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特許7369143ピラジン誘導体と細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを組み合わせてなるRNAウイルス感染症治療剤
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  • 特許-ピラジン誘導体と細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを組み合わせてなるRNAウイルス感染症治療剤 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ピラジン誘導体と細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを組み合わせてなるRNAウイルス感染症治療剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/4965 20060101AFI20231018BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/522 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/4188 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20231018BHJP
   A61K 31/708 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20231018BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
A61K31/4965
A61K31/519
A61K31/522
A61K31/4188
A61K31/52
A61K31/7056
A61K31/708
A61P31/14
A61P43/00 121
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020563301
(86)(22)【出願日】2019-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2019050578
(87)【国際公開番号】W WO2020138067
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2018240652
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149837
【氏名又は名称】富士フイルム富山化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】米納 孝
(72)【発明者】
【氏名】中谷 俊幸
(72)【発明者】
【氏名】栗本 佑介
(72)【発明者】
【氏名】松田 俊
(72)【発明者】
【氏名】伴 寿一
【審査官】鶴見 秀紀
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2006/0119284(US,A1)
【文献】特表2013-509433(JP,A)
【文献】Antiviral Research,2009年,Vol.82,No.3,pp.95-102
【文献】Medical Hypotheses,2004年,Vol.62,No.3,pp.358-363
【文献】Society for Experimental Biology and Medicine,Vol.116,1964年,pp.228-231
【文献】F1000Research,2017年,Vol.6,pp.1-7
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 31/14
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式[1]
【化1】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩と、
メトトレキサート、プララトレキサート、6-メルカプトプリン、アザチオプリン、6-チオグアニン、チオグアノシン、チアゾフリン、テモゾロミド、又はテオフィリンから選択される化合物とを組み合わせてなる、RNAウイルス感染症治療剤。
【請求項2】
が水素原子、Rがフッ素原子又は水素原子、及びRが水素原子である請求項1記載の治療剤。
【請求項3】
が水素原子、Rがフッ素原子、及びRが水素原子である請求項2記載の治療剤。
【請求項4】
一つ以上の他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤をさらに組み合わせてなる、請求項1から3のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項5】
他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤がリバビリンである、請求項記載の治療剤。
【請求項6】
メトトレキサート、プララトレキサート、6-メルカプトプリン、アザチオプリン、6-チオグアニン、チオグアノシン、チアゾフリン、テモゾロミド、又はテオフィリンから選択される化合物と併用される、一般式[1]
【化2】
(式中、R、Rは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩を含有する、RNAウイルス感染症治療剤。
【請求項7】
が水素原子、Rがフッ素原子又は水素原子、及びRが水素原子である請求項記載の治療剤。
【請求項8】
が水素原子、Rがフッ素原子、及びRが水素原子である請求項記載の治療剤。
【請求項9】
一つ以上の他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤とさらに併用される、請求項6から8のいずれか一項に記載の治療剤。
【請求項10】
他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤がリバビリンである、請求項に記載の治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピラジン誘導体又はその塩と細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを組み合わせてなるRNAウイルス感染症治療剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インフルエンザウイルスやエボラウイルス等のRNAウイルスは、様々な感染症の原因となり、その対応策が求められている。一方、多くのRNAウイルスに対して幅広い抗ウイルス活性を有する化合物として、ファビピラビル(以下、T-705とも言う)等のピラジン誘導体が知られている(非特許文献1)。
【0003】
これらピラジン誘導体の活性を増強できれば、医薬としてより有用である。これまで、ファビピラビルとノイラミニダーゼ阻害剤を組み合わせることで、インフルエンザウイルスに対して相乗的な効果を示すことが報告されていた(特許文献1)。また、ファビピラビルとゲムシタビン又はオバトクラックスを組み合わせることで、エボラウイルスに対して相乗的な効果を示すことも報告されていた(特許文献2)。
【0004】
しかし、RNAウイルスは進化により薬剤耐性を獲得する。例えば、ノイラミニダーゼ阻害剤耐性のインフルエンザウイルスが知られている(非特許文献2)。こうした耐性獲得に対抗するため、RNAウイルスに対して効果を示す、新たな化合物の組み合わせは常に求められている。
【0005】
また前記の通り、多くのRNAウイルスに幅広く効果を示すのがファビピラビルの特徴である。しかし、複数のRNAウイルスに対する抗ウイルス活性を同時に増強できる、ピラジン誘導体と特定の化合物の組み合わせは知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第08/099874号パンフレット
【文献】国際公開第2007/202789号パンフレット
【非特許文献】
【0007】
【文献】Proc Jpn Acad Ser B Phys Biol Sci. 93, 449-463.
【文献】CDC Health Advisory:CDC issues interim recommendations for the use of influenza antivirals in the setting of oseltamivir Resistance among circulating influenza A (H1N1) viruses, 2008-09 Season.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、RNAウイルスに対して効果を示す、ピラジン誘導体と特定の化合物の新たな組み合わせを含むRNAウイルス感染症治療剤を提供することである。また本発明の別の課題は、複数のRNAウイルスに対する抗ウイルス活性を同時に増強できる、ピラジン誘導体と特定の化合物の組み合わせを含むRNAウイルス感染症治療剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
このような状況下において、本発明者は、鋭意検討を行った結果、一般式[1]
【化1】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物、特に、葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤、チアゾフリン、アルキル化剤およびキサンチン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の化合物とを組み合わせて使用すると、複数のRNAウイルスに対する抗ウイルス活性が同時に増強されることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
すなわち本発明は、以下を提供する。
[1]
一般式[1]
【化2】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを組み合わせてなる、RNAウイルス感染症治療剤。
[2]
が水素原子、Rがフッ素原子又は水素原子、及びRが水素原子である[1]に記載の治療剤。
[3]
が水素原子、Rがフッ素原子、及びRが水素原子である[2]に記載の治療剤。
[4]
細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物が、葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤、チアゾフリン、アルキル化剤およびキサンチン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の化合物である、[1]から[3]いずれか一に記載の治療剤。
[5]
葉酸拮抗剤がメトトレキサート又はプララトレキサートであり、チオプリン系代謝拮抗剤が一般式[2]
【化3】
(式中、Rは、水素原子又は保護されていてもよいアミノ基を;Rは、水素原子又は一般式[3]
【化4】
(式中、Rは、水素原子、C1-6アルキル基又はカルボキシ基を;Rは、水素原子、C1-6アルキル基、ベンジル基又はp-ニトロベンジル基を示す。)を示す。)で表されるメルカプトプリン誘導体であり、アルキル化剤がテモゾロミドであり、キサンチン誘導体がテオフィリンである、[4]に記載の治療剤。
[6]
チオプリン系代謝拮抗剤が、6-メルカプトプリン、アザチオプリン又は6-チオグアニンである[5]に記載の治療剤。
[7]
一つ以上の他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤をさらに組み合わせてなる、[1]から[6]いずれか一に記載の治療剤。
[8]
他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤がリバビリンである、[7]に記載の治療剤。
[9]
一般式[1]
【化5】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩と、葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤、チアゾフリン、アルキル化剤およびキサンチン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の化合物とを組み合わせてなる、RNAウイルス感染症治療剤。
[10]
細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物と併用される、一般式[1]
【化6】
(式中、R、Rは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩を含有する、RNAウイルス感染症治療剤。
[11]
が水素原子、Rがフッ素原子又は水素原子、及びRが水素原子である[10]に記載の治療剤。
[12]
が水素原子、Rがフッ素原子、及びRが水素原子である[11]に記載の治療剤。
[13]
細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物が、葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤、チアゾフリン、アルキル化剤およびキサンチン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の化合物である、[10]から[12]いずれか一に記載の治療剤。
[14]
葉酸拮抗剤がメトトレキサート又はプララトレキサートであり、チオプリン系代謝拮抗剤が一般式[2]
【化7】
(式中、Rは、水素原子又は保護されていてもよいアミノ基を;Rは、水素原子又は一般式[3]
【化8】
(式中、Rは、水素原子、C1-6アルキル基又はカルボキシ基を;Rは、水素原子、C1-6アルキル基、ベンジル基又はp-ニトロベンジル基を示す。)を示す。)で表されるメルカプトプリン誘導体であり、アルキル化剤がテモゾロミドであり、キサンチン誘導体がテオフィリンである、[13]に記載の治療剤。
[15]
チオプリン系代謝拮抗剤が、6-メルカプトプリン、アザチオプリン又は6-チオグアニンである[14]に記載の治療剤。
[16]
葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤、チアゾフリン、アルキル化剤およびキサンチン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の化合物と併用される、一般式[1]
【化9】
(式中、R、Rは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩を含有する、RNAウイルス感染症治療剤。
[17]
一つ以上の他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤とさらに併用される、[10]から[15]いずれか一に記載の治療剤。
[18]
他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤がリバビリンである、[17]に記載の治療剤。
【0011】
本発明は、さらに以下を提供する。
[A]
一般式[1]
【化10】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを対象に投与することを含む、RNAウイルス感染症の治療法。
[B]
RNAウイルス感染症治療薬を製造するための、一般式[1]
【化11】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物の使用。
[C]
RNAウイルス感染症の治療において使用するための、一般式[1]
【化12】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表されるピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物との組み合わせ。
【発明の効果】
【0012】
ピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを組み合わせたRNAウイルス感染症治療剤は、RNAウイルス感染症の治療又は予防などの処置に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験例6の、T-705と6-メルカプトプリン(6MP)の併用曝露による293T細胞内T705-RTP量の変化を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
ハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子を意味する。C1-6アルキル基とは、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、sec-ブチル、イソブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、2-メチルブチル、2-ペンチル、3-ペンチル及びヘキシル基などの直鎖状又は分枝鎖状のC1-6アルキル基を意味する。
【0015】
アミノ保護基としては、通常のアミノ保護基として使用し得るすべての基を含み、たとえば、W.グリーン(W.Greene)ら、プロテクティブ・グループス・イン・オーガニック・シンセシス(Protective Groups in Organic Synthesis)第5版、第895~1193頁、2014年、ジョン・ウィリイ・アンド・サンズ社(John Wiley & Sons,INC.)に記載されている基が挙げられる。
【0016】
具体的には、たとえば、アシル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールアルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールアルキル基、アルコキシアルキル基、アリールアルキルオキシアルキル基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、ジアルキルアミノアルキリデン基、アリールアルキリデン基、含窒素複素環式アルキリデン基、シクロアルキリデン基、ジアリールホスホリル基、ジアリールアルキルホスホリル基、含酸素複素環式アルキル基及び置換シリル基などが挙げられる。
【0017】
一般式[1]の化合物の塩としては、通常知られているヒドロキシル基における塩を挙げることができる。たとえば、ナトリウム及びカリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン及びN,N'-ジベンジルエチレンジアミンなどの含窒素有機塩基との塩などを挙げることができる。好ましい塩としては、薬理学的に許容される塩が挙げられ、ナトリウムとの塩が、より好ましい。
【0018】
一般式[1]の化合物において、好ましくは、Rが、水素原子;Rが、フッ素原子;Rが水素原子である。なお、好ましいこの化合物がT-705である。
【0019】
または、一般式[1]の化合物において、好ましくは、Rが、水素原子;Rが、水素原子;Rが水素原子である。好ましいこの化合物がT-1105である。
【0020】
一般式[1]の化合物は、自体公知の方法を組み合わせることにより製造されるが、たとえば、国際公開第00/10569号パンフレットに記載の製造法により製造することができる。
【0021】
一般式[1]で表されるピラジン誘導体又はその塩、例えばT-705は、細胞内でリボシルリン酸化を受け、その結果生じるピラジン誘導体リボース三リン酸体が抗ウイルス作用を示すことが知られている(Antimicrob Agents Chemother. 2005;49(3):981-6.)。ここで、ピラジン誘導体リボース三リン酸体とは、一般式[4]
【化13】
(式中、R及びRは、同一又は異なって水素原子又はハロゲン原子を;Rは、水素原子又はアミノ保護基を示す。)で表される化合物である。
【0022】
細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とは、一般式[1]で表されるピラジン誘導体又はその塩と組み合わせて用いた際に、細胞内の酵素や代謝経路を活性化又は阻害すること等を通じ、結果として、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物である。組み合わせない場合と比較して、ピラジン誘導体リボース三リン酸体の濃度を、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上増加させる。そのような化合物として、例えば、葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤、チアゾフリン、アルキル化剤およびキサンチン誘導体が挙げられる。なお、葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤およびチアゾフリンは代謝拮抗剤である。
【0023】
葉酸拮抗剤とは、メトトレキサート及びプララトレキサート等の、DNA合成に必要な葉酸代謝酵素を阻害し細胞増殖を抑える化合物である。メトトレキサート及びプララトレキサートが好ましい。
【0024】
葉酸拮抗剤は、自体公知の方法を組み合わせることにより製造するか、市販されているものを用いればよい。
【0025】
チオプリン系代謝拮抗剤とは、6-メルカプトプリン、アザチオプリン及び6-チオグアニン等の、チオプリン骨格を有する代謝拮抗剤である。チオプリン系代謝拮抗剤は、一般式[2]で示すチオプリン系代謝拮抗剤が好ましい。一般式[2]の化合物において、好ましくは、Rが、水素原子又はアミノ基であり、Rが、水素原子又は一般式[3]で表される基である。一般式[3]で表される基において、好ましくは、Rが水素原子、Rがメチル基である。
【0026】
特に好ましいチオプリン系代謝拮抗剤として、6-メルカプトプリン、アザチオプリン及び6-チオグアニンが挙げられ、6-メルカプトプリンが最も好ましい。
【0027】
チオプリン系代謝拮抗剤は、自体公知の方法を組み合わせることにより製造するか、市販されているものを用いればよい。
【0028】
アルキル化剤とは、DNAに相互作用して、細胞増殖を阻害する化合物であり、例えば、テモゾロミド、ナイトロジェンマスタード、塩酸ナイトロジェンマスタード-N-オキシド、クロラムブチル、シクロフォスファミド、イホスファミド、チオテパ、カルボコン、トシル酸インプロスルファン、ブスルファン、塩酸ニムスチン、ミトブロニトール、メルファラン、ダカルバジン、ラニムスチン、リン酸エストラムスチンナトリウム、トリエチレンメラミン、カルムスチン、ロムスチン、ストレプトゾシン、ピポブロマン、エトグルシド、カルボプラチン、シスプラチン、ミボプラチン、ネダプラチン、オキサリプラチン、アルトレタミン、アンバムスチン、塩酸ジブロスピジウム、フォテムスチン、プレドニムスチン、プミテパ、リボムスチン、トレオスルファン、トロフォスファミド、ジノスタチンスチマラマー、アドゼレシン、システムスチン及びビゼレシンが挙げられる。テモゾロミドが好ましい。
【0029】
アルキル化剤は、自体公知の方法を組み合わせることにより製造するか、市販されているものを用いればよい。
【0030】
キサンチン誘導体とは、キサンチン骨格を有する化合物であり、例えば、キサンチン、テオフィリン、カフェイン、パラキサンチン、テオブロミン、ドキソフィリン、エンプロフィリン、アミノフィリン、コリンテオフィリナート、ジプロフィリン及びプロキシフィリンが挙げられる。テオフィリンが好ましい。
【0031】
キサンチン誘導体は、自体公知の方法を組み合わせることにより製造するか、市販されているものを用いればよい。
【0032】
本発明では、ピラジン誘導体と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物を組み合わせて用いる。組み合わせとは、ピラジン誘導体と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを同時に、別個に又は特定の順序で投与する形態(併用)及び混合物(配合剤)としての形態を含む。
【0033】
すなわち、ピラジン誘導体又はその塩並びに細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物の投与時期が、同一であることのみを意味するものではなく、1つの投与スケジュール中にピラジン誘導体又はその塩並びに細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物を投与する形態も「併用」に含まれる。ピラジン誘導体又はその塩並びに細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物の投与経路は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0034】
ピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物の量比は、ピラジン誘導体又はその塩の抗ウイルス活性が増強される量比であればよい。好ましくは、ピラジン誘導体又はその塩:細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物(モル比)が、1:500~500:1より好ましくは1:200~200:1、さらに好ましくは1:50~50:1、よりさらに好ましくは、1:10~10:1である。
【0035】
本発明のピラジン誘導体又はその塩並びに細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物を用いる場合、通常、製剤化に使用される賦形剤、担体及び希釈剤などの製剤補助剤を適宜混合してもよく、これらは常法にしたがって、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、粉体製剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、貼付剤、軟膏剤又は注射剤などの形態とすることができる。
【0036】
合剤として用いる場合、ピラジン誘導体又はその塩並びに細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物を、上記製剤化の過程で混合し、均一化した後、適当な製剤とすればよい。
【0037】
本発明のRNAウイルス感染症治療剤の投与経路は、特に限定されず、静脈内、経口、筋肉内、皮下、吸入、噴霧又は他の投与経路により投与することができる。また、ピラジン誘導体又はその塩は、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物と同時に又は特定の順序で投与してもよい。
【0038】
投与方法、投与量及び投与回数は、患者の年齢、体重及び症状に応じて適宜選択することができる。通常、成人に対しては、経口又は非経口(たとえば、注射、点滴及び直腸部位への投与など)投与により、有効成分であるピラジン誘導体又はその塩の量として0.1~1000mg/kg、好ましくは0.1~100mg/kgを、1日1回から数回に分割して投与すればよい。
【0039】
本発明のRNAウイルス感染症治療剤は、RNAウイルス感染症の治療又は予防などの処置に有用である。
【0040】
RNAウイルス感染症とは、インフルエンザウイルス、パラインフルエンザウイルス、ブニヤウイルス(クリミア・コンゴ熱ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、ラクロス脳炎ウイルス、ドブラバウイルス、マポラルウイルス、プロスペクトヒルウイルス、アンデスウイルス、サンドフライ熱ウイルス、ハートランドウイルス、プンタトロウイルス、重症熱性血小板減少症候群ウイルス等)、アレナウイルス(フニンウイルス、ピチンデウイルス、タカリベウイルス、グアナリトウイルス、マチュポウイルス、リンパ球性脈絡髄膜炎ウイルス、ラッサ熱ウイルス等)、フィロウイルス(エボラウイルス、マールブルグウイルス等)、狂犬病ウイルス、ヒトメタニューモウイルス、RSウイルス、ニパウイルス、ヘンドラウイルス、麻疹ウイルス、A型肝炎ウイルス、C型肝炎ウイルス、E型肝炎ウイルス、チクングニヤウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラ脳炎ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、ノロウイルス、ポリオウイルス、エコーウイルス、コクサッキーウイルス、エンテロウイルス、ライノウイルス、ロタウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ムンプスウイルス、水疱性口内炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、ダニ媒介性フラビウイルス、黄熱病ウイルス、デング熱ウイルス、西ナイルウイルス又はジカ熱ウイルス等のRNAウイルスが原因となる感染症である。本発明は、好ましくはインフルエンザウイルス、狂犬病ウイルス、ラッサ熱ウイルス、ブニヤウイルス(クリミア・コンゴ熱ウイルス、リフトバレー熱ウイルス、重症熱性血小板減少症候群ウイルス等)及びフィロウイルス(エボラウイルス、マールブルグウイルス等)の感染症治療剤として、特に好ましくはインフルエンザ感染症治療剤として用いることができる。
【0041】
本発明のRNAウイルス感染症治療剤は、作用の増強等を目的に、さらに他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤と組み合わせて用いることができる。他のRNAウイルス感染症治療剤とは、RNAウイルス感染症に対する治療剤で、例えば、インフルエンザ治療剤、C型肝炎治療剤、フィロウイルス感染症治療剤等が挙げられる。インフルエンザ治療剤としては、アマンタジン、リマンタジン、オセルタミビル、ザナミビル、ペラミビル、ラニナミビル、バロキサビル等が挙げられる。C型肝炎治療剤としては、リバビリン、ペグ化インターフェロン、テラプレビル、ボセプレビル等が挙げられる。フィロウイルス感染症治療剤としては、リバビリン、パリビズマブ、モタビズマブ、RSV-IGIV、MEDI-557、A-60444、MDT-637、BMS-433771、アミオダロン、ドロネダロン、ベラパミル、エボラ回復期血漿(Ebola Convalescent Plasma)、TKM-100201、BCX4430、FGI-106、TKM-エボラ、ZMapp、rNAPc2、OS-2966、MVA-BN filo、ブリンシドフォビル、Ad26-ZEBOV等が挙げられる。抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤とは、例えば、ミコフェノール酸、ダプトマイシン、ニコロサミド、アジスロマイシン、ノボビオシン、クロロキン、メマンチン、プロクロルペラジン、クロルシクリジン、マニジピン、GS-5734、Imatinib、クロルプロマジン、ニタゾキサニド等が挙げられる(Journal of Young Pharmacists. 2019;11(2):117-121.)。リバビリンと組み合わせることが好ましい。
【0042】
本発明のRNAウイルス感染症治療剤と、他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を組み合わせて用いる場合、ピラジン誘導体又はその塩と、細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物の量比は、ピラジン誘導体又はその塩の抗ウイルス活性が増強される量比であればよい。好ましくは、ピラジン誘導体又はその塩:細胞内におけるピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物(モル比)が、1:500~500:1より好ましくは1:250~250:1、さらに好ましくは1:150~150:1である。
【0043】
本発明のRNAウイルス感染症治療剤と、他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤の量比は、本発明のRNAウイルス感染症治療剤の抗ウイルス活性が増強される量比であればよい。好ましくは、本発明のRNAウイルス感染症治療剤:他のRNAウイルス感染症治療剤又は抗RNAウイルス阻害作用を示す薬剤(モル比)が、1:100~100:1より好ましくは1:50~50:1、さらに好ましくは1:10~10:1、よりさらに好ましくは、1:5~5:1である。
【実施例
【0044】
次に、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0045】
試験例1
ピラジン誘導体と代謝拮抗剤を組み合わせた時のRNAウイルスに対する効果を、ウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼ(RdRp)複合体のレプリコン活性により調べた。レプリコン活性評価のため、公知の方法(Neumann, G.ら、J. Virol. 74: 547-551 (2000))を参考に、細胞を用いたレポーターアッセイ系を構築した。このアッセイ系では、レポータータンパク質であるルシフェラーゼ(Luc)の活性により、レプリコン活性を評価した。
【0046】
ピラジン誘導体として、6-フルオロ-3-ヒドロキシ-2-ピラジンカルボキサミド(T-705)を選択した。代謝拮抗剤として、葉酸拮抗剤のメトトレキサート及びプララトレキサート、チオプリン系代謝拮抗剤として、6-メルカプトプリン、アザチオプリン及びチオグアノシンを選択した。RNAウイルスとして、インフルエンザウイルスを選択した。
【0047】
(1)レポーターアッセイ系の構築
(1-1)野生型ウイルスタンパク質遺伝子のクローニング
上記公知文献に記載の方法で、ウイルスタンパク質PA、PB1、PB2、NPをコードする遺伝子を、Influenza A/PR/8/34(H1N1)株からRT-PCR法により増幅し、pcDNA3.1ベクターにクローニングした。得られたpcDNA3.1/PR8_PAプラスミドDNA、pcDNA3.1/PR8_PB1プラスミドDNA、pcDNA3.1/PR8_PB2プラスミドDNA及びpcDNA3.1/PR8_NPプラスミドDNAは、それぞれ野生型PA DNA、野生型PB1 DNA、野生型PB2 DNA及び野生型NP DNAと命名した。
【0048】
(1-2)レポータープラスミドの作成
次に、レポーター遺伝子を含むプラスミドDNAを作製した。具体的には、5´末端から3´末端にかけて、ヒト由来ポリメラーゼIプロモーターをコードする領域(Jones, M. H.ら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85: 669-673 (1988))、Influenza A/PR/8/34(H1N1)株のNTRで挟まれたLuc遺伝子、マウス由来ポリメラーゼIターミネーターをコードする領域(Grummt, I.ら、Cell 45: 837-846 (1986))でつなげたDNAを作製し、pcDNA3.1ベクターにクローニングし、レポータープラスミドpcDNA3.1/polI_NTR_RhLucを得た。
【0049】
(1-3)293T細胞の調整
(1-3-1)293T細胞の培養
細胞は、SV40 large T抗原を発現しているヒト胎児腎細胞293T細胞(以下、293T細胞とする)を用いた。10%ウシ胎児血清添加DMEM培地中、5%二酸化炭素条件下、37℃で継代培養されている293T細胞を、エチレンジアミン四酢酸トリプシン法によって剥離し、2.4×10cells/225cmフラスコとなるように播種した。その後、5%二酸化炭素条件下、37℃で一夜培養し、単層の293T細胞を得た。
【0050】
(1-3-2)293T細胞への形質導入
Opti-MEM(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)3mLに対し野生型PA DNAを0.96μg、野生型PB1 DNAを9.6μg、野生型PB2 DNAを9.6μg、野生型NP DNAを9.6μg及び2種のレポータープラスミドpcDNA3.1/polI_NTR_RhLucを9.6μg、(DNA導入の成否を確認するため)pGL4.54(プロメガ社製、#E5061)を9.6μgとなるように調整し、Lipofectamine LTX Reagent with PLUS Reagent(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に添付のPLUS Reagent 49μLを添加した。またOpti-MEM 2.9mLにLipofectamine LTX Reagent 0.23mLを添加し5分間放置した。その後、二液を体積比で1対1となるように混ぜ合わせ、室温で15分放置した。上記混合液を、6mL/225cmフラスコとなるように293T細胞の培養フラスコへ添加し、約6時間放置して、インフルエンザウイルスのRdRp、NP及びレポータープラスミドを細胞に導入した。
【0051】
(2)T-705と代謝拮抗剤の組み合わせによるレプリコン阻害活性の測定
(2-1)細胞への薬剤添加及び培養
【0052】
形質導入した293T細胞をエチレンジアミン四酢酸トリプシン法によって剥離し、以下(A)~(D)いずれかの試験液を10μL/ウェルで添加した384ウェルプレート(コーニング社製、#3707)に1.5×10cells/10μL/ウェルとなるように播種した。また、細胞を添加しないブランクとして、以下(A)又は(D)の液をウェルに添加したブランクウェルを設けた。その後、5%二酸化炭素条件下、37℃で約20時間培養した。
【0053】
(A)10μM T-705及び0.1%DMSO含有培地
(B)代謝拮抗剤単剤(最終濃度:10μM~0.08μM,10μMから公比5で5段階希釈)及び0.1%DMSO含有培地
(C)T-705(最終濃度:10μM)、代謝拮抗剤(最終濃度:10μM~0.08μM,10μMから公比5で5段階希釈)及び0.1%DMSO含有培地
(D)0.1%DMSO含有培地
(A)~(D)のいずれも、10%ウシ胎児血清添加DMEM培地で希釈及び混合した。
【0054】
(2-2)Luc活性の測定及びレプリコン阻害活性の評価
Luc活性の測定には、Dual-Glo Luciferase Assay System(プロメガ社製)を用いた。約20時間の培養後に、該Systemに添付のDual-Glo Reagentを20μL/ウェル添加し、10分以上室温で撹拌させ、細胞を溶解した。その後、マイクロプレートリーダー(パーキンエルマー社製、2104 EnVision)にて発光強度を測定した。続いて、該Systemに添付のStop & Glo Reagentを20μL/ウェル添加し、10分以上室温で攪拌後、マイクロプレートリーダー(同上)にて発光強度を測定した。例数は1で実施した。以下に示す式から、レプリコン反応率及びレプリコン阻害率を算出した。
【0055】
[T-705非添加時レプリコン反応率(%)]=[(代謝拮抗剤添加ウェルの平均発光強度)-(0.1%DMSO含有培地添加ウェルの平均発光強度)]/[(薬剤非添加ウェルの平均発光強度)-(0.1%DMSO含有培地添加ウェルの平均発光強度)]×100
【0056】
[T-705添加時レプリコン反応率(%)]=[(代謝拮抗剤とT-705添加ウェルの平均発光強度)-(10μM T-705及び0.1%DMSO含有培地添加ウェルの平均発光強度)]/[T-705添加ウェルの平均発光強度)-(10μM T-705及び0.1%DMSO含有培地添加ウェルの平均発光強度)]×100
【0057】
レプリコン阻害率(%)=100-[レプリコン反応率(%)]
【0058】
その結果、表1で示すように、T-705単剤では阻害しない濃度であっても葉酸拮抗剤もしくはチオプリン製剤を添加することにより、T-705のレプリコン阻害率を向上させることが分かった。なお、チオグアノシンは6-チオグアニンにリボース環が結合した化合物である。細胞内で、6-チオグアニンはチオグアノシン(又はチオグアノシンの代謝産物)に代謝されると考えられるので、6-チオグアニンもチオグアノシンと同様、T-705のレプリコン阻害率を向上させると考えられる。
【表1】
【0059】
(3)T-705と代謝拮抗剤の組み合わせによるレプリコン50%阻害濃度の測定
(2-1)と同様に、以下(E)~(H)の試験液を用いて、細胞への薬剤添加と培養を行った。(2-2)と同様に、レプリコン阻害活性を評価した。
【0060】
(E)T-705単剤(最終濃度:1.4μM~1000μM,1000μMから公比3で8段階希釈)及び0.1%DMSO含有培地
(F)代謝拮抗剤単剤(最終濃度:0.03μM~200μM,200μMから公比3で10段階希釈、又は20μMから公比2で10段階希釈)及び0.1%DMSO含有培地
(G)T-705、(最終濃度:1.4μM~1000μM,1000μMから公比3で8段階希釈)代謝拮抗剤(最終濃度:0.03μM~200μM,200μMから公比3で10段階希釈、又は20μMから公比2で10段階希釈)及び0.1%DMSO含有培地
(H)0.1%DMSO含有培地
【0061】
50%阻害濃度の算出には、XLfit(version 5.3.1.3)のDose Response One Site(Sigmoidal Dose-Response Model;[fit=(A+((B-A)/(1+((C/x)^D))))])を用いた。各代謝拮抗剤と併用したT-705の50%阻害濃度を表2に示す。T-705と代謝拮抗剤の組み合わせで、T-705単剤より低い50%阻害濃度を示すことが分かった。
【表2】
【0062】
本試験系では、6-メルカプトプリン単剤(<200μM)、メトトレキサート単剤(<20μM)、プララトレキサート単剤(<20μM)では、レプリコン阻害率が50%に至らず、阻害活性が認められなかった。T-705及び代謝拮抗剤の組み合わせにより、T-705単剤の場合に比べ、レプリコン阻害活性が著しく増強された。
【0063】
試験例2
ピラジン誘導体と代謝拮抗剤の併用効果について、ウイルスの細胞感染モデルで、さらに試験を行った。
【0064】
ピラジン誘導体として、T-705を選択した。代謝拮抗剤として、6-メルカプトプリンを選択した。RNAウイルスとして、インフルエンザウイルスを選択した。
【0065】
(1)MDCK細胞の培養
培養液10%ウシ胎児血清添加イーグルMEM培地中、5%二酸化炭素条件下、37℃で継代培養されているマージン-ダービー イヌ腎(Madin-Darby Caine Kidney)(以下、MDCKとする)細胞をエチレンジアミン四酢酸トリプシン法によって剥離し、同培地で100μLに2×10個の細胞を含むように調製した懸濁液を96ウェルプレートに播種した。5%二酸化炭素条件下、37℃で一夜培養し、単層となったMDCK細胞を得た。
【0066】
(2)インフルエンザウイルス感染及び薬剤添加
試験培地として、カナマイシン60μg/mLを加えたイーグルMEM培地に1μg/mLとなるようL-1-トシルアミド-2-フェニルエチルクロロメチルケトン(TPCK)処理トリプシンを加えた培地を用いた。(1)で得られたMDCK細胞の培養上清を取り除き、イーグルMEM培地ですすいだ後、各ウェルに、以下(A)~(C)を加えた。薬剤添加後、5%二酸化炭素条件下、35℃で3~4日間培養した。
【0067】
(A)カナマイシン60μg/mLを加えたイーグルMEM培地を100μL
(B)試験培地の4倍濃度のTPCK処理トリプシンを含むイーグルMEM培地で4.0×10PFU/mLに調整したインフルエンザウイルス(PR/8(H1N1))液を50μL
(C)設定濃度の4倍濃度のT-705及び6-メルカプトプリンの、各設定濃度の組み合わせを含むイーグルMEM培地を50μL
T-705設定濃度(μM):0, 0.01,1,3,10,30
6-メルカプトプリン設定濃度(μM):0, 0.1,0.3,1,3,10
【0068】
(3)細胞変性効果(CPE)の判定
インフルエンザウイルスの増殖に伴って認められる細胞変性効果(CPE)を、以下の方法で判定した。
【0069】
培養終了後、各ウェルに100%ホルマリン液を50μL加え、ウイルスの不活性化及び細胞固定した。2時間以上室温で静置後、0.005%メチレンブルー液を100μL/ウェルを加え1時間室温で静置した。0.005%メチレンブルー液を除去し、水で軽く洗浄した後、風乾させた。その後、マイクロプレートリーダー(Tecan社製、infinit M200)にて吸光度(660nm)を測定した。非感染コントロールは、インフルエンザウイルス液の代わりに試験培地の4倍濃度のTPCK処理トリプシンを含むイーグルMEM培地50μLを加え、試験群と同様の操作を行い、吸光度を測定した。ブランクには、MDCK細胞を播種しないウェルに非感染対照と同様の操作を加え、吸光度を測定した。
【0070】
試験は例数1で3回(感染コントロールは例数8)実施した。平均値を用い、ブランクの値を差引いた数値を吸光度とした。非感染コントロールの吸光度から感染コントロールの吸光度を差引いた値をウイルス増殖の完全抑制値とし、以下に示す式から各試験のCPE阻害率を算出した。
【0071】
ウイルス増殖抑制率=[(単剤及び併用作用時の吸光度)-(感染コントロールの吸光度)]/[(非感染コントロールの吸光度)-(感染コントロールの吸光度)]
【0072】
50%阻害濃度の算出には、MicrosoftOffice Excel 2007のFORECAST関数(一次回帰法)を用いた。
【0073】
6-メルカプトプリン添加時のT-705の50%CPE阻害濃度変化を表3に示す。T-705単剤と比較し、6-メルカプトプリンとの組み合わせにおいて、T-705の50%阻害濃度は低値となった。なお本試験系では、6-メルカプトプリン(10μM)単剤で、CPE阻害効果は示さなかった。
【表3】
【0074】
T-705単剤の場合に比べ、T-705と代謝拮抗剤の組み合わせで抗ウイルス活性が増強されることを、細胞感染モデルでも確認できた。
【0075】
試験例3
試験例2と同じインフルエンザウイルス細胞感染モデルを用いて、ピラジン誘導体と代謝拮抗剤と他のRNAウイルス感染症治療剤の併用効果について、さらに試験を行った。
【0076】
ピラジン誘導体として、T-705を選択した。代謝拮抗剤として、6-メルカプトプリンを選択した。他のRNAウイルス感染症治療剤としてリバビリンを選択し、薬剤の設定濃度及びCPEの判定に関して以下のようにし、試験を行った。
【0077】
薬剤の設定濃度に関して、以下のように設定した。
T-705設定濃度(μM):0, 0.01,0.03,0.1,0.3,1,3,10,30
リバビリン設定濃度(μM):0, 0.1,0.3,1,3,10,30,100
6-メルカプトプリン設定濃度(μM):0, 10
【0078】
CPEの判定に関して、メチレンブルー液で染色したプレートを目視確認することで、完全CPE抑制効果を示す最小薬剤濃度を判定した。
【0079】
T-705及びリバビリン単剤時における完全CPE抑制効果を示す最小薬剤濃度は、それぞれ3、30(μM)であった。また、6-メルカプトプリン(10μM)添加時のT-705の完全CPE抑制効果を示す最小薬剤濃度は、0.3(μM)であった。さらに、6-メルカプトプリン(10μM)及びリバビリン(3μM)添加時のT-705の完全CPE抑制効果を示す最小薬剤濃度は、0.1(μM)であった。
【0080】
T-705単剤及びT-705と代謝拮抗剤の組み合わせの場合に比べ、T-705と代謝拮抗剤と他のRNAウイルス感染症治療剤の組み合わせで抗ウイルス活性がさらに増強されることを、細胞感染モデルで確認できた。
【0081】
試験例4
インフルエンザ以外のウイルスの細胞感染モデルで、ブニヤウイルスであるPunta Toroウイルスを用いて試験例2と同様の試験を行った。ピラジン誘導体として、T-705を選択した。化合物として、6-メルカプトプリン、アザチオプリン、テモゾロミド、テオフィリン及びチアゾフリンを選択した。
【0082】
(1)293T細胞の培養
細胞は、293T細胞を用いた。10%ウシ胎児血清添加DMEM培地中、5%二酸化炭素条件下、37℃で継代培養されている293T細胞を、エチレンジアミン四酢酸トリプシン法によって剥離し、同培地で1mLに1×10個の細胞を含むように調製した懸濁液を24ウェルプレートに播種し、5%二酸化炭素条件下、37℃で一夜培養した。
【0083】
(2)Punta Toroウイルス感染及び薬剤添加
(1)で得られた293T細胞の培養上清を取り除き、イーグルMEM培地ですすいだ後、各ウェルに1.0×10PFU/mLに調整したPunta Toroウイルス液を0.1mLずつ添加し、5%二酸化炭素条件下、37℃で1時間培養した。ウイルス液を除去後、T-705単剤(最終濃度:20μM)、代謝拮抗剤(最終濃度:10μM)又はT-705単剤(最終濃度:20μM)と代謝拮抗剤(最終濃度:10μM)を混合した1%ウシ胎児血清添加イーグルMEM培地を加え、5%二酸化炭素条件下、37℃で3日間培養した。また、感染コントロールとして、薬剤を含む培地の代わりに、1%ウシ胎児血清添加イーグルMEM培地を加えた。
【0084】
(3)Punta Toroウイルスの定量
(3-1)Vero細胞の培養
培養液10%ウシ胎児血清添加イーグルMEM培地中、5%二酸化炭素条件下、37℃で継代培養されているサル腎Vero細胞をエチレンジアミン四酢酸トリプシン法によって剥離し、2%ウシ胎児血清添加イーグルMEM培地で100μLに2×10個の細胞を含むように調製した懸濁液を96ウェルプレートに播種した。5%二酸化炭素条件下、37℃で一夜培養し、単層となったVero細胞を得た。
【0085】
(3-2)ウイルスの定量
(3-1)で得られたVero細胞に(2)で取得したウイルス培養液をイーグルMEM培地で公比10、5段階に希釈し、原液及び希釈液を50μLずつ添加した(n=4)。5%二酸化炭素条件下、37℃で3~4日間培養した。
【0086】
(3-3)ウイルス量の計算
培養終了後、各ウェルに100%ホルマリン液を50μL加え、ウイルスの不活性化及び細胞固定した。2時間以上室温で静置後、0.005%メチレンブルー液を100μL/ウェルを加え1時間室温で静置した。0.005%メチレンブルー液を除去し、水で軽く洗浄した後、風乾させた。その後、各サンプルの50%感染量の対数値(LogTCID50)を以下のBohrens-Karber法の式を用いて算出した。感染コントロールに対するウイルス量低下効果をΔLogTCID50で示した。
【0087】
LogTCID50=D+h×d+0.5×d
D:全ウェル(n=4)がCPE陽性(陽性率=1)であった最高希釈倍率の常用対数
h:各ウェルのCPE陽性率 (<1の場合)
d:試料の希釈倍率の常用対数
【0088】
結果を表4に示す。T-705と化合物を併用することで、ΔLogTCID50が増加したことが確認できた。
【表4】
【0089】
試験例2のインフルエンザウイルスに加え、Punta Toroウイルスにおいても、T-705と代謝拮抗剤の併用で抗ウイルス活性が増強されることを確認できた。また、テモゾロミド、テオフィリン及びチアゾフリンも、T-705と併用することで、優れたウイルス量低下効果を示すことが分かった。
【0090】
試験例5
ピラジン誘導体として、T-1105を、化合物として、6-メルカプトプリンを選択し、試験例4と同様の試験を行った。結果を表5に示す。
【表5】
【0091】
T-705と同様、T-1105も代謝拮抗剤との併用で抗ウイルス効果が増強されることを確認できた。
【0092】
試験例6
前記の通り、ピラジン誘導体又はその塩は、細胞内でリボシルリン酸化を受ける。例えばT-705は、リボシルリン酸化により生じるT-705-4-ribofuranosyl-5-triphosphate(T-705RTP)がウイルスのRdRpタンパク質を阻害することによって抗ウイルス作用を示すことが知られている。試験例1で見られた6-メルカプトプリンによるT-705の活性増強効果は、T-705RTP量の変化によるものかどうかを確認するため、293T細胞における6―メルカプトプリン処理下でのT-705RTP量を測定した。
【0093】
(1)293T細胞における6-メルカプトプリン処理下でのT-705RTP量測定
(1-1)細胞内T-705RTPの抽出
6ウェルプレートの各ウェルに5×10cells播種した293T細胞をvehicle(0.3%DMSO)又は様々な濃度の6-メルカプトプリン、T-705、又は両薬剤に5%二酸化炭素条件下、37℃で24時間培養した。
【0094】
培養後、2ml PBSで洗浄した後に、300μlトリプシンを入れて37℃、5min静置して細胞を剥がした。次に細胞に400μlトリプシンインヒビターを加えて懸濁し、1.5mlチューブに回収した。細胞懸濁液を1,000rpm、4℃、2min(MX-301、TOMY)遠心し、500μl上清を除いた。次に細胞に1ml PBSを加えて再懸濁し、このうち60μlを1.5mlチューブに取り分け細胞数測定用のサンプルとした。残りの細胞懸濁液から1mlをT-705RTP抽出用に1.5mlチューブに取り分けた。取り分けた細胞懸濁液を2,000×g、4℃、2min遠心し上清900μlを除いた。次にT-705RTPを抽出するために、懸濁液に500μlメタノールを加えてよく懸濁した。遠心エバポレーター(CVE-3100、EYELA)を用いて37℃で蒸発乾固させた。サンプルはその後LC/MS/MS分析に用いた。
【0095】
(1-2)細胞数の測定及びLC/MS/MS分析
細胞数の測定及びLC/MS/MS分析を行い、各サンプル中のT-705RTP量を測定した。試験方法は、Matsuda S, Kasahara T. Genes Environ. 40:13.(2018)に従って実施した。T-705RTP量の変化を図1に示す。6-メルカプトプリンにより、T-705処理後の細胞内T-705RTP量が増加したことが分かった。
【0096】
T-705の作用メカニズム、すなわち、細胞内でT-705RTPに変換された後に抗ウイルス活性を示すことは、T-705が効果を有するウイルスであれば、ウイルス種を問わず当てはまる。代謝拮抗剤により細胞内T-705RTP量が増加したことから、T-705と代謝拮抗剤の組み合わせは、T-705が効果を有する複数のRNAウイルスに対する抗ウイルス活性を同時に増強するといえる。
【0097】
このメカニズムは、T-705だけでなく、一般式[1]で表されるピラジン誘導体又はその塩にも広く当てはまる。例えば、T-705以外に、一般式[1]の化合物において、Rが、水素原子;Rが、水素原子;Rが水素原子である化合物(3-ヒドロキシ-ピラジンカルボキサミド)が抗ウイルス活性を示すこと(Antiviral Res. 2009;82(3):95-102.)、細胞内でリボース三リン酸体に変化することが示唆されている(Mol Pharmacol.2013;84(4):615-29.)。すなわち、ピラジン誘導体又はその塩と、ピラジン誘導体リボース三リン酸体の量を増加させる化合物とを組み合わせることで、ピラジン誘導体又はその塩が効果を有する複数のRNAウイルスに対する抗ウイルス活性を同時に増強することができる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
ピラジン誘導体又はその塩と、葉酸拮抗剤、チオプリン系代謝拮抗剤、チアゾフリン、アルキル化剤およびキサンチン誘導体からなる群から選ばれる一種以上の化合物とを組み合わせてなるRNAウイルス感染症治療剤は、増強した抗ウイルス活性を示し、医薬産業の分野で有用である。
図1