(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】過熱水蒸気装置
(51)【国際特許分類】
F22G 1/16 20060101AFI20231018BHJP
C23C 26/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
F22G1/16
C23C26/00 C
(21)【出願番号】P 2020090625
(22)【出願日】2020-05-25
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179578
【氏名又は名称】野村 和弘
(72)【発明者】
【氏名】栗林 誠
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-082955(JP,A)
【文献】特開2005-082828(JP,A)
【文献】特開2009-266669(JP,A)
【文献】特表2015-522783(JP,A)
【文献】特開2011-006755(JP,A)
【文献】特開平10-274401(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F22G 1/00 - 7/14
F22B 1/00 - 37/78
C23C 24/00 - 30/00
F27B 1/00 - 21/14
F27D 1/00 - 99/00
C04B 35/10
F24C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
過熱水蒸気によって対象物を加熱する過熱水蒸気装置であって、
400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成された
フェライト系金属材料により構成され、
前記アルミナ被膜の厚みは100nm以上3μm以下であることを特徴とする、
過熱水蒸気装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、過熱水蒸気装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、過熱水蒸気を用いて熱処理を行う技術が知られている。特許文献1には、セラミックスの製造における脱脂工程において、600℃~1000℃の過熱水蒸気による熱処理を実行することが開示されている。特許文献2には、過熱水蒸気による腐食を抑制するために、過熱水蒸気が導入される過熱水蒸気炉をオーステナイト系ステンレス鋼によって形成する構成が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-166123号公報
【文献】特開2019-116986号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本願発明者は、ステンレス鋼の表面に形成された酸化クロムの不働態膜の緻密な構成が、水蒸気雰囲気の400℃以上の環境下で壊れてしまい、ステンレス鋼に含まれるクロムが蒸発しやすくなることを見出した。また、蒸発したクロムには、有毒な六価クロムが含まれるおそれがある。このため、例えば、過熱水蒸気装置を用いて400℃以上の条件でセラミックス前駆体(有機バインダを含む成形体)の脱脂を実施すると、蒸発したクロムによってセラミックス前駆体が汚染されるおそれがある。また、例えば、食品調理用の過熱水蒸気オーブンにおいては、400℃以上になると食品に六価クロムが付着するおそれがあり、安全性の低下が懸念される。このため、過熱水蒸気装置において、熱処理対象物へのクロム汚染を抑制可能な技術が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することができる。
本発明の一形態によれば、過熱水蒸気装置が提供される。この過熱水蒸気装置は、過熱水蒸気によって対象物を加熱する過熱水蒸気装置であって、400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成されたフェライト系金属材料により構成され、前記アルミナ被膜の厚みは100nm以上3μm以下であることを特徴とする。
その他、本開示は、以下のような形態として実現することも可能である。
【0006】
本開示の一形態によれば、過熱水蒸気装置が提供される。この過熱水蒸気装置は、過熱水蒸気によって対象物を加熱する過熱水蒸気装置であって、400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成された金属材料により構成されていることを特徴とする。この形態の過熱水蒸気装置によれば、400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成された金属材料により構成されているので、かかる金属材料にクロムが含まれる構成であっても、過熱水蒸気によって400℃以上に加熱された場合に、クロムが蒸発することを抑制できる。したがって、蒸発したクロムによって熱処理対象物が汚染されることを抑制できる。
【0007】
なお、本開示は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、過熱水蒸気装置の製造方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】過熱水蒸気装置の概略構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
A.実施形態:
図1は、本開示の一実施形態としての過熱水蒸気装置10の概略構成を示す概略図である。本実施形態の過熱水蒸気装置10は、過熱水蒸気によって対象物の熱処理を行なうための装置である。本実施形態において、「過熱水蒸気」とは、沸点以上に加熱された水蒸気を意味している。
【0010】
過熱水蒸気装置10は、本体部20と、過熱水蒸気発生装置30と、内部ヒータ40とを備える。
【0011】
本体部20は、略箱型の外観形状を有し、内部に炉室22が形成されている。炉室22には、熱処理対象物が収容されるとともに、過熱水蒸気が導入される。本体部20には、開閉可能に構成された図示しない開閉部が形成されている。かかる開閉部は、熱処理対象物が加熱される際に閉じられ、炉室22に熱処理対象物を入れる際および炉室22から熱処理対象物を取り出す際に開かれる。本体部20には、後述する過熱水蒸気発生装置30から炉室22へと過熱水蒸気を導入するための導入路24が形成されている。導入路24は、過熱水蒸気発生装置30と炉室22とを連通させる流路として構成されている。本体部20の詳細な構成については、後述する。
【0012】
過熱水蒸気発生装置30は、過熱された水蒸気を発生させるための装置である。過熱水蒸気発生装置30は、図示しないヒータが設けられた加熱室を有し、加熱室へと供給された市水等の水をヒータで加熱することにより、100℃以上の水蒸気を発生させる。
図1では、水または水蒸気の流れを矢印で示している。
【0013】
内部ヒータ40は、炉室22に設けられており、炉室22を加熱する。内部ヒータ40には、図示しない電源装置が接続されており、通電により発熱する。本実施形態において、内部ヒータ40は、螺旋状に巻回された形状を有するが、螺旋状に代えて板状等の任意の形状を有していてもよい。
【0014】
導入路24を介して炉室22へと導入された過熱水蒸気は、内部ヒータ40によってさらに加熱されて温度が上昇する。炉室22の温度は、炉室22に設けられた図示しない温度検出器によって検出され、例えば、検出された温度と設定温度とを用いたフィードバック制御等により制御される。
【0015】
本実施形態の過熱水蒸気装置10は、400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成された金属材料により構成されている。この理由について、以下に説明する。
【0016】
従来の過熱水蒸気装置では、高温の水蒸気による腐食を抑制するために、過熱水蒸気が導入される箇所がステンレス鋼によって形成されていることが多い。特に、オーステナイト系ステンレス鋼に分類されるSUS304、SUS316およびSUS310S等は、溶接が容易であるため、過熱水蒸気装置の内壁に用いられることが多い。
【0017】
一般に、クロムを含有するステンレス鋼の表面には、酸化クロムの不働態膜が形成されている。しかしながら、本願発明者は、ステンレス鋼の表面に形成された酸化クロムの不働態膜の緻密な構成が、水蒸気雰囲気の400℃以上の環境下で壊れてしまい、ステンレス鋼に含まれるクロムが蒸発しやすくなることを見出した。また、蒸発したクロムには、有毒な六価クロムが含まれるおそれがある。このため、従来の過熱水蒸気装置を用いて400℃以上の熱処理を行なうと、蒸発したクロムによって熱処理対象物が汚染されるおそれがあることを本願発明者は見出した。
【0018】
さらに、本願発明者は、表面にアルミナの不働態膜が形成されたステンレス鋼においては、ステンレス鋼に含まれるクロムの蒸発がアルミナ被膜によって抑制されることを見出した。このため、過熱水蒸気装置10のうち400℃以上に加熱される箇所をアルミナ被膜が形成された金属材料により構成することによって、熱処理対象物へのクロム汚染を抑制できることを、本願発明者は見出した。
【0019】
金属材料の表面にアルミナ被膜を形成する方法としては、例えば、アルミニウムを1.5質量%以上10質量%以下含む金属材料を、酸素雰囲気下または大気雰囲気下で、予め800℃以上1200℃以下の条件で熱処理する方法が挙げられる。かかる熱処理の温度が例えば600℃以上700℃以下である場合には、アルミナの不働態膜ではなくクロムの不働態膜が形成されることがある。このため、熱処理を800℃以上で行なうことにより、クロムの不働態膜が形成されることを抑制できる。また、熱処理を1200℃以下の条件で行うことにより、形成されるアルミナ被膜の厚みが過度に厚くなりすぎることを抑制できるので、熱応力によってアルミナ被膜が割れてしまうことを抑制でき、その結果として、金属材料の耐久性が低下することを抑制できる。なお、金属材料に含まれるアルミニウムが1.5質量%未満である場合には、アルミナの不働態膜とクロムの不働態膜とが混在して形成されるおそれがあるため、望ましくない。
【0020】
アルミニウムを1.5質量%以上10質量%以下含む金属材料としては、特に限定されるものではないが、例えば、JIS規格のSUH21相当材(18Cr-3Al)や、カンタル(登録商標、23Cr-6Al)、YUS205-M1(日鉄ステンレス株式会社製、20Cr-5Al)等が挙げられる。SUH21は、フェライト系耐熱鋼の一種であり、例えば、NCA-1(日新製鋼株式会社製)や、NSSC 21M(日鉄ステンレス株式会社製)が挙げられる。
【0021】
金属材料の表面に形成されたアルミナ被膜の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、100nm以上3μm以下であることが望ましい。100nm以上であることによって、クロムの蒸発を効果的に抑制できる。また、3μm以下であることによって、熱応力に起因するアルミナ被膜の割れの発生を抑制できるので、金属材料の耐久性の低下を抑制できる。
【0022】
本実施形態の過熱水蒸気装置10は、本体部20のうち炉室22を構成する内壁26と、導入路24とが、アルミナ被膜が形成された金属材料により形成されている。本実施形態において、内壁26とは、上記開閉部を含む本体部20の全ての内側面を意味している。本体部20のうち内壁26よりも外側は、断熱材や任意の金属材料等を含んで構成されていてもよい。また、本実施形態の過熱水蒸気装置10は、炉室22に設けられた内部ヒータ40についても、アルミナ被膜が形成された金属材料により形成されている。これらの箇所は、400℃以上に加熱され得る。例えば、熱処理対象物がセラミックス前駆体であり、セラミックス前駆体の脱脂工程において過熱水蒸気による熱処理を行なう場合には、上記の箇所が600℃~1000℃に加熱される。なお、過熱水蒸気発生装置30の加熱室の内部は、過熱水蒸気発生装置30ヒータの加熱によって温度が上昇するが、その温度は400℃以下であることが想定される。なお、内壁26と導入路24と内部ヒータ40とは、表面にアルミナ被膜が形成されているのであれば、いずれも同一の金属材料により構成されていてもよく、互いに異なる金属材料により構成されていてもよい。
【0023】
以上説明した本実施形態の過熱水蒸気装置10によれば、400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成された金属材料により構成されている。アルミナ被膜が金属材料の表面に存在することにより、かかる金属材料にクロムが含まれる構成であっても、過熱水蒸気によって400℃以上に加熱された場合にクロムが蒸発することを抑制できる。したがって、蒸発したクロムによって熱処理対象物が汚染されることを抑制できる。
【0024】
一般に、蒸発したクロムには、有毒な六価クロムが含まれるおそれがある。しかしながら、本実施形態の過熱水蒸気装置10によれば、クロムの蒸発を抑制できるので、熱処理対象物に六価クロムが付着することを抑制できる。このため、熱処理対象物における安全性の低下を抑制できる。
【0025】
また、本実施形態の過熱水蒸気装置10は、本体部20のうち炉室22を構成する内壁26と、導入路24と、炉室22に設けられた内部ヒータ40とが、JIS規格のSUH21相当材(18Cr-3Al)や、カンタル(登録商標、23Cr-6Al)、YUS205-M1(日鉄ステンレス株式会社製、20Cr-5Al)等、アルミナ被膜が形成された金属材料により形成されている。このため、過熱水蒸気による腐食を抑制できるので、本体部20や内部ヒータ40の耐久性の低下を抑制できる。
【0026】
また、400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成された金属材料により構成されているので、かかる箇所がセラミックスにより構成される態様と比較して、急激な熱衝撃による破損を抑制でき、その結果、セラミックスが炉室22へ飛散することを抑制できる。また、400℃以上に加熱される箇所が、アルミナ被膜が形成された金属材料により構成されているので、かかる箇所が、例えばプラチナ、金、銀およびニッケル等、クロムを含まない耐熱耐酸化金属により構成される態様と比較して、過熱水蒸気装置10の材料コストが増大することを抑制できる。
【0027】
B.他の実施形態:
上記各実施形態における過熱水蒸気装置10の構成は、あくまで一例であり、種々変更可能である。例えば、本体部20の外観形状は、略箱型に限らず、円筒型等の任意の形状であってもよい。また、過熱水蒸気装置10は、例えば、食品調理用の過熱水蒸気オーブンとして用いられてもよい。食品調理に用いられる場合には、食品に六価クロムが付着することを抑制できるので、かかる食品の安全性の低下を抑制できる。
【0028】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する各実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部または全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部または全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0029】
10…過熱水蒸気装置、20…本体部、22…炉室、24…導入路、26…内壁、30…過熱水蒸気発生装置、40…内部ヒータ