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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】油膜検出装置及び油膜検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/90 20060101AFI20231018BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20231018BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20231018BHJP
   G06V 10/25 20220101ALI20231018BHJP
   G06V 10/42 20220101ALI20231018BHJP
【FI】
G01S13/90 191
G06T7/00 640
G06T1/00 285
G06V10/25
G06V10/42
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019214094
(22)【出願日】2019-11-27
(65)【公開番号】P2021085730
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(73)【特許権者】
【識別番号】597001523
【氏名又は名称】株式会社IHIジェットサービス
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 剛
(72)【発明者】
【氏名】堂之前 義文
(72)【発明者】
【氏名】水越 紀良
【審査官】山下 雅人
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第106022288(CN,A)
【文献】特表2009-536329(JP,A)
【文献】特開2016-070914(JP,A)
【文献】特開平07-226984(JP,A)
【文献】特開2018-169341(JP,A)
【文献】森山 隆,宇宙・航空からの災害監視,計測と制御,日本,社団法人計測自動制御学会,2008年12月10日, 第47巻、第12号 ,975~980頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00-17/95
G06T 1/00
G06T 7/00- 7/90
G06V10/00-20/90
G01N21/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海面を含むSAR画像から海面上における油膜を検出する油膜検出装置であって、
前記SAR画像において海面よりも暗い暗色領域を特定する暗色領域特定部と、
前記暗色領域の面積及び外周長を含む特徴量に基づいて、前記暗色領域が油膜であるか否かを判定する油膜判定部と、を備え
前記特徴量は、前記面積に対する前記外周長の比である面積外周比を有し、
前記油膜判定部は、前記暗色領域の前記面積外周比が判定閾値以上か否かを判定する判定処理を実行し、前記判定処理の結果、前記面積外周比が判定閾値以上である場合には、当該暗色領域が油膜であると判定し、
前記暗色領域特定部は、
前記SAR画像から標準偏差画像を生成する標準偏差画像生成部と、
前記標準偏差画像に対して二値化処理を実行し、前記標準偏差画像の各画素のうち、輝度値が二値化閾値よりも高い画素に第1画素値を割り当て、前記輝度値が二値化閾値以下の画素に第2画素値を割り当てることで二値化画像を生成する二値化処理部と、
前記二値化画像の画素値において、前記第2画素値が連続した画素に共通のラベルを付与するラベリング処理部とを有し、
前記油膜判定部は、前記二値化画像において、共通のラベルが付与された複数の画素の領域を一つの暗色領域として前記判定処理を実行し、
前記二値化処理部は、前記二値化閾値を変えながら前記二値化処理を実行することで複数の二値化画像を生成し、
前記油膜判定部は、前記複数の二値化画像のそれぞれにおいて前記判定処理を実行し、異なる二値化画像間で複数の暗色領域が包含関係にある場合には、前記複数の暗色領域のうち、前記面積外周比が判定閾値以上であって前記面積外周比が最も高い暗色領域の形状を前記油膜の形状とする油膜検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、海面上における油膜を検出する油膜検出装置及び油膜検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
衛星画像から、海面上における油膜(オイルスリック)を検出する方法がある。衛星画像で表示される油膜は、暗色で表示される。よって、従来では、衛生画像において、海面上において、暗色に表示されている領域(以下、「暗色領域」という。)を検出することで、油膜を検出していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平6-229920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、衛生画像における暗色領域は、必ずしも油膜であるとは限らない。よって、衛星画像における暗色領域を検出するだけの方法では、油膜を精度よく検出することができない場合がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、海面上における油膜の検出精度を向上させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の一態様は、海面を含むSAR画像から海面上における油膜を検出する油膜検出装置であって、前記SAR画像において海面よりも暗い暗色領域を特定する暗色領域特定部と、前記暗色領域の面積及び外周長を含む特徴量に基づいて、前記暗色領域が油膜であるか否かを判定する油膜判定部と、を備える油膜検出装置である。
【0007】
(2)上記(1)の油膜検出装置であって、前記特徴量は、前記面積に対する前記外周長の比である面積外周比を有し、前記油膜判定部は、前記暗色領域の前記面積外周比が判定閾値以上であるか否かを判定する判定処理を実行し、前記判定処理の結果、前記面積外周比が判定閾値以上である場合には、当該暗色領域が油膜であると判定してもよい。
【0008】
(3)上記(2)の油膜検出装置であって、前記暗色領域特定部は、前記SAR画像から標準偏差画像を生成する標準偏差画像生成部と、前記標準偏差画像に対して二値化処理を実行し、前記標準偏差画像の各画素のうち、輝度値が二値化閾値よりも高い画素に第1画素値を割り当て、前記輝度値が二値化閾値以下の画素に第2画素値を割り当てることで二値化画像を生成する二値化処理部と、前記二値化画像の画素値において、前記第2画素値が連続した画素に共通のラベルを付与するラベリング処理部と、を有し、前記油膜判定部は、前記二値化画像において、共通のラベルが付与された複数の画素の領域を一つの暗色領域として前記判定処理を実行してもよい。
【0009】
(4)上記(3)の油膜検出装置であって、前記二値化処理部は、前記二値化閾値を変えながら前記二値化処理を実行することで複数の二値化画像を生成し、前記油膜判定部は、前記複数の二値化画像のそれぞれにおいて前記判定処理を実行し、異なる二値化画像間で複数の暗色領域が包含関係にある場合には、前記複数の暗色領域のうち、前記面積外周比が判定閾値以上であって前記面積外周比が最も高い暗色領域の形状を前記油膜の形状としてもよい。
【0010】
(5)本発明の一態様は、海面を含むSAR画像から海面上における油膜を検出する油膜検出方法であって、前記SAR画像において海面よりも暗い暗色領域を特定する暗色領域特定ステップと、前記暗色領域の面積及び外周長を含む特徴量に基づいて、前記暗色領域が油膜であるか否かを判定する油膜判定ステップと、を含む油膜検出方法である。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、海面上における油膜の検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る油膜検出装置を有する海洋監視システム1の概略構成の一例を示す図である。
図2】オイルスリックの判定に用いる特徴量である、外周長Lと面積Sを説明する図である。
図3】本実施形態に係る暗色領域特定部12の概略構成図である。
図4】本実施形態に係る判定処理を説明する図である。
図5】本実施形態に係る油膜検出部11の動作のフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本実施形態に係る油膜検出装置及び油膜検出方法を、図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本実施形態に係る油膜検出装置を有する海洋監視システム1の概略構成の一例を示す図である。本実施形態における海洋監視システム1は、所定海域における海面上の油膜(オイルスリック)を検出するシステムである。
例えば、オイルスリックは、船舶、臨海工場、海底油田などから油(例えば、重油)が海に流出することで形成される。
【0015】
図1に示すように、海洋監視システム1は、SAR衛星2、地上受信局3、データセンタ4、VPN(Virtual Private Network)5及び表示装置6を備える。データセンタ4は、本発明の「油膜検出装置」の一例である。なお、油膜検出装置は、データセンタ4及び表示装置6を備えてもよい。
【0016】
SAR衛星2は、合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)を備えた人工衛星であり、例えば周知の地球資源衛星1号、陸域観測技術衛星あるいは/及び陸域観測技術衛星2号である。SAR衛星2は、所定の時間間隔かつ所定期間に亘って所定波長のマイクロ波(送信波)を地球の監視対象領域(二次元領域)に向けて送信し、当該送信波が地表で反射して生成されるマイクロ波(反射波)を受信することによりSAR画像を取得する。
【0017】
上記SAR画像は、上記監視対象領域(二次元領域)の状態、つまりSAR衛星2からの緯度経度情報を伴う距離を示す二次元のグレースケール画像である。SAR衛星2は、合成開口レーダにおける上記送信波及び反射波に基づいてSAR画像を生成し、当該SAR画像を地上受信局3に送信する。なお、合成開口レーダで一般的に使用されるマイクロ波の波長帯には、Lバンド、Cバンド及びXバンドが存在するが、本実施形態におけるSAR衛星2は、Lバンド、Cバンド、Xバンドのマイクロ波を用いて画像分解能が3m~100m程度のSAR画像を取得する。
【0018】
地上受信局3は、地上の所定場所に設けられ、上記SAR衛星2からSAR画像を受信する通信設備である。地上受信局3は、SAR衛星2と無線通信を行うための無線アンテナ及び無線通信機を少なくとも備え、SAR衛星2が間欠的に送信してくるSAR画像を受信してデータセンタ4に出力する。
【0019】
データセンタ4は、地上受信局3から順次入力されるSAR画像に基づいて海面上のオイルスリックを検出する。その際、データセンタ4は、SAR画像において、海面上の暗色に表示されている領域(以下、「暗色領域」という。)を特定し、その特定した暗色領域の特徴量に基づいて海面上のオイルスリックを検出する。ここで、海面上に流出したオイルスリックは、単純な円形や楕円形の形状ではなく、海流の流れなどによって、周囲に突起が現れたように複雑な形状(以下、「複雑形状」という。)を有する。よって、データセンタ4は、暗色領域が複雑形状を有しているか否かを判定し、複雑形状を有していれば、暗色領域がオイルスリックであると判定する。上記特徴量は、複雑形状を有するか否かを判定するためのパラメータであって、図2に示すように、暗色領域の面積Sと外周長Lとを含む。図2は、オイルスリックの形状の一例を示す図である。なお、「海面上に流出したオイルスリックは、単純な円形や楕円形の形状ではなく、海流の流れなどによって、周囲に突起が現れたように複雑な形状を有する」との知見は、本発明者らによって得られたものである。
データセンタ4は、オイルスリックの検出結果を、VPN5を介して表示装置6に送信する。
【0020】
VPN5は、機密を保持することができる専用線であり、複数の有線通信網及び無線通信網の集合体である。VPN5は、例えばインターネットを構成している。VPN5は、海洋監視システム1の利用者が接続可能な通信回線である。
【0021】
表示装置6は、VPN5に接続される通信端末であり、データセンタ4で検出されたオイルスリックの検出結果をダウンロードする事ができる。表示装置6は、ダウンロードしたオイルスリックの検出結果を専用ソフトで表示画面に表示することができる。表示装置6は、利用者が管理する通信端末であり、VPN5を介してデータセンタ4にオイルスリックの検出結果の提供を要求すると共に、当該提供要求に応じてデータセンタ4が提供するオイルスリックの検出結果を表示、保存及び転送処理することが可能である。なお、図1では便宜的に1台の表示装置6を示しているが、表示装置6の個数は、複数台であってもよい。例えば、表示装置6は、パーソナルコンピュータ用のモニタ等の表示装置であってよい。また、表示装置6は、ユーザにより可搬可能な携帯情報端末(例えば、スマートフォンやタブレット端末)の表示デバイスであってもよい。
【0022】
以下において、本実施形態におけるデータセンタ4の構成について説明する。
【0023】
データセンタ4は、画像サーバ10及び油膜検出部11を備える。油膜検出部11は、本発明の「油膜検出装置」の一例である。
【0024】
画像サーバ10は、地上受信局3から順次入力されるSAR画像を蓄積すると共に、油膜検出部11の要求に応じてSAR画像を油膜検出部11に提供するデータサーバである。例えば、画像サーバ10は、多数のSAR画像を記憶する画像記憶装置を備え、油膜検出部11の要求に応じて上記画像記憶装置を検索することにより、油膜検出部11が要求するSAR画像を読み出して油膜検出部11に出力する。
【0025】
油膜検出部11は、画像サーバ10から取得した、海面を含むSAR画像からオイルスリックを検出する。一例として、油膜検出部11は、暗色領域特定部12、油膜判定部13及び画像記憶部14を備える。
【0026】
暗色領域特定部12は、海面が含まれるSAR画像内において、海面よりも暗い暗色領域を特定する。ここで、SAR画像は、グレースケール画像である。SAR画像において、船舶は白く(明色)表示され、海面は黒く(暗色)表示される。そして、SAR画像では、オイルスリックは、海面よりも黒く表示される。したがって、暗色領域特定部12は、海面とオイルスリックとを分ける閾値(二値化閾値)Wthを設定し、閾値Wthよりも低い領域を暗色領域として特定する特定処理を実行する。例えば、SAR画像においてオイルスリックは海面よりも輝度が低い領域として映し出される。よって、暗色領域特定部12は、SAR画像(後述の前処理済画像であってもよい)を構成する各画素の輝度に関する平均値、標準偏差あるいはヒストグラムを計算し、オイルスリックを他の物体や海面から的確に区画し得る閾値Wthを1つ以上決定する。ここで、暗色領域特定部12は、暗色領域を特定するにあたって、SAR画像に対して前処理を実行してもよい。ただし、前処理は、本発明の必須な構成ではなく、実行しなくてもよい。例えば、暗色領域特定部12は、前処理として、以下の処理を実行してもよい。
【0027】
例えば、前処理は、横方向及び縦方向に所定の画素数で構成された二次のグレースケール画像であるSAR画像について、陸地であることが明白な部分にマスキング処理を施して海域だけを明確化したり、またSAR画像に撮影状態等に起因する全体的な輝度むらが発生している場合に当該輝度むらの補正等を実行する処理である。以下において、前処理を実行した後のSAR画像を前処理済画像と称する場合がある。このような前処理を先行して行うことにより、暗色領域の抽出精度が高めることができる。ただし、上述したように、前処理は必須の処理ではなく、SAR画像の状態によっては省略することが可能である。
【0028】
一例として、本実施形態に係る暗色領域特定部12の特定処理を実行する機能部の構成について、図3を用いて説明する。図3は、本実施形態に係る暗色領域特定部12の概略構成図である。
【0029】
暗色領域特定部12は、標準偏差画像生成部20、二値化処理部21及びラベリング処理部22を備える。
【0030】
標準偏差画像生成部20は、SAR画像又は前処理済画像から標準偏差画像を生成する標準化処理を実行する。具体的には、標準偏差画像生成部20は、SAR画像又は前処理済画像の画素ごとの輝度の平均値を求め、その平均値を用いて、画素ごとに標準偏差を算出する。そして、標準偏差画像生成部20は、この標準偏差を各画素の輝度データとした標準偏差画像を作成する。ただし、標準化処理は、本発明の必須な構成ではなく、SAR画像の状態などによっては省略可能である。
【0031】
二値化処理部21は、標準偏差画像に対して、閾値Wthを用いた二値化処理を実行する。すなわち、二値化処理部21は、標準偏差画像において、輝度値が閾値Wthよりも高い画素に第1画素値(例えば、1)を割り当て、輝度値が閾値Wth以下の画素に第2画素値(例えば、0)を割り当てることで二値化画像Gを生成する。二値化画像Gにおいて、第2画素値の領域は、暗色領域となる。なお、第1画素値は、第2画素値と値が異なっていればよい。
【0032】
ここで、二値化処理部21は、二値化処理を行うにあたって、標準偏差画像の階調値(明度、色相、彩度など)について定義されたn個の閾値を、その適用順(例えば、値の降順または昇順)に保持し、その順番に従って1つの閾値を閾値Wthとして設定してもよい。以下において、n個の閾値から1つの閾値を閾値Wthとして設定する閾値設定処理の一例について説明する。
【0033】
例えば、二値化処理部21は、所定の階調範囲において連続する階調値の全てを閾値Wthとして設定してもよい。例えば、二値化処理部21は、標準偏差画像が256階調の濃淡画像である場合、0~255の範囲において連続する256個の階調値の全てを閾値Wthとして順番に設定してもよい。また、二値化処理部21は、0~255の範囲において、所定の範囲(例えば、50~200の範囲)において連続する階調値の全てを閾値Wthとして順番に設定してもよい。
【0034】
また、例えば、二値化処理部21は、予め作成した画像の累積ヒストグラムに基づいて、全画素数に対する累積画素数の百分率が所定間隔の値となるn個の階調値を閾値Wthとして順に設定してもよい。所定値は、例えば、0%、10%、20%、…となるような等間隔の値である。
【0035】
また、例えば、二値化処理部21は、所定の階調範囲において、等間隔に閾値Wthを順番に設定してもよい。例えば、標準偏差画像が256階調のグレースケール画像である場合、二値化処理部21は、階調値0,5,10,15,20,25,…255といったように所定の間隔をおいて連続するn個の階調値を閾値Wthとして順番に設定してもうよい。
以上、閾値設定処理について説明したが、二値化処理部21は、閾値設定処理を実行しなくてもよく、一つの閾値Wthを用いて二値化処理を実行してもよい。
【0036】
ラベリング処理部22は、二値化画像Gに対してラベリング処理を実行する。具体的には、ラベリング処理部22は、二値化画像Gの画素値において、第2画素値が連続した画素に共通のID(ラベル)を付与するラベリング処理を行う。共通のIDが付与された第2画素値の画素の集合体が暗色領域となる。なお、一つの二値化画像Gにおいて、複数の暗色領域が特定されることもある。
ラベリング処理部22は、二値化処理部21によりn個の閾値を用いて閾値設定処理が実行された場合には、1~n個の各二値化画像G1~Gnのそれぞれに対してラベリング処理を実行して暗色領域を特定する。
【0037】
油膜判定部13は、暗色領域特定部12が特定した暗色領域の特徴量を暗色領域ごとに算出する。特徴量は、暗色領域の面積Sに対する外周長Lの比(以下、「面積外周比K」という。)であって、例えば、外周長Lを面積Sで割った値(=L/S)である。この面積外周比Kが高い値ほど、暗色領域の形状が複雑であることを示す。油膜判定部13は、暗色領域ごとに面積外周比Kを求め、面積外周比Kが閾値Kth(判定閾値)以上である場合には当該暗色領域がオイルスリックであると判定する判定処理を実行する。
【0038】
以下において、図4を用いて判定処理を具体的に説明する。図2は、本実施形態に係る判定処理を説明する図である。なお、図4に示す例では、n=4である。
【0039】
例えば、図4に示すように、閾値設定処理として4つの閾値(90,80,70,60)を閾値Wthとして用いたとする。そして、暗色領域特定部12は、閾値Wth=90による二値化処理により二値化画像G1を生成し、二値化画像G1に対するラベリング処理によりID=a,b,cが付与された3つの暗色領域を特定したとする。また、暗色領域特定部12は、閾値Wth=80による二値化処理により二値化画像G2を生成し、二値化画像G2に対するラベリング処理によりID=d,e,fが付与された3つの暗色領域を特定したとする。また、暗色領域特定部12は、閾値Wth=70による二値化処理により二値化画像G3を生成し、二値化画像G3に対するラベリング処理によりID=g,h,iが付与された3つの暗色領域を特定したとする。また、暗色領域特定部12は、閾値Wth=60による二値化処理により二値化画像G4を生成し、二値化画像G4に対するラベリング処理によりID=j,k,lが付与された3つの暗色領域を特定したとする。
この場合において、例えば、油膜判定部13は、暗色領域特定部12が特定した暗色領域ごとに面積外周比Kを求め、各面積外周比Kが閾値Kth以上であるか否かの判定を二値化画像Gごとに行う。
【0040】
具体的には、油膜判定部13は、二値化画像G1において、ID=a,b,cの各暗色領域の面積外周比K1~K3を算出し、面積外周比K1~K3のそれぞれが閾値Kth以上か否かを判定する。図4に示す例では、面積外周比K1~K3のそれぞれは、すべて閾値Kth未満であるため、ID=a,b,cの各暗色領域は、オイルスリックではないと判定する。この場合には、油膜判定部13は、二値化画像G1からID=a,b,cの各暗色領域をクリアした画像である判定後画像G1´を生成してもよい。
【0041】
油膜判定部13は、二値化画像G2において、ID=d,e,fの各暗色領域の面積外周比K4~K6を算出し、面積外周比K4~K6のそれぞれが閾値Kth以上か否かを判定する。図4に示す例では、面積外周比K4~K6のそれぞれは、すべて閾値Kth未満であるため、ID=d,e,fの各暗色領域は、オイリックスではないと判定する。この場合には、油膜判定部13は、二値化画像G2からID=d,e,fの各暗色領域をクリアした画像である判定後画像G2´を生成してもよい。
【0042】
油膜判定部13は、二値化画像G3において、ID=g,h,iの各暗色領域の面積外周比K7~K9を算出し、面積外周比K7~K9のそれぞれが閾値Kth以上か否かを判定する。図4に示す例では、ID=gの暗色領域の面積外周比K7だけが閾値Kth以上となる。そのため、油膜判定部13は、ID=gの暗色領域がオイリックスであると判定する。この場合には、油膜判定部13は、二値化画像G3からID=h,iの各暗色領域をクリアした画像である判定後画像G3´を生成してもよい。
【0043】
油膜判定部13は、二値化画像G4において、ID=j,k,lの各暗色領域の面積外周比K10~K12を算出し、面積外周比K10~K12のそれぞれが閾値Kth以上か否かを判定する。図4に示す例では、ID=jの暗色領域の面積外周比K10だけが閾値Kth以上となる。そのため、油膜判定部13は、ID=jの暗色領域がオイリックスであると判定する。この場合には、油膜判定部13は、二値化画像G4からID=k,fの各暗色領域をクリアした画像である判定後画像G4´を生成してもよい。
【0044】
ここで、図4に示す例では、IDがa,d,g,jの各暗色領域は、二値化画像G1~G4の階層構造において、包含関係(第1包含関係)にある。IDがb,e,h,kの各暗色領域は、二値化画像G1~G4の階層構造において、包含関係(第2包含関係)にある。IDがc,f,i,lの各暗色領域は、二値化画像G1~G4の階層構造において、包含関係(第3包含関係)にある。第2包含関係にある暗色領域及び第3包含関係にある暗色領域は、どれも面積外周比Kが閾値Kth未満であるため、オイルスリックではない。一方、第1包含関係の暗色領域のうち、ID=gの暗色領域及びID=jの暗色領域は、面積外周比Kが閾値Kth以上となる。そのため、第1包含関係の暗色領域はオイルスリックである。ただし、ID=gの暗色領域及びID=jの暗色領域の各面積外周比Kは両方とも閾値Kth以上となるため、オイルスリックの領域が確定しない。そこで、油膜判定部13は、第1包含関係において、オイルスリックであると判定された暗色領域が複数ある場合には、面積外周比Kが最も高い暗色領域をオイルスリックの領域とする。すなわち、油膜判定部13は、第1包含関係において、面積外周比Kが閾値Kth以上であって、且つ、面積外周比Kが最も高い暗色領域をオイルスリックであると判定する。
【0045】
換言すれば、油膜判定部13は、面積外周比Kが閾値Kth以上である場合には当該暗色領域がオイルスリック候補であると判定し、判定の結果、複数のオイルスリック候補が包含関係にある場合には、最も面積外周比Kが高いオイルスリック候補をオイルスリックと判定し、包含関係がないオイルスリック候補の場合には、当該オイルスリック候補をオイルスリックと判定する。
【0046】
例えば、油膜判定部13は、「面積外周比K7」>「面積外周比K10」である場合には、ID=gの暗色領域がオイルスリックであると判定する。すなわち、オイリックスの領域は、ID=gの暗色領域となる。油膜判定部13は、ID=gの暗色領域がオイルスリックであると判定すると、その判定結果の情報を付加した画像である判定済画像を画像記憶部14に記憶する。例えば、判定済画像は、ID=gの所定領域がオイルスリックであることが利用者に知らせることができる画像であればよく、ID=gの暗色領域のみが映っている画像であってもよく、ID=gの暗色領域のみが他の暗色領域と区別できるように他の暗色領域とは異なる態様(色が異なるなど)で表示した画像であってもよい。
【0047】
画像記憶部14は、油膜判定部13が生成した判定済画像を蓄積する不揮発性記憶装置である。油膜検出部11は、VPN6を介して表示装置6から判定済画像の提供要求を受信すると、判定済画像を画像記憶部14から読み出して表示装置6に送信する。
【0048】
次に、本実施形態に係る油膜検出部11の動作の流れを、図5を用いて説明する。
【0049】
暗色領域特定部12は、画像サーバ10からSAR画像を取得し(ステップS101)、そのSAR画像から標準偏差画像を生成する(ステップS102)。暗色領域特定部12は、標準偏差画像の各画素のうち、輝度値が閾値Wthよりも高い画素に第1画素値(例えば、1)を割り当て、輝度値が閾値Wth以下の画素に第2画素値(例えば、0)を割り当てることで二値化画像Gを生成する二値化処理を実行する。ここで、暗色領域特定部12は、標準偏差画像の階調値(明度、色相、彩度など)について定義されたn個の閾値のうち、所定の順番(例えば、値の降順または昇順)に従って1つの閾値を閾値Wthとして選択し、選択した閾値Wthごとに二値化処理を実行する。よって、暗色領域特定部12は、n個の二値化画像を生成する(ステップS103)。
【0050】
暗色領域特定部12は、n個の二値化画像Gに対してラベリング処理を実行する(ステップS104)。すなわち、暗色領域特定部12は、n個の二値化画像Gの画素値において、第2画素値が連続した画素に共通のIDを付与するラベリング処理を行う。これにより、暗色領域特定部12は、共通のIDが付与された第2画素値の画素の集合体を暗色領域として特定する。
【0051】
油膜判定部13は、暗色領域特定部12が特定した暗色領域の面積外周比Kを暗色領域ごとに算出する(ステップS105)。そして、油膜判定部13は、面積外周比Kが閾値Kth以上となる暗色領域があるか否かを判定する(ステップS106)。油膜判定部13は、面積外周比Kが閾値Kth以上となる暗色領域がある場合には、その暗色領域と、当該暗色領域と二値化画像間で包含関係にある複数の暗色領域のそれぞれと、のうち、面積外周比Kが最も高い暗色領域をオイルスリックであると判定する(ステップS107)。そして、油膜判定部13は、オイルスリックと判定した暗色領域の情報を付加した判定済画像を表示装置6に送信する(ステップS108)。油膜判定部13は、ステップS106において、面積外周比Kが閾値Kth以上となる暗色領域がないと判定した場合には、海面上にオイルスリックが発生していないと判定する(ステップS109)なお、油膜判定部13は、オイルスリックが発生していないと判定した結果を表示装置6に送信してもよい。
【0052】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0053】
(変形例1)上記実施形態のデータセンタ4は、AISサーバを介してAIS情報を取得してもよい。AIS情報は、船舶に搭載が国際的に義務付けられている自動船舶識別装置(AIS:Automatic Identification System)が外部に対して発信する船舶の識別符号、船名、位置、針路、速力、目的地等を含む船舶情報である。この場合には、データセンタ4は、さらに船舶検出部を備えてもよい。そして、前記船舶検出部は、SAR画像を所定の閾値で二値化することで船舶検出用の二値化画像を生成し、AIS情報及び当該二値化画像から船舶を検出する。当該閾値は、SAR画像における船舶領域の特徴に着目して決定される。すなわち、SAR画像において船舶は極端に輝度が高い領域として映し出されるので、前記船舶検出部は、SAR画像又は前処理済画像を構成する各画素の輝度に関する平均値、標準偏差あるいはヒストグラムを計算し、船舶を他の物体から的確に区画し得る閾値を決定する。前記船舶検出部は、船舶を検出した判定結果を判定済画像に反映させてもよい。よって、判定済画像は、オイルスリックの領域と、船舶の領域とを含む画像となる。
【0054】
(変形例2)上記実施形態の油膜判定部13は、面積外周比の他に、円形度、コントラスト及び面積Sの少なくともいずれか、または、全てを特徴量として計算してもよい。例えば、油膜判定部13は、暗色領域ごとに特徴量を算出し、以下に示す条件(a)~(d)のすべて満たす特徴量を有する暗色領域をオイルスリック又はオイルスリック候補であると判定してもよい。
(a)円形度が所定の閾値(第1閾値)以下であること。
(b)海面とのコントラストが所定の閾値(第2閾値)以上であること。
(c)面積Sが所定の閾値(第3閾値)以下であること。
(d)面積外周比が閾値Kth以上であること。
また、例えば、油膜判定部13は、面積Sが所定の閾値(第3閾値)以下である暗色領域に対して、(a)、(b)及び(d)が該当するか否かを判定してもよい。すなわち、油膜判定部は、まず、暗色領域の大きさで選別をして、大きさ(例えば、面積S)が第3閾値以下の暗色領域に対して、コントラスト及び形状に起因するパラメータ(円形度及び面積外周比)で、オイルスリック(又はオイルスリック候補)か否かを選別してもよい。
また上記(a)~(d)の条件の組み合わせは1種類ではなく、オイルスリックの種類(1)例えば流出直後の比較的暗いが拡散していない状態(2)流出後長時間経過し暗さが減り、形状が複雑化した状態。(3)船舶が航行中に流した比較的細長い状態(4)油田等で発生する自然流出による比較的小さい状態、により複数の条件で抽出することができ、その1種類~3種類だけを抽出して活用することも、全ての種類の抽出結果を合成して用いることもできる。
【0055】
以上、説明したように、上記実施形態の油膜検出部11は、海面を含むSAR画像から海面上における油膜を検出する。具体的には、油膜検出部11は、SAR画像内において、海面よりも暗い暗色領域を特定する暗色領域特定部12と、暗色領域の面積S及び外周長Lを含む特徴量に基づいて、暗色領域が油膜であるか否かを判定する油膜判定部13と、を備える。
【0056】
このような構成によれば、SAR画像における暗色領域を検出するだけではなく、暗色領域の形状面積外周比を含む特徴量に基づいてオイルスリックを検出するため、従来よりも精度よく検出することができる。
【0057】
ここで、SAR画像において船舶の航跡波は、オイルスリックに近い輝度値となる。よって、従来のように、暗色領域を検出することでオイルスリックを検出する方法では、航跡波をオイルスリックと誤検知してしまう場合がある。一方、本実施形態では、油膜検出部11は、暗色領域の面積S及び外周長Lを含む特徴量に基づいて、暗色領域が油膜であるか否かを判定する。よって、油膜検出部11は、直線形状となる航跡波(面積外周比Kが閾値Kth未満となる)をオイルスリックと誤検知することがない。
【0058】
さらに、油膜検出部11は、複数の二値化画像Gのそれぞれにおいて判定処理を実行し、異なる二値化画像間で複数の暗色領域が包含関係にある場合には、複数の暗色領域のうち、面積外周比Kが最も高い暗色領域の形状をオイルスリックの形状とする。これにより、油膜検出部11は、オイルスリックの形状を正確に検出することができる。
【0059】
なお、上述した油膜検出部11の全部または一部をコンピュータで実現するようにしてもよい。この場合、上記コンピュータは、CPU、GPUなどのプロセッサ及びコンピュータ読み取り可能な記録媒体を備えてもよい。そして、上記油膜検出部11の全部または一部の機能をコンピュータで実現するためのプログラムを上記コンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムを上記プロセッサに読み込ませ、実行することによって実現してもよい。ここで、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、CD-ROM等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。さらに「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムを送信する場合の通信線のように、短時間の間、動的にプログラムを保持するもの、その場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリのように、一定時間プログラムを保持しているものも含んでもよい。また上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよく、さらに前述した機能をコンピュータシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるものであってもよく、FPGA等のプログラマブルロジックデバイスを用いて実現されるものであってもよい。
【0060】
明細書の全体において、ある部分がある構成要素を「含む」、「有する」や「備える」とする時、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除くものではなく、他の構成要素をさらに含むことができるということを意味する。
【0061】
また、明細書に記載の「…部」の用語は、少なくとも1つの機能や動作を処理する単位を意味し、これは、ハードウェアまたはソフトウェアとして具現されてもよいし、ハードウェアとソフトウェアとの組み合わせで具現されてもよい。
【符号の説明】
【0062】
1 海洋監視システム
4 データセンタ
6 表示装置
11 油膜検出部
12 暗色領域特定部
13 油膜判定部
20 標準偏差画像生成部
21 二値化処理部
22 ラベリング処理部
図1
図2
図3
図4
図5