(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】シリンダライナの密封構造
(51)【国際特許分類】
F02F 1/16 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
F02F1/16 A
(21)【出願番号】P 2019081470
(22)【出願日】2019-04-23
【審査請求日】2022-03-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社が、広島ガス株式会社廿日市工場(広島県廿日市市木材港南12番20号)に、製品を納入。(納入日:2018年7月31日)。
(73)【特許権者】
【識別番号】316015888
【氏名又は名称】三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 元
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 壮太
【審査官】鶴江 陽介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第03853099(US,A)
【文献】独国特許出願公開第19913468(DE,A1)
【文献】特開2007-292062(JP,A)
【文献】実開平06-063850(JP,U)
【文献】実開昭54-150707(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02F 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関のシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに装着されるとともに、軸方向に沿ってピストンを摺動可能に収容するシリンダライナと、を備えるシリンダライナの密封構造であって、
前記シリンダライナは、
前記シリンダブロックの内周面との間に冷却水通路を形成するように構成された小径部と、
前記小径部に前記軸方向に隣接して配置されるとともに、前記小径部よりも大径に形成された大径部であって、前記シリンダライナが前記シリンダブロックに装着された際に前記シリンダブロックとの間に前記軸方向の全体に亘って所定の隙間を有する大径部と、
前記大径部の外周面に周方向に沿って環状に形成された少なくとも一つのシール溝と、を備え、
前記大径部は、
前記少なくとも一つのシール溝が一つの場合は前記一つのシール溝、前記少なくとも一つのシール溝が複数の場合は複数のシール溝の内の前記軸方向において最も前記冷却水通路側に位置するシール溝、を冷却水通路側シール溝とした場合に、前記冷却水通路側シール溝と前記冷却水通路との間に形成される一方側壁部
であって、前記軸方向に沿って延在する第1平坦面を有する一方側壁部と、
前記軸方向において前記冷却水通路側シール溝よりも前記冷却水通路から離れた側に位置する他方側壁部
であって、前記軸方向に沿って延在する第2平坦面を有する他方側壁部と、を含み、
前記
第1平坦面は、前記ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、前記
第2平坦面よりも前記シリンダブロックの前記内周面との間隔が大きくなるように構成され、
前記冷却水通路側シール溝に装着されるシール部材をさらに備える
シリンダライナの密封構造。
【請求項2】
前記
第1平坦面は、前記周方向の全周において、前記
第2平坦面よりも前記シリンダブロックの前記内周面との間隔が大きくなるように構成された
請求項1に記載のシリンダライナの密封構造。
【請求項3】
前記一方側壁部は、前記冷却水通路に面する冷却水通路側面であって、前記ピストンの前記スラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、前記シール溝から離れるにつれて前記シリンダブロックの前記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有する
請求項1又は2に記載のシリンダライナの密封構造。
【請求項4】
前記冷却水通路側面は、前記周方向の全周において、前記シール溝から離れるにつれて前記シリンダブロックの前記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された
請求項3に記載のシリンダライナの密封構造。
【請求項5】
前記シール部材は、
Oリングと、
前記Oリングよりも前記冷却水通路側に配置されるバックアップリングであって、前記ピストンの前記スラスト方向を含む前記周方向の少なくとも一部において、前記一方側壁部よりも前記シリンダブロックの前記内周面との間隔が小さくなるように構成されたバックアップリングと、を含む
請求項1乃至4の何れか1項に記載のシリンダライナの密封構造。
【請求項6】
内燃機関のシリンダブロックと、
前記シリンダブロックに装着されるとともに、軸方向に沿ってピストンを摺動可能に収容するシリンダライナと、を備えるシリンダライナの密封構造であって、
前記シリンダライナは、
前記シリンダブロックの内周面との間に冷却水通路を形成するように構成された小径部と、
前記小径部に前記軸方向に隣接して配置されるとともに、前記小径部よりも大径に形成された大径部であって、前記シリンダライナが前記シリンダブロックに装着された際に前記シリンダブロックとの間に前記軸方向の全体に亘って所定の隙間を有する大径部と、
前記大径部の外周面に周方向に沿って環状に形成された少なくとも一つのシール溝と、を備え、
前記大径部は、
前記少なくとも一つのシール溝が一つの場合は前記一つのシール溝、前記少なくとも一つのシール溝が複数の場合は複数のシール溝の内の前記軸方向において最も前記冷却水通路側に位置するシール溝、を冷却水通路側シール溝とした場合に、前記冷却水通路側シール溝と前記冷却水通路との間に形成される一方側壁部を含み、
前記一方側壁部は、前記冷却水通路に面する冷却水通路側面であって、前記ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、前記シール溝から離れるにつれて前記シリンダブロックの前記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有
し、
前記シリンダブロックの内周面は、前記シール溝に近づくにつれて前記シリンダライナとの間隔が小さくなるように構成されたカーブ面を含み、
前記カーブ面は、
前記小径部から離れるように凸となる第1カーブ面と、
前記小径部に近づくように凸となる第2カーブ面であって、変曲点を介して前記第1カーブ面と接続される第2カーブ面と、を有し、
前記冷却水通路側面は、
軸方向における一端と、
前記一端を挟んで前記シール溝とは反対側に位置する他端とを有し、
前記冷却水通路側面の前記他端は、前記軸方向において、前記シール溝と前記第2カーブ面の中点との間に位置し、
前記冷却水通路側シール溝に装着されるシール部材をさらに備える
シリンダライナの密封構造。
【請求項7】
前記冷却水通路側面は、前記周方向の全周において、前記シール溝から離れるにつれて前記シリンダブロックの前記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された
請求項6に記載のシリンダライナの密封構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、内燃機関のシリンダブロックに装着されるとともに、軸方向に沿ってピストンを摺動可能に収容するシリンダライナ、および上記シリンダライナの密封構造に関する。
【背景技術】
【0002】
水冷式のエンジン(内燃機関)においては、シリンダブロックのボア内周面とシリンダライナの外周面との間に冷却水通路が形成されることがある(特許文献1参照)。シリンダライナは、周方向に沿って環状に形成されたシール溝を有する。上記シール溝にOリングが挿入されることで、冷却水通路から冷却水が漏れないようにシールしている。
【0003】
シリンダライナは、軸方向に沿ってピストンを摺動可能に収容している。ピストンは、ピストンピンを介して、コンロッドの長手方向における一端に連結されている。コンロッドは、長手方向における他端がクランクシャフトに連結されている。内燃機関の運転時において、ピストンは、軸方向に沿った往復運動を行う。ピストンの往復運動は、ピストンピンおよびコンロッドにより、クランクシャフトの回転運動に変換される。
【0004】
ピストンの往復運動およびクランクシャフトの回転運動により、シリンダライナには、ピストンから径方向外側に向かってスラスト力が作用する。スラスト力は、シリンダライナの軸線およびピストンピンの軸線の夫々と直交する方向(スラスト方向)に作用する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シリンダライナは、ピストンが発生させたスラスト力により、スラスト方向に短期間に移動する。シリンダライナがスラスト方向に短期間に移動することで、冷却水通路の冷却水通路側シール溝の近傍部分のスラスト方向における容積が狭くなり、上記近傍部分からシール溝から離れた側に冷却水が押し流される。上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速すぎると、冷却水通路内に負圧領域が発生し、キャビテーションが生じる虞がある。冷却水通路内でキャビテーションが高頻度で生じると、Oリングが摩耗して冷却水通路から冷却水が漏れる虞がある。
【0007】
冷却水通路内におけるキャビテーションの発生や進行を抑制するために、冷却水に薬品を投入し、被膜を形成することが考えられるが、上記薬品の投入作業や、投入作業を管理する作業が必要となるため、内燃機関の運用コストの悪化を招く虞がある。
なお、特許文献1には、キャビテーションの発生によるシリンダライナの損傷を防止するために、シリンダライナにメッキ処理を施すことが開示されているだけで、キャビテーションの発生を抑制する手段については、何ら開示していない。
【0008】
上述した事情に鑑みて、本発明の少なくとも一実施形態の目的は、キャビテーションの発生を抑制することができるシリンダライナを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1)本発明の少なくとも一実施形態にかかるシリンダライナは、
内燃機関のシリンダブロックに装着されるとともに、軸方向に沿ってピストンを摺動可能に収容するシリンダライナであって、
上記シリンダブロックの内周面との間に冷却水通路を形成するように構成された小径部と、
上記小径部に上記軸方向に隣接して配置されるとともに、上記小径部よりも大径に形成された大径部と、
上記大径部の外周面に周方向に沿って環状に形成された少なくとも一つのシール溝と、を備え、
上記大径部は、
上記軸方向において最も上記冷却水通路側に位置するシール溝である冷却水通路側シール溝と上記冷却水通路との間に形成される一方側壁部と、
上記軸方向において上記冷却水通路側シール溝よりも上記冷却水通路から離れた側に位置する他方側壁部と、を含み、
上記一方側壁部は、上記ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、上記他方側壁部よりも上記シリンダブロックの上記内周面との間隔が大きくなるように構成された。
【0010】
上記(1)の構成によれば、シリンダライナの一方側壁部は、ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、他方側壁部よりもシリンダブロックの内周面との間隔が大きくなるように構成されている。つまり、冷却水通路の冷却水通路側シール溝の近傍部分は、ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、容積が大きなものとなっている。上記シリンダライナは、上記近傍部分の容積を大きなものとし、近傍部分における冷却水の体積を大きくすることで、シリンダライナがスラスト方向に短期間に移動した際に近傍部分における冷却水にかかる圧力を分散させることができるため、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。上記シリンダライナは、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、冷却水通路内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0011】
(2)幾つかの実施形態では、上記(1)に記載のシリンダライナであって、上記一方側壁部は、上記周方向の全周において、上記他方側壁部よりも上記シリンダブロックの上記内周面との間隔が大きくなるように構成された。
【0012】
上記(2)の構成によれば、シリンダライナの一方側壁部は、周方向の全周において、他方側壁部よりもシリンダブロックの内周面との間隔が大きくなるように構成されている。上記シリンダライナは、周方向の全周において、上記近傍部分の容積を大きなものとし、上記近傍部分における冷却水の体積を大きくすることで、シリンダライナが反スラスト方向(スラスト方向とは反対方向)に短期間に移動した際においても近傍部分における冷却水にかかる圧力を分散させることができ、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。上記シリンダライナは、周方向の全周において、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、反スラスト方向を含む周方向の全周において、冷却水通路内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0013】
(3)幾つかの実施形態では、上記(1)又は(2)に記載のシリンダライナであって、上記一方側壁部は、上記冷却水通路に面する冷却水通路側面であって、上記ピストンの上記スラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、上記シール溝から離れるにつれて上記シリンダブロックの上記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有する。
【0014】
上記(3)の構成によれば、シリンダライナの一方側壁部は、ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、シール溝から離れるにつれてシリンダブロックの内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有する。つまり、冷却水通路の冷却水通路側シール溝の近傍部分に連なる部分は、ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、容積変化が緩やかになっている。上記シリンダライナは、上記近傍部分に連なる部分の容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナがスラスト方向に短期間に移動した際に近傍部分における冷却水が上記近傍部分に連なる部分に流れ易くすることができるため、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。上記シリンダライナは、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、冷却水通路内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0015】
(4)幾つかの実施形態では、上記(3)に記載のシリンダライナであって、上記冷却水通路側面は、上記周方向の全周において、上記シール溝から離れるにつれて上記シリンダブロックの上記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された。
【0016】
上記(4)の構成によれば、シリンダライナの一方側壁部は、周方向の全周において、シール溝から離れるにつれてシリンダブロックの内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有する。上記シリンダライナは、周方向の全周において、上記近傍部分に連なる部分の容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナが反スラスト方向(スラスト方向とは反対方向)に短期間に移動した際においても近傍部分における冷却水が上記近傍部分に連なる部分に流れ易くすることができるため、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。上記シリンダライナは、周方向の全周において、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、反スラスト方向を含む周方向の全周において、冷却水通路内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0017】
(5)幾つかの実施形態では、上記(1)~(4)の何れかに記載のシリンダライナは、上記冷却水通路側シール溝に装着されるシール部材をさらに備え、上記シール部材は、Oリングと、上記Oリングよりも上記冷却水通路側に配置されるバックアップリングであって、上記ピストンの上記スラスト方向を含む上記周方向の少なくとも一部において、上記一方側壁部よりも上記シリンダブロックの上記内周面との間隔が小さくなるように構成されたバックアップリングと、を含む。
【0018】
シリンダブロックの内周面と一方側壁部との間隔が大きいと、シリンダブロックにシリンダライナを装着する際に、Oリングが冷却水通路側シール溝から抜け出し易いので、装着作業の作業性が低下する虞がある。
上記(5)の構成によれば、バックアップリングは、Oリングよりも冷却水通路側に配置され、且つ、ピストンのスラスト方向を含む方向の少なくとも一部において、一方側壁部よりもシリンダブロックの内周面との間隔が小さくなるように構成されているので、シリンダブロックにシリンダライナを装着する際に、Oリングが冷却水通路側シール溝から抜け出すことを防止することができる。よって、上記バックアップリングは、シリンダブロックにシリンダライナを装着する際の作業性を向上させることができる。
【0019】
(6)本発明の少なくとも一実施形態にかかるシリンダライナは、
内燃機関のシリンダブロックに装着されるとともに、軸方向に沿ってピストンを摺動可能に収容するシリンダライナであって、
上記シリンダブロックの内周面との間に冷却水通路を形成するように構成された小径部と、
上記小径部に上記軸方向に隣接して配置されるとともに、上記小径部よりも大径に形成された大径部と、
上記大径部の外周面に周方向に沿って環状に形成された少なくとも一つのシール溝と、を備え、
上記大径部は、
上記軸方向において最も上記冷却水通路側に位置するシール溝である冷却水通路側シール溝と上記冷却水通路との間に形成される一方側壁部を含み、
上記一方側壁部は、上記冷却水通路に面する冷却水通路側面であって、上記ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、上記シール溝から離れるにつれて上記シリンダブロックの上記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有する。
【0020】
上記(6)の構成によれば、シリンダライナの一方側壁部は、ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、シール溝から離れるにつれてシリンダブロックの内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有する。つまり、冷却水通路の冷却水通路側シール溝の近傍部分に連なる部分は、ピストンのスラスト方向を含む周方向の少なくとも一部において、容積変化が緩やかになっている。上記シリンダライナは、上記近傍部分に連なる部分の容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナがスラスト方向に短期間に移動した際に近傍部分における冷却水が上記近傍部分に連なる部分に流れ易くすることができるため、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。上記シリンダライナは、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、冷却水通路内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0021】
(7)幾つかの実施形態では、上記(6)に記載のシリンダライナであって、上記冷却水通路側面は、上記周方向の全周において、上記シール溝から離れるにつれて上記シリンダブロックの上記内周面との距離が次第に大きくなるように形成された。
【0022】
上記(7)の構成によれば、シリンダライナの一方側壁部は、周方向の全周において、シール溝から離れるにつれてシリンダブロックの内周面との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面を有する。上記シリンダライナは、周方向の全周において、上記近傍部分に連なる部分の容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナが反スラスト方向(スラスト方向とは反対方向)に短期間に移動した際においても近傍部分における冷却水が上記近傍部分に連なる部分に流れ易くすることができるため、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。上記シリンダライナは、周方向の全周において、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、反スラスト方向を含む周方向の全周において、冷却水通路内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0023】
(8)本発明の少なくとも一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造は、
内燃機関のシリンダブロックに装着されるシリンダライナの密封構造であって、
上記シリンダブロックと、
上記(1)~(7)の何れかに記載のシリンダライナと、
上記冷却水通路側シール溝に装着されるシール部材と、を備える。
【0024】
上記(8)の構成によれば、シリンダライナの密封構造は、シリンダブロックと、シリンダライナと、シール部材と、を備えるので、シリンダライナより、ピストンのスラスト力がシリンダライナに作用した際に、上記近傍部分から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明の少なくとも一実施形態によれば、キャビテーションの発生を抑制することができるシリンダライナが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態にかかるシリンダライナを備える内燃機関の軸線を含む概略断面図であって、シリンダライナがシリンダブロックに装着された状態を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造のスラスト側を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
【
図3】本発明の他の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造のスラスト側を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
【
図4】本発明の他の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造のスラスト側を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
【
図5】比較例にかかるシリンダライナの密封構造のスラスト側を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
【
図6】本発明の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造の軸線に直交する断面を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造の軸線に直交する断面を示す概略断面図である。
【
図8】本発明の他の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造の軸線を含む概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、添付図面を参照して本発明の幾つかの実施形態について説明する。ただし、実施形態として記載されている又は図面に示されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は、本発明の範囲をこれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
例えば、「ある方向に」、「ある方向に沿って」、「平行」、「直交」、「中心」、「同心」或いは「同軸」等の相対的或いは絶対的な配置を表す表現は、厳密にそのような配置を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の角度や距離をもって相対的に変位している状態も表すものとする。
例えば、「同一」、「等しい」及び「均質」等の物事が等しい状態であることを表す表現は、厳密に等しい状態を表すのみならず、公差、若しくは、同じ機能が得られる程度の差が存在している状態も表すものとする。
例えば、四角形状や円筒形状等の形状を表す表現は、幾何学的に厳密な意味での四角形状や円筒形状等の形状を表すのみならず、同じ効果が得られる範囲で、凹凸部や面取り部等を含む形状も表すものとする。
一方、一の構成要素を「備える」、「含む」、又は、「有する」という表現は、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
なお、同様の構成については同じ符号を付し説明を省略することがある。
【0028】
図1は、本発明の一実施形態にかかるシリンダライナを備える内燃機関の軸線を含む概略断面図であって、シリンダライナがシリンダブロックに装着された状態を示す概略断面図である。
図1に示されるように、シリンダライナ1は、シリンダライナ1の軸線LAの延在する方向に沿って延在する円筒形状を有し、内燃機関10のシリンダブロック12に装着される。以下、シリンダライナ1の軸線LAの延在する方向を「軸方向」とし、軸方向に直交する方向を「径方向」とする。
【0029】
内燃機関10は、
図1に示されるように、上記シリンダライナ1と、シリンダライナ1に装着されるシール部材8と、上記シリンダブロック12と、ピストン14と、ピストンピン15と、コンロッド16と、クランクシャフト17と、を備える。シリンダライナの密封構造11は、上記シリンダライナ1と、上記シール部材8と、上記シリンダブロック12と、を備える。
【0030】
シリンダブロック12およびシリンダライナ1の夫々は、金属材料から形成されている。シリンダブロック12は、シリンダライナ1を収容する内周面121(ボア内周面)を有する。シリンダライナ1は、シリンダブロック12の内周面121の内部に配置されるとともに、シリンダブロック12の内周面121との間に冷却水通路13を形成するように構成されている。
【0031】
シリンダライナ1は、軸方向に沿ってピストン14を摺動可能に収容する内周面7を有する。ピストン14は、シリンダライナ1の内周面7の内部に配置されるとともに、ピストンピン15を介して、コンロッド16の長手方向における一端に連結されている。コンロッド16は、長手方向における他端がクランクシャフト17に連結されている。クランクシャフト17は、回転中心C1を中心として回転可能に構成されている。
内燃機関10の運転時において、ピストン14は、軸方向に沿った往復運動を行う。ピストン14の往復運動は、ピストンピン15およびコンロッド16により、クランクシャフト17の回転運動に変換される。
【0032】
ピストン14の往復運動およびクランクシャフト17の回転運動により、シリンダライナ1には、ピストン14から径方向外側に向かってスラスト力が作用する。スラスト力は、シリンダライナ1の軸線LAおよびピストンピン15の軸線LBの夫々と直交する方向(
図1における左右方向)に作用する。
【0033】
以下、シリンダライナ1の軸線LAおよびピストンピン15の軸線LBの夫々と直交する方向であり、且つ、上死点に位置するクランクシャフト17の回転方向の下流側(図中右側)を「スラスト側」とし、スラスト側に向かう方向を「スラスト方向T」とする。また、シリンダライナ1の軸線LAおよびピストンピン15の軸線LBの夫々と直交する方向であり、且つ、上死点に位置するクランクシャフト17の回転方向の上流側(図中左側)を「反スラスト側」とし、反スラスト側に向かう方向を「反スラスト方向AT」とする。つまり、反スラスト方向ATは、スラスト方向Tとは反対方向である。
【0034】
図2は、本発明の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造のスラスト側を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
図3および
図4は、本発明の他の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造のスラスト側を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
図1に示されるように、シリンダライナ1は、シリンダブロック12の内周面121との間に冷却水通路13を形成するように構成された小径部2と、小径部2に軸方向に隣接して配置されるとともに、小径部2よりも大径に形成された大径部3と、大径部3の外周面31に軸線LA周りの周方向に沿って環状に形成された少なくとも一つのシール溝6と、を含む。
【0035】
図示される実施形態では、大径部3は、小径部2よりも軸方向におけるクランクシャフト17に近接する側(図中下側)に位置している。少なくとも一つのシール溝6は、軸方向に並んで配置された三つ(複数)のシール溝6を含む。
図示される実施形態では、シール溝6は、
図2~4に示されるように、軸方向において最も冷却水通路13側(図中上側)に位置する通路近傍側側面61と、通路近傍側側面61よりも軸方向における冷却水通路13から離れた側に位置する通路遠方側側面62と、通路近傍側側面61の内周端と通路遠方側側面62の内周端とを繋ぐ底面63と、を含む。通路近傍側側面61および通路遠方側側面62の夫々は、軸方向に直交(交差)する方向に沿って延在している。底面63は、軸方向に沿って延在している。
【0036】
図2~4に示されるように、シール溝6には、シール部材8が装着される。図示される実施形態では、シール部材8は、円形又は楕円形の断面形状を有する環状のOリング81を含む。Oリング81は、例えばゴムなど弾性材料から形成されている。Oリング81は、径方向に沿って縮んだ状態で、底面63とシリンダブロック12の内周面121とに当接している。Oリング81は、周方向の全周において、大径部3の外周面31とシリンダブロック12の内周面121との間の隙間をシールすることで、冷却水通路13内の冷却水が不図示のクランクケース側(図中下側)へ漏れることを防止している。
【0037】
図2~4に示されるように、大径部3は、軸方向において最も冷却水通路13側(図中上側)に位置するシール溝6である冷却水通路側シール溝6Aと冷却水通路13との間に形成される一方側壁部4と、軸方向において冷却水通路側シール溝6Aよりも冷却水通路13から離れた側に位置する他方側壁部5と、を含む。
【0038】
図示される実施形態では、一方側壁部4は、冷却水通路13に面する冷却水通路側面42と、冷却水通路側シール溝6Aの通路近傍側側面61A(61)と、冷却水通路側面42および通路近傍側側面61Aに連なる外周面41であって、冷却水通路側面42の外周端と通路近傍側側面61の外周端とを繋ぐ外周面41と、を含む。一方側壁部4の外周面41は、軸方向に沿って延在している。他方側壁部5は、冷却水通路側シール溝6Aの通路遠方側側面62A(62)と、通路遠方側側面62Aに連なる外周面51であって、通路遠方側側面62Aの外周端から冷却水通路13から離れる方向に向かって軸方向に沿って延在する外周面51と、を含む。
【0039】
図2~4に示されるように、冷却水通路13は、冷却水狭小通路13Aと連通している。冷却水狭小通路13Aは、一方側壁部4の外周面41とシリンダブロック12の内周面121との間に形成されており、その一部が冷却水通路側シール溝6Aに挿入されたOリング81により区画されている。以下、冷却水狭小通路13Aを冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分と呼ぶことがある。
【0040】
図2~4に示されるように、一方側壁部4の外周面41とシリンダブロック12の内周面121との間の径方向における距離をD1とする。他方側壁部5の外周面51とシリンダブロック12の内周面121との間の径方向における距離をD2とする。また、小径部2の外周面21とシリンダブロック12の内周面121との間の径方向における距離をD3とする。
図示される実施形態では、
図2~4に示されるように、上記距離D1は、周方向の全周において、距離D1に対応する周方向位置における上記距離D2よりも小さくなるように構成されている。
【0041】
図5は、比較例にかかるシリンダライナの密封構造のスラスト側を拡大して示す概略部分拡大断面図である。
図5に示されるように、比較例にかかるシリンダライナの密封構造11Aにおける一方側壁部4Aは、周方向の全周において、シリンダブロック12の内周面121との間隔が他方側壁部5と同じになるように構成されている。つまり、
図5に示されるように、上記距離D1(D4)は、周方向の全周において、上記距離D1に対応する周方向位置における上記距離D2と同じ長さを有している。
【0042】
比較例にかかるシリンダライナの密封構造11Aによれば、シリンダライナ1に上述したスラスト力Fが作用すると、シリンダライナ1がスラスト方向Tに短期間に移動する。この際に、冷却水狭小通路13A(冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分)における冷却水は、シリンダライナ1の一方側壁部4Aから加えられる圧力により、冷却水狭小通路13Aから押し流され、その流速が速くなる。冷却水狭小通路13Aから冷却水通路13に押し流される冷却水と、冷却水通路13の冷却水との流速差が大きいと、冷却水通路13内に負圧領域が発生する虞がある。冷却水通路13内に負圧領域が発生すると、冷却水通路13内にキャビテーションが発生する可能性が高まる虞がある。
【0043】
幾つかの実施形態にかかるシリンダライナ1は、
図2~4に示されるように、上述した小径部2と、一方側壁部4および他方側壁部5を含む上述した大径部3と、上述した少なくとも一つのシール溝6と、を備える。一方側壁部4は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、他方側壁部5よりもシリンダブロック12の内周面121との間隔が大きくなるように構成された。つまり、上記距離D1(D5)は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、距離D1(D5)に対応する周方向位置における上記距離D2よりも大きくなるように構成されている。
【0044】
上記の構成によれば、シリンダライナ1の一方側壁部4は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、他方側壁部5よりもシリンダブロック12の内周面121との間隔が大きくなるように構成されている。つまり、冷却水狭小通路13A(冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分)は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、容積が大きなものとなっている。シリンダライナ1は、冷却水狭小通路13Aの容積を大きなものとし、冷却水狭小通路13Aにおける冷却水の体積を大きくすることで、シリンダライナ1がスラスト方向Tに短期間に移動した際に、冷却水狭小通路13Aにおける冷却水にかかる圧力を分散させることができるため、冷却水狭小通路13Aから冷却水通路13に押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。シリンダライナ1は、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、冷却水通路13内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0045】
図6は、本発明の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造の軸線に直交する断面を示す概略断面図である。
幾つかの実施形態では、
図6に示されるように、一方側壁部4は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の一部において、他方側壁部5よりもシリンダブロック12の内周面121との間隔が大きくなるように構成されている。
【0046】
図示される実施形態では、一方側壁部4は、
図6に示されるように、外周面41が対応する周方向位置における他方側壁部5の外周面51よりも径方向内側に位置する短小部44と、外周面41が対応する周方向位置における他方側壁部5の外周面51に径方向において重なるように位置する同径部47と、を含む。
【0047】
図6に示される実施形態では、短小部44は、スラスト方向Tからシリンダライナ1の軸線LAを中心として一方側(図中反時計回り方向)に所定角度θ1だけ回転した位置に形成された短小部44と同径部47とを繋ぐ段差面45から、スラスト方向Tからシリンダライナ1の軸線LAを中心として他方側(図中時計回り方向)に所定角度θ2だけ回転した位置に形成された短小部44と同径部47とを繋ぐ段差面46までにわたって、周方向に沿って連続して形成されている。
或る実施形態では、所定角度θ1、θ2の夫々は、30度以上である。所定角度θ1、θ2の夫々は、好ましくは45度以上、さらに好ましくは60度以上である。
【0048】
図7は、本発明の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造の軸線に直交する断面を示す概略断面図である。
幾つかの実施形態では、上述した一方側壁部4は、
図7に示されるように、周方向の全周において、他方側壁部5よりもシリンダブロック12の内周面121との間隔が大きくなるように構成された。
図示される実施形態では、
図7に示されるように、一方側壁部4は、スラスト方向Tおよび反スラスト方向ATを含む周方向の全周において、上述した短小部44が形成されている。
【0049】
上記の構成によれば、シリンダライナ1は、周方向の全周において、冷却水狭小通路13A(冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分)の容積を大きなものとし、冷却水狭小通路13Aにおける冷却水の体積を大きくすることで、シリンダライナ1が反スラスト方向AT(スラスト方向Tとは反対方向)に短期間に移動した際においても冷却水狭小通路13Aにおける冷却水にかかる圧力を分散させることができ、冷却水狭小通路13Aから冷却水通路13に押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。シリンダライナ1は、周方向の全周において、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、反スラスト方向ATを含む周方向の全周において、冷却水通路13内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0050】
また、上記の構成によれば、シリンダライナ1は、周方向の全周に上述した短小部44が形成されているので、シリンダライナ1をその周方向位置を考慮せずに、シリンダブロック12に装着することができる。よって、上記シリンダライナ1は、周方向の一部に上述した短小部44が形成されている場合に比べて、シリンダブロック12にシリンダライナ1を装着する際の作業性を向上させることができる。
【0051】
幾つかの実施形態では、
図3、4に示されるように、上述した一方側壁部4は、冷却水通路13に面する冷却水通路側面42を有する。冷却水通路側面42は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成されている。換言すると、冷却水通路側面42は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面42Bを含む。
【0052】
図3、4に示されるように、冷却水通路側面42Bは、軸方向における一端P1(図中下端)が、一方側壁部4の外周面41の冷却水通路13側端(図中
上端)に連なり、軸方向における他端P2(図中上端)が、小径部2の外周面21のシール溝6側端(図中下端)に連なる。
冷却水通路側面42Bとシリンダブロック12の内周面121との間の径方向における距離をD6とする。上記距離D6は、軸方向における一端P1から他端P2に向かうにつれて、距離D1(D5)と同じ長さから次第に長くなり、最終的には距離D3と同じ長さになる。
【0053】
図3、4に示されるように、上述した冷却水通路13と上述した冷却水狭小通路13Aとの間には、冷却水連絡通路13Bが形成されている。冷却水狭小通路13Aは、冷却水連絡通路13Bを介して冷却水通路13と連通している。冷却水連絡通路13Bは、冷却水通路側面42Bとシリンダブロック12の内周面121との間に形成されている。以下、冷却水連絡通路13Bを「冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分に連なる部分」と呼ぶことがある。
【0054】
上記の構成によれば、シリンダライナ1の一方側壁部4は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面42(42B)を有する。つまり、冷却水連絡通路13B(冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分に連なる部分)は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、容積変化が緩やかになっている。シリンダライナ1は、冷却水連絡通路13Bの容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナ1がスラスト方向Tに短期間に移動した際に冷却水狭小通路13Aにおける冷却水が冷却水連絡通路13Bに流れ易くすることができるため、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。シリンダライナ1は、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、冷却水通路13内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
なお、本実施形態では、後述するように独立して実施可能である。
【0055】
幾つかの実施形態では、
図3、4に示されるように、上述した冷却水通路側面42Bは、径方向内側に窪む湾曲形状を有するように構成されている。この場合には、冷却水通路側面42Bは、径方向内側に窪む湾曲形状を有するように構成されているので、一端P1と他端P2とを直線状に繋ぐ仮想の傾斜面に比べて、冷却水連絡通路13Bの容積を大きなものとすることができる。冷却水連絡通路13Bの容積を大きなものとし、冷却水連絡通路13Bにおける冷却水の体積を大きくすることで、シリンダライナ1がスラスト方向Tに短期間に移動した際に、冷却水狭小通路13Aから冷却水連絡通路13Bに流れ易くすることができるため、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを効果的に抑制することができる。
【0056】
幾つかの実施形態では、
図6に示されるように、上述した冷却水通路側面42は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の一部において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成されている。換言すると、冷却水通路側面42は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の一部に上述した冷却水通路側面42Bを含む。
【0057】
図示される実施形態では、
図6に示されるように、上述した冷却水通路側面42は、軸方向に直交(交差)する方向に沿って延在する冷却水通路側面42A(
図2参照)と、上述した冷却水通路側面42Bと、を含む。
【0058】
図6に示される実施形態では、冷却水通路側面42Bは、スラスト方向Tから所定角度θ1だけ回転した位置に形成された上述した段差面45から、スラスト方向Tから所定角度θ2だけ回転した位置に形成された上述した段差面46までにわたって、周方向に沿って連続して形成されている。
【0059】
幾つかの実施形態では、
図7に示されるように、上述した冷却水通路側面42は、周方向の全周において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された。換言すると、冷却水通路側面42は、周方向の全周において、上述した冷却水通路側面42Bを含む。
【0060】
上記の構成によれば、シリンダライナ1の一方側壁部4は、周方向の全周において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面42(42B)を有する。シリンダライナ1は、周方向の全周において、冷却水連絡通路13B(冷却水狭小通路13Aに連なる部分)の容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナ1が反スラスト方向AT(スラスト方向Tとは反対方向)に短期間に移動した際においても、冷却水狭小通路13Aにおける冷却水が冷却水連絡通路13Bに流れ易くすることができるため、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。シリンダライナ1は、周方向の全周において、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、反スラスト方向ATを含む周方向の全周において、冷却水通路13内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0061】
幾つかの実施形態では、
図4に示されるように、上述したシリンダライナ1は、冷却水通路側シール溝6Aに装着されるシール部材8を備える。シール部材8は、Oリング81と、Oリング81よりも冷却水通路13側に配置されるバックアップリング82と、を含む。バックアップリング82は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、一方側壁部4よりもシリンダブロック12の内周面121との間隔が小さくなるように構成された。
【0062】
図示される実施形態では、バックアップリング82は、Oリング81よりも弾性が小さく、且つ耐熱性および耐水性に優れた樹脂材料から形成されている。バックアップリング82は、バックアップリング82の長さ方向における両端が対向するような円弧状に形成されている。上記両端は、長さ方向に直交する方向に延在してもよいし、長さ方向に傾斜する方向に延在してもよい。バックアップリング82は、冷却水通路側シール溝6Aに装着する際に、一時的に広げることができるため、冷却水通路側シール溝6Aへの取り付け作業が容易である。
【0063】
図4に示されるように、バックアップリング82の外周面821とシリンダブロック12の内周面121との間の径方向における距離をD7とする。
図示される実施形態では、上記距離D7は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、上記距離D1(D5)よりも短くなるように構成された。また、バックアップリング82は、厚さ方向における一方側の面822が上述した通路近傍側側面61に当接し、厚さ方向における他方側の面823が上述したOリング81に当接している。
【0064】
シリンダブロック12の内周面121と一方側壁部4との間隔が大きいと、Oリング81が冷却水通路側シール溝6Aから抜け出し易いのでシリンダブロック12にシリンダライナ1を装着する際の作業性が低下する虞がある。
上記の構成によれば、バックアップリング82は、Oリング81よりも冷却水通路13側に配置され、且つ、ピストン14のスラスト方向Tを含む方向の少なくとも一部において、一方側壁部4よりもシリンダブロック12の内周面121との間隔が小さくなるように構成されているので、シリンダブロック12にシリンダライナ1を装着する際に、Oリング81が冷却水通路側シール溝6Aから抜け出すことを防止することができる。よって、バックアップリング82は、シリンダブロック12にシリンダライナ1を装着する際の作業性を向上させることができる。
【0065】
図8は、本発明の他の一実施形態にかかるシリンダライナの密封構造の軸線を含む概略断面図である。
図8に示されるシリンダライナ1は、一方側壁部4が短小部44を含まない点において、
図3に示されるシリンダライナ1とは異なるものである。
【0066】
幾つかの実施形態にかかるシリンダライナ1は、
図8に示されるように、上述した小径部2と、一方側壁部4を含む上述した大径部3と、上述した少なくとも一つのシール溝6と、を備える。一方側壁部4は、冷却水通路13に面する冷却水通路側面42(42C)を有する。冷却水通路側面42(42C)は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成されている。換言すると、冷却水通路側面42は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面42Cを含む。
【0067】
図8に示されるように、冷却水通路側面42Cは、軸方向における一端P3(図中下端)が、一方側壁部4の外周面41の冷却水通路13側端(図中
上端)に連なり、軸方向における他端P2(図中上端)が、小径部2の外周面21のシール溝6側端(図中下端)に連なる。
【0068】
図8に示されるように、上述した冷却水通路13と上述した冷却水狭小通路13Aとの間には、冷却水連絡通路13Cが形成されている。冷却水狭小通路13Aは、冷却水連絡通路13Cを介して冷却水通路13と連通している。冷却水連絡通路13Cは、冷却水通路側面42Cとシリンダブロック12の内周面121との間に形成されている。以下、冷却水連絡通路13Cを「冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分に連なる部分」と呼ぶことがある。
【0069】
図示される実施形態では、一方側壁部4は、周方向の全周に上述した同径部47が形成されているので、上述した距離D1(D4)は、周方向の全周において、距離D1に対応する周方向位置における上述した距離D2と同じ長さを有している。冷却水通路側面42Cとシリンダブロック12の内周面121との間の径方向における距離をD8とする。上記距離D8は、軸方向における一端P3から他端P2に向かうにつれて、距離D1(D4)と同じ長さから次第に長くなり、最終的には距離D3と同じ長さになる。
【0070】
上記の構成によれば、シリンダライナ1の一方側壁部4は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面42(42C)を有する。つまり、冷却水通路側面42C(冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分に連なる部分)は、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の少なくとも一部において、容積変化が緩やかになっている。シリンダライナ1は、冷却水通路側面42Cの容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナ1がスラスト方向Tに短期間に移動した際に冷却水狭小通路13Aにおける冷却水が冷却水連絡通路13Cに流れ易くすることができるため、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。シリンダライナ1は、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、冷却水通路13内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0071】
幾つかの実施形態では、
図8に示されるように、上述した冷却水通路側面42Cは、径方向内側に窪む湾曲形状を有するように構成されている。この場合には、冷却水通路側面42Cは、径方向内側に窪む湾曲形状を有するように構成されているので、一端P3と他端P2とを直線状に繋ぐ仮想の傾斜面に比べて、冷却水連絡通路13Cの容積を大きなものとすることができる。冷却水連絡通路13Cの容積を大きなものとし、冷却水連絡通路13Cにおける冷却水の体積を大きくすることで、シリンダライナ1がスラスト方向Tに短期間に移動した際に、冷却水狭小通路13Aから冷却水連絡通路13Cに流れ易くすることができるため、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを効果的に抑制することができる。
【0072】
幾つかの実施形態では、冷却水通路側面42Cは、上述した冷却水通路側面42Bと同様に、ピストン14のスラスト方向Tを含む周方向の一部に形成されている。或る実施形態では、冷却水通路側面42Cは、
図6に示されるような、スラスト方向Tから所定角度θ1だけ回転した位置からスラスト方向Tから所定角度θ2だけ回転した位置までにわたって、周方向に沿って連続して形成されている。
【0073】
幾つかの実施形態では、
図8に示されるように、上述した冷却水通路側面42は、周方向の全周において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された。換言すると、冷却水通路側面42は、周方向の全周において、上述した冷却水通路側面42Cを含む。
【0074】
上記の構成によれば、シリンダライナ1の一方側壁部4は、周方向の全周において、シール溝6から離れるにつれてシリンダブロック12の内周面121との距離が次第に大きくなるように形成された冷却水通路側面42(42C)を有する。シリンダライナ1は、周方向の全周において、冷却水連絡通路13C(冷却水狭小通路13Aに連なる部分)の容積変化を緩やかにすることで、シリンダライナ1が反スラスト方向AT(スラスト方向Tとは反対方向)に短期間に移動した際においても、冷却水狭小通路13Aにおける冷却水が冷却水連絡通路13Cに流れ易くすることができるため、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができる。シリンダライナ1は、周方向の全周において、冷却水狭小通路13Aから押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することで、反スラスト方向ATを含む周方向の全周において、冷却水通路13内に負圧領域が発生することを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0075】
幾つかの実施形態にかかるシリンダライナの密封構造11は、上述したシリンダブロック12と、上述したシリンダライナ1と、上述した冷却水通路側シール溝6Aに装着されるシール部材8と、を備える。
【0076】
上記の構成によれば、シリンダライナの密封構造11は、シリンダブロック12と、シリンダライナ1と、シール部材8と、を備えるので、シリンダライナ1より、ピストン14のスラスト力がシリンダライナ1に作用した際に、冷却水狭小通路13A(冷却水通路13の冷却水通路側シール溝6Aの近傍部分)から押し流される冷却水の流速が速くなることを抑制することができ、ひいてはキャビテーションの発生を抑制することができる。
【0077】
本発明は上述した実施形態に限定されることはなく、上述した実施形態に変形を加えた形態や、これらの形態を適宜組み合わせた形態も含む。
【符号の説明】
【0078】
1 シリンダライナ
2 小径部
21 外周面
3 大径部
31 外周面
4,4A 一方側壁部
41 外周面
42,42A~42C 冷却水通路側面
44 短小部
45,46 段差面
47 同径部
5 他方側壁部
51 外周面
6 シール溝
6A 冷却水通路側シール溝
61,61A 通路近傍側側面
62,62A 通路遠方側側面
63 底面
7 内周面
8 シール部材
81 Oリング
82 バックアップリング
821 外周面
10 内燃機関
11 シリンダライナの密封構造
11A 比較例にかかるシリンダライナの密封構造
12 シリンダブロック
121 内周面
13 冷却水通路
13A 冷却水狭小通路
13B,13C 冷却水連絡通路
14 ピストン
15 ピストンピン
16 コンロッド
17 クランクシャフト
AT 反スラスト方向
C1 回転中心
D1~D8 距離
F スラスト力
LA,LB 軸線
T スラスト方向