IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミマキエンジニアリングの特許一覧

特許7368930多層印刷物製造システムおよび多層印刷物製造装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】多層印刷物製造システムおよび多層印刷物製造装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20231018BHJP
   B41J 2/21 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
B41J2/01 401
B41J2/01 305
B41J2/21
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2017192539
(22)【出願日】2017-10-02
(65)【公開番号】P2019043118
(43)【公開日】2019-03-22
【審査請求日】2020-06-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2017165410
(32)【優先日】2017-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年 8月29日にウェブサイトに掲載。 平成29年 8月31日~平成29年 9月 2日にSIGN & DISPLAY SHOW 2017にて展示。 平成29年 9月11日にカタログを配布。
(73)【特許権者】
【識別番号】000137823
【氏名又は名称】株式会社ミマキエンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】100140796
【弁理士】
【氏名又は名称】原口 貴志
(72)【発明者】
【氏名】堀内 雄平
(72)【発明者】
【氏名】道井 將
【合議体】
【審判長】殿川 雅也
【審判官】藤本 義仁
【審判官】門 良成
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-292019(JP,A)
【文献】特開2012-86461(JP,A)
【文献】特開平5-31980(JP,A)
【文献】特開2000-263866(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
B41J 11/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
図柄が形成される2つの図柄層と、
2つの前記図柄層の間に配置されて2つの前記図柄層の一方側に対して他方を隠蔽する隠蔽層と
が媒体に印刷された多層印刷物を製造する多層印刷物製造システムであって、
前記媒体に対してインクを吐出することによって印刷を実行するインクジェットヘッドと、
前記媒体をカットする媒体カット手段と、
前記媒体と前記インクジェットヘッドおよび前記媒体カット手段とを相対移動させる移動手段と、
前記インクジェットヘッドによる印刷および前記媒体カット手段によるカットを制御する印刷カット制御手段と
を備え、
前記印刷カット制御手段は、
前記移動手段によって前記媒体および前記インクジェットヘッドを相対移動させて、前記媒体に対して前記インクジェットヘッドに前記図柄層および前記隠蔽層を印刷させる印刷ステップと、
前記印刷ステップの後、前記移動手段によって前記媒体および前記媒体カット手段を相対移動させて、前記媒体カット手段に前記媒体をカットさせるカットステップと
を実行し、
前記媒体カット手段は、前記媒体をカットするカット刃を有し、
前記印刷カット制御手段は、前記媒体に対する前記カット刃の侵入深さを前記カットステップの前に決定するためのテストカットステップを実行し、
前記テストカットステップは、前記多層印刷物のうち前記カットステップでカットする箇所の印刷層群の厚みと同じ厚みの印刷層群を、前記媒体に対して前記インクジェットヘッドによって印刷させ、その後、この印刷層群を介して前記媒体に前記カット刃を侵入させてカットを実行するステップであり、
前記隠蔽層は、白層を含み、
前記白層は、前記隠蔽層に対して前記媒体側とは反対側に配置された前記図柄層である表層側に対して、前記隠蔽層に対して前記媒体側に配置された前記図柄層である裏層を隠蔽すると共に、前記表層側から入射した光を反射して前記表層側から前記表層を視認させるものであることを特徴とする多層印刷物製造システム。
【請求項2】
前記移動手段は、
前記インクジェットヘッドによる印刷前の前記媒体をロール状に巻かれた状態で繰り出し可能に支持する繰り出し部と、
前記インクジェットヘッドによる印刷後の前記媒体をロール状に巻き取った状態で支持する巻き取り部と
を備えることを特徴とする請求項1に記載の多層印刷物製造システム。
【請求項3】
前記印刷カット制御手段は、前記印刷ステップにおいて前記巻き取り部に前記ロール状に巻き取った前記媒体を、前記カットステップにおいて前記巻き取り部から前記繰り出し部側に戻す戻し動作を実行することを特徴とする請求項2に記載の多層印刷物製造システム。
【請求項4】
図柄が形成される2つの図柄層と、
2つの前記図柄層の間に配置されて2つの前記図柄層の一方側に対して他方を隠蔽する隠蔽層と
が媒体に印刷された多層印刷物を製造する多層印刷物製造装置であって、
前記媒体に対してインクを吐出することによって印刷を実行するインクジェットヘッドと、
前記媒体をカットする媒体カット手段と、
前記媒体と前記インクジェットヘッドおよび前記媒体カット手段とを相対移動させる移動手段と、
前記インクジェットヘッドによる印刷および前記媒体カット手段によるカットを制御する印刷カット制御手段と
を備え、
前記印刷カット制御手段は、
前記移動手段によって前記媒体および前記インクジェットヘッドを相対移動させて、前記媒体に対して前記インクジェットヘッドに前記図柄層および前記隠蔽層を印刷させる印刷ステップと、
前記印刷ステップの後、前記移動手段によって前記媒体および前記媒体カット手段を相対移動させて、前記媒体カット手段に前記媒体をカットさせるカットステップと
を実行し、
前記媒体カット手段は、前記媒体をカットするカット刃を有し、
前記印刷カット制御手段は、前記媒体に対する前記カット刃の侵入深さを前記カットステップの前に決定するためのテストカットステップを実行し、
前記テストカットステップは、前記多層印刷物のうち前記カットステップでカットする箇所の印刷層群の厚みと同じ厚みの印刷層群を、前記媒体に対して前記インクジェットヘッドによって印刷させ、その後、この印刷層群を介して前記媒体に前記カット刃を侵入させてカットを実行するステップであり、
前記隠蔽層は、白層を含み、
前記白層は、前記隠蔽層に対して前記媒体側とは反対側に配置された前記図柄層である表層側に対して、前記隠蔽層に対して前記媒体側に配置された前記図柄層である裏層を隠蔽すると共に、前記表層側から入射した光を反射して前記表層側から前記表層を視認させるものであることを特徴とする多層印刷物製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、媒体に多数の層が印刷された多層印刷物を製造する多層印刷物製造システムおよび多層印刷物製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、表面および裏面の両方に図柄が印刷された透明または半透明のシートが知られている(例えば、特許文献1参照。)。特許文献1に記載されたシートは、表面側から光が当たっている状態で裏面側の光源から光が当てられていない場合には、主に表面側の図柄が表面側から視認される。一方、特許文献1に記載されたシートは、表面側から当たる光が抑えられている状態で裏面側の光源から光が当てられている場合には、裏面側の図柄が光源から当てられた光によって表面側に透けて見えるので、裏面側の光源から光が当てられていない場合と比較して、裏面側の図柄が表面側から視認され易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-128734号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載されたシートにおいては、表面側から光が当たっている状態で裏面側の光源から光が当てられていない場合であっても、裏面側の図柄が表面側に透けて見えているので、裏面側の図柄が表面側から視認されるという問題がある。
【0005】
そこで、本願の発明者は、図柄が形成される2つの図柄層と、2つの図柄層の間に配置されて2つの図柄層の一方側に対して他方を隠蔽する隠蔽層とが媒体に印刷された多層印刷物を発明した。
【0006】
多層印刷物は、通常の印刷物と異なり、多数の層が印刷されなければならないので、通常の印刷物と比較して、印刷時間が非常に長く必要である。したがって、印刷専用機によって全ての層を媒体に印刷した後、全ての層が印刷された媒体を作業者が手作業で印刷専用機からカット専用機に移動させ、カット専用機によって媒体をカットすることによって媒体から多層印刷物を分離して製造する場合、作業者は、印刷専用機によって印刷された媒体を手作業で印刷専用機からカット専用機に移動させるために、印刷専用機による媒体に対する多数の層の印刷の開始から終了まで、長時間待機しなければならない。その結果、作業者は、例えば、朝から作業を開始した場合に、当日の深夜、または、翌日の朝まで、作業をしなければならないこともある。
【0007】
そこで、本発明は、多層印刷物を製造する作業者の負担を低減することができる多層印刷物製造システムおよび多層印刷物製造装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の多層印刷物製造システムは、図柄が形成される2つの図柄層と、2つの前記図柄層の間に配置されて2つの前記図柄層の一方側に対して他方を隠蔽する隠蔽層とが媒体に印刷された多層印刷物を製造する多層印刷物製造システムであって、前記媒体に対してインクを吐出することによって印刷を実行するインクジェットヘッドと、前記媒体をカットする媒体カット手段と、前記媒体と前記インクジェットヘッドおよび前記媒体カット手段とを相対移動させる移動手段と、前記インクジェットヘッドによる印刷および前記媒体カット手段によるカットを制御する印刷カット制御手段とを備え、前記印刷カット制御手段は、前記移動手段によって前記媒体および前記インクジェットヘッドを相対移動させて、前記媒体に対して前記インクジェットヘッドに前記図柄層および前記隠蔽層を印刷させる印刷ステップと、前記印刷ステップの後、前記移動手段によって前記媒体および前記媒体カット手段を相対移動させて、前記媒体カット手段に前記媒体をカットさせるカットステップとを実行することを特徴とする。
【0009】
この構成により、本発明の多層印刷物製造システムは、移動手段によって媒体およびインクジェットヘッドを相対移動させる印刷ステップの後、移動手段によって媒体および媒体カット手段を相対移動させるカットステップを実行するので、印刷ステップによって印刷された媒体をカットステップのために作業者が手作業で移動させる必要がなく、作業者が媒体を手作業で印刷専用機からカット専用機に移動させる技術と比較して、多層印刷物を製造する作業者の負担を低減することができる。
【0010】
本発明の多層印刷物製造システムにおいて、前記移動手段は、前記インクジェットヘッドによる印刷前の前記媒体をロール状に巻かれた状態で繰り出し可能に支持する繰り出し部と、前記インクジェットヘッドによる印刷後の前記媒体をロール状に巻き取った状態で支持する巻き取り部とを備えても良い。
【0011】
この構成により、本発明の多層印刷物製造システムは、長い媒体に印刷を実行することができるので、印刷ステップにかかる時間が非常に長くなる場合があり、印刷ステップにかかる時間が長くなるときには、多層印刷物を製造する作業者の負担を低減することができるメリットが大きくなる。
【0012】
本発明の多層印刷物製造システムにおいて、前記印刷カット制御手段は、前記印刷ステップにおいて前記巻き取り部に前記ロール状に巻き取った前記媒体を、前記カットステップにおいて前記巻き取り部から前記繰り出し部側に戻す戻し動作を実行しても良い。
【0013】
本発明の多層印刷物製造システムにおいて、前記媒体カット手段は、前記媒体をカットするカット刃を有し、前記印刷カット制御手段は、前記媒体に対する前記カット刃の侵入深さを前記カットステップの前に決定するためのテストカットステップを実行し、前記テストカットステップは、前記多層印刷物のうち前記カットステップでカットする箇所の印刷層群の厚みと同じ厚みの印刷層群を、前記媒体に対して前記インクジェットヘッドによって印刷させ、その後、この印刷層群を介して前記媒体に前記カット刃を侵入させてカットを実行するステップであっても良い。
【0014】
この構成により、本発明の多層印刷物製造システムは、多層印刷物のうちカットステップでカットする箇所の印刷層群の厚みと同じ厚みの印刷層群を、媒体に対してインクジェットヘッドによって印刷させ、その後、この印刷層群を介して媒体にカット刃を侵入させてカットを実行するテストカットステップを実行するので、多層印刷物における印刷層群の厚みがカットに与える影響の確認を容易化することができる。
【0015】
本発明の多層印刷物製造装置は、図柄が形成される2つの図柄層と、2つの前記図柄層の間に配置されて2つの前記図柄層の一方側に対して他方を隠蔽する隠蔽層とが媒体に印刷された多層印刷物を製造する多層印刷物製造装置であって、前記媒体に対してインクを吐出することによって印刷を実行するインクジェットヘッドと、前記媒体をカットする媒体カット手段と、前記媒体と前記インクジェットヘッドおよび前記媒体カット手段とを相対移動させる移動手段と、前記インクジェットヘッドによる印刷および前記媒体カット手段によるカットを制御する印刷カット制御手段とを備え、前記印刷カット制御手段は、前記移動手段によって前記媒体および前記インクジェットヘッドを相対移動させて、前記媒体に対して前記インクジェットヘッドに前記図柄層および前記隠蔽層を印刷させる印刷ステップと、前記印刷ステップの後、前記移動手段によって前記媒体および前記媒体カット手段を相対移動させて、前記媒体カット手段に前記媒体をカットさせるカットステップとを実行することを特徴とする。
【0016】
この構成により、本発明の多層印刷物製造装置は、移動手段によって媒体およびインクジェットヘッドを相対移動させる印刷ステップの後、移動手段によって媒体および媒体カット手段を相対移動させるカットステップを実行するので、印刷ステップによって印刷された媒体をカットステップのために作業者が手作業で移動させる必要がなく、作業者が媒体を手作業で印刷専用機からカット専用機に移動させる技術と比較して、多層印刷物を製造する作業者の負担を低減することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の多層印刷物製造システムおよび多層印刷物製造装置は、多層印刷物を製造する作業者の負担を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係る多層印刷物の平面図である。
図2図1に示す多層印刷物の側面図である。
図3】(a)図2に示す表層の平面図である。 (b)図2に示す白層の平面図である。
図4】(a)図2に示す黒層の平面図である。 (b)図2に示す裏層の平面図である。
図5図1に示す多層印刷物を備えた表示装置の側面図である。
図6】表層側から当たる光が抑えられている状態で図5に示す光源から光が当てられている場合の多層印刷物の平面図である。
図7図1に示す多層印刷物の製造システムのブロック図である。
図8図7に示すコンピューターのブロック図である。
図9図1に示す多層印刷物の印刷作業のフローチャートである。
図10図8に示すプレビュー実行手段によって実行されるプレビュー画面の一例を示す図である。
図11】チェックボックスにチェックが付けられている状態の図10に示すプレビュー画面の一例を示す図である。
図12図1に示す多層印刷物とは異なる多層印刷物を備えた表示装置の側面図である。
図13図7に示すインクジェットプリンターによる表層、白層、黒層および裏層の印刷方法の一例を示す図である。
図14図7に示すインクジェットプリンターによる表層、白層、黒層および裏層の印刷方法の、図13に示す例とは異なる一例を示す図である。
図15図7に示すインクジェットプリンターによる表層、白層、黒層および裏層の印刷方法の、図13および図14に示す例とは異なる一例を示す図である。
図16】シリアルヘッド方式用の図7に示すインクジェットプリンターの概略の正面図である。
図17図16に示すインクジェットプリンターの概略の側面図である。
図18図16に示すインクジェットプリンターのブロック図である。
図19図7に示す製造システムの動作のフローチャートである。
図20】印刷カットテストを実行する場合の図16に示すインクジェットプリンターの動作のフローチャートである。
図21図20に示す動作において表示されるテスト条件受付画面の一例を示す図である。
図22】(a)図16に示すカット刃を保持するホルダーの正面図である。 (b)図22(a)に示すホルダーの上面図である。
図23】(a)図22に示す刃出し量が適切であるカット刃によってカットされている場合の多層印刷物の正面断面図である。 (b)図22に示す刃出し量が多過ぎるカット刃によってカットされている場合の多層印刷物の正面断面図である。 (c)図22に示す刃出し量が少な過ぎるカット刃によってカットされている場合の多層印刷物の正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0020】
まず、本実施の形態に係る多層印刷物の構成について説明する。
【0021】
図1は、本実施の形態に係る多層印刷物10の平面図である。図2は、多層印刷物10の側面図である。
【0022】
図1および図2に示すように、多層印刷物10は、媒体20と、媒体20に形成されている印刷層群30とを備えている。
【0023】
媒体20は、例えば透明な媒体であっても良いが、不透明な媒体であっても良い。
【0024】
印刷層群30は、表層31と、白の層(以下「白層」という。)32と、黒の層(以下「黒層」という。)33と、裏層34とを含んでいる。
【0025】
図3(a)は、表層31の平面図である。図3(b)は、白層32の平面図である。図4(a)は、黒層33の平面図である。図4(b)は、裏層34の平面図である。
【0026】
表層31は、図3(a)に示すように図柄を表しており、本発明の図柄層を構成している。
【0027】
図3(b)に示す白層32は、図2に示すように、表層31および裏層34の間に配置されて表層31側に対して裏層34を隠蔽するとともに、表層31側から入射した光を反射して表層31側から表層31を視認させており、本発明の隠蔽層を構成している。白層32は、白インクで印刷されている。白層32は、媒体20において印刷対象となる全ピクセルに白インクが着弾した場合を100%とすると、例えば200%で印刷されている。
【0028】
図4(a)に示す黒層33は、図2に示すように、白層32および裏層34の間に配置されて表層31側に対して裏層34を隠蔽しており、本発明の隠蔽層を構成している。黒層33は、黒インクで印刷されているので、白インクで印刷されている白層32と比較して遮光性能が高い。黒層33は、図2に示すように、表層31に対して矢印10aで示す積層方向に存在していない部分33aを備えている。黒層33は、媒体20において印刷対象となる全ピクセルに黒インクが着弾した場合を100%とすると、例えば30%~70%で印刷されている。黒層33は、白層32と同一の厚みで比較した場合に、白層32より遮光性能が高い。
【0029】
裏層34は、図4(b)に示すように、図柄を表しており、本発明の図柄層を構成している。
【0030】
次に、多層印刷物10を備えた表示装置の構成について説明する。
【0031】
図5は、多層印刷物10を備えた表示装置40の側面図である。
【0032】
図5に示すように、表示装置40は、多層印刷物10と、多層印刷物10の裏層34に対して表層31側とは反対側に配置されている光源50とを備えている。
【0033】
表示装置40は、多層印刷物10の表層31に対して裏層34側とは反対側から、利用者60によって多層印刷物10が視認される。
【0034】
次に、表示装置40の動作について説明する。
【0035】
多層印刷物10は、表層31側から光が当たっている状態で裏層34側の光源50から光が当てられていない場合、図1に示すように、表層31の図柄が利用者60によって視認される。
【0036】
図6は、表層31側から当たる光が抑えられている状態で裏層34側の光源50から光が当てられている場合の多層印刷物10の平面図である。
【0037】
多層印刷物10は、表層31側から当たる光が抑えられている状態で裏層34側の光源50から光が当てられている場合、図6に示すように、裏層34の図柄が光源50から当てられた光によって表層31側に透けて見えるので、表層31の図柄と、裏層34の図柄とが合成された図柄が利用者60によって視認される。
【0038】
次に、多層印刷物10の製造システムの構成について説明する。
【0039】
図7は、多層印刷物10の製造システム70のブロック図である。
【0040】
図7に示すように、製造システム70は、媒体20(図2参照。)に印刷を実行するインクジェットプリンター80と、インクジェットプリンター80に印刷データを送信するPC(Personal Computer)などのコンピューター90とを備えており、本発明の多層印刷物製造システムを構成している。
【0041】
インクジェットプリンター80は、ロール状に巻かれた媒体20に対して印刷を実行することができる例えば株式会社ミマキエンジニアリング製のUCJV-300であっても良いし、他のインクジェットプリンターであっても良い。インクジェットプリンター80は、カッティングプロッターの機能を備えており、本発明の多層印刷物製造装置を構成している。
【0042】
図8は、コンピューター90のブロック図である。
【0043】
図8に示すように、コンピューター90は、種々の操作が入力されるキーボード、マウスなどの入力デバイスである操作部91と、種々の情報を表示するLCD(Liquid Crystal Display)などの表示デバイスである表示部92と、LAN(Local Area Network)などのネットワークを介して、または、ネットワークを介さずに有線または無線で直接に、外部の装置と通信を行う通信デバイスである通信部93と、各種の情報を記憶する半導体メモリー、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記憶デバイスである記憶部94と、コンピューター90全体を制御する制御部95とを備えている。
【0044】
記憶部94は、画像データを生成するための画像データ生成プログラム94aと、多層印刷物のプレビューを実行するためのプレビュー実行プログラム94bと、印刷データを生成するための印刷データ生成プログラム94cとを記憶している。画像データ生成プログラム94a、プレビュー実行プログラム94bおよび印刷データ生成プログラム94cは、それぞれ、コンピューター90の製造段階でコンピューター90にインストールされていても良いし、USB(Universal Serial Bus)メモリー、CD(Compact Disk)、DVD(Digital Versatile Disk)などの外部の記憶媒体からコンピューター90に追加でインストールされても良いし、ネットワーク上からコンピューター90に追加でインストールされても良い。
【0045】
制御部95は、例えば、CPU(Central Processing Unit)と、プログラムおよび各種のデータを予め記憶しているROM(Read Only Memory)と、CPUの作業領域として用いられるRAM(Random Access Memory)とを備えている。CPUは、ROMまたは記憶部94に記憶されているプログラムを実行するようになっている。
【0046】
制御部95は、画像データ生成プログラム94aを実行することによって、表層31、白層32、黒層33および裏層34のそれぞれの画像データを生成する画像データ生成手段95aを実現する。制御部95は、プレビュー実行プログラム94bを実行することによって、画像データ生成手段95aによって生成された画像データに基づいて印刷される多層印刷物のプレビューを実行するプレビュー実行手段95bを実現する。制御部95は、印刷データ生成プログラム94cを実行することによって、画像データ生成手段95aによって生成された画像データに基づいた印刷データを生成する印刷データ生成手段95cを実現する。
【0047】
次に、多層印刷物10の製造方法について説明する。
【0048】
図9は、多層印刷物10の印刷作業のフローチャートである。
【0049】
図9に示すように、作業者は、コンピューター90に画像データ生成プログラム94aを実行させて、表層31、白層32、黒層33および裏層34のそれぞれの画像データの生成を操作部91から指示する(S101)。したがって、画像データ生成手段95aは、操作部91を介した指示に応じて表層31、白層32、黒層33および裏層34のそれぞれの画像データを生成する。
【0050】
作業者は、S101の工程の後、コンピューター90にプレビュー実行プログラム94bを実行させて、S101において生成された画像データに基づいて印刷される多層印刷物のプレビューの実行を操作部91から指示する(S102)。したがって、プレビュー実行手段95bは、S101において生成された画像データに基づいて印刷される多層印刷物のプレビューを実行する。
【0051】
図10は、プレビュー実行手段95bによって実行されるプレビュー画面110の一例を示す図である。
【0052】
図10に示すプレビュー画面110は、画像データに基づいて印刷される多層印刷物のプレビューが表示されるプレビュー領域111と、画像データに基づいて印刷される多層印刷物が図5に示すような表示装置40に使用された場合に光源50から光が当てられたときの多層印刷物のプレビューを表示するか否かが選択されるチェックボックス112とを含んでいる。
【0053】
図10に示すプレビュー画面110は、チェックボックス112にチェックが付けられていない状態のプレビュー画面110である。したがって、図10に示すプレビュー領域111には、表層31側から光が当たっている状態で裏層34側の光源50から光が当てられていない場合の多層印刷物のプレビューが表示されている。
【0054】
図11は、チェックボックス112にチェックが付けられている状態のプレビュー画面110の一例を示す図である。
【0055】
図11に示すプレビュー画面110は、チェックボックス112にチェックが付けられている状態のプレビュー画面110である。したがって、図11に示すプレビュー領域111には、表層31側から当たる光が抑えられている状態で裏層34側の光源50から光が当てられている場合の多層印刷物のプレビューが表示されている。
【0056】
図9に示すように、作業者は、S102におけるプレビューの結果、画像データの修正が必要であるか否かを判断する(S103)。
【0057】
作業者は、画像データの修正が必要であるとS103において判断すると、S101の工程を実行する。
【0058】
作業者は、画像データの修正が必要ではないとS103において判断すると、コンピューター90に印刷データ生成プログラム94cを実行させて、S101において生成された画像データに基づいた印刷を操作部91から指示する(S104)。したがって、印刷データ生成手段95cは、S101において生成された画像データに基づいた印刷データを生成し、生成した印刷データをインクジェットプリンター80に送信する。インクジェットプリンター80は、コンピューター90から送信されてきた印刷データを受信すると、受信した印刷データに基づいて媒体20に印刷層群30を形成する。すなわち、インクジェットプリンター80は、媒体20に裏層34、黒層33、白層32、表層31を順に印刷することによって、図5に示す多層印刷物10を製造する。
【0059】
なお、インクジェットプリンター80は、媒体20に表層31、白層32、黒層33、裏層34を順に印刷することによって、図12に示す多層印刷物120を製造することも可能である。
【0060】
図13は、インクジェットプリンター80による表層31、白層32、黒層33および裏層34の印刷方法の一例を示す図である。
【0061】
図13に示すインクジェットプリンター80は、インクを吐出するインクジェットヘッド81~86を備えている。インクジェットヘッド81~86は、シリアルヘッド方式用のインクジェットヘッドである。インクジェットヘッド81~86によって吐出されるインクの色は、それぞれ、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(黒)、ホワイト(白)、ホワイト(白)である。
【0062】
表層31および裏層34は、主に、インクジェットヘッド81~84によって吐出されるインクによって印刷される。白層32は、インクジェットヘッド85および86によって吐出されるインクによって印刷される。黒層33は、インクジェットヘッド84によって吐出されるインクによって印刷される。
【0063】
インクジェットヘッド81~86は、キャリッジ87に搭載されていて、キャリッジ87が媒体20に対して相対移動させられることによって、媒体20に対して相対移動させられる。
【0064】
図13に示すインクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド81~86および媒体20の一方に対して他方を矢印80aで示す主走査方向に相対移動させる際に、インクジェットヘッド81~86によって媒体20に向けてインクを吐出させる。
【0065】
図13に示すインクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド81~86によって媒体20に向けてインクを吐出させる場合に、インクジェットヘッド81~86におけるインクの吐出領域のうち、主走査方向とは直交する矢印80bに示す副走査方向のうちの矢印80cに示す方向における上流側から下流側への1/4の領域ずつ、順に、裏層34の印刷用の領域81a、82a、83a、84a、85aおよび86a、黒層33の印刷用の領域81b、82b、83b、84b、85bおよび86b、白層32の印刷用の領域81c、82c、83c、84c、85cおよび86c、表層31の印刷用の領域81d、82d、83d、84d、85dおよび86dとする。
【0066】
なお、上述したように、白層32がインクジェットヘッド85および86によって吐出されるインクによって印刷されるので、領域81c、82c、83cおよび84cは、実際には使用されない。同様に、黒層33がインクジェットヘッド84によって吐出されるインクによって印刷されるので、領域81b、82b、83b、85bおよび86bは、実際には使用されない。
【0067】
インクジェットヘッド81~84のうちの領域81d、82d、83dおよび84dは、第1のヘッドを構成している。インクジェットヘッド85および86のうちの領域85cおよび86cは、第2のヘッドを構成している。インクジェットヘッド84のうちの領域84bは、第3のヘッドを構成している。インクジェットヘッド81~84のうちの領域81a、82a、83aおよび84aは、第4のヘッドを構成している。領域81d、82d、83dおよび84dと、領域85cおよび86cと、領域84bと、領域81a、82a、83aおよび84aとは、矢印80cに示す方向の反対の方向、すなわち、特定の方向における上流から下流に向けて、この順に配設されている。
【0068】
図13に示すインクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド81~86による主走査方向における印刷が終了する度に、インクジェットヘッド81~86に対して媒体20を、例えば、副走査方向における吐出領域の長さ80dの1/16の長さ分、矢印80cに示す方向に相対移動させることによって、図5に示す多層印刷物10を製造することができる。
【0069】
なお、図13に示すインクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド81~86による主走査方向における印刷が終了する度に、インクジェットヘッド81~86に対して媒体20を長さ80dの1/16の長さ分、矢印80cに示す方向に相対移動させる場合、表層31、白層32、黒層33および裏層34のそれぞれに対して、任意の箇所をインクジェットヘッド81~86による主走査方向における4回の印刷、すなわち、4パスで完成させることになる。したがって、図13に示すインクジェットプリンター80は、多層印刷物10における任意の箇所の印刷を16パスで完成させることになる。しかしながら、図13に示すインクジェットプリンター80は、表層31、白層32、黒層33および裏層34のそれぞれの任意の箇所の印刷を完成させるパス数として、4パス以外のパス数を採用しても良い。
【0070】
図13に示すインクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド81~86による主走査方向における印刷が終了する度に、インクジェットヘッド81~86に対して媒体20を例えば長さ80dの1/16の長さ分、矢印80cに示す方向とは反対方向に相対移動させることによって、図12に示す多層印刷物120を製造することができる。
【0071】
図14は、インクジェットプリンター80による表層31、白層32、黒層33および裏層34の印刷方法の、図13に示す例とは異なる一例を示す図である。
【0072】
図14に示すインクジェットプリンター80は、インクを吐出するインクジェットヘッド181~191を備えている。インクジェットヘッド181~191は、シリアルヘッド方式用のインクジェットヘッドである。インクジェットヘッド181~191によって吐出されるインクの色は、それぞれ、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(黒)、ブラック(黒)、ホワイト(白)、ホワイト(白)、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(黒)である。インクジェットヘッド181~191によって吐出されるインクは、紫外線が照射されることによって硬化するUVインクである。
【0073】
図14に示すインクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド181~191によって吐出されたインクに紫外線を照射するための紫外線照射装置192および紫外線照射装置193を備えている。紫外線照射装置192および紫外線照射装置193は、矢印80aで示す主走査方向においてインクジェットヘッド181~191を挟む位置に配置されている。
【0074】
裏層34は、インクジェットヘッド181~184によって吐出されるインクによって印刷される。黒層33は、インクジェットヘッド185によって吐出されるインクによって印刷される。白層32は、インクジェットヘッド186および187によって吐出されるインクによって印刷される。表層31は、インクジェットヘッド188~191によって吐出されるインクによって印刷される。
【0075】
インクジェットヘッド188~191は、第1のヘッドを構成している。インクジェットヘッド186および187は、第2のヘッドを構成している。インクジェットヘッド185は、第3のヘッドを構成している。インクジェットヘッド181~184は、第4のヘッドを構成している。インクジェットヘッド188~191と、インクジェットヘッド186および187と、インクジェットヘッド185と、インクジェットヘッド181~184とは、矢印80cに示す方向の反対の方向、すなわち、特定の方向における上流から下流に向けて、この順に配設されている。
【0076】
インクジェットヘッド181~191、紫外線照射装置192および紫外線照射装置193は、キャリッジ194に搭載されていて、キャリッジ194が媒体20に対して相対移動させられることによって、媒体20に対して相対移動させられる。
【0077】
図14に示すインクジェットプリンター80による多層印刷物10および多層印刷物120の製造方法は、基本的には、図13に示すインクジェットプリンター80による多層印刷物10および多層印刷物120の製造方法と同様である。ただし、図14に示すインクジェットプリンター80では、インクジェットヘッド181~191によって吐出されたインクは、媒体20側に着弾した直後に、紫外線照射装置192および紫外線照射装置193のうち、媒体20に対するキャリッジ194の主走査方向における相対移動の方向における上流側の紫外線照射装置によって紫外線が照射されて硬化させられる。
【0078】
図15は、インクジェットプリンター80による表層31、白層32、黒層33および裏層34の印刷方法の、図13および図14に示す例とは異なる一例を示す図である。
【0079】
図15に示すインクジェットプリンター80は、インクを吐出するインクジェットヘッド281~291を備えている。インクジェットヘッド281~291は、ラインヘッド方式用のインクジェットヘッドである。インクジェットヘッド281~291によって吐出されるインクの色は、それぞれ、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(黒)、ブラック(黒)、ホワイト(白)、ホワイト(白)、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック(黒)である。インクジェットヘッド281~291によって吐出されるインクは、紫外線が照射されることによって硬化するUVインクである。
【0080】
図15に示すインクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド281~291によって吐出されたインクに紫外線を照射するための紫外線照射装置292~296を備えている。紫外線照射装置292および紫外線照射装置293は、矢印80bに示す方向においてインクジェットヘッド281~284を挟む位置に配置されている。紫外線照射装置293および紫外線照射装置294は、矢印80bに示す方向においてインクジェットヘッド285を挟む位置に配置されている。紫外線照射装置294および紫外線照射装置295は、矢印80bに示す方向においてインクジェットヘッド286および287を挟む位置に配置されている。紫外線照射装置295および紫外線照射装置296は、矢印80bに示す方向においてインクジェットヘッド288~291を挟む位置に配置されている。
【0081】
裏層34は、インクジェットヘッド281~284によって吐出されるインクによって印刷される。黒層33は、インクジェットヘッド285によって吐出されるインクによって印刷される。白層32は、インクジェットヘッド286および287によって吐出されるインクによって印刷される。表層31は、インクジェットヘッド288~291によって吐出されるインクによって印刷される。
【0082】
インクジェットヘッド288~291は、第1のヘッドを構成している。インクジェットヘッド286および287は、第2のヘッドを構成している。インクジェットヘッド285は、第3のヘッドを構成している。インクジェットヘッド281~284は、第4のヘッドを構成している。インクジェットヘッド288~291と、インクジェットヘッド286および287と、インクジェットヘッド285と、インクジェットヘッド281~284とは、矢印80cに示す方向の反対の方向、すなわち、特定の方向における上流から下流に向けて、この順に配設されている。
【0083】
インクジェットヘッド281~291および紫外線照射装置292~296は、互いの相対的な位置が固定されている。
【0084】
図15に示すインクジェットプリンター80は、多層印刷物10を製造する場合、インクジェットヘッド281~291および紫外線照射装置292~296に対して媒体20を矢印80cで示す方向に相対移動させる際に、インクジェットヘッド281~291によって媒体20に向けてインクを吐出させる。なお、図15に示すインクジェットプリンター80では、多層印刷物10を製造する場合、インクジェットヘッド281~284によって吐出されたインク、インクジェットヘッド285によって吐出されたインク、インクジェットヘッド286および287によって吐出されたインク、インクジェットヘッド288~291によって吐出されたインクは、媒体20側に着弾した直後に、それぞれ、紫外線照射装置293、294、295、296によって紫外線が照射されて硬化させられる。
【0085】
図15に示すインクジェットプリンター80は、多層印刷物120を製造する場合、インクジェットヘッド281~291および紫外線照射装置292~296に対して媒体20を矢印80cで示す方向とは反対方向に相対移動させる際に、インクジェットヘッド281~291によって媒体20に向けてインクを吐出させる。なお、図15に示すインクジェットプリンター80では、多層印刷物120を製造する場合、インクジェットヘッド281~284によって吐出されたインク、インクジェットヘッド285によって吐出されたインク、インクジェットヘッド286および287によって吐出されたインク、インクジェットヘッド288~291によって吐出されたインクは、媒体20側に着弾した直後に、それぞれ、紫外線照射装置292、293、294、295によって紫外線が照射されて硬化させられる。
【0086】
インクジェットプリンター80による表層31、白層32、黒層33および裏層34の印刷方法は、図13図15に示す方法以外の方法であっても良い。
【0087】
図16は、シリアルヘッド方式用のインクジェットプリンター80の概略の正面図である。図17は、図16に示すインクジェットプリンター80の概略の側面図である。
【0088】
図16および図17に示すように、インクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド310と、媒体20をカットする媒体カット手段としてのカット刃320と、インクジェットヘッド310およびカット刃320に対向する位置に配置されていて媒体20を支持するプラテン330と、インクジェットヘッド310による印刷前の媒体20をロール状に巻かれた状態で繰り出し可能に支持する繰り出し部としての繰り出しローラー341と、インクジェットヘッド310による印刷後の媒体20をロール状に巻き取った状態で支持する巻き取り部としての巻き取りローラー342と、媒体20を搬送するための駆動ローラー343と、駆動ローラー343に媒体20を押し付けるための従動ローラー344とを備えている。
【0089】
インクジェットプリンター80は、繰り出しローラー341を回転させるための駆動源を備えていない。インクジェットプリンター80は、巻き取りローラー342を回転させるための駆動源としての巻き取りローラー用モーター(図示していない。)と、巻き取りローラー用モーターから巻き取りローラー342に特定の大きさ以上のトルクがかかることを防止するための摺動式のトルクリミッター(図示していない。)とを備えている。インクジェットプリンター80は、駆動ローラー343を回転させるための駆動源としての駆動ローラー用モーター(図示していない。)を備えている。インクジェットプリンター80は、従動ローラー344を回転させるための駆動源を備えていない。
【0090】
繰り出しローラー341は、駆動ローラー343との間の媒体20に弛みが無い場合に、繰り出しローラー341自身に巻かれている媒体20が駆動ローラー343によって引っ張られることによって回転し、媒体20が繰り出される。
【0091】
従動ローラー344は、従動ローラー344自身に接触している媒体20が駆動ローラー343によって移動させられることによって回転する。
【0092】
巻き取りローラー用モーターは、媒体20が巻き取りローラー342に巻き取られる回転方向の動力のみを常に発生させている。そして、トルクリミッターは、巻き取りローラー用モーターから巻き取りローラー342に特定の大きさ以上のトルクがかかることを防止している。したがって、駆動ローラー343と、巻き取りローラー342との間の媒体20は、常に一定のテンションがかかった状態に維持されている。
【0093】
駆動ローラー用モーターによって駆動ローラー343が回転させられることによって、媒体20が駆動ローラー343によって繰り出しローラー341側から巻き取りローラー342側に移動させられる場合、駆動ローラー343と、巻き取りローラー342との間の媒体20は、駆動ローラー343によって移動させられた長さ分だけ、巻き取りローラー342によって巻き取られる。
【0094】
駆動ローラー用モーターによって駆動ローラー343が回転させられることによって、媒体20が駆動ローラー343によって巻き取りローラー342側から繰り出しローラー341側に移動させられる場合、巻き取りローラー342に巻かれている媒体20が駆動ローラー343によって引っ張られることによって巻き取りローラー342が回転し、巻き取りローラー342から媒体20が繰り出される。このとき、繰り出しローラー341と、駆動ローラー343との間の媒体20は、繰り出しローラー341によって巻き取られることがないので、弛みが発生する。
【0095】
図16および図17においては、インクジェットヘッド310およびカット刃320を支持する支持機構が描かれていないので、インクジェットヘッド310およびカット刃320が空中に浮いている。しかしながら、インクジェットヘッド310およびカット刃320は、実際には、図示していない支持機構によって指示されている。この支持機構は、インクジェットヘッド310およびカット刃320を矢印300aで示す鉛直方向に直交する方向に移動可能に支持している。
【0096】
図16において、図中左右方向が矢印80aで示す主走査方向である。図17において、図中左右方向が矢印80bで示す副走査方向である。主走査方向および副走査方向は、鉛直方向に直交している。
【0097】
インクジェットヘッド310は、インクジェットプリンター80が図13に示すものである場合にはインクジェットヘッド81~86を意味しており、インクジェットプリンター80が図14に示すものである場合にはインクジェットヘッド181~191を意味している。
【0098】
図16および図17においては、シリアルヘッド方式用のインクジェットプリンター80を示している。しかしながら、インクジェットプリンター80は、図15に示すようにラインヘッド方式のインクジェットヘッドを備えても良い。
【0099】
図18は、インクジェットプリンター80のブロック図である。
【0100】
図18に示すように、インクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド310と、媒体20とインクジェットヘッド310およびカット刃320とを相対移動させる移動手段としての移動装置340と、種々の操作が入力される例えばボタンなどの入力デバイスである操作部351と、種々の情報を表示するLCDなどの表示デバイスである表示部352と、ネットワーク経由で、または、ネットワークを介さずに有線または無線によって直接に、外部の装置と通信を行う通信デバイスである通信部353と、各種の情報を記憶する半導体メモリー、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性の記憶デバイスである記憶部354と、インクジェットプリンター80全体を制御する制御部355とを備えている。
【0101】
移動装置340は、上述した繰り出しローラー341、巻き取りローラー342、駆動ローラー343、従動ローラー344、巻き取りローラー用モーター、トルクリミッター、駆動ローラー用モーターおよび支持機構を備えている。移動装置340は、媒体20を繰り出しローラー341から繰り出して巻き取りローラー342で巻き取ったり、媒体20を巻き取りローラー342から繰り出して繰り出しローラー341で巻き取ったりすることによって、インクジェットヘッド310およびカット刃320に対して媒体20を副走査方向に移動させることができる。また、移動装置340は、支持機構に支持されているインクジェットヘッド310およびカット刃320を主走査方向に移動させることによって、インクジェットヘッド310およびカット刃320を媒体20に対して主走査方向に移動させることができる。移動装置340は、支持機構に支持されているカット刃320を更に副走査方向に移動させることができても良い。
【0102】
制御部355は、例えば、CPUと、プログラムおよび各種のデータを記憶しているROMと、CPUの作業領域として用いられるRAMとを備えている。CPUは、ROMまたは記憶部354に記憶されているプログラムを実行する。
【0103】
図19は、製造システム70の動作のフローチャートである。
【0104】
図19に示すように、コンピューター90は、上述したようにインクジェットプリンター80に印刷データを送信することによって、移動装置340によって媒体20およびインクジェットヘッド310を相対移動させて、媒体20に対してインクジェットヘッド310に表層31、白層32、黒層33および裏層34を印刷させる印刷ステップ(S401)を実行する。ここで、インクジェットプリンター80は、インクジェットヘッド310による印刷の間、カット刃320を主走査方向における端、すなわち、インクジェットヘッド310による印刷可能範囲外に退避させておく。
【0105】
コンピューター90は、S401における印刷ステップの後、印刷データと同様に、カットデータをインクジェットプリンター80に送信することによって、移動装置340によって媒体20およびカット刃320を相対移動させて、カット刃320に媒体20をカットさせるカットステップ(S402)を実行する。ここで、インクジェットプリンター80は、カット刃320によるカットの間、インクジェットヘッド310を主走査方向における端、すなわち、カット刃320によるカット可能範囲外に退避させておく。
【0106】
このように、コンピューター90は、インクジェットヘッド310による印刷、および、カット刃320によるカットを制御する印刷カット制御手段を構成している。
【0107】
次に、インクジェットプリンター80における印刷ステップおよびカットステップの両方のテスト(以下「印刷カットテスト」という。)について説明する。印刷カットテストは、媒体20に対するカット刃320の侵入深さをカットステップの前に決定するためのテストカットステップを構成している。
【0108】
作業者は、印刷カットテストの処理の開始を操作部351を介してインクジェットプリンター80に指示することができる。インクジェットプリンター80の制御部355は、印刷カットテストが指示されると、図20に示す動作を実行する。
【0109】
図20は、印刷カットテストを実行する場合のインクジェットプリンター80の動作のフローチャートである。
【0110】
図20に示すように、制御部355は、印刷カットテストの条件の指定を受け付けるためのテスト条件受付画面440(図21参照。)を表示部352に表示する(S421)。
【0111】
図21は、テスト条件受付画面440の一例を示す図である。
【0112】
図21に示すように、テスト条件受付画面440は、印刷カットテストの条件として多層印刷の印刷層群の層数の指定を受け付けるための層数受付部441と、印刷カットテストの条件として印刷およびカットのパターンの指定を受け付けるためのパターン受付部442と、印刷ステップおよびカットステップの実行を指示するための実行ボタン443とを含んでいる。
【0113】
なお、印刷カットテストにおいて使用される印刷データおよびカットデータは、事前に用意されている。すなわち、パターン受付部442によって受け付け可能なパターンに応じた印刷データおよびカットデータは、パターン毎に記憶部354に記憶されている。このカットデータにおいて指定されているカットの位置は、この印刷データで印刷される画像内の位置と重なっている。
【0114】
パターン受付部442によって受け付け可能なパターンには、図柄が形成される2つの図柄層と、これらの図柄層の間に配置されてこれらの図柄層の一方側に対して他方を隠蔽する少なくとも1つの隠蔽層とを含む印刷層群が印刷されるパターンが含まれている。
【0115】
図20に示すように、制御部355は、S421の処理の後、実行ボタン443が押されたと判断するまで、実行ボタン443が押されたか否かを判断する(S422)。
【0116】
制御部355は、実行ボタン443が押されたとS422において判断すると、パターン受付部442において受け付けられたパターンに応じた印刷データに基づいて、層数受付部441において受け付けられた層数で、インクジェットヘッド310および移動装置340によって媒体20に印刷を実行する(S423)。すなわち、制御部355は、印刷ステップを実行する。
【0117】
次いで、制御部355は、パターン受付部442において受け付けられたパターンに応じたカットデータに基づいて、カット刃320および移動装置340によって媒体20のカットを実行する(S424)。すなわち、制御部355は、カットステップを実行する。
【0118】
次いで、制御部355は、S423によって印刷された箇所や、S424によってカットされた箇所を作業者が容易に確認することができるように、S423によって印刷された箇所や、S424によってカットされた箇所の位置(以下「テスト加工位置」という。)が特定の位置になるまで、移動装置340によって媒体20を搬送して(S425)、図20に示す動作を終了する。
【0119】
なお、図20に示す動作において、制御部355は、テスト加工位置が特定の位置になるまで移動装置340によって媒体20をS425の処理によって自動で搬送する。しかしながら、制御部355は、テスト加工位置が特定の位置になるまで移動装置340によって媒体20を自動で搬送する構成でなくても良い。例えば、制御部355は、操作部351を介して特定の指示が入力された場合に、テスト加工位置が特定の位置になるまで移動装置340によって媒体20を搬送しても良い。
【0120】
制御部355は、図20に示す動作において、テスト加工位置が特定の位置になるまで移動装置340によって媒体20を搬送した場合、操作部351を介して特定の指示が入力されたときに、移動装置340によって媒体20を元の位置まで戻しても良い。
【0121】
以上に説明したように、制御部355は、印刷カットテストを実行する場合、インクジェットヘッド310による印刷、および、カット刃320によるカットを制御する印刷カット制御手段を構成している。
【0122】
作業者は、S424によってカットが実行された後、好ましくは、テスト加工位置が特定の位置になっている場合に、S423によって印刷された箇所を確認することによって、インクジェットヘッド310のノズルの状態など、印刷に関する種々の情報を印刷結果から判断することができる。そして、作業者は、判断結果に基づいて、インクジェットプリンター80の調整を行うことができる。
【0123】
また、作業者は、S424によってカットされた箇所を確認することによって、カットに関する種々の情報をカット結果から判断することができる。そして、作業者は、判断結果に基づいて、インクジェットプリンター80の調整を行うことができる。例えば、作業者は、媒体20のうち多層印刷が行われている部分に対するカットの深さの過不足を確認した場合や、カットによる印刷層群のひび割れを確認した場合に、カット刃320の刃出し量の調整や、インクジェットプリンター80におけるカットの圧力および速度の少なくとも一方の調整などを実行することができる。
【0124】
図22(a)は、カット刃320を保持するホルダー460の正面図である。図22(b)は、ホルダー460の上面図である。
【0125】
図22に示すように、ホルダー460は、カット刃320によってカットされる対象に接触するための対象接触面461と、対象接触面461に開口してカット刃320が挿入される穴462とが形成されている。ホルダー460は、穴462に挿入されているカット刃320の先端から対象接触面461までの長さ、すなわち、刃出し量460aを変更するための調節用摘み463を備えている。ホルダー460は、中心軸460bを中心に調節用摘み463が回転させられることによって、刃出し量460aが変化する。
【0126】
図23(a)は、刃出し量460aが適切であるカット刃320によってカットされている場合の多層印刷物480の正面断面図である。図23(b)は、刃出し量460aが多過ぎるカット刃320によってカットされている場合の多層印刷物480の正面断面図である。図23(c)は、刃出し量460aが少な過ぎるカット刃320によってカットされている場合の多層印刷物480の正面断面図である。
【0127】
図23に示す多層印刷物480は、媒体20と、媒体20に形成された印刷層群481とによって構成されている。ここで、媒体20は、台紙482と、台紙482に貼り付けられているシール483とによって構成されている。印刷層群481は、シール483上に形成されている。印刷層群481は、多層印刷物10または多層印刷物120のうちカットステップでカットする箇所の印刷層群30を模擬的に媒体20に生成したものであり、印刷層群30の厚みと同じ厚みで生成される。
【0128】
作業者は、多層印刷物480に対してS424によってカットされた箇所を確認する場合、多層印刷物480の厚み方向において多層印刷物480が完全にカットされているか否かを判断する。ここで、作業者は、多層印刷物480の厚み方向において多層印刷物480が完全にカットされていると判断した場合、図23(b)のように刃出し量460aが多過ぎると判断することができる。
【0129】
作業者は、多層印刷物480に対してS424によってカットされた箇所を確認する場合、台紙482から実際にシール483を剥がした後、シール483の厚み方向においてシール483が完全にカットされているか否かを判断する。ここで、作業者は、シール483の厚み方向においてシール483が完全にカットされていないと判断した場合、図23(c)のように刃出し量460aが少な過ぎると判断することができる。
【0130】
そして、作業者は、多層印刷物480の厚み方向において多層印刷物480が完全にカットされていないと判断するとともに、シール483の厚み方向においてシール483が完全にカットされていると判断した場合、図23(a)に示すように刃出し量460aが適切であると判断することができる。
【0131】
多層印刷物480は、厚い印刷層群481を備えているので、印刷層が1層のみである通常の印刷物と比較して、印刷層がカットに与える影響が大きく、刃出し量460aの調整作業が必要である。そして、刃出し量460aの調整作業のためには、多層印刷物480における印刷層群481の厚みがカットに与える影響を実際に確認する必要がある。インクジェットプリンター80は、多層印刷物10または多層印刷物120のうちカットステップでカットする箇所の印刷層群30の厚みと同じ厚みの印刷層群481を、媒体20に対してインクジェットヘッド310によって印刷させ、その後、印刷層群481を介して媒体20にカット刃320を侵入させてカットを実行する印刷カットテストを実行する(S423およびS424)ので、多層印刷物480における印刷層群481の厚みがカットに与える影響の確認を容易化することができる。
【0132】
なお、印刷カットテストにおいては、カットする箇所に多層印刷物10または多層印刷部120の厚みが確保できれば良い。したがって、印刷カットテストにおいて使用する印刷データは、事前に用意されているものでなくても良い。例えば、インクジェットプリンター80の制御部355は、印刷カットテストの実行の際に作業者から指定されたベタ印刷パターンに基づいて、その場で図柄層または隠蔽層の擬似データを作っても良い。同様に、印刷カットテストにおいて使用するカットデータは、事前に用意されているものでなくても良い。
【0133】
以上において、インクジェットプリンター80の制御部355は、作業者からの指示に応じて印刷カットテストの処理を開始する。しかしながら、制御部355は、作業者からの指示を受けることなく、印刷カットテストの処理を自動で開始しても良い。
【0134】
以上において、インクジェットプリンター80の制御部355は、印刷およびカットの両方を行う印刷カットテストをテストカットステップとして実行する。しかしながら、制御部355は、カットのみを行うテストカットステップを実行しても良い。すなわち、作業者は、テストカットステップにおけるカットのための印刷層群をテストカットステップの前にインクジェットプリンター80に印刷させることができる。そして、制御部355は、媒体20に対して形成されている印刷層群の箇所をテストカットステップにおいてカット刃320にカットさせるだけでも良い。
【0135】
以上において、テストカットステップにおいてカットされる箇所は、図柄層および隠蔽層の両方が形成された箇所である。しかしながら、テストカットステップにおいてカットされる箇所は、図柄層および隠蔽層のいずれか一方のみが形成された箇所でも良い。
【0136】
なお、インク以外の物質を印刷層の上に吐出するための例えばディスペンサーなどの吐出装置をインクジェットプリンター80が備えている場合、制御部355は、図20に示す印刷カットテストにおいて、この吐出装置による吐出を、S423の処理と、S424の処理との間に実行しても良い。この吐出装置によって吐出される物質としては、例えば、未硬化状態で高粘度であって特定の条件によって硬化する透明な物質がある。
【0137】
以上に説明したように、製造システム70は、媒体20に印刷を実行するインクジェットヘッド310と、媒体20をカットするカット刃320とが併設されたインクジェットプリンター80を備えているので、インクジェットプリンター80に媒体20が一旦セットされれば、インクジェットプリンター80の移動装置340によって媒体20およびインクジェットヘッド310を相対移動させる印刷ステップ(S401)の後、媒体20に印刷を実行した装置と同一の装置であるインクジェットプリンター80の移動装置340によって媒体20およびカット刃320を相対移動させるカットステップ(S402)を実行することができる。したがって、製造システム70は、印刷ステップによって印刷された媒体20をカットステップのために作業者が手作業で移動させる必要がなく、作業者が媒体20を手作業で印刷専用機からカット専用機に移動させる技術と比較して、多層印刷物10および多層印刷物120を製造する作業者の負担を低減することができる。
【0138】
製造システム70は、図16および図17に示すように、インクジェットプリンター80が繰り出しローラー341および巻き取りローラー342を備えていて、ロール状に巻かれた状態の媒体20を対象にする場合、長い媒体20に印刷を実行することができるので、印刷ステップにかかる時間が非常に長くなる場合がある。また、製造システム70は、多層印刷物10および多層印刷物120の各層が複数パスで印刷される場合、パス数が増加すると、パス数に応じて印刷ステップにかかる時間が長くなる。また、製造システム70は、多層印刷物10および多層印刷物120の層数が増加すると、層数に応じて印刷ステップにかかる時間が長くなる。製造システム70は、印刷ステップにかかる時間が長くなる場合には、多層印刷物10および多層印刷物120を製造する作業者の負担を低減することができるメリットが大きくなる。
【0139】
製造システム70において、コンピューター90は、印刷ステップにおいて巻き取りローラー342にロール状に巻き取った媒体20を、カットステップにおいて巻き取りローラー342から繰り出しローラー341側に駆動ローラー343によって戻す戻し動作を実行する。カットステップにおける媒体20のカットは、媒体20を巻き取りローラー342から繰り出しローラー341側に駆動ローラー343によって戻す際に実行されても良いし、巻き取りローラー342から繰り出しローラー341側に駆動ローラー343によって戻した媒体20を、再度、繰り出しローラー341側から巻き取りローラー342側に駆動ローラー343によって搬送する際に実行されても良い。
【0140】
なお、コンピューター90は、1回の印刷ステップにおいて媒体20に印刷される領域の副走査方向における長さを特定の長さ未満に抑えても良い。コンピューター90は、1回の印刷ステップにおいて媒体20に印刷される領域の副走査方向における長さを特定の長さ未満に抑える場合、媒体20に印刷される予定の画像の副走査方向における長さが特定の長さ以上であるとき、この画像を個々の領域の副走査方向における長さが特定の長さ未満になるように複数の領域に分割し、各領域に対して順番に、印刷ステップおよびカットステップを繰り返しても良い。
【0141】
インクジェットプリンター80は、カットステップでのカットの原点位置を、印刷ステップでの印刷の原点位置と一致させることによって、印刷によって形成された図柄に対して精度良くカットすることができる。
【0142】
多層印刷物10および多層印刷物120は、表層31および裏層34の間に隠蔽用印刷層としての白層32および黒層33を備えるので、表層31側から光が当たっている状態で裏層34に対して表層31側とは反対側の光源50から光が当てられていない場合に、表層31に対して裏層34側とは反対側から、すなわち、光源50側とは反対側から利用者60によって視認されるとき、裏層34の隠蔽性を向上することができる。すなわち、多層印刷物10および多層印刷物120は、裏面側の光源50から光が当てられていない場合に表面側に対して複数の図柄のうち光源50側の図柄の隠蔽性を向上することができる。
【0143】
多層印刷物10および多層印刷物120は、白層32と、黒層33とを同一の厚みで比較した場合に、黒層33が白層32より遮光性能が高いので、白層32のみで隠蔽用印刷層が形成される場合と比較して隠蔽用印刷層全体の厚みを薄くしても、同一の隠蔽性能を得ることができる。すなわち、多層印刷物10および多層印刷物120は、隠蔽用印刷層全体の厚みを薄くすることができる。したがって、多層印刷物10および多層印刷物120は、表層31側から当たる光が抑えられている状態で裏層34に対して表層31側とは反対側の光源50から光が当てられている場合に、光源50から当てられた光が隠蔽用印刷層を透過する際に隠蔽用印刷層によって散乱される量を抑えることができ、その結果、裏層34を光源50からの光によって表層31側に鮮明に透けて見えさせることができる。例えば、多層印刷物10および多層印刷物120は、表層31側から当たる光が抑えられている状態で裏層34に対して表層31側とは反対側の光源50から光が当てられている場合に、裏層34における図柄の輪郭を光源50からの光によって表層31側に鮮明に透けて見えさせることができる。
【0144】
多層印刷物10および多層印刷物120は、材質の遮光性能が異なる2つの隠蔽用印刷層、すなわち、白層32および黒層33を備えるので、2つの隠蔽用印刷層の材質のうち遮光性能が低い白層32の材質、すなわち、白インクのみで隠蔽用印刷層が形成される場合と比較して隠蔽用印刷層全体の厚みを薄くしても、同一の隠蔽性能を得ることができる。したがって、多層印刷物10および多層印刷物120は、隠蔽用印刷層全体の厚みを薄くすることによって、例えば、隠蔽用印刷層を印刷するためのインクの量を低減させることができる。また、多層印刷物10および多層印刷物120は、隠蔽用印刷層の印刷方法によっては、隠蔽用印刷層全体の厚みを薄くすることによって、隠蔽用印刷層の印刷時間を短縮することもできる。例えば、媒体20に対するインクジェットヘッド81~86の副走査方向における位置が同一の位置である場合に、媒体20に対するインクジェットヘッド81~86の主走査方向への相対移動の回数、すなわち、パス数を増やすことによって、インクジェットヘッド81~86から媒体20に向けて吐出されるインクの量を増やす印刷方法であるときには、隠蔽用印刷層全体の厚みを薄くすること、すなわち、インクジェットヘッド81~86から媒体20に向けて吐出されるインクの量を減らすことによって、隠蔽用印刷層の印刷時間を短縮することができる。
【0145】
なお、多層印刷物10および多層印刷物120は、裏層34側の隠蔽用印刷層(以下「裏層側隠蔽用印刷層」という。)の遮光性能が低過ぎると、利用者60側からの光、すなわち、環境光が当てられた場合に、利用者60によって裏層34の図柄が視認され易い。また、多層印刷物10および多層印刷物120は、裏層側隠蔽用印刷層の遮光性能が高過ぎると、光源50から光が当てられても、光源50側とは反対側から利用者60によって裏層34の図柄が視認し難い。したがって、多層印刷物10および多層印刷物120は、裏層側隠蔽用印刷層の黒の濃度が低過ぎず、高過ぎない適度な濃度であることが好ましい。例えば、多層印刷物10および多層印刷物120は、媒体20の厚みを薄くする場合、光源50からの光を媒体20が透し易くなるので、裏層側隠蔽用印刷層の黒の濃度を高くすることが好ましい。また、多層印刷物10および多層印刷物120は、利用者60側からの光、すなわち、環境光が強くなる場合、利用者60によって裏層34の図柄が視認し易くなるので、裏層側隠蔽用印刷層の黒の濃度を高くすることが好ましい。
【0146】
多層印刷物10および多層印刷物120は、表層31側から当たる光が抑えられている状態で裏層34側の光源50から光が当てられている場合に、黒層33が表層31に対して積層方向に存在しない領域10b(図6参照。)を光源50からの光が透過し易いので、表層31側から当たる光が抑えられている状態で裏層34側の光源50から光が当てられている場合に、光源50側とは反対側から利用者60によって視認されるとき、黒層33が表層31に対して積層方向に存在しない領域10bを強調表示することができる。
【0147】
なお、多層印刷物10および多層印刷物120は、本実施の形態において、表層31に対して積層方向に存在しない部分33aが黒層33に存在する。しかしながら、多層印刷物10および多層印刷物120は、表層31に対して積層方向に存在しない部分が白層32に存在しても良い。
【0148】
多層印刷物10および多層印刷物120は、裏層側隠蔽用印刷層が黒層33であり、裏層側隠蔽用印刷層が薄くても高い遮光性能を発揮するので、裏層側隠蔽用印刷層の厚みを薄くすることができる。なお、多層印刷物10および多層印刷物120は、裏層側隠蔽用印刷層が黒でなくても良い。
【0149】
多層印刷物10および多層印刷物120は、表層31側の隠蔽用印刷層(以下「表層側隠蔽用印刷層」という。)が白層32であり、表層側隠蔽用印刷層の明度が高いので、表層31側から光が当たっている状態で裏層34側の光源50から光が当てられていない場合に、光源50側とは反対側から利用者60によって表層31が視認されるとき、表層31によって表される図柄の明度を表層側隠蔽用印刷層の明度によって向上することができる。なお、多層印刷物10および多層印刷物120は、表層側隠蔽用印刷層が白でなくても良い。
【0150】
多層印刷物10および多層印刷物120は、裏層側隠蔽用印刷層の材質の遮光性能が表層側隠蔽用印刷層の材質の遮光性能より高いので、表層側隠蔽用印刷層の明度を裏層側隠蔽用印刷層より高くすることができる。多層印刷物10および多層印刷物120は、表層側隠蔽用印刷層である白層32の明度が裏層側隠蔽用印刷層である黒層33より高いので、表層31側から光が当たっている状態で裏層34側の光源50から光が当てられていない場合に、光源50側とは反対側から利用者60によって表層31が視認されるとき、表層31によって表される図柄の明度を白層32の明度によって向上することができる。
【0151】
多層印刷物10および多層印刷物120において、裏層側隠蔽用印刷層は、表層側隠蔽用印刷層と同一の厚みで比較した場合に、裏層側隠蔽用印刷層より遮光性能が高く、光の反射性能が低い。遮光性能や光の反射性能の違いは、材質の違いによって実現されることができるし、たとえ同じ材質であっても構造の違いによって実現されることもできる。ここで、構造の違いとは、例えば、インクに含まれる粒子の大きさや含有率の違いである。
【0152】
図13図15に示す多層印刷方法は、それぞれ、インクジェットヘッド81~86、インクジェットヘッド181~191、インクジェットヘッド281~291に対して媒体20を矢印80bで示す副走査方向における特定の一方向に相対移動させるだけで、表層31、白層32、黒層33および裏層34の4層を同時に印刷することができるので、各印刷層を全領域ずつ順に印刷する方法と比較して、各印刷層同士の位置精度を向上することができ、高品質の多層印刷物10および多層印刷物120を製造することができる。
【0153】
インクジェットプリンター80は、本実施の形態において、巻き取りローラー342から繰り出しローラー341側に駆動ローラー343によって戻された媒体20が繰り出しローラー341によって巻き取られない。しかしながら、インクジェットプリンター80は、繰り出しローラー341を回転させるための駆動源としてのモーターを備えることによって、巻き取りローラー342から繰り出しローラー341側に駆動ローラー343によって戻された媒体20を繰り出しローラー341によって巻き取っても良い。
【0154】
インクジェットプリンター80は、本実施の形態において、加工方式として図16および図17に示すようにロール・トゥー・ロール方式が採用されている。しかしながら、インクジェットプリンター80は、ロール・トゥー・ロール方式以外の加工方式が採用されても良い。例えば、インクジェットプリンター80は、加工方式として、平坦なプラテンに媒体20を載せ、媒体20を移動させずにインクジェットヘッド310およびカット刃320を移動させるフラットベッド方式が採用されても良い。
【0155】
インクジェットプリンター80は、本実施の形態において、本発明の媒体カット手段としてカット刃320を備えている。しかしながら、本発明の媒体カット手段は、カット刃以外の構成であっても良い。例えば、本発明の媒体カット手段は、レーザーによって媒体20をカットするものであっても良い。
【0156】
製造システム70は、本実施の形態において、コンピューター90が印刷カット制御手段を構成している。しかしながら、製造システム70は、他の構成によって印刷カット制御手段を構成しても良い。例えば、製造システム70は、インクジェットプリンター80の制御部355と、コンピューター90との協働によって印刷カット制御手段を構成しても良いし、制御部355のみで印刷カット制御手段を構成しても良い。印刷カット制御手段が制御部355のみで構成されている場合、インクジェットプリンター80は、単独で本発明の多層印刷物製造システムを構成する。
【0157】
多層印刷物10および多層印刷物120は、本実施の形態において、隠蔽層として白層32および黒層33の2層を備えている。しかしながら、多層印刷物10および多層印刷物120は、2層以外の層数の隠蔽層を備えていても良い。すなわち、多層印刷物10および多層印刷物120は、隠蔽層を1層のみ備えていても良いし、3層以上備えていても良い。
【符号の説明】
【0158】
10 多層印刷物
20 媒体
30 印刷層群
31 表層(図柄層)
32 白層(隠蔽層)
33 黒層(隠蔽層)
34 裏層(図柄層)
70 製造システム(多層印刷物製造システム)
80 インクジェットプリンター(多層印刷物製造装置、多層印刷物製造システム)
81~86 インクジェットヘッド
90 コンピューター(印刷カット制御手段)
120 多層印刷物
181~191 インクジェットヘッド
281~291 インクジェットヘッド
310 インクジェットヘッド
320 カット刃(媒体カット手段)
340 移動装置(移動手段)
341 繰り出しローラー(繰り出し部)
342 巻き取りローラー(巻き取り部)
355 制御部(印刷カット制御手段)
480 多層印刷物
481 印刷層群
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23