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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/672 20060101AFI20231018BHJP
【FI】
C08G63/672
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021504332
(86)(22)【出願日】2019-07-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-11-25
(86)【国際出願番号】 KR2019008372
(87)【国際公開番号】W WO2020032399
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】10-2018-0092512
(32)【優先日】2018-08-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】513193923
【氏名又は名称】エスケー ケミカルズ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002527
【氏名又は名称】弁理士法人北斗特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】パク ミン ア
(72)【発明者】
【氏名】キム ジヒョン
【審査官】久保田 葵
(56)【参考文献】
【文献】西独国特許出願公開第02008984(DE,A1)
【文献】特表2013-504650(JP,A)
【文献】特公昭37-016198(JP,B1)
【文献】特表2010-507717(JP,A)
【文献】国際公開第2008/051321(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00-63/91
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分およびジオール成分が共重合され、ジカルボン酸から誘導されたジカルボン酸部分およびジオール成分から誘導されたジオール部分を含むポリエステル樹脂であって、
前記ジカルボン酸成分は、テレフタル酸を含み、
前記ジオール成分は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノールを含み、
前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導されたジオール部分は、ジカルボン酸部分100モル%に対して5~60モル%であり、
前記1,4-シクロヘキサンジメタノールから誘導されたジオール部分は、ジカルボン酸部分100モル%に対して25モル%以上45モル%未満である、ポリエステル樹脂。
【請求項2】
前記ジオール成分としてジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノール以外に、炭素数8~40の芳香族ジオールおよび炭素数2~20の脂肪族ジオールからなる群から選択される1種以上のジオール化合物をさらに含む、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項3】
前記ジカルボン酸成分はテレフタル酸以外に、炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸成分および炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸成分からなる群から選択される1種以上の酸成分をさらに含む、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項4】
ポリエステル樹脂を300℃で5分間アニーリングし、常温に冷却させた後、昇温速度10℃/minで、再びスキャン(2nd Scan)して測定したガラス転移温度(Tg)90℃以上である、請求項1に記載のポリエステル樹脂。
【請求項5】
テレフタル酸を含むジカルボン酸成分;およびジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノールを含むジオール成分を、0.2~3.0kg/cmの圧力および200~300℃の温度でエステル化反応またはエステル交換反応させる段階と;
前記反応生成物を0.1~400mmHgの減圧条件および240~300℃の温度で重縮合反応させる段階とを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記エステル化反応またはエステル交換反応させる段階において、原料として投入された前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールのモル数に対する前記重縮合反応させる段階後の前記ポリエステル樹脂に含まれている前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールのモル数の割合で定義されるポリエステル内ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールの残留率40%以上である、請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ジオール成分は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールおよび1,4-シクロヘキサンジメタノール以外に、炭素数8~40の芳香族ジオールおよび炭素数2~20の脂肪族ジオールからなる群から選択される1種以上のジオール化合物をさらに含む、請求項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記エステル化反応またはエステル交換反応および前記重縮合反応は、Ti、Al、Sn、GeおよびSbからなる群から選択される1種以上の金属を含む触媒下で行われ、前記触媒は、前記エステル化反応またはエステル交換反応させる段階で原料として用いるジカルボン酸成分およびジオール成分の総重量に対して触媒中心金属を基準にして10~500ppmで使用される、請求項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本出願は、2018年8月8日付の韓国特許出願第10-2018-0092512号に基づく優先権の利益を主張し、当該韓国特許出願の文献に開示された全ての内容は本明細書の一部として含まれる。
【0002】
本発明は、ポリエステル樹脂およびその製造方法に関する。より詳しくは、高い耐熱性および耐衝撃性などの優れた物性を示し、透明度およびカラー特性に優れたポリエステル樹脂およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0003】
ポリエステル樹脂は包装材、成形品、フィルムなどの分野で広範囲に使用されており、環境ホルモンが存在しない環境にやさしいプラスチックの1つである。近来、耐熱食品容器として主に使用されるポリカーボネートにおいて、ビスフェノールAの有害性が明らかになり、環境にやさしい透明耐熱ポリエステル樹脂の必要性が増大している。
【0004】
ポリエステル樹脂の成形性を向上させ、結晶性を除去するために、2以上のグリコールまたはジカルボン酸成分で共重合されたポリエステル樹脂が商業的に幅広く利用されている。テレフタル酸とエチレングリコールのみで構成されたホモポリエステルの場合、延伸結晶化と熱固定により物性および耐熱性を向上させることができるが、適用用途および耐熱性向上に限界があり、2以上のグリコールまたはジカルボン酸成分で共重合されたポリエステルの場合、延伸または結晶化工程によって耐熱性を向上させることが難しいという短所がある。
【0005】
ポリエステルの耐熱性を向上させる他の方法として、澱粉から誘導された環境にやさしいジオール(diol)化合物であるイソソルビド(isosorbide、1,4:3,6-dianhydroglucitol)をモノマーの1つとして使用する方法が知られている。イソソルビドが導入されたポリエステル樹脂は、耐熱性向上および結晶化速度の減少効果を示すが、成形時に黄変現象など物性低下が生じるという問題がある。そこで、既存の耐熱ポリエステル樹脂の使用分野で使用するのに適合するように耐熱性に優れ、透明度およびカラー特性に優れたポリエステル樹脂の開発が要求される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、優れた耐熱性を示し、透明度が高くカラー特性に優れたポリエステル樹脂およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、ジカルボン酸成分およびジオール成分が共重合され、ジカルボン酸から誘導されたジカルボン酸部分およびジオール成分から誘導されたジオール部分を含むポリエステル樹脂であって、
前記ジカルボン酸成分は、テレフタル酸を含み、
前記ジオール成分は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを含み、
前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導されたジオール部分は、ジカルボン酸部分100モル%に対して5~60モル%である、ポリエステル樹脂を提供する。
【0008】
本発明の一実施形態において、前記ジオール成分としてジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール以外に、炭素数8~40の芳香族ジオールおよび炭素数2~20の脂肪族ジオールからなる群から選択される1種以上のジオール化合物をさらに含み得る。この時、前記ジオール化合物から誘導されたジオール部分は、ジカルボン酸部分100モル%に対して40~95モル%であり得る。
【0009】
本発明の一実施形態において、前記ジオール成分としてジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール以外に、1,4-シクロヘキサンジメタノールをさらに含み得る。この時、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールから誘導されたジオール部分は、ジカルボン酸部分100モル%に対して20~50モル%であり得る。
【0010】
前記ジカルボン酸成分はテレフタル酸以外に、炭素数8~20の芳香族ジカルボン酸成分および炭素数4~20の脂肪族ジカルボン酸成分からなる群から選択される1種以上の酸成分をさらに含み得る。
【0011】
前記ポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が90℃以上であり得る。
【0012】
また、本発明は、テレフタル酸を含むジカルボン酸成分;およびジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを含むジオール成分を、0.2~3.0kg/cmの圧力および200~300℃の温度でエステル化反応またはエステル交換反応させる段階と;
前記反応生成物を0.1~400mmHgの減圧条件および240~300℃の温度で重縮合反応させる段階とを含むポリエステル樹脂の製造方法であって、
前記ポリエステル内ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールの残留率は40%以上である、ポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【0013】
前記製造方法によって製造されたポリエステル樹脂は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導されたジオール部分をジカルボン酸部分の合計100モル%に対して5~60モル%含み得る。
【0014】
上記製造方法において、ジオール成分は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール以外に、炭素数8~40の芳香族ジオールおよび炭素数2~20の脂肪族ジオールからなる群から選択される1種以上のジオール化合物をさらに含み得る。この時、前記製造方法によって製造されたポリエステル樹脂は、前記ジオール化合物から誘導されたジオール部分をジカルボン酸部分の合計100モル%に対して40~95モル%含み得る。
【0015】
前記エステル化反応またはエステル交換反応および前記重縮合反応は、Ti、Al、Sn、GeおよびSbからなる群から選択される1種以上の金属を含む触媒下で行われ、前記触媒は、ジカルボン酸成分およびジオール成分の総重量に対して触媒中心金属を基準にして10~500ppmで使用することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明のポリエステル樹脂は、優れた耐熱性を示し、透明性およびカラー特性に優れ、既存の耐熱ポリエステル樹脂の使用分野に好適に使用することができる。
【0017】
また、本発明のポリエステル樹脂の製造方法によると、高収率かつ高純度で前記ポリエステル樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳しく説明する。
[ポリエステル樹脂]
本発明は、ジカルボン酸成分およびジオール成分が共重合され、ジカルボン酸から誘導されたジカルボン酸部分およびジオール成分から誘導されたジオール部分を含むポリエステル樹脂であって、
前記ジカルボン酸成分は、テレフタル酸を含み、
前記ジオール成分は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを含み、
【0019】
前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導されたジオール部分は、ジカルボン酸部分100モル%に対して5~60モル%である、ポリエステル樹脂を提供する。
【0020】
前記ジカルボン酸成分(dicarboxylic acid component)は、テレフタル酸などのジカルボン酸、そのアルキルエステル(モノメチル、モノエチル、ジメチル、ジエチル、またはジブチルエステルなどの炭素数1~4の低級アルキルエステル)および/またはこれらの酸無水物(acid anhydride)を含む意味で使用される。すなわち、本発明において、「テレフタル酸」とは、テレフタル酸およびそのアルキルエステル(例えば、ジメチルテレフタレートなど)および/またはこれらの酸無水物を全て含む意味である。前記ジカルボン酸成分はジオール成分と反応して、テレフタロイル部分(terephthaloyl moiety)などのジカルボン酸部分(dicarboxylic acid moiety)を形成することができる。
【0021】
前記ポリエステルの合成に使用されるジカルボン酸成分がテレフタル酸を含むことによって、製造されるポリエステル樹脂の耐熱性、耐薬品性または耐候性(例えば、UVによる分子量減少現象または黄変現象の防止)などの物性が向上することができる。
【0022】
前記ジカルボン酸成分は、その他のジカルボン酸成分として、芳香族ジカルボン酸成分、脂肪族ジカルボン酸成分、またはこれらの混合物をさらに含み得る。この時、「その他のジカルボン酸成分」は、前記ジカルボン酸成分中のテレフタル酸を除いた成分を意味する。
【0023】
前記芳香族ジカルボン酸成分は、炭素数8~20、好ましくは炭素数8~14の芳香族ジカルボン酸、またはこれらの混合物などであり得る。前記芳香族ジカルボン酸の例として、フタル酸、イソフタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸などのナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、4,4’-スチルベンジカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、2,5-チオフェンジカルボン酸などがあるが、前記芳香族ジカルボン酸の具体的な例がこれらに限定されるものではない。
【0024】
前記脂肪族ジカルボン酸成分は、炭素数4~20、好ましくは炭素数4~12の脂肪族ジカルボン酸成分、またはこれらの混合物などであり得る。前記脂肪族ジカルボン酸の例として、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸などのシクロヘキサンジカルボン酸、セバシン酸、コハク酸、イソデシルコハク酸、マレイン酸、フマル酸、アジピン酸、グルタル酸、アゼライン酸などの線状、分枝状または環状脂肪族ジカルボン酸成分などがあるが、前記脂肪族ジカルボン酸の具体的な例がこれらに限定されるものではない。
【0025】
一方、本発明のポリエステル樹脂で前記ジカルボン酸部分(moiety)は、テレフタル酸から誘導された部分を50~100モル%、好ましくは70~100モル%;および芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸からなる群から選択される1種以上のジカルボン酸から誘導された部分を0~50モル%、好ましくは0~30モル%を含み得る。前記ジカルボン酸部分のうち、テレフタル酸から誘導された部分の含有量が少なすぎると、ポリエステル樹脂の耐熱性、耐薬品性または耐候性などの物性が低下することがある。
【0026】
本発明のポリエステル樹脂に含まれるジオール成分(diol component)は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを含む。前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールは、堅固なスピロ環構造を有し、ポリエステル樹脂に含まれて耐熱特性を向上させることができる。
【0027】
既存にはポリエステル樹脂の耐熱特性を向上させるためにイソソルビドなどのジオール化合物を使用したが、イソソルビドを含むポリエステルは成形工程で黄変現象が現れ、水分環境に露出する場合加水分解される可能性の高いという問題があった。本発明ではジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを使用することにより、イソソルビドを使用した場合に比べて優れた透明性とカラーおよび向上した機械的物性と耐熱特性を有するポリエステル樹脂を実現した。
【0028】
本発明の一実施形態によると、前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導された部分は、ジカルボン酸部分100モル%を基準にして5モル%以上、具体的には5モル%~60モル%の範囲であることが好ましく、10~50モル%の範囲で含まれることがさらに好ましい。もし、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導された部分がジカルボン酸部分100モル%に対して5モル%未満であればポリエステル樹脂の耐熱特性を確保できず、60モル%を超えれば反応時に重合度が上がらずTgの上昇効果が減少するので、上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0029】
本発明のポリエステル樹脂は、ジオール成分として前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール以外に、ポリエステルの製造に通常使用されるジオール化合物をさらに含み得る。このようなジオール化合物としては、例えば脂肪族ジオール、芳香族ジオールまたはこれらの混合物を使用することができる。
【0030】
前記芳香族ジオールは、炭素数8~40、好ましくは炭素数8~33の芳香族ジオール化合物であり得る。このような芳香族ジオール化合物の例としては、ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.2)-ポリオキシエチレン-(2.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(2.4)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(3.3)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(3.0)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-(6)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどのエチレンオキシドおよび/またはプロピレンオキシドが付加されたビスフェノールA誘導体(ポリオキシエチレン-(n)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシプロピレン-(n)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、またはポリオキシプロピレン-(n)-ポリオキシエチレン-(n)-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンなどが挙げられるが、芳香族ジオール化合物の具体的な例がこれらに限定されるものではない。前記nは、ポリオキシエチレンまたはポリオキシプロピレンユニット(unit)の個数(number)を意味する。
【0031】
前記脂肪族ジオールは、炭素数2~20、好ましくは炭素数2~12の脂肪族ジオール化合物を含み得る。このような脂肪族ジオール化合物の例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3-プロパンジオ-ル、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、ペンタンジオール(1,5-ペンタンジオールなど)、ヘキサンジオール(1,6-ヘキサンジオールなど)、ネオペンチルグリコール(2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオ-ル)、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、テトラメチルシクロブタンジオールなどの線状、分枝状または環状脂肪族ジオール成分が挙げられるが、脂肪族ジオール化合物の具体的な例がこれらに限定されるものではない。
【0032】
上述したジオール化合物から誘導された部分は、ジカルボン酸部分100モル%に対して95モル%未満、または80モル%未満、または70モル%未満であることが好ましく、下限値は限定がないが、具体的には40モル%以上、50モル%以上、または55モル%以上であり得る。もし、前記ジオール化合物から誘導された部分が95モル%を超えれば、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導された部分が相対的に少なくなるので、耐熱性の効果が十分に確保されない可能性もある。また、前記ジオール化合物から誘導された部分が40モル%未満であれば、反応時に重合度が上がらずTgの上昇効果が減少するので、上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0033】
一例として、ジオール成分として、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール以外に、脂肪族ジオールであるエチレングリコール(EG)および/または1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)をさらに含み得る。特に、ジオール成分として、1,4-シクロヘキサンジメタノールをさらに含む場合、ポリエステル樹脂の衝撃強度および耐熱特性がさらに向上する。
【0034】
この時、前記1,4-シクロヘキサンジメタノールから誘導された部分は、ジカルボン酸部分の全体100モル%に対して20モル%以上50モル%以下であることが好ましく、25モル%以上45モル%未満であることがさらに好ましい。もし、1,4-シクロヘキサンジメタノールから誘導された部分がジカルボン酸部分の全体100モル%に対して20モル%未満の場合、ジオール成分として1,4-シクロヘキサンジメタノールをさらに含む場合に得られる耐熱特性の向上効果を十分に確保できない。また、ポリエステル樹脂の衝撃強度が弱くなり、これにより、樹脂が簡単に壊れるなど機械的物性が低下する。50モル%以上の場合、樹脂内に含まれるジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールの含有量が少なくなるので、耐熱特性の向上に限界がある。
【0035】
上述した本発明のポリエステル樹脂は、ジオール成分としてジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを含むので優れた耐熱性を示す。具体的には、本発明のポリエステル樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が90℃以上、95℃以上、または100℃以上であり得る。前記ガラス転移温度の測定方法は、後述する実施形態で具体化される。
【0036】
このように本発明のポリエステル樹脂は優れた耐熱性を示すことで、耐熱特性が求められる食品容器および包装材、医療用包装および機器、自動車および電子素材、建築用資材などの分野に好適に使用することができる。
【0037】
[ポリエステル樹脂の製造方法]
一方、本発明は、上述した本発明のポリエステル樹脂を製造する方法を提供する。具体的には、本発明は、テレフタル酸を含むジカルボン酸成分;およびジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを含むジオール成分を、0.2~3.0kg/cmの圧力および200~300℃の温度でエステル化反応またはエステル交換反応させる段階と;
前記反応生成物を0.1~400mmHgの減圧条件および240~300℃の温度で重縮合反応させる段階とを含むポリエステル樹脂の製造方法を提供する。
【0038】
前記本発明のポリエステル樹脂の製造方法によると、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールの残留率が40%以上、好ましくは60%以上に高く示し、これによって製造される樹脂が優れた耐熱特性を示し、高透明性およびカラー特性を示すことができる。
【0039】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法において、前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールは、製造されるポリエステル樹脂内にジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導されたジオール部分がジカルボン酸部分の合計100モル%に対して5~60モル%の範囲で含まれる。また、前記ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール以外に、ジオール成分として上述したジオール化合物をさらに含み得る。この時、ジオール化合物は、製造されるポリエステル樹脂で前記ジオール化合物から誘導されたジオール部分の含有量がジカルボン酸部分の合計100モル%に対して95モル%以下、または90モル%以下、または85モル%以下であり、かつ30モル%以上、35モル%以上、または40モル%以上含まれる。
【0040】
また、前記製造されるポリエステル樹脂でジカルボン酸部分は、テレフタル酸から誘導された部分を50~100モル%、好ましくは70~100モル%含むことができ、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸からなる群から選択される1種以上のジカルボン酸から誘導された部分を0~50モル%、好ましくは0~30モル%を含み得る。
【0041】
前記エステル化反応またはエステル交換反応(以下、エステル化反応という)はバッチ(Batch)式または連続式で行われ、各原料は反応器に別途に投入することができるが、ジカルボン酸成分およびジオール成分を混合したスラリーの形態で投入することが好ましい。この時、常温で固形分であるジオール成分の溶解度を高めるために水をさらに投入するか、または固形分が溶融できるように60℃以上でスラリーを製造することができる。
【0042】
エステル化反応は200~300℃、好ましくは220~280℃、さらに好ましくは235~265℃の温度、および0.1~3.0kg/cm,好ましくは0.2~3.0kg/cmの圧力条件で行うことができる。この時、エステル化反応のうちに副産物として発生する水またはアルコールは、持続的に反応器外に流出させて反応進行率を高めることが好ましい。
【0043】
前記エステル化反応時間(平均滞留時間)は、通常100分~10時間、好ましくは2時間~500分であり、反応温度、圧力、使用するジカルボン酸成分およびジオール成分のモル比により異なる。
【0044】
前記エステル化反応は触媒なく行うこともできるが、反応時間の短縮のために適切な反応触媒などを投入して行うこともできる。この時、使用可能な触媒はチタン(Ti)、アルミニウム(Al)、錫(Sn)、ゲルマニウム(Ge)、アンチモン(Sb)系触媒などが挙げられ、これら触媒は続く重縮合反応の触媒としても作用することができる。
【0045】
有用なチタン系触媒としては、テトラエチルチタネート、アセチルトリプロピルチタネート、テトラプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、ポリブチルチタネート、2-エチルヘキシルチタネート、オクチレングリコールチタネート、乳酸チタネート、トリエタノールアミンチタネート、アセチルアセトネートチタネート、エチルアセトアセティックエステルチタネート、イソステアリルチタネート、チタニウムジオキシド、チタニウムジオキシド/シリコンジオキシド共重合体、チタニウムジオキシド/ジルコニウムジオキシド共重合体などが挙げられる。また、ゲルマニウム系触媒としては、ゲルマニウムジオキシドおよびこれを利用した共重合体などが挙げられ、スズ系触媒としてはテトラブチルジブトキシスズオキシド、ジブチルスズオキシド、ジブチルスズジラウレートなどが挙げられる。これらの触媒は、単独または組合わせて使用することができる。
【0046】
前記触媒は、原料のジカルボン酸成分およびジオール成分の総重量に対して、触媒の中心金属を基準にして10~500ppm、または50~300ppmの範囲で使用することが好ましい。もし、触媒の含有量が10ppm未満であれば触媒量が不足して反応速度が遅くなり、500ppmを超えれば副反応を起こすか、または触媒が製造されるポリエステル樹脂に残留することがあり、これによって樹脂の黄変現象が発生することがあるので、上記の範囲を満たすことが好ましい。
【0047】
前記エステル化反応においてはリン酸、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェートなどのリン系安定剤をさらに投入することができる。リン系安定剤の添加量は、リン元素量を基準にして原料物質の総量に対して30~500ppm、または50~300ppmであり得る。前記安定剤の添加量が30ppm未満であれば安定化効果が微小で、ポリエステル樹脂の色相が黄色に変わる恐れがあり、500ppmを超えれば所望の高重合度のポリマーが得られない恐れがある。
【0048】
前記エステル化反応の終了後に重縮合反応が行われる。前記重縮合反応は230~300℃、好ましくは240~290℃、さらに好ましくは250~280℃の温度、および400~0.1mmHgの減圧条件で行われる。前記400~0.1mmHgの減圧条件は、重縮合反応の副産物であるジオールおよびオリゴマーを除去するためである。前記重縮合反応は、所望の固有粘度に至るまで必要な時間、例えば、平均滞留時間1~10時間行われる。
【0049】
本発明の製造方法によりポリエステル樹脂を製造する場合、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールの残留率は40%以上、または50%以上、または60%以上に高く示す。したがって、上記方法で製造されるポリエステル樹脂は、優れた耐熱性および透明度を示すことができる。前記残留率は、原料として投入されたジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールのモル数に対して、重合工程後にポリエステル樹脂に含まれているジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール成分(moiety)の含有量(モル%)を意味する。
【0050】
以下、本発明の具体的な実施形態を通じて本発明の作用および効果をより詳述する。ただし、このような実施形態は、本発明の例示として提示されたものに過ぎず、これによって、本発明の権利範囲が限定されるものではない。
【0051】
下記実施例および比較例のポリエステル樹脂の評価方法は、以下の通りである。
【0052】
(1)製造されたポリエステル樹脂内ジオール組成の測定
ポリエステル樹脂をCDCl3溶媒に3mg/mLの濃度に溶解した後、600MHz核磁気共鳴(NMR)スペクトロメータを用いて確認したスペクトルを通して、製造されたポリエステル樹脂内ジカルボン酸から誘導された部分およびジオールから誘導された部分の含有量を定量分析した。
【0053】
(2)固有粘度(IV)
150℃、オルト-クロロフェノールに0.12%の濃度にポリエステル樹脂を溶解させた後、35℃の恒温槽でウベローデ型粘度計を用いて測定した。
【0054】
(3)耐熱性(Tg)
ポリエステル樹脂を300℃で5分間アニーリング(Annealing)し、常温に冷却させた後、昇温速度10℃/minで、再びスキャン(2nd Scan)時のTgを測定した。
【0055】
(4)Tg Power
Tgが80℃のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を基準にして、実施例および比較例の各ポリエステル樹脂のTgの上昇効果をTg Powerで示した。Tg Powerは次の通り計算した。
Tg Power(℃/mol)=(AのTg-BのTg)/A中の耐熱モノマーから誘導された部分のモル%
A:実施例および比較例の各ポリエステル樹脂
B:ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(Tg、80℃)
耐熱モノマー:イソソルビドまたはジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール
【0056】
(5)Color b
Pacific Scientific社製のColorgard Systemを用いて測定した。
【0057】
(6)Haze(%)
共重合ポリエステル樹脂組成物のフィルムサンプルを温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下で24時間熟成した後、JIS(Japanese Industrial Standards)K7136に準じて、ヘイズメーター(Haze meter、装置名:NDH2000、製造会社:Nippon Denshoku社)で前記フィルムサンプルのそれぞれ異なる位置3個所に対するヘイズ(%)を測定して、それぞれの測定結果の平均値を結果値として算出した。
【0058】
(実施例1~11)
撹拌機と流出コンデンサ付き5L反応器に、下記表1および表2の組成および含有量でジカルボン酸(ジメチルテレフタレート(DMT))およびジオール(ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール(S6CB)、1,4-シクロヘキサンジメタノール(CHDM)、エチレングリコール(EG))原料を投入した。そこに、リン系安定剤としてトリエチルホスフェート(TEP)、触媒としてジブチルスズオキシド(DBTO)またはテトラブチルチタネート(TBT)を、それぞれ中心原子の含有量を基準にして原料重量全体に対して表1および表2の含有量で投入した後、窒素で圧力を2.0kg/cmに上げた後、反応器の温度を220~250℃まで上げながら反応させた。
【0059】
この時、発生するメタノールを系外に流出させてトランスエステル化反応させ、メタノールの発生、流出が終了すると撹拌機と冷却コンデンサおよび真空システム付き重縮合反応器に反応物を移して、圧力1mmHg以下および温度250~280℃で重縮合反応を行い、反応物の固有粘度が最大値に達するとき、重合を終了した。
製造されたそれぞれのポリエステル樹脂を前記の評価方法で評価し、その結果を下記表1および表2に記載した。
【0060】
【表1】
*ジカルボン酸成分100モル%に対するモル%
【0061】
【表2】
*ジカルボン酸成分100モル%に対するモル%
【0062】
(比較例1~12)
ジオール成分としてジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオール(S6CB)またはイソソルビド(ISB)を使用し、原料を下記表3~表5の組成により投入したことを除いては、実施例1~11と同様の方法でポリエステル樹脂を製造した。
【0063】
製造されたそれぞれのポリエステル樹脂を上記の評価方法で評価し、その結果を下記表3~表5に記載した。
【0064】
【表3】
*ジカルボン酸成分100モル%に対するモル%
【0065】
【表4】
*ジカルボン酸成分100モル%に対するモル%
【0066】
【表5】
*ジカルボン酸成分100モル%に対するモル%
【0067】
上記表1~表5を参照すると、ジオール成分としてジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールを含む実施例1~11は、イソソルビドを含む比較例1~5および8~12に比べて類似した組成でさらに高い耐熱性を示し、color b値が低く、ヘイズが少なくて高透明性を示すことを確認することができた。また、実施例1~11は、ジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールの残留率が45%以上に高く示した。
【0068】
一方、比較例6および7の結果から、ポリエステル樹脂中のジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導された部分の含有量が少なすぎるか、または多すぎる場合Tgの上昇効果が減少することを確認することができた。具体的には、比較例6のようにジスピロ[5.1.5.1]テトラデカン-7,14-ジオールから誘導された部分がジカルボン酸成分の残基100モル%に対して5モル%未満の場合Tgの上昇効果が殆どなく、比較例7のように60モル%を超過する場合反応時に重合度が上がらずTgの上昇効果が減少することが示された。