(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-10-17
(45)【発行日】2023-10-25
(54)【発明の名称】地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にする方法及びシステム
(51)【国際特許分類】
F24D 10/00 20220101AFI20231018BHJP
F24F 11/83 20180101ALI20231018BHJP
F24D 3/00 20220101ALI20231018BHJP
F24D 19/10 20060101ALI20231018BHJP
【FI】
F24D10/00
F24F11/83
F24D3/00 L
F24D19/10 C
(21)【出願番号】P 2021527158
(86)(22)【出願日】2019-11-21
(86)【国際出願番号】 SE2019051180
(87)【国際公開番号】W WO2020106210
(87)【国際公開日】2020-05-28
【審査請求日】2022-10-26
(32)【優先日】2018-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】521212166
【氏名又は名称】ストックホルム エクサージ アーべー
【氏名又は名称原語表記】STOCKHOLM EXERGI AB
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100169823
【氏名又は名称】吉澤 雄郎
(72)【発明者】
【氏名】クウィリン ハンプ
【審査官】礒部 賢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/136344(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第3168541(EP,A1)
【文献】国際公開第2010/087759(WO,A1)
【文献】欧州特許出願公開第1564616(EP,A2)
【文献】国際公開第2012/072079(WO,A2)
【文献】米国特許出願公開第2017/0037604(US,A1)
【文献】特開昭59-032726(JP,A)
【文献】特開平04-359725(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24D 1/00 - 19/10
F24F 1/00 - 13/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のサブステーションを具えた地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にする方法であって、前記サブステーションの各々が、少なくとも1つの一次側と、二次側と、調整可能なバルブ(102)とを具え、前記一次側は、前記地域暖房ネットワークと前記サブステーションとの間で熱を伝達するために前記地域暖房ネットワークに接続され、前記二次側は、前記サブステーションに接続された少なくとも1つの空間を暖房するための少なくとも1つの空間暖房回路に接続され、前記調整可能なバルブは、前記サブステーションと前記地域暖房ネットワークとの間に配置され、各々の前記サブステーション内の前記バルブ(102)は熱曲線fによって制御され、該熱曲線fは、前記サブステーションの前記二次側の前記空間暖房回路について計算した供給温度(T
supply, calc)を、測定した外気温(T
outdoor)の関数として定義する方法において、
前記方法は、前記地域暖房ネットワーク内の前記サブステーション毎に、
a)外気温(T
outdoor)を測定して、エミュレートされた外気温(T
active)を前記測定した外気温に等しく設定するステップと、
b)第1制御温度(T
HCC)及び第2制御温度(T
PC)を規定するステップと、
c)前記エミュレートされた外気温(T
active)に基づいて前記熱曲線fから計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)を決定するステップと、
d)前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)を測定するステップと、
e)前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)を、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)と比較して、
前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)が、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)よりも高い場合、前記第1制御温度(T
HCC)を、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)を入力値として計算した前記熱曲線fの逆関数f
-1の値に等しく設定し、あるいは、
前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)が、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)以下である場合、前記第1制御温度(T
HCC)を、前記エミュレートされた外気温(T
active)に等しく設定するステップと
を含み、
前記方法は、
f)前記サブステーション毎に、当該サブステーションにおける出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数を測定するステップと、
g)前記出力取り出し量に関連する前記少なくとも1つの変数の統計的分布を、前記サブステーションの集団全体について計算するステップと、
h)現在の前記計算した統計的分布を、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と比較して、
前記現在の計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前記前の時刻の統計的分布と異なる場合、前記第2制御温度(T
PC)を補正係数(ΔT
PC)分だけ増加させ、あるいは、
前記現在の計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前記前の時刻の統計的分布に等しい場合、前記第2制御温度(T
PC)を維持するステップと、
i)前記サブステーション毎に、当該サブステーション用のバルブ制御温度(T
VC)を、当該サブステーション用の前記第1制御温度(T
HCC)及び前記第2制御温度(T
PC)の関数gとして計算するステップと、
j)前記サブステーション毎に、当該サブステーション用の前記エミュレートされた外気温(T
active)を、当該サブステーション用の前記バルブ制御温度(T
VC)に等しく設定することによって更新し、前記サブステーション毎に、当該サブステーション用の更新後の前記エミュレートされた外気温(T
active)を用いて、当該サブステーション内の前記バルブ(102)を制御するステップと
をさらに含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)を、前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)と比較する前に、安全なパラメータ・オフセット値(ΔT
saf)だけ低下させる、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップj)の前に、前記サブステーション毎に、前記計算したバルブ制御温度(T
VC)を前記現在の計算した外気温(T
active)と比較するステップをさらに含み、ステップj)で用いる前記バルブ制御温度(T
VC)を、前記計算したバルブ制御温度(T
VC)と現在の前記エミュレートされた外気温(T
active)のうちの大きい方に等しく設定する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ステップj)の後に、前記熱発生の機能停止または機能不全が休止したか否かをチェックして、
前記熱発生の機能停止または機能不全が休止している場合、前記平衡状態にする手順を中止し、あるいは、
前記熱発生の機能停止または機能不全が休止していない場合、ステップc)~j)を反復するステップを含む、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記熱発生の機能停止または機能不全が休止するまで、ステップc)~j)を、遅延をおいて反復する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記統計的分布が、度数分布、または正規分布、スチューデントのt分布、及びワイブル分布から選択した確率分布である、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ステップg)が、混合モデルにおけるモードの数を検出することを含む、請求項1~6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
前記出力取り出し量に関連する前記少なくとも1つの変数が、前記サブステーションを通る質量流量
(外4)
、前記サブステーション内の前記バルブ(102)の開度(α
R)の設定点値、前記サブステーションにおける前記出力取り出し量、及び/またはこれらの組合せを含む、請求項1~7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記サブステーション毎に、当該サブステーション内の前記バルブ(102)の制御を、前記更新後の前記エミュレートされた外気温(T
active)を前記熱曲線fへの入力値として用いることによって実行し、あるいは前記更新後の前記エミュレートされた外気温(T
active)を用いて当該サブステーションの前記熱曲線fのオフセット値を決定することによって実行する、請求項1~8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
複数のサブステーションを具えた地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にするシステムであって、前記サブステーションの各々が、少なくとも1つの一次側と、二次側と、調整可能なバルブ(102)とを具え、前記一次側は、前記地域暖房ネットワークと前記サブステーションとの間で熱を伝達するために前記地域暖房ネットワークに接続され、前記二次側は、前記サブステーションに接続された少なくとも1つの空間を暖房するための少なくとも1つの空間暖房回路に接続され、前記調整可能なバルブは、前記サブステーションと前記地域暖房ネットワークとの間に配置され、各々の前記サブステーション内の前記バルブ(102)は熱曲線fによって制御され、該熱曲線fは、前記サブステーションの前記二次側の前記空間暖房回路について計算した供給温度(T
supply, calc)を、測定した外気温(T
outdoor)の関数として定義するシステムにおいて、
前記システムは、
処理回路(603)と、
メモリ(604)と、
前記地域暖房ネットワーク内の前記サブステーションの各々と通信する手段(602)とを具え、
前記メモリは、前記処理回路によって実行可能な命令を含み、
前記システムは、前記地域暖房ネットワーク内の前記サブステーション毎に、
a)外気温(T
outdoor)を測定して、エミュレートされた外気温(T
active)を前記測定した外気温に等しく設定し、
b)第1制御温度(T
HCC)及び第2制御温度(T
PC)を規定し、
c)前記エミュレートされた外気温(T
active)に基づいて前記熱曲線fから計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)を決定し、
d)前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)を測定し、
e)前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)を、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)と比較して、
前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)が、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)よりも高い場合、前記第1制御温度(T
HCC)を、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)を入力値として計算した前記熱曲線fの逆関数f
-1の値に等しく設定し、あるいは、
前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)が、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)以下である場合、前記第1制御温度(T
HCC)を、前記エミュレートされた外気温(T
active)に等しく設定する
ように動作し、
前記システム(600)は、さらに、
f)前記サブステーション毎に、当該サブステーションにおける出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数を測定し、
g)前記出力取り出し量に関連する前記少なくとも1つの変数の統計的分布を、前記サブステーションの集団全体について計算し、
h)現在の前記計算した統計的分布を、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と比較して、
前記現在の計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前記前の時刻の統計的分布と異なる場合、前記第2制御温度(T
PC)を補正係数(ΔT
PC)分だけ増加させ、あるいは、
前記現在の計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前記前の時刻の統計的分布に等しい場合、前記第2制御温度(T
PC)を維持し、
i)前記サブステーション毎に、当該サブステーション用のバルブ制御温度(T
VC)を、当該サブステーション用の前記第1制御温度(T
HCC)及び前記第2制御温度(T
PC)の関数gとして計算し、
j)前記サブステーション毎に、当該サブステーション用の前記エミュレートされた外気温(T
active)を、当該サブステーション用の前記バルブ制御温度(T
VC)に等しく設定することによって更新し、前記サブステーション毎に、当該サブステーション用の更新後の前記エミュレートされた外気温(T
active)を用いて、当該サブステーション内の前記バルブ(102)を制御する
ように動作することを特徴とするシステム。
【請求項11】
さらに、請求項2~9のいずれかに記載の方法を実行するように動作する、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
複数のサブステーションを具えた地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にするシステム(600)において実行されることを意図したコンピュータ可読なコード手段を含むコンピュータプログラム(605)であって、前記サブステーションの各々が、少なくとも1つの一次側と、二次側と、調整可能なバルブ(102)とを具え、前記一次側は、前記地域暖房ネットワークと前記サブステーションとの間で熱を伝達するために前記地域暖房ネットワークに接続され、前記二次側は、前記サブステーションに接続された少なくとも1つの空間を暖房するための少なくとも1つの空間暖房回路に接続され、前記調整可能なバルブは、前記サブステーションと前記地域暖房ネットワークとの間に配置され、各々の前記サブステーション内の前記バルブ(102)は熱曲線fによって制御され、該熱曲線fは、前記サブステーションの前記二次側の前記空間暖房回路について計算した供給温度(T
supply, calc)を、測定した外気温(T
outdoor)の関数として定義するコンピュータプログラムにおいて、
前記コンピュータ可読なコード手段(605)は、前記システム(600)内で実行されると、前記システム(600)に、前記地域暖房ネットワーク内の前記サブステーション毎に、
a)外気温(T
outdoor)を測定して、エミュレートされた外気温(T
active)を前記測定した外気温に等しく設定するステップと、
b)第1制御温度(T
HCC)及び第2制御温度(T
PC)を規定するステップと、
c)前記エミュレートされた外気温(T
active)に基づいて前記熱曲線fから計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)を決定するステップと、
d)前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)を測定するステップと、
e)前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)を、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)と比較して、
前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)が、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)よりも高い場合、前記第1制御温度(T
HCC)を、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)を入力値として計算した前記熱曲線fの逆関数f
-1の値に等しく設定し、あるいは、
前記計算した前記サブステーションの前記二次側の供給温度(T
supply, calc)が、前記測定した前記サブステーションの前記一次側の供給温度(T
supply)以下である場合、前記第1制御温度(T
HCC)を、前記エミュレートされた外気温(T
active)に等しく設定するステップと
を実行させ、
前記コンピュータ可読なコード手段(605)は、前記システム(600)に、
f)前記サブステーション毎に、当該サブステーションにおける出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数を測定するステップと、
g)前記出力取り出し量に関連する前記少なくとも1つの変数の統計的分布を、前記サブステーションの集団全体について計算するステップと、
h)現在の前記計算した統計的分布を、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と比較して、
前記現在の計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前記前の時刻の統計的分布と異なる場合、前記第2制御温度(T
PC)を補正係数(ΔT
PC)分だけ増加させ、あるいは、
前記現在の計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前記前の時刻の統計的分布に等しい場合、前記第2制御温度(T
PC)を維持するステップと、
i)前記サブステーション毎に、当該サブステーション用のバルブ制御温度(T
VC)を、当該サブステーション用の前記第1制御温度(T
HCC)及び前記第2制御温度(T
PC)の関数gとして計算するステップと、
j)前記サブステーション毎に、当該サブステーション用の前記エミュレートされた外気温(T
active)を、当該サブステーション用の前記バルブ制御温度(T
VC)に等しく設定することによって更新し、前記サブステーション毎に、当該サブステーション用の更新後の前記エミュレートされた外気温(T
active)を用いて、当該サブステーション内の前記バルブ(102)を制御するステップと
をさらに実行させることを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項13】
請求項12に記載のコンピュータプログラム(605)を含む媒体であって、該媒体が、電気信号、光信号、無線信号、またはコンピュータ可読の記憶装置である媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の第1の態様は、地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量(マスフロー)を平衡状態にする方法に関するものである。第2の態様では、本発明は第1の態様による方法を実行するように構成されたシステムに関するものである。第3の態様では、本発明は第1の態様による方法を実行するためのコンピュータプログラム製品及び媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全の場合に、一次側(供給)で利用可能な出力が、二次側(接続された地所)の需要を満足するには不十分になり得る。一般的な症状は、一次側の供給温度の低下である。他の結果は、配給ラインの遠端にあるサブステーション(変電所)における質量流量の意味での配給能力の低下または欠如であり、即ち、地域暖房を生み出す熱源(パワー)プラントから最遠距離に位置するサブステーション、及び/またはは、地域暖房ネットワーク内の配給網に依存する拠点に位置するポンプ場から最遠距離に位置するサブステーションである。熱源プラント/ポンプ場から長距離に位置する地所/サブステーションは、流量及び温度を何とか維持できるような短距離または中距離にある地所/サブステーションに比べて、許容レベルを大幅に下回る流量及び温度低下が生じる。
【0003】
出力(パワー)の欠如は、それが温度差という点でも圧力差という点でも、同じ結果を有する。コンピュータ・サブステーション(スウェーデン国のdatorundercentraler、DUC)は、地域暖房ネットワークに接続された地所における地域暖房の流量をローカルに制御し、サブステーションの一次側のバルブを開放して当該バルブの熱交換器上の質量流量を増加させることによって、出力取り出し量を維持しようとする。このことは、配給パイプライン上で供給ラインと戻りラインとの間の圧力差低下量の増加を生じさせる。その結果、いわゆる「末端」サブステーションへの配給の問題が発生し得る。
【0004】
熱発生及び/または配給の機能不全は、サブステーションが実行する測定上で次の結果の連鎖を生じさせる:
1.サブステーションの一次側における供給温度の低下
2.サブステーションの二次側における、空間暖房回路及び温水回路に至る供給温度の低下
3.暖房される空間内の要素(ラジエータ(放熱器))への配給出力の低下
4.空間暖房回路及び温水回路からの戻り温度の低下
5.サブステーションの二次側の空間暖房回路における供給と戻りとの間の温度差の低下
6.サブステーション内に実装される制御論理回路における、空間暖房回路内及び温水回路内の両方でバルブを開放する反応
7.サブステーションの一次側における供給ラインと戻りラインとの圧力差の低下。
【0005】
流体平衡が米国特許第9766633号明細書(特許文献1)に開示され、質量流量の集中測定に基づく地域暖房ネットワークに明確に指向している。自動平衡のための他の方法は、欧州特許第3179173号明細書(特許文献2)に提示されている。両者は、特定の公称流量を消費者毎に計算することを共通して有する。
【0006】
欧州特許第2728269号明細書(特許文献3)は、暖房システムを較正する方法は記載しているが、「末端」問題にどのように対処するかには応えていない。しかし、上記刊行物のいずれも、配給網をセグメント(区分)化した際に発生する配給能力の変化に関係しない。
【0007】
欧州特許第3120201号明細書(特許文献4)は、供給ネットワーク内の圧力差を制御する方法を記載している。しかし、これも個別の業者/消費者の特性に基づく。
【0008】
欧州特許第2021696号明細書(特許文献5)には、ピークシェービング向けの解決策、即ち、特定のサービス品質(QoS:Quality of Service)を維持しながらの負荷低減が提示されている。しかし、これは「末端」問題に応えない。
【0009】
欧州特許第3168541号明細書(特許文献6)は、複数の消費者を有するネットワーク内の熱伝導流体の流量を平衡状態にするシステム、バルブまたはポンプの形態の制御装置を調整するステップを含む方法を記載し、関連する消費者は、供給される総流量の固定割合に相当する流量の熱流体を受け取る。
【0010】
いわゆる「末端」サブステーションの質量流量の崩壊が、本発明によって解決することを追求する問題である。従って、地域暖房を生み出すことに支障のある状況(いわゆる機能不全または機能停止の状況)では、次の2つの目的を達成するための解決策が要求される:
1.サブステーション内の無用な圧力低下を解消する。
2.すべてのサブステーション内の圧力低下が、「末端」顧客のサブステーションが十分な圧力差を有し、従って出力取り出し量にとって十分な質量流量を有することを保証する。
【0011】
従って、配給ラインの遠端に近いサブステーションが、より高い圧力差に起因するより大きな質量流量を有し、出力取り出し量を増加させることによってより大きな出力を有することを可能にしつつ、質量流量を制御するのに十分な圧力低下を有するサブステーションが、圧力差を過度に低下させない点で過大な出力を引き出さないことを保証するためには、全サブステーション間の協調動作を考える必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】米国特許第9766633号明細書
【文献】欧州特許第3179173号明細書
【文献】欧州特許第2728269号明細書
【文献】欧州特許第3120201号明細書
【文献】欧州特許第2021696号明細書
【文献】欧州特許第3168541号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の目的は、上述した問題の少なくとも一部を是正して、地域暖房ネットワーク内の配給ラインの遠端の近くに位置するサブステーションの「末端」問題に対抗するための改善された解決策を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
このことは本発明の第1の態様において実現され、この態様は、複数のサブステーションを具えた地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にする方法に関係し、各サブステーションは、少なくとも1つの一次側と、二次側と、調整可能なバルブとを具え、一次側は、地域暖房ネットワークとサブステーションとの間で熱を伝達するために地域暖房ネットワークに接続され、二次側は、サブステーションに接続された少なくとも1つの空間を暖房するための少なくとも1つの空間暖房回路に接続され、調整可能なバルブは、サブステーションと地域暖房ネットワークとの間に配置され、各サブステーション内のバルブは熱曲線によって制御され、この熱曲線は、サブステーションの二次側の空間暖房回路について測定した供給温度を、測定した外気温の関数として定義し、この方法は、地域暖房ネットワーク内のサブステーション毎に:
a)外気温を測定して、エミュレートされた外気温を、測定した外気温に等しく設定するステップと;
b)第1制御温度及び第2制御温度を規定するステップと;
c)エミュレートされた外気温に基づいて熱曲線から計算したサブステーションの二次側の供給温度を決定するステップと;
d)サブステーションの一次側の供給温度を測定するステップと;
e)上記計算したサブステーションの二次側の供給温度を、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度と比較して、
-上記計算したサブステーションの二次側の供給温度が、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度よりも高い場合、第1制御温度を、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度を入力値として計算した熱曲線の逆関数の値に等しく設定し;あるいは、
-上記計算したサブステーションの二次側の供給温度が、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度以下である場合、第1制御温度を、上記エミュレートされた外気温に等しく設定するステップと
を含み、
この方法は:
f)サブステーション毎に、当該サブステーションにおける出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数を測定するステップと;
g)出力取り出し量に関連する上記少なくとも1つの変数の統計的分布を、サブステーションの集団全体について計算するステップと;
h)現在の上記計算した統計的分布を、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と比較して、
-現在の上記計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と異なる場合、第2制御温度を補正係数分だけ増加させ;あるいは、
-現在の上記計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布に等しい場合、第2制御温度を維持するステップと;
i)サブステーション毎に、当該サブステーション用のバルブ制御温度を、当該サブステーション用の第1制御温度及び第2制御温度の関数として計算するステップと;
j)サブステーション毎に、当該サブステーション用の上記エミュレートされた外気温を、当該サブステーション用のバルブ制御温度に等しく設定することによって更新し、サブステーション毎に、当該サブステーション用の更新後のエミュレートされた外気温を用いて、当該サブステーション内のバルブを制御するステップと
をさらに含む。
【0015】
本発明による方法は、2つの主要なステップ、即ち、上記のステップc)~e)に相当する、熱曲線補償(HCC:heat curve compensation)と称される第1ステップ、及び上記のステップf)~h)に相当する、集団補償(PC:population compensation)と称される第2ステップを含む。第1ステップは、計算したサブステーションの供給温度のうち、実現不可能であるもの、即ち、サブステーションの一次側の実際の供給温度よりも高いものを補償することを目的とする。このことは、集団内のサブステーション毎に、入力値が出力値を与える制御モデルにより行う。第2ステップは反復的プロセスであり、集団内のサブステーション全体にわたる質量流量及び出力の偏りのない分布を保証することを目的とする。このことは、サブステーションへ送信される制御温度を更新することによって実現され、複数の入力値が同じ出力値を集団内の全部のサブステーションに与える制御モデルである。
【0016】
上記2つの主要なステップの結果は、第1引数及び第2引数の関数であるバルブ制御温度を生じさせ、第1引数は、個別のサブステーション向けにそのパラメータに基づいて個別に調整された熱曲線補償に基づき、第2引数は、集団全体の統計的分布に基づく全サブステーションについて同一の集団補償に基づく。バルブ制御温度は、その後に、エミュレートされた外気温の形式で各サブステーションへ送信されて、それぞれのサブステーション内のバルブを制御するために用いられる。
【0017】
ステップb)では、変数を定め、これらの変数はその後に方法の主要なステップで更新する。第1及び第2制御温度の適切な初期値は、例えば0または外気温に選択することができる。
【0018】
本発明の方法により、地域暖房ネットワーク内のサブステーションの集団の改善された制御が実現され、これにより、サブステーション内の質量流量及び出力取り出し量の平衡状態が実現されて、パイプラインの遠端に位置するサブステーションへの配給を維持することができ、集団全体では通常動作に比べてある程度の低下を伴う。
【0019】
本発明による解決策の際立った特徴は、地域暖房ネットワークの供給ラインと戻りラインとの間の圧力差を発生するポンプ場の制御を必要としないことにある。それに加えて、大域的な配給ライン上の質量流量を測定する必要性が存在しない。いずれの場合にも、これらの質量流量の測定値は、実際には数が限られ、離散した位置でしか入手可能でない。これらの問題は、通常は、これらの測定値では目に見えず、特に冗長な地域暖房ネットワークでは目に見えない。他の特徴は、上記の解決策は、個別の業者の特性化を何ら必要とせず、あるいは、特定のサブステーションの個別制御を何ら用いず、その代わりに、各個別のサブステーションにおける条件(熱曲線等)を考慮に入れて全部のサブステーションを1つのグループとして制御することにある。
【0020】
従来技術に比べた主な差異、即ち、本発明の解決策の新規な部分は、消費者の状況の個別評価のみに頼ってこれらの状況の個別の挙動を適応させる代わりに、自動的な流体平衡が、関係する消費者の集団全体の統計的分析に基づき、配給網、即ち圧力差の制御、ポンプ場の状況、または配給網のセグメント化状況は考慮に入れないことにある。
【0021】
さらに、流体の偏りを軽減するための同じ補正動作を全消費者に適用することができる。この方策は、出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数の統計的分布が、熱発生機能不全のない統計的分布と同様になるまで実行する。これらの統計的分布を記述して、通常の統計的分布からの偏差を検出するためのいくつかの方法が存在する。一般的方法は、混合ガウスモデルにおけるモードの数を検出することであり、これらのモードは、例えば期待値最大化アルゴリズムによって識別することができる。通常動作中には質量流量の正規分布が存在するはずである。しかし、熱発生の機能不全または機能停止中には、この状況において生じる少なくとも2つの消費者のクラスを反映するモードの数が増加する:十分な質量流量を有するモード及び十分な質量流量を有さないモード。統計的分布が同様であるか否かを判定するために、検出したモードどうしを比較する。
【0022】
好適例では、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度を、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度と比較する前に、安全なパラメータ・オフセット値だけ低下させる。上記測定したサブステーションの一次側の供給温度に上限を設定することによって、サブステーション内のバルブが熱発生の機能不全または機能停止により全開していた場合に、これらのバルブが実際に閉じられることを保証する。
【0023】
代案の好適例では、上記方法が、ステップj)の前に、サブステーション毎に、上記計算したバルブ制御温度を現在のエミュレートされた外気温と比較するステップをさらに含み、ステップj)で用いるバルブ制御温度は、上記計算したバルブ制御温度と現在のエミュレートされた外気温のうち大きい方の値(最大値)に等しく設定する。これら2つの温度の最大値を用いることによって、常に最高の温度を用いてサブステーションを制御し、これにより、サブステーションの集団全体にわたる質量流量のより高速な平衡化を実現することが保証される。実際には、上記計算したバルブ制御温度の方が通常は高い、というのは、上記方法におけるステップの反復毎に付加的に増加するからである。
【0024】
追加的な好適例では、ステップj)の後に、上記方法は、熱発生の機能停止または機能不全が休止したか否かをチェックし:
-熱発生の機能停止または機能不全が休止している場合、平衡化手順を中止し;あるいは
-熱発生の機能停止または機能不全が休止していない場合、ステップc)~j)を反復するステップを含む。
【0025】
このチェックを実行して、熱発生の機能停止または機能不全が存在する限り平衡化手順を継続して、サブステーション内の質量流量及び出力取り出し量の無用な制御を回避することを保証する。上記方法は、ステップa)でエミュレートされた外気温を測定した外気温にリセットすること、及び第1及び第2制御温度を0にリセットすることを回避する、但しその代わりに、エミュレートされた外気温、並びにステップc)~j)の前回の反復による第1及び第2制御温度に基づく補償を継続する。
【0026】
有利な好適例では、熱発生の機能停止または機能不全が休止するまで、ステップc)~j)を、遅延をおいて反復する。方法におけるステップを、遅延をおいて反復することによって、サブステーションの集団全体にわたる質量流量及び出力取り出し量を、追加的な制御を実行する前に安定化することができる。同時に、制御温度が短期間では過度に増加しないことが保証され、こうした過度の増加は、サブステーションの集団全体にわたる出力取り出し量の無用に大きな低下を生じさせる。
【0027】
好適例では、出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数が、サブステーションを通る質量流量、サブステーション内のバルブ開度の設定点(セットポイント)値、サブステーション及び/またはその組合せにおける出力取り出し量を含む。出力取り出し量に関連する1つ以上の変数どうしを異なる方法で組み合わせて、信頼性のある統計的分布を計算して、異なる時点間で統計的分布を比較するための十分な根拠を提供することができる。
【0028】
代案の好適例では、それぞれのサブステーション内のバルブの制御を、上記更新後のエミュレートされた外気温を上記熱曲線に与える値として用いることによって実行し、あるいは、上記更新後のエミュレートされた外気温を用いて、それぞれのサブステーションの熱曲線のオフセット値を決定することによって実行する。それぞれのサブステーション内のバルブの制御は、例えば当該サブステーションの制御論理回路がどのように設計されているか、といった個別の条件に応じて異なる方法で実行することができる。
【0029】
第2の態様では、本発明は、複数のサブステーションを具えた地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にするシステムに関するものであり、各サブステーションは少なくとも1つの熱交換器を具え、この熱交換器は一次側と、二次側と、調整可能なバルブとを有し、一次側は、地域暖房ネットワークとサブステーションとの間で熱を伝達するために地域暖房ネットワークに接続され、二次側は、サブステーションに接続された少なくとも1つの空間を暖房するための少なくとも1つの空間暖房回路に接続され、調整可能なバルブは、サブステーションの一次側で熱交換器と地域暖房ネットワークとの間に配置され、各サブステーション内のバルブは熱曲線によって制御され、この熱曲線は、サブステーションの二次側の空間暖房回路について計算した供給温度を、測定した外気温の関数として定義し、このシステムは:
処理回路と;
メモリと;
地域暖房ネットワーク内の各サブステーションと通信する手段とを具え、
上記メモリは、上記処理回路によって実行可能な命令を含み、
このシステムは、地域暖房ネットワーク内のサブステーション毎に:
a)外気温を測定して、エミュレートされた外気温を、測定した外気温に等しく設定し;
b)第1制御温度及び第2制御温度を規定し;
c)エミュレートされた外気温に基づいて熱曲線から計算したサブステーションの二次側の供給温度を決定し;
d)サブステーションの一次側の供給温度を測定し;
e)上記計算したサブステーションの二次側の供給温度を、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度と比較して、
-上記計算したサブステーションの二次側の供給温度が、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度よりも高い場合、第1制御温度を、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度を入力値として計算した熱曲線の逆関数の値に等しく設定し;あるいは、
-上記計算したサブステーションの二次側の供給温度が、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度以下である場合、第1制御温度を、上記エミュレートされた外気温に等しく設定する
ように動作し、
このシステムは、さらに、
f)サブステーション毎に、当該サブステーションにおける出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数を測定し;
g)出力取り出し量に関連する上記少なくとも1つの変数の統計的分布を、サブステーションの集団全体について計算し;
h)現在の上記計算した統計的分布を、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と比較して、
-現在の上記計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と異なる場合、第2制御温度を補正係数分だけ増加させ;あるいは、
-現在の上記計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布に等しい場合、第2制御温度を維持し;
i)サブステーション毎に、当該サブステーション用のバルブ制御温度を、当該サブステーション用の第1制御温度及び第2制御温度の関数として計算し;
j)サブステーション毎に、当該サブステーション用の上記エミュレートされた外気温を、当該サブステーション用のバルブ制御温度に等しく設定することによって更新し、サブステーション毎に、当該サブステーション用の更新後のエミュレートされた外気温を用いて、当該サブステーション内のバルブを制御する
ように動作する。
【0030】
他の態様によれば、コンピュータプログラム及び媒体も提供され、それらの詳細は特許請求の範囲及び詳細な説明中に記載する。
【0031】
本発明の解決策のさらに可能な特徴及び利点は、以下の詳細な説明より明らかになる。
【0032】
以下、本発明を、好適な実施形態により、添付した以下の図面を参照しながら、より詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図1】地域暖房ネットワーク内のサブステーションの概略図である。
【
図2】
図2a~2cは、異なる発生条件において熱源プラントからの距離を増加させた、地域暖房ネットワーク内の複数のサブステーションにおける質量流量及び出力を示す図である。
【
図3】地域暖房ネットワーク内のサブステーション内のバルブを制御するシステムの簡略化した概略図である。
【
図4】本発明の1つ以上の実施形態による、複数のサブステーションを具えた地域暖房ネットワークにおける熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にする方法のフローチャートである。
【
図5】地域暖房ネットワーク内のサブステーションの集団内のバルブを制御するシステムの詳細図である。
【
図6】
図6a及び6bは、それぞれ、熱発生の機能停止または機能不全の前、及び熱発生の機能停止または機能不全中の、サブステーションの集団内の質量流量の度数分布の例を示す図である。
【
図7】本発明の実施形態における質量流量を平衡状態にするシステムの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
実施形態の説明
以下では、熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にする方法の詳細な説明を、本発明の地域暖房ネットワークにおいて示す。図面中では、複数の図面中で参照符号が表すものが同一または対応する要素である。これらの図面は例示することを意図したに過ぎず、本発明の範囲を少しも限定しない。
【0035】
本発明の関連では、解決策は次の仮定及び制約に基づく。解決策は、地域暖房ネットワーク内の圧力差の測定値またはポンプ場の測定値に頼ってはならない、というのは、これらの測定値は離散した点のものであり、これらの測定値の分布が集団全体をカバーしない場合に、冗長ネットワーク内の「末端」サブステーションを識別するのに役立たないからである。
【0036】
同様に、各サブステーションの位置も、時間と共に進展し得る冗長な配給ネットワークの理由で無視するべきである。
【0037】
バルブは直接制御するべきでない、というのは、いくつかの種類の(コンピュータ)サブステーション・モデルが集団内に存在し、これらのサブステーション・モデルはバルブの制御論理が異なるからである。従って、制御目標は、例えばエミュレートされた仮想的な外気温または熱曲線のオフセットの形式の個別に適応させた制御信号を用いた間接制御を用いることによって達成するべきである。
【0038】
平衡状態にするべきサブステーションの集団は、熱源プラント/ポンプ場の付近に位置する少なくとも1つのサブステーション、及び熱源プラント/ポンプ場から離れて位置する少なくとも1つのサブステーションを含むものと確信されている。それに加えて、制御することができるサブステーションが集団内に十分大きな割合で存在するものと仮定する。このことは「末端」問題の可視性を実現し、有意な統計的分析を実行することを可能にし、これにより「末端」問題を解決することを可能にすることである。サブステーションにおける出力と質量流量との関係を連続して計算して評価するサービスまたは手段が存在するものと仮定する。
【0039】
図1に、地域暖房ネットワーク内のサブステーションの一例の流体回路図を示す。本発明は、サブステーションの集団を制御して、集団全体にわたる質量流量及び出力取り出し量の平衡状態を実現することを目的とする。この地域暖房ネットワークは、2つのパイプライン、即ち左側の供給ライン及び右側の戻りラインを有する配給網を有し、供給ラインは加熱された熱媒体(水)を熱源プラントから供給し、戻りラインは冷却された水を熱源プラントへ戻す。このサブステーションの一次側(
図1中の左側)は、地域暖房ネットワークからサブステーションへ熱を伝達するために、供給ライン及び戻りラインを通して地域暖房ネットワークに接続されている。このことは、例えば、サブステーションを地域暖房ネットワークの供給ライン及び戻りラインのそれぞれと直接または間接的に連通させることによって実現される。
【0040】
サブステーションは、1つ以上の地所/建物に隣接した二次側(
図1の右側)も有し、これらの地所/建物は、暖房することを意図した空間/区画を具えている。この目的で、各地所は、サブステーションの二次側に接続された空間暖房回路を具え、空間暖房回路は、暖房される空間内を1周以上のループの形で延びて、放射及び/またはフロア(床暖房)ループ107により熱を放出する。こうしたループを配置することができる方法の例を
図1に示し、ここでは地域暖房ネットワークの供給ライン及び戻りラインが熱交換器104を介して空間暖房回路の供給ライン及び戻りラインに接続され、熱交換器104は間接接続を提供する。もちろん、本発明の範囲内で、地域暖房ネットワークに直接接続して、即ち熱交換器なしでサブステーションを制御することもできる。こうした直接接続では、地域暖房ネットワークの熱媒体(水)が、サブステーション/地所の空間暖房回路内にも流れ、但しサブステーション内のバルブ102及び/またはローカル(局所的)ポンプ100によって制御される。
【0041】
空間暖房回路内の流量を制御するために、サブステーションは、
図1では当該サブステーションの一次側の戻りライン上に配置された調整可能なバルブ102を有する。もちろん、本発明の範囲内で他の位置も可能である。サブステーションはコンピュータ・サブステーション(DUC)を具え、このコンピュータ・サブステーションは、バルブ102の開度を制御して流量を決定し、これにより地域暖房ネットワークからの出力取り出し量を決定するように構成されている。
【0042】
異なる制御を実現する異なる(コンピュータ)サブステーション・モデルが存在する。大部分は、2つの信号、即ち外気温Toutdoor及びサブステーションの二次側の及び供給温度Tsupply, secondaryを用いて、バルブ102を制御する。サブステーション内のコンピュータは、測定した当該サブステーションの二次側の供給温度Tsupply, secondary(実際値)を、外気温Toutdoorに基づいて決定される計算した供給温度(設定点値)に対応させようとする。この決定は熱曲線fを用いて行い、熱曲線fは、サブステーションの二次側の空間暖房回路について計算した供給温度Tsupply, calcを、測定した外気温Toutdoorの関数として、次式(1)により定義する:
Tsupply, calc=f(Toutdoor) (1)
【0043】
この熱曲線は、(コンピュータ)サブステーション・モデルに応じて異なる方法でパラメータ化することができる。例えば、関数fは線形にすることができ、あるいは多項式曲線で構成することができる。ヒステリシス設定のような他の設定は関数に悪影響を与え得る。
【0044】
一般に存在する(コンピュータ)サブステーションの技術説明は、空間暖房回路のバルブ102を三点制御によって制御することを明記している。上記測定したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, secondaryが、サブステーションの二次側の空間暖房回路について計算した供給温度Tsupply, calcよりも低い場合、バルブ102をより大きく開放して、地域暖房ネットワークからの熱伝達による出力取り出し量を増加させる。逆に、暑過ぎる場合、バルブ102を閉じて出力取り出し量を低下させる。しかし、この動作は、サブステーションの一次側の、即ち地域暖房ネットワークからの供給温度Tsupplyを考慮に入れていない。サブステーションの一次側の供給温度Tsupplyが、サブステーションの二次側の空間暖房回路について計算した供給温度Tsupply, calcよりも低い場合には、即ち、地域暖房ネットワークから供給される熱量が、サブステーションの二次側の空間暖房回路について計算した供給温度Tsupply, calcを達成するのに十分でない場合には、バルブ102が最大限に開放されて、地域暖房ネットワークの供給ラインと戻りラインとの間に不所望な差圧低下を生じさせる。
【0045】
サブステーションは温水用の追加的回路も含み、この追加的回路は、別個の熱交換器105を介した地域暖房ネットワークへの自前の接続を有することができ、この接続では熱の供給がバルブ103によって制御される。明らかな理由で、この回路は部分的に開いている、というのは、温水がドレイン(排液管)内へ消失して地所の元栓からの冷水に置き換わるからである。しかし、水はポンプ101により温水回路内を循環する。本発明の範囲内では、サブステーションの温水回路内の質量流量及び出力取り出し量を制御することは意図していない、というのは、これらの温水回路内での加熱の必要性は、より散発的で短期間の性質のものであるからである。
【0046】
サブステーションは、供給温度T
supply及び戻り温度T
returnのそれぞれ、並びにサブステーションの一次側の質量流量
(外1)
及び/または出力取り出し量P
primaryを測定するための測定点も含む。こうした測定点は、配給される地域暖房の監視、制御、及び課金用の中央制御システム600と通信する手段(図示せず)も含む。一実施形態では、サブステーションが、外気温T
outdoor、バルブ102の位置/開度α
Rまたはその設定点値、供給温度T
supply, secondary及び戻り温度T
return, secondaryのそれぞれ、及び質量流量
(外1)
及び/またはサブステーションの二次側の空間暖房回路における出力取り出し量P
secondaryも測定するための計器も含む。サブステーションは、中央システム600と通信して、測定値を提供し、例えば熱発生の機能不全または機能停止通知のような情報、あるいは本発明の方法によりバルブ102を制御するための制御信号を受信するように構成されている。
【0047】
図2a~2cに、地域暖房ネットワーク内の複数のサブステーション内の供給ライン及び戻りライン、並びに質量流量及び出力取り出し量が、異なる状況で影響を受ける様子を示す。
図2aは、十分な熱発生中の、即ち熱発生が地域暖房の需要を満たす際の状況を示し、数字S1~S7は、
図2a~2c中にCHPで表す中央熱源プラントからの距離が増加する位置にある異なるサブステーションを表す。上側の赤色の曲線は、それぞれのサブステーションS1~S7における供給ライン内の圧力を示し、下側の青色の曲線は、それぞれのサブステーションS1~S7における戻りライン内の圧力を示す。これらの曲線から確認することができるように、供給ライン内の圧力は熱源プラントからの距離が増加すると共に低下するのに対し、戻りライン内の圧力は距離と共に増加している。従って、供給ラインと戻りラインとの圧力差は、熱源プラントの最も近くに位置するサブステーション1において最高であり、熱源プラントから最遠距離に位置するサブステーション7において最低である。
図2a中の数字70は、それぞれのサブステーションS1~S7内のバルブにおける開放の%比率であり、十分な熱発生において期待される開放率の仮定を構成する。
【0048】
図2a~2cの下部では、同じ線図が、熱源プラントからの距離が増加すると共に質量流量(緑色の太い破線)及び出力取り出し量(ピンク色の破線)が変化する様子を示す。
図2aのような十分な熱発生量の下では、サブステーション内の流量及び出力取り出し量が全部のサブステーションS1~S7についてほぼ一定である。
【0049】
図2bは、熱発生の機能不全または機能停止が存在する状況、即ち、熱発生プラントが地域暖房ネットワーク内のサブステーションに十分な温水を供給することができない際の状況を示す。供給ライン内の圧力は、基本的に、十分な熱発生量を有する
図2aと同じ展開に従い、即ち、圧力は熱源プラントからの距離が増加すると共に低下する。他方では、戻りライン内の圧力は、十分な熱発生量を有した
図2aにおけるよりも速く増加し、その度合いは、熱源プラントから最も遠く離れたサブステーション6及び7では圧力差が無視できるほどであり、0にほぼ等しくなる。このことは、これらのサブステーションでは質量流量を維持することができず、従って、出力取り出し量も0に低下することを意味する。
図2b中の数字100は、
図2a中のように、バルブの開度を%比率で表し、即ち、全バルブが全開であるものと想定される、というのは、サブステーションの一次側の供給温度Ts
upplyが、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度T
supply, calcよりも低いからである。
【0050】
図2cは、熱発生の機能不全または機能停止が存在する状況を示し、但しバルブの制御を本発明の方法により実行して、全サブステーション内の供給ラインと戻りラインとの圧力差を、地域暖房ネットワーク内の熱発生能力が十分である際と、即ち、機能停止または機能不全が存在しない際と同様な状況に回復し、これにより質量流量及び出力取り出し量を平衡状態にする。
図2cの下部にある曲線から確かめられるように、流量及び出力取り出し量は、全部のサブステーションS1~S7において、熱源プラントからの距離が増加してもほぼ一定であり、但し熱発生の機能不全または機能停止により
図2aよりも低いレベルである。
【0051】
図1に関連して上述したように、測定した外気温T
outdoorを、サブステーションに割り当てられた熱曲線への入力信号として用いて、サブステーション内のバルブの開閉を制御する。従って、サブステーションのコンピュータへ送信される入力に影響を与えることによって、サブステーションのバルブを制御することができる。
【0052】
図3に、本発明による方法の主要ステップの簡略化した概略図を示す。この方法は、2つの主要ステップ、即ち:サブステーションの集団内のサブステーション毎に個別に調整された熱曲線の補償、及び集団内の全サブステーションに対する母集団(集団全体の)補償。制御論理回路が、制御信号を、エミュレートされた仮想的な外気温T
activeの形式で、第1の主要ステップへの入力信号として送信する。エミュレートされた外気温T
activeは、最初は実測した外気温T
outdoorに相当するが、方法の実行中に、サブステーションの集団内の流量及び出力取り出し量を平衡状態にする目的を達成するために更新される。追加的な入力信号として、サブステーション毎の熱曲線のパラメータを用い、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度T
supplyを用いる。熱曲線の補償は、制御温度T
HCCの形式の出力信号を生じさせる。
【0053】
その後に、集団補償と称する第2の主要ステップが続く。入力信号として、各ステーションにおけるそれぞれの出力取り出し量に関連する少なくとも1つの測定変数を用いる。この少なくとも1つの変数は、例えば、それぞれのサブステーション内で測定した質量流量、それぞれのサブステーション内で測定した出力取り出し量、及び/またはそれぞれのサブステーション内のバルブ開度の設定点値から選択することができる。この集団補償は、第2制御温度TPCの形式の出力信号を生じさせる。
【0054】
次に、第1制御温度THCCと第2制御温度TPCとを組み合わせてバルブ制御温度TVCにし、TVCをサブステーションの集団内のそれぞれのサブステーション内の制御論理回路へ送信して、各サブステーション内の空間暖房回路内のバルブ102を制御する。
【0055】
あり得る後処理ステップでは、第2制御温度TPCを、エミュレートされた外気温Tactiveと比較することができ、これらのうちの高い方を、各サブステーション用の熱曲線fへの入力として用いられる制御温度Tactive, limとして設定する。こうして、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcに影響を与え、供給温度Tsupply, calcがそれぞれのサブステーション用のバルブの開/閉を制御する。
【0056】
図4に、本発明の方法のフローチャートをより詳細に示す。最初に、熱発生の機能不全または機能停止を、地域暖房ネットワーク内の熱源プラントが、接続されたサブステーションの集団における需要を満たすのに十分な熱を供給することができないこととして識別する。次に、第2制御温度T
PCを0に等しく設定する。次に、第1ステップでは、集団内のサブステーションi毎に、当該サブステーションの一次側の供給温度T
supply, iを取得し、出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数、例えば当該サブステーション内の質量流量
(外2)
、及び/または当該サブステーションの空間暖房回路内の質量流量
(外3)
、当該サブステーションにおける出力取り出し量P
primary、及び/または当該サブステーションの空間暖房回路における出力取り出し量P
secondary、及び/またはバルブ102の開放位置における設定点値α
Rを取得する。もちろん、出力取り出し量に関連するこれら少なくとも1つの変数の取得は、後のステップで別個に行うことができる、というのは、この値は集団補償ステップで初めて用いるからである。
【0057】
次のステップでは、熱曲線補償をサブステーション毎に実行する。このことは、外気温Toutdoorを測定し、エミュレートされた外気温Tactiveを外気温Toutdoorに等しく設定することによって行い、このことに基づいて、上記計算したサブステーションの二次側の空間暖房回路内の供給温度Tsupply, calcを、上記の式(1)による熱曲線fを用いて決定する。
【0058】
次に、サブステーションの一次側の供給温度Tsupplyを、上記計算したサブステーションの二次側の空間暖房回路内の供給温度Tsupply, calcと比較する。上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcが、サブステーションの一次側の供給温度Tsupplyよりも高い場合、第1制御温度THCCを、サブステーションの一次側の供給温度Tsupplyを入力値として計算した熱曲線の逆関数f-1の値に等しく設定する。こうして、サブステーションが、地域暖房ネットワークが供給することができる温度よりも高い温度を実現するように制御されないことが保証される。
【0059】
他方では、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度T
supply, calcが、サブステーションの一次側の供給温度T
supply以下である場合、第1制御温度T
HCCを、上記エミュレートされた外気温T
activeに等しく設定する。この場合、第1制御温度T
HCCを調整する必要がない、というのは、サブステーションは既に地域暖房ネットワークから配給される温度よりも低い温度を実現するように制御されているからである。この関係を次式(2)に要約する:
【数1】
【0060】
サブステーションのバルブ102が全開している場合に、このバルブが閉じられることを保証するために、サブステーションの一次側の供給温度の上限Tsupply, limを、次式(3)による安全なパラメータ・オフセット値を用いて定義することができる:
Tsuuply, lim=Tsupply-ΔTsaf (3)
【0061】
次に、この、サブステーションの一次側の供給温度の上限Tsupply, limを、上記の式(2)における補償で用いる。
【0062】
こうして、熱曲線補償の第1の主要段階後に、第1制御温度T
HCCがサブステーション毎に得られる。その後に、第2の主要な補償ステップを実行し、ここでは第2制御温度の初期値を0に等しく設定する。このステップでは、上述した出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数(質量流量
(外1)
、出力取り出し量P
primary、バルブ位置の設定点値α
R、等)を、まだ取得していなければ各サブステーションで取得する。その後に、上記取得した出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数の統計的分析を、サブステーションの集団全体にわたって実行して、この変数の統計的分布を得る。統計的分布として、2つの異なる分布の区別を可能にする種類の、即ち異なる時刻または測定時刻における分布を選定することが有利である。例えば、サブステーションの集団内の質量流量の度数分布を計算するが、確率分布(正規分布、スチューデントのt分布、ワイブル(Weibull)分布)のような他の種類の分布、及びサブステーションの集団における出力取り出し量またはバルブ位置の設定値(設定点値)のような他の種類の変数を用いることもできる。上述したように、本発明の範囲内で、連続して、あるいは適切な(規則または不規則的な)間隔で取得されるデータが存在し、過去の時刻に、例えば十分な熱発生量が利用可能であった際の以前の時刻に、こうしたデータの統計的分析を実行する可能性が存在したものと仮定する。これらのデータは連続的にも離散的にもすることができる。
【0063】
次に、現在の上記計算した統計的分布を、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と比較する。これらの統計的分布が互いに異なる場合、第2制御温度TPCを補正係数ΔTPCだけ増加させる。この補正係数は、第2制御温度TPCの増加を一緒にもたらす項の総和または乗算とすることができ、サブステーションの二次側の所望の供給温度を低下させ、これにより質量流量及び出力取り出し量の低下をもたらすことを目的とする。
【0064】
他方では、これらの統計的分布どうしが等しいか所定の程度に類似している場合には、第2制御温度TPCを維持する。この第2制御温度TPCはサブステーションの集団全体について同一である。
【0065】
最後に、サブステーション毎の第1制御温度THCC及び全サブステーションについての第2制御温度TPCの関数を次式(4)で計算することによって、バルブ制御温度をサブステーション毎に得る:
TVC, i=g(THCC, i, TPC) (4)
【0066】
例えば、関数gは、第1制御温度と第2制御温度との、重み付けありまたは重み付けなしの総和とすることができるが、本発明の範囲内で他の組合せも可能である。次に、バルブ制御温度TVCを用いて、それぞれのサブステーション内のバルブ102を制御する。換言すれば、上記エミュレートされた外気温Tactiveが、サブステーションへ送信されて、バルブ制御温度に等しく設定することによって更新される。
【0067】
以上で説明したように、サブステーションのコンピュータ内の制御論理回路は異ならせることができるので、それぞれのサブステーションの制御は、それぞれのサブステーション内の制御論理回路への制御信号を適応させるか変換することによって、異なる方法で実行することができる。一実施形態では、更新後のエミュレートされた外気温Tactiveを、それぞれのサブステーションにおける熱曲線fの入力値として用いることによって制御を実行し、これにより新たに計算したサブステーションの二次側の供給温度を決定し、これによりサブステーションのバルブを制御してサブステーション及びそれに関連する空間暖房回路内の流量を制御する。その代わりに、更新後のエミュレートされた外気温Tactiveを用いて、それぞれのサブステーションにおける熱曲線の(負の)オフセット値を計算する。これら2つの制御の組合せは、それぞれのサブステーションの制御論理回路に応じて用いることができる。両方の種類の制御が、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcが更新後のエミュレートされた外気温Tactiveに応じた値だけ低下することを生じさせ、各場合において、上記計算した供給温度Tsupply, calcは通常の場合よりも低い、というのは、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcが実測した外気温Toutdoorを用いて決定されるからである。
【0068】
あり得る後処理ステップでは、サブステーション毎のバルブ制御温度を、エミュレートされた外気温Tactiveと比較し、これにより、次式(5)によるこれらの値のうちの高い方を用いて、それぞれのサブステーション何のバルブを制御する:
Tactive, lim, i=max(Tactive, i, TVC, i) (5)
ここで、maxは( )内の値のうちの高い方(最大値)を表す。
【0069】
こうして、最低の質量流量/出力取り出し量を与える最高温度を常に用いて、サブステーションのバルブ102を制御することが保証される。
【0070】
最後に、チェックを実行して、熱発生機能不全が休止したか否かを確認することができる。休止している場合、サブステーションの集中制御による平衡化手順を終了する。機能不全がまだ存在する場合、熱曲線補償及び集団補償のステップを、場合によっては時間遅延Δtをおいて反復する。
【0071】
図5に、サブステーション及びそのバルブを制御するシステムを詳細に示す。各サブステーション1, 2,..., Nは制御論理回路1, 2,..., Nを含む。サブステーション1, 2,..., N毎に、上述した熱曲線補償(HCC)を実行して、個別の第1制御温度を得る。その後に、集団内の全サブステーション1, 2,..., Nについて、統計分析装置を用いた統計的分析によって集団補償(PC)を実行して統計的分布を計算し、上述したように、熱源プラント/ポンプ場からの距離に関して、統計的比較器を用いた比較を実行して、共通の第2制御温度を得る。次に、第2制御温度T
PCを制御信号の形式で制御信号発生器から全サブステーション1, 2,..., Nへ送信し、第1制御温度T
HCCと組み合わせて、上式(4)による関数gを用いてバルブ制御温度T
VCを計算し、任意で、バルブ制御温度T
VCを上記エミュレートされた外気温T
activeと比較して、各サブステーション1, 2,..., N内の制御論理回路用の制御信号として用いる。
【0072】
図6a及び6bは、本発明の方法で用いる統計的分布の例を提示する。従って、質量流量の度数分布を、ここでは、熱発生機能不全前及び熱発生機能不全中のそれぞれの、2回の30分間の期間について、選択したサブステーション1~5の番号で示す。サブステーション4は、質量流量が約3m
3/時から約0.5m
3/時まで低下している点で、熱発生機能不全の悪影響を受けているのに対し、他のサブステーション1、2、3及び5内の質量流量は、ほぼ一定に維持されているか、わずかに増加さえもしている。このことから推測される結論は、サブステーション4が恐らくはポンプ場/熱源プラントからより遠くに位置し、従って、上流のサブステーション1、2、3及び5がバルブを開放することによってその質量流量を増加させ(、これにより出力取り出し量を増加させ)ると、「末端」問題が生じる、ということである。
【0073】
図7は、
図1と共に、複数のサブステーションを具えた地域暖房ネットワーク内の熱発生の機能不全または機能停止中に質量流量の平衡化を実行することができるシステム600を示す。システム600は処理回路603及びメモリ604を具えている。処理回路603は、命令を実行するように構成された1つ以上のプログラマブル・プロセッサ、特定用途向け集積回路、フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ、またはその組合せ(図示せず)を含むことができる。上記メモリは、上記処理回路によって実行することができる命令を含み、これにより、システム600はサブステーションi=1,…,Nの集団から必要なデータ(温度の測定値及び計算値、質量流量、出力取り出し量、バルブ位置の設定点値、等)を取得するように動作する。システム600は、さらに、上記エミュレートされた外気温T
activeに基づいて熱曲線fから計算したサブステーションの二次側の供給温度T
supply, calcを決定するように動作する。
【0074】
システム600は、さらに、サブステーションの一次側の供給温度Tsupplyを測定するように動作する。システム600は、さらに、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcを、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度Tsupplyと比較して;上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcが上記測定したサブステーションの一次側の供給温度Tsupplyよりも高い場合、第1制御温度THCCを、一次側の供給温度Tsupplyを入力値として計算した熱曲線の逆関数f-1の値に等しく設定し、あるいは、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcが上記測定したサブステーションの一次側の供給温度Tsupply以下である場合、第1制御温度THCCを上記エミュレートされた外気温Tactiveに等しく設定するように動作する。
【0075】
システム600は、さらに、サブステーション毎に、当該サブステーションの出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数を測定するように構成されている。システム600は、さらに、サブステーションの集団全体における出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数の統計的分布を計算するように動作する。
【0076】
システム600は、さらに、現在の上記計算した統計的分布を、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と比較して;現在の上記計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布と異なる場合、第2制御温度TPCを補正係数ΔTPCだけ増加させ、あるいは、現在の上記計算した統計的分布が、十分な熱発生量を有した前の時刻の統計的分布に等しい場合、第2制御温度TPCを維持するように動作する。
【0077】
システム600は、さらに、サブステーション毎のバルブ制御温度TVCを、当該サブステーション用の第1制御温度THCC及び第2制御温度TPCの関数として計算するように動作する。サブステーション600は、さらに、それぞれのサブステーション毎に、上記エミュレートされた外気温を、当該サブステーション用のバルブ制御温度TVC等しく設定することによって更新し、サブステーション毎に、更新後のエミュレートされた外気温Tactiveを用いて、当該サブステーション内のバルブを制御するように動作する。
【0078】
一実施形態では、システム600は、さらに、上記測定したサブステーションの一次側の供給温度Tsupplyを、上記計算したサブステーションの二次側の供給温度Tsupply, calcと比較する前に、安全なパラメータ・オフセット値だけ低下させる。
【0079】
一実施形態では、システム600は、さらに、サブステーション毎のステップjの前のステップで、上記計算したバルブ制御温度TVCを、
現在のエミュレートされた外気温Tactiveと比較するように動作し、ステップj)で用いるバルブ制御温度TVCは、上記計算したバルブ制御温度TVCと現在のエミュレートされた外気温Tactiveのうち大きい方の値(最大値)に等しく設定する。
【0080】
一実施形態では、システム600は、さらに、ステップj)の後に熱発生の機能停止または機能不全が休止したか否かをチェックし、熱発生の機能停止または機能不全が休止している場合、平衡化手順を中断し、あるいは、熱発生の機能停止または機能不全が休止していない場合、ステップc)~j)を反復する。
【0081】
一実施形態では、システム600は、さらに、熱発生の機能停止または機能不全が休止するまで、ステップc)~j)を反復するように動作する。
【0082】
一実施形態では、上記統計的分布が度数分布であり、あるいは、正規分布、スチューデントのt分布、及びワイブル分布のいずれかから選択した確率分布である。
【0083】
一実施形態では、システム600が、さらに、ステップg)で、混合モデルにおけるモードの数を検出して、これらのモードどうしを比較するように動作する。
【0084】
一実施形態では、上記出力取り出し量に関連する少なくとも1つの変数が、サブステーションを通る質量流量
(外4)
、ステーション内のバルブ(102)の開度(α
R)、サブステーションにおける出力取り出し量(P
primary, P
secondary)、及び/またはその組合せを含む。
【0085】
一実施形態では、システム600は、さらに、サブステーション毎に、上記更新後のエミュレートされた外気温(Tactive)を熱曲線fへの入力として用いて当該サブステーション内のバルブ(102)を制御するように動作し、あるいは、上記更新後のエミュレートされた外気温(Tactive)を用いて、当該サブステーション用の熱曲線fのオフセット値を決定するように動作する。
【0086】
一部の実施形態では、システム600の上記方法を実行する構成要素、例えば処理回路603及びメモリ604がネットワークノードのグループであり、上記方法のステップを実行するための機能がネットワーク内の複数の異なる物理的または仮想的ノードにわたって分散している。換言すれば、システム600の上記方法のステップを実行する構成要素は、クラウド・ソリューションとすることができ、即ち、システム600の上記方法のステップを実行する構成要素は、ネットワーク内に分布することができるクラウドサービスのリソースとして分散させることができる。
【0087】
システム600は通信装置602をさらに具え、通信装置602は、当該通信装置が動作的に接続される他のコンピュータまたは機器、例えば地域暖房ネットワーク内のサブステーションのような関連する装置と通信する通常の手段と考えることができる。上記処理回路603が実行することができる命令は、例えばメモリ604に記憶されているコンピュータプログラム605として構成することができる。処理回路603及びメモリ604は副構成601の形に構成することができる。副構成601は、マイクロプロセッサ及び適切なソフトウェア及び当該ソフトウェア用の記憶装置、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD:programmable logic device:プログラム可能論理デバイス)、または上述した手順を実行するように構成された他の電子部品/処理回路とすることができる。
【0088】
コンピュータプログラム605はコンピュータ可読コード手段を含むことができ、これらのコンピュータ可読コード手段は、システム600内で実行されると、上述したシステム600の実施形態のいずれかで説明したステップをシステム600に実行させる。コンピュータプログラム605は、コンピュータプログラム製品によって担持することができ、このコンピュータプログラム製品は処理回路603に接続することができる。このコンピュータプログラム製品はメモリ604とすることができる。メモリ604は、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM:Random Access Memory)、読出し専用メモリ(ROM:Read-only Memory)、PROMメモリ(プログラマブル(Programmable ROM)ROM)、(E)EPROMメモリ((電気的)消去可能PROM:Electrically Erasable PROM)として実現することができる。さらに、上記コンピュータプログラムは、CD(Compact Disc:コンパクトディスク)、DVD(Digital Versatile Disc:デジタル多用途ディスク)またはフラッシュメモリのような別個のコンピュータ可読手段によって担持することができ、これらからプログラムをメモリ604にダウンロードすることができる。その代わりに、上記コンピュータプログラムは、システム600に接続されたサーバーまたは他の装置に記憶されているコンピュータプログラムとすることができ、システム600は通信装置602を通してこれらのサーバーまたは装置にアクセスすることができる。
【0089】
本発明による、地域暖房ネットワーク内の熱発生の機能停止または機能不全中に質量流量を平衡状態にする方法の好適な実施形態を説明してきた。しかし、こうした実施形態は、本発明の精神から逸脱することなしに、添付した特許請求の範囲内で変化させることができることは、当業者の認める所である。
【0090】
上述した代案の実施形態の全部、あるいはある実施形態の各部分は、組合せが矛盾しない限り、本発明の精神から逸脱することなしに、自由に組み合わせることができ、あるいは互いに独立して用いることができる。
【符号の説明】
【0091】
参照符号
T
supply サブステーションの一次側の供給温度
T
supply, lim サブステーションの一次側の供給温度の限界
ΔT
saf サブステーションの一次側の供給温度の安全なパラメータ・オフセット値
T
return サブステーションの一次側の戻り温度
T
outdoor 外気温
T
active エミュレートされた外気温
T
active, lim 計算した外気温の最大値
T
supply, secondary サブステーションの二次側の供給温度
T
return, secondary サブステーションの二次側の戻り温度
T
supply, calc 計算したサブステーションの二次側の供給温度(設定点値)
T
HCC 第1制御温度(熱曲線補償後)
T
PC 第2制御温度(集団補償後)
ΔT
PC 第2制御温度の補正係数(集団補償中)
T
VC バルブ制御温度
T
HW 温水温度
T
CW 冷水温度
T
indoor, i サブステーションの二次側の空間/区画i内の室内温度
(外1)
サブステーションの一次側の質量流量
(外5)
サブステーションの二次側の空間暖房回路内の質量流量
(外6)
サブステーションの二次側の温水回路内の質量流量
P
primary サブステーションの一次側の出力(取り出し量)
P
secondary サブステーションの二次側の空間暖房回路における出力(取り出し量)
P
HW サブステーションの二次側の温水回路における出力(取り出し量)
α
R 空間暖房回路の制御バルブのバルブ位置の設定点値(開度)
α
HW 温水回路の制御バルブのバルブ位置の設定点値(開度)
100 空間暖房回路用のポンプ
101 温水回路用のポンプ
102 空間暖房回路用の制御バルブ
103 温水回路用の制御バルブ
104 空間暖房回路用の熱交換器
105 温水回路用の熱交換器
106 空間暖房回路用のサーモスタット・バルブ
107 空間暖房回路用のラジエータ
600 地域暖房ネットワーク内の質量流量を平衡状態にするシステム
601 サブグループ化
602 通信装置
603 処理回路
604 メモリ
605 コンピュータプログラム