(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】リサイクル綿から炭素繊維を生産する方法、及びこの方法で得られた繊維の、複合材料から物品を形成するための使用
(51)【国際特許分類】
D01F 9/16 20060101AFI20231018BHJP
B29B 15/08 20060101ALI20231018BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20231018BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
D01F9/16
B29B15/08
B29C70/06
B29K105:08
(21)【出願番号】P 2020552152
(86)(22)【出願日】2018-12-17
(86)【国際出願番号】 FR2018053326
(87)【国際公開番号】W WO2019122648
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2021-12-14
(32)【優先日】2017-12-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】520217238
【氏名又は名称】アソシアシオン・プール・ル・デベロップマン・ドゥ・ランセニュマン・エ・デ・ルシェルシュ・オープレ・デ・ユニヴェルシテ・デ・サントル・ドゥ・ルシェルシュ・エ・デ・ザントルプリーズ・ダキテーヌ・(アーデーエーエルアー)
(73)【特許権者】
【識別番号】520217249
【氏名又は名称】アンスティチュ・ドゥ・ルシェルシュ・テクノロジク・ジュール ヴェルヌ
(73)【特許権者】
【識別番号】520217250
【氏名又は名称】フォルシア・セルヴィス・グループ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】メルカデル,セリア
(72)【発明者】
【氏名】ジェスタン,シモン
(72)【発明者】
【氏名】ラルゴー,セリーヌ
【審査官】長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-047863(JP,A)
【文献】特開2010-168724(JP,A)
【文献】国際公開第2014/128128(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/108692(WO,A1)
【文献】特表2016-537521(JP,A)
【文献】国際公開第2015/077807(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第105765116(CN,A)
【文献】国際公開第2008/084730(WO,A1)
【文献】特表平10-504594(JP,A)
【文献】特表2015-537125(JP,A)
【文献】特開昭63-101439(JP,A)
【文献】特開平03-079601(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
15/08-15/14
B29C41/00-41/36
41/46-41/52
70/00-70/88
C08J5/04-5/10
5/24
D01F9/08-9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
綿をリサイクルすることによって炭素繊維を生産する方法であって、
前記方法は:
a)セルロース系繊維を調製するステップであって:
a1)綿から作製された製造品を回収するステップ;
a2)前記製品を機械的に処理して、リサイクル綿繊維と呼ばれる、短く不連続な繊維の形態の綿を抽出するステップ;
a3)前記リサイクル綿繊維を、溶媒溶液としてのリン酸溶液中に溶解させて、いわゆる紡糸用溶液を形成するステップ;
a4)溶媒紡糸プロセスによって、連続セルロース系繊維を生産するステップ;
a5)任意に、得られた前記連続セルロース系繊維を牽引するステップ
を含む、ステップ;及び
b)前記連続セルロース系繊維を炭素化して、炭素繊維を形成するステップ
を含む、炭素繊維を生産する方法。
【請求項2】
前記紡糸用溶液は非イオン性乳化剤を含有する、請求項1に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項3】
前記ステップa2)の終了時に得られた前記リサイクル綿繊維と、前記ステップ
a2)の終了時に混合されている可能性がある不純物を、除去するステップを含む、請求項1又は2に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項4】
機械的ろ過によって非セルロース系合成繊維を前記紡糸用溶液から除去するステップを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項5】
前記ステップa3)において、前記リサイクル綿繊維を精製セルロースと混合する、請求項1~4のいずれか1項に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項6】
前記ステップa3)において、前記溶媒溶液中に溶解される前記リサイクル綿繊維の濃度、又は精製セルロースを添加する場合は前記リサイクル綿繊維と精製セルロースとの混合物の濃度は、5~30重量%である、請求項1~5のいずれか1項に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項7】
直径がナノメートルサイズの炭素質充填剤を前記紡糸用溶液に添加する、請求項1~6のいずれか1項に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項8】
前記ナノメートルサイズの炭素質充填剤は、前記ステップa3)の間に前記溶媒溶液中に溶解される前記リサイクル綿繊維の重量に対して、又は精製セルロースを添加する場合は前記リサイクル綿繊維と精製セルロースとの混合物の重量に対して、1ppm~5重量%の濃度で、前記紡糸用溶液に添加される、請求項7に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項9】
前記ステップa4)又はa5)で得られた複数の連続セルロース系繊維から、セルロース系繊維のウェブを形成するステップを含み、
前記連続セルロース系繊維の前記ウェブを炭素化することによって、前記連続セルロース系繊維を炭素化する前記ステップb)を実施し、炭素繊維のウェブを形成する、請求項1~8のいずれか1項に記載の炭素繊維を生産する方法。
【請求項10】
有機ポリマー樹脂マトリックス中に分散された炭素繊維で作製された複合材料製の物品を生産するための、請求項1~8のいずれか一項に記載の炭素繊維、又は請求項9に記載の炭素繊維のウェブの使用。
【請求項11】
有機ポリマー樹脂マトリックス中に分散された炭素繊維で作製された複合材料製の物品を生産する方法であって、
前記方法は:
‐請求項1~8のいずれか1項に記載の炭素繊維を生産する方法を実装して、得られた複数の炭素繊維から炭素繊維のウェブを形成するステップ;又は請求項9に記載の炭素繊維を生産する方法を実装して炭素繊維のウェブを形成するステップ;及び
‐前記ステップによって得られた炭素繊維の複数のウェブから、前記複合材料製の物品を生産するステップ
を含む、複合材料製の物品を生産する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物由来材料からの、炭素繊維をベースとした材料、特に複合材料の生産という一般的分野にある。
【0002】
より詳細には、本発明は:綿から作製された製造品から炭素繊維を生産するための方法;このような方法を実装したときに中間産物として得られる連続セルロース系繊維;このような方法によって得られる炭素繊維及び炭素繊維のウェブ;並びに複合材料製の物品を生産するための、上記炭素繊維及び炭素繊維のウェブの使用に関する。本発明はまた:本発明による炭素繊維の生産方法の実装を含む、有機ポリマー樹脂中に分散された炭素繊維をベースとした複合材料製の物品を生産するためのより一般的な方法;及びこのような方法によって得られる複合材料に関する。
【背景技術】
【0003】
炭素繊維は、多くの分野で使用され、その特に有利な機械的、電気的、及び熱的特性、並びにその軽量さが活用されている。
【0004】
化石資源の避けがたい枯渇の問題を解決するために、再生可能な生物由来材料からの炭素繊維の生産が、ここ数十年の多くの研究プロジェクトの主題となっている。特に、植物の細胞壁を形成し、木材の主成分を構成する巨大分子炭化水素であるセルロースから、このような繊維を生産することが、従来技術によって提案されている。セルロースは地球上で最も豊富な有機材料である。セルロースから得られる炭素繊維は特に、構造が極めて良好であるという利点を有する。
【0005】
特に綿は、最も一般的なタイプの天然セルロース繊維の1つである。綿繊維は、その大半、92~95質量%がセルロースからなる。従って綿繊維は、最も純粋な天然セルロース源である。セルロースは分子量が高く、重合度は2000~10,000である。
【0006】
この数十年、極めて多量の綿が世界中で消費されており、この量は、特に衣料、家庭用リネン、家具用織物といった様々な織物製造品だけでなく、衛生用品又は医療用途の製品の生産のために、増加し続けている。従って、特に織物製品、特に使用済み製品に含まれている綿のリサイクルは、特に環境的な観点から非常に興味深いものとなっている。
【0007】
従って従来技術は、様々な用途のための、特に炭素繊維製の物品の生産のための、使用済み織物製品を構成する綿のリサイクルを提案している。リサイクル綿のこのような用途は、環境的な観点からだけでなく経済的な観点からも、多くの利点を提供する。実際、使用済みの綿のコストは、特に製紙産業から得られる精製セルロース、又はポリアクリロニトリルといった従来の前駆材料のコストに比べて大幅に低い。
【0008】
このような従来技術は特に非特許文献1によって例示されている。この非特許文献1は、綿繊維製の布地を熱分解処理に供して、炭素繊維製の布地を形成することを提案している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【文献】Jagdale et al., 2017, in Manufacturing Rev. 4, 10: 1‐9
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、製造品、特に織物に由来する使用済み綿繊維を、炭素繊維製物品の生産にそのまま使用できるだけでなく、極めて有利なことに、従来の紡糸法に供することによって、連続した個々のセルロース系繊維を形成でき、上記セルロース系繊維は多くの用途に使用でき、特に炭素繊維の前駆物質としての用途、特にこのような繊維をベースとした複合材料の生産に好適であることを発見した。
【0011】
よって、本発明の目的は、綿から作製された製造品に含まれる綿をリサイクルして、多くの用途、特に複合材料製の物品の生産に使用できる連続した炭素繊維を低コストで形成する方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的のために、本発明は、綿、より具体的には使用済み綿繊維を、綿から作製された製造品、例えば織物製品、特に衣料、家具用リネン製品又は家庭用リネン製品、例えばシーツ、作業服、Tシャツ、ポロシャツ、ズボン等、あるいは綿製の衛生用品又は医療用途の製品からリサイクルすることによって、炭素繊維を生産する方法を提案する。
【0013】
本明細書では、用語「綿(cotton)」は、それ自体従来の様式で、綿の種子の表面の種子毛から得られる天然セルロース繊維を指すために使用される。
【0014】
本発明による方法が適用され、炭素繊維を形成するために本発明による方法によってリサイクルされる、綿から生産された製造品は、原材料から人間が生産する、いずれの完成状態又は半完成状態の製品からなってよい。これは、植物としての綿に由来するパルプ又は粉末といった綿ベースの原材料とは異なる。これらは、この植物からの分離ステップ又は他の処理によって得られたとしても、製造品とみなされることはない。本発明による、綿から作製された製造品は、使用済み綿繊維から形成される。「使用済み」とは、これらの繊維が既にこの製造品の実際の生産のために使用されたものであるという意味である。この製造品自体は新品であっても使用済みであってもよく、特にその寿命の最終段階のものであってよい。
【0015】
本発明による炭素繊維の生産方法は、以下の連続したステップ:
a)セルロース系繊維を調製するステップであって:
a1)他のいずれの材料を排除するものではないが特に綿から作製された製造品を回収するステップ;
a2)この製品を機械的に処理して、リサイクル綿繊維と呼ばれる、短く不連続な、特に長さ5mm以下の繊維の形態の綿を抽出するステップ;
a3)上記リサイクル綿繊維を、セルロースを溶解できる溶媒溶液中に溶解させて、いわゆる紡糸用溶液を形成するステップ;
a4)一般にウエット紡糸プロセスとも呼ばれる溶媒紡糸プロセスによって、連続セルロース系繊維を生産するステップ;
a5)任意に、得られた上記連続セルロース系繊維を牽引して、より長い繊維を形成するステップ(このような牽引ステップの使用は、本発明の範囲内において特に好ましい)
を含む、ステップ;及び
b)得られた上記連続セルロース系繊維を炭素化して、炭素繊維を形成するステップ
を含む。
【0016】
本発明による方法のステップa4)で使用される溶媒紡糸又はウエット紡糸プロセスは、それ自体従来の様式で、上記紡糸用溶液の調製に使用される上記溶媒溶液と混和できるセルロースの非溶媒を含有するいわゆる凝固浴中で、紡糸用ダイを通して上記紡糸用溶液を押し出すステップからなる。
【0017】
本発明に従って実装される溶媒紡糸プロセスは、紡糸用ダイが凝固浴に浸漬される、いわゆる「ウエット(wet)」プロセスであってよく、又は紡糸用ダイが凝固浴の上方のある距離、一般には1mm~20cmに配置される、いわゆる「空隙(air‐gap)」プロセスであってよい。
【0018】
本発明による炭素繊維の生産方法は、実装が簡単であり、実装の各ステップは、当業者に公知の技法を用いた実施に好適である。更に、良好な品質、特に機械的品質を有する炭素繊維を、例えば製紙産業から得られる精製セルロース又はポリアクリロニトリルといった従来の前駆材料から炭素繊維を生産するために必要であったコストよりも大幅に低い特に有利なコストで、形成できる。
【0019】
特に、繊維内の分子構造の再構成を誘発する、連続セルロース系繊維を調製するステップを含む、本発明による方法により、リサイクル綿繊維の直接的な炭素化によって得られる炭素繊維より大幅に優れた機械的特性を有する最終的な炭素繊維を得ることができる。特に、本発明による方法により、有利なことに、1200MPa超、更には2500MPa以上の応力耐性、及び75GPa超、更には200GPa以上のヤング率を有する炭素繊維を得ることができる。これは、従来技術で提案されている、リサイクル綿から炭素繊維を生産する方法では不可能である。これらの機械的特性により、上記炭素繊維は、使用される材料の高い強度が必要となる分野での使用に極めて適したものとなる。
【0020】
より一般には、本発明による生産方法で得られる炭素繊維は、多数の分野に用途を見出し、特に、建造物及びインフラストラクチャ、産業設備、自動車、鉄道又は海上輸送、電気及び電子機器、スポーツ及びレジャー、再生可能エネルギ、特に風力エネルギといった多様な分野での使用を目的とした材料又は部品の作製という用途を見出す。この目的のために、上記炭素繊維は、そのままの状態、不織布形態に組み立てられた状態、又は織布若しくはニットの形態で、任意に他のタイプの繊維と混合して使用できる。
【0021】
本発明による生産方法で得られる炭素繊維は有利なことに、そのコストの低さから、応力耐性が中程度でコストが低い強化繊維の使用が必要な用途でガラス繊維を置換するために使用できる。例えば、本発明による方法で得られる炭素繊維は、建造物、又は風力若しくは海上タービンのブレードといった再生可能エネルギ生産の分野で、構造物を製造するために使用でき、これまでに使用されてきたガラス繊維の全て又は一部を置換する。本発明による炭素繊維は例えば、これらのガラス繊維の5~40%、特に10~30%を置換するために使用できる。
【0022】
従って本発明は特に、大型の、即ち長さが少なくとも30メートル、典型的には長さが40~100メートルの、風力タービンのブレード、又は海上タービンのブレードに関し、これは、ポリマー樹脂マトリクス中に分散された強化繊維をベースとする複合材料から形成され、また上記ブレードは、5~40%、好ましくは10~30%が、本発明による生産方法で得られたセルロース由来の炭素繊維からなり、残部がガラス繊維からなる強化繊維である、2つのブレード半体から形成される。セルロース由来のこれらの炭素繊維の密度は有利なことに、好ましくは1.3~1.8g/m3であるが、ガラス繊維の密度はおおよそ2.2g/m3である。本発明によって得られるセルロース由来の炭素繊維の、強化繊維の全量に対する上述のパーセンテージは、ブレードの翼形部の強化繊維に関して定義され大型ブレードに関して、ブレードの内部の、ブレード半体によって画定される容積内に組み込まれる、樹脂‐炭素複合材料スパー(一般に「スパーキャップ(spar cap)」と呼ばれる)に含まれる炭素繊維のパーセンテージとの合計で理解される。
【0023】
ブレード内のセルロース由来の炭素繊維のパーセンテージ及び分布は、特に以下の複数の基準に従って計算される:寸法及び機械的特性、重量、サイズ、モータエネルギ、目標風力タービン出力(有利には3~8MW)。
【0024】
このようにして得られる、風力タービン又は同様の(例えば海上タービン)のブレードによって、目標とする長さ及び機械的特性のために構造体のモータが必要とする電力を削減できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明による方法は更に、以下に記載の特徴の1つ以上を満たすことができる。これらの特徴は、単独で、又はその技術的に有効な組み合わせそれぞれにおいて、使用される。
【0026】
本発明による方法のステップa2)において実施される、綿から作製された製造品の、そこから短い繊維の形態の綿を抽出することを目的とした機械的処理は、当業者に公知のいずれの方法に従って実施してよい。
【0027】
この機械的処理は、製品を解繊し、これをほぐして繊維を抽出するステップを含んでよい。
【0028】
このステップの前に、清掃及び/又はゴミの除去、切断、並びに製品の、綿だけを含むわけではない部分、例えばボタン、シーム、ジッパー、フロック加工要素等の除去といった、様々な予備処理作業を実施してよい。
【0029】
また上記ステップの前又は後に、製造品又は製造品由来のリサイクル綿繊維の、様々な他の機械的又は化学的処理作業、例えば脱インク処理を実施して、使用済みの綿から、製造品の仕上げに使用された染料や仕上げ剤等の非セルロース系無機及び有機要素のいずれの痕跡を除去してよい。
【0030】
本発明の特定の実施形態では、製造品の組成中に使用されている繊維は、綿繊維のみであり、他のいずれの材料が排除されている。このような製品は特に「100%綿」という表現で特に指定されている。
【0031】
このような実施形態では、本発明による方法は特に、炭素繊維の生産を目的としてリグノセルロース系バイオマスからセルロースを調製するために従来技術で使用されているもののような、リサイクル綿繊維のいかなる高度な精製ステップも含まない。よって、本発明による方法によって炭素繊維を生産するために必要な時間及びコストは、リグノセルロース系バイオマスから炭素繊維を調製するための従来の方法の時間及びコストよりも大幅に少ない。特に、紡糸ステップに供されるセルロース系原材料のコストは、炭素繊維の調製のための従来の方法のコストよりも大幅に低い。
【0032】
本発明の代替実施形態では、本発明による炭素繊維の生産方法の実装の元になる製造品は、綿以外の1つ以上の材料から作製された繊維、特に非セルロース系合成繊維を含有する。この点に関して、一般にポリエステルと呼ばれる合成ポリエチレンテレフタレート(PET)フィラメント、アクリル繊維(例えばポリアクリロニトリル(PAN))、エラスタンの繊維、ポリウレタン‐ポリウレアコポリマー、又は一般にナイロンと呼ばれるポリアミド繊維の例を挙げることができる。
【0033】
布地産業で使用される最も一般的な混合物は、ポリ綿としても知られるPET‐綿混合物である。
【0034】
布地製造品の組成中の綿繊維‐合成繊維混合物中の非セルロース系合成繊維の質量含有量は、0~50%であってよい。
【0035】
このような合成繊維が、本発明による方法が適用される製造品に含有される場合、製品を機械的に処理してリサイクル綿繊維を抽出するステップa2)の後、これらの合成繊維は、一般に10~20μmの直径と、実施された機械的処理の特定のタイプに応じた長さとを特徴とする。
【0036】
本発明の特定の実施形態では、炭素繊維の生産方法は、機械的処理ステップa2)の終了時に得られたリサイクル綿繊維と、このステップの終了時に混合されている可能性がある不純物、特にリサイクル綿繊維と混合されている可能性がある(天然繊維である綿繊維とは対照的な)非セルロース系合成繊維、例えばポリエステル繊維、エラスタン繊維、並びに/又は本発明に従って実装される溶媒紡糸プロセスの収率を低下させる可能性がある、特に紡糸用ダイをブロックする及び/若しくは凝固を妨げる、他のいずれの材料を、除去するステップを含む。
【0037】
この不純物を除去するステップは、溶媒溶液中にリサイクル綿繊維を溶解させるステップa3)の前又は後、即ち紡糸用溶液の調製前又は後に実装してよい。上記ステップは常に、溶媒紡糸プロセスによって連続繊維が生産されるステップa4)の前に実装される。
【0038】
上記ステップは、それ自体は従来のものである機械的分離手段、化学的分離手段、及び/又は酵素による分離手段によって実施してよい。
【0039】
複数のこのような除去ステップを連続して実施してよく、また任意に、そのうちの一部を、紡糸用溶液を調製するステップa3)の前に実施し、その他をステップa3)の後に実施する。
【0040】
本発明に従って、本発明によるリサイクル綿繊維と混合された不純物、より詳細には合成繊維を分離する上記ステップを実施すると、有利なことに、溶媒紡糸プロセスステップの実装が容易になり、本発明による炭素繊維の生産方法の収率が上昇する。
【0041】
本発明の代替実施形態では、リサイクル綿繊維と混合された不純物、特に非セルロース系合成繊維を除去するステップは、紡糸用溶液を調製するステップa3)の後、即ち例えばリン酸溶液である溶媒溶液中にリサイクル綿繊維を溶解させた後で実施される。このステップa3)で使用される溶媒は好ましくは、リサイクル綿繊維を溶解するものの、非セルロース系合成繊維を溶解しないように選択される。不純物を除去するステップは、溶解していない繊維を紡糸用溶液から分離することを含む。
【0042】
有利には、この分離は機械的ろ過によって実施できる。上記分離は2ステップで実施してよい。第1のろ過ステップは、溶解していない不純物を含有する紡糸用溶液を、メッシュサイズ350×350μmのフィルタを備えたフィルタプレスタイプのデバイスに入れるステップからなってよい。溶液は、7~10barの圧力下でろ過される。この操作により、最も長い合成繊維、即ち長さ1mmを超える繊維が除去された中間溶液を得ることができる。第2のろ過ステップは、メッシュサイズがそれぞれ60×60μm、80×80μm、350×500μmのスクリーンを備える3層フィルタを使用してよい。紡糸用溶液を、10~50barの圧力下で、これらの連続するフィルタでろ過し、回収できる。この第2のステップにより、紡糸用溶液中で溶解していない全ての合成繊維を除去できる。
【0043】
機械的ろ過によるこのような分離により、有利なことに、全ての溶解していない合成繊維を、その化学的性質にかかわらず、非選択的に分離できる。
【0044】
本発明の更なる代替実施形態では、リサイクル綿繊維と混合された不純物、特に非セルロース系合成繊維を除去するステップは、紡糸用溶液を調製するステップa3)の前、即ち溶媒溶液中にリサイクル綿繊維を溶解させる前に実施される。
【0045】
不純物を除去するステップは、非セルロース系合成繊維とリサイクル綿繊維との分離を含む。この分離は、それ自体は公知のものであるいずれの従来の方法を用いて実施してよい。
【0046】
上記分離は例えば、除去対象の合成繊維のタイプに特異的な溶媒を用いて、非セルロース系合成繊維を選択的に溶解させることによって実施できる。
【0047】
例えば、合成繊維がポリエステル繊維である場合、混合物中に存在するリサイクル綿繊維を劣化させることなく、ポリエステル繊維をジクロロメタンとテトラヒドロフランとの混合物中に溶解させることができる。あるいは、濃縮された高温の苛性ソーダ溶液を用いて、ポリエステル繊維を溶解させてもよい。
【0048】
あるいは、例えば仏国特許第2998572号に特に記載されているように、解重合によって、例えば解糖によってポリエステル繊維を除去してもよい。解糖は例えば、ポリエステル繊維とリサイクル綿繊維との混合物をエチレングリコール及び酢酸亜鉛の存在下に置き、還流下で198℃まで加熱することによって実施できる。PETのモノマーの1つであるビスヒドロキシエチルテレフタレート結晶が沈降によって得られる。
【0049】
合成繊維が、綿をベースとする製造品の中でPETの次に一般的な化合物であるエラスタン繊維である場合、Text. Res. J. 84, 16‐27中のYin et al., 2014による刊行物に特に記載されているように、エラスタン繊維とリサイクル綿繊維との混合物を例えば、高温条件下、特に約220℃で、ジメチルホルムアミド又はエタノールの存在下に置き、超音波混合段階に供することによって、エラスタン繊維の選択的溶解を誘発してよい。
【0050】
あるいは、非セルロース系合成繊維とリサイクル綿繊維とを分離するステップは、非セルロース系合成繊維の選択的酵素分解によって実施してもよい。
【0051】
溶媒溶液中にリサイクル綿繊維を溶解させるステップa3)は、溶媒紡糸プロセスの分野におけるいずれの従来のセルロースの溶媒溶液を使用してよい。使用する溶媒の特定の選択は、使用する紡糸技法に依存する。
【0052】
例えば、溶媒溶液は、塩化亜鉛、リン酸、ギ酸、ジメチロール‐エチレン尿素(DMEU)、N‐メチルモルホリン‐N‐オキシド(NMMO)、イオン液体、又はこれらの技術的に可能な混合物のうちのいずれか1つの溶液から選択される。
【0053】
本発明の特定の実施形態では、溶媒溶液はリン酸溶液である。
【0054】
溶媒溶液中でのリサイクル綿繊維の溶解は、熱処理によって、例えばそれ自体は従来の方法での減圧下での加熱、及びそれに続く超低温への冷却によって、支援できる。
【0055】
本発明の好ましい実施形態では、溶媒溶液中にリサイクル綿繊維を溶解させるステップa3)において、リサイクル綿繊維を精製セルロースと混合する。
【0056】
本記載では、精製セルロースは、リグノセルロース系バイオマスから得られるセルロース、特にいわゆる紙セルロース、即ち製紙プロセス由来の、本発明によって得られるリサイクル綿繊維が含有するセルロースよりも純度が高いセルロースを指す。精製セルロースは、従来技術の方法において、炭素繊維の生産に日常的に使用されている。
【0057】
本発明の文脈において使用される精製セルロースは、堅材若しくは樹脂木材由来、わら又は綿等の一年生植物由来であってよい。精製セルロースは、例えばクラフトプロセス又はソーダプロセスを用いる、それ自体は従来のものであるいずれの方法を使用して得られたものであってよい。
【0058】
紡糸用溶液中に組み込まれたリサイクル綿繊維と精製セルロースとの混合物中では、精製セルロースは好ましくは、リサイクル綿繊維と精製セルロースとの混合物の総重量に対して20~90重量%、好ましくは40~60重量%、例えば約50重量%の量で存在する。
【0059】
ステップa3)で溶媒溶液中に溶解される、リサイクル綿繊維由来のセルロースと、これに添加された精製セルロースが存在する場合はその精製セルロース由来のセルロースとの総量は、得られる紡糸用溶液の総重量に対して1~50重量%、好ましくは5~30重量%、例えば10~20重量%である。
【0060】
よって、本発明による方法のステップa3)において、溶媒溶液中に溶解されるリサイクル綿繊維の濃度、又は精製セルロースを添加する場合はリサイクル綿繊維と精製セルロースとの混合物の濃度は、得られる紡糸用溶液の総重量に対して1~50重量%、好ましくは5~30重量%、例えば10~20重量%である。
【0061】
リサイクル綿繊維は、精製セルロース以外の物質、例えばリグニン又はポリアクリロニトリルと混合される場合もあり、これにより有利なことに、機械的特性が更に増強された、特に4000MPaを超える応力耐性を有する炭素繊維を形成できる。これらの機械的特性により、炭素繊維は、使用される材料の極めて高い強度が要求される用途の分野での使用、例えば水素タンクの製造に特に好適なものとなる。
【0062】
本発明による方法の後続のステップを実施する前に、紡糸用溶液をろ過して、紡糸用溶液から固体粒子を除去してよい。
【0063】
本発明による方法は、材料をより良好に構造化すること、形成される繊維の機械的特性を増強することなどを目的として、紡糸用溶液に1つ以上の添加剤を添加するステップを含んでよい。
【0064】
特に、これらの添加剤はそれぞれ、紡糸用溶液中に、紡糸用溶液の総重量に対して1ppm~10重量%、好ましくは紡糸用溶液の総重量に対して1ppm~5重量%、例えば100ppm~1重量%の含量で存在してよい。
【0065】
本発明による紡糸用溶液への添加に好適な添加剤の例は、無水マレイン酸グラフト化ポリマー又はコポリマー等の相溶化剤である。例えば特にArkema社が販売しているLotader(登録商標)3300、又はDzBh製のBeiwa(登録商標)901を挙げることができる。
【0066】
本発明の特定の実施形態では、本発明による方法のステップc)の実装中、又は直前若しくは直後に、ナノメートルサイズの炭素質充填剤、又は複数のナノメートルサイズの炭素質充填剤を、紡糸用溶液に添加する。ナノメートルサイズの炭素質充填剤は好ましくは、ステップc)の間に溶媒溶液中に溶解されるリサイクル綿繊維の重量に対して、又は精製セルロースを添加する場合はリサイクル綿繊維と精製セルロースとの混合物の重量に対して、1ppm~30重量%の量で添加される。この濃度は特に0.001~5重量%であり、また特に0.01~5重量%である。
【0067】
本明細書では、「ナノメートルサイズの炭素質充填剤(nanosized carbonaceous filler)」は、単層若しくは多層カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバ、グラフェン、酸化グラフェン、還元された酸化グラフェン、フラーレン、セルロースナノフィブリル、ナノ結晶セルロース、及びカーボンブラック、又はこれらの要素のいずれの混合物からなる群の1つの要素を含む充填剤を指す。好ましくは、本発明による紡糸用溶液中に組み込まれるナノメートルサイズの炭素質充填剤は、カーボンナノチューブのみ、又はグラフェンと混合されたカーボンナノチューブである。カーボンナノチューブは例えば、Arkema社によってGraphistrength(登録商標)の名称で販売されている。
【0068】
本発明によるナノメートルサイズの炭素質充填剤は、0.1~200nm、好ましくは0.1~160nm、特に0.1~50nmという、比較的小さな寸法を有してよい。この寸法は例えば光散乱によって測定できる。
【0069】
本発明によると、「グラフェン(Graphene)」は、平面状の、単離されて個別化されたグラファイト層を意味するが、拡張によって、1層から数十層までの層を備え、平面状の又は多少起伏を有する構造を有する組立体も意味する。よってこの定義は、FLG(Few‐Layer Graphene:数層グラフェン)、NGP(Nanosized Graphene Plate:ナノサイズグラフェンプレート)、CNS(Carbon NanoSheet:カーボンナノシート)、GNR(Graphene NanoRibbon:グラフェンナノリボン)を含む。一方、この定義は、1つ以上のグラフェン層を同軸に巻いて構成されるカーボンナノチューブ、及びこれらの層を乱層的に積み重ねて構成されるナノファイバを除外する。
【0070】
ナノメートルサイズの炭素質充填剤は好ましくは、本発明による紡糸用溶液中に、液体分散体の形態で組み込まれ、上記液体分散体は水性又は溶媒ベースのものであってよい。
【0071】
ナノメートルサイズの炭素質充填剤の分散は、場合によっては界面活性剤の存在下で、超音波プローブ、高せん断ミキサー、又は従来から使用されている他のいずれのデバイスによって実施してよい。
【0072】
連続セルロース繊維を形成するために、本発明による方法のステップa4)で実装される紡糸プロセスは、当業者に公知のいずれのタイプのものであってよい。
【0073】
上述のように、このステップでは、紡糸用溶液は凝固浴中へと、(いわゆる「湿式紡糸(wet‐spinning)」法に従って)1つ以上の孔からなる紡糸用ダイを介して、静止状態の若しくは流れている状態の浴中に直接注入されるか、又は(いわゆる「乾式‐ジェット‐湿式紡糸(dry‐jet‐wet spinning)」法に従って)空隙を介して注入される。凝固浴に接触すると繊維は固化する。こうして、連続セルロース系繊維が有利な様式で得られる。
【0074】
使用される凝固浴は、紡糸用溶液の組成に使用される溶媒、及び使用される溶媒紡糸プロセスの特定のタイプに応じて、それ自体は従来のものであるいずれの組成を有してよい。
【0075】
例えば凝固浴は、イソプロパノール、水、アセトン、若しくは接触時にセルロースを凝固させることができる他のいずれの溶媒、又はこれらの混合物のうちのいずれか1つで形成できる。
【0076】
使用される溶媒紡糸プロセスは、それ自体は従来のものであるいずれのタイプのものであってよい。溶媒紡糸プロセスは例えば、リン酸を紡糸用溶液のための溶媒として使用するプロセス、ビスコースプロセス、リヨセルプロセス、又は紡糸用溶液のための溶媒としてイオン性液体を使用するプロセスからなってよい。
【0077】
本発明の範囲内での使用に好適な溶媒紡糸プロセスの特定の例は、特に国際公開第85/05115号、米国特許第5,817,801号、米国特許第5,804,120号、又はPolymer, 42:7371‐7379中のBoerstel, 2001、若しくはJACS, 124: 4974‐4975中のSwatloski, 2002による刊行物に記載されている。
【0078】
本発明のある特定の実施形態では、紡糸用溶液は、任意に非イオン性乳化剤の存在下で、リン酸をベースとして形成され、また凝固浴は、イソプロパノールのみ、又は水と混合物されたイソプロパノールから形成される。
【0079】
本発明による紡糸法で得られる、モノフィラメント形態であってもマルチフィラメント形態であってもよい連続セルロース系繊維を、次に洗浄及び乾燥してよい。
【0080】
任意に、上記連続セルロース系繊維を牽引ステップに供して、より長い繊維を形成する。
【0081】
繊維を牽引するステップは、このような作業を実施するための、当業者には公知のいずれの方法に従って、またいずれの装置を用いて、実施してよい。上記ステップは特に、繊維を形成する材料の軟化を誘発する温度で実施してよい。この目的のために、繊維に、いわゆる供給ローラの列の上、上記温度まで加熱された炉、及びいわゆる牽引ローラの列の上上を連続的に通過させる。繊維は、供給ローラ及び牽引ローラの回転速度の比に応じて、2つのローラの列の間で牽引される。そうでない場合、繊維を、異なる速度で回転する複数の加熱ローラ上で牽引することもできる。
【0082】
このような牽引により、有利なことに、ポリマー鎖を繊維の軸に沿って整列させることができる。
【0083】
任意に、紡糸のアウトプットにおいて、繊維を、γ線、β線、電子ビーム、UV光線といった放射による処理によって処理してよい。
【0084】
そして、得られたセルロース系繊維(これはかなりの長さを有する場合がある)を、例えばボール紙の管に巻きつけてよい。
【0085】
続いて、本発明の方法に従って得られたセルロース系繊維を、それ自体は従来の方法でサイズ調整してよく、その後、連続炭素繊維を得るために炭素化ステップに供する。
【0086】
本発明のある代替実施形態では、ナノメートルサイズの炭素質充填剤を、上述のような紡糸用溶液ではなく、サイズ調整用浴に導入する。
【0087】
本発明による方法の、連続セルロース系繊維を炭素化するステップb)は、セルロース繊維の炭素化に関する従来技術において記述されている動作パラメータのいずれの組み合わせを用いて、それ自体は従来のものである方法で実施される。
【0088】
上記ステップは好ましくは、不活性雰囲気下で実施される。
【0089】
炭素化は、連続的に実施してよく、この場合繊維が炭素化炉を通過し、又は不連続に、即ち静止状態で実施してよく、この場合繊維は好ましくは炉内で張力下に維持される。
【0090】
炭素化の前に、繊維に、シロキサン等の炭素化支援剤を含浸させてよい。
【0091】
炭素化は、1000~1500℃で実施してよく、また任意に、約250℃の空気中での安定化ステップを先に実施してもよい。
【0092】
任意に、炭素化ステップの前に、連続セルロース系繊維に、いわゆる炭素化剤を含浸させてよく、これは、最終的に得られる炭素繊維の機械的特性の向上、及び炭素化ステップの炭素収率の向上を促進する。これらの炭素化剤は、それ自体は従来のものである。
【0093】
本発明の特定の実施形態では、炭素化炉は密閉され、1.104Pa(0.1bar)未満の値の真空下に置かれる。続いて炭素化炉に、窒素、アルゴン等の不活性ガスを充填し、ガスの流量が1時間あたり50~500回の換気回数となるように、ガスの漏れを生成する。炉内の圧力は好ましくは、大気圧より1.103Pa~5.104Paだけ高い。炭素化炉に適用される温度は、好ましくは800℃~1500℃である。
【0094】
この炭素化処理の後、炭素繊維が得られる。
【0095】
続いてこの炭素繊維を任意に黒鉛化処理に供してよく、これにより、優れた炭素構造が得られ、従ってより有利な機械的特性が得られる。この処理は例えば、繊維を不活性ガス中で、5~20分の期間にわたって2000~3000℃まで加熱することによって実施できる。
【0096】
そうでない場合、本発明によるセルロース系繊維は、異なる複数の炉を連続的に通過させることによって連続的に炭素化してよく、上記複数の炉のうち、炭素化炉は800℃~1500℃の不活性雰囲気を内包し、これに続く黒鉛化炉は2500℃である。これらの炉内での繊維の移動速度は特に、1~100m/hである。
【0097】
本発明による方法の終了時に得られる炭素繊維は、5~30マイクロメートルの直径、及び数メートルの長さを有してよい。
【0098】
本発明の特定の実施形態では、上記方法は、ステップa4)又はa5)で得られた複数の連続セルロース系繊維から、セルロース系繊維のウェブを形成するステップを含む。その後、連続セルロース系繊維のウェブを炭素化することによって、この連続セルロース系繊維を炭素化するステップb)を実施し、炭素繊維で作製されたウェブを形成する。
【0099】
本発明によるセルロース系繊維で形成されたウェブは、いずれの形状及びいずれの寸法を有してよい。繊維は上記ウェブ中において:単独で若しくは組み合わせて使用される、例えばタフタ、ツイル織り、サテン等といった異なる重量及び織りの織布;又は例えば全ての繊維が同一方向に配向された、若しくは繊維がランダムに配向された、ボイル布地、フェルト、若しくは不織フィルムといった不織布として配置できる。ここで「単方向ウェブ(unidirectional web)」という用語を使用する。
【0100】
本発明による連続セルロース系繊維は、ウェブ中において、単独で、又は他のタイプの繊維と組み合わせて使用できる。
【0101】
連続セルロース系繊維のウェブの炭素化は、当業者に公知のいずれの炭素化方法に従って、炭素化炉内において静止状態で、又は連続的に移動している状態で、実施してよい。個々の繊維の処理に関して上述した炉が、本発明による連続セルロース系繊維のウェブの炭素化にも同様に適用される。
【0102】
本発明による連続セルロース系繊維のウェブは、個別に、又は複数のウェブの積層体の形態で、又は所望の形状への成形後に、炭素化に供してよい。
【0103】
本発明の更なる態様は、上述の特徴のうちの1つ以上を満たす、本発明による方法で得られた炭素繊維に関する。
【0104】
この炭素繊維は連続したものであり、1~1000μm、好ましくは15~30μmの直径、及び数メートルの長さを有してよい。
【0105】
上記炭素繊維は有利には、1200MPa超、好ましくは2000MPa以上の応力耐性、及び/又は75GPa超、好ましくは200GPa以上のヤング率を有してよく、これらのパラメータは、ISO 11566規格に従って測定される。
【0106】
本発明の更なる態様は、本発明による炭素繊維の生産方法の実装中、この方法のステップa)の終了時に中間産物として得られる連続セルロース系繊維に関する。このセルロース系繊維は、リサイクル綿のみ、又は上で列挙されているような他の構成要素と混合されたリサイクル綿から形成される。
【0107】
この連続セルロース系繊維は、10~30μmの直径、及び/又は20~40cN/texの強度、及び/又は15~30GPaのヤング率を有してよく、これらのパラメータは、ISO 2062規格に従って測定される。
【0108】
上記連続セルロース系繊維は有利には、保管可能かつ輸送可能である。
【0109】
更なる態様によると、本発明は、本発明による炭素繊維から得られる炭素繊維のウェブに関し、上記炭素繊維は、互いに織られた若しくは編まれたものであってよく、又は不織布形態の中に併置される。
【0110】
本発明の更なる態様は、本発明による炭素繊維の生産方法で得られる炭素繊維のウェブに関し、この方法は、上記方法のステップa4)又はa5)で得られる複数の連続セルロース系繊維から、セルロース系繊維のウェブを形成するステップ;及び上記連続セルロース系繊維を炭素化して炭素繊維のウェブを形成するステップを含む。
【0111】
本発明はまた、例えば結合剤中に分散された強化繊維をベースとした複合材料から作製された物品を生産するためのプリフォームを形成するための、任意に所望の形状に成形された、本発明による連続セルロース系繊維の複数のウェブを積み重ねることによって、又は本発明による炭素繊維の複数のウェブを積み重ねることによって得られる、繊維質3次元構造に関する。
【0112】
更なる態様によると、本発明は、有機ポリマー樹脂マトリックス中に分散された炭素繊維で作製された複合材料製の物品を生産するための、本発明による炭素繊維又は炭素繊維のウェブの使用に関する。
【0113】
本発明による別の態様は更に、有機ポリマー樹脂マトリックス中に分散された炭素繊維で作製された複合材料製の物品を生産する方法に関し、この方法は:
‐個々の連続セルロース系繊維を炭素化することによる炭素繊維の生産を含む、本発明による炭素繊維の生産方法を実装し、これによって得られた複数の炭素繊維から炭素繊維のウェブを形成するステップ;又は連続セルロース系繊維のウェブの形成を含む、本発明による炭素繊維の生産方法を実装し、この繊維のウェブを炭素化して炭素繊維のウェブを形成するステップ;並びに
‐このようにして得られた炭素繊維の複数のウェブから、複合材料製の物品を生産するステップ
を含む。
【0114】
本発明によって得られる炭素繊維の複数のウェブから複合材料製の物品の生産は、当業者にとってはそれ自体が従来のものであるいずれの方法に従って実施してよい。
【0115】
本記載において、複合材料は従来のように、即ち互いに結合された複数の異なる材料又は基本構成要素の組立体、より詳細には、有機ポリマー樹脂のマトリックス中に分散された、機械的強度が高い長い繊維(本発明の場合においては炭素繊維)からなるものとして定義される。本明細書では、用語「樹脂(resin)」は、中に繊維がある程度組織的に分散される構造接着剤として作用する、熱可塑性タイプであっても熱硬化性タイプであってもよいポリマー化合物を定義する。このようにして形成される複合材料は、機械的強度及び軽量性の点で極めて有利な固有の機械的特性を有する。
【0116】
大まかに言って、このような複合材料の生産は、非重合有機樹脂を含浸した複数の炭素繊維ウェブの積層体を、この樹脂の重合を誘発する条件、特に温度条件下で、所望の形状に従って成形するステップからなる。
【0117】
本発明による複合材料製の物品は例えば:樹脂を予め含浸させた層(上記層のうちの少なくともいくつかは、本発明による炭素繊維のウェブからなる)を緩く重ね、全体をオートクレーブ内で重合させて、従来の方法で複合材料を形成する技法を用いて;又は乾燥した繊維の層(上記層のうちのいくつかは、本発明による炭素繊維のウェブからなる)に対する樹脂射出若しくは注入技法によって、特にRTMと呼ばれる樹脂トランスファー成形技法によって、生産できる。
【0118】
本発明によって生産される複合材料は、モノリシックタイプのもの、及び/又は例えばハニカム構造を有するサンドイッチタイプのものであってよい。
【0119】
繊維は:単独で若しくは組み合わせて使用される、例えばタフタ、ツイル織り、サテン等といった異なる重量及び織りの織布;又は例えば全ての繊維が同一方向に配向された不織布として配置できる。
【0120】
本発明によって得られる炭素繊維は、単独で、又は1つ以上の他のタイプの繊維と組み合わせて使用でき、このような組み合わせのいずれの構成も本発明の範囲内である。
【0121】
それ自体は従来のものであるいずれの樹脂、特に熱硬化性樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、若しくはこれら2つの混合物、又は熱可塑性樹脂を、本発明の文脈において使用してよい。
【0122】
更なる態様では、本発明は、上述の特徴のうちの1つ以上を満たす、本発明による生産方法で得られる有機ポリマー樹脂マトリックス中に分散された炭素繊維で生産された複合材料製の物品に関する。
【0123】
このような複合材料製の物品は有利なことに、多数の分野において用途を見出す。
【0124】
本発明の特徴及び利点は、
図1を参照して、本発明を限定するものではなく単なる例示として提供される以下の実施例に照らして、更に明らかになるだろう。
図1は、a)合成繊維の分離前、b)ろ過による分離の第1のステップの後、c)紡糸用溶液から合成繊維をろ過によって分離する第2のステップの後の、本発明による、綿、ポリエステル、及びエラスタンをベースとした布地製造品から炭素繊維を生産する方法の実装中に形成される紡糸用溶液の顕微鏡写真を示す。
【0125】
実施例1‐100%綿のズボンのリサイクル
例えば、本発明による炭素繊維の生産方法は、綿から作製された布地製品、例えば100%綿のズボンを用いて実装される。
【0126】
本発明によると、ボタン、ジッパー、及び他のいずれの金属製要素を、これらのズボンから取り外す。
【0127】
次に、それ自体は従来のものである方法で、ズボンを切断し、解繊してほぐす作業を行い、長さ5mm未満の小さな綿繊維を得る。
【0128】
これらの繊維を、混合物の総重量に対して10重量%の量のリン酸に溶解させる。
【0129】
この溶液に、ボールミル及び超音波プローブに接続された反応器で形成された水性カーボンナノチューブ分散体を、Brij520の名称で市販されている界面活性剤(濃度1.2重量%)の存在下で0.9重量%の量のカーボンナノチューブを水中に分散させることによって添加する。
【0130】
この水性分散体を、紡糸用溶液に、紡糸用溶液が含有するセルロースの重量に対して0.1重量%の量で添加する。光学顕微鏡及び粘度測定によって、溶解品質を確認する。この分散体は、1μm以上のサイズの凝集物を含有しない。
【0131】
この溶液に、Emulan(登録商標)の名称で市販されている製品のような非イオン性乳化剤も、紡糸用溶液が含有するセルロースの重量に対して0.2重量%の量で添加する。このような非イオン性乳化剤は有利なことに、リサイクル綿繊維のセルロースへのリン酸の含浸を促進する。
【0132】
混合物を100mbarの減圧下において40rpmで撹拌しながら、15分にわたって45℃まで加熱した後、同一の減圧及び同一の撹拌を用いて、3時間にわたって-10℃で冷却する。続いて混合物を、ここでも同一の減圧及び撹拌条件下で、一晩にわたって0℃に保持し、最終的に-10℃まで冷却する。
【0133】
本発明による方法のある代替実施形態では、リサイクル綿繊維をリン酸溶液中で、製紙プロセスから得られた木材由来の比較的高純度のセルロースと、例えばリサイクル綿繊維/紙セルロースの重量比20/80又は50/50で混合する。
【0134】
得られた紡糸用溶液を、それぞれ直径80μmの孔を500個備えた紡糸用ダイを介して押し出し、イソプロパノール/水混合物(体積比60/40)で構成された凝固浴中へと直接射出する。
【0135】
紡糸パラメータは例えば以下の通りである:紡糸用溶液温度0℃、移送ポンプ速度800rpm、凝固浴温度20℃。
【0136】
中にカーボンナノチューブが捕捉されて十分に分散されているセルロース繊維が、凝固浴中で形成される。
【0137】
形成された繊維を、繊維に残ったリン酸を除去する目的で、水酸化カリウムKOHをベースとした20℃の中和浴に入れ、続いて15℃の水で洗浄するためにバッチ化し、その後、250℃の炉内で高温の空気を用いて乾燥させる。
【0138】
続いて繊維を、それ自体は従来のものである方法で、160℃の加熱ローラ上で牽引する。
【0139】
次にセルロース系繊維を、12.1m/分の巻き上げ速度で巻き上げる。
【0140】
直径約25μm、長さ数メートルの、セルロース系マルチフィラメント繊維が得られる。
【0141】
この連続セルロース系繊維は、20~40cN/texの強度、及び15~30GPaのヤング率を有する(これらのパラメータは、ISO 2602規格に従って測定される)。
【0142】
次にこの連続セルロース系繊維を、約250℃の空気中での安定化ステップに供した後、
20℃から1200℃まで3℃/分の温度勾配を用いて、張力下において、窒素中で静的炭素化ステップに供する。
【0143】
炭素化ステップの前に、連続セルロース系繊維にいわゆる炭素化剤を含浸させてよく、この炭素化剤は、最終的に得られる炭素繊維の機械的特性の向上、及び炭素化ステップの炭素収率の向上を促進する。
【0144】
炭素化ステップに続いて、繊維を不活性ガス中で、5~20分の持続時間にわたって2000~3000℃に加熱することによる、黒鉛化ステップを実施してよい。
【0145】
この方法の終了時、特定の満足できる機械的特性、特に1200MPa超の応力耐性及び75GPa超のヤング率(これらのパラメータは、ISO 11566規格に従って測定される)を有する炭素繊維が得られる。この炭素繊維は、従来技術で提案されている従来の方法によって形成される炭素繊維に比べて、大幅に低コストで得られた。
【0146】
この炭素繊維は、多くの用途のため、例えば複合材料製の物品を生産するために使用でき、この場合上記繊維は有機ポリマー樹脂中に分散される。
【0147】
実施例2‐綿、ポリエステル、及びエラスタンから作製されたズボンのリサイクル
本発明による炭素繊維の生産方法は、大半が綿であるが、より少量のエラスタン及びポリエステルもベースとして作製されたズボンを用いて実装される。
【0148】
本発明によると、ボタン、ジッパー、及び他のいずれの金属製要素を、これらのズボンから取り外す。
【0149】
次に、それ自体は従来のものである方法で、ズボンを切断し、解繊してほぐす作業を行い、長さ5mm未満の小さな綿繊維を得る。これらの繊維は、綿繊維、合成エラスタン(ポリウレタンとポリウレアとのコポリマー)繊維、及び合成ポリエステル繊維を含む。
【0150】
第1の代替実施形態によると、この繊維の混合物を、混合物の総重量に対して10重量%の量のリン酸溶液と混合する。紡糸用溶液が得られ、この紡糸用溶液中では、綿繊維が溶解されるもののポリエステル及びエラスタン繊維は溶解されない。
図1のa)では、顕微鏡によって得られたこの溶液の画像が示されている。この画像では、多数の溶解していない合成繊維の存在が観察される。紡糸用溶液をろ過して、固体不純物を除去する。
【0151】
ろ過は以下の2ステップで実施される:
‐7~10barの圧力下における、メッシュサイズ350×350μmのフィルタを備えたフィルタプレスタイプのデバイス中での第1のろ過ステップ。このステップの終了時には、最も長い合成繊維が溶液から除去され、
図1のb)に示すように短い合成繊維が残る;
‐10~50barの圧力下における、メッシュサイズ60×60μm、80×80μm、及び350×350μmのスクリーンを備えた3層フィルタを用いた第2のろ過ステップ。このステップの終了時には、
図1のc)に示すように、全ての合成繊維が溶液から除去されていることが観察される。
【0152】
このようにして得られた、非セルロース系合成繊維で形成された固体不純物が除去された溶液は、紡糸用溶液を形成し、これはその後、本発明による炭素繊維の生産方法において使用される。
【0153】
第2の代替実施形態によると、繊維混合物を、Text. Res. J. 84, 16‐27中のYin et al., 2014による刊行物に記載されたプロトコルに従って、2時間にわたって220℃のジメチルホルムアミドと混合することにより、エラスタン繊維をこの繊維混合物から除去する。次に、このようにして得られた、綿繊維とポリエステル繊維との混合物を、ジクロロメタン及びテトラヒドロフランの溶液と混合して、この溶液に溶解するポリエステル繊維を除去する。このようにして単離された、溶解していないリサイクル綿 繊維を、混合物の総重量に対して10重量%の量のリン酸溶液と混合して、紡糸用溶液を形成する。
【0154】
このようにして得られた紡糸用溶液を用いて、本発明を、上の実施例1に記載されているように続行する。
【0155】
大まかに言って、水性カーボンナノチューブ分散体、非イオン性乳化剤、及び/又は精製セルロースが任意に添加された紡糸用溶液を、紡糸用ダイを介して押し出し、イソプロパノール/水混合物(体積比60/40)で構成された凝固浴中へと直接射出する。
【0156】
凝固浴中で連続セルロース繊維が形成され、これは中和された後乾燥され、また場合によっては牽引される。
【0157】
これらの連続セルロース系繊維を、空気中での安定化ステップに供した後、炭素化ステップに供する。
【0158】
この方法により、特に満足できる機械的特性を有する炭素繊維を、良好な収率及び低コストで形成できる。
【0159】
特に、この方法の実装中、紡糸用ダイの閉塞は観察されなかった。