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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】自走式立体駐車場
(51)【国際特許分類】
   E04H 6/10 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
E04H6/10 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019165996
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021042596
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000154901
【氏名又は名称】株式会社北川鉄工所
(72)【発明者】
【氏名】和田 輝昌
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-253901(JP,A)
【文献】特開2019-073871(JP,A)
【文献】特開昭59-170365(JP,A)
【文献】特開2007-170085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 6/00-6/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自走式立体駐車場において、
その中央部は、
角形鋼管からなる中柱と、
前記中柱に対して梁間方向に剛接合された梁と、
前記中柱に対して桁行方向に剛接合された梁と、
で構成されるラーメン構造を有し、
その外周部は、
H形鋼からなる外柱と、
梁間方向に隣り合う外柱とそれぞれピン接合された梁と、
桁行方向に隣り合う外柱とそれぞれピン接合された梁と、
梁間方向に隣り合う少なくとも1組の外柱間、及び、桁行方向に隣り合う少なくとも1組の外柱間に設けられたブレースと、
で構成されるブレース構造を有し、
桁行方向に配置される前記外柱は、当該外柱の強軸方向が梁間方向に沿った状態で配置され、
梁間方向に配置される前記外柱は、当該外柱の強軸方向が桁行方向に沿った状態で配置される、
自走式立体駐車場。
【請求項2】
請求項に記載の自走式立体駐車場において、
前記外柱の強軸方向且つ梁間方向における前記中柱と接続する前記梁との接合は剛接合である、自走式立体駐車場。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の自走式立体駐車場において、
前記ブレースの水平耐力の和を保有水平耐力の数値で除した値が0.7以下である、自走式立体駐車場。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の自走式立体駐車場において、
基礎構造にスラブを有する、自走式立体駐車場。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大空間を有する自走式立体駐車場に関する。
【背景技術】
【0002】
自走式立体駐車場において、使い勝手の高い空間を提供できること、また靭性が高く、エネルギー吸収能力も高いため耐震性に優れていること等から一般的にラーメン構造が採用されている(特許文献1参照)。
【0003】
また、近年では大空間を有する自走式立体駐車場の要求が増えてきており、例えば、図5に示すようなラーメン構造によって大空間を有する自走式立体駐車場も採用されてきている。このような大空間を有するためには、例えば、5層6段のフラット式の自走式立体駐車場における柱の断面サイズは、一般的に500mm×500mmや550mm×550mmなどの角形鋼管が採用され、それによって所定の耐力を満たしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開昭59-170365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、大空間を有するラーメン構造にする場合、自走式立体駐車場の内部の柱本数を極力減らせば実現可能となるが、その場合、鉛直方向の積載荷重と地震時における水平力をラーメン構造で負担させる必要がある。そのためには、ラーメン構造を構成する部材(柱及び梁)のサイズを大きくする必要があり、それによってコスト高となり不経済な自走式立体駐車場となってしまう。また、ラーメン構造の場合、柱・梁間の接合は剛接合となり、その接合は、ブレース構造と比べ、し難く、また、それによる加工工数が増える問題もある。
【0006】
本発明は、かかる事情を鑑みてなされたものであり、その主な目的は、加工工数を低減するとともに安価に大空間を有する自走式立体駐車場を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、自走式立体駐車場において、その中央部は、角形鋼管からなる中柱を備えるラーメン構造を有し、その外周部は、H形鋼からなる外柱を備えるブレース構造を有し、桁行方向に配置される前記外柱は、当該外柱の強軸方向が梁間方向に沿った状態で配置され、梁間方向に配置される前記外柱は、当該外柱の強軸方向が桁行方向に沿った状態で配置される、自走式立体駐車場が提供される。
【0008】
本発明に係る自走式立体駐車場では、中央部を角形鋼管からなる中柱を備えるラーメン構造とし、外周部をH形鋼からなる外柱を備えるブレース構造とするハイブリット自走式立体駐車場とすることで、従来の角形鋼管からなる柱を備えるラーメン構造による大空間を有する自走式立体駐車場に比べて、部材サイズを小さくすることができる。また、外周部をブレース構造とすることで、外柱と外周部の梁との接合はピン接合となり、剛接合に比べ接合しやすく、加工工数を低減することができる。
【0009】
好ましくは、前記自走式立体駐車場において、前記中柱は梁と剛接合である、自走式立体駐車場が提供される。
【0010】
好ましくは、前記自走式立体駐車場において、前記外柱の強軸方向における接合は剛接合である、自走式立体駐車場が提供される。
【0011】
好ましくは、前記自走式立体駐車場において、前記外柱の弱軸方向における接合はピン接合である、自走式立体駐車場が提供される。
【0012】
好ましくは、自走式立体駐車場において、前記ブレース構造は、柱梁間を接合するブレースを備え、該ブレースの水平耐力の和を保有水平耐力の数値で除した値が0.7以下である、自走式立体駐車場が提供される。
【0013】
好ましくは、自走式立体駐車場において、基礎構造にスラブを有する、自走式立体駐車場が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工工数を低減するとともに安価に大空間を有する自走式立体駐車場を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】スキップ式の自走式立体駐車場の基準階の平面図。
図2】正面視におけるスキップ式の自走式立体駐車場の主架構組図。
図3】側面視におけるスキップ式の自走式立体駐車場の主架構組図。
図4】スキップ式の自走式立体駐車場の柱・梁の接合構造の詳細を示す梁伏図。
図5】従来の一般的な大空間を有するフラット式の自走式立体駐車場の梁伏図。
図6】基礎構造の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
自走式立体駐車場の好適な実施形態について、図面を用いて具体的に説明する。以下においては、便宜上、スキップ式(フラット段差式)の自走式立体駐車場を例に挙げて説明するが、それ以外のフラット式、連続傾床式にも好適に組み込むことができる。また、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではないし、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更は可能である。
【0017】
本発明は、自走式立体駐車場における駐車場運用方法(自動バレーパーキング等)の将来的な変化に対応すべく、従来より柱本数を削減した大空間を有する自走式立体駐車場を開発すれば、将来的な変化にも柔軟に対応できることに着目して、これを発展させたものである。
【0018】
1.自走式立体駐車場の概略構成
第1節では、自走式立体駐車場1の概略構成を説明する。図1は、スキップ式の自走式立体駐車場の基準階の平面図、図2は、正面視におけるスキップ式の自走式立体駐車場の主架構組図、図3は、側面視におけるスキップ式の自走式立体駐車場の主架構組図を各々示している。
【0019】
図1図3に示すように、自走式立体駐車場1(以下、建物1という場合がある)は、GLに固定された鉄筋コンクリート造の基礎構造100と、柱や梁などの軸組部材で構成された軸組架構を有するとともに、基礎構造100に固定された上部構造体101とで構成されている。
【0020】
建物1は、鉄骨造の軸組みを有する少なくとも1層2段(1階建て)以上からなり、その各層には上下の層を車が自走で昇降可能に連結するスロープ3が設けられている。また、各層には周回式の一連の車路2が設けられ、車路2の両側には列状に複数の駐車スペース4が設けられている。なお、以下、建物1において、長手方向を桁行方向、短手方向を梁間方向という。
【0021】
2.建物1の柱・梁の接合構造
第2節では、建物1の柱・梁の接合構造を説明する。図4は、スキップ式の自走式立体駐車場の柱・梁の接合構造の詳細を示す梁伏図である。
【0022】
図4に示すように、建物1の中央部は、角形鋼管からなる中柱10を備えるラーメン構造とし、一方、外周部は、H形鋼からなる外柱20,21を備えるブレース構造としている。なお、図4では、各梁の両端における接合を視覚的に理解していただくために、黒ベタを剛接合によるラーメン構造、クロスのハッチングをピン接合によるブレース構造と表現している。すなわち、中柱10は梁30,34と剛接合であり、外柱20の強軸方向における接合は剛接合となっている。
【0023】
また、外柱20及び梁31間、外柱21及び梁32,33間、又は、梁33,30間に設けられている隙間は、ピン接合箇所であることを示している。すなわち、外柱20,21の弱軸方向における接合はピン接合である。
【0024】
図1図3にもどり、外周部の桁行方向における外柱20,20間には4つの角形鋼管のブレース60が設けられている。同様に外周部の梁間方向における外柱21,21間には1つの角形鋼管のブレース61が設けられている。なお、ブレース60,61は駐車場のサイズ等により適宜、適当な本数にすれば良く、少なくとも1つ以上であれば良い。
【0025】
また、桁行方向に配置される複数の外柱20は各々強軸方向が梁間方向に沿った状態で配置されている。換言すると、H形鋼は、ウェブとフランジで構成され、フランジの面側が建物1の中央部に対向するように配置されている。
【0026】
同様に、梁間方向に配置される複数の外柱21は各々強軸方向が桁行方向に沿った状態で配置されている。換言すると、上記同様にフランジの面側が建物1の中央部に対向するように配置されている。
【0027】
このように、建物1の中央部を角形鋼管からなる中柱10を備えるラーメン構造とし、外周部をH形鋼からなる外柱20,21を備えるブレース構造とするハイブリットの建物1とすることで、建物1の内部空間を有効活用することができ、さらに、建物1への水平力を効率的に負担できる構造とすることができる。
【0028】
したがって、従来の角形鋼管からなる柱で構成されるラーメン構造によって大空間を有する自走式立体駐車場に比べて、構成する部材(柱や梁)のサイズを小さくすることができるため、経済的な自走式立体駐車場とすることができる。
また、外周部をブレース構造とすることで、梁と外柱20,21との接合はピン接合となり、剛接合に比べ接合しやすく、トータル的にも加工工数を低減することができる。
【0029】
3.水平耐力構造
第3節では、水平耐力構造を説明する。
本発明の建物1は、如何に水平耐力を有する構造にするかを鋭意工夫している。換言すると、本発明の建物1は、ブレース60,61の水平耐力の和を保有水平耐力の数値で除した値が0.7以下となるようにしている。
【0030】
ここで、ブレース60,61の“水平耐力の和”とは、各層に属するブレース60,61の水平方向の耐力の和のことを言い、“保有水平耐力”とは、各層に属する柱、梁、ブレース等で構成された架構が崩壊に至る際に、柱、梁、ブレース等の構造耐力上主要な部分に生じる水平力の和のことを言う。
【0031】
建物1は、地震時の減衰性や靭性等を考慮したエネルギー吸収能力を地震入力エネルギーより大きくすることで大地震に対する安全性を確保している。
一般的にラーメン構造は靭性が高く、またエネルギー吸収能力も高いため耐震性に優れているが、一方、ブレース構造は変形によるエネルギー吸収能力は小さい。
【0032】
また、地震入力エネルギーを算出する際に用いるエネルギー吸収能力を評価した構造特性係数は、ラーメン構造とブレース構造とのハイブリット構造とした場合、ブレース構造における水平耐力の和が保有水平耐力の概ね70%以上になると純粋ブレース構造に近い挙動となる。
【0033】
そのため、構造特性係数の値を大きく設定する必要があるが、その比率を概ね70%以下とすることで、構造特性係数の値を小さく設定することができる。そうすることで、地震入力エネルギーを小さくすることができ、それに合わせて建物1のエネルギー吸収能力を小さくすることができる。
【0034】
したがって、自走式立体駐車場を構成する部材サイズを小さくすることができ、経済的、且つ、振動減衰性や靭性を高めた自走式立体駐車場とすることができる。
【0035】
4.基礎構造
第4節では、基礎構造を説明する。図6は、基礎構造の断面図であり、一例として、梁間方向における外柱21の一つを挙げている。
図6に示すように、基礎構造100は、上部構造体101(軸組架構)の下方に位置し、軸組架構を支持している。
【0036】
具体的には、基礎構造100は、杭体50と、フーチング51と、地中梁52と、スラブ53とで構成されており、外柱21は、下部がフーチング51によってそれぞれ支持されている。なお、フーチング51と、地中梁52と、スラブ53とは、それぞれ鉄筋コンクリートで構成されている。
【0037】
杭体50は、円柱形状をしており、杭打ち機などによって地盤56に埋設され、その下部は支持層55に定着している。一方、上部はフーチング51に固定されている。
すなわち、外柱21は、フーチング51を介して杭体50に支持されている。
【0038】
また、フーチング51の上部には、複数のアンカーボルト54が突出しており、それらを外柱21の下端部に接合されたベースプレート57の複数の孔57aにそれぞれ挿入し、各アンカーボルト54にナット54aを螺号している。それによって、建物1の外柱21は、基礎構造100のフーチング51と固定されている。
【0039】
また、建物1のGL直下には全面にスラブ53を形成している。換言すると、建物1のGL直下、且つ、フーチング51、地中梁52、及び地盤56の上面との間に外柱20,21及び中柱10をさらに固定するように、全面にスラブ53を形成している。
それによって、外周部の外柱への水平力に関して、建物1の基礎構造にスラブ53を全面に設けることで、杭体50等の下部構造に作用する水平力を分散することができる。
【0040】
(施工方法)
建物1を基礎構造100で支持する場合、まず、杭打ち機によって、地盤56から杭体50を支持層55へ到達させる。次にフーチング51用及び地中梁52用に鉄筋(図示省略)を配筋し、コンクリートを打設する。その際、複数のアンカーボルト54を上部が突出した状態でフーチング51に固定する。次に各アンカーボルト54を外柱21の下部に接合されたベースプレート57と固定する。次に建物1のGL直下に配筋をして、全面にコンクリートを打設することで、GL直下に建物1の床面全面にスラブ53を形成する。
【0041】
5.水平力及び引抜力
第5節では、本発明の建物1における水平力及び引抜力について説明する。
本発明は、建物1において、上述のように外周部をブレース構造としている。それ故、建物1の重心から最も離れている外周部へブレース60,61を配置することで、ブレース構造の水平力負担効率は非常に高くできる一方、外周部の外柱脚への水平力または引抜力が大きくなり、杭基礎等の下部構造へ大きな影響を与える虞がある。
【0042】
その点、図6に示すように、外周部の外柱への水平力に関しては、建物1の基礎構造にスラブ(鉄筋コンクリート)を設けることで、杭体50等の下部構造に作用する水平力を分散させている。このように、従来は、1階の床構造にアスファルトを設けるところ、本発明では、地盤面GL直下にスラブを設けることで、杭体50等の下部構造に作用する水平力を分散させることに着目した。
【0043】
また、梁間方向における外周部の外柱21への引抜力に関しては、大きな引抜力が発生する構面の外柱本数をできる限り少なくし、その構面の外柱21に作用する鉛直方向の軸力を大きくすることで、外柱に作用する引抜力を可能な限り抑制させている。
また、梁間方向における外周部の梁32及び外柱21との接合をピン接合とすることで、梁曲げ応力による引抜力を抑制させている。
【0044】
5.結言
以上のように、本実施形態によれば、自走式立体駐車場内部に駐車の妨げになるような柱を可能な限り減らし、さらに、水平力を負担するためのブレースを自走式立体駐車場内部に配置しないことで、自走式立体駐車場内部に大空間を有する自走式立体駐車場を提供することができる。
【0045】
かかる自走式立体駐車場は、自走式立体駐車場において、その中央部は、角形鋼管からなる中柱を備えるラーメン構造を有し、その外周部は、H形鋼からなる外柱を備えるブレース構造を有し、桁行方向に配置される前記外柱は、当該外柱の強軸方向が梁間方向に沿った状態で配置され、梁間方向に配置される前記外柱は、当該外柱の強軸方向が桁行方向に沿った状態で配置される。
【符号の説明】
【0046】
1 自走式立体駐車場(建物)
2 車路
3 スローブ
4 駐車スペース
10 中柱
20,21 外柱
30~34 梁
53 スラブ
60,61 ブレース
図1
図2
図3
図4
図5
図6