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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】標的化タンパク質分解
(51)【国際特許分類】
   A61K 47/64 20170101AFI20231018BHJP
   C07K 14/725 20060101ALI20231018BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20231018BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 15/62 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231018BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/454 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231018BHJP
   A61K 47/65 20170101ALI20231018BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 35/17 20150101ALI20231018BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 37/02 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A61K47/64
C07K14/725 ZNA
C07K16/00
C07K19/00
C12N15/63 Z
C12N15/62 Z
C12N15/12
C12N15/13
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K38/16
A61K45/00
A61K31/454
A61K47/68
A61K47/65
A61K48/00
A61K35/17
A61P35/00
A61P37/02
A61P37/04
A61P37/06
A61K39/395 G
【請求項の数】 22
(21)【出願番号】P 2019572373
(86)(22)【出願日】2018-07-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-10-15
(86)【国際出願番号】 EP2018067741
(87)【国際公開番号】W WO2019007869
(87)【国際公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-06-01
(31)【優先権主張番号】1710620.4
(32)【優先日】2017-07-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】513032275
【氏名又は名称】グラクソスミスクライン、インテレクチュアル、プロパティー、ディベロップメント、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】GLAXOSMITHKLINE INTELLECTUAL PROPERTY DEVELOPMENT LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ブライショー,ルイス リー
(72)【発明者】
【氏名】ハン,マイケル メンティース
(72)【発明者】
【氏名】ヘリング,クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス フレイテス,カルロス
(72)【発明者】
【氏名】ケイサー,マルクス アレクサンダー
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/024318(WO,A1)
【文献】NATURE,2016年06月22日,Vol. 535,p. 252-257, Supplementary Information,doi:10.1038/nature18611
【文献】NATURE,2016年04月07日,Vol. 532,p. 127-130, Supplementary Information,doi:10.1038/nature16979
【文献】Journal of Medicinal Chemistry,2017年04月20日,Vol. 61,p. 535-542,doi:10.1021/acs.jmedchem.6b01921
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00
C07K 14/00
C07K 16/00
C07K 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)であって、以下:
細胞外リガンド結合ドメイン;
膜貫通ドメイン;
細胞内シグナル伝達ドメイン;及び
レナリドミドの存在下でユビキチンリガーゼにより結合され得るC末端上のユビキチン標的化タンパク質
を含み、
ユビキチン標的化タンパク質はセレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなり、
ユビキチン標的化タンパク質は、配列番号6~14、27、及び配列番号6~14からなる群から選択される配列と少なくとも90%の同一性を有する配列からなるそれらの機能的断片及び機能的変異体からなる群から選択される配列である、
前記キメラ抗原受容体。
【請求項2】
細胞外リガンド結合ドメインが、抗B細胞成熟抗原(BCMA)一本鎖Fvアミノ酸配列である、請求項1に記載のCAR。
【請求項3】
抗BCMA一本鎖Fvアミノ酸配列が配列番号29を含む、請求項2に記載のCAR。
【請求項4】
膜貫通ドメインが、CD4、CD8、CD3及びCD28の膜貫通ドメインから選択される、請求項1~3のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項5】
CD8膜貫通ドメインが配列番号17を含む、請求項4に記載のCAR。
【請求項6】
細胞内シグナル伝達ドメインが免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)である、請求項1~5のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項7】
ITAMが、CD3ゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、FcRイプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dのITAMから選択される、請求項6に記載のCAR。
【請求項8】
CD3ゼータシグナル伝達ドメインが配列番号20を含む、請求項7に記載のCAR。
【請求項9】
膜貫通ドメインと細胞内シグナル伝達ドメインの間に位置する共刺激ドメインをさらに含み、共刺激ドメインが、CD28、CD27、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、ICOS(CD278)、CD30、CD40、PD-1(CD279)、CD2、CD7、NKG2C(CD94)及びB7-H3(CD276)の共刺激ドメインから選択される、請求項1~8のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項10】
共刺激ドメインが配列番号21を含む、請求項9に記載のCAR。
【請求項11】
ユビキチン標的化タンパク質が、リンカーにより細胞内シグナル伝達ドメインから分離されており、リンカーが、(GS)n及び/又は(GGGGS)pを含み、ここでn=1~10且つp=1~3である、請求項1~10のいずれか1項に記載のCAR。
【請求項12】
リンカーが、配列番号23~26のいずれか1つを含む、請求項11に記載のCAR。
【請求項13】
請求項1~12のいずれか1項に記載のCARをコードする、単離されたポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項13に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項15】
請求項13に記載のポリヌクレオチド又は請求項14に記載の発現ベクターを含む細胞。
【請求項16】
細胞が免疫調節細胞である、請求項15に記載の細胞。
【請求項17】
細胞がT細胞である、請求項16に記載の細胞。
【請求項18】
治療法において使用するための、請求項17に記載の細胞。
【請求項19】
請求項1517のいずれか1項に記載の細胞を複数含む医薬組成物。
【請求項20】
治療法において使用するための、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
遺伝子療法の方法において使用するための、請求項20に記載の医薬組成物。
【請求項22】
免疫調節細胞を生体外で操作する方法であって、以下:
(a) 請求項13に記載のポリヌクレオチド又は請求項14に記載の発現ベクターを、対象から得られた免疫調節細胞に形質導入又はトランスフェクトすること;及び
(b) 前記ポリヌクレオチド又は前記発現ベクターを、免疫調節細胞中で発現させることを含む、前記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宿主細胞に導入された異種タンパク質のレベル及び/又は活性を制御する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質の標的化分解は、ユビキチンプロテアソーム系(UPS)を利用する戦略により、以前に達成されている。特に、標的タンパク質結合リガンドとE3ユビキチンリガーゼリガンドで構成されるヘテロ二官能性化合物であって、それらのE3ユビキチンリガーゼの動員及びその後のユビキチン化を介して標的タンパク質のプロテアソーム媒介性分解を誘導するタンパク質分解標的化キメラ分子(PROTAC)が、当技術分野において記載されている。かかる化合物は、細胞へ添加するか又は動物若しくはヒトへ投与すると標的タンパク質の不活性化を誘導することが可能であり、このため病原性標的タンパク質又は発がん性標的タンパク質を除去することによる疾患の治療に提案されている。
【0003】
キメラ抗原受容体(CAR)は、現代の個別化治療法の最先端の人工T細胞受容体である(Lee et al. (2012) Clin. Cancer Res., 18(10):2780-90)。個別化治療は、従来利用可能な治療法に対して抵抗性の患者においてがんを治療し、患者自身の免疫細胞を用いて疾患と闘うために開発された。免疫細胞は、腫瘍抗原に特異的なCAR(CAR-T細胞)を発現するようにex vivoで遺伝子操作され、これらの細胞はその後患者に戻される。CARはT細胞の表面に存在し、膜貫通ドメインにより分離されている細胞内ドメイン及び細胞外ドメインからなる。細胞外ドメインは、疾患細胞上でのみ発現される抗原に向けられた標的結合領域(例えば、一本鎖可変フラグメント)を有する。細胞内ドメイン(通常、CD3ζ-CD28又はCD3ζ-41BB)はサイトゾルに向いており、抗原が細胞の表面上の標的結合領域に結合した後、活性化シグナルをT細胞に伝える。CAR-T細胞の活性シグナル伝達は、さらに疾患細胞の殺傷をもたらす。
【0004】
現在まで、CARの開発は3つの世代を含んでいる。第1世代のCARは、CD3ゼータの細胞質領域又はFc受容体ガンマ鎖に由来するシグナル伝達ドメインに結合した標的結合ドメインを含んでいた。第1世代CARは、首尾よくT細胞の殺活性を選択された標的へ再標的化することが示されたが、これらはin vivoにおいて長期増殖及び抗腫瘍活性を提供することはできなかった。第2世代CAR及び第3世代CARは、CD28、OX-40(CD134)及び4-1BB(CD137)などの共刺激分子に由来する付加的なシグナル伝達ドメインを含めることにより、改変されたT細胞の生存率を高め、且つ増殖を増大させることに重点を置いてきた。
【0005】
しかし、肺などの重要臓器に対する潜在的な交差反応性を通して、この有望な治療法の安全性の懸念が生じてきた。実際、臨床試験中に、CAR-T細胞で治療した患者においてオンターゲット(on-target)並びにオフターゲット(off-target)の両方のオフ腫瘍毒性(off-tumour toxicities)が観察されており、CAR研究による死亡者も報告されている(Morgan et al. (2010) Mol. Ther., 18(4):843-51)。これらの毒性は、動物モデル又は非霊長類モデルにおいては予測することが困難であり、小分子及び生物製剤とは対照的に、CAR-T細胞は特有の薬物動態(PK)プロファイル及び薬力学的作用を有するリビングドラッグ(living-drug)である。従って、CAR-T細胞の殺活性をオフにするか又は減弱し、より制御され且つより安全な治療法を可能とする安全スイッチが開発されている。
【0006】
自殺スイッチは、CAR-T細胞が、外部から薬剤を投与するとCAR-T細胞の選択的破壊を可能とする「自殺遺伝子」又は「消去遺伝子」を発現するようにさらに操作されている、安全スイッチの一例である。例えば、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV-TK)を組み込むことは、プロドラッグであるガンシクロビルを投与すると、複製しているDNA中にGCV-トリホスフェートが組み込まれることによって細胞死がもたらされることを意味する。しかし、このスイッチに含まれるエレメントは免疫原性であり、HSV-TKに対する免疫応答が、形質導入された細胞の持続性を制限するという新たな証拠がある(Berger et al., (2006) Blood Mar 15:107(6):2294-302)。
【0007】
WO2017024318は、ヘテロ二官能性化合物に結合するdTAGを結合させ、これがその後ユビキチン化を生じさせることによりキメラ抗原受容体免疫エフェクター細胞療法を調節するための組成物及び方法について記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】WO2017024318
【非特許文献】
【0009】
【文献】Lee et al. (2012) Clin. Cancer Res., 18(10):2780-90
【文献】Morgan et al. (2010) Mol. Ther., 18(4):843-51
【文献】Berger et al., (2006) Blood Mar 15:107(6):2294-302
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
細胞療法がより広く用いられるようにするため、これらの治療法を制御して任意の有害事象を確実に予防し得るようにするための方法を開発する必要性が、当技術分野に依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明の第1の態様によれば、
ポリペプチド配列のレベルを制御する方法であって、以下:
a) 前記ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とを含む融合タンパク質を投与すること、及び
b) 上記ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することにより上記ポリペプチド配列のレベルを制御すること
を含む、上記方法が提供される。
【0012】
本発明の別の態様において、ポリペプチド配列のレベルを制御する方法であって、以下:
a) A-B
(式中、
Aはポリペプチド配列であり;
Bは、整列させた場合に表1にリストされるアミノ酸残基のそれぞれの間のバックボーン原子から約6.0Åの二乗平均平方根偏差(rmsd)以内の一連の構造座標を有する構造モチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質であり、ここで上記構造モチーフは、表1のGLY56に対応する位置にグリシン残基を含む)
を含む融合タンパク質を投与すること;及び
b) 上記ポリペプチド配列をユビキチンリガーゼに近づけるような方法でa) ユビキチン標的化タンパク質とb) ユビキチンリガーゼとの結合を媒介する化合物(ここで上記ポリペプチド配列は、上記化合物の存在下でユビキチン化され得る)を投与することによりポリペプチド配列のレベルを制御すること
を含む、上記方法が提供される。
【0013】
本発明のさらなる態様によれば、以下:
細胞外リガンド結合ドメイン;
膜貫通ドメイン;
細胞内シグナル伝達ドメイン;及び
化合物の存在下でユビキチンリガーゼにより結合され得る、本明細書中に記載されるユビキチン標的化タンパク質
を含むキメラ抗原受容体(CAR)が提供される。
【0014】
本発明のさらなる態様によれば、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む、135未満のアミノ酸長からなるポリペプチド配列を含む融合タンパク質が提供される。
【0015】
本発明の別の態様において、
A-B
(式中、
Aはポリペプチド配列であり;
Bは、配列番号6~14からなる群から選択される配列からなるユビキチン標的化タンパク質である)
を含む融合タンパク質が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】デグロンエレメントを組み込んだキメラ抗原受容体構築物の模式的機構。
図2】ヒトIkaros 1タンパク質(Uniprot Q13422)由来のデグロンシグナルに融合したGFPをコードするプラスミドマップ。
図3A】レナリドミド処理が、HEK293T細胞中の、デグロンと融合した緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現レベルに与える影響。(A) 増加量のレナリドミドで処理したGFP陽性細胞の中央蛍光強度の値を有する表。この図に含まれる構築物は、GFPとデグロン配列との間の(グリシン-セリン) x Nリンカーの長さのみが異なり、構築物1はN=1、構築物2はN=3、構築物3はN=5である。
図3B】レナリドミド処理が、HEK293T細胞中の、デグロンと融合した緑色蛍光タンパク質(GFP)の発現レベルに与える影響。(B) 未処理(無レナリドミド)値に対する中央蛍光強度(MFI)値。
図4】レナリドミド誘導性CAR分解の対照として使用したキメラ抗原受容体(CAR)構築物をコードするプラスミドマップ。ZsGreenは、トランスフェクション/形質導入のレポーターとして使用された。
図5A】レナリドミド処理が、Jurkat細胞中の、デグロンと融合した抗BCMA CARの発現レベルに与える影響。(A) DMSO又は10μMレナリドミドによる処理後の、トランスフェクトされた(ZsGreen陽性)Jurkat細胞中の抗BCMA-CAR構築物の中央蛍光強度。構築物4はデグロンシグナルを有さないCARを表すが、構築物5は、構築物4のエレメントと同じエレメントに加えて、ヒトIkaros3(Uniprot Q9UKT9)タンパク質に由来する配列を含む。
図5B】レナリドミド処理が、Jurkat細胞中の、デグロンと融合した抗BCMA CARの発現レベルに与える影響。(B) DMSO及び10μMレナリドミドが抗BCMA CAR発現に与える影響を示す、(A)のJurkat細胞のフローサイトメトリーヒストグラム。
図6A】レナリドミド処理が、初代T細胞中の、デグロンと融合した抗BCMA CARの発現レベルに与える影響。(A) DMSO又は10μMレナリドミドによる処理後の、形質導入された(ZsGreen陽性)T細胞中の抗BCMA CARの中央蛍光強度。構築物4はデグロンシグナルを有さないCARを表すが、構築物5は、構築物4のエレメントと同じエレメントに加えて、ヒトIkaros3タンパク質(Uniprot Q9UKT9)に由来する配列を含む。データは3つの生物学的複製の代表である。
図6B】レナリドミド処理が、初代T細胞中の、デグロンと融合した抗BCMA CARの発現レベルに与える影響。(B) DMSO及び10μMレナリドミドが抗BCMA CAR発現に与える影響を示す、(A)のT細胞のフローサイトメトリーヒストグラム。
図7】レナリドミド処理が、デグロンと融合した抗BCMA CARを発現している初代T細胞からのサイトカイン放出に与える影響。初代T細胞に構築物4又は構築物5を形質導入し、DMSO又は10μMレナリドミドの存在下で、BCMAを発現しているARH-77-10B5細胞と共培養した。構築物4はデグロンシグナルを有さないCARを表すが、構築物5は、構築物4のエレメントと同じエレメントに加えて、ヒトIkaros3タンパク質(Uniprot Q9UKT9)に由来する配列を含む。データは3つの生物学的複製の代表である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本明細書中には、標的タンパク質の有効なユビキチン化に必要とされる必須の構造モチーフが記載される。特に、標的細胞に投与される異種タンパク質が、いずれかの有害作用のリスクを回避するため厳密に制御されることが必要とされる治療タンパク質である場合、この構造モチーフを用いて、標的細胞に投与された異種タンパク質のレベル及び/又は活性を制御することができる。有効なユビキチン化に必要とされるモチーフのサイズを最小化することは、とりわけ異種タンパク質が、スペースが希少なウイルスベクターを介して導入される場合に有利である。
【0018】
定義
別段に定義されない限り、本明細書中で使用される全ての技術用語及び科学用語は、当業者(例えば、細胞培養、分子遺伝学、核酸化学、ハイブリダイゼーション技術及び生化学の分野における当業者)に一般的に理解される意味と同じ意味を有する。分子法、遺伝子法及び生化学法のための標準技術(一般的には、Sambrook et al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual, 2nd ed. (1989) Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, N.Y. and Ausubel et al., Short Protocols in Molecular Biology (1999) 4th Ed, John Wiley & Sons, Inc.(これらはその全体が参照により本明細書中に組み込まれる)を参照)及び化学法のための標準技術が用いられる。本明細書中で言及される全ての特許及び刊行物は、その全体が参照により組み込まれる。
【0019】
用語「・・・を含む(comprising)」は、「・・・を含む(including)」又は「・・・からなる(consisting)」を包含し、例えばX「を含む(comprising)」組成物は、Xのみからなるものであってもよく、又は何か付加的なものを含んでいてもよい(例えばX+Y)。
【0020】
用語「本質的に・・・からなる」は、特徴の範囲を、特定の材料又はステップであって、特許請求される特徴の基本的な特性(1つ又は複数)には実質的に影響を及ぼさないものに限定する。
【0021】
用語「・・・からなる(consisting of)」は、任意の付加的な成分(1つ又は複数)の存在を排除する。
【0022】
本明細書中で使用される用語「約」は、量、持続時間(temporal duration)などの測定可能な値を指す場合、特定される値からの±20%又は±10%の変動(±5%、±1%及び±0.1%を含む)を包含することを意味する。
【0023】
用語「安全スイッチ」は、害を及ぼし得る生物学的プロセスを制御するためにオンデマンドで活性化され得る生化学的メカニズムを指す。安全スイッチはCAR-T療法と共に用いることが可能であり、この遺伝子療法の安全性を高めるため外部的に(すなわち、細胞の外側からの投与を介して)制御され得るようにすることができる。
【0024】
本明細書中で使用される用語「キメラ抗原受容体」(「CAR」)は、(通常はモノクローナル抗体又はそのフラグメントに由来する)細胞外標的結合ドメイン、場合によりスペーサー領域、膜貫通領域、及び1つ以上の細胞内エフェクタードメインからなる操作された受容体を指す。CARは、キメラT細胞受容体又はキメラ免疫受容体(CIR)とも呼ばれている。CARは、T細胞などの造血系細胞に遺伝子導入され、その特異性を所望の細胞表面抗原へと向け直す。さらに近年は、CARは非免疫細胞にも導入されている(Kojima et al., 2018 Nature Chem. Bio. Jan;14(1):42-49)。
【0025】
「CARシグナル伝達」との言及は、免疫調節細胞の活性化をもたらす(例えば、標的細胞の殺傷及びT細胞活性化を引き起こす)、CARのシグナル伝達ドメインを通じたシグナル伝達を指す。
【0026】
本明細書中で使用される用語「T細胞受容体」(「TCR」)は、主要組織適合遺伝子複合体(MHC)分子に結合したペプチドとしての抗原のフラグメントを認識する、T細胞の表面上に存在する受容体を指す。ネイティブTCRはαβ形態及びγδ形態で存在し、これらは構造的に類似するが異なる位置に存在しており、異なる機能を有すると考えられている。TCRの細胞外部分は、2つの定常ドメインと2つの可変ドメインを有する。可変ドメインはTCRの結合部位を形成する多型ループを含み、抗体中の相補性決定領域(CDR)に類似している。遺伝子療法の文脈において、TCRは、通常はその抗原認識を変化させ又は高めるように遺伝子改変されており、従って、一実施形態において、TCRは遺伝子改変されている。例えば、WO01/055366及びWO2006/000830(これらは参照により本明細書中に組み込まれる)は、T細胞に異種TCRをトランスフェクトするためのレトロウイルスベースの方法について記載している。
【0027】
本明細書中で使用される用語「標的結合ドメイン」は、抗原又はリガンドなどの特定の標的に結合することができるオリゴペプチド又はポリペプチドとして定義される。特に、この標的は細胞表面分子であり得る。例えば、標的結合ドメインは、例えば特定の病状に関連する病原性ヒト細胞などの病原性細胞上で細胞表面マーカーとして作用する標的を認識するように選択され得る。標的結合ドメインは、例えば、抗原に結合する任意の種類のタンパク質であり得る。
【0028】
本明細書中で使用される用語「スペーサー領域」は、膜貫通ドメインを標的結合ドメインに連結させるように機能するオリゴペプチド又はポリペプチドを指す。またこの領域は、「ヒンジ領域」又は「ストーク領域」とも呼ばれ得る。スペーサーのサイズは、CAR:標的結合の際の免疫シナプスの活性化のための最適距離(例えば14nm)を維持するため、標的エピトープの位置に応じて変動し得る。
【0029】
用語「ドメイン」は、タンパク質の残りの部分とは無関係にその三次構造を保持する折り畳まれたタンパク質構造を指す。一般的に、ドメインはタンパク質の個別の機能的特性に関与し、多くの場合、タンパク質の残りの部分及び/又はドメインの機能を失うことなく他のタンパク質に付加、除去、又は転移され得る。
【0030】
本明細書中で使用される用語「膜貫通ドメイン」は、細胞膜を横切るドメインを指す。
【0031】
本明細書中で使用される用語「細胞内エフェクタードメイン」は、標的結合ドメインの標的への結合後の細胞内シグナル伝達に関与するCAR中のドメインを指す。細胞内エフェクタードメインは、CARが発現している免疫細胞の正常なエフェクター機能の少なくとも1つの活性化に関与する。例えば、T細胞のエフェクター機能は、細胞溶解活性、又は例えばサイトカインの分泌などのヘルパー活性であり得る。
【0032】
用語「抗体」は、本明細書中で最も広い意味において免疫グロブリン様ドメイン(例えばIgG、IgM、IgA、IgD又はIgE)を有する分子を指すために使用され、モノクローナル抗体、組換え抗体、ポリクローナル抗体、キメラ抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、多特異性抗体(二重特異性抗体、及び異種結合(heteroconjugate)抗体を含む);単一可変ドメイン(例えば、VH、VHH、VL、ドメイン抗体(dAb))、抗原結合抗体フラグメント、Fab、F(ab’)2、Fv、ジスルフィド結合したFv、一本鎖Fv、ジスルフィド結合したscFv、二種特異性抗体、TANDABS等、及び前述のいずれかの改変型を包含する。
【0033】
用語「単一可変ドメイン」は、抗体可変ドメインに特徴的な配列を含む折り畳まれたポリペプチドドメインを指す。従って、この用語は、VH、VHH及びVLなどの完全な抗体可変ドメイン、及び例えば1つ以上のループが抗体可変ドメインに特徴的ではない配列で置換されている改変された抗体可変ドメイン、又はN末端伸長又はC末端伸長が切断されているか又はこれらを含む抗体可変ドメイン、並びに少なくとも完全長ドメインの結合活性及び特異性を保持する折り畳まれた可変ドメインのフラグメントを包含する。単一可変ドメインは、異なる可変領域又はドメインとは無関係に抗原又はエピトープに結合することができる。「ドメイン抗体」又は「dAb」は「単一可変ドメイン」と同じであるとみなし得る。単一可変ドメインはヒト単一可変ドメインであってよいが、他の種に由来する単一可変ドメイン、例えば齧歯類dAb(例えばWO 00/29004中に開示される)、テンジクザメdAb及びラクダ化VHH dAbも包含する。ラクダ化VHHは、軽鎖を天然に欠如している重鎖抗体を産生するラクダ種(フタコブラクダ及びヒトコブラクダ、ラマ、ビクーナ、アルパカ、及びグアナコを含む)に由来する免疫グロブリン単一可変ドメインポリペプチドである。このようなVHHドメインは当技術分野において利用可能な標準技術に従ってヒト化することが可能であり、このようなドメインは「単一可変ドメイン」とみなされる。本明細書中で使用される「VH」は、ラクダ化VHHドメインを包含する。
【0034】
疑義を回避するため、用語「ポリヌクレオチド」、「ヌクレオチド」及び「核酸」は本明細書中で互換的に使用されることが理解されるであろう。
【0035】
疑義を回避するため、用語「ポリペプチド」、「オリゴペプチド」、「ペプチド」及び「アミノ酸」は本明細書中で互換的に使用されることが理解されるであろう。
【0036】
疑義を回避するため、用語「構造モチーフ」及び「ヘアピンモチーフ」は本明細書中で互換的に使用されることが理解されるであろう。
【0037】
「融合タンパク質」との言及は、2つの異なる遺伝子/核酸配列の部分を接合することにより作製される融合遺伝子から翻訳されるタンパク質を指す。ポリペプチド配列Aとユビキチン標的化タンパク質Bとは、好ましくは遺伝子的融合により互いに結合している(すなわち、Aの全部又は一部をコードするポリヌクレオチドがBの全部又は一部をコードするポリヌクレオチドとインフレームで接合している核酸の翻訳により融合タンパク質が作製される)か、又は互いに化学的に結合している。
【0038】
「機能的フラグメント」との言及は、それらが由来する野生型タンパク質の結合機能を依然として保持する完全長の野生型配列のフラグメントを指す(例えば、ユビキチン標的化タンパク質の機能的フラグメントは、ユビキチンリガーゼとの相互作用を媒介する化合物への結合を依然として可能とする)。フラグメントは、好適には少なくとも10アミノ酸長、例えば25、50、75、80、90、100、110、120又は130アミノ酸長を含み得る。フラグメントは、C末端トランケーション、又はN末端トランケーションも含み得る。
【0039】
「機能的変異体」との言及は、元の(例えば野生型)配列と類似のアミノ酸配列又はヌクレオチド配列を有するが、それらが由来する元のタンパク質の機能を依然として保持する変異体を生じさせる1つ以上のアミノ酸又はヌクレオチドの変化を有する変異体を包含する。例えば、本明細書中に記載されるユビキチン標的化タンパク質の機能的変異体は、ユビキチンリガーゼを介したポリペプチド配列のユビキチン化を可能とする化合物への十分な結合を依然として容易にする変異体を包含する。
【0040】
「親和性」は、単一の結合部位における1つの分子(例えば標的結合タンパク質)の、別の分子(例えばその標的抗原)に対する結合の強さである。標的結合タンパク質の、その標的に対する結合親和性は、平衡法(例えば、酵素結合免疫吸着アッセイ(ELISA)又はラジオイムノアッセイ(RIA))、又は動態学(例えば、BIACORE分析)により決定することができる。
【0041】
本明細書中で使用される「配列同一性」は、配列を比較することにより決定される、2つ以上のアミノ酸配列又は2つ以上の核酸配列間の関連性の程度である。配列の比較及び配列同一性の決定は、数学的アルゴリズムを用いて達成することができる;当業者は、2つの配列を整列させ、それらの間の同一性パーセントを決定するために利用し得るコンピュータプログラムを認識するであろう。当業者は、異なるアルゴリズムはわずかに異なる結果を生じ得ることを理解するであろう。
【0042】
したがって、クエリー核酸配列とサブジェクト核酸配列間の「同一性パーセント」は、ペアワイズBLASTNアラインメントが実行された後にサブジェクト核酸配列がクエリー核酸配列と100%クエリーカバー率を有する場合、BLASTNアルゴリズムにより算出される、パーセントとして表される「同一性」値である。このようなクエリー核酸配列とサブジェクト核酸配列との間のペアワイズBLASTNアラインメントは、米国国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Institute)のウェブサイト上で利用可能なBLASTNアルゴリズムのデフォルト設定を、低複雑度領域のフィルタをオフにして使用することにより実行される。重要なことに、クエリー核酸配列は、本明細書中の1以上の請求項において特定される核酸配列により記載され得る。
【0043】
同様に、クエリーアミノ酸配列とサブジェクトアミノ酸配列間の「同一性パーセント」は、パーセントとして表される「同一性」値であり、ペアワイズBLASTPアラインメントが実行された後にサブジェクトアミノ酸配列がクエリーアミノ酸配列と100%クエリーカバー率を有する場合、BLASTPアルゴリズムにより算出される。このようなクエリーアミノ酸配列とサブジェクトアミノ酸配列間のペアワイズBLASTPアラインメントは、米国国立バイオテクノロジー情報センターのウェブサイト上で利用可能なBLASTPアルゴリズムのデフォルト設定を、低複雑度領域のフィルタをオフにして使用することにより実行される。重要なことに、クエリーアミノ酸配列は、本明細書中の1以上の請求項において特定されるアミノ酸配列により記載され得る。
【0044】
クエリー配列はサブジェクト配列と100%同一であってもよく、又はクエリー配列は、サブジェクト配列と比較して同一性%が100%未満であるような一定の整数までのアミノ酸変更又はヌクレオチド変更を含んでいてもよい。例えば、クエリー配列は、サブジェクト配列と少なくとも50、60、70、75、80,、85、90、95、96、97、98、又は99%同一である。このような変更としては、例えば、少なくとも1個のアミノ酸の欠失、置換(保存的置換及び非保存的置換を含む)又は挿入などが挙げられ、ここで前記変更は、クエリー配列のアミノ末端位置若しくはカルボキシ末端位置において生じ得るか、あるいはこれらの末端位置間のいずれかの場所に、クエリー配列中のアミノ酸若しくはヌクレオチド間に個別に又はクエリー配列内の1つ以上の連続基中に分散して生じ得る。
【0045】
用語「ユビキチン標的化タンパク質」は、ある化合物の存在下でユビキチンリガーゼを結合させることによりポリペプチド配列のユビキチン化を誘導することができるタンパク質/ドメイン/フラグメントを指す。
【0046】
E3リガーゼとしても知られる用語「ユビキチンリガーゼ」は、ユビキチン単独の又は複合体としての、特定の基質タンパク質への転移を促進し、これにより基質タンパク質を分解のために標的化するタンパク質のファミリーを指す。例えば、セレブロンは、E3ユビキチンリガーゼ複合体Cul4A/Bの一部であり、E2ユビキチン結合酵素と組み合わされて、標的タンパク質のリシンに対するユビキチンの結合を引き起こし、その後特定のタンパク質を、プロテアソームによる分解のために標的化する。ユビキチンリガーゼは、2つ以上のユビキチンが標的タンパク質に結合するようにポリユビキチン化に関与し得る。例えば、第2ユビキチンが第1ユビキチンに結合し;第3ユビキチンが第2ユビキチンに結合するなど。ポリユビキチン化により、プロテアソームによる分解のためにタンパク質を標識することができる。
【0047】
用語「ユビキチン化部位」は、ユビキチンが結合するアミノ酸残基、特にリシン残基を指す。鎖を作製するため、ユビキチン自体がユビキチン化部位を含む。ユビキチン上の異なるリシンが、鎖を作製するためにE3により標的化され得るが、最も一般的なリシンはLys48である。このリシン-48を利用してポリユビキチンを作製することが可能であり、これがその後プロテアソームにより認識される。
【0048】
本明細書中で使用される用語「自己」は、同一対象に由来する細胞を指す。本明細書中で使用される用語「同種」は、比較される細胞とは遺伝的に異なる同じ種の細胞を指す。
【0049】
用語「個体」、「対象」及び「患者」は、本明細書中で互換的に使用される。一実施形態において、対象は、霊長類(例えばマーモセット若しくはサル)又はヒトなどの哺乳動物である。さらなる実施形態において、対象はヒトである。
【0050】
用語「医薬組成物」は、細胞又は対象への投与のために、製薬上許容可能な溶液又は生理学的に許容可能な溶液中で製剤化された組成物を指す。また本発明の組成物は、上記組成物が意図される治療法を送達する能力に付加的な薬剤が悪影響を及ぼさない限り、他の薬剤と組み合わせて投与することもできる。
【0051】
用語「がん」(「新生物」と呼ばれる場合もある)は、身体の一部分における異常な細胞の無制御な分裂により引き起こされる疾患を指す。無制御な分裂は、多くの場合、一般的には「腫瘍」又は「新生物」と呼ばれる塊を生じさせ得る。
【0052】
本明細書中で使用される用語「腫瘍関連抗原」又は「腫瘍抗原」は、腫瘍細胞上で発現される抗原を指す。この抗原は、正常な、すなわち非がん性の細胞と比較すると、腫瘍細胞上に固有に又は差次的に発現され得る。
【0053】
本明細書中に記載される発明は、それを必要とする対象の治療方法においても使用することができる。治療は、治療的、予防的又は防止的であり得る。治療は、疾患の少なくとも1つの態様又は症状の軽減、低減又は予防を包含し、また本明細書中に記載される疾患の予防又は治癒を包含する。
【0054】
タンパク質レベルを制御する方法
CK1及びGSTP1について、セレブロン結合部位の構造的保存が観察された。Ikaros1及びIkaros3について、構造的保存は、Eos(Ikaros4、PDB 2MA7)又はPDB iD2I13由来のジンクフィンガータンパク質などの構造的に特徴づけられたタンパク質との相同性により推測された。本発明者らは、前記タンパク質のレベル及び/又は活性を制御する方法を提供するため、この保存された構造モチーフを異種タンパク質に融合することを提案した。当技術分野において用いられる現在のPROTAC法とは対照的に、本方法は、ユビキチン標的化タンパク質(ユビキチン標的化ドメインとも呼ばれ得る)を制御されるべきタンパク質に直接融合することを含み、その結果、ユビキチン化をもたらすユビキチンリガーゼへの結合を誘導するためには外部化合物を添加するだけでよい。
【0055】
さらに、必要とされる最小のデグロンを用いることにより、潜在的な生産の利点がある。例えば、ベクターはサイズが限定されている場合が多く、従って、他のポリペプチド配列をコードするために利用可能な空間の量を最大化するために小さなユビキチン標的化タンパク質を有することが有益である。
【0056】
また最小のデグロンは、異種タンパク質の活性を妨げる可能性も低い。従って、本発明の第1の態様によれば、ポリペプチド配列のレベルを制御する方法であって、以下:
a) 前記ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とを含む融合タンパク質を投与すること、及び
b) 上記ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することによりポリペプチド配列のレベルを制御すること
を含む、上記方法が提供される。
【0057】
本発明の別の態様において、ポリペプチド配列のレベル及び/又は活性を制御する方法であって、以下:
a) A-B
(式中、
Aはポリペプチド配列であり;
Bは、整列させた場合に表1にリストされるアミノ酸残基のそれぞれの間のバックボーン原子から約6.0Åの二乗平均平方根偏差(rmsd)以内の一連の構造座標を有する構造モチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質であり、ここで上記構造モチーフは、表1のGLY56に対応する位置にグリシン残基を含む)
を含む融合タンパク質を投与すること;及び
b) 上記ポリペプチド配列をユビキチンリガーゼに近づけるような方法でa) ユビキチン標的化タンパク質とb) ユビキチンリガーゼとの結合を媒介する化合物を投与することによりポリペプチド配列のレベルを制御すること(ここで上記ポリペプチド配列は、上記化合物の存在下でユビキチン化され得る)
を含む、上記方法が提供される。
【0058】
理論に拘泥するものではないが、ポリペプチド配列が一旦ユビキチン化されると、このポリペプチドはプロテアソームにより分解され得るか、又はユビキチン(特にポリユビキチン鎖)の結合によりポリペプチド配列が立体的に阻害されるようになる。従って、一実施形態において、ポリペプチド配列はユビキチン化され、その後プロテアソームにより分解され得る。代替的実施形態において、ポリペプチド配列はユビキチン化され、その後立体的に阻害され得る。
【0059】
ユビキチンは、真核生物の大部分の組織において見られる小さな(約8.5kDaの)タンパク質である。基質タンパク質へのユビキチンの付加は、ユビキチン化(ubiquitination)又はユビキチン化(ubiquitylation)と呼ばれる。ユビキチン化は、例えば、プロテアソームを介したタンパク質の分解のためのシグナル伝達などの多くの方法で、当該タンパク質に影響を及ぼし得る。ユビキチンは、E1(ユビキチン活性化酵素)、E2(ユビキチン結合酵素)及びE3(ユビキチンリガーゼ)酵素カスケードの活性により基質リシンに共有結合する。E3ユビキチンRINGリガーゼは、ユビキチンがロードされたE2ユビキチン結合酵素を動員するタンパク質であり、従ってE3ユビキチンRINGリガーゼは、標的タンパク質とE2酵素の両方と相互作用する。E3ユビキチンリガーゼの一例はセレブロン(CRBN)であり、これは損傷DNA結合タンパク質1(DDB1)、Cullin 4(CUL4)及びRINGボックスタンパク質1(RBX1)と相互作用して複合体CUL4-RBX1-DDB1-CRBNを形成する。次いで、この複合体はタンパク質基質をユビキチン化し、これがその後プロテアソームにより分解される。
【0060】
本発明の方法は、ポリペプチド配列を、媒介化合物の導入で標的化ユビキチン化を可能とするドメインに融合することにより、上記ポリペプチド配列のレベル(例えば、細胞内レベル、細胞外レベル又は膜レベル)及び/又は活性を制御することを可能とする。化合物の添加は、この化合物がユビキチンリガーゼによるポリペプチドのユビキチン化を誘導し、その後の分解を生じることもできるため、ポリペプチド配列のレベルを低下させることができる。このレベル及び/又は活性の変化は、当技術分野において公知の方法を用いて測定することができる。
【0061】
本明細書中で使用される「ユビキチンリガーゼ」との言及は、ユビキチンリガーゼ及び/又はリガーゼ複合体の一部であるタンパク質、例えばセレブロンを包含することが理解されるであろう。従って、一実施形態において、ユビキチンリガーゼはセレブロンである。
【0062】
特定のタンパク質基質は、サリドマイドなどの免疫調節薬(例えば、IMiD)を通じてE3ユビキチンリガーゼと相互作用することが示されている。これらのタンパク質基質としては、例えばIkaros3、Ikaros1、GSTP1及びCK1アルファなどが挙げられる。最近、ZFP91がセレブロンのIMiD依存性基質であることが示された(An et al. (2017) Nat. Commun. 8:15398を参照)。
【0063】
本明細書には、分解対象の目的タンパク質に付加され得る小タンパク質ドメイン(約30アミノ酸)の形態の「最小の」デグロンが記載されている。IMiD化合物の存在下では、分解が誘導されるだろう。しかし、デグロンは直鎖ペプチド配列によっては定義されず、むしろキー位置(i+3)にグリシン残基を有するターンの頂点(位置i、i+1、及びi+2)における3つのバックボーン水素結合アクセプターの幾何学的配置によって定義される。この幾何学的配置はヘアピンモチーフを形成する。
【0064】
3つのセレブロン基質に由来するヘアピンモチーフを、主鎖原子を用いて重ね合わせた場合、全rmsdは2.0Åであることが見出された。特に、3つのモチーフ全ての間で保存されていた中心グリシン残基の周囲に最も密接した構造的重複が見られた。Ikaros3 ZFNの構造的代表としてのPDBエントリ2I13において、ラマチャンドラン角(Ramachandran angle)を(50%の同一性パーセントで)測定し、以下のとおりであることが見出された:
【0065】
【表1】
【0066】
一実施形態において、構造座標は、約5.0Å(例えば約4.5Å)の、表1にリストされるアミノ酸残基のそれぞれの間のバックボーン原子のrmsdの範囲内である。
【0067】
「ラマチャンドラン角」及び「rmsd」との言及は当業者に周知である。ラマチャンドラン角は、ペプチド主鎖の立体構造を表すために用いられる。ポリペプチド鎖中の2つのねじれ角(ラマチャンドラン角とも呼ばれる)は、N-Cα間の結合(ファイ(Phi)、φと呼ばれる)とCα-C間の結合(プサイ(Psi)、ψと呼ばれる)の周囲のポリペプチドバックボーンの回転を表す(Ramachandran et al. (1963) J. Mol. Biol., 7:95-99を参照)。従って、φ及びψは、Cα原子の両側の2つの結合の周囲のポリペプチド鎖の回転を表す。この角度はラマチャンドランプロットにプロットされ、タンパク質構造中のねじれ角の分布を見る方法を提供し得る。
【0068】
バイオインフォマティクスにおいて、原子位置の二乗平均平方根偏差(rmsd)は、重ね合わせたタンパク質の原子(通常はバックボーン原子)間の平均距離の尺度である。典型的には、rmsdは、2つ以上のタンパク質構造間の類似性の定量的尺度として用いられる。rmsdが低いほど、2つの構造間の類似性は高い。
【0069】
ある構造モチーフが表1に示されるモチーフから5Åのrmsdの範囲内に入るか否かの決定は、当業者に周知である。このような計算は、所与の構造モチーフの炭素アルファ原子の座標と、表1に含まれる構造モチーフ中の炭素アルファ原子の座標との重ね合わせの最適化により実行される。このような最適化は、2つの構造モチーフの最小平均rmsdを生成するだろう。この主張の範囲内で言及される「重ね合わせ」において、中心グリシンの両側の残基上の炭素原子は等価であるとみなされ、それらのrmsd値は計算に含めるべき値である。これらの計算において、好適なタンパク質モデリングコンピュータプログラムを使用することが可能であり、これらは当技術分野において公知である(例えば、Molecular Operating Environment (MOE)、2013.08;Chemical Computing Group ULC)。
【0070】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質はジンクフィンガータンパク質に由来する。
【0071】
一実施形態において、構造モチーフは、配列番号1のアミノ酸配列:
X1X2X3X4X5GX7X8X9X10
(式中、Xは任意のアミノ酸を表すか又は存在しない)を含む。さらなる実施形態において、配列番号1の構造モチーフは、1、2、3個又はそれ以上のアミノ酸をさらに含む。なおさらなる実施形態において、構造モチーフは、配列番号15のアミノ酸配列:
X1X2X3X4X5GX7X8X9X10X11X12
(式中、Xは任意のアミノ酸を表すか又は存在しない)を含む。
【0072】
一実施形態において、以下の1つ以上が当てはまる:
X1は、バリン(V)、イソロイシン(I)を表すか又は存在せず;
X2は、アスパラギン酸(D)、アスパラギン(N)を表すか又は存在せず;
X3は、リシン(K)、イソロイシン(I)を表すか又は存在せず;
X4は、グルタミン(Q)、リシン(K)又はトレオニン(T)を表し;
X5は、システイン(C)、セリン(S)又はアスパラギン(N)を表し;
X7は、アラニン(A)又はグルタミン酸(E)を表し;
X8は、セリン(S)、リシン(K)又はグルタミン酸(E)を表し;
X9は、フェニルアラニン(F)、セリン(S)又はバリン(V)を表し;
X10は、トレオニン(T)、リシン(K)又はアラニン(A)を表し;
X11は、グルタミン(Q)、トレオニン(T)又はバリン(V)を表し;且つ/又は
X12は、リシン(K)又はアルギニン(R)を表す。
【0073】
一実施形態において、構造モチーフは、哺乳動物タンパク質、例えばヒトタンパク質に由来する。
【0074】
一実施形態において、構造モチーフは、Ikaros3、Ikaros1、カゼインキナーゼ1アルファ(CK1アルファ)、真核生物ペプチド鎖放出因子GTP-結合サブユニットERF3A(GSTP1)又はジンクフィンガータンパク質91(ZFP91)に由来する。さらなる実施形態において、構造モチーフは、Ikaros3のジンクフィンガーヌクレアーゼ2モチーフから得られる。代替的実施形態において、構造モチーフは、CK1アルファから得られる。これらのタンパク質の配列情報は当技術分野において利用可能であり、例えば、UniProt ID番号(Ikaros3についてはQ9UKT9、GSPT1についてはP15170、ZFP91についてはQ96JP5、及びCK1アルファについてはP48729)を参照されたい。また、これらのタンパク質についての構造情報も当技術分野において利用可能であり、例えばPDBエントリ(2MA7又は2I13はIkaros3の構造的代表として用いることが可能であり、5HXBはGSTP1の構造的代表として、また5FQDはCK1アルファの構造的代表として用いることができる)を参照されたい。
【0075】
一実施形態において、構造モチーフは、配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択される配列と少なくとも80%、85%、90%、95%又は97%の相同性/同一性を有する配列を含む。さらなる実施形態において、構造モチーフは、配列番号2、配列番号3 及び配列番号4からなる群から選択される配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%又は99%の同一性を有する配列を含む。なおさらなる実施形態において、構造モチーフは、配列番号2のアミノ酸配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%又は99%の同一性を有する配列を含む。
【0076】
一実施形態において、構造モチーフは、配列番号2、配列番号3、配列番号4、配列番号5又はそれらの変異体から選択される配列を含む。例えば、変異体配列は、5、4、3、2又は1個までのアミノ酸置換(1つ若しくは複数)、付加(1つ若しくは複数)又は欠失(1つ若しくは複数)を有し得る。典型的には、変異は置換、特に保存的置換である。変異体配列は、非修飾タンパク質の生物学的特徴を実質的に保持し得る。
【0077】
一実施形態において、構造モチーフは、配列番号2、配列番号3、配列番号4及び配列番号5からなる群から選択される配列を含む。さらなる実施形態において、構造モチーフは、配列番号2、配列番号3及び配列番号4からなる群から選択される配列を含む。なおさらなる実施形態において、構造モチーフは、配列番号2のアミノ酸配列を含む。
【0078】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、130未満のアミノ酸長、例えば125未満、120未満、115未満、110未満、105未満、100未満、90未満、80未満、70未満、60未満又は50未満のアミノ酸長からなるポリペプチド配列である。さらなる実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、100未満のアミノ酸長からなるポリペプチド配列である。
【0079】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、ユビキチン化ベイト、すなわち、ユビキチン化部位として作用し得るリシン残基を含む配列を含む。この実施形態は、例えば、ポリペプチド配列がそれ自体はユビキチン化に適した部位を含まず、このためユビキチン標的化タンパク質中にユビキチン化部位を含むユビキチン化ベイトを含め得る場合に用いることができる。一実施形態において、ユビキチン化部位はリシン残基を含む。
【0080】
一実施形態において、ユビキチン化ベイトは、配列番号16と少なくとも80%、85%、90%、95%又は97%の相同性/同一性を有する配列を含む。一実施形態において、ユビキチン化部位は、配列番号16又はそれらの変異体を含む。例えば、変異体配列は、10、9、8、7、6、5、4、3、2又は1個までのアミノ酸置換(1つ若しくは複数)、付加(1つ若しくは複数)又は欠失(1つ若しくは複数)を有し得る。典型的には、変異は置換、特に保存的置換である。変異体配列は、非修飾タンパク質の生物学的特徴を実質的に保持し得る。
【0081】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、配列番号6~14又はそれらの機能的断片若しくは機能的変異体からなる群から選択される配列からなる。
【0082】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、配列番号6~14、27又はそれらの機能的断片若しくは機能的変異体からなる群から選択される配列からなる。
【0083】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、配列番号6~14からなる群から選択される配列と少なくとも80%、85%、90%、95%、97%又は99%の同一性を有する配列からなる。一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、配列番号6~14からなる群から選択される配列からなる。
【0084】
一実施形態において、構造モチーフはIkaros3に由来し、配列番号6、7、8、9又は10を含む。代替的実施形態において、構造モチーフはGSTP1に由来し、配列番号11又は12を含む。別の代替的実施形態において、構造モチーフはCK1アルファに由来し、配列番号13又は14を含む。
【0085】
本発明による構造モチーフが、より大きなIMiD-依存性セレブロン基質から単離される場合、これらは、凝集を誘導し得る疎水性パッチを形成するアミノ酸残基を含み得る。このようなパッチは、任意の凝集を弱めるために変異させることができる。疎水性とみなされるアミノ酸としては、例えば、以下:アラニン(Ala)、システイン(Cys)、バリン(Val)、ロイシン(Leu)、イソロイシン(Ile)、フェニルアラニン(Phe)、メチオニン(Met)、チロシン(Tyr)及びトリプトファン(Trp)などが挙げられる。これらの残基が疎水性パッチ中に存在する場合、凝集を最小限にするため、これらの残基を、中性残基又は親水性残基、例えばセリン(Ser)、トレオニン(Thr)、ヒスチジン(His)、アルギニン(Arg)、リシン(Lys)、アスパラギン酸(Asp)、グルタミン酸(Glu)、アスパラギン(Asn)、グリシン(Gly)、プロリン(Pro)又はグルタミン(Gln)などの別のタイプのアミノ酸残基に変異させることもできる。
【0086】
例えば、セレブロン及びCC-885(セレブロンモジュレーター化合物)と複合体化したGSTP1の構造は、Matyskielaらにより報告され((2016) Nature 535(7611):252-257)、3.6Åの解像度までのデータと共にPDBコード 5HXBで寄託された。GSTP1のC末端ドメイン(残基388-499)は、セレブロン結合モチーフ及びユビキチン化部位を含むため、これを単離してデグロンとして使用することもできる。従って、一実施形態において、構造モチーフは、配列番号11(すなわち、GSTP1の残基388~499)を含み得る。
【0087】
N末端ドメインを除去することにより露出される面積は385Å2であり、これに含まれる残基は以下のとおり:
【0088】
【表2】
であって、ここで太字の残基は90Å2の疎水性パッチに含まれる。従って、疎水性パッチを低減するため、残基His417、Phe471、Gln473及び/又はMet474を、セリンなどの極性残基又は中性残基に変異させることができる。一実施形態において、上記構造モチーフは、残基His417、Phe471、Gln473及び/又はMet474が中性アミノ酸などの別のアミノ酸に変異している、配列番号11の変異体を含む。
【0089】
一実施形態において、構造モチーフは、配列番号12(すなわち変異F471S及びM474Sを有するGSTP1の残基388~499)を含み得る。この実施形態において、Gly437はキーとなる中心グリシンを表し、Lys493はユビキチン化部位として作用する。
【0090】
別の例において、セレブロン及びレナリドミドと複合体化したCK1アルファの構造がPetzoldらにより報告され((2016) Nature 532(7597):127-130)、2.45Åの解像度までのデータと共にPDBコード 5FQDで寄託された。同様に、N末端ドメイン及び/又はC末端ドメインの除去により、疎水性パッチが露出されるであろう。特に、残基Leu63、Leu67及びIle73は疎水性パッチに含まれ、このため、これらを疎水性パッチの面積を低減するための変異の候補とすることもできる。従って、一実施形態において、構造モチーフは、残基Leu63、Leu67及び/又はIle73が中性アミノ酸などの別のアミノ酸に変異している、配列番号13の変異体を含む。さらなる実施形態において、構造モチーフは、配列番号14(すなわち、変異L63H、L67Q及びI73Qを有するCK1アルファの残基8~94)を含み得る。この実施形態において、Gly40はキーとなる中心グリシンを表し、Lys62及びLys65はユビキチン化部位として作用する。
【0091】
一実施形態において、Aは、哺乳動物タンパク質をコードするポリペプチド配列である。さらなる実施形態において、哺乳動物はヒト又はマウスである。
【0092】
一実施形態において、Aは、細胞中に天然には見られないポリペプチド配列(すなわち非ネイティブタンパク質)をコードする。
【0093】
一実施形態において、Aは、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)をコードする。
【0094】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することにより制御されるポリペプチド配列は、哺乳動物タンパク質をコードする。さらなる実施形態において、哺乳動物はヒト又はマウスである。
【0095】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することにより制御されるポリペプチド配列は、細胞中に天然には見られないタンパク質(すなわち、非ネイティブタンパク質)をコードする。
【0096】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することにより制御されるポリペプチド配列は、膜貫通タンパク質である。
【0097】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することにより制御されるポリペプチド配列は、キメラ抗原受容体(CAR)又はT細胞受容体(TCR)をコードする。
【0098】
融合タンパク質は、例えば化学的結合などの当技術分野で公知の標準技術を用いて調製され得る。例えば、ポリペプチド成分(A及びB)をコードするDNA配列を別々に構築し、適切な発現ベクター中に連結することができる。一方のポリペプチド成分をコードするDNA配列の3'末端が、ペプチドリンカーを用いて又は用いずに、第2のポリペプチド成分をコードするDNA配列の5'末端に、これらの配列のリーディングフレームがインフェーズ(in phase)となるように連結される。これは、両成分のポリペプチドの生物学的活性を保持する単一の融合タンパク質への翻訳を可能とする。
【0099】
融合タンパク質は、この融合タンパク質が細胞膜に局在化するように、膜標的化ドメインをさらに含み得る。一実施形態において、ポリペプチド配列は、膜標的化ドメインをさらに含む。
【0100】
膜標的化ドメインは、上記分子を細胞膜に結合させる化学修飾又は特定のタンパク質配列であり得る。従って、一実施形態において、膜標的化領域は、以下:ミリストイル化標的化配列、パルミトイル化標的化配列、プレニル化配列(すなわち、ファルネシル化、ゲラニル-ゲラニル化、CAAXボックス)、タンパク質-タンパク質相互作用モチーフ又は膜貫通配列(例えば受容体由来の)から選択される。
【0101】
一実施形態において、融合タンパク質は遺伝子的融合物である。代替的実施形態において、融合タンパク質は、化学的結合を用いて、例えば成分A及とBとを融合させるために使用される従来の化学的クロスリンカーを用いて作製される。
【0102】
一実施形態において、融合タンパク質は、ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とを含む。
【0103】
一実施形態において、融合タンパク質は、ポリペプチド配列とユビキチン標的化タンパク質とを含み、ここでユビキチン標的化タンパク質は、配列番号6~14及び27からなる群から選択される配列からなる。
【0104】
免疫調節イミド薬
一実施形態において、化合物は免疫調節イミド薬(IMiD)である。かかる薬は、イミド基を含む免疫調節薬のクラスである。現在、IMiDの主な用途は、がん及び自己免疫疾患の治療である。
【0105】
一実施形態において、IMiDは、サリドマイド、レナリドミド若しくはポマリドミド、又はその機能的誘導体若しくは類似体である。さらなる実施形態において、IMiDは、サリドマイド、レナリドミド及びポマリドミド、又はその機能的誘導体若しくは類似体からなる群から選択される。
【0106】
キメラ抗原受容体
本発明のさらなる態様によれば、以下:
細胞外リガンド結合ドメイン;
膜貫通ドメイン;
細胞内シグナル伝達ドメイン;及び
ある化合物の存在下でユビキチンリガーゼにより結合され得る本明細書中に記載されるユビキチン標的化タンパク質
を含むキメラ抗原受容体(CAR)が提供される。
【0107】
一実施形態において、ユビキチン化標的化ドメインは、配列番号6~14からなる群から選択される配列又はそれらの機能的断片若しくは機能的変異体からなる。
【0108】
一実施形態において、ユビキチン化標的化ドメインは、配列番号6~14、27又はそれらの機能的断片若しくは機能的変異体からなる群から選択される配列からなる。
【0109】
本明細書中に記載されるとおり、上記化合物(例えばIMiD)は、ユビキチンリガーゼに結合してユビキチンリガーゼがユビキチン標的化タンパク質に結合することを可能とし、これにより、キメラ抗原受容体がユビキチン化され得るようにキメラ抗原受容体をユビキチンリガーゼに近づけることができる。ユビキチン化されると、キメラ抗原受容体は、プロテアソームにより分解され得るか又はそのシグナル伝達活性がユビキチン鎖の存在により損なわれ得る。
【0110】
本発明のCARは、ある化合物の存在下でユビキチンリガーゼにより結合され得る細胞内ユビキチン標的化タンパク質を含む。ユビキチン標的化タンパク質をCAR構築物に含めることにより、宿主細胞により発現されるCARは、ユビキチン標的化タンパク質とユビキチンリガーゼとの間の結合を媒介しユビキチン-プロテアソーム経路を利用してCARを分解する化合物に曝露されると、容易に且つ迅速に分解され得る。このようにして、CAR中のユビキチン標的化タンパク質を標的とする化合物を投与することは、CAR発現細胞中のCAR又はその一部の分解が、活性化シグナル伝達の発生を妨げるため、CAR発現細胞の活性化の調節を可能とする。この戦略を利用して、例えば有害な炎症応答を低下させるためCAR発現細胞の活性化を低減するように、CAR発現細胞の活性化を調節することができる。さらに、この戦略を利用することにより、宿主細胞は分解を免れ、CARだけが分解される。
【0111】
さらに、本明細書中に記載される最小のデグロンの使用は、それがCAR構築物のシグナル伝達を妨げる可能性が低いことを意味する。
【0112】
標準的なキメラ抗原受容体は、当技術分野において公知であり、一般的に、標的結合ドメイン、膜貫通ドメイン及び細胞内エフェクタードメインを含む。
【0113】
標的結合ドメイン(細胞外リガンド結合ドメインとも呼ばれる)は標的に結合し、特に、この標的は、腫瘍特異的分子、ウイルス分子、又は、リンパ球による認識及び除去を媒介するのに適した、標的細胞集団上で発現される任意の他の分子である。一実施形態において、標的結合ドメインは、抗体、抗原結合フラグメント又はリガンドを含む。一実施形態において、標的結合ドメインは、抗体又はそのフラグメントを含む。一実施形態において、標的結合ドメインはリガンド(例えば、標的抗原の天然のリガンド)である。代替的実施形態において、標的結合ドメインは抗原結合フラグメントである。さらなる実施形態において、抗原結合フラグメントは、一本鎖可変フラグメント(scFv)又はdAbである。なおさらなる実施形態において、前記scFvは、柔軟なリンカーにより連結された標的抗原特異的モノクローナル抗体の軽鎖(VL)及び重鎖(VH)可変フラグメントを含む。
【0114】
一実施形態において、標的結合ドメインは、2つ以上の標的、例えば2つの異なる標的に結合することができる。このような標的結合ドメインは、二重特異性一本鎖抗体に由来し得る。例えば、ブリナツモマブ(AMG 103又はMT103としても知られる)は、単一のポリペプチド鎖に構築された4つの免疫グロブリン可変ドメインからなる組換えCD19及びCD3二重特異性scFv抗体である。これらの可変ドメインのうち2つは、大部分の正常B細胞及び悪性B細胞上で発現される細胞表面抗原であるCD19に対する結合部位を形成する。他の2つの可変ドメインは、T細胞上のT細胞受容体複合体の一部であるCD3に対する結合部位を形成する。これらの可変ドメインは、CARにおいて直列に配置されていてよく、すなわち、2つの一本鎖抗体可変フラグメント(scFv)が、スペーサー、並びに膜貫通ドメイン及びシグナル伝達ドメインにつながれている。4つの可変ドメインは、当技術分野において公知の任意の好適なリンカーで連結され、CAR分子内で任意の特定の順序で配置され得る(例えば、VL(第1標的)-VH(第1標的)-VH(第2標的)-VL(第2標的)又はVL(第2標的)-VH(第2標的)-VH(第1標的)-VL(第1標的)等)。
【0115】
標的結合ドメインは様々な細胞表面抗原に結合し得るが、一実施形態において、標的結合ドメインは腫瘍関連抗原に結合する。さらなる実施形態において、腫瘍関連抗原は、以下から選択される:BCMA、がん胎児抗原(CEA)、がん抗原-125、CA19-9、CD5、CD13、CD19、CD20、CD22、CD27、CD30、CD33、CD34、CD45、CD52、CD70、CD117、CD138、CD160、上皮成長因子受容体(EGFR)、葉酸結合タンパク質、ガングリオシドG2(GD2)、HER2、メソテリン、MUC-1、神経細胞接着分子(NCAM)、前立腺幹細胞抗原(PSCA)、前立腺特異的膜抗原(PSMA)、前立腺性酸性ホスファターゼ(PAP)、タンパク質メラン-A、シナプトフィシス(synaptophysis)、前立腺の6回膜貫通上皮抗原I(STEAP1)、TARP、Trp-p8、チロシナーゼ又はビメンチン。なおさらなる実施形態において、腫瘍関連抗原はBCMAである。
【0116】
一実施形態において、細胞外リガンド結合ドメインは、抗B細胞成熟抗原(BCMA)一本鎖Fvアミノ酸配列である。
【0117】
一実施形態において、細胞外リガンド結合ドメインは、配列番号29を含む抗BCMA一本鎖Fvアミノ酸配列である。
【0118】
一実施形態において、標的結合ドメインは、約500ナノモル(nM)未満、例えば約400nM未満、350nM未満、300nM未満、250nM未満、200nM未満、150nM未満、100nM未満、90nM未満、80nM未満、70nM未満、60nM未満、50nM未満、40nM未満、30nM未満、20nM未満、10nM未満、9nM未満、8nM未満、7nM未満、6nM未満、5nM未満、4nM未満、3nM未満、2nM未満、1nM未満、0.5nM未満又は0.25nM未満の結合親和性を有する。一実施形態において、標的結合ドメインは、約10nM~約0.25nMの結合親和性を有する。さらなる実施形態において、標的結合ドメインは、約1nM~約0.5nM(すなわち、約1000pM~約500pM)の結合親和性を有する。
【0119】
一実施形態において、CARは、標的結合ドメインと膜貫通ドメインとの間のスペーサードメインをさらに含む。スペーサーは、標的結合ドメインが、結合を容易にするために異なる方向に配向するのを可能とし、標的結合相互作用を高めるために用いることができる。一実施形態において、スペーサーは、IgG(例えば、IgG1 Fc領域又はIgG1ヒンジ領域)、CD8又はCD4に由来する配列を含む。
【0120】
一実施形態において、膜貫通ドメインは、天然源に由来してもよく、又は合成源に由来してもよい。一実施形態において、膜貫通ドメインは、任意の膜結合又は膜貫通タンパク質に由来し得る。あるいは、膜貫通ドメインは合成であってもよく、ロイシン及びバリンなどの疎水性残基を主に含み得る。
【0121】
例えば、膜貫通ドメインは、CDタンパク質(例えばCD4、CD8、CD3又はCD28)の膜貫通ドメイン、T細胞受容体のサブユニット(例えばα、β、γ又はδ)の膜貫通ドメイン、IL-2受容体のサブユニット(α鎖)の膜貫通ドメイン又はFc受容体のサブユニット鎖の膜貫通ドメインであり得る。一実施形態において、膜貫通ドメインは、CD4、CD8又はCD28の膜貫通ドメインを含む。さらなる実施形態において、膜貫通ドメインは、CD4又はCD8の膜貫通ドメイン(例えば、NCBI参照配列:NP_001139345.1に記載されるCD8アルファ鎖、参照により本明細書中に組み込まれる)を含む。
【0122】
一実施形態において、膜貫通ドメインは配列番号17を含む。
【0123】
CARは、膜貫通ドメインの隣に(例えば、標的結合ドメインと膜貫通ドメインとの間に)ヒンジ配列をさらに含み得る。従って、一実施形態において、ヒンジ配列は、配列番号18を含む。さらなる実施形態において、このヒンジ及び膜貫通ドメインは、配列番号19の完全長配列を含む。
【0124】
一部の実施形態において、膜貫通ドメインは、CD8α膜貫通へリックスと、その直後に続く、膜界面と適合性がある配列の伸長を含む4-1BBの完全長細胞内ドメインで構成される。膜貫通ドメインの隣のドメインが膜界面と適合性がある配列を有さない場合、リンカーを使用してもよい。
【0125】
本明細書中に記載されるCARにおいて使用するための細胞内エフェクタードメインの好ましい例は、抗原結合後にシグナル伝達を開始するように協調して作用するナチュラルT細胞受容体及び共受容体の細胞質配列、並びに同じ機能的能力を有するこれらの配列の任意の誘導体又は変異体及び任意の合成配列であり得る。これらのドメインは、2つのクラス:抗原依存性一次活性化を開始するドメイン、及び抗原依存性様式で作用して二次シグナル又は共刺激シグナルを提供するドメイン、に分けられる。一次活性化エフェクタードメインは、免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)として知られるシグナル伝達モチーフを含み得る。ITAMは十分に定義されたシグナル伝達モチーフであり、様々な受容体の細胞質内の尾部に一般的に見られ、syk/zap70クラスのチロシンキナーゼに対する結合部位としての役割を果たす。本発明において使用されるITAMの例としては、非限定的な例として、CD3ゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、FcRイプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b及びCD66dに由来するITAMなどが挙げられる。一実施形態において、細胞内エフェクタードメインは、CD3ゼータシグナル伝達ドメイン(CD247としても知られる)を含む。さらなる実施形態において、CD3ゼータシグナル伝達ドメインは、配列番号20を含む。この配列は、Uniprot P20963、残基51~164においても見られる。天然TCRはCD3ゼータシグナル伝達分子を含み、従ってこのエフェクタードメインの使用は、天然に存在するTCR構築物に最も近い。
【0126】
一実施形態において、CARの細胞内エフェクタードメインは、配列番号20と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、90%、95%、97%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有するCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む。さらなる実施形態において、CARの細胞内エフェクタードメインは、配列番号20のアミノ酸配列を含むCD3ゼータシグナル伝達ドメインを含む。
【0127】
またCARは、二次シグナル又は共刺激シグナルも提供し得る。T細胞は、例えば増殖活性化、分化などを高めることによりT細胞応答を増強するため、抗原提示細胞上の同種共刺激リガンドに結合する共刺激分子を付加的に含む。従って、一実施形態において、CARは、共刺激ドメインをさらに含む。さらなる実施形態において、共刺激ドメインは、CD28、CD27、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、ICOS(CD278)、CD30、CD40、PD-1(CD279)、CD2、CD7、NKG2C(CD94)、B7-H3(CD276)又はそれらの任意の組み合わせから選択される共刺激分子の細胞内ドメインを含む。なおさらなる実施形態において、共刺激ドメインは、CD28、CD27、4-1BB、OX40、ICOS又はそれらの任意の組み合わせから選択される共刺激分子の細胞内ドメイン、特に4-1BBの細胞内ドメインを含む。
【0128】
一実施形態において、共刺激ドメインは、配列番号21と少なくとも70%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、90%、95%、97%又は99%の配列同一性を有するアミノ酸配列を有する4-1BBシグナル伝達ドメインを含む。さらなる実施形態において、共刺激ドメインは、配列番号21の4-1BBシグナル伝達ドメインを含む。この配列は、Uniprot Q07011、残基214~255にも見られる。この共刺激ドメインを用いることの利点は、このドメインがユビキチン化部位として機能するリシン残基(Lys219)を含み、このため4-1BB共刺激を含むCAR構築物と共に用いられるユビキチン標的化タンパク質は、ユビキチン化が誘導されるようにするためにユビキチン化部位自体を含む必要がないことである。
【0129】
CAR上の細胞内成分(すなわち、シグナル伝達ドメイン、共刺激ドメイン及びユビキチン標的化タンパク質)は、これらが細胞内に位置している限り、CAR構築物中で任意の順序で配置され得ることが理解されるであろう。従って、一実施形態において、CAR構築物は、上記ドメインを以下の順序で含む:細胞外リガンド結合ドメイン-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン-ユビキチン標的化タンパク質;細胞外リガンド結合ドメイン-膜貫通ドメイン-ユビキチン標的化タンパク質-細胞内シグナル伝達ドメイン;細胞外リガンド結合ドメイン-膜貫通ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン-ユビキチン標的化タンパク質-共刺激ドメイン;細胞外リガンド結合ドメイン-膜貫通ドメイン-共刺激ドメイン-細胞内シグナル伝達ドメイン-ユビキチン標的化タンパク質;又は細胞外リガンド結合ドメイン-膜貫通ドメイン-共刺激ドメイン-ユビキチン標的化タンパク質-細胞内シグナル伝達ドメイン。さらなる実施形態において、CAR構築物は、上記ドメインを以下の順序で含む:細胞外リガンド結合ドメイン-膜貫通ドメイン-共刺激ドメイン-ユビキチン標的化タンパク質-細胞内シグナル伝達ドメイン。
【0130】
一実施形態において、ユビキチン標的化タンパク質は、CARのC末端上にある。
【0131】
CARをコードする核酸配列は、CAR構築物の1つ以上のドメイン間のセパレーター/リンカー配列も含み得る。本発明によるリンカーは、単独で、又は他のリンカーに加えて、G残基、S残基又はGS残基の1つ以上のセットを含み得る。一実施形態において、リンカーは、(GS)n及び/又は(GGGGS)p (式中、n=1~10、且つp=1~3である)を含む。一実施形態において、リンカーは、GSGSGS(配列番号23)、GSGSGSGSGS(配列番号24)又はGGGGS(配列番号25)を含む。
【0132】
本発明のさらなる態様によれば、キメラ抗原受容体細胞療法の活性を制御する方法であって、以下:
(a) 免疫調節細胞に、本明細書中に記載されるキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドを形質導入又はトランスフェクトすること;
(b) 免疫調節細胞中で前記ポリヌクレオチドを発現させること;
(c) 化合物の添加によりキメラ抗原受容体の活性化を制御すること;
を含み、ここで上記化合物は、キメラ抗原受容体をユビキチンリガーゼに近づけるような方法でa) ユビキチン標的化タンパク質とb) ユビキチンリガーゼとの結合を媒介し、上記キメラ抗原受容体は上記化合物の存在下でユビキチン化され得る、上記方法が提供される。
【0133】
理論に拘泥するものではないが、化合物の添加は、CARの分解をもたらし、これによりCARのレベル及び活性を低下させる(すなわちオフにする)と考えられる。CARの少なくとも一部を分解することにより、CARが免疫エフェクター細胞(例えばCAR T細胞)を活性化させる能力は弱まる。本明細書中で想定されるとおり、CARの十分な分解が起こると、CARのシグナル伝達機能は破壊される。あるいは、ポリユビキチン鎖の結合が立体障害を引き起こし、これが立体阻害による活性の低下をもたらすこともあり得る。
【0134】
シグナルペプチド
本明細書中に記載される融合タンパク質の成分は、ある成分が細胞中で発現される場合、その新生タンパク質を小胞体に向け、その後それが発現され得る細胞表面に向けるようにシグナルペプチドを含み得る。
【0135】
シグナルペプチドのコアは、単一のアルファへリックスを形成する傾向を有する疎水性アミノ酸の長い伸長を含み得る。シグナルペプチドは、転位中のポリペプチドの適切なトポロジーを増強するのに役立つ短く正に荷電したアミノ酸の伸長部で開始し得る。シグナルペプチドの終端には、典型的には、シグナルぺプチダーゼにより認識されて切断されるアミノ酸の伸長部が存在する。シグナルぺプチダーゼは、転位中又は転位の完了後のいずれかに切断を行い、遊離シグナルペプチドと成熟タンパク質を生成することができる。その後この遊離シグナルペプチドは特定のプロテアーゼにより消化される。シグナルペプチドは本分子のアミノ末端に存在し得る。
【0136】
一実施形態において、シグナルペプチドはCD8(UniProt P01732を参照)に由来する。さらなる実施形態において、シグナルペプチドは、5、4、3、2又は1個のアミノ酸変異(挿入、欠失、置換又は付加)を有する配列番号22又はその変異体を含むが、但し上記シグナルペプチが依然として上記成分(すなわち、機能的変異体)の細胞表面発現を引き起こすように機能することを条件とする。
【0137】
ポリヌクレオチド及び発現ベクター
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載されるユビキチン標的化タンパク質をコードする単離されたポリヌクレオチドが提供される。本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載される融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが提供される。本発明のなおさらなる態様によれば、本明細書中に記載されるキメラ抗原受容体をコードするポリヌクレオチドが提供される。
【0138】
本明細書中に記載されるポリヌクレオチド配列は、コドン最適化され得る。遺伝コード中に見られる縮重は、各アミノ酸が、多くの代替的核酸配列が同一タンパク質をコードすることを可能とする1~6つの同義コドンによりコードされることを可能にする(Gustafsson et al. (2004) Trends Biotechnol. 22(7):346-53)。コドン最適化は、異種発現系における遺伝子の発現率を増加させることを目的として遺伝子配列を改変するために用いられる技術である;典型的には、目的タンパク質をコードするヌクレオチド配列は、コドン使用頻度が宿主細胞のコドンバイアスにより密接に類似するが、依然として同一アミノ酸配列をコードするようにコドン最適化される。
【0139】
本明細書中に記載される核酸は、DNA又はRNAを含み得る。これらは一本鎖であってもよく、又は二本鎖であってもよい。またこれらは、その中に合成ヌクレオチド又は修飾ヌクレオチドを含むポリヌクレオチドであってもよい。メチルホスホネートバックボーン及びホスホロチオエートバックボーン、又はアクリジンの付加若しくはポリリシン鎖の付加などの多数の異なる種類の修飾が当技術分野において周知である。このような修飾は、本発明のポリヌクレオチドのin vivo活性又は寿命を高めるために使用することができる。
【0140】
ポリヌクレオチドは、発現カセット又は発現ベクター(例えば、細菌宿主細胞への導入用のプラスミド、又は哺乳動物宿主細胞のトランスフェクション用のレンチウイルスなどのウイルスベクター)中に存在し得る。従って、本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載されるポリヌクレオチドのいずれかを含む発現ベクターが提供される。
【0141】
用語「ベクター」は、外来遺伝物質を、それが複製及び/又は発現され得る別の細胞中に人工的に運ぶことができるビヒクルを指す。一実施形態において、ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、トランスポゾンベースのベクター又は合成mRNAである。
【0142】
一実施形態において、発現ベクターはレトロウイルスベクターである。さらなる実施形態において、レトロウイルスベクターは、レンチウイルス、アルファ-レトロウイルス、ガンマ-レトロウイルス又は泡沫状レトロウイルス(例えばレンチウイルス又はガンマ-レトロウイルス、特にレンチウイルス)に由来するか又はこれらから選択される。さらなる実施形態において、レトロウイルスベクター粒子は、HIV-1、HIV-2、SIV、FIV、EIAV及びVisnaからなる群から選択されるレンチウイルスである。レンチウイルスは非分裂(すなわち、静止)細胞に感染することが可能であり、このことが、このウイルスを魅力的な遺伝子療法用ベクターとしている。なおさらなる実施形態において、レトロウイルスベクター粒子は、HIV-1であるか、又はHIV-1に由来する。幾つかのレトロウイルスのゲノム構造は、当技術分野において見出され得る。例えば、HIV-1についての詳細は、NCBI Genbank(ゲノム受託No. AF033819)から見出すことができる。HIV-1は最もよく理解されているレトロウイルスの1つであり、このため、しばしばウイルスベクターとして用いられる。
【0143】
宿主細胞
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載される融合タンパク質を含む細胞が提供される。本発明の別の態様によれば、本明細書中に記載されるポリヌクレオチド又は発現ベクターを含む細胞が提供される。
【0144】
一実施形態において、細胞は免疫調節細胞である。用語「免疫調節細胞」は、自然免疫応答及び/又は適応免疫応答の調節(例えば、開始及び/又は実行)に機能的に関与する造血系由来の細胞を指す。本発明による前記免疫調節細胞は、幹細胞に由来し得る。幹細胞は、成体幹細胞、非ヒト胚性幹細胞、さらに特に非ヒト幹細胞、臍帯血幹細胞、前駆細胞、骨髄幹細胞、誘導性多能性幹細胞、分化全能性幹細胞又は造血系幹細胞であり得る。また前記免疫調節細胞は、樹状細胞、キラー樹状細胞、マスト細胞、NK細胞、B細胞又はT細胞であってもよい。T細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、調節性Tリンパ球若しくはヘルパーTリンパ球、又はそれらの組み合わせからなる群から選択され得る。従って、一実施形態において、免疫調節細胞は、炎症性Tリンパ球、細胞傷害性Tリンパ球、調節性Tリンパ球又はヘルパーTリンパ球に由来する。別の実施形態において、前記細胞は、CD4+Tリンパ球及びCD8+Tリンパ球からなる群に由来し得る。
【0145】
一実施形態において、免疫調節細胞はヒト免疫調節細胞であり得る。
【0146】
一実施形態において、免疫調節細胞は同種又は自己である。「自己」は、患者自身から得られた細胞を指すが、「同種」は、ドナーから得られた細胞を指すことが理解されるであろう。自己細胞は、これらが患者に適合し、このため移植片対宿主病(GvHD)をもたらす任意の免疫学的適合性の問題を回避するという利点を有する。同種細胞が患者に拒絶されるのを防ぐためには、これらの細胞は、適合性のドナーに由来する必要性があるか、又は望ましくない免疫応答を開始する可能性がある抗原が確実に細胞表面に提示されないように改変される必要性がある。
【0147】
本発明の細胞の増殖及び遺伝子改変前に、様々な非限定的方法により対象から細胞源を得ることができる。細胞は、例えば末梢血単核細胞、骨髄、リンパ節組織、臍帯血、胸腺組織、感染部位由来の組織、腹水、胸水、脾臓組織、及び腫瘍などの多数の非限定的な源から得ることができる。本発明の特定の実施形態において、当業者に利用可能且つ公知の任意数のT細胞株を用いることができる。別の実施形態において、前記細胞は、健常ドナー、又はがんと診断された患者若しくは感染していると診断された患者などの疾患ドナーに由来し得る。別の実施形態において、前記細胞は、異なる表現型的特徴を示す細胞の混合集団の一部である。
【0148】
免疫調節細胞は、本明細書中に記載される融合タンパク質をコードするポリヌクレオチド又は発現ベクターが形質導入される前に活性化及び/又は増殖させることができる。例えば、上記細胞を抗CD3モノクローナル抗体で処理して活性化を引き起こすことができる。
【0149】
免疫調節細胞は、本明細書中に記載される融合タンパク質を(使用されるトランスフェクション法、及び融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドが免疫調節細胞ゲノムに組み込まれているか否かに応じて)一時的に又は安定的に/恒久的に発現し得ることが理解されるであろう。
【0150】
融合タンパク質の導入後、免疫調節細胞は精製され得る。
【0151】
用途
本明細書中に記載される発明は、安全スイッチの一部としての最小のユビキチン標的化タンパク質の使用を提供する。従って、本発明の一態様によれば、安全スイッチとしての本明細書中に記載されるユビキチン標的化タンパク質の使用が提供される。
【0152】
一実施形態において、安全スイッチは、遺伝子療法(又はその方法)において使用される。さらなる実施形態において、遺伝子療法は細胞遺伝子療法である。
【0153】
本明細書中に記載されるとおり、用語「安全スイッチ」は、害を及ぼし得る生物学的プロセスを制御するためにオンデマンドで活性化され得る生化学的メカニズムを指す。従って、一実施形態において、安全スイッチは、キメラ抗原受容体(CAR)又は異種T細胞受容体(TCR)のシグナル伝達を制御するために使用される。
【0154】
一実施形態において、TCRは遺伝子改変されている。さらなる実施形態において、T細胞受容体の親和性は、前記受容体の天然の環境においては通常は存在しない親和性及び/又は特異性に変化している。なおさらなる実施形態において、T細胞受容体の親和性は、自己抗原、腫瘍抗原及び/又病原体由来抗原に対する親和性に変化している。
【0155】
本発明のさらなる態様によれば、治療法において使用するための、本明細書中に記載される細胞が提供される。一実施形態において、治療法は、かかる治療法を必要とするヒト対象に対する細胞の投与を含む。
【0156】
本発明のさらなる態様によれば、遺伝子療法の方法における、本明細書中に記載される融合タンパク質の使用が提供される。
【0157】
一実施形態において、治療法は養子細胞療法である。「養子細胞療法」(又は「養子免疫療法」)は、標的細胞上で発現される表面分子に特異的なCAR又はTCRを発現するように遺伝子導入により操作されたヒトTリンパ球の養子移入を指す。この治療法は、選択される標的(例えば、がんを治療するための腫瘍特異的抗原)に応じて様々な疾患を治療するために使用することができる。養子細胞療法は、白血球アフェレーシスと呼ばれる方法を用いて患者の白血球の一部を除去することを含む。その後、融合タンパク質をT細胞に永久的に移入するため、T細胞を増殖させて本明細書中に記載される発現ベクターと混合し得る。このT細胞を再び増殖させ、増殖の最後にT細胞を洗浄し、濃縮し、その後、試験、輸送、及び患者が操作されたT細胞の注入を受ける準備ができるまでの保存の時間を考慮して凍結させる。
【0158】
医薬組成物
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中で定義される複数の細胞を含む医薬組成物が提供される。一実施形態において、上記細胞は、ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とをコードするポリヌクレオチド配列を含む。一実施形態において、上記細胞は、ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とをコードする発現ベクターを含む。一実施形態において、ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とをコードするポリヌクレオチド配列又は発現ベクターを含む細胞は、免疫調節細胞である。一実施形態において、ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とをコードするポリヌクレオチド配列又は発現ベクターを含む細胞は、T細胞である。
【0159】
付加的な医薬組成物成分の例としては、限定するものではないが、例えば、任意のアジュバント、担体、賦形剤、流動促進剤、甘味剤、希釈剤、保存剤、色素/着色剤、調味料、界面活性剤、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、安定剤、等張剤、溶媒、界面活性剤、乳化剤、緩衝剤(例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS))、糖(例えばグルコース、マンノース、スクロース又はデキストラン)、アミノ酸、抗酸化剤又はキレート剤(例えばEDTA又はグルタチオン)などが挙げられる。
【0160】
一実施形態において、医薬組成物は、製薬上許容可能な賦形剤、担体、又は希釈剤をさらに含む。担体、賦形剤又は希釈剤は、組成物の他の成分と適合し、そのレシピエントに有害ではないという意味において「許容可能」でなければならない。本発明によれば、使用される任意の賦形剤、ビヒクル、希釈剤又は添加剤は、本明細書中に記載される融合タンパク質と適合性を有していなければならないだろう。好適な製剤を調製するため、「Remington’s Pharmaceutical Science」第17版(1985年)などの、当技術分野において公知の標準的な教科書(参照により本明細書中に組み込まれる)を参考にすることができる。
【0161】
医薬組成物は、注射又は持続注入(例としては、限定するものではないが、静脈内、腫瘍内、腹腔内、皮内、皮下、筋肉内及び門脈内などが挙げられる)により投与することができる。一実施形態において、組成物は静脈投与に好適である。本発明の治療用組成物(例えば、本明細書中に記載される遺伝子改変細胞を含む医薬組成物)を投与する場合、これは、一般的に単位用量注射可能形態(溶液剤、懸濁剤、乳剤)で製剤化される。医薬組成物は、局所投与(例えば、限定するものではないが、皮膚上投与、吸入投与、鼻腔内投与又は眼内投与など)又は腸内投与(例えば、限定するものではないが、経口投与又は直腸投与など)に好適であり得る。
【0162】
このような医薬組成物の調製方法は当業者に周知である。この組成物に、使用される投与様式及び特定のタンパク質に適するように、他の賦形剤を添加してもよい。
【0163】
本発明の組成物を投与するための有効用量及び治療レジメンは、患者の年齢、体重及び健康状態並びに治療対象の疾患などの因子により決定され得る。このような因子は、担当医師の権限内である。
【0164】
本発明のさらなる態様によれば、疾患の治療又は予防において使用するための、本明細書中で定義される医薬組成物が提供される。
【0165】
一実施形態において、疾患は、がん、病原性免疫応答及び感染から選択される。
【0166】
本発明のさらなる態様によれば、疾患の治療及び/又は予防のための医薬の製造における、本明細書中に記載される医薬組成物の使用が提供される。
【0167】
キット
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載される融合タンパク質、キメラ抗原受容体、ポリヌクレオチド、発現ベクター、細胞及び/又は医薬組成物を含むキットが提供される。
【0168】
方法
本発明のさらなる態様によれば、免疫調節細胞(すなわち、本明細書中に記載される融合タンパク質を発現するための免疫調節細胞)を操作する方法であって、
(a) 免疫調節細胞を提供すること;
(b) 本明細書中で定義されるポリヌクレオチド又は発現ベクターを、前記免疫調節細胞に形質導入又はトランスフェクトすること;及び
(c) 前記ポリヌクレオチド又は前記発現ベクターを免疫調節細胞中で発現させること
を含む、上記方法が提供される。
【0169】
一実施形態において、免疫調節細胞は、患者(すなわち自己)から単離されたサンプルから得られる。代替的実施形態において、免疫調節細胞はドナー(すなわち同種)から得られる。
【0170】
非限定的な例として、融合タンパク質は、本明細書中に記載される発現ベクターによりコードされる導入遺伝子として導入され得る。また発現ベクターは、前記ベクターを受容した細胞の同定及び/又は選択を提供する選択マーカーも含み得る。
【0171】
ポリペプチドは、細胞中への前記融合タンパク質をコードするポリヌクレオチドの導入の結果として、上記細胞中でin situで合成され得る。あるいは、前記ポリペプチドは、細胞の外側で産生され、その後細胞に導入されてもよい。ポリヌクレオチド構築物を細胞中に導入する方法は、当技術分野において公知であり、非限定的な例として、ポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノム中に組み込まれる安定な形質転換法、又はポリヌクレオチド構築物が細胞のゲノム中に組み込まれない一時的形質転換法及びウイルス媒介法などが挙げられる。前記ポリヌクレオチドは、例えば、組換えウイルスベクター(例えば、レトロウイルス、アデノウイルス)、リポソームなどにより細胞中に導入され得る。例えば、一時的形質転換法として、例えばマイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法又は微粒子銃法などが挙げられる。ポリヌクレオチドは、細胞中で発現されることを考慮して、ベクター、さらに具体的にはプラスミド又はウイルス中に含めてもよい。
【0172】
本明細書中で使用される用語「トランスフェクション」、「形質転換」及び「形質導入」は、標的細胞中への発現ベクターの挿入を表するために使用することができる。ベクターの挿入は、通常、細菌細胞については形質転換、また真核細胞についてはトランスフェクションと呼ばれるが、ウイルスベクターの挿入は、形質導入と呼ぶこともできる。当業者は、例えば、限定するものではないが、物理的方法(例えば、エレクトロポレーション、細胞スクイージング(cell squeezing)、ソノポレーション、光学的トランスフェクション、プロトプラスト融合、インペールフェクション(impalefection)、マグネトフェクション、遺伝子銃法又は微粒子銃法)、化学試薬(例えば、リン酸カルシウム、多分岐有機化合物又はカチオン性ポリマー)又はカチオン性脂質(例えば、リポフェクション)の使用などの、一般的に用いられる様々な非ウイルス性のトランスフェクション法も認識しているであろう。多くのトランスフェクション法は、プラスミドDNA溶液の細胞への接触を必要とし、これらの細胞はその後増殖され、マーカー遺伝子発現について選択される。
【0173】
融合タンパク質が免疫調節細胞に導入されると、前記細胞を「形質導入細胞」と呼ぶことができる。従って、本発明のさらなる態様によれば、本明細書中に記載される方法により得られる細胞が提供される。また、本明細書中に記載される方法による形質導入細胞から得られる細胞株も本発明の範囲内である。
【0174】
本発明のさらなる態様によれば、ユビキチン標的化タンパク質とユビキチンリガーゼとの間の結合を媒介する化合物を対象に投与することを含む、本明細書中で定義される免疫調節細胞を含む対象におけるCAR系を阻害する方法が提供される。このような化合物は、CARがユビキチン化され得るようにCARをユビキチンリガーゼに近づけるであろう。その後、ユビキチン化されたCARはプロテアソームにより分解され得る。
【0175】
本明細書中に記載される系によるCARシグナル伝達のレベルは、存在する化合物の量、又は化合物が存在する時間の量を変化させることにより調整することができる。従って、一実施形態において、CAR細胞活性化のレベルは、対象に投与される化合物の用量を低減することにより、又はその投与頻度を低減することによって増加させることができる。代替的実施形態において、CAR細胞活性化のレベルは、化合物の用量、又は対象への投与頻度を増加させることによって低下させることができる。
【0176】
理論に拘泥するものではないが、より高いレベルのCARシグナル伝達は、疾患進行の低下、しかし潜在的には毒性活性の増加に関連する可能性が高く、他方、より低いレベルのCARシグナル伝達は、疾患進行の増加、しかし潜在的には毒性活性の低下に関連する可能性が高い。
【0177】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中で定義される細胞又は医薬組成物を対象に投与することを含む、疾患を治療及び/又は予防する方法が提供される。
【0178】
一実施形態において、疾患はがんである。さらなる実施形態において、がんは、以下:血液、骨髄、リンパ、リンパ系、膀胱、乳房、結腸、頸部、食道、腎臓、大腸、肺、口腔、卵巣、膵臓、前立腺、直腸、皮膚又は胃から選択される。なおさらなる実施形態において、がんは血液がんであり、例えば、以下:B細胞白血病、多発性骨髄腫(MM)、急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)及び非ホジキンリンパ腫からなる群から選択される。
【0179】
本明細書中に記載される方法が、がんを治療するために用いられる場合、一実施形態において、この方法は、対象における腫瘍細胞の数を低下させ、腫瘍サイズを低下させ、及び/又は腫瘍を根絶する。
【0180】
一実施形態において、疾患は、自己免疫疾患、アレルギー又は移植片対宿主拒絶反応などの病原性免疫応答である。自己免疫疾患は、体内に正常に存在する物質及び組織に対する体の異常な免疫応答から生じる。これは、組織の損傷若しくは破壊、又は器官の成長若しくは機能の変化をもたらし得る。自己免疫疾患の例としては、限定するものではないが、以下:1型糖尿病、関節炎(例えば、若年性関節炎、乾癬性関節炎、反応性関節炎及びリウマチ性関節炎など)、乾癬、多発性硬化症、血管炎、円形脱毛症、悪性貧血、糸球体腎炎、自己免疫性肝炎、自己免疫性膵炎、潰瘍性大腸炎、全身性エリテマトーデス、グレーブス病、ギラン・バレー症候群、シェーグレン症候群、セリアック病、クローン病及びヴェーグナー症候群などが挙げられる。
【0181】
一実施形態において、疾患は感染である。感染は、細菌、ウイルス、寄生生物、原虫又は真菌などの病原体により引き起こされ得る。さらなる実施形態において、感染はウイルス感染又は細菌感染である。
【0182】
一実施形態において、対象は哺乳動物である。さらなる実施形態において、哺乳動物は、以下:ヒト、マウス、霊長類、ウシ、ブタ、ウマ、ヒツジ、ネコ、及びイヌからなる群から選択される。なおさらなる実施形態において、対象はヒトである。
【0183】
治療及び/又は予防の方法は、以下のステップ:
(a) 細胞(1つ又は複数)を提供するステップ;
(b) 本明細書中で定義されるポリヌクレオチド又は発現ベクターを前記細胞(1つ又は複数)に形質導入又はトランスフェクトするステップ;
(c) 前記ポリヌクレオチド又は前記発現ベクターを細胞(1つ又は複数)中で発現させるステップ;及び
(d) 細胞(1つ又は複数)を患者に投与するステップ
を含み得る。
【0184】
一実施形態において、この方法は、(e) ユビキチン標的化タンパク質とユビキチンリガーゼとの間の結合を媒介する化合物を投与するステップ、をさらに含む。このステップは、前記ポリヌクレオチド又は前記発現ベクターにより発現されるポリペプチド配列のレベル及び/又は活性を制御するために用いることができる。上記化合物は、ポリヌクレオチド又は発現ベクターの前に又はこれらと同時に(すなわち、上記に概説される治療ステップの方法におけるステップ(d)の前に又は最中に)患者に投与され得る。本明細書中に記載されるCARの文脈において、ポリペプチド/発現ベクターの前/同時の化合物の投与は、CARが「不活性」又は「低活性」(すなわちオフ(OFF))状態で投与されることを可能とする。その後、CARを活性化するために薬剤の量を低減することもできる。CARを不活性状態で投与することは、免疫調節細胞の均一な分布の達成を可能とし、従って活性化細胞の局所的な蓄積を妨げる。
【0185】
あるいは、CARがその「活性」(すなわちオン(ON))状態で投与されるように、上記化合物を、ポリヌクレオチド又は発現ベクターの投与後(すなわち、上記に概説される治療ステップの方法におけるステップ(d)の後)に患者に投与してもよい。
【0186】
本明細書中に記載される細胞又は医薬組成物は、疾患に関連する少なくとも1つの症状を低減し、低下させ若しくは改善し及び/又は疾患の進行を遅延させ、低下させ又は阻止するために(すなわち治療的に)、既に疾患を有する患者に投与され得る。本明細書中に記載される細胞又は医薬組成物は、疾患の原因を防止するため(すなわち予防的に)、疾患に罹患していない患者及び/又は疾患の任意の症状を示していない患者に投与してもよい。上記の患者は、疾患を発症する危険性の素因を有し得るか、又は疾患を発症する危険性を有すると考えられ得る。
【0187】
化合物は、医薬組成物の形態で投与することができる。この実施形態において、組成物は、本明細書中で概説される製薬上許容可能な担体、希釈剤又は賦形剤をさらに含み得る。
【0188】
本発明は、CAR-T細胞療法と共に使用される好適なオフスイッチを提供する。この方法は、患者における毒性活性をモニタリングすることを含み得る。従って、毒性活性のレベルが高くなりすぎる場合、この方法は、有害な毒性の副作用を低下させるために、ユビキチンリガーゼがユビキチン標的化タンパク質に結合することを可能とし、このようにしてポリペプチド配列/CARをユビキチン化する化合物を投与することを含み得る。毒性活性として、例えば、免疫学的毒性、胆汁毒性及び呼吸窮迫症候群などが挙げられる。
【0189】
同様に、本方法は、許容可能なレベルの疾患進行が達成される(例えば寛解)場合、疾患の進行をモニタリングすること及びその後にユビキチン標的化タンパク質とユビキチンリガーゼとの間の結合を媒介する化合物を投与することを含み、このようにしてポリペプチド配列/CARをユビキチン化することができる。「許容可能」であると判断される特定のレベルの疾患進行は、特定の環境に従って変動するであろうし、またこのような基準に基づいて評価されるべきである。
【0190】
疾患の進行をモニタリングすることは、疾患に関連する症状が低下/改善するか、又は増加/悪化するか否かを判断するために、これらの症状を経時的に評価することを意味する。
【0191】
本発明のさらなる態様によれば、本明細書中で定義されるCARを阻害するための化合物が提供される。
【0192】
本発明は、以下の非限定的な実施例を参照してさらに詳細に記載することができる。
【実施例
【0193】
実施例1:分子オフスイッチを構築するための戦略としてセレブロン結合モチーフを組み込むキメラ抗原受容体の設計
【0194】
Ikaros3、カゼインキナーゼ1アルファ及びGSTP1などのヒトセレブロン標的中に存在するセレブロン結合モチーフを用いてキメラ抗原受容体オフスイッチを構築するための構築物を設計した。このような構築物は、1) レナリドミドなどの小分子の添加により分解され、b) 化合物の不存在下ではNFAT経路の活性化によりキメラ抗原受容体としてシグナル伝達を行い、c) 化合物の添加によりオフにされることを目的とする。
【0195】
Ikaros3 ZnFセレブロン結合領域、及び3つのタンパク質基質であるIkaros3 ZNF2、CK1アルファ及びGSTP1のセレブロン結合部位上で観察される構造的保存を含むGFPタンパク質の分解を測定するために実験を設計した。
【0196】
【表3】
【0197】
3つの基質:Ikaros3、カゼインキナーゼI及びGSTP1におけるセレブロン結合部位の構造的保存が観察された。しかし、これは配列保存性がなかった(配列番号2~4を参照)。上記の基質に由来する3つのヘアピンモチーフを、主鎖原子を用いて重ね合わせた場合、全rmsdは約1.7Åである:
【0198】
【表4】
【0199】
最も密接な構造的重複は中心グリシン残基の周囲に見られ、残基が中心グリシンからより遠くに位置するにつれて、特にC末端方向でrmsdが増加し始める。
【0200】
【表5】
【0201】
構造的類似性の別の表現はラマチャンドラン角であるが、それはこの角度がペプチド主鎖の立体構造を表すからである。これらのセレブロン結合モチーフ中でラマチャンドラン角を測定する場合、発明者らは以下を有する(中心グリシンは太字で強調される):
【0202】
【表6】
【0203】
上記の差の直接比較は、ラマチャンドラン角の差の係数(modulus)の計算により容易にすることが可能であり、この差が0である場合には、立体構造は同一であり、また正の値が高いほど立体構造における全体的な差はより高い。角差(角1-角2)の係数として表されるラマチャンドラン角差(デルタ)のペアワイズ比較は、表7に示される。
【0204】
【表7】
【0205】
残基1は、中心グリシン残基である。この比較において、CK1とIkaros3の、残基1~4の周囲の立体構造的類似性(プサイ(Psi)角差<20°、ファイ(Phi)角差<5°)は明らかである。この領域における、CK1及びIkaros3の両方のGSTP1との比較は、同じ立体構造的傾向を示すが、より高いラマチャンドラン角の変動を有する(プサイ(Psi)変動<35°、及びファイ(Phi)変動<45°)。全ての場合において、5位の周囲で構造的な差が明らかになり、これはrmsd差と一致している。
【0206】
利用可能なデータ及び構造的分析に基づくと、Ikaros3の第2ジンクフィンガーは、分解のための目的タンパク質に付加され得る小タンパク質ドメイン(約30アミノ酸)の形態の「最小の」デグロンを提供すべきであり、免疫調節イミド薬(IMiD)の存在下で分解が誘導されるであろうことが提案される。従って、「オフスイッチ」を有するCAR構築物を作製するために、当技術分野において公知の方法を用いて、このデグロン/ユビキチン標的化タンパク質をCAR構造に組み込むことができる。
【0207】
実施例2. HeLa細胞におけるIkaros 1由来デグロン配列に融合した緑色蛍光タンパク質(GFP)タンパク質の近接誘導分解
この実施例は、レナリドミドの存在下におけるGFPの選択的分解を示す。GFP構築物は、長さN=1、3、5の(グリシン-セリン) x Nリンカー及びそれに続くヒトIkaros 1由来のデグロン配列とインフレームのGFPコーディング配列で構成される。HeLa細胞にトランスフェクトされた構築物を用いて実験を行い、フローサイトメトリーにより分解を追跡した。
【0208】
材料及び方法
構築物の作製:GFP構築物を、長さN=1、3、5の(グリシン-セリン) x Nリンカー及び残基141~168(配列番号27)を含むヒトIkaros 1(IKFZ1、Uniprot Q13422)配列に融合したpTT5ベクター(図2)にクローン化した。構築物の全配列の詳細は以下に示される。
【0209】
【0210】
構築物1、2及び3によるHeLa細胞のトランスフェクション及びレナリドミド処理:10%熱不活性化ウシ胎児血清(Gibco)及び50U/mLペニシリン+50μg/mLストレプトマイシン(Gibco)を添加したEMEM(EBSS)+2mMグルタミン+1%非必須アミノ酸(NEAA)+10%ウシ胎児血清(FBS)中で増殖させたHeLa Ohio細胞を、リポフェクタミン2000試薬(Thermofisher)を用いて、0.5μgの構築物プラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクション後、細胞を、CO2インキュベーター中で37℃にて24時間インキュベートした。レナリドミドを、100%DMSO中で10mMに再構成し、100%DMSO中で1mM、0.5mM、0.1mM及び0.05mMに希釈した。レナリドミドを、10μM、1μM、0.5μM、0.1μM、及び0.01μMの最終濃度まで細胞培地に添加し、対応するDMSO量を無化合物対照に添加した。全ての条件において、最終DMSO濃度は0.1%であった。レナリドミド処理後、細胞を37℃、5%CO2において24時間インキュベートした。GFP発現を、iQue(Intellicyt)を用いてフローサイトメトリーにより測定し、ForeCyt(Intellicyt)を用いてデータを分析した。
【0211】
結果
構築物1、2及び3中にコードされるGFPのレナリドミド誘導分解を、GFP陽性細胞の中央蛍光強度(MFI)の測定により評価した。レナリドミドがGFPの発現レベルに与える影響は、図3に示される。
【0212】
実施例3:Jurkat細胞にトランスフェクトされたキメラ抗原受容体(CAR)構築物の近接誘導分解
【0213】
この実施例は、レナリドミドの存在下におけるCAR構築物の選択的分解を示す。Jurkat細胞におけるCAR構築物のトランスフェクションにより実験を行った。
【0214】
材料及び方法
構築物の作製:レナリドミドが受容体(CAR)の発現レベルの調節に与える影響を評価するため、2つの構築物を作製した。構築物4は、B細胞成熟抗原(BCMA)(Uniprot Q02223)に結合し、これにより活性化される抗原認識scFvを有する従来のCARである。このscFvの後ろに、ヒトCD8αヒンジ及び膜貫通ドメイン、ヒト4-1BB共刺激ドメイン及びヒトCD3ζ細胞内ドメインが続く(図1)。構築物5は、構築物4と同じエレメントに加えて、ヒトIkaros3タンパク質(Uniprot Q9UKT9)の2つの断片のC末端付加を含む。第1断片は残基131~175(配列番号27)を含み、その後ろに残基231~249(配列番号28)を含む断片が続く。構築物の全配列の詳細は以下に示される。
【0215】
【0216】
Jurkat細胞における構築物の発現:2x105細胞/mlの密度までのNFAT-luc2 Jurkat細胞(Promega)を、L-グルタミンを含まず、フェノールレッド(Gibco)、10%(v/v)ウシ胎児血清(FBS)熱不活性化(Gibco)、1%(v/v)最小必須培地非必須アミノ酸(MEM NEAA)(ThermoFisher)、1%(v/v)ピルビン酸ナトリウム(Sigma)、1%(v/v)L-グルタミン(Gibco)を含むRPMI培地1640(1x)中で培養した。20μgのプラスミドDNAを8x106 NFAT-luc2 Jurkat細胞と混合し、4D-Nucleofector(Lonza)を細胞株用SE Nucleofectorキット(Lonza)と共に製造者の使用説明書に従って使用して、プログラムCL-120を用いて細胞をトランスフェクトした。細胞を、5%CO2と共に37℃で48時間インキュベートした。100%DMSO中10mMのストック濃度のレナリドミドをJurkat培養液中で希釈し、250μMのストック濃度を得た。この250μMストックを用いて、NFAT-luc2 Jurkat細胞を、10μM又は0μM(培養液中DMSO)の最終化合物濃度で、5%CO2と共に37℃で24時間インキュベートした。全ウェルにおいて、最終DMSO濃度は0.1%であった。次いで、細胞をAlexaFluor 647コンジュゲートしたBCMA-Fcで染色し、抗BCMA CARを標識した。Cytoflex S(Beckman Coulter)を用いて測定を行い、FlowJoを用いてデータを分析した。
【0217】
結果
図5は、レナリドミド処理がJurkat細胞の表面上のCAR分子の発現レベルに与える影響を示す。任意のデグロン配列を含まない構築物4は化合物による影響を受けないが、構築物5の発現は、10μMレナリドミドの添加により低下する。
【0218】
実施例4. 初代T細胞におけるキメラ抗原受容体(CAR)構築物の近接誘導分解。レナリドミドがサイトカイン放出に与える影響。
この実施例は、デグロン配列を含むCARが初代T細胞中で機能的であり、レナリドミドの添加により分解されることを示す。
【0219】
材料及び方法
レンチウイルスベクター産生のため、3.0x107 LentiX 293T(HEK293T)細胞を20mL DMEM (Gibco)中に播種し、5%CO2と共に37℃で一晩インキュベートした。LentiX細胞を、例えば、上記の構築物を含む21μgのトランスファーベクター、3.75μg ViraSafe pRSV-Rev、5.25μg ViraSafe pCMV-VSVG、7.5μg ViraSafe pCgp V-(gag-pol)、75μg jetPRIME(Polyplus)及び1500μg jetPRIMEバッファー(Polyplus)を混合することによりトランスフェクトした。2日後、上清を清澄化してウイルスを濃縮し、50mLオークリッジPPCO超遠心分離管(ThermoFisher)中、Ultrapure sucrose(ThermoFisher)を用いた20%スクロースクッション上の超遠心分離により精製した。上記の方法を用いて、構築物4及び構築物5のレンチウイルスベクターを産生した。
【0220】
3人の健康なヒトドナーの新鮮な血液に由来する末梢血単核細胞(PBMC)を、15mLのHistopaque-1077(Sigma)を含むアクスピン管(Sigma)中、製造者の使用説明書に従って密度勾配遠心分離により単離した。細胞を、100単位/mLのIL-2(Sigma)及びTransActビーズ(Miltenyi Biotec)を含むTEXMacs培地(Miltenyi Biotec)中、1x106細胞/mLで再懸濁し、5%CO2と共に37℃で48時間インキュベートした。
【0221】
その後、3人のドナー由来のT細胞に、構築物4及び構築物5をコードするレンチウイルスベクターを形質導入した。MOI 5を得るように形質導入反応を調製した。100単位/mLのIL-2を有するTEXMacs培地中でT細胞を培養し、3日毎に新鮮培地を添加した。高レベルのBCMA抗原を発現するARH-77-10B5細胞を、1mg/mL G418(Gibco)を加えたJurkat培地(実施例3に記載される)中で、5%CO2と共に37℃で培養した。
【0222】
形質導入の7日後、100%DMSO中10mMのストック濃度のレナリドミドをTEXMacs培地中で希釈して250μMのストック濃度を得、5x104T細胞を、10μM又は0μM(培地中DMSO)の最終化合物濃度で、5%CO2と共に37℃で16時間インキュベートした。その後、T細胞を、ARH-77-10B5細胞(BCMA陽性細胞)又は培地のいずれかと共に、10μM又は0μM(培地中DMSO)のいずれかを含むTEXMacs培地中、5%CO2と共に37℃で24時間共培養した(1ウェル当たり5x105細胞、1:1のエフェクター:標的比)。全ウェルにおいて、最終DMSO濃度は0.1%であった。細胞をペレット化し(1200rpm、5分間)、上清を回収した。MSD V-plex Proinflammatory Panel 1 Human Kit(MSD)及びMSD Sector Imager (MSD)を用いて、サイトカインレベルについて上清を分析した。
【0223】
結果
レナリドミド処理が、形質導入された初代T細胞における構築物4及び構築物5の発現レベルに与える影響は、図6に示される。抗原提示後、T細胞上清を、それらのTNFα、IL2及びIFN-γレベルについて分析した。構築物4(デグロンドメインを有さないCAR構築物)に対応する上清は、無レナリドミド処理と比較した場合にサイトカイン濃度のレベルの増加を示し、これは公開データ(Otahal P et al. 2016 Oncoimmunology Vol. 5, No. 4)と一致していた(図7)。この影響は、構築物5(CARにデグロンエレメントを加えたもの)が形質導入された細胞についても観察されたが、対照CAR(構築物4)と比較した場合、程度は低かった(図7)。
【0224】
本明細書中に記載される実施形態は、本発明の全ての態様に適用され得ることが理解されるであろう。さらに、この明細書中で引用される全ての刊行物、例えば限定するものではないが、特許及び特許出願などは、完全に示されるかのように参照により本明細書中に組み込まれる。
本発明は、例えば以下の実施形態を包含する:
[実施形態1]ポリペプチド配列のレベルを制御する方法であって、以下:
a) 前記ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とを含む融合タンパク質を投与すること、及び
b) ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することによりポリペプチド配列のレベルを制御すること
を含む、前記方法。
[実施形態2]ヘアピンモチーフが、配列番号2~5、又は各アミノ酸配列中に存在するGLY残基を除いて1又は2個のアミノ酸が置換、付加又は欠失されていてもよいその機能的変異体からなる群から選択される配列を含む、実施形態1に記載の方法。
[実施形態3]ヘアピンモチーフが、配列番号2~5からなる群から選択される配列を含む、実施形態1~2のいずれかに記載の方法。
[実施形態4]ユビキチン標的化タンパク質が、100未満のアミノ酸長からなるポリペプチド配列である、実施形態1~3のいずれかに記載の方法。
[実施形態5]ユビキチン標的化タンパク質が、ユビキチン化部位として機能するリシン残基を含む、実施形態1~4のいずれかに記載の方法。
[実施形態6]ユビキチン標的化タンパク質が、配列番号6~14及び27からなる群から選択される配列を含む、実施形態1~5のいずれかに記載の方法。
[実施形態7]ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することにより制御されるポリペプチド配列が、膜貫通タンパク質である、実施形態1~6のいずれかに記載の方法。
[実施形態8]ユビキチン標的化タンパク質とセレブロンとの結合を媒介する化合物を投与することにより制御されるポリペプチド配列が、キメラ抗原受容体(CAR)である、実施形態1~7のいずれかに記載の方法。
[実施形態9]化合物が免疫調節イミド薬(IMiD)である、実施形態1~8のいずれかに記載の方法。
[実施形態10]IMiDが、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド又はその機能的誘導体若しくは類似体から選択される、実施形態9に記載の方法。
[実施形態11]キメラ抗原受容体(CAR)であって、以下:
細胞外リガンド結合ドメイン;
膜貫通ドメイン;
細胞内シグナル伝達ドメイン;及び
ある化合物の存在下でユビキチンリガーゼにより結合され得る実施形態1~6のいずれかに記載のユビキチン標的化タンパク質
を含む、前記キメラ抗原受容体。
[実施形態12]細胞外リガンド結合ドメインが、抗B細胞成熟抗原(BCMA)一本鎖Fvアミノ酸配列である、実施形態11に記載のCAR。
[実施形態13]抗BCMA一本鎖Fvアミノ酸配列が配列番号29を含む、実施形態12に記載のCAR。
[実施形態14]膜貫通ドメインが、CD4、CD8、CD3又はCD28の膜貫通ドメインから選択される、実施形態11~13のいずれかに記載のCAR。
[実施形態15]CD8α膜貫通ドメインが配列番号17を含む、実施形態14に記載のCAR。
[実施形態16]細胞内シグナル伝達ドメインが免疫受容体チロシンベースの活性化モチーフ(ITAM)である、実施形態11~15のいずれかに記載のCAR。
[実施形態17]ITAMが、CD3ゼータ、FcRガンマ、FcRベータ、FcRイプシロン、CD3ガンマ、CD3デルタ、CD3イプシロン、CD5、CD22、CD79a、CD79b又はCD66dのITAMから選択される、実施形態16に記載のCAR。
[実施形態18]CD3ζシグナル伝達ドメインが配列番号20を含む、実施形態17に記載のCAR。
[実施形態19]共刺激ドメインをさらに含む、実施形態11~18のいずれかに記載のCAR。
[実施形態20]共刺激ドメインが、CD28、CD27、4-1BB(CD137)、OX40(CD134)、ICOS(CD278)、CD30、CD40、PD-1(CD279)、CD2、CD7、NKG2C(CD94)又はB7-H3(CD276)の共刺激ドメインから選択される、実施形態19に記載のCAR。
[実施形態21]共刺激ドメインが配列番号21を含む、実施形態19~20のいずれかに記載のCAR。
[実施形態22]ユビキチン標的化タンパク質がCARのC末端上にある、実施形態11~21のいずれかに記載のCAR。
[実施形態23]ユビキチン標的化タンパク質が、リンカーにより細胞内シグナル伝達ドメインから分離されている、実施形態11~22のいずれかに記載のCAR。
[実施形態24]リンカーが、(GS)n及び/又は(GGGGS)pを含み、ここでn=1~10且つp=1~3である、実施形態23に記載のCAR。
[実施形態25]リンカーが、配列番号23~26のいずれか1つを含む、実施形態24に記載のCAR。
[実施形態26]化合物が免疫調節イミド薬(IMiD)である、実施形態11~25のいずれかに記載のCAR。
[実施形態27]IMiDが、サリドマイド、レナリドミド、ポマリドミド又はその機能的誘導体若しくは類似体から選択される、実施形態26に記載のCAR。
[実施形態28]ポリペプチド配列と、セレブロン結合部位のヘアピンモチーフを含む135未満のアミノ酸長からなるユビキチン標的化タンパク質とを含む融合タンパク質。
[実施形態29]ユビキチン標的化タンパク質が、配列番号6~14及び27からなる群から選択される配列からなる、実施形態28に記載の融合タンパク質。
[実施形態30]実施形態1~10のいずれかに記載のユビキチン標的化タンパク質、実施形態11~27のいずれかに記載のCAR、又は実施形態28~29のいずれかに記載の融合タンパク質をコードする、単離されたポリヌクレオチド。
[実施形態31]実施形態30に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
[実施形態32]実施形態30に記載のポリヌクレオチド又は実施形態31に記載の発現ベクターを含む細胞。
[実施形態33]免疫調節細胞である、実施形態32に記載の細胞。
[実施形態34]T細胞である、実施形態33に記載の細胞。
[実施形態35]治療法において使用するための、実施形態32~34のいずれかに記載の細胞。
[実施形態36]実施形態32~34のいずれかに記載の複数の細胞を含む医薬組成物。
[実施形態37]製薬上許容可能な賦形剤、担体、又は希釈剤をさらに含む、実施形態36に記載の医薬組成物。
[実施形態38]治療法において使用するための、実施形態36又は実施形態37に記載の医薬組成物。
[実施形態39]治療法が遺伝子療法の方法である、実施形態38に記載の医薬組成物。
[実施形態40]免疫調節細胞を操作する方法であって、以下:
(a) 免疫調節細胞を提供すること;
(b) 実施形態30に記載のポリヌクレオチド又は実施形態31に記載の発現ベクターを、前記免疫調節細胞に形質導入又はトランスフェクトすること;及び
(c) 前記ポリヌクレオチド又は前記発現ベクターを、免疫調節細胞中で発現させることを含む、前記方法。
【0225】
配列
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5A
図5B
図6A
図6B
図7
【配列表】
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