(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】単結晶金属のクローナル成長の方法
(51)【国際特許分類】
C22F 1/08 20060101AFI20231018BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
C22F1/08 Z
C22F1/00 607
C22F1/00 622
C22F1/00 627
C22F1/00 605
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 691Z
C22F1/00 692B
C22F1/00 692Z
(21)【出願番号】P 2021550043
(86)(22)【出願日】2019-06-04
(86)【国際出願番号】 CN2019089912
(87)【国際公開番号】W WO2020173012
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】201910144704.9
(32)【優先日】2019-02-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】507232478
【氏名又は名称】北京大学
【氏名又は名称原語表記】PEKING UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】No.5, Yiheyuan Road, Haidian District, Beijing 100871, China
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】▲劉▼ ▲開▼▲輝▼
(72)【発明者】
【氏名】▲張▼ 志斌
(72)【発明者】
【氏名】▲呉▼ 慕▲鴻▼
(72)【発明者】
【氏名】▲兪▼ 大▲鵬▼
(72)【発明者】
【氏名】王 恩哥
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-156588(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105603514(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107904654(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0191187(US,A1)
【文献】特開平02-263925(JP,A)
【文献】特開昭58-002289(JP,A)
【文献】特開昭55-162496(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22F 1/08
C30B 1/00 - 1/12
C30B 29/00 - 29/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1単結晶銅箔および第1多結晶銅箔を提供する工程;
前記の第1単結晶銅箔を前記の第1多結晶銅箔の上に載置する工程;および
アニーリングして、クローンマトリックスとして小さいサイズの前記の第1単結晶銅箔を用いて、前記の第1多結晶銅箔を、前記の第1単結晶銅箔の面指数と一致する大きいサイズの第2単結晶銅箔にクローニングする工程
を含む、
単結晶金属のクローナル成長の方法であって、
(1)任意の結晶面を備える単結晶銅箔をクローンマトリックスとして使用する工程;
(2)前記のクローンマトリックスを小さな三角形に切断して第1単結晶銅箔とし、単結晶化する第1多結晶銅箔の上に載置する工程
であって、前記第1単結晶銅箔の面積が、前記第1多結晶銅箔の面積の1%~50%である、工程;
(3)積み重ねた第1多結晶銅箔と第1単結晶銅箔を加熱炉に入れ、Arガスを導入し、流量を300sccm以上にしてから、昇温を開始し、昇温過程を60~100分間続ける工程;
(4)1010~1050℃に昇温した時に、Arガスの流量を変えずに10~500sccmの流量でH
2ガスを導入し、アニーリングプロセスを行い、アニーリング持続時間が120分間~300分間である工程;および
(5)アニーリング終了後、加熱炉の電源を切り、保護ガスとしてArガスとH
2ガスを用いて室温まで自然冷却し、前記の第1多結晶銅箔を、前記の第1単結晶銅箔の面指数と一致する第2単結晶銅箔に変換し、すなわち、単結晶銅箔のクローナル成長プロセスが完了する工程
を含み、
前記のクローンマトリックスの結晶面が、Cu(111)、Cu(110)、Cu(211)、Cu(345)、Cu(346)、Cu(335)、Cu(236)、Cu(124)、Cu(553)、Cu(122)、Cu(255)、又はCu(256)含む、方法。
【請求項2】
前記の小さな三角形が、斜辺長さが1~5cmである直角三角形である、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(2)において、第1単結晶銅箔を第1多結晶銅箔の上に載置するとき、前記の第1単結晶銅箔が前記の第1多結晶銅箔と十分に接触するように平坦化処理を行う、
請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記の第1多結晶銅箔のサイズが39cm×18cmまたはそれ以上である、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記のアニーリング時間が、第2単結晶銅箔の結晶面が第1単結晶銅箔の結晶面と一致することを確保するように調整される、
請求項1に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単結晶金属のクローナル成長(clonal growth)の方法に関し、特に、任意の面指数を有する単結晶銅を使用するメートルレベルの単結晶銅箔のクローナル成長のための方法に関する。
【背景技術】
【0002】
銅は、人類の歴史の中で最も早く使用された金属の1つとして、技術が高速に発達している今日でも極めて広く使われている。例えば、携帯電話やコンピュータなどの電子製品では、銅は最も一般的な導電性接続金属であり;また、その優れた熱伝導率により、銅板を使用して放熱することは、現在、携帯電話やコンピューターにとって最も一般的で最適な放熱ソリューションである。手頃な価格および優れた性能により、銅の役割は、今後さらに注目されるようになる。したがって、大面積(メートルレベル)の銅箔の取得は、工業開発において非常に重要な位置を占めている。
【0003】
現在、広く使用されている工業用銅箔は、一般に多結晶銅であり、結晶粒が小さく、粒界が多く、欠陥密度が高いなどの欠点がある。これらの欠点は、電気伝導性や熱伝導性を大幅に低下させるため、銅箔の優れた性能を十分に発揮することができず、産業への応用を損なう。これに対して、単結晶銅は、結晶ドメインが大きく、粒界がなく、欠陥密度が低く、多結晶銅の上記の欠点を完全に克服したため、大面積(メートルレベル)の単結晶銅箔の取得は、銅の産業的応用において非常に重要な役割を果たす。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、単結晶金属のクローナル成長の方法を提供する。銅を例として、前記の方法は、
第1単結晶銅箔および第1多結晶銅箔を提供する工程;
前記の第1単結晶銅箔を第1多結晶銅箔の上に載置する工程;および
アニーリングして、クローンマトリックス(clone matrix)として小さいサイズの第1単結晶銅箔を用いて、前記の第1多結晶銅箔を、前記の第1単結晶銅箔の面指数と一致する大きいサイズの第2単結晶銅箔にクローニングする工程、
を含む。
【0005】
好ましくは、前記の方法は、
(1)任意の結晶面を備える単結晶銅箔をクローンマトリックスとして使用する工程;
(2)クローンマトリックスを小さな三角形に切断して前記の第1単結晶銅箔とし、単結晶化する第1多結晶銅箔の上に載置する工程;
(3)積み重ねた第1多結晶銅箔と第1単結晶銅箔を加熱炉に入れ、Arガスを導入し、流量を300sccm以上にしてから、昇温を開始し、昇温過程を60~100min続ける工程;
(4)1010~1050℃に昇温した時に、Arガスの流量を変えずに10~500sccmの流量でH2ガスを導入し、アニーリングプロセスを行い、アニーリング持続時間が120min~300minである工程;および
(5)アニーリング終了後、加熱炉の電源を切り、保護ガスとしてArガスとH2ガスを用いて室温まで自然冷却し、前記の第1多結晶銅箔を、前記の第1単結晶銅箔の面指数と一致する第2単結晶銅箔に変換し、すなわち、単結晶銅箔のクローナル成長プロセスが完了する工程
を含む。
【0006】
好ましくは、前記のクローンマトリックスは、任意の結晶面を有する単結晶銅箔である。前記の結晶面は、Cu(111)、Cu(110)、Cu(211)、Cu(345)、Cu(346)、Cu(335)、Cu(236)、Cu(124)、Cu(553)、Cu(122)、Cu(255)、Cu(256)などの結晶面を含むが、これらに限定されない。
【0007】
好ましくは、前記の小さな三角形は、斜辺長さが1~5cmである直角三角形である。
【0008】
好ましくは、前記の第1単結晶銅箔を第1多結晶銅箔の上に載置するとき、第1単結晶銅箔が前記の第1多結晶銅箔と十分に接触するように平坦化処理を行う。
【0009】
本発明の一部の実施形態では、前記の第1多結晶銅箔のサイズは39cm×18cmである。使用する管状炉の容積は大きくなるにつれて、前記の第1多結晶銅箔のサイズを大きくすることができる。
【0010】
好ましくは、前記のアニーリング時間は、第2単結晶銅箔の結晶面が第1単結晶銅箔の結晶面と一致することを確保するように調整される。
【0011】
好ましくは、前記の第1単結晶銅箔の面積は、前記の第1多結晶銅箔の面積の1%~50%である。
【0012】
また、本発明は、上記の方法によって作製した第2単結晶銅箔である単結晶銅箔を提供する。
【0013】
好ましくは、上記の方法で作製した単結晶銅箔のサイズは、39cm×18cmまたはそれ以上である。
【0014】
本発明では、任意の結晶面指数を有する既存の単結晶銅箔を利用して、単結晶化する銅箔の上を載置し、アニーリングプロセスで処理することにより、クローニングを行い、マトリックスと同じ結晶面指数を有する大面積(メートルレベル)の単結晶銅箔を得る。本発明により提案される方法は、単結晶銅箔の作製が困難であるという問題を解決し、アニーリングプロセスにより、非常に小さいサイズ(~0.25cm2)の単結晶銅箔マトリックスを利用してクローニングを行うことにより、大きいサイズまたは大きい面積(~700cm2)の単結晶銅箔を作製し、面積を約3000倍拡大する。
【0015】
本発明の利点は次のとおりである。
【0016】
1.本発明は、単結晶銅箔を含むがこれに限定されない単結晶金属のクローナル成長のための方法である。
【0017】
2.本発明は、銅箔に対する複雑な表面前処理を必要とせずに、原材料として市販の多結晶銅箔を選択することにより、任意の結晶面指数を有する超大サイズの単結晶銅箔を作製することができ、製造コストを大幅に低減する。
【0018】
3.本発明は、クローナル成長により単結晶銅箔を作製する方法を初めて提案した。作製された単結晶銅箔は、サイズが大きく、欠陥が少なく、性能が優れているため、良好な応用の見通しがある。
【0019】
4.本発明の方法は、簡単で、効果的で、低コストであるため、大サイズの単結晶銅箔の実用化および工業生産に役立つ。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、任意の面指数を有する単結晶銅(Cu(xyz))をマトリックスとして使用して、管状炉でのアニーリングプロセス中に、クローニングを行うことで、下方にある多結晶銅箔を、同じ面指数を有する単結晶銅箔(Cu(xyz))に変換する過程の概略図である。
【
図2】
図2は、Cu(211)結晶面を例として、クローニングによって単結晶Cu(211)を取得するプロセスを示している。このプロセスの
図2(a)では、斜辺が2cmの三角形をマトリックスとして使用し、9cm×5cmの多結晶銅箔を例として、180分間のアニーリング処理により、
図2(c)の多結晶銅箔全体の98%の領域をCu(211)に変換する。
【
図3】
図3では、
図3(a)はCu(211)マトリックスのEBSD結果であり、
図3(b)はクローニング後に誘導されたCu(211)のEBSD結果である。
【
図4】
図4は、クローニングが完了した後に得られた大面積の単結晶Cu(211)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、実施例によって本発明をより詳しく説明するが、本発明は、以下の例に限定されるものではない。
【0022】
以下の実施形態では、前記の方法は、特に明記しない限り、従来の方法である。前記の原料は、特に明記しない限り、市販品から入手できる。
【0023】
実施形態1:以下の工程を含む、単結晶金属のクローナル成長の方法。
(1)任意の結晶面を備える単結晶銅箔をクローンマトリックスとして使用し、ここで、単結晶Cu(211)を使用した。
(2)得られたマトリックスを斜辺サイズ2cmの標準的な小さな直角三角形に切断し、単結晶化するサイズ9cm×5cmの多結晶銅箔の上に載置した。
(3)該銅箔を管状炉に入れ、Arガスを導入し、流量を800sccmにしてから、昇温を開始し、昇温過程を80min続けた。
(4)1030℃に昇温した時に、Arガスの流量を変えずに50sccmの流量でH2ガスを導入し、アニーリングプロセスを行い、アニーリング持続時間が90minであった。
(5)アニーリング終了後、加熱炉の電源を切り、保護ガスとしてArガスとH2ガスを用いて室温まで自然冷却した。
【0024】
この実験でクローニングすることにより作製した単結晶銅箔では、
図2(b)に示すように、90分間のアニーリングプロセスにより、単結晶Cu(211)の周りに、マトリックスの結晶面と一致する結晶面をクローニングしたことが分かった。なお、異なる色は異なる結晶面を表している。したがって、クローニングの方法により、マトリックスの結晶面と一致する結晶面Cu(211)が得られ、且つ銅箔全体の1/4の領域に広げたことが分かった。
【0025】
実施形態2:以下の工程を含む、単結晶金属のクローナル成長の方法。
(1)任意の結晶面を備える単結晶銅箔をクローンマトリックスとして使用し、ここで、単結晶Cu(211)を使用した。
(2)得られたマトリックスを斜辺サイズ2cmの標準的な小さな直角三角形に切断し、単結晶化するサイズ9cm×5cmの多結晶銅箔の上に載置した。
(3)該銅箔を管状炉に入れ、Arガスを導入し、流量を800sccmにしてから、昇温を開始し、昇温過程を80min続けた。
(4)1030℃に昇温した時に、Arガスの流量を変えずに50sccmの流量でH2ガスを導入し、アニーリングプロセスを行い、アニーリング持続時間が180minであった。
(5)アニーリング終了後、加熱炉の電源を切り、保護ガスとしてArガスとH2ガスを用いて室温まで自然冷却した。
【0026】
この実験でクローニングすることにより作製した単結晶銅箔では、
図2(c)に示すように、180分間のアニーリングプロセスを経由して、クローニングの方法により、マトリックスの結晶面と一致する結晶面Cu(211)が得られ、且つ銅箔全体の98%の領域に広げたことが分かった。
【0027】
実施形態3:以下の工程を含む、単結晶金属のクローナル成長の方法。
(1)任意の結晶面を備える単結晶銅箔をクローンマトリックスとして使用し、ここで、単結晶Cu(211)を使用した。
(2)得られたマトリックスを斜辺サイズ1cmの標準的な小さな直角三角形に切断し、単結晶化するサイズ39cm×18cmの多結晶銅箔の上に載置した。
(3)該銅箔を管状炉に入れ、Arガスを導入し、流量を800sccmにしてから、昇温を開始し、昇温過程を80min続けた。
(4)1030℃に昇温した時に、Arガスの流量を変えずに50sccmの流量でH2ガスを導入し、アニーリングプロセスを行い、アニーリング持続時間が300minであった。
(5)アニーリング終了後、加熱炉の電源を切り、保護ガスとしてArガスとH2ガスを用いて室温まで自然冷却した。
【0028】
この実験でクローニングすることにより作製した単結晶銅箔を
図4に示す。
図3(a)はクローンマトリックスのEBSDを示し、
図3(b)は誘導された大きな単結晶銅のEBSDを示す。両方のEBSDは単結晶Cu(211)であることが証明され、単結晶クローニング法の信頼性も確認された。クローニングの方法により、マトリックスと一致する結晶面Cu(211)を得、即ち、大面積(メートルレベル)の単結晶銅箔を作製したことが分かった。