(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】ホスゲンと有機アミンとを混合するための静的混合装置および方法
(51)【国際特許分類】
C07C 263/10 20060101AFI20231018BHJP
B01F 25/433 20220101ALI20231018BHJP
C07C 265/14 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
C07C263/10
B01F25/433
C07C265/14
(21)【出願番号】P 2021505706
(86)(22)【出願日】2019-07-03
(86)【国際出願番号】 US2019040554
(87)【国際公開番号】W WO2020027977
(87)【国際公開日】2020-02-06
【審査請求日】2022-06-20
(32)【優先日】2018-07-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502141050
【氏名又は名称】ダウ グローバル テクノロジーズ エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095360
【氏名又は名称】片山 英二
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100187964
【氏名又は名称】新井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】グリス、ポール、エー.
(72)【発明者】
【氏名】ユアン、クアン
【審査官】藤代 亮
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-504918(JP,A)
【文献】特表2010-536803(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101372463(CN,A)
【文献】特表2014-534053(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0018575(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0230679(US,A1)
【文献】特開平10-113549(JP,A)
【文献】米国特許第05931579(US,A)
【文献】特表2010-536912(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0305356(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0032223(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2011/0228630(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
・IPC
C07C 263/10
B01F 25/433
C07C 265/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスゲンを有機ポリアミンと混合するための方法であって、
外側側壁を有する導管を通る軸方向に向けられたホスゲンフローを確立することと、
複数の円周方向に整列したジェットを介して前記有機ポリアミンを前記導管に注入して、前記軸方向に向けられたホスゲンフローへの複数の有機ポリアミン流を確立することであって、そのような各ジェットが流体力学的直径D
jを有し、各々が前記導管の壁上の位置を有し、前記導管が前記1つ以上のジェットの前記位置に断面積Aを有する、確立することと、
次に、前記ホスゲンおよび前記有機ポリアミンを、A未満の断面積を有する前記導管の狭窄領域に通すことであって、前記狭窄部が断面積Aの50~95%である最小の断面積を有し、前記狭窄領域が前記流体力学的直径D
jの0.01~3倍に等しい距離で前記複数のジェットの下流から始まり、前記流体力学的な直径D
jの50倍以下の距離まで前記複数のジェットの下流に延びる、通すことと、
その後、前記ホスゲンおよび前記有機ポリアミンを、少なくとも断面積Aと同じ大きさの断面積を有する領域に通すことと、を含
み、
前記狭窄領域が、前記軸方向に向けられたホスゲンフローに垂直な前記導管の前記外側側壁の内表面に位置する円周方向の突起によって生成され、前記円周方向の突起が、湾曲した前縁を有する、方法。
【請求項2】
前記導管が、環状断面を有する、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
前記導管が、円形または楕円形の断面を有する、請求項1
又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記導管が、前記ジェットの前記位置で4~10mmの断面幅を有し、前記ジェットが各々、3~7mmの直径を有する、請求項1~
3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
静的混合装置であって、
a)外側側壁および任意選択で内側側壁によって画定される導管であって、前記導管が長手方向軸、第1の流体を導入するための入口端、および反応生成物流を除去するための出口端を有し、前記導管が流体流路を画定する、導管と、
b)複数の円周方向に整列したジェットであって、各々が前記導管の前記入口端と出口端との間の前記導管の側壁上の位置を有し、各ジェットが前記外側側壁を通って前記導管に入る流体流路を提供し、そのような各ジェットが流体力学的直径D
jを有し、前記導管が前記ジェットの前記位置に断面積Aを有する、ジェットと、
c)前記導管の狭窄領域であって、
前記狭窄領域が、前記軸方向に向けられたホスゲンフローに垂直な前記導管の前記外側側壁の内表面に位置する円周方向の突起によって生成され、前記円周方向の突起が、湾曲した前縁を有し、前記狭窄領域がA未満の断面積を有し、前記円周方向に整列したジェットの下流および前記導管の前記出口端の上流に位置することを特徴とし、前記狭窄領域が断面積Aの50~95%である最小の断面積を有し、前記狭窄領域が直径D
jの0.01~3倍に等しい距離で前記複数のジェットの下流から始まり、前記直径D
jの50倍以下の距離まで前記ジェットの下流に延びる、狭窄領域と、
d)少なくともAの断面積を有する、前記導管の前記狭窄領域の下流にあり、狭窄領域と流体連絡している領域と、を備える、静的混合装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホスゲンを有機アミンと混合するための方法、およびその方法に有用な静的混合装置に関する。
【0002】
ポリイソシアネートは、ホスゲンとポリアミン化合物との反応によって工業的に作製される。大規模な工業プロセスでは、有機ポリアミンは、典型的には、流れるホスゲン流に連続的に注入される。ホスゲンは、通常、過剰である。反応は速く、非常に発熱性であり、副生成物としてHClを生成する。特定の速い反応でポリアミンを消費することを利用するには、迅速かつ完全な混合が必要である。
【0003】
このプロセスは、不要な副成物の形成の影響を受けやすくなっている。これらには、例えば、様々な尿素、カルボジイミド、ウレートニミン、および他の材料が含まれ得る。これらは、しばしば、有機ポリアミンとホスゲンとの不完全な混合の結果として、少なくとも部分的に形成される。それらは、しばしば、非常に低濃度で形成されるが、時間の経過とともに蓄積し、プロセス装置を汚す。
【0004】
そのため、これらのホスゲン化反応用の混合装置の設計に多くの努力が注がれている。かなり厳しい反応条件(例えば、ホスゲンおよび塩化水素の存在、高温、ならびに高圧)のために、一般には静的混合装置が好まれる。そのような静的混合装置の例は、例えば、米国特許第8,829,232号、米国特許第8,173,833号、米国公開特許出願第2011/0230679号、および米国公開特許出願第2013/0176814号に記載されている。
【0005】
米国公開特許出願第2011-0230679号のホスゲン化混合装置は、混合装置本体とともに配置される「ガイド要素」の使用を記載している。ガイド要素は、別の管状の導管の中心を占め、ホスゲンがガイド要素を通過するときに、円形のホスゲン流路を環状の流路に変換する。有機ポリアミンは、環状ホスゲン流路が存在するセクションに位置される複数のジェットを介して導入される。これにより、高い混合装置性能が促進される。この混合装置設計によって提供される改善にもかかわらず、副生成物の形成をさらに低減することが望ましい。
【0006】
本発明は、一態様では、ホスゲンを有機ポリアミンと混合するための方法であり、本方法は、
外側側壁を有する導管を通る軸方向に向けられたホスゲンフローを確立することと、
複数の円周方向に整列したジェットを介して有機ポリアミンを導管に注入して、軸方向に向けられたホスゲンフローへの複数の有機ポリアミン流を確立することであって、そのような各ジェットが流体力学的直径Djを有し、各々が導管の壁上の位置を有し、導管が1つ以上のジェットの軸方向位置に断面積Aを有する、確立することと、
次に、ホスゲンおよび有機ポリアミンを、A未満の断面積を有する導管の狭窄領域に通すことであって、狭窄部が断面積Aの50~95%である最小の断面積を有し、狭窄領域が流体力学的な直径Djの0.01~3倍に等しい距離で複数のジェットの下流から始まり、流体力学的直径Djの50倍以下の距離まで複数のジェットの下流に延びる、通すことと、
その後、ホスゲンおよび有機ポリアミンを、少なくとも断面積Aと同じ大きさの断面積を有する領域に通すことと、を含む。
【0007】
本発明はまた、
a)外側側壁および任意選択で内側側壁によって画定される導管であって、導管が長手方向軸、第1の流体を導入するための入口端、および反応生成物流を除去するための出口端を有し、導管が流体流路を画定する、導管と、
b)複数の円周方向に整列したジェットであって、各々が導管の該入口端と出口端との間の導管の側壁上の位置を有し、各ジェットが外側側壁を通って導管に入る流体流路を提供し、そのような各ジェットが流体力学的直径Djを有し、導管がジェットの位置に断面積Aを有する、ジェットと、
c)導管の狭窄領域であって、狭窄領域がA未満の断面積を有し、円周方向に整列したジェットの下流および導管の出口端の上流に位置することを特徴とし、狭窄領域が断面積Aの50~95%である最小の断面積を有し、狭窄領域が流体力学的直径Djの0.01~3倍に等しい距離で複数のジェットの下流から始まり、流体力学的直径Djの50倍以下の距離までジェットの下流に延びる、狭窄領域と、
d)少なくともAの断面積を有する、導管の狭窄領域の下流にあり、狭窄領域と流体連絡している領域と、を備える静的混合装置である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の静的混合装置の実施形態の斜視図である。
【
図2】
図2は、本発明の静的混合装置の実施形態の側面断面図である。
【
図3】
図3は、
図2の静的混合装置の詳細を示す拡大断面図である。
【
図4】
図4は、比較および発明のホスゲン化方法について、蒸気質量分率とフロー方向に沿った軸方向距離とを比較したグラフである。
【0009】
図1~3を見ると、ホスゲン化混合装置1は、外側側壁2および中央インサート3を含み、これらは、ジェット6の上流で、矢印5によって示される方向にホスゲンの軸方向に向けられたフローが確立される導管15を一緒に画定する(
図3)。複数の円周方向に整列したジェット6が外側側壁2を貫通し、各ジェット6が外側側壁2の外側から導管15に有機ポリアミン流を注入するための流路を形成する。支持体16は、ホスゲン化混合装置1内の所定の位置に中央インサート3を保持する。中央インサート3は、好ましくは、導管15の幅が軸方向5に垂直な任意の平面上のすべての点で一定であるように、ホスゲン化混合装置1の中心軸に沿って中央に整列される。突起9は、導管15内に狭窄領域4(
図3を参照されたい)を作成する。
【0010】
円周方向に整列したジェット6の位置で、導管15は、
図1~3に示されるような環状導管の場合、次のように計算される面積Aを有し、
【数1】
式中、R
oは中心軸C
Lからの外側側壁2の距離であり、R
iは中心軸C
Lから、ジェット6の位置で導管15の内表面を形成するインサート3の表面までの距離である。
【0011】
断面積Aは、例えば、0.25cm2~120cm2であり得る。
【0012】
ジェット6は、
図3のD
jによって示されている流体力学的直径を有する。ジェット6の断面形状が円形でない場合、円の直径が各ジェット6と同じ断面積を有すると直径は考えられる。直径は、ジェット6の出口、すなわち、有機ポリアミンが導管15に排出される点での直径である。ジェット6は、それらの長さに沿って一定の直径を有さない場合がある。いくつかの実施形態では、ジェット6は先細りになっており、それらの出口で最小の直径を有する。
【0013】
ジェット直径Djは、例えば、少なくとも2mm、少なくとも3mm、または少なくとも4mmであり得、例えば、最大20mm、最大10mm、最大8mm、または最大6mmであり得る。
【0014】
狭窄領域4は、ジェット6の下流の導管15のその部分として確定され、導管15の断面積A未満の断面積を有する。したがって、
図3では、狭窄領域4はライン7から始まり、突起9は導管15に突き出て、導管15を狭くしている。
図3に示される実施形態における狭窄領域4は、ライン14で最小断面積に達する。狭窄領域4は、導管15の断面積が再びAに等しくなるライン8で終了する。狭窄領域4の端の下流(すなわち、ライン8の下流)にある領域13は、少なくともAと同じ大きさ、好ましくはAよりも大きい断面積を有する(
図3を参照されたい)。領域13は、
図1~3に示されるように導管15の一部を形成し得るか、または導管15の出口端と流体連絡している別の空間であり得るかもしくはそれを含み得る。
【0015】
狭窄領域4の開始(
図3のライン7として示されている)は、ジェット6の下流で0.01~3のジェット直径である。この距離(
図3ではD
1として示されている)は、ジェット6の下流縁から測定され、これは、
図3ではライン12によって示されている。
図3では、この距離は、ジェット6の下流で約0.25のジェット直径である。本発明の目的のための「下流」は、導管15を通る質量フローの方向を示し、
図1~3では、それは右に向かっている。「上流」は、反対方向を指し、
図1~3では左に向かっている。
【0016】
狭窄領域4の端(
図3のライン8として示されている)は、ジェット6の下流で50以下のジェット直径である。この距離(
図3ではD
2として示されている)は、ジェット6の下流縁から測定され、これは、
図3ではライン12によって示されている。狭窄領域4の端は、ジェット6の下流で、25以下、20以下、18以下、15以下、12以下、10以下、または8以下のジェット直径であり得る。
図3では、狭窄領域4の端は、ジェット6の下流で約4のジェット直径である。
【0017】
図3に示されるように、狭窄領域4の断面積は、その長さに沿って一定ではない可能性がある。
図3では、狭窄領域4の断面積は、ライン14で最小に達する。狭窄領域4の最小断面積は、断面積Aの少なくとも50%、断面積Aの最大85%である。それは、断面積Aの最大75%であり得る。
【0018】
狭窄領域4の断面積がその長さに沿って一定ではない実施形態では、狭窄領域4の断面積が最初にその最小に達する点は、好ましくはジェット6の下流で0.5~5、特に1~3のジェット直径である。
【0019】
図1~3は、軸方向に向けられたホスゲンフロー5に垂直な、導管15の外側側壁2の内表面に位置する円周方向の突起9によって狭窄領域が生成される好ましい実施形態を例示する。ただし、そのような環状突起をインサート3の表面(すなわち、
図1~3に例示されるタイプの環状導管の内側側壁)に配置するか、または導管15の内側側壁および外側側壁の両方に配置することによって、狭窄を生成することが可能である。
【0020】
図3に示される実施形態では、環状突起9は、湾曲した前縁11を有する。円周方向の突起の「前縁」は、導管15の上流端に向かって配置され、すなわち、対向するホスゲン/有機アミンフローに面する。
【0021】
図3に示されるように、ジェット6の各々で導管15に注入された有機ポリアミンは、有機ポリアミン流を形成する。ホスゲンは導管15を通って同時に流れているため、その運動量によって有機ポリアミン流が下流方向に曲がり、
図3の参照番号10によって示されているような湾曲した流路が生成される。好ましい実施形態では、狭窄領域4は、外側側壁に配置された円周方向の突起によって形成され、円周方向の突起は、湾曲した前縁を有し、前縁の曲率は、有機ポリアミン流の湾曲した流路に近似し、すなわち、
図3の前縁11の曲率は、有機ポリアミン流の湾曲した流路10の曲率に近似する。前縁は、フローの流線と整列する放物線、楕円、円弧、または双曲線の曲率を有し得る。
【0022】
狭窄エリア4の下流で、導管15は再び広がって、少なくとも断面積Aと同じ大きさの断面積を有する領域13を形成する。前述のように、領域13は、必要に応じて、導管15の一部ではなく、別個の装置であり得る。領域13の断面積は、断面積Aよりも大きいことが好ましい。領域13の断面積は、その長さに沿って一定である場合、例えば、断面積Aの少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍であり得る。
図3に示されるように、領域13の断面積は、その長さに沿って一定ではない可能性がある。したがって、いくつかの実施形態では、領域13の断面積は、質量フローの方向にその長さに沿って、Aから断面積Aの少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも3倍、少なくとも5倍、または少なくとも10倍で増加し得る。領域13は、いずれかの任意の長さを有し得る。
【0023】
図1~3は、導管15が環状断面を有する本発明の実施形態を例示する。他の実施形態では、導管15は、円形の断面を有する。他の実施形態では、導管15は、楕円形、長方形もしくは他の正多角形、または楕円形の断面を有する可能性がある。
【0024】
動作中、ホスゲンフローは、ジェット6の上流の導管15に確立され、このフローは、ジェット6を通過して、狭窄領域4を通って導管15の領域13に順次移動する。有機ポリアミンは、ジェット6を介して導管15に注入される。有機ポリアミンは、軸方向に向けられたホスゲンフローに対して直角に、またはそれに対してある角度、例えば、それに対して±45°~±89.9°の角度で注入され得る。各ジェットで、有機ポリアミンの注入は、軸方向に向けられたホスゲンフロー内に有機ポリアミン流を生成する。
【0025】
有機ポリアミン流は、軸方向に向けられたホスゲンフローによって下流に運ばれ、最終的にはそれに混合される。ただし、出願人は、本発明の前に、ホスゲン/アミン反応で形成されたホスゲン、溶媒、および/またはHClの気化が、気相および液相の混合物を形成するための混合の初期段階中に発生することを発見した。気相は、有機ポリアミン流とホスゲンフローとの境界近くに形成され、それらの混合を阻害し得る。混合が不十分だと、不純物および不要な副生成物の形成がもたらされる。この気相の形成、ならびにそれに伴う混合および不純物形成の阻害は、有機ポリアミンがホスゲン流に注入された後、非常に短い時間および距離内で発生する。
【0026】
本発明はいかなる理論によっても制限されないが、本明細書に記載されるようにホスゲンフローおよび有機アミン流を狭窄エリアに通すことによって、気化は不純物および副生成物形成の臨界時に少なくとも部分的に抑制されると考えられる。気化を抑制すると、混合の初期段階中に形成される気相の体積が低減され、したがって、ホスゲンと有機ポリアミンとの混合が改善され、それによって副生成物および不純物の形成が低減される。この有益な効果は、狭窄領域の長さが短いため、動作圧力をわずかに増加させるだけで達成される。
【0027】
軸方向に向けられたホスゲンフローおよび注入された有機ポリアミン流の流量は、好ましくは、混合されたホスゲン流および有機ポリアミン流が狭窄エリア4を通ってジェット6から移動する時間が20ミリ秒以下になるものである。
【0028】
軸方向に向けられたホスゲンフローは、それ自体でホスゲンを含有し得る。あるいは、ホスゲンは、本発明のプロセスにおいてポリイソシアネートを形成する混合および反応ステップの条件下で液体かつ非反応性である溶媒に溶解され得る。溶媒は、ホスゲンおよび有機ポリアミンの両方のための溶媒である必要がある。好適な溶媒には、モノクロロベンゼンまたはジクロロベンゼンなどの塩素化芳香族炭化水素、およびトルエンなどの非ハロゲン化芳香族炭化水素が含まれる。溶媒は、軸方向に向けられたホスゲンフローの総体積の少なくとも50%、少なくとも75%、または少なくとも80%、および最大95%または最大90%を構成し得る。
【0029】
有機ポリアミン流は、少なくとも1つの有機ポリアミンおよび任意選択で溶媒を含む。有機ポリアミンは、少なくとも2つの一級アミノ基を有することを特徴とする。
【0030】
有機ポリアミンは、一級アミノ基が芳香族環の炭素原子に直接結合している芳香族ポリアミンであり得る。そのような芳香族ポリアミンの例には、2,4-および/もしくは2,6-トルエンジアミン(TDA)、4,4’-、2,4’-、および2,2’-ジフェニルメタンジアミン(MDA)、またはそれらの任意の2つ以上の混合物、様々なポリメチレンポリフェニルアミン(PMDA);MDAとPMDAとの混合物;ナフタレン-1,5-もしくは1,8-ジアミンなどが含まれる。
【0031】
有機ポリアミンは、水素化MDA、1-メチル-2,4-ジアミノシクロヘキサン、1-メチル-2,6-ジアミノシクロヘキサンなどの脂環式ポリアミンであり得る。
【0032】
有機ポリアミンは、テトラメチレン-1,4-ジアミン、ヘキサメチレン-1,6-ジアミン、テトラメチルキシリレンジアミン、トリメチルヘキサンジアミン、テトラメチルヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、1,3-および/または1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ならびに2,4-または2,6-ジアミン-1-メチルエシクロヘキサンなどの脂肪族ポリアミンであり得る。
【0033】
有機ポリアミン流中に存在する場合、溶媒は、ホスゲン流に関して記載された通りであり得る。溶媒は、有機ポリアミン流の総体積の少なくとも50%、少なくとも75%、または少なくとも80%、および最大95%または最大90%を構成し得る。
【0034】
軸方向に向けられたホスゲンフローおよび注入された有機ポリアミン流の流量は、ホスゲンが過剰になるようなものである。反応に提供される一級アミノ基に対するホスゲンの当量比は、例えば、少なくとも1.5であり得るか、例えば、最大15であり得る。
【0035】
ホスゲン流および有機ポリアミン流は、高温で接触し得る。ホスゲン流および有機ポリアミン流は各々、例えば、350~600°Kの温度に予熱され、そのような温度で互いに接触し得る。ホスゲン流および有機ポリアミン流が組み合わされると、発熱反応によりさらに温度の増加がもたらされ得る。
【0036】
狭窄エリアの存在は、狭窄エリアがそこにないときにジェット6の下流に存在する傾向がある停滞領域を低減または排除すると考えられる。停滞領域は、下流の低圧が上流に連絡され得るエリアであり、すなわち、下流の低圧エリアへの直接経路がある。
【0037】
狭窄はこの連絡を遮断し、ホスゲン流および有機ポリアミン流が通るときに有機アミンジェットのすぐ下流でより高い圧力境界条件を生成し、それによって不要な気化を低減または排除する。これによって、より良好、かつより速いホスゲンと有機ポリアミンとの混合が促進され、それによって副生成物および不純物の形成が低減される。
【0038】
導管15内の任意の長手方向平面内(狭窄エリア4内を含む)には、最小圧力および最大圧力に及ぶ圧力の範囲が存在する。つまり、ホスゲン流および有機ポリアミン流が組み合わされ始めるときの速度の局所的な差に少なくとも部分的に起因して、圧力はそのような任意の長手方向平面のすべての点で一定ではない。また、そのような任意の平面内には平均圧力が存在し、これは、その軸方向平面上のすべての測定/予測値での質量フロー加重平均である。
【0039】
最小圧力と平均圧力との間の差は、一般に、ジェット6の位置またはそのすぐ下流で最大になる。反応器の内容物が下流に移動するにつれて、圧力の局所的な変動はより小さくなり、最小圧力および平均圧力は、同じ値に向かって移動する傾向がある。揮発性成分の気化は、これらの最小圧力のエリアで主に発生する傾向があると考えられる。
【0040】
本発明により、最小圧力と平均圧力との間の差は、ジェット6のすぐ下流の領域、すなわち、狭窄領域内で低減される。これは、反応物を狭窄ゾーンに通すことによって、狭窄エリアが存在しない(すなわち、ジェットの下流の導管15の断面積が、断面積A以上のままである)場合と比較して、狭窄エリア内に見られる最小圧力が増加するために達成される。平均圧力も一般に増加するが、その量は少ないため、制限エリア内の任意の長手方向平面での圧力の変動はより小さくなる。最小圧力の増加は気化を低減し、これによって、より良好、かつより速いホスゲンと有機ポリアミンとの混合が促進され、それによって副生成物および不純物の形成が低減されると考えられる。
【0041】
狭窄領域4内の最小圧力は、狭窄領域が存在しない場合と比較して、狭窄領域4内の少なくとも1つの長手方向平面内で、例えば、少なくとも0.25atm(25kPa)、少なくとも0.5atm(50kPa)、少なくとも1.0atm(101kPa)、または少なくとも1.5atm(152kPa)~例えば、最大3atm(304kPa)または最大2.5atm(253kPa)だけ増加させることができる。特定の実施形態では、最小圧力は、狭窄領域4内のすべての点で、少なくとも3atm(304kPa)ゲージ、少なくとも4atm(405kPa)、または少なくとも4.5atm(456kPa)である。
【0042】
狭窄エリアが存在しない場合と比較して、狭窄エリア内で平均圧力のわずかな増加が見られる。この平均圧力の増加は、典型的には、0.1~1.25気圧(10.1~126.6kPa)の順番であり、より典型的には、最大約1気圧(101kPa)である。絶対的には、圧力は、狭窄領域4内の少なくとも1つの長手方向平面内で最大で少なくとも5atm(507kPa)ゲージ、少なくとも8atm(811kPa)、少なくとも10atm(1013kPa)、少なくとも13atm(1317kPa)少なくとも14atm(1419kPa)ゲージ、または少なくとも14.5atm(1469kPa)に達する可能性があり、最大で最大20atm(2027kPa)、最大18atm(1824kPa)、最大16atm(1621kPa)、最大15.5atm(1570kPa)、または最大15atm(1520kPa)に達する可能性がある。
【0043】
図1~3に示されるように静的混合装置の性能を、米国公開特許出願第2011-0230679号の
図3および4に記載されている性能と比較するためにシミュレーションを実行する。これらの混合装置は、本発明の静的混合装置が、本明細書の
図3に示されるように、狭窄領域4を含むという点でのみ異なる。
シミュレーションは、次のパラメーターを使用して実行する。
ホスゲン流の組成:94%ホスゲン、6%溶媒。
ホスゲン流の供給速度:0.7kg/秒。
ホスゲン流の温度:370°K。
断面積A:0.6cm
2。
ジェット直径(D
j):4mm。
有機ポリアミン流組成:28%ジフェニルメタンジアミン、72%溶媒。
有機ポリアミン流の供給速度:0.6kg/秒。
有機ポリアミン/溶媒の温度:440°K。
狭窄領域4の最小断面積:0.42cm
2。
【0044】
定常状態条件が確立されると、ジェット6からさまざまな距離にある狭窄領域4内で最小圧力および平均圧力を決定する。結果を表1に示す。
【表1】
【0045】
表1のデータは、平均圧力および最小圧力に対する狭窄領域の影響を例示している。
【0046】
どちらの場合も、ジェット6のすぐ下流の平均圧力はやや高くなっている。表1のデータが示すように、平均圧力は、各々の場合も、ジェット6からさらに下流に移動するにつれてやや緩和される。平均圧力に対する狭窄エリアの影響は、狭窄エリア4の前縁近くで0.8~1.0atm(80~101kPa)もわずかに増加することである。平均圧力の増加は、狭窄エリア4内のさらに下流でより小さくなる。
【0047】
表1がさらに示すように、ジェット6のわずかに下流のエリアでは、平均圧力と最小圧力との間に非常に大きな差がある。下流の0.5のジェット直径では、この差は、狭窄領域4がない場合、11.3気圧になる。平均圧力と最小圧力との間の差は、ジェット6から下流の距離が増加するにつれて減少する。
【0048】
狭窄領域4の存在は、その領域全体で見られる最小圧力を増加させ、狭窄領域の存在のために低圧下流エリアとの「連絡」が中断されることを証明する。この影響は、狭窄領域4の上流部分、すなわちジェット6に最も近い領域で最も顕著である。ジェット6の下流の0.5~1のジェット直径の場合、最小圧力は、ちょうど2気圧(102kPa)、または75%も増加する。
【0049】
本発明の場合および比較の場合の両方について、ジェット6からの軸方向距離の関数として、狭窄領域4内に存在する気化した材料の量を決定する。結果を
図5にグラフで示す。
【0050】
図4では、xマーカーは、比較の場合の蒸気質量分率(蒸気質量を総質量で割ったもの)を示している。円形の点は、本発明の場合の蒸気質量分率を示している。
【0051】
図5で見ることができるように、比較の場合(狭窄領域4なし)、ジェットのすぐ下流に大きな蒸気分率が発生する。この大きな蒸気分率は、狭窄領域4が存在する本発明の場合には生成されない。
図5は、狭窄領域4の有益な影響、およびその領域の存在によって見られる最小圧力の増加を明確に示している。
【0052】
2つのシミュレーションの各々について、生成される副生成物の量を決定する。本発明の場合の副生成物は、比較の場合と比較して14%低減する。この利点を達成するために必要な圧力降下の増加はわずか8%である。