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特許7369071クライオポンプおよびクライオポンプの制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】クライオポンプおよびクライオポンプの制御方法
(51)【国際特許分類】
   F04B 37/16 20060101AFI20231018BHJP
   F04B 37/08 20060101ALI20231018BHJP
   F16K 17/06 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
F04B37/16 A
F04B37/08
F16K17/06 C
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020048148
(22)【出願日】2020-03-18
(65)【公開番号】P2021148050
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【弁理士】
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 走
【審査官】所村 陽一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149530(JP,A)
【文献】特開2007-309184(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/16
F04B 37/08
F16K 17/06
F16K 51/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオポンプ容器と、
前記クライオポンプ容器内の圧力を測定し、測定圧力を示す時系列圧力データを生成する圧力センサと、
前記クライオポンプ容器に設けられ、制御により開閉可能であるとともに、前記クライオポンプ容器内外の差圧によって機械的に開きうるベントバルブと、
クライオポンプ再生中に、前記圧力センサからの前記時系列圧力データに基づいて前記測定圧力の低下または前記低下後の維持を前記測定圧力の安定化として検出し、前記測定圧力の安定化が検出された場合に前記ベントバルブを開くよう制御するコントローラと、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項2】
前記コントローラは、前記クライオポンプを極低温から再生温度へと昇温している間に、前記時系列圧力データに基づいて前記測定圧力の安定化を検出し、前記測定圧力の安定化が検出された場合に前記ベントバルブを開くよう制御することを特徴とする請求項1に記載のクライオポンプ。
【請求項3】
前記コントローラは、前記測定圧力が圧力しきい値を超え且つ前記測定圧力の安定化が検出された場合に前記ベントバルブを開くよう制御することを特徴とする請求項1または2に記載のクライオポンプ。
【請求項4】
前記コントローラは、前記時系列圧力データから前記測定圧力の変化量を演算し、前記測定圧力の変化量を変化量しきい値と比較し、前記測定圧力の変化量が変化量しきい値未満の場合に前記ベントバルブを開くよう制御することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項5】
前記コントローラは、前記測定圧力の安定化が検出された場合に、制御により前記ベントバルブを開く直前及び/または開弁後の前記測定圧力を前記時系列圧力データから取得し、取得された前記測定圧力に基づいて設定圧力を設定し、
前記コントローラは、前記測定圧力を前記設定圧力と比較し、前記測定圧力が前記設定圧力を超えるとき前記ベントバルブを開くよう制御することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のクライオポンプ。
【請求項6】
クライオポンプの制御方法であって、前記クライオポンプは、クライオポンプ容器と、圧力センサと、前記クライオポンプ容器に設けられ、制御により開閉可能であるとともに、前記クライオポンプ容器内外の差圧によって機械的に開きうるベントバルブと、を備え、前記制御方法は、
前記クライオポンプ容器内の圧力を測定し、測定圧力を示す時系列圧力データを生成するように、前記圧力センサを使用することと、
前記時系列圧力データに基づいて前記測定圧力の低下または前記低下後の維持を前記測定圧力の安定化として検出し、前記測定圧力の安定化が検出された場合に前記ベントバルブを開くよう制御することと、を備えることを特徴とする制御方法。
【請求項7】
クライオポンプ容器と、
前記クライオポンプ容器内の圧力を測定し、測定圧力を示す時系列圧力データを生成する圧力センサと、
前記クライオポンプ容器に設けられ、制御により開閉可能であるとともに、前記クライオポンプ容器内外の差圧によって機械的に開きうるベントバルブと、
クライオポンプ再生中に、前記圧力センサからの前記時系列圧力データに基づいて前記測定圧力の変化量を演算し、前記測定圧力の変化量を変化量しきい値と比較し、前記測定圧力の変化量が変化量しきい値未満の場合に前記ベントバルブを開くよう制御するコントローラと、を備えることを特徴とするクライオポンプ。
【請求項8】
クライオポンプの制御方法であって、前記クライオポンプは、クライオポンプ容器と、圧力センサと、前記クライオポンプ容器に設けられ、制御により開閉可能であるとともに、前記クライオポンプ容器内外の差圧によって機械的に開きうるベントバルブと、を備え、前記制御方法は、
前記クライオポンプ容器内の圧力を測定し、測定圧力を示す時系列圧力データを生成するように、前記圧力センサを使用することと、
前記時系列圧力データに基づいて前記測定圧力の変化量を演算し、前記測定圧力の変化量を変化量しきい値と比較し、前記測定圧力の変化量が変化量しきい値未満の場合に前記ベントバルブを開くよう制御することと、を備えることを特徴とする制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クライオポンプおよびクライオポンプの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
クライオポンプは、極低温に冷却されたクライオパネルに気体分子を凝縮または吸着により捕捉して排気する真空ポンプである。クライオポンプは半導体回路製造プロセス等に要求される清浄な真空環境を実現するために一般に利用される。クライオポンプはいわゆる気体溜め込み式の真空ポンプであるから、捕捉した気体を外部に定期的に排出する再生を要する。
【0003】
ある既知のクライオポンプにおいては、気体を排出するためのベントバルブの開閉動作が、圧力センサによって測定されるクライオポンプ内圧に基づいて制御される。また、このベントバルブは、クライオポンプ内外の差圧によって機械的に開く安全弁として構成され、再生中にクライオポンプ内に生じうる過度の高圧を解放することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-149530号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上述のクライオポンプについて検討し、以下の課題を認識した。クライオポンプに設置される圧力センサとしては、真空を、好ましくは真空から大気圧までを測定可能なタイプが採用される。多くの場合、この種の圧力センサは、圧力を直接測定するのではなく、気体とセンサとの相互作用に基づいて圧力を間接的に測定する。たとえば、ピラニ真空計は、熱伝導に基づく測定であり、高温の金属細線を有し、これに衝突した気体分子が熱を奪うことによる金属細線の冷却から圧力を測定する。このような間接的な測定方式は、気体の温度や気体の物性に依存する測定誤差を避けられない。
【0006】
クライオポンプの再生中、クライオポンプの温度は極低温から室温またはそれより高温までの広い温度範囲にわたって変動し、そのうえ、クライオポンプ内には捕捉された様々な種類の気体が気化して混ざり合ったものが含まれる。したがって、クライオポンプの再生中に得られる圧力センサの測定圧力は、大きな誤差を含みうる。その結果、圧力センサの測定圧力に基づくベントバルブの開閉動作も不適正となりうる。
【0007】
本発明のある態様の例示的な目的のひとつは、クライオポンプの再生中にベントバルブを適正なタイミングで開くことにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様によると、クライオポンプは、クライオポンプ容器と、クライオポンプ容器内の圧力を測定し、測定圧力を示す時系列圧力データを生成する圧力センサと、クライオポンプ容器に設けられ、制御により開閉可能であるとともに、クライオポンプ容器内外の差圧によって機械的に開きうるベントバルブと、クライオポンプ再生中に、圧力センサからの時系列圧力データに基づいて測定圧力の安定化を検出し、測定圧力の安定化が検出された場合にベントバルブを開くよう制御するコントローラと、を備える。
【0009】
本発明のある態様によると、クライオポンプの制御方法が提供される。クライオポンプは、クライオポンプ容器と、圧力センサと、クライオポンプ容器に設けられ、制御により開閉可能であるとともに、クライオポンプ容器内外の差圧によって機械的に開きうるベントバルブと、を備える。制御方法は、クライオポンプ容器内の圧力を測定し、測定圧力を示す時系列圧力データを生成するように、圧力センサを使用することと、時系列圧力データに基づいて測定圧力の安定化を検出し、測定圧力の安定化が検出された場合にベントバルブを開くよう制御することと、を備える。
【0010】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや本発明の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、クライオポンプの再生中にベントバルブを適正なタイミングで開くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係るクライオポンプを概略的に示す。
図2図1に示されるベントバルブをより詳細に示す模式図である。
図3】クライオポンプの再生中に起こりうるクライオポンプ容器の内圧の上昇を示す模式図である。
図4】実施例に係るコントローラのブロック図である。
図5】実施例に係るクライオポンプの制御方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。説明および図面において同一または同等の構成要素、部材、処理には同一の符号を付し、重複する説明は適宜省略する。図示される各部の縮尺や形状は、説明を容易にするために便宜的に設定されており、特に言及がない限り限定的に解釈されるものではない。実施の形態は例示であり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0014】
図1は、実施の形態に係るクライオポンプ10を概略的に示す。クライオポンプ10は、例えばイオン注入装置、スパッタリング装置、蒸着装置、またはその他の真空プロセス装置の真空チャンバに取り付けられて、真空チャンバ内部の真空度を所望の真空プロセスに要求されるレベルまで高めるために使用される。例えば10-5Pa乃至10-8Pa程度の高い真空度が真空チャンバに実現される。
【0015】
クライオポンプ10は、圧縮機12と、冷凍機14と、クライオポンプ容器16と、クライオパネル18と、コントローラ20とを備える。また、クライオポンプ10は、圧力センサ22と、ラフバルブ24と、パージバルブ26と、ベントバルブ28とを備え、これらはクライオポンプ容器16に設置されている。
【0016】
圧縮機12は、冷媒ガスを冷凍機14から回収し、回収した冷媒ガスを昇圧して、再び冷媒ガスを冷凍機14に供給するよう構成されている。冷凍機14は、膨張機またはコールドヘッドとも称され、圧縮機12とともに極低温冷凍機を構成する。圧縮機12と冷凍機14との間の冷媒ガスの循環が冷凍機14内での冷媒ガスの適切な圧力変動と容積変動の組み合わせをもって行われることにより、寒冷を発生する熱力学的サイクルが構成され、冷凍機14の冷却ステージが所望の極低温に冷却される。それにより、冷凍機14の冷却ステージに熱的に結合されたクライオパネル18を目標冷却温度(例えば10K~20K)に冷却することができる。冷媒ガスは、通例はヘリウムガスであるが、適切な他のガスが用いられてもよい。理解のために、冷媒ガスの流れる方向を図1に矢印で示す。極低温冷凍機は、一例として、二段式のギフォード・マクマホン(Gifford-McMahon;GM)冷凍機であるが、パルス管冷凍機、スターリング冷凍機、またはそのほかのタイプの極低温冷凍機であってもよい。
【0017】
クライオポンプ容器16は、クライオポンプ10の真空排気運転中に真空を保持し、周囲環境の圧力(例えば大気圧)に耐えるように設計された真空容器である。クライオポンプ容器16は、吸気口17を有するクライオパネル収容部16aと、冷凍機収容部16bとを有する。クライオパネル収容部16aは、吸気口17が開放され、その反対側が閉塞されたドーム状の形状を有し、この内部にクライオパネル18が冷凍機14の冷却ステージとともに収容される。冷凍機収容部16bは、円筒状の形状を有し、その一端が冷凍機14の室温部に固定され、他端がクライオパネル収容部16aに接続され、内部に冷凍機14が挿入されている。クライオポンプ10の吸気口17から進入する気体はクライオパネル18に凝縮または吸着により捕捉される。クライオパネル18の配置や形状などクライオポンプ10の構成は、種々の公知の構成を適宜採用することができるので、ここでは詳述しない。
【0018】
コントローラ20は、クライオポンプ10を制御するよう構成されている。コントローラ20は、クライオポンプ10に一体に設けられていてもよいし、クライオポンプ10とは別体の制御装置として構成されていてもよい。
【0019】
コントローラ20は、クライオポンプ10の真空排気運転においては、クライオパネル18の冷却温度に基づいて、冷凍機14を制御してもよい。クライオポンプ容器16内には、クライオパネル18の温度を測定する温度センサ23が設けられていてもよく、コントローラ20は、クライオパネル18の測定温度を示す温度センサ出力信号を受信するよう温度センサ23と接続されていてもよい。
【0020】
また、コントローラ20は、クライオポンプ10の再生運転においては、クライオポンプ容器16内の圧力に基づいて(または、必要に応じて、クライオパネル18の温度およびクライオポンプ容器16内の圧力に基づいて)、冷凍機14、ラフバルブ24、パージバルブ26、ベントバルブ28を制御してもよい。コントローラ20は、クライオポンプ容器16内の測定圧力を示す圧力センサ出力信号(例えば、後述の時系列圧力データD1を含む)を受信するよう圧力センサ22と接続されていてもよい。
【0021】
詳細は後述するが、コントローラ20は、クライオポンプ再生中に、圧力センサ22からの時系列圧力データD1に基づいて測定圧力の安定化を検出し、測定圧力の安定化が検出された場合にベントバルブ28を開くよう制御する。
【0022】
コントローラ20の内部構成は、ハードウェア構成としてはコンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子や回路で実現され、ソフトウェア構成としてはコンピュータプログラム等によって実現されるが、図では適宜、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0023】
たとえば、コントローラ20は、CPU(Central Processing Unit)、マイコンなどのプロセッサ(ハードウェア)と、プロセッサ(ハードウェア)が実行するソフトウェアプログラムの組み合わせで実装することができる。そうしたハードウェアプロセッサは、たとえば、FPGA(Field Programmable Gate Array)などのプログラマブルロジックデバイスで構成してもよいし、プログラマブルロジックコントローラ(PLC)のような制御回路であってもよい。ソフトウェアプログラムは、クライオポンプ10の再生をコントローラ20に実行させるためのコンピュータプログラムであってもよい。
【0024】
圧力センサ22は、クライオポンプ容器16内の圧力を測定し、測定圧力を示す時系列圧力データD1を生成する。圧力センサ22は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容部16bに取り付けられている。圧力センサ22は、測定した圧力値のデータをコントローラ20に蓄積すべく逐次出力することによって、時系列圧力データD1を生成してもよい。圧力センサ22は、クライオポンプ容器16内の圧力を周期的に測定するので、時系列圧力データD1は、クライオポンプ容器16内の測定圧力の時間変化を示す。言い換えれば、時系列圧力データD1は、互いに異なる時点に測定された少なくとも2以上の圧力測定値を含む。
【0025】
圧力センサ22は、真空(例えばクライオポンプ10の動作開始圧力である1~10Pa)と大気圧の両方を含む広い計測範囲を有する。少なくとも再生処理中に生じ得る圧力範囲を計測範囲に含むことが望ましい。この実施形態では、圧力センサ22として、大気圧ピラニゲージ(大気圧を測定可能なピラニ真空計)が使用される。あるいは、圧力センサ22は、例えばクリスタルゲージ、または気体とセンサとの相互作用に基づいて圧力を間接的に測定するその他の圧力センサであってもよい。
【0026】
ラフバルブ24は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容部16bに取り付けられている。ラフバルブ24は、クライオポンプ10の外部に設置されたラフポンプ(図示せず)に接続される。ラフポンプは、クライオポンプ10をその動作開始圧力まで真空引きをするための真空ポンプである。コントローラ20の制御によりラフバルブ24が開放されるときクライオポンプ容器16がラフポンプに連通され、ラフバルブ24が閉鎖されるときクライオポンプ容器16がラフポンプから遮断される。ラフバルブ24を開きかつラフポンプを動作させることにより、クライオポンプ10を減圧することができる。
【0027】
パージバルブ26は、クライオポンプ容器16、例えばクライオパネル収容部16aに取り付けられている。パージバルブ26は、クライオポンプ10の外部に設置されたパージガス供給装置(図示せず)に接続される。コントローラ20の制御によりパージバルブ26が開放されるときパージガスがクライオポンプ容器16に供給され、パージバルブ26が閉鎖されるときクライオポンプ容器16へのパージガス供給が遮断される。パージガスは例えば窒素ガス、またはその他の乾燥したガスであってもよく、パージガスの温度は、たとえば室温に調整され、または室温より高温に加熱されていてもよい。パージバルブ26を開きパージガスをクライオポンプ容器16に導入することにより、クライオポンプ10を昇圧することができる。また、クライオポンプ10を極低温から室温またはそれより高い温度に昇温することができる。
【0028】
ベントバルブ28は、クライオポンプ容器16、例えば冷凍機収容部16bに取り付けられている。ベントバルブ28は、クライオポンプ10の内部から外部に流体を排出するために設けられている。ベントバルブ28は、排出される流体をクライオポンプ10の外部の貯留タンク(図示せず)へと導流する排出ライン30に接続される。あるいは、排出される流体が無害である場合には、ベントバルブ28は、排出される流体を周囲環境に放出するよう構成されてもよい。ベントバルブ28から排出される流体は基本的にはガスであるが、液体または気液の混合物であってもよい。
【0029】
ベントバルブ28は、制御により開閉可能であるとともに、クライオポンプ容器16の内外の差圧によって機械的に開きうる。ベントバルブ28は、例えば常閉型の制御弁であり、いわゆる安全弁としても機能するよう構成されている。ベントバルブ28は更に、所定の差圧が作用したときに機械的に開放されるよう閉弁力が予め設定されている。この開弁差圧は例えば、クライオポンプ容器16に作用し得る内圧や構造的な耐久性等を考慮して適宜設定することができる。クライオポンプ10の外部環境は通常大気圧であるから、開弁差圧は大気圧を基準として所定の値に設定される。ベントバルブ28の閉弁力の設定については、図2を参照して後述する。
【0030】
ベントバルブ28は、コントローラ20から入力される指令信号S1に従って開閉される。ベントバルブ28は、例えば再生中などのようにクライオポンプ10から流体を放出するときにコントローラ20によって開放される。放出すべきでないときはコントローラ20によってベントバルブ28は閉鎖される。一方、ベントバルブ28は、開弁差圧が作用したときに機械的に開放される。このため、クライオポンプ内部が何らかの理由で高圧となったときに制御を要することなくベントバルブ28は機械的に開放される。それにより内部の高圧を逃がすことができる。こうしてベントバルブ28は安全弁として機能する。このようにベントバルブ28を安全弁と兼用することにより、2つの弁をそれぞれ設ける場合に比べてコストダウンや省スペース化という利点を得られる。
【0031】
図2は、図1に示されるベントバルブ28をより詳細に示す模式図である。ベントバルブ28は、図2に実線で示す閉鎖状態においては真空ポート84から排気ポート86への流通を遮断する。真空ポート84は、クライオポンプ容器16に接続され、排気ポート86は、排出ライン30に接続される(または外部環境に直接開放されてもよい)。一方、開放状態においてベントバルブ28は、真空ポート84から排気ポート86への排出流れAを許容する。破線にて開放状態での弁体の位置を示す。真空ポート84からベントバルブ28に流入した排出流れAは、ベントバルブ28の内部で垂直方向に折り曲げられて排気ポート86から流出する。
【0032】
ベントバルブ28は、バルブ筐体88によって外部から仕切られている弁室90及びピストン室92を有する。弁室90とピストン室92とは隣接しており仕切板94で仕切られている。仕切板94は真空ポート84に対向する弁室90の内壁である。弁室90には2つの開口が設けられており、一方の開口が上述の真空ポート84であり、他方の開口が排気ポート86である。
【0033】
弁室90にはベントバルブ28の弁体としてのバルブプレート96が収容されている。バルブプレート96の外周部が真空ポート84の周囲部分98に押し当てられるように、バルブプレート96の外形寸法は真空ポート84の開口寸法よりも大きくなっている。例えば、バルブプレート96及び真空ポート84はともに同心の円形であり、バルブプレート96のほうが真空ポート84よりも径が大きくなっている。バルブプレート96の外周部が真空ポート84の周囲部分98に押し当てられる領域(例えば環状領域)がシール面100として機能する。シール面100にはシールのためのOリング(図示せず)が設けられている。このOリングは例えばシール面100内でバルブプレート96に形成された溝部に収容されている。
【0034】
ピストン室92には、ベントバルブ28のバルブ駆動機構の一部であるピストン102が収容されている。ピストン102はその外側面がピストン室92の内壁に摺動可能に支持されている。ピストン室92はピストン102によって二室に区切られている。ピストン102はバルブプレート96と連結軸104で連結されている。連結軸104は、バルブプレート96のシール面100とは逆向きの面の中心部から垂直に延びてピストン102に固定されている棒状の部材である。連結軸104は仕切板94を貫通しており、その貫通孔において軸方向に移動可能に例えば軸受け(図示せず)により支持されている。よって、ピストン102はピストン室92の内壁に沿って連結軸104の軸方向に摺動可能である。連結軸104で固定されていることにより、バルブプレート96はピストン102と一体に軸方向に移動可能である。
【0035】
バルブ駆動機構は例えば圧空式の駆動機構である。すなわちピストン室92に圧縮空気が供給されることによりピストン102は駆動される。バルブ駆動機構はピストン室92への圧縮空気の供給及び供給停止を切り換えるための電磁弁を含んでもよい。ピストン102で区切られたピストン室92の一方の室には圧縮空気供給口及び排出口が設けられており、これら供給口及び排出口は上記の電磁弁を含む圧縮空気供給系に接続されている。コントローラ20は電磁弁の開閉を制御する。電磁弁が開放されるとピストン室92に圧縮空気が供給されピストン102が初期位置から移動される。電磁弁が閉鎖されるとピストン室92から圧縮空気は放出され後述のスプリング106の作用によりピストン102は初期位置へと戻される。
【0036】
なおバルブ駆動機構はその他の任意の駆動機構であってもよい。例えばピストン102をソレノイドの電磁吸引力で直接駆動するいわゆる直動式であってもよいし、あるいは、弁体をリニアモータやステッピングモータ等の適宜のモータで駆動する方式であってもよい。
【0037】
ベントバルブ28はスプリング106を含む閉弁機構を備える。スプリング106は、バルブプレート96の外周部を真空ポート84の周囲部分98に押し当ててシール面100にシール圧力を作用させるために設けられている。スプリング106は、真空ポート84から流入する排出流れAとは逆向きにバルブプレート96を付勢する。スプリング106は、バルブプレート96のシール面100とは逆向きの面に一端が取り付けられ、他端が仕切板94に取り付けられて、連結軸104に沿って設けられている。こうしてベントバルブ28は常閉型の制御弁として構成されている。
【0038】
スプリング106は、所定の圧縮力の取付荷重で取り付けられており、この取付荷重がベントバルブ28の閉弁力を定める。つまり、差圧によってバルブプレート96に作用する差圧力がスプリング取付荷重すなわち閉弁力を超えたときに、バルブプレート96は差圧力によっていくらか移動されてベントバルブ28が開く(一点鎖線)。この機械的な開弁によって、真空ポート84から排気ポート86への流れが許容される。クライオポンプ10の真空排気運転中においては真空側のほうが排気側よりも低圧である。スプリング106はバルブプレート96を真空ポート84へと付勢するから、ベントバルブ28が機械的に開かれることはない。真空ポート84側が排気ポート86側よりも高圧という例外的な状況でベントバルブ28は機械的に開放され得る。
【0039】
なおベントバルブ28の閉弁機構はスプリング式には限られない。例えば磁力による閉弁機構であってもよい。バルブプレート96と真空ポート84の周囲部分98とを磁力の吸引力によって固定することにより所望の閉弁力を与えるようにしてもよい。この場合、バルブプレート96と真空ポート84の周囲部分98との少なくとも一方に、両者間に吸引力を作用させるための磁石が設けられる。あるいは、静電吸着による閉弁機構またはその他の適切な閉弁機構であってもよい。
【0040】
ベントバルブ28は、圧力センサ22の測定結果に基づいてコントローラ20により制御される制御弁である。コントローラ20は、圧力センサ22により測定されたクライオポンプ容器16の内圧が設定圧力を超えたか否かを判定する。設定圧力を超えたと判定した場合には、コントローラ20はバルブ駆動機構によってベントバルブ28を開放する。すなわち、コントローラ20は、ピストン102及びバルブプレート96を閉弁状態の位置(以下、これを閉鎖位置または初期位置と呼ぶことがある。)から開放状態の位置(以下、これを開放位置と呼ぶことがある。)へと移動する。図2においては閉鎖位置を実線で示し、開放位置を破線で示す。
【0041】
一方、圧力センサ22により測定されたクライオポンプ容器16の内圧が設定圧力に達していないと判定した場合には、コントローラ20は、ピストン102及びバルブプレート96を閉鎖位置に維持する。この場合、コントローラ20がバルブ駆動機構を作動しないことにより、ピストン102及びバルブプレート96はスプリング106の閉弁力によって閉鎖位置に保たれる。
【0042】
ベントバルブ28の開閉制御のための設定圧力は、クライオポンプ10の外部環境の圧力に設定される。あるいは、ベントバルブ28を開放したときの外部からポンプ内部への逆流を確実に防止することを重視する場合には、設定圧力は、外部環境の圧力よりも若干高く設定される。外部環境の圧力は典型的には大気圧であるから、ベントバルブ28の開閉制御のための設定圧力は大気圧またはそれよりも若干高圧(例えばゲージ圧で0.1気圧以内の大きさ)に設定される。このようにして、クライオポンプ10の内部が例えば再生中に外部に対し高圧となったときにベントバルブ28が制御によって開かれ、内圧を外部に解放することができる。
【0043】
多くの場合、制御弁は、想定の使用環境において、制御により開放(または閉鎖)しているときは開放状態(または閉鎖状態)が確実に維持されるよう構成されている。常閉型の制御弁であれば、閉鎖状態において弁に作用すると想定される差圧範囲において勝手に開弁してしまうことのないように閉弁力が想定最大差圧よりも大きくされている。
【0044】
ところが、ベントバルブ28は、想定される圧力範囲内で機械的に開放し得るように閉弁力が調整されている点を1つの特徴としている。コントローラ20がベントバルブ28を閉鎖しているときにクライオポンプ容器16の内部に生じた陽圧と外部圧との差圧の作用によって機械的に開放されるようにベントバルブ28の閉弁力が調整されている。具体的には、ベントバルブ28は、クライオポンプ10の正常運転時に想定される差圧を超える開弁差圧で機械的に開放されるよう閉弁力が調整されている。ここでの正常運転にはクライオポンプ10の排気運転と再生運転の両方が含まれる。ベントバルブ28は例えば、ベントバルブ28自体の制御系統に異常が生じた場合や、何らかの要因によってクライオポンプ容器16の内部が過度に昇圧した場合に機械的に開放される。
【0045】
ベントバルブ28が機械的に開かれる開弁差圧は、コントローラ20がベントバルブ28を開くよう制御する設定圧力に等しくてもよく、または設定圧力よりも高くてもよい。
開弁差圧および設定圧力は、ゲージ圧で、例えば1気圧以内、または0.5気圧以内であってもよく、例えば0.2気圧から0.3気圧の範囲にあってもよい。
【0046】
コントローラ20によるベントバルブ28の弁体の開閉ストロークDは、差圧の作用による機械的開弁における弁体移動量よりも大きい。すなわち、ベントバルブ28は、開弁差圧が作用したときのバルブプレート96の移動量よりもバルブ駆動機構による開閉ストロークDのほうが大きくなるよう構成されている。機械的開弁の開閉ストロークは微小である。コントローラ20によるベントバルブ28の開閉制御は、機械的開弁に比べて、排出流れAに含まれる異物粒子をベントバルブ28が噛み込むリスクを小さくすることができる。よって、ベントバルブ28のシール性を良好に維持することができる。
【0047】
真空排気運転が継続されることによりクライオポンプ10には気体が蓄積されていく。蓄積した気体を外部に排出するために、クライオポンプ10の再生が行われる。再生運転は、昇温工程、排出工程、及びクールダウン工程を含む。
【0048】
昇温工程においては、パージバルブ26を通じてクライオポンプ容器16に供給されるパージガス、またはその他の加熱手段によって、クライオポンプ10は、極低温から室温またはそれより高い再生温度に昇温される(例えば約290Kないし約300K)。同時に、クライオポンプ10に捕捉されている気体が再び気化され、また、パージガスが供給されるので、クライオポンプ容器16内の圧力は、大気圧またはそれよりいくらか高い圧力(すなわち、ベントバルブ28の開弁差圧または設定圧力)に向けて増加する。
【0049】
排出工程においては、ベントバルブ28またはラフバルブ24を通じてクライオポンプ容器16から外部に気体が排出される。クライオポンプ容器16内の圧力がクライオポンプ10の動作開始圧力程度まで減圧され、圧力上昇率が所定値を下回ることが検出されると、排出工程は終了される。続いて、クールダウン工程により、クライオポンプ10は、再生温度から極低温に再び冷却される。このようにして、再生は完了し、クライオポンプ10は、再び真空排気運転を始めることができる。
【0050】
クライオポンプ10の再生中、圧力センサ22の測定方式に依存するが、圧力センサ22の測定圧力(絶対圧)は、測定誤差を含みうる。たとえば、ピラニ真空計は、気体分子と金属細線との間の熱伝導に基づくので、気体の温度や気体の物性に依存する測定誤差を避けられない。とりわけ、昇温工程では、クライオポンプ10の温度が極低温から室温またはそれより高温までの広い温度範囲にわたって変動し、そのうえ、クライオポンプ10内には捕捉された様々な種類の気体が気化して混ざり合ったものが含まれる。したがって、圧力センサ22の測定圧力は、大きな誤差を含みうる。
【0051】
このように圧力センサ22の測定圧力がクライオポンプ容器16内の真の圧力から乖離しているなかで、コントローラ20によるベントバルブ28の開閉制御が行われると、上述の設定圧力が測定圧力と真の圧力の中間の値となることがある。このとき、設定圧力が大気圧と同程度であることを踏まえると、以下に例示する問題が起こりうる。
【0052】
測定圧力が設定圧力を超え、真の圧力が設定圧力を下回る場合、排出ライン30からベントバルブ28を通じてクライオポンプ容器16内へと逆流が生じうる。なぜなら、測定圧力が設定圧力を超えているので、コントローラ20は、ベントバルブ28を開くが、このとき、クライオポンプ容器16内の真の圧力は、設定圧力より低く、すなわち、大気圧より低いかもしれないからである。排出ライン30には、半導体製造プロセスでしばしば用いられる、慎重な取り扱いを要する気体(たとえば、有毒性、可燃性、及び/または、腐食性をもつ気体)が流れていることがある。このような気体がクライオポンプ10に逆流することは極力回避することが望まれる。
【0053】
これを避けるために、設定圧力をより高圧に設定したとすれば、ベントバルブ28を開く制御が行われにくくなる。ベントバルブ28は、クライオポンプ10の内圧が高くなったとき制御により開くのではなく、安全弁として機械的に開く可能性が高まる。コントローラ20によるベントバルブ28の制御が有効に機能する場面が限定され、ベントバルブ28を制御可能な弁として構成している意味がなくなりうる。また、上述のように、ベントバルブ28が機械的に開くときの弁体移動量は小さいので、異物の噛み込みを招きやすく、これも望まれない。
【0054】
逆に、測定圧力が設定圧力を下回り、真の圧力が設定圧力を超える場合、真の圧力が設定圧力を超えるにもかかわらず、コントローラ20はベントバルブ28を開かない。この場合も、ベントバルブ28は、真の圧力がベントバルブ28の開弁差圧を超えるとき機械的に開かれることになる。やはり、コントローラ20によるベントバルブ28の制御が有効に機能する場面が限定される。ベントバルブ28の安全弁動作は、異物の噛み込みを招きうる。これを避けるために、設定圧力をより低圧に設定したとすれば、今度は、逆流のリスクが高まる。
【0055】
図3は、クライオポンプ10の再生中に起こりうるクライオポンプ容器16の内圧の上昇を示す模式図である。図3には、昇温工程においてクライオポンプ容器16内に想定される圧力の時間変化が示される。
【0056】
図示されるように、再生が開始されると、クライオポンプ容器16内の圧力は、捕捉されている気体の再気化とパージガスの供給により増加する。ここでは、コントローラ20によるベントバルブ28の制御を考慮しないことにする。クライオポンプ容器16内の圧力がベントバルブ28の開弁差圧P0に達するとき、ベントバルブ28は、安全弁として動作し、機械的に開く。クライオポンプ容器16内の圧力は、ベントバルブ28が機械的に開く瞬間に開弁差圧P0から若干低下し、その後はおおむね一定の圧力P1に維持される。これは、ベントバルブ28の弁体がベントバルブ28を通じた排出流れから受ける力とベントバルブ28の閉弁力との釣り合いに基づく。
【0057】
したがって、この実施形態では、コントローラ20は、クライオポンプ再生中に、圧力センサ22からの時系列圧力データD1に基づいて測定圧力の安定化を検出し、測定圧力の安定化が検出された場合にベントバルブ28を開くよう制御する。時系列圧力データD1は、互いに異なる時点に測定された少なくとも2以上の測定圧力値を含む。よって、コントローラ20は、時系列圧力データD1のこれら測定圧力値に基づいて、クライオポンプ容器16内の測定圧力の変化量を演算してもよい。さらに、コントローラ20は、演算された測定圧力の変化量に基づいて、測定圧力の安定化を検出し、測定圧力の安定化が検出された場合にベントバルブ28を開くよう制御してもよい。
【0058】
クライオポンプ容器16内の圧力の低下、またはその後の維持を圧力の安定化とみなし、これを検出することによって、ベントバルブ28が安全弁として機械的に開くタイミング、すなわちクライオポンプ10の内圧がベントバルブ28の開弁差圧P0に達するタイミングを知ることができる。
【0059】
ベントバルブ28が安全弁として機械的に開くタイミングでは、クライオポンプ内圧が外圧よりも高いことが物理的に保証される。よって、このタイミングでベントバルブ28を制御により開いたとしても、ベントバルブ28を通じたクライオポンプ容器16への逆流は起こり得ない。また、上述のように、コントローラ20によるベントバルブ28の開閉ストロークは機械的開弁に比べて大きいので、ベントバルブ28が異物を噛み込むリスクも下げられる。
【0060】
圧力センサ22の測定誤差により、測定圧力(絶対圧)の値それ自体は、クライオポンプ容器16内の真の圧力から乖離しうる。しかしながら、ベントバルブ28が開くまでは上昇するがベントバルブ28が開くと安定化するという測定圧力の変化の仕方(すなわち、測定圧力の変化量の推移)は、圧力センサ22の測定誤差にあまり影響されないと考えられる。
【0061】
ベントバルブ28の機械的な開放の検出は、圧力センサ22によって測定される圧力の変動(相対圧)に基づく。よって、検出の正確さは、使用する圧力センサ22の絶対圧の測定精度に依存しない。どのようなタイプの圧力センサを使用する場合にも、同程度の精度が期待される。
【0062】
このようにして、クライオポンプ10の再生中、まさにベントバルブ28を開くべきタイミングで、ベントバルブ28を適正に開くことができる。
【0063】
一般に、絶対圧を精度よく測定する圧力センサは高価であるが、相対圧を精度よく測定する圧力センサは、比較的安価に入手できる。よって、圧力センサ22として安価なものを採用することができる。これは、クライオポンプ10の製造コストの低減につながる。
【0064】
また、コントローラ20は、クライオポンプ10を極低温から再生温度へと昇温している間に、時系列圧力データD1に基づいて測定圧力の安定化を検出し、測定圧力の安定化が検出された場合にベントバルブ28を開くよう制御してもよい。クライオポンプ10の昇温中は温度が大きく変動する。そのうえ、クライオポンプ容器16内に様々なガスを含み得るとともに、それらが混ざり合ったガスの組成も不明である。よって、昇温中は圧力センサ22の測定誤差(絶対圧)がとりわけ大きくなりがちである。したがって、クライオポンプ10の昇温中、圧力センサ22の測定圧力の安定化を検出してベントバルブ28を制御により開くことは、とくに有効である。
【0065】
続いて、クライオポンプ10の例示的な制御構成を、実施例を参照して説明する。
【0066】
図4は、実施例に係るコントローラ20のブロック図である。図5は、実施例に係るクライオポンプ10の制御方法を示すフローチャートである。
【0067】
図4に示されるように、コントローラ20は、圧力センサ22から時系列圧力データD1を受け、時系列圧力データD1に演算処理を行う処理部40を備える。処理部40は、時系列圧力データD1からクライオポンプ容器16内の測定圧力の変化量ΔPを演算する変化量演算部42と、測定圧力の変化量ΔPを変化量しきい値と比較する比較部44と、を備える。コントローラ20は、比較部44の出力に従って指令信号S1を生成しベントバルブ28に出力する。
【0068】
図5に示される制御処理は、クライオポンプ10の再生中、例えば少なくとも昇温工程において、コントローラ20によって実行される。この処理は、ベントバルブ28が閉鎖されているときに行われる。
【0069】
まず、コントローラ20は、時系列圧力データD1を取得する(S10)。例えば、圧力センサ22によって測定された最新の測定圧力を示すデータが圧力センサ22からコントローラ20に入力され、このデータがコントローラ20に既に蓄積されている時系列圧力データD1に付加される。
【0070】
コントローラ20は、測定圧力が圧力しきい値を超えるか否かを判定する(S12)。この判定は、誤動作によるベントバルブ28の開放を防ぐために行われる。なぜなら、再生中、クライオポンプ容器16内の圧力安定化は、ラフバルブ24を通じた減圧下でも起こりうるからである。あるいは、例えばパージバルブの故障、パージガスの供給停止など何らかの異常により、クライオポンプ容器16内の圧力が大気圧より十分に小さい水準にとどまる事態が想定されうる。ベントバルブ28の制御による開放がこのような減圧下で行われることを防ぐために、圧力しきい値は、大気圧より小さい値、例えば0.9気圧から0.5気圧の範囲から選択されてもよい。
【0071】
測定圧力が圧力しきい値を下回る場合(S12のN)、本処理は一旦終了され、再び最初から実行される。一方、測定圧力が圧力しきい値を超える場合(S12のY)、本処理は継続される。
【0072】
なお、コントローラ20は、測定圧力が圧力しきい値を超えるか否かを判定することに代えて、またはそれに加えて、パージバルブ26が開放されているか否かを判定してもよい。
【0073】
次に、コントローラ20は、時系列圧力データD1に基づいて測定圧力の安定化を検出する(S14)。この安定化検出処理においては、まず、コントローラ20は、時系列圧力データD1から測定圧力の変化量ΔPを演算する(S16)。例えば、変化量演算部42は、時系列圧力データD1から今回の測定圧力と前回の測定圧力を抽出し、これらの差を変化量ΔPとして演算してもよい。ここで、「測定圧力」は、一回の測定値のみには限られず、連続する複数回の測定値の平均値であってもよい。例えば、圧力センサ22が0.1秒ごとに圧力を測定する場合、変化量は、最新の測定値とその0.1秒前の測定値の差であってもよいし、最新の1秒間の測定値の平均値とそれ以前の1秒間の測定値の平均値との差であってもよい。変化量は、移動平均の差(つまり、今回演算される測定値の移動平均と前回演算された測定値の移動平均の差)であってもよい。また、変化量ΔPは、比として演算されてもよく、今回と前回の測定圧力の比、または今回と前回の測定圧力の平均値(または移動平均)の比であってもよい。
【0074】
比較部44は、測定圧力の変化量ΔPを変化量しきい値と比較する(S18)。変化量しきい値は、相対圧力または比率の形で、例えば0.1気圧または10%などの値に設定されうる。変化量しきい値は、設計者の経験的知見または設計者による実験やシミュレーション等に基づき適宜設定することが可能である。
【0075】
上述のように、クライオポンプ容器16内での気体の再気化(及び/またはパージガスの供給)によって圧力が上昇している間は、測定圧力の変化量ΔPが変化量しきい値を超えるはずである。一方、圧力が十分に高まりベントバルブ28が機械的に開くことによってクライオポンプ容器16内の圧力が安定化され、測定圧力の変化量ΔPは、変化量しきい値未満になるものと見込まれる。
【0076】
よって、測定圧力の変化量ΔPが変化量しきい値未満である場合(S18のY)、コントローラ20は、ベントバルブ28の開放を指示する指令信号S1を生成し、これをベントバルブ28に出力する。ベントバルブ28は、指令信号S1に従って開放される(S20)。一方、測定圧力の変化量ΔPが変化量しきい値を超える場合(S18のN)、コントローラ20は、ベントバルブ28の開放を指示する指令信号S1を生成しないか、または、ベントバルブ28の閉鎖を指示する指令信号S1を生成しベントバルブ28に出力する。従って、ベントバルブ28は閉鎖状態を保つ。こうして、本処理は終了する。
【0077】
このようにして、クライオポンプ10の再生中、ベントバルブ28が機械的に開くタイミングに合わせて、コントローラ20は、ベントバルブ28を開くよう制御することができる。
【0078】
図5に示される処理において、コントローラ20は、測定圧力の安定化が検出された場合に、制御によりベントバルブ28を開く直前及び/または開弁後の測定圧力を時系列圧力データD1から取得し、取得された測定圧力に基づいて設定圧力を設定してもよい。ここで、設定圧力とは、上述のように、コントローラ20がベントバルブ28を開くよう制御する圧力しきい値であり、コントローラ20は、クライオポンプ容器16内の測定圧力が設定圧力を超える場合にベントバルブ28を開放する。このようにすれば、ベントバルブ28が機械的に開くとき(すなわち、測定圧力が安定化するとき)の測定圧力に基づいて、設定圧力を更新することができる。設定圧力は、測定圧力に等しい値に更新されてもよいし、あるいは、測定圧力に所定のマージンを加算(または減算)した値に更新されてもよい。
【0079】
したがって、図5に示される処理は、クライオポンプ10の再生中に少なくとも一回実行されてもよい。例えば、本処理は、クライオポンプ10を極低温から再生温度へと昇温している間に、または昇温完了後に少なくとも一回実行されてもよい。
【0080】
このようにすれば、コントローラ20は、ベントバルブ28が機械的に開くタイミングに合わせて設定圧力を更新し、更新された設定圧力を用いてベントバルブ28を開くよう制御することができる。
【0081】
以上、本発明を実施例にもとづいて説明した。本発明は上記実施形態に限定されず、種々の設計変更が可能であり、様々な変形例が可能であること、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは、当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0082】
10 クライオポンプ、 16 クライオポンプ容器、 20 コントローラ、 22 圧力センサ、 28 ベントバルブ。
図1
図2
図3
図4
図5