1分子型NanoLuciferase型バイオセンサーの比較
2分子型N29+N31および1分子型N32バイオセンサーを96ウェルプレートにプレーティング後、100nM 1α,25(OH)2D3を添加してから10分後の発光を例46に示した方法で測定し、発光量(図40(A))および相対発光変化量(図40(B))算出・比較した。
【0160】
2分子型のN29+N31バイオセンサーは、哺乳動物細胞発現系での結果と同様に、100nM 1α,25(OH)2D3を添加後の発光量も大きく、発光変化量も約40倍であったが、1分子型のN32バイオセンサーはほとんど発光が増加しなかった。このため、2分子型N29+N31型バイオセンサーを以降の実験に用いた。
【0161】
例48-1 2分子型N29+N31バイオセンサーの性能
2分子型N29+N31を96ウェルプレートにプレーティング後、0-50nM 25(OH)D3を添加してから10分間室温でインキュベートした。その後、発光基質溶液を添加してから30秒、1,5,10,15,20,25,30分後の発光を例46に示した方法で測定し、発光量(図41(A))および相対発光変化量(図41(B))算出・比較した。
【0162】
25(OH)D3濃度依存的に発光が増加し、50nM付近で最大増加量に達した。また、発光基質溶液を添加してから徐々に発光量が増加するが、25分および30分時点での発光量がほぼ同程度であることから、30分あたりが最大値であると考えられる(図41A)。ただし、各測定時点での相対発光変化量を比較すると、濃度曲線が一致したため、基質溶液添加後、0.5-30分のどのタイミングでも測定可能である(図41B)。
【0163】
例48-2 2分子型N29+N31バイオセンサーの25(OH)D 3 検出限界について
2分子型N29+N31を96ウェルプレートにプレーティング後、0-10nM 25(OH)D3を添加してから10分間室温でインキュベートした。その後、発光基質溶液を添加してから10分後の発光を例46に示した方法で測定し、発光量(図42(A))および相対発光変化量(図42(B))算出・比較した。
【0164】
発光量は0.1 pM 25(OH)D3から濃度依存的に増加し、1 pMでは約1.5倍の相対変化量であったことから、検出限界は1pMである。
【0165】
例49 2分子型N29+N31バイオセンサーを用いたカルシトロン酸の検出
1α,25(OH)2D3の代謝産物であるカルシトロン酸の親和性について、2分子型N29+N31バイオセンサーを用いて評価した。2分子型N29+N31を96ウェルプレートにプレーティング後、0-10000nM カルシトロン酸を添加してから10分間室温でインキュベートした。その後、発光基質溶液を添加してから10分後の発光を例46に示した方法で測定し、発光量(図43(A))および相対発光変化量(図43(B))算出・比較した。その結果、発光の増加には、10 nM以上のカルシトロン酸を要することから、25(OH)D3と比較して、親和性が極めて低いことが明らかとなった。即ち、カルシトロン酸は、尿中に微量に含まれる代謝物であること、及びカルシトロン酸のVDR親和性が1α,25(OH)2D3の1/1000以下であったことから、本発明のバイオセンサーで血中の25(OH)D3あるいは1α,25(OH)2D3濃度を検出するうえでは、無視できると考えられる。
【0166】
例50 ラット血漿からのビタミンD代謝物抽出
ラットより採取した血漿2.2 mLに対し、アセトニトリル2.2 mLを添加し、転倒混和後、10分間放置した。激しく攪拌した後、1,500 gで10分間遠心を行い、上清を乾固した。乾固物に酢酸エチルを2 mLと蒸留水1mL添加し、激しく攪拌後、1,500 gで10分間遠心を行い、酢酸エチル層(上層)を別のチューブに移した。水層(下層)には再度酢酸エチル2 mLを添加し、再度同じ操作を繰り返し、酢酸エチル層を上述のチューブに添加した。得られた酢酸エチル層を乾固し、乾固物にアセトニトリル30μLを添加、20,000g、10分間遠心した後、その上清25μLを順相HPLCにアプライした。25-ヒドロキシビタミンD3に相当する検出時間4.5分から6.5分の画分(F-25D3)、1α,25D3に相当する検出時間18.5分から21.5分の画分(F-1,25D3)、および検出時間0分から4.5分の画分(F-1)、検出時間 6.5分から13.0分の画分(F-2)をそれぞれ採取し(図44参照)、各画分を乾固後、20μLのエタノールに溶解した。得たエタノール溶液のうち0.5μLをNano Lucアッセイにより、また、10μLをLC/MS/MSにより分析した。順相HPLC条件は下記のとおりである。
【0167】
順相HPLC
カラム: Zorbax RX-SIL (4.6×250 nm, 5 μm)、カラム温度:25℃
溶離液:ヘキサン/イソプロパノール(9:1)、流量:0.7 mL/min、検出波長: 254 nm
【0168】
ラット血漿抽出物の順相HPLCチャートおよび採取した各画分結果を図44に示す。横軸下の矢印は各種ビタミンD代謝物標準品の検出時間を示す。
【0169】
例51 LC/MS/MSを用いた25-ヒドロキシビタミンD3および1α,25-ヒドロキシビタミンD3の定量
F-25D3, F-1,25D3画分の乾固物を20μLのエタノール溶液に溶解し、そのうちの10μLに、内部標準物質としてd6-25(OH)D3エタノール溶液50 ng/mL (125 nM) を10μL (0.5 ng)およびDMEQ-TAD(4-[2-(6,7-dimethoxy-4-methyl-3-oxo-3,4-dihydroquinoxalyl)ethyl]-1, 2,4-triazoline-3,5-dione) (Wako) の酢酸エチル溶液 0.1mg/mL を30 μLを添加した。軽く振とうし、30分間室温にて放置した後、再度DMEQ-TAD酢酸エチル溶液 0.1 mg/mLを30 μL添加、軽く振盪し、1時間室温にて放置した。エタノール 200 μLを加え、振盪した後、10分間室温で放置した。得られた溶液を乾固後、乾固物をアセトニトリル40 μLに溶解し、うち10 μLをLC/MS/MSにアプライした。25-ヒドロキシビタミンD3標準品についても、上記と同様の操作でDMEQ-TADによる誘導体化を経た後、LC/MS/MSにて分析した。LC/MS/MS分析条件は下記のとおりである。
【0170】
LC/MS/MS
【LC条件】
【0171】
カラム: CAPCELL PAK C18 UG120 S5:4.6 mm i.d. ×250 mm
移動相: A:蒸留水+0.1%ギ酸、B:アセトニトリル+0.1%ギ酸
B-30%(0-5 分)→ 30-70%(5-34分) → 100%(34-37分)
流速: 1.0 mL/min
【MS/MS条件】
【0172】
装置:API 3200-QTrap
モード:APCI-ポジティブ
検出:MRM(プレカーサーイオン/プロダクトイオン)
・DMEQ-TAD-25(OH)D3 -m/z746.6/468.3
・DMEQ-TAD-1α,25(OH)2D3- m/z 762.6/484.3
・DMEQ-TAD-d6-25(OH)D3 ---m/z752.6/468.3 (内部標準)
【0173】
分析の結果、F-25D3乾固物の20 mLエタノール溶液における25-ヒドロキシビタミンD3濃度は148 nMであり、算出される血中濃度は1.35nMであった。一方で、F-1,25D3乾固物の20 mLエタノール溶液に含まれる1α,25-ヒドロキシビタミンD3濃度は検出限界以下であった。
【0174】
例52 2分子型N29+N31バイオセンサーを用いたラット血漿中の25-ヒドロキシビタミンD3および1α,25-ヒドロキシビタミンD3の検出
2分子型N29+N31を96ウェルプレートにプレーティング後、スタンダード曲線作成用に0.1,1, 10, 100, 1000, 10000 pM 25(OH)D3または1α,25(OH)2D3、そして例50で抽出・分収したF-1、F-25D3、F-2、F-1,25D3画分を1ウェルあたり0.5 mLずつ添加してから10分間室温でインキュベートした。その後、発光基質溶液を添加してから10分後の発光を例46に示した方法で測定し、スタンダード曲線(図45A)と発光量の値(図45B)からF-25D3、F-1,25D3画分中の25(OH)D3および1α,25(OH)2D3を算出した。その結果、25(OH)D3の濃度は1.91nM、1α,25(OH)2D3は26 pMと算出され、25(OH)D3の濃度は例51でLC/MS/MSで分析した濃度と近い値となった。
【産業上の利用可能性】
【0175】
本発明は、VDRのビタミンD結合ドメインに対する結合性を有する物質の検出及び探索に関連する分野において有用である。
【配列表フリーテキスト】
【0176】
配列番号1~34:PCR用プライマー
配列番号35: <ホタルルシフェラーゼ遺伝子配列>
配列番号36: <ホタルルシフェラーゼアミノ酸配列>
配列番号37: <ウミシイタケルシフェラーゼ遺伝子配列>
配列番号38: <ウミシイタケルシフェラーゼアミノ酸配列>
配列番号39: <エメラルドフェラーゼ遺伝子配列>
配列番号40: <エメラルドフェラーゼアミノ酸配列>
配列番号41: <ヒトビタミンD受容体塩基配列>
配列番号42: <ヒトビタミンD受容体アミノ酸配列>
配列番号43: <マウスビタミンD受容体塩基配列>
配列番号44: <マウスビタミンD受容体アミノ酸配列>
配列番号45: <ラットビタミンD受容体塩基配列>
配列番号46: <ラットビタミンD受容体アミノ酸配列>
配列番号47: <サルビタミンD受容体アミノ酸配列>
配列番号48: <イヌビタミンD受容体アミノ酸配列>
配列番号49: <ウシビタミンD受容体アミノ酸配列>
配列番号50~52: LX1X2LL配列関連配列
配列番号53~100: 各種プライマー
配列番号101: NLuc塩基配列
配列番号102: LgBiT塩基配列
配列番号103: SmBiT塩基配列
配列番号104: NLucアミノ配列
配列番号105: LgBiTアミノ配列
配列番号106: SmBiTアミノ配列
配列番号107: トゲオキヒオドシエビ[Oplophorus gracilirostris](深海エビ)ルシフェラーゼ遺伝子配列
配列番号108: トゲオキヒオドシエビ[Oplophorus gracilirostris](深海エビ)ルシフェラーゼアミノ酸配列
配列番号109~119: LX1X2LL配列関連配列
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10A
図10B
図11
図12A
図12B
図13A
図13B
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32-1】
図32-2】
図33
図34
図35
図36
図37
図38
図39
図40
図41
図42
図43
図44
図45
図46
図47
図48
【配列表】
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