IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 関西ペイント株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】防食性に優れた水性塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20231018BHJP
   C09D 5/08 20060101ALI20231018BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20231018BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20231018BHJP
   C09D 201/02 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D5/08
C09D7/61
C09D7/63
C09D201/02
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2018237162
(22)【出願日】2018-12-19
(65)【公開番号】P2019112626
(43)【公開日】2019-07-11
【審査請求日】2021-09-07
(31)【優先権主張番号】P 2017246856
(32)【優先日】2017-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001409
【氏名又は名称】関西ペイント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 伶美
(72)【発明者】
【氏名】安田 陽
(72)【発明者】
【氏名】松田 英樹
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216689(JP,A)
【文献】特開2006-257142(JP,A)
【文献】特開2015-059195(JP,A)
【文献】特開2007-051323(JP,A)
【文献】特開2013-018899(JP,A)
【文献】特開2018-058917(JP,A)
【文献】特表2002-520462(JP,A)
【文献】特開2007-175975(JP,A)
【文献】国際公開第2013/058402(WO,A1)
【文献】特表2008-543533(JP,A)
【文献】特開平08-259885(JP,A)
【文献】特開昭57-049675(JP,A)
【文献】特開2013-199621(JP,A)
【文献】特開2013-202488(JP,A)
【文献】特開2016-172804(JP,A)
【文献】国際公開第2015/119248(WO,A1)
【文献】特開2011-137080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 5/08
C09D 7/61
C09D 7/63
C09D 201/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂エマルション(A)及び防錆顔料成分(D)を含む第1成分(I)、並びに、樹脂エマルション(B)及び軟化剤(C)を含む第2成分(II)を含んでなる2液型水性塗料組成物であって、
樹脂エマルション(A)が1級アミノ基を有するアミノ基含有樹脂エマルションであり、
樹脂エマルション(B)がエポキシ基含有樹脂エマルションであり、
樹脂エマルション(B)の樹脂の重量平均分子量が樹脂エマルション(A)の樹脂の重量平均分子量よりも低いものであり、第2成分(II)中に軟化剤(C)を1~30質量%の範囲内で含み、
第2成分(II)に含まれる軟化剤(C)が、樹脂エマルション(A)の樹脂と反応可能な官能基を有し、
軟化剤(C)が、グリコールエーテル化合物、アルキルエステル化合物、又はエポキシ化合物を含み、かつ重量平均分子量が樹脂エマルション(B)の樹脂と同等以下の有機化合物であり、
前記グリコールエーテル化合物は、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、及び2-エチルヘキシルグリコールから成る群から選択される1種又は2種以上を含み、
前記エポキシ化合物は、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、炭素数が12及び又は14のアルキル基を有するグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテル、酪酸グリシジルルエステル、ステアリン酸グリシジルルエステル、ネオデカン酸グリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアレート、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2-エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、及びエポキシ化オレイン酸デシルから成る群から選択される1種又は2種以上を含む、2液型水性塗料組成物。
【請求項2】
樹脂エマルション(B)がノボラック型エポキシ樹脂のエマルションである、請求項1に記載の水性塗料組成物。
【請求項3】
第1成分(I)に含まれる樹脂エマルション(A)が、反応性基含有軟化剤(a4)を製造原料とする変性樹脂エマルションであり、
前記反応性基含有軟化剤(a4)は、カルボキシル基及び/又はグリシジル基等の官能基を有する化合物である、請求項1又は2に記載の水性塗料組成物。
【請求項4】
防錆顔料成分(D)がその成分の一部として、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオン及びモリブデン酸イオンから選ばれる少なくとも1種のイオンを溶出可能な防錆顔料(d)を含む、請求項1ないしのいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項5】
第1成分(I)及び/又は第2成分(II)が、繊維状無機化合物(E)をさらに含む、請求項1ないしのいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項6】
第1成分及び/又は第2成分(II)が、ポリカルボジイミド化合物(F)をさらに含む、請求項1ないしのいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項7】
第1成分及び第2成分のpHが共に5.0~9.0である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
【請求項8】
請求項1ないしのいずれか1項に記載の第1成分(I)及び第2成分(II)を混合して得られる水性塗料組成物。
【請求項9】
被塗物に、請求項8に記載の水性塗料組成物を塗装する、防食塗装方法。
【請求項10】
被塗物が、錆が残存する基材面である請求項9に記載の防食塗装方法。
【請求項11】
請求項10に記載の防食塗装が施された塗装物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、防食性に優れた水性塗料組成物及び防食塗装方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼材は、海洋構造物、港湾施設、船舶、建築、土木構造物、自動車など多方面に広く用いられているが、自然環境に曝されると腐食するという問題がある。腐食を防止あるいは抑制する方法として、防食塗装が行われている。
【0003】
近年、鉄橋、プラント、鉄塔、石油施設等をはじめとする鋼構造物は、老朽化の時期を迎えており、改修塗装が必要である。
【0004】
一般に、鋼構造物の改修塗装を行うには、塗装前の下地処理が大切であり、その精度により、塗膜の寿命が左右される。下地処理として具体的には、鋼構造物の発錆部の錆びた部分の除去、旧塗膜表面の面粗らし、防錆効果を失って脆くなった塗膜の除去等が挙げられる。下地処理の程度は「ケレン」という名称で呼ばれており、グレードにより1種ケレンから3種ケレンまで分類され、グレードに応じた処理方法で下地処理が行われている。 ケレンのグレードの分類は一般に明確に定められたものではないが、1種ケレンは錆及び塗膜を完全に除去し、鋼材面を清浄にする本格的な下地処理をいい、一方、3種ケレンは活膜は残し、錆及び劣化塗膜は除去する簡易下地処理であり、2種ケレンはその中間である。
【0005】
そして、鋼構造物の改修塗装において理想とされている1種ケレングレードまで下地処理を行うには、研磨粒子を圧縮空気で吹き付けるサンドブラスト、ショットブラスト等のブラスト法などがある。ブラスト手法では機械騒音、作業騒音、労力、所要時間等に問題がある。
【0006】
例えば、下地処理に1種グレードを採用した場合、改修塗装工事全体に要する費用のうち6~7割はブラスト法及び産業廃棄物処理費用にかかると言われており、2種ケレンまたは3種ケレン程度の簡易な下地処理でも長期の防食性を発揮できる防食塗り替え工法が必要とされてきた。
【0007】
そうした方策として特許文献1には、錆層を有する金属表面にシランカップリング剤を含有するエポキシ樹脂塗料を塗装するという錆面防食被膜形成方法が提案されている。特許文献1の記載によれば、錆層中の水分によりエポキシ樹脂塗料に含まれるシランカップリング剤と錆層及び金属表面を固定することができ、金属表面に錆が残存していてもその上に設けられた防食被膜が基材を保護することができることが記載されている。
【0008】
また、錆層に含まれる水分を利用して錆層を固定化する技術が記載された文献として特許文献2には錆層を有する金属表面にケチミン化合物を硬化剤とするエポキシ樹脂塗料を塗装するという錆面防食被膜形成方法が提案されている。
【0009】
しかしながら特許文献1及び2の手法によれば、基材上に錆が残存している故に防食性及び付着性の点において未だ十分な品質は得られておらず、さらなる改良が必要である。
【0010】
一方、近年、環境に対する配慮から重防食塗料分野でも水性化が進んでいる。
【0011】
水性の重防食塗料として例えば特許文献3には、エポキシ樹脂エマルジョンを含む主剤と、特定の活性水素当量を有する環状ポリアミンを含んでなるアミン硬化剤を含む2液型水性防食塗料が記載されている。該水性防食塗料は水系であっても防食性に優れる塗膜を形成し得るが、錆面上に適用される場合、海浜等厳しい環境下で長期暴露された場合などの場合は十分な防食性を発揮することができず、塗膜表面に点錆が発生することがあった。
【0012】
一方、特許文献4には、ビスフェノール骨格を有するエポキシ樹脂をアミン化合物で変性して得られたアミン変性エポキシ樹脂と、沸点200℃以上の非水溶性化合物を可塑剤として含む水性塗料組成物が記載されている。特許文献4によればかかる化合物がアミン変性エポキシ樹脂に含まれた形で塗膜を形成することができ、このことがより優れた防食性に寄与することができると記載されている。
【0013】
しかしながら特許文献4は2液型組成物である旨明示の記載はされていない。そしてかかる非水溶性化合物はアミン変性エポキシ樹脂と相溶する性質であることが記載されているのみであって、アミン変性エポキシ樹脂の反応相手となる架橋剤と共に共存する態様については何ら記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】日本国特開平1-25877号公報
【文献】日本国特開昭60-78672号公報
【文献】日本国特開2009-149791号公報
【文献】国際公開WO2011-118790号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、錆が残存した基材上に塗布しても良好な防食性の塗膜を形成することが可能な水性塗料組成物及び防食塗装方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記した課題に関して鋭意検討した結果、2液型の水性塗料組成物のうち、重量平均分子量が低い樹脂エマルションを含む側に特定量の軟化剤を含ませる態様にすることによって、錆が残存する基材面に対しても優れた防食性を発揮する塗膜が得られることを見出した。
【0017】
即ち本発明は、以下の態様を包含する。
項1.
樹脂エマルション(A)を含む第1成分(I)、並びに、樹脂エマルション(B)及び軟化剤(C)を含む第2成分(II)を含んでなり、樹脂エマルション(B)の樹脂の重量平均分子量が樹脂エマルション(A)の樹脂の重量平均分子量よりも低いものであり、
第2成分(II)中に軟化剤(C)を1~30質量%の範囲内で含む、2液型水性塗料組成物。
項2.
樹脂エマルション(A)が、アミノ基含有樹脂エマルションであり、樹脂エマルション(B)がエポキシ基含有樹脂エマルションである、項1記載の水性塗料組成物。
項3.
樹脂エマルション(B)がノボラック型エポキシ樹脂のエマルションである、項1または2に記載の水性塗料組成物。
項4.
第2成分(II)に含まれる軟化剤(C)が、樹脂エマルション(A)の樹脂と反応可能な官能基を有する、項1ないし3のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項5.
第1成分(I)に含まれる樹脂エマルション(A)が、反応性基含有軟化剤(a4)を製造原料とする変性樹脂エマルションである、項1ないし4のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項6.
第1成分(I)及び/又は第2成分(II)が防錆顔料成分(D)をさらに含むものであり、該防錆顔料成分(D)がその成分の一部として、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオン及びモリブデン酸イオンから選ばれる少なくとも1種のイオンを溶出可能な防錆顔料(d)を含む、項1ないし5のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項7.
第1成分(I)及び/又は第2成分(II)が、繊維状無機化合物(E)をさらに含む、項1ないし6のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項8.
第1成分及び/又は第2成分(II)が、ポリカルボジイミド化合物(F)をさらに含む、項1ないし7のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項9.
第1成分及び第2成分のpHが共に5.0~9.0である、項1ないし8のいずれか1項に記載の水性塗料組成物。
項10.
項1ないし9のいずれか1項に記載の第1成分(I)及び第2成分(II)を混合して得られる水性塗料組成物。
項11.
被塗物に、項10記載の水性塗料組成物を塗装する、防食塗装方法。
項12.
被塗物が、錆が残存する基材面である項11記載の防食塗装方法。
項13.
項11又は12記載の防食塗装が施された塗装物品。
【発明の効果】
【0018】
本発明の水性塗料組成物によれば、塗装前の塗料状態の貯蔵安定性は共に良好であり、両者を混合し、塗装することによって防食性に優れた塗膜を常温乾燥の条件でも得ることができ、海浜等厳しい環境下に長期間曝されても被塗物の美観を長期に渡って維持することができる。
【0019】
また、本発明の水性塗料組成物は、新設の基材は勿論、錆が残存した基材上に直接塗装しても十分な防食性を発揮することができる。このため、老朽化し錆が残存した鋼構造物などの塗り替え塗装にも適用可能であり、水性の組成物という環境に配慮されている上に塗装に要するトータルの労力を大幅に削減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の2液型の水性塗料組成物は、樹脂エマルション(A)を含む第1成分(I)並びに樹脂エマルション(B)を含む第2成分(II)を含んでなる。
【0021】
<樹脂エマルション(A)>
本発明において、後述の樹脂エマルション(B)と共に塗膜形成成分となりうる樹脂エマルション(A)は、塗膜形成能を有する合成樹脂を水分散してなる水分散体である。樹脂エマルション(A)及び樹脂エマルション(B)にそれぞれ用いられる合成樹脂としては特に制限はなく、塗料分野で公知のものを使用できるが、好ましくは、樹脂エマルション(A)と樹脂エマルション(B)がそれぞれ互いに反応可能な官能基を有していることが好ましい。
【0022】
樹脂エマルション(A)と樹脂エマルション(B)に含まれる反応性官能基の組み合わせとしては、酸基とエポキシ基、アミノ基とエポキシ基、及び水酸基とイソシアネート基の組み合わせなどを挙げることができ、特にエポキシ基とアミノ基の組み合わせがより好ましく、特に、樹脂エマルション(A)がアミノ基含有樹脂エマルションであり、樹脂エマルション(B)がエポキシ基含有樹脂エマルションであることが好ましい。
【0023】
本発明において、樹脂エマルション(A)としてはエポキシ樹脂(a1)及びポリアミン化合物(a2)を製造原料とする樹脂であることが適しており、樹脂の全アミン価としては20~120mgKOH/gの範囲内が好ましい。
【0024】
《エポキシ樹脂(a1)》
樹脂エマルション(A)の製造原料としてのエポキシ樹脂(a1)としては、分子中に少なくとも1個、好ましくは2個以上のエポキシ基を有する樹脂であり、少なくとも160、好ましくは180~2500の範囲内のエポキシ当量を有するものが適している。
【0025】
エポキシ樹脂(a1)として具体的には、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂等のビスフェノール型エポキシ樹脂;上記ビスフェノール型エポキシ樹脂を二塩基酸等で変性したエポキシエステル樹脂;クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂等のノボラック型エポキシ樹脂;脂環式エポキシ樹脂;ポリグリコール型エポキシ樹脂;水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル等の脂肪族型エポキシ樹脂、グリシジル(メタ)アクリレートなどのエポキシ基含有アクリルモノマーを構成成分とするエポキシ基含有アクリル樹脂等が挙げられる。エポキシ樹脂としては、未変性のエポキシ樹脂が好ましい。これらはそれぞれ単独でもしくは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0026】
上記エポキシ樹脂(a1)の市販品としては、例えば、「jER827」、「jER828」、「jER828EL」、「jER828XA」、「jER834」(以上、三菱ケミカル社製)、「EPICLON840」、「EPICLON840-S」、「EPICLON850」、「EPICLON850-S」、「EPICLON850-CRP」、「EPICLON850-LC」(以上、DIC社製)、「エポトートYD-127」、「エポトートYD-128」(以上、東都化成社製)、「リカレジンBPO-20E」、「リカレジンBEO-60E」(以上、新日本理化社製)等のビスフェノールA型エポキシ樹脂;「jER806」、「jER807」(以上、三菱ケミカル社製)、「EPICLON830」、「EPICLON830-S」、「EPICLON835」(以上、DIC社製)、「エポトートYDF-170」(東都化成社製)等のビスフェノールF型エポキシ樹脂;「jER4250」(三菱ケミカル社製)等のビスフェノールA型ビスフェノールF型フェノキシ樹脂、「jER152」(三菱ケミカル社製)等のノボラック型エポキシ樹脂;「jERYX8000」、「jERYX8034」(以上、三菱ケミカル社製)、「エポトートST-3000」(東都化成社製)、「リカレジンHBE-100」(新日本理化社製)「デナコールEX-252」(以上、ナガセケムテックス社製)、「SR-HBA」(阪元薬品工業社製)等の水添ビスフェノールA型エポキシ樹脂;「YED205」、「YED216M」、「YED216D」(以上、三菱ケミカル社製)、「エポトートYH-300」、「エポトートYH-301」、「エポトートYH-315」、「エポトートYH-324」、「エポトートYH-325」(以上、東都化成社製)、「デナコールEX-211」、「デナコールEX-212」、「デナコールEX-212L」、「デナコールEX-214L」、「デナコールEX-216L」、「デナコールEX-313」、「デナコールEX-314」、「デナコールEX-321」、「デナコールEX-321L」、「デナコールEX-411」、「デナコールEX-421」、「デナコールEX-512」、「デナコールEX-521」、「デナコールEX-611」、「デナコールEX-612」、「デナコールEX-614」、「デナコールEX-614B」、「デナコールEX-622」、「デナコールEX-810」、「デナコールEX-811」、「デナコールEX-850」、「デナコールEX-850L」、「デナコールEX-851」、「デナコールEX-821」、「デナコールEX-830」、「デナコールEX-832」、「デナコールEX-841」、「デナコールEX-861」「デナコールEX-911」、「デナコールEX-941」、「デナコールEX-920」、「デナコールEX-931」(以上、ナガセケムテックス社製)、「SR-NPG」、「SR-16H」、「SR-16HL」、「SR-TMP」、「SR-PG」、「SR-TPG」、「SR-4PG」、「SR-2EG」、「SR-8EG」、「SR-8EGS」、「SR-GLG」、「SR-DGE」、「SR-DGE」、「SR-4GL」、「SR-4GLS」、「SR-SEP」(以上、阪元薬品工業社製)等の脂肪族型エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0027】
上記エポキシ樹脂(a1)は、上記例示のエポキシ樹脂を、2官能性のポリエステルポリオール類、2官能性ポリエーテルポリオール類、ビスフェノール類、2塩基性カルボン酸類等とエポキシ基が過剰となるように反応して得られるエポキシ樹脂も包含される。
【0028】
《ポリアミン化合物(a2)》
上記ポリアミン化合物(a2)としては、分子両末端に1級アミノ基を有し、少なくとも1個の2級アミノ基を有するポリアミン化合物(a2-1)であることが望ましい。
【0029】
このようなポリアミン化合物(a2-1)としては、例えば、ジメチレントリアミン、ジエチレントリアミン、ジプロピレントリアミン、ジブチレントリアミン、ビス(ヘキサメチレン)トリアミンなどのジアルキレントリアミン;トリエチレンテトラミン、トリプロピレンテトラミンなどのトリアルキレンテトラミン;テトラエチレンペンタミン、テトラプロピルペンタミンなどのテトラアルキレンペンタミン;ペンタアルキレンヘキサミン;ヘキサアルキレンヘプタミンなどが挙げられる。これらは1種を単独で又は2種以上を併用して用いることができる。
【0030】
特に本発明では、第1成分(I)の製造及び貯蔵安定性及び錆面上の防食性の観点から上記ポリアミン化合物(a2-1)がジアルキレントリアミンであることが好ましく、炭素数が2~8、好ましくは3~6のアルキレン基を有するジアルキレントリアミンが特に適している。
【0031】
また、上記ポリアミン化合物(a2-1)以外に適用可能なポリアミンとしては、例えばモノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、モノオクチルアミン、メチルブチルアミン、ジブチルアミンなどのモノ-アルキルアミン又はジ-アルキルアミン;モノエタノールアミン、N-メチルエタノールアミン、N-エチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、N-ブチルエタノールアミン、ジプロパノールアミン、モノメチルアミノエタノール、N-(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、3-メチルアミン-1,2-プロパンジオール、3-tert-ブチルアミノ-1,2-プロパンジオール、N-メチルグルカミン、N-オクチルグルカミンなどのアルカノールアミン;ポリメチレンジアミン、ポリエーテルジアミン、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ビス(4-アミノブチル)アミンなどのアルキレンポリアミン;メンセンジアミン、イソホロンジアミン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、メタキシリレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ナフチレンジアミン、ジメチルアミノメチルベンゼンなどの芳香族又は脂環族ポリアミン;ピペラジン、1-メチルピペラジン、3-ピロリジノール、3-ピぺリジノール、4-ピロリジノールなどの複素環を有するポリアミン;上記ポリアミン1モルに対しエポキシ基含有化合物を付加させることによって得られるエポキシ付加ポリアミン;上記ポリアミンと芳香族酸無水物、環状脂肪族酸無水物、脂肪族酸無水物、ハロゲン化酸無水物及び/又はダイマー酸との縮合によって生成するポリアミド樹脂の分子中に1個以上の1級又は2級アミンを含有するポリアミドポリアミン;上記ポリアミン中の1個以上の1級又は2級アミンとケトン化合物とを反応せしめたケチミン化アミン;などが挙げられる。これらは1種を単独でまたは2種以上を併用して用いることができる。
【0032】
エポキシ樹脂(a1)及びポリアミン化合物(a2)の使用割合としては、エポキシ樹脂(a1)1モルに対してポリアミン化合物(a2)が0.2~3.0モル、好ましくは0.5~2.5モルとなるような割合にあることが適している。
【0033】
《ケトン化合物(a3)》
また、上記樹脂エマルション(A)は、エポキシ樹脂(a1)及びポリアミン化合物(a2)に加えてケトン化合物(a3)を製造原料とする樹脂であることが好ましい。
【0034】
ケトン化合物(a3)としては、メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、メチルエチルケトンなどが挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。中でも、メチルイソブチルケトンが好ましい。
【0035】
ケトン化合物(a3)を使用する場合、その場合の使用割合としては、アミン化合物(a2)中の一級アミノ基1モルに対して0.2~3.0モル、好ましくは0.5~2.5モルとなるような割合にあることが適している。
【0036】
《反応性基含有軟化剤(a4)》
また、上記樹脂エマルション(A)は、反応性基含有軟化剤(a4)を製造原料とする、反応性基含有軟化剤(a4)変性樹脂エマルションであることが適している。後述の第2成分(II)が軟化剤(C)を含むとともに樹脂エマルション(A)に含まれる官能基が反応性基含有軟化剤(a4)と一部反応してなることによって、本発明組成物により形成される塗膜の防食性向上に効果がある。
【0037】
上記反応性基含有軟化剤(a4)としては、炭素数が4以上のアルキル基と樹脂エマルション(A)に含まれる官能基と反応可能な官能基を有する化合物であることができる。
【0038】
樹脂エマルション(A)が、アミノ基含有樹脂エマルションである場合には反応性基含有軟化剤(a4)はカルボキシル基及び/又はグリシジル基等の官能基を有する化合物であることができる。その具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル化合物;
酪酸グリシジルルエステル、ステアリン酸グリシジルルエステル、ネオデカン酸グリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアレート、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2-エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシル等のアルキルグリシジルエステル化合物;
ヤシ油脂肪酸、綿実油脂肪酸、麻実油脂肪酸、米ぬか油脂肪酸、魚油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、桐油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸、脱水ヒマシ油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸等の長鎖アルキル脂肪酸;等
を挙げることができる。
【0039】
かかる反応性基含有軟化剤(a4)を製造原料として使用する場合、その場合の使用割合としては、ポリアミン化合物(a2)に含まれる1級アミノ基1モルに対して当該化合物(a4)に含まれるアミノ基と反応可能な官能基が0.1~0.8モル、好ましくは0.2~0.6モルの範囲内にあることが適している。
【0040】
反応性基含有軟化剤(a4)のポリアミン化合物(a2)に対する反応割合が上記範囲内にあることによって、本発明水性塗料組成物から形成される塗膜が造膜性に優れ、優れた防食性を発揮することができる。
【0041】
本発明では、樹脂エマルション(A)は、上記成分(a1)及び(a2)、並びに必要に応じて(a3)及び/または(a4)を製造原料とすることができ、また、界面活性剤等その他成分を必要に応じて製造原料とすることができる。その製造方法は特に制限はされず、ポリアミン化合物(a2)の1級アミノ基をケトン化合物(a3)と反応させケチミン化した後に2級アミノ基とエポキシ樹脂(a1)のエポキシ基とを反応させ、次いで、水希釈する際に加水分解によってケチミンを1級アミノ基に戻す製造方法等が挙げられる。
【0042】
上記製造方法によれば、樹脂エマルション(A)は、水存在下で樹脂末端に水分散基である1級アミノ基を有することができ、錆面上の防食性に優れた防食塗膜を形成するのに役立つ。
【0043】
上記必要に応じて使用される界面活性剤としては、特に限定されるものではなく、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルエステル類、ソルビタンアルキルエステル類、ポリオキシエチレンソルビタンアルキルエステル類、グリセリンエステル類およびその誘導体、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルエーテル硫酸塩、アルケニルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、アルケニル硫酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、α-スルホ脂肪酸又はエステル塩、アルカンスルホン酸塩、飽和脂肪酸塩、不飽和脂肪酸塩、アルキルエーテルカルボン酸塩、アルケニルエーテルカルボン酸塩、アミノ酸型界面活性剤、N-アシルアミノ酸型界面活性剤、アルキルリン酸エステル又はその塩、アルケニルリン酸エステル又はその塩等のアニオン性界面活性剤;第4級アンモニウム塩等のカチオン性界面活性剤;カルボキシル型両性界面活性剤、スルホベタイン型両性界面活性剤等の両性界面活性剤等が挙げられる。
【0044】
上記界面活性剤を配合する場合、樹脂製造段階に限らず、塗料製造工程のどの段階で行ってもよい。配合量としては塗料状態での貯蔵安定性及び形成塗膜の防食性の観点から、樹脂エマルション(A)及び樹脂エマルション(B)の不揮発分合計質量100質量部を基準として1~15質量部、特に3~8質量部の範囲内が適当である。
【0045】
本明細書において不揮発分とは、揮発成分を除いた残存物を意味するものであり、残存物としては常温で固形状であっても液状であっても差し支えない。例えば試料を105℃、3時間処理して揮発成分を除去した時の残存成分をいう。
【0046】
また、化合物(a4)を製造原料として用いる場合には、樹脂エマルション(A)の製造においていずれの段階で用いることが可能であるが、ポリアミン化合物(a2)末端の1級アミノ基をケトン化合物(a3)と反応させケチミン化した後に2級アミノ基とエポキシ樹脂(a1)のエポキシ基を反応させ、次いで、水希釈する際に加水分解によってケチミンを1級アミンに戻し、次いで化合物(a4)を反応させる方法が好ましい。
【0047】
上記樹脂エマルション(A)は、中和されていてもよいアミノ基の存在により水系媒体に対して良好に分散される。水分散体とした場合は一般に平均粒子径が50~500nm、特に100~300nmの範囲内にあることが、常温乾燥での造膜性と硬化性の観点から適している。
【0048】
中和に用いられる中和剤としては、例えば蟻酸、酢酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、グルタール酸、アジピン酸、マレイン酸、乳酸、プロピオン酸、ヒドロキシエタンジホスホン酸、メタンスルホン酸などの有機酸;塩酸、リン酸、硫酸、ジルコふっ化水素酸、ケイふっ化水素酸、硝酸等の無機酸;等の酸化合物を挙げることができる。
【0049】
上記樹脂エマルション(A)は全アミン価が20~120mgKOH/g、好ましくは40~100mgKOH/gの範囲内にあることが適している。
【0050】
また、樹脂エマルション(A)は、樹脂の重量平均分子量が1000~20000、好ましくは2000~8000の範囲内にあることが、常温乾燥性、防食性、耐湿性などの塗膜物性の点から適している。
【0051】
本明細書において、平均粒子径は、測定温度20℃において、コールターカウンター法によって測定された体積平均粒子径の値である。コールターカウンター法による測定は、例えば、「COULTERN4型」(ベックマン・コールター社製、商品名)を用いて行うことができる。
【0052】
また、アミン価はJIS K 7237-1995に準じて測定する。全て樹脂不揮発分当たりのアミン価(mgKOH/g)である。
【0053】
重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用いて測定した保持時間(保持容量)を、同一条件で測定した分子量既知の標準ポリスチレンの保持時間(保持容量)によりポリスチレンの分子量に換算して求めた値である。カラムは、「TSKgelG-4000H×L」、「TSKgel G-3000H×L」、「TSKgel G-2500H×L」、「TSKgelG-2000H×L」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)の4本を用い、移動相;テトラヒドロフラン、測定温度;40℃、流速;1ml/分、検出器;RIの条件で行ったものである。
【0054】
<樹脂エマルション(B)>
本発明において、樹脂エマルション(B)としては、上記樹脂エマルション(A)よりも樹脂の重量平均分子量が低い樹脂を水分散してなる水分散体である。
【0055】
樹脂エマルション(B)が樹脂エマルション(A)に含まれる官能基と反応可能な官能基を有すること、エポキシ基含有樹脂エマルションであることが好ましいことは上述したとおりである。
【0056】
樹脂エマルション(B)がエポキシ基含有樹脂エマルションである場合、その製造原料としては上記エポキシ樹脂(a1)の説明で列記したエポキシ基含有化合物を例示することができる。
【0057】
中でも上記樹脂エマルション(A)に含まれるアミノ基と反応し得るエポキシ基を多数有し、硬化性に優れた塗膜が得られる観点から樹脂エマルション(B)はその成分の一部としてノボラック型エポキシ樹脂を含有していることが好適である。
【0058】
また、前記樹脂エマルション(B)のエポキシ当量としては、第1成分(I)と第2成分(II)との相溶性の観点から樹脂エマルション(A)におけるエポキシ樹脂(a1)よりも低いことが適しており、具体的には、少なくとも50、好ましくは100~500の範囲内にあることが適している。
【0059】
また、上記樹脂エマルション(B)の樹脂の重量平均分子量は、上記樹脂エマルション(A)より低い。これにより、本発明組成物の第1成分(I)と第2成分(II)との相溶性がより一層向上すると考えられる。樹脂エマルション(B)の樹脂の重量平均分子量は、特に限定されるものではなく、具体的には300~10000、好ましくは500~5000の範囲内にあることが適している。
【0060】
上記樹脂エマルション(B)は、アニオン性、ノニオン性又はカチオン性の親水性基を有する分散安定剤もしくは界面活性剤により分散されてなるか、樹脂(B)自身がこれら親水性基を有していることが適しており、これらの存在により、樹脂エマルション(B)は水系媒体へ良好に分散されてなることができる。
【0061】
上記アニオン性の親水性基の例としては、酸性基が挙げられる。該酸性基の例としては、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基等が挙げられる。
【0062】
前記ノニオン性の親水性基の例としては、ポリオキシアルキレン基、ポリグリセリン基等が挙げられる。
【0063】
前記カチオン性の親水性基の例としては、1~3級のアミノ基、アンモニウム基、ピリジニウム基、スルホニウム基、ホスホニウム基等が挙げられる。
【0064】
上記樹脂エマルション(B)の平均粒子径としては、50~1500nm、好ましくは200~1000nmの範囲内にあることができる。平均粒子径がこの範囲内にあることにより、第1成分(I)及び第2成分(II)混合後の組成物の造膜性が優れるという効果がある。特に本発明では水性塗料組成物の造膜性の点から記樹脂エマルション(A)の水分散体の平均粒子径よりも樹脂エマルション(B)の平均粒子径が大きいことが適している。
【0065】
上記樹脂エマルション(B)は市販品を使用することもできる。その具体例としては、ウォーターゾールシリーズ(DIC社製、商品名)、モデピクスシリーズ(荒川化学社製、商品名)、アデカレジン(ADEKA社製、商品名)、「ユカレジンKE-278」、「ユカレジンKE-002」「ユカレジンKE-307-2」(吉村油化学社製、商品名)等を挙げることができる。
【0066】
<軟化剤(C)>
また、本発明においては、形成塗膜の耐衝撃性、低温環境での造膜性等の点から、軟化剤(C)を含む。軟化剤(C)としては、樹脂エマルション(B)と混合安定性の良好な化合物が好適に用いられる。
【0067】
本明細書において樹脂エマルション(B)と軟化剤(C)の混合安定性が良好である状態とは、両者を等量混合し、目視で均一になるまで攪拌し、20℃で24時間放置したときに両者が分離しない状態であることをいう。
【0068】
このような軟化剤(C)としては、室温で液状であり、重量平均分子量が樹脂エマルション(B)の樹脂と同等以下である有機化合物が適している。具体的には、グリコールエーテル化合物、アルキルエステル化合物、エポキシ化合物等が挙げられる。
【0069】
グリコールエーテル化合物としては、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノフェニルエーテル、エチレングリコールモノベンジルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、2-エチルヘキシルグリコール等を挙げることができる。
【0070】
アルキルエステル化合物としては、ジブチルアジペート、DBE(二塩基酸エステル)、ジブチルフタレート、ジー2-エチルヘキシルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ-n-オクチルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ジ-2-エチルヘキシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールモノイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール2-エチルヘキサノエートイソブチレート、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオールジ2-エチルヘキサノエート等を挙げることができる。
【0071】
エポキシ化合物としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロフタル酸ジグリシジルエステル、グリセリンポリグリシジルエーテル、ジグリセリンポリグリシジルエーテル、ポリグリセリンポリグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル、tert-ブチルフェニルグリシジルエーテルなどのアルキルグリシジルエーテル化合物;酪酸グリシジルルエステル、ステアリン酸グリシジルルエステル、ネオデカン酸グリシジルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシブチルステアレート、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジ2-エチルヘキシル、エポキシヘキサヒドロフタル酸ジイソデシル、エポキシトリグリセライド、エポキシ化オレイン酸オクチル、エポキシ化オレイン酸デシル等のアルキルグリシジルエステル化合物などを挙げることができる。以上の化合物は単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0072】
上記した中でも樹脂エマルション(A)に含まれる官能基と反応可能な官能基を有する化合物、特に樹脂エマルション(A)がアミノ基含有樹脂エマルションである場合には、軟化剤(C)としてエポキシ化合物を使用することが防食性の点から適している。
【0073】
<防錆顔料成分(D)>
本発明の水性塗料組成物において、第1成分(I)及び/又は第2成分(II)、好ましくは第1成分(I)は防錆顔料成分(D)をさらに含むことが好ましい。
【0074】
本発明において、防錆顔料成分(D)は、腐食環境において、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン、亜鉛イオン、ケイ酸イオン、リン酸イオン、バナジン酸イオン及びモリブデン酸イオンから選ばれる少なくとも1種のイオンを溶出可能な防錆顔料(d)を含むことが好ましい。防錆顔料成分(D)が上記特定の防錆顔料(d)を含むことによって、錆面上又は金属基材上に塗装された塗膜が欠損した場合に上記イオンが溶出し、当該欠損部に作用することで防食性をより効果的に発揮することができる。
【0075】
本発明において、防錆顔料(d)のイオン溶出の有無は例えば防錆顔料(d)を塩化ナトリウム水溶液に溶出させ、その溶出量をICP発光分光分析によって測定することによって調べることが可能である。より具体的には、濃度が5質量%塩化ナトリウム水溶液に対して10質量%分の防錆顔料(d)を添加し25℃で6時間撹拌、24時間静置後沈殿物を除去した上澄み液を、ICP発光分光分析によって測定した溶解元素量の有無によって検出する方法等がある。
【0076】
本発明においては上記第1成分(I)が樹脂エマルション(A)と共に防錆顔料成分(D)を含む形態によって、防錆顔料成分(D)を十分な量で含んでいても第1成分(I)の製造及び貯蔵安定性が良好であり、本発明水性塗料組成物から形成される塗膜が安定した防食性を発揮することができる。
【0077】
上記防錆顔料成分(D)に含まれ得る防錆顔料(d)の具体例としては、上記イオンを溶出可能な成分であれば単独化合物、複合化合物、これら化合物を複数併用した組成物等その形態に制限はなく、具体的には、リン酸亜鉛、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸塩化フッ化カルシウム、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム等のリン酸系金属化合物;
亜リン酸マグネシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、塩基性亜リン酸亜鉛、亜リン酸バリウム、亜リン酸マンガン、次亜リン酸カルシウム等の亜リン酸系金属化合物;
ケイ酸カルシウム、ケイ酸亜鉛、ケイ酸アルミニウム、オルトケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩、ホウケイ酸塩、ベリロケイ酸塩、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸アルミニウムベリリウム、ケイ酸ナトリウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムナトリウム、ケイ酸ジルコニウム、オルトケイ酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムカルシウム、ケイ酸マンガン、ケイ酸バリウム等のケイ酸金属塩;マグネシウムイオン交換シリカ、カルシウムイオン交換シリカ、バナジウムイオン交換シリカ等の金属イオン交換シリカ系化合物;
トリポリリン酸ニ水素アルミニウム、トリポリリン酸マグネシウム、トリポリリン酸アルミニウム、トリポリリン酸二水素亜鉛等の縮合リン酸系金属化合物;
五酸化バナジウム、バナジン酸カルシウム、バナジン酸マグネシウム及びメタバナジン酸アンモニウム、酸化マンガンと酸化バナジウムとの焼成物、リン酸カルシウムと酸化バナジウムとの焼成物等のバナジウム系金属化合物;
モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸カルシウム、リンモリブデン酸アルミニウム等のモリブデン酸系金属化合物;
亜鉛、酸化亜鉛等の亜鉛系化合物;
シリカ、コロイダルシリカ等のシリカ系化合物;
酸化鉄と酸化マグネシウムとの複合酸化物、酸化鉄と酸化カルシウムとの複合酸化物、酸化鉄と酸化亜鉛との複合酸化物等の複合金属酸化物;
等を挙げることができる。前記したようにこれらは単独で又は2種以上組み合わせたものであってもよいし、2種以上を複合した複合物であることもできる。また、これら例示の化合物をシリカ、ケイ酸カルシウム等のケイ酸化合物や酸化マグネシウム等による変性物もしくは処理物も防錆顔料(d)に包含される。
【0078】
特に本発明では防錆顔料(d)が、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオン並びに、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分であることが、点錆抑制性並びに錆面及び金属面露出部に対する防食性に優れており、適している。すなわち、本発明では防錆顔料(d)が[1]ケイ酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分、[2]リン酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分、又は[3]ケイ酸イオン及びリン酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分のいずれかであることが、適している。
【0079】
特に防錆顔料(d)は、ケイ酸イオン及びリン酸イオン並びに、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分である態様が特に適している。すなわち、ケイ酸イオン及びリン酸イオンを溶出可能な成分であり、かつ、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な成分であることが、特に適している。
【0080】
このような防錆顔料(d)としては、ケイ酸イオン及び/又はリン酸イオンと上記した如き金属イオンを共に溶出可能であれば、その形態は制限されず、単独化合物又は複合化合物であってもよいし、前記化合物類を複数組み合わせた組成物であってもよい。例えば、トリポリリン酸二水素アルミニウムの酸化マグネシウム処理物とマグネシウムイオン交換シリカとの組み合わせは、ケイ酸イオン及びリン酸イオン並びに、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンから選ばれる少なくとも1種の金属イオンを溶出可能な防錆顔料(d)の一例である。
【0081】
かかる防錆顔料(d)のうちケイ酸イオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でケイ酸イオンを溶出可能なケイ酸系化合物を含んでいればよい。例えば、シリカ、コロイダルシリカ、上記防錆顔料(d)の説明で列記した化合物をケイ酸化合物による変性物、マグネシウムイオン交換シリカ、カルシウムイオン交換シリカ等の金属イオン交換シリカ系化合物等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0082】
リン酸イオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でリン酸イオンを溶出可能なリン酸系化合物を含んでいればよい。例えば、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、トリポリリン酸マグネシウム、トリポリリン酸二水素アルミニウムの酸化マグネシウム処理物、トリポリリン酸二水素亜鉛の酸化マグネシウム処理物、バナジウムリン等を挙げることができる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0083】
マグネシウムイオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でマグネシウムイオンを溶出可能なマグネシウム化合物を含んでいればよい。具体的には例えば、上記防錆顔料(d)の説明で列記したごとき化合物を酸化マグネシウムで処理した化合物、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウム・アンモニウム共析物、リン酸一水素マグネシウム、リン酸二水素マグネシウム、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸マグネシウム・コバルト共析物、リン酸マグネシウム・ニッケル共析物、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、マグネシウムイオン交換シリカ、トリポリリン酸マグネシウム、バナジン酸マグネシウム、メタケイ酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムカルシウム、酸化鉄と酸化マグネシウム複合酸化物、バナジン酸マグネシウム等を挙げることができる。これらを単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0084】
アルミニウムイオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でアルミニウムイオンを溶出可能なアルミニウム化合物を含んでいればよい。例えば、リン酸アルミニウム、リン酸水素アルミニウム、トリポリリン酸ニ水素アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、モリブデン酸アルミニウム、ケイ酸アルミニウム、オルトケイ酸アルミニウム、水化ケイ酸アルミニウム、アルミノケイ酸塩、ケイ酸アルミニウムカルシウム、ケイ酸アルミニウムナトリウム、ケイ酸アルミニウムベリリウム、リンモリブデン酸アルミニウム、バナジン酸アルミニウム等を挙げることができる。これらを単独でまたは2種以上組み合わせて使用することができる。
【0085】
カルシウムイオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下でカルシウムイオンを溶出可能なカルシウム化合物を含んでいればよい。例えば、リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、リン酸カルシウム、リン酸カルシウムアンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸塩化フッ化カルシウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム・カルシウム共析物、次亜リン酸カルシウム、カルシウムイオン交換シリカ、バナジン酸カルシウム、リン酸カルシウムと酸化バナジウムとの焼成物、モリブデン酸カルシウム、酸化鉄と酸化カルシウム複合酸化物、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウムカルシウム、オルトケイ酸カルシウム、メタケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムナトリウム、ケイ酸マグネシウムカルシウム、等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0086】
亜鉛イオンを溶出可能な防錆顔料は、腐食環境下で亜鉛イオンを溶出可能な亜鉛化合物を含んでいればよい。例えば、亜鉛、酸化亜鉛、リン酸亜鉛、塩基性亜リン酸亜鉛、トリポリリン酸二水素亜鉛、ケイ酸亜鉛、酸化鉄と酸化亜鉛との複合酸化物等の複合金属酸化物等を挙げることができる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0087】
上記本発明に用いられる防錆顔料成分(D)は、防錆顔料(d)以外のその他の防錆顔料を必要に応じて含むことができる。かかるその他の防錆顔料の具体例としては、水酸化コバルト等のコバルト系化合物;メタホウ酸バリウム等のホウ酸系化合物;リン化鉄、リン化マンガン、リン化ニッケル、リン化コバルト、リン化銅等のリン化物等を挙げることができる。
【0088】
その他の防錆顔料を使用する場合、その場合の使用量としては、上記防錆顔料成分(D)中に30質量%以下にすることができる。
【0089】
防錆顔料成分(D)は、単独もしくは複数の組み合わせの市販品を用いることができる。かかる市販品としては、例えば「EXPERTNP-1000」、「EXPERT NP-1020C」、「EXPERTNP-1100」、「EXPERT NP-1102」(以上、東邦顔料工業社製、商品名)、「LFボウセイCP-Z」、「LFボウセイ MZP-500」、「LFボウセイCRFC-1」、「LFボウセイ M-PSN」、「LFボウセイMC-400WR」、「LFボウセイ PM-300」、「LFボウセイ PM-308」(以上、キクチカラー社製、商品名)、「K-WHITE140」「K-WHITE Ca650」、「K-WHITE450H」、「K-WHITEG-105」、「K-WHITE #105」、「K-WHITE #82」(以上、テイカ社製、商品名)、「SHIELDEX C303」、「SHIELDEX AC-3」、「SHIELDEXC-5」(以上、いずれもW.R.Grace&Co.社製)、「サイロマスク52」、「サイロマスク52M」、「サイロマスク22MR-H」、「サイロマスクMg」(富士シリシア社製)、「ノビノックスACE-110」(SNCZ社製・フランス)等を挙げることができる。
【0090】
上記防錆顔料成分(D)の配合量としては、水性塗料組成物に含まれる樹脂、特に樹脂エマルション(A)の不揮発分質量100質量部を基準として1~100質量部、好ましくは5~90質量部、さらに好ましくは10~80質量部の範囲内にあることが適している。
【0091】
<繊維状無機化合物(E)>
本発明の水性塗料組成物において、第1成分(I)及び/又は第2成分(II)、好ましくは第1成分(I)が繊維状無機化合物(E)をさらに含むことが好ましい。
【0092】
理由は定かではないが繊維状無機化合物(E)によって錆面に対する付着性及び防食性の向上に効果がある。
【0093】
上記繊維状無機化合物(E)はその材質、製法、産地等には特に制限はなく、その具体例としては例えば、ガラス繊維、炭化珪素、窒化珪素、ウオラストナイト、セピオライト、クリソタイル、アモサイト、トレモライト、ゼオライト、カルシウムメタシリケート、ゾノライト、チタン酸カリウム、ロックウール、アルミニウムシリケート、カーボンファイバー、アラミドファイバー、ホウ酸アルミニウム、針状炭酸カルシウム、針状塩基性硫酸マグネシウム、ガラスフレーク、針状酸化亜鉛、アラゴナイト型軽質炭酸カルシウム、紡錘型軽質炭酸カルシウム、サチンホワイト等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0094】
本発明では上記繊維状無機化合物(E)としてアスペクト比が3.5以上、好ましくは4~25の範囲内にあるものを使用すると尚よい。
【0095】
アスペクト比とは無機針状顔料の長軸径/短軸径の値であり、ここでいう短軸径および長軸径とは、電子顕微鏡観察により一定面積内に存在する100個の一次粒子各々の短軸径および長軸径を測長し、それぞれの数平均値を求めたものである。
【0096】
また、繊維状無機化合物(E)の平均繊維長としては5~300μm、特に10~200μmの範囲内がよい。本明細書において平均繊維長は、アスペクト比の測定において得られた長軸径の平均値とする。
【0097】
本発明において、繊維状無機化合物(E)の配合量としては、塗料中に含まれる樹脂、特に樹脂エマルション(A)の合計不揮発分100質量部を基準として0.1~30質量部、好ましくは5~25質量部の範囲内にあることが適している。
【0098】
<ポリカルボジイミド化合物(F)>
また、上記第1成分(I)及び/又は第2成分(II)、好ましくは第2成分(II)はポリカルボジイミド化合物(F)をさらに含むことが好ましい。
【0099】
水性塗料組成物にポリカルボジイミド化合物(F)が含まれることによって、形成される塗膜の耐湿性向上に効果がある。
【0100】
かかるポリカルボジイミド化合物(F)としては分子中に-N=C=N-基を有する高分子であり、例えば、カルボジイミド化触媒の存在下でジイソシアネートの脱炭酸縮合反応によって製造することができる。カルボジイミド化触媒としては、スズ、酸化マグネシウム、カリウムイオン、18-クラウン-6、3-メチル-1-フェニル-2-ホスホレンオキシド等、及びこれらの組み合わせが挙げられる。これらは単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0101】
ジイソシアネートとしては、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、4,4´-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、メチルシクロヘキシルジイソシアネート、4,4´-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、テトラメチルキシリレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、2,4,6-トリイソプロピルフェニルジイソシアネート、1,12-ジイソシアネートドデカン、2,4,-ビス-(8-イソシアネートオクチル)-1,3-ジオクチルシクロブタン、n-ペンタン-1,4-ジイソシアネート等の多官能イソシアネート類の1種または2種以上を脱二酸化炭素縮合反応させることにより、カルボジイミド化し、水希釈性を付与するために末端の残存イソシアネート基を親水性基で封止したものである。
【0102】
封止する親水基としては、アルキルスルホン酸塩の残基、ジアルキルアミノアルコールの残基の四級塩、アルコキシ基末端を封鎖されたポリオキシアルキレンの残基などがあげられる。
【0103】
ポリカルボジイミド化合物(F)としては、例えば、「カルボジライトV-02」、「カルボジライトV-04」、「カルボジライトV-02-L2」、「カルボジライトE-02」、「カルボジライトE-03A」、「ElastostabH01」(以上、製品名、日清紡ケミカル株式会社製)等の市販品を使用することができる。
【0104】
ポリカルボジイミド化合物(F)の配合量としては、水性塗料組成物に含まれる樹脂、特に樹脂エマルション(A)の不揮発分100質量部を基準として、0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部の範囲内にあることが塗膜の吸水率及び防食性の点から適している。第2成分(II)がポリカルボジイミド化合物(F)を含む場合、第2成分(II)全体に占めるポリカルボジイミド化合物(F)の割合としては、1~20質量%であり、特に3~15質量%の範囲内が適当である。
【0105】
本発明の水性塗料組成物においては、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、有機溶剤、表面調整剤、消泡剤、増粘剤、硬化触媒、界面活性剤、沈降防止剤、可塑剤、反応性希釈剤、凍結防止剤、皮張り防止剤、pH調整剤、防腐剤等の通常の塗料用添加剤を第1成分(I)及び/又は第2成分(II)に配合することができる。
【0106】
これらのうち着色顔料としては、例えば、酸化チタン、カーボンブラック、黄鉛、黄土、黄色酸化鉄、ハンザエロー、ピグメントエロー、クロムオレンジ、クロムバーミリオン、パーマネントオレンジ、アンバー、パーマネントレッド、ブリリアントカーミン、ファストバイオレット、メチルバイオレットレーキ、群青、紺青、コバルトブルー、フタロシアニンブルー、ピグメントグリーン、ナフトールグリーン、アルミペーストなどが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0107】
着色顔料の配合量としては、水性塗料組成物に含まれる樹脂、特に樹脂エマルション(A)の不揮発分100質量部を基準として5~90質量部、好ましくは10~50質量部の範囲内にあることが適している。
【0108】
体質顔料としては、例えば、タルク、シリカ、炭酸カルシウム、マイカ、カオリン、硫酸バリウム、亜鉛華(酸化亜鉛)などが挙げられる。これらはそれぞれ単独で又は2種以上組合せて用いることができる。
【0109】
体質顔料の配合量としては、水性塗料組成物に含まれる樹脂不揮発分100質量部を基準として10~100質量部、好ましくは20~70質量部の範囲内にあることが耐水性の点から適している。
【0110】
上記顔料を分散するために用いられる顔料分散剤としては、特に制限されるものではないが、酸価が50mgKOH/g以下である酸性分散剤が適している。このような顔料分散剤の例としてはアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、αオレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂、スルホン酸樹脂、リン酸樹脂等が挙げられ、これらは分散安定性の点からポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリアルキレングリコール基が導入されたものであってもよい。
【0111】
顔料分散剤の配合量としては、防錆顔料成分(D)を含む成分の製造時の増粘抑制性、貯蔵安定性などの観点から、樹脂エマルション(A)不揮発分質量100質量部を基準として1~20質量部、特に3~15質量部の範囲内が好適である。
【0112】
本発明の水性塗料組成物は、第1成分(I)の樹脂エマルション(A)及び必要に応じて含むその他の成分、並びに、第2成分(II)の樹脂エマルション(B)、軟化剤(C)及び必要に応じて含むその他の成分が、水系媒体中に溶解ないしは分散している。水系媒体は、水を主成分とするものであり、水であってもよいし、水と有機溶剤との混合物であってもよい。
【0113】
<有機溶剤>
本発明において有機溶剤としては従来公知のものを制限なく使用することができるが、その具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール等のアルコール化合物;ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル化合物;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノn-プロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn-ブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノtert-ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のグリコールエーテル化合物;
ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノn-プロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノイソプロピルエーテル等のジプロピレングリコールエーテル化合物;
酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、3-メトキシブチルアセテート等のエステル化合物;
メチルイソプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン、エチルブチルケトン、エチルプロピルケトン、ジプロピルケトン、メチルエチルケトン等のケトン化合物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。前記有機溶剤としては長期の防食性、低温造膜性などの点から沸点が200℃未満、特に80~190℃であり、さらに好ましくは20℃において水100g中に少なくとも10g、好ましくは20g溶解する有機溶剤を使用することが好適である。
【0114】
有機溶剤の含有量としては、水性塗料組成物に含まれる樹脂、特に樹脂エマルション(A)の不揮発分100質量部を基準として0.1~30質量部、好ましくは3~25質量部の範囲内にあることができる。
【0115】
<水性塗料組成物>
本発明の水性塗料組成物は、保存時は、第1成分(I)と第2成分(II)の2液型で保存される。第1成分(I)に含まれる官能基と、第2成分(II)に含まれる官能基とが、室温で容易に反応するためである。使用時に第1成分(I)と第2成分(II)とを公知の方法により混合することによって、塗装に用いる水性塗料組成物を調製することができる。
【0116】
本発明の水性塗料組成物は、樹脂エマルション(A)を含む成分を第1成分(I)とし、樹脂エマルション(B)を含む成分を第2成分(II)とする2液型の塗料組成物である。
【0117】
そして本発明においては、第2成分(II)が軟化剤(C)を含むことを特徴とするものである。
【0118】
本発明では軟化剤(C)が樹脂エマルション(B)と共に第2成分(II)側にあることによって塗膜の防食性がより一層優れるという効果がある。その理由は定かではないが樹脂エマルション(B)の樹脂粒子と軟化剤(C)が良好な混合安定性を有するために、これらをあらかじめ混合しておくことによって、成膜段階における樹脂エマルション(A)及び樹脂エマルション(B)が有する反応性官能基の反応性向上に寄与するものと考察される。
【0119】
本発明において第2成分(II)全体に占める軟化剤(C)の割合としては、1~30質量%であり、特に5~20質量%の範囲内が適当である。
【0120】
本発明において、上記第1成分(I)の、適正なpH範囲は5.0~9.0、特に7.0~8.5の範囲内、第2成分(II)の適正なpH範囲は5.0~9.0、特に6.0~8.5の範囲内が好ましい。
【0121】
pHがこの範囲内にあることによって、成分(I)、成分(II)が共に製造・貯蔵安定性に優れ、互いに対する混和性に優れた塗料組成物を調製することができる。
【0122】
本明細書においてpHは、封缶状態の試料の温度を20℃に調整し、pHメータで測定したものとする。
【0123】
上記第1成分(I)及び第2成分(II)の配合割合としては、第1成分(I)に含まれる官能基1当量に対して第2成分に含まれる官能基が0.3~1.5当量、好ましくは0.5~1.2当量の範囲内にあることが適している。
【0124】
また、塗装に際して、必要に応じて脱イオン水で希釈して使用することができる。その際の粘度は、例えばスプレー塗装の場合では、フォードカップ粘度計No.4による測定(20℃)で、20~60秒に調整することが好ましく、30~50秒に調整することがより好ましい。この場合、固形分は、35~65質量%程度であることが好ましく、40~60質量%程度であることがより好ましい。
【0125】
本発明方法が適用される被塗物としては特に制限はない。通常は鉄鋼であるが、非鉄金属にも適用でき、具体的には、家屋、ビルなどの建築構造物;塔、橋梁、タンクなどの土木構造物;電力、石油、ガス施設などの各種プラント大型構造物;ガードフェンスなどの屋外器具;鉄道車両、建機機械などの産業機器及びこれらに、必要に応じて下塗り塗料、中塗り塗料を塗布したものに、上塗り塗料を塗布した塗装物などが挙げられる。
【0126】
特に被塗物として、新設の被塗物は勿論、錆が発生した基材による既設の被塗物に対してその効果を発揮することができる。
【0127】
本発明の水性塗料組成物による防食塗装を上記錆が発生した基材面に適用する場合、表面に生じた錆を予め除去してもよい。
【0128】
錆の除去方法としては制限はなく、例えば、ブラスト、スクレーパー、ワイヤブラシ等の手工具あるいはディスクサンダー、ワイヤーカップ、電動タガネ等の電動工具等が挙げられる。これらを単独で又は2種以上組み合わせて行うことができ、また、必要に応じて水洗処理を行ってもよい。
【0129】
本発明方法において錆を除去する場合は、防食塗装の対象となる基材表面から錆や旧塗膜を完璧に除去し全面を金属が露出する状態にする必要はなく、くぼみ部は勿論、表面部にも錆残存部と活膜(容易に剥離しない旧塗膜)が混在した状態としてもよい。
【0130】
下地処理後の錆発生の程度としては、特に限定されるものではなく、例えば、錆発生面積率が3%以上、特に10%以上の錆発生程度であっても本発明の効果を発揮することができる。
【0131】
錆発生面積率とは、被塗物の面積に対する錆発生部位の面積の百分率であり、下地処理後の写真を無作為に5箇所撮影し、各写真における錆発生部位の面積を算出し、平均することにより得ることができる。
【0132】
本発明の防食塗装方法において、水性塗料組成物による防食塗膜の乾燥理論膜厚としては、10~200μm、好ましくは30~150μmの範囲内にあることができる。
【0133】
本発明において、乾燥理論膜厚は、下記式によって算出する。
A=(B×NV)/(C×100)
A:理論乾燥膜厚(μm)
B:塗付量(g/m2
NV:塗料の不揮発分濃度(%)
C:塗料の比重(g/cm3
乾燥理論膜厚を求めるための塗料の比重は、K 7232-1986 4.2比重カップ法に準じて測定するものとする。
【0134】
上記水性塗料組成物は、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り、ローラーなどの従来公知の方法が採用できる。また、乾燥方法としては常温乾燥で1~48時間、好ましくは2~16時間が望ましく、必要に応じて強制乾燥または加熱乾燥させることも可能である。
【0135】
本発明の防食塗装方法では、上記水性塗料組成物を用いて形成された防食塗膜上に、該水性塗料組成物とは異なる上塗り塗料を単層で或いは複層で塗り重ねることができる。
【実施例
【0136】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに説明する。ここで、『部』および『%』はそれぞれ『質量部』および『質量%』を意味する。
【0137】
<樹脂エマルション(A)の製造>
製造例1
攪拌機、温度計、窒素導入管及び還流冷却機を取り付けたフラスコに、「jER828」商品名、三菱ケミカル社製、ビスフェノールA型樹脂、エポキシ当量190、数平均分子量375)3200部、ビスフェノールA(分子量228)を1700部、メチルイソブチルケトン(沸点120℃)900部、ベンジルジメチルアミン5.0部を仕込み、不揮発分当たりのエポキシ当量が2500g/当量になるまで120℃で反応させた。
【0138】
次に、3,3´-ジアミノジプロピルアミンのメチルイソブチルケトンによるケチミン化物590部を加え、120℃で1時間反応させた。その後、脱イオン水54部、ネオデカン酸グリシジルエステル380部を仕込み、100℃で2時間反応させた。その後、酢酸90部、脱イオン水70部を加えて内液を攪拌混合し、脱イオン水6500部を加えて水分散した後、減圧してメチルイソブチルケトンを除去し、脱イオン水にて固形分を調整し、乳白色で不揮発分が45%の、樹脂末端に1級アミノ基を有するアミノ基含有樹脂エマルション(A-1)を得た。
【0139】
エマルション(A-1)は、中和前の樹脂の重量平均分子量が7000であり、平均粒子径は250nm、不揮発分当たりのアミン価は60mgKOH/gであった。
【0140】
製造例2~5
配合組成を下記表1とする以外は同様にして樹脂エマルション(A-2)~(A-5)を製造した。
【0141】
【表1】
【0142】
<水性塗料組成物の製造>
実施例1
容器に、アミノ基含有樹脂エマルション(A-1)222部(不揮発分100部)、防錆顔料(D-1)10部、防錆顔料(D-2)10部、防錆顔料(D-7)20部、繊維状無機化合物10部、顔料分散剤8部、エチレングリコールモノブチルエーテル(沸点171.2℃)20部、酸化チタン40部、タルク60部を配合し、攪拌混合することにより主剤成分を得た。別の容器に、エポキシ樹脂エマルション(B-1)を35.2部(不揮発分17.6部)、プロピレングリコールジグリシジルエーテル5部、ポリカルボジイミドエマルション7.5部(不揮発分3部)添加し、攪拌混合して硬化剤成分とし、前記主剤成分に混合して水性塗料組成物(I-1)を得た。
【0143】
実施例2~31及び比較例1~3
配合組成を下記表2とする以外は実施例1と同様にして水性塗料組成物(I-2)~(I-34)を得た。得られた各塗料に対して下記方法、基準にて評価試験を行った。結果を表2に併せて示す。
尚、表2の樹脂エマルション(A)、樹脂エマルション(B)及びポリカルボジイミドエマルション(F)の配合量は不揮発分表示である。
【0144】
<錆残存面上に塗装した試験板の作成>
幅70mm×長さ150mm×板厚み3mmの軟鋼板をショットブラストしたものを、千葉県千倉町の太平洋沿岸(離岸距離30m)にて4ヶ月、南向き30°の角度にて開放ばくろ試験を行い、錆発生面積が100%の錆鋼板を作製し、ワイヤカップにて錆鋼板の表面を削り、簡易素地調整板を得た。当該簡易素地調整板の錆発生面積は85%であった。
【0145】
次いで、素地調整板の板全面に各水性塗料組成物(I-1)~(I-34)を、理論乾燥膜厚が100μmとなるようにエアースプレー塗装をし、23℃で24時間乾燥させた。次いで、弱溶剤可溶形エポキシ樹脂系中塗塗料「セラテクトマイルド中塗り(E)」(商品名、関西ペイント社製、主剤/硬化剤質量比17/1)を乾燥膜厚が30μmとなるようにスプレー塗装し、23℃で24時間乾燥させた。次いで、低汚染形弱溶剤可溶イソシアネート硬化ポリウレタン樹脂上塗塗料「セラテクトUマイルド上塗」(商品名、関西ペイント社製、主剤/硬化剤質量比6/1)を乾燥膜厚が25μmとなるようにスプレー塗装し、23℃、湿度50%恒温室内で7日間養生し、錆残存面上に塗装した試験塗板を得た。
【0146】
<軟鋼板面上に塗装した試験板の作成>
幅70mm×長さ150mm×板厚み3mmの軟鋼板をショットブラストした錆が残存していないものを基材面とし、該基材面の全面に各水性塗料組成物(I-1)~(I-34)を、理論乾燥膜厚が100μmとなるようにエアースプレー塗装をし、23℃、湿度50%恒温室内で7日間養生し、軟鋼板面上に塗装した試験塗板を得た。
【0147】
【表2】
【0148】
【表3】
【0149】
【表4】
【0150】
【表5】
【0151】
(*)防錆顔料(D-1):「K-WHITE G-105」テイカ社製、商品名、トリポリリン酸二水素アルミニウムの酸化マグネシウム処理物、酸化マグネシウム処理量15%、(*)防錆顔料(D-2):「LFボウセイ MZP-500」、商品名、キクチカラー社製、リン酸マグネシウム、
(*)防錆顔料(D-3):「EXPERT NP-1000」東邦顔料工業社製、商品名、リン酸カルシウム、
(*)防錆顔料(D-4):りん酸亜鉛四水和物、米山薬品社製、試薬、リン酸亜鉛、
(*)防錆顔料(D-5):「SHIELDEX C303」W.R.Grace & Co.社製、商品名、カルシウムイオン交換シリカ、
(*)防錆顔料(D-6):「サイロマスクMg」富士シリシア化学社製、商品名、マグネシウムイオン交換シリカ、
(*)防錆顔料(D-7):「サイロマスク22MR-H」富士シリシア化学社製、商品名、マグネシウムイオン交換シリカ、
(*)繊維状無機化合物:ガラス繊維、アスペクト比20、平均繊維長80μm、
(*)顔料分散剤:ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール変性スチレンマレイン酸共重合体、酸価10mgKOH/g、
(*)アルキルグリシジルエーテル:「リカレジンL200」商品名、新日本理化学社製、炭素数が12及び又は14のアルキル基を有するグリシジルエーテル、
(*)エポキシ樹脂エマルション(B-1):ノニオン性フェノールノボラック型エポキシ樹脂エマルション、不揮発分50%、不揮発分あたりのエポキシ当量200、重量平均分子量1200、平均粒子径550nm、
(*)エポキシ樹脂エマルション(B-2):ノニオン性クレゾールノボラック型エポキシ樹脂エマルション、不揮発分45%、不揮発分あたりのエポキシ当量475、重量平均分子量1500、平均粒子径500nm、
(*)エポキシ樹脂エマルション(B-3):ノニオン性ビスフェノールA型エポキシ樹脂エマルション、不揮発分50%、不揮発分あたりのエポキシ当量200、重量平均分子量1200、平均粒子径550nm、
(*)ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル:エポキシ当量300、
(*)2塩基酸エステル:「No23エステル(DBE)」三協化学社製商品名、
(*)ポリカルボジイミドエマルション:不揮発分40%、カルボジイミド当量365。
【0152】
<評価試験>
(*)貯蔵安定性
実施例及び比較例で得られた各水性塗料の第2成分を40℃の恒温室に密閉貯蔵し、60日間貯蔵した後の状態を次の基準により評価した。
S:変化なし、
A:極めて僅かに凝集が認められるが、試料を手攪拌すると直ぐに貯蔵前の状態に戻り、問題なし、
B:凝集が認められ、試料を手攪拌しても貯蔵前の状態に戻らない。
C:凝集ブツが著しく認められる。
【0153】
(*)5℃造膜性
ガラス板に各水性塗料組成物を乾燥膜厚が60μmとなるようにアプリケーターで引き塗りし、5℃、24時間乾燥させたときの塗面状態を下記基準にて評価した。
S:造膜性が非常に良好であり、ヒビワレが全く認められない、
A:造膜性が良好であり、膜の端部にのみごくわずかにヒビワレが認められる、
B:造膜性があり、ガラス板に付着しているものの、全体にヒビワレが認められる、
C:造膜せず、塗膜全体にワレが発生し、塗膜に剥離が認められる。
【0154】
(*)耐湿性
軟鋼板面上に塗装した試験板を純水により50℃×98RH%とした条件下に120時間放置した後、下記基準で評価した。
S:塗面状態が非常に良好であり、フクレは全く認められない、
A:塗面状態が良好であり、1mm以下のフクレがごくわずかに認められる、
B:塗面状態はやや不良であり、1mmを超えるフクレが認められる、
C:塗面状態が不良であり、塗面全体にフクレが認められる。
【0155】
(*)防食性
錆残存面上並びに軟鋼板面上に各水性塗料組成物が塗装された各試験塗板に対し、JIS K 5621に規定されている5%塩化ナトリウム水溶液を使用した複合サイクル腐食試験を1200時間実施し、試験塗板の一般部とカット部の表面観察により下記基準にて評価した。
(一般部)
S:さびの発生が認められない、
A:試験体に1~5点の直径5mm未満のさび発生が認められる、
B:試験体に1~5点のさび発生が認められかつその大きさが5mmを超える、またはさびの大きさに関係なく6~15点のさび発生が認められる、
C:試験体に15点以上のさび発生が認められる。
(カット部)
S:カット部より進行するさび、フクレの最大幅がカットをまたいで10mm以下、
A:カット部より進行するさび、フクレの最大値がカットをまたいで10mmを超え20mm以下、
B:カット部より進行するさび、フクレの最大値がカットをまたいで20mmを超え30mm以下、
C:カット部より進行するさび、フクレの最大値がカットをまたいで30mmを超える。