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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよび積層型電子部品
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20231018BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20231018BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01B1/00 M
H01G4/30 201G
H01G4/30 516
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019195916
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2021072158
(43)【公開日】2021-05-06
【審査請求日】2021-04-30
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】多賀 和哉
(72)【発明者】
【氏名】西坂 康弘
(72)【発明者】
【氏名】西村 仁志
【合議体】
【審判長】恩田 春香
【審判官】松永 稔
【審判官】棚田 一也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-055888(JP,A)
【文献】特開2001-064081(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性粉末と、ホウケイ酸系ガラス組成物と、有機材料とを備え、
前記ホウケイ酸系ガラス組成物に含まれる元素の量をモル%で表した場合、4配位のBの量をCB4とし、3配位のBの量をCB3としたとき、CB4/(CB4+CB3)で表される4配位のBの存在比RB4が0.35≦RB4≦0.80を満たす、導電性ペースト。
【請求項2】
前記ホウケイ酸系ガラス組成物は、Li、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種類の第1の元素A、およびBa、SrおよびCaの中から選ばれる少なくとも1種類の第2の元素AEを含、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電性粉末の少なくとも一部の表面が、Ag、SnおよびAlの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む金属層により被覆されている、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記導電性粉末の少なくとも一部の表面が、有機物層により被覆されている、請求項1ないしのいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記導電性粉末の平均粒径が1μm以下である、請求項1ないしのいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
積層された複数の誘電体層と複数の内部電極層とを含む積層体と、前記積層体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ前記内部電極層に電気的に接続される、複数の外部電極とを備え、
前記外部電極は、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性領域と、ホウケイ酸系ガラス組成物を含むガラス領域とを有する下地電極層を含み、
前記ホウケイ酸系ガラス組成物に含まれる元素の量をモル%で表した場合、4配位のBの量をCB4とし、3配位のBの量をCB3としたとき、CB4/(CB4+CB3)で表される4配位のBの存在比RB4が0.35≦RB4≦0.80を満たす、積層型電子部品。
【請求項7】
前記ホウケイ酸系ガラス組成物は、Li、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種類の第1の元素A、およびBa、SrおよびCaの中から選ばれる少なくとも1種類の第2の元素AEを含、請求項に記載の積層型電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、ガラス粉末を含む導電性ペースト、およびそれを用いて形成された外部電極を備えた積層型電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
積層セラミックコンデンサなどの積層型電子部品の外部電極は、一般に積層体の表面に形成された下地電極層と、下地電極層上に付与されためっき層とを含む。下地電極層は、CuおよびNiなどの導電性粉末と、ガラス粉末と、有機材料とを備える導電性ペーストの焼き付けにより形成される焼結体層であることが多い。ここで、めっき層の厚みは極めて薄いため、外部電極の厚みは、下地電極層の厚みに影響される。
【0003】
例えば、積層セラミックコンデンサの小型大容量化を進めるための一手段として、外部電極の厚みをできるだけ薄くし、静電容量を発現する積層体の体積を大きくすることが挙げられる。そのためには、下地電極層の厚みを薄くする必要がある。一方、下地電極層を薄くすると、外部から水分が浸入しやすくなる虞がある。導電性ペースト中のガラス粉末は、導電性粉末の焼結性を向上させ、外部からの水分の浸入を抑制できる、すなわち耐湿性の高い下地電極層を得るために添加されている。
【0004】
ガラス粉末の成分としては、BおよびSiの酸化物を網目形成酸化物とし、アルカリ金属元素の酸化物およびアルカリ土類金属元素の酸化物を網目修飾酸化物として含むホウケイ酸系ガラス組成物が用いられることが多い。アルカリ土類金属元素の酸化物は、導電性ペーストの焼き付け時に上記のガラス組成物と積層体との反応を抑制するために添加されている。上記のようなホウケイ酸系ガラス組成物が用いられたガラス粉末を含む導電性ペーストの一例として、国際公開第2017/057246号(特許文献1)に記載された導電性ペーストが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第2017/057246号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ホウケイ酸系ガラス組成物には、3配位のBおよび4配位のBが含まれている。アルカリ土類金属元素を含むホウケイ酸系ガラス組成物中のBは、3配位を取りやすくなる。この3配位のBが増加すると、導電性ペーストの焼き付けにより形成された下地電極層の耐湿性が下がる虞がある。しかしながら、特許文献1には、ホウケイ酸系ガラス組成物中の3配位のBと4配位のBとの比率、およびその比率と耐湿性との関係については、何ら言及されていない。
【0007】
この開示の目的は、Bの配位数に着目し、焼き付けにより耐湿性の高い下地電極層を得ることができる導電性ペースト、およびそれを用いて形成された下地電極層を含む外部電極を備えた積層型電子部品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この開示に係る導電性ペーストは、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性粉末と、ガラス粉末と、有機材料とを備える。ガラス粉末は、ホウケイ酸系ガラス組成物を含む。そして、ホウケイ酸系ガラス組成物に含まれる元素の量をモル%で表した場合、4配位のBの量をCB4とし、3配位のBの量をCB3としたとき、CB4/(CB4+CB3)で表される4配位のBの存在比RB4が0.35≦RB4≦0.80を満たす。
【0009】
この開示に係る積層型電子部品は、積層された複数の誘電体層と複数の内部電極層とを含む積層体と、積層体の外表面上の互いに異なる位置に形成され、かつ内部電極層に電気的に接続される、複数の外部電極とを備える。外部電極は、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性領域と、ホウケイ酸ガラス組成物を含むガラス領域とを有する下地電極層を含む。そして、ホウケイ酸系ガラス組成物に含まれる元素の量をモル%で表した場合、4配位のBの量をCB4とし、3配位のBの量をCB3としたとき、CB4/(CB4+CB3)で表される4配位のBの存在比RB4が0.35≦RB4≦0.80を満たす。
【発明の効果】
【0010】
この開示に係る導電性ペーストは、耐湿性の高い下地電極層を得ることができる。また、この開示に係る積層型電子部品は、耐湿性の高い下地電極層を含む外部電極を備えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この開示に係る導電性ペーストの実施形態である導電性ペースト1の模式図である。
図2】ホウケイ酸系ガラス組成物のBに着目したNMRスペクトルの実測例である。
図3】ホウケイ酸系ガラス組成物のBに着目したNMRスペクトルのシミュレーションにより信号分離を行なった結果である。
図4】この開示に係る積層型電子部品の実施形態である積層セラミックコンデンサ100の断面図である。
図5】積層セラミックコンデンサ100の第1の外部電極14aの第1の下地電極層14a1の微細構造を説明するための断面図である。
図6】B中のCB4が既知であるリファレンス材料から得られた走査型透過X線顕微鏡(Scanning Transmission X-ray Microscope:以後、STXMと略称することがある)スペクトルである。
図7】B中のCB4が既知であるリファレンス材料から得られたSTXMスペクトルのA/B比とCB4との関係を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
この開示の特徴とするところを、図面を参照しながら説明する。なお、以下に示す積層型電子部品の実施形態では、同一のまたは共通する部分について図中同一の符号を付し、その説明は繰り返さないことがある。
【0013】
-導電性ペーストの実施形態-
この開示に係る導電性ペーストの実施形態を示す導電性ペースト1について、図1ないし図3を用いて説明する。
【0014】
<導電性ペーストの構成>
図1は、導電性ペースト1の模式図である。導電性ペースト1は、導電性粉末2と、ガラス粉末3と、有機材料4とを備える。
【0015】
導電性粉末2は、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む。すなわち、導電性粉末2は、CuまたはNiの金属単体のみならず、Cu合金またはNi合金を含んでいてもよい。
【0016】
また、導電性粉末2の少なくとも一部の表面は、Ag、SnおよびAlの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む金属層により被覆されていてもよい。上記の金属元素は、CuおよびNiより融点が低い。そのため、上記の構造を有する導電性粉末2は、焼結温度を低下させることができる。
【0017】
さらに、導電性粉末2の少なくとも一部の表面は、有機物層により被覆されていてもよい。この場合、例えば有機物層の存在により立体障害反発または静電反発などの効果が得られる。その結果、導電性粉末2が微粒であっても、導電性ペースト1中における導電性粉末2の凝集を抑制することができる。
【0018】
そして、導電性粉末2の平均粒径は、1μm以下であることが好ましい。導電性粉末2の平均粒径は、導電性粉末2の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:以後、SEMと略称することがある)観察像の画像解析から得られた等価円換算直径のメジアン径とした。等価円換算直径のメジアン径とは、粒径に対する積算%の分布曲線において、積算%が50%となる粒径(D50)のことである。この場合、導電性粉末2は、焼結温度を低下させることができる。
【0019】
ガラス粉末3は、この開示に係るガラス粉末である。このガラス粉末3の特徴については後述する。なお、図1では、導電性粉末2およびガラス粉末3は、模式的に球形に描かれているが、それぞれの粉末の形状はこの限りではない。例えば、導電性粉末2は、扁平形状の導電性粉末を含んでいてもよい。ガラス粉末3も、不定形状のガラス粉末を含んでいてもよい。
【0020】
有機材料4は、樹脂および有機溶剤などを含むバインダー成分、ならびに分散剤およびレオロジーコントロール剤などを含む添加剤を含む。これらの成分は、導電性ペーストの有機材料として通常用いられる材料の中から適宜選択することができる。
【0021】
ガラス粉末3は、ホウケイ酸系ガラス組成物を含む。ホウケイ酸系ガラス組成物とは、B酸化物およびSi酸化物を網目形成酸化物として含み、アルカリ金属元素酸化物およびアルカリ土類金属元素酸化物などを修飾酸化物として含むガラス組成物である。修飾酸化物は、上記以外の、例えば遷移金属元素酸化物、Zn酸化物、Al酸化物およびBi酸化物などの酸化物を含んでいてもよい。
【0022】
そして、ホウケイ酸系ガラス組成物に含まれる元素の量をモル%で表した場合、4配位のBの量をCB4とし、3配位のBの量をCB3としたとき、CB4/(CB4+CB3)で表される4配位のBの存在比RB4が0.35≦RB4≦0.80を満たす。
【0023】
ホウケイ酸系ガラス組成物のB中に含まれる4配位のBの量CB4および3配位のBの量CB3の測定は、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance:以後、NMRと略称することがある)装置により行なわれる。
【0024】
NMRスペクトルの測定および解析について、図2および図3を用いてさらに説明する。図2は、ホウケイ酸系ガラス組成物のBに着目したNMRスペクトルの実測例である。測定条件については後述する。図3は、ホウケイ酸系ガラス組成物のBに着目したNMRスペクトルについて、シミュレーションにより信号分離を行なった結果である。
【0025】
ホウケイ酸系ガラス組成物中のBが、4配位のBおよび3配位のBを含むとし、4配位のBの量CB4と3配位のBの量CB3との比率を変更することにより、各比率におけるNMRのシミュレーションスペクトルが計算された(実線)。そして、図2に示されたスペクトルの実測例とのフィッティングを行ない、一致率が最大となる比率を求めることにより、4配位のBに由来する信号(一点鎖線)と3配位のB(点線)に由来する信号との分離が行なわれた。
【0026】
ここで、フィッティングは、化学シフトの-40ppmから50ppmの範囲で行なわれた。4配位のBの量CB4と3配位のBの量CB3との比率は、バックグラウンド信号を差し引いた各信号の面積強度から計算された。
【0027】
例えば、図2に示されたNMRスペクトルの実測例と、図3に示されたBに由来するシミュレーション結果(実線)との一致率は、化学シフトが-40ppmから50ppmの範囲で97%以上であった。そして、その際の4配位のBの量CB4は、38mol%であり、3配位のBの量CB3は、62mol%であった。
【0028】
4配位のBの存在比RB4が0.35以上であるとき、ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中のBの安定性が向上する。言い換えると、ガラス網目構造内でのBとOとの架橋構造が安定する。したがって、ホウケイ酸系ガラス組成物中のBの、環境中に含まれる水分による溶出が抑制される。
【0029】
なお、4配位のBの存在比RB4が高いほど上記の効果は大きいが、RB4が0.80を超えると、ガラス組成物としての安定性が低下する。そのため、4配位のBの存在比RB4は、実質的に0.35≦RB4≦0.80となる。
【0030】
この開示に係る導電性ペースト1は、上記の特徴を持つガラス粉末3を備えているため、導電性ペースト1の焼き付けにより得られた下地電極では、高い耐湿性を得ることができる。
【0031】
ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物は、第1の元素Aおよび第2の元素AEを含み、第1の元素Aの量をCAとし、第2の元素AEの量をCAEとしたとき、CA+CAEが11.7≦CA+CAE≦53.4を満たすことが好ましい。ここで、第1の元素Aは、Li、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種類の元素であり、第2の元素AEは、Ba、SrおよびCaの中から選ばれる少なくとも1種類の元素である。この場合、4配位のBの存在比RB4の調整を容易に行なうことができる。
【0032】
ガラス粉末3に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物は、上記のCAEが9.4≦CAE≦47.1を満たすことが好ましい。この場合、4配位のBの存在比RB4の調整を容易に行なうことができることに加え、導電性ペースト1の焼き付けにより得られた下地電極を備える積層セラミックコンデンサのたわみ強度を向上させることができる。
【0033】
-積層型電子部品の実施形態-
この開示に係る積層型電子部品の実施形態を示す積層セラミックコンデンサ100について、図4および図5を用いて説明する。
【0034】
図4は、積層セラミックコンデンサ100の断面図である。積層セラミックコンデンサ100は、積層体10を備えている。積層体10は、積層された複数の誘電体層11と複数の内部電極層12とを含む。複数の誘電体層11は、外層部と内層部とを有する。外層部は、積層体10の第1の主面と第1の主面に最も近い内部電極層12との間、および第2の主面と第2の主面に最も近い内部電極層12との間に配置されている。内層部は、それら2つの外層部に挟まれた領域に配置されている。
【0035】
複数の内部電極層12は、第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとを有する。積層体10は、積層方向に相対する第1の主面および第2の主面と、積層方向に直交する幅方向に相対する第1の側面および第2の側面と、積層方向および幅方向に直交する長さ方向に相対する第1の端面13aおよび第2の端面13bとを有する。
【0036】
誘電体層11は、例えばBaTiO3系のペロブスカイト型化合物を含む複数の結晶粒を有する。上記の誘電体材料としては、例えばBaTiO3系のペロブスカイト型化合物の結晶格子中のBa2+の一部が、希土類元素のイオンであるRe3+により置換されたものが挙げられる。また、BaTiO3系のペロブスカイト型化合物としては、BaTiO3、ならびにBaTiO3のBa2+およびTi4+の少なくとも一方が、Ca2+およびZr4+などの他のイオンにより置換されたものなどが挙げられる。
【0037】
第1の内部電極層12aは、誘電体層11を介して第2の内部電極層12bと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第1の端面13aまでの引き出し電極部とを備えている。第2の内部電極層12bは、誘電体層11を介して第1の内部電極層12aと互いに対向している対向電極部と、対向電極部から積層体10の第2の端面13bまでの引き出し電極部とを備えている。
【0038】
第1の内部電極層12aと第2の内部電極層12bとが誘電体層11を介して互いに対向することにより、1つのコンデンサが形成される。積層セラミックコンデンサ100は、複数個のコンデンサが後述する第1の外部電極14aおよび第2の外部電極14bを介して並列接続されたものと言える。
【0039】
内部電極層12を構成する導電性材料としては、Ni、Cu、AgおよびPdなどから選ばれる少なくとも一種の金属または当該金属を含む合金を用いることができる。内部電極層12は、後述するように共材(不図示)と呼ばれる誘電体粒子をさらに含んでいてもよい。共材は、内部電極層12の形成に用いられる内部電極層用ペーストに添加されているものであり、積層体10の焼成時に誘電体層11側に排出されるが、その一部が内部電極層12に残留することがある。 共材は、積層体10の焼成時において、内部電極層12の焼結収縮特性を誘電体層11の焼結収縮特性に近づけるために添加されるものである。
【0040】
積層セラミックコンデンサ100は、第1の外部電極14aと第2の外部電極14bとをさらに備えている。第1の外部電極14aは、第1の内部電極層12aと電気的に接続されるように積層体10の第1の端面13aに形成され、第1の端面13aから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。第2の外部電極14bは、第2の内部電極層12bと電気的に接続されるように積層体10の第2の端面13bに形成され、第2の端面13bから第1の主面および第2の主面ならびに第1の側面および第2の側面に延びている。
【0041】
第1の外部電極14aは、第1の下地電極層14a1と第1の下地電極層14a1上に配置された第1のめっき層14a2とを有する。第1の下地電極層14a1は、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性領域15a1と、ホウケイ酸系ガラス組成物を含むガラス領域16a1とを有する焼結体層(後述)を有する。第1の下地電極層14a1は、この開示に係る導電性ペースト1の焼き付けにより形成されてもよい。
【0042】
同様に、第2の外部電極14bは、第2の下地電極層14b1と第2の下地電極層14b1上に配置された第2のめっき層14b2とを有する。第2の下地電極層14b1は、CuおよびNiの中から選ばれる少なくとも1種類の元素を含む導電性領域と、ホウケイ酸系ガラス組成物を含むガラス領域とを有する焼結体層を有する(第2の下地電極層14b1の微細構造は不図示)。第2の下地電極層14b1も、この開示に係る導電性ペースト1の焼き付けにより形成されてもよい。
【0043】
図5は、第1の下地電極層14a1の微細構造を説明するための断面図である。第2の下地電極層14b1は、第1の下地電極層14a1と同様の構造を有しているため、以後の説明を省略する。
【0044】
第1の下地電極層14a1が有する焼結体層は、上記のように導電性領域15a1とガラス領域16a1とを含む。第1の下地電極層14a1がこの開示に係る導電性ペースト1の焼き付けにより形成された場合、導電性領域15a1は、導電性ペースト1が備える導電性粉末2が焼結した金属焼結体を含んでいる。同様に、ガラス領域16a1は、ガラス粉末3に由来するガラス成分、すなわちホウケイ酸系ガラス組成物を含んでいる。なお、焼結体層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。
【0045】
第1の下地電極層14a1上に配置された第1のめっき層14a2を構成する金属としては、Ni、Cu、Ag、AuおよびSnなどから選ばれる少なくとも一種または当該金属を含む合金を用いることができる。当該めっき層は、異なる成分で複数層形成されていてもよい。好ましくは、Niめっき層およびSnめっき層の2層である。
【0046】
Niめっき層は、下地電極層上に配置され、積層型電子部品を実装する際に、下地電極層がはんだによって侵食されることを防止することができる。Snめっき層は、Niめっき層上に配置される。Snめっき層は、Snを含むはんだとの濡れ性がよいため、積層型電子部品を実装する際に、実装性を向上させることができる。なお、これらのめっき層は、必須ではない。
【0047】
そして、ガラス領域16a1におけるホウケイ酸系ガラス組成物に含まれる元素の量をモル%で表した場合、4配位のBの量をCB4とし、3配位のBの量をCB3としたとき、CB4/(CB4+CB3)で表される4配位のBの存在比RB4が0.35≦RB4≦0.80を満たす。上述したように、第2の下地電極層14b1におけるガラス領域も、同様の特徴を有している。
【0048】
ホウケイ酸系ガラス組成物のB中に含まれる4配位のBの量CB4および3配位のBの量CB3の測定は、走査型透過X線顕微鏡(STXM)により行なわれる。STXMは、薄片化された試料を動かすことにより、細く絞られたX線ビームが試料上で相対的にスキャンされた際の透過信号を検出する装置である。透過信号とは、通常、透過X線強度を指す。ここで、透過X線強度と入射X線強度との比を取れば、容易に吸収強度を得ることができる。すなわち、測定エネルギー範囲とエネルギーステップ条件とに基づいてそれぞれのエネルギーの強度が計測された複数の2次元吸収像を得て、それらを重ね合わせることにより、STXMスペクトルが得られる。
【0049】
例えば、測定開始エネルギーEA(eV)から測定終了エネルギーEB(eV)までの測定エネルギー範囲は、設定されたエネルギーステップ幅(eV)によりC個のエネルギーステップに区分される。そして、それぞれのエネルギーステップで吸収強度を測定することにより、C個の2次元吸収像が得られる。なお、エネルギーステップ幅は、測定エネルギー範囲内で変更されてもよい。得られたC個の吸収画像を重ね合わせることにより、STXMスペクトルが得られる。このSTXMスペクトルを解析することにより、試料の化学結合状態に関する情報を得ることができる。
【0050】
STXMスペクトルの測定および解析について、図6および図7を用いてさらに説明する。図6は、ホウケイ酸系ガラス組成物におけるB中のCB4が既知であるリファレンス材料から得られたSTXMスペクトルである。測定条件については後述する。
【0051】
STXMでは、光源(X線源)に放射光が用いられるので、入射X線の光子エネルギー(波長)を容易に変化させることができる。試料を構成する元素の内核電子のイオン化エネルギーの近傍で入射X線の光子エネルギーを変化させると、ある閾値以上でX線の吸収が増大する、この閾値がいわゆる吸収端である。さらに、この吸収端の近傍でX線の吸収強度を詳細に見ると、着目元素の化学結合状態に応じて、吸収スペクトルに固有の構造が現れる。この固有の構造を、X線吸収微細構造(X-ray Absorption Fine Structure:以後、XAFSと略称することがある)という。
【0052】
この開示では、各試料から得られたXAFSが現れているスペクトルが、STXMスペクトルと呼称される。STXMは、このSTXMスペクトルが着目元素の化学結合状態に応して変化することを利用して、微小部での化学状態を解明するために用いられる。
【0053】
BのK吸収端のSTXMスペクトルは、ピーク分離を行なうことにより、B-O配位構造のπ*結合およびσ*結合によるピークを含むことが分かる。図6のSTXMスペクトルは、194eV近傍のEnergy Aと記載された尖塔形状のπ*ピークと、198eV近傍のEnergy Bおよび203eV近傍のEnergy Cと記載されたブロードなσ*ピークとを含んでいる。なお、図6のSTXMスペクトルは、それら以外のブロードなピークも含んでいるが、以下の解析は、π*ピークが3配位(sp2構造:BO3)のBに由来し、σ*ピークが4配位(sp3構造:BO4)のBに由来するとして行なわれた。
【0054】
ここで、図6に示されている3種類のSTXMスペクトルにおいて、Energy Aのピーク強度の、Energy Bのピーク強度に対する比であるA/B比とCB4との間には、一次の相関関係があることが分かった。
【0055】
図7は、B中のCB4が既知である3種類のリファレンス材料から得られたSTXMスペクトルのA/B比とCB4との関係を表すグラフである。すなわち、このグラフを検量線として用いることにより、ホウケイ酸系ガラス組成物のSTXMスペクトルにおけるA/B比から、CB4およびCB3の値を算出することができる。そして、CB4/(CB4+CB3)で表される4配位のBの存在比RB4を算出することができる。
【0056】
4配位のBの存在比RB4が0.35以上であるとき、ガラス領域におけるホウケイ酸系ガラス組成物中のBの安定性が向上する。言い換えると、ガラス網目構造内でのBとOとの架橋構造が安定する。したがって、ホウケイ酸系ガラス組成物中のBの、環境中に含まれる水分による溶出が抑制される。
【0057】
なお、4配位のBの存在比RB4が高いほど上記の効果は大きいが、RB4が0.80を超えると、ガラス組成物としての安定性が低下する。そのため、4配位のBの存在比RB4は、実質的に0.35≦RB4≦0.80となる。
【0058】
この開示に係る積層セラミックコンデンサ100は、上記の特徴を持つガラス領域を有することにより耐湿性の高い下地電極層を含む外部電極を備えることができる。
【0059】
ガラス領域に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物は、第1の元素Aおよび第2の元素AEを含み、第1の元素Aの量をCAとし、第2の元素AEの量をCAEとしたとき、CA+CAEが11.7≦CA+CAE≦53.4を満たすことが好ましい。ここで、第1の元素Aは、Li、NaおよびKの中から選ばれる少なくとも1種類の元素であり、第2の元素AEは、Ba、SrおよびCaの中から選ばれる少なくとも1種類の元素である。この場合、4配位のBの存在比RB4の調整を容易に行なうことができる。
【0060】
ガラス領域に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物は、上記のCAEが9.4≦CAE≦47.1を満たすことが好ましい。この場合、4配位のBの存在比RB4の調整を容易に行なうことができることに加え、導電性ペースト1の焼き付けにより得られた下地電極を備える積層セラミックコンデンサのたわみ強度を向上させることができる。
【0061】
-実験例-
この開示に係る導電性ペーストおよび積層型電子部品は、以下の実験例に基づいてより具体的に説明される。これらの実験例は、この開示に係る導電性ペーストおよび積層型電子部品の条件、またはより好ましい条件を規定する根拠を与えるためのものでもある。実験例では、試料番号1から試料番号17のガラス粉末が作製され、ガラス粉末に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中のBにおける4配位のBの存在比が、NMRにより評価された。
【0062】
また、試料番号1から試料番号17のガラス粉末と、SEM観察画像の画像解析から確認された平均粒径0.5μmのCu粉末と有機材料とを用いて導電性ペーストが作製され、それらを用いて外部電極の下地電極層が形成された、図4に示すような積層セラミックコンデンサが作製された。なお、積層セラミックコンデンサの積層体における誘電体層は、BaTiO3系のペロブスカイト型化合物を含む誘電体材料により形成されており、内部電極層は、Niにより形成されている。
【0063】
これらの積層セラミックコンデンサを用いて、下地電極層が有するガラス領域に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中のBにおける4配位のBの存在比が、STXMにより評価された。さらに、上記のようにして作製された積層セラミックコンデンサの耐湿性が、高温高湿バイアス試験(Pressure Cooker Bias Test:以後、PCBTと略称することがある)により評価された。加えて、上記のようにして作製された積層セラミックコンデンサのたわみ強度が、JIS規格に基づくたわみ試験方法に基づき評価された。
【0064】
試料番号1から試料番号20のガラス粉末に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中のBにおける4配位のBの存在比のNMRによる評価は、表1に示された条件により行なわれた。
【0065】
【表1】
【0066】
試料番号1から試料番号20のガラス粉末を含む導電性ペーストの焼き付けにより形成された下地電極層が有するガラス領域に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中のBにおける4配位のBの存在比のSTXMによる評価は、表2に示された条件により行われた。
【0067】
【表2】
【0068】
試料番号1から試料番号20のガラス粉末を含む導電性ペーストの焼き付けにより形成された下地電極層を有する積層セラミックコンデンサの耐湿性の評価は、表3に示された条件により行われた。
【0069】
【表3】
【0070】
試料番号1から試料番号20のガラス粉末を含む導電性ペーストの焼き付けにより形成された下地電極層を有する積層セラミックコンデンサのたわみ強度の評価は、表4に示された条件により行われた。
【0071】
【表4】
【0072】
ガラス粉末に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中の4配位のBの存在比のNMRによる評価結果、下地電極層のガラス領域中における4配位のBの存在比のSTXMによる評価結果、および積層セラミックコンデンサの耐湿性の評価結果は、表5にまとめて示されている。表5において試料番号に*を付したものは、この開示に係る導電性ペーストを規定する条件から外れた試料である。
【0073】
【表5】
【0074】
また、耐湿性の評価結果において不良と判定された試料を除いた積層セラミックコンデンサのたわみ強度の評価結果は、ガラス粉末に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中および下地電極層のガラス領域中における4配位のBの存在比の評価結果と併せて、表6にまとめて示されている。
【0075】
【表6】
【0076】
なお、表5および表6におけるガラス粉末に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中の4配位のBの存在比のNMRによる評価結果、下地電極層のガラス領域中における4配位のBの存在比のSTXMによる評価結果は、3つの試料のそれぞれから得られた測定結果の平均値である。すなわち、この開示における4配位のBの特徴的な数値範囲は、複数の測定結果の平均値から規定されたものである。言い換えると、この開示における数値範囲内か否かは、比較対象から得られた複数の測定結果の平均値と、この開示における数値範囲とを比較することにより判断される。
【0077】
ガラス粉末に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中の4配位のBの存在比のNMRによる評価結果と、そのガラス粉末が用いられた導電性ペーストの焼き付けにより形成された下地電極層が有するガラス領域中の4配位のBの存在比のNMRによる評価結果とは、一致していることが確認された。すなわち、導電性ペーストの焼き付け時に、ホウケイ酸系ガラス組成物中のBの量および化学結合状態は、本質的に変化しない。言い換えると、積層セラミックコンデンサの状態における下地電極層が有するガラス領域中の4配位のBの存在比は、導電性ペーストが備えるガラス粉末に含まれるホウケイ酸系ガラス組成物中の4配位のBの存在比により推定することができる。
【0078】
表5に示されるように、この開示に係る導電性ペーストを規定する条件を満たす積層セラミックコンデンサの各試料においては、耐湿性が良好であることが確認された。また、表6に示されるように、上記の各試料においては、たわみ強度も良好であることが確認された。
【0079】
この明細書に開示された実施形態は、例示的なものであって、この開示に係る発明は、上記の実施形態に限定されるものではない。すなわち、この開示に係る発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。また、上記の範囲内において、種々の応用、変形を加えることができる。
【0080】
例えば、積層体を構成する誘電体層および内部電極層の層数、誘電体層および内部電極層の材質などに関し、この発明の範囲内において種々の応用、変形を加えることができる。また、積層型電子部品として積層セラミックコンデンサを例示したが、この開示に係る発明はそれに限らず、多層基板の内部に形成されたコンデンサ要素などにも適用することができる。
【0081】
さらに、外部電極の数および位置は、この明細書に開示された実施形態に限られない。すなわち、外部電極は、積層体の外表面上の互いに異なる位置に複数形成され、かつ内部電極層に電気的に接続されるものであればよい。
【符号の説明】
【0082】
1 導電性ペースト
2 導電性粉末
3 ガラス粉末
4 有機材料
100 積層セラミックコンデンサ
10 積層体
11 誘電体層
12 内部電極層
13a 第1の端面
13b 第2の端面
14a 第1の外部電極
14a1 第1の下地電極層
14a2 第1のめっき層
14b 第2の外部電極
14b1 第2の下地電極層
14b2 第2のめっき層
15a1 導電性領域
16a1 ガラス領域
A 第1の元素
AE 第2の元素
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7