(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】線状体設置方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/50 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
G02B6/50
(21)【出願番号】P 2020000964
(22)【出願日】2020-01-07
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】弁理士法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小泉 悠
(72)【発明者】
【氏名】黒川 紗季
(72)【発明者】
【氏名】升元 一彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 信也
(72)【発明者】
【氏名】小原 隆志
(72)【発明者】
【氏名】青山 真丈
(72)【発明者】
【氏名】立和田 裕一
【審査官】山本 元彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-120026(JP,A)
【文献】特開2009-109394(JP,A)
【文献】特開2004-309181(JP,A)
【文献】特開2016-194225(JP,A)
【文献】特開2003-294851(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0074196(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/46-6/54
E21B 23/00-23/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に形成された孔内に光ファイバケーブルを設置する線状体設置方法であって、
前記光ファイバケーブルの一部を保持する保持体と、前記保持体に設けられ前記孔の径方向外側に拡径可能な拡径体と、を有する保持ユニットを延長部材の一端に結合し、前記延長部材を順次継ぎ足すことによって前記孔内へと前記保持ユニットを挿入する挿入工程と、
前記拡径体を径方向外側に拡径させて前記保持体を前記孔内に固定する固定工程と、
前記保持ユニットと前記延長部材との結合を解除し、前記延長部材を前記孔内から取り出す取出工程と、
前記孔内に充填材を充填する充填工程と、を備
え、
前記充填材は、前記孔内から取り出される前記延長部材を通じて充填される
線状体設置方法。
【請求項2】
地盤に形成された孔内に光ファイバケーブルを設置する線状体設置方法であって、
前記光ファイバケーブルの一部を保持する保持体と、前記保持体の外周に設けられる吸水膨張材と、を有する保持ユニットを延長部材の一端に結合し、前記延長部材を順次継ぎ足すことによって前記孔内へとする挿入工程と、
前記吸水膨張材が径方向に膨張することで前記保持体を前記孔内に固定する固定工程と、
前記保持ユニットと前記延長部材との結合を解除し、前記延長部材を前記孔内から取り出す取出工程と、
前記孔内に充填材を充填する充填工程と、を備
え、
前記充填材は、前記孔内から取り出される前記延長部材を通じて充填される
線状体設置方法。
【請求項3】
前記保持ユニットと前記延長部材との結合及び前記延長部材同士の結合はそれぞれ螺合であり、
前記保持ユニットと前記延長部材とを螺合する際の回転方向は、前記延長部材同士を螺合する際の回転方向とは反対の方向である
請求項1または2に記載の線状体設置方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤内に線状体を設置する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土木構造物を構築する際に、線状体を地盤内に設置し、線状体を用いて地盤の状態を検出することがある。特許文献1には、地盤の変位を測定するための線状体として光ファイバケーブルを地盤内に設置する方法が開示されている。
【0003】
特許文献1に開示された方法では、地盤に形成されたボーリング孔に、外周面に光ファイバケーブルが取り付けられたパイプを挿入し、パイプの外周面とボーリング孔の内壁面との間にグラウトホースを通じてグラウトを注入することによって、地盤内に光ファイバケーブルを設置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示された方法では、光ファイバケーブルが設置される範囲にわたってパイプが設けられる。つまり、ボーリング孔内において、パイプが光ファイバケーブルに隣接して配置された状態で、パイプを地盤内に残置させる必要がある。このため、ボーリング孔が深いほど、地盤内に残置されるパイプが長くなることから、パイプ材の消費量が増大するおそれがある。
【0006】
本発明は、線状体を効率よく地盤内に設置することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、地盤に形成された孔内に光ファイバケーブルを設置する線状体設置方法であって、光ファイバケーブルの一部を保持する保持体と、保持体に設けられ孔の径方向外側に拡径可能な拡径体と、を有する保持ユニットを延長部材の一端に結合し、延長部材を順次継ぎ足すことによって孔内へと保持ユニットを挿入する挿入工程と、拡径体を径方向外側に拡径させて保持体を孔内に固定する固定工程と、保持ユニットと延長部材との結合を解除し、延長部材を孔内から取り出す取出工程と、孔内に充填材を充填する充填工程と、を備え、充填材は、孔内から取り出される延長部材を通じて充填される。
【0008】
また、本発明は、地盤に形成された孔内に光ファイバケーブルを設置する線状体設置方法であって、光ファイバケーブルの一部を保持する保持体と、保持体の外周に設けられる吸水膨張材と、を有する保持ユニットを延長部材の一端に結合し、延長部材を順次継ぎ足すことによって孔内へと保持ユニットを挿入する挿入工程と、吸水膨張材が径方向に膨張することで保持体を孔内に固定する固定工程と、保持ユニットと延長部材との結合を解除し、延長部材を孔内から取り出す取出工程と、孔内に充填材を充填する充填工程と、を備え、充填材は、孔内から取り出される延長部材を通じて充填される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、線状体を効率よく地盤内に設置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る線状体設置方法により孔内に設置された線状体を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態に係る線状体設置方法を時系列に沿って示す図である。
【
図3】
図2に続く本発明の第1実施形態に係る線状体設置方法を時系列に沿って示す図である。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る線状体設置方法により孔内に設置された線状体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る線状体設置方法について説明する。
【0012】
<第1実施形態>
まず、
図1から
図3を参照して、第1実施形態に係る線状体設置方法について説明する。ここでは、線状体が光ファイバケーブルである場合について説明する。なお、線状体としては、光ファイバケーブル以外に、高精度に温度、歪等を計測可能な線状部材である電線等が挙げられる。
【0013】
土木構造物の構築において、地滑り等の地盤の状態を把握することは重要であり、地中の歪みを計測するために地盤に掘削されたボーリング孔内に光ファイバケーブルを設置することがある。ボーリング孔内に埋設された光ファイバケーブルは、地中の歪みを受けて歪む。そのため、光ファイバケーブルの歪みを計測することにより地中の歪みを計測することができる。
【0014】
具体的には、光ファイバケーブルには入射されたパルス光を僅かに後方に散乱させる性質があり、この性質を利用することにより、光ファイバケーブルにおける複数位置での歪みを計測することが可能である。散乱光の周波数は光ファイバケーブルの歪みに依存するため、パルス光を光ファイバケーブルに入射し、散乱光の周波数を計測することにより光ファイバケーブルの歪みを計測することができる。また、光ファイバケーブルにパルス光を入射してから光ファイバケーブル内で発生した散乱光が入射位置に戻るまでの時間を測定することにより、散乱光が発生した位置、すなわち光ファイバケーブルに歪みが生じた位置を計測することができる。
【0015】
したがって、地盤に掘削されたボーリング孔内に光ファイバケーブルを埋設し、埋設された光ファイバケーブルの歪みを計測することによって、複数位置で生じた地中の歪みを計測することが可能となり、結果として、地盤の状態を正確に把握することができる。
【0016】
光ファイバケーブルを地盤に掘削されたボーリング孔内に設置する方法としては、パイプ材に沿って光ファイバケーブルを這わせ、パイプ材を順次継ぎ足すことによってボーリング孔内に光ファイバケーブルを挿入させることが考えられる。
【0017】
しかしながら、この方法では、光ファイバケーブルが設置される範囲にわたってパイプ材が設けられた状態、すなわち、ボーリング孔内においてパイプ材が光ファイバケーブルに隣接して残置された状態となる。
【0018】
このため、ボーリング孔が深いほど、地盤内に残置されるパイプ材が長くなることから、パイプ材の消費量が増大し、光ファイバケーブルの設置コストが増大するおそれがある。
【0019】
また、パイプ材のような比較的剛性の高い部材が光ファイバケーブルに隣接して残置されていると、パイプ材によって地盤の変位が光ファイバケーブルに伝達されることが阻害され、結果として、光ファイバケーブルにより地盤の状態を正確に把握することができなくなるおそれがある。
【0020】
このような理由から、本実施形態に係る線状体設置方法では、
図1~
図3に示すように、地盤1に掘削されたボーリング孔(孔)2内に、第1延長パイプ(延長部材)21及び第2延長パイプ(延長部材)22からなる延長ユニット(延長部材)20を利用して光ファイバケーブル(線状体)12を設置するにあたり、光ファイバケーブル12をボーリング孔2内に挿入した後、延長ユニット20をボーリング孔2内から取り出し、光ファイバケーブル12が設置される範囲には第1延長パイプ21や第2延長パイプ22が設けられないようにしている。
図1は、第1実施形態に係る線状体設置方法によって、ボーリング孔2内に設置された光ファイバケーブル12及び光ファイバケーブル12の一部を保持する保持ユニット10の状態を模式的に示した概略図であり、
図2の(A)~(C)及び
図3の(A)~(C)は、第1実施形態に係る線状体設置方法を時系列に沿って示した図である。
【0021】
まず、
図1を参照し、後に詳述する線状体設置方法によって、ボーリング孔2内に設置された光ファイバケーブル12及び光ファイバケーブル12の一部を保持する保持ユニット10について説明する。
【0022】
保持ユニット10は、光ファイバケーブル12の一部を保持する保持体11と、保持体11に設けられボーリング孔2の径方向外側に拡径可能な吸水膨張材(拡径体)13と、を有する。
【0023】
保持体11は、内部に中空部11aを有する円柱状に形成された部材であり、光ファイバケーブル12の先端部12aを中空部11a内へと通すための開口部11bと、第1延長パイプ21が螺着される結合部11cと、をさらに有する。
【0024】
吸水膨張材13は、水等の液体を吸収することにより膨張するパッカー材であり、保持体11の外周面を取り囲むように配置される。なお、
図1には、吸水膨張材13がボーリング孔2の径方向外側に膨張した状態が示されている。このようにボーリング孔2に挿入された後、ボーリング孔2内に滞留する水等の液体を吸収してボーリング孔2の径方向外側に向かって吸水膨張材13が膨張することによって、保持体11は、ボーリング孔2に対して固定される。
【0025】
保持体11により保持される光ファイバケーブル12は、図示しない光ファイバと鋼製線材とが樹脂材で覆われた線状部材である。光ファイバケーブル12の先端部12aは、先端面において反射が生じないようにシリコン等のシール材によって閉塞処理されている。
【0026】
光ファイバケーブル12の先端部12aは、保持体11の開口部11bを通じて中空部11a内に挿入され接着剤等により固定される。このように、光ファイバケーブル12の先端部12aを保持体11の内部に収容することにより、ボーリング孔2内に光ファイバケーブル12が挿入される際に、閉塞処理された先端部12aが傷付いたり破損してしまったりすることを防止することができる。一方、光ファイバケーブル12の他端部は、計測装置50に接続される。
【0027】
なお、保持体11により保持されるのは、光ファイバケーブル12の先端部12aに限定されず、光ファイバケーブル12の折り返し部であってもよい。この場合、計測装置50には、光ファイバケーブル12の両端部が接続される。また、光ファイバケーブル12は、保持体11に対して直接的に固定されていてもよいし、取り付け部材等を介して間接的に固定されていてもよい。
【0028】
保持ユニット10とともに光ファイバケーブル12が挿入されたボーリング孔2内にセメントベントナイト等のグラウト(充填材)40が充填されることによって、光ファイバケーブル12は、ボーリング孔2内に固定され、地盤1とほぼ一体化された状態となる。なお、ボーリング孔2内に滞留する水等の液体は、充填されたグラウト(充填材)40と置換される。
【0029】
次に、
図2及び
図3を参照し、
図1に示されるようにボーリング孔2内に光ファイバケーブル12を設置する方法について説明する。
【0030】
まず、
図2(A)を参照し、光ファイバケーブル12が設置されるボーリング孔2について説明する。
【0031】
ボーリング孔2は、図示しない掘削機により予め地盤1に鉛直方向下方に向かって掘削され、ボーリング孔2内には、
図2(A)に示すように、ボーリング孔2内への土砂の流入や地盤1の崩落を防止するために、掘削時に使用された掘削ユニット60が残置される。掘削ユニット60は、主に、互いに連結された複数の掘削ロッド62と、掘削ロッド62の先端に取り付けられた掘削ビット61と、により構成され、これら掘削ビット61及び掘削ロッド62は、中空の管状部材で形成される。したがって、ボーリング孔2内には、掘削ユニット60によって、光ファイバケーブル12等を挿入可能な空間が確保される。
【0032】
続いて、
図2(B)及び
図2(C)に示されるように、掘削ユニット60が残置されたボーリング孔2内に保持ユニット10及び光ファイバケーブル12が挿入される。
【0033】
具体的には、まず、
図2(B)に示されるように、保持体11の結合部11cに第1延長パイプ21の一端が螺着されることによって、第1延長パイプ21の一端に保持ユニット10が結合された状態となり、保持ユニット10と保持ユニット10により一部が保持された光ファイバケーブル12とは、この状態でボーリング孔2内に残置された掘削ロッド62の内部へと徐々に挿入される。
【0034】
なお、この段階では、吸水膨張材13はまだ拡径していない。吸水膨張材13は、ボーリング孔2内に滞留する水等の液体を経時的に吸収して、時間経過と共に拡径する。したがって、拡径していない状態での吸水膨張材13の最大外径を、掘削ロッド62の内径よりも小さく設定しておくことによって、保持ユニット10は掘削ロッド62の内部へ容易に挿入される。
【0035】
保持ユニット10及び光ファイバケーブル12をさらに深く挿入するために、
図2(C)に示されるように、第1延長パイプ21には第2延長パイプ22が継ぎ足され、第2延長パイプ22には別の第2延長パイプ22がさらに継ぎ足される。
【0036】
なお、第2延長パイプ22を継ぎ足す作業を行う際には、図示しない保持具によって、すでにボーリング孔2内に挿入された第1延長パイプ21または第2延長パイプ22の端部が予め保持される。このように第2延長パイプ22が継ぎ足される第1延長パイプ21または第2延長パイプ22の端部を保持しておくことによって、継ぎ足し作業を行う際に保持ユニット10がボーリング孔2内へと落下してしまうことを防止することができる。
【0037】
第2延長パイプ22が順次継ぎ足されることによって、保持ユニット10は、やがてボーリング孔2の底面2aに到達し、挿入工程が完了する。
【0038】
挿入工程が完了すると、続いて保持ユニット10をボーリング孔2内に固定する固定工程が行われる。
【0039】
具体的には、
図3(A)に示すように、保持ユニット10がボーリング孔2の底面2aに到達すると、掘削ユニット60が所定の長さL1だけ引き上げられる。所定の長さL1は、保持ユニット10の下面から吸水膨張材13の上端までの長さよりも長く、吸水膨張材13がボーリング孔2の内周壁に対して完全に露出される程度の長さに設定される。
【0040】
このように掘削ユニット60を所定の長さL1だけ引き上げることによって、吸水膨張材13が径方向外側に膨張することができる空間が確保される。なお、吸水膨張材13が膨張する空間を確保するために、掘削ユニット60をボーリング孔2内からすべて引き抜いてしまってもよいが、吸水膨張材13が膨張するまでの間に吸水膨張材13の周辺に土砂が流入してしまうと、吸水膨張材13の膨張状態が周方向においてばらついてしまい、保持体11をボーリング孔2に対して確実に固定することが困難になるおそれがある。したがって、吸水膨張材13が十分に膨張するまでは、掘削ユニット60を所定の長さL1だけ引き上げた状態に維持しておくことが好ましい。
【0041】
吸水膨張材13がボーリング孔2の径方向外側へと十分に膨張するまでの間、例えば12時間程度の間、掘削ユニット60は、所定の長さL1だけ引き上げられた状態で放置される。そして、吸水膨張材13が十分に膨張した後、掘削ユニット60は、上方から順次引き抜かれ、撤去される。なお、撤去された掘削ユニット60は、他のボーリング孔2を掘削するために再利用される。
【0042】
図3(B)には、吸水膨張材13を膨張させることにより保持体11をボーリング孔2内に固定する固定工程が完了し、掘削ユニット60が撤去された状態が示される。
【0043】
図3(B)に示すように固定工程が完了すると、続いて
図3(C)に示すようにボーリング孔2内から延長ユニット20を取り出す取出工程が行われる。
【0044】
ここで、本実施形態では、保持体11と第1延長パイプ21との結合、第1延長パイプ21と第2延長パイプ22との結合、及び、第2延長パイプ22同士の結合は、何れも螺合であるが、保持体11と第1延長パイプ21とを螺合する際の回転方向は、第1延長パイプ21と第2延長パイプ22とを螺合する際の回転方向、及び、第2延長パイプ22同士を螺合する際の回転方向とは反対の方向に設定されている。
【0045】
具体的には、保持体11と第1延長パイプ21との螺合は、左ねじであり、第1延長パイプ21と第2延長パイプ22との螺合及び第2延長パイプ22同士の螺合は、右ねじである。
【0046】
したがって、
図3(B)に示すように保持体11がボーリング孔2に対し吸水膨張材13を介して固定された状態において、延長ユニット20を右方向に回転させると、左ねじにより螺合された保持体11と第1延長パイプ21との結合だけが解除されることになる。
【0047】
このため、
図3(C)に示すように、保持体11との結合が解除された延長ユニット20は、取出工程において、上方から順次取り出すことが可能となる。
【0048】
また、保持ユニット10と光ファイバケーブル12とが挿入されたボーリング孔2内から取り出される延長ユニット20は、中空の管状体でもあることから、その内部を通じてボーリング孔2内にグラウト40を充填することも可能である。
【0049】
したがって、本実施形態では、
図3(C)に示すように、延長ユニット20をボーリング孔2内から取り出しつつ、延長ユニット20の内部を通じてボーリング孔2内にグラウト40を充填している。
【0050】
具体的には、
図3(C)において矢印で示されるように、第2延長パイプ22の内部を通じ、第1延長パイプ21の先端の開口部からグラウト40を送出することにより、ボーリング孔2内には底面2a側から徐々にグラウト40が充填される。また、ボーリング孔2内に滞留した水等の液体は、グラウト40が充填されるにしたがってグラウト40と置換される。
【0051】
このように、延長ユニット20を順次取り出しながら延長ユニット20を通じてグラウト40を送出することにより、ボーリング孔2内へグラウト40を効率的に充填することができるとともに、ボーリング孔2内に水等の液体や空気が滞留してしまうことが抑制されることから、水等の液体や空気を抜くための手段を別途設ける必要がなくなり、結果として、光ファイバケーブル12の設置作業コストを低減することができる。また、取り出された延長ユニット20は、他のボーリング孔2内に光ファイバケーブル12を設置するために再利用される。このため、光ファイバケーブル12の設置コストを低減することができる。
【0052】
充填工程において、ボーリング孔2内にグラウト40が充填されると、
図1に示すように、光ファイバケーブル12及び光ファイバケーブル12の一部を保持する保持ユニット10がボーリング孔2内に設置された状態となる。
【0053】
このように光ファイバケーブル12が設置されたボーリング孔2の周囲の地中の歪みは、ボーリング孔2の内壁面から固化したグラウト40を介して光ファイバケーブル12に伝達される。したがって、上述のようにボーリング孔2内に設置された光ファイバケーブル12の歪みを測定することにより、地中の歪みの位置及び大きさを計測することができる。なお、地盤1と光ファイバケーブル12との間に介在するグラウト40の強度及び剛性は、地中の歪み等の光ファイバケーブル12への伝達性を考慮し、地盤1の強度及び剛性と同程度か、それよりもやや小さく調整される。
【0054】
以上の第1実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0055】
本実施形態に係る線状体設置方法によれば、固定工程において、光ファイバケーブル12の一部を保持する保持ユニット10を吸水膨張材13によってボーリング孔2に対して固定することにより、保持ユニット10をボーリング孔2内に挿入する際に用いられた延長ユニット20等のパイプ材を、取出工程において、ボーリング孔2内から取り出している。
【0056】
このようにボーリング孔2内に延長ユニット20を残置することなく、ボーリング孔2内から取り出すことにより、取り出された延長ユニット20を、他の光ファイバケーブル12の設置に再利用することが可能となる。この結果、光ファイバケーブル12の設置コストを低減することができる。
【0057】
また、ボーリング孔2内から延長ユニット20が取り出されることによって、ボーリング孔2の内壁面と光ファイバケーブル12との間には、固化したグラウト40のみが介在することになる。このため、地盤の変位が光ファイバケーブル12に伝達されることがパイプ材によって阻害されることがないことから、光ファイバケーブル12により地盤の状態を正確に把握することができる。
【0058】
なお、上記第1実施形態では、水等の液体を吸収することにより膨張する吸水膨張材13をボーリング孔2の径方向外側に膨張させることによって、保持体11をボーリング孔2に対して固定している。これに代えて、ボーリング孔2の径方向外側に膨張する構成としては、例えば、外部から水や空気等の流体が供給されることで膨張するものであってもよい。この場合、保持体11の固定に要する時間が短くなるため、ボーリング孔2内への光ファイバケーブル12の設置を効率的に行なうことが可能となる。
【0059】
また、上記第1実施形態では、延長ユニット20を通じてボーリング孔2内にグラウト40が充填されている。これに代えて、グラウト40の充填は、別途設けられた充填ホースを通じてグラウト40をボーリング孔2内に送出することにより行われてもよい。また、上記第1実施形態では、挿入工程の後に充填工程が行われているが、挿入工程の前にボーリング孔2内にグラウト40を予め充填しておき、グラウト40が充填されたボーリング孔2内に光ファイバケーブル12及び保持ユニット10を挿入してもよい。
【0060】
<第2実施形態>
次に、
図4を参照して、本発明の第2実施形態に係る線状体設置方法ついて説明する。以下では、第1実施形態と異なる点を主に説明し、第1実施形態で説明した構成と同一の構成又は相当する構成については、第1実施形態と同一の符号を付し説明を省略する。
【0061】
第2実施形態に係る線状体設置方法において、ボーリング孔2内に挿入される保持ユニット110は、ボーリング孔2の径方向外側に拡径可能な拡径機構(拡径体)15によって、ボーリング孔2内に固定される点で、上記第1実施形態に係る線状体設置方法においてボーリング孔2内に挿入される保持ユニット10と主に相違している。なお、
図4は、第2実施形態に係る線状体設置方法によって、ボーリング孔2内に設置された光ファイバケーブル12及び光ファイバケーブル12の一部を保持する保持ユニット110の状態を模式的に示した概略図である。
【0062】
図4に示すように、保持ユニット110は、光ファイバケーブル12の一部を保持する保持体11と、保持体11に設けられボーリング孔2の径方向外側に拡径可能な拡径機構(拡径体)15と、を有する。
【0063】
保持体11は、上記第1実施形態における保持体11と同様に、内部に中空部11aを有する円柱状に形成された部材であり、光ファイバケーブル12の先端部12aを中空部11a内へと通すための開口部11bと、第1延長パイプ21が螺着される結合部11cと、をさらに有する。
【0064】
拡径機構15は、保持体11に対して結合部11cとは反対側に配置される先行部材16と、先行部材16と保持体11とを連結する連結部材17と、を有する。連結部材17は、先行部材16と保持体11との間の隙間の大きさに応じて折れ曲がる折曲部17aを有する。
【0065】
連結部材17は、保持ユニット110がボーリング孔2内に挿入される際、すなわち、掘削ユニット60内に挿入される際には、挿入方向に沿って延びた状態となり、先行部材16と保持体11との間に所定の大きさの隙間が形成されるように、先行部材16を保持体11から所定の距離だけ離間させた状態で保持する。このため、先行部材16は、保持ユニット110がボーリング孔2内に挿入される際、保持体11に先行してボーリング孔2内に挿入され、保持体11よりも先にボーリング孔2の底面2aに到達することになる。
【0066】
連結部材17は、先行部材16がボーリング孔2の底面2aに到達した後、保持体11が底面2aに向かってさらに押し込まれ、先行部材16と保持体11との間の挿入方向における隙間が小さくなると、折曲部17aにおいて径方向外側に向けて折れ曲がる。
【0067】
径方向外側に向けて折れ曲がった連結部材17の折曲部17aは、
図4に示すように、ボーリング孔2の内周壁に突き刺さった状態となる。このように保持体11に設けられた連結部材17の一部がボーリング孔2の内周壁に突き刺さることによって、保持体11は、ボーリング孔2に対して固定されることになる。
【0068】
上記構成の保持ユニット110をボーリング孔2内に挿入し、ボーリング孔2内に光ファイバケーブル12を設置する方法については、上記第1実施形態における光ファイバケーブル12の設置方法と、固定工程において、上述のように拡径機構(拡径体)15を拡径させる具体的な方法が異なるだけであり、その他の工程は同じである。このため、その説明を省略する。
【0069】
なお、上記第1実施形態では、固定工程において、保持体11をボーリング孔2に対して確実に固定させるために、吸水膨張材13の膨張を待つ時間が必要であったが、本実施形態では、先行部材16がボーリング孔2の底面2aに到達した後、保持体11を底面2aに向かってさらに押し込み、連結部材17の折曲部17aをボーリング孔2の内周壁に突き刺すことによって保持体11はボーリング孔2に対して即座に固定される。このため、保持体11をボーリング孔2に固定するまでにほとんど時間を要しないことから光ファイバケーブル12の設置を効率的に行なうことができる。
【0070】
以上の第2実施形態によれば、以下に示す効果を奏する。
【0071】
本実施形態に係る線状体設置方法によれば、固定工程において、光ファイバケーブル12の一部を保持する保持ユニット110を拡径機構15によってボーリング孔2に対して固定することにより、保持ユニット110をボーリング孔2内に挿入する際に用いられた延長ユニット20等のパイプ材を、取出工程において、ボーリング孔2内から取り出している。
【0072】
このようにボーリング孔2内に延長ユニット20を残置することなく、ボーリング孔2内から取り出すことにより、取り出された延長ユニット20を、他の光ファイバケーブル12の設置に再利用することが可能となる。この結果、光ファイバケーブル12の設置コストを低減することができる。
【0073】
また、ボーリング孔2内から延長ユニット20が取り出されることによって、ボーリング孔2の内壁面と光ファイバケーブル12との間には、固化したグラウト40のみが介在することになる。このため、地盤の変位が光ファイバケーブル12に伝達されることがパイプ材によって阻害されることがないことから、光ファイバケーブル12により地盤の状態を正確に把握することができる。
【0074】
なお、上記第2実施形態では、荷重により折れ曲がる連結部材17の径方向外側への変形を利用して保持体11をボーリング孔2に対して固定している。これに代えて、拡径機構は、弾性変形を利用したものであってもよく、例えば、拡径機構は、一端が保持体11の外周面に結合された板バネであり、他端が保持体11に向けて圧縮変形された状態で掘削ユニット60内に挿入され、掘削ユニット60が引き上げられた際に他端が径方向外側へと復元力で伸長するように構成されたものであってもよい。この場合、板バネの他端が復元力によってボーリング孔2の内周壁に突き刺さることによって、保持体11はボーリング孔2に対して固定される。
【0075】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0076】
例えば、上記各実施形態では、線状体が光ファイバケーブル12である場合について説明したが、ボーリング孔2内へ設置される線状体は、これに限定されず、地盤1の状態を検出可能な線状体であればどのようなものであってもよく、例えば、圧力や温度を検出可能な複数のセンサが等間隔で連結された線状体や熱電対等の金属線であってもよい。また、検出される地盤1の状態としては、地中の歪みに限定されず、地中の温度や圧力であってもよい。
【0077】
また、上記各実施形態では、ボーリング孔2が鉛直方向下方に向かって掘削された場合について説明したが、ボーリング孔2は、鉛直方向上方に向かって掘削されていてもよいし、水平方向または水平方向から所定の角度だけ上方または下方に向かって掘削されていてもよい。このようにボーリング孔2が掘削される場合も上述の方法によって、ボーリング孔2内に光ファイバケーブル12を設置することが可能である。
【0078】
また、上記各実施形態では、保持ユニット10,110をボーリング孔2内に残置された掘削ユニット60内に挿入する場合について説明したが、地盤1の崩落のおそれがない場合は、ボーリング孔2から掘削ユニット60を撤去し、その後、ボーリング孔2内に保持ユニット10,110を挿入してもよい。
【符号の説明】
【0079】
1・・・地盤
2・・・ボーリング孔(孔)
10,110・・・保持ユニット
11・・・保持体
12・・・光ファイバケーブル(線状体)
13・・・吸水膨張材(拡径体)
15・・・拡径機構(拡径体)
20・・・延長ユニット(延長部材)
21・・・第1延長パイプ(延長部材)
22・・・第2延長パイプ(延長部材)
40・・・グラウト(充填材)
50・・・計測装置
60・・・掘削ユニット