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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ウインドシールド
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/86 20060101AFI20231018BHJP
   C03C 17/38 20060101ALI20231018BHJP
   B60J 1/00 20060101ALI20231018BHJP
   H05B 3/20 20060101ALI20231018BHJP
   C03C 27/12 20060101ALN20231018BHJP
【FI】
H05B3/86
C03C17/38
B60J1/00 H
H05B3/20 355A
C03C27/12 M
【請求項の数】 28
(21)【出願番号】P 2019016582
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020126706
(43)【公開日】2020-08-20
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】千葉 和喜
(72)【発明者】
【氏名】下川 洋平
(72)【発明者】
【氏名】大家 和晃
(72)【発明者】
【氏名】宮本 瑶子
(72)【発明者】
【氏名】寺西 豊幸
【審査官】河内 誠
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-214059(JP,A)
【文献】国際公開第2018/016452(WO,A1)
【文献】特開2017-212148(JP,A)
【文献】特開2017-114484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05B 3/86
B60S 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光の照射及び/または受光を行うことで、車外からの情報を取得する情報取得装置がブラケットを介して取り付け可能なウインドシールドであって、
外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置される内側ガラス板と、
前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜と、
前記内側ガラス板の車内側の面に設けられる発熱体と、
前記内側ガラス板の車内側の面に設けられ、前記発熱体の少なくとも一部を覆うカバー部材と、
を備え、
前記カバー部材の熱伝導率は、前記両ガラス板の熱伝導率よりも小さく、
前記内側ガラス板の車内側の面において、前記発熱体の少なくとも一部が、前記ブラケットにより覆われる位置に配置されている、ウインドシールド。
【請求項2】
前記発熱体上に設けられた防曇手段をさらに備えている、請求項1に記載のウインドシールド。
【請求項3】
前記カバー部材は、前記発熱体と防曇手段との間に設けられている、請求項1または2に記載のウインドシールド。
【請求項4】
前記光が通過する開口を有し、前記内側ガラス板の車内側の面及び前記外側ガラス板の車内側の面のうち、少なくとも前記内側ガラス板の車内側の面に配置された遮蔽層をさらに備え、
前記カバー部材は、前記開口の内部に配置されている、請求項1から3のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項5】
前記光が通過する開口を有し、前記内側ガラス板の車内側の面及び前記外側ガラス板の車内側の面のうち、少なくとも前記内側ガラス板の車内側の面に配置された遮蔽層をさらに備え、
前記カバー部材の少なくとも一部は、前記開口の周縁からはみ出すように配置されている、請求項1から3のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項6】
前記光が通過する開口を有し、前記内側ガラス板の車内側の面及び前記外側ガラス板の車内側の面のうち、少なくとも前記内側ガラス板の車内側の面に配置された遮蔽層をさらに備え、
前記発熱体は、加熱線を有しており、当該加熱線の少なくとも一部が、前記開口を通過するように配置されている、請求項1から3のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項7】
前記発熱体は、前記カバー部材により覆われている、請求項に記載のウインドシールド。
【請求項8】
前記発熱体の周縁部の少なくとも一部が、前記カバー部材で覆われていない、請求項に記載のウインドシールド。
【請求項9】
前記加熱線において、前記開口を通過する部分の線幅の少なくとも一部が0.5mm以下である、請求項6から8のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項10】
前記開口を通過する加熱線の少なくとも一部は、略平行に配置され、
前記加熱線において、前記開口で略平行になっている部分の間隔が1mm以上である、請求項6から8のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項11】
前記加熱線は、少なくとも一つの屈曲部を有しており、
前記屈曲部が曲線状に形成されている、請求項6から10のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項12】
前記屈曲部の線幅が、前記加熱線において、前記屈曲部以外の部分の線幅よりも太い、請求項11に記載のウインドシールド。
【請求項13】
前記加熱線において、前記開口の内側の加熱線の少なくとも一部の線幅が、前記開口の外側の加熱線の平均線幅よりも細い、請求項6から12のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項14】
前記発熱体は、2以上の並列回路により構成されている、請求項6から13のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項15】
前記開口の面積が、7000mm2以上である、請求項14に記載のウインドシールド。
【請求項16】
前記各並列回路による抵抗値は、前記2以上の並列回路の抵抗値の平均に対して±30%以内である、請求項14または15に記載のウインドシールド。
【請求項17】
前記各並列回路による抵抗値は、前記2以上の並列回路の抵抗値の平均に対して±30%以内となるように、前記開口よりも外側に延びる部分の線幅が調整されている、請求項14または15に記載のウインドシールド。
【請求項18】
前記各並列回路における前記加熱線において、前記開口の内部に配置される部分の線長さの比が、前記加熱線全体の長さの30%以内である、請求項14または15に記載のウインドシールド。
【請求項19】
前記発熱体が加熱線を有し、
前記加熱線は、前記内側ガラス板の車内側の面に印刷されている、請求項1から18のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項20】
前記発熱体上に設けられた防曇手段をさらに備え、
前記防曇手段は、吸水性樹脂からなる防曇膜を備えている、請求項2から請求項19のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項21】
前記防曇膜が配置された基材フィルムと、前記基材フィルムにおいて前記防曇膜とは反対側の面に設けられた粘着層と、をさらに備えている、請求項20に記載のウインドシールド。
【請求項22】
前記基材フィルムが、前記カバー部材を構成している、請求項21に記載のウインドシールド。
【請求項23】
前記カバー部材は、粘着層を有している、請求項1から20のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項24】
前記粘着層の厚みは、前記発熱体の厚みより大きく、当該厚みの20倍以下である、請求項23に記載のウインドシールド。
【請求項25】
前記光が通過する開口を有し、前記内側ガラス板の車内側の面及び前記外側ガラス板の車内側の面のうち、少なくとも前記内側ガラス板の車内側の面に配置された遮蔽層をさらに備え、
前記粘着層の厚みは、前記遮蔽層の厚みより大きく、当該厚みの20倍以下である、請求項23または24に記載のウインドシールド。
【請求項26】
前記粘着層の20℃でのせん断貯蔵弾性率が、1.0×103GPa以上、1.0×107GPa以下である、請求項23から25のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項27】
前記粘着層の粘着力が、0.25N/10mm以上、12N/mm以下である、請求項23から26のいずれかに記載のウインドシールド。
【請求項28】
前記カバー部材の厚みが25μm以上、200μm以下である、請求項23から27のいずれかに記載のウインドシールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射及び/または受光を行うことで車外からの情報を取得する情報取得装置が配置可能なウインドシールドに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車の安全性能は飛躍的に向上しつつあり、その1つとして前方車両との衝突を回避するため、前方車両との距離及び前方車両の速度を感知し、異常接近時には、自動的にブレーキが作動する安全システムが提案されている。このようなシステムは、前方車両との距離などをレーザーレーダやカメラを用いて計測している。レーザーレーダやカメラは、一般的に、ウインドシールドの内側に配置され、赤外線等の光を前方に向けて照射することで、計測を行う(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-96331号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、レーザーレーダやカメラなどの測定装置は、ウインドシールドを構成するガラス板の内面側に配置され、ガラス板を介して光の照射や受光を行っている。ところが、気温の低い日や寒冷地では、ガラス板が曇ることがある。しかしながら、ガラス板が曇ると、測定装置から正確に光を照射できなかったり、あるいは受光できなかったりするおそれがある。これにより、車間距離などが正確に算出されない可能性もある。
【0005】
このような問題は、車間距離の測定装置に限られず、例えば、レインセンサ、ライトセンサ、光ビーコンなどの光の受光によって車外からの情報を取得する情報取得装置全般に生じうる問題である。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、ガラス板を介して光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる、ウインドシールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
項1.光の照射及び/または受光を行うことで、車外からの情報を取得する情報取得装置がブラケットを介して取り付け可能なウインドシールドであって、
外側ガラス板と、
前記外側ガラス板と対向配置される内側ガラス板と、
前記外側ガラス板と内側ガラス板との間に配置される中間膜と、
前記内側ガラス板の車内側の面に設けられる発熱体と、
を備え、
前記内側ガラス板の車内側の面において、前記発熱体の少なくとも一部が、前記ブラケットにより覆われる位置に配置されている、ウインドシールド。
【0008】
項2.前記発熱体上に設けられた防曇手段をさらに備えている、項1に記載のウインドシールド。
【0009】
項3.前記内側ガラス板の車内側の面に設けられ、前記発熱体の少なくとも一部を覆うカバー部材をさらに備えている、項1または2に記載のウインドシールド。
【0010】
項4.前記カバー部材は、前記発熱体と防曇手段との間に設けられている、項3に記載のウインドシールド。
【0011】
項5.前記カバー部材の熱伝導率は、前記両ガラス板の熱伝導率よりも小さい、項3または4に記載のウインドシールド。
【0012】
項6.前記光が通過する開口を有し、前記内側ガラス板の車内側の面及び前記外側ガラス板の車内側の面のうち、少なくとも前記内側ガラス板の車内側の面に配置された遮蔽層をさらに備え、
前記カバー部材は、前記開口の内部に配置されている、項3から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【0013】
項7.前記光が通過する開口を有し、前記内側ガラス板の車内側の面及び前記外側ガラス板の車内側の面のうち、少なくとも前記内側ガラス板の車内側の面に配置された遮蔽層をさらに備え、
前記カバー部材の少なくとも一部は、前記開口の周縁からはみ出すように配置されている、項3から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【0014】
項8.前記光が通過する開口を有し、前記内側ガラス板の車内側の面及び前記外側ガラス板の車内側の面のうち、少なくとも前記内側ガラス板の車内側の面に配置された遮蔽層をさらに備え、
前記発熱体は、加熱線を有しており、当該加熱線の少なくとも一部が、前記開口を通過するように配置されている、項3から5のいずれかに記載のウインドシールド。
【0015】
項9.前記発熱体は、前記カバー部材により覆われている、項8に記載のウインドシールド。
【0016】
項10.前記発熱体の周縁部の少なくとも一部が、前記カバー部材で覆われていない、項8に記載のウインドシールド。
【0017】
項11.前記加熱線において、前記開口を通過する部分の線幅の少なくとも一部が0.5mm以下である、項8から10のいずれかに記載のウインドシールド。
【0018】
項12.前記開口を通過する加熱線の少なくとも一部は、略平行に配置され、
前記加熱線において、前記開口で略平行になっている部分の間隔が1mm以上である、項8から10のいずれかに記載のウインドシールド。
【0019】
項13.前記加熱線は、少なくとも一つの屈曲部を有しており、
前記屈曲部が曲線状に形成されている、項8から12のいずれかに記載のウインドシールド。
【0020】
項14.前記屈曲部の線幅が、前記加熱線において、前記屈曲部以外の部分の線幅よりも太い、項13に記載のウインドシールド。
【0021】
項15.前記加熱線において、前記開口の内側の加熱線の少なくとも一部の線幅が、前記開口の外側の加熱線の平均線幅よりも細い、項8から14のいずれかに記載のウインドシールド。
【0022】
項16.前記発熱体は、2以上の並列回路により構成されている、項8から15のいずれかに記載のウインドシールド。
【0023】
項17.前記開口の面積が、7000mm2以上である、項16に記載のウインドシールド。
【0024】
項18.前記各並列回路による抵抗値は、前記2以上の並列回路の抵抗値の平均に対して±30%以内である、項16または17に記載のウインドシールド。
【0025】
項19.前記各並列回路による抵抗値は、前記2以上の並列回路の抵抗値の平均に対して±30%以内となるように、前記開口よりも外側に延びる部分の線幅が調整されている、項16または17に記載のウインドシールド。
【0026】
項20.前記各並列回路における前記加熱線において、前記開口の内部に配置される部分の線長さの比が30%以内である、項16または17に記載のウインドシールド。
【0027】
項21.前記加熱線は、前記内側ガラス板の車内側の面に印刷されている、項1から20のいずれかに記載のウインドシールド。
【0028】
項22.前記防曇手段は、吸水性樹脂からなる防曇膜を備えている、項2から請求項21に記載のウインドシールド。
【0029】
項23.前記防曇膜が配置された基材フィルムと、前記基材フィルムにおいて前記防曇膜とは反対側の面に設けられた粘着層と、をさらに備えている、項22に記載のウインドシールド。
【0030】
項24.前記基材フィルムが、前記カバー部材を構成している、項23に記載のウインドシールド。
【0031】
項25.前記カバー部材は、粘着層を有している、項3から22のいずれかに記載のウインドシールド。
【0032】
項26.前記粘着層の厚みは、前記発熱体の厚みより大きく、当該厚みの20倍以下である、項25に記載のウインドシールド。
【0033】
項27.前記粘着層の厚みは、前記遮蔽層の厚みより大きく、当該厚みの20倍以下である、項26または27に記載のウインドシールド。
【0034】
項28.前記粘着層の20℃でのせん断貯蔵弾性率が、1.0×103GPa以上、1.0×107GPa以下である、項25から27のいずれかに記載のウインドシールド。
【0035】
項29.前記粘着層の粘着力が、0.25N/10mm以上、12N/mm以下である、項25から28のいずれかに記載のウインドシールド。
【0036】
項30.前記カバー部材の厚みが25μm以上、200μm以下である、項25から29のいずれかに記載のウインドシールド。
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、ガラス板を介して光の照射及び/または受光を行う情報取得装置が取り付け可能なウインドシールドにおいて、光の照射及び/または受光を正確に行うことができ、情報の処理を正確に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
図1】本発明に係るウインドシールドの一実施形態を示す平面図である。
図2図1の断面図である。
図3】合わせガラスの断面図である。
図4】車載システムの概略構成を示すブロック図である。
図5】加熱線を示す平面図である。
図6】加熱線及び防曇シートが積層された合わせガラスを示す断面図である。
図7】防曇積層体の断面図である。
図8】実施例1,2に係る内側ガラス板の温度を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0039】
まず、図1及び図2を用いて、本実施形態に係るウインドシールドの構成について説明する。図1はウインドシールドの平面図、図2図1の断面図である。なお、説明の便宜のため、図1の上下方向を「上下」、「垂直」、「縦」と、図1の左右方向を「左右」と称することとする。図1は、車内側から見たウインドシールドを例示している。すなわち、図1の紙面奥側が車外側であり、図1の紙面手前側が車内側である。
【0040】
このウインドシールドは、略矩形状の合わせガラス10を備えており、傾斜状態で車体に設置されている。そして、この合わせガラス10の車内側を向く内面には、車外からの視野を遮蔽するマスク層110が設けられており、撮影装置2は、このマスク層110により車外から見えないように配置されている。但し、撮影装置2は、車外の状況を撮影するためのカメラである。そのため、マスク層110には撮影装置2と対応する位置に撮影窓(開口)113が設けられ、この撮影窓113を介して、車内に配置された撮影装置2は、車外の状況を撮影可能となっている。
【0041】
撮影装置2には画像処理装置3が接続しており、撮影装置2により取得された撮影画像は、この画像処理装置3で処理される。撮影装置2及び画像処理装置3は車載システム5を構成しており、この車載システム5は、画像処理装置3の処理に応じて様々な情報を乗車者に提供することができる。
【0042】
また、ウインドシールドの車内側の面には、撮影窓113と対応する領域に、後述する図6に示すように、加熱線6が配置されており、ウインドシールドにおいて撮影窓113に対応する領域の防曇及び解氷を行うようになっている。さらに、後述する図6に示すように、加熱線6を覆うように、ウインドシールドの車内側の面には、防曇シート7が取り付けられている。なお、図2では、加熱線6及び防曇シート7を省略している。以下、各構成要素について説明する。
【0043】
<1.合わせガラス>
図3は合わせガラスの断面図である。同図に示すように、この合わせガラス10は、外側ガラス板11及び内側ガラス板12を備え、これらガラス板11、12の間に樹脂製の中間膜13が配置されている。以下、これらの構成について説明する。
【0044】
<1-1.ガラス板>
まず、外側ガラス板11及び内側ガラス板12から説明する。外側ガラス板11及び内側ガラス板12は、公知のガラス板を用いることができ、熱線吸収ガラス、一般的なクリアガラスやグリーンガラス、またはUVグリーンガラスで形成することもできる。但し、これらのガラス板11、12は、自動車が使用される国の安全規格に沿った可視光線透過率を実現する必要がある。例えば、外側ガラス板11により必要な日射吸収率を確保し、内側ガラス板12により可視光線透過率が安全規格を満たすように調整することができる。以下に、クリアガラス、熱線吸収ガラス、及びソーダ石灰系ガラスの一例を示す。
【0045】
(クリアガラス)
SiO2:70~73質量%
Al23:0.6~2.4質量%
CaO:7~12質量%
MgO:1.0~4.5質量%
2O:13~15質量%(Rはアルカリ金属)
Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23):0.08~0.14質量%
【0046】
(熱線吸収ガラス)
熱線吸収ガラスの組成は、例えば、クリアガラスの組成を基準として、Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23)の比率を0.4~1.3質量%とし、CeO2の比率を0~2質量%とし、TiO2の比率を0~0.5質量%とし、ガラスの骨格成分(主に、SiO2やAl23)をT-Fe23、CeO2およびTiO2の増加分だけ減じた組成とすることができる。
【0047】
(ソーダ石灰系ガラス)
SiO2:65~80質量%
Al23:0~5質量%
CaO:5~15質量%
MgO:2質量%以上
NaO:10~18質量%
2O:0~5質量%
MgO+CaO:5~15質量%
Na2O+K2O:10~20質量%
SO3:0.05~0.3質量%
23:0~5質量%
Fe23に換算した全酸化鉄(T-Fe23):0.02~0.03質量%
【0048】
本実施形態に係る合わせガラスの厚みは特には限定されないが、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、例として2.1~6mmとすることができ、軽量化の観点からは、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みの合計を、2.4~3.8mmとすることが好ましく、2.6~3.4mmとすることがさらに好ましく、2.7~3.2mmとすることが特に好ましい。このように、軽量化のためには、外側ガラス板11と内側ガラス板12との合計の厚みを小さくすることが必要であるので、各ガラス板のそれぞれの厚みは、特には限定されないが、例えば、以下のように、外側ガラス板11と内側ガラス板12の厚みを決定することができる。
【0049】
外側ガラス板11は、主として、外部からの障害に対する耐久性、耐衝撃性が必要であり、例えば、この合わせガラスを自動車のウインドシールドとして用いる場合には、小石などの飛来物に対する耐衝撃性能が必要である。他方、厚みが大きいほど重量が増し好ましくない。この観点から、外側ガラス板11の厚みは1.8~2.3mmとすることが好ましく、1.9~2.1mmとすることがさらに好ましい。何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0050】
内側ガラス板12の厚みは、外側ガラス板11と同等にすることができるが、例えば、合わせガラスの軽量化のため、外側ガラス板11よりも厚みを小さくすることができる。具体的には、ガラスの強度を考慮すると、0.6~2.0mmであることが好ましく、0.8~1.6mmであることが好ましく、1.0~1.4mmであることが特に好ましい。更には、0.8~1.3mmであることが好ましい。内側ガラス板12についても、何れの厚みを採用するかは、ガラスの用途に応じて決定することができる。
【0051】
ここで、ガラス板11,12(合わせガラス10)が湾曲している場合の厚みの測定方法の一例について説明する。まず、測定位置については、ガラス板の左右方向の中央を上下方向に延びる中央線S上の上下2箇所である。測定機器は、特には限定されないが、例えば、株式会社テクロック製のSM-112のようなシックネスゲージを用いることができる。測定時には、平らな面にガラス板の湾曲面が載るように配置し、上記シックネスゲージでガラス板の端部を挟持して測定する。なお、ガラス板が平坦な場合でも、湾曲している場合と同様に測定することができる。
【0052】
<1-2.中間膜>
中間膜13は、少なくとも一層で形成されており、一例として、図3に示すように、軟質のコア層131を、これよりも硬質のアウター層132で挟持した3層で構成することができる。但し、この構成に限定されるものではなく、コア層131と、外側ガラス板11側に配置される少なくとも1つのアウター層132とを有する複数層で形成されていればよい。例えば、コア層131と、外側ガラス板11側に配置される1つのアウター層132を含む2層の中間膜13、またはコア層131を中心に両側にそれぞれ2層以上の偶数のアウター層132を配置した中間膜13、あるいはコア層131を挟んで一方に奇数のアウター層132、他方の側に偶数のアウター層132を配置した中間膜13とすることもできる。なお、アウター層132を1つだけ設ける場合には、上記のように外側ガラス板11側に設けているが、これは、車外や屋外からの外力に対する耐破損性能を向上するためである。また、アウター層132の数が多いと、遮音性能も高くなる。
【0053】
コア層131はアウター層132よりも軟質であるかぎり、その硬さは特には限定されない。各層131,132を構成する材料は、特には限定されないが、例えば、ヤング率を基準として材料を選択することができる。具体的には、周波数100Hz,温度20度において、1~20MPaであることが好ましく、1~18MPaであることがさらに好ましく、1~14MPaであることが特に好ましい。このような範囲にすると、概ね3500Hz以下の低周波数域で、STLが低下するのを防止することができる。一方、アウター層132のヤング率は、後述するように、高周波域における遮音性能の向上のために、大きいことが好ましく、周波数100Hz,温度20度において560MPa以上、600MPa以上、650MPa以上、700MPa以上、750MPa以上、880MPa以上、または1300MPa以上とすることができる。一方、アウター層132のヤング率の上限は特には限定されないが、例えば、加工性の観点から設定することができる。例えば、1750MPa以上となると、加工性、特に切断が困難になることが経験的に知られている。
【0054】
また、具体的な材料としては、アウター層132は、例えば、ポリビニルブチラール樹脂(PVB)によって構成することができる。ポリビニルブチラール樹脂は、各ガラス板との接着性や耐貫通性に優れるので好ましい。一方、コア層131は、例えば、エチレンビニルアセテート樹脂(EVA)、またはアウター層を構成するポリビニルブチラール樹脂よりも軟質なポリビニルアセタール樹脂によって構成することができる。軟質なコア層を間に挟むことにより、単層の樹脂中間膜と同等の接着性や耐貫通性を保持しながら、遮音性能を大きく向上させることができる。
【0055】
一般に、ポリビニルアセタール樹脂の硬度は、(a)出発物質であるポリビニルアルコールの重合度、(b)アセタール化度、(c)可塑剤の種類、(d)可塑剤の添加割合などにより制御することができる。したがって、それらの条件から選ばれる少なくとも1つを適切に調整することにより、同じポリビニルブチラール樹脂であっても、アウター層132に用いる硬質なポリビニルブチラール樹脂と、コア層131に用いる軟質なポリビニルブチラール樹脂との作り分けが可能である。さらに、アセタール化に用いるアルデヒドの種類、複数種類のアルデヒドによる共アセタール化か単種のアルデヒドによる純アセタール化によっても、ポリビニルアセタール樹脂の硬度を制御することができる。一概には言えないが、炭素数の多いアルデヒドを用いて得られるポリビニルアセタール樹脂ほど、軟質となる傾向がある。したがって、例えば、アウター層132がポリビニルブチラール樹脂で構成されている場合、コア層131には、炭素数が5以上のアルデヒド(例えばn-ヘキシルアルデヒド、2-エチルブチルアルデヒド、n-へプチルアルデヒド、n-オクチルアルデヒド)、をポリビニルアルコールでアセタール化して得られるポリビニルアセタール樹脂を用いることができる。なお、所定のヤング率が得られる場合は、上記樹脂等に限定されることはい。
【0056】
また、中間膜13の総厚は、特に規定されないが、0.3~6.0mmであることが好ましく、0.5~4.0mmであることがさらに好ましく、0.6~2.0mmであることが特に好ましい。また、コア層131の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~0.6mmであることがさらに好ましい。一方、各アウター層132の厚みは、0.1~2.0mmであることが好ましく、0.1~1.0mmであることがさらに好ましい。その他、中間膜13の総厚を一定とし、この中でコア層131の厚みを調整することもできる。
【0057】
コア層131及びアウター層132の厚みは、例えば、以下のように測定することができる。まず、マイクロスコープ(例えば、キーエンス社製VH-5500)によって合わせガラスの断面を175倍に拡大して表示する。そして、コア層131及びアウター層132の厚みを目視により特定し、これを測定する。このとき、目視によるばらつきを排除するため、測定回数を5回とし、その平均値をコア層131、アウター層132の厚みとする。例えば、図7に示すような合わせガラスの拡大写真を撮影し、このなかでコア層やアウター層132を特定して厚みを測定する。
【0058】
なお、中間膜13のコア層131、アウター層132の厚みは全面に亘って一定である必要はなく、例えば、ヘッドアップディスプレイに用いられる合わせガラス用に楔形にすることもできる。この場合、中間膜13のコア層131やアウター層132の厚みは、最も厚みの小さい箇所、つまり合わせガラスの最下辺部を測定する。中間膜13が楔形の場合、外側ガラス板及び内側ガラス板は、平行に配置されないが、このような配置も本発明におけるガラス板に含まれる物とする。すなわち、本発明においては、例えば、1m当たり3mm以下の変化率で厚みが大きくなるコア層131やアウター層132を用いた中間膜13を使用した時の外側ガラス板と内側ガラス板の配置を含む。
【0059】
中間膜13の製造方法は特には限定されないが、例えば、上述したポリビニルアセタール樹脂等の樹脂成分、可塑剤及び必要に応じて他の添加剤を配合し、均一に混練りした後、各層を一括で押出し成型する方法、この方法により作成した2つ以上の樹脂膜をプレス法、ラミネート法等により積層する方法が挙げられる。プレス法、ラミネート法等により積層する方法に用いる積層前の樹脂膜は単層構造でも多層構造でもよい。また、中間膜13は、上記のような複数の層で形成する以外に、1層で形成することもできる。
【0060】
<2.マスク層>
次に、マスク層110について説明する。図1及び図2に例示されるように、本実施形態では、マスク層110は、合わせガラス10の車内側の内面(内側ガラス板12の内面)に積層され、合わせガラス10の周縁部に沿って形成されている。具体的には、図1に例示されるように、本実施形態に係るマスク層110は、合わせガラス10の周縁部に沿う周縁領域111と、合わせガラス10の上辺部から下方に矩形状に突出した突出領域112とに分けることができる。周縁領域111は、ウインドシールドの周縁部からの光の入射を遮蔽する。一方、突出領域112は、車内に配置される撮影装置2を車外から見えないようにする。
【0061】
但し、撮影装置2の撮影範囲をマスク層110が遮蔽してしまうと、撮影装置2によって車外前方の状況を撮影することができなくなってしまう。そのため、本実施形態では、マスク層110の突出領域112に、撮影装置2が車外の状況を撮影可能なように、当該撮影装置2に対応する位置に台形状の撮影窓113が設けられている。すなわち、撮影窓113は、マスク層110より面方向内側の非遮蔽領域120から独立して設けられる。また、この撮影窓113は、マスク層110の材料が積層されない領域であり、合わせガラスが上述した可視光の透過率を有することで、車外の状況を撮影可能となっている。なお、撮影窓113の大きさは特には限定されないが、例えば、7000mm2以上にすることができる。
【0062】
マスク層110は、上記のように、内側ガラス板12の内面に積層する以外に、例えば、外側ガラス板11の内面、内側ガラス板12の外面に積層することもできる。また、外側ガラス板11の内面と内側ガラス板12の内面の2箇所に積層することもできる。
【0063】
次に、マスク層110の材料について説明する。このマスク層110の材料は、車外からの視野を遮蔽可能であれば、実施の形態に応じて適宜選択されても良く、例えば、黒色、茶色、灰色、濃紺等の濃色のセラミックを用いてもよい。
【0064】
マスク層110の材料に黒色のセラミックが選択された場合、例えば、内側ガラス板12の内面上の周縁部にスクリーン印刷等で黒色のセラミックを積層し、内側ガラス板12と共に積層したセラミックを加熱する。これによって、内側ガラス板12の周縁部にマスク層110を形成することができる。また、黒色のセラミックを印刷する際に、黒色のセラミックを部分的に印刷しない領域を設ける。これによって、撮影窓113を形成することができる。なお、マスク層110に利用するセラミックは、種々の材料を利用することができる。例えば、以下の表1に示す組成のセラミックをマスク層110に利用することができる。
【0065】
【表1】
*1,主成分:酸化銅、酸化クロム、酸化鉄及び酸化マンガン
*2,主成分:ホウケイ酸ビスマス、ホウケイ酸亜鉛
【0066】
<3.車載システム>
次に、図4を用いて、撮影装置(情報取得装置)2及び画像処理装置3を備える車載システム5について説明する。図4は、車載システム5の構成を例示する。図4に例示されるように、本実施形態に係る車載システム5は、上記撮影装置2と、当該撮影装置2に接続される画像処理装置3と、を備えている。
【0067】
画像処理装置3は、撮影装置2により取得された撮影画像を処理する装置である。この画像処理装置3は、例えば、ハードウェア構成として、バスで接続される、記憶部31、制御部32、入出力部33等の一般的なハードウェアを有している。ただし、画像処理装置3のハードウェア構成はこのような例に限定されなくてよく、画像処理装置3の具体的なハードウェア構成に関して、実施の形態に応じて、適宜、構成要素の追加、省略及び追加が可能である。
【0068】
記憶部31は、制御部32で実行される処理で利用される各種データ及びプログラムを記憶する(不図示)。記憶部31は、例えば、ハードディスクによって実現されてもよいし、USBメモリ等の記録媒体により実現されてもよい。また、記憶部31が格納する当該各種データ及びプログラムは、CD(Compact Disc)又はDVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体から取得されてもよい。更に、記憶部31は、補助記憶装置と呼ばれてもよい。
【0069】
上記のとおり、合わせガラス10は、垂直方向に対して傾斜姿勢で配置され、かつ、湾曲している。そして、撮影装置2は、そのような合わせガラス10を介して車外の状況を撮影する。そのため、撮影装置2により取得される撮影画像は、合わせガラス10の姿勢、形状、屈折率、光学的欠陥等に応じて、変形している。また、撮影装置2のカメラレンズに固有の収差も加わる。そこで、記憶部31には、このような合わせガラス10およびカメラレンズの収差によって変形した画像を補正するための補正データが記憶されていてもよい。
【0070】
制御部32は、マイクロプロセッサ又はCPU(Central Processing Unit)等の1又は複数のプロセッサと、このプロセッサの処理に利用される周辺回路(ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、インタフェース回路等)と、を有する。ROM、RAM等は、制御部32内のプロセッサが取り扱うアドレス空間に配置されているという意味で主記憶装置と呼ばれてもよい。制御部32は、記憶部31に格納されている各種データ及びプログラムを実行することにより、画像処理部321として機能する。
【0071】
画像処理部321は、撮影装置2により取得される撮影画像を処理する。撮影画像の処理は、実施の形態に応じて適宜選択可能である。例えば、画像処理部321は、パターンマッチング等によって当該撮影画像を解析することで、撮影画像に写る被写体の認識を行ってもよい。本実施形態では、撮影装置2は車両前方の状況を撮影するため、画像処理部321は、更に、当該被写体認識に基づいて、車両前方に人間等の生物が写っていないかどうかを判定してもよい。そして、車両前方に人物が写っている場合には、画像処理部321は、所定の方法で警告メッセージを出力してもよい。また、例えば、画像処理部321は、所定の加工処理を撮影画像に施してもよい。そして、画像処理部321は、画像処理装置3に接続されるディスプレイ等の表示装置(不図示)に当該加工した撮影画像を出力してもよい。
【0072】
入出力部33は、画像処理装置3の外部に存在する装置とデータの送受信を行うための1又は複数のインタフェースである。入出力部33は、例えば、ユーザインタフェースと接続するためのインタフェース、又はUSB(Universal Serial Bus)等のインタフェースである。なお、本実施形態では、画像処理装置3は、当該入出力部33を介して、撮影装置2と接続し、当該撮影装置2により撮影された撮影画像を取得する。
【0073】
このような画像処理装置3は、提供されるサービス専用に設計された装置の他、PC(Personal Computer)、タブレット端末等の汎用の装置が用いられてもよい。
【0074】
また、上記撮影装置2は、図示を省略するブラケットに取り付けられ、このブラケットが、マスク層に110取り付けられる。したがって、この状態で、撮影装置2のカメラの光軸が撮影窓113を通過するように、撮影装置2のブラケットへの取付、及びブラケットのマスク層110への取付を調整する。また、ブラケットには撮影装置2を覆うように、図示を省略するカバーが取り付けられる。したがって、撮影装置2は、合わせガラス10、ブラケット、及びカバーで囲まれた空間内に配置され、車内側から見えないようなるとともに、車外側からも撮影窓113を通して撮影装置2の一部しか見えないようになっている。そして、撮影装置2と上述した入出力部33とは、図示を省略するケーブルで接続され、このケーブルはカバーから引き出され、車内の所定の位置に配置された画像処理装置3に接続されている。
【0075】
<4.加熱線>
次に、加熱線6について、図5及び図6を参照しつつ説明する。図5及び図6に示すように、加熱線6は、第1加熱線61、第2加熱線62、及び接続線63によって撮影窓113を通過するように、内側ガラス板12の車内側の面に配置されている。より詳細に説明すると、第1加熱線61及び第2加熱線62は、並列に接続され撮影窓113を通過するように配置されている。第1加熱線61は、撮影窓113の上部を通過するように配置され、第2加熱線62は、撮影窓113の下部を通過するように配置されている。また、両加熱線61,62は、水平方向と交差する斜め方向に延びている。
【0076】
第1加熱線61は、撮影窓113を通過し、平行に配置された複数の主部611と、撮影窓113の外側に配置され、隣接する主部611の端部同士を連結する複数の連結部612とを組み合わせることで構成されている。すなわち、第1加熱線61は、複数の主部611と連結部612とを組み合わせることで、撮影窓113を複数回往復するように配置される。隣接する主部611の間隔は特には限定されないが、例えば、1mm以上とすることが好ましく、5mm以上とすることがさらに好ましい。特に、加熱線6の主部611の間隔は、線幅の20倍以上であることが好ましい。これは、加熱線の線幅と間隔のバランスのためである。例えば、線幅を小さくすると、抵抗値が上がり、一定電圧下では十分な発熱量が得られないからであり、加熱線6の間隔を小さくすると、撮影装置2からの視界を遮ることになり、視野に影響を及ぼすおそれがあるからである。そして、第1加熱線61の両端部に、第1接続端子64及び第2接続端子65が、上記接続線63を介して連結されている。接続線63は、第1加熱線61よりも線幅の大きい導線である。接続端子64,65は、接続線63に直接に半田などで固定してもよいし、あるいは接続線63の端部に矩形状、あるいは円形の領域を形成し、これに接続端子64,65を固定することもできる。なお、接続端子64,65には、給電用の導線が、半田などで接続されるとともに、例えば、10~50Vの電源電圧が印加される。
【0077】
第1接続端子64及び第2接続端子65は、撮影窓113から離れた位置に配置されているが、いずれもマスク層110上に配置されている。また、接続線63もマスク層110上に配置されている。
【0078】
連結部612は、U字状に形成されているが、全体として曲線状に形成することもできる。これは、連結部612に鋭利な角部(屈曲部)が設けられていると、異常発熱を生じるおそれがあることによる。したがって、このような角部(屈曲部)を曲線状に形成することが好ましい。なお、連結部612に限られず、加熱線6に設けられる角部(屈曲部)は、曲線状に形成することが好ましい。また、図5に示すように、連結部612の線幅を主部611の線幅よりも太くすることもできる。これにより、連結部612での抵抗値を小さくすることができ、これによっても異常発熱を抑制することができる。但し、連結部612と主部611とを同じ線幅にしてもよい。
【0079】
第2加熱線62も、第1加熱線61と同様に構成されている。すなわち、撮影窓113を通過し、平行に配置された複数の主部621と、撮影窓113の外側に配置され、隣接する主部621の端部同士を連結する複数の連結部622とを組み合わせることで構成されている。すなわち、第2加熱線62も、複数の主部621と連結部622とを組み合わせることで、撮影窓113を複数回往復するように配置される。なお、第2加熱線62の主部621は、第1加熱線61の主部611と平行に配置されている。そして、第2加熱線62の両端部は、第1接続端子64及び第2接続端子65に、上記接続線63を介して連結されている。したがって、第1加熱線61と第2加熱線62とは、2つの接続端子64,65に対して並列に接続されており、それぞれが並列回路を構成している。例えば、撮影窓113の面積が大きい場合には、主部611,612の長さが長くなるため、主部の発熱量が小さくなおそれがある。そこで、複数の並列回路で、加熱線6を構成すると、第1加熱線61と第2加熱線62の長さが短くなるため、十分な発熱量を得ることができる。なお、印加電圧が一定の場合、抵抗値を小さくすることで十分な電流を流すことができる。その結果、十分な発熱量を得ることができる。また、各並列回路の抵抗値は、全ての並列回路の抵抗値の平均に対して±30%以内となるようにすることが好ましい。そのためには、次に説明するように加熱線6の線幅や長さを調整する必要がある。
【0080】
すなわち、加熱線6の線幅は、種々の変更が可能である。例えば、第1加熱線61及び第2加熱線62の平均線幅を、接続線63の平均線幅よりも小さくすることで、接続線63の抵抗値が小さくなるため、接続線63での発熱を小さくすることができる。これにより、撮影窓113の外側の温度を撮影窓113の内側の温度より低くすることができ、撮影窓113の外側から内側に亘っての温度勾配を緩やかにすることができる。その結果、ガラス板1,2の割れを防止することができる。あるいは、上記のように、第1加熱線61及び第2加熱線62の主部611,621の平均線幅を、連結部612,622及び接続線63の平均線幅よりも小さくすることもできる。すなわち、加熱が必要な主部611,612を均一に加熱するために、連結部(屈曲部を含む)612,622の線幅を調整することで、並列回路に流れる電流を均一にすることができ、撮影窓113内を均一に加熱することができる。また、第1加熱線61及び第2加熱線62の主部611,621の長さを調整することもでき、例えば、各主部611,621の長さが、各並列回路における加熱線全体(接続線63も含む)の長さの30%以内となるように調整することができる。このように、特に、加熱線の主部611,612の長さを揃えることで、回路全体の抵抗値を等しくし易くなるため、均一に加熱しやすくなる。
【0081】
また、接続線63の長さを長くすると、この部分の抵抗が大きくなるため、発熱量を調整することができる。すなわち、第1及び第2加熱線61,62における発熱量を小さくするように調整することができる。
【0082】
加熱線6の線幅は、例えば、1~500μmであることが好ましく、1~400μmであることがさらに好ましい。更には、1~300μmであることが好ましい。これは、線幅が小さいほど、視認しがたくなるため、撮影窓113には適しているからである。特に、各加熱線61,62の主部611,621の線幅を上記の範囲にすることが好ましい。その一方で、線幅が小さすぎると、製造できないおそれがある。また、並列回路の印加電圧が一定の場合、線幅が小さすぎると、抵抗が大きくなり、その結果、回路に流れる電流が小さくなり、十分に加熱することができない。なお、この線幅は、加熱線314の断面形状のうち、最も大きい部分の線幅のことをいう。例えば、加熱線6の断面形状が台形である場合には、下辺の幅が線幅となり、加熱線6の断面形状が円形の場合には、直径が線幅となる。加熱線6の幅は、例えば、VHX-200(キーエンス社製)などのマイクロスコープを1000倍にして測定することができる。
【0083】
加熱線6の厚みは、線幅以下の長さであることが好ましい。換言すると、加熱線6の断面のアスペクト比が1以下であることが好ましい。これは、加熱線6の線幅よりも厚みが大きくなると、例えば、加熱線6が内側ガラス板12上で倒れるなど、製造が困難になったり、あるいは、断線のおそれがあることによる。
【0084】
加熱線6は、銅(またはスズメッキされた銅)、金、アルミニウム、マグネシウム、コバルト、タングステン、銀など、種々の材料で形成することができる。このうち、特に、電気抵抗率が3.0×10-8Ωm以下の材料である、銀、銅、金、アルミニウムを用いることが好ましい。そして、加熱線6は、例えば、スクリーン印刷などの印刷によって形成される。すなわち、銀ペーストなどを印刷によって塗布し、その後、乾燥を行うことで、加熱線6を形成する。加熱線6は、全ての部分を印刷などで一体的に形成してもよいし、例えば、接続端子64,65のみを別部材を貼り付けるなどして構成することもできる。
【0085】
上記のように構成された加熱線6は、ブラケット及びそのカバーによって覆われ、車内からは見えないようになっている。また、マスク層110上に配置されているため、車外からも見えないようになっている。なお、加熱線の6全てがブラケット及びカバーによって覆われていなくてもよく、少なくとも撮影窓113に相当する部分が、ブラケット及びカバーによって覆われるようにしてもよい。あるいは、接続端子64,65及び接続線63の一部のみがブラケットからはみ出してもよい。但し、車内から接触しないようにするには、加熱線6の全てがブラケットやカバーによって覆われていることが好ましい。なお、例えば、加熱線6の一部がブラケットからはみ出していても、カバーによって覆われていればよい。
【0086】
<5.防曇シート>
次に、防曇シート7について説明する。上述したように、防曇シート7は、撮影窓113に貼り付けられるものであり、特に、本実施形態においては、図6に示すように、加熱線6を覆うように、防曇シート7が貼り付けられている。なお、加熱線6全体を防曇シート7によって覆わなくてもよく、少なくとも撮影窓113に相当する部分が、防曇シート7によって覆われるようにしてもよい。あるいは、ブラケット及びカバーによって覆われる部分に防曇シート7が貼り付けられていてもよい。
【0087】
図7に示すように、撮影窓113に固定されるまでは、粘着層71、基材フィルム72、及び防曇層(防曇手段)73がこの順で積層されたものである。また、粘着層71には剥離可能な第1保護シート74が取り付けられ、防曇層73にも剥離可能な第2保護シート75が取り付けられ、これら5層によって防曇積層体が構成されている。また、この防曇シート7は、撮影窓113と対応する形状に形成されるが、例えば、撮影窓113よりもやや小さい形状に形成することができる。あるいは、撮影窓113よりも大きく、撮影窓113を超えてマスク層110の一部を覆うように形成することもできる。この場合には、特に、第1加熱線61及び第2加熱線62を覆うように配置されることが好ましい。また、防曇シート7をさらに大きくし、接続線63を覆ってもよい。以下、各層について説明する。
【0088】
<5-1.防曇層>
防曇層は、合わせガラス板10の防曇効果を奏するものであれば、特には限定されず、公知のものを用いることができる。一般的に、防曇層は、水蒸気から生じる水を水膜として表面に形成する親水タイプ、水蒸気を吸収する吸水タイプ、表面に水滴が凝結しにくい撥水吸水タイプ、及び水蒸気から生じる水滴を撥水する撥水タイプがあるが、いずれのタイプの防曇層も適用可能である。以下では、その一例として、撥水吸水タイプの防曇層の例を説明する。
【0089】
[有機無機複合防曇層]
有機無機複合防曇層は、基材フィルムの表面に形成された単層膜もしくは積層された複層膜である。有機無機複合防曇層は、少なくとも吸水性樹脂と撥水基と金属酸化物成分とを含んでいる。防曇膜は、必要に応じ、その他の機能成分をさらに含んでいてもよい。吸水性樹脂は、水を吸収して保持できる樹脂であればその種類を問わない。撥水基は、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)から防曇膜に供給することができる。金属酸化物成分は、撥水基含有金属化合物その他の金属化合物、金属酸化物微粒子等から防曇膜に供給することができる。以下、各成分について説明する。
【0090】
(吸水性樹脂)
吸水性樹脂としては特に制限はなく、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系樹脂、ポリウレタン樹脂、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステルポリオール、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、ヒドロキシアルキルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセタール樹脂、ポリ酢酸ビニル、エポキシ系樹脂及びポリウレタン樹脂であり、より好ましいのは、ポリビニルアセタール樹脂、エポキシ系樹脂及びポリウレタン樹脂であり、特に好ましいのは、ポリビニルアセタール樹脂である。
【0091】
ポリビニルアセタール樹脂は、ポリビニルアルコールにアルデヒドを縮合反応させてアセタール化することにより得ることができる。ポリビニルアルコールのアセタール化は、酸触媒の存在下で水媒体を用いる沈澱法、アルコール等の溶媒を用いる溶解法等公知の方法を用いて実施すればよい。アセタール化は、ポリ酢酸ビニルのケン化と並行して実施することもできる。アセタール化度は、2~40モル%、さらには3~30モル%、特に5~20モル%、場合によっては5~15モル%が好ましい。アセタール化度は、例えば13C核磁気共鳴スペクトル法に基づいて測定することができる。アセタール化度が上記範囲にあるポリビニルアセタール樹脂は、吸水性及び耐水性が良好である有機無機複合防曇層の形成に適している。
【0092】
ポリビニルアルコールの平均重合度は、好ましくは200~4500であり、より好ましくは500~4500である。高い平均重合度は、吸水性及び耐水性が良好である有機無機複合防曇層の形成に有利であるが、平均重合度が高すぎると溶液の粘度が高くなり過ぎて膜の形成に支障をきたすことがある。ポリビニルアルコールのケン化度は、75~99.8モル%が好ましい。
【0093】
ポリビニルアルコールに縮合反応させるアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ブチルアルデヒド、ヘキシルカルバルデヒド、オクチルカルバルデヒド、デシルカルバルデヒド等の脂肪族アルデヒドを挙げることができる。また、ベンズアルデヒド;2-メチルベンズアルデヒド、3-メチルベンズアルデヒド、4-メチルベンズアルデヒド、その他のアルキル基置換ベンズアルデヒド;クロロベンズアルデヒド、その他のハロゲン原子置換ベンズアルデヒド;ヒドロキシ基、アルコキシ基、アミノ基、シアノ基等のアルキル基を除く官能基により水素原子が置換された置換ベンズアルデヒド;ナフトアルデヒド、アントラアルデヒド等の縮合芳香環アルデヒド等の芳香族アルデヒドを挙げることができる。疎水性が強い芳香族アルデヒドは、低アセタール化度で耐水性に優れた有機無機複合防曇層を形成する上で有利である。芳香族アルデヒドの使用は、水酸基を多く残存させながら吸水性が高い膜を形成する上でも有利である。ポリビニルアセタール樹脂は、芳香族アルデヒド、特にベンズアルデヒドに由来するアセタール構造を含むことが好ましい。
【0094】
エポキシ系樹脂としては、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、環式脂肪族エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのうち好ましいのは、環式脂肪族エポキシ樹脂である。
【0095】
ポリウレタン樹脂としては、ポリイソシアネートとポリオールとで構成されるポリウレタン樹脂が挙げられる。ポリオールとしては、アクリルポリオール及びポリオキシアルキレン系ポリオールが好ましい。
【0096】
有機無機複合防曇層は、吸水性樹脂を主成分とする。本発明において、「主成分」とは、質量基準で含有率が最も高い成分を意味する。有機無機複合防曇層の重量に基づく吸水性樹脂の含有率は、膜硬度、吸水性及び防曇性の観点から、好ましくは50重量%以上、より好ましくは60重量%以上、特に好ましくは65重量%以上であり、95重量%以下、より好ましくは90重量%以下である。
【0097】
(撥水基)
撥水基による上述の効果を十分に得るためには、撥水性が高い撥水基を用いることが好ましい。好ましい撥水基は、(1)炭素数3~30の鎖状又は環状のアルキル基、及び(2)水素原子の少なくとも一部をフッ素原子により置換した炭素数1~30の鎖状又は環状のアルキル基(以下、「フッ素置換アルキル基」ということがある)から選ばれる少なくとも1種である。
【0098】
(1)及び(2)に関し、鎖状又は環状のアルキル基は、鎖状アルキル基であることが好ましい。鎖状アルキル基は、分岐を有するアルキル基であってもよいが、直鎖アルキル基が好ましい。炭素数が30を超えるアルキル基は、防曇膜を白濁させることがある。膜の防曇性、強度及び外観のバランスの観点から、アルキル基の炭素数は、20以下が好ましく、6~14がより好ましい。特に好ましいアルキル基は、炭素数6~14、特に炭素数6~12の直鎖アルキル基、例えばn-ヘキシル基(炭素数6)、n-デシル基(炭素数10)、n-ドデシル基(炭素数12)である。(2)に関し、フッ素置換アルキル基は、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子の一部のみをフッ素原子により置換した基であってもよく、鎖状又は環状のアルキル基の水素原子のすべてをフッ素原子により置換した基、例えば直鎖状のパーフルオロアルキル基、であってもよい。フッ素置換アルキル基は撥水性が高いため、少ない量の添加によって十分な効果を得ることができる。ただし、フッ素置換アルキル基は、その含有量が多くなり過ぎると、膜を形成するための塗工液中でその他の成分から分離することがある。
【0099】
(撥水基を有する加水分解性金属化合物)
撥水基を防曇膜に配合するためには、撥水基を有する金属化合物(撥水基含有金属化合物)、特に撥水基と加水分解可能な官能基又はハロゲン原子とを有する金属化合物(撥水基含有加水分解性金属化合物)又はその加水分解物を、膜を形成するための塗工液に添加するとよい。言い換えると、撥水基は、撥水基含有加水分解性金属化合物に由来するものであってもよい。撥水基含有加水分解性金属化合物としては、以下の式(I)に示す撥水基含有加水分解性シリコン化合物が好適である。
mSiY4-m (I)
ここで、Rは、撥水基、すなわち水素原子の少なくとも一部がフッ素原子により置換されていてもよい炭素数1~30の鎖状又は環状のアルキル基であり、Yは加水分解可能な官能基又はハロゲン原子であり、mは1~3の整数である。加水分解可能な官能基は、例えば、アルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基及びアミノ基から選ばれる少なくとも1種であり、好ましくはアルコキシ基、特に炭素数1~4のアルコキシ基である。アルケニルオキシ基は、例えばイソプロペノキシ基である。ハロゲン原子は、好ましくは塩素である。なお、ここに例示した官能基は、以降に述べる「加水分解可能な官能基」としても使用することができる。mは好ましくは1~2である。
【0100】
式(I)により示される化合物は、加水分解及び重縮合が完全に進行すると、以下の式(II)により表示される成分を供給する。
mSiO(4-m)/2 (II)
ここで、R及びmは、上述したとおりである。加水分解及び重縮合の後、式(II)により示される化合物は、実際には、防曇膜中において、シリコン原子が酸素原子を介して互いに結合したネットワーク構造を形成する。
【0101】
このように、式(I)により示される化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらには少なくとも一部が重縮合して、シリコン原子と酸素原子とが交互に接続し、かつ三次元的に広がるシロキサン結合(Si-O-Si)のネットワーク構造を形成する。このネットワーク構造に含まれるシリコン原子には撥水基Rが接続している。言い換えると、撥水基Rは、結合R-Siを介してシロキサン結合のネットワーク構造に固定される。この構造は、撥水基Rを膜に均一に分散させる上で有利である。ネットワーク構造は、式(I)により示される撥水基含有加水分解性シリコン化合物以外のシリコン化合物(例えば、テトラアルコキシシラン、シランカップリング剤)から供給されるシリカ成分を含んでいてもよい。撥水基を有さず加水分解可能な官能基又はハロゲン原子を有するシリコン化合物(撥水基非含有加水分解性シリコン化合物)を撥水基含有加水分解性シリコン化合物と共に防曇膜を形成するための塗工液に配合すると、撥水基と結合したシリコン原子と撥水基と結合していないシリコン原子とを含むシロキサン結合のネットワーク構造を形成できる。このような構造とすれば、防曇膜中における撥水基の含有率と金属酸化物成分の含有率とを互いに独立して調整することが容易になる。
【0102】
撥水基は、吸水性樹脂を含む防曇膜表面における水蒸気の透過性を向上させることにより防曇性能を向上させる効果がある。吸水と撥水という2つの機能は互いに相反するため、吸水性材料と撥水性材料とは、従来、別の層に振り分けて付与されてきたが、撥水基は、防曇層の表面近傍における水の偏在を解消して結露までの時間を引き延ばし、単層構造を有する防曇膜の防曇性を向上させる。以下ではその効果を説明する。
【0103】
吸水性樹脂を含む防曇膜へと侵入した水蒸気は、吸水性樹脂等の水酸基と水素結合し、結合水の形態で保持される。量が増加するにつれ、水蒸気は、結合水の形態から半結合水の形態を経て、ついには防曇膜中の空隙に保持される自由水の形態で保持されるようになる。防曇膜において、撥水基は、水素結合の形成を妨げ、かつ形成した水素結合の解離を容易にする。吸水性樹脂の含有率が同じであれば、膜中における水素結合可能な水酸基の数には差がないが、撥水基は水素結合の形成速度を低下させる。したがって、撥水基を含有する防曇膜において、水分は、最終的には上記のいずれかの形態で膜に保持されることになるが、保持されるまでには膜の底部まで水蒸気のまま拡散することができる。また、一旦保持された水も、比較的容易に解離し、水蒸気の状態で膜の底部まで移動しやすい。結果的に、膜の厚さ方向についての水分の保持量の分布は、表面近傍から膜の底部まで比較的均一になる。つまり、防曇膜の厚さ方向の全てを有効に活用し、膜表面に供給された水を吸収することができるため、表面に水滴が凝結しにくく、防曇性が高くなる。さらに、表面に水滴が凝結しにくいことにより、水分を吸収した防曇膜は、低温でも凍結しにくいという特徴を有する。よって、この防曇膜を撮影窓113に固定すると、広い温度範囲で撮影窓113の視界を確保することができる。
【0104】
一方、撥水基を含まない防曇膜においては、膜中に侵入した水蒸気は極めて容易に結合水、半結合水又は自由水の形態で保持される。したがって、侵入した水蒸気は、膜の表面近傍で保持される傾向にある。結果的に、膜中の水分は、表面近傍が極端に多く、膜の底部へ進むにつれて急速に減少する。つまり、膜の底部では未だ水を吸収できるにも拘わらず、膜の表面近傍では水分により飽和して水滴として凝結するため、防曇性が限られたものとなる。
【0105】
撥水基含有加水分解性シリコン化合物(式(I)参照)を用いて撥水基を防曇膜に導入すると、強固なシロキサン結合(Si-O-Si)のネットワーク構造が形成される。このネットワーク構造の形成は、耐摩耗性のみならず、硬度、耐水性等を向上させる観点からも有利である。
【0106】
撥水基は、防曇膜の表面における水の接触角が70度以上、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上になる程度に添加するとよい。水の接触角は、4mgの水滴を膜の表面に滴下して測定した値を採用することとする。特に撥水性がやや弱いメチル基又はエチル基を撥水基として用いる場合は、水の接触角が上記の範囲となる量の撥水基を防曇膜に配合することが好ましい。この水滴の接触角は、その上限が特に制限されるわけではないが、例えば150度以下、また例えば120度以下、さらには100度以下である。撥水基は、防曇膜の表面のすべての領域において上記水滴の接触角が上記の範囲となるように、防曇膜に均一に含有させることが好ましい。
【0107】
防曇膜は、吸水性樹脂100質量部に対し、0.05質量部以上、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上の範囲内となるように、また、10質量部以下、好ましくは5質量部以下、の範囲内となるように、撥水基を含むことが好ましい。
【0108】
(無機酸化物)
無機酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、少なくとも、Siの酸化物(シリカ)を含む。有機無機複合防曇層は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0.01重量部以上であり、より好ましくは0.1重量部以上、さらに好ましくは0.2重量部以上、特に好ましくは1重量部以上、最も好ましくは5重量部以上、場合によっては10重量部以上、必要であれば20重量部以上、また、好ましくは50重量部以下、より好ましくは45重量部以下、さらに好ましくは40重量部以下、特に好ましくは35重量部以下、最も好ましくは33重量部以下、場合によっては30重量部以下となるように、無機酸化物を含むことが好ましい。無機酸化物は、有機無機複合防曇層の強度、特に耐摩耗性を確保するために必要な成分であるが、その含有量が多くなると、有機無機複合防曇層の防曇性が低下する。
【0109】
(無機酸化物微粒子)
有機無機複合防曇層は、無機酸化物の少なくとも一部として、無機酸化物微粒子をさらに含んでいてもよい。無機酸化物微粒子を構成する無機酸化物は、例えば、Si、Ti、Zr、Ta、Nb、Nd、La、Ce及びSnから選ばれる少なくとも1種の元素の酸化物であり、好ましくはシリカ微粒子である。シリカ微粒子は、例えば、コロイダルシリカを添加することにより有機無機複合防曇層に導入できる。無機酸化物微粒子は、有機無機複合防曇層に加えられた応力を、有機無機複合防曇層を支持する物品に伝達する作用に優れ、硬度も高い。したがって、無機酸化物微粒子の添加は、有機無機複合防曇層の耐摩耗性を向上させる観点から有利である。また、有機無機複合防曇層に無機酸化物微粒子を添加すると、微粒子が接触又は近接している部位に微細な空隙が形成され、この空隙から膜中に水蒸気が取り込まれやすくなる。このため、無機酸化物微粒子の添加は、防曇性の向上に有利に作用することもある。無機酸化物微粒子は、有機無機複合防曇層を形成するための塗工液に、予め形成した無機酸化物微粒子を添加することにより、有機無機複合防曇層に供給することができる。
【0110】
無機酸化物微粒子の平均粒径が大きすぎると、有機無機複合防曇層が白濁することがあり、小さすぎると凝集して均一に分散させることが困難となる。この観点から、無機酸化物微粒子の平均粒径は、好ましくは1~20nmであり、より好ましくは5~20nmである。なお、ここでは、無機酸化物微粒子の平均粒径を、一次粒子の状態で記述している。また、無機酸化物微粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡を用いた観察により任意に選択した50個の微粒子の粒径を測定し、その平均値を採用して定めることとする。無機酸化物微粒子は、その含有量が多くなると、有機無機複合防曇層全体の吸水量が低下し、有機無機複合防曇層が白濁するおそれがある。無機酸化物微粒子は、吸水性樹脂100重量部に対し、好ましくは0~50重量部であり、より好ましくは2~30重量部、さらに好ましくは5~25重量部、特に好ましくは10~20重量部となるように添加するとよい。
【0111】
(撥水基を有しない加水分解性金属化合物)
防曇膜は、撥水基を有しない加水分解性金属化合物(撥水基非含有加水分解性化合物)に由来する金属酸化物成分を含んでいてもよい。好ましい撥水基非含有加水分解性金属化合物は、撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物である。撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、例えば、シリコンアルコキシド、クロロシラン、アセトキシシラン、アルケニルオキシシラン及びアミノシランから選ばれる少なくとも1種のシリコン化合物(ただし、撥水基を有しない)であり、撥水基を有しないシリコンアルコキシドが好ましい。なお、アルケニルオキシシランとしては、イソプロペノキシシランを例示できる。
【0112】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物は、以下の式(III)に示す化合物であってもよい。
SiY4 (III)
上述したとおり、Yは、加水分解可能な官能基であって、好ましくはアルコキシル基、アセトキシ基、アルケニルオキシ基、アミノ基及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも1つである。
【0113】
撥水基非含有加水分解性金属化合物は、加水分解又は部分加水分解し、さらに、少なくともその一部が重縮合して、金属原子と酸素原子とが結合した金属酸化物成分を供給する。この成分は、金属酸化物微粒子と吸水性樹脂とを強固に接合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。撥水基を有しない加水分解性金属化合物に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~40質量部、好ましくは0.1~30質量部、より好ましくは1~20質量部、特に好ましくは3~10質量部、場合によっては4~12質量部の範囲とするとよい。
【0114】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい一例は、テトラアルコキシシラン、より具体的には炭素数が1~4のアルコキシ基を有するテトラアルコキシシランである。テトラアルコキシシランは、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン、テトライソブトキシシラン、テトラ-sec-ブトキシシラン及びテトラ-tert-ブトキシシランから選ばれる少なくとも1種である。
【0115】
テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下することがある。防曇膜の柔軟性が低下し、水分の吸収及び放出に伴う膜の膨潤及び収縮が制限されることが一因である。テトラアルコキシシランに由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~30質量部、好ましくは1~20質量部、より好ましくは3~10質量部の範囲で添加するとよい。
【0116】
撥水基を有しない加水分解性シリコン化合物の好ましい別の一例は、シランカップリング剤である。シランカップリング剤は、互いに異なる反応性官能基を有するシリコン化合物である。反応性官能基は、その一部が加水分解可能な官能基であることが好ましい。シランカップリング剤は、例えば、エポキシ基及び/又はアミノ基と加水分解可能な官能基とを有するシリコン化合物である。好ましいシランカップリング剤としては、グリシジルオキシアルキルトリアルコキシシラン及びアミノアルキルトリアルコキシシランを例示できる。これらのシランカップリング剤において、シリコン原子に直接結合しているアルキレン基の炭素数は1~3であることが好ましい。グリシジルオキシアルキル基及びアミノアルキル基は、親水性を示す官能基(エポキシ基、アミノ基)を含むため、アルキレン基を含むものの、全体として撥水性ではない。
【0117】
シランカップリング剤は、有機成分である吸水性樹脂と無機成分である金属酸化物微粒子等とを強固に結合し、防曇膜の耐摩耗性、硬度、耐水性等の向上に寄与しうる。しかし、シランカップリング剤に由来する金属酸化物(シリカ)成分の含有量が過大となると、防曇膜の防曇性が低下し、場合によっては防曇膜が白濁する。シランカップリング剤に由来する金属酸化物成分は、吸水性樹脂100質量部に対し、0~10質量部、好ましくは0.05~5質量部、より好ましくは0.1~2質量部の範囲で添加するとよい。
【0118】
(架橋構造)
防曇膜は、架橋剤、好ましくは有機ホウ素化合物、有機チタン化合物及び有機ジルコニウム化合物から選ばれる少なくとも1種の架橋剤、に由来する架橋構造を含んでいてもよい。架橋構造の導入は、防曇膜の耐摩耗性、耐擦傷性、耐水性を向上させる。別の観点から述べると、架橋構造の導入は、防曇膜の防曇性能を低下させることなくその耐久性を改善することを容易にする。
【0119】
金属酸化物成分がシリカ成分である防曇膜に架橋剤に由来する架橋構造を導入した場合、その防曇膜は、金属原子としてシリコンと共にシリコン以外の金属原子、好ましくはホウ素、チタン又はジルコニウム、を含有することがある。
【0120】
架橋剤は、用いる吸水性樹脂を架橋できるものであれば、その種類は特に限定されない。ここでは、有機チタン化合物についてのみ例を挙げる。有機チタン化合物は、例えば、チタンアルコキシド、チタンキレート系化合物及びチタンアシレートから選ばれる少なくとも1つである。チタンアルコキシドは、例えば、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラ-n-ブトキシド、チタンテトラオクトキシドである。チタンキレ-ト系化合物は、例えば、チタンアセチルアセトナート、チタンアセト酢酸エチル、チタンオクチレングリコール、チタントリエタノールアミン、チタンラクテートである。チタンラクテートは、アンモニウム塩(チタンラクテートアンモニウム)であってもよい。チタンアシレートは、例えばチタンステアレートである。好ましい有機チタン化合物は、チタンキレート系化合物、特にチタンラクテートである。
【0121】
吸水性樹脂がポリビニルアセタールである場合の好ましい架橋剤は、有機チタン化合物、特にチタンラクテートである。
【0122】
(その他の任意成分)
防曇膜にはその他の添加剤を配合してもよい。添加剤としては、防曇性を改善する機能を有するグリセリン、エチレングリコール等のグリコール類が挙げられる。添加剤は、界面活性剤、レベリング剤、紫外線吸収剤、着色剤、消泡剤、防腐剤等であってもよい。
【0123】
[膜厚]
有機無機複合防曇層の膜厚は、要求される防曇特性その他に応じて適宜調整すればよい。有機無機複合防曇層の膜厚は、好ましくは2~20μmであり、より好ましくは2~15μm、さらに好ましくは3~10μmである。
【0124】
なお、上述した防曇層は一例であり、その他の公知の防曇層を用いることができ、例えば、特開2001-146585号公報に記載の防曇層など、種々のものを用いることができる。
【0125】
<5-2.基材フィルム>
基材フィルム72は、透明の樹脂フィルムで形成され、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネートや、アクリル系樹脂で形成することができる。そして、その樹脂には紫外線吸収剤が含有されていても良い。特に、基材フィルム72は、後述するように、加熱線6から車内側への放熱を抑制するため、ガラス板11,12よりも低い熱伝導率を有する材料であることが好ましい。具体的には、基材フィルム72の熱伝導率は、0.7W/(m・K)以下であることが好ましく、0.5W/(m・K)以下であることがさらに好ましい。
【0126】
紫外線吸収剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール化合物[2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’―ジ-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール等]、ベンゾフェノン化合物[2,2’,4,4’-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等]、ヒドロキシフェニルトリアジン化合物[2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-t-ブチルフェニル)-s-トリアジン等]及びシアノアクリレート化合物[エチル-α-シアノ-β,β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等]等の有機物が挙げられる。紫外線吸収剤は単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、紫外線吸収剤は、ポリメチン化合物、イミダゾリン化合物、クマリン化合物、ナフタルイミド化合物、ペリレン化合物、アゾ化合物、イソインドリノン化合物、キノフタロン化合物及びキノリン化合物から選ばれる少なくとも1種の有機色素であってもよい。
【0127】
このような基材フィルム72は、例えば、波長380nmでの透過率が5%以下、且つ波長400nmでの透過率が50%以下であることが好ましい。
【0128】
また、基材フィルム72は、防曇層73を支持するフィルムであるので、ある程度の剛性が必要である。また、基材フィルム72の厚みが大きくなると、車内側への熱伝達が小さくなり、車内側への放熱を抑えられるので、車外側に熱を伝えやすくなり、解氷などに有利である。但し、厚みが大きすぎると、ヘイズ率が高くなりやすい。また、加熱線による段差への追従が難しくなり、段差に空気が溜まりやすくなる。したがって、基材フィルム72の厚みは、例えば、25~200μmであることが好ましい。
【0129】
<5-3.粘着層>
粘着層71は、後述するように、基材フィルム72を内側ガラス板12に十分な強度で固定できるものであればよい。具体的には、常温でタック性を有するアクリル系、ゴム系、及びメタクリル系とアクリル系のモノマーを共重合し、所望のガラス転移温度に設定した樹脂などの粘着層を使用できる。アクリル系モノマーとしては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸ステアリル及びアクリル酸2エチルヘキシル等を適用することができ、メタクリル系モノマーとしては、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸イソブチル及びメタクリル酸ステアリル等を適用することができる。また、ヒートラミネートなどで施工をする場合には、ラミネート温度で軟化する有機物を用いても良い。ガラス転移温度は、例えばメタクリル系とアクリル系のモノマーを共重合した樹脂の場合、各モノマーの配合比を変更することによって調整することができる。紫外線吸収剤が粘着層に含有されていても良い。
【0130】
なお、粘着層71は、加熱線6やマスク層113によって生じる段差を吸収できるような厚みであることが好ましい。例えば、粘着層71の厚みは、内側ガラス板12と加熱線6との段差、つまり、加熱線6の厚みよりは大きく、加熱線6の厚みの20倍以下であることが好ましい。また、粘着層71の厚みは、内側ガラス板12とマスク層113との段差、つまり、マスク層113の厚みよりは大きく、マスク層113の厚みの20倍以下であることが好ましい。したがって、粘着層71の厚みは、例えば、1~300μmにすることができる。また、段差を吸収するとの観点から、粘着層を変形しやすくするため、粘着層71のせん断貯蔵弾性率は、例えば、1.0×103GPa以上、1.0×107GPa以下とすることができる。
【0131】
また、粘着層71の粘着力は、0.25N/10mm以上、12N/mm以下とすることができ、1.0N/10mm以上、10N/mm以下であることが好ましい。これにより、防曇フィルムがしっかりと貼り付けられるとともに、剥がしやすくなり、交換が容易になる。
【0132】
<5-4.保護シート>
第1保護シート74は、合わせガラス10の撮影窓113に固定されるまでの間、粘着層71を保護するものであり、例えば、シリコーンなどの離型剤が塗布された樹脂製のシートで形成されている。同様に、第2保護シート75は、合わせガラスの撮影窓に固定されるまでの間、防曇層73を保護するためのものであり、離型剤が塗布された樹脂製のシートで形成されている。いずれも公知の一般的な離型シートを採用することができる。
【0133】
<6.ウインドシールドの製造方法>
次に、ウインドシールドの製造方法について説明する。まず、所定の形状に形成された外側ガラス板11及び内側ガラス板12の少なくとも一方にマスク層110を積層する。続いて、これらのガラス板11,12が湾曲するように成形する。この方法は、特には限定されないが、例えば、公知のプレス成形により行うことができる。あるいは、成形型上に外側ガラス板11及び内側ガラス板12を重ねて配置した後、この成形型を加熱炉を通過させて加熱する。これによって、これらのガラス板11,12を自重により湾曲させることができる。
【0134】
こうして、外側ガラス板11及び内側ガラス板12が成形されると、これに続いて、中間膜13を外側ガラス板11及び内側ガラス板12の間に挟んだ積層体を形成する。なお、中間膜13は、ガラス板11,12よりも大きい形状とする。
【0135】
次に、この積層体を、ゴムバッグに入れ、減圧吸引しながら約70~110℃で予備接着する。予備接着の方法は、これ以外でも可能であり、次の方法を採ることもできる。例えば、上記積層体をオーブンにより45~65℃で加熱する。次に、この積層体を0.45~0.55MPaでロールにより押圧する。続いて、この積層体を、再度オーブンにより80~105℃で加熱した後、0.45~0.55MPaでロールにより再度押圧する。こうして、予備接着が完了する。
【0136】
次に、本接着を行う。予備接着がなされた積層体を、オートクレーブにより、例えば、8~15気圧で、100~150℃によって、本接着を行う。具体的には、例えば、14気圧で135℃の条件で本接着を行うことができる。以上の予備接着及び本接着を通して、中間膜13が各ガラス板11,12に接着される。続いて、外側ガラス板11及び内側ガラス板12からはみ出した中間膜13を切断する。
【0137】
続いて、上述した加熱線6を印刷によって内側ガラス板12の車内側の面(マスク層110を含む)に形成する。最後に、上述した防曇シート7を加熱線6を覆うように、内側ガラス板12の車内側の面(マスク層110を含む)に貼り付ける。まず、防曇積層体を準備し、粘着層71に貼り付けられた第1保護シート74を取り外す。そして、露出した粘着層71を貼り付ける。そして、第2保護シート75を押圧し、防曇シート7を撮影窓113にしっかりと固定する。最後に、第2保護シート75を取り外し、防曇層73を露出させると、防曇シート7の取り付けが完了する。なお、防曇シート7を取り付けるタイミングは特には限定されず、ブラケットを取り付けた後であってもよい。また、撮影窓113に防曇シート7を取り付け、ブラケットを取り付けた後に、第2保護シート75を取り外してもよい。
【0138】
<7.特徴>
以上説明したウインドシールドによれば、次のような効果を得ることができる。
(1)加熱線6が、撮影窓113を通過するように設けられているため、撮影窓113において、合わせガラス10が曇るのを防止することができる。また、加熱線6によって合わせガラス10の解氷を行うこともできる。そのため、撮影装置2により、撮影窓113を介して光を受光する際、撮影窓113の曇りによって、光の通過に支障を来たし、測定が正確に行えないなどの不具合を防止することができる。その結果、情報の処理を正確に行うことができる。
【0139】
(2)加熱線6がブラケット及びそのカバーによって覆われるため、車内側から見えなくすることができる。また、搭乗者が加熱線6に接触するのを防止することができる。
【0140】
(3)加熱線6の加え、防曇シート7も取り付けられているため、加熱線6に通電しなくても、防曇シート7によって合わせガラス10の曇りを抑制することができる。特に、撮影窓113が設けられる車内の上部は、暖房がONになっていても冷えやすく、曇りが生じやすい。したがって、このような位置に防曇シート7が設けられていることは有利である。また、撮影窓113は、ブラケットやカバーにより覆われているため、暖房やデフロスターからの暖気が届きにくいという問題がある。またブラケットやカバーで覆われた空間内とその外部との空気の交換が容易でないので、その空間内の空気の湿度が飽和状態に達すると、ガラス板の表面に水滴として付着しやすいという問題がある。したがって、上記のように覆われた空間内に防曇シート7を設けることは有利である。このように、防曇シート7を設けることで、加熱線6を常に通電する必要がなく、また、加熱線6の発熱量を低減することができるため、加熱線6の消費電力を低減することができる。
【0141】
(4)加熱線6が、合わせガラス10と防曇シート7の間に挟まれているため、加熱線6から車内側への放熱を抑制することができ、合わせガラス10に熱を伝えやすくすることができる。その結果、曇りの除去や解氷を短時間で行うことができる。この場合、防曇シート7の基材フィルム71が本発明のカバー部材に相当する。なお、加熱線6の一部を防曇シート7によって覆うことで、防曇シート7によって覆われていない部分からの車内側への放熱を大きくすることができる。これにより、加熱線6において、合わせガラス10に付与する熱が調整され、合わせガラス10の温度勾配を緩やかにすることができる。その結果、合わせガラス10の割れを防止することができる。
【0142】
(5)防曇シート7には、粘着層72が設けられているため、加熱線6を防曇シート7で覆ったときには、粘着層72によって加熱線6と内側ガラス板12との段差、あるいは加熱線6とマスク層110との段差を粘着層72によって吸収することができる。すなわち、段差と粘着層72とを隙間なく膜密着させることができる。その結果、段差によって生じる空気の噛み込みを防止することができる。
【0143】
<8.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜組み合わせることができる。
【0144】
<8-1>
加熱線6の配線パターンは、上記実施形態で示したものに限定されず、種々のパターンが可能である。例えば、第1及び第2加熱線61,62の主部611,621の数、連結部612,622の数、主部611,621の向き、接続線63の長さ、接続線63の向き、接続端子64,65の位置などは、適宜変更することができる。また、撮影窓113の形状も台形状以外でもよく、撮影装置2での撮影が可能であれば、適宜変更することができる。そして、撮影窓の形状が変われば、加熱線の配線パターンも適宜、変更することができる。
【0145】
<8-2>
上記実施形態では、加熱線6を防曇シート7によって覆っているが、防曇シート7は、必ずしも必要ではない。すなわち、少なくとも加熱線6の少なくとも一部がブラケット及びカバーによって覆われていればよい。
【0146】
<8-3>
防曇シート7の代わりに、カバー部材によって加熱線6を覆うこともできる。カバー部材は、例えば、防曇シート7の基材フィルム72と同様の材料で形成することができ、これを粘着層によって内側ガラス板(マスク層を含む)12に貼り付けることができる。こうすることで、加熱線6から車内側への放熱を抑制することができる。
【0147】
<8-4>
マスク層110の一部または全部を、合わせガラス10へ貼り付け可能な遮蔽フィルムで構成し、これによって車外からの視野を遮蔽することもできる。なお、遮蔽フィルムを内側ガラス板12の車外側の面に貼り付ける場合には、予備接着の前、または本接着の後に貼り付けを行うことができる。
【0148】
また、合わせガラス10において、光の通路の曇りを防止するという観点からすれば、必ずしもマスク層110は必要ではなく、光が通過する領域(撮影窓:情報取得領域)に加熱線6や防曇シート7が取り付けられていればよい。
【0149】
<8-5>
上記実施形態では、本発明の情報取得装置として、カメラを有する撮影装置2を用いたが、これに限定されるものではなく、種々の情報取得装置を用いることができる。すなわち、車外からの情報を取得するために、光の照射及び/または受光を行うものであれば、特には限定されない。例えば、レーザレーダ、ライトセンサ、レインセンサ、光ビーコンなどの車外からの信号を受信する受光装置など、種々の装置に適用することができる。また、上記撮影窓113のような開口は、光の種類に応じて、マスク層110に適宜設けることができ、複数の開口を設けることもできる。例えば、ステレオカメラを設ける場合には、マスク層110に2つの撮影窓が形成され、各撮影窓に防曇シートが取り付けられる。なお、情報取得装置はガラスに接触していても接触していなくても良い。また、撮影窓113は、全周が閉じている必要はなく、一部が開放される形状であってもよい。
【実施例
【0150】
以下、本発明の実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されない。
【0151】
厚みが2mmの内側ガラス板及び外側ガラス板を有する合わせガラスを準備し、図5で示した加熱線を内側ガラス板にスクリーン印刷によって形成した。加熱線の主部の線幅は0.3mm、連結部の線幅は0.8mm、接続部の線幅は3.0mmとして、銀により加熱線を形成した。そして、接続端子に13Vの電圧を印加した。また、粘着層、基材フィルム、及び防曇層を有し、面積が18,000mm2の防曇シートを準備した。基材フィルムは、厚みが100μmのPETで形成した。そして、加熱線を防曇シートで覆ったものを実施例1とし、加熱線を防曇シートで覆わなかったものを実施例2とした。そして、各加熱線に30分間電圧を印加し、内側ガラス板の温度をサーモグラフィーで車内側から測定した。結果は、図8に示すとおりである。
【0152】
図8に示すように、実施例1の方が、実施例2よりも内側ガラス板の温度が高くなった。これは、実施例1は、加熱線が防曇シートによって覆われているため、ガラス板に伝達される熱量が多いと考えられるからである。
【符号の説明】
【0153】
10 合わせガラス
11 外側ガラス板
12 内側ガラス板
13 中間膜
110 マスク層
113 撮影窓(開口)
6 加熱線
7 防曇シート
71 粘着層
72 基材フィルム
73 防曇層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8